(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】イオン交換膜、ポリオレフィン系多孔質膜、膜電極接合体、水電解装置、および、ポリオレフィン系多孔質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/26 20060101AFI20250304BHJP
C08J 5/22 20060101ALI20250304BHJP
B01J 47/12 20170101ALI20250304BHJP
B01J 41/14 20060101ALI20250304BHJP
H01M 8/1062 20160101ALI20250304BHJP
H01M 8/102 20160101ALI20250304BHJP
H01M 8/106 20160101ALI20250304BHJP
H01M 8/1069 20160101ALI20250304BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20250304BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J5/22 CER
C08J5/22 CEZ
B01J47/12
B01J41/14
H01M8/1062
H01M8/102
H01M8/106
H01M8/1069
C08J5/22 104
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2024539886
(86)(22)【出願日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2024007331
(87)【国際公開番号】W WO2024195459
(87)【国際公開日】2024-09-26
【審査請求日】2024-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2023044274
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023044281
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023044295
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023044288
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】菅田 まさみ
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 祐
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-184671(JP,A)
【文献】特開2016-023308(JP,A)
【文献】特開2018-024718(JP,A)
【文献】特開2012-021099(JP,A)
【文献】特開昭62-247093(JP,A)
【文献】特開2020-164861(JP,A)
【文献】特開2018-183997(JP,A)
【文献】特開2018-076475(JP,A)
【文献】特開2018-076474(JP,A)
【文献】特開2014-156574(JP,A)
【文献】特開2013-057045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
B01J 39/00-43/00
B01J 47/00-47/15
H01M 8/10-8/1286
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系多孔質膜および該
ポリオレフィン系多孔質膜の空隙に充填されたイオン交換樹脂を含み、MD方向およびTD方向の各々の引裂強度が3.5N以上である、イオン交換膜
であって、
前記
ポリオレフィン系多孔質膜が、前記ポリオレフィン系多孔質膜を構成する樹脂組成物を基準として、ポリプロピレンを60質量%以上含み、かつ、5質量%以上40質量%以下のオレフィン系エラストマーを含む、イオン交換膜。
【請求項2】
MD方向およびTD方向の各々の引裂強度が3.5N以上15N以下である、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項3】
ポリオレフィン系多孔質膜および該
ポリオレフィン系多孔質膜の空隙に充填されたイオン交換樹脂を含み、MD方向およびTD方向の各々のタフネスが0.25J以上である、イオン交換膜
であって、
前記
ポリオレフィン系多孔質膜が、前記ポリオレフィン系多孔質膜を構成する樹脂組成物を基準として、ポリプロピレンを60質量%以上含み、かつ、5質量%以上40質量%以下のオレフィン系エラストマーを含む、イオン交換膜。
【請求項4】
MD方向およびTD方向の各々のタフネスが0.25J以上1.00J以下である、請求項3に記載のイオン交換膜。
【請求項5】
MD方向およびTD方向の各々の弾性率が500MPa以上1800MPa以下である、請求項1または3に記載のイオン交換膜。
【請求項6】
20μmあたりの膜抵抗が0.5Ω・cm
2以下である、請求項1または3に記載のイオン交換膜。
【請求項7】
厚みが10μm以上200μm以下である、請求項1または3に記載のイオン交換膜。
【請求項8】
前記イオン交換樹脂が炭化水素系重合体である、請求項1または3に記載のイオン交換膜。
【請求項9】
前記イオン交換樹脂が陰イオン交換樹脂を含む、請求項1または3に記載の陰イオン交換膜。
【請求項10】
MD方向およびTD方向の各々のタフネスが0.35J以上であり、引張試験において得られた応力-ひずみ曲線の横軸において、ひずみ0.4時点の応力をF40(MPa)、0.3時点の応力をF30とした際に、MDおよびTD方向の各々の(F40-F30)が2.0MPa以上である、ポリオレフィン系多孔質膜であって、
前記ポリオレフィン系多孔質膜を構成する樹脂組成物を基準として、ポリプロピレンを60質量%以上含
み、かつ、5質量%以上40質量%以下のオレフィン系エラストマーを含む、ポリオレフィン系多孔質膜。
【請求項11】
厚みが10μ以上150μm以下である、請求項
10に記載のポリオレフィン系多孔質膜。
【請求項12】
日本工業規格 P8117:2009による、厚み20μmあたりの100ccの空気の透気抵抗度が300秒以上7000秒以下である、請求項
10または
11に記載のポリオレフィン系多孔質膜。
【請求項13】
イオン交換樹脂の支持体として用いられる、請求項
10または
11に記載のポリオレフィン系多孔質膜。
【請求項14】
請求項
10に記載のポリオレフィン系多孔質膜を支持体として備え、該支持体の空隙に充填されたイオン交換樹脂を含む、イオン交換膜。
【請求項15】
請求項1、3または
14に記載のイオン交換膜と電極とを備えてなる、膜電極接合体。
【請求項16】
請求項1、3または
14に記載のイオン交換膜を備えてなる、水電解装置。
【請求項17】
請求項
15に記載の膜電極接合体を備えてなる、水電解装置。
【請求項18】
下記(a)~(d)の工程を含むポリオレフィン系多孔質膜の製造方法:
(a)ポリプロピレンを含むポリオレフィン樹脂およびオレフィン系エラストマーを含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物中の前記オレフィン系エラストマーの含有量が、前記樹脂組成物を基準として、5質量%以上40質量%以下であり、前記樹脂組成物中の前記ポリプロピレンの含有量が、前記樹脂組成物を基準として、60質量%以上である樹脂組成物と、可塑剤とを溶融混練して、ゲル状溶液を得る工程、
(b)前記ゲル状溶液を冷却して、ゲル状シートを得る工程、
(c)前記ゲル状シートをMDおよびTDの面積延伸倍率が、10倍以上35倍以下で二軸延伸して、二軸延伸ゲル状フィルムを得る工程、および
(d)前記ゲル状フィルムを溶媒によって洗浄し、洗浄後のフィルムを乾燥させて、ポリオレフィン系多孔質膜を得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜、ポリオレフィン系多孔質膜、膜電極接合体、水電解装置、および、ポリオレフィン系多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂により形成される多孔質膜は、物質の分離膜、選択透過膜、支持膜、及び隔離膜等として広く用いられている。用途としては、例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル-水素電池、ニッケル-カドミウム電池、ポリマー電池に用いる電池用セパレータや、電気二重層コンデンサ用セパレータ、逆浸透濾過膜、限外濾過膜、精密濾過膜等の各種フィルター、透湿防水衣料、医療用材料、イオン交換膜の支持体などが挙げられる。
【0003】
前記の用途のうち、多孔質膜を支持体として、その細孔内にイオン交換樹脂を充填したイオン交換膜は、固体高分子形燃料電池用の膜、又は水電解用の膜に使用することができる。
水電解とは、水素の製造方法の一種であり、水を電気分解して水素ガス及び酸素ガスを発生させる方法である。二酸化炭素の発生が抑制された方法で得られたエネルギーを電力として用いて製造された水素は、CO2フリー水素、若しくはグリーン水素と呼ばれ、化石燃料に代わる次世代のクリーンエネルギーとして期待されている。
【0004】
水電解法の中でも、陰イオン交換膜(Anion Exchanege Membrane:AEM)を用いたAEM水電解法は、触媒に高価な貴金属を用いる必要がなく、注目を集めている。
AEM水電解法では、動作環境においてアルカリ水溶液を使用することがある。AEM水電解法で用いられる陰イオン交換膜においては、その支持体として、耐薬品性の高いオレフィン系の多孔質膜や不織布を使用することがこれまでに開示されている。例えば、特許文献1には超高分子量ポリエチレン多孔質膜(旭化成ケミカルズ株式会社製ハイポア(登録商標)や、東燃化学那須株式会社製セティーラ(登録商標)等)を基材として使用した陰イオン交換膜が開示されている。このような支持体を用いた陰イオン交換膜は、膜抵抗が低いことや、支持体があることによって、力学強度に優れるなどの特徴を持つ。
また、オレフィン製多孔質膜としては、ポリエチレン多孔質膜以外にも、リチウムイオン電池用セパレータとして好適に利用できる乾式法ポリプロピレン多孔性フィルム(特許文献2)や、湿式法ポリプロピレン製微多孔膜(特許文献3)などが開示されている。
【0005】
しかし、オレフィン系樹脂は中に充填する陰イオン交換樹脂との親和性が低いために、陰イオン交換膜とした際に靭性が落ちやすくなるという問題があった。
この問題に対して、例えば特許文献4ではシラン変性ポリオレフィンを用いた多孔質膜による陰イオン交換膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-215500号
【文献】特開2010-215901号
【文献】国際公開2016-104792号
【文献】特許7020654号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4に記載の陰イオン交換膜では、膜抵抗が高く、また、使用中に靭性が落ちることが予想され、陰イオン交換膜として十分に機能し、かつ靭性が十分である膜が求められていた。
本発明は、上記した従来技術の問題を解決するものであり、水電解装置に組み込んだ際にも膜の破損が起こりにくい強い靭性を持ち、かつ、膜抵抗が低いイオン交換膜、該イオン交換膜の支持体とすることができるポリオレフィン系多孔質膜、および、該ポリオレフィン多孔質膜の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、所定の構造のイオン交換膜の引裂特性を特定の範囲とすることによって、イオン交換膜の膜抵抗を低下させつつ、イオン交換膜の靭性を向上させることができ、これにより、水電解装置に搭載して繰返し使用した際に、水電解装置の寿命が向上することを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、所定の構造のイオン交換膜のタフネスを特定の範囲とすることによって、イオン交換膜の膜抵抗を低下させつつ、イオン交換膜の靭性を向上させることができ、これにより、水電解装置に搭載して繰返し使用した際に、水電解装置の寿命が向上することを見出した。
【0010】
また、本発明者らは、タフネスと(F40-F30)の値を、所定の値以上としたポリオレフィン多孔質膜を支持体としてイオン交換膜を構成することによって、イオン交換膜の膜抵抗を低下させつつ、イオン交換膜の靭性を向上させることができ、これにより、水電解装置に搭載して繰返し使用した際に、水電解装置の寿命が向上することを見出した。
【0011】
また、本発明者らは、所定の工程を備えた方法により製造したポリオレフィン系多孔質膜を支持体としてイオン交換膜を構成することによって、イオン交換膜の膜抵抗を低下させつつ、イオン交換膜の靭性を向上させることができ、これにより、水電解装置に搭載して繰返し使用した際に、水電解装置の寿命が向上することを見出した。
【0012】
イオン交換樹脂はイオン交換基を有するため、水が存在すると膨潤する傾向にある。これに対して、水が少なくなる(水が存在しなくなる)と、イオン交換樹脂は収縮する。そのため、イオン交換膜の膨潤収縮による寸法変化により、イオン交換膜をガスケット等で固定した際に、ガスケットで固定された部分と固定されていない部分との境界において、局所的な負荷がかかる場合がある。本発明のポリオレフィン多孔質膜を支持体とした本発明のイオン交換膜は、長期間にわたって、膨潤、乾燥を繰り返してもイオン交換膜が破れにくいため、水電解装置としての寿命向上に寄与するものと考えられる。
なお、上記問題は、陰イオン交換膜において、より顕著となるので、本発明のポリオレフィン多孔質膜を支持体とするイオン交換膜、本発明のイオン交換膜、または、本発明の方法により製造した多孔質膜を支持体とするイオン交換膜は、特に、陰イオン交換膜として、AEM水電解装置において使用される際に、その効果がより発揮される。
具体的には、本発明は以下の構成からなる。
【0013】
[1] 多孔質支持体および該多孔質支持体の空隙に充填されたイオン交換樹脂を含み、MD方向およびTD方向の各々の引裂強度が3.5N以上である、イオン交換膜。
[2] MD方向およびTD方向の各々の引裂強度が3.5N以上15N以下である、[1]に記載のイオン交換膜。
[3] 多孔質支持体および該多孔質支持体の空隙に充填されたイオン交換樹脂を含み、MD方向およびTD方向の各々のタフネスが0.25J以上である、イオン交換膜。
【0014】
[4] MD方向およびTD方向の各々のタフネスが0.25J以上1.00J以下である、[3]に記載のイオン交換膜。
[5] MD方向およびTD方向の各々の弾性率が500MPa以上1800MPa以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のイオン交換膜。
[6] 20μmあたりの膜抵抗が0.5Ω・cm2以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のイオン交換膜。
【0015】
[7] 厚みが10μm以上200μm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のイオン交換膜。
[8] 前記イオン交換樹脂が炭化水素系重合体である、[1]~[7]のいずれかに記載のイオン交換膜。
[9] 前記イオン交換樹脂が陰イオン交換樹脂を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の陰イオン交換膜。
【0016】
[10] 前記多孔質支持体がポリオレフィン樹脂を含む多孔質膜である、[1]~[9]のいずれかに記載のイオン交換膜。
[11] 前記ポリオレフィン樹脂がポリプロピレン樹脂を含む、[10]に記載のイオン交換膜
[12] MD方向およびTD方向の各々のタフネスが0.35J以上であり、引張試験において得られた応力-ひずみ曲線の横軸において、ひずみ0.4時点の応力をF40(MPa)、0.3時点の応力をF30とした際に、MDおよびTD方向の各々の(F40-F30)が2.0MPa以上である、ポリオレフィン系多孔質膜。
【0017】
[13] ポリオレフィン系多孔質膜を構成する樹脂組成物を基準として、ポリプロピレンを60質量%以上含む、[12]に記載のポリオレフィン系多孔質膜。
[14] ポリオレフィン系多孔質膜を構成する樹脂組成物を基準として、5質量%以上40質量%以下のオレフィン系エラストマーを含む、[12]または[13]に記載のポリオレフィン系多孔質膜。
[15] 厚みが10μ以上150μm以下である、[12]~[14]のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔質膜。
【0018】
[16] 日本工業規格 P8117:2009による、厚み20μmあたりの100ccの空気の透気抵抗度が300秒以上7000秒以下である、[12]~[15]のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔質膜。
[17] イオン交換樹脂の支持体として用いられる、[12]~[16]のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔質膜。
[18] [12]~[17]のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔質膜を支持体として備え、該支持体の空隙に充填されたイオン交換樹脂を含む、イオン交換膜。
【0019】
[19] [1]~[11]または[18]に記載のイオン交換膜と電極とを備えてなる、膜電極接合体。
[20] [1]~[11]または[18]に記載のイオン交換膜を備えてなる、水電解装置。
[21] [19]に記載の膜電極接合体を備えてなる、水電解装置。
【0020】
[22] 下記(a)~(d)の工程を含むポリオレフィン系多孔質膜の製造方法:
(a)ポリオレフィン樹脂およびオレフィン系エラストマーを含む樹脂組成物であって、樹脂組成物中の前記オレフィン系エラストマーの含有量が、前記樹脂組成物を基準として、5質量%以上50質量%未満である樹脂組成物と、可塑剤とを溶融混練して、ゲル状溶液を得る工程、
(b)前記ゲル状溶液を冷却して、ゲル状シートを得る工程、
(c)前記ゲル状シートをMDおよびTDの面積延伸倍率が、10倍以上35倍以下で二軸延伸して、二軸延伸ゲル状フィルムを得る工程、および
(d)前記ゲル状フィルムを溶媒によって洗浄し、洗浄後のフィルムを乾燥させて、ポリオレフィン系多孔質膜を得る工程。
【0021】
[23] 前記ポリオレフィン樹脂がポリプロピレンを含む、[22]に記載のポリオレフィン系多孔質膜の製造方法。
[24] 前記可塑剤の添加量が、前記ゲル状溶液を基準として、40質量%以上70質量%以下である、[22]または[23]に記載のポリオレフィン系多孔質膜の製造方法。
[25] 前記オレフィン系エラストマーがプロピレン系コポリマーである、[22]~[24]のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔質膜の製造方法。
【0022】
[26] JIS K7121(1987)に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により測定した前記オレフィン系エラストマーの融点が(前記ポリオレフィン樹脂の融点-15)℃以上(前記ポリオレフィン樹脂の融点+5)℃以下である、[22]~[25]のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のポリオレフィン多孔質膜を支持体とするイオン交換膜、本発明のイオン交換膜、または、本発明の方法により製造した多孔質膜を支持体とするイオン交換膜によれば、低い膜抵抗を維持しつつ、より靭性に優れたイオン交換膜、つまり、水電解装置に組み込んだ際にも膜の破損が起こりにくい強い靭性を持つイオン交換膜を提供することができる。このイオン交換膜を用いることで、特に水電解装置に用いた場合に、繰り返し使用においてイオン交換膜が膨潤、乾燥を繰り返した場合においても破れにくいために、水電解装置を長寿命化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明のポリオレフィン多孔質膜を支持体とするイオン交換膜、本発明のイオン交換膜、または、本発明の方法により製造した多孔質膜を支持体とするイオン交換膜の一実施形態である陰イオン交換膜を使用した水電解装置の概略図である。
【
図2】実施例13および比較例3で得られた多孔質膜の応力ひずみ曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
[イオン交換膜]
本発明のイオン交換膜は、多孔質支持体、および、該多孔質支持体の空隙に充填されたイオン交換樹脂を含む。
【0026】
<多孔質支持体>
イオン交換膜の基材となる多孔質支持体としては、本発明のポリオレフィン系多孔質膜を用いることができる。
【0027】
(ポリオレフィン樹脂)
本発明のポリオレフィン系多孔質膜はポリオレフィン樹脂を主成分とする。ポリオレフィン系多孔質膜を構成するポリオレフィン樹脂としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、5-メチル-1-ヘプテン等のモノマーを重合して得られる重合体が挙げられる。これら重合体は1種を単独で、または2種以上を併用して用いることができる。耐熱性と成形性に優れることから、これらの中でもポリプロピレンを主成分とすることが好ましい。
【0028】
また、上記の主成分とは、上記ポリオレフィン樹脂および後に説明するポリオレフィン系エラストマーを含む樹脂組成物を基準(100質量%)として、上記ポリオレフィン樹脂を、50質量%以上含むこと、より好ましくは60質量%以上含むこと、さらに好ましくは70質量%以上含むことをいう。
【0029】
AEM水電解装置では、水電解性能を高めるという観点から、稼働温度は60℃~80℃程度の温度環境であることが好ましい。したがって、イオン交換膜の支持体として用いる場合には、当該温度において結晶緩和が起こらないほうが長期間の使用において支持体の物性変化が起こらないために好ましい。そのような観点から、ポリオレフィン樹脂の融点は、140℃以上290℃以下であることが好ましい。下限はより好ましくは145℃以上であり、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは160℃以上である。融点は高ければ高いほどイオン交換膜用の支持体としては好ましいが、一方で高すぎると成形性が悪化するために、上限は好ましくは280℃以下であり、より好ましくは270℃以下であり、さらに好ましくは200℃以下である。
【0030】
ここで、融点とは、JIS K7121(1987)に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により測定した値のことを示し、これ以降の記述についてもすべて上記測定によって得られた値のことを示す。
ポリプロピレンを主成分とした場合には、ポリプロピレンは他のオレフィンとの共重合体であってもよいが、力学強度の観点から、プロピレンの単独重合体であるホモポリマーであることが好ましい。ほかのオレフィンとの共重合体として含むコモノマーとしては、、たとえばエチレンやα-オレフィンである1-ブテンや1-ペンテン、4-メチルペンテン-1、1-オクテンを挙げることができる。ポリプロピレンへのこれらコモノマーの含有量は好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0031】
ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量は1×105以上5×106以下であることが好ましく、5×105以上2.5×106以下であることがより好ましく、9×105以上2×106以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量が1×105未満であると、分子間のからみ合いが十分に確保できないために、製膜時に破れが起きたり、多孔質膜の強度が不十分となったりするおそれがある。重量平均分子量が5×106以上の場合、粘度が高くなりすぎるために、厚みの均一性が悪化したり、成形性が悪化したりするおそれがある。特にイオン交換膜の支持体として好適な厚膜を成形する際には、重量平均分子量が高くなりすぎると、溶融混練時に押出機の内圧が高くなりやすいために、吐出量に対して過度に押出機のサイズを大きくしなければならず、コストアップにつながるために好ましくない。ポリプロピレン樹脂の分子量分布は5以上10以下程度であることが好ましい。分子量分布が上記範囲内であると、後述する多孔質膜製造の湿式法において可塑剤と溶融混練して押し出す際の作業性が良好となる。
【0032】
また、ポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)は0.3g/10min以上1.0g/10min未満であることが好ましい。MFRが上記範囲内であると、分子量分布と同様に、可塑剤と溶融混練して押し出す際の作業性が良好となる。
【0033】
(オレフィン系エラストマー)
本発明のポリオレフィン系多孔質膜を構成する樹脂組成物には、基材としての靭性を向上させるために、オレフィン系エラストマーを含むことが好ましい。オレフィン系エラストマーとしては、エチレン-α-オレフィン共重合体や、プロピレン-α-オレフィン共重合体、1-ブテン-α-オレフィン共重合体などが挙げられる。ポリオレフィン樹脂をポリプロピレンとした場合には、相容性の観点からプロピレン-α-オレフィン共重合体を用いることが好ましい。プロピレン-α-オレフィン共重合体としては、プロピレン-エチレン共重合体のような二元系共重合体以外にも、プロピレン-エチレン-ブテン共重合体のような三元系共重合体であってもよい。単量体の配列形式としては、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても構わない。
【0034】
可塑剤の存在下では、可塑剤によって樹脂が可塑化されるためにポリオレフィン樹脂の分子拡散が早くなり、結晶性の高いポリオレフィン樹脂の場合には、粗大な高次構造の結晶を形成してしまう場合がある。結晶の高次構造が粗大となってしまうと、その後の延伸過程において、十分に配向がかかった部分とそうでない部分のムラが発生し、結果としてイオン交換樹脂を充填した際の脆化につながってしまうことがある。本発明において、発明者らはポリオレフィン樹脂に一定量のオレフィン系エラストマーを添加することによって、多孔質膜の靭性が向上するのみならず、主成分とするポリオレフィン樹脂の結晶構造が微細化され、湿式の多孔質膜製膜において発生しやすい粗大な高次構造を抑制できることを見出した。詳細なメカニズムは定かではないが、ポリオレフィン樹脂にオレフィン系エラストマーを好ましい範囲で添加すると、エラストマー成分がポリオレフィン樹脂の分子拡散経路に存在することによって、ポリオレフィン樹脂の分子鎖が長距離に拡散することを抑制し、その場での結晶化を促すことによって結晶構造が微細化するものと考えられる。
【0035】
ポリオレフィン樹脂およびオレフィン系エラストマーを含む樹脂組成物を基準(100質量%)として、オレフィン系エラストマーが占める割合としては、下限は好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であり、上限は好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。オレフィン系エラストマーの含有量が5質量%未満の場合、基材の靭性向上の効果が十分に得られず、作製した多孔質膜を基材として用いたイオン交換膜の力学特性評価において、膜が脆くなるおそれがある。
含有量が50質量%を超える場合にはエラストマーとしての特性が強くなりすぎるために、多孔質膜の孔が閉塞してしまうことがある。孔が閉塞してしまうと、多孔質膜として気孔率が低く、透気抵抗度が高くなりすぎるために、最終的にイオン交換膜としたときのイオン交換容量が低下し、膜抵抗が高くなるおそれがある。オレフィン系エラストマーの含有量を上記の好ましい範囲とすることで、後述する製膜方法と組み合わせることにより、タフネスに優れた靭性のある多孔質膜を得ることができる。
【0036】
ここで、オレフィン系エラストマーの融点は特に限定されないが、製膜時における孔の閉塞を防ぐという観点から、主成分とするポリオレフィン樹脂の融点に対して、(ポリオレフィン樹脂の融点-15)℃以上(ポリオレフィン樹脂の融点+5)℃以下であることが好ましい。
【0037】
(その他添加物)
樹脂組成物には必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤、芳香族リン酸エステル金属塩系、安息香酸金属塩系、ソルビトール系等の造核剤、光安定剤、帯電防止剤、等が挙げられる。これらの添加剤は樹脂組成物に直接配合してもよいし、ポリオレフィン樹脂にあらかじめ混合したマスターバッチとして配合してもよい。各添加剤の配合量は特に限定されるものではないが、通常樹脂組成物に対して0.01質量%以上5.00質量%以下である。ここで、ポリオレフィン樹脂としてポリプロピレンを使用した場合、ポリプロピレン用造核剤としてはα晶核剤とβ晶核剤が挙げられるが、β晶核剤は含まない方が好ましい。β晶核剤を使用した場合には、針状結晶が形成されるために初期の高次構造において異方性が強くなる恐れがある。そのため、ポリプロピレンを使用した場合には結晶核剤としてはα晶核剤を使用する方が良い。
市販のポリプロピレン樹脂を購入した場合などに、β晶が配合されているかどうかについては、例えばDSCの結晶融解熱ピークを確認することにより判断することができる。ポリプロピレンのβ晶はα晶に比べて融点が低いために、β晶に由来する結晶融解熱ピークはα晶に由来する結晶融解熱ピークよりも低温側にピークが発現する。具体的には、ホモポリプロピレンの場合には、120℃~150℃の範囲に認められる。
【0038】
<ポリオレフィン系多孔質膜の製造方法>
次いで、本発明のポリオレフィン系多孔質膜の製造方法について説明する。ポリオレフィン系多孔質膜の製造方法としては、乾式法(樹脂に結晶核剤や無機粒子などを添加して多孔化する方法)および湿式法(可塑剤を用いた相分離法)の2種が知られている。乾式法では、溶融樹脂に結晶核剤や無機粒子を混合した後に、得られた混合物を口金より押し出して冷却する。その後、得られたシートを特定条件にて延伸することによって、結晶部分や添加粒子の周囲を開裂させて多孔質膜を得る方法である。延伸によって孔を形成させるために、延伸開裂法とも言う。
【0039】
湿式法では、まず、樹脂を可塑剤と共に加熱溶融混合する。次に得られた樹脂溶液を口金より押出して冷却し、ゲル状シートを形成する。得られたゲル状シートに対して、少なくとも一軸方向に延伸を実施した後に、前期可塑剤を溶媒によって除去し、乾燥することによって多孔質膜を得ることができる。乾式法では、結晶を引裂いて開孔させるために、孔が粗大となり強度に劣る一方で、洗浄工程が不要なために製造コストに優れるという特徴がある。
【0040】
湿式方法では、可塑剤との相分離により均一な微細孔が得られ、平面性と強度に優れるという特徴がある。一般的に商業化されているポリプロピレン樹脂からなる多孔質膜では、乾式方法によるものであるが、本発明の多孔質膜は湿式法において製膜されることが好ましい。発明のポリオレフィン多孔質膜の製造方法は以下の(a)~(d)工程を含むものである。
(a)ポリオレフィン樹脂およびオレフィン系エラストマーを含む樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練し、ゲル状溶液を得る工程、
(b)前記ゲル状溶液を冷却し、ゲル状シートを得る工程
(c)前記ゲル状シートを二軸延伸して、二軸延伸ゲル状フィルムを得る工程、および、
(d)前記ゲル状フィルムを溶媒によって洗浄し、洗浄後のフィルムを乾燥させて、多孔質膜を得る工程。
なお、さらに(d)工程の後に、必要に応じて熱処理、エージング、コロナ処理、親水化処理などの工程を設けてもよい。
【0041】
以下、各工程について、さらに詳細に説明する。
(a)ゲル状溶液を得る工程
ゲル状溶液を得る工程としては、混練機にポリオレフィン樹脂およびオレフィン系エラストマーを含む樹脂組成物、必要に応じて各種添加剤を導入し、加熱溶融しながら可塑剤を所定の量まで添加した後に、さらに混練することで均一に混合する方法が好ましい。
ここで、可塑剤としては、樹脂組成物と十分な相溶性があれば特に限定されるものではない。具体的には、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ビス-2-エチルヘキシルなどの芳香族カルボン酸エステル、流動パラフィン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。樹脂組成物との混練後に可塑剤含有量が変化せずに安定したゲル状シートを得るためには、可塑剤の沸点は樹脂組成物の融点に比べて十分に高いものであることが好ましい。また、樹脂組成物の溶融混練温度以下に融点を持ち、混練時に液状であれば、可塑剤は室温で固体であってもよい。
このような固体の可塑剤としては、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス、ポリエチレンオキサイド等が挙げられる。これらの可塑剤の中でも、多孔膜における孔形成が容易であり、製造過程においてブリードアウトが少なく成形が容易であることから、芳香族カルボン酸エステルを使用することが好ましい。流動パラフィンやパラフィンワックス等を用いる場合には、芳香剤カルボン酸エステルを用いた場合に比べて孔が空きにくくなるために、添加量が多く必要となりコストアップとなるおそれがある。これらの可塑剤は、単独でも複数種類を混合して使用することもできる。
【0042】
可塑剤の添加量としては、樹脂組成物と可塑剤との合計であるゲル状溶液を基準(100質量%)として、40質量%以上70質量%以下とすることが好ましい。下限は、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上である。可塑剤の添加量が40質量%未満の場合、十分な量の孔が形成されないために、最終的に得られるイオン交換膜のイオン交換容量が低下し、膜抵抗が高くなるおそれがある。上限は、より好ましくは65質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以下である。可塑剤が70質量%を超えると、粘度が低くなりすぎるために、製膜時の作業性が悪化したり、分子鎖のからみ合いが希薄になるために、得られる多孔質膜の強度が低下したりするおそれがある。可塑剤の添加量を上記の好ましい範囲とすることで、後述する製膜方法によって、製膜時の延伸性低下を起こすことなく、AEM用の基材として用いるのに十分な強度と気孔の形成とを両立した膜を得ることができる。
【0043】
樹脂組成物、可塑剤および必要に応じた各種添加剤を混練する方法および装置は、これらを均一に溶融混練できるものであれば特に限定されるものではない。各原料は押出機に直接投入してもよいが、均一混練のために、あらかじめポリオレフィン樹脂ならびにオレフィン系エラストマー、各種添加剤の固形物のみをヘンシェルミキサー等を用いて予備混合したのちに混練機に投入してもよい。混練機としては、例えば株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミルに代表される小型バッチ式混練機を使用してもよいし、二軸押出機のような連続式の混練機を使用してもよい。二軸押出機を用いた方法としては、例えば特公平06-104736号公報および日本国特許第3347835号公報などに記載がある方法が使用できる。
【0044】
押出機中では樹脂組成物が完全に溶融する温度で、樹脂組成物と可塑剤および必要に応じて入れた各種添加剤を混合する。溶融混練温度は使用するポリオレフィン樹脂によって異なるが、下限は(ポリオレフィン樹脂の融点+5℃)が好ましく、さらに好ましくは(ポリオレフィン樹脂の融点+10℃)である。上限は(ポリオレフィン樹脂の融点+70℃)とするのが好ましく、より好ましくは(ポリオレフィン樹脂の融点+60℃)である。本発明におけるポリプロピレンの融点は160℃から180℃程度であるため、溶融混練温度は165℃から250℃であることが好ましい。
【0045】
樹脂の劣化を抑制するという観点では、溶融混練温度は低ければ低いほど好ましいが、溶融混練温度が低すぎる場合には、樹脂の未溶融物が発生し、後の延伸工程において破膜や延伸ムラなどの工程不良が発生する場合がある。また、最終的な多孔質膜において、未溶融物による外観不良や厚みムラなどを引き起こすおそれがある。溶融混練温度が高すぎる場合には、樹脂の劣化によって最終的な多孔質膜の力学強度が低下するおそれがある。
【0046】
二軸押出機を使用する場合には、スクリュー長さ(D)と直径(L)との比率(L/D)は25以上80以下であることが好ましい。下限は好ましくは30以上であり、より好ましくは35以上である。上限は好ましくは70以下、より好ましくは60以下である。L/Dが上記の範囲であると、混合物の滞留時間が長くなりすぎず、樹脂の劣化を防ぎながら、良好に各原料を均一に分散させることができる。また、押出機の回転数(N)は100rpm以上400rpm以下であることが好ましい。回転数が高すぎるとスクリューのせん断により樹脂が劣化するおそれがあるため、回転数は低い方が好ましいが、回転数が低すぎると混練不良により未溶融物が発生することがあるため、押し出された樹脂の性状を確認しながら適宜調整すればよい。
【0047】
(b)ゲル状シートを得る工程
(b)ゲル状シートを得る工程においては、ゲル状溶液をシート状に成形した後に冷却することによって、ゲル状シートを得ることができる。
このシート化はゲル状液体を一度室温にて冷却したものを再度ゲル状液体の融点以上の温度で再度プレス成形して得ることもできるし、押出機からゲル状液体を口金に供給し、口金よりゲル状溶液を押し出す方法によっても得ることができる。この場合の押出方法はTダイ法およびインフレーション法のどちらでもよいが、厚みを均一にする観点においては、Tダイ法を使用することが好ましい。
【0048】
ここで、ゲル状シートは単層膜であってもよいし、二層以上の多層構造であってもよい。多層のゲル状シートを製膜する方法としては、別々のゲル状シートを作製したのちに熱融着させる方法や、各層の樹脂を別々の押出機から一つの口金に供給して一体化させながら押し出す共押出法などが知られている。イオン交換膜用の基材としては、各層間の接着強度が高く、層間の連通孔が形成しやすいという観点から、共押出法を用いる方が好ましい。
【0049】
シート化する際の冷却方法については、冷却風、冷却水、その他の冷却媒体に直接接触させる方法、冷媒で冷却したロールに接触させる方法等の公知の冷却方法を使用することができる。冷却時にできるだけ低い温度で急冷することにより、ポリオレフィン樹脂の結晶構造が緻密となり、後の工程における延伸性向上や最終的なイオン交換膜の靭性向上を図ることができる。冷却時の温度は低ければ低いほど好ましいが、結露の防止など、作業性との両立という意味から、0℃から25℃程度とすることが好ましい。冷却は、表裏共に結晶化終了温度以下となるまで行うことが必要である。ここで、結晶化終了温度とは、JIS K7121(1987)に従って測定した補外結晶化終了温度のことを示す。
【0050】
ゲル状シートの厚みは、特に限定されないが、目的とされる多孔質膜の厚みに応じて適宜設定され、おおむね、0.2mm以上5mm以下とすることが好ましく、0.5mm以上3mm以下とすることがより好ましい。
【0051】
(c)二軸延伸ゲル状フィルムを得る工程
次に、得られたゲル状シートを二軸方向に延伸する。延伸方法は、テンター法またはロール法、およびこれらの組み合わせによって行う。二軸延伸の場合は、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、またはこれらの組み合わせであってもよい。また、延伸は一段延伸でも多段延伸でもよい。一軸延伸のみの場合には、分子鎖が一方方向にのみ過度に配向してしまうために、得られた多孔質膜を基材としてイオン交換膜を作製した際に、未延伸方向が著しく脆化してしまうことがあるため、二軸延伸を行う必要がある。また、テンター延伸はバッチ式にて行っても構わない。
【0052】
延伸工程における縦および横倍率を合わせた面積延伸倍率(縦倍率×横倍率)の下限は好ましくは10倍以上、より好ましくは12倍以上、さらに好ましくは16倍以上である。下限が上記の好ましい範囲であれば、ゲル状シートにおいて生成した初期の結晶構造を十分に微細化することにより、力学強度を向上させることができる。下限が10倍未満の場合には、微細化されずに残った結晶の高次構造が起点となり、得られた多孔質膜を基材としてイオン交換膜を作製した際に、脆化がおこりやすくなる。また、十分に構造が細分化されないため、孔径が粗大となり、イオン交換膜化した際のガスバリア性に劣ることがある。面積延伸倍率の上限は好ましくは40倍以下であり、より好ましくは35倍以下、さらに好ましくは30倍以下、特に好ましくは25倍未満である。面積延伸倍率が高ければ高いほど、多孔質膜の強度としては高くなるが、過度に配向が進み、分子鎖のからみ合いが弱くなるために、イオン交換膜化した際に伸度が低下してしまい、結果としてタフネスが低下してしまうことがある。面積倍率が十分であるかどうかは、後述する(F40-F30)値によって判断することができる。
【0053】
延伸温度は、主成分であるポリオレフィン樹脂の融点以下にすることが好ましく、より好ましくは、ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度をTcdとした場合、(ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度Tcd)~(ポリオレフィン樹脂の融点-5℃)の範囲である。(ポリオレフィン樹脂の融点-5℃)以下であると、延伸を行う際のシートを把持するクリップや延伸ロールへの樹脂の融着を防ぐことができる。ここで、ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度Tcdは、樹脂組成物を融点+50℃で溶融プレスした後に0℃で氷冷したシートを用いて、ASTM D4065に従って測定した動的粘弾性の温度特性から求めることができる。
具体的には、本発明におけるポリプロピレン樹脂の場合は、110℃から130℃に結晶分散温度を有し、160℃から180℃に融点を持つため、延伸温度は好ましくは110℃以上175℃以下であり、より好ましくは115℃超160℃未満であり、さらに好ましくは120℃以上155℃以下である。逐次延伸や、多段延伸を行う場合には、各延伸温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0054】
ここで、本発明において、延伸はゲル状シート中に可塑剤が含まれている状態にて行うことが重要である。可塑剤が除去される前に延伸を行うことで、結晶構造を均一に破砕することができ、多孔質膜のタフネスを向上させることができる。また、結晶構造が均一に破砕することで、気孔が均一で緻密に形成されるため、イオン交換樹脂の粗密による脆化が起こりにくくなる。
【0055】
(d)ゲル状フィルムを洗浄乾燥し、多孔質膜を得る工程
続いて、(c)工程において得られたゲル状フィルムを溶媒で洗浄し、可塑剤を抽出する。ここで、可塑剤を抽出する溶媒としては、樹脂組成物に対して貧溶媒であり、可塑剤に対して良溶媒となる溶媒であれば特に制限されるものではない。溶媒の例としては、n-ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、炭化水素類の一部もしくはすべての水素がフッ素に置換したフルオロカーボン類、エタノールやイソプロパノールなどのアルコール類、アセトンや2-ブタノン等のケトン類などが挙げられる。洗浄方法としては、ゲル状フィルムを溶剤に浸漬させる方法、シャワーする方法、またはこれらの組み合わせなど、公知の方法を利用することができる。洗浄後の洗浄溶媒は、風乾、加熱乾燥などによって除去することができる。加熱による孔の閉塞や、洗浄溶媒の急激な揮発による孔構造の破壊を抑制する観点から、乾燥は50℃未満の低温で行うことが好ましい。
【0056】
可塑剤を除去した後に、多孔質膜を安定化させるために熱処理を行ってもよい。熱処理により、結晶構造が安定化し、また残留ひずみが緩和するために、寸法や膜内の結晶構造を安定化させることができる。熱処理の温度は高ければ高いほど短時間での安定化を図ることができる一方で、温度が高いと急激な収縮や結晶の融解による孔閉塞が生じる恐れがあるため、目的とする気孔率に合わせて適宜調整すればよい。
【0057】
<ポリオレフィン系多孔質膜の特性>
本発明のポリオレフィン系多孔質膜は、高い力学特性を有するために、イオン交換膜の支持体として使用した際に、脆化を抑制する効果に優れ、高い靭性を持つ優れたイオン交換膜を得ることができる。以下に本発明のポリオレフィン系多孔質膜の特性を記載する。なお、各特性の測定方法については、実施例にて詳述する。
【0058】
(1)厚み
本発明のポリオレフィン系多孔質膜の厚みは特に制限されるものではない。ただし、イオン交換膜の支持体として好適な性能を発揮するためには、10μm以上150μm以下であることが好ましい。イオン交換膜とした際の膜抵抗が小さくできるという観点においては、厚みは薄い方が好ましいが、一方で厚みが薄くなるとガスバリア性と力学強度が低下する。特に、陰イオン交換膜を用いたAEM水電解では、膜に高圧がかかるために力学強度とガスバリア性の観点からある程度の厚みを有していることが好ましい。そのため、多孔質膜の厚みとしては、より好ましくは15μ以上120μm以下、さらに好ましくは25μm以上100μm以下である。
【0059】
(2)気孔率
本発明のポリオレフィン系多孔質膜の気孔率は10%以上50%未満であることが好ましい。気孔率の下限はより好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは20%以上であり、特に好ましくは30%以上である。気孔率が10%未満である場合には、イオン交換膜の支持体として使用した際に、充填されるイオン交換樹脂が少なくなるために、イオン伝導性が悪化し、膜抵抗が高くなる恐れがある。また、気孔率が50%を超える場合には、イオン交換膜とした際に湿潤状態におけるイオン交換樹脂の吸水による膨張を抑制できず、イオン交換膜の形状を保持できなくなる恐れがある。気孔率の上限はより好ましくは45%以下である。
【0060】
(3)透気抵抗度
本発明のポリオレフィン系多孔質膜の20μmあたりの透気抵抗度は、300s/100ccAir以上7000s/100ccAirであることが好ましい。20μmあたりの透気抵抗度の下限は好ましくは400s/100ccAir以上であり、より好ましくは500s/100ccAirである。20μmあたりの透気抵抗度が300s/100ccAirよりも低いと、イオン交換膜の支持体とした際に、ガスバリア性に劣る可能性がある。ポリオレフィン系多孔質膜の20μmあたりの透気抵抗度の上限は、好ましくは5000s/100ccAir以下であり、より好ましくは2500s/100ccAir以下であり、さらに好ましくは1350s/100ccAir以下である。透気抵抗度が高すぎると、イオン交換樹脂の支持体として用いた時に、イオン交換樹脂の含浸が遅くなり、生産性が悪化する恐れがある。また、得られたイオン交換膜の膜抵抗が高くなる。
【0061】
(4)弾性率
本発明のポリオレフィン系多孔質膜のMD方向(膜表面の長さ方向、機械方向)およびTD方向(MD方向と垂直方向、膜表面の幅方向)の引張弾性率の下限は200MPa以上が好ましく、より好ましくは300MPa以上であり、さらに好ましくは400MPa以上である。弾性率は高ければ高いほど好ましいが、本発明のようにオレフィン系エラストマーを添加した場合には、弾性率が低くなりやすいために、実質的な上限は1500MPa程度である。また、弾性率を高くするために過度に配向をかけると、伸度が低下してしまい、結果としてタフネスが低下してしまうことがある。そのため、弾性率の上限としては、好ましくは1200MPa以下であり、より好ましくは1000MPa以下である。弾性率が好ましい範囲であると、イオン交換膜の支持体として使用する際に、シワが寄りにくく、ハンドリング性に優れる。また、イオン交換膜の支持体として使用した際に、最終的に得られるイオン交換膜の弾性率も高くすることができる。
【0062】
また、MD方向の弾性率とTD方向の弾性率の比率(MD弾性率/TD弾性率)は0.5以上1.5以下であることが好ましい。弾性率の比率が当該範囲から外れる場合には、異方性が強いために、イオン交換膜の支持体として使用した際、イオン交換膜が膨潤した際の寸法変化に異方性がでてしまうために、水電解装置に組み込んで使用した際に、その寸法変化の差からシワなどが発生し、不具合が起こることがある。
【0063】
(5)タフネス(J)
本発明のポリオレフィン系多孔質膜のMD方向およびTD方向のタフネスは、0.35J以上であることが好ましい。ここで、タフネスとは、材料の粘り強さを示すパラメータの一つであり、材料を引っ張った際に破壊が起こるまでのエネルギー量のことである。具体的にはL.E.Nielsen(小野木重治約);“高分子の力学的性質”98-100,化学同人(1965)に記載のとおり、引張試験において得られる応力ひずみ曲線の面積から求めることができる。
【0064】
ポリオレフィン系多孔質膜のタフネスが0.35J以上であれば、イオン交換膜の支持体とした際に、優れた脆化抑制効果を発揮し、強靭で破れにくいイオン交換膜を得ることができる。タフネスの下限はより好ましく0.40J以上である。タフネスは高ければ高いほど好ましいが、実質的な上限は1.5J程度である。
【0065】
(6)F30(30%ひずみにおける応力)、F40(40%ひずみにおける応力)
本発明のポリオレフィン系多孔質膜のMDおよびTD方向の(F40-F30)は、2.0MPa以上であることが好ましい。ポリオレフィン系多孔質膜をイオン交換膜の支持体として用いる場合には、多孔質膜内の結晶構造が十分に細分化され、配向していることが好ましい。構造の微細化や配向が不十分では、多孔質膜として高い力学特性が出ていたとしても、イオン交換樹脂を充填した際に著しく脆化することがある。この微細化および配向を見極めるパラメータとして、(F40-F30)を使用した。
【0066】
フィルムを一定の速度で延伸すると、内部の構造変化に応じて応力が変化する。10%未満の低いひずみ領域においては、ひずみに対して応力は直線的に増加していくが、その後、応力の増加は緩やかになっていく。ここで、多孔質膜の内部に配向がかかっていない粗大な構造がある場合には、変形を与えた際に内部の構造破砕や配向が起こる過程で応力が解放されるために、ひずみに対する応力の増加がさらに小さくなる。したがって、(F40-F30)の値を評価することで、配向具合を評価することができる。
【0067】
本発明者らは、(F40-F30)の値が2.0MPa未満の場合には、多孔質膜として十分なタフネスを持っていたとしても、イオン交換膜の支持体とした場合に脆化しやすくなる傾向があることを見出した。(F40-F30)の下限は、好ましくは2.0MPa以上であり、より好ましくは2.5MPa以上であり、さらに好ましくは3.0MPa以上である。
【0068】
(F40-F30)が高ければ高いほど強い配向がかかっていることを示す。そのため、
(F40-F30)の上限は10.0MPa以下であることが好ましく、より好ましくは9.0MPa以下、さらに好ましくは8.0MPa以下である。(F40-F30)が10.0MPaを超える場合には、配向が強すぎるためにタフネスが低下し、結果としてイオン交換膜化した際に脆化しやすくなることがある。
【0069】
なお、本発明のポリオレフィン系多孔質膜は、上記した(F40-F30)の特性を、MD方向、および、TD方向のいずれの方向においても、備えていることが好ましい。
【0070】
[ポリオレフィン系多孔質膜を支持体としたイオン交換膜の製造方法]
上記方法で得られた本発明の多孔質膜は、イオン交換樹脂の支持体として好適に使用できる。支持するイオン交換樹脂(イオン交換基の種類)は、目的とする用途に応じて、適宜決定すればよい。該イオン交換樹脂は、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂のいずれであってもよい。中でも、陰イオン交換樹脂の支持体とする場合には、水素を製造するための水電解である、陰イオン交換膜(AEM)型水電解用途に使用できるため好ましい。
イオン交換樹脂を支持する際には、支持体は重ね合わせることなく1枚のみの単層とすることが好ましい。支持体が2枚以上積層されている場合には、積層した界面で剥離が起こる場合がある。また、積層した界面を十分接着させるために、熱圧着などを行うと、細孔が潰れて膜抵抗が増大する場合がある。イオン交換樹脂を支持する方法は、特に制限されるものではないが、例えば、以下の4通りの方法が挙げられる。
【0071】
(1)イオン交換基含有モノマーを含む重合性組成物(必要に応じて該重合性組成物の溶液)と、多孔質膜とを接触させて、該多孔質膜の細孔に重合性組成物を充填させる。その後、細孔に充填した重合性組成物を重合する。この時、目的とするイオン交換膜となるように、イオン交換基含有モノマーのみからなる重合性組成物を使用してもよいし、イオン交換基含有モノマー、および必要に応じて配合される他のモノマーを含む重合性組成物を使用することもできる。他のモノマーには、ジビニルベンゼンのような多官能である、架橋剤が含まれていてもよい。
【0072】
(2)イオン交換基を導入できるモノマーを含む重合性組成物(必要に応じて該重合組成物の溶液)と多孔質膜とを接触させ、該多孔質膜の細孔に該重合性組成物を充填する。次いで、該重合性組成物を重合する。その後、得られた、イオン交換基を導入できるモノマーが重合した前駆体ポリマーにイオン交換基を導入する。
より詳細に説明すると、以下の通りである。先ず、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体(例えば、クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードメチルスチレン等)、必要に応じて、架橋性重合性単量体(例えば、ジビニルベンゼン化合物)、および有効量の重合開始剤(例えば、有機過酸化物)を含む重合性組成物を、上記したポリオレフィン系多孔質膜と接触させる。そして、該多孔質膜の空隙部に該重合性組成物を充填させた後、重合硬化させて、ハロゲノアルキル基を有する樹脂が充填された、イオン交換膜の前駆体を準備する。次いで、ハロゲノアルキル基をイオン交換基に変換することにより、イオン交換膜とする。
なお、この方法では、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体を例示したが、例えば、スチレン等を用いてハロゲノアルキル基を導入する前の、前駆体の前駆体を準備し、それにハロゲノアルキル基を導入することもできる。ハロゲノアルキル基を導入した以降は、前記と同様の操作を実施すればよい。
【0073】
(3)イオン交換基含有モノマーを含む重合性組成物を重合する。得られたイオン交換基含有重合体を含む溶液と上記したポリオレフィン系多孔質膜とを接触させることにより、イオン交換樹脂(該重合体)を少なくとも細孔に充填したイオン交換膜とする。該重合性組成物には、架橋剤を含む他のモノマーを配合することもできるが、架橋度が高くなりすぎると、イオン交換基含有重合体の溶解度が低下する傾向にあるため、注意を要する。
【0074】
(4)イオン交換基を導入できるモノマーを含む重合性組成物を重合する。得られた重合体の溶液と多孔質膜とを接触させ、該多孔質膜の細孔に該重合体(イオン交換基を導入できるモノマーが重合した前駆体ポリマー)を充填する。その後、イオン交換基を導入できるモノマーを重合した前駆体ポリマーにイオン交換基を導入する。この方法においても、該重合性組成物には、架橋剤を含む他のモノマーを配合することもできるが、架橋度が高くなりすぎると、前駆体ポリマーの溶解度が低下する傾向にあるため、注意を要する。
【0075】
以上の方法の中でも、生産性、イオン交換基の導入量、およびイオン交換樹脂の不溶性等を考慮すると、(1)、又は(2)の方法を採用することが好ましい。つまり、重合性単量体のモノマー組成物を一旦、多孔質膜に含侵させた後、重合し、必要に応じて、イオン交換基を導入する方法を採用することが好ましい。
【0076】
このイオン交換樹脂は、特に制限されるものではないが、多孔質膜との馴染み、密着性等を考慮すると、イオン交換基を除く樹脂部分が、架橋された炭化水素系重合体で構成されることが好ましい。ここで炭化水素系重合体とは、実質的に炭素-フッ素結合を含まず、重合体を構成する主鎖及び側鎖の結合の大部分が、炭素-炭素結合で構成されている重合体を指す。この炭化水素系重合体には、炭素-炭素結合の合間に、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、シロキサン結合等により酸素、窒素、珪素、硫黄、ホウ素、リン等の他の原子が少量含まれていてもよい。また、上記主鎖及び側鎖に結合する原子は、全てが水素原子である必要はなく、少量であれば塩素、臭素、フッ素、ヨウ素等の他の原子、又は他の原子を含む置換基により置換されていてもよい。これら炭素と水素以外の元素の量は、イオン交換基を除いた樹脂(重合体)を構成する全元素中40モル%以下、好適には10モル%以下であることが好ましい。
【0077】
陰イオン交換膜(AEM)における陰イオン交換基(多孔質膜の空隙部に充填する陰イオン交換樹脂が有する陰イオン交換基)は、特に制限されるものではないが、製造の容易さ、入手の容易さ等を考慮すると4級アンモニウム塩基やピリジニウム塩基であることが好ましい。
なお、陰イオン交換膜は、上記の製造方法で製造した場合、陰イオン交換基の対イオンがハロゲンイオンとして得られる場合が多い。この場合、該ハロゲンイオンを対イオンとする陰イオン交換膜は、過剰量のアルカリ水溶液中に浸漬するなどして、対イオンをOH-型にイオン交換させることが好ましい。該イオン交換方法には特別な制限はなく、公知の方法、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの水溶液に前記ハロゲンイオンを対イオンとする陰イオン交換型電解質膜を、2~10時間浸漬して行えばよい。
陽イオン交換膜における陽イオン交換基(多孔質膜の空隙部に充填する陽イオン交換樹脂が有する陽イオン交換基)は、特に制限されるものではないが、製造の容易さ、入手の容易さ等を考慮するとスルホン酸型やカルボン酸型であることが好ましい。
【0078】
[イオン交換膜の特性]
本発明のイオン交換膜は、高いタフネスと、高い(F40-F30)を備えているポリオレフィン系多孔質膜を支持体としているために、特に水電解装置に組み込んだ際に、長期間の使用においても膜が破損しにくく、水電解装置の長寿命化に寄与する。以下、本発明のイオン交換膜の特性について、記載する。
【0079】
(1)イオン交換容量(meq./g)
本発明のイオン交換膜のイオン交換容量は特に制限されるものではない。ただし、イオン交換膜として好適な性能を発揮するためには、1.0meq./g以上が好ましく、より好ましくは1.2meq./g、さらに好ましくは1.4meq./gである。イオン交換容量は高ければ高いほどイオン伝導性は良くなるため、イオン交換容量は高い方が好ましい。一方で、含水時の膨潤率が高くなりすぎてゲル化したり著しく強度が低下したりするなどのおそれがあるため、イオン伝導性と強度とのバランスを取るためには、上限は6.0meq./g以下が好ましい。
【0080】
(2)膜抵抗(Ω・cm2)
本発明のイオン交換膜の膜抵抗は特に制限されるものではない。ただし、イオン交換膜として好適な性能を発揮するためには、20μmあたりの膜抵抗が0.5Ω・cm2以下であることが好ましい。20μmあたりの膜抵抗が0.5Ω・cm2以下であると、例えば水素製造装置などに組み込んだ際に、低電圧で装置を稼働させることができるために、エネルギー原単位に優れる。
【0081】
(3)引裂強度(N)
本発明のイオン交換膜のMD方向およびTD方向の引裂強度(N)は3.5N以上であることが好ましい。引裂強度の下限はより好ましくは4.0N以上、さらに好ましくは5.0N以上である。引裂強度は高ければ高いほどイオン交換膜が裂けにくいことを示す。本発明のイオン交換膜は、高い引裂強度を持つために、例えば水電解装置に組み込む際に傷がついたとしても裂けにくい。また、水電解装置においては、イオン交換膜をガスケット等でセルに固定した際に、固定部分と固定されていない部分との境界において、フィルムの膨潤・収縮による応力が集中し、長期間の使用において、境界部が破れることがある。本発明のイオン交換膜は高い引裂強度を持つことから、長期間の使用においても膜が破れにくく、寿命に優れる。引裂強度は高ければ高いほど好ましいが、実質的な上限は15N程度である。
【0082】
(4)タフネス(J)
本発明のイオン交換膜のMD方向およびTD方向のタフネスは0.25J以上であることが好ましい。タフネスとは、前述のとおり、材料の粘り強さを示すパラメータである。本発明のイオン交換膜は高いタフネスを有するために、材料として強靭であり、取り扱い時に破れにくくハンドリング性に優れる。また、引裂強度と同様に、強靭であるために破れにくく、寿命に優れる。タフネスの下限はより好ましくは0.30J以上である。タフネスは高ければ高いほど好ましいが、実質的な上限は1.00J以下である。
【0083】
(5)弾性率(MPa)
本発明のイオン交換膜のMD方向およびTD方向の弾性率は特に限定されるものではないが、500MPa以上であることが好ましい。弾性率の下限は、より好ましくは600MPa以上であり、さらに好ましくは1000MPa以上である。弾性率が高いと、例えば得られたイオン交換膜を次工程において搬送する際に、シワが入りにくくハンドリング性に優れる。弾性率は高ければ高いほど好ましいが、実質的な上限は1800MPa以下である。
【0084】
(6)厚み
本発明のイオン交換膜の厚みは特に制限されるものではない。ただし、イオン交換膜のとして好適な性能を発揮するためには、10μm以上200μm以下であることが好ましい。イオン交換膜の膜抵抗が小さくできるという観点においては、厚みは薄い方が好ましいが、一方で厚みが薄くなるとガスバリア性と力学強度が低下する。特に、陰イオン交換膜を用いたAEM水電解では、膜に高圧がかかるためにハンドリング性とガスバリア性の観点からある程度の厚みを有していることが好ましい。そのため、イオン交換膜の厚みとしては、より好ましくは15μ以上170μm以下、さらに好ましくは25μm以上150μm以下である。
【0085】
[イオン交換膜を用いた膜電極接合体の製造方法]
本発明のイオン交換膜を用いて、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を製造することができる。MEAとは、イオン交換膜と電極とが一体化された複合膜である。ここで、一体化される電極は、陰極である第1電極と陽極である第2電極とを含んでいてもよい。さらに、触媒電極層のみであってもよいし、ガス拡散層を含んでいてもよい。膜電極接合体は、第1電極及び第2電極との間にイオン交換膜が介在していてもよい。
【0086】
電極は、金属触媒と、任意に、イオン伝導剤、導電剤、及び結着剤とを含み得る。電極において金属触媒、イオン伝導剤、導電剤、及び結着剤が占める割合はそれぞれ使用する材料に応じて適宜調整すればよい。
【0087】
金属触媒は、酸化若しくは還元反応を促進する。金属触媒は、典型的には、粒子の形状にある。金属触媒としては、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、モリブデン、タングステン、バナジウム、クロム、タンタル、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、これらの酸化物若しくは水酸化物、又はこれらの合金を用いることができる。陽極用の金属触媒は、ニッケルを含むことが好ましい。陰極用の金属触媒は、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、又はこれらの合金を含むことが好ましい。
【0088】
イオン伝導剤は、電極のイオン伝導性を高める。イオン伝導剤としては、酸性官能基を有する、パーフルオロカーボン重合体、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンなどが挙げられる。イオン伝導剤として、イオン交換樹脂を用いてもよい。
導電剤は、電極の電子伝導性を高める。導電剤は、金属触媒の担体として用いられてもよい。導電剤としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、黒鉛、フラーレン、カーボンナノチューブ、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0089】
結着剤は、電極の剛性を高める。結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafuloro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、又はこれらの混合物を用い得る。
【0090】
膜電極接合体の製造方法は特に制限されるものではなく、公知の方法を用いればよい。例えば、以下の方法が挙げられる。
先ず、イオン交換膜を準備する。イオン交換膜は、湿潤状態にあってもよいが、乾燥状態にあることが好ましい。
次に、金属触媒と、任意に、イオン伝導剤、導電剤、結着剤及び有機溶媒とを混合して、第1電極形成用組成物、および、第2電極形成用組成物をそれぞれ調製する。ここれら電極形成用組成物を、例えば、剥離紙上に塗布し、塗膜を得る。この塗膜を乾燥させる。乾燥後の塗膜を剥離紙から剥がし取り、イオン交換膜の一方の主面および他方の主面上にそれぞれ積層させる。なお、イオン交換膜のそれぞれの主面上に、あらかじめイオン伝導剤を塗布しておいてもよい。また、イオン交換膜のそれぞれの主面上に第1電極形成用組成物および/または第2電極形成用組成物を直接塗布し、塗膜を形成してもよい。
【0091】
得られた積層体に対して、加熱、加圧、又はこれら両方の処理を施すことにより、第1塗膜及び第2塗膜とイオン交換膜とを一体化させる。このようにして、第1電極、イオン交換膜、及び第2電極がこの順で積層された膜電極接合体が得られる。なお、第1電極又は第2電極のいずれかは省略してもよく、イオン交換膜の片側にのみ電極を備える形態であってもよい。
【0092】
[イオン交換膜またはMEAを備えてなる水電解装置およびその製造方法]
上記した本発明のイオン交換膜または膜電極接合体(MEA)を用いて、水電解装置を形成することができる。中でも、陰イオン交換膜(AEM)とした場合に、水素を製造できる水電解用の膜または膜電極接合体として使用できる。水電解装置の構成は、
図1に示す通りである。水電解装置は、水若しくは低濃度のアルカリ水溶液を用いる水電解装置であってもよく、5質量%以上の高濃度アルカリ水溶液を用いる装置であってもよい。
【0093】
具体的には、陰イオン交換膜1に、陰イオン交換樹脂に触媒が分散した触媒層(アノード2、およびカソード3)を配置し、それぞれガス拡散層4を設ける。ガス拡散層4の構成は、特に限定されず、一般的にAEM型水電解装置において使用される、例えば、黒鉛繊維による多孔質材料等が使用可能である。
ここで、陰イオン交換膜1とアノード2、カソード3の代わりに、前述したMEAを使用してもよい。そして、金属製の筐体10中において、アノード2側の陽極室5には、水を供給する水供給口6、酸素を排出する酸素排出口7を設ける。さらには、カソード3側の陰極室8には、水素を排出する水素排出口9を設ける。
以上のような構成とすることにより、水電解により水素を製造できる。
上記のような水電解セルにおいて、陰イオン交換膜は、アノードとカソード間でイオンを伝達する固体電解質膜として機能する。さらには、アノードで発生する酸素ガスと、カソードで発生する水素ガスの混合を抑制するため役割を持つ。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
本発明の実施例、比較例で使用した多孔質膜の特性、およびそれらの多孔質膜を用いたイオン交換膜の特性に関しては、それぞれ以下の方法にて評価を行った。温度に対する言及がない場合には、測定は常温(25℃)にて実施した。
【0095】
<重量平均分子量、分子量分布>
ポリオレフィン樹脂およびオレフィン系エラストマーの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。なお、それぞれの分子量はポリスチレン、ジベンジル基準の相対値である。MwおよびMnから、分子量分布をMw/Mnとして算出した。
・装置:高温GPC装置(東ソー製、HLC-8321GPC/HT)
・検出器:示差屈折率検出器RI
・カラム:Shodex HT-G、Shodex HT-806M(昭和電工製)
・溶媒: 1,2,4-トリクロロベンゼン
・流速: 1.0mL/min
・カラム温度: 145℃
・注入量:0.200mL
・標準試料:東ソー製単分散ポリスチレン、東京化成製ジベンジル
【0096】
<MFR、融点>
ポリオレフィン樹脂およびオレフィン系エラストマーのMFRは、JIS K 7210-1:2014に基づいて測定した。また、ポリオレフィン樹脂およびオレフィン系エラストマーの融点は、JIS K 7121(1987)に基づいて、DSCにより測定した。
【0097】
<厚み(μm)>
120mm×120mmに切り出した多孔質膜から、幅方向と長さ方向にそれぞれ30mmおきとなるよう合計9点の厚みを接触式厚さ計(株式会社ミツトヨ製デジマチックインジケータ ID-H0530)で測定し、その厚みを膜の厚みとした。
【0098】
<気孔率(%)>
多孔質膜の体積V(cm3)と質量M(g)を測定し、次式を用いて気孔率Pを計算した。なお、式中のρは多孔質膜を形成する樹脂組成物の密度(g/cm3)である。
P=100×(1-M/(ρ×V))
ここで、結晶性ポリオレフィンは、成形の違いによる結晶化度の違いによって密度が変化するため、樹脂組成物の密度としては、樹脂組成物を融点+50℃で溶融させたのちに、圧縮成形機を用いて0.1mm程度の厚さにプレスし、0℃の氷水で急冷して得られたシートの密度を使用した。
【0099】
<透気抵抗度(sec/100ccAir)>
JIS P8117:2009に基づき、旭精工株式会社製王研式透気度試験機(EGO1-7-1MR)を使用して多孔質膜の透気抵抗度を測定した。得られた透気抵抗度を膜厚(μm)で除した後に20を乗じることにより、20μmあたりの透気抵抗度を算出した。
【0100】
<引張特性>
SHIMADZU製オートグラフAGS-Xを用いて以下の条件にて引張試験を行った。
・試験速度:5mm/min
・試験片寸法:幅10mm×長さ50mmの短冊型
・つかみ具間距離(初期長)L0:30mm
・厚み:各試験片の中央部3点を接触式厚さ計(株式会社ミツトヨ製デジマチックインジケータ ID-H0530)にて測定し、その平均値を試験片の厚みとした。
得られた試験力F(N)およびつかみ具の変位ΔLから、次式をもとに、応力σおよびひずみεを算出した。得られた応力σを縦軸に、ひずみεを横軸にプロットし、応力-ひずみ曲線を得た。この応力-ひずみ曲線より、下記引張特性(1)~(4)を求めた。なお、各値は、MD方向、TD方向それぞれについて測定した。
σ(MPa)=F(N)/S(mm2)
ε=ΔL(mm)/L0(mm)
ここで、イオン交換膜を評価する場合には、イオン交換膜を0.5mol/LのNaCl水溶液に10時間以上浸漬した後に、イオン交換水で水洗して12時間以上常温(25℃)で風乾することで得られた塩化物イオン型の乾燥膜を使用した。
【0101】
(1)引張弾性率(MPa)
応力-ひずみ曲線の直線領域の傾きより、弾性率を算出した。具体的には、引張試験開始初期の直線領域における傾きを以下の式から求め、引張弾性率E(MPa)を算出した。
E(MPa)=Δσ(MPa)/Δε
【0102】
(2)F30(MPa)
応力-ひずみ曲線の横軸において、ひずみ0.3時点の応力(MPa)を読み取り、その値をF30(MPa)とした。
【0103】
(3)F40(MPa)
応力-ひずみ曲線の横軸において、ひずみ0.4時点の応力(MPa)を読み取り、その値をF40(MPa)とした。
【0104】
(4)タフネス(J)
初期から破断までの間における、試験力F[N]―変位ΔL[m]曲線の積分値を破壊エネルギーであるタフネス(J)として算出した。
【0105】
<引裂強度(N)>
JIS K7128-3(1998)に基づいて試験速度200mm/minにて引裂き試験を行い、得られた最大引裂荷重(N)を引裂強度(N)とした。MD方向、TD方向それぞれについて測定した。
ここで、イオン交換膜を評価する場合には、イオン交換膜を0.5mol/LのNaCl水溶液に10時間以上浸漬した後に、イオン交換水で水洗して12時間以上常温(25℃)で風乾することで得られた塩化物イオン型の乾燥膜を使用した。
【0106】
<イオン交換容量(IEC)(meq./g)>
イオン交換膜を0.5mol/LのNaCl水溶液に10時間以上浸漬し、塩化物イオン型とした。次いで、塩化物イオン型としたものを、0.2mol/LのNaNO3水溶液と接触させることにより、硝酸イオン型に置換した。この時に遊離した塩化物イオンを、硝酸銀水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE-900、平沼産業株式会社製)で定量し、得られた値をA(mol)とした。
【0107】
次に、同じイオン交換膜を0.5mol/LのNaCl水溶液に4時間以上浸漬させ、再び塩化物イオン型とした。浸漬後のイオン交換膜をイオン交換水で十分水洗した後、表面部の水分をふき取り、湿潤時のイオン交換膜の重量W(g)を測定した。このイオン交換膜を60℃で5時間にわたって減圧乾燥させて乾燥後の重量D(g)を測定した。各測定値から、次式によりイオン交換容量を求めた。
イオン交換容量(meq./g)=A×1000/D
【0108】
<膜抵抗(Ω・cm2)>
イオン交換膜を0.5mol/LのNaCl水溶液に10時間以上浸漬し、塩化物イオン型とした。白金電極を備えた2室セルの中央に、上記処理後のイオン交換膜を設置し、該イオン交換膜の両側に、0.5mol・L-1-NaCl水溶液を満たした。そして、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により、25℃における電極間の抵抗a(Ω・cm2)を測定した。同様にしてイオン交換膜を設置せずに電極間の抵抗b(Ω・cm2)を測定した。得られた測定値から、次式により膜抵抗を求めた。
膜抵抗(Ω・cm2)=(a-b)
得られた膜抵抗を膜厚(μm)で除した後に20を乗じることにより、20μmあたりの膜抵抗を算出した。
【0109】
<サイクル評価(靭性評価)>
中央部に直径15mmの穴が開いた幅40mm×長さ40mm×厚み1.5mmのステンレス製フレーム2枚の間に20mm×20mmに切り出したイオン交換膜を挟み、4隅をねじ止めして固定した。次いで、60℃に温めたイオン交換水中に、フレームに挟んだイオン交換膜を浸漬させて30分間静置した。その後、イオン交換膜を引き上げ、表面の水分をぬぐったのちに60℃のオーブン中で1時間乾燥させた。上記操作を100回繰り返したのちに、フレームからイオン交換膜を取り外し、イオン交換膜の外観を確認した。外観の目視確認において、亀裂が確認されたものを不良とした。
試験は1つのイオン交換膜から10枚の試験片を切り出して実施し、外観確認結果において不具合が確認されたものの割合で評価した。評価結果は下記とおりに表記した。
○:10枚中不良があったものが0~1枚
△:10枚中不良があったものが2~3枚
×:10枚中不良があったものが4枚以上
【0110】
<実施例1>
(多孔質膜の製造)
ポリオレフィン樹脂として、MFR=0.5g/10min、重量平均分子量105万、分子量分布6、融点170℃のホモポリプロピレンを75質量%、オレフィン系エラストマーとして、プロピレンを主成分とするプロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体(MFR=6.0g/10min、融点160℃、重量平均分子量34万、分子量分布2.2)25質量%をヘンシェルミキサーに投入して混合した樹脂組成物を二軸押出機に投入した。次に、可塑剤として、樹脂組成物および可塑剤の合計を100質量%として、60質量%のフタル酸ジイソノニルを二軸押出機のサイドフィーダーから添加し、180℃100rpmで溶融混練することによって、ゲル状溶液を得た。
得られたゲル状溶液を二軸押出機の先端に設置されたTダイから押し出し、25℃の冷却ロールで引き取りながら、厚み約1mmのゲル状シートを形成した。
得られたゲル状シートをテンター式同時二軸延伸機にて130℃にて縦4倍、横4倍となるように二軸延伸し、二軸延伸ゲル状フィルムを得た。得られた二軸延伸ゲル状フィルムをアセトン中に浸漬してフタル酸ジイソノニルを抽出除去した後、付着したアセトンを乾燥除去して、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜について上記した評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
(イオン交換膜の製造)
クロロメチルスチレン(95質量部)、57質量%-ジビニルベンゼンのスチレン溶液(5質量部)、重合開始剤(商品名:パーブチルO、5質量部)、エポキシ化合物(商品名:エポライト40E、5質量部)を混合して重合性単量体組成物を得た。得られた重合性単量体組成物400gを500mlのガラス容器に入れ、上記にて製膜した多孔質膜(20cm×20cm)を該重合性単量体組成物中に浸漬した。
続いて、該多孔質膜を該重合性単量体組成物中から取り出し、取り出した該多孔質膜の両側に、100μmのポリエステルフィルムを剥離材として積層した。得られた積層体を、0.3MPaの窒素加圧下、80℃で5時間加熱し、多孔質膜中の重合性単量体組成物を重合した。
得られた膜状物を、6質量%のトリメチルアミンと25質量%のアセトンを含む水溶液中に室温で16時間浸漬して、クロロメチルスチレン重合部分をアミノ化し、純水で洗浄した後に16時間以上風乾し、イオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について上記した評価を行った。結果を表2に示す。
【0112】
<実施例2~9、20、比較例1~9>
ポリオレフィン樹脂、オレフィン系エラストマー、可塑剤の混合比、ならびに延伸温度および延伸倍率を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、多孔質膜およびイオン交換膜を作製した。得られた多孔質膜およびイオン交換膜について上記した評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0113】
<実施例10>
ポリオレフィン樹脂、オレフィン系エラストマー、可塑剤は、実施例1と同様のものを使用した。ポリオレフィン樹脂90質量%、オレフィン系エラストマー10質量%の樹脂組成物に対して、可塑剤を60質量%添加したものを東洋精機製作所製ラボプラストミルに投入して180℃、50rpmで溶融混練し、ゲル状溶液を得た。得られたゲル状溶液を室温にて固化させ、ゲル状固形物を得た。得られたゲル状固形物から一定量を切り出し、180℃に加熱した圧縮成型機を使用してシート状にプレスした後に0℃の氷水中に導入して冷却固化させ、厚み約0.5mmのゲル状シートを得た。
得られたゲル状シートを小型のテンター式バッチ延伸機を用いて、145℃で縦4倍横4倍となるように二軸延伸し、ゲル状フィルムを得た。得られたゲル状フィルムをアセトン中に浸漬してフタル酸ジイソノニルを抽出除去した後、付着したアセトンを乾燥除去して、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜を使用し、実施例1と同様にしてイオン交換膜を得た。得られた多孔質膜およびイオン交換膜について上記した評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0114】
<実施例11~18、比較例10>
ポリオレフィン樹脂、オレフィン系エラストマー、可塑剤の混合比を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例10と同様にして、多孔質膜およびイオン交換膜を作製した。得られた多孔質膜およびイオン交換膜について上記した評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0115】
<実施例19>
ポリオレフィン樹脂として、MFR=0.5g/10min、重量平均分子量102万、分子量分布8.8、融点が162℃のホモポリプロピレンを使用した以外は実施例10と同様にして、多孔質膜およびイオン交換膜を作製した。得られた多孔質膜およびイオン交換膜について上記した評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0116】
<比較例11>
ポリオレフィン樹脂、オレフィン系エラストマー、可塑剤の配合比を表1に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、多孔質膜の製造を試みた。可塑剤が多く柔らかいために、Tダイよりゲル状組成物を押し出してロールで引き取る際にゲル状組成物が引きちぎれてゲル状シートを得ることができなかった。
【0117】
<比較例12>
ポリオレフィン樹脂、オレフィン系エラストマー、可塑剤の配合比および延伸温度・倍率を表1に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、多孔質膜の製造を試みた。延伸において、ゲル状フィルムの延伸機クリップ外れによる破れが多発し、多孔質膜を得ることができなかった。
【0118】
<比較例13>
ポリオレフィン樹脂、オレフィン系エラストマー、可塑剤の配合比および延伸温度・倍率を表1に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、多孔質膜の製造を試みた。延伸においてフィルム破れが発生し、多孔質膜を得ることができなかった。
【0119】
<実施例21>
オレフィン系エラストマーとして、ExxonMobil社製のプロピレン系エラストマーであるVistamaxx3000を使用し、初期のゲル状シートの厚みを約1.0mmで成型し、ポリオレフィン樹脂、オレフィン系エラストマー、可塑剤の混合比を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例10と同様にして、多孔質膜およびイオン交換膜を作製した。得られた多孔質膜およびイオン交換膜について上記した評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0120】
<実施例22>
オレフィン系エラストマーとして、ExxonMobil社製のプロピレン系エラストマーであるVistamaxx3980FLを使用した以外は実施例21と同様にして、多孔質膜およびイオン交換膜を作製した。得られた多孔質膜およびイオン交換膜について上記した評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0121】
<実施例23>
オレフィン系エラストマーとして、ExxonMobil社製のプロピレン系エラストマーであるVistamaxx3588FLを使用した以外は実施例21と同様にして、多孔質膜およびイオン交換膜を作製した。得られた多孔質膜およびイオン交換膜について上記した評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0122】
<実施例24~26>
多孔質膜を製造する際に、ロール式縦延伸機ならびにテンター式横延伸機を使用し、
MD方向についでTD方向を延伸する逐次延伸方式により延伸を行ない、延伸倍率ならびに延伸温度を表1に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、多孔質膜およびイオン交換膜を作製した。得られた多孔質膜およびイオン交換膜について上記した評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0123】
【0124】
【0125】
表2からわかるように、本発明のイオン交換膜(実施例1~26)では、MD方向、TD方向のいずれにおいても、引裂強度が3.5N以上となっており、靭性評価は△または〇であり、良好であった。これに対して、比較例10のイオン交換膜では、ポリオレフィン系多孔質膜の気孔率が小さすぎるため、得られたイオン交換膜の膜抵抗、イオン交換容量が測定できなかった。
また、比較例1~9のイオン交換膜は、MD方向またはTD方向の少なくともいずれかにおいて、引裂強度が3.5N未満となっており、靭性評価は×であり、不良であった。また、比較例11では、可塑剤の添加量が本願発明の好ましい範囲から外れており、比較例12、13では、延伸温度が本願発明の好ましい範囲から外れており、このため、多孔質膜を得ることができなかった。
【0126】
また、表1からわかるように、本発明のポリオレフィン系多孔質膜(実施例1~26)では、MD方向、TD方向のいずれにおいても、タフネスが0.35J以上となっており、かつ、(F40-F30)が2.0MPa以上となっており、これにより、表2に示すように得られたイオン交換膜の靭性評価は△または〇であり、良好であった。
これに対して、比較例1、2、5~9の多孔質膜は、タフネスが0.35J未満となっており、比較例3、4の多孔質膜は、MD方向またはTD方向のいずれかの(F40-F30)が2.0MP未満であり、得られたイオン交換膜の靭性評価は×であり、不良であった。また、比較例10では、ゲル状溶液を構成する樹脂組成物中のポリオレフィン系エラストマーの含量が、本願発明の好ましい範囲外であるため、表1に示すように得られた膜は気孔率が0%で空孔を形成できておらず、多孔質膜としては不良であった。空孔が形成されていないために、イオン交換樹脂が内部に充填できず、表2に示すように得られたイオン交換膜の膜抵抗は極めて高く、イオン交換容量も測定できず、イオン交換膜として不良であった。
【0127】
表1からわかるように、本発明のポリオレフィン系多孔質膜の製造方法(実施例1~20)では、表2に示すように得られたイオン交換膜の靭性評価は△または〇であり、良好であった。
これに対して、比較例1~4の方法では、延伸倍率が本願発明の好ましい範囲から外れており、このため、表2に示すように得られたイオン交換膜の靭性評価は×であり、不良であった。
また、比較例5~9の方法では、ゲル状溶液を構成する樹脂組成物が、ポリオレフィン系エラストマーを含んでおらず、このため、表2に示すように得られたイオン交換膜の靭性評価は×であり、不良であった。
また、比較例10の方法では、ゲル状溶液を構成する樹脂組成物中のポリオレフィン系エラストマーの含量が、本願発明の好ましい範囲外であり、このため、表1に示すように、得られた膜は気孔率が0%で空孔が形成されておらず、多孔質膜として不良であった。空孔が形成されていないために、イオン交換樹脂が内部に充填できず、表2に示すように得られたイオン交換膜の膜抵抗は極めて高く、イオン交換容量も測定できず、イオン交換膜として不良であった。
【符号の説明】
【0128】
1 陰イオン交換膜
2 アノード
3 カソード
4 ガス拡散層
5 陽極室
6 水供給口
7 酸素排出口
8 陰極室
9 水素排出口