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  • 特許-充電式電池用正極活物質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】充電式電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20250227BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250227BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250227BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250227BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20250227BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 A
H01M4/505
H01M10/052
H01M10/0565
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023537161
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2021086386
(87)【国際公開番号】W WO2022129462
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】20215507.3
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・マルティン・パウルゼン
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 真一
(72)【発明者】
【氏名】リアン・ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ジヘ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジフン・カン
(72)【発明者】
【氏名】ヘジョン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ユリ・イ
【審査官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/015069(WO,A1)
【文献】特開2016-225161(JP,A)
【文献】特表2012-517675(JP,A)
【文献】特開2019-021623(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0031305(KR,A)
【文献】特開2019-021627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体充電式電池用の正極活物質であって、前記正極活物質が、Li、M’、及びOを含み、M’が
M’に対して2.0モル%以上かつ35.0モル%以下の含有量xのCo、
M’に対して0モル%以上かつ35.0モル%以下の含有量yのMn、
M’に対して0モル%以上かつ5モル%以下の含有量mのAであって、Al、Ba、B、Mg、Nb、Sr、Ti、W、S、Ca、Cr、Zn、V、Y、Si、及びZrからなる群の少なくとも1つの元素を含む、A、
(100-x-y-m)モル%の含有量のNiからなり、
前記正極活物質は、
i.LiWOを含む第1の化合物及び
ii.WOを含む第2の化合物を含
前記正極活物質が単結晶粉末であり、
前記正極活物質が少なくとも0.9かつ最大で1.1のLi/(Co+Mn+Ni+A)のモル比でLiを含み、
前記正極活物質が少なくとも1.0gr/cmかつ最大で3.0g/cmのタップ密度を有する、正極活物質。
【請求項2】
X線回折解析によって決定して、前記第1の化合物が空間群R-3に属する結晶構造を有し、前記第2の化合物が空間群P21/nに属する結晶構造を有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
タングステンの総含有量が、ICP-OES分析によって決定して、前記正極活物質の総重量に対して0.20重量%~2.50重量%である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
タングステンの総含有量が、ICP-OES分析によって決定して、前記正極活物質の総重量に対して0.30重量%~2.00重量%である、請求項1~のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記正極活物質が、レーザー回折粒子径分布分析によって決定して、2μm~7μmのメジアン粒子径D50を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
mがM’に対して2.0モル%未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記第1の化合物がLiWOである、請求項1~のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記第2の化合物がWOである、請求項1~のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項9】
Niの含有量(100-x-y-m)がM’に対して60モル%~95モル%である、請求項1~のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記タップ密度が1.5g/cm~2.7g/cmである、請求項1~のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項11】
請求項1~1のいずれか一項に記載の正極活物質を含む全固体電池。
【請求項12】
請求項1~1のいずれか一項に記載の正極活物質を含む電池セル。
【請求項13】
ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電気ビークル、及びエネルギー貯蔵システムのうちのいずれか1つの電池における、請求項1~1のいずれか一項に記載の正極活物質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体充電式電池用の正極活物質に関する。より具体的には、本発明は、酸化タングステンを含む粒子状正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池における正極活物質としての従来の化合物の適用性は、高温及び高電圧で充電-放電サイクルを繰り返した後のそれらの容量の保持が限定されるため、制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、改善された安定性、及びより低い容量漏れ(Qtotal)などの電気化学的特性を有する正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、全固体電池用の正極活物質であって、正極活物質が、Li、M’、及びOを含み、M’が、
M’に対して2.0モル%以上かつ35.0モル%以下の含有量xのCo、
M’に対して0モル%以上かつ35.0モル%以下の含有量yのMn、
M’に対して0モル%以上かつ5モル%以下の含有量mのAであって、Al、Ba、B、Mg、Nb、Sr、Ti、W、S、Ca、Cr、Zn、V、Y、Si、及びZrからなる群の少なくとも1つの元素を含む、A、
(100-x-y-m)モル%の含有量のNiからなり、更に、
i.LiWOを含む第1の化合物、並びに
ii.及びWOを含む第2の化合物を含む、粉末であり、
当該粉末が単結晶粉末であり、
当該正極活物質が少なくとも0.9かつ最大で1.1のLi/(Co+Mn+Ni+A)のモル比でLiを含み、
当該正極活物質が少なくとも1.0gr/cmかつ最大で3.0g/cmのタップ密度を有する、正極活物質を提供することによって達成される。
【0005】
更に、本発明は、本発明の第1の態様による正極活物質を含む電気化学セル、本発明の第1の態様による正極活物質を含む全固体電池、及び電池における本発明の第1の態様による正極活物質の使用を提供する。
【0006】
更なるガイダンスによって、本発明の教示をよりよく理解するための図面が含まれる。当該図面は、本発明の説明を助けることを意図するものであり、本開示の発明を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】LiWO及びWO化合物を含むEX1.5による正極活物質粉末のX線ディフラクトグラムを示す。この図において、横軸に回折角2θを度で示し、縦軸にシグナル強度を対数目盛で示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
特に定義されていない限り、技術用語及び科学用語を含む、本発明の開示に使用される全ての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。更なるガイダンスによって、本発明の教示をよりよく理解するために、用語の定義が含まれる。本明細書で使用される場合、以下の用語は以下の意味を有する:
本明細書で使用される場合、パラメータ、量、時間長などの測定可能な値を指す「約」は、指定された値から±20%以下、好ましくは±10%以下、より好ましくは±5%以下、更により好ましくは±1%以下、なおより好ましくは±0.1%以下の変動を、開示された発明でそのような変動が実行に適切である限り、包含することを意味する。但し、「約」という修飾語が指す値自体も具体的に開示されていることを理解されたい。
【0009】
端点による数値範囲の列挙には、列挙された端点だけでなく、その範囲に包含される全ての数値及び分数が含まれる。全ての百分率は、他に定義されない限り、又は、その使用から、またそれが使用されている文脈において、異なる意味が当業者に明らかでない限り、「重量%」と略される重量百分率として理解されるべきである。
【0010】
本明細書において、D50は正極活物質粉末の累積体積%の分布の50%における粒子径として定義され、それはレーザー回折粒子径分布分析によって決定することができる。
【0011】
正極活物質
第1の態様において、本発明は、全固体充電式電池用の正極活物質であって、正極活物質が、Li、M’、及びOを含み、M’が、
M’に対して2.0モル%以上かつ35.0モル%以下の含有量xのCo、
M’に対して0モル%以上かつ35.0モル%以下の含有量yのMn、
M’に対して0モル%以上かつ5モル%以下の含有量mのAであって、Al、Ba、B、Mg、Nb、Sr、Ti、W、S、Ca、Cr、Zn、V、Y、Si、及びZrからなる群の少なくとも1つの元素を含む、A、
M’に対して(100-x-y-m)モル%の含有量のNiからなり、更に、
iii.LiWOを含む第1の化合物、並びに
iv.WOを含む第2の化合物を含む、粉末であり、
当該粉末が単結晶粉末であり、
当該正極活物質が少なくとも0.9かつ最大で1.1のLi/(Co+Mn+Ni+A)のモル比でLiを含む、正極活物質を提供する。
【0012】
好ましくは、正極活物質は少なくとも1.0gr/cmかつ最大で3.0g/cmのタップ密度を有する。
【0013】
単結晶粉末は、SEM画像において少なくとも45μm×少なくとも60μm(すなわち、少なくとも2700μm)、好ましくは少なくとも100μm×少なくとも100μm(すなわち、少なくとも10,000μm)の視野内の粒子の80%以上が単結晶の形態を有する粉末と考える。
【0014】
粒子は、SEM又はTEMによって観察して、1つの粒のみからなる場合、又は最大で5つの非常に少ない数の構成粒からなる場合に、単結晶の形態を有すると見なされる。
【0015】
粒子の単結晶の形態の決定において、レーザー回折によって決定される粉末のメジアン粒子径D50の20%よりも小さい、SEMによって観察される最大直線寸法を有する粒は無視される。これによって、本質的には単結晶であるが、いくつかの非常に小さい他の粒がそれらの上に堆積し得る粒子が単結晶の形態を有していないと不注意に見なされることを回避する。
【0016】
本発明者らは、本発明による全固体電池用の正極活物質によって実際に、より高いDQ1及びより低いIRRQが得られることを見出した。これは実施例によって例示され、結果を表2に示す。
【0017】
好ましくは、本発明は、タングステンの総含有量が、ICP-OES分析によって決定して、当該正極活物質の総重量に対して少なくとも0.20重量%かつ/又は最大で2.50重量%であり、ICP-OESとは、誘導結合プラズマ発光分光分析を意味する、本発明の第1の態様による正極活物質を提供する。好ましくは、当該重量比は0.25重量%~2.00重量%であり、より好ましくは、当該重量比は0.30、0.50、1.00、1.50、2.00、又はこれらの間の任意の値に等しい。
【0018】
正極活物質は、全固体電池の正極において電気化学的に活性である物質として定義される。活物質とは、所定の時間にわたって電圧変化にさらされたときにLiイオンを捕捉及び放出することができる物質であると理解されたい。
【0019】
各元素の含有量は、ICP-OES(Inductively coupled plasma-optical emission spectrometry)などの公知の分析方法により決定することができる。
【0020】
正極活物質中のNiの含有量(100-x-y-m)は、M’に対して、好ましくは≧60モル%、より好ましくは≧65モル%である。
【0021】
正極活物質中のNiの含有量(100-x-y-m)は、M’に対して、好ましくは≦95モル%、より好ましくは≦90モル%である。
【0022】
正極活物質中のMnの含有量yは、M’に対して、好ましくは≧0モル%、より好ましくは≧5モル%である。
【0023】
正極活物質中のMnの含有量yは、M’に対して、好ましくは<35モル%、より好ましくは≦30モル%である。
【0024】
正極活物質中のCoの含有量xは、M’に対して、好ましくは≧2モル%、より好ましくは≧5モル%である。
【0025】
正極活物質中のCoの含有量xは、M’に対して、好ましくは≦35モル%、より好ましくは≦30モル%である。
【0026】
正極活物質中のAの含有量mは、M’に対して、好ましくは0.01モル%以上である。
【0027】
正極活物質中のAの含有量mは、M’に対して、好ましくは2.0モル%以下である。
【0028】
正極活物質のタップ密度は、好ましくは少なくとも1.5g/cm、より好ましくは少なくとも1.7g/cmである。
【0029】
正極活物質のタップ密度は、好ましくは最大で2.7g/cm、より好ましくは最大で2.5g/cmである。
【0030】
本発明の正極活物質のタップ密度は、5000回などの規定された回数でタップした後の、粉末の重量(グラム単位でのW)の、粉末によって占められる最終体積(cm単位でのV)に対する比である。タップ密度はW/Vとして計算される。
【0031】
第1の化合物及び第2の化合物
好ましくは、本発明は、X線回折解析によって決定して、第1の化合物がLiWOを含み、空間群R-3に属し、第2の化合物がWO3を含み、空間群P21/nに属する、本発明の第1の態様による正極活物質を提供する。
【0032】
好ましくは、本発明は、タングステンの総含有量が、ICP-OES分析によって決定して、当該正極活物質の総重量に対して0.20重量%~2.50重量%である、本発明の第1の態様による正極活物質を提供する。好ましくは、当該重量比は0.25重量%~2.00重量%であり、より好ましくは、当該重量比は、0.50、1.00、1.50、2.00、又はこれらの間の任意の値に等しい。
【0033】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による正極活物質を含む電池セルを提供する。
【0034】
第3の態様では、本発明は、ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電気ビークル、及びエネルギー貯蔵システムのうちのいずれか1つの電池における、本発明の第1の態様による正極活物質の使用を提供する。
【0035】
リチウム遷移金属酸化物の第3の化合物
好ましくは、本発明は、正極活物質が、X線回折解析によって決定されるR-3m空間群に属する第3の化合物を含む、本発明の第1の態様による正極活物質を提供する。
【0036】
好ましくは、当該第3の化合物は、リチウム遷移金属酸化物、すなわち、本明細書において上で定義されたLi-M’-酸化物である。リチウム遷移金属酸化物はX線回折解析により同定される。”Journal of Power Sources(2000),90,76~81”によれば、リチウム遷移金属酸化物は、R-3m空間群に属する結晶構造を有する。
【0037】
電気化学セル
第2の態様では、本発明は本発明の第1の態様による正極活物質を含む電気化学セル、液体電解質と本発明の第1の態様による正極活物質とを含むリチウムイオン充電式電池、並びに、ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電気ビークル、及びエネルギー貯蔵システムのうちのいずれか1つの電池における、本発明の第1の態様による正極活物質の使用を提供する。
【0038】
正極活物質の調製方法
好ましくは、本発明は、本明細書で上述したように本発明の第1の態様による正極活物質の調製方法であって、方法が、以下の工程、すなわち、
単結晶リチウム遷移金属酸化物の粉末をW含有化合物と混合して混合物を得る工程と、
当該混合物を酸化性雰囲気中、250℃~450℃の温度で加熱して当該正極活物質を得る工程と、を含む、方法を提供する。
【0039】
好ましくは、W含有化合物はWO3である。
【0040】
好ましくは、当該プロセスにおいて使用されるWの量は、ICP-OES分析によって決定して、当該正極活物質の総重量に対して0.20重量%~2.50重量%である。
【0041】
混合物は、好ましくは300℃~400℃の温度で、より好ましくは325℃~375℃の温度で加熱される。
【0042】
好ましくは、加熱した粉末及び/又は正極材料は、例えば粉砕及び/又は篩分けによって更に処理される。
【0043】
任意選択で、リチウム遷移金属酸化物はAを含み、Aは、Al、Ba、B、Mg、Nb、Sr、Ti、W、S、Ca、Cr、Zn、V、Y、Si、及びZrからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む。
【実施例
【0044】
以下の実施例は、本発明を更に明確にすることを意図したものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0045】
1.分析方法の説明
1.1.誘導結合プラズマ
正極活物質粉末の組成は、Agilent 720 ICP-OES(Agilent Technologies,https/www.agilent.com/cs/library/brochures/5990-6497EN%20720-725_ICP-OES_LR.pdf)を用いて、誘導結合プラズマ(ICP)法によって測定する。1グラムの粉末サンプルを、三角フラスコ(Erlenmeyer flask)内の50mLの高純度塩酸(溶液の総重量に対して少なくとも37重量%のHCl)に溶解する。粉末を完全に溶解させるまで、フラスコを時計皿でカバーし、380℃で、ホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコからの溶液を第1の250mLのメスフラスコに注ぐ。
【0046】
その後、第1のメスフラスコを250mLの標線まで脱イオン水で満たし、続いて、完全に均質化した(1回目の希釈)。第1のメスフラスコからピペットで適切な量の溶液を取り出して、2回目の希釈のために第2の250mLのメスフラスコに移し、第2のメスフラスコを250mLの標線まで内部標準要素及び10%塩酸で満たして、均質化する。最後に、この溶液をICP-OES測定に使用する。
【0047】
1.2.粒子径分布
正極活物質粉末の粒子径分布(PSD)は、それぞれの粉末サンプルを水性媒体中に分散させて、Hydro MV湿式分散付属品を備えたMalvern Mastersizer 3000(https://www.malvernpanalytical.com/en/products/product-range/mastersizer-range/mastersizer-3000#overview)を用いて、レーザー回折粒子径分布分析で測定する。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D50は、Hydro MV測定値によるMalvern Mastersizer 3000から取得された累積体積%分布の50%における粒子径として定義される。
【0048】
1.3.X線回折
正極活物質のX線回折パターンは、1.5418Åの波長で放出するCuKα線源(40kV、40mA)を用いて、リガクのX-Ray Diffractometer D/max2000(リガク、Du,Y.ら(2012).A general method for the large-scale synthesis of uniform ultrathin metal sulphide nanocrystals.Nature Communications,3(1))で収集する。機器の構成は、1°のソーラースリット(SS)、10mmの発散高さ制限スリット(DHLS)、1°の発散スリット(DS)、及び0.3mmの受光スリット(RS)に設定する。ゴニオメーターの直径は185mmである。XRDでは、回折パターンを、1分当たり1°のスキャン速度及び1スキャン当たり0.02°のステップサイズで、15~70°(2θ)の範囲で得る。
【0049】
1.4.ポリマーセル試験
1.4.1.ポリマーセルの調製
1.4.1.1.固体ポリマー電解質(SPE)の調製
固体ポリマー電解質(SPE)は、以下の方法に従って調製される。
ステップ1)2000回転/分(rpm)で30分間、ミキサーを使用して、99.8重量%の無水アセトニトリル(Aldrich https://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/sial/271004?lang=ko&&region=KR&gclid=EAI aIQobChMIwcrB0dDL6AIVBbeWch0ieAXREAAYASAAEgJCa_D_BwE)中で、ポリエチレンオキシド(1,000,000の分子量を有するPEO、Alfa Aesar https://www.Alfa.co.kr/AlfaAesarApp/faces/adf.task-flow?adf.tfld=ProductDetailsTF&adf.tfDoc=/WEB-INF/ProductDetailsTF.xml&ProductId=043678&_afrLoop=1010520209597576&_afrWindowMode=0&_afrWindowId=null)をリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(LiTFSI、Soulbrain Co.,Ltd.)と混合する。エチレンオキシドとリチウムとのモル比は20である。
ステップ2)ステップ1)の混合物をテフロン(登録商標)皿に注ぎ入れて、25℃で12時間乾燥させる。
ステップ3)乾燥したSPEを皿から取り外し、乾燥したSPEを打ち抜いて、厚さ300μm及び直径19mmのSPEディスクを得る。
【0050】
1.4.1.2.正極の調製
正極を以下の方法に従って調製する。
ステップ1)99.7重量%の無水アニソール(Sigma-Aldrich https://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/sial/296295)中のポリカプロラクトン(80,000の分子量を有するPCL、Sigma-Aldrich https://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/aldrich/440744)溶液及びアセトニトリル中のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(LiTFSI、Sigma-Aldrich、https://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/aldrich/544094)を含む、ポリマー電解質混合物を調製する。混合物は、PCL:LiTFSIの重量比が74:26である。
ステップ2)ステップ1)で調製したポリマー電解質混合物、正極活物質、及び導電材粉末(Super P、Timcal(Imerys Graphite&Carbon)、http://www.imerys-graphite-and-carbon.com/wordpress/wp-app/uploads/2018/10/ENSACO-150-210-240-250-260-350-360-G-ENSACO-150-250-P-SUPER-P-SUPER-P-Li-C-NERGY-SUPER-C-45-65-T_V-2.2_-USA-SDS.pdf)を21:75:4の重量比でアセトニトリル溶液中で混合してスラリー混合物を調製する。混合は、ホモジナイザーによって5000rpmで45分間行われる。
ステップ3)ステップ2)のスラリー混合物を、厚さ20μmのアルミニウム箔の片面上に100μmのコーターギャップでキャストする。
ステップ4)スラリーをキャストした箔を30℃で12時間乾燥させ、続いて、打ち抜いて直径14mmの正極を得る。
【0051】
1.4.1.3.ポリマーセルの組み立て
コイン型ポリマーセルを、アルゴンを充填したグローブボックス内で、下から上に、2032コインセル缶、セクション1.5.1.2で調製した正極、セクション1.5.1.1で調製したSPE、ガスケット、Liアノード、スペーサ、波形ばね、及びセルキャップの順で組み立てる。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0052】
1.4.2.試験方法
各コイン型ポリマーセルを、Toscat-3100コンピュータ制御定電流サイクリングステーション(東洋システム、http://www.toyosystem.com/image/menu3/toscat/TOSCAT-3100.pdf)を使用して80℃でサイクル試験する。コインセルの試験手順では、下のスケジュールに従って、4.4~3.0V/Li金属のウィンドウ範囲において160mA/gの1Cの電流定義を使用する。
ステップ1)4.4Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで充電し、続いて10分間休止する。
ステップ2)3.0Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで放電し、続いて10分間休止する。
ステップ3)4.4Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで充電する。
ステップ4)定電圧モードに切り替え、4.4Vを60時間維持する。
ステップ5)3.0Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで放電する。
【0053】
totalは、記載された試験方法に従って、ステップ4)における高電圧及び高温での総漏れ容量として定義される。Qtotalの値が小さいことは、高温動作時における正極活物質粉末の安定性が高いことを示す。
【0054】
1.5.タップ密度
本発明における正極活物質のタップ密度の測定は、正極活物質が入った100mLのメスシリンダーを機械的にタップすることにより行う。粉末の重量(グラム単位でのW)を観測した後、更なる体積変化が観察されないようにメスシリンダーを5000回機械的にタップして、最終体積(cm単位でのV)を読み取る。タップ密度はW/Vとして計算される。
【0055】
2.実施例及び比較例
比較例1
CEX(比較例)1と標識される単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製する。
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.86Mn0.07Co0.07を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH1)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈法によって調製する。
ステップ2)加熱:ステップ1)で調製されたTMH1を、酸化性雰囲気中、400℃で7時間加熱して、加熱粉末を得る。
ステップ3)1回目の混合:ステップ2)で調製された加熱粉末を、LiOHと工業用ブレンダー中で混合して、リチウムと金属との比が0.96である第1の混合物を得る。ステップ4)1回目の焼成:ステップ3)の第1の混合物を、酸化性雰囲気中、890℃で11時間焼成して、第1の焼成粉末を得る。
ステップ5)湿式ビーズミル粉砕:ステップ4)の第1の焼成粉末を、第1の焼成粉末中のNi、Mn、及びCoの総モル含有量に対して0.5モル%のCoを含有する溶液中でビーズミル粉砕し、続いて、濾過、乾燥、及び篩分け処理してミル粉砕粉末を得る。ビーズミル粉砕の固体対溶液の重量比は6:4であり、20分間行なう。
ステップ6)第2の混合:工程5)のミル粉砕粉末を、工業用ブレンダー内で、それぞれがミル粉砕粉末中のNi、Mn及びCoの総モル含有量に対して1.5モル%のCo由来のCo及び7.5モル%のLiOH由来のLiと混合して、第2の混合物を得る。
ステップ7)2回目の焼成:ステップ6)の第2の混合物を、酸化性雰囲気中、760℃で10時間焼成し、続いて、粉砕及び篩分け処理して、CEX1と標識される第2の焼成粉末を得る。CEX1の粉末のタップ密度は2.1g/cmである。
【0056】
実施例1
EX(実施例)1.1を以下の方法に従って調製する。
ステップ1)CEX1をWO粉末と混合して、混合物の総重量に対して約0.36重量%のタングステンを含有する混合物を得る。
ステップ2)ステップ1)で得られた混合物を、酸化性雰囲気の流れの下、炉内で、350℃で10時間加熱する。
ステップ3)ステップ2)の加熱された産物を粉砕及び篩分けして、EX1.1と標識される粉末を得る。
【0057】
EX1.2、EX1.3、EX1.4、及びEX1.5を、ステップ1)において、混合物の総重量に対してそれぞれ約0.43重量%、0.48重量%、0.75重量%、及び1.50重量%のタングステンを含有する混合物が得られるようにCEX2をWO3粉末と混合することを除いて、EX1.1と同じ方法に従って調製する。
【0058】
表1に、実施例及び比較例の組成並びにそれらの対応する電気化学的特性をまとめる。Wの導入並びにLiWO及びWOの形成の後、Qtotalの大幅な改善が観察される。
【0059】
実施例及び比較例の産物の粒子径分布をMalvern Mastersizer 3000によって決定した。これらの産物は全て、3.8~4.6μmのメジアン粒子径D50を有する。EX1.1のタップ密度は2.1g/cmである。
【0060】
比較例2
CEX5と標識される単結晶正極活物質を以下のステップに従って調製する。
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.68Mn0.20Co0.12を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH2)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈法によって調製する。ステップ2)1回目の混合:ステップ1)で調製されたTMH2をLiOHと工業用ブレンダー内で混合して、リチウムと金属との比が0.97である第1の混合物を得る。
ステップ4)1回目の焼成:ステップ2)の第1の混合物を、酸化性雰囲気中、920℃で10時間焼成して、第1の焼成粉末を得る。
ステップ5)ジェットミル粉砕:ステップ4)の第1の焼成粉末をジェットミル粉砕して、CEX2と標識されるミル粉砕粉末を得る。
【0061】
実施例2
EX2と標識される単結晶正極活物質を以下のステップに従って調製する。
ステップ1)CEX2をWO3粉末と混合して、混合物の総重量に対して約0.45重量%のタングステンを含有する混合物を得る。
ステップ2)ステップ1)で得られた混合物を、酸化性雰囲気の流れの下、炉内で、350℃で10時間加熱する。
ステップ3)ステップ2)の加熱された産物を粉砕及び篩分けして、EX2と標識される粉末を得る。
【0062】
【表1】
【0063】
X線回折解析(ディフラクトメトリ)を行なってタングステン相を同定する。図1にEX1.5のXRDパターンを示す。
【0064】
“Journal of Power Sourcexs(2000),90,76~81”によれば、XRDパターンは、EX1.5が主にリチウム遷移金属酸化物化合物から形成されることを示している。それらはLiNi0.86Mn0.07Co0.07の一般式を有する。EX1.5は、R-3m、R-3、及びP21/n相を示し、それらはそれぞれLiNi0.86Mn0.07Co0.07、LiWO、及びWOに対応する。この結果は、350℃の加熱温度が、本発明による第1及び第2の化合物相の生成に適していることを示している。
【0065】
前述のR-3m相、R-3相及びP21/n相が正極活物質中に存在すると、電気化学的特性が改善される。
【0066】
電気化学的特性をポリマーセルにおいて更に特徴付けると、タングステンを含むEX1.1~EX1.5は全て、タングステンを含まないCEX1よりも低いQtotalを示す。同様に、67モル%のNi及び0.45重量%のWを含むEX2は、同じNi量を含むCEX2と比較してより低いQtotalを示す。
図1