(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】量子ドットのパターニング方法、光学素子の製造方法、バックライトユニットの製造方法及び画像表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20250304BHJP
H10H 20/00 20250101ALI20250304BHJP
H10H 20/01 20250101ALI20250304BHJP
H10H 20/851 20250101ALI20250304BHJP
H10H 29/24 20250101ALI20250304BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/20 101
H10H20/00 L
H10H20/01 A
H10H20/851
H10H29/24
(21)【出願番号】P 2021187456
(22)【出願日】2021-11-18
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】野島 義弘
(72)【発明者】
【氏名】鳶島 一也
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸司
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-157114(JP,A)
【文献】特開2005-260135(JP,A)
【文献】特開2008-183486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
H10H 20/851
H10H 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドットのパターニング方法であって、
量子ドットと硬化性樹脂とを含有する混合物を基板上に塗布して、樹脂層を得る工程と、
前記樹脂層上に、インクジェット方式により硬化剤をパターン状に吐出する工程と、
前記樹脂層のうち前記硬化剤が吐出された部分を硬化させる硬化処理工程と、
前記樹脂層のうち未硬化部分を溶剤で除去する工程と
を含むことを特徴とする量子ドットのパターニング方法。
【請求項2】
前記硬化性樹脂として光硬化性樹脂を用いることを特徴とする請求項1に記載の量子ドットのパターニング方法。
【請求項3】
前記光硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、イミド樹脂、アクリル樹脂及びビニル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項2に記載の量子ドットのパターニング方法。
【請求項4】
前記硬化性樹脂として熱硬化性樹脂を用いることを特徴とする請求項1に記載の量子ドットのパターニング方法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂及びアミノ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項4に記載の量子ドットのパターニング方法。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の量子ドットのパターニング方法により、基板上に量子ドットのパターンを形成して、カラーフィルタとしての機能を有する波長変換材料を得ることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の光学素子の製造方法により光学素子を製造する工程と、
光源と前記光学素子とを組み込んだバックライトユニットを組み立てる工程と
を含むことを特徴とするバックライトユニットの製造方法。
【請求項8】
前記光源として、複数のマイクロLEDピクセルを有するLEDアレイ基板を用いることを特徴とする請求項7に記載のバックライトユニットの製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のバックライトユニットの製造方法によってバックライトユニットを製造する工程と、
前記バックライトユニットを組み込んだ画像表示装置を製造する工程と
を含むことを特徴とする画像表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットのパターニング方法、光学素子の製造方法、バックライトユニットの製造方法及び画像表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径がナノサイズである半導体結晶粒子は量子ドットと呼ばれ、光吸収により生じた励起子がナノサイズの領域に閉じ込められることにより半導体結晶粒子のエネルギー準位は離散的となり、またそのバンドギャップは粒子径により変化する。これらの効果により量子ドットの蛍光発光は一般的な蛍光体と比較して高輝度かつ高効率であり、その発光分布はシャープである。
【0003】
また、量子ドットは、その粒子径によりバンドギャップが変化するという特性から、発光波長を制御できるという特徴を有しており、固体照明やディスプレイの波長変換材料としての応用が期待されている。例えばディスプレイに量子ドットを波長変換材料として用いることで、従来の蛍光体材料よりも広色域化、低消費電力が実現できる。
【0004】
量子ドットが波長変換材料として用いられる実装方法として、量子ドットを樹脂材料中に分散させ、透明フィルムで量子ドットを含有した樹脂材料をラミネートすることで波長変換フィルムとしてバックライトユニットに組み込む方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、カラーフィルタ材料として量子ドットを用いることでバックライトユニットからの青色単色光を量子ドットが吸収し、赤色または緑色に発光することでカラーフィルタ及び波長変換材料として機能することで高効率化と色再現性の優れた画像素子への適応も提案されている(特許文献2)。
【0006】
ディスプレイ及び固体照明に用いるLEDチップに量子ドットを含有した蛍光体層と青色LED素子とを組み合わせた方法もある(特許文献3)。
【0007】
微小なLED素子を基板上にLEDアレイを形成し、ディスプレイのバックライトユニットとして用いるマイクロLEDディスプレイにおける波長変換材料として量子ドットを用いることも提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2013-544018号公報
【文献】特開2017-21322号公報
【文献】特表2002-510866号公報
【文献】特表2020-516015号公報
【文献】国際公開第WO2018-225782号
【文献】特開2021-12383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
量子ドットをカラーフィルタとして使用するには基板上に赤、緑及び青のうちの2色あるいは3色のパターンを形成する必要がある。例えば光源に紫外LEDを用いる場合は、光源の紫外光を吸収しそれぞれ赤色、青色、緑色に発光する量子ドットを基板上にそれぞれパターニングしサブピクセルとすることでRGB3色を有するバックライトユニットが得られる。一方、光源として青色のLEDを用いる場合は光源の青色光を吸収しそれぞれ赤色、緑色に発光する量子ドットを基板上にそれぞれパターニングし、青色の部分は光源の青色をそのまま透過させサブピクセルとすることでRGB3色を有するバックライトユニットが得られる。
【0010】
量子ドットのパターン形成方法として、例えばフォトレジストによるフォトリソグラフィーやインクジェットによる方法などが用いられている(特許文献5及び6)。
【0011】
フォトリソグラフィーによるパターニングにおいては、ベーク、露光、現像等の複数の工程を経てパターンが形成される。この工程において量子ドットが熱・光などの影響により劣化が発生し発光効率の低下が問題となる。
【0012】
インクジェットによるパターニングでは、量子ドットを含む樹脂溶液からなる量子ドットインクをノズルから基板上に直接吐出しパターンを形成するため、工程が少なく熱・光などによる量子ドットの劣化を最小限にすることができることから、量子ドットカラーフィルタを形成する方法として有用な手法であると期待されている。また、インクジェットによるパターニングは、必要な部分にのみ原料を吐出するため、原料の利用効率、ひいてはコストの面で優れる。
【0013】
しかしながら、インクジェットは細いノズルからインクを吐出するため、特にマイクロLEDなどの用途で求められる100μm以下の微細なパターニングを形成するためにはノズル径も細くなり、安定した吐出およびパターンの再現性を確保するためインクの特性に大きな制限が出てくる。例えばインクの粘度、インクの蒸発速度、またインクに含まれる量子ドットの濃度や樹脂溶液中の量子ドットの凝集や沈降などがあり、これらが装置に合った適切な範囲内でないと、ノズル部分やインク供給ラインでの詰まりが発生しやすくなるなどの問題や、連続で吐出していると吐出特性の変化やばらつきを生じ画素間での特性ムラの原因ともなる。特に、ピエゾ型のインクジェット装置では、インクの粘度が100mPa・s以上では吐出が困難であり、安定的なパターン形成には低粘度のインクが必須である。樹脂や粒子を含むインクは、一般的に粘度が100mPa・s以上のものが多く、インクジェット装置での吐出が難しい。また基板とインクの濡れ性によるパターン不良、コーヒーリング効果によるパターンの厚みムラなどの問題も存在する。
【0014】
これらの問題から、インクジェットによるパターニングには、溶媒、樹脂材料や量子ドット濃度などの選択肢が大きく制限され、目的とする量子ドットパターンの形成ができないという課題が存在する。
【0015】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、インクジェット方式に起因する制限を受けることなく安定して目的とする量子ドットのパターン形成を行うことができ、量子ドットの劣化を抑制することもできる量子ドットのパターニング方法、並びにこのような量子ドットのパターニング方法を含む光学素子の製造方法、バックライトユニットの製造方法及び画像表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明では、量子ドットのパターニング方法であって、
量子ドットと硬化性樹脂とを含有する混合物を基板上に塗布して、樹脂層を得る工程と、
前記樹脂層上に、インクジェット方式により硬化剤をパターン状に吐出する工程と、
前記樹脂層のうち前記硬化剤が吐出された部分を硬化させる硬化処理工程と、
前記樹脂層のうち未硬化部分を溶剤で除去する工程と
を含むことを特徴とする量子ドットのパターニング方法を提供する。
【0017】
このような本発明の量子ドットのパターニング方法であれば、インクジェット方式に起因する制限、例えばインクジェット工程におけるインク溶液の制限などを受けることなく安定して量子ドットのパターン形成を行うことができ、量子ドットの劣化を抑制することもできる。
【0018】
前記硬化性樹脂として光硬化性樹脂を用いることができる。
【0019】
光硬化性樹脂は、反応を制御しやすいため、好ましい。
【0020】
例えば、前記光硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、イミド樹脂、アクリル樹脂及びビニル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0021】
用いる光硬化性樹脂は、特に限定されないが、例えば以上に挙げたものを用いることができる。
【0022】
或いは、前記硬化性樹脂として熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0023】
熱硬化性樹脂は、反応を制御しやすいため、好ましい。
【0024】
例えば、前記熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂及びアミノ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0025】
用いる熱硬化性樹脂は、特に限定されないが、例えば以上に挙げたものを用いることができる。
【0026】
また、本発明では、本発明の量子ドットのパターニング方法により、基板上に量子ドットのパターンを形成して、カラーフィルタとしての機能を有する波長変換材料を得ることを特徴とする光学素子の製造方法を提供する。
【0027】
このような光学素子の製造方法であれば、目的とするパターンにパターニングされ且つ劣化が抑えられた量子ドットを含む光学素子を安定して製造することができる。
【0028】
また、本発明では、本発明の光学素子の製造方法により光学素子を製造する工程と、
光源と前記光学素子とを組み込んだバックライトユニットを組み立てる工程と
を含むことを特徴とするバックライトユニットの製造方法を提供する。
【0029】
このようなバックライトユニットの製造方法であれば、目的とするパターンにパターニングされ且つ劣化が抑えられた量子ドットを含むバックライトユニットを安定して製造することができる。
【0030】
前記光源として、複数のマイクロLEDピクセルを有するLEDアレイ基板を用いることができる。
【0031】
用いる光源は特に限定されないが、例えば複数のマイクロLEDピクセルを有するLEDアレイ基板を用いることができる。
【0032】
また、本発明では、本発明のバックライトユニットの製造方法によってバックライトユニットを製造する工程と、
前記バックライトユニットを組み込んだ画像表示装置を製造する工程と
を含むことを特徴とする画像表示装置の製造方法を提供する。
【0033】
このような画像表示装置の製造方法であれば、目的とするパターンにパターニングされ且つ劣化が抑えられた量子ドットをバックライトユニットに備えた画像表示装置を安定して製造することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明の量子ドットのパターニング方法であれば、インクジェット方式に起因する制限を受けることなく安定して量子ドットのパターン形成を行うことができ、量子ドットの劣化を抑制することもできる。
【0035】
また、本発明の光学素子の製造方法であれば、劣化を抑えながら目的とするパターンにパターニングされた量子ドットを含む光学素子を安定して製造することができる。
【0036】
さらに、本発明のバックライトユニットの製造方法であれば、劣化を抑えながら目的とするパターンにパターニングされた量子ドットを含むバックライトユニットを安定して製造することができる。
【0037】
そして、本発明の画像表示装置の製造方法であれば、劣化を抑えながら目的とするパターンにパターニングされた量子ドットを含む画像表示装置を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の量子ドットのパターニング方法の一例を示す概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
上述のように、インクジェット法による量子ドットのパターニングには量子ドットインクなどのインクジェット方式に起因する多くの制限があるという課題があった。
【0040】
そこで、本発明者は、このような課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、量子ドットと硬化性樹脂との混合物を基板上に塗布し、硬化剤をインクジェット方式によりパターン状に吐出した後、樹脂層のうち硬化剤が吐出された部分を硬化反応により硬化させ、未反応部分を除去することで量子ドットのパターンを形成するパターニング方法であれば、インクジェット方式に起因する制限、例えばインク溶液の制限を受けることなく、目的とする量子ドットのパターン形成ができ、更には量子ドットの劣化を抑制することができることに想到し、本発明を完成させた。
【0041】
即ち、本発明は、量子ドットのパターニング方法であって、
量子ドットと硬化性樹脂とを含有する混合物を基板上に塗布して、樹脂層を得る工程と、
前記樹脂層上に、インクジェット方式により硬化剤をパターン状に吐出する工程と、
前記樹脂層のうち前記硬化剤が吐出された部分を硬化させる硬化処理工程と、
前記樹脂層のうち未硬化部分を溶剤で除去する工程と
を含むことを特徴とする量子ドットのパターニング方法である。
【0042】
また、本発明は、本発明の量子ドットのパターニング方法により、基板上に量子ドットのパターンを形成して、カラーフィルタとしての機能を有する波長変換材料を得ることを特徴とする光学素子の製造方法である。
【0043】
さらに、本発明は、本発明の光学素子の製造方法により光学素子を製造する工程と、
光源と前記光学素子とを組み込んだバックライトユニットを組み立てる工程と
を含むことを特徴とするバックライトユニットの製造方法である。
【0044】
そして、本発明は、本発明のバックライトユニットの製造方法によってバックライトユニットを製造する工程と、
前記バックライトユニットを組み込んだ画像表示装置を製造する工程と
を含むことを特徴とする画像表示装置の製造方法である。
【0045】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
[量子ドットのパターニング方法]
まず、
図1を参照しながら、本発明の量子ドットのパターニング方法の例を説明する。だだし、
図1は、説明のための概略図であり、寸法やパターンなどは
図1に示すものに限定されるものではない。
【0047】
まず、
図1(a)に示すように、量子ドットをその上でパターニングする基板1を準備する。
【0048】
基板1は目的に応じ適宜選択できる。例えばシリコンウェーハやガラス基板、樹脂板、樹脂フィルムなどが例示される。また基板1はパターンの密着性を向上させるため表面処理を行ってもよい。
【0049】
一方で、量子ドットを硬化性樹脂と混合することで、量子ドットと硬化性樹脂とを含有する混合物を調製する。量子ドットを硬化性樹脂中に分散させてもよい。この工程においては、例えば、量子ドットを溶媒に分散させたものを硬化性樹脂に添加混合することで、量子ドットを硬化性樹脂中に分散させることができる。また、溶媒を除去し粉体状となった量子ドットを硬化性樹脂に添加し混練することで、量子ドットを硬化性樹脂中に分散させることもできる。あるいは、硬化性樹脂の構成要素のモノマーやオリゴマーを量子ドット共存下で重合させる方法がある。いくつかの例を挙げたが、量子ドットの硬化性樹脂中への分散方法は特に制限されず、目的に応じ適宜選択できる。
【0050】
本発明において、使用される量子ドット組成や製法は、特に制限されず、目的に応じた量子ドットを選択することができる。量子ドットはコアのみでも、コアシェル構造を有していてもよく、粒子径は目的とする波長範囲に合わせ適宜選択できる。
【0051】
量子ドットの組成としてII-IV族半導体、III-V族半導体、II-VI族半導体、I-III-VI族半導体、II-IV-V族半導体、IV族半導体、ペロブスカイト型半導体などが例示される。
【0052】
具体的には、CdSe、CdS、CdTe、InP、InAs、InSb、AlP、AlAs、AlSb、ZnSe、ZnS、ZnTe、Zn3P2、GaP、GaAs、GaSb、CuInSe2、CuInS2、CuInTe2、CuGaSe2、CuGaS2、CuGaTe2、CuAlSe2、CuAlS2、CuAlTe2、AgInSe2、AgInS2、AgInTe、AgGaSe2、AgGaS2、AgGaTe2、PbSe、PbS、PbTe、GaN、AlN、AlGaN、Si、Ge、グラフェン、CsPbCl3、CsPbBr3、CsPbI3、及びCH3NH3PbCl3、さらにこれらの混晶やドーパントを添加したものが例示される。
【0053】
さらに、量子ドット表面に有機分子や無機あるいはポリマーの被覆層を有していても良く、その構造は制限されず、適宜選択できる。
【0054】
無機被覆層としては、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウムなどが例示される。
【0055】
ポリマー被覆層としては、ポリシルセスキオキサン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリアクリロニトリル、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが例示される。
【0056】
さらに、量子ドットは球形であっても良く、また立方体状や棒状でも良い。量子ドットの形状は制限されず自由に選択できる。
【0057】
量子ドットの平均粒子径は20nm以下であることが望ましい。平均粒子径が20nm以下であれば、量子サイズ効果が十分に得られると共に、高い発光効率を実現でき、粒子径によるバンドギャップが制御を十分に行うことができる。
【0058】
量子ドットの粒子径は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により得られる粒子画像を計測し、粒子20個以上の定方向最大径、即ち、フェレ(Feret)径の平均値から計算することができる。もちろん、平均粒子径の測定方法はこれに限定されず、他の方法で測定を行うことが可能である。
【0059】
硬化性樹脂は、特に制限されず、パターンサイズや硬化速度、硬化後の樹脂特性など目的に応じ適宜選択できる。樹脂材料としてモノマーやオリゴマーであってもよく、また架橋剤などが含まれていてもよい。樹脂材料は1種類であってもよく、2種類以上含まれていてもよい。
【0060】
硬化性樹脂としては、熱硬化樹脂や光硬化性樹脂が反応を制御しやすく好ましい。光硬化樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、イミド樹脂、アクリル樹脂及びビニル樹脂などが例示される。また熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂及びアミド樹脂などが例示される。
【0061】
量子ドットと硬化性樹脂とを含有する混合物中の量子ドットの濃度および固形分濃度は適宜選択できる。また必要に応じ、溶媒や分散剤を加えてもよい。
【0062】
溶媒は、量子ドット及び樹脂材料と相溶性を有していればよく、特に制限されない。
【0063】
溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが使用できる。
【0064】
量子ドットと硬化性樹脂とを含有する混合物の粘度は特に制限されず、樹脂材料や固形分濃度等目的に応じ適宜選択できる。
【0065】
量子ドットと硬化性樹脂とを含有する混合物はさらに散乱体を含んでいてもよい。散乱体を加えることで励起光が散乱されカラーフィルタ中の量子ドットの励起光吸収確率が増加し、励起光変換効率を高めることができる。
【0066】
散乱体としては無機粒子や有機物粒子など目的に応じ適宜選択でき、また粒子径や添加量は使用する光源の波長あるいは発光波長および波長変換材料の構造から光取り出し効率を最適となるように調整することが望ましい。無機粒子としてはシリカやジルコニア、アルミナ、チタン酸バリウム、硫酸バリウムなどが例示でき、有機粒子としてはPMMAやポリスチレン、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0067】
また、量子ドットと硬化性樹脂とを含有する混合物はさらに増感剤を含んでいてもよく、増感剤の種類・添加量は樹脂材料やパターン形状に合わせて適宜選択できる。例えば光増感剤としては、アントラセン誘導体、アントラキノン誘導体、ベンゾフェノン誘導体などが挙げられる。
【0068】
次に、量子ドットと硬化性樹脂とを含有する混合物を基板1上に塗布して、
図1(b)に示すように、樹脂層2を得る。
【0069】
基板1上への量子ドットと硬化性樹脂とを含有する混合物の塗布は、例えばスプレーコーター、スピンコーターやバーコーター、ドクターブレード法を用いて行うことができ、このような塗布により樹脂層2を形成することができる。
【0070】
樹脂層2の厚みは特に制限されず用途に応じ適宜選択することができる。また樹脂層2を薄くすることはデバイスの厚み減少につながるため樹脂層厚みとしては50μm以下が好ましく、20μm以下が特に好ましい。
【0071】
次に、樹脂層2上に、インクジェット方式により硬化剤をパターン状に吐出する。
【0072】
硬化剤は例えば溶液として吐出することができ、この場合、硬化剤の溶液を調製し、インクジェット装置により基板1上の樹脂層2へ硬化剤をパターン状に吐出(塗布)する。硬化剤の溶液を調製するために用いる溶剤は硬化剤を溶解できればよく、特に制限されない。
【0073】
硬化剤溶液は各パターン部分に一滴ずつ滴下してもよく、また複数回滴下してもよい。
【0074】
硬化剤は硬化性樹脂の種類に合わせて適宜選択できる。硬化剤として主にラジカル系硬化剤、カチオン系硬化剤、アニオン系硬化剤があり、硬化性樹脂の硬化条件に適した硬化剤を使用することが望ましい。
【0075】
ラジカル系硬化剤としては、例えば、ベンゾフェノン誘導体、アセトフェノン誘導体、ベンゾインエーテル誘導体、チオキサントン誘導体、アゾ化合物、過酸化物などが挙げられる。カチオン系硬化剤としては、例えば、スルホニウム塩、ヨードニウム塩などがあげられる。アニオン系硬化剤としてはアルカリ金属、アルキルリチウムなどが挙げられる。
【0076】
パターン状に吐出された硬化剤溶液は、その一部が樹脂層2に浸透することができる。それにより、
図1(c)に示すように、樹脂層2のうち硬化剤が吐出された部分21がパターン状に形成される。参照番号22は、硬化剤が吐出されなかった部分を指す。
【0077】
硬化剤を吐出後、樹脂層2のうち硬化剤が吐出された部分21を硬化させる。光硬化性樹脂であればUV光照射、熱硬化性樹脂であれば基板1ごと加熱することにより、樹脂層2のうち硬化剤を吐出した部分21のみを硬化させることができる。熱硬化性樹脂では、加熱時に硬化剤を樹脂層2の一部21内に熱拡散させることもできる。硬化条件は樹脂材料やパターン形状に合わせて調整することが好ましい。
【0078】
一方、硬化剤が吐出されなかった部分22は、未硬化部分として、樹脂層2に含まれる。
【0079】
硬化処理後、溶剤で樹脂層2のうち未硬化部分を除去する。これにより、
図1(e)に示すように、基板1上に量子ドットを含む硬化した樹脂層のパターン23を形成することができる。
【0080】
溶剤による未硬化部分の除去方法は、樹脂特性やパターン形状により適宜選択できる。例えばスプレーによる除去や溶媒に基板1を浸漬させる方法などがある。
【0081】
上記の本発明のパターニング方法によれば、樹脂材料や量子ドット濃度等のインクジェット方式に起因する制限なく安定して、インクジェット方式による量子ドットのパターン形成を行うことができる。また、本発明のパターニング方法によれば、フォトリソグラフィーによるパターニング方法よりも量子ドットへの熱や光の影響が小さいため、量子ドットの劣化を抑えることができる。よって、本発明のパターニング方法によれば、量子ドットの劣化を抑えて目的とする量子ドットパターンを安定して形成することができる。
【0082】
[光学素子の製造方法]
本発明の光学素子の製造方法は、本発明の量子ドットのパターニング方法によって基板上に量子ドットのパターンを形成して、カラーフィルタとしての機能を有する波長変換材料を得ることを特徴とする。
【0083】
本発明の光学素子の製造方法によれば、本発明の量子ドットのパターンニング方法により、安定して量子ドットのパターン形成を行うことができ、量子ドットの劣化を抑えることもできるので、目的とする量子ドットパターンを有し且つ量子ドットの劣化を抑えた量子ドットカラーフィルタ(波長変換材料)を安定して得ることができる。
【0084】
本発明により製造する光学素子は、カラーフィルタとしての機能を有する波長変換材料を含むが、それ以外の構成部材を更に含んでいても良い。そして、本発明の光学素子の製造方法において、本発明の量子ドットのパターニング方法により基板上に量子ドットのパターンを形成してカラーフィルタとしての機能を有する波長変換材料を得る以外の工程は、特に限定されず、目的に応じ適宜選択できる。
【0085】
[バックライトユニットの製造方法]
本発明のバックライトユニットの製造方法は、本発明の光学素子の製造方法により光学素子を製造する工程と、光源と前記光学素子とを組み込んだバックライトユニットを組み立てる工程とを含むことを特徴とする。
【0086】
本発明のバックライトユニットの製造方法によれば、本発明の光学素子の製造方法により光学素子を製造する工程を含むので、目的とするパターンにパターニングされ且つ劣化が抑えられた量子ドットを含むバックライトユニットを安定して製造することができる。
【0087】
光源としては、特に限定されないが、例えば、複数のマイクロLEDピクセルを有するLEDアレイ基板を用いることができる。
【0088】
本発明で製造するバックライトユニットは、目的に応じて、光学素子及び光源以外の構成部材を更に具備することもできる。
【0089】
[画像表示装置の製造方法]
本発明の画像表示装置の製造方法は、本発明のバックライトユニットの製造方法によってバックライトユニットを製造する工程と、前記バックライトユニットを組み込んだ画像表示装置を製造する工程とを含むことを特徴とする。
【0090】
本発明の画像表示装置の製造方法によれば、本発明のバックライトユニットの製造方法によってバックライトユニットを製造する工程を含むので、目的とするパターンにパターニングされ且つ劣化が抑えられた量子ドットをバックライトユニットに備えた画像表示装置を安定して製造することができる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
以下に説明する実施例及び比較例では、量子ドット材料として、InP/ZnSe/ZnSのコアシェル型量子ドットを用いた。表面処理を行って得た量子ドット(量子ドット含有重合体)の蛍光発光特性評価は、大塚電子株式会社製:量子効率測定システム(QE-2100)用いて、励起波長450nmにおける量子ドットの発光波長、蛍光発光半値幅及び蛍光発光効率(内部量子効率)を測定した。
【0093】
(量子ドットコア合成工程)
フラスコ内にパルミチン酸を0.23g(0.9mmol)、酢酸インジウムを0.088g(0.3mmol)、1-オクタデセンを10mL加え、減圧下、100℃で加熱攪拌を行い、原料を溶解させながら1時間脱気を行った。その後、窒素をフラスコ内にパージし、トリストリメチルシリルホスフィンをトリオクチルホスフィンと混合して0.2Mに調整した溶液を0.75mL(0.15mmol)加えて300℃に昇温し、溶液が黄色から赤色に着色し、コア粒子が生成しているのを確認した。
【0094】
(量子ドットシェル層合成工程)
次いで、別のフラスコにステアリン酸亜鉛2.85g(4.5mmol)、1-オクタデセン15mLを加え、減圧下、100℃に加熱攪拌を行い、溶解させながら1hr脱気を行ったステアリン酸亜鉛オクタデセン溶液0.3Mを用意し、コア合成後の反応溶液に3.0mL(0.9mmol)添加して200℃まで冷却した。次いで、別のフラスコにセレン0.474g(6mmol)、トリオクチルホスフィン4mLを加えて150℃に加熱して溶解させ、セレントリオクチルホスフィン溶液1.5Mを調整し、200℃に冷却しておいたコア合成工程後の反応溶液を320℃まで30分かけて昇温しながら、セレントリオクチルホスフィン溶液を0.1mLずつ合計0.6mL(0.9mmol)添加するように加えて320℃で10分保持した後に室温まで冷却した。酢酸亜鉛を0.44g(2.2mmol)加え、減圧下、100℃に加熱攪拌することで溶解させた。再びフラスコ内を窒素でパージして230℃まで昇温し、1-ドデカンチオールを0.98mL(4mmol)添加して1時間保持した。得られた溶液を室温まで冷却し、InP/ZnSe/ZnSからなるコアシェル型量子ドット含有溶液を作製した。
【0095】
この量子ドットの発光波長、蛍光発光半値幅及び蛍光発光効率(内部量子効率)を測定したところ、発光波長は533nmであり、半値幅は40nmであり、内部量子効率は79%であった。
【0096】
(実施例1)
上記の手順で合成した量子ドットと、光硬化性樹脂としてのメタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3(信越化学工業株式会社)とを、シリコーンオイル100質量部に対して量子ドットが30質量部となるように添加し、混合した。この混合物の粘度を回転式粘度計(ブルックフィールド DV-I)により測定すると、25℃で2166mPa・sであった。
【0097】
この混合物を、ガラス基板上に、スピンコーター(株式会社アクティブ ACT-220AII)を用いて樹脂層の厚みが10μmとなるように塗布した。塗布後、基板ごとホットプレートで120℃に加熱し余分な溶媒を除去した。
【0098】
光硬化剤として、Irgacure1173(IGM resins B.V.)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶媒で10倍希釈したものを準備した。この光硬化剤を、インクジェット装置(株式会社マイクロジェット LaboJet-600Bio)により、樹脂層上に200μmピッチのパターン状に吐出した。
【0099】
光硬化剤吐出後の基板に対し、窒素雰囲気下で、波長365nm及び出力500mW/cm2の光を照射して、樹脂層のうち硬化剤が吐出された部分を硬化させた。その後、基板をトルエンに浸漬し超音波洗浄により、樹脂層のうち未硬化部分を除去した。
【0100】
基板上に残った量子ドットのパターン(量子ドットを含む樹脂層のパターン)を、レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社 OLS-4100)により測定すると、平均厚み5μm、パターンサイズ50μmのドット状パターンが形成されていることを確認した。
【0101】
(実施例2)
上記の手順で合成した量子ドットと、熱硬化性樹脂としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂EPICLON850(DIC株式会社)とを、エポキシ樹脂100質量部に対して量子ドットが30質量部となるように添加し、混合した。この混合物の粘度を回転式粘度計により測定すると、25℃で1124mPa・sであった。
【0102】
この混合物を、ガラス基板上に、スピンコーターを用いて樹脂層の厚みが10μmとなるよう塗布した。塗布後、基板ごとホットプレートで120℃に加熱し余分な溶媒を除去した。
【0103】
熱硬化剤として、ポリアミドアミン硬化剤EPICLONB-065(DIC株式会社)をプロピレングリコールモノエチルエーテル溶媒で10倍希釈したものを準備した。この熱硬化剤を、インクジェット装置により、樹脂層上に200μmピッチのパターン状に吐出した。
【0104】
熱硬化剤吐出後の基板を150℃のホットプレートで60分間加熱して、樹脂層のうち硬化剤が吐出された部分を硬化させた。その後、基板をトルエンに浸漬し、超音波洗浄により樹脂層のうち未硬化部分を除去した。
【0105】
基板上に残った量子ドットのパターンをレーザー顕微鏡により測定すると、平均厚み6μm、パターンサイズ60μmのドット状パターンが形成されていることを確認した。
【0106】
(比較例1)
上記の手順で合成した量子ドットと、メタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3とを、シリコーンオイル100質量部に対して量子ドットが30質量部となるように添加し、さらにIrgacure1173(IGM resins B.V.)をシリコーンオイル100質量部に対してIrgacure1173が2質量部となる様に添加し、混合した。この混合物の粘度を回転式粘度計により測定すると、25℃で955mPa・sであった。
【0107】
この混合物をインクジェット装置により直接基板上に吐出したが、処理途中でノズルが詰まり処理することができなかった。
【0108】
(比較例2)
上記の手順で合成した量子ドットと、メタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3とをシリコーンオイル100質量部に対して量子ドットが30質量部となるように添加し、さらにIrgacure1173(IGM resins B.V.)をシリコーンオイル100質量部に対してIrgacure1173が2質量部となる様に添加し、混合した。さらにこの混合物にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを加え20倍に希釈した。この混合物の粘度を回転式粘度計により測定すると、25℃で106mPa・sであった。
【0109】
この混合物をインクジェット装置により直接基板上に200μmピッチで吐出した。吐出後基板をホットプレートで150℃に加熱し溶媒を除去した。
【0110】
次に、基板に対し、窒素雰囲気下で波長365nm及び出力500mW/cm2の光を照射し硬化させた。その後、基板をトルエンに浸漬し超音波洗浄により未硬化部分を除去した。
【0111】
基板上に残った量子ドットのパターンをレーザー顕微鏡により測定すると、外周部が平均厚み5μm、中央部分が平均厚み1μmの凹状の形状を有し、パターンサイズが50~80μmとばらつきがあるドット状パターンが形成されていることを確認した。すなわち、比較例2では、目的とする量子ドットパターンを安定して形成することができなかった。
【0112】
以上のように、量子ドットと硬化性樹脂とを含有する混合物を基板上に塗布して、樹脂層を得る工程、樹脂層上にインクジェット方式により硬化剤をパターン状に吐出する工程、樹脂層のうち硬化剤が吐出された部分を硬化させる硬化処理工程、樹脂層のうち未硬化部分を溶剤で除去する工程を含む本発明のパターニング方法により処理することにより、量子ドット濃度や樹脂材料に依らず安定して量子ドットのパターン形成をすることができる。更に、本発明のパターニング方法では、フォトリソグラフィーによるパターニング方法よりも量子ドットへの熱や光の影響が小さいため、量子ドットの劣化を抑えることができる。また、上記パターニング方法で緑色、赤色、青色に発光する量子ドットパターンを繰り返し形成することで、RGBの量子ドットパターンを得ることができる。
【0113】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0114】
1…基板、 2…樹脂層、 21…硬化剤が吐出された部分、 22…硬化剤が吐出されなかった部分、 23…硬化した樹脂層のパターン。