(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】ガラス溶解装置、ガラスの製造方法、及び溶融ガラスの素地替え方法
(51)【国際特許分類】
C03B 5/43 20060101AFI20250304BHJP
C03B 5/03 20060101ALI20250304BHJP
F27B 14/06 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
C03B5/43
C03B5/03
F27B14/06
(21)【出願番号】P 2022555329
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2021033740
(87)【国際公開番号】W WO2022075016
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020170756
(32)【優先日】2020-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】赤木 亮介
(72)【発明者】
【氏名】松山 俊明
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 和幸
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-014055(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004434(WO,A1)
【文献】米国特許第4819247(US,A)
【文献】特開昭63-185831(JP,A)
【文献】特開2017-178760(JP,A)
【文献】特許第6670460(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/093129(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/092908(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/43
C03B 5/03
F27B 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスを溜める溶解槽と、
前記溶解槽の底壁の貫通穴を通り、前記底壁の上方に突出し、前記溶融ガラスを通電加熱する電極と、
前記底壁の前記貫通穴にて前記電極を囲む冷却器と、を備え、
前記溶解槽の前記底壁は、前記溶融ガラスに接触する表層を形成する第1レンガと、前記表層の前記貫通穴にて前記電極と前記冷却器を囲む第2レンガとを含み、
前記第1レンガは、前記第2レンガよりも耐食性に優れ、
前記第2レンガは、1000℃~1200℃の温度域において、可逆的な変態が生じない、ガラス溶解装置。
【請求項2】
前記第1レンガは、電鋳レンガであり、
前記第2レンガは、デンスジルコン焼成レンガである、請求項1に記載のガラス溶解装置。
【請求項3】
前記第1レンガは、ジルコニア質電鋳レンガである、請求項1又は2に記載のガラス溶解装置。
【請求項4】
前記溶解槽の前記底壁は、前記第2レンガの上面の少なくとも一部を覆う第3レンガを更に含み、
前記第3レンガは、電鋳レンガである、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス溶解装置。
【請求項5】
上方視にて、前記第3レンガは、前記第2レンガよりも、前記電極から離れて配置される、請求項4に記載のガラス溶解装置。
【請求項6】
前記溶解槽の前記底壁は、前記表層の上面に段差面を形成する溝を含み、
前記溝の側面が前記段差面であり、前記溝の底面に前記貫通穴が形成され、
前記第2レンガは、前記溝の前記底面よりも上方に突出しており、
前記第3レンガは、前記溝に嵌め込まれる嵌め込み部と、前記第2レンガの上面を押さえる押さえ部とを含む、請求項4又は5に記載のガラス溶解装置。
【請求項7】
上方視にて、前記溝の内部で、矩形状の2枚の前記第3レンガと、T字状の2枚の前記第3レンガとが噛み合わされている、請求項6に記載のガラス溶解装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス溶解装置を用いて、前記溶融ガラスのガラス原料を溶解することと、
前記溶解した前記溶融ガラスを成形することと、
前記成形したガラスを徐冷することと、
を含む、ガラスの製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス溶解装置で得られる溶融ガラスの素地替え方法であって、
前記溶解槽に溜めた前記溶融ガラスを前記溶解槽の外部に排出し、前記溶解槽に溜めた前記溶融ガラスの液面レベルを低下させることと、
前記溶融ガラスとは異なる第2溶融ガラスのガラス原料を前記溶解槽の内部に投入し、前記溶解槽に前記第2溶融ガラスを溜めることと、
前記第2溶融ガラスの液面レベルが予め設定された高さに達すると、前記冷却器への冷媒供給を停止し、前記電極を上方に差し込むことと、
を含む、溶融ガラスの素地替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス溶解装置、ガラスの製造方法、及び溶融ガラスの素地替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、連続ガラス溶融炉における溶融ガラスの素地替え(例えば、組成の変更、又は色の変更)方法が記載されている。この素地替え方法は、溶融炉から溶融ガラスの大部分を一旦排出した後に、新たなガラス原料を投入する。
【0003】
特許文献2には、底部に複数の電極を備える溶解炉が記載されている。溶解炉の底部は、電極を囲繞する第1レンガと、第1レンガの相互間に配置される第2レンガとを有する。第1レンガは、電鋳レンガであり、例えばジルコニア系耐火物である。一方、第2レンガは、デンスジルコン焼成レンガである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第6670460号公報
【文献】国際公開第2019/004434号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラス溶解装置は、溶解槽と、電極と、冷却器とを備える。溶解槽は、溶融ガラスを溜める。電極は、溶解槽の底壁の貫通穴を通り、底壁の上方に突出し、溶融ガラスを通電加熱する。冷却器は、水冷ジャケット等であり、底壁の貫通穴にて電極を囲み、溶融ガラスを固化させ、貫通穴をシールする。
【0006】
溶融ガラスの素地替えでは、先ず、溶解槽に溜めた溶融ガラスを溶解槽の外部に排出し、溶解槽に溜めた溶融ガラスの液面を低下させる。その後、溶融ガラスとは異なる第2溶融ガラスのガラス原料が、溶解槽の内部に投入される。その結果、第2溶融ガラスの液面が上昇する。
【0007】
溶融ガラスの素地替え中に、電極が、溶融ガラスの液面の上に突出し、大気中の酸素ガスとの反応によって昇華してしまう。そこで、第2溶融ガラスの液面が予め設定された高さに達した後で、電極が上方に差し込まれ、電極の有効長さが元の長さに戻される。電極の有効長さとは、電極の溶融ガラスを加熱する部分の長さのことであり、電極の底壁から突出する部分の長さことである。
【0008】
ところで、電極を上方に差し込む前に、電極の通る貫通穴にて固化した溶融ガラスを軟化させるべく、冷却器への冷媒供給が一旦停止される。そして、電極の差し込みを終えた後で、冷却器への冷媒供給が再開される。冷却器への冷媒供給が停止されたり再開されたりするので、電極の周囲では、大きな温度変化が生じる。
【0009】
特許文献2によれば、電極の周囲には、電鋳レンガが配置される。そして、最も好ましい電鋳レンガとして、ジルコニア質電鋳レンガが挙げられている。ジルコニア(ZrO2)は、溶融ガラスに対する耐食性に優れる。但し、ジルコニアは、1000℃~1200℃の温度域において、可逆的な変態を生じる。その変態は大きな体積変化を伴い、大きな応力が内部に発生してしまう。
【0010】
本開示の一態様は、素地替え時に溶解槽の底壁に生じる応力を低減すると共に、溶融ガラスに対する溶解槽の底壁の耐食性を向上する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様に係るガラス溶解装置は、溶融ガラスを溜める溶解槽と、前記溶解槽の底壁の貫通穴を通り、前記底壁の上方に突出し、前記溶融ガラスを通電加熱する電極と、前記底壁の前記貫通穴にて前記電極を囲む冷却器と、を備える。前記溶解槽の前記底壁は、前記溶融ガラスに接触する表層を形成する第1レンガと、前記表層の前記貫通穴にて前記電極と前記冷却器を囲む第2レンガとを含む。前記第1レンガは、前記第2レンガよりも耐食性に優れる。前記第2レンガは、1000℃~1200℃の温度域において、可逆的な変態が生じない。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、素地替え時に溶解槽の底壁に生じる応力を低減できると共に、溶融ガラスに対する溶解槽の底壁の耐食性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るガラスの製造装置を示す図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るガラスの製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、一実施形態に係るガラス溶解装置を示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図3の溶解槽の素地替え時の状態の一例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図3の溶解槽の底壁の一部を拡大して示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図3の溶解槽の底壁の一部を拡大して示す斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7の底壁の表層上面に形成される溝を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、一実施形態に係る溶融ガラスの素地替え方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。また、各図面において、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は互いに垂直な方向であって、X軸方向及びY軸方向は水平方向、Z軸方向は鉛直方向である。また、明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0015】
先ず、
図1を参照して、本実施形態に係るガラスの製造装置1について説明する。製造装置1は、ガラス溶解装置2と、成形装置3と、徐冷装置4と、加工装置5とを有する。
【0016】
ガラス溶解装置2は、ガラス原料を溶解し、溶融ガラスを製造する。ガラス原料は、複数種類の材料を混ぜて調製される。例えば、ガラスがソーダライムガラスである場合、ガラス原料Mは例えば珪砂、石灰石、ソーダ灰、ホウ酸及び清澄剤などを含む。清澄剤は、三酸化硫黄、塩化物又はフッ化物などである。ガラス原料Mは、ガラスをリサイクルすべく、ガラスカレットを含んでもよい。ガラス原料Mは、粉体原料でもよいし、当該粉体原料を造粒した造粒原料でもよい。
【0017】
ガラス原料は、ガラスの組成に応じて決定される。ガラスがソーダライムガラスである場合、ガラスは、酸化物基準のモル%で、SiO2を50%~75%、Al2O3を0%~20%、Li2OとNa2OとK2Oとを合計で5%~25%、MgOとCaOとSrOとBaOとを合計で0%~20%含む。
【0018】
ガラスがアルカリ含有アルミノケイ酸塩ガラスである場合、ガラスは、酸化物基準のモル%で、SiO2を50%~75%、Al2O3を5%~20%、Na2Oを2%~20%、K2Oを0%~6%、MgOを0%~15%、CaO、SrOおよびBaOを合計で0%~10%、ZrO2およびTiO2を合計で0%~5%、B2O3を0%~10%、Li2Oを0%~20%含む。
【0019】
ガラス溶解装置2は、連続式であって、ガラス原料の供給と、溶融ガラスの製造とを連続的に行う。ガラス原料の単位時間当たりの投入量は、溶融ガラスの単位時間当たりの排出量と同程度である。溶融ガラスは、ガラス溶解装置2から成形装置3に送られる。なお、ガラス溶解装置2の詳細は後述する。
【0020】
成形装置3は、ガラス溶解装置2で得られた溶融ガラスを所望の形状のガラスに成形する。板状のガラスを得る成形方法として、フロート法、フュージョン法、又はロールアウト法等が用いられる。管状のガラスを得る成形方法として、ベロー法、又はダンナー法等が用いられる。
【0021】
徐冷装置4は、成形装置3で成形したガラスを徐冷する。徐冷装置4は、例えば、徐冷炉と、徐冷炉の内部においてガラスを所望の方向に搬送する搬送ローラとを有する。搬送ローラは、例えば水平方向に間隔をおいて複数配列される。ガラスは、徐冷炉の入口から出口まで搬送される間に、徐冷される。ガラスを徐冷すれば、残留歪みの少ないガラスが得られる。
【0022】
加工装置5は、徐冷装置4で徐冷したガラスを所望の形状に加工する。加工装置5は、例えば切断装置、研削装置、研磨装置、及びコーティング装置から選ばれる1つ以上であってよい。切断装置は、徐冷装置4で徐冷したガラスを切断する。切断装置は、例えば、徐冷装置4で徐冷したガラスにスクライブ線を形成し、スクライブ線に沿ってガラスを割断する。スクライブ線は、カッター又はレーザー光線を用いて形成される。研削装置は、徐冷装置4で徐冷したガラスを研削する。研磨装置は、徐冷装置4で徐冷したガラスを研磨する。コーティング装置は、徐冷装置4で徐冷したガラスに所望の膜を形成する。
【0023】
なお、ガラスの製造装置1は、清澄装置をさらに有してもよい。清澄装置は、ガラス溶解装置2で得られた溶融ガラスを成形装置3で成形する前に、溶融ガラス中に含まれる気泡を除去する。気泡を除去する方法として、例えば、溶融ガラスの周辺雰囲気を減圧する方法、及び溶融ガラスを高温に加熱する方法から選ばれる1つ以上が用いられる。
【0024】
次に、
図2を参照して、本実施形態に係るガラスの製造方法について説明する。
図2に示すように、ガラスの製造方法は、溶解(ステップS11)と、成形(ステップS12)と、徐冷(ステップS13)と、加工(ステップS14)とを含む。ガラス溶解装置2が溶解(ステップS11)を実施し、成形装置3が成形(ステップS12)を実施し、徐冷装置4が徐冷(ステップS13)を実施し、加工装置5が加工(ステップS14)を実施する。なお、ガラスの製造方法は、清澄をさらに含んでもよい。清澄は、溶融ガラス中に含まれる気泡を除去することであり、溶融ガラスの製造(ステップS11)の後、成形(ステップS12)の前に実施される。
【0025】
次に、
図3及び
図4を参照して、本実施形態に係るガラス溶解装置2について説明する。
図3に示すように、ガラス溶解装置2は、溶解槽10と、電極20と、冷却器30と、投入機50とを有する。溶解槽10は、ガラス原料Mを溶解した溶融ガラスGを溜める。電極20は、溶解槽10の底壁11の貫通穴12を通り、底壁11の上方に突出し、溶融ガラスGを通電加熱する。冷却器30は、水冷ジャケット等であり、底壁11の貫通穴12にて電極20を囲み、溶融ガラスGを固化させ、貫通穴12をシールする。投入機50は、溶解槽10の側壁13の上方から溶解槽10の内部にガラス原料Mを投入する。
【0026】
投入機50は、例えばブランケットチャージャーであり、ホッパー51と、搬送パン52と、進退機構53とを含む。ホッパー51は、ガラス原料Mを溜める。搬送パン52は、ホッパー51から投下されるガラス原料Mを載せる。進退機構53は、コンピュータによる制御下で、搬送パン52を溶解槽10に向けて進退させ、搬送パン52上のガラス原料Mを溶解槽10に投入し、溶融ガラスGの液面Gaに原料山Maを形成する。原料山Maは、溶融ガラスGに浮かびながら、溶融ガラスGの熱によって溶解する。
【0027】
溶解槽10は、ガラス原料Mを溶解した溶融ガラスGを収容する。溶解槽10の底壁11には、電極20を通す貫通穴12が複数形成される。複数の貫通穴12が溶解槽10の側壁13に沿って複数(例えば2つ)の列を形成し、
図4に示すように複数の電極20が溶解槽10の側壁13に沿って複数(例えば2つ)の列を形成する。複数の電極20は、それぞれ、溶解槽10の底壁11から上方に突出し、溶融ガラスGを通電加熱する。電極20の材質は、特に限定されないが、例えばMo(モリブデン)である。溶融ガラスGは、加熱されることによって対流を生じ、溶解槽10の全体に熱を運ぶ。
【0028】
溶解槽10の上方には、溶融ガラスGを加熱する不図示のバーナー等が設けられる。バーナー等は、溶融ガラスGの素地替え時に、溶融ガラスGを加熱する。バーナー等は、バーナーの他、炭化ケイ素または二ケイ化モリブデン等による電気ヒータでもよい。バーナー等はガラスの生産時にも使用してもよい。一方、電極20は、ガラスの生産時には溶融ガラスGを加熱するが、溶融ガラスGの素地替え時には溶融ガラスGを加熱しなくてもよい。
【0029】
ところで、溶融ガラスGの素地替えでは、
図5に示すように、先ず、溶解槽10に溜めた溶融ガラスGを溶解槽10の外部に排出し、溶解槽10に溜めた溶融ガラスGの液面を低下させる。その後、溶融ガラスGとは異なる第2溶融ガラスのガラス原料が、溶解槽10の内部に投入される。その結果、第2溶融ガラスの液面が上昇する。
【0030】
溶融ガラスGの素地替え中に、溶融ガラスGの液面が低下させられることで、電極20が溶融ガラスGの液面の上に突出し、突出した部分が大気中の酸素ガスとの反応によって昇華してしまい、電極20の有効長さL(
図3参照)が短くなってしまう。電極20の有効長さLとは、電極20の溶融ガラスGを加熱する部分の長さのことであり、電極20の底壁11から突出する部分の長さことである。そこで、第2溶融ガラスのガラス原料の投入によって第2溶融ガラスの液面が上昇し予め設定された高さに達した後で、電極20が上方に差し込まれ、電極20の有効長さLが元の長さに戻される。
【0031】
ところで、電極20を上方に差し込む前に、電極20の通る貫通穴12にて固化した溶融ガラスGを軟化させるべく、冷却器30への冷媒供給が一旦停止される。そして、電極20の差し込みを終えた後で、冷却器30への冷媒供給が再開される。冷却器30への冷媒供給が停止されたり再開されたりするので、電極20の周囲では、大きな温度変化が生じる。
【0032】
特許文献2によれば、電極の周囲には、電鋳レンガが配置される。そして、最も好ましい電鋳レンガとして、ジルコニア質電鋳レンガが挙げられている。ジルコニア(ZrO2)は、溶融ガラスに対する耐食性に優れる。但し、ジルコニアは、1000℃~1200℃の温度域において、可逆的な変態を生じる。その変態は大きな体積変化を伴い、大きな応力が内部に発生してしまう。
【0033】
本実施形態の溶解槽10の底壁11は、
図6に示すように、溶融ガラスGに接触する表層15を形成する第1レンガ16と、表層15の貫通穴12にて電極20と冷却器30を囲む第2レンガ17とを含む。そして、第1レンガ16は、第2レンガ17よりも耐食性に優れる。第2レンガ17は、1000℃~1200℃の温度域において、可逆的な変態が生じない。例えば、第1レンガ16は電鋳レンガであり、第2レンガ17はデンスジルコン焼成レンガである。本実施形態と、特許文献2とでは、電鋳レンガと、デンスジルコン焼成レンガの配置が逆である。なお、図示しないが、底壁11は、表層15の下に、更に保温層を含んでもよい。保温層は、保温性に優れたレンガによって形成される。
【0034】
本実施形態によれば、電極20の周囲に、デンスジルコン焼成レンガが配置される。デンスジルコン焼成レンガは、主にジルコン(ZrSiO4)を含む。デンスジルコン焼成レンガは、ジルコンの含有率が例えば95質量%である。ジルコンは、ジルコニアとは異なり、1000℃~1200℃の温度域において、可逆的な変態を生じない。それゆえ、冷却器30への冷媒供給を停止したり再開したりすることによって、電極20の周囲で大きな温度変化が生じても、内部に発生する応力を低減できる。
【0035】
また、デンスジルコン焼成レンガは、電鋳レンガに比べて、気孔率が低く、電気抵抗率が高い。電極20の周囲に、電気抵抗率の高いデンスジルコン焼成レンガを配置することによって、底壁11への漏電を抑制できる。
【0036】
デンスジルコン焼成レンガは、温度が1500℃を超えると、ジルコンが分解されてしまい、溶融ガラスGによる侵食が生じやすい。本実施形態によれば、冷却器30の近傍にデンスジルコン焼成レンガを配置するので、デンスジルコン焼成レンガの温度上昇を抑制でき、結果ジルコンの分解を抑制できる。
【0037】
また、本実施形態によれば、溶融ガラスGに接触する表層15を形成する第1レンガ16として、電鋳レンガが用いられる。電鋳レンガは、デンスジルコン焼成レンガよりも、溶融ガラスGに対する耐食性に優れている。それゆえ、溶融ガラスGに対する溶解槽10の底壁11の耐食性を向上できる。
【0038】
第1レンガ16は、例えば、アルミナ・ジルコニア・シリカ質電鋳レンガ、アルミナ質電鋳レンガ、又はジルコニア質電鋳レンガである。これらの中でも、溶融ガラスGに対する耐食性の観点から、ジルコニア質電鋳レンガが好ましく、特に高ジルコニア質電鋳レンガが好ましい。高ジルコニア質電鋳レンガは、ジルコニアの含有率が例えば90質量%以上のものである。
【0039】
製造するガラスがアルカリ含有アルミノケイ酸塩ガラスである場合、ソーダライムガラスである場合に比べて、ガラス原料Mの溶解温度が高いので、第1レンガ16として高ジルコニア質電鋳レンガが用いられることが好ましい。
【0040】
図6に示すように、溶解槽10の底壁11は、第2レンガ17の上面の少なくとも一部を覆う第3レンガ18を更に含む。第3レンガ18は、第1レンガ16と同様に、電鋳レンガである。電鋳レンガによってデンスジルコン焼成レンガの上面の少なくとも一部を覆うことにより、溶融ガラスGに対する耐食性を向上できる。第3レンガ18は、好ましくはジルコニア質電鋳レンガであり、より好ましくは高ジルコニア質電鋳レンガである。
【0041】
溶解槽10の底壁11は、複数種類のレンガによって構成される。熱上げの際に、複数種類のレンガの熱膨張差等により、底壁11を構成するレンガ同士がずれることがある。レンガ同士がずれても、電極20の挿入が可能となるように、上方視にて、第3レンガ18は、第2レンガ17よりも、電極20から離れて配置される。その結果、第2レンガ17の上面は、電極20の周囲の部分が、溶融ガラスGに露出している。第2レンガ17の溶融ガラスGに露出した部分は、ジルコンの分解を抑制すべく、冷却器30によって1500℃以下に冷却される。
【0042】
図7及び
図8に示すように、溶解槽10の底壁11は、表層15の上面に段差面を形成する溝19を含む。溝19の側面19aが、段差面であり、第3レンガ18を押さえる。溝19の底面19bには、
図8に示すように、貫通穴12が形成される。
【0043】
図6に示すように、第2レンガ17は、溝19の底面19bよりも上方に突出している。そして、第3レンガ18は、溝19に嵌め込まれる嵌め込み部18aと、第2レンガ17の上面を押さえる押さえ部18bとを含む。第3レンガ18は、例えば側方視L字状である。第1レンガ16と、第2レンガ17と、第3レンガ18とを、互いに嵌め合わせることにより、レンガの位置ずれを抑制できる。
【0044】
図7に示すように、上方視にて、溝19の内部で、矩形状の2枚の第3レンガ18-1、18-2と、T字状の2枚の第3レンガ18-3、18-4とが噛み合わされている。上方視にて、T字状の2枚の第3レンガ18-3、18-4には、それぞれ、L字状の切り欠き18aが2つずつ形成される。2つの切り欠き18aには1つの第3レンガ18-1が嵌め込まれ、残り2つの切り欠き18aには別の第3レンガ18-2が嵌め込まれる。4枚の第3レンガ18-1、18-2、18-3、18-4を互いに噛み合わせることにより、レンガの位置ずれを抑制できる。互いに噛み合わされる4枚の第3レンガ18-1、18-2、18-3、18-4で、1つの第3レンガ群が構成される。複数の第3レンガ群が、Y軸方向に間隔をおいて一列に配列される。
【0045】
図7に示すように、上方視にて、矩形状の2枚の第3レンガ18-1、18-2は、X軸方向に対向しており、溝19のX軸方向に対向する2つの側面19aで押さえられている。一方、上方視にて、T字状の2枚の第3レンガ18-3、18-4は、Y軸方向に対向している。第3レンガ18-4のX軸方向両端面が、溝19のX軸方向に対向する2つの側面19aで押さえられている。また、第3レンガ18-3のY軸負方向端面が、溝19の側面19aで押さえられている。なお、図示しないが、第3レンガ18-3のX軸方向両端面が、溝19のX軸方向に対向する2つの側面19aで押さえられていてもよい。また、第3レンガ18-4のY軸正方向端面が、溝19の側面19aで押さえられていてもよい。
【0046】
熱上げでのレンガの膨張を考慮して、第3レンガ18の側面の一部は、溝19の側面19aと接さないようにしてもよい。
【0047】
次に、
図9を参照して、本実施形態に係る溶融ガラスGの素地替え方法について説明する。
図9に示すように、溶融ガラスGの素地替え方法は、例えばステップS21~S27を含む。先ず、ステップS21では、電極20への電力供給を停止する。続いて、ステップS22では、溶解槽10に溜めた溶融ガラスGを溶解槽10の外部に排出し、溶解槽10に溜めた溶融ガラスGの液面レベルを低下させる。その結果、電極20が溶融ガラスGの液面の上に突出し、突出した部分が大気中の酸素ガスとの反応によって昇華してしまい、電極20の有効長さLが短くなってしまう。
【0048】
次に、ステップS23では、溶融ガラスGとは異なる第2溶融ガラスのガラス原料を溶解槽10の内部に投入し、溶解槽10に第2溶融ガラスを溜める。第2溶融ガラスの液面レベルが予め設定された高さに達すると、ステップS24が行われる。ステップS24では、冷却器30への冷媒供給を停止する。続いて、ステップS25では、電極20を上方に差し込む。電極20の有効長さLが元の長さに戻される。
【0049】
次に、ステップS26では、冷却器30への冷媒供給を再開する。最後に、ステップS27では、電極20への電力供給を再開し、電極20によって第2溶融ガラスを通電加熱する。その後、ガラスの製造を再開する。
【0050】
本実施形態によれば、上記の通り、電極20の周囲に、デンスジルコン焼成レンガが配置される。それゆえ、冷却器30への冷媒供給を停止したり再開したりすることによって、電極20の周囲で大きな温度変化が生じても、内部に発生する応力を低減できる。
【0051】
また、本実施形態によれば、溶融ガラスGに接触する表層15を形成する第1レンガ16として、電鋳レンガが用いられる。電鋳レンガは、デンスジルコン焼成レンガよりも、溶融ガラスGに対する耐食性に優れている。それゆえ、溶融ガラスGに対する溶解槽10の底壁11の耐食性を向上できる。
【0052】
以上、本開示に係るガラス溶解装置、ガラスの製造方法、及び溶融ガラスの素地替え方法について説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【0053】
本出願は、2020年10月8日に日本国特許庁に出願した特願2020-170756号に基づく優先権を主張するものであり、特願2020-170756号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0054】
2 ガラス溶解装置
10 溶解槽
11 底壁
12 貫通穴
15 表層
16 第1レンガ
17 第2レンガ
20 電極
30 冷却器