(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】化学分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20250304BHJP
【FI】
G01N35/00 F
(21)【出願番号】P 2021127584
(22)【出願日】2021-08-03
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高麗 友輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 睦三
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幸太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕人
(72)【発明者】
【氏名】綱島 健太
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-091518(JP,A)
【文献】特開昭61-025064(JP,A)
【文献】特開2008-058151(JP,A)
【文献】特開平11-326334(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021047(WO,A1)
【文献】特開2000-105239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00~35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬が分注される反応セルを複数備え、前記反応セルに収容された前記検体と前記試薬の混合液に光を照射して前記混合液を通過した光を測光する測光系により吸光度測定を行う化学分析装置であって、
故障診断を行う診断部を備え、前記診断部は、所定の反応セル毎に故障診断用の測光データの母集団を作成し、前記所定の反応セル毎に作成した測光データの母集団の測光データと予め設定した閾値と比較して故障診断する化学分析装置において、
前記診断部は、故障診断用のサンプル検体と故障診断用の試薬を用いて測定された時系列の測光データを蓄積し、前記蓄積された測光データに基づき、前記所定の反応セル毎に故障診断用の測光データの母集団を作成することを特徴とする化学分析装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の化学分析装置において、
前記閾値と比較する測光データは、前記測光データの測定値と平均値の差分量であることを特徴とする化学分析装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の化学分析装置において、
前記閾値と比較する測光データは、前記測光データの測定値の標準偏差を平均値で割った変動係数であることを特徴とする化学分析装置。
【請求項4】
請求項
1に記載の化学分析装置において、
前記診断部は、前記化学分析装置を構成する機構の時系列データを取得し、前記所定の反応セル毎に作成した測光データの母集団の測光データと前記予め設定した閾値と比較して故障判定した場合、前記機構の時系列データと照合して故障位置を推定することを特徴とする化学分析装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の化学分析装置において、
前記化学分析装置を構成する機構は、試料分注機構または試薬分注機構であり、前記化学分析装置を構成する機構の時系列データは前記試料分注機構または前記試薬分注機構を構成する分注経路における圧力値またはシリンジポンプの圧力制御時の電流値であることを特徴とする化学分析装置。
【請求項6】
請求項
4に記載の化学分析装置において、
前記化学分析装置を構成する機構は、前記検体と前記試薬を攪拌する攪拌機構であり、前記化学分析装置を構成する機構の時系列データは前記攪拌機構を構成する超音波素子の出力超音波の音圧値または前記超音波素子の駆動時の電流値であることを特徴とする化学分析装置。
【請求項7】
請求項
1に記載の化学分析装置において、
前記診断部は、前記測光データを蓄積し、蓄積データにより新たな閾値を決定することを特徴とする化学分析装置。
【請求項8】
請求項
1に記載する化学分析装置において、
前記反応セルの総数に応じて故障診断に用いる反応セルの位置と数を設定することを特徴とする化学分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分析装置にかかり、特に故障診断機能を備えた化学分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学分析装置は、サンプル及び試薬を反応容器に供給する自動サンプル及び試薬供給機構と、反応容器内のサンプル及び試薬を攪拌する自動攪拌機構と、反応中又は反応終了後にサンプルの物性を計測する比色測定部と、計測が終了したサンプルを吸引及び排出し、反応容器を洗浄する自動洗浄機構と、これらの動作を制御する制御部を有する。化学分析装置の処理能力は、1時間当たり数百テストから、大型の装置になると1時間当たり9000テスト以上のものまである。
【0003】
比色測定部では、光源からの白色光を反応容器内の被測定溶液に照射し、透過した光を分光装置によって分光する。分光した光のうち特定の波長の光強度を測定し、それを予め測定した基準濃度の溶液の光強度と比較することにより、吸光度を算出する。吸光度より、被測定溶液中の化学成分を分析する。
【0004】
化学分析装置では、光源としてハロゲンランプが使用される。ハロゲンランプは、可視領域から近赤外領域までをカバーする連続スペクトル光源である。また、ハロゲンサイクルによりフィラメントの寿命が長いという優れた特性がある。
【0005】
光源ランプには定格寿命が設定されている。定格寿命は、多数のランプの寿命の平均値として定義されている。従って、定格寿命に達した時にすべてのランプが寿命となるわけではない。例えば、定格寿命に達する前に点灯不能となる場合もある。
【0006】
そこで、ランプには推奨交換期間が設定される。推奨交換期間は、定格寿命より短く設定される。即ち、定格寿命に対してマージンを見込んで推奨交換期間を設定する。このマージンが過大であると、ランプの交換頻度が高くなり、ランニングコストが大きくなる。従って、ランニングコストを抑えるためには、定格寿命に対して少ないマージンを見込んで推奨交換期間を設定すればよい。しかしながら、この場合、寿命末期において仕様を満足する光量が確保されていても短時間で光量が変動する現象が起きることが知られている。光量の変動は測定精度の変動につながる。そのため、マージンを少なくしてランプの推奨交換期間を設定することには限界がある。
【0007】
特許文献1では、光源ランプの寿命を長くし、測定精度を確保することができる化学分析装置を提供することを目的として、ランプの寿命を延ばすために、光源駆動電力を定格値より低い値で、かつ、ブランク吸光度が所定の許容値内に収まるように設定する方法が提案されている。また、特許文献1では、光源に供給する光源駆動電力を監視し、光源ランプの寿命、光源ランプの故障を診断したり、吸光度を監視し、光源ランプの故障を診断したりすることが提案されている。
【0008】
特許文献2では、光検出器を備える測定部の異常を早期に把握できるようにすることを目的として、測定対象の検体を収容する検体容器を保持する検体容器保持部と、試薬を収容する試薬容器を保持する試薬容器保持部と、検体及び試薬が攪拌される反応容器を保持する反応容器保持部と、検体容器から検体を吸引し、反応容器に検体を分注する検体分注部と、試薬容器から試薬を吸引し、反応容器に試薬を分注する試薬分注部と、反応容器に分注された検体と試薬とを反応させた反応物を測定する測定部と、測定部に対して、自動分析装置の起動時、所定単位の検体の測定開始時、及び所定単位の検体の測定終了時に、測定部の自己診断を行わせ、測定部の測定値に基づいて、測定部の正常又は異常を判定する制御部と、制御部の制御により、測定部が自己診断して得た測定値が時系列で表示される表示部とを備える自動分析装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-058151号公報
【文献】特開2019-158738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1によれば、光源ランプの寿命を長くし、測定精度を確保することができる。しかしながら、特許文献1には、光源ランプ以外の故障について診断する方法は記載されていない。光源ランプ以外にも、分注機構、撹拌機構、洗浄機構、反応セルなど装置の分析性能を満たすために各々閾値判断などされている場合があるが、各機構の故障診断は独立していて、故障個所の特定が難しく、復旧に時間がかかってしまうことがある。
【0011】
特許文献2によれば、起動時に測定部が正常と判定されても、所定単位の検体の測定開始時、及び所定単位の検体の測定終了時に測定部が異常と判定された場合に、速やかに異常を把握し、所定の対処を行うことが可能となり、異常と判定された測定部を使い続けることに伴う測定値の異常をなくすことができる。しかしながら、特許文献2では、光検出器を備える測定部の異常以外について診断する方法は記載されていない。
【0012】
本発明の目的は、故障診断において故障位置の推定を容易にする化学分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明の化学分析装置は、特許請求の範囲に記載のように構成したものである。なお、特許請求の範囲において、引用形式の請求項における他の請求項の引用は、引用形式の請求項の記載を分かり易くするために単項引用としているが、本発明は、引用形式の請求項において、複数の請求項を引用する形態(多項引用項)、及び、複数の多項引用項を引用する形態を含む。
具体的には、本発明の化学分析装置は、例えば、検体と試薬が分注される反応セルを複数備え、反応セルに収容された検体と試薬の混合液に光を照射して混合液を通過した光を測光する測光系により吸光度測定を行う化学分析装置であって、故障診断を行う診断部を備え、診断部は、故障診断用のサンプル検体と故障診断用の試薬を用いて測定された時系列の測光系データを蓄積し、所定の反応セル毎に故障診断用の測光データの母集団を作成し、所定の反応セル毎に作成した測光データの母集団の測光データと予め設定した閾値と比較して故障診断するものである。
また、診断部は、分注機構や攪拌機構などの化学分析装置を構成する各種機構の時系列データを取得し、所定の反応セル毎に作成した測光データの母集団の測光データと予め設定した閾値と比較して故障判定した場合、各種機構の時系列データと照合して故障位置を推定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、故障診断において故障位置の推定が容易となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明が適用される化学分析装置の全体的な装置構成例を説明する説明図である。
【
図2】実施例1に記載する測光系の測定結果を説明する図である。
【
図3】実施例1に記載する装置構成の恒温槽を上面から見た説明図である。
【
図4】実施例1に記載する測光系の測定結果を説明する図である。
【
図5】実施例1に記載する故障診断の流れを説明するフローチャー
トである。
【
図6】実施例2に記載する故障診断の流れを説明するフローチャー
トである。
【
図7】実施例2に記載する測定結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を使用して、本発明の実施例を説明する。なお、実質的に同一又は類似の構成には、同一の符号を付し、説明が重複する場合には、その説明を省略する場合がある。
【実施例1】
【0017】
まず、
図1を参照して、本発明が適用される化学分析装置の全体的な装置構成例を説明する。
化学分析装置は、制御部30と機構部50と診断部60を有する。制御部30は、制御用電源31、CPU32、メモリ33、記憶媒体34、I/O35、及び、AD変換器36を有する。機構部50は、光源用電源41、光源42、多波長光度計43、電力計44、試料分注機構53、試薬分注機構54、攪拌機構55、洗浄機構56、及び、恒温槽57を有する。診断部60は、制御用電源61、CPU62、メモリ63、記憶媒体64、及び、AD変換器66を有する。
制御部30は、I/O35を介して、機構部50の各部を駆動する。試料分注機構53は、検体容器(試料容器)51内の試料を反応セル(反応容器)52に分注する。試薬分注機構54は、反応容器52に試薬を注入する。攪拌機構55は、反応セル(反応容器)52内の混合液を攪拌し、試料と試薬を反応させる。洗浄機構56は、反応セル(反応容器)52を洗浄する。恒温槽57は、反応を安定させるために反応系を一定温度に保持する。
光源42からの光は反応セル(反応容器)52に収容された混合液に照射される。多波長光度計43は、混合液を通過した光のうち所定の波長の光を検出する。AD変換器36は、多波長光度計43からのアナログ信号をデジタル信号に変換する。制御部30は、多波長光度計43によって検出された光強度と予め測定した基準濃度の溶液の光強度と比較することにより、吸光度を算出する。制御部30は、吸光度に基づいて試料を分析する。光源42、多波長光度計43は測光系を構成する。
電力計44は、光源駆動電力、即ち、光源駆動電流又は光源駆動電圧を測定する。光源駆動電流の測定方法には、光源用電源41を直流電源としてホール素子を用いる方法、光源用電源41を交流電源としてカレントトランスを用いる方法などがある。ホール素子を用いる方法は、非接触で電流を測定するため、電力のロスを抑えることができる利点がある。光源駆動電圧の測定方法には、シャント抵抗を用いて抵抗の両端に生じる電位差を測定する方法がある。
光源用電源41は光源42に電力を供給する。光源用電源41は、制御部30からの制御信号に基づいて、光源42に供給する電力を制御する。記憶媒体34は、化学分析装置を運転するための各種のプログラムを格納する。メモリ33は、リアルタイムにて吸光度及び光源駆動電力を記憶する。制御用電源31は制御部30のための電源である。CPU32は、記憶媒体34に格納されているプログラムを読み出し、制御部30の動作を制御する。
【0018】
本実施例の化学分析装置の故障個所推定では、機構部50の各機構の動特性の測定値を診断部60のADC66に伝達する。記憶媒体64は、化学分析装置の故障個所を推定する閾値および各種のプログラムを格納する。メモリ63は、リアルタイムにて機構部50の各機構の動特性および測光系の測定結果を記憶する。制御用電源61は診断部60のための電源である。CPU62は、記憶媒体64に格納されている閾値およびプログラムを読み出し、制御部30の動作を制御する。
【0019】
本実施例の化学分析装置は、(1)多波長光度計43によって検出された光強度と予め測定した基準濃度の溶液の光強度と比較することにより吸光度を算出する吸光度算出処理、(2)化学分析装置をランプ寿命延命モードにて運転するランプ寿命延命モード運転処理、(3)光源ランプが寿命に達したと判定し、その旨の警告を発生する寿命判定処理、(4)光源ランプまたは各種機構が故障したと判定し、その旨の警告を発生する故障判定処理、(5)各種機構が故障した際の故障個所推定処理等を行う。これらの(1)~(4)の処理を行うプログラムは記憶媒体34に格納されている。(5)の処理を行うプログラムは記憶媒体64に格納されている。(5)の処理を以下に詳細に説明する。
【0020】
本実施例において化学分析装置を構成する各種機構が故障した際の故障個所推定処理等を行うことについて詳細に説明する。
【0021】
故障の有無を診断するために、一般的に、条件を変えずに測光系の測定値を繰り返し蓄積し母集団を作成して、ばらつき度合いを閾値判定することで診断する。繰り返しの測定では、1つの測光系で時間的にシリーズに測定を行うため、閾値判定した結果、変化のあった時間で故障または異常が発生したと診断することがほとんどである。その後、故障が発生したタイミングにさかのぼり故障を確認したのち、故障個所の推定では、経験的に故障位置を調査し、故障の有無を確認する。各機構の寿命を設定しておくことで各機構の故障予兆をすることもあるが、機構ごとの出力結果を参照する必要があり、時間を要する。
【0022】
本実施例では、上述の時間的にシリーズに測定した測光系データの母集団の他に、複数の反応セルに故障診断用のサンプル検体と試薬を分注して測光系データを収録し、それを反応セル位置ごとに測光系データの母集団を作成し、故障を診断する。故障診断用のサンプル検体としては、例えば、グリセリン水溶液が用いられる。グリセリン水溶液の濃度を変えて化学分析装置の分析対象の粘性を模擬する。グリセリン水溶液以外に生理食塩水を用いても良い。故障診断用の試薬としては、例えば、アミドブラックなどの色素溶液が用いられる。なお、検体容器(試料容器)として故障診断用のサンプル検体を収容する検体容器が設けられている(図示省略)。
【0023】
図2に本実施例の測光系の測定結果を説明する図を示す。時間的にシリーズに測定した測光データは横軸を時間、縦軸を吸光度としてプロットすると、データ201からデータ203のようになり、破線で示す平均値に対して、吸光度の測定値と平均値の差分量や、吸光度の測定値の標準偏差を平均値で割った変動係数などを指標として、あらかじめ設定した閾値と比較して故障を診断する。データ201からデータ203は異なる反応セルの測定結果を示し、どの位置の反応セルの測定結果か分かるようにデータが収録される。すなわち、測定時間情報および反応セル位置情報に基づき故障診断用の母集団を作成する。なお、横軸の時間軸は例えば数秒オーダである。
【0024】
母集団を生成する時間的にシリーズで測定する測光データは、反応セルを空にしてデータを測定してもよいし、上述のように故障診断用のサンプル検体と試薬を分注して満たしてもよい。前者の場合、故障診断用のサンプル検体と試薬を不使用とすることでコストを抑制することができる。後者の場合、時間的にシリーズに測定して作成した母集団と反応セル毎に整理した母集団を共通の測光データで作成できるため、故障診断用のデータを測定する時間を短くすることができる。また、条件を実質的に変えずに測光できる場合には、故障診断用のサンプル検体と試薬ではなく化学分析装置の分析対象の測光データで故障診断することも考えられる。重要なことは、反応セル毎に測光データの母集団を作成して故障診断を行うことである。
【0025】
加えて、
図3に示すように、例えば故障診断に使用する反応セルを3カ所(A、B、C)選定し、選定した反応セルに故障診断用のサンプル検体と試薬を分注して測光データを収録する。その結果、
図4に示すように、データ401、データ402、データ403で示す結果はそれぞれ反応セルA、反応セルB、反応セルCの位置で測定したデータを所定の時間軸で収集してプロットしたものである。平均値は例えば直近の3個の測定データの移動平均である。故障が反応セルの場所に依存した場合、データ401で示すように、測定値の平均値の変化に気づきやすくなり、故障また異常診断の精度が上がる。なお、本実施例において、プロットにおける円の直径は閾値に対応している。時間t5の直前においてそれまでの平均値からの差分が閾値を超えている。
【0026】
なお、反応セルの選定個所は3個に限らない。選定個所が多いほど故障位置の推定精度が向上する。すなわち、反応セルの総数に応じて故障診断に用いる反応セルの位置と数を設定する。その際、選定箇所は恒温槽57の周方向に均等に配置するのが望ましい。
【0027】
さらに、母集団が空間情報(反応セルの位置情報)を有しているため、故障個所の推定が可能となる。例えば、
図4の測定結果では、反応セルAにかかわる個所で故障が発生したと推定できる。反応セルBや反応セルCでも同様に故障を判定する結果が同時に発生したときは、反応セルA~Cに共通する機構で故障が発生したと推測できる。このように、空間的な独立および時間的な連続性を総合して故障個所を推定できるため、故障の原因分析、復旧対応の時間が短縮できる。
【0028】
なお、故障診断に用いる閾値について、測光データの蓄積データに基づき新たな閾値を決定するようにしても良い。すなわち、故障ではないのに故障判断(推定)することを避けるため、測光データを蓄積しそれまでの閾値で故障判断(推定)した際に実際には故障がないことが判明した場合が複数回あれば、閾値を緩く設定する。
図4の場合、プロットにおける円の直径を大きく設定する。
【0029】
故障診断の判定は、
図1における診断部60で行う。測光データおよび各種機構の動作データを機構部50から診断部60のAD変換器66に送信してメモリ63に一時的に保存する。記憶媒体64には、測光データを時系列(時間的にシリーズに)および反応セルごとに母集団として整理するプログラムおよび各母集団に対する故障判定等の閾値等が保存されており、CPU62でそれらのデータを処理して故障を判定する。
【0030】
次に、実施例1に記載する各種機構が故障した際の故障個所推定処理等を行うためのフローを説明する。
図5は、実施例1に記載する各種機構が故障した際の故障個所推定処理等を行うためのフローチャートである。
S201では、故障診断を開始する。
S202では、故障診断用のサンプル検体と試薬を反応セルへ分注する。
S203では、撹拌機構でサンプル
検体と試薬を撹拌する。
S204では、測光系で吸光度を測定する。
【0031】
S205では、時間的にシリーズに母集団を形成したデータに対して故障を判断する。S205で閾値外の判定では、化学分析装置の何れかで故障が生じたものと判定する。
【0032】
S206では、S205において時系列で母集団を形成したデータが閾値内の場合、各反応セル位置で母集団を形成したデータで閾値判定を行う。
【0033】
S207では、S206で閾値内の判定では、反応セルを洗浄して、正常終了に進む。S206で閾値外の判定では、故障個所を推定して、反応セルを洗浄し、異常終了に進む。なお、S205で閾値外の判定では、反応セルを洗浄し、異常終了に進む。
【0034】
以上より、故障診断の際に復旧が必要な個所を推定することが可能となり故障からの復旧時間を短くすることが可能となる。さらに、初期の異常の検出確率を上げることができ、誤診断の可能性を下げることを可能とし、ひいては分析性能の向上を図ることができる。
【0035】
S205で閾値外の判定の場合に、化学分析装置の何れかで故障が生じたものと判定することができるが、故障個所の推定は難しいので、S206に進むようにして、故障個所の推定ができるようにしても良い。なお、一般的に、時間的にシリーズに母集団を形成したデータ(化学分析装置全体の測定データ)に変化が現れるよりも、各反応セルにおける測定データに変化が現れる可能性が高い。このようなことを考慮すると、S205を省略しても良い。
【実施例2】
【0036】
次に、実施例2に記載する各種機構が故障した際の故障個所推定処理等を行うためのフローを説明する。
装置構成は実施例1と同様である。診断部60の記憶媒体に格納される故障診断のプログラム等が異なる。
【0037】
図6は、実施例2に記載する各種機構が故障した際の故障個所推定処理等を行うためのフローチャートである。
S601からS607、およびS617、S618までは、実施例1のS201から207、およびS217、S218と同様である。
【0038】
S602において、分注時の制御信号を診断部60に伝送してデータを取得する。取得するデータは、例えば、分注経路における圧力値、シリンジポンプの圧力制御時の電流値などである。
【0039】
S603において、例えば、超音波を利用して攪拌する場合には、撹拌時の超音波の出力を診断部60に伝送してデータを時系列に取得する。取得データは、出力超音波の音圧値、超音波素子の駆動時の電流値などである。
【0040】
S616では、化学分析装置を構成する各種機構(
図6では試料分注機構、試薬分注機構、攪拌機構)の取得データと反応セル位置で母集団を形成したデータから故障判定した結果を照合して、閾値異常を示す故障個所を推定する。
【0041】
図7に時系列に母集団を形成したデータ701と、反応セル(
図7においては反応セルA)で母集団を形成したデータ702と、反応セルAの撹拌時の電流値の取得データ703を示す。なお、攪拌機構が一つの場合は、反応セルに関係なく攪拌機構の攪拌時の電流値としても良い。また、吸光度測定位置と攪拌位置が異なることに起因する時間のずれが生じるが、攪拌機構から吸光度測定位置までの時間差を考慮してデータ702とデータ703を対応付けるようにしている。
【0042】
時系列に母集団を形成したデータ701では、時間t71で平均値が変化するようなデータを示している。しかし、反応セルのデータ702と撹拌時の電流値の取得データ703を照合すると、時間t70で吸光度の上昇および電流値の低下を検出している。時系列に母集団を形成したデータ701で判断するよりも早期に異常を検出しており、故障位置も推定も撹拌機構に異常が発生したことが推定できる。試料分注機構、試薬分注機構で異常が発生した場合も同様に異常と位置を推定することができる。なお、本実施例には記載していないが、洗浄機構についても本実施例を適用して故障診断することができる。また、光源ランプの異常については特許文献1に記載の方法を適用することにより故障診断しても良い。
【0043】
実施例1及び実施例2で説明した故障診断は、1日のなかで数回故障診断用にデータを取得して、データ取得及び診断をしてもよい。故障診断回数が多いほど、異常検出の時間分解能は向上する。
【0044】
以上の本発明の実施例によれば、故障診断の際に故障位置(復旧が必要な個所)を推定することが可能となり、故障からの復旧時間を短くすることが可能となる。さらに、初期の異常の検出確率を上げることができ、誤診断の可能性を下げることができ、ひいては分析性能の向上を図ることができる。
【0045】
なお、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
30…制御部、31…制御用電源、32…CPU、33…メモリ、34…記憶媒体、35…I/O、36…AD変換器、41…光源用電源、42…光源、43…多波長光度計、44…電力計、50…機構部、51…検体容器(試料容器)、52…反応セル(反応容器)、53…試料分注機構、54 …試薬分注機構、55…攪拌機構、56…洗浄機構、57…恒温槽、60…診断部、61…制御用電源、62…CPU、63…メモリ、64…記憶媒体、66…AD変換器。