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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】劣化判定装置および劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20250226BHJP
   G01R 31/396 20190101ALI20250226BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20250226BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20250226BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/396
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023575270
(86)(22)【出願日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2023001296
(87)【国際公開番号】W WO2023140278
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2022006780
(32)【優先日】2022-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/高容量バッテリーの異常リスク低減・安全化技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板垣 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】志村 重輔
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-185228(JP,A)
【文献】国際公開第2021/162077(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/042642(WO,A1)
【文献】特表2014-510262(JP,A)
【文献】特開2008-292403(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0292622(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/392
G01R 31/396
H01M 10/42
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに並列接続された複数の二次電池と、
前記二次電池ごとに1つずつ割り当てられ、割り当てられた前記二次電池の電流経路に流れる電流を計測することの可能な複数の電流計測部と、
各前記電流計測部で計測された電流の符号の関係性に基づいて、前記複数の二次電池のうち、劣化の生じている前記二次電池を特定することの可能な劣化判定部と
を備え
前記劣化判定部は、前記複数の二次電池のうち、第1の二次電池の電流の符号が、前記第1の二次電池とは異なる1または複数の第2の二次電池の電流の符号と異なる場合、前記第1の二次電池に劣化が生じていると判定することが可能となっており、
前記劣化判定部は、前記複数の二次電池に対する充電が終了してから数秒を超える所定の期間において、前記第1の二次電池の電流の符号が当該第1の二次電池の充電方向の符号から当該第1の二次電池の放電方向の符号に変化するとともに、前記1または複数の第2の二次電池の電流の符号が当該1または複数の第2の二次電池の放電方向の符号から当該1または複数の第2の二次電池の充電方向の符号に変化する場合、前記第1の二次電池の劣化の程度は高劣化であると判定することが可能となっている
劣化判定装置。
【請求項2】
前記劣化判定部は、前記複数の二次電池に対する充電が終了してから数秒を超える所定の期間の間、前記第1の二次電池の電流の符号が当該第1の二次電池の充電方向の符号を維持し、かつ、前記1または複数の第2の二次電池の電流の符号が当該1または複数の第2の二次電池の放電方向の符号を維持する場合、前記第1の二次電池の劣化の程度は低劣化であると判定することが可能となっている
請求項に記載の劣化判定装置。
【請求項3】
互いに並列接続された複数の二次電池と、前記二次電池ごとに1つずつ割り当てられ、割り当てられた前記二次電池の電流経路に流れる電流を計測する複数の電流計測部とを備えた電源装置における各前記電流計測部で計測された電流の符号の関係性に基づいて、前記複数の二次電池のうち、劣化の生じている前記二次電池を特定することと、
前記複数の二次電池のうち、第1の二次電池の電流の符号が、前記第1の二次電池とは異なる1または複数の第2の二次電池の電流の符号と異なる場合、前記第1の二次電池に劣化が生じていると判定することと、
前記複数の二次電池に対する充電が終了してから数秒を超える所定の期間において、前記第1の二次電池の電流の符号が当該第1の二次電池の充電方向の符号から当該第1の二次電池の放電方向の符号に変化するとともに、前記1または複数の第2の二次電池の電流の符号が当該1または複数の第2の二次電池の放電方向の符号から当該1または複数の第2の二次電池の充電方向の符号に変化する場合、前記第1の二次電池の劣化の程度は高劣化であると判定することとを含む
劣化判定方法。
【請求項4】
前記複数の二次電池に対する充電が終了してから数秒を超える所定の期間の間、前記第1の二次電池の電流の符号が当該第1の二次電池の充電方向の符号を維持し、かつ、前記1または複数の第2の二次電池の電流の符号が当該1または複数の第2の二次電池の放電方向の符号を維持する場合、前記第1の二次電池の劣化の程度は低劣化であると判定することを含む
請求項に記載の劣化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、劣化判定装置および劣化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の使用用途は近年、電気自動車やエネルギー貯蔵システムなど、より規模の大きな機器へと拡がってきている。規模が大きくなるほど発火した際の被害も大きくなることから、安全性を高める技術開発の重要性が高まってきている。その上で、二次電池の異常な挙動や劣化を適切に把握することが重要となる。
【0003】
特許文献1では、複数の二次電池が互いに並列接続された組電池において、各二次電池に流れる電流の差分と閾値とを対比することで、組電池に含まれるいずれかの二次電池に劣化が生じているか否かが判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-46334号公報
【発明の概要】
【0005】
しかし、特許文献1では、どの二次電池に劣化が生じているかを特定することができないという問題があった。複数の二次電池が互いに並列接続された組電池において劣化している二次電池を特定することの可能な劣化判定装置および劣化判定方法を提供することが望ましい。
【0006】
本技術の第1の側面に係る劣化判定装置は、互いに並列接続された複数の二次電池と、二次電池ごとに1つずつ割り当てられ、割り当てられた二次電池の電流経路に流れる電流を計測することの可能な複数の電流計測部と、各電流計測部で計測された電流の符号の関係性に基づいて、複数の二次電池のうち、劣化の生じている二次電池を特定することの可能な劣化判定部とを備えている。
【0007】
本技術の第2の側面に係る劣化判定方法は、以下の工程を含む。
互いに並列接続された複数の二次電池と、二次電池ごとに1つずつ割り当てられ、割り当てられた二次電池の電流経路に流れる電流を計測する複数の電流計測部とを備えた電源装置における各電流計測部で計測された電流の符号の関係性に基づいて、複数の二次電池のうち、劣化の生じている二次電池を特定すること
【0008】
本技術の第1の側面に係る劣化判定装置および本技術の第2の側面に係る劣化判定方法によれば、二次電池ごとに1つずつ割り当てられた複数の電流計測部で計測された電流の符号の関係性に基づいて、互いに並列接続された複数の二次電池のうち、劣化の生じている二次電池を特定するようにしたので、複数の二次電池が互いに並列接続された組電池において劣化している二次電池を特定することが可能である。
【0009】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本技術の一実施形態に係る電子機器の機能ブロック例を表す図である。
図2図2図1の二次電池の一変形例を表す図である。
図3図3図1の二次電池の一変形例を表す図である。
図4図4は劣化の生じていない二次電池の電圧および電流の波形の一例を表す図である。
図5図5は劣化の生じていない二次電池、および低劣化の生じている二次電池の電圧および電流の波形の一例を表す図である。
図6図6は劣化の生じていない二次電池、および高劣化の生じている二次電池の電圧および電流の波形の一例を表す図である。
図7図7図1の電子機器における劣化判定手順の一例を表す図である。
図8図8図1の電子機器の機能ブロックの一変形例を表す図である。
図9図9図1の電子機器の機能ブロックの一変形例を表す図である。
図10図10図8の電子機器の機能ブロックの一変形例を表す図である。
図11図11図1の二次電池パックに充電部を接続した様子を表す図である。
図12図12図8の二次電池パックに充電部を接続した様子を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本技術を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
<1.実施形態>
[構成]
本技術の一実施形態に係る電子機器100の構成について説明する。電子機器100には、二次電池の劣化状態を判定する機能を備えた二次電池パック110が備え付けられる。電子機器100は、例えば、図1に示したように、二次電池パック110と、負荷120とを備えている。電子機器100には、二次電池パック110を充電する充電部200が接続されている。
【0013】
負荷120は、電子機器100における種々の機能を担うデバイスである。負荷120には、例えば、このデバイスを制御する制御部121(例えば、MCU(Micro Controller Unit))が設けられている。制御部121は、例えば、後述の劣化判定部113から入力される信号(例えば、劣化判定結果についての出力データ)に基づいて、負荷120を制御したり、図示しない表示部に劣化判定結果を表示したりする。負荷120には、負荷120に対して電力を供給する二次電池パック110が接続されている。負荷120と二次電池パック110とは、配線によって電気的に接続されている。二次電池パック110には、二次電池パック110を充電する充電部200が接続されている。二次電池パック110と充電部200とは、配線によって電気的に接続されている。
【0014】
二次電池パック110は、二次電池111を有している。二次電池パック110に設けられた二次電池111は、互いに並列接続された複数の二次電池B1,B2,…Bnが含まれた、組み立てタイプの電池である。各二次電池B1,B2,…Bnは、例えば、リチウムイオン電池である。二次電池111において、複数の二次電池B1,B2,…Bnが互いに並列接続された二次電池モジュール111aが複数設けられていてもよい。例えば、図2に示したように、複数の二次電池モジュール111aが互いに直列に接続されていてもよいし、例えば、図3に示したように、複数の二次電池モジュール111aが互いに並列接続されていてもよい。
【0015】
二次電池111は、さらに、複数のセンサS1,S2,…Sn(電流計測部)を有している。複数のセンサS1,S2,…Snは、二次電池ごとに1つずつ割り当てられている。センサS1は、二次電池B1の電流経路に流れる電流を計測する。センサS1は、二次電池B1と直列に接続される。センサS1は、例えば、二次電池B1と直列に接続された抵抗と、その抵抗の両端の電圧の電圧差を検出するコンパレータとを含んで構成されている。センサS2は、二次電池B2の電流経路に流れる電流を計測する。センサS2は、二次電池B2と直列に接続される。センサS2は、例えば、二次電池B2と直列に接続された抵抗と、その抵抗の両端の電圧の電圧差を検出するコンパレータとを含んで構成されている。センサSnは、二次電池Bnの電流経路に流れる電流を計測する。センサSnは、二次電池Bnと直列に接続される。センサSnは、例えば、二次電池Bnと直列に接続された抵抗と、その抵抗の両端の電圧の電圧差を検出するコンパレータとを含んで構成されている。
【0016】
二次電池パック110は、さらに、電流符号検出部112および劣化判定部113を有している。
【0017】
電流符号検出部112は、各センサS1,S2,…Snで計測された電流の符号を検出する。各センサS1,S2,…Snの出力信号が正の符号の信号である場合、これは、例えば、電流が二次電池B1,B2,…Bnを充電する方向に流れていることを意味する。各センサS1,S2,…Snの出力信号が負の符号の信号である場合、これは、例えば、電流が二次電池B1,B2,…Bnを放電する方向に流れていることを意味する。
【0018】
劣化判定部113は、各センサS1,S2,…Snで計測された電流の符号の関係性に基づいて、複数の二次電池B1,B2,…Bnのうち、劣化の生じている二次電池を特定する。劣化判定部113は、複数の二次電池B1,B2,…Bnのうち、ある二次電池Bi(iは1~nのいずれかの数)の電流の符号が、二次電池Biとは異なる1または複数の二次電池Bk(kは1~nのうちの1または複数の数であって、かつiとは異なる数)の電流の符号と異なる場合、二次電池Biに劣化が生じていると判定する。劣化判定部113は、判定結果を制御部121に出力する。
【0019】
なお、図2に示したように、複数の二次電池モジュール111aが互いに直列に接続されていた場合、劣化判定部113は、それぞれの並列接続ブロック114(二次電池モジュール111a)毎に、劣化の生じている二次電池を特定する。また、図3に示したように、複数の二次電池モジュール111aが互いに直列に接続されており、更に並列接続されていた場合、劣化判定部113は、それぞれの最小の並列接続ブロック(二次電池モジュール111a)毎に、劣化の生じている二次電池を特定する。
【0020】
次に、劣化判定部113における判定の根拠となる二次電池の出力電流の過渡応答について説明する。
【0021】
(試料とするリチウムイオン電池の調整)
主な正極活物質がリン酸鉄リチウム(LiFePO4, LFP)であり、また主な負極活物質が黒鉛である市販リチウムイオン電池US18650FTC1(定格容量1.05Ah)を5本用意した。これらは全て、同一製造ロットのものである。このうち2本について、まず電圧が2.0Vを下回るまで0.2時間率相当の電流値(定格容量が1.05Ahであり、1時間率の電流値Itが1.05Aであるため、0.2時間率の電流値Iは0.2It=210mAである)で定電流放電し、その後速やかに、設定電流1.05A(=1It)、設定電圧3.6VのCCCV充電(設定電圧に到達するまでは設定電流値での定電流充電を行い、設定電圧に到達したら定電圧充電を行う2ステップの充電)を行い、これを充電開始後2.5hに停止した。この2本のリチウムイオン電池は、満充電状態を維持したままそれぞれ50℃、90℃の計2水準の温度に設定された恒温槽の中に各1本ずつ入れ、そのまま25日間保存することによって劣化させた。
【0022】
(組電池の作成)
下記の3種類の組電池A,B,Cを用意した。
・上述の劣化の工程を経ていない3本のリチウムイオン電池を並列に接続した組電池A
・上述の劣化の工程を経ていない2本のリチウムイオン電池と、上述の劣化の工程を経て50℃で保存した低劣化リチウムイオン電池とを並列に接続した組電池B
・上述の劣化の工程を経ていない2本のリチウムイオン電池と、上述の劣化の工程を経て90℃で保存した低劣化リチウムイオン電池とを並列に接続した組電池C
【0023】
なお、いずれの組電池においても、1つのリチウムイオン電池に付き1つの電流センサを設置し、各リチウムイオン電池に流れる電流を個別に測定できるようにした。
【0024】
組電池A,B,Cについて、23℃の恒温槽の中に入れ、設定電流3.15A(=1It)、設定電圧3.6VでCCCV充電を行った。CCCV充電は、充電部200を用いて行った。このCCCV充電は、定電圧充電中の電流値が315mA(=0.1It)を下回った時点で停止した。CCCV充電が終了した後の各リチウムイオン電池の電流は、電流センサを用いて計測した。
【0025】
図4は、組電池AのCCCV充電終了後の電圧変化および電流変化である。組電池Aに含まれる3つのリチウムイオン電池に流れる電流は、電流Ia、Ibのいずれかの波形となった。つまり、組電池Aに含まれる3つのリチウムイオン電池に流れる電流は、ほぼゼロの値のまま変化がなかった。なお、図4では、電流Ia、Ibのいずれにおいても厳密にはゼロとなっていないが、これは、電流センサの測定ばらつきに因るものである。
【0026】
図5は、組電池BのCCCV充電終了後の電圧変化および電流変化である。組電池Bに含まれる低劣化リチウムイオン電池に流れる電流は、電流Icの波形となり、組電池Bに含まれる正常な2つのリチウムイオン電池に流れる電流は、電流Idの波形となった。つまり、CCCV充電終了後、低劣化リチウムイオン電池には充電電流が流れ続け、一方で、正常な2つのリチウムイオン電池には、CCCV充電終了後、充電電流が流れ続けた。これは、低劣化リチウムイオン電池の充電時の過電圧が高く、充電終了後に低劣化リチウムイオン電池の電圧が下がったためであると考えられる。
【0027】
図6は、組電池CのCCCV充電終了後の電圧変化および電流変化である。組電池Cに含まれる高劣化リチウムイオン電池に流れる電流は、電流Ieの波形となり、組電池Cに含まれる正常な2つのリチウムイオン電池に流れる電流は、電流Ifの波形となった。つまり、CCCV充電終了後、高劣化リチウムイオン電池には約3秒間の間だけ充電電流が流れたが、約3秒経過後には、電流の符号が反転し、放電電流が流れた。一方で、正常な2つのリチウムイオン電池には、CCCV充電終了後、約3秒間の間だけ放電電流が流れたが、約3秒経過後には、電流の符号が反転し、充電電流が流れた。
【0028】
これは、高劣化リチウムイオン電池の充電時の過電圧が高く、一旦はCCCV充電終了後に高劣化リチウムイオン電池の電圧が下がったものの、正常なリチウムイオン電池と高劣化リチウムイオン電池とは、下記のいずれかが原因となって、電流方向が反転したものと考えられる。
要因1:バルク抵抗、電荷移動抵抗および拡散抵抗の時定数の大小関係が互いに異なっている
要因2:内部抵抗のSoC依存性が互いに異なっている
要因3:充電時の内部抵抗と放電時の内部抵抗との大小関係が互いに異なっている
【0029】
以上のことに鑑みて、劣化判定部113は、複数の二次電池B1,B2,…Bnに対する充電が終了してから数秒(例えば3秒)を超える所定の期間の間、二次電池Biの電流の符号が二次電池Biの充電方向の符号を維持し、かつ、1または複数の二次電池Bkの電流の符号が当該1または複数の二次電池Bkの放電方向の符号を維持する場合、二次電池Biの劣化の程度は低劣化であると判定する。また、劣化判定部113は、複数の二次電池B1,B2,…Bnに対する充電が終了してから数秒(例えば3秒)を超える所定の期間において、二次電池Biの電流の符号が当該二次電池Biの充電方向の符号から当該二次電池Biの放電方向の符号に変化するとともに、1または複数の二次電池Bkの電流の符号が当該1または複数の二次電池Bkの放電方向の符号から当該1または複数の二次電池Bkの充電方向の符号に変化する場合、二次電池Biの劣化の程度は高劣化であると判定する。ここで、高劣化とは、上記の低劣化の二次電池Biの劣化の程度と比べて高劣化であることを意味する。
【0030】
図7は、電子機器100における劣化判定手順の一例を表したものである。まず、充電部200は二次電池パック110の充電を開始する(ステップS101)。続いて、各センサS1,S2,…Snが、対応する二次電池B1,B2,…Bnの電流経路に流れる電流の計測を開始する(ステップS102)。充電部200は二次電池パック110の充電が完了したか否かを判定し、その結果、まだ充電が完了していない場合には(ステップS103;N)、引き続き充電を行う。一方、充電が完了している場合には(ステップS103;Y)、充電部200は充電を停止する(ステップS104)。このとき、二次電池11に対して電流の流入や流出の無い状態となっており、仮にある二次電池が放電電流を出力したときには、その二次電池とは異なる二次電池にその電流が流入する。
【0031】
各センサS1,S2,…Snは、数秒(例えば3秒)を超える所定の期間が経過したかを判定し、その結果、まだ所定の期間が経過していない場合には(ステップS105;N)、引き続き電流を計測する。一方、所定の期間が経過している場合には(ステップS105;Y)、各センサS1,S2,…Snは、電流の測定を停止する(ステップS106)。
【0032】
続いて、電流符号検出部112は、各センサS1,S2,…Snで計測された電流の符号を検出する(ステップS107)。劣化判定部113は、各センサS1,S2,…Snで計測された電流の符号の関係性に基づいて、複数の二次電池B1,B2,…Bnのうち、劣化の生じている二次電池を特定する(ステップS108)。具体的には、劣化判定部113は、複数の二次電池B1,B2,…Bnに対する充電が終了してから数秒(例えば3秒)を超える所定の期間の間、二次電池Biの電流の符号が二次電池Biの充電方向の符号を維持し、かつ、1または複数の二次電池Bkの電流の符号が当該1または複数の二次電池Bkの放電方向の符号を維持する場合、二次電池Biの劣化の程度は低劣化であると判定する。また、劣化判定部113は、複数の二次電池B1,B2,…Bnに対する充電が終了してから数秒(例えば3秒)を超える所定の期間において、二次電池Biの電流の符号が当該二次電池Biの充電方向の符号から当該二次電池Biの放電方向の符号に変化するとともに、1または複数の二次電池Bkの電流の符号が当該1または複数の二次電池Bkの放電方向の符号から当該1または複数の二次電池Bkの充電方向の符号に変化する場合、二次電池Biの劣化の程度は高劣化であると判定する。このようにして、電子機器100における劣化判定が行われる。
【0033】
[効果]
次に、電子機器100の効果について説明する。
【0034】
二次電池の使用用途は近年、電気自動車やエネルギー貯蔵システムなど、より規模の大きな機器へと拡がってきている。規模が大きくなるほど発火した際の被害も大きくなることから、安全性を高める技術開発の重要性が高まってきている。その上で、二次電池の異常な挙動や劣化を使用中に適切に把握することが重要となる。
【0035】
特許文献1では、複数の二次電池が互いに並列接続された組電池において、各二次電池に流れる電流の差分と閾値とを対比することで、組電池に含まれるいずれかの二次電池に劣化が生じているか否かが判定される。しかし、特許文献1では、どの二次電池に劣化が生じているかを特定することができないという問題があった。また、特許文献1では、各二次電池に流れる電流値を、それぞれ独立に、閾値を上回ったかどうかで判断をしているため、仮に組電池全体に対して非常に先尖値の高いパルス電流が流れた場合、すべての単電池が異常であるとの判定がなされる可能性があった。
【0036】
一方、本実施の形態では、二次電池ごとに1つずつ割り当てられた複数のセンサS1,S2,…Snで計測された電流の符号の関係性に基づいて、互いに並列接続された複数の二次電池B1,B2,…Bnのうち、劣化の生じている二次電池Biが特定される。これにより、複数の二次電池B1,B2,…Bnが互いに並列接続された組電池において劣化している二次電池Biを特定することが可能である。
【0037】
また、本実施の形態では、複数の二次電池B1,B2,…Bnのうち、ある二次電池Biの電流の符号が、二次電池Biとは異なる1または複数の二次電池Bkの電流の符号と異なる場合、二次電池Biに劣化が生じていると判定される。これにより、それぞれの二次電池B1,B2,…Bnに流れる電流同士の関係性が考慮され、より正確に異常を検知することができる。仮に組電池全体に対して非常に先尖値の高いパルス電流が流れた場合でも、すべての単電池が異常であるとの判定がなされることがない。
【0038】
また、本実施の形態では、複数の二次電池B1,B2,…Bnに対する充電が終了してから数秒(例えば3秒)を超える所定の期間の間、二次電池Biの電流の符号が二次電池Biの充電方向の符号を維持し、かつ、1または複数の二次電池Bkの電流の符号が当該1または複数の二次電池Bkの放電方向の符号を維持する場合、二次電池Biの劣化の程度は低劣化であると判定される。さらに、本実施の形態では、複数の二次電池B1,B2,…Bnに対する充電が終了してから数秒(例えば3秒)を超える所定の期間において、二次電池Biの電流の符号が当該二次電池Biの充電方向の符号から当該二次電池Biの放電方向の符号に変化するとともに、1または複数の二次電池Bkの電流の符号が当該1または複数の二次電池Bkの放電方向の符号から当該1または複数の二次電池Bkの充電方向の符号に変化する場合、二次電池Biの劣化の程度は高劣化であると判定される。
【0039】
このように、時間とともに電流符号が変化する現象を捉えて異常の有無を判定することにより、とりわけ異常の度合いが高い電池が混入していた際に観察される現象を捉えることができ、深刻な異常が生じていることを知ることができる。
【0040】
<2.変形例>
以下に、電子機器100の変形例について説明する。なお、以下では、上記実施の形態と共通の構成要素に対しては、上記実施の形態で付されていた符号と同一の符号が付される。また、上記実施の形態と異なる構成要素の説明を主に行い、上記実施の形態と共通の構成要素の説明については、適宜、省略するものとする。
【0041】
[変形例A]
上記実施の形態において、電流符号検出部112および劣化判定部113が、例えば、図8に示したように、二次電池パック110の外に設けられていてもよい。このとき、二次電池パック110は、各センサS1,S2,…Snで計測された電流のデータ(センサ信号)を電流符号検出部112に出力するセンサ信号出力部114を有していてもよい。このように、電流符号検出部112および劣化判定部113を二次電池パック110の外に設けた場合であっても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0042】
[変形例B]
上記実施の形態および変形例Aにおいて、例えば、図9図10に示したように、二次電池111の正極および負極と、負荷120との間に、二次電池111の正極および負極と、負荷120との接続を継断するスイッチSWが設けられていてもよい。スイッチSWは、例えば、電界効果トランジスタ(Field effect transistor, FET)を含んで構成されている。
【0043】
スイッチSWは、少なくとも充電部200による二次電池111への充電が行われている間はオンとなっており、充電部200による二次電池111への充電が終了してから少なくとも数秒(例えば3秒)を超える所定の期間の間、オフとなる。スイッチSWがオフとなっている間、二次電池11に対して電流の流入や流出の無い状態となっており、二次電池11がオープンサーキットとなっている。そのため、仮にある二次電池が放電電流を出力したときには、その二次電池とは異なる二次電池にその電流が流入する。
【0044】
本変形例では、二次電池111の正極および負極と、負荷120との間にスイッチSWが設けられている。これにより、充電部200による二次電池111への充電が終了してから少なくとも数秒(例えば3秒)を超える所定の期間の間、二次電池11を確実にオープンサーキットにすることができる。その結果、二次電池111に対して電流の流入や電流の流出がないので、精度よく劣化を判定することができる。
【0045】
[変形例C]
上記実施の形態において、例えば、図11に示したように、負荷120が二次電池パック110から取り外され、充電部200だけが二次電池パック110に接続されていてもよい。このとき、充電部200は、例えば、図11に示したように、充電回路210、受信部220および表示部230を有している。
【0046】
充電回路210は、二次電池パック110を充電する電流を二次電池パック110に供給する回路である。受信部220は、劣化判定部113からの信号(例えば、劣化判定結果についての出力データ)を受信する。表示部230は、例えば、受信部220で受信した信号(例えば、劣化判定結果についての出力データ)に基づいて、劣化判定結果を表示する。
【0047】
本変形例では、負荷120が二次電池パック110から取り外され、充電部200だけが二次電池パック110に接続されている。このようにした場合であっても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
[変形例D]
上記変形例Aにおいて、例えば、図12に示したように、負荷120が二次電池パック110から取り外され、充電部200だけが二次電池パック110に接続されていてもよい。このとき、充電部200は、例えば、図12に示したように、充電回路210、受信部220、電流符号検出部112、劣化判定部113および表示部230を有している。
【0049】
充電回路210は、二次電池パック110を充電する電流を二次電池パック110に供給する回路である。受信部220は、センサ信号出力部114から、各センサS1,S2,…Snで計測された電流のデータ(センサ信号)を受信する。電流符号検出部112は、受信部220で受信したセンサ信号に基づいて、各センサS1,S2,…Snで計測された電流の符号を検出する。劣化判定部113は、各センサS1,S2,…Snで計測された電流の符号の関係性に基づいて、複数の二次電池B1,B2,…Bnのうち、劣化の生じている二次電池を特定する。表示部230は、例えば、受信部220で受信した信号(例えば、劣化判定結果についての出力データ)に基づいて、劣化判定結果を表示する。
【0050】
本変形例では、負荷120が二次電池パック110から取り外され、充電部200だけが二次電池パック110に接続されている。このようにした場合であっても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
本明細書中に記載された効果はあくまで例示であるため、本技術の効果は本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して他の効果が得られてもよい。
【0052】
なお、本技術は、以下のような構成を取ることもできる。
<1>
互いに並列接続された複数の二次電池と、
前記二次電池ごとに1つずつ割り当てられ、割り当てられた前記二次電池の電流経路に流れる電流を計測することの可能な複数の電流計測部と、
各前記電流計測部で計測された電流の符号の関係性に基づいて、前記複数の二次電池のうち、劣化の生じている前記二次電池を特定することの可能な劣化判定部と
を備えた
劣化判定装置。
<2>
前記劣化判定部は、前記複数の二次電池のうち、第1の二次電池の電流の符号が、前記第1の二次電池とは異なる1または複数の第2の二次電池の電流の符号と異なる場合、前記第1の二次電池に劣化が生じていると判定することが可能となっている
<1>に記載の劣化判定装置。
<3>
前記劣化判定部は、前記複数の二次電池に対する充電が終了してから数秒を超える所定の期間の間、前記第1の二次電池の電流の符号が当該第1の二次電池の充電方向の符号を維持し、かつ、前記1または複数の第2の二次電池の電流の符号が当該1または複数の第2の二次電池の放電方向の符号を維持する場合、前記第1の二次電池の劣化の程度は低劣化であると判定することが可能となっている
<2>に記載の劣化判定装置。
<4>
前記劣化判定部は、前記複数の二次電池に対する充電が終了してから数秒を超える所定の期間において、前記第1の二次電池の電流の符号が当該第1の二次電池の充電方向の符号から当該第1の二次電池の放電方向の符号に変化するとともに、前記1または複数の第2の二次電池の電流の符号が当該1または複数の第2の二次電池の放電方向の符号から当該1または複数の第2の二次電池の充電方向の符号に変化する場合、前記第1の二次電池の劣化の程度は高劣化であると判定することが可能となっている
<2>に記載の劣化判定装置。
<5>
互いに並列接続された複数の二次電池と、前記二次電池ごとに1つずつ割り当てられ、割り当てられた前記二次電池の電流経路に流れる電流を計測する複数の電流計測部とを備えた電源装置における各前記電流計測部で計測された電流の符号の関係性に基づいて、前記複数の二次電池のうち、劣化の生じている前記二次電池を特定することを含む
劣化判定方法。
<6>
前記複数の二次電池のうち、第1の二次電池の電流の符号が、前記第1の二次電池とは異なる1または複数の第2の二次電池の電流の符号と異なる場合、前記第1の二次電池に劣化が生じていると判定することを含む
<5>に記載の劣化判定方法。
<7>
前記複数の二次電池に対する充電が終了してから数秒を超える所定の期間の間、前記第1の二次電池の電流の符号が当該第1の二次電池の充電方向の符号を維持し、かつ、前記1または複数の第2の二次電池の電流の符号が当該1または複数の第2の二次電池の放電方向の符号を維持する場合、前記第1の二次電池の劣化の程度は低劣化であると判定することを含む
<6>に記載の劣化判定方法。
<8>
前記複数の二次電池に対する充電が終了してから数秒を超える所定の期間において、前記第1の二次電池の電流の符号が当該第1の二次電池の充電方向の符号から当該第1の二次電池の放電方向の符号に変化するとともに、前記1または複数の第2の二次電池の電流の符号が当該1または複数の第2の二次電池の放電方向の符号から当該1または複数の第2の二次電池の充電方向の符号に変化する場合、前記第1の二次電池の劣化の程度は高劣化であると判定することを含む
<6>に記載の劣化判定方法。
【0053】
電流符号検出部112、劣化判定部113、センサ信号出力部114、制御部121および受信部220は、少なくとも1つのプロセッサ(例えば、中央演算処理装置(CPU))、少なくとも1つの特定用途向け集積回路(ASIC)および/または少なくとも1つのフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)等の、少なくとも1つの半導体集積回路を含む回路によって実施可能である。少なくとも1つのプロセッサは、少なくとも1つの非一時的かつ有形のコンピュータ可読媒体から指示を読み込むことによって、電流符号検出部112、劣化判定部113、センサ信号出力部114、制御部121および受信部220における各種機能のうちの全部または一部を実行するように構成可能である。そのような媒体は、ハードディスク等の各種磁気媒体、CDまたはDVD等の各種光媒体、揮発性メモリまたは不揮発性メモリ等の各種半導体メモリ(すなわち、半導体回路)を含む様々な形態をとり得るが、これらには限定されない。揮発性メモリは、DRAMおよびSRAMを含み得る。不揮発性メモリは、ROMおよびNVRAMを含み得る。ASICは、電流符号検出部112、劣化判定部113、センサ信号出力部114、制御部121および受信部220における各種機能のうちの全部または一部を実行するように特化された集積回路(IC)である。FPGAは、電流符号検出部112、劣化判定部113、センサ信号出力部114、制御部121および受信部220における各種機能のうちの全部または一部を実行するように、製造後に構成可能に設計された集積回路である。
図1
図2
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図4
図5
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図11
図12