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特許7639608データ生成方法、荷電粒子ビーム照射装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】データ生成方法、荷電粒子ビーム照射装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20250226BHJP
【FI】
H01L21/30 541E
H01L21/30 541J
H01L21/30 541W
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021130792
(22)【出願日】2021-08-10
(65)【公開番号】P2023025503
(43)【公開日】2023-02-22
【審査請求日】2024-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】安井 健一
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-241878(JP,A)
【文献】特開2019-57562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
描画パターンの形状を表現するパラメトリック曲線であって、所定方向に順に配置される複数の制御点によって定義される該パラメトリック曲線を、極値及び変曲点の位置で分割して複数のパラメトリック要素を生成し、
各パラメトリック要素について、前記複数の制御点から一部の制御点を抽出し、抽出した制御点を前記所定方向に順に結ぶことでポリゴンを生成し、
荷電粒子ビームの照射対象を所定サイズで分割した複数の矩形の区画分け領域の各々における前記ポリゴンによる被覆率を計算し、
前記複数のパラメトリック要素と前記複数の区画分け領域の四辺との交点を求め、前記描画パターンの周縁部の区画分け領域の被覆率を計算する、データ生成方法。
【請求項2】
前記パラメトリック曲線はベジェ曲線であることを特徴とする請求項1に記載のデータ生成方法。
【請求項3】
前記ベジェ曲線を、極値及び変曲点の位置で分割して複数のベジェ要素を生成し、
前記複数のベジェ要素の各々に含まれる複数の制御点から、開始点及び終了点を抽出し、抽出した前記開始点及び終了点を前記所定方向に順に直線で結んで前記ポリゴンを生成することを特徴とする請求項2に記載のデータ生成方法。
【請求項4】
描画パターンの形状を表現するパラメトリック曲線であって、所定方向に順に配置される複数の制御点によって定義される該パラメトリック曲線を、極値及び変曲点の位置で分割して複数のパラメトリック要素を生成するステップと、
各パラメトリック要素について、前記複数の制御点から一部の制御点を抽出し、抽出した制御点を前記所定方向に順に結ぶことでポリゴンを生成するステップと、
荷電粒子ビームの照射対象を所定サイズで分割した複数の矩形の区画分け領域の各々における前記ポリゴンによる被覆率を計算するステップと、
前記複数のパラメトリック要素と前記複数の区画分け領域の四辺との交点を求め、前記描画パターンの周縁部の区画分け領域の被覆率を計算するステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項5】
対象物上に荷電粒子ビームを照射する照射部と、
描画パターンの形状を表現するパラメトリック曲線であって、所定方向に順に配置される複数の制御点によって定義される該パラメトリック曲線を、極値及び変曲点の位置で分割して複数のパラメトリック要素を生成し、各パラメトリック要素について、前記複数の制御点から一部の制御点を抽出し、抽出した制御点を前記所定方向に順に結ぶことでポリゴンを生成し、前記荷電粒子ビームの照射対象を所定サイズで分割した複数の矩形の区画分け領域の各々における前記ポリゴンによる被覆率を計算し、前記複数のパラメトリック要素と前記複数の区画分け領域の四辺との交点を求め、前記描画パターンの周縁部の区画分け領域の被覆率を計算し、前記被覆率に基づいて各ピクセルの照射量を算出し、算出した照射量となるように前記照射部を制御する制御部と、
を備える荷電粒子ビーム照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ生成方法、荷電粒子ビーム照射装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターンをウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンの製作には、電子ビーム描画装置によってレジストを露光してパターンを形成する、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置として、例えば、マルチビームを用いて一度に多くのビームを照射し、スループットを向上させたマルチビーム描画装置が知られている。このマルチビーム描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームが、複数の開口を有するアパーチャ部材を通過することでマルチビームが形成され、各ビームがブランキングプレートにおいてブランキング制御される。遮蔽されなかったビームが、光学系で縮小され、描画対象のマスク上の所望の位置に照射される。
【0004】
マルチビーム描画装置を用いて電子ビーム描画を行う場合、所定サイズで区画分けされたピクセル毎に、入力図形の被覆率を計算し、ビーム毎の照射量を制御する。入力図形が曲線を含む場合、ポリゴンに近似することで、比較的容易に被覆率計算を行える。しかし、近似を高精度に行うと、近似ポリゴンの頂点数が増大し、データ処理に多大な時間を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-9897号公報
【文献】特開平8-149262号公報
【文献】特開2019-57562号公報
【文献】特開2018-121139号公報
【文献】特開2006-38815号公報
【文献】特開2010-113624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、曲線を含む図形のピクセル被覆率計算を高速かつ正確に行うデータ生成方法、荷電粒子ビーム照射装置及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によるデータ生成方法は、描画パターンの形状を表現するパラメトリック曲線であって、所定方向に順に配置される複数の制御点によって定義される該パラメトリック曲線を、極値及び変曲点の位置で分割して複数のパラメトリック要素を生成し、各パラメトリック要素について、前記複数の制御点から一部の制御点を抽出し、抽出した制御点を前記所定方向に順に結ぶことでポリゴンを生成し、荷電粒子ビームの照射対象を所定サイズで分割した複数の矩形の区画分け領域の各々における前記ポリゴンによる被覆率を計算し、前記複数のパラメトリック要素と前記複数の区画分け領域の四辺との交点を求め、前記描画パターンの周縁部の区画分け領域の被覆率を計算するものである。
【0008】
本発明の一態様によるプログラムは、描画パターンの形状を表現するパラメトリック曲線であって、所定方向に順に配置される複数の制御点によって定義される該パラメトリック曲線を、極値及び変曲点の位置で分割して複数のパラメトリック要素を生成するステップと、各パラメトリック要素について、前記複数の制御点から一部の制御点を抽出し、抽出した制御点を前記所定方向に順に結ぶことでポリゴンを生成するステップと、荷電粒子ビームの照射対象を所定サイズで分割した複数の矩形の区画分け領域の各々における前記ポリゴンによる被覆率を計算するステップと、前記複数のパラメトリック要素と前記複数の区画分け領域の四辺との交点を求め、前記描画パターンの周縁部の区画分け領域の被覆率を計算するステップと、をコンピュータに実行させるものである。
【0009】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム照射装置は、対象物上に荷電粒子ビームを照射する照射部と、描画パターンの形状を表現するパラメトリック曲線であって、所定方向に順に配置される複数の制御点によって定義される該パラメトリック曲線を、極値及び変曲点の位置で分割して複数のパラメトリック要素を生成し、各パラメトリック要素について、前記複数の制御点から一部の制御点を抽出し、抽出した制御点を前記所定方向に順に結ぶことでポリゴンを生成し、前記荷電粒子ビームの照射対象を所定サイズで分割した複数の矩形の区画分け領域の各々における前記ポリゴンによる被覆率を計算し、前記複数のパラメトリック要素と前記複数の区画分け領域の四辺との交点を求め、前記描画パターンの周縁部の区画分け領域の被覆率を計算し、前記被覆率に基づいて各ピクセルの照射量を算出し、算出した照射量となるように前記照射部を制御する制御部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、曲線を含む図形のピクセル被覆率計算を高速かつ正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
図2】成形アパーチャアレイプレートの平面図である。
図3】描画方法を説明するフローチャートである。
図4】描画動作を説明する図である。
図5】ピクセルマップ生成方法を説明するフローチャートである。
図6図6aはBスプライン曲線の例を示す図であり、図6bはベジェ曲線の例を示す図であり、図6cは変換式を示す図である。
図7図7aはベジェ曲線の例を示す図であり、図7bはベジェ曲線の分割例を示す図であり、図7cはベジェ要素の例を示す図である。
図8図8aはベジェ曲線の例を示す図であり、図8bはベジェ曲線の分割例を示す図であり、図8cは内部ポリゴンの例を示す図である。
図9図9aはベジェ要素の分類例を示す図であり、図9bはベジェ基本要素の例を示す図である。
図10】交点算出方法を説明する数式である。
図11】交点の例を示す図である。
図12】交点算出方法を説明する図である。
図13】ピクセル被覆率の算出例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。
【0013】
図1は、実施の形態に係る描画装置の概略構成図である。図1に示すように、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイプレート203、ブランキングアパーチャアレイプレート204、縮小レンズ205、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207及び偏向器208が配置されている。
【0014】
描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画対象の基板101が配置される。基板101は、例えば、マスクブランクスや、半導体基板(シリコンウェハ)である。また、XYステージ105上には、位置測定用のミラー210が配置される。
【0015】
制御部160は、制御計算機110、偏向制御回路130、ステージ位置検出器139、及び記憶部140を有している。記憶部140には、描画データが外部から入力され、格納されている。描画データには、基板101上に形成するパターンを記述する複数の図形パターンの情報が定義される。後述するように、曲線を含む図形パターンは、3次Bスプライン曲線で形状が定義されている。
【0016】
制御計算機110は、面積密度算出部111、照射時間算出部112、データ処理部113及び描画制御部114を有する。制御計算機110の各部は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。或いは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成されてもよい。
【0017】
ステージ位置検出器139は、レーザをミラー210に照射すると共にこの反射光を受光し、レーザ干渉法の原理でXYステージ105の位置を検出する。
【0018】
図2は、成形アパーチャアレイプレート203の構成を示す概念図である。図2に示すように、成形アパーチャアレイプレート203には、縦方向(y方向)及び横(x方向)に沿って複数の開口203aが所定の配列ピッチで形成されている。各開口203aは、共に同じ寸法形状の矩形又は円形で形成されると好適である。これらの複数の開口203aを電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20a~20eが形成される。
【0019】
ブランキングアパーチャアレイプレート204には、成形アパーチャアレイプレート203の各開口203aの配置位置に合わせて通過孔が形成されている。各通過孔には、対となる2つの電極の組からなるブランカが配置される。ブランカの2つの電極のうち、例えば一方の電極を接地してグラウンド電位に保ち、他方の電極をグラウンド電位またはグラウンド電位以外の電位に切り替えることにより、通過孔を通過するビームの偏向のオフ/オンが切り替えられて、ブランキング制御される。ブランカがビームを偏向しない場合、ビームはオンになる。ブランカがビームを偏向する場合、ビームはオフになる。このように、複数のブランカが、成形アパーチャアレイプレート203の複数の開口203aを通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0020】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202により成形アパーチャアレイプレート203全体を照明する。電子ビーム200は、すべての開口203aが含まれる領域を照明する。電子ビーム200が、成形アパーチャアレイプレート203の複数の開口203aを通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a~20eが形成される。
【0021】
マルチビーム20a~20eは、ブランキングアパーチャアレイプレート204のそれぞれ対応するブランカ内を通過する。ブランカは、それぞれ、個別に通過する電子ビームのうち、オフにするビームをブランキング偏向する。ブランカは、オンにするビームはブランキング偏向しない。ブランキングアパーチャアレイプレート204を通過したマルチビーム20a~20eは、縮小レンズ205によって縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心開口に向かって進む。
【0022】
ここで、ビームオフ状態に制御されるビームは、ブランカによって偏向され、制限アパーチャ部材206の開口の外を通る軌道を通るため、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ビームオン状態に制御されるビームは、ブランカによって偏向されないので、制限アパーチャ部材206の開口を通過する。このようにブランカの偏向のオン/オフによってブランキング制御が行われ、ビームのオフ/オンが制御される。ブランキングアパーチャアレイプレート204は、マルチビームの各ビームの照射時間を制御する照射時間制御部としての機能を有する。
【0023】
制限アパーチャ部材206は、ブランキングアパーチャアレイプレート204のブランカによってビームオンの状態になるように偏向されたビームを通過させ、ブランキングアパーチャアレイプレート204のブランカによってビームオフの状態になるように偏向されたビームを遮蔽する。そして、ビームオンになってからビームオフになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより1回分のショットのマルチビームが形成される。
【0024】
制限アパーチャ部材206を通過したマルチビームは、対物レンズ207により焦点が合わされ、基板101上で所望の縮小率のパターン像となる。制限アパーチャ部材206を通過した各ビーム(マルチビーム全体)が、偏向器208によって同方向にまとめて偏向され、基板101上の所望の位置に照射される。
【0025】
XYステージ105が連続移動している場合、少なくとも基板101にビームを照射している間は、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように、偏向器208によって制御される。一度に照射されるマルチビームは、理想的には成形アパーチャアレイプレート203の複数の開口203aの配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。
【0026】
次に、本実施形態に係るパターン描画方法を図3に示すフローチャートに沿って説明する。パターン面積密度算出工程(ステップS1)では、面積密度算出部111がビーム照射対象の基板101の描画領域を複数のメッシュ領域に仮想分割する。メッシュ領域のサイズは、例えば、1本のビームと同程度のサイズであり、各メッシュ領域がピクセル(単位照射領域)となる。面積密度算出部111は、記憶部140から描画データを読み出し、描画データに定義されたパターンを用いて、各ピクセル(矩形の区画分け領域)のパターン面積密度(被覆率)ρを算出し、各ピクセルの被覆率を定義したピクセルマップを生成する。ピクセルマップの生成方法は後述する。
【0027】
照射時間算出工程(ステップS2)では、照射時間算出部112が、パターン面積密度ρに基準照射量Dを乗じて、各ピクセルに照射されるビームの照射量ρDを算出する。照射時間算出部112は、近接効果等を補正するための補正係数をさらに乗じてもよい。照射時間算出部112は、照射量を、マルチビームを構成する複数のビームそれぞれの電流量で割って、前記複数のビームそれぞれの照射時間を算出する。
【0028】
照射時間制御データ生成工程(ステップS3)では、データ処理部113が、照射時間データを描画シーケンスに沿ったショット順に並び替え、照射時間制御データを生成する。
【0029】
データ転送工程(ステップS4)では、描画制御部114が照射時間制御データを偏向制御回路130へ出力する。偏向制御回路130は、照射時間制御データをブランキングアパーチャアレイプレート204の各ブランカへ出力する。
【0030】
描画工程(ステップS5)では、描画制御部114が描画部150を制御し、基板101に対する描画処理を実行させる。ブランキングアパーチャアレイプレート204の各ブランカは、照射時間制御データに基づいてビームのオン/オフを切り替え、ピクセル毎に所望の露光量を与える。
【0031】
図4は、描画動作を説明するための概念図である。図4に示すように、基板101の描画領域80は、例えば、y方向(第1方向)に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域82に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域82の左端に一回のマルチビームの照射で照射可能な照射領域(ビームアレイ)84が位置するように調整し、描画が開始される。
【0032】
第1番目のストライプ領域82を描画する際には、XYステージ105を-x方向に移動させることにより、相対的に+x方向へと描画を進めていく。XYステージ105は所定の速度で連続移動させる。第1番目のストライプ領域82の描画終了後、ステージ位置を-y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域82の右端にビームアレイ84が位置するように調整する。続いて、XYステージ105を+x方向に移動させることにより、-x方向に向かって描画を行う。
【0033】
第3番目のストライプ領域82では、+x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域82では、-x方向に向かって描画する。交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。また、常に同じ方向、つまり+x方向又は-x方向のいずれかに向かって各ストライプ領域82を描画してもよい。
【0034】
次に、面積密度算出部111によるピクセルマップ生成方法を、図5に示すフローチャートに沿って説明する。
【0035】
面積密度算出部111は、記憶部140から描画データを読み出し、3次Bスプライン曲線で定義された描画される図形パターン(描画パターン)の曲線を、3次ベジェ曲線に変換する(ステップS101)。例えば、図6aに示す3次Bスプライン曲線は、図6bに示す3次ベジェ曲線に変換される。図6cは変換式の例を示す。
【0036】
3次ベジェ曲線では、図7aに示すように、4つの制御点で曲線を表現する。つまり、図6bに示す例では、4つの制御点の組を連続させたものが、図形の周囲を囲んでいる。4つの制御点のうち、開始点と終了点の2つの制御点が曲線上に位置する。複数の制御点が、図形の周囲に沿って、右回り又は左回りの所定方向に順に定義・配置される。
【0037】
面積密度算出部111は、4つの制御点で表される曲線を、極値及び変曲点の位置でさらに細かいベジェ曲線に分割する(ステップS102)。変曲点は、曲率=(dPx/dt)(dPy/dt)-(dPy/dt)(dPx/dt)=0となる点である。極値は、dPx/dt=0、dPy/dt=0となる点である。
【0038】
以下、極値及び変曲点の位置で分割したベジェ曲線をベジェ要素という。例えば、図7aに示すベジェ曲線は、極大値、極小値及び変曲点を1つずつ含むため、図7bに示すように、4つのベジェ要素B1~B4に分割される。
【0039】
図7cに示すように、各ベジェ要素は、X方向及びY方向に単調増加、又は単調減少する曲線要素となる。
【0040】
図8aは図6bと同じ図であり、極値及び変曲点の位置で分割する前のベジェ曲線を示す。図8bは分割後のベジェ曲線(ベジェ要素)を示す。
【0041】
次に、複数のベジェ要素の各々について、複数の制御点から一部の制御点を抽出し、抽出した制御点を元の定義順(図形の周囲沿って右回り又は左回りの順)に沿って直線で結んで、ポリゴン(以下、“内部ポリゴン”と称する)を生成する(ステップS103)。本実施形態では、各ベジェ要素の開始点及び終了点を抽出し、内部ポリゴンを生成する。例えば、図8bに示す各ベジェ要素の開始点及び終了点を定義順に沿って結ぶことで、図8cに示すような内部ポリゴンが生成される。
【0042】
内部ポリゴンを従来公知の手法で三角形に分割する(ステップS104)。必ずしも三角形である必要はなく、台形を用いて分割してもよい。
【0043】
内部ポリゴンを分割した三角形を用いて、内部ポリゴンによる各ピクセルの被覆率(面積密度)を算出し、第1ピクセルマップを生成する(ステップS105)。
【0044】
各ベジェ要素を、開始点と終了点とを結ぶ線分の傾きと、開始点及び終了点以外の制御点が線分の進行方向に対して左右のどちらに位置するかに基づいて、図9aに示す8種類のタイプに分類する(ステップS106)。
【0045】
各ベジェ要素を、図9bに示す基本ベジェ要素となるように、回転・反転する(ステップS107)。
【0046】
ピクセル毎に、ピクセルの境界線と基本ベジェ要素の曲線とが交差するか判定する(ステップS108)。図10に示すように、ベジェ曲線と、ピクセル境界を表す直線とを結合した3次方程式を解くことで、交点が求まる。例えば、図11に示すような交点P1、P2が求まる。このとき、ピクセルの左辺L又は底辺Bに交点がある場合、残りの交点は上辺T又は右辺Rに存在する。左辺L及び底辺Bに交点がない場合、このピクセルに交点は存在しない。1つのピクセルあたり、交点は最大で2点である。このようなことを考慮することで、交差判定を効率良く行える。
【0047】
交差判定は、図12に示すように、曲線上のt=0からt=1までをΔtで区切り、各位置で曲線上の座標を算出し、交点を求めるピクセル境界の座標値をΔt以内で超える点tと、1つ前の点ti-1の値をもとに、線形内挿計算により算出してもよい。このとき、内挿計算は、それぞれの座標値をもとに、tについて行う。ここで、Δt毎の座標計算は、GPUなどのスレッドを使用して並列に行ってもよい。
【0048】
ピクセルの境界線とベジェ要素の曲線とが交差する場合、図13に示すように、ピクセル内を三角形部(A1,A3)と曲線扇部(A2)に分け、それぞれの面積を計算する。曲線扇部の面積は、ピクセルとの交点を範囲とした線積分で求まる。
【0049】
三角形部と曲線扇部のそれぞれの面積を加算して、ピクセルの被覆率を計算し、第2ピクセルマップを生成する(ステップS109)。ここで算出される被覆率は、図形(描画パターン)の周縁部(外周部)におけるピクセルの被覆率である。なお、ベジェ要素が、内部ポリゴンの線に対して内側に位置する場合は、算出した被覆率に-1をかける。
【0050】
第2ピクセルマップに対し、ステップS107で行った回転・反転の逆操作を行ったものと、ステップS105で生成した第1ピクセルマップとを加算して、第3ピクセルマップを生成する(ステップS110)。照射時間算出部112が各ピクセルに照射されるビーム照射量を算出する際に、この第3ピクセルマップが使用される。
【0051】
このように、本実施形態によれば、ベジェ曲線を極値及び変曲点で細かいベジェ曲線(ベジェ要素)に分割するため、各ピクセルとベジェ要素との交点を最大2点とし、交点計算と被覆率計算が容易となり、ピクセル被覆率計算を高速かつ正確に行うことができる。
【0052】
上記実施形態による手法を利用しない場合、ベジェ曲線(パラメトリック曲線)は、曲線の次数によっては、区画分け領域(ピクセル)の1辺と複数回交差したり、3辺以上と交差したりする場合があり、様々な交差の仕方を考慮して被覆率を求めることになり、処理量の増加につながる。一方、上記実施形態のようにパラメトリック曲線を、極値及び変曲点で分割すると、分割後の曲線要素は、一方向に単調に増加、または減少する形状になる。このため、曲線要素が区画分け領域の境界の4辺(右辺、上辺、左辺、下辺)と交わる場合、交差回数は2回となり、かつ異なる辺に交差する。このため、曲線要素と、区画分け領域の境界との交差方法が単純化され、被覆率計算が容易になり、処理量を削減できる。また、従来のポリゴン近似による被覆率計算よりも、処理すべき要素数が少ない上、近似されていないため、高速かつ正確に被覆率計算を行うことができる。
【0053】
ベジェ曲線の分割で生成された複数のベジェ要素は、並列処理の単位として使用できる。例えば、GPUでの並列演算で効果的に使用でき、高速処理が可能となる。
【0054】
上記実施形態では、3次ベジェ曲線に変換する例について説明したが、次数は3に限定されない。
【0055】
上記実施形態では、入力図形がBスプラインで表現されている例について説明したが、ベジェ曲線に変換できるものであれば、他のパラメトリック曲線で表現した図形を入力データとしてもよい。
【0056】
ベジェ曲線以外の他のパラメトリック曲線で、上記の処理を行ってもよい。パラメトリック曲線を極値及び変曲点の位置で分割して複数のパラメトリック要素を生成する。各パラメトリック要素に含まれる複数の制御点のうちの少なくとも1つを順に線で結んで内部ポリゴンを生成する。複数のパラメトリック要素と、ピクセル境界の交点を求め図形の周縁部におけるピクセル被覆率を計算し、これと、内部ポリゴンによるピクセル被覆率とから、各ピクセルの被覆率が求まる。
【0057】
上記実施形態では、基板にパターンを描画する描画装置について説明したが、検査装置など、対象物にビームを照射する他の照射装置にも適用可能である。また、上記実施形態では、マルチビームを用いて一度に多くのビームを照射するマルチビーム照射装置について説明したが、照射対象基板に1本のビームを照射するシングルビーム照射装置についても同様の手法を適用できる。
【0058】
制御計算機110の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、制御計算機110の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0059】
また、制御計算機110の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0061】
100 描画装置
110 制御計算機
111 面積密度算出部
112 照射時間算出部
113 データ処理部
114 描画制御部
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