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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-28
(45)【発行日】2025-03-10
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 222/40 20060101AFI20250303BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20250303BHJP
   C08F 232/08 20060101ALI20250303BHJP
   C08F 283/04 20060101ALI20250303BHJP
【FI】
C08F222/40
C08G73/10
C08F232/08
C08F283/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022005729
(22)【出願日】2022-01-18
(65)【公開番号】P2023104618
(43)【公開日】2023-07-28
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】串原 直行
(72)【発明者】
【氏名】隅田 和昌
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110527019(CN,A)
【文献】国際公開第2020/203834(WO,A1)
【文献】特開2020-045446(JP,A)
【文献】特開昭54-156100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 222/40
C08F 232/08
C08G 73/10
C08F 283/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(2)で表される環状イミド化合物
【化1】
(式(2)中、Bは独立して環状構造を有する4価の有機基である。C 0 は独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上の2価の炭化水素基である。Xは独立して水素原子又はメチル基である。mは1~1000である。)
(B)インデン化合物及び/又はアセナフチレン化合物、及び、
(C)重合開始剤を含む熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
式(2)中のBで示される有機基が下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである請求項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【請求項3】
(A)成分を100質量部としたときの(B)成分の質量部数が10~900質量部である請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)下記式(3)で表される環状イミド化合物、
【化3】
(式(3)中、Bは独立して環状構造を含む4価の有機基を示す。C 1 は独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数5~60のアルキレン基又はダイマー酸骨格由来の2価炭化水素基である。C 2 は独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基である。Xは独立して水素原子又はメチル基である。WはC 1 又はC 2 である。m 1 は1~500であり、m 2 は0~500である。)
(B)インデン化合物及び/又はアセナフチレン化合物、及び、
(C)重合開始剤を含む熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
式(3)中のC 1 が下記構造式のいずれかで示される基及びダイマー酸骨格由来の2価炭化水素基から選ばれるものである請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化4】
(R 1 は互いに独立に水素原子又は炭素数1~20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示す。p 1 及びp 2 はそれぞれ5以上の数であり、同じであっても異なっていてもよく、p 3 及びp 4 はそれぞれ0以上の数であり、同じであっても異なっていてもよく、p 5 は6~60の数である。上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(3)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【請求項6】
式(3)中のC 2 で示されるヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基が下記構造式のいずれかで示される基である請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化5】
(R 2 は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、R 3 は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、Zは酸素原子、硫黄原子又はメチレン基である。上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(3)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【請求項7】
(A)成分を100質量部としたときの(B)成分の質量部数が10~900質量部である請求項4~6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物に関し、特に、ダイオード、トランジスター、IC、LSI、超LSI等の半導体装置を封止するために用いられる熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される移動体通信機器、その基地局装置、サーバー及びルーター等のネットワークインフラ機器、大型コンピュータ等の電子機器では、使用する信号の高速化及び大容量化が年々進んでいる。これに伴い、これらの電子機器に搭載されるプリント配線板には20GHz領域といった高周波化対応が必要となり、伝送損失の低減を可能とする低比誘電率及び低誘電正接の基板材料が求められている。上述した電子機器のほかに、ITS分野(自動車、交通システム関連)及び室内の近距離通信分野でも高周波無線信号を扱う新規システムの実用化及び実用計画が進んでおり、これらの機器に搭載するプリント配線板に対しても、低伝送損失基板材料が要求されている。
【0003】
低比誘電率及び低誘電正接の材料としては、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、マレイミド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂や、フッ素樹脂、スチレン樹脂、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂等が知られている(特許文献1~6)。しかしながら、これらの材料はいずれも溶融粘度が高く、得られる硬化物は硬く脆いため、プリント配線板等の用途には適しているが、接着剤や半導体封止材等に使用することは困難であった。また、高温環境下では樹脂の酸化により誘電特性が悪化することが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-1965号公報
【文献】特開2019-99710号公報
【文献】特開2018-28044号公報
【文献】特開2018-177931号公報
【文献】特開2018-135506号公報
【文献】特開2011-32463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、低比誘電率及び低誘電正接であり、高温保管後の比誘電率及び誘電正接の変化が少なく、耐熱性を有する硬化物となる、加熱時の粘度が低く取り扱い性に優れる熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、下記熱硬化性樹脂組成物が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記の熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【0007】
[1]
下記の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含む熱硬化性樹脂組成物。
(A)環状イミド化合物
(B)インデン化合物及び/又はアセナフチレン化合物
(C)重合開始剤

[2]
(A)環状イミド化合物が下記式(1)で表される環状イミド化合物である[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Aは2価の有機基である。Xは独立して水素原子又はメチル基である。)

[3]
式(1)中のAが下記構造で示される基及びダイマー酸骨格由来の炭化水素基から選ばれるものである[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化2】
(*はイミド基中の窒素原子との結合を意味する。nは1~20である。)

[4]
(A)環状イミド化合物が下記式(2)で表される環状イミド化合物である[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化3】
(式(2)中、Bは独立して環状構造を有する4価の有機基である。C0は独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上の2価の炭化水素基である。Xは独立して水素原子又はメチル基である。mは1~1000である。)

[5]
式(2)中のBで示される有機基が下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである[4]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化4】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)

[6]
(A)環状イミド化合物が下記式(3)で表される環状イミド化合物である[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化5】
(式(3)中、Bは独立して環状構造を含む4価の有機基を示す。C1は独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数5~60のアルキレン基又はダイマー酸骨格由来の2価炭化水素基である。C2は独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基である。Xは独立して水素原子又はメチル基である。WはC1又はC2である。m1は1~500であり、m2は0~500である。)

[7]
式(3)中のC1が下記構造式のいずれかで示される基及びダイマー酸骨格由来の2価炭化水素基から選ばれるものである[6]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化6】
(R1は互いに独立に水素原子又は炭素数1~20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示す。p1及びp2はそれぞれ5以上の数であり、同じであっても異なっていてもよく、p3及びp4はそれぞれ0以上の数であり、同じであっても異なっていてもよく、p5は6~60の数である。上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(3)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)

[8]
式(3)中のC2で示されるヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基が下記構造式のいずれかで示される基である[6]又は[7]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化7】
(R2は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、R3は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、Zは酸素原子、硫黄原子又はメチレン基である。上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(3)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)

[9]
(A)成分を100質量部としたときの(B)成分の質量部数が10~900質量部
である[1]~[8]のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、加熱時の粘度が低く取り扱い性に優れ、該組成物の硬化物は低比誘電率及び低誘電正接であり、高温保管後の比誘電率及び誘電正接の変化が少なく、高耐熱性を兼備する。したがって、本発明の組成物は、接着剤、プリプレグ、銅貼積層板、プリント配線板及び半導体封止材等の用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
(A)環状イミド化合物
(A)成分は、本発明の主成分である。(A)成分を含有することによって低比誘電率、低誘電正接の熱硬化性樹脂組成物の硬化物を得ることが可能となる。
【0011】
(A)成分は一般に公知のものを使用することができるが、下記式(1)~(3)で表される環状イミド化合物が好ましい。
【0012】
式(1)で表される環状イミド化合物
【化8】
(式(1)中、Aは2価の有機基である。Xは独立して水素原子又はメチル基である。)
【0013】
式(1)中のAで示される2価の有機基は、下記構造で示される基及びダイマー酸骨格由来の炭化水素基から選ばれるものがより好ましい。
【化9】
(*はイミド基中の窒素原子との結合を意味する。nは1~20である。)
【0014】
Aで表される2価の有機基のうち、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2,2,4―トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及び2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等のジアミンから誘導される基(すなわち、前記ジアミンの2つのアミノ基を除いた基)は、硬化物の誘電特性及び柔軟性の観点から特に好ましい。
【0015】
ここで言う、ダイマー酸とは、植物系油脂などの天然物を原料とする炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された、炭素数36のジカルボン酸を主成分とする液状の二塩基酸である。ダイマー酸骨格は単一の骨格ではなく、複数の構造を有し、何種類かの異性体が存在する。ダイマー酸の代表的なものは直鎖型(a)、単環型(b)、芳香族環型(c)、多環型(d)という名称で分類される。
本明細書において、ダイマー酸骨格とは、このようなダイマー酸のカルボキシ基を1級アミノメチル基で置換した構造を有するダイマージアミンから誘導される基をいう。すなわち、(A)成分は、ダイマー酸骨格として、下記(a)~(d)で示される各ダイマー酸において、2つのカルボキシ基がメチレン基で置換された基を有するものが好ましい。
また、(A)成分の環状イミド化合物がダイマー酸骨格由来の炭化水素基を有する場合、該ダイマー酸骨格由来の炭化水素基は、水添反応により、該ダイマー酸骨格由来の炭化水素基中の炭素-炭素二重結合が低減した構造を有するものが、硬化物の耐熱性や信頼性の観点からより好ましい。
【化10】
【0016】
式(1)中のXは独立して水素原子又はメチル基であり、好ましくはメチル基である。
【0017】
式(2)で表される環状イミド化合物
【化11】
(式(2)中、Bは独立して環状構造を有する4価の有機基である。C0は独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上の2価の炭化水素基である。Xは独立して水素原子又はメチル基である。mは1~1000である。)
【0018】
ここで、式(2)中のBで示される有機基は独立して環状構造を含む4価の有機基であり、特に下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化12】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0019】
また、式(2)中のC0は独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6以上の2価の炭化水素基であり、好ましくはヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~60の2価の炭化水素基である。
0としては、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~60のアルキレン基、ダイマー酸骨格由来の2価炭化水素基又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基であることが好ましい。
【0020】
ヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~60のアルキレン基としては、好ましくはヘテロ原子を含んでもよい炭素数8~50のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数8~40のアルキレン基である。また、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~60のアルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれの構造であってもよく、またこれら構造の複数種を組み合わせた基であってもよい。
【0021】
ヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~60のアルキレン基としては、下記構造式のいずれかで示される基が特に好ましいものとして挙げられる。
【化13】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(2)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【0022】
上記式中、R1は互いに独立に水素原子又は炭素数1~20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、好ましくは水素原子又は炭素数1~10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、更に好ましくは水素原子又は炭素数1~10の直鎖のアルキル基である。
上記式中、p1及びp2はそれぞれ5以上の数であり、好ましくはそれぞれ5~12の数であり、より好ましくはそれぞれ6~10の数であり、同じであっても異なっていてもよい。
3及びp4はそれぞれ0以上の数であり、好ましくはそれぞれ0~4の数であり、より好ましくは0~2の数であり、同じであっても異なっていてもよい。
上記式中、p5は6~60の数であり、好ましくは6~40の数であり、より好ましくは6~20の数である。
【0023】
式(2)中のC0で示されるダイマー酸骨格由来の2価炭化水素基は、式(1)中のAで例示したものと同様の下記の基由来の基が挙げられる。
【化14】
【0024】
ヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基としては、好ましくはヘテロ原子を含んでもよい炭素数10~30のアリーレン基であり、より好ましくは炭素数20~30のアリーレン基である。ヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基は、芳香族炭化水素から芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子2個を除去した2価の基である。該芳香族炭化水素は、下記の化合物を含むものである。
・単環式又は多環式の芳香族炭化水素
・独立した2以上の単環式又は多環式の芳香族炭化水素が単結合又は2価の有機基を介して結合した化合物
【0025】
ヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基としては、下記構造式のいずれかで示される基が特に好ましいものとして挙げられる。
【化15】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(2)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【0026】
上記式中、R2は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、更に好ましくは水素原子、メチル基又はエチル基である。
上記式中、R3は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、好ましくは水素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
上記式中、Zは酸素原子、硫黄原子又はメチレン基であり、好ましくは酸素原子又は硫黄原子である。
【0027】
式(2)中のXは独立して水素原子又はメチル基であり、好ましくは水素原子である。
【0028】
式(2)中のmは1~1000の数であり、好ましくは1~900の数である。
【0029】
式(3)で表される環状イミド化合物
【化16】
(式(3)中、Bは独立して環状構造を含む4価の有機基を示す。C1は独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数5~60のアルキレン基又はダイマー酸骨格由来の2価炭化水素基である。C2は独立してヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基である。Xは独立して水素原子又はメチル基である。WはC1又はC2である。m1は1~500であり、m2は0~500である。)
【0030】
式(3)中のBで示される環状構造を含む4価の有機基としては、式(2)中のBで例示したものと同様の下記の基が挙げられる。
【化17】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(3)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0031】
式(3)中のC1で示されるヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~60のアルキレン基としては、好ましくはヘテロ原子を含んでもよい炭素数8~50のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数8~40のアルキレン基である。また、C1で示されるヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~60のアルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれの構造であってもよく、またこれら構造の複数種を組み合わせた基であってもよい。
【0032】
1で示されるヘテロ原子を含んでもよい炭素数炭素数6~60のアルキレン基としては、下記構造式のいずれかで示される基が特に好ましいものとして挙げられる。
【化18】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(3)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【0033】
上記式中、R1は互いに独立に水素原子又は炭素数1~20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、好ましくは水素原子又は炭素数1~10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、更に好ましくは水素原子又は炭素数1~10の直鎖のアルキル基である。
上記式中、p1及びp2はそれぞれ5以上の数であり、好ましくはそれぞれ5~12の数であり、より好ましくはそれぞれ6~10の数であり、同じであっても異なっていてもよい。
3及びp4はそれぞれ0以上の数であり、好ましくはそれぞれ0~4の数であり、より好ましくは0~2の数であり、同じであっても異なっていてもよい。
上記式中、p5は6~60の数であり、好ましくは6~40の数であり、より好ましくは6~20の数である。
【0034】
式(3)中のC1で示されるダイマー酸骨格由来の2価炭化水素基は、式(1)中のAで例示したものと同様の下記の基由来の基が挙げられる。
【化19】
【0035】
式(3)中、C2で示されるヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基としては、好ましくはヘテロ原子を含んでもよい炭素数10~30のアリーレン基であり、より好ましくは炭素数20~30のアリーレン基である。C2で示されるヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基は、芳香族炭化水素から芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子2個を除去した2価の基である。該芳香族炭化水素は、下記の化合物を含むものである。
・単環式又は多環式の芳香族炭化水素
・独立した2以上の単環式又は多環式の芳香族炭化水素が単結合又は2価の有機基を介して結合した化合物
【0036】
2で示されるヘテロ原子を含んでもよい炭素数6~30のアリーレン基としては、下記構造式のいずれかで示される基が好ましいものとして挙げられる。
【化20】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(3)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【0037】
上記式中、R2は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、更に好ましくは水素原子、メチル基又はエチル基である。
上記式中、R3は互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、好ましくは水素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
上記式中、Zは酸素原子、硫黄原子又はメチレン基であり、好ましくは酸素原子又は硫黄原子である。
【0038】
式(3)中のXは独立して水素原子又はメチル基であり、好ましくは水素原子である。
【0039】
式(3)中、m1は1~500であり、好ましくは1~300である。
式(3)中、m2は0~500の数であり、好ましくは0~300である。
【0040】
(A)成分の環状イミド化合物の数平均分子量(Mn)は200~100000であり、好ましくは250~50000、より好ましくは300~30000、更に好ましくは500~10000である。数平均分子量が200より小さいと環状イミド化合物が揮発しやすく、硬化物としての強度が低くなってしまい、数平均分子量が100000より大きいと末端の環状イミド基の反応性が低くなり、組成物が十分に硬化することが困難となる。
【0041】
本明細書中で言及する数平均分子量(Mn)とは、下記条件で測定したGPCによるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指すこととする。
[GPC測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.35mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperHZ4000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ3000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ2000(4.6mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL(濃度0.2質量%のTHF溶液)
【0042】
(A)成分の環状イミド化合物は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計に対する(A)成分の割合は、20~95質量%であることが好ましく、30~90質量%であることがより好ましく、40~85質量%であることが更に好ましい。
(A)成分の量は、本発明の熱硬化性樹脂組成物全質量に対して2~95質量%であることが好ましく、4~90質量%がより好ましく、5~85質量%がさらに好ましい。
【0043】
(B)インデン化合物及びアセナフチレン化合物
(B)インデン化合物及びアセナフチレン化合物は、熱硬化性樹脂組成物の高温時の流動性向上及び耐熱性を向上させる目的で添加される。
【0044】
インデン化合物はインデン骨格を有する化合物であれば、特に限定されず、一般的に公知のものが使用できる。該インデン化合物としては、例えば、インデン、3-ヒドロキシインデン、4-ヒドロキシインデン、5-ヒドロキシインデン、5,6-ジヒドロキシインデン、3-メチルインデン、3-エチルインデン、3-プロピルインデン、4-メチルインデン、4-エチルインデン、4-プロピルインデン、5-メチルインデン、5-エチルインデン、5-プロピルインデン、3,4-ジメチルインデン、5,6-ジメチルインデン、3-メトキシインデン、3-エトキシインデン、3-ブトキシインデン、4-メトキシインデン、4-エトキシインデン、4-ブトキシインデン、5-メトキシインデン、5-エトキシインデン、5-ブトキシインデン、3-クロロインデン、3-ブロモインデン、4-クロロインデン、4-ブロモインデン、5-クロロインデン、5-ブロモインデン等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
アセナフチレン化合物はアセナフチレン骨格を有する化合物であれば、特に限定されず、一般的に公知のものが使用できる。例えば、アセナフチレン、3-ヒドロキシアセナフチレン、4-ヒドロキシアセナフチレン、5-ヒドロキシアセナフチレン、5,6-ジヒドロキシアセナフチレン、3-メチルアセナフチレン、3-エチルアセナフチレン、3-プロピルアセナフチレン、4-メチルアセナフチレン、4-エチルアセナフチレン、4-プロピルアセナフチレン、5-メチルアセナフチレン、5-エチルアセナフチレン、5-プロピルアセナフチレン、3,8-ジメチルアセナフチレン、5,6-ジメチルアセナフチレン、3-メトキシアセナフチレン、3-エトキシアセナフチレン、3-ブトキシアセナフチレン、4-メトキシアセナフチレン、4-エトキシアセナフチレン、4-ブトキシアセナフチレン、5-メトキシアセナフチレン、5-エトキシアセナフチレン、5-ブトキシアセナフチレン、3-クロロアセナフチレン、3-ブロモアセナフチレン、4-クロロアセナフチレン、4-ブロモアセナフチレン、5-クロロアセナフチレン、5-ブロモアセナフチレン等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
(B)成分のインデン化合物及びアセナフチレン化合物は単独で使用してもよく、併用してもよい。また、(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して10~900質量部であることが好ましく、20~450質量部であることがより好ましく、30~200質量部であることが更に好ましい。(B)インデン化合物及びアセナフチレン化合物の配合量がこの範囲であると、低誘電特性を有する(低比誘電率かつ低誘電正接である)硬化物を得ることができる。
【0047】
(C)重合開始剤
(C)重合開始剤は、熱硬化性樹脂組成物を硬化させる目的で添加される。(C)重合開始剤は、(A)環状イミド化合物及び(B)インデン化合物及び/又はアセナフチレン化合物を硬化させるものであれば特に限定されず、一般的に公知のものが使用できる。重合開始剤としては、例えば、熱ラジカル重合開始剤(C1)、熱アニオン重合開始剤(C2)などが挙げられる。
【0048】
熱ラジカル重合開始剤(C1)としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、α、α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、桂皮酸パーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、α、α’-ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルへキサノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシマレイックアシッド、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルパーオキシ)イソフタレート、t-ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[N-(2-メチルプロピル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-メチルエチル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-プロピル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-エチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、ジメチル-1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)等のアゾ化合物が挙げられる。この中でも、保存安定性の観点から、有機過酸化物が好ましく、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイドがより好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
熱アニオン重合開始剤(C2)としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-1,3,5-トリアジン等のイミダゾール化合物;トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザ-ビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン等のアミン化合物;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロホスファート、テトラブチルホスホニウムテトラフェニルボラート、テトラブチルホスホニウムアセテート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボラート、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムラウレート、テトラフェニルホスホニウムハイドロジェンフタレート、ビス(テトラフェニルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート、ビス(テトラブチルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート等の有機リン化合物が挙げられる。これらの中でも、イミダゾール化合物、有機リン化合物が好ましく、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-1,3,5-トリアジン、トリフェニルホスフィン、テトラブチルホスホニウムラウレート、テトラフェニルホスホニウムハイドロジェンフタレート、ビス(テトラフェニルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート、ビス(テトラブチルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテートが更に好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
(C)成分の重合開始剤は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
(C)成分の重合開始剤の配合量は特に限定されないが、(A)成分100質量部に対してそれぞれ0.01~10質量部であることが好ましく、0.1~5質量部であることがより好ましく、0.3~3質量部であることが更に好ましい。この範囲であれば、樹脂組成物の物性に悪影響を与えることなく、十分に硬化させることができる。
【0051】
[その他の成分]
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記(A)~(C)成分に加え、その他の添加剤を必要に応じて本発明の目的、効果を損なわない範囲で添加することができる。かかる添加剤としては、エポキシ樹脂、無機充填材、難燃剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、接着付与剤、低応力剤、着色剤などが挙げられる。
【0052】
エポキシ樹脂は、熱硬化性樹脂組成物の強度の向上や接着力を向上させる目的で配合される。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート等の脂環式エポキシ樹脂;レゾルシノール型エポキシ樹脂、レゾルシノールノボラック型エポキシ樹脂等の多官能フェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、トリスフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂及びアントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物、並びにこれらにリン化合物を導入したリン含有エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
無機充填材は、熱硬化性樹脂組成物の樹脂強度向上や低熱膨張化を目的に配合される。無機充填材としては、例えば、シリカ類(例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、クリストバライト等)、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化チタン、ガラス繊維、酸化マグネシウム等が挙げられる。これら無機充填材の平均粒径や形状は、用途に応じて選択することができる。
【0054】
無機充填材は、樹脂と無機充填材との結合強度を強くするために、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤で予め表面処理されたものを用いることが好ましい。このようなカップリング剤としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン;N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールとγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応物、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;γ-メルカプトシラン、γ-エピスルフィドキシプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。なお、表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではない。
【0055】
無機充填材の配合量は、上記(A)成分100質量部に対して、10~20,000質量部であることが好ましく、より好ましくは30~10,000質量部である。
【0056】
難燃剤は、難燃性を付与する目的で添加される。該難燃剤としては特に制限されず公知のものを全て使用することができ、例えば、ホスファゼン化合物、シリコーン化合物、モリブデン酸亜鉛担持タルク、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデンを使用することができる。
【0057】
イオントラップ剤は、樹脂組成物中に含まれるイオン不純物を捕捉し、熱劣化や吸湿劣化を防ぐ目的で添加される。イオントラップ剤としては、特に制限されず公知のものを全て使用することができ、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス化合物、希土類酸化物等を使用してもよい。
【0058】
酸化防止剤としては、特に制限はないが、例えば、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)アセテート、ネオドデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチル-α-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル-α-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル-α-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2-(n-オクチルチオ)エチル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルアセテート、2-(n-オクタデシルチオ)エチル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルアセテート、2-(n-オクタデシルチオ)エチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2-(2-ステアロイルオキシエチルチオ)エチル-7-(3-メチル-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、2-ヒドロキシエチル-7-(3-メチル-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のフェノール系酸化防止剤;ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)等の硫黄系酸化防止剤;トリデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイト、ジフェニルトリデシルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イル]オキシ]-N,N-ビス[2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イル]オキシ]-エチル]エタナミン等のリン系酸化防止剤が挙げられる。
【0059】
接着付与剤としては、公知の接着付与剤であれば、本発明の作用効果を奏する限り特に限定されず、接着性あるいは粘着性(感圧接着性)を付与するため、必要に応じて接着性付与剤を含有してよい。接着性付与剤としては、例えば、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、テルペン樹脂、シランカップリング剤等が挙げられる。中でも接着性を付与するにはシランカップリング剤が好ましい。
【0060】
シランカップリング剤としては、特に制限はないが、例えば、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]-トリメトキシシラン、メトキシトリ(エチレンオキシ)プロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。
【0061】
その他の添加剤の配合量は組成物の目的により相違するが、通常は、無機充填材を除く組成物全体の5質量%以下の量である。
【0062】
[組成物の製造方法]
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、次に示されるような方法で製造することができる。
例えば(A)~(C)成分を、同時に又は別々に必要により加熱処理を行いながら混合し、撹拌、溶解及び/又は分散させることにより、(A)~(C)成分の混合物を得る。好ましくは、(A)成分及び(B)成分の混合物に(C)成分を添加し、撹拌、溶解及び/又は分散させることにより(A)~(C)成分の混合物を得てもよい。また、使用用途によって、(A)~(C)成分の混合物に、エポキシ樹脂、無機充填材、難燃剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、接着付与剤、低応力剤、着色剤のうち少なくとも1種類を添加して混合してもよい。各成分は単一種類で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0063】
組成物の製造方法では、混合、撹拌及び分散を行う装置について、特に限定されない。具体的には、例えば、撹拌及び加熱装置を備えたライカイ機、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、又はマスコロイダーを用いることができ、これらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0064】
[用途]
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、加熱時の粘度が低く取り扱い性に優れ、該組成物の硬化物は低比誘電率及び低誘電正接であり、高温保管後の比誘電率及び誘電正接の変化が少なく、耐熱性を有するため、接着剤、プリプレグ、銅貼積層板、プリント配線板及び半導体封止材等として好適に使用することができる。
【0065】
接着剤として用いる場合は、上述のように各成分を所定の組成比で配合し、プラネタリーミキサー等の混合機を用いて混合後、必要に応じて分散性を高めるために3本ロールミルを使用し混練し、混合することが好ましい。
プリプレグとして用いる場合は、上述のように各成分を所定の組成比で配合し、プラネタリーミキサー等の混合機を用いて混合後、必要に応じて分散性を高めるために3本ロールミルを使用し混練し、混合することが好ましい。得られた樹脂組成物を繊維基材に含浸させて加熱乾燥させることでプリプレグとして使用できる。本発明のプリプレグの厚さは特に制限はないが、10~500μmが好ましく、25~300μmがより好ましく、40~200μmが更に好ましい。この範囲であれば、銅張積層板を良好に作製することができる。本発明のプリプレグは、あらかじめ加熱によって半硬化(B-stage化)させてもよい。B-stage化の方法としては特に制限はないが、例えば、本発明の環状イミド樹脂組成物を溶剤に溶解させ、繊維基材に含浸させて乾燥させた後、80~200℃の温度で1~30分間、加熱することでB-stage化ができる。
銅貼積層板として用いる場合には、上述のプリプレグと銅箔を重ねてプレスして加熱硬化させ、銅貼積層板として使用できる。銅張積層板の成形条件は、特に制限はないが、例えば、多段プレス、多段真空プレス、連続成形、オートクレーブ成形機等を使用し、温度100~400℃、圧力1~100MPa、加熱時間0.1~4時間の範囲で成形することができる。また、本発明のプリプレグ、銅箔、内層用配線板を組合せて成形し、銅張積層板を成形することもできる。
プリント配線板として用いる場合は、例えば、プリプレグを使用する場合、プリプレグを1枚又は複数枚重ね、さらに、その上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔を重ね、加熱加圧成形して積層一体化することによって、積層板を製造する。製造した積層板に対して、穴開け加工、金属めっき加工、金属箔のエッチング等による回路形成加工及び多層化接着加工を行うことによって製造することができる。
半導体封止材として用いる場合は、上述のように各成分を所定の組成比で配合し、ミキサー等によって十分に均一に混合した後、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等による溶融混合し、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕することが好ましい。
【0066】
半導体封止材を用いた一般的な成形方法としては、トランスファー成形法や圧縮成形法が挙げられる。トランスファー成形法では、トランスファー成形機を用い、成形圧力5~20N/mm2、成形温度120~190℃で成形時間30~500秒、好ましくは成形温度150~185℃で成形時間30~180秒で行う。また、圧縮成形法では、コンプレッション成形機を用い、成形温度は120~190℃で成形時間30~600秒、好ましくは成形温度130~160℃で成形時間120~300秒で行う。更に、いずれの成形法においても、後硬化を150~225℃で0.5~20時間行ってもよい。
【実施例
【0067】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、表1~3中、配合量は質量部を示す。
【0068】
実施例及び比較例で使用した各成分を以下に示す。なお、以下において数平均分子量(Mn)はポリスチレンを基準として、下記測定条件によりゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されたものである。
[GPC測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.35mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperHZ4000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ3000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ2000(4.6mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL(濃度0.2質量%のTHF溶液)
【0069】
(A)環状イミド化合物
(A1)下記式で示される環状イミド化合物(BMI-689、Designer Molecules Inc.製)数平均分子量:690
【化21】
(式中のC3670はダイマー酸骨格を意味する。)

(A2)下記式で示される環状イミド化合物(BMI-1500、Designer Molecules Inc.製)数平均分子量:2200
【化22】
(m1=3(平均値)、式中のC3670はダイマー酸骨格を意味する。)

(A3)下記式で示される環状イミド化合物(X-45-2600、信越化学工業製)数平均分子量:6000
【化23】
(m1=1(平均値)、m1`=5(平均値)、式中のC3670はダイマー酸骨格を意味する。)

合成例1(環状イミド化合物(A4))
アニソール400gに、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン155g(0.5mol)、プリアミン1075(クローダジャパン(株)製)277g(0.5mol)及び4,4’-オキシジフタル酸無水物285g(0.92mol)を添加し、室温で5時間撹拌し、更に120℃で12時間撹拌した。得られた溶液に、無水マレイン酸196g(2.0mol)を加え、150℃で1時間撹拌した。その後、溶剤、未反応の無水マレイン酸を減圧留去し、下記式で示される環状イミド化合物(A4)を得た。(数平均分子量10000)
【化24】
(m1=5(平均値)、m2=5(平均値)、式中のC3670はダイマー酸骨格を意味する。)

合成例2(環状イミド化合物(A5))
攪拌機、ディーンスターク管、冷却コンデンサー及び温度計を備えた2Lのガラス製4つ口フラスコに、2,4,4-トリメチルヘキサンジアミン71.2g(0.45モル)、無水シトラコン酸111.0g(0.99モル)及びトルエン150gを加えて反応液を調製し、80℃で3時間撹拌することでアミック酸を合成した。その後、反応液にメタンスルホン酸40gを加えたのち、110℃に昇温し、副生した水分を留去しながら16時間撹拌した後、反応液を200gのイオン交換水を用いて5回水洗した。その後、60℃の減圧ストリップにより室温で褐色液状の目的物(A5)を得た。(数平均分子量:350)
【化25】

(A6)ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド(商品名:BMI-4000、大和化成工業(株)製)数平均分子量:570
【0070】
(B)インデン化合物及びアセナフチレン化合物
(B1)アセナフチレン化合物(アセナフチレン:JFEケミカル社製)
(B2)インデン化合物(インデン:JFEケミカル社製)
【0071】
(C)重合開始剤
(C1)ジクミルパーオキサイド(パーカドックスBC-FF:化薬ヌーリオン社製)
(C2)2,4-ジアミノ-6-[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-1,3,5-トリアジン(2MZ-A:四国化成社製)
【0072】
その他の添加剤
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER828EL:三菱ケミカル(株)製、25℃で液状、エポキシ基当量189)
【0073】
上記各成分を表1~3に記載の配合量(質量部)にて混合して、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0074】
1.流動性
各熱硬化性樹脂組成物を100℃に設定したホットプレート上で加熱した。100℃で樹脂の流動性があるものを○、流動性のないものを×とし、表1~3に記載した。
【0075】
2.比誘電率、誘電正接
直径200mm、150μm厚の枠を用意し、実施例及び比較例の各熱硬化性樹脂組成物を厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム(E7006、東洋紡製)で挟み込んで、真空プレス機(ニッコーマテリアルズ製)を用いて180℃で20分の条件で成形し、硬化物を得た。PETフィルムから硬化物を取り出し、さらに180℃で2時間の条件で本硬化させることで硬化樹脂フィルムを得た。
前記硬化樹脂フィルムを用いて、ネットワークアナライザ(キーサイト社製 E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、上記硬化樹脂フィルムの周波数10GHzにおける比誘電率と誘電正接を測定した。結果を表1~3に示す。
【0076】
3.高温保管後の誘電正接変化率
上記硬化樹脂フィルムと同様に作製した試験片(硬化樹脂フィルム)を150℃のオーブンにて150時間保管後室温の状態まで冷却して、周波数10GHzにおける誘電正接を測定した。高温保管後の誘電正接変化率は、より詳細には下記式で算出した。
【数1】
【0077】
4.ガラス転移温度
上記硬化樹脂フィルムと同様に作製した試験片(硬化樹脂フィルム)の貯蔵弾性率(MPa)をDMA Q800(TAインスツルメント株式会社製)により、0℃~300℃の範囲で測定し、得られた貯蔵弾性率と損失弾性率の値から導き出されるTanδの値をプロットしたグラフから得られるピークトップの温度をガラス転移温度(Tg)とした。測定条件は、20mm×5mm×50μm厚の試験サンプル(硬化物)、昇温速度5℃/min、マルチ周波数モード、引っ張りモード、振幅15μmで行った。その結果を表1~3に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】