(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】研磨組成物、研磨方法および基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20250225BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20250225BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20250225BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20250225BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
G11B5/84 A
(21)【出願番号】P 2020185763
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2019209538
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】陳 景智
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-019978(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179064(WO,A1)
【文献】特開2018-157195(JP,A)
【文献】国際公開第2019/030865(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 3/00 -39/06
H01L21/304-21/463
G11B 5/84 - 5/858
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨組成物であって、
シリカ粒子を含む研磨砥粒であって、前記シリカ粒子表面のシラノール基密度は0~3.0個/nm
2であり、
前記のシラノール密度は、BET法により測定した比表面積および滴定により測定したシラノール基の量に基づいて計算し求めたものである、研磨砥粒と、
式(I)で示される構造を有する添加剤分子と、
【化1】
(式(I)中、
R
1およびR
2はそれぞれ独立にH、C
1~C
18直鎖状アルキル基、C
3~C
18分岐鎖状アルキル基、またはC
2~C
18直鎖状アルケニル基であり;
nは2~40の整数であり;
m、p、およびqはそれぞれ独立に0または1であり、rは0~2の整数であり、mが1であるとき、R
1はC
1~C
18直鎖状アルキル基、C
3~C
18分岐鎖状アルキル基またはC
2~C
18直鎖状アルケニル基であり、pが1であるとき、R
2はC
1~C
18直鎖状アルキル基、C
3~C
18分岐鎖状アルキル基またはC
2~C
18直鎖状アルケニル基である。)
前記研磨組成物のpHを1.5以上であって4.5以下の範囲に調整するのに用いるpH調整剤と、
分散媒と、
を含
み、
酸化物およびSi
x
Ge
1-x
(ここで、x=0.1~1である)で表されるシリコン含有材料を含む研磨対象物を研磨するための研磨組成物。
【請求項2】
前記研磨組成物の総重量に対し、前記添加剤分子の含量が50~10000重量ppmである、請求項1に記載の研磨組成物。
【請求項3】
前記添加剤分子の重量平均分子量が100~10000である、請求項1または2に記載の研磨組成物。
【請求項4】
式(I)中、
R
1がHであり、R
2がC
1~C
18直鎖状アルキル基、C
3~C
18分岐鎖状アルキル基またはC
2~C
18直鎖状アルケニル基であり;
nが2~20の整数であり;かつ
m、p、qおよびrがいずれも0である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨組成物。
【請求項5】
式(I)中、
R
1およびR
2がいずれもHであり;
nが2~40の整数であり;かつ
mおよびpがいずれも0であり、qおよびrがいずれも1である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨組成物。
【請求項6】
式(I)中、
R
1はC
1~C
18直鎖状アルキル基、C
3~C
18分岐鎖状アルキル基またはC
2~C
18直鎖状アルケニル基であり、R
2はHであり;
nは2~20の整数であり;かつ
mおよびpはいずれも0であり、qおよびrはいずれも1である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨組成物。
【請求項7】
式(I)中、
R
1はC
1~C
18直鎖状アルキル基、C
3~C
18分岐鎖状アルキル基またはC
2~C
18直鎖状アルケニル基であり、R
2はHであり;
nは2~20の整数であり;かつ
m、qおよびrはいずれも1であり、pは0である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨組成物。
【請求項8】
式(I)中、
R
1およびR
2はいずれもHであり;
nは2~20の整数であり;かつ
m、pおよびqはいずれも0であり、rは2である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨組成物。
【請求項9】
前記研磨組成物の総重量に対し、前記研磨砥粒の含量が0.1~10重量%である、請求項1~8のいずれか1項に記載の研磨組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の研磨組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含み、前記研磨対象物の材料は酸化物およびシリコン含有材料を含み、前記シリコン含有材料はSi
xGe
1-xで表され、かつx=0.1~1である、研磨方法。
【請求項11】
研磨圧力が1.0psiであるとき、前記研磨組成物の前記酸化物に対する除去速度は第1の除去速度R1であり、前記研磨組成物の前記シリコン含有材料に対する除去速度は第2の除去速度R2であり、かつ前記第1の除去速度の前記第2の除去速度に対する比の値R1/R2が10以上である、請求項10に記載の研磨方法。
【請求項12】
基板を準備する工程であって、前記基板の表面は酸化物およびシリコン含有材料を含み、前記シリコン含有材料がSi
xGe
1-xで表され、かつx=0.1~1である、工程と、
請求項1~9のいずれか1項に記載の研磨組成物を用いて前記基板に研磨を行う工程と、
を含む基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨組成物、この研磨組成物を使用する研磨方法、および基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体産業においては通常、半導体基板(例えばウェハ)表面の平坦度を高めるために平坦化技術を使用している。化学機械研磨(chemical mechanical polishing, CMP)はよく用いられる平坦化技術の1つである。化学機械研磨技術は、シリカ、アルミナ、またはセリア等の砥粒、防蝕剤、界面活性剤等を含む研磨用組成物を使用して、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法を含む。
【0003】
さらに、シリコンまたはシリコンゲルマニウム等の半導体材料(本明細書では“シリコン含有材料”と略称することもある)からなる基板もすでに普及している。よって、シリコン含有材料を含んでなる基板を研磨するのに適用される研磨組成物へのニーズも次第に増加してきている。
【0004】
特許文献1は(A)無機粒子、有機粒子、またはこれらの混合物もしくは複合体と、(B)少なくとも1種の酸化剤と、(C)水性媒体と、を含む化学機械研磨組成物を開示している。特許文献1の化学機械研磨組成物は元素ゲルマニウムまたはシリコンゲルマニウムに対して化学機械研磨を行うのに適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】台湾特許出願第201311842 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体装置の微細化に伴って、化学機械研磨工程に対する要求も次第にシビアになってきている。例えば、半導体装置では通常、酸化物(例として酸化ケイ素)で形成されたシャロートレンチアイソレーション(shallow trench isolation, STI)構造を用いて半導体素子どうしを分離している。シャロートレンチアイソレーション工程において、化学機械研磨を行って基板上に成膜された余分な酸化物材料を除去することができる。化学機械研磨を停止させるため、酸化物層と基板との間に研磨速度が比較的低い研磨停止層(polishing stop layer)を形成するのが通常である。また化学機械研磨を所望の位置で精度よく停止させるには、酸化物層の研磨停止層に対する研磨選択比を高める必要がある。研磨停止層によく用いられる材料には窒化物、炭化物または炭窒化物等、例えば窒化シリコンが含まれ得る。
【0007】
シリコン含有材料で形成された基板(例えば、シリコンゲルマニウム基板またはシリコン基板)上に酸化物層を形成するに際し、酸化物の基板材料に対する研磨選択比を高めることができれば、さらなる研磨停止層(例えば窒化シリコン層)を形成しなくてもよくなる。このようであると、プロセスの複雑度をシンプルにできると共に、生産に要される時間とコストを低減することができる。また、酸化物の研磨速度(本明細書において“研磨速度”を“除去速度”と称することもある)を高めることができれば、研磨工程に要される時間を大幅に短縮することができ、ひいては製品の生産効率が高まる。
【0008】
しかしながら、現存する研磨組成物では、酸化物のシリコン含有材料(例えばシリコンゲルマニウムまたはシリコン)に対する研磨選択比(本明細書において“研磨選択比”を“研磨速度比”または“除去速度比”と称することもある)を十分な程度にまで高めることは依然困難である。換言すると、シリコンゲルマニウムまたはシリコンを酸化物に対して化学機械研磨を行う際の研磨停止層として用いることは依然として難しい。
【0009】
本発明は、上記した実際の状況に鑑みて完成されたものであり、酸化物のシリコンゲルマニウムまたはシリコンに対する研磨速度比を高められる研磨組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明の提供する研磨組成物は、酸化物の研磨速度を高めることもできる。また、本発明は、かかる研磨組成物を使用する研磨方法および基板の製造方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明のいくつかの実施形態は、下記するような研磨組成物、この研磨組成物を使用する研磨方法、および基板の製造方法を提供する。
【0011】
[1]研磨組成物は、シリカ粒子を含む研磨砥粒であって、シリカ粒子表面のシラノール基密度は0~3.0個/nm2であり、シラノール密度は、BET法により測定した比表面積および滴定により測定したシラノール基の量に基づいて計算し求めたものである、研磨砥粒と;添加剤分子と;前記研磨組成物のpHを1.5以上であって4.5以下の範囲に調整するのに用いるpH調整剤と;分散媒とを含む。前記添加剤分子は式(I)で示される構造を有する。
【0012】
【0013】
式(I)中、R1およびR2はそれぞれ独立にH、C1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nは2~40の整数であり;かつm、pおよびqはそれぞれ独立に0または1であり、rは0~2の整数であり、mが1であるとき、R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、pが1であるとき、R2はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基である。
【0014】
[2] [1]に記載した研磨組成物において、上記研磨組成物の総重量に対し、上記添加物分子の含量は50~10000重量ppmである。
【0015】
[3] [1]または[2]に記載した研磨組成物において、上記添加物分子の重量平均分子量は100~10000である。
【0016】
[4] [1]~[3]のいずれかに記載した研磨組成物において、上記式(I)中、R1がHであり、R2がC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nが2~20の整数であり;かつm、p、qおよびrがいずれも0である。
【0017】
[5] [1]~[3]のいずれかに記載した研磨組成物において、上記式(I)中、R1およびR2はいずれもHであり;nは2~40の整数であり;かつmおよびpはいずれも0であり、qおよびrはいずれも1である。
【0018】
[6] [1]~[3]のいずれかに記載した研磨組成物において、上記式(I)中、R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、R2はHであり;nは2~20の整数であり;かつmおよびpはいずれも0であり、qおよびrはいずれも1である。
【0019】
[7] [1]~[3]のいずれかに記載した研磨組成物において、上記式(I)中、R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、R2はHであり;nは2~20の整数であり;かつm、qおよびrはいずれも1であり、pは0である。
【0020】
[8] [1]~[3]のいずれかに記載した研磨組成物において、上記式(I)中、R1およびR2はいずれもHであり;nは2~20の整数であり;かつm、pおよびqはいずれも0であり、rは2である。
【0021】
[9] [1]~[8]のいずれかに記載した研磨組成物において、上記研磨組成物の総重量に対し、上記研磨砥粒の含量は0.1~10重量%である。
【0022】
[10]研磨方法は、[1]~[9]のいずれか1項に記載の研磨組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含み、上記研磨対象物の材料にはシリコン含有材料および酸化物が含まれ、前記シリコン含有材料はSixGe1-xで表され、かつx=0.1~1である。
【0023】
[11] [10]に記載の研磨方法において、研磨圧力が1.0psiであるとき、上記研磨組成物の上記酸化物に対する除去速度は第1の除去速度R1であり、上記研磨組成物の上記シリコン含有材料に対する除去速度は第2の除去速度はR2であり、かつ第1の除去速度の前記第2の除去速度に対する比の値R1/R2は10以上である。
【0024】
[12] 基板の製造方法は、基板を準備する工程であって、上記基板の表面はシリコン含有材料および酸化物を含み、上記シリコン含有材料がSixGe1-xで表され、かつx=0.1~1である、工程と、[1]~[9]のいずれか1項に記載の研磨組成物を用いて上記基板に研磨を行う工程と、を含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る研磨組成物は、特定の条件を満たす研磨砥粒および特定の構造を有する添加剤を含み、特定のpHの環境で、酸化物のシリコン含有材料に対する高研磨選択比を実現することができる。より詳細には、本発明にかかる研磨組成物は、シラノール基密度が比較的低い研磨砥粒を使用するため、酸化物の研磨速度を高めることができる。また、本発明にかかる研磨組成物は、特定の構造を有する(つまり、後述の式(I)で示される構造を有する)添加剤分子を使用するため、シリコン含有(例えばシリコンゲルマニウムまたはシリコン)の研磨速度を低減することができるようになる。さらに、本発明にかかる研磨組成物は特定の酸性pH(つまり、pHが1.5以上であって、4.5以下)環境で使用されるため、酸化物の除去速度と酸化物のシリコン含有材料に対する研磨選択比が低下するのを回避できる。本発明にかかる研磨組成物を使用してシリコン含有材料層上に形成された酸化物層に対して化学機械研磨を行う際、研磨停止層としてシリコン含有材料層をそのまま用いることができるため、さらなる研磨停止層(例えば、窒化シリコン層)を形成する必要がない。これにより、プロセスの複雑度をシンプルにできると共に、生産に要される時間とコストを低減することができる。また、本発明にかかる研磨組成物は、添加剤の種類と含量を調整することによって、酸化物の除去速度を調整することができる。例えば、酸化物の除去速度をさらに高めることができ、研磨工程に要される時間が短縮される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の上述およびその他の目的、特徴、ならびに長所がより明瞭に、かつ分かりやすくなるよう、以下に好ましい実施形態を挙げ、詳細に説明していく。
【0027】
以下に本発明の実施形態を説明する。本発明はこれら実施形態に限定されることはない。
【0028】
本発明の一実施形態は、シリカ粒子を含む研磨砥粒であって、シリカ粒子表面のシラノール基密度は0~3.0個/nm2であり、シラノール密度は、BET法により測定した比表面積および滴定により測定したシラノール基の量に基づいて計算し求めたものである、研磨砥粒と;添加剤分子と;前記研磨組成物のpHを1.5以上であって4.5以下の範囲に調整するのに用いるpH調整剤と;分散媒とを含む研磨組成物を提供する。前記添加剤分子は式(I)で示される構造を有する。
【0029】
【0030】
式(I)中、R1およびR2はそれぞれ独立にH、C1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nは2~40の整数であり;かつm、pおよびqはそれぞれ独立に0または1であり、rは0~2の整数であり、mが1であるとき、R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、pが1であるとき、R2はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基である。
【0031】
本実施形態において、研磨組成物は、シラノール基密度が比較的低いシリカ粒子を研磨砥粒として使用し、かつ特定の構造を有する添加剤を組み合わせてなり、特定のpHの環境で、酸化物のシリコンゲルマニウムまたはシリコンに対する高研磨選択比(すなわち、酸化物/シリコン含有材料の研磨選択比が高い)を実現することができる。本実施形態の研磨組成物を使用し、シリコン含有材料および酸化物を含む研磨対象物に対して化学機械研磨を行うと、酸化物の除去速度を高めることができると共に、酸化物のシリコンゲルマニウムまたはシリコンに対する研磨選択比を高めることができる。したがって、シリコン含有材料を研磨停止層とすることができ、さらなる研磨停止層を形成する必要がなくなる。これにより、研磨対象物の表面平坦性が良好となり、プロセスの複雑度をシンプルにでき、かつ、生産に要される時間とコストを低減することが可能となる。
【0032】
本発明にかかる研磨組成物に適用される研磨対象物に特に制限はなく、一般的な半導体基板であればいずれも適用可能である。本発明にかかる研磨組成物は、表面にシリコン含有材料および酸化物を含む基板を研磨するのにとりわけ適しており、本発明の技術的効果が十分に発揮される。酸化物の具体例として酸化ケイ素を挙げることができる。シリコン含有材料には、例えば、アモルファスシリコン、単結晶シリコン、多結晶シリコン、シリコンゲルマニウムまたはこれらの組み合わせが含まれ得る。シリコン含有材料の具体例としては、例えば分子式SixGe1-xで表されるシリコン含有材料を挙げることができる。上記分子式におけるxの値は0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。上記分子式におけるxの値は1以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下が更に好ましい。
【0033】
さらに、本明細書において、“シリコン含有材料および酸化物を含む基板”は、基板の表面にシリコン含有材料および酸化物を含むものであればよく、その態様に特に制限はない。例えば、任意の基板の表面上に酸化物およびシリコン含有材料により形成されたパターン化構造が存在しているものであっても、またシリコン含有材料で構成された基板上に酸化物層が存在しているものであっても、またシリコン含有材料で構成された基板(またはシリコン含有材料層)上に酸化物層とその他の材料から形成されたパターン化構造が存在するものであってもよい。ここで数種の異なる“シリコン含有材料および酸化物を含む基板”の態様を挙げたが、これらは本発明を限定するものではない。本発明は、任意の“シリコン含有材料および酸化物を含む基板”の他の可能な態様を含み得る。
【0034】
以下に本実施形態にかかる研磨組成物中に含まれる各種成分について説明する。
【0035】
[研磨砥粒]
本実施形態の研磨組成物は研磨砥粒としてシリカ(silica)を含む。本発明のいくつかの実施形態において、研磨砥粒はコロイダルシリカ(colloidal silica)である。本発明のいくつかの実施形態では、シラノール基(silanol group)密度の比較的低いシリカ粒子を研磨砥粒として用いる。本明細書において、“シラノール基密度”とは、シリカ粒子表面の単位面積当たりにおけるシラノール基の数を意味する。シラノール基密度は、シリカ粒子表面の電気特性または化学特性を表すための指標である。
【0036】
本明細書において、シラノール密度はBET法により測定した比表面積および滴定により測定したシラノール基の量に基づいて計算し求めたものである。例えば、G.W.Searsによる“Analytical Chemistry, vol.28, No.12, 1956, 1982~1983に”記載された中和滴定を用いたシアーズ(Sears)滴定法により、シリカ(研磨砥粒)表面の平均シラノール基密度(単位:個/nm2)算出することができる。“シアーズ滴定法”とは、コロイダルシリカメーカーがシラノール基密度を評価する際に通常用いる分析手法であって、pHを4から9まで変化させるのに必要な水酸化ナトリウム水溶液の量に基づいて計算を行う方法である。シラノール密度測定の詳細については、以下の実施例において詳述する。
【0037】
研磨砥粒のシラノール基密度は0~3.0個/nm2である。シラノール基密度が上記範囲内にあると、シリカ粒子は本実施形態における添加剤分子をよく吸着させることができる。これにより、添加剤分子を研磨砥粒の表面に吸着かつ集中させることができ、ひいては添加剤分子の立体障害により研磨砥粒の凝集を回避できるようになる。したがって、研磨組成物中の研磨砥粒の分散安定性が良好となり、研磨砥粒が凝集を生じにくくなり、保存安定性も良好となる。また一方で、添加剤分子を研磨砥粒の表面に吸着かつ集中させることにより、酸化物のシリコンゲルマニウムまたはシリコンに対する研磨選択比を改善することができる。研磨砥粒のシラノール基密度は、0個/nm2超が好ましく、0.5個/nm2以上がより好ましく、1.0個/nm2以上がさらに好ましく、1.2個/nm2以上がよりさらに好ましい。また、研磨砥粒のシラノール基密度は、2.5個/nm2以下が好ましく、2.0個/nm2以下がより好ましく、1.8個/nm2以下がさらに好ましい。
【0038】
本発明の一実施形態において、砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数を0~3.0個/nm2にするためには、砥粒の製造方法の選択等により制御することができ、例えば、焼成等の熱処理を行うことが好適である。本発明の一実施形態において、焼成は、例えば、砥粒(例えば、シリカ)を、120~200℃の環境下に、30分以上保持することにより行われる。このような、熱処理を施すことによって、砥粒表面のシラノール基数を、0~3.0個/nm2等の所望の数値にせしめることができる。このような特殊な処理を施さない限り、砥粒表面のシラノール基数が0個/nm2以上3.0個/nm2以下にはならない。
【0039】
研磨砥粒の平均一次粒子径は、5nm以上が好ましく、7nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましく、25nm以上であると特に好ましい。研磨砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれ、シリコン含有材料と酸化物に対する研磨速度はより高まり得る。研磨砥粒の平均一次粒子径は、120nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、50nm以下であるとさらに好ましい。研磨砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれ、研磨組成物を用いて研磨対象物に研磨を行う際、スクラッチのより少ない研磨面を容易に得ることができるようになる。また、研磨砥粒の平均一次粒子径の値はBET法を用いて測定された比表面積に基づいて、算出することができる。
【0040】
研磨砥粒の平均二粒子径は、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましく、50nm以上であると特に好ましい。研磨砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれ、シリコン含有材料と酸化物に対する研磨速度がより高まり得る。研磨砥粒の平均二次粒子径は、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、100nm以下であると特に好ましい。研磨砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれ、研磨組成物を用いて研磨対象物に研磨を行う際、スクラッチのより少ない研磨面を容易に得ることができるようになる。また、研磨砥粒の平均二次粒子径の値は、例えばレーザー光散乱法により測定することができる。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態において、研磨砥粒の酸性条件下でのゼータ電位は正の値であるため、研磨砥粒同士を互いに強く反発させて良好に分散させることができる。したがって、研磨組成物の保存安定が高まる。さらに、本発明いくつかの実施形態において、研磨砥粒の表面ゼータ電位は正の値であり、負に帯電する研磨対象物(例えば酸化物)との間に静電気的に引き合う力があることから、酸化物の研磨速度が高まり得る。本発明のいくつかの実施形態では、特定の酸性条件(例えばpHが1.5以上であって、4.5以下)下における研磨砥粒のゼータ電位は、+10mV以上が好ましく、+20mV以上がより好ましく、+30mV以上がさらに好ましい。また、特定の酸性条件(例えばpHが1.5以上であって、4.5以下)下における研磨砥粒のゼータ電位は、+100mV以下が好ましく+80mV以下がより好ましく;+60mV以下であるとさらに好ましく、+40mV以下であると特に好ましい。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態において、研磨組成物の総重量に対し、研磨砥粒の含量は0.01重量%以上が好ましく、0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましく、0.3重量%以上が特に好ましい。また、研磨砥粒の含量は10.0重量%以下が好ましく、5.0重量%以下がより好ましく、2.0重量%以下がさらに好ましく、1.0重量%以下が特に好ましい。研磨砥粒の含量が多くなるにつれ、研磨対象物に対する研磨速度が高まる。一方、研磨砥粒の含量が少なくなるほど、研磨組成物の材料コストを低減することができる他、研磨砥粒の凝集が生じにくくなり得る。さらに、研磨砥粒の含量を減らすことで、過度の研磨により研磨対象物の研磨後の表面が平坦でなくなるのを回避することもできる。
【0043】
[添加剤分子]
本実施形態の研磨組成物は少なくとも1つの添加剤分子を含み、かつ該添加剤分子は式(I)で示される構造を有する:
【0044】
【0045】
式(I)中、R1およびR2はそれぞれ独立してH、C1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nは2~40の整数であり;かつm、pおよびqはそれぞれ独立に0または1であり、rは0~2の整数であり、mが1であるとき、R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、pが1であるとき、R2はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基である。また、一実施形態において、mが1であるとき、R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、かつpが1であるとき、R2はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基である。
【0046】
ここで、本明細書中、C1~C18直鎖状アルキル基(すなわち、炭素数1~18の直鎖状アルキル基)またはC3~C18分岐鎖状アルキル基(すなわち、炭素数3~18の分岐鎖状アルキル基)としては、特に制限されず、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、2-エチルヘキシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。
【0047】
本明細書中、C2~C18直鎖状アルケニル基(炭素数2~20の直鎖状アルケニル基は、特に制限されず、エテニル基、プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、イソプロペニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、1-ヘプテニル基、2-ヘプテニル基、3-ヘプテニル基、9-デセニル基、11-ドデセニル基、(Z)-9-ペンタデセニル基、オレイル基(Z-9-オクタデセニル基)などが挙げられる。
【0048】
上述のように、シリカ研磨砥粒表面のシラノール基密度が比較的低いため、研磨砥粒の疎水性が高まる。また、研磨対象物であるシリコン含有材料(例えばシリコンゲルマニウムまたはシリコン)の表面も疎水性が比較的高い表面である。上記添加剤を使用しない場合、疎水性の研磨砥粒と疎水性のシリコン含有材料との間の親和力は比較的大きく、このため研磨砥粒のシリコン含有材料に対する研磨速度は高い。かかる場合に、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比は過度に低くなるため、シリコン含有材料を、酸化物を研磨する際の研磨停止層とすることはできない。
【0049】
上記式(I)で示される構造を参照されたい。添加剤分子は疎水性の分子鎖セグメント、例えばR1、R2または主鎖上のアルキル鎖セグメントを有している。添加剤分子は疎水性の分子鎖セグメントを介して研磨砥粒およびシリコン含有材料の疎水性表面に吸着されると共に集中する。よって、研磨砥粒およびシリコン含有材料の表面には添加剤分子からなる一層の薄層が吸着する。添加剤分子の立体構造によって障害が生じることにより、研磨砥粒とシリコン含有材料との直接の接触が減少または回避され得る。換言すると、添加剤分子は、シリコン含有材料表面に保護層に似た構造を形成することができ、シリコン含有材料の研磨速度を大幅に低減することができる。これにより、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比が高まり、このためシリコン含有材料を酸化物研磨時の研磨停止層として使用することが可能となる。
【0050】
また、上記式(I)に示される構造を参照されたい。添加剤分子は末端位置に親水性の基、例えばヒドロキシ(-OH)基を有している。よって、添加剤分子が研磨砥粒表面に吸着された後、研磨砥粒表面の親水性基は増加し、研磨砥粒の親水性もこれに伴って高まる。さらに、研磨対象物の酸化物の表面も親水性が比較的高い表面である。研磨砥粒の表面には添加剤分子で形成された一層の薄層が吸着されるが、親水性の研磨砥粒と親水性の酸化物との間の親和力が十分に大きいことに加え、研磨砥粒と酸化物との静電的に引き合う作用があるため、依然として酸化物の研磨速度を適度に高めることはできる。これにより、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比が一層高まるため、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのにより有利となる。また、酸化物の研磨速度が高まることは、研磨工程にかかる時間の短縮にもつながり、生産効率の向上に寄与する。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態において、式(I)で示される構造中、R1がHであり、R2がC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nが2~20の整数であり;かつm、p、qおよびrがいずれも0である。かかる実施形態では、添加剤分子の分子構造は比較的単純で、緊密に配列しやすい。このため、添加剤分子は研磨砥粒およびシリコン含有材料の表面に、構造が比較的緻密な薄層を形成しやすく、ひいてはシリコン含有材料をよく保護することができる。したがって、シリコン含有材料の研磨速度を大幅に低下させることができる。さらに、かかる実施形態では、添加剤分子は大量の親水性基を備えるため、研磨砥粒表面の親水性が高まり得る。よって、研磨砥粒と親水性の酸化物との間の親和力が高まり、ひいては酸化物の研磨速度がより高まるようになる。これにより、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比は一層高まって、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのにより有利となり、また研磨工程にかかる時間の短縮にもつながる。
【0052】
本実施形態において、R2は、好ましくはC1~C18直鎖状アルキル基であり、より好ましくはC1~C10直鎖状アルキル基であり、さらに好ましくはC1~C5直鎖状アルキル基であり、さらにより好ましくはC1~C3直鎖状アルキル基である。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態において、式(I)で示される構造中、R1およびR2はいずれもHであり;nは2~40の整数であり;かつmおよびpはいずれも0であり、qおよびrはいずれも1である。かかる実施形態では、添加剤分子の分子構造は比較的単純で、緊密に配列しやすい。このため、添加剤分子は研磨砥粒およびシリコン含有材料の表面に、構造が比較的緻密な薄層を形成しやすく、ひいてはシリコン含有材料をよく保護することができる。したがって、シリコン含有材料の研磨速度を大幅に低下させることができる。さらに、かかる実施形態では、添加剤分子は大量の親水性基を備えるため、研磨砥粒表面の親水性が高まり得る。よって、研磨砥粒と親水性の酸化物との間の親和力が高まり、ひいては酸化物の研磨速度がより高まるようになる。これにより、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比は一層高まって、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのにより有利となり、また研磨工程にかかる時間の短縮にもつながる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態において、式(I)で示される構造中、R1およびR2がHであり;かつm、pおよびqがいずれも0であり、rが2である。かかる実施形態では、添加剤分子の分子構造は比較的単純で、緊密に配列しやすい。このため、添加剤分子は研磨砥粒およびシリコン含有材料の表面に、構造が比較的緻密な薄層を形成しやすく、ひいてはシリコン含有材料をよく保護することができる。したがって、シリコン含有材料の研磨速度を大幅に低下させることができる。さらに、かかる実施形態では、添加剤分子は大量の親水性基を備えるため、研磨砥粒表面の親水性が高まり得る。よって、研磨砥粒と親水性の酸化物との間の親和力が高まり、ひいては酸化物の研磨速度がより高まるようになる。これにより、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比は一層高まって、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのにより有利となり、また研磨工程にかかる時間の短縮にもつながる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態において、式(I)に示される構造中、R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、R2はHであり;nは2~20の整数であり;かつmおよびpはいずれも0であり、qおよびrはいずれも1である。かかる実施形態では、添加剤分子は疎水性分子鎖セグメント(つまり、末端に位置するアルキル鎖セグメント)を有する。よって、添加剤分子が研磨砥粒およびシリコン含有材料の疎水性表面により容易に吸着され得るようになる。さらに、疎水性分子鎖セグメントは、添加剤分子の立体構造をより大きいものに変えることができるため、研磨砥粒とシリコン含有材料との直接の接触をより減少または回避させるのに有利となる。これにより、シリコン含有材料の研磨速度が一層低下し、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比が一層高まるため、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのにより有利となる。
【0056】
本実施形態において、R1は、好ましくはC3~C18直鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、より好ましくはC5~C18直鎖状アルキル基またはC5~C18直鎖状アルケニル基であり、さらに好ましくはC10~C18直鎖状アルキル基またはC10~C18直鎖状アルケニル基であり、さらにより好ましくはC10~C16直鎖状アルキル基またはC12~C18直鎖状アルケニル基であり、特に好ましくはC10~C14直鎖状アルキル基である。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態において、式(I)に示される構造中、R1はHであり、R2はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nは2~20の整数であり;かつmおよびpはいずれも0であり、qおよびrはいずれも1である。かかる実施形態では、添加剤分子は大量の疎水性分子鎖セグメント(つまり、側鎖に位置するアルキル鎖セグメント)を有する。よって、添加剤分子が研磨砥粒およびシリコン含有材料の疎水性表面により容易に吸着され得るようになる。さらに、大量の疎水性分子鎖セグメントは、添加剤分子の立体構造をより大きいものに変えることができるため、研磨砥粒とシリコン含有材料との直接の接触をより減少または回避させるのに有利となる。これにより、シリコン含有材料の研磨速度が一層低下し、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比が一層高まるため、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのにより有利となる。
【0058】
本実施形態において、R2は、好ましくはC3~C18直鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、より好ましくはC5~C18直鎖状アルキル基またはC5~C18直鎖状アルケニル基であり、さらに好ましくはC10~C18直鎖状アルキル基またはC10~C18直鎖状アルケニル基であり、さらにより好ましくはC10~C16直鎖状アルキル基またはC12~C18直鎖状アルケニル基であり、特に好ましくはC10~C14直鎖状アルキル基である。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態において、式(I)に示される構造中、R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、R2はHであり;nは2~20の整数であり;かつm、qおよびrはいずれも1であり、pは0である。かかる実施形態では、添加剤分子は疎水性分子鎖セグメント(つまり、末端に位置するアルキル鎖セグメント)を有する。よって、添加剤分子が研磨砥粒およびシリコン含有材料の疎水性表面により容易に吸着され得るようになる。さらに、疎水性分子鎖セグメントは、添加剤分子の立体構造をより大きいものに変えることができるため、研磨砥粒とシリコン含有材料との直接の接触をより減少または回避させるのに有利となる。これにより、シリコン含有材料の研磨速度が一層低下し、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比が一層高まるため、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのにより有利となる。
【0060】
本実施形態において、R1は、好ましくはC3~C18直鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、より好ましくはC5~C18直鎖状アルキル基またはC5~C18直鎖状アルケニル基であり、さらに好ましくはC10~C18直鎖状アルキル基またはC10~C18直鎖状アルケニル基であり、さらにより好ましくはC10~C16直鎖状アルキル基またはC12~C18直鎖状アルケニル基であり、特に好ましくはC10~C14直鎖状アルキル基である。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態において、式(I)に示される構造中、R1はHであり、R2はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nは2~20の整数であり;かつmは0であり、p、qおよびrはいずれも1である。かかる実施形態では、添加剤分子は大量の疎水性分子鎖セグメント(つまり、側鎖に位置するアルキル鎖セグメント)を有する。よって、添加剤分子が研磨砥粒およびシリコン含有材料の疎水性表面により容易に吸着され得るようになる。さらに、大量の疎水性分子鎖セグメントは、添加剤分子の立体構造をより大きいものに変えることができるため、研磨砥粒とシリコン含有材料との直接の接触をより減少または回避させるのに有利となる。これにより、シリコン含有材料の研磨速度が一層低下し、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比が一層高まるため、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのにより有利となる。
【0062】
本実施形態において、R2は、好ましくはC3~C18直鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、より好ましくはC5~C18直鎖状アルキル基またはC5~C18直鎖状アルケニル基であり、さらに好ましくはC10~C18直鎖状アルキル基またはC10~C18直鎖状アルケニル基であり、さらにより好ましくはC10~C16直鎖状アルキル基またはC12~C18直鎖状アルケニル基であり、特に好ましくはC10~C14直鎖状アルキル基である。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態において、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は100以上が好ましく、200以上がより好ましく、300以上がさらに好ましい。また、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は10000以下が好ましく、6000以下がより好ましく、4000以下がさらに好ましい。本明細書中の重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質として使用するゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography, GPC)により測定される。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態では、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、100以上、200以上、250以上、300以上、450以上、400以上、500以上、600以上である。また、本発明のいくつかの実施形態では、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、1500以下、1000以下、950以下、900以下、800以下、700以下、650以下、600以下である。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態では、式(I)において、R1がHであり、R2がC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nが2~20の整数であり;かつm、p、qおよびrがいずれも0である場合、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、100以上、200以上、250以上、300以上、400以上である。また、本発明のいくつかの実施形態では、式(I)において、R1がHであり、R2がC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nが2~20の整数であり;かつm、p、qおよびrがいずれも0である場合、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、1000以下、950以下、900以下、800以下、700以下、600以下、500以下である。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態では、式(I)において、R1およびR2はいずれもHであり;nは2~40の整数であり;かつmおよびpはいずれも0であり、qおよびrはいずれも1である場合、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、100以上、150以上、200以上、250以上、280以上、300以上、400以上、500以上、600以上、700以上である。また、本発明のいくつかの実施形態では、式(I)において、R1およびR2はいずれもHであり;nは2~40の整数であり;かつmおよびpはいずれも0であり、qおよびrはいずれも1である場合、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、3000以下、1500以下、1000以下、900以下、800以下である。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態では、疎水性分子鎖セグメントとしてアルキルエーテルを有する場合、すなわち、式(I)において、(i)R1はHであり、R2はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nは2~20の整数であり;かつmおよびpはいずれも0であり、qおよびrはいずれも1である場合、および(ii)R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、R2はHであり;nは2~20の整数であり;かつmおよびpはいずれも0であり、qおよびrはいずれも1である場合、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、100以上、200以上、250以上、300以上、350以上、400以上である。また、本発明のいくつかの実施形態では、疎水性分子鎖セグメントとしてアルキルエーテルを有する場合、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、1500以下、1000以下、900以下、800以下、600以下、500以下である。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態では、疎水性分子鎖セグメントとして脂肪酸エステルを有する場合、すなわち、式(I)において、(i)R1はHであり、R2はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nは2~20の整数であり;かつmは0であり、p、qおよびrはいずれも1である場合、および(ii)R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、R2はHであり;nは2~20の整数であり;かつm、qおよびrはいずれも1であり、pは0である場合、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、100以上、200以上、250以上、300以上、350以上、400以上である。また、本発明のいくつかの実施形態では、疎水性分子鎖セグメントとして脂肪酸エステルを有する場合、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、1500以下、1000以下、900以下、800以下、700以下、600以下である。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態では、式(I)において、R1およびR2はいずれもHであり;nは2~20の整数であり;かつm、pおよびqはいずれも0であり、rは2である場合、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、100以上、150以上、200以上、220以上、230以上である。また、本発明のいくつかの実施形態では、式(I)において、R1およびR2はいずれもHであり;nは2~20の整数であり;かつm、pおよびqはいずれも0であり、rは2である場合、添加剤分子の重量平均分子量(MW)は、1000以下、800以下、600以下、500以下、400以下である。
【0070】
添加剤分子の重量平均分子量が過度に大きいと、添加剤分子の立体構造が大きくなりすぎてしまう可能性がある。かかる場合、研磨砥粒およびシリコン含有材料に吸着された添加剤分子同士の間に間隙が形成されやすくなり、ひいては研磨砥粒およびシリコン含有材料の表面に構造の緻密な薄層を形成することが困難となる。その結果、添加剤分子はシリコン含有材料をよく保護することができず、シリコン含有材料の研磨速度を十分に下げることができなくなる。したがって、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比を高めることができず、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのに不利である。
【0071】
一方、添加剤分子の重量平均分子量が過度に小さいと、添加剤分子の疎水性鎖セグメントが少なくなりすぎ、かつ添加剤分子の親水性が高くなりすぎる可能性がある。かかる場合に、添加剤分子は研磨砥粒およびシリコン含有材料の表面に吸着され難くなり得る。よって、添加剤分子はシリコン含有材料をよく保護できず、シリコン含有材料の研磨速度を十分に下げることができない。さらに、添加剤分子の親水性が高くなりすぎると、親水性の酸化物表面に、添加剤分子で形成された一層の薄層が吸着する可能性があるため、酸化物の研磨速度は低下し得る。したがって、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比は低くなり、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのに不利となる。
【0072】
なお、添加剤分子の重量平均分子量は、GPC法(水系、ポリエチレンオキサイド換算)により測定された値を採用することができる。重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、GPC装置(株式会社島津製作所製 型式:Prominence + ELSD検出器(ELSD-LTII))などを用いてポリエチレングリコール換算によって求めることができる。
【0073】
添加剤分子は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。合成する場合の製造方法は特に制限されず、公知の製造方法を用いることができる。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態において、該研磨組成物の総重量に対し、該添加剤分子の含量は10重量ppm以上が好ましく、30重量ppm以上がより好ましく、50重量ppm以上がさらに好ましく、70重量ppm以上が特に好ましい。また、該添加剤分子の含量は10000重量ppm以下が好ましく、5000重量ppm以下がより好ましく、2000重量ppm以下が好ましく、1000重量ppm以下が特に好ましい。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態では、添加剤分子の含量は、研磨組成物の総重量に対して、60ppm以上、80重量ppm以上、90重量ppm以上、95重量ppm以上、120重量ppm以上、150重量ppm以上、200重量ppm以上である。また、本発明のいくつかの実施形態では、添加剤分子の含量は、研磨組成物の総重量に対して、900重量ppm以下、700重量ppm以下、500重量ppm以下、400重量ppm以下、350重量ppm以下、300重量ppm以下である。
【0076】
添加剤分子の研磨組成物中における含量が過度に多いと、研磨砥粒およびシリコン含有材料の表面に過度に多い添加剤分子が吸着する可能性がある。また、添加剤分子の含量が過度に多いと、添加剤分子が酸化物の表面にも一層の薄層を形成する可能性がある。これにより、シリコン含有材料の研磨速度と酸化物の研磨速度はどちらも低下して、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比を十分に高めることができないため、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのに不利であり、研磨工程にかかる時間の短縮にも不利となる。
【0077】
一方、添加剤分子の研磨組成物中における含量が過度に少ないと、添加剤分子が研磨砥粒およびシリコン含有材料の表面に一層の薄層を形成するのが困難となる、特に、研磨砥粒およびシリコン含有材料の表面全体を覆うことは難しくなる。よって、添加剤分子はシリコン含有材料をよく保護できず、シリコン含有材料の研磨速度を十分に下げることができなくなる。また、添加剤分子の含量が少なすぎると、研磨砥粒の親水性が不十分となり、研磨砥粒と親水性の酸化物との間の親和力を有効に高めることが困難になるため、酸化物の研磨速度を高めることができない。上述したように、添加剤分子の含量が少なすぎると、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比を高めることは難しい。したがって、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのに不利となる。
【0078】
[pH調整剤]
本実施形態の研磨組成物はpH調整剤を含む。pH調整剤により研磨組成物のpH値を1.5以上であって、4.5以下の範囲に調整することができる。pH調整剤としては、公知の酸または塩基を使用できる。
【0079】
本実施形態の研磨組成物に用いられるpH調整剤の酸は、無機酸または有機酸であってもよいし、また、キレート剤であってもよい。pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸(HCl)、硫酸(H2SO4)、硝酸(HNO3)、フッ化水素酸(HF)、硼酸(H3BO3)、炭酸(H2CO3)、次亜リン酸(H3PO2)、亜リン酸(H3PO3)およびリン酸(H3PO4)を挙げることができる。これら無機酸のうち、好ましいのは塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸である。
【0080】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、ヒドロキシ酢酸(hydroxyacetic acid)、サリチル酸(salicylic acid)、グリセリン酸(glyceric acid)、シュウ酸(oxalic acid)、マロン酸(malonic acid)、コハク酸(succinic acid)、グルタル酸(glutaric acid)、アジピン酸(adipic acid)、ピメリン酸(pimelic acid)、マレイン酸(maleic acid)、フタル酸(phthalic acid)、リンゴ酸(malic acid)、酒石酸(tartaric acid)、クエン酸(citric acid)、乳酸(lactic acid)、グリオキシル酸(glyoxylic acid)、2-フランカルボン酸(2-furancarboxylic acid)、2,5-フランジカルボン酸(2,5-furandicarboxylic acid)、3-フランカルボン酸(3-furancarboxylic acid)、2-テトラヒドロフランカルボン酸(2-tetrahydrofuran carboxylic acid)、メトキシ酢酸(methoxyacetic acid)、メトキシフェニル酢酸(methoxyphenylacetic acid)およびフェノキシ酢酸(Phenoxyacetic acid)を挙げることができる。メタンスルホン酸(methanesulfonic acid)、エタンスルホン酸(ethanesulfonic acid)およびイセチオン酸(2-hydroxyethanesulfonic acid)等の有機硫酸を使用してもよい。これら有機酸のうち、好ましいのは、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸酒石酸、2,5-フランジカルボン酸、およびクエン酸である。
【0081】
本実施形態の研磨組成剤に用いるpH調整剤の塩基としては、アルカリ金属の水酸化物またはその塩、第2族元素の水酸化物またはその塩、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミンを挙げることができる。アルカリ金属の具体例としては、カリウム、ナトリウム等を挙げることができる。
【0082】
研磨組成物のpHが増加するのに伴い、研磨砥粒表面のゼータ電位は負の値へとシフトしていき、酸化物とシリコン含有材料表面のゼータ電位も負の値へとシフトしていく。よって、研磨組成物のpHが過度に高いと(例えばpHが5以上)、研磨砥粒表面のゼータ電位は負の値となる可能性があり、研磨対象物表面のゼータ電位もまた負の値である可能性がある。よって、研磨砥粒と研磨対象物(酸化物およびシリコン含有材料を含む)との間の静電反発力が大きくなることで、シリコン含有材料および酸化物の研磨速度が共に大幅に低下して、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比を高めることが困難となる。したがって、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのに不利となり、研磨工程にかかる時間を短縮するのにも不利である。
【0083】
本実施形態の研磨組成物のpHは1.5以上であって、4.5以下の範囲である。かかる環境において研磨砥粒の表面ゼータ電位は正の値であり、負に帯電している研磨対象物(例えば酸化物)との間には静電気的に引き合う力がある。よって、酸化物の研磨速度が高まり得る。さらに、酸性条件下では、研磨砥粒としてのシリカ粒子どうしは静電反発により凝集を引き起こしにくく、研磨組成物の保存安定性が大幅に高まり得る。より具体的には、本実施形態の研磨組成物のpHは1.8以上が好ましく、2以上がより好まし2.5以上がさらに好ましい。また、本実施形態の研磨組成物のpHは4.2以下が好ましく、4以下がより好ましく、3.5以下がさらに好ましい。
【0084】
いくつかの実施形態では、研磨組成物は、pHが、1.5以上、1.6以上、1.7以上、1.8以上、1.9以上、2.0以上、2.1以上、2.2以上、2.3以上、2.4以上、2.5以上、2.6以上、2.7以上でありうる。また、いくつかの実施形態では、研磨用組成物は、pHが、4.5以下、4.4以下、4.3以下、4.2以下、4.1以下、4.0以下、3.9以下、3.8以下、3.7以下、3.6以下、3.5以下でありうる。
【0085】
研磨組成物のpHが過度に高いと、酸化物の研磨速度が大幅に低下し、かつ酸化物のシリコン含有材料に対する研磨速度比も大幅に低下する。したがって、酸化物を研磨する際の研磨停止層としてシリコン含有材料を使用するのに不利となり、研磨工程にかかる時間の短縮にも不利となる。さらに、研磨組成物のpH値が過度に高いと、研磨組成物の保存安定性も低下し得る。一方、研磨組成物のpH値が過度に低いと、プロセスの安全性が低下し、廃液処理の負担が増える。
【0086】
[分散媒]
本実施形態の研磨組成物は分散媒(“溶媒”と称してもよい)を含む。分散媒は、研磨組成物中の各成分を分散または溶解させるために用いることができる。本実施形態において、研磨組成物は、分散媒として水を含んでいてよい。他の成分の作用を阻害することを抑えるという観点から、できる限り不純物を含まない水が好ましい。より具体的には、イオン交換樹脂で不純物イオンを除去した後、フィルターに通して異物を除去した純水もしくは超純水、または蒸留水が好ましい。
【0087】
[その他の成分]
本発明の研磨方法に用いる研磨組成物は、必要に応じて、キレート剤、酸化剤、金属防食剤、防腐剤、抗カビ剤等のその他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0088】
[研磨方法および基板の製造方法]
上述したように、本発明に係る研磨組成物は、シリコン含有材料および酸化物を含む基板を研磨するのに特に適している。よって、本発明は、本発明にかかる研磨組成物を用いてシリコン含有材料および酸化物を含む研磨対象物を研磨する研磨方法を提供する。例えば、かかる研磨対象物は、シリコン含有材料からなる基板とこの基板の上に形成された酸化物層とを含み得る。酸化物の具体例としては、酸化ケイ素が挙げられる。シリコン含有材料の具体例としては、分子式SixGe1-xで表されるシリコン含有材料が挙げられ、x=0.1~1である。また、本発明は、本発明にかかる研磨組成物を使用しシリコン含有材料および酸化物ゲルマニウム材料を含む基板に対して研磨を行うステップを含む基板の製造方法を提供する。
【0089】
シリコン含有材料および酸化物を含む研磨対象物を研磨するとき、シリコン含有材料を酸化物研磨時の研磨停止層として使用するには、酸化物の除去速度とシリコン含有材料の除去速度との差は大きいほど好ましい。つまり、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨選択比(研磨速度比または除去速度比)が高いほど良い。より具体的には、特定の研磨圧力(例えば1.0psi)でシリコン含有材料および酸化物を含む研磨対象物を研磨するとき、酸化物の除去速度R1のシリコン含有材料の除去速度R2に対する比の値(R1/R2)は10以上で、比の値R1/R2が高いほど好ましい。本発明のいくつかの実施形態において、研磨圧力が1.0psiであるとき、研磨組成物の酸化物に対する除去速度は第1の除去速度R1であり、研磨組成物のシリコン含有材料に対する除去速度は第2の除去速度R2であり、かつ第1の除去速度の第2の除去速度に対する比の値(R1/R2)は10以上が好ましく、15以上がより好ましく、20以上がさらに好ましく、30以上であると特に好ましい。第1の除去速度の第2の除去速度に対する比の値(R1/R2)の上限値に特に限定はなく、高ければ高いほど良いが、例として比の値(R1/R2)を200以下とすることができる。
【0090】
研磨ステップで使用する研磨装置として、一般的な化学機械研磨プロセスで用いる研磨装置を使用することができる。かかる研磨装置には、研磨対象物を保持するキャリアおよび回転数を変更することのできるモーター等が設置されていると共に、研磨パッド(または研磨布)を貼り付けることのできる研磨定盤を備える。
【0091】
上記研磨パッドに特に制限はなく、一般の不織布、ポリウレタン樹脂製パッド、および多孔質フッ素樹脂製パッド等を使用することが可能である。さらに、必要に応じて、研磨パッドに溝加工を施すこともでき、これにより研磨組成物が研磨パッドの溝中にたまるようになる。
【0092】
研磨ステップのパラメータ条件にも特に制限はなく、実際の必要に応じて調整を行うことができる。例えば、研磨定盤の回転速度は10~500rpmとすることができ、キャリアの回転速度は10~500rpmとすることができ、研磨組成物の流量は10~500mL/minとすることができ、研磨圧力は0.1~10psiとすることができ、研磨時間は10秒から30分とすることができる。研磨組成物を研磨パッドへ供給する方法にも特に制限はなく、例えば、ポンプ等による連続供給の方法を採用できる。
【0093】
研磨ステップ終了後、水流中で研磨対象物を洗浄し、回転乾燥機等で研磨対象物に付着している水滴を飛ばして乾燥し、平坦な表面を有する、段差の無い基板を得る。
【0094】
[実施例]
以下の実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施例のみに限定されることはない。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行っている。
【0095】
[研磨組成物の調製]
下表1に示される組成に従って、研磨砥粒、添加剤およびpH調整剤を分散媒(超純水)中で混合し(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)、研磨組成物を調製した。研磨組成物のpHをpHメーター(堀場製作所製LAQUA)で確認した(pH測定時の研磨組成物の温度は25℃)。また、表1中の“-”はその成分を添加していないことを表す。表1および表2における各成分の詳細は以下のとおりである。
【0096】
[研磨砥粒および添加剤分子]
研磨砥粒a:コロイダルシリカ(一次粒子径:30nm、二次粒子径:60nm、 研磨砥粒表面のシラノール基密度:1.5個/nm2)
研磨砥粒b:コロイダルシリカ(一次粒子径:35nm、二次粒子径:70nm、 研磨砥粒表面のシラノール基密度:4.4個/nm2)
研磨砥粒c:コロイダルシリカ(一次粒子径:35nm、二次粒子径:70nm、 研磨砥粒表面のシラノール基密度:4.5個/nm2)
添加剤A:Glycerol(グリセリン;MW:92g/mol)
添加剤B:Polypropylene glycol 400(ポリプロピレングリコール400;MW:446g/mol)
添加剤C:Polyglycerin #310(ポリグリセリン#310;MW:314g/mol)
添加剤D:Polyglycerin #500(ポリグリセリン#500;MW:462g/mol)
添加剤E:Polyglycerin #750(ポリグリセリン#750;MW:759g/mol)
添加剤F:Polyglycerin 40(ポリグリセリン40;MW:2978g/mol)
添加剤G:Polyglyceryl-4 lauryl ether(ポリグリセリル-4ラウリルエーテル;MW:482g/mol)
添加剤H:Polyglyceryl-10 lauric acid ester(ポリグリセリン-10ラウリン酸エステル;MW:940g/mol)
添加剤I:Polyglyceryl-10 oleic acid ester (ポリグリセリン-10オレイン酸エステル;MW:1022g/mol)
HNO3:硝酸(濃度:70%)
添加剤J:Polyglyceryl-4 lauric acid ester(ポリグリセリン-4ラウリン酸エステル;MW:432g/mol)
添加剤K:Polyglyceryl-6 lauric acid ester(ポリグリセリン-6ラウリン酸エステル;MW:548g/mol)
添加剤L:Polytetrahydrofuran (ポリテトラヒドロフラン(=ポリテトラメチレンエーテルグリコール;MW:250g/mol)。
【0097】
なお、上記添加剤Bは、上記式(I)において、R1がHであり、R2がC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり;nが2~20の整数であり;かつm、p、qおよびrがいずれも0である化合物に相当する。また、上記添加剤C~Fは、上記式(I)において、R1およびR2はいずれもHであり;nは2~40の整数であり;かつmおよびpはいずれも0、qおよびrは1である化合物に相当する。上記添加剤Gは、上記式(I)において、R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、R2はHであり;nは2~20の整数であり;かつmおよびpはいずれも0であり、qおよびrはいずれも1である化合物に相当する。上記添加剤H~Kは、上記式(I)において、R1はC1~C18直鎖状アルキル基、C3~C18分岐鎖状アルキル基またはC2~C18直鎖状アルケニル基であり、R2はHであり;nは2~20の整数であり;かつm、qおよびrはいずれも1であり、pは0である化合物に相当する。上記添加剤Lは、上記式(I)において、R1およびR2はいずれもHであり;nは2~20の整数であり;かつm、pおよびqはいずれも0であり、rは2である化合物に相当する。
【0098】
[研磨砥粒の二次粒子径の測定]
研磨砥粒(コロイダルシリカ)の平均二次粒子径(単位:nm)を、研磨砥粒試料に対し動的光散乱式の粒子径分布測定装置(日機装社製:UPA-UT151)により、体積平均粒子径(体積基準の算術平均径;Mv)として測定した。研磨砥粒の二次粒子径の測定結果は表1および表2に記録されている。
【0099】
[表面ゼータ電位の測定]
研磨用組成物に含まれる研磨砥粒の表面ゼータ電位を、界面電位分析計(Colloidal Dynamics社製:Zeta Probe Analyzer)を用い、多周波数電気音響波(Multiple Frequency Electro-Acoustic)法により測定した。表面ゼータ電位の測定結果は表1および表2に記録されている。
【0100】
[研磨砥粒表面のシラノール基密度の測定]
先ず、固形分としてのコロイダルシリカを1.50gはかり取り、200mLのビーカーに入れ、純水約100mLを添加してスラリーを作った後、塩化ナトリウム30gを加えて溶解させた。次いで、1N塩酸を加え、スラリーのpHを約3.0~3.5に調整してから、純水を添加してスラリーの容積を150mLにした。このスラリーに対し、自動滴定装置(平沼産業社製、COM-1700)を用い、25℃にて0.1N 水酸化ナトリウムでpHが4.0になるよう調整し、さらに、pH滴定によってpHを4.0から9.0に上げるのに要した0.1N 水酸化ナトリウム溶液の容積V(単位:L)を測定した。研磨砥粒表面のシラノール基密度は、下式により算出できる。研磨砥粒表面のシラノール基密度の測定結果は、上述の各成分の詳細([研磨砥粒および添加剤分子])において、それぞれ研磨砥粒a~研磨砥粒cの欄に記録されている。
【0101】
【0102】
上式中、
ρは研磨砥粒表面のシラノール基密度(単位:個/nm2)を表し;
cは滴定に用いた水酸化ナトリウム溶液の濃度(単位:mol/L)を表し;
VはpHを4.0から9.0までに高めるのに要した水酸化ナトリウム溶液の容積(単位:L)を表し;
NAはアボガドロ定数(単位:個/mol)を表し;
Cはシリカの総質量(固形分)(単位:g)を表し;
SはシリカのBET比表面積(単位:nm2/g)を表す。
【0103】
[除去速度の測定]
上記にて得られた研磨組成物を用い、以下の研磨条件で直径300mmのシリコンゲルマニウム(SixGe1-x)(具体的にはx=0.75)基板(製造メーカー:Silicon Valley Microelectronic, Inc.;膜厚:1500Å)、直径300mmのポリシリコン(Poly-Si)基板(製造メーカー:Silicon Valley Microelectronic, Inc.;膜厚:5000Å)および直径300mmの酸化ケイ素(具体的にはオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)由来の酸化ケイ素)基板(以下、“TEOS基板”と略称する;製造メーカー:Silicon Valley Microelectronic, Inc.;膜厚:10000Å)に対してそれぞれ研磨を行ったときの除去速度を測定した。除去速度の測定結果は表1および表2に録されている。
【0104】
研磨装置:片面CMP研磨装置(FREX 300E;荏原製作所社製)
研磨パッド:ポリウレタン製パッド
定盤回転速度:90rpm
キャリア回転速度:90rpm
研磨組成物の流量:300mL/min
研磨時間:60sec
研磨圧力:1.0psi(約6.9kPa)。
【0105】
研磨対象物の研磨前および研磨後の厚さを、膜厚測定システム(KLA-Tencor社正;ASET F5x)により測定した。除去速度を次式により算出した。
除去速度={[研磨前の厚度]-[研磨後の厚度]}/[処理時間]
上式中、厚さの単位はÅ、処理時間の単位は分、除去速度の単位は(Å/min)である。なお、1Å=0.1nmである。
【0106】
[除去速度の比の値の計算]
上記の研磨圧力(つまり1.0psi)で研磨ステップを行い、上式によりこの研磨圧力におけるシリコンゲルマニウム基板の除去速度RSiGe、ポリシリコン基板の除去速度RSi、酸化ケイ素基板の除去速度RTEOSをそれぞれ求めた。研磨圧力が1.0psiのときの、酸化ケイ素基板の除去速度RTEOSのシリコンゲルマニウム基板の除去速度RSiGeに対する比の値(RTEOS/RSiGe)、酸化ケイ素基板の除去速度RTEOSのポリシリコン基板の除去速度RSiに対する比の値(RTEOS/RSi)を算出した。かかる比の値(RTEOS/RSiGe)および(RTEOS/RSi)は、この特定の研磨圧力(つまり1.0 psi)での酸化物のシリコン含有材料に対する研磨選択比を表すのに用いることができる。除去速度の比の値が大きくなるほど、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨選択比は大きくなる。各実施例および比較例の除去速度の比の値比の値(RTEOS/RSiGe)および(RTEOS/RSi)も表1および表2中に示されている。
【0107】
本明細書において、研磨組成物の酸化物に対する除去速度は第1の除去速度R1であり、かつ第1の除去速度R1は実施例中の酸化ケイ素基板の除去速度RTEOSに対応し、また研磨組成物のシリコン含有材料に対する除去速度は第2の除去速度R2であり、かつ第2の除去速度R2はシリコンゲルマニウム基板の除去速度RSiGeまたはポリシリコン基板の除去速度RSiに対応し得るという点に留意されたい。第1の除去速度の第2の除去速度に対する比の値(R1/R2)は、酸化ケイ素基板の除去速度のシリコンゲルマニウム基板の除去速度に対する比の値(RTEOS/RSiGe)または酸化ケイ素基板の除去速度のポリシリコン基板の除去速度に対する比の値(RTEOS/RSi)に対応し得る。
【0108】
【0109】
【0110】
表1の実施例1~8、表2の実施例11~13および表1の比較例1を参照されたい。比較例1が式(I)で示される構造を有する添加剤を用いていないことを除き、実施例1~8、11~13および比較例1のその他の実験条件はいずれも同じか近い。実験結果より、比較例1の除去速度の比の値(RTEOS/RSiGe)および(RTEOS/RSi)はそれぞれ2.3および3.6であり、つまりどちらも10未満であることが示されている。これに比べ、実施例1~8はいずれも式(I)で示される構造を有する添加剤(つまり添加剤B、C、D、E、F、G、H、I)を使用しており、実施例1~8、11~13の除去速度の比の値(RTEOS/RSiGe)および(RTEOS/RSi)はいずれも10より大きい。このことからわかるように、式(I)で示される構造を有する添加剤を用いた研磨組成物は、TEOSのシリコンゲルマニウムまたはシリコンに対する研磨選択比を大幅に高めることができる。
【0111】
表1の実施例1~8、表2の実施例11~13および表1の比較例2を参照されたい。比較例2で用いた添加剤が式(I)で示される構造の全ての条件を満たす添加剤ではないことを除き、実施例1~8、11~13および比較例2のその他の実験条件はいずれも同じか近い。実験結果より、比較例2の除去速度の比の値(RTEOS/RSiGe)および(RTEOS/RSi)はそれぞれ5.9および6.2であり、つまりどちらも10未満であることが示されている。なお、比較例で使用した添加剤はグリセリン(重量平均分子量は92)であり、グリセリンの構造は式(I)で示される構造に似ており、相違は主鎖の鎖セグメントが比較的短いところにあり、添加剤分子の親水性は比較的強く、重量平均分子量も比較的小さい、という点に留意されたい。このことからわかるように、使用する添加剤の構造が似ているとしても、添加剤分子の重量平均分子量が過度に小さい、または親水性が過度に強いと、添加剤分子の疎水性鎖セグメントが過度に少なくなってしまい、TEOSのシリコンゲルマニウムまたはシリコンに対する研磨選択比を有効に高めるには不十分となる。また、添加剤を使用しない比較例1のTEOS基板の除去速度RTEOS (547Å/min)に比べ、比較例2のTEOS基板の除去速度RTEOS(533Å/min)はやや低い。このことから、添加剤の使用も酸化物の除去速度の低下を招く可能性があるということがわかる。
【0112】
表1の実施例4および比較例3を参照されたい。比較例3で使用した研磨砥粒bの表面ゼータ電位が負の値(つまり-132.0mV)であることを除き、実施例4と比較例3のその他の実験条件はいずれも同じか近い。実験結果より、比較例3の除去速度の比の値(RTEOS/RSiGe)および(RTEOS/RSi)はそれぞれ0.7および0.6であり、つまりどちらも10よりはるかに小さいということが示されている。なお、比較例3では、TEOS基板の除去速度が大幅に低下したため、TEOS基板の除去速度RTEOS(9Å/min)がシリコンゲルマニウム基板の除去速度RSiGe(13Å/min)およびポリシリコン基板の除去速度RSi(14Å/min)より小さくなっているという点に留意されたい。
【0113】
表1の実施例4および比較例4を参照されたい。比較例4で使用した研磨砥粒cの表面のシラノール基密度が4.5個/nm2であることを除き、実施例4と比較例4のその他の実験条件はいずれも同じか近い。実験結果より、比較例4の除去速度の比の値(RTEOS/RSiGe)および(RTEOS/RSi)はそれぞれ4.6および9.3であり、つまりどちらも10未満であるということが示されている。このことからわかるように、シラノール基密度が過度に高い研磨砥粒を使用すると、TEOSのシリコンゲルマニウムまたはシリコンに対する研磨選択比を有効に高めることは難しい。さらに、実施例4および比較例4において、TEOS基板の除去速度RTEOSはそれぞれ608Å/minおよび205Å/minである。つまり、TEOS基板の除去速度RTEOSが、比較例4は実施例4の約1/3しかない。このことからわかるように、シラノール基密度が過度に高い研磨砥粒を使用すると、TEOS基板の除去速度が大幅に低下することになり、このため研磨工程にかかる時間を増加させてしまう。
【0114】
表1の実施例4、9、10および比較例5、6を参照されたい。実施例4、9、10および比較例5、6のpHがそれぞれ2.0、3.0、4.0、5.0、7.0であること以外、実施例4、9、10および比較例5、6のその他の実験条件はいずれも同じか近い。なお、これらはいずれも研磨砥粒aを使用しているが、比較例5、6の研磨砥粒の表面ゼータ電位はいずれも負の値であり(比較例5、6はそれぞれ-87.8mV、-240.7mVである)、実施例4、9、1の研磨砥粒の表面ゼータ電位はいずれも正の値である(実施例4、9、10はそれぞれ36.7mV、33.9mV、11.8mV)という点に留意されたい。このことからわかるように、同じ研磨砥粒を使用しても、異なるpHの条件下では研磨砥粒の表面ゼータ電位も異なってくる。実験結果より、比較例5の除去速度の比の値(RTEOS/RSiGe)および(RTEOS/RSi)はそれぞれ0.5および0.4であり、比較例6の除去速度の比の値(RTEOS/RSiGe)および(RTEOS/RSi)はそれぞれ1.0および0.9であることが示されている。つまり、比較例5、6では、除去速度の比の値(RTEOS/RSiGe)および(RTEOS/RSi)はどちらも10よりはるかに小さい。さらに、比較例5、6では、TEOS基板の除去速度が大幅に低下することから、TEOS基板の除去速度RTEOS(それぞれ12Å/min、14Å/min)がいずれもシリコンゲルマニウム基板の除去速度RSiGe(それぞれ26Å/min、14Å/min)およびポリシリコン基板の除去速度RSi(それぞれ32Å/min、16Å/min)以下となっている。
【0115】
表1の実施例1~10および表2の実施例11~13を参照されたい。実施例1~10でそれぞれ用いた研磨組成物はいずれも、特定のシラノール基密度の範囲を満たす研磨砥粒(つまり研磨砥粒a)と、上記式(I)で示される構造のすべての条件を満たす添加剤(つまり添加剤B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L)とを含んでおり、かつ研磨組成物のpHが上述にて特定した酸性範囲(つまり2.0、3.0、4.0)を満たすものである。実験結果より、実施例1~13の除去速度の比の値(RTEOS/RSiGe)および(RTEOS/RSi)はいずれも10より大きいことが示されている。このことからわかるように、特定のpH条件下、式(I)で示される構造を有する添加剤を特定の研磨砥粒と組み合わせた研磨組成物を使用すると、TEOSのシリコンゲルマニウムまたはシリコンに対する研磨選択比が大幅に高まる。また、比較例2のTEOS基板の除去速度RTEOS(533Å/min)と比べて、実施例1~6のTEOS基板の除去速度RTEOS(それぞれ626Å/min、637Å/min、595Å/min、608Å/min、574Å/min、598Å/min)はいずれも8%以上高まっている。このことからわかるように、添加剤の種類と含量を調整することによって、酸化物の除去速度をさらに高めることができ、研磨工程にかかる時間が短縮される。
【0116】
以上まとめると、本発明にかかる研磨組成物は、特定の条件を満たす研磨砥粒および特定の構造を有する添加剤を含み、特定のpHの環境で、酸化物のシリコン含有材料に対する研磨選択比を大幅に高めることができる。本発明に係る研磨組成物を用いてシリコン含有材料および酸化物を含む研磨対象物を研磨する際、シリコン含有材料を酸化物研磨時の研磨停止層として用いることができる。したがって、研磨対象物の表面平坦性を良好にすることができ、プロセスの複雑度をシンプルにできる上、生産にかかる時間とコストを低減することができる。さらに、本発明にかかる研磨組成物は、添加剤の種類と含量を調整することによって、酸化物の除去速度を調整することができる。例えば、酸化物の除去速度をさらに高めることができ、研磨工程にかかる時間を短縮できる。
【0117】
また、本発明にかかる研磨組成物は化学機械研磨工程に用いることができ、平坦な表面を有する基板を得るのに有用である。よって産業上の利用可能性を備える。
【0118】
本発明をいくつかの好ましい実施形態により上のように開示したが、これらは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当然に、任意の変更および修飾を加えることができる。よって、本発明の保護範囲は、後述する特許請求の範囲で定義されたものが基準となる。
【0119】
本出願は、2019年11月20日に出願された日本特許出願番号第2019-209538号の願書に添付して提出された外国語明細書に基づいており、その開示内容は、その全体が参照により本明細書に組みこまれる。