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特許7643649含フッ素重合体の製造方法、水性分散液及び粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】含フッ素重合体の製造方法、水性分散液及び粒子
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/26 20060101AFI20250304BHJP
   C08F 216/14 20060101ALI20250304BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20250304BHJP
   C08F 214/22 20060101ALI20250304BHJP
   C08F 214/24 20060101ALI20250304BHJP
   C08F 210/02 20060101ALI20250304BHJP
   C08F 259/08 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
C08F214/26
C08F216/14
C08F2/44 C
C08F214/22
C08F214/24
C08F210/02
C08F259/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024564418
(86)(22)【出願日】2023-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2023044700
(87)【国際公開番号】W WO2024128265
(87)【国際公開日】2024-06-20
【審査請求日】2024-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2022201048
(32)【優先日】2022-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】豊田 瑞菜
(72)【発明者】
【氏名】田口 大輔
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-514015(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196779(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/119834(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/046377(WO,A1)
【文献】特開2011-173959(JP,A)
【文献】特表2011-527717(JP,A)
【文献】特開2013-060590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60、6/00-283/00、283/02-289/00、
291/00-297/08、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレンに基づく単位とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位とを含む第1含フッ素重合体、及び、水性媒体を含む水性分散液中において、含フッ素単量体を含む単量体を重合して、前記第1含フッ素重合体とは異なる第2含フッ素重合体を製造する、含フッ素重合体の製造方法であって、
前記第1含フッ素重合体における、前記テトラフルオロエチレンに基づく単位と前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位の合計に対して、前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位が20~60モル%であり、
前記第1含フッ素重合体の平均粒子径が、1~150nmであり、
前記単量体の重合を開始する前において、前記第1含フッ素重合体の含有量が、前記水性分散液の全質量に対して0.01~4.0質量%である、含フッ素重合体の製造方法。
【請求項2】
前記単量体の重合を開始する前において、硫酸イオンの濃度が、前記水性分散液中の前記水性媒体の全質量に対して、5質量ppm以下である、請求項1に記載の含フッ素重合体の製造方法。
【請求項3】
前記含フッ素単量体が、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、及び、フッ化ビニリデンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の含フッ素重合体の製造方法。
【請求項4】
前記単量体が、エチレンを含む、請求項1又は2に記載の含フッ素重合体の製造方法。
【請求項5】
前記単量体の使用量が、前記水性媒体の使用量100質量部に対して、1~50質量部である、請求項1又は2に記載の含フッ素重合体の製造方法。
【請求項6】
重合開始剤の存在下で前記単量体を重合する、請求項1又は2に記載の含フッ素重合体の製造方法。
【請求項7】
含フッ素重合体を含む粒子であって、
前記粒子の平均粒子径が、1μm以下であり、
前記粒子がテトラフルオロエチレンに基づく単位、エチレンに基づく単位、及び、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、
前記テトラフルオロエチレンに基づく単位と前記エチレンに基づく単位の合計に対して前記エチレンに基づく単位が20~70モル%であり、
前記テトラフルオロエチレンに基づく単位と前記エチレンに基づく単位の合計の含有量が、前記含フッ素重合体の全単位に対して80モル%以上であり、
前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位の含有量が、前記含フッ素重合体の全単位に対して、0.1~1.0モル%であり、
式(S1)で表される化合物の含有量、及び、式(S2)で表される化合物の含有量のそれぞれが、前記粒子の全質量に対して、100質量ppb以下である、粒子。
式(S1): H-(CF-COOM
式(S2): H-(CF-SO
式(S1)及び式(S2)において、Mはそれぞれ独立に、水素原子、Na、K、又は、NHを表し、nはそれぞれ独立に8又は10を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体の製造方法、水性分散液及び粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体等の含フッ素重合体は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、耐候性等に優れているため種々の産業分野で用いられている。
含フッ素重合体の製造方法として、含フッ素乳化剤を使用し、水性媒体中で含フッ素モノマーを乳化重合する方法が挙げられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2007/046377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の含フッ素重合体の製造方法では、水性媒体を使用するので環境負荷は小さいが、必須成分である乳化剤が重合により得られた水性分散液に大量に残存する場合、用途によっては乳化剤の除去が必要になる。
【0005】
本発明は、環境負荷の小さい水性媒体を用いつつも、乳化剤を必須とせずに含フッ素重合体を効率よく製造できる、含フッ素重合体の製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、水性分散液及び粒子を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1]テトラフルオロエチレンに基づく単位とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位とを含む第1含フッ素重合体、及び、水性媒体を含む水性分散液中において、含フッ素単量体を含む単量体を重合して、上記第1含フッ素重合体とは異なる第2含フッ素重合体を製造する、含フッ素重合体の製造方法であって、
上記第1含フッ素重合体における、上記テトラフルオロエチレンに基づく単位と上記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位の合計に対して、上記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位が20~60モル%であり、
上記第1含フッ素重合体の平均粒子径が、1~150nmであり、
上記単量体の重合を開始する前において、上記第1含フッ素重合体の含有量が、上記水性分散液の全質量に対して0.01~4.0質量%である、含フッ素重合体の製造方法。
[2]上記単量体の重合を開始する前において、硫酸イオンの濃度が、上記水性分散液中の上記水性媒体の全質量に対して、5質量ppm以下である、[1]に記載の含フッ素重合体の製造方法。
[3]上記含フッ素単量体が、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、及び、フッ化ビニリデンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載の含フッ素重合体の製造方法。
[4]上記単量体が、エチレンを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の含フッ素重合体の製造方法。
[5]上記単量体の使用量が、上記水性媒体の使用量100質量部に対して、1~50質量部である、[1]~[4]のいずれかに記載の含フッ素重合体の製造方法。
[6]重合開始剤の存在下で上記単量体を重合する、[1]~[5]のいずれかに記載の含フッ素重合体の製造方法。
[7]水性媒体と、含フッ素重合体を含む粒子と、を含む水性分散液であって、
上記粒子の平均粒子径が、1μm以下であり、
上記粒子がパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、上記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位の含有量が、上記含フッ素重合体の全単位に対して、0.1~1.0モル%であり、
式(S1)で表される化合物の含有量、及び、式(S2)で表される化合物の含有量のそれぞれが、上記粒子の全質量に対して、100質量ppb以下である、水性分散液。
式(S1): H-(CF-COOM
式(S2): H-(CF-SO
式(S1)及び式(S2)において、Mはそれぞれ独立に、水素原子、Na、K、又は、NHを表し、nはそれぞれ独立に8又は10を表す。
[8]上記粒子が、テトラフルオロエチレンに基づく単位、クロロトリフルオロエチレンに基づく単位、及び、フッ化ビニリデンに基づく単位からなる群から選択される少なくとも1種の単位を含む、[7]に記載の水性分散液。
[9]上記粒子が、エチレンに基づく単位を含む、[7]又は[8]に記載の水性分散液。
[10]含フッ素重合体を含む粒子であって、
上記粒子の平均粒子径が、1μm以下であり、
上記粒子がテトラフルオロエチレンに基づく単位、エチレンに基づく単位、及び、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、
上記テトラフルオロエチレンに基づく単位と上記エチレンに基づく単位の合計に対して上記エチレンに基づく単位が20~70モル%であり、
テトラフルオロエチレンに基づく単位とエチレンに基づく単位の合計の含有量が、上記含フッ素重合体の全単位に対して80モル%以上であり、
上記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位の含有量が、上記含フッ素重合体の全単位に対して、0.1~1.0モル%であり、
式(S1)で表される化合物の含有量、及び、式(S2)で表される化合物の含有量のそれぞれが、上記粒子の全質量に対して、100質量ppb以下である、粒子。
式(S1): H-(CF-COOM
式(S2): H-(CF-SO
式(S1)及び式(S2)において、Mはそれぞれ独立に、水素原子、Na、K、又は、NHを表し、nはそれぞれ独立に8又は10を表す。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、環境負荷の小さい水性媒体を用いつつも、乳化剤を必須とせずに含フッ素重合体を効率よく製造できる、含フッ素重合体の製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、水性分散液及び粒子も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、各成分は、各成分に該当する物質を1種単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上の物質を併用する場合、その成分についての含有量とは、特段の断りが無い限り、併用した物質の合計の含有量を指す。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
「単位」とは、単量体が重合して直接形成された、上記単量体1分子に由来する原子団と、上記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。「単量体に基づく単位」は、以下、単に「単位」ともいう。
重合体が含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(質量%又はモル%)は、重合体を固体核磁気共鳴スペクトル(NMR)法により分析して求められるが、通常、各単量体の仕込み量から計算される各単位の含有量は、実際の各単位の含有量と略一致している。
【0009】
[含フッ素重合体の製造方法]
本発明の含フッ素重合体の製造方法(以下、「本製造方法」ともいう。)は、テトラフルオロエチレンに基づく単位とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位とを含む第1含フッ素重合体、及び、水性媒体を含む水性分散液(以下、本製造方法に用いる水性分散液を「水性分散液(a)」ともいう。)中において、含フッ素単量体を含む単量体(以下、「特定単量体」ともいう。)を重合して、上記第1含フッ素重合体とは異なる第2含フッ素重合体を製造する方法である。
本製造方法において、上記第1含フッ素重合体における、テトラフルオロエチレンに基づく単位とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位の合計に対して、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位が20~60モル%である。
また、本製造方法において、上記第1含フッ素重合体の平均粒子径は、1~150nmである。
また、本製造方法において、上記単量体の重合を開始する前において、上記第1含フッ素重合体の含有量が、上記水性分散液(a)の全質量に対して0.01~4.0質量%である。
【0010】
本製造方法によって乳化剤を必須にせずとも第2含フッ素重合体が効率よく製造された理由としては、平均粒子径及び含まれる各単位の比率が所定範囲にある第1含フッ素重合体を所定量含む水性分散液を用いたことで、第1含フッ素重合体が第2含フッ素重合体の良好な重合場として機能したためと推測される。
【0011】
<水性分散液>
本製造方法では、第1含フッ素重合体及び水性媒体を含む水性分散液(a)を用いる。
【0012】
(第1含フッ素重合体)
第1含フッ素重合体は、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)に基づく単位と、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」ともいう。)に基づく単位と、を含む。
第1含フッ素重合体は、特定単量体の重合時に、疎水部で特定単量体を吸着し、取り込むことにより特定単量体を可溶化し、ここに重合開始剤を加えることで特定単量体は特定粒子の粒子内で重合すると推測される。また、第1含フッ素重合体は水性媒体中及び有機溶媒中における分散安定化に寄与すると推測される。
【0013】
PAVEは、第1含フッ素重合体を製造する際の重合反応性に優れる点、及び、第2含フッ素重合体をより効率よく製造できる点から、式(1)で表される単量体が好ましい。
CF=CF-O-Rf1 (1)
式(1)中、Rf1は、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を示す。Rf1の炭素数は、重合反応性がより優れる点から、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~5がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。
パーフルオロアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0014】
PAVEの具体例としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(以下、「PMVE」ともいう。)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(以下、「PEVE」ともいう。)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(以下、「PPVE」ともいう。)が挙げられ、これらの中でも、第2含フッ素重合体をより効率よく製造できる点から、PMVE、PPVEが好ましく、PMVEがより好ましい。
【0015】
第1含フッ素重合体中において、TFE単位とPAVE単位の合計に対してPAVE単位は、20~60モル%であり、第2含フッ素重合体をより効率よく製造できる点からは、25~60モル%が好ましく、30~55モル%がより好ましい。
【0016】
第1含フッ素重合体は、TFE及びPAVE以外の他の単量体に基づく単位を含んでいてもよいが、第2含フッ素重合体をより効率よく製造できる点から、他の単量体に基づく単位を実質的に含まないことが好ましい。
他の単量体に基づく単位を実質的に含まないとは、他の単量体に基づく単位の含有量が、第1含フッ素重合体の全単位に対して、0.01モル%以下であることを意味し、0モル%がより好ましい。
他の単量体に基づく単位を含む場合、他の単量体としてはヘキサフルオロプロピレンが好ましい。
【0017】
第2含フッ素重合体の重合に用いる単量体の重合を開始する前において、第1含フッ素重合体の含有量は、水性分散液(a)中の水性媒体の全質量に対して、0.01~4.0質量%であり、第2含フッ素重合体をより効率よく製造できる点から、0.01~0.6質量%が好ましく、0.01~0.5質量%がより好ましい。
【0018】
本明細書において「第2含フッ素重合体の重合に用いる単量体の重合を開始する前」とは、重合開始時点の直前を意味する。ここで、「重合開始時点」とは、反応器内を重合温度以上にした後に単量体及び重合開始剤を反応器内に共存させた時点、及び、単量体と重合開始剤を反応器内に共存させた後に反応器内を重合温度以上にした時点等が挙げられる。
【0019】
第2含フッ素重合体の重合に用いる単量体の重合を開始する前において、硫酸イオンの濃度は、水性分散液(a)中の水性媒体の全質量に対して、第2含フッ素重合体の着色が抑制される点から、10質量ppm以下が好ましく、5質量ppm以下がより好ましい。下限としては、0質量ppmが挙げられる。
硫酸イオンの濃度を上記値にする方法の一例としては、第1含フッ素重合体の製造時にアニオン交換樹脂を用いて硫酸イオンを除去する方法が挙げられる。
ここで、硫酸イオンは、例えば、第1含フッ素重合体の製造時に使用する重合開始剤(特に、過硫酸アンモニウム)を由来としており、第1含フッ素重合体を含む水性分散液(a)中に含まれる場合がある。硫酸イオンの含有量が10質量ppm以下(特に5質量ppm以下)であることで、耐熱性の低い末端基が第2含フッ素重合体に形成されることを抑制できる結果、第2含フッ素重合体の着色が抑制されたと推測される。
【0020】
第1含フッ素重合体は、粒子の形態で水性媒体中に分散している。
第1含フッ素重合体の平均粒子径は、1~150nmであり、第2含フッ素重合体をより効率よく製造できる点から、10~120nmが好ましく、50~120nmがより好ましい。
第1含フッ素重合体の平均粒子径は、動的光散乱法によって取得された自己相関関数を単分散のキュムラント法で解析することによって算出される粒子径である。
【0021】
第1含フッ素重合体の製造方法は、重合開始剤の存在下に、水性媒体中でTFE及びPAVEを含む単量体を重合する方法が好ましい。これにより、水性媒体中で粒子状に分散した第1含フッ素重合体が得られる。
このようにして得られた第1含フッ素重合体の粒子が分散した水性媒体を、そのまま上記水性分散液(a)として用いてよく、あるいは、更に別の水性媒体を加えて、これを上記水性分散液(a)として用いてもよい。また、溶媒置換して別の水性媒体に第1含フッ素重合体を分散させて、これを上記水性分散液(a)として用いてもよい。水性分散液(a)は、アニオン交換樹脂等の硫酸イオンの除去手段によって、硫酸イオンが除去されていることが好ましい。
第1含フッ素重合体の製造に用いる重合開始剤としては、水溶性重合開始剤が好ましく、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸類、ジコハク酸過酸化物、アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩等の有機系重合開始剤類がより好ましく、過硫酸類が更に好ましく、過硫酸アンモニウムが特に好ましい。
第1含フッ素重合体の製造に用いる水性媒体としては、水、又は、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒の具体例としては、tert-ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールが挙げられる。
【0022】
(水性媒体)
本製造方法に用いる水性分散液(a)は、水性媒体を含む。水性分散液(a)に含まれる水性媒体は、上述した通り、第1含フッ素重合体の製造時に使用した重合溶媒であってもよい。
水性分散液(a)に含まれる水性媒体の具体例は、上述の第1含フッ素重合体の製造に用いる水性媒体の具体例と同様である。
第2含フッ素重合体の重合に用いる単量体の重合を開始する前において、水性媒体の含有量は、水性分散液(a)の全質量に対して、60~99.9質量%が好ましく、96~99.9質量%がより好ましく、98~99.9質量%が更に好ましい。
【0023】
(他の成分)
本製造方法に用いる水性分散液(a)は、第1含フッ素重合体及び水性媒体以外の他の成分を含んでいてもよい。
水性分散液(a)が含み得る他の成分の具体例としては、連鎖移動剤、乳化剤、pH調整剤が挙げられる。
連鎖移動剤の具体例としては、酢酸エチル、メタノール、エタノール、t-ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、n-ペンタン、シクロヘキサン、メタン、プロパンが挙げられる。
乳化剤の具体例としては、CFCF-O-CFCF-O-CFCOONH、CFCFCFOCF(CF)COOH等の含フッ素乳化剤、ラウリル硫酸ナトリウム、花王ケミカル株式会社製ぺレックスSS-H、日本乳化剤株式会社製ニューコール1305-SN等が挙げられる。
pH調整剤の具体例としては、無機塩類が挙げられる。無機塩類の具体例としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのリン酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩などが挙げられる。リン酸塩のより好ましい具体例としては、リン酸水素二ナトリウム2水和物、リン酸水素二ナトリウム12水和物等が挙げられる。
水性分散液(a)が連鎖移動剤を含む場合、連鎖移動剤の含有量は、水性媒体の100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましい。また、連鎖移動剤の使用量は、後述の特定単量体の使用量100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.1~15質量部がより好ましく、0.1~10質量部が更に好ましい。
水性分散液(a)が乳化剤を含む場合、乳化剤の含有量は、水性媒体の100質量に対して、0.01~5質量部が好ましい。
水性分散液(a)がpH調整剤を含む場合、pH調整剤の含有量は、水性媒体の100質量部に対して、0.01~3.0質量部が好ましい。
【0024】
第2含フッ素重合体の重合に用いる単量体の重合を開始する前において、フッ化物イオンの濃度は、水性分散液(a)の全質量に対して、重合安定性の点から、100質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましい。下限としては、0質量ppmが挙げられる。
フッ化物イオンの濃度を上記値にする方法の一例としては、第1含フッ素重合体の製造時にアニオン交換樹脂を用いて硫酸イオンを除去する方法が挙げられる。
ここで、フッ化物イオンは、重合開始剤(例えば、過硫酸アンモニウム)と含フッ素単量体との反応によって生じて、水性分散液中に含まれる場合がある。
【0025】
<特定単量体>
特定単量体は、含フッ素単量体を含む。
含フッ素単量体は、TFE、クロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」ともいう。)、フッ化ビニリデン(以下、「VdF」ともいう。)、からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、TFE、CTFE、及び、VdF、からなる群から選択される少なくとも1種(以下、「特定含フッ素単量体」ともいう。)を含むことがより好ましく、TFEを含むことがより好ましく、TFEであることが更に好ましい。
含フッ素単量体は、2種以上を併用してもよい。
含フッ素単量体の使用量は、特定単量体の使用量に対して、10.0~100.0モル%が好ましく、30.0~70.0モル%がより好ましく、40.0~60.0モル%が更に好ましい。
また、特定含フッ素単量体以外の含フッ素単量体(以下、「他の含フッ素単量体」ともいう。)を含むことも好ましい。他の含フッ素単量体の具体例としては、フルオロアルキルエチレン(以下、「FAE」ともいう。)、PAVE、及びヘキサフルオロプロピレンが挙げられる。他の含フッ素単量体は、2種以上を併用してもよい。
FAEの具体例としては、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF(以下、「C4OLF」ともいう。)、CH=CF(CFH、及び、CH=CF(CFHが挙げられ、C4OLFが好ましい。
PAVEとしては、上述した第1含フッ素重合体におけるPAVEと同じであり、好適態様も同じである。
他の含フッ素単量体の使用量は、特定単量体の使用量に対して、0.1~30.0モル%が好ましく、0.1~10.0モル%がより好ましく、0.5~5.0モル%が更に好ましい。
【0026】
特定単量体は、含フッ素単量体以外の単量体(以下、「他の単量体」ともいう。)を含むことが好ましい。他の単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデンが挙げられ、中でも、他の単量体は、エチレンを含むことが好ましく、エチレンであることがより好ましい。
他の単量体は、2種以上を併用してもよい。
他の単量体の使用量は、特定単量体の使用量に対して、10.0~70.0モル%が好ましく、20.0~60.0モル%がより好ましく、30.0~50.0モル%が更に好ましい。
【0027】
特定単量体の使用量は、上記水性分散液(a)に含まれる水性媒体の使用量100質量部に対して、1~50質量部が好ましく、1~40質量部がより好ましく、1~30質量部が更に好ましい。
【0028】
<重合開始剤>
本製造方法において、特定単量体は、重合開始剤の存在下で重合されることが好ましい。
重合開始剤としては、油溶性ラジカル開始剤、水溶性ラジカル開始剤、水溶性酸化還元系触媒が好ましい。
油溶性ラジカル開始剤の具体例としては、tert-ブチルパーオキシピバレート(以下、「PBPV」ともいう。)、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート(以下、「IPP」ともいう。)等の油溶性有機過酸化物が挙げられる。
水溶性ラジカル開始剤の具体例としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ジコハク酸過酸化物、ビスグルタル酸過酸化物、tert-ブチルヒドロペルオキシド(以下、「TBHP」ともいう。)等の水溶性有機過酸化物が挙げられる。
水溶性酸化還元系触媒としては、臭素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、過硫酸又はその塩、過マンガン酸又はその塩、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸又はその塩、亜硫酸水素又はその塩、チオ硫酸又はその塩、有機酸、無機塩等の還元剤と、の組み合わせが好ましい。過硫酸塩としては過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムが好ましい。亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウムが好ましい。無機塩としては、硫酸アニオン、亜硫酸アニオン及び塩化物アニオンと、金属イオンの組み合わせが挙げられる。金属イオンとしては、遷移金属が好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、セリウム及び銀のイオンが挙げられ、中でも鉄イオンが好ましい。無機塩としては硫酸鉄(II)が好ましい。
重合開始剤は、油溶性ラジカル開始剤、水溶性ラジカル開始剤が好ましく、含フッ素重合体をより効率よく製造できる点から、油溶性ラジカル開始剤がより好ましく、油溶性有機過酸化物が更に好ましい。
重合開始剤は、2種以上を併用してもよい。
【0029】
重合開始剤の使用量は、特定単量体の使用量100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.01~3質量部がより好ましく、0.01~2質量部が更に好ましい。
【0030】
<他の成分>
特定単量体の重合の際に、上記以外の成分(以下、「他の成分」ともいう。)を更に用いてもよい。他の成分の具体例としては、還元剤が挙げられる。
他の成分の使用量は、特定単量体の使用量100質量部に対して、0.1~2質量部が好ましい。
【0031】
<工程>
本製造方法では、上記水性分散液(a)中において上記特定単量体を重合して、第2含フッ素重合体を製造する。
【0032】
本製造方法によって得られる第2含フッ素重合体は、上記含フッ素単量体に基づく単位(以下、「含フッ素単位」ともいう。)を含み、含フッ素単位と、上記他の単量体に基づく単位(以下、「他の単位」ともいう。)と、含むことが好ましく、TFEとエチレンとの共重合体(以下、「ETFE」ともいう。)を含むことが好ましい。
なお、第1含フッ素重合体と第2含フッ素重合体は、共重合していてもよい。
【0033】
ETFEは、TFE単位と、エチレンに基づく単位(以下、「E単位」ともいう。)と、を含む。TFE単位とE単位とを有する共重合体において、E単位とTFE単位との合計に対するE単位の割合は、20~70モル%が好ましく、25~60モル%がより好ましく、35~55モル%がさらに好ましい。
ETFEを構成する全単位に対して、E単位とTFE単位との合計の割合は80モル%以上が好ましく、85モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましく、また、100モル%以下が好ましく、99.5モル%以下がより好ましく、99モル%以下が更に好ましい。
【0034】
特定単量体は、常法により、反応系(つまり、重合反応容器)に投入される。例えば、重合圧力が所定の圧力となるように、特定単量体を連続的又は断続的に反応系に投入してもよい。あるいは、特定単量体を水性媒体に溶解させて、得られた溶液を連続的又は断続的に反応系に投入してもよい。
重合開始剤を用いる場合、重合開始剤は反応系に一括して添加されてもよいし、分割して添加されてもよい。
【0035】
重合温度は、10~95℃が好ましく、15~90℃がより好ましい。
重合圧力は、0.5~4.0MPaGが好ましく、0.6~3.5MPaGがより好ましい。
重合時間は、バッチ処理の場合、90~1000分が好ましく、90~700分がより好ましい。
【0036】
特定単量体の重合は、乳化剤が実質的に存在しない下で実施することが好ましい。
乳化剤としては、公知の乳化剤が挙げられ、一般的な界面活性剤が挙げられる。
乳化剤を実質的に存在しない下とは、乳化剤の含有量が、上記水性分散液(a)に含まれる水性媒体の全質量に対して0.03質量ppm以下である環境を意味し、0.02質量ppm以下が好ましく、0質量ppmがより好ましい。
【0037】
上述したように、特定単量体の重合時に第1含フッ素重合体の粒子内で特定単量体が重合すると推測されるので、本製造方法では、第1含フッ素重合体と第2含フッ素重合体とを含む粒子が生成すると考えられる。すなわち、本製造方法によれば、第2含フッ素重合体は、第1含フッ素重合体と第2含フッ素重合体を含む粒子の形態で得られると推定される。この場合、本製造方法よって、第1含フッ素重合体及び第2含フッ素重合体を含む粒子が上記水性媒体中に分散した水性分散液(a)が得られる。
【0038】
[水性分散液]
本発明の水性分散液(以下、「本水性分散液」ともいう。)は、水性媒体と、含フッ素重合体を含む粒子(以下、「特定粒子」ともいう。)と、を含む水性分散液である。
本水性分散液において、上記特定粒子の平均粒子径は1μm以下である。
また、本水性分散液において、上記特定粒子はPAVE単位を含み、上記PAVE単位の含有量は上記含フッ素重合体の全単位に対して0.1~1.0モル%である。
また、本水性分散液において、後述の式(S1)で表される化合物の含有量、及び、後述の式(S2)で表される化合物の含有量のそれぞれが、上記特定粒子の全質量に対して、100質量ppb以下である。
【0039】
<特定粒子>
本水性分散液は、上述の本製造方法によって容易に得られる。したがって、本水性分散液に含まれる特定粒子は、上述の第1含フッ素重合体と上述の第2含フッ素重合体とを含む粒子であることが好ましい。この場合、特定粒子に含まれる含フッ素重合体は、第1含フッ素重合体と第2含フッ素重合体との2種類の含フッ素重合体を含む。
【0040】
特定粒子は、PAVE単位を含む。PAVE単位の詳細は、上述の第1含フッ素重合体に含まれるPAVE単位と同様であり、好適態様も同様である。
特定粒子に含まれるPAVE単位の含有量は、特定粒子に含まれる含フッ素重合体の全単位に対して、0.1~1.0モル%であり、0.1~0.9モル%が好ましく、0.1~0.8モル%がより好ましい。
PAVE単位の含有量が0.1モル%以上であれば、重合安定性がより優れる。また、PAVE単位の含有量が1.0モル%以下であれば、機械物性がより優れる。
【0041】
本明細書において、特定粒子に含まれる含フッ素重合体が1種類のみである場合には、「含フッ素重合体の全単位」とはその1種の含フッ素重合体に含まれる全ての単位を意味する。また、特定粒子に含まれる含フッ素重合体が2種以上である場合には、「含フッ素重合体の全単位」とは、2種以上の含フッ素重合体に含まれる全ての単位を意味する。
【0042】
特定粒子は、PAVE単位と、PAVE単位以外の上述の含フッ素単量体に基づく単位(すなわち、上述の含フッ素単位)と、を含むことが好ましく、PAVE単位と、TFE単位、CTFE単位、及び、VdF単位からなる群から選択される少なくとも1種の単位と、を含むことがより好ましく、PAVE単位と、TFE単位と、を含むことが更に好ましい。
特定粒子がPAVE単位以外の含フッ素単位を含む場合、PAVE単位以外の含フッ素単位の含有量は、特定粒子に含まれる含フッ素重合体の全単位に対して、30~70モル%が好ましく、40~60モル%がより好ましく、45~60モル%が更に好ましい。
【0043】
特定粒子は、上述の他の単量体に基づく単位(すなわち、上述の他の単位)を含むことが好ましく、上述のE単位を含むことがより好ましい。
特定粒子が他の単位を含む場合、他の単位の含有量は、特定粒子に含まれる含フッ素重合体の全単位に対して、30~70モル%が好ましく、40~60モル%がより好ましく、40~55モル%が更に好ましい。
【0044】
特定粒子の好適態様は、PAVE単位、PAVE単位以外の含フッ素単位、及び、他の単位を含む態様であり、中でも、PAVE単位、TFE単位、及び、E単位を含む態様がより好ましい。
また、特定粒子に含まれるPAVE単位、PAVE単位以外の含フッ素単位、及び、他の単位は、特定粒子中の含フッ素重合体に含まれることが好ましい。
【0045】
特定粒子の含有量は、本水性分散液の全質量に対して、特定粒子の分散安定性の点で、1~50質量%が好ましく、1~40質量%がより好ましく、1~30質量%が更に好ましい。
【0046】
特定粒子の平均粒子径は、1μm以下であり、特定粒子の分散安定性の点から、500nm以下が好ましく、400nm以下がより好ましい。
特定粒子の平均粒子径は、凝集性の点から、50nm以上が好ましく、70nm以上がより好ましく、100nm以上が更に好ましい。
特定粒子の平均粒子径は、動的光散乱法によって取得された自己相関関数を単分散のキュムラント法で解析することによって算出される粒子径である。
【0047】
<水性媒体>
本水性分散液に含まれる水性媒体の具体例は、上述の第1含フッ素重合体の製造に用いる水性媒体の具体例と同様である。
水性媒体の含有量は、本水性分散液の全質量に対して、特定粒子の分散安定性の点で、50~99質量%が好ましく、60~99質量%がより好ましく、70~99質量%が更に好ましい。
【0048】
<式(S1)で表される化合物、及び、式(S2)で表される化合物>
式(S1)で表される化合物及び式(S2)で表される化合物は、重合開始剤、連鎖移動剤及び乳化剤(特に、炭化水素系乳化剤)の存在下で、上述の特定単量体(特に、TFE)を重合する際に生じ得る成分である。したがって、本水性分散液に含まれる含フッ素重合体の製造時に乳化剤を使用しない場合には、式(S1)で表される化合物及び式(S2)で表される化合物の発生量を抑制できるので、これらの化合物の含有量を後述の範囲内にすることが容易になる。
【0049】
式(S1): H-(CF-COOM
式(S2): H-(CF-SO
式(S1)及び式(S2)において、Mはそれぞれ独立に、水素原子、Na、K、又は、NHを表し、nはそれぞれ独立に8又は10を表す。
【0050】
本水性分散液において、式(S1)で表される化合物の含有量及び式(S2)で表される化合物の含有量はそれぞれ、特定粒子の全質量に対して、100質量ppb以下であり、50質量ppb以下が好ましく、25質量ppb以下がより好ましく、0質量ppb(すなわち、式(S1)で表される化合物を含まないこと)が更に好ましい。
【0051】
<その他>
本水性分散液は、乳化剤を実質的に含まないことが好ましい。乳化剤とは、上述した通りである。
本水性分散液中において乳化剤を実質的に含まないとは、乳化剤の含有量が、本水性分散液の全質量に対して、0.03質量ppm以下であることを意味し、0.02質量ppm以下が好ましく、0質量ppmがより好ましい。
【0052】
<用途>
本水性分散液は、上述したように、乳化剤を必須としないため、溶媒置換により例えばN-メチルピロリドン、アセトン等の有機溶媒の分散液とすることも容易である。
例えば、本水性分散液を有機溶媒と混合し、蒸発又は無水硫酸ナトリウム等を用いて脱水することにより、有機溶媒の分散液とすることができる。
【0053】
本水性分散液は、乳化剤を含まなくても含フッ素重合体が安定して分散する。そのため、コーティング用途、バインダー等に好適に使用できる。
【0054】
また、本水性分散液から特定粒子を凝集させることにより、特定粒子の粉末を得ることができる。さらに、凝集により得られた特定粒子の粉末を、溶融混練等により均質化して、ペレット状、粒状等の形状の成形材料とすることができ、また、凝集により得られた特定粒子の粉末から溶融成形等により成形物とすることもできる。
【0055】
凝集方法としては、凍結凝集、酸凝集、塩基凝集及び凝析剤を用いた凝集が挙げられるがこれに限られない。
凍結凝集の場合、凝集温度は-20~0℃が好ましい。凝集時間は1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。
酸凝集の場合、酸を含む溶液を本水性分散液に添加する方法が好ましい。添加する酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、シュウ酸、フッ化水素酸等が挙げられ、塩酸が好ましい。酸を含む溶液中の酸の濃度は0.1~50質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
塩基凝集としては、塩基を含む溶液を本水性分散液に添加する方法が好ましい。添加する塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸アンモニウム等が挙げられ、水酸化ナトリウムが好ましい。塩基を含む溶液中の塩基の濃度は0.1~50質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
凝析剤による凝集としては、公知の凝析剤が使用できる。公知の凝析剤としては、アルミニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩が挙げられる。具体的には、硫酸アルミニウム、一般式M’Al(SO42・12H2O〔式中、M’はリチウム以外の一価カチオンである。〕で表されるミョウバン、硝酸カルシウム、硫酸マグネシウムが挙げられ、ミョウバンが好ましく、Mがカリウムであるカリミョウバンがより好ましい。
凝集方法としては、凝集が特に進みやすいことから塩基凝集が好ましい。
【0056】
[粒子]
本発明の粒子(以下、「本粒子」ともいう。)は、含フッ素重合体を含む粒子であり、本粒子の平均粒子径は1μm以下である。
また、本粒子はTFE単位、E単位、及び、PAVE単位を含み、TFE単位とE単位の合計に対してE単位が20~70モル%であり、TFE単位とE単位の合計の含有量が上記含フッ素重合体の全単位に対して80モル%以上であり、上記PAVE単位の含有量が上記含フッ素重合体の全単位に対して0.1~1.0モル%である。
また、本粒子において、上述の式(S1)で表される化合物の含有量、及び、上述の式(S2)で表される化合物の含有量のそれぞれが、本粒子の全質量に対して、100質量ppb以下である。
本粒子は、上述の本水性分散液を用いた凝集方法によって得られた粒子であるのが好ましい。本粒子の好適態様は、上述の本水性分散液に含まれる特定粒子の好適態様と同様であるので、その説明を省略する。
ここで、本粒子の平均粒子径とは、凝集後に得られる本粒子を走査電子顕微鏡によって撮影して、得られるSEM像から異なる5個の粒子の粒子径を求めて、これを算術平均した値を意味する。
【実施例
【0057】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。例1~例3は実施例であり、例4~例5は比較例である。ただし本発明はこれらの例に限定されない。
【0058】
[測定及び評価方法]
各種測定方法及び評価方法は下記のとおりである。
【0059】
<原料液中の粒子の平均粒子径>
原料液を試料とし、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(大塚電子株式会社、ELSZ)を用いて測定した。
なお、原料液に対応する水性分散液中の粒子の平均粒子径を原料液と同様の方法で測定すると、原料液中の粒子の平均粒子径と同一であった。
【0060】
<乾燥後の粒子の平均粒子径>
各例において得られた粒子を乾燥して凝集させた後、走査電子顕微鏡(例えば、日本電子社製、JSM-IT700HR InTouchScope)によって撮影した。得られたSEM像から測定される異なる5個の粒子の粒子径を求めて、これを算術平均した。
【0061】
<重合体における各単位の割合>
重合体における各単位の割合は、19F-NMR分析、赤外吸収スペクトル分析から求めた。
【0062】
<式(S1)で表される化合物の含有量>
後述の各例で得られた水性分散液中の粒子の全質量に対する、上記式(S1)で表される化合物の含有量は、国際公開第2018/181904号の[0710]~[0720]段落に記載された液体クロマトグラフ質量分析計を用いた測定方法のうち、水性分散液を用いた方法によって算出した。なお、装置はAgilent 1260シリーズHPLC/6460Sを使用し、カラムはImtakt製cadenza CD-C18を使用した。
【0063】
<式(S2)で表される化合物の含有量>
後述の各例で得られた水性分散液中の粒子の全質量に対する、上記式(S2)で表される化合物の含有量は、国際公開第2018/181904号の[0721]~[0732]段落に記載された液体クロマトグラフ質量分析計を用いた測定方法のうち、水性分散液を用いた方法によって算出した。なお、装置はAgilent 1260シリーズHPLC/6460Sを使用し、カラムはImtakt製cadenza CD-C18を使用した。
【0064】
<硫酸イオンの濃度>
水性分散液中の水性媒体の全質量に対する、硫酸イオンの濃度は、次のようにして測定した。水性分散液を凍結凝集した後、濾別し、得られた水性媒体をイオンクロマトグラフィーで分析した。
なお、イオンクロマトグラフィーによる分析は、イオンクロマトグラフ ICS-5000(Thermo Fisher Scientific製)を使用した。分離カラムにはDionex IonPac AS-19、ガードカラムにはDionex IonPac AG-19を使用し、溶離液にはKOHを使用した。
【0065】
[原料液Aの製造]
2.1Lのステンレス製耐圧反応器に超純水(1162g)、28%NH水溶液(1滴)、PMVE(70g)、TFE(14g)を仕込み、600rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。次に、過硫酸アンモニウム水溶液(5.9質量%、5cc)を添加し、重合を開始した。重合開始に伴い反応器内の圧力が低下するためTFEを添加し、圧力を一定に保った。TFEを24g圧入したところで反応器を冷却し、重合反応を終了した。反応器内に残存するガスを回収した後、反応器内の液を抜きだした。この液を原料液Aとした。原料液Aは、含フッ素重合体1Aの粒子(平均粒子径110nm)が水性媒体中に分散しており、含フッ素重合体1Aの含有量は、原料液Aの全質量に対して3.0質量%であった。
原料液Aを凍結凝集した後、濾別し、得られた含フッ素重合体1Aを超純水で洗浄した。その後、100℃で真空乾燥した。得られた含フッ素重合体1AをNMRで分析した結果、PMVE単位/TFE単位=34.4/65.6(モル比)であった。
【0066】
[原料液Bの製造]
上記原料液A(200g)に超純水(200g)加えて、200rpmで攪拌した。これに、イオン交換樹脂(Purolite A300(Purolite社製)、アニオン交換樹脂、4g)加えて、20分間攪拌した。その後、20分おきに上記イオン交換樹脂(2g)加えた。攪拌を開始してから60分後、原料液とイオン交換樹脂とを濾別して、原料液Bを得た。原料液Bは、含フッ素重合体1Aの粒子(平均粒子径110nm)が水性媒体中に分散しており、含フッ素重合体1Aの含有量は、原料液Bの全質量に対して1.5質量%であった。
【0067】
[原料液Cの製造]
1.3Lのステンレス製耐圧反応器に超純水(717g)、28%NH水溶液(1滴)、PMVE(63g)、TFE(10g)仕込み、500rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。次に、過硫酸アンモニウム水溶液(3.6質量%、5cc)添加し、重合を開始した。重合開始に伴い反応器内の圧力が低下するためTFEを添加し、圧力を一定に保った。TFEを5g圧入したところで反応器を冷却し、重合反応を終了した。反応器内に残存するガスを回収した後、液を抜きだした。この液を原料液Cとした。
原料液Cを凍結凝集した後、濾別し、得られた含フッ素重合体1Cを超純水で洗浄した。その後、100℃で真空乾燥した。得られた含フッ素重合体1CをNMRで分析した結果、PMVE単位/TFE単位=47.3/52.7(モル比)であった。
【0068】
[原料液Dの製造]
上記原料液C(200g)に(Purolite A300(Purolite社製)、アニオン交換樹脂、4g)加え、200rpmで20分間攪拌した。その後、20分おきに上記イオン交換樹脂(2g)加えた。攪拌を開始してから60分後、ろ過することで原料液とイオン交換樹脂とを濾別して、原料液Dを得た。原料液Dは、含フッ素重合体1Cの粒子(平均粒子径89nm)が水性媒体中に分散しており、含フッ素重合体1Cの含有量は、原料液Dの全質量に対して1.1質量%であった。
【0069】
[原料液Eの製造]
アンカー翼を備えた内容積2100mLのステンレス製耐圧反応器を脱気した後、超純水(1170g)、リン酸水素二ナトリウム(10.48g)、ポリメチルメタクリレイト(37mg)を仕込んだ。次に、反応器内の溶液を撹拌しながら、PMVEの75g、TFEの14gを仕込んだ(TFE:PMVE=25:75(モル比))。昇温し、内温が80℃になったときの反応器内圧は1.3MPa[gauge]であった。過硫酸アンモニウムを超純水に溶解させた溶液(20質量%)の5mLを添加し、重合を開始した。重合の進行に伴い、反応器内圧が1.29MPa[gauge]に低下した時点でTFEを圧入し、反応器内圧を1.3MPa[gauge]に昇圧させた。これを繰り返し、TFEの8gを圧入するたびにPMVEの7gも圧入した。TFEの総添加質量が160gとなった時点で、重合開始後に圧入する単量体(以下、「後添加単量体」ともいう。)の添加を停止し、反応器内温を10℃に冷却させ、重合反応を停止させ、反応器内に残存するガスを回収した後、液を抜きだした。この液を原料液Eとした。
原料液Eを凍結凝集した後、濾別し、得られた含フッ素重合体1Eを超純水で洗浄した。その後、100℃で真空乾燥した。得られた含フッ素重合体1EをNMRで分析した結果、PMVE/TFE=34/66(モル比)であった。
また、含フッ素重合体1Eの平均粒子径は290~300nmであった。
【0070】
[原料液Fの製造]
上記原料液E(20g)に超純水(180g)加え、イオン交換樹脂(Purolite A300(Purolite社製)、アニオン交換樹脂、4g)を加え、200rpmで20分間攪拌した。その後、20分おきに上記イオン交換樹脂(2g)加えた。攪拌を開始してから60分後、原料液とイオン交換樹脂を濾別して、原料液Fを得た。原料液Fは、含フッ素重合体1Eの粒子(平均粒子径326nm)が水性媒体中に分散しており、含フッ素重合体1Eの含有量は、原料液Fの全質量に対して2.0質量%であった。
【0071】
[例1]
1.2Lのステンレス製耐圧反応器に超純水(428g)、原料液B(185ml)、リン酸水素二ナトリウム12水和物(0.5g)、t-BuOH(16.5g)を仕込み、水性分散液Bを得た。水性分散液Bを320rpmで攪拌しながら60℃に昇温した。反応器内の圧力が2.6MPaGになるまで混合ガス(TFE/エチレン=86/14(モル比))を圧入し、TBHP水溶液(0.2質量%、2ml)と還元剤(BRUGGOLITE(登録商標)FF6M、0.396質量%、2cc)を添加し、重合を開始した。重合開始に伴い反応器内の圧力が低下するため混合CGガス(TFE/エチレン=54/46(モル%))を添加し、圧力を一定に保った。重合開始から5分ごとにTBHP水溶液(0.2質量%、1cc)と上記還元剤(1cc)を添加した。混合CGガスを80g圧入したところで反応器を冷却し、重合反応を終了した。重合時間は167分だった。
なお、含フッ素重合体1Aの含有量は、水性分散液Bの全質量に対して0.44質量%であった。
また、重合に使用した水性分散液B中の水性媒体の使用量を100質量部とした場合、重合に用いた単量体(TFE及びエチレン)の使用量は12.3質量部であった。
また、水性分散液Bを凍結凝集した後、濾別し、得られた水性媒体をイオンクロマトグラフィーで分析した結果、硫酸イオンの濃度は0.1質量ppm未満であった。
反応器内に残存するガスを回収した後、液を抜きだした。この液を水性分散液1とした。水性分散液1は、含フッ素重合体2Aを含む粒子(平均粒子径196nm)が水性媒体中に分散した分散液であり、固形分濃度が10.6質量%であった。
得られた粒子を凝集し、乾燥後、NMRを用いて組成を算出した結果、TFE単位/E単位/PMVE単位=56.3/43.1/0.6(モル比)であった。また、乾燥後の粒子の平均粒子径は、156nmであった。
また、水性分散液1において、水性分散液1中の上記粒子の全質量に対する、上記式(S1)で表される化合物及び上記式(S2)で表される化合物の含有量は、いずれも100質量ppb以下であった。
【0072】
[例2]
1.2Lのステンレス製耐圧反応器に超純水(520.5g)、原料液A(92.5ml)、リン酸水素二ナトリウム12水和物(0.5g)、t-BuOH(16.5g)を仕込み、水性分散液Aを得た。水性分散液Aを320rpmで攪拌しながら60℃に昇温した。反応器に混合ガス(TFE/エチレン=86/14(モル比))を圧入したが圧入と同時に圧力降下が始まったため、圧入が2.6MPaGに達した時点でTBHP水溶液(0.2質量%、2ml)と還元剤(BRUGGOLITE(登録商標)FF6M、0.396質量%、2cc)を添加し、重合を開始した。重合開始に伴い反応器内の圧力が低下するため混合CGガス(TFE/エチレン=54/46(モル比))を添加し、圧力を一定に保った。重合開始から5分ごとにTBHP水溶液(0.2質量%、1cc)と上記還元剤(1cc)を添加した。混合CGガスを80g圧入したところで反応器を冷却し、重合反応を終了した。重合時間は181分だった。
なお、含フッ素重合体1Aの含有量は、水性分散液Aの全質量に対して0.22質量%であった。
また、重合に使用した水性分散液A中の水性媒体の使用量を100質量部とした場合、重合に用いた単量体(TFE及びエチレン)の使用量は12.7質量部であった。
また、水性分散液Aを凍結凝集した後、濾別し、得られた水性媒体をイオンクロマトグラフィーで分析した結果、硫酸イオンの濃度は8.2質量ppmであった。
反応器内に残存するガスを回収した後、液を抜きだした。この液を水性分散液2とした。水性分散液2は、含フッ素重合体2Bを含む粒子(平均粒子径212nm)が水性媒体中に分散した分散液であり、固形分濃度が10.2質量%であった。
得られた粒子を凝集し、乾燥後、NMRを用いて組成を算出した結果、TFE単位/E単位/PMVE単位=56.9/42.4/0.7(モル比)であった。また、乾燥後の粒子の平均粒子径は、182nmであった。
また、水性分散液2において、水性分散液2中の上記粒子の全質量に対する、上記式(S1)で表される化合物及び上記式(S2)で表される化合物の含有量は、いずれも100質量ppb以下であった。
【0073】
[例3]
1.2Lのステンレス製耐圧反応器に超純水(428g)、原料液D(185ml)、リン酸水素二ナトリウム12水和物(0.5g)、t-BuOH(16.5g)を仕込み、水性分散液Dを得た。水性分散液Dを320rpmで攪拌しながら60℃に昇温した。反応器内の圧力が2.6MPaGになるまで混合ガス(TFE/エチレン=86/14(モル比))を圧入し、TBHP水溶液(0.2質量%、2ml)と還元剤(BRUGGOLITE(登録商標)FF6M、0.396質量%、2cc)を添加し、重合を開始した。重合開始に伴い反応器内の圧力が低下するため混合CGガス(TFE/エチレン=54/46(モル比))を添加し、圧力を一定に保った。重合開始から5分ごとにTBHP水溶液(0.2質量%、1cc)と上記還元剤(1cc)を添加した。混合CGガスを92g圧入したところで反応器を冷却し、重合反応を終了した。重合時間は97分だった。
なお、含フッ素重合体1Cの含有量は、水性分散液Dの全質量に対して0.32質量%であった。
また、重合に使用した水性分散液D中の水性媒体の使用量を100質量部とした場合、重合に用いた単量体(TFE及びエチレン)の使用量は14.6質量部であった。
また、水性分散液Dを凍結凝集した後、濾別し、得られた水性媒体をイオンクロマトグラフィーで分析した結果、硫酸イオンの濃度は0.1質量ppm未満であった。
反応器内に残存するガスを回収した後、液を抜きだした。この液を水性分散液3とした。水性分散液3は、含フッ素重合体2Cを含む粒子(平均粒子径461nm)が水性媒体中に分散した分散液であり、固形分濃度が12質量%であった。
得られた粒子を凝集し、乾燥後、NMRを用いて組成を算出した結果、TFE単位/E単位/PMVE単位=55.9/43.7/0.4(モル比)であった。また、乾燥後の粒子の平均粒子径は、427nmであった。
また、水性分散液3において、水性分散液3中の上記粒子の全質量に対する、上記式(S1)で表される化合物及び上記式(S2)で表される化合物の含有量は、いずれも100質量ppb以下であった。
【0074】
[例4]
1.2Lのステンレス製耐圧反応器に超純水(613g)、リン酸水素二ナトリウム12水和物(0.5g)、t-BuOH(16.5g)を仕込み、320rpmで攪拌しながら60℃に昇温した。反応器内の圧力が2.6MPaGになるまで混合ガス(TFE/エチレン=86/14(モル比))を圧入し、TBHP水溶液(0.2質量%、2ml)と還元剤(BRUGGOLITE(登録商標)FF6M、0.396質量%、2cc)を添加し、重合を開始した。重合開始に伴い反応器内の圧力が低下するため混合CGガス(TFE/エチレン=54/46(モル比))を添加し、圧力を一定に保った。重合開始から5分ごとにTBHP水溶液(0.2質量%、1cc)と上記還元剤(1cc)を添加した。混合CGガスを92g圧入したところで反応器を冷却し、重合反応を終了した。重合時間は340分だった。
反応器内に残存するガスを回収した後、液を抜きだしたが、全て凝集しており、含フッ素重合体の粒子が水性媒体に分散した水性分散液を得ることができなかった。
【0075】
[例5]
1.2Lのステンレス製耐圧反応器に超純水(513g)、原料液F(100ml)、リン酸水素二ナトリウム12水和物(0.5g)、t-BuOH(16.5g)を仕込み、水性分散液Fを得た。水性分散液Fを320rpmで攪拌しながら60℃に昇温した。反応器内の圧力が2.6MPaGになるまで混合ガス(TFE/エチレン=86/14(モル比))を圧入し、TBHP水溶液(0.2質量%、2ml)と還元剤(BRUGGOLITE(登録商標)FF6M、0.396質量%、2cc)を添加し、重合を開始した。重合開始に伴い反応器内の圧力が低下するため混合CGガス(TFE/エチレン=54/46(モル比))を添加し、圧力を一定に保った。重合開始から5分ごとにTBHP水溶液(0.2質量%、1cc)と上記還元剤(1cc)を添加した。混合CGガスを80g圧入したところで反応器を冷却し、重合反応を終了した。重合時間は370分だった。
なお、含フッ素重合体1Eの含有量は、水性分散液Fの全質量に対して0.32質量%であった。
また、水性分散液Fを凍結凝集した後、濾別し、得られた水性媒体をイオンクロマトグラフィーで分析した結果、硫酸イオンの濃度は0.1質量ppm未満であった。
反応器内に残存するガスを回収した後、液を抜きだしたが、全て凝集しており、含フッ素重合体の粒子が水性媒体に分散した水性分散液を得ることができなかった。
【0076】
[評価]
<着色>
各例の水性分散液1~3に含まれる粒子を凝集し、乾燥して、各例に対応する凝集物を得た。得られた凝集物から、1mmの厚みを有するシートを作製し、カラーメーター(SMカラーメーター、スガ試験機株式会社製)を用いて、Y.I.及び、CIE Wを透過で求めた。Y.I.及びCIE Wの値を表1に示す。
ここで、「Y.I.」は、黄みを表す指標であり、この値が高いほど黄みがかっているといえる。また、「CIE W」は、白みを表す指標であり、この値が低いほど黒みがかっているといえる。
また、1mmの厚みを有するシートは、凝集物2gを300℃で10分間加熱し、300℃で5分間、10MPaの条件でプレス成型し、その後冷却して得たものである。
なお、例4及び例5については、水性分散液が得られなかったので、着色の評価を実施できなかった。
【0077】
【表1】
【0078】
本発明の含フッ素重合体の製造方法によれば、環境負荷の小さい水性媒体を用いつつも、乳化剤を必須とせずに含フッ素重合体を効率よく製造できることが示された(例1~3)。
また、例1~3の対比から、硫酸イオンの濃度が水性分散液に含まれる水性媒体の全質量に対して5質量ppm以下である水性分散液を重合に使用した場合、含フッ素重合体の着色を十分に抑制できることが示された(例1及び例3)。
これに対して、例4及び例5では、含フッ素重合体を効率よく製造できなかった。
【0079】
なお、2022年12月16日に出願された日本特許出願2022-201048号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。