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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】基板処理方法及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20250225BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021026704
(22)【出願日】2021-02-22
(65)【公開番号】P2022128270
(43)【公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】金子 都
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 奈央子
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0293850(US,A1)
【文献】特表2017-504209(JP,A)
【文献】特開2020-191427(JP,A)
【文献】国際公開第2020/197866(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にカーボン系膜を形成する基板処理方法であって、
前記基板を載置台に載置する工程と、
第1の応力を有する第1のカーボン系膜を形成する第1成膜工程と、
第2の応力を有する第2のカーボン系膜を形成する第2成膜工程と、
前記第1成膜工程と前記第2成膜工程とを繰り返して、前記第1のカーボン系膜及び前記第2のカーボン系膜の積層体を形成する第3成膜工程と、を有し、
前記第1の応力及び前記第2の応力は、圧縮応力を有し、
前記第1の応力の強さは、前記第2の応力の強さより小さく、
前記第1の応力及び前記第2の応力の強さは、前記載置台の下部電極に印加するバイアス電力の印加で制御する、
基板処理方法。
【請求項2】
前記第1成膜工程では前記バイアス電力を印加せず、
前記第2成膜工程では前記バイアス電力を印加する、
請求項に記載の基板処理方法。
【請求項3】
基板にカーボン系膜を形成する基板処理方法であって、
前記基板を載置台に載置する工程と、
第1の応力を有する第1のカーボン系膜を形成する第1成膜工程と、
第2の応力を有する第2のカーボン系膜を形成する第2成膜工程と、
前記第1成膜工程と前記第2成膜工程とを繰り返して、前記第1のカーボン系膜及び前記第2のカーボン系膜の積層体を形成する第3成膜工程と、を有し、
前記第1の応力及び前記第2の応力は、圧縮応力を有し、
前記第1の応力の強さは、前記第2の応力の強さより小さく、
前記積層体の応力の強さは、前記第1のカーボン系膜と前記第2のカーボン系膜の比率で制御する、
基板処理方法。
【請求項4】
前記基板と接する膜は、前記第1のカーボン系膜である、

請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記基板と接する膜は、前記第2のカーボン系膜であり、
前記基板と接する前記第2のカーボン系膜の膜厚は、前記積層体の他の第2のカーボン系膜より薄い、
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記第3成膜工程は、前記第1成膜工程と前記第2成膜工程とを交互に繰り返す、
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記カーボン系膜は、カーボン膜である、
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記積層体は、ハードマスクである、
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
処理容器と、
前記処理容器内に配置され、基板を載置する載置台と、
前記処理容器内に成膜ガスを供給するガス供給部と、
前記載置台にバイアス電力を印加する電源と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記ガス供給部から前記処理容器内に前記成膜ガスを供給して、第1の応力を有する第1のカーボン系膜を形成する第1成膜工程と、
前記ガス供給部から前記処理容器内に前記成膜ガスを供給して、第2の応力を有する第2のカーボン系膜を形成する第2成膜工程と、
前記第1成膜工程と前記第2成膜工程とを繰り返して、前記第1のカーボン系膜及び前記第2のカーボン系膜の積層体を形成する第3成膜工程と、を実行し、
前記第1の応力及び前記第2の応力は、圧縮応力を有し、
前記第1の応力の強さは、前記第2の応力の強さより小さく、
前記第1の応力及び前記第2の応力の強さは、前記載置台の下部電極に印加するバイアス電力の印加で制御する、
基板処理装置。
【請求項10】
前記制御部は、
前記第1成膜工程では前記バイアス電力を印加せず、
前記第2成膜工程では前記バイアス電力を印加する、
請求項に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エッチングマスクとしてカーボンを含むハードマスクを用いることが知られている。
【0003】
特許文献1には、アモルファスカーボン層を形成する方法であって、下層上にアモルファスカーボン層を堆積させること、前記アモルファスカーボン層をパターニングすること、前記アモルファスカーボン層の少なくとも一部分をエッチングすること、チルト処理によって、前記アモルファスカーボン層の中へドーパントを注入すること、及び前記下層をエッチングすることを含む、方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-507477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一の側面では、本開示は、エッチング耐性を向上し、膜応力を抑制する基板処理方法及び基板処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、一の態様によれば、基板にカーボン系膜を形成する基板処理方法であって、前記基板を載置台に載置する工程と、第1の応力を有する第1のカーボン系膜を形成する第1成膜工程と、第2の応力を有する第2のカーボン系膜を形成する第2成膜工程と、前記第1成膜工程と前記第2成膜工程とを繰り返して、前記第1のカーボン系膜及び前記第2のカーボン系膜の積層体を形成する第3成膜工程と、を有し、前記第1の応力及び前記第2の応力は、圧縮応力を有し、前記第1の応力の強さは、前記第2の応力の強さより小さく、前記第1の応力及び前記第2の応力の強さは、前記載置台の下部電極に印加するバイアス電力の印加で制御する、基板処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
一の側面によれば、エッチング耐性を向上し、膜応力を抑制する基板処理方法及び基板処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実機形態に係る処理装置の一例を示す概略断面図。
図2】本実施形態に係る処理装置の動作の一例を示すフローチャート。
図3】本実施形態に係る処理装置によって積層体が形成されたウエハの断面模式図。
図4】炭素の結合状態を説明する模式図。
図5】積層体形成時のタイムチャートの一例。
図6】ラマンスペクトルの一例を示すグラフ。
図7】積層体の応力とエッチング耐性の一例を示すグラフ。
図8】積層体形成時のタイムチャートの他の一例。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〔処理装置〕
本実機形態に係る基板処理装置1について、図1を用いて説明する。図1は、本実機形態に係る基板処理装置1の一例を示す概略断面図である。基板処理装置1は、減圧状態の処理容器2内でCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりウエハ等の基板Wにカーボン系膜(図3で後述するカーボン系膜の積層体220)を成膜する装置である。
【0011】
基板処理装置1は、略円筒状の気密な処理容器2を備える。処理容器2の底壁の中央部分には、排気室21が設けられている。
【0012】
排気室21は、下方に向けて突出する例えば略円筒状の形状を備える。排気室21には、例えば排気室21の側面において、排気流路22が接続されている。排気流路22には、圧力調整部23を介して排気部24が接続されている。圧力調整部23は、例えばバタフライバルブ等の圧力調整バルブを備える。排気流路22は、排気部24によって処理容器2内を減圧できるように構成されている。処理容器2の側面には、搬送口25が設けられている。搬送口25は、ゲートバルブ26によって開閉自在に構成されている。処理容器2内と搬送室(図示せず)との間における基板Wの搬入出は、搬送口25を介して行われる。
【0013】
処理容器2内には、基板Wを略水平に保持するための載置台3が設けられている。載置台3は、平面視で略円形状に形成されており、支持部材31によって支持されている。載置台3の表面には、例えば直径が300mmの基板Wを載置するための略円形状の凹部32が形成されている。凹部32は、基板Wの直径よりも僅かに(例えば1mm~4mm程度)大きい内径を有する。凹部32の深さは、例えば基板Wの厚さと略同一に構成される。載置台3は、例えば窒化アルミニウム(AlN)等のセラミックス材料により形成されている。また、載置台3は、ニッケル(Ni)等の金属材料により形成されていてもよい。なお、凹部32の代わりに載置台3の表面の周縁部に基板Wをガイドするガイドリングを設けてもよい。
【0014】
載置台3には、下部電極33が埋設される。下部電極33の下方には、温調機構34が埋設される。温調機構34は、制御部9からの制御信号に基づいて、載置台3に載置された基板Wを設定温度に調整する。載置台3の全体が金属によって構成されている場合には、載置台3の全体が下部電極として機能するので、下部電極33を載置台3に埋設しなくてよい。
【0015】
下部電極33には、整合器351を介してRF電源35が接続されている。RF電源35は、後述するRF電源51の周波数よりも低い周波数の低周波電力(LF;Low Frequency)を下部電極33に印加する。RF電源35が発生する高周波電力は、基板Wにイオンを引き込むためのバイアス用の高周波電力として用いられる。RF電源35の周波数は、例えば、13.56MHzである。
【0016】
載置台3には、載置台3に載置された基板Wを保持して昇降するための複数本(例えば3本)の昇降ピン41が設けられている。昇降ピン41の材料は、例えばアルミナ(Al2O3)等のセラミックスや石英等であってよい。昇降ピン41の下端は、支持板42に取り付けられている。支持板42は、昇降軸43を介して処理容器2の外部に設けられた昇降機構44に接続されている。
【0017】
昇降機構44は、例えば排気室21の下部に設置されている。ベローズ45は、排気室21の下面に形成された昇降軸43用の開口部211と昇降機構44との間に設けられている。支持板42の形状は、載置台3の支持部材31と干渉せずに昇降できる形状であってもよい。昇降ピン41は、昇降機構44によって、載置台3の表面の上方の側と、載置台3の表面の下方の側との間で、昇降自在に構成される。言い換えると、昇降ピン41は、載置台3の上面から突出可能に構成される。
【0018】
また、支持部材31の下端部は、排気室21の開口部212を貫通し、処理容器2の下方に配置された昇降板47を介して、昇降機構46に支持される。排気室21の底部と昇降板47との間には、ベローズ48が設けられており、昇降板47の上下動によっても処理容器2内の気密性は保たれる。
【0019】
昇降機構46が昇降板47を昇降させることにより、載置台3を昇降することができる。これにより、載置台3とガス供給部5とのギャップを調整することができる。
【0020】
処理容器2の天壁27には、絶縁部材28を介してガス供給部5が設けられている。ガス供給部5は、上部電極を成しており、下部電極33に対向している。ガス供給部5には、整合器511を介してRF電源51が接続されている。RF電源51は、RF電源35の周波数よりも高い周波数の高周波電力を上部電極(ガス供給部5)に印加する。RF電源51が発生する高周波電力は、基板Wの成膜に必要なプラズマ生成用の高周波電力として用いられる。RF電源51の周波数は、例えば、100MHz~300MHzのVHF帯(Very High Frequency)である。RF電源51から上部電極(ガス供給部5)にRF電力を供給することによって、上部電極(ガス供給部5)と下部電極33との間にRF電界が生じるように構成されている。ガス供給部5は、中空状のガス拡散室52を備える。ガス拡散室52の下面には、処理容器2内へ処理ガスを分散供給するための多数の孔53が例えば均等に配置されている。ガス供給部5における例えばガス拡散室52の上方には、加熱機構54が埋設されている。加熱機構54は、制御部9からの制御信号に基づいて図示しない電源部から給電されることによって、設定温度に加熱される。
【0021】
ガス拡散室52には、ガス供給路6が設けられている。ガス供給路6は、ガス拡散室52に連通している。ガス供給路6の上流側には、ガスライン62を介してガス源61が接続されている。ガス源61は、例えば各種の処理ガスの供給源、マスフローコントローラ、バルブ(いずれも図示せず)を含む。各種の処理ガスは、前述のカーボン系膜の形成方法において用いられる炭素原子を含む成膜ガス(例えば、CH、C、C、C)を含む。また、各種の処理ガスは、キャリアガス(例えば、H、Ar、He、O、N)を含んでいてもよい。各種の処理ガスは、ガス源61からガスライン62を介してガス拡散室52に導入される。
【0022】
基板処理装置1は、制御部9を備える。制御部9は、例えばコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置等を備える。CPUは、ROM又は補助記憶装置に格納されたプログラムに基づいて動作し、基板処理装置1の動作を制御する。制御部9は、基板処理装置1の内部に設けられていてもよく、外部に設けられていてもよい。制御部9が基板処理装置1の外部に設けられている場合、制御部9は、有線又は無線等の通信手段によって、基板処理装置1を制御できる。
【0023】
<基板処理装置1の動作>
次に、本実施形態に係る基板処理装置1の動作の一例について、図2及び図3を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る基板処理装置1の動作の一例を示すフローチャートである。図3は、本実施形態に係る基板処理装置1によってカーボン系膜の積層体(例えば、ハードマスク)220が形成された基板Wの断面模式図である。
【0024】
ステップS101において、制御部9は、基板Wを準備する。制御部9は、図示しない搬送装置を制御して、基板処理装置1の載置台3に基板Wを載置する。ここで、載置台3に載置される基板Wは、Si基板200の上に対象膜210が形成されている(図3参照)。なお、基板処理装置1は、基板Wの対象膜210の上にカーボン系膜の積層体220を形成する。カーボン系膜の積層体220は、例えばハードマスクとして用いられる。対象膜210は、積層体220に形成されたパターンを介してドライエッチングされることにより、トレンチ、チャネル、ホール等の構造が形成される膜である。搬送装置が搬送口25から退避すると、制御部9は、ゲートバルブ26を閉じる。
【0025】
ステップS102において、制御部9は、基板Wの上に第1の応力を有する第1膜(第1のカーボン系膜)221を成膜する。また、第1膜221の応力の向き(第1の応力の向き)は、例えば、圧縮応力(compressive stress)である。ここで、第1膜221は、カーボン膜であり、例えば、後述するPLC(Polymer Like Carbon)膜である。
【0026】
ここでは、制御部9は、温調機構34を制御して、基板Wの温度を所定の温度とする。また、温調機構34は、圧力調整部23及び排気部24を制御して、処理容器2内を所定の圧力とする。また、制御部9は、ガス源61を制御して処理容器2内にガスを供給する。また、制御部9は、RF電源51を制御して、上部電極(ガス供給部5)に高周波電力(VHF)を印加する。一方、第1膜221の成膜時において、RF電源35は、下部電極33に低周波電力(LF)を印加しないようになっている。
【0027】
なお、ステップS102におけるレシピの一例を示す。
載置台とガス供給部とのギャップ:10mm~80mm
CHガス供給量:10sccm~500sccm
処理容器内圧力:5mTorr~100mTorr
高周波電力(VHF):220MHz、100W~3000W
低周波電力(LF):13.56MHz、0W
載置台温度:20℃~200℃
【0028】
ステップS103において、制御部9は、基板Wの上に第2の応力を有する第2膜(第2のカーボン系膜)222を成膜する。また、第2膜222の応力の向き(第2の応力の向き)は、例えば、圧縮応力(compressive stress)であり、第1膜221の応力の向き(第1の応力の向き)と同じ向きである。また、第1膜221の応力(第1の応力)と第2膜222の応力(第2の応力)とは、強さが異なる。ここで、第2膜222は、カーボン膜であり、例えば、後述するDLC(Diamond Like Carbon)膜である。
【0029】
ここでは、制御部9は、温調機構34を制御して、基板Wの温度を所定の温度とする。また、温調機構34は、圧力調整部23及び排気部24を制御して、処理容器2内を所定の圧力とする。また、制御部9は、ガス源61を制御して処理容器2内にガスを供給する。また、制御部9は、RF電源51を制御して、上部電極に高周波電力(VHF)を印加する。また、制御部9は、RF電源35を制御して、下部電極に低周波電力(LF)を印加する。
【0030】
なお、ステップS103におけるレシピの一例を示す。
載置台とガス供給部とのギャップ:10mm~80mm
CHガス供給量:10sccm~500sccm
処理容器内圧力:5mTorr~100mTorr
高周波電力(VHF):220MHz、100W~3000W
低周波電力(LF):13.56MHz、100W~3000W
載置台温度:20℃~200℃
【0031】
ステップS104において、制御部9は、基板Wに第1膜221と第2膜222の成膜を所定回数繰り返したか否かを判定する。所定回数繰り返されていない場合(S104・No)、制御部9の処理はステップS102に戻り、第1膜221の成膜(S102)と、第2膜222の成膜(S103)を繰り返す。所定回数繰り返された場合(S104・Yes)、制御部9の処理を終了する。これにより、基板Wの対象膜210の上に第1膜221と第2膜222とが交互に成膜された積層体220が成膜される。
【0032】
次に、第1膜221であるPLC膜及び第2膜222であるDLC膜について、図3及び図4を用いて更に説明する。図4は、炭素の結合状態を説明する模式図である。図4(a)は、sp結合で形成された炭素の骨格構造の一例である。図4(b)は、sp結合で形成された炭素の骨格構造の一例である。なお、図4において、黒丸及び白丸は、炭素を示す。また、1つの結合構造を白丸で明示する。
【0033】
DLC膜は、短距離秩序として図4(a)に示すsp結合及び図4(b)に示すsp結合の両方が混在し、長距離秩序を持たない不規則なアモルファス構造のカーボン系膜である。また、DLC膜は、PLC膜と比較して、sp結合が多く含まれる。また、DLC膜は、PLC膜と比較して、水素(H)が少ない。また、DLC膜は、ドライエッチング耐性を有している。また、DLC膜は、強い圧縮応力(compressive stress)を有している。
【0034】
PLC膜は、短距離秩序として図4(a)に示すsp結合及び図4(b)に示すsp結合の両方が混在し、長距離秩序を持たない不規則なアモルファス構造のカーボン系膜である。また、PLC膜は、DLC膜と比較して、sp結合が少ない。また、PLC膜は、DLC膜と比較して、水素(H)が多く含まれる。また、PLC膜は、DLC膜よりも弱い圧縮応力を有している。
【0035】
図3に示すように、本実施形態に係る基板処理装置1によって形成される積層体220は、PLC膜(第1膜221)とDLC膜(第2膜222)とを交互に成膜して形成される。ここで、第1膜221及び第2膜222における膜の応力を白抜き矢印で示す。なお、矢印の向きは、膜の応力の向きを示し、矢印の長さは応力の強さを示す。
【0036】
弱い圧縮応力を有するPLC膜(第1膜221)と強い圧縮応力を有するDLC膜(第2膜222)とを交互に成膜して積層体220を成膜することにより、DLC膜のみでカーボン系膜の積層体(ハードマスク)を形成する場合と比較して、積層体220の応力を緩和することができる。
【0037】
また、積層体220は、ドライエッチング耐性の高いDLC膜(第2膜222)を含むことにより、積層体220のドライエッチング耐性を向上させることができる。
【0038】
また、積層体220の最下層の膜は、弱い圧縮応力を有するPLC膜(第1膜221)とすることが好ましい。対象膜210と直接接触する第1膜221が弱い圧縮応力を有することにより、対象膜210と第1膜221との密着性を高めることができる。これにより、積層体220の膜剥がれを防止することができる。
【0039】
なお、積層体220は、対象膜210の表面から、PLC膜、DLC膜の順番で交互に積層されるものとして説明したが、これに限られるものではない。積層体220は、対象膜210の表面から、DLC膜、PLC膜の順番で交互に積層してもよい。なお、対象膜210の表面と接する最初のDLC膜は、膜厚を薄くしてもよい。これにより、対象膜210と直接接触する第1膜221がDLC膜であっても、膜厚を薄くすることで圧縮応力を抑制し、対象膜210と第1膜221との密着性を高めることができる。これにより、積層体220の膜剥がれを防止することができる。
【0040】
図5は、積層体220形成時のタイムチャートの一例である。ここでは、RF電源51による上部電極(ガス供給部5)への高周波電力(VHF)の印加と、RF電源35による下部電極33への低周波電力(LF)の印加と、の動作について説明する。
【0041】
図5(a)では、全成膜時間にわたって高周波電力(VHF)のみを印加する。即ち、全成膜時間に対する高周波電力(VHF)の印加時間の割合は、100%となる。この場合、積層体220としてPLC膜が成膜される。一方、図5(d)では、全成膜時間にわたって高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)を印加する。即ち、全成膜時間に対する高周波電力(VHF)のみの印加時間の割合は、0%となる。この場合、積層体220としてDLC膜が成膜される。
【0042】
図5(b)及び図5(c)では、高周波電力(VHF)のみ印加と、高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)印加と、を繰り返す。なお、図5(b)は、全成膜時間に対する高周波電力(VHF)の印加時間の割合は、40%となる。図5(c)は、全成膜時間に対する高周波電力(VHF)の印加時間の割合は、13%となる。これにより、PLC膜とDLC膜を交互に成膜した積層体220が成膜される。
【0043】
図6は、ラマンスペクトルの一例を示すグラフである。ここでは、図5(a)から図5(c)に示すタイムチャートで成膜された積層体220におけるラマン分光法の計測結果を示す。図6の横軸はラマンシフトを示し、縦軸は散乱強度を示す。また、実線は、図5(c)のタイムチャートで成膜された積層体220のラマンスペクトルを示し、破線は、図5(b)のタイムチャートで成膜された積層体220のラマンスペクトルを示し、一点鎖線は、図5(a)のタイムチャートで成膜された積層体220のラマンスペクトルを示す。
【0044】
なお、計測した積層体220の成膜時におけるレシピの一例を示す。
載置台とガス供給部とのギャップ:60mm
CHガス供給量:200sccm
処理容器内圧力:20mTorr
高周波電力(VHF):220MHz、1000W
低周波電力(LF):13.5MHz、1000W
載置台温度:100℃
【0045】
図6に示すように、一点鎖線で示す図5(a)の積層体220のスペクトルでは、DLCのピークは見られなかった。一方、破線で示す図5(b)の積層体220のスペクトルでは、1540cm-1~1543cm-1の位置に弱いDLCのピークが見られた。また、実線で示す図5(c)の積層体220のスペクトルでは、1540cm-1~1543cm-1の位置に強いDLCのピークが見られた。
【0046】
このように、全成膜時間に対する高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)の印加時間を制御することにより、積層体220中のDLCの割合を調整することができる。即ち、高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)の印加時間の割合を増やすことにより、積層体220中のDLCの割合を増やすことができる。
【0047】
次に、図5(a)から図5(c)に示すタイムチャートで成膜された積層体220における圧縮応力と積層体220のドライエッチング耐性について、図7を用いて更に説明する。図7は、積層体220の応力とエッチング耐性の一例を示すグラフである。
【0048】
左側の第1縦軸は応力(Stress)を示す。また、応力は、圧縮応力の向きをマイナスとしている。また、図5(a)から図5(c)に示すタイムチャートで成膜された積層体220における応力の結果を白抜き丸印で示し、各点を通る曲線を実線で示す。
【0049】
右側の第2縦軸はドライエッチングに対するエッチングレート(DER)を示す。また、図5(a)から図5(c)に示すタイムチャートで成膜された積層体220におけるドライエッチングレートの結果を黒塗り四角印で示し、各点を通る曲線を破線で示す。
【0050】
横軸は、全成膜時間に対する高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)の印加時間の割合を示す。なお、図5(c)に示すタイムチャートで成膜された積層体220は横軸が13%の点に対応し、図5(b)に示すタイムチャートで成膜された積層体220は横軸が40%の点に対応し、図5(a)に示すタイムチャートで成膜された積層体220は横軸が100%の点に対応する。
【0051】
図7に示すように、全成膜時間に対する高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)の印加時間を制御することにより、積層体220の圧縮応力を調整することができる。即ち、全成膜時間に対する高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)の印加時間の割合が多いほど、積層体220中にDLCが多く形成され、圧縮応力が大きくなる。また、全成膜時間に対する高周波電力(VHF)の印加時間の割合が多いほど、積層体220中にPLCが多く形成され、圧縮応力が小さくなる。
【0052】
また、全成膜時間に対する高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)の印加時間の割合が多いほど、積層体220中にDLCが多く形成され、ドライエッチングレートが低減する、換言すれば、積層体220のドライエッチング耐性が向上する。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る基板処理装置1で成膜された積層体220によれば、従来よりもドライエッチング耐性を向上しつつ、DLC膜(図5(d)参照)よりも圧縮応力を緩和することができる。また、バイアス電力(低周波電力(LF))を制御することで、DLC膜とPLC膜との割合を制御し、成膜される積層体220の圧縮応力の強さを制御することができる。
【0054】
例えば、全成膜時間に対する高周波電力(VHF)の印加時間の割合を13%~80%とすることにより、積層体220のドライエッチング耐性と積層体220の圧縮応力の緩和を両立することができる。
【0055】
なお、積層体220形成時のタイムチャートは、図5に限られるものではない。図8は、積層体220形成時のタイムチャートの他の一例である。
【0056】
図8(a)に示す例では、全成膜時間に対する高周波電力(VHF)の印加時間の割合を50%とし、高周波電力(VHF)を印加した後に、高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)を印加する。図8(b)に示す例では全成膜時間に対する高周波電力(VHF)の印加時間の割合を50%とし、高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)を印加した後に、高周波電力(VHF)を印加する。図8(c)に示す例では、全成膜時間に対する高周波電力(VHF)の印加時間の割合を30%とし、高周波電力(VHF)を印加した後に、高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)を印加する。図8(d)に示す例では全成膜時間に対する高周波電力(VHF)の印加時間の割合を30%とし、高周波電力及び低周波電力(VHF+LF)を印加した後に、高周波電力(VHF)を印加する。
【0057】
以上、基板処理装置1による基板処理方法について説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。
【0058】
また、図5において、印加電圧を切り替える周期は一定であるものとして説明したが、これに限られるものではない。積層体220の成膜プロセスの途中で高周波電力(VHF)の印加時間の割合を変化させてもよい。これにより、例えば、積層体220の下層側をDLCが少ない膜とし、上層側をDLCが多い膜とすることができる。これにより、ドライエッチング時にエッチングガスに曝される積層体220の上層側のドライエッチング耐性を向上させるとともに、積層体220全体の圧縮応力を緩和することができる。
【0059】
本実施形態では、バイアス電力(低周波電力(LF))を制御することで、成膜されるカーボン系膜の応力の強さを制御するものとして説明したが、これに限られるものではない。
【0060】
例えば、第1膜221と第2膜222との成膜時において、昇降機構46を制御して、載置台3とガス供給部5とのギャップを変更してもよい。載置台3とガス供給部5とのギャップを変更することにより、成膜されるカーボン系膜中のsp結合及びsp結合の割合が変化する。これにより、載置台3を昇降させることで、DLC膜とPLC膜を交互に積層することができる。
【符号の説明】
【0061】
W 基板
1 基板処理装置
2 処理容器
3 載置台
5 ガス供給部(上部電極)
6 ガス供給路
9 制御部
33 下部電極
35 RF電源
51 RF電源
200 Si基板
210 対象膜
220 積層体(ハードマスク)
221 第1膜
222 第2膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8