(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】応力発光材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/54 20060101AFI20250226BHJP
【FI】
C09K11/54
(21)【出願番号】P 2023503970
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2022009405
(87)【国際公開番号】W WO2022186378
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2021035875
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】徐 超男
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112143488(CN,A)
【文献】特開2006-152089(JP,A)
【文献】特開平11-120801(JP,A)
【文献】特開2015-067799(JP,A)
【文献】特開2005-053735(JP,A)
【文献】特開2015-182894(JP,A)
【文献】国際公開第2004/007637(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107488448(CN,A)
【文献】特開2009-286927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛化合物と、
発光中心イオンを供給する発光中心供給化合物と、
共添加イオンを供給する所定の共添加イオン供給化合物と、を混合し
、同混合物(ただし、加熱により溶融して反応系を酸化雰囲気から隔離する固体保護剤を含むものを除く。)を酸化雰囲気下にて焼成するZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法
であって、
前記発光中心イオンは、Ndのイオン又はNdのイオン及びCr, Mn, Cu, Ag, Ce, Pr, Sm, Eu, Tb, Ybから選ばれるいずれか1つの元素のイオンであり、
前記共添加イオンは、Li, Na, K, Rb, Csから選ばれるいずれか1つの元素のイオン又はLi及びBaのイオンであり、
前記応力発光材料は、一般式ZnO:E
x
M
y
(ただし、Eは前記共添加イオンであり、Mは前記発光中心イオン。)で表される組成を有し、x=0.0001~0.7であって、y=0.001~0.2であることを特徴とするZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法。
【請求項2】
発光中心イオンと所定の共添加イオンとが存在する亜鉛イオン含有の水溶液の液性を塩基性とし又は前記水溶液に硫化物を反応させて、前記共添加イオンと発光中心イオンを水酸化亜鉛又は硫化亜鉛と共に共沈させ、同共沈物
(ただし、加熱により溶融して反応系を酸化雰囲気から隔離する固体保護剤を含むものを除く。)を酸化雰囲気下にて焼成するZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法
であって、
前記発光中心イオンは、Ndのイオン又はNdのイオン及びCr, Mn, Cu, Ag, Ce, Pr, Sm, Eu, Tb, Ybから選ばれるいずれか1つの元素のイオンであり、
前記共添加イオンは、Li, Na, K, Rb, Csから選ばれるいずれか1つの元素のイオン又はLi及びBaのイオンであり、
前記応力発光材料は、一般式ZnO:E
x
M
y
(ただし、Eは前記共添加イオンであり、Mは前記発光中心イオン。)で表される組成を有し、x=0.0001~0.7であって、y=0.001~0.2であることを特徴とするZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力発光材料及び同応力発光材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに本発明者らは、世界で初めて応力発光材料を発明し、その産業利用を開発している。
【0003】
応力発光材料は、外部から力学的な刺激によって、そのエネルギーに相関したルミネッセンスを放出する材料であり、センサ、非破壊検査、応力分布の可視化、ストレスセンシング、および構造物の異常・危険検知など実に様々な用途が期待されている。
【0004】
それゆえ、これまでに紫外領域波長から近赤外領域波長まで、様々な波長で応力に応じた発光が可能な応力発光材料の開発がなされている。
【0005】
特に本発明者らは、これまで本技術分野において日夜鋭意研究を行うことで、高輝度緑色発光するSAO系応力発光材料(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)や、微小な応力に対しても感度良く可視光域にて発光を示すLiNbO3系応力発光材料(例えば、特許文献3参照。)、また、近赤外域にて応力発光を示すSSN系応力発光材料(例えば、特許文献4参照。)など、実に様々な応力発光材料を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-049251号公報
【文献】国際公開第2005/097946号
【文献】国際公開第2018/070072号
【文献】特開2015-086327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところでZnO(酸化亜鉛)は、顔料や塗料をはじめ、触媒材料から医薬品に至るまで応用範囲が広く、現代においては各方面で比較的ありふれた材料として利用されている。
【0008】
また、ZnOは様々な分野において古くから多くの研究が行われており、例えば物性的には、材料設計や合成プロセスによって様々な粒形や光学特性を持つことが知られている。
【0009】
しかしながら、ZnOを母体材料とした応力発光材料はこれまで報告されていないし、実現不可能であると考えられていた。
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、ZnOを母体材料とする応力発光材料を提供する。
【0011】
また本発明では、ZnOを母体材料とする応力発光材料の製造方法やZnOの応力発光材料化方法についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る応力発光材料の製造方法では、
(1)亜鉛化合物と、発光中心イオンを供給する発光中心供給化合物と、共添加イオンを供給する所定の共添加イオン供給化合物と、を混合し、同混合物(ただし、加熱により溶融して反応系を酸化雰囲気から隔離する固体保護剤を含むものを除く。)を酸化雰囲気下にて焼成するZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法であって、前記発光中心イオンは、Ndのイオン又はNdのイオン及びCr, Mn, Cu, Ag, Ce, Pr, Sm, Eu, Tb, Ybから選ばれるいずれか1つの元素のイオンであり、前記共添加イオンは、Li, Na, K, Rb, Csから選ばれるいずれか1つの元素のイオン又はLi及びBaのイオンであり、前記応力発光材料は、一般式ZnO:E
x
M
y
(ただし、Eは前記共添加イオンであり、Mは前記発光中心イオン。)で表される組成を有し、x=0.0001~0.7であって、y=0.001~0.2であることとした。
【0017】
また本発明に係る応力発光材料の製造方法では、
(2)発光中心イオンと所定の共添加イオンとが存在する亜鉛イオン含有の水溶液の液性を塩基性とし又は前記水溶液に硫化物を反応させて、前記共添加イオンと発光中心イオンを水酸化亜鉛又は硫化亜鉛と共に共沈させ、同共沈物(ただし、加熱により溶融して反応系を酸化雰囲気から隔離する固体保護剤を含むものを除く。)を酸化雰囲気下にて焼成するZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法であって、前記発光中心イオンは、Ndのイオン又はNdのイオン及びCr, Mn, Cu, Ag, Ce, Pr, Sm, Eu, Tb, Ybから選ばれるいずれか1つの元素のイオンであり、前記共添加イオンは、Li, Na, K, Rb, Csから選ばれるいずれか1つの元素のイオン又はLi及びBaのイオンであり、前記応力発光材料は、一般式ZnO:E
x
M
y
(ただし、Eは前記共添加イオンであり、Mは前記発光中心イオン。)で表される組成を有し、x=0.0001~0.7であって、y=0.001~0.2であることとした。
【発明の効果】
【0026】
また、本発明に係る応力発光材料の製造方法によれば、亜鉛化合物と、発光中心イオンを供給する発光中心供給化合物と、共添加イオンを供給する所定の共添加イオン供給化合物と、を混合し、同混合物(ただし、加熱により溶融して反応系を酸化雰囲気から隔離する固体保護剤を含むものを除く。)を酸化雰囲気下にて焼成するZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法であって、前記発光中心イオンは、Ndのイオン又はNdのイオン及びCr, Mn, Cu, Ag, Ce, Pr, Sm, Eu, Tb, Ybから選ばれるいずれか1つの元素のイオンであり、前記共添加イオンは、Li, Na, K, Rb, Csから選ばれるいずれか1つの元素のイオン又はLi及びBaのイオンであり、前記応力発光材料は、一般式ZnO:E
x
M
y
(ただし、Eは前記共添加イオンであり、Mは前記発光中心イオン。)で表される組成を有し、x=0.0001~0.7であって、y=0.001~0.2であることとしたため、ZnOを母体材料とする応力発光材料の製造方法を提供することができる。特に、所定の共添加イオン供給化合物を銀イオン供給化合物、アルミニウムイオン供給化合物又はアルカリ金属化合物とすれば、ZnOを母体材料とする応力発光材料をより堅実に製造することができる。
【0027】
また、本発明に係る応力発光材料の製造方法によれば、発光中心イオンと所定の共添加イオンとが存在する亜鉛イオン含有の水溶液の液性を塩基性とし又は前記水溶液に硫化物を反応させて、前記共添加イオンと発光中心イオンを水酸化亜鉛又は硫化亜鉛と共に共沈させ、同共沈物(ただし、加熱により溶融して反応系を酸化雰囲気から隔離する固体保護剤を含むものを除く。)を酸化雰囲気下にて焼成するZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法であって、前記発光中心イオンは、Ndのイオン又はNdのイオン及びCr, Mn, Cu, Ag, Ce, Pr, Sm, Eu, Tb, Ybから選ばれるいずれか1つの元素のイオンであり、前記共添加イオンは、Li, Na, K, Rb, Csから選ばれるいずれか1つの元素のイオン又はLi及びBaのイオンであり、前記応力発光材料は、一般式ZnO:E
x
M
y
(ただし、Eは前記共添加イオンであり、Mは前記発光中心イオン。)で表される組成を有し、x=0.0001~0.7であって、y=0.001~0.2であることとしたため、ZnOを母体材料とする応力発光材料の製造方法を提供することができる。特に、所定の共添加イオンを銀イオン、アルミニウムイオン又はアルカリ金属イオンとすれば、ZnOを母体材料とする応力発光材料をより堅実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】ZnO:Nd
0.006,Li
0.006のXRD回折パターンを示す説明図である。
【
図3】ZnO:Nd
0.006,Li
0.006のSEM画像を示す説明図である。
【
図4】ZnO:Nd
0.006,Li
0.006の蛍光及び励起スペクトルを示す説明図である。
【
図5】圧縮荷重に対する応力発光特性を示した説明図である。
【
図7】繰り返した時の応力発光強度を示した説明図である。
【
図8】各種条件下における応力発光強度を示した説明図である。
【
図9】Nd添加量に対するZnO:Nd
y,Li
0.01のPL・ML強度を示す説明図である。
【
図10】Li添加量に対するZnO:Nd
0.006,Li
xのPL・ML強度を示す説明図である。
【
図11】Li添加量に対するZnO:Nd
0.006,Li
xのPL・ML強度を示す説明図である。
【
図13】添加物に対するML・PL強度への影響を示す説明図である。
【
図14】尿素液相法で得られた応力発光材料のXRDスペクトルを示す説明図である。
【
図15】尿素液相法で得られた応力発光材料のSEM画像を示す説明図である。
【
図16】尿素液相法で得られた応力発光材料のZn濃度に対するPL・ML強度を示す説明図である。
【
図17】チオアセトアミド液相法で得られた応力発光材料のXRDスペクトルを示す説明図である。
【
図18】チオアセトアミド液相法で得られた応力発光材料のSEM画像を示す説明図である。
【
図19】アルカリ金属イオンの有無及び両液相法でのPLスペクトルを示す説明図である。
【
図20】水酸化亜鉛及び硫化亜鉛の構造を示す説明図である。
【
図21】各焼成温度におけるZnO:Nd
0.006,Li
0.006のXRD回折パターン(30-40°)を示す説明図である。
【
図22】ML及びPL強度の焼成温度依存性を示す説明図である。
【
図23】アルカリ金属元素のML中心発光の焼成温度依存性を示す説明図である。
【
図24】ZnO:Li
x,Nd
0.006にてLiイオン濃度を変化させた際の応力発光の有無を示す説明図である。
【
図25】ZnO:Li
x,Nd
yにてLi濃度やNd濃度を変化させた際の応力発光の有無を示す説明図である。
【
図26】共添加イオンとしてLiとBaのイオンを添加した場合の応力発光の有無を示す説明図である。
【
図27】共添加イオンをNaイオンやKイオンとした場合の応力発光の有無を示す説明図である。
【
図28】発光中心イオンとして、Ndイオンと共に他の元素イオンを添加した場合の応力発光の有無示す説明図である。
【
図29】NdイオンやYbイオン又はTbイオンの添加濃度を変化させた場合の応力発光の有無を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、外部から力学的な刺激により、そのエネルギーに相関したルミネッセンスを放出する応力発光材料に関するものであり、ZnO(酸化亜鉛)を母体材料とする応力発光材料に関するものである。
【0032】
特に、本実施形態に係る応力発光材料の特徴としては、ZnOに発光中心イオンと所定の共添加イオンとが固溶してなる点が挙げられる。
【0033】
所定の共添加イオンや発光中心イオンのZnOへの固溶は、置換型固溶であっても良く、また、侵入型固溶であっても良い。
【0034】
また、ZnOに固溶させる所定の共添加イオンは特に限定されるものではないが、例えば銀イオンやアルミニウムイオン、アルカリ金属イオンとすることができる。アルカリ金属イオンは、アルカリ金属、すなわち、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)、Fr(フランシウム)から選ばれるいずれか1つ、又は2つ以上の金属のイオンであれば良い。なかでも、アルカリ金属イオンを、Li, Na, K, Rb及びCsから選ばれる少なくともいずれかの元素のイオンとすれば、発光中心イオンとしてNdのイオンを選択することで、より堅実な発光を伴う応力発光材料とすることができる。
【0035】
また、ZnOに固溶させる発光中心イオンは、前述の共添加イオンと共にZnOに固溶して発光中心として機能できるイオンであれば特に限定されるものではないが、例えば、遷移金属及びレアアースから選ばれる少なくともいずれか1種の金属のイオンとすることができる。
【0036】
ここで、遷移金属イオンは、第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移金属のイオンと解することができる。
【0037】
またレアアース(希土類金属)イオンは、例えば、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)のイオンと解することができる。
【0038】
遷移金属及びレアアースに属する金属のイオンなかでも、NdのイオンをZnOに固溶させる発光中心イオンとして採用すれば、前述の如く共添加イオンを添加すること、また同共添加イオンをAg, Al, Li, Na, K, Rb, Csから選ばれる少なくともいずれかの元素のイオンとすることで、より堅実な発光を伴う応力発光材料とすることができる。
【0039】
本実施形態に係る応力発光材料は、このような構成を備えることで、ZnOを母体材料とする応力発光材料とすることができる。付言すれば、本実施形態に係る応力発光材料は、共添加イオンと発光中心イオンとが固溶したZnOの結晶体を含有する応力発光材料であるとも言える。
【0040】
また、本実施形態に係る応力発光材料は、一般式ZnO:ExMy(ただし、Eは所定の共添加イオンであり、Mは遷移金属イオン及びレアアースイオンから選ばれる少なくともいずれか1種の金属イオンである発光中心イオン。)で表される組成を有し、x=0.0001~0.7であって、y=0.001~0.2であることとしても良い。
【0041】
また、一般式Zn1-xExO:My(ただし、Eは所定の共添加イオンであり、Mは遷移金属イオン及びレアアースイオンから選ばれる少なくともいずれか1種の金属イオンである発光中心イオン。)で表される組成を有し、x=0.0001~0.7であって、y=0.001~0.2であることとしても良いし、更には、Zn1-yMyO:Ex(ただし、Eは所定の共添加イオンであり、Mは遷移金属イオン及びレアアースイオンから選ばれる少なくともいずれか1種の金属イオンである発光中心イオン。)で表される組成を有し、x=0.0001~0.7であって、y=0.001~0.2であることとしても良い。
【0042】
ここで、xが0.7を超える量で共添加イオンを添加しても更なる効果が殆ど望めないため好ましくない。また、xの下限は、例えば0.0001以上とすることで堅実な応力発光特性が望めるが、これを下回っても応力発光可能であることが本発明者の経験上明らかとなっている。すなわち、xの範囲は0<x≦0.7であれば良く、0.0001≦x≦0.7とすることにより、応力に応じた発光をより堅実に生起させることができる。
【0043】
またyについても同様に、yが0.001未満となると、発光中心イオンの添加の効果が殆ど得られないため好ましくない。0.001≦y≦0.2とすることにより、応力に応じた発光をより堅実に生起させることができる。
【0044】
なお付言すれば、上記一般式にて表される本実施形態の応力発光材料は、母体材料としてのZnO中に含まれるZnに対し、前記共添加イオンは0.01~70mol%、前記発光中心イオンは0.1~20mol%、好ましくは0.1~12mol%、より好ましくは0.1~1.2mol%に相当する濃度で固溶しているとも言える。
【0045】
また、本実施形態に係る応力発光材料は、所定のマトリクス材料中に分散させて応力発光体を形成させても良い。例えば、硬化性を有する樹脂をマトリクス材料とし、硬化前の樹脂中に粉末状の応力発光材料を分散させ硬化させることにより、応力を付与することで発光を示す所望の形状の応力発光体を容易に形成することができる。なお、マトリクス材料は少なくとも、同マトリクス材料中に混在させた応力発光材料を励起させるための励起光や、応力発光材料から放射される蛍光が透過可能なものが用いられる。
【0046】
また、応力発光体は、固体に限られず、流動性を有する液体状の物であっても良い。具体的には、本実施形態に係る応力発光材料を混入させた塗料なども応力発光体の概念に含まれる。
【0047】
また本願は、ZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法を提供するものでもある。その製造方法は、固相反応法によるものと液相反応法によるものの2種類が挙げられる。
【0048】
固相反応法によるものとして、本実施形態に係るZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法では、亜鉛化合物と、遷移金属及びレアアースから選ばれる少なくともいずれか1種の金属の化合物と、所定の共添加イオン供給化合物と、を混合して焼成することとしている。なお、以下の説明において固相反応法による、本実施形態に係るZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法を「本実施形態に係る固相法」とも言う。
【0049】
ここで亜鉛化合物は、混合や焼成過程を経てZnOの結晶、すなわち
図1に示すような六方晶系ウルツ鉱型の結晶構造を構築可能な化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、ZnOやZnS等とすることができる。
【0050】
また、共添加イオン供給化合物は、ZnOの結晶中に先述の共添加イオンを固溶させることが可能な化合物であれば良い。共添加イオン供給化合物は特に限定されるものではないが、敢えて一例を挙げるならば、ZnOの結晶中に銀イオンを固溶させることのできる銀イオン供給化合物や、アルミニウムイオンを固溶させることのできるアルミニウムイオン供給化合物、また、アルカリ金属化合物などとすることができる。アルカリ金属化合物は、ZnOの結晶中にアルカリ金属イオンを固溶させることが可能な化合物であれば良く、例えば、アルカリ金属の炭酸塩や、アルカリ金属の硝酸塩、アルカリ金属の塩化物等とすることができる。より具体的には、例えばアルカリ金属としてLiを選択した場合には、Li2CO3やLiNO3、LiCl等とすることができ、Naを選択した場合には、Na2CO3やNaNO3、NaCl等とすることができ、Kを選択した場合には、K2CO3やKNO3、KCl等とすることができる。
【0051】
また、遷移金属及びレアアース(希土類金属)から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物についてもZnOの結晶中に発光中心イオンとしての遷移金属イオン及びレアアースイオンから選ばれる少なくともいずれか1種の金属イオンを固溶させることが可能な化合物であれば特に限定されるものではなく、同金属の酸化物や塩類(塩化物、硝酸塩、炭酸塩等)を用いることができる。より具体的には、例えばNdを選択した場合には、Nd2O3やNdCl3、Nd(NO3)3・6H2O等とすることができる。なお、以下の説明において発光中心イオンを供給する化合物、すなわち、遷移金属及びレアアース(希土類金属)から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物を「発光中心供給化合物」ともいう。
【0052】
なお、上述の各化合物は、必ずしもそれぞれ別個の化合物を用いる必要はなく、いずれか2つの元素を含む化合物などがあれば、そのような化合物を利用することも可能である。
【0053】
そして、これら化合物を所定量ずつ秤量し、乳鉢等で十分に混合した上で焼成し、必要に応じ焼成物を粉砕することで本実施形態に係る応力発光材料を得ることができる。
【0054】
各化合物の秤量は、本実施形態に係る応力発光材料の構成比に準ずることができ、母体材料を構成するのに必要なZnOの量と、同ZnO中に含まれるZnの0.01~70mol%に相当する共添加イオンを固溶できる共添加イオン供給化合物の量と、Znの0.1~20mol%、好ましくは0.1~12mol%、より好ましくは0.1~1.2mol%に相当する発光中心イオンを固溶できる発光中心供給化合物の量とを秤量して混合すれば良い。
【0055】
また、本実施形態に係るZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法において、焼成は酸化雰囲気下にて行うのが好ましい。一般に応力発光材料を調製する際の焼成は窒素ガス雰囲気下であったり、不活性ガス雰囲気下など酸素を含まない条件下で行われるが、この点、本実施形態に係る固相法は酸化雰囲気下、例えば空気(大気)下にて行うことで良好な発光特性の応力発光材料を得ることができる点で特徴的である。
【0056】
特に、これまで知られている近赤外応力発光材料、例えばSr3Sn2O7:Nd3+(SSN)などは、窒素雰囲気下にて1500℃程度での焼成が必要であるのに対し、発光中心イオンにネオジムイオンを採用した本実施形態に係る応力発光材料の場合、同じ近赤外応力発光材料でありながら、大気焼成で製造可能である点は極めて有用である。なお、追ってデータを参照しつつ説明するが、脱酸素下で焼成した場合でも応力発光特性は観察されるため、酸化雰囲気下での焼成は必須の条件ではないことに留意されたい。ただし、本願の権利化にあたり、出願人が焼成条件を限定することを妨げるものではない。
【0057】
そして、このような本実施形態に係る固相法によれば、固相反応法によりZnOを母体材料とする応力発光材料の製造方法を提供することができる。
【0058】
また本願では、液相反応法による製造方法についても提供する。すなわち、本実施形態に係るZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法では、発光中心イオンと所定の共添加イオンとが存在する亜鉛イオン含有の水溶液の液性を塩基性とし又は前記水溶液に硫化物を反応させて、前記共添加イオンと発光中心イオンを水酸化亜鉛又は硫化亜鉛と共に共沈させ、同共沈物を焼成するものである。なお、以下の説明において、液相反応法による本実施形態に係るZnOを母体材料とした応力発光材料の製造方法を「本実施形態に係る液相法」とも言う。
【0059】
本実施形態に係る液相法にて使用する水溶液は、母体材料を構成するための亜鉛イオンを含むものであり、更に共添加イオンと発光中心イオンが含まれる。
【0060】
同水溶液の調製は、亜鉛イオンの供給源である亜鉛化合物や共添加イオンの供給源である共添加イオン供給化合物、発光中心イオンの供給源である発光中心供給化合物が必要であり、これら化合物は水溶性を示し、共沈させることができ、更に共沈物の焼成によりZnOの結晶中に共添加イオンと発光中心イオンが固溶した応力発光材料が調製されるものであれば特に限定されるものではない。
【0061】
亜鉛化合物としては、水溶性を示し亜鉛イオンを遊離できる化合物が適当であり、例えば亜鉛の塩類、より具体的にはZnCl2などを使用することができる。
【0062】
また、共添加イオン供給化合物としては、水溶性を示すとともに銀イオンやアルミニウムイオン、アルカリ金属イオン等を遊離できる化合物が適当である。アルカリ金属化合物としては、水溶性を示すとともにアルカリ金属イオン、一例としてリチウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオン等を遊離できる化合物が適当であり、例えばアルカリ金属の塩類、より具体的にはLiClやNaCl、KClなどを使用することができる。
【0063】
また、発光中心供給化合物としては、水溶性を示すとともに発光中心イオン、一例としてネオジムイオンを遊離できる化合物が適当であり、例えば遷移金属イオン及びレアアースイオンから選ばれる少なくともいずれか1種の金属の塩類、より具体的にはNd(NO3)3・6H2Oなどを使用することができる。
【0064】
これら化合物に由来した水溶液中における各イオンの濃度は、本実施形態に係る応力発光材料の構成比に準ずることができる。すなわち、母体材料を構成するのに必要な亜鉛イオンと、同亜鉛イオンの0.01~70mol%に相当する共添加イオンと、前記亜鉛イオンの0.1~20mol%、好ましくは0.1~12mol%、より好ましくは0.1~1.2mol%に相当する発光中心イオンとが溶存した水溶液とすれば良い。
【0065】
また、本実施形態に係る液相法の特徴として、沈降性の亜鉛化合物を生成させ共添加イオンと発光中心イオンを巻き込みつつ沈殿(共沈)させる点が挙げられる。
【0066】
沈降性亜鉛化合物の生成は特に限定されるものではないが、例えば、水溶液の液性を塩基性としたり、また水溶液に硫化物を反応させることで行っても良い。水溶液の液性を塩基性とした場合は水酸化亜鉛を生成させて沈降させることができ、また、水溶液に硫化物を反応させた場合は硫化亜鉛を生成して沈降させることができる。
【0067】
水酸化亜鉛を沈降させる手法の一例としては、例えば沈殿剤として尿素を用いる方法が挙げられる。より具体的には、水溶液中に所定量の尿素を溶存させておき、水溶液を70~90℃程度に加熱することで尿素の分解、すなわち、
CO(NH2)2 + H2O → 2NH3 + CO2
を促す方法である。
【0068】
塩化亜鉛の存在下では、
CO(NH2)2 + ZnCl2 + 3H2O → Zn(OH)2↓ + 2NH4Cl + CO2
の反応が行われることとなり、水酸化亜鉛が沈殿する。このとき、水溶液中に存在する共添加イオンと発光中心イオンを巻き込みつつ沈殿(共沈)させることができる。
【0069】
また、水酸化亜鉛を沈降させる別の手法の例として、例えばチオアセトアミドを沈殿剤として用いる例が挙げられる。より具体的には、水溶液中に所定量のチオアセトアミドを溶存させておき、塩化亜鉛が存在する水溶液を70℃以上に加熱することでチオアセトアミドの分解を促すと、
C2H5NS + ZnCl2+ H2O → ZnS↓ + C2H5NO + 2HCl
の反応が行われることとなり、硫化亜鉛が沈殿する。水溶液中に存在する共添加イオンと発光中心イオンを巻き込みつつ沈殿(共沈)させることができる。
【0070】
液相法において、水溶液中におけるZnイオンの濃度は、0.1~0.5mol/Lの範囲とすることができる。
【0071】
また、水溶液中におけるアルカリ金属イオンの濃度は、単位体積中に含まれるZnイオンの0.01~70mol%に相当する量、すなわち、0.00001~0.35mol/Lの範囲とすることができる。
【0072】
また、水溶液中における発光中心イオンの濃度は、単位体積中に含まれるZnイオンの0.1~20mol%、好ましくは0.1~12mol%、より好ましくは0.1~1.2mol%に相当する量、例えば0.1~1.2mol%なら0.0001~0.006mol/Lの範囲とすることができる。
【0073】
また、水溶液中における沈殿剤の量は適宜調整可能であるが、一例としては、Znイオンと不足なく反応し沈殿させることができる量とすることができる。例えば沈殿剤として尿素(CO(NH2)2)やチオアセトアミド(C2H5NS)を用いる場合は、1molのZnイオンに対して約1mol、好ましくは1molをやや超える程度(例えば、1.1~1.5mol程度)とすることができる。
【0074】
得られた共沈物は焼成し、必要に応じ焼成物を粉砕することで本実施形態に係る応力発光材料を得ることができる。
【0075】
焼成は、本実施形態に係る液相法においても、前述の本実施形態に係る固相法と同様に、酸化雰囲気下、例えば空気(大気)下にて行うことで良好な発光特性の応力発光材料を得ることができる。なお、本実施形態に係る液相法においても、酸化雰囲気下での焼成は必須ではなく、また、出願人が焼成条件を限定することも妨げない。
【0076】
また本願は、ZnOに共添加イオンと発光中心イオンとを固溶させるZnOの応力発光材料化方法についても提供する。すなわち、これまで応力発光材料として機能させることができない材料であったZnOを応力発光材料化させる方法を提供するものであり、ZnOに共添加イオンと発光中心イオンとを固溶させる点を特徴とするものである。
【0077】
以下、本実施形態に係る応力発光材料や応力発光体、応力発光材料の製造方法、ZnOの応力発光材料化方法について、実際の製造例や試験結果等を参照しながら詳細に説明する。なお本願では幾つかの代表例により本発明の内容を明らかにするが、本発明者の長年に亘る経験上、一般式にて示す元素や値の範囲内において応力発光可能であり、本発明は当該代表例の元素や値に限定されるものではないことに留意されたい。
【0078】
〔1.固相法による応力発光材料の調製〕
本実施形態に係る固相反応法により、本実施形態に係る応力発光材料であるZnO:Nd3+
0.006,Li+
0.006の調製を行った。
【0079】
まず、亜鉛化合物としてのZnO(堺化学 99.7%)と、アルカリ金属化合物(共添加イオン供給化合物)としてのLi2CO3(高純度化学研究所 99.99%)と、発光中心供給化合物としてのNd2O3(高純度化学研究所 99.9%)とを化学量論比に基づいて秤量後、メノウ乳鉢で十分に混合・粉砕を行った。
【0080】
次に、電気炉を使用し、粉砕混合物を600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃の各温度にて所定時間(例えば3~10時間、より具体的には4~6時間)にわたり大気雰囲気下にて焼成することで焼結させた。得られた焼成物をメノウ乳鉢で粉砕し、本実施形態に係る応力発光材料としてのZnO:Nd3+
0.006,Li+
0.006を得た。なお、以下の説明において、上述の製造方法を固相基準製法ともいう。
【0081】
またここでは、固相基準製法に対し共添加イオン供給化合物の添加量を変化させた試料や、発光中心供給化合物の添加量を変化させた試料の調製も行った。
【0082】
共添加イオン供給化合物としてのアルカリ金属化合物の添加量を変化させた試料は、ここでは、Li添加量を0~70mol%で変化させた試料とした。具体的には、ZnO:Nd3+
0.006,Li+
x(x=0~0.7)であり、より詳細には、x=0, 0.001, 0.002, 0.003, 0.004, 0.006, 0.012, 0.018, 0.05, 0.1, 0.2, 0.4, 0.5, 0.7について調製した。
【0083】
また、発光中心供給化合物の添加量を変化させた試料は、ここでは、Nd添加量を0~1.2mol%で変化させた試料とした。具体的には、ZnO:Nd3+
y,Li+
0.01(y=0~0.12)であり、より詳細には、y=0, 0.003, 0.006, 0.012について調製した。
【0084】
またここでは、固相基準製法において亜鉛化合物として使用したZnOの代わりに、ZnS(和光純薬工業 99.999%)を用いた試料の調製も行った。なお、以下の説明において同製法を固相ZnS製法ともいう。
【0085】
また、固相基準製法において共添加イオン供給化合物として使用したアルカリ金属化合物であるLi2CO3の代わりとして、LiCl(CERAC 99.8%)やNa2CO3(高純度化学研究所 99.8%)、K2CO3(高純度化学研究所 99%)、MgCO3(高純度化学研究所 99.9%)、CaCO3(高純度化学研究所 99.99%)、SrCO3(高純度化学研究所 99.99%)、BaCO3(高純度化学 99.95%)、H3BO3(ALDRICH 99.99%)を用いた試料の調製も行った。なお、調製した試料では、それぞれ目的の元素が1mol%になるように添加量を調節した。
【0086】
また、固相基準製法における大気雰囲気下での焼成に関し、焼成雰囲気をN2雰囲気や流動Ar雰囲気とした試料の調製も行った。
【0087】
〔2.応力発光材料のXRD解析〕
固相基準製法により得られた試料と、固相ZnS製法により得た試料について、粉末X線回折装置(XRD)で結晶相の同定を行った。
図2にZnO:Nd
3+
0.006,Li
+
0.006のXRD回折パターンを示す。
【0088】
図2に示すように、固相基準製法により得られた試料は、XRD測定によりZnO(PDF_01-078-3322)酸化亜鉛六方晶単相であることが分かった。
【0089】
また、固相ZnS製法により得た試料の分析結果から、原料にZnSを用いて合成した場合、結晶性の向上とともに(101)面の配向が確認された。これは、ZnSはZnOよりも融点が低いことに加え、酸化する際の結晶構造変化が影響しているとものと考えられた。
【0090】
図1にて示したように、ZnOは対称中心のない、空間群P63mcに分類される構造を持つ。そしてZnを中心とする四面体がPlate-like構造を形成している。この歪やすい構造は応力発光に有利であると考えられる。
【0091】
〔3.応力発光材料の検鏡〕
次に、固相基準製法により得られた試料と、固相ZnS製法により得た試料について、走査型電子顕微鏡による観察を行った。
図3(a)に固相基準製法により得られた試料のSEM像を示し、
図3(b)に固相ZnS製法により得た試料のSEM像を示す。
【0092】
図3(a)に示したSEM像からもわかるように、固相基準製法(ZnOをベースに合成したもの)により得られたZnO粒子は不定形であり、1μm程度の粒子が集合したような形状をしており、一部が層状になっている構造が認められた。
【0093】
それに対し、固相ZnS製法(ZnSをベースに合成したもの)により得られたZnO粒子は、
図3(b)に示すように不定形ではあるものの滑らかな表面をしており、縞模様が確認された。
【0094】
〔4.蛍光スペクトル及び励起スペクトル測定〕
次に固相基準製法により得られた試料について、蛍光スペクトルおよび励起スペクトルを測定した。蛍光スペクトルは分光計を使用して測定した。蛍光スペクトルの測定結果を
図4(a)に示し、励起スペクトルの測定結果を
図4(b)に示す。
【0095】
図4(a)から分かるように、固相基準製法により得られたZnO:Nd
3+
0.006,Li
+
0.006は、898nmに
4F
3/2→
4I
9/2、1086nmに
4F
3/2→
4I
11/2に基づく近赤外のフォトルミネセンス(PL:Photoluminescence)を示すことが確認された。またこのPLは、可視領域の蛍光と比べるととても強いものであった。
【0096】
また
図4(b)に示すように、それらのPLは紫外線と可視光によって励起することができることが示された。
【0097】
〔5.応力発光特性の検討〕
次に、固相基準製法により得られたZnO:Nd3+
0.006,Li+
0.006に関し、応力発光(ML: Mechanoluminescence)の特性について検討した。
【0098】
応力発光特性の評価は、円柱形の試験体を対象として行われた。この試験体は、固相基準製法により得た粉末試料0.5gとエポキシ樹脂4.5gを混合した複合樹脂ペレット(直径25mm、厚さ10mm)からなるものであり、本実施形態に係る応力発光体に相当するものである。
【0099】
この試験体に励起光を5分間事前照射し、10秒間待機したのち、機械的な圧縮を行うことで評価を行った。事前照射に用いた光源は中心波長365nm (λ1/215nm)のLED (MDRL-CUV31, MORITEX, Saitama, Japan)である。
【0100】
また、圧縮は(Tensilon, RTC-1310A, Orintec Co., Tokyo, Japan)を用いて、3mm/min、0~1000Nの条件で試験体を圧縮した。そしてInGaAsセンサを搭載したカメラ (C14041-10U, HAMAMATSU, Shizuoka, Japan) を使用し、試験体の上部と中心部のML強度を測定した。
図5にその結果を示す。
【0101】
図5から分かるように、固相基準製法により得られたZnO:Nd
3+
0.006,Li
+
0.006は近赤外の応力発光を示し、試験体の中心部(ROI 2)では0~500Nまで、加えられた力に応じて応力発光強度も上昇していることが確認された。
【0102】
一方、試験体の上端部(ROI 1)では200Nまでに急激な応力発光を示し、それ以降の発光量は減少傾向にあることが分かる。これは、円柱状である試験体の上端部には極端に強い応力がかかるため、破壊的な発光の影響が強いことを示している。
【0103】
また
図6に示すように、試験体の平面部にガラス棒を用いて文字を書くと、その軌跡に沿って近赤外の摩擦発光(Triboluminescence)が確認された。
【0104】
次に、試験体に対する同様な試験を20回連続で繰り返した際の各回における応力発光強度について確認を行った。その結果を
図7に示す。
【0105】
図7からも分かるように、試験体の中心部(ROI 2)の応力発光の強度は1回目から20回目の間で顕著な変化は見られず、安定した応力発光が観察された。これはZnO:Nd
3+
0.006,Li
+
0.006が弾性領域の発光であるピエゾルミネッセンス(Piezoluminescence)を示す証拠である。
【0106】
一方、ペレットの上端部(ROI 1)は破壊的な発光が含まれているため、定量性は高くないことが示された。
【0107】
このように、本実施形態に係る応力発光材料は、ZnOを母体材料とする応力発光材料であることが示された。特に、ZnOを母体とした応力発光が見いだされたのは今回が初めてであり、この点においても本発明は極めて大きな意義を有している。
【0108】
〔6.固相基準製法により得られた試料とその他試料の応力発光強度の比較〕
次に、固相基準製法により得られた試料とその他試料について、応力発光強度の比較を行った。比較に使用した試料は、[A]固相基準製法により得られた試料、[B]固相ZnS製法により得た試料、[C]アルカリ金属化合物(共添加イオン供給化合物)を添加することなく固相基準製法と同様に調製した試料、[D]アルゴン雰囲気下で焼成した以外は固相基準製法と同様に調製した試料、[E]窒素雰囲気下で焼成した以外は固相基準製法と同様に調製した試料の5つである。なおここでは、いずれも1100℃で焼成したものを使用した。
【0109】
図8に、各試料の応力発光強度のグラフを示す。なお、
図8のグラフでは、[F]として固相基準製法により得られた試料の可視領域における応力発光強度を示している。
【0110】
まず、
図8において[B]として示すように固相ZnS製法の場合、応力発光強度が1.5倍ほど向上することが確認された。これは
図2のXRDスペクトルで示したように、亜鉛化合物としてZnSを用いた場合の方が結晶性が向上するためであると考えられる。
【0111】
また[C]として示すように、アルカリ金属化合物(共添加イオン供給化合物)を添加しない場合、極僅かな応力発光が見られたものの、応力発光強度は著しく低下した。このことから、ZnOに応力発光特性を付与するにあたっては、共添加イオン供給化合物の添加が重要であることが分かる。付言すれば、実用性を備えたZnO系応力発光材料を実現させるためには、共添加イオン供給化合物の添加が必須であるとも言える。
【0112】
また[D]及び[E]として示すように、焼成をAr雰囲気下やN2雰囲気下とした場合、[C]ほどではないものの、著しい応力発光強度の低下が見られた。これはZnOにおいて酸素欠陥が応力発光特性の消失に深く関係していることが考えられる。すなわち、必須ではないものの、大気(空気)中など酸素の存在する雰囲気下にて焼成することが、良好な応力発光強度を備えたZnO系応力発光材料を実現させる上で重要であることが分かる。
【0113】
また[F]として示すように、[A]の固相基準製法により得られた試料を可視領域(Wavelengt400~800nm)で観察しても応力発光は観察されなかった。ただし、この結果は1100℃にて焼成したサンプルについての結果であり、本発明者の経験上、他の温度にて焼成すれば可視光域でも発光を示すことがわかっている。データは割愛するが、現に固相基準製法と同様の方法で焼成温度を900℃としたサンプルは、可視光域での応力発光が観測されている。
【0114】
〔7.発光中心イオン量の検討〕
次に、応力発光材料の製造条件の最適化について検討すべく、まずは発光中心イオンの量について検討を行った。
【0115】
具体的には、〔1.固相法による応力発光材料の調製〕にて調製したZnO:Nd
3+
y,Li
+
0.01(y=0, 0.003, 0.006, 0.012)について応力発光強度の測定を行った。その結果を
図9に示す。
【0116】
図9から分かるように、フォトルミネッセンス及び応力発光のいずれも発光中心イオン(ここでは、Nd
3+)の発光に起因するものであるため、Nd添加量が0mol%の時は発光を示さなかった。これに対し、ZnO:Nd
3+
y,Li
+
0.01(y=0.003, 0.006, 0.012)について応力発光が認められたが、添加量との明確な相関は確認できなかった。なおデータの図示は割愛するが、フォトルミネッセンス及び応力発光のいずれもy=0.001~0.12(0.1~12mol%)の範囲内での添加では大きな影響は見られなかった。また、0<y<0.001の範囲でも応力発光が観察された。
【0117】
〔8.共添加イオン量の検討〕
次に、共添加イオンの量について検討を行った。具体的には、〔1.固相法による応力発光材料の調製〕にて調製したZnO:Nd
3+
0.006,Li
+
x(x=0, 0.001, 0.002, 0.003, 0.004, 0.006, 0.012, 0.018, 0.05, 0.1, 0.2, 0.4, 0.5, 0.7)について応力発光強度の測定を行った。その結果を
図10に示す。
【0118】
まず、x=0, 0.001, 0.002, 0.003, 0.004, 0.006, 0.012, 0.018(0~1.8mol%)に関しては、
図10から分かるように、共添加イオン(ここでは、アルカリ金属イオンであるLiイオン)の添加量が0mol%のときは応力発光特性を示さなかった。その一方、それ以降の添加に対しては応力発光が見られたが、共添加イオンの添加量との相関性は見られなかった。これは共添加イオンの添加によってトラップが生じ、応力発光特性を持つ大きな要因となっていることを示唆している。
【0119】
また、x=0.05, 0.1, 0.2, 0.4, 0.5, 0.7(5~70mol%)に関しても、
図11に示すように、共添加イオンの添加に対する応力発光は見られたが、添加量との相関性は見られなかった。
【0120】
これらの結果から、共添加イオンの添加は本実施形態に係る応力発光材料の応力発光特性に必須である要素だということが分かった。また、ZnO:Nd
3+
0.006,Li
+
xについて、共添加イオン(ここでは、アルカリ金属イオンであるLiイオン)の添加量を0~1.8mol%としたときのXRD測定の結果を
図12(a)に、5~70mol%としたときのXRD測定の結果を
図12(b)に示しているが、これらXRD測定の結果からも、共添加イオンの添加による酸化亜鉛結晶相の変化は確認されなかった。ただし、本発明者らの更なる研究によれば、詳細なデータの提示はここでは割愛するが、Li添加による格子定数の変化が見られ、LiはZnサイトを置換していることが分かった。
【0121】
そこで次に、共添加イオンの添加の意味を考察すべく、いくつかのアルカリ金属化合物・アルカリ土類金属化合物・ホウ酸を添加し、比較を行った。
【0122】
〔9.共添加イオンの種類に関する検討〕
ここでは、共添加イオンの種類について検討を行った。具体的には、〔1.固相法による応力発光材料の調製〕にて各種化合物を用いて調製した試料、すなわち、固相基準製法において共添加イオン供給化合物として使用したアルカリ金属化合物であるLi
2CO
3の代わりとして、LiClやNa
2CO
3、K
2CO
3、MgCO
3、CaCO
3、SrCO
3、BaCO
3、H
3BO
3を用いた試料について、フォトルミネッセンス及び応力発光の特性を検討した。その結果を
図13に示す。
【0123】
図13からも分かるように、フォトルミネッセンス及び応力発光ともに最も発光強度が高いのは、今回使用した化合物の中ではアルカリ金属イオンをリチウムイオンとし、アルカリ金属化合物としてLi
2CO
3を用いた場合であった。
【0124】
これに対し、同じく共添加イオンをリチウムイオンとするが、使用するアルカリ金属化合物を塩化物とした場合や、共添加イオンをナトリウムイオンやカリウムイオンとした場合には、若干のML/PL強度低下がみられた。
【0125】
また、ここで着目すべき点として、それ以外の化合物を用いた試料、すなわち、MgCO3、CaCO3、SrCO3、BaCO3、H3BO3を用いた試料ではML/PL特性が見られなかったことが挙げられる。
【0126】
この点を考察するに、アルカリ金属元素が発光特性を持つことになったのは、その電荷が1+であることが要因の一つと考えられる。すなわち、Ndは3+の状態でZn2+と置換すると考えられるので、アルカリ金属元素は電荷保障の役割を果たすのに都合がよい。そして他の化合物を用いた場合はこの効果を得ることができないため、Nd3+がうまく置換できなかったのかもしれない。
【0127】
このことから、ZnOが応力発光特性を持つためには電荷保障の役割を果たす共添加元素の添加が必須であり、また、その影響は非常に大きいと言える。
【0128】
〔10.液相法による応力発光材料の調製〕
次に、本実施形態に係る液相反応法により、本実施形態に係る応力発光材料の調製を行った。
【0129】
原料となる亜鉛化合物としてのZnCl2(和光純薬 98%)と、発光中心供給化合物としてのNd(NO3)3・6H2O(和光純薬 99.5%)と、共添加イオン供給化合物としてのアルカリ金属化合物であるLiCl(CERAC 99.8%)とを添加しイオン交換水を用いて任意の濃度の水溶液を調製した。本項での水溶液中におけるZnイオン濃度は0.025~0.1mol/L、Ndイオン濃度はZnイオンに対して0.5mol%、Liイオン濃度はZnイオンに対して0~2.4mol%で変化させた。
【0130】
また、沈殿剤としてCO(NH2)2(和光純薬 99.9%)とCH3CSNH2(和光純薬 99.8%)を選択してZn濃度と同量添加した。
【0131】
合成はオートクレーブを用いて行い、温度95℃にて24時間水熱合成を行った。得られた沈殿物を吸引濾過し、70℃にて3時間の条件で乾燥を行った。次に、電気炉を使用し、粉砕混合物を600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃の各温度にて所定時間(例えば3~10時間、より具体的には4~6時間)にわたり大気雰囲気下にて焼成することで焼結させた。得られた焼成物をメノウ乳鉢で粉砕し、試料評価を行った。
【0132】
次に、沈殿剤として尿素(CO(NH2)2)を用いた応力発光材料の製造方法について言及する。まず、本実施形態に係る液相法での反応について言及すると、水溶液とした尿素は70~80℃で加水分解をはじめ、90度以上で急激に分解が進む。また、アンモニアは水によく溶け、塩基性を示す。
【0133】
一方、水溶液としたZnCl2はZn2+として液相に存在し、これは塩基性条件ではZn(OH)2として沈殿する。この時、Zn(OH)2が沈殿する際に周囲に存在するNd3+やLi+といったイオンを巻き込んで沈殿(共沈)することが多い。
【0134】
よって沈殿剤として尿素を添加した液相では、70℃以上の加熱によってZn(OH)2の沈殿として取り出すことができる。また、液相全体が均一な温度であれば尿素や亜鉛等のイオンも均一に分散していると考えられる。よって得られた沈殿に存在する系は均一な固相となる。
【0135】
得られたZn(OH)2は800℃以上の焼成によって酸化され、ZnOになる。この時、ある程度の低温であれば粒子形状を維持したままZnOになるため、任意の粒子形状のZnOを得ることができる。なお、以下の説明において、沈殿剤として尿素を用いる本実施形態に係る液相法を「本実施形態に係る尿素液相法」ともいう。
【0136】
次に、沈殿剤としてチオアセトアミド(CH3CSNH2)を用いた応力発光材料の製造方法について述べる。
【0137】
水溶液としたチオアセトアミドは70℃以上で加水分解し、硫化水素を放出する。ここで水溶液に存在するZn2+イオンは硫化水素と反応しZnSとして沈殿する。このとき前述の尿素と同様に、周囲のイオンを巻き込み均一な状態として沈殿する。ZnSは800℃以上の焼成によってZnOとなる。よって任意の形状を維持したZnO粒子を得ることができる。なお、以下の説明において、沈殿剤としてチオアセトアミドを用いる本実施形態に係る液相法を「本実施形態に係るチオアセトアミド液相法」ともいう。
【0138】
〔11.尿素液相法にて得た応力発光材料のXRD解析〕
本実施形態に係る尿素液相法により得られた試料について、粉末X線回折装置(XRD)で結晶相の同定を行った。沈殿剤として尿素を用いた液相法を行うにあたり、共添加イオン(ここでは、アルカリ金属イオンであるLiイオン)を水溶液中に存在させた場合と、させなかった場合におけるXRD回折パターンを
図14に示す。
【0139】
XRD測定により全ての合成物質は、ZnO(PDF_01-078-3322)酸化亜鉛六方晶単相であることが示された。また、共添加イオン(アルカリ金属イオン)を添加したZnOはC軸の強い配向が見られた。
【0140】
〔12.尿素液相法にて得た応力発光材料の検鏡〕
次に、沈殿剤として尿素を用いた液相法を行うにあたり、共添加イオン(ここでは、アルカリ金属イオンであるLiイオン)を水溶液中に存在させた場合と、させなかった場合で得られた試料について、走査型電子顕微鏡による観察を行った。
図15(a)は共添加イオン無添加の試料のSEM像であり、
図15(b)は共添加イオンを添加した場合の試料のSEM像である。
【0141】
図15(a)を参照すると分かるように、共添加イオン無添加のZnOは不定形であり、粒径は1~5μmとバラバラであった。それに対し、
図15(b)に示すように、共添加イオンを添加したC軸配向のあるZnOは層状粒子であり、この歪みやすい形状は応力発光に有利であると考えられる。
【0142】
〔13.Zn濃度に対するML/PL強度の検討〕
次に、本実施形態に係る尿素液相法にて得た応力発光材料のML/PL強度に関し、水溶液中のZn濃度を変化させた場合の影響について検討を行った。
図16は、水溶液中のZn濃度を0.1, 0.125, 0.3, 0.5mol/Lとした場合の尿素液相法にて得た応力発光材料の応力発光及びフォトルミネッセンスの強度を示すグラフである。なお、このグラフは先述の固相基準製法により得られた試料のPL/ML強度を100としている。
【0143】
本発明者らの経験上、液相法では、Zn濃度が高すぎると沈殿が一斉に短時間で起こるため、粒形制御には悪影響を及ぼす傾向があることがわかっている。そのため今回はZn濃度を最大で0.5Mとしたが、フォトルミネッセンス特性はZn濃度が高いほうが弱いという結果が得られた。
【0144】
これに対し、Zn濃度との明確な相関は確認できないものの、0.1Mを超えるZn濃度で応力発光が見られることが確認された。
【0145】
〔14.チオアセトアミド液相法にて得た応力発光材料のXRD解析〕
本実施形態に係るチオアセトアミド液相法により得られた試料について、粉末X線回折装置(XRD)で結晶相の同定を行った。沈殿剤としてチオアセトアミドを用いた液相法を行うにあたり、共添加イオン(ここでは、アルカリ金属イオンであるLiイオン)を水溶液中に存在させた場合と、させなかった場合におけるXRD回折パターンを
図17に示す。
【0146】
図17に示すように、尿素液相法の場合と比較して、沈殿剤にチオアセトアミドを用いた場合、共添加イオン無添加のZnOは結晶構造に大きな変化が見られた。共添加イオン無添加の場合は結晶性が向上し、さらに(100)面と(002)面に強い配向が見られた。
【0147】
これに対し、共添加イオンを添加した場合、固相合成と同様な六方晶と一致するXRDスペクトルとなった。
【0148】
〔15.チオアセトアミド液相法にて得た応力発光材料の検鏡〕
次に、沈殿剤としてチオアセトアミドを用いた液相法を行うにあたり、共添加イオン(ここでは、アルカリ金属イオンであるLiイオン)を水溶液中に存在させた場合と、させなかった場合で得られた試料について、走査型電子顕微鏡による観察を行った。
図18(a)は共添加イオン無添加の試料のSEM像であり、
図18(b)は共添加イオンを添加した場合の試料のSEM像である。
【0149】
図18(a)から分かるように、共添加イオン無添加の粒子はSEM測定により、綺麗な六角柱状の粒子が観察された。
【0150】
これに対し、共添加イオンを添加した液相合成のZnO粒子は六角柱状の粒子が崩れているような形状をしている。
【0151】
〔16.両液相法についての考察〕
図19に、両液相法にて得られた応力発光材料のフォトルミネッセンススペクトルを示す。
図19から分かるように、共添加イオンの添加がない場合、Nd
3+がうまく置換できなくなるため、PL特性をほとんど示さなかった。
【0152】
また、共添加イオンを添加したチオアセトアミド液相合成によるZnOは、わずかながらPL特性を示したものの、その強度は微弱なものであった。
【0153】
なお、尿素を用いた場合のPL強度の方が強いことから、沈殿剤によって共存イオンの沈殿確率が異なることが予想される。尿素は水酸化亜鉛として、チオアセトアミドは硫化亜鉛として沈殿するが、水酸化亜鉛の方が構造的に周囲のイオンを巻き込んで沈殿させる能力が高かったと考えられる。
図20の左図に水酸化亜鉛、右図に硫化亜鉛の構造を示す。
【0154】
〔17.固相法の焼成温度が応力発光強度に与える影響〕
固相法の焼成温度が応力発光強度に与える影響について検討を行った。具体的には、調製した試料をZnO0.994Nd0.006Li0.006とした他は、固相基準製法に準じて試料の調製を行った。焼成にはAl2O3製るつぼを使い、空気中において900℃~1300℃、必要に応じ更に高い1500℃までの温度にて焼結させた。
【0155】
各焼成温度でのZnO
0.994Nd
0.006Li
0.006のXRD回折パターンを
図21に示す。どの焼成温度においてもZnO (PDF_01-078-3322)単相が得られた。焼成温度変化によりXRD回折パターンは明確なピークシフトを見せた。低角側にシフトしていることから格子の増大が考えられる。
【0156】
またこの時のML、PL強度の焼成温度依存性を記録した。
図22に示すように、900℃、1000℃では、ML、PLともに低く、1100℃以降の高温にて両者顕著に高い値を示した。なお、焼成温度を1000℃とした際のML(応力発光強度)は0ではなく、僅かながらではあるが発光している。
【0157】
また、他のアルカリ金属元素K、Naにおいても同様の手法により、900℃、1000℃、1020℃、1040℃、1060℃、1080℃、1100℃、1200℃、1300℃、1400℃、1500℃の温度設定にて焼成温度依存性の実験を行った。
図23に示すように、ML中心発光にて比較を行うと、基本的にはLiと同じ傾向にあることがわかった。なお、焼成温度を1000℃とした際のLiにおける発光強度は0ではなく、僅かながらではあるが発光している。なお、先の
図22は最大値を100に規格化したグラフであり、
図23は規格化していないグラフを示している。
【0158】
また、データを示した説明は割愛するが、〔1.固相法による応力発光材料の調製〕において600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃の各温度にて焼成した応力発光材料ZnO:Nd3+
0.006,Li+
0.006については、600℃や650℃では応力発光は見られなかったが、700℃以上の焼成温度であれば応力発光が観察され、900℃~1500℃の温度では、大凡上述の応力発光材料と同様の結果であった。
【0159】
これらの結果から、ZnO:Nd3+は1100℃以上の焼成によりML強度が大きく向上し、1400℃以降は減少すること、また、焼成温度の下限値は700℃以上、より好ましくは900℃以上、更に好ましくは1020℃以上であり、焼成温度の上限値は、1500℃以下、好ましくは1400℃以下、より好ましくは1300℃以下であり、これら上限値及び下限値のいずれかの組み合わせの温度帯にて焼成することで、安定した応力発光を示す応力発光材料を製造することが可能であることが示された。
【0160】
〔18.ZnO:Li
x,Nd
0.006にてLiイオン濃度を変化させた際の応力発光の有無〕
次に、ZnO:Li
x,Nd
0.006にて、共添加イオンであるLiイオンの濃度を0から0.7まで変化させた際の応力発光の有無について確認を行った。その結果を
図24に示す。
【0161】
図24から分かるように、xの値を0とした場合は近赤外域(>750nm)における応力発光は確認されなかったが、Liイオンを添加した場合、xの値が最大0.7に至るまで、近赤外域(>750nm)において応力発光が確認された。
【0162】
〔19.ZnO:Li
x,Nd
yにてLi濃度やNd濃度を変化させた際の応力発光の有無〕
次に、ZnO:Li
x,Nd
yにて、共添加イオンであるLiイオンの濃度や発光中心イオンであるNdイオンの濃度を種々変化させた際の応力発光の有無について確認を行った。その結果を
図25に示す。
【0163】
図25から分かるように、いずれの材料においても、近赤外域(>750nm)において応力発光が確認された。
【0164】
〔20.共添加イオンとしてLiとBaのイオンを添加した場合の応力発光の有無〕
次に、複数の共添加イオンが存在する場合における応力発光の有無について検討を行った。特に本検討では代表例として、共添加イオンをLiイオンとBaイオンの2種類とし、発光中心イオンをNdイオンとし、LiイオンとNdイオンの濃度を0.6mol%に固定し、Baイオンの濃度を変化させた場合について確認を行った。
【0165】
なお、これまでのように共添加イオンや発光中心イオンがそれぞれ1種類の場合はZnO:ExMyの形式で表現して説明してきたが、本検討の如く共添加イオンが複数種、例えば2種類の場合も同様であって、Ex=E1x1,E2x2、x=x1+x2と解することができ、例えば発光中心イオンが3種類の場合はMy=M1y1,M2y2,M3y3、y=y1+y2+y3と解すべきである。すなわち、本検討ではE1x1=Li0.006、E2x2=Bax2、My=Nd0.006であり、x2の値を0~0.05の範囲で変化させて応力発光の有無を確認している。
【0166】
その結果、
図26に示すように、Baイオンの濃度を0~0.05の範囲で変化させたいずれの材料においても、近赤外域(>750nm)において応力発光が確認された。
【0167】
〔21.共添加イオンをLi以外のアルカリ金属イオンとした場合の応力発光の有無〕
次に、共添加イオンをLi以外のアルカリ金属イオン、ここではNaイオンやKイオン、Rbイオン、Csイオンとした場合における応力発光の有無について検討を行った。特に本検討では代表例として、発光中心イオンを0.6mol%のNdイオンとし、共添加イオンを0.2mol%のNaイオン、Kイオン、Rbイオン又はCsイオンとした場合について確認を行った。
【0168】
その結果、
図27に示すように、共添加イオンをNaイオン、Kイオン、Rbイオン又はCsイオンのいずれとした場合においても、近赤外域(>750nm)において応力発光が確認された。
【0169】
〔22.発光中心イオンとして、Ndイオンと共に他の元素イオンを添加した場合の応力発光の有無〕
次に、複数の発光中心イオンが存在する場合における応力発光の有無について検討を行った。特に本検討では代表例として、共添加イオンを10mol%のLiイオンとし、発光中心イオンについては、第1の発光中心イオンを0.4mol%のNdイオンとし、第2の発光中心イオンを0.4mol%のCr(クロム), Mn(マンガン), Cu(銅), Ag(銀), Ce(セリウム), Pr(プラセオジム), Sm(サマリウム), Eu(ユウロピウム), Tb(テルビウム), Yb(イッテルビウム)から選ばれるいずれか1種のイオンとした場合について確認を行った。
【0170】
その結果、
図28に示すように、第2の発光中心イオンをいずれの場合としても、可視領域(≦750nm)において応力発光が確認された。また、Mn, Ag, Ce, Pr, Sm, Eu, Tb, Ybの各イオンについては、近赤外域(>750nm)においても応力発光が確認された。
【0171】
〔23.NdイオンやYbイオン又はTbイオンの添加濃度を変化させた場合の応力発光の有無〕
次に、上記〔22.発光中心イオンとして、Ndイオンと共に他の元素イオンを添加した場合の応力発光の有無〕において検討したYb又はTbについて、第1の発光中心イオン(Ndイオン)の濃度や、第2の発光中心イオン(Ybイオン又はTbイオン)の濃度を変化させた場合の近赤外領域における応力発光の有無について確認を行った。
【0172】
特に本検討では代表例として、共添加イオンを10mol%のLiイオンとし、発光中心イオンについては、第1の発光中心イオンを0.2mol%のNdイオンとし、第2の発光中心イオンを0.6mol%のYbイオンとした場合について確認を行った。また、共添加イオンを10mol%のLiイオンとし、発光中心イオンについては、第1の発光中心イオンを0.6mol%のNdイオンとし、第2の発光中心イオンを0.2mol%のTbイオンとした場合についても確認を行った。
【0173】
その結果、
図29に示すように、第2の発光中心イオンをYbイオン又はTbイオンのいずれの場合としても、近赤外域(>750nm)においても応力発光が確認された。
【0174】
上述してきたように、本発明に係る応力発光材料によれば、ZnOにアルカリ金属イオンと発光中心イオンとが固溶してなることとしたため、ZnOを母体材料とする応力発光材料を提供することができる。
【0175】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。