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7645063製パン練込用水中油型乳化油脂組成物、パン生地及びパン製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】製パン練込用水中油型乳化油脂組成物、パン生地及びパン製品
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20250306BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20250306BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20250306BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20250306BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20250306BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A23D7/005
A21D2/14
A21D2/26
A21D13/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020179260
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022070172
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】島田 俊裕
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-078274(JP,A)
【文献】特開2009-178113(JP,A)
【文献】特開2018-143120(JP,A)
【文献】七訂 食品成分表 2016,資料編 ,P352
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00 - 9/05
A23B 20/00 - 20/30
A21D 2/00 - 17/00
A21D 40/00 - 45/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類含量が1.2質量%以下であって、油相のSFCが10℃で55~100、20℃で30~100、40℃で15以下であり、トータルミルクプロテイン及びミルクプロテインコンセントレートから選択される少なくとも1種を含有する、製パン練込用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
乳固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を含有する、請求項1記載の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物を使用したパン生地。
【請求項4】
請求項3記載のパン生地を焼成したパン製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製パン練込用水中油型乳化油脂組成物並びにそれを用いたパン生地及びパン製品に関する。
【背景技術】
【0002】
製パン練込用油脂は、通常は可塑性油脂を使用する。これは、製パン練込用油脂はミキシングによりいったん出来上がった段階のパン生地に添加することが必要なためである。ここで、油脂が液状であるとミキサー中で油脂が潤滑油となって滑ってしまってパン生地に短時間で練り込むことができず、反対に可塑性のない固形油脂であると、パン生地に均質に混合すること自体が困難である。
【0003】
またミクロ的にも、油脂が可塑性であることによって油脂がパン生地のグルテン膜に沿って配向し、そのためグルテン骨格を強固なものとなり、ソフトで体積の大きなパン製品が得られるとともに、ホイロ耐性や窯落ち防止効果を得ることができるのである。
【0004】
そのため、上記可塑性油脂としては、水分を含有しないショートニングに比べて良好な可塑性が得られ、また、ショートニングのような調温を厳密に行わずとも使用可能な点で、油中水型乳化物であるマーガリンが主として用いられる。
【0005】
マーガリンについては、水分含量を増すにつれて物性的に軟らかくなるため、とくに使用する油脂が高融点の油脂であったり、低融点の油脂であっても使用温度が低い場合、あるいは冷蔵保存してあったマーガリンをすぐに使用したい場合など、水分含量の高いマーガリンは有用な場面が増えてきている。
【0006】
しかし、製パン練込用油脂が油中水型乳化物であると、乳化可能な水分含量はある程度限定され、約20%以上の水分を含有させようとすると、乳化剤の含有量を増やす必要性、さらには、水相に澱粉や増粘安定剤などの添加を必要とし、そのため口溶けが悪化してしまう問題があった。
一方、製パン練込用油脂を水中油型乳化物とした場合は、液状となってしまうため可塑性がなく、乳化安定性のために逆に油脂の含有量を増やせないという問題があった。そして可塑性を付与するためには水相に増粘安定剤を大量に使用する必要があり、その場合にはやはり口溶けが悪化してしまう。
【0007】
そのため、製パンにおいて水中油型乳化物を使用する場合は、牛乳や生クリームなどを配合水の一部を置換使用する風味面からの利用や、改良剤成分を含む機能性油脂組成物として、基本のマーガリン等の製パン練込用油脂に付加的に使用する、などの使用が行われるのみであった。
上記のような理由から、製パンにおいて水中油型乳化物を使用する技術としては、牛乳を3~6倍に濃縮したスタイルの濃縮乳タイプの水中油型乳化物(たとえば特許文献1~3参照)や、口溶けを害しない添加物を使用し、パン生地吸水量を増やすための水中油型乳化物(例えば特許文献4及び5参照)や、天然の乳化機能素材を含有することで風味の改良を図った水中油型乳化物(例えば特許文献6及び7参照)などが提案されているのみであり、水中油型乳化物においては油脂そのものの製パン改良効果については知られていなかった。
【0008】
一方、これらの水中油型乳化物、とくに濃縮乳タイプの水中油型乳化物は、牛乳や生クリームをその配合の基本としているため糖分含量が高く、そのため、生地物性に影響が出やすいという問題や、体積の減少をもたらす等の問題もあり、とくに食パン生地、パイ生地、フランスパン生地、セミハードロール生地などのような糖分含量の低いパン生地には使用することが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-223697号公報
【文献】特開2010-075083号公報
【文献】特開2011-217645号公報
【文献】特開2011-097923号公報
【文献】特開2011-097924号公報
【文献】特開2000-014316号公報
【文献】特開2006-230215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、生地物性への影響を効果的に低減しながら、体積が大きく、歯切れ感、ソフト性及び口溶けが良好なパン製品を得ることが可能である製パン練込用水中油型乳化油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、水中油型乳化物の糖類の含量を一定量以下とし、さらに油相を特定のSFCとすることで上記課題を達成可能であることを見出した。
本発明は、上記知見により得られたものであり、糖類含量が2.0質量%以下であって、油相のSFCが10℃で55~100、20℃で30~100、40℃で15以下であることを特徴とする、製パン練込用水中油型乳化油脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物を使用することにより、生地物性に影響することなく、体積が大きく、歯切れ感、ソフト性及び口溶けが良好なパン製品を容易に得ることができる。
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物を使用して得られたパン製品は、体積が大きく、歯切れ感、ソフト性及び口溶けが良好である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物について詳述する。本発明は、体積が大きく、歯切れ感、ソフト性及び口溶けが良好なパン製品を得ることができる製パン練込用水中油型乳化油脂組成物並びにそれを用いたパン生地及びパン製品に関する。
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物は糖類含量が2.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.7質量%以下である。2.0質量%を超えると、生地がべとつくなどの生地物性に影響がでてしまう問題が生じることに加え、とくに食パン生地、パイ生地、フランスパン生地、セミハードロール生地などのような糖類含量の低いパン生地に使用すると、ソフト性に劣るほか、得られるパン製品の体積が減少してしまう場合がある。なお、糖類含量の下限は0質量%である。
なお、本発明において糖類含量とは、単糖類、二糖類、オリゴ糖類または糖アルコールの固形分含量のことを言う。
【0014】
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物は、油相のSFCが10℃で55~100、20℃で30~100、40℃で15以下であることが必要であるが、好ましくは10℃で55~90、20℃で30~75、40℃で5以下であり、より好ましくは10℃で55~80、20℃で30~45、40℃で4以下である。
油相のSFCが10℃で55%未満、20℃で30%未満の場合、得られるパン製品の体積が小さくなる場合があり、食感もねちゃついた不良な食感になる。40℃で15%を超える場合はパン製品の口溶けが悪化する。なおSFCの下限は0である。
【0015】
ここで、上記SFCとするために使用する油脂としては特に限定されないが、例えば、パーム核油、ヤシ油、ババス油、パーム油、米油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油(キャノーラ油)、ハイエルシンナタネ油、ヒマワリ油、サフラワー油、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックサフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油、等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0016】
なかでも本発明では、体積が大きく、歯切れ感、ソフト性及び口溶けが良好なパン製品が得られる点で、パーム核油、ヤシ油、ババス油などのラウリン系油脂を使用することが好ましい。
ラウリン系油脂を使用する場合、油脂の脂肪酸組成において炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が10~90質量%とすることが好ましく、より好ましくは56~90質量%であることが好ましい。
【0017】
しかし、ラウリン系油脂は高価であること、及び、長期の保存性の問題があるため、その配合量を控えたい場合がある。その場合、上記ラウリン系油脂を使用した際の特徴が出にくくなり、また、生地がべたつきやすくなるなどの影響が出る場合がある。
【0018】
そのため、上記ラウリン系油脂を使用する場合であって、ラウリン系油脂の使用量が少ない場合、具体的には、油脂中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が55質量%以下となる場合は、上記特徴を有しながら生地がべたつくなどの生地物性の悪化がおきにくい点でラウリン系油脂を使用したエステル交換油脂の形で使用することが好ましい。
【0019】
なお、ラウリン系油脂を使用したエステル交換油脂を使用する場合、構成脂肪酸組成において炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が10~60質量%であり炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が25~60質量%である油脂配合物を、ランダムエステル交換してなる油脂であることが好ましい。
【0020】
ここで、上記構成脂肪酸組成において炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が10~60質量%であり炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が25~65質量%である油脂配合物を、ランダムエステル交換してなる油脂について述べる。
【0021】
上記ランダムエステル交換してなる油脂は、油脂配合物をランダムエステル交換して得られる油脂である。該油脂配合物は、構成脂肪酸組成において、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が10~60質量%、好ましくは30~60質量%、特に好ましくは32~55質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が25~60質量%、好ましくは30~58質量%である。
【0022】
上記のエステル交換油脂を含め、ラウリン系油脂を用いることにより、生地がべたつくなどの生地物性の悪化を起こすことなく、体積が大きく、歯切れ感、ソフト性及び口溶けが良好なパン製品を一層容易に製造することができる。
尚、上記油脂配合物の構成脂肪酸組成において、炭素数4以下の飽和脂肪酸は1質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
上記油脂配合物は、その構成脂肪酸中に炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂、及びその構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂を用いて、上記構成脂肪酸組成となるように配合することにより得ることができる。上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂において、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量は、その構成脂肪酸中に好ましくは30~100質量%、更に好ましくは65~100質量%である。上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂において、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量は、その構成脂肪酸中に好ましくは30~100質量%、更に好ましくは70~100質量%である。
【0024】
上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂としては、例えば、パーム核油、ヤシ油、ババス油、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1種又は2種以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、好ましくはパーム核油及び/又はヤシ油を用いる。
【0025】
また、上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂としては、例えば、パーム油、米油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油(キャノーラ油)、ハイエルシンナタネ油、ヒマワリ油、サフラワー油、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックサフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1種又は2種以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、好ましくは、パーム硬化油、大豆硬化油、米硬化油及びコーン硬化油の中から選ばれた1種又は2種以上、更に好ましくはこれらの中でも飽和脂肪酸含量を最大限に高めた極度硬化油、即ちパーム極度硬化油、大豆極度硬化油、米極度硬化油及びコーン極度硬化油の中から選ばれた1種又は2種以上、最も好ましくはパーム極度硬化油を用いる。
【0026】
上記油脂配合物において、上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂は、上記油脂配合物の構成脂肪酸組成において、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が10~60質量%、好ましくは30~60質量%、特に好ましくは32~55質量%となるように配合される。ここで、炭素数14以下の飽和脂肪酸が30質量%以上であることで、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物中の該エステル交換油脂の配合量が少ない場合でも得られるパンの口溶けの改良効果がわかりやすいものにできるため好ましい。また、炭素数14以下の飽和脂肪酸が60質量%以下であることで、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物中の該エステル交換油脂の配合量が多い場合でも生地のべとつきを改善できる。
【0027】
また、上記油脂配合物において、上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂は、上記油脂配合物の構成脂肪酸組成において、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が25~60質量%、好ましくは30~58質量%となるように配合される。ここで、炭素数16以上の飽和脂肪酸が25質量%以上であることで、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物中の該エステル交換油脂の配合量が少ない場合でも、得られるパンの体積を大きなものとすることができる。また、炭素数16以上の飽和脂肪酸が60質量%以下であることで、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物中の該エステル交換油脂の配合量が多い場合でも、得られるパンのソフト性や口溶けの悪化を効果的に改善できる。
【0028】
尚、上記油脂配合物には、その構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸の含量及び炭素数16以上の飽和脂肪酸の含量が上記の範囲であれば、その他の油脂を加えてもよい。
そして、上述した油脂配合物に対し、ランダムエステル交換を行なうことにより、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物で好ましく用いるエステル交換油脂が得られる。該ランダムエステル交換の方法は、常法によればよく、例えばリパーゼ等の酵素による方法でも、ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒による方法でもよく、特に制限されるものではない。
上記エステル交換油脂の融点は、25~50℃であることが好ましく、更に好ましくは、30~45℃である。
【0029】
上記油脂配合物には、その構成脂肪酸組成における不飽和脂肪酸含量は5質量%~50質量%であることが得られるパンのソフト性や口溶けの点から好ましく、10質量%~40質量%であることがより好ましい。
【0030】
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物は、上記エステル交換油脂を1種又は2種以上用いることができる。
また本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物において、上記ラウリン系油脂を使用したエステル交換油を使用する場合、該エステル交換油脂の使用効果を明瞭にすることができる点で、油脂中の20~100質量%であることが好ましく、より好ましくは50~100質量%、さらに好ましくは70~100質量%である。
【0031】
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物において、ラウリン系油脂を含有するエステル交換油脂以外の油脂としては、上述した上記SFCとするために使用する油脂として挙げた各種の油脂のうち、ラウリン系油脂を使用したエステル交換油以外の油脂を使用することができる。また、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物において、ラウリン系油脂を使用する場合、ラウリン系油脂を使用したエステル交換油以外のラウリン系油脂としては、パーム核油、ヤシ油、ババス油、並びにこれらに対し硬化及び分別のうちの1種又は2種以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。なお本発明の本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物では、融点が50℃を超える油脂、とくに極度硬化油脂は、得られるパン製品の口溶けが悪化しやすい点で含有しないことが好ましい。なお、エステル交換油脂の製造に使用する分には問題ない。
【0032】
なお、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の油相の融点は25~50℃であることが好ましく、より好ましくは25~45℃である。
油相の融点が25℃未満であると、常温で液状であるため、ホイロ耐性が低く結果として体積の小さなパン製品となってしまうおそれがあり、油相の融点が50℃を超えると、パン製品の食感がぱさついたものとなってしまう問題があることに加え、得られるパン製品の口溶けが悪化するおそれがある。
【0033】
また、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物における油分含量は20~65質量%であることが好ましく、より好ましくは30~50質量%である。油分含量が20質量%以上であることで、製パン時に製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の添加量を多くする必要がなく、パン生地の種類によらず本発明の効果が得易くなる。また、65質量%以下であると、パン生地のべたつきを防止しやすく、また、製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の製造時の増粘を防止しやすく、乳化安定性の悪化を防止しやすいため、安定的な生産や保管・配送が容易となる。
なお、上記油分含量には、下記のその他の成分に含まれる油分も含むものとする。
【0034】
また、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物における水分含量は30~78質量%であることが好ましく、より好ましくは45~68質量%である。
なお、上記水分含量には、下記のその他の成分に含まれる水分も含むものとする。
【0035】
また、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物では、より良好な風味を有し、且つ、乳化剤の使用量を減じても乳化安定性が良好な製パン練込用水中油型乳化油脂組成物を得ることが可能な点から、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を使用することが好ましい。
【0036】
上記乳原料としては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、該固形分を基準として、3質量%以上である乳原料を使用することが好ましく、更に好ましくは4質量%以上、最も好ましくは5~40質量%である乳原料を使用する。
上記乳由来の固形分中のリン脂質とは、乳由来の固形分中に含まれる乳由来のリン脂質のことを指す。
【0037】
また、上記乳原料は、液体状でも、粉末状でも、濃縮物でも構わない。但し、溶剤を用いて乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮した乳原料は、風味上の問題から、本発明においては、上記乳原料として用いないのが好ましい。
【0038】
尚、上記乳原料の起源となる乳としては、牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、人乳等の乳を例示することができるが、特に牛乳が好ましい。
乳由来のリン脂質を含有する乳原料の固形分中のリン脂質の定量方法としては、例えば下記の定量方法が挙げられる。但し、抽出方法等については乳原料の形態等によって適正な方法が異なるため、下記の定量方法に限定されるものではない。
【0039】
先ず、乳由来のリン脂質を含有する乳原料の脂質をFolch法により抽出する。次いで、抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解20002.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解20002.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から、以下の計算式を用いて、乳由来のリン脂質を含有する乳原料の固形分100g中のリン脂質の含有量(g)を求める。
【0040】
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/(乳由来のリン脂質を含有する乳原料-乳由来のリン脂質を含有する乳原料の水分(g))〕×25.4×(0.1/1000)
【0041】
上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上である乳原料としては、例えば、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分が挙げられる。該クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクとは組成が大きく異なり、リン脂質を多量に含有しているという特徴がある。バターミルクは、その製法の違いによって大きく異なるが、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、通常0.5~1.5質量%程度であるのに対して、上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、おおよそ2~15質量%であり、多量のリン脂質を含有している。
【0042】
本発明において、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料として、通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクそのものを用いることはできないが、バターミルクを乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮した濃縮物、或いはその乾燥物を用いることは可能である。
【0043】
上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法の一例を以下に説明する。
上記クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。
【0044】
先ず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30~40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70~95質量%まで高める。次いで、乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理することによってバターオイルが得られる。本発明で用いることができる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。
【0045】
一方、上記バターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。
先ず、バターを溶解機で溶解し、熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いることができる上記水相成分は、遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
【0046】
本発明で用いることができる上記水相成分としては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上であれば、上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分をそのまま用いてもよく、また、噴霧乾燥、濃縮、冷凍等の処理を施したものを用いてもよい。
【0047】
但し、乳由来のリン脂質は、高温加熱するとその機能が低下するため、上記加温処理や上記濃縮処理中或いは殺菌等により加熱する際の温度は、100℃未満であることが好ましい。
【0048】
また、本発明では、上記の乳原料中のリン脂質の一部又は全部がリゾ化されたリゾ化物を使用することもできる。該リゾ化物は、乳原料をそのままリゾ化したものであっても良く、また乳原料を濃縮した後にリゾ化したものであってもよい。また、得られたリゾ化物に、更に濃縮或いは噴霧乾燥処理等を施してもよい。これらのリゾ化物は本発明におけるリン脂質の含有量に含めるものとする。
【0049】
上記の乳原料中のリン脂質をリゾ化するには、ホスホリパーゼAで処理すればよい。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置換する作用を有する酵素である。ホスホリパーゼAは、作用する部位の違いによってホスホリパーゼA1とホスホリパーゼA2とに分かれるが、ホスホリパーゼA2が好ましい。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。
【0050】
また、本発明では、上記の乳原料の添加効果を更に向上させることができる点で、好ましくはpHが3~6、より好ましくはpH4~6、更に好ましくは4.7~5.8となるように酸処理を行ったものであることが好ましい。
【0051】
上記酸処理を行うには、酸を添加する方法であっても、また、乳酸醗酵等の醗酵処理を行う方法であってもよいが、好ましくは酸を添加する。該酸としては、無機酸であっても有機酸であってもよいが、有機酸であることが好ましい。該有機酸としては、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フィチン酸、ソルビン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等が挙げられ、果汁、濃縮果汁、発酵乳、ヨーグルト等の有機酸を含有する飲食品も用いることができるが、本発明においてはより酸味が少なく、風味に影響しない点でフィチン酸及び/又はグルコン酸を使用することが好ましい。
【0052】
上記酸の添加によるpHの調整は、上記酸を上記乳原料自体に添加することにより行ってもよいし、製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の製造時に上記酸を添加することにより行ってもよい。
【0053】
また、本発明では、上記の乳原料に、リン脂質含有量1質量部あたり、好ましくは0.01~1質量部、より好ましくは0.02~0.5質量部、更に好ましくは0.05~0.3質量部のカルシウム塩を添加してもよい。
【0054】
上記カルシウム塩としては塩化カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム等が例示され、このうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、本発明においては得られる製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の風味を損ねず、物性が良好となる点で塩化カルシウム及び/又は乳酸カルシウムを使用することが好ましい。
【0055】
また、本発明で用いる上記の乳原料は、製パン練込用水中油型乳化油脂組成物を製造する際に、水相や製パン練込用水中油型乳化油脂組成物への分散性を高めることが可能である点、及び得られる製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の乳化安定性をより高めることができる点で、均質化処理を行なったものであることが好ましい。特に上記リゾ化処理、酸処理、カルシウム塩添加を行なう場合は、その効果を高めるために均質化処理を行なうことが特に好ましい。均質化処理は1回でもよく、2回以上行ってもよい。また、粘性が高い等の場合は、加水により粘度を調整してから均質化処理を行なってもよい。
【0056】
上記均質化処理に用いられる均質化機としては、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、バブル式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、ディスパーミル等が挙げられる。均質化圧力は特に制限はないが、好ましくは0~100MPaである。2段式ホモジナイザーを用いて均質化処理をする場合は、例えば、1段目3~100MPa、2段目0~5MPaの均質化圧力にて行ってもよい。
【0057】
更に本発明で用いる上記の乳原料は、UHT加熱処理を行ってもよい。UHT加熱処理の条件としては特に制限はないが、処理温度は好ましくは120~150℃であり、処理時間は好ましくは1~6秒である。
【0058】
このようにして得られる本発明で用いる上記の乳原料や乳原料加工品は、液状、ペースト状、粉末状、固形状等の状態のものとすることができ、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物では、何れの状態のものでも使用できるが、上記乳原料や乳原料加工品は、液状又はペースト状のものを使用することが、本発明の効果が安定して得られる点で好ましい。
【0059】
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物では、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上である乳原料を、固形分として、好ましくは0.1~8質量%、更に好ましくは0.5~7質量%、最も好ましくは0.5~4質量%含有する。
【0060】
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物は、乳のたん白質の組成をそのまま保持していることからより良好な乳風味が得られること、乳糖の含有量が低いため乳風味を増加させる目的で高配合量とした場合であっても組成物を低糖とすることが容易であることから、トータルミルクプロテイン及びミルクプロテインコンセントレートから選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。トータルミルクプロテイン及びミルクプロテインコンセントレートとは、牛乳中に含まれる蛋白質を濃縮又は噴霧乾燥したものであり、濃縮は通常限外濾過技術により行われる。トータルミルクプロテイン及びミルクプロテインコンセントレートは通常カゼイン蛋白質、ホエー蛋白質の両方を含有する。
【0061】
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物における、トータルミルクプロテイン及びミルクプロテインコンセントレートの含有量は合計して1~5質量%、より好ましくは1~3質量%である。
【0062】
なお本発明ではトータルミルクプロテイン又はミルクプロテインコンセントレートに代えて、又はこれらの加えて別の乳たん白質源を含有してもよい。トータルミルクプロテイン又はミルクプロテインコンセントレート以外の乳たん白質源としては、全粉乳、脱脂粉乳、ホエー蛋白質濃縮物、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、バターミルクパウダー等が挙げられる。トータルミルクプロテイン又はミルクプロテインコンセントレート以外の乳たん白質源の量は、製パン練込用水中油型乳化油脂組成物中の糖類含量が2.0質量%以下となる量であればよい。
【0063】
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、必要に応じ、乳化剤、安定剤、上記以外の乳及び乳製品、糖類及び甘味料、果汁、ジャム、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品等の呈味成分、調味料、食塩、酸味料、着香料、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤等の、その他の成分を、必要に応じ任意に配合してもよい。このその他の成分の配合量は、本発明の効果を阻害しない範囲において、通常の使用量の範囲で使用することができる。
【0064】
上記乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等が挙げられる。これらの乳化剤は単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0065】
本発明における上記乳化剤の含有量は、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.01~1質量%である。尚、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を使用する場合は、乳化剤の含量を減じることができ、その場合の乳化剤の好ましい含有量は0~1質量%、より好ましくは0~0.5質量%、最も好ましくは乳化剤を使用しないことが好ましい。
【0066】
上記安定剤としては、リン酸塩(ヘキサメタリン酸、第2リン酸、第1リン酸)、クエン酸のアルカリ金属塩(カリウム、ナトリウム等)等が挙げられる。これらの安定剤は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0067】
上記増粘安定剤としては、キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、カラギーナン、アルギン酸塩、ファーセルラン、ローカストビーンガム、ペクチン、カードラン、澱粉、化工澱粉、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ゼラチン、デキストリン、寒天、デキストラン、白キクラゲ多糖等が挙げられる。これらの安定剤は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物が増粘安定剤を含有する場合、その量としては、2質量%以下であることが、口溶けの点で好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0068】
以下に、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の製造方法を説明する。
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物は、その製造方法が特に制限されるものではないが、例えば以下の方法により製造することができる。
先ず、油脂及び必要によりその他の原料を含有させた油相と、水及び必要によりその他の原料を含有させた水相とをそれぞれ個別に調製し、次いで、該油相と該水相とを混合乳化し、水中油型に乳化することにより、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物が得られる。
【0069】
この際、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料、トータルミルクプロテイン及び/又はミルクプロテインコンセントレートをはじめとする水溶性成分は水相に、油溶性成分は油相に含有させるのが基本であるが、水相への溶解性が乏しく、だまになりやすい場合など、水溶性成分を油相に添加してもよい。
【0070】
得られた水中油型乳化油脂組成物は、必要により、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置により、圧力0~100MPaの範囲で均質化してもよい。また、必要によりインジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、プレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌又は加熱殺菌処理を施してもよく、直火等の加熱調理により加熱してもよい。さらに、加熱後に必要に応じて再度均質化してもよく、必要により急速冷却、徐冷却等の冷却操作を施してもよい。
【0071】
上記本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物は、製パン時にパン生地に練り込み使用するものであり、そのパン生地の種類としては、例えば、食パン生地、菓子パン生地、パイ生地、デニッシュ生地、クロワッサン生地、フランスパン生地、セミハードロール生地、イーストドーナツ生地、デニッシュドーナツ生地などが挙げられ、その中でも本発明の高い効果が得られる点で、食パン生地、パイ生地、フランスパン生地、セミハードロール生地のうちの1種であることが好ましい。
【0072】
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の添加量はパン生地の種類や、製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の油分含量によって適宜選択可能であるが、パン生地に使用する穀粉類100質量部に対し、好ましくは10~100質量部、より好ましくは12~55質量部、さらに好ましくは15~35質量部である。
【0073】
上記穀粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉及び全粒粉等の小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉及び米粉等のその他の穀粉類が挙げられる。上記穀粉類は、小麦粉類を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、最も好ましくは100質量%含有することが望ましい。
【0074】
次に本発明のパン生地について述べる。
本発明のパン生地は、上記の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物を使用したパン生地であり、詳しくは上記製パン練込用水中油型乳化油脂組成物を練込んでなるものである。
【0075】
上記のパン生地の種類、添加量は上述のとおりである。
なお、上記パン生地においては、パン生地に使用する穀粉類100質量部に対し水を40~120質量部、好ましくは45~100質量部、さらに好ましくは50~90質量部含むものであることが好ましい。尚、上記水の含有量は、パン生地の調製に使用される天然水や水道水に加え、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の水分や、後記のその他の原料中の水分も含めたものである。
【0076】
本発明のパン生地には、必要に応じ、一般の製パン材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の原料としては、例えば、油脂、イースト、糖類、全卵・卵黄・卵白・加塩全卵・加塩卵黄・加塩卵白・加糖全卵・加糖卵黄・加糖卵白・乾燥全卵・乾燥卵黄・凍結全卵・凍結卵黄・凍結卵白、凍結加糖全卵・凍結加糖卵黄・凍結加糖卵白・酵素処理全卵・酵素処理卵黄等の卵類、ゲル化剤や増粘安定剤、ステビア・アスパルテーム・スクラロース・アセスルファムカリウム等の甘味料、β-カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、デキストリン、カゼイン・ホエー・クリーム・脱脂粉乳・醗酵乳・牛乳・全粉乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップ用クリーム等の乳や乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズ等のチーズ類、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウオッカ・ブランデー等の蒸留酒、ワイン・日本酒・ビール等の醸造酒、各種リキュール、グリセリン脂肪酸エステル・グリセリン有機酸脂肪酸エステル・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸カルシウム・ステアロイル乳酸ナトリウム・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチン・リゾレシチン等の乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、生地改良剤、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、アスコルビン酸等の酸化剤、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、酵素、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類等の食品素材、コンソメ・ブイヨン等の植物及び動物エキス、食品添加物等を挙げることができる。
【0077】
上記油脂としては、例えば、ショートニング・マーガリン・バター等の可塑性油脂組成物や、サラダ油・流動ショートニング・溶かしバター等の流動状油脂組成物、また、粉末油脂等が挙げられる。また、油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0078】
上記の糖類としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、はちみつ等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0079】
上記その他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、上記澱粉類100質量部に対して合計で好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。
【0080】
次に、本発明のパン生地の製造方法について述べる。
本発明のパン生地は、パン生地製造の際に、上記の本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物をパン生地中に均質に練込むことによって得ることができ、上記の本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物を使用する以外は、一般的なパン生地の製造方法によって得ることができる。
【0081】
本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物のパン生地への添加時期や添加方法は特に限定されず、パン生地に使用する水や、牛乳・クリーム等の水分を多く含有する原材料と同様に使用することができ、その一部または全部を置換することで製造することができる。
中種法の場合は中種に使用してもよく、本捏に使用してもよいが、好ましくは本捏で使用する。
また、湯種法の場合は湯種に使用してもよいが、好ましくは本捏で使用する。
なお、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物と併せて、通常の製パン時同様に可塑性油脂組成物を添加してもよい。その場合、該可塑性油脂組成物の添加時期は、通常の製パン時同様、パン生地が伸展性を持った生地となってからであることが好ましい。
【0082】
次に、本発明のパン製品について述べる。
本発明のパン製品は、上記の本発明のパン生地を、適宜、成形し、必要に応じホイロ、リタード、レストをとった後、加熱したものである。
【0083】
上記成形においては、どのような形状に成形してもよく、型詰めを行っても構わない。これらの成形は、手作業で行っても、連続ラインを用いて全自動で行っても構わない。
上記加熱としては、例えば、焼成、フライ、蒸し、蒸し焼きが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を行うことができる。
焼成する場合の加熱条件は、パン製品の種類によって異なるが、例えばオーブンを使用する場合、好ましくは150~240℃で4~40分、さらに好ましくは180~230℃で8~30分である。また、フライする場合の加熱条件は、好ましくは180~260℃で1~10分、さらに好ましくは200~250℃で2~5分である。
【0084】
本発明のパン製品は、体積が大きく、歯切れ感、ソフト性及び口溶けが良好であるという特徴を有する。
【実施例
【0085】
<エステル交換油脂の製造>
[エステル交換油脂Aの製造]
パーム核油及びパーム極度硬化油を50:50の質量比率で混合した油脂配合物を、化学触媒を用いてランダムエステル交換し、融点43℃のエステル交換油脂Aを得た。
上記エステル交換油脂Aの構成する脂肪酸組成において、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量は36質量%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量は54質量%、不飽和脂肪酸含量は11質量%であった。また、エステル交換油脂Aの構成する脂肪酸組成において、炭素数4以下の飽和脂肪酸は1質量%以下であった。
【0086】
[エステル交換油脂Bの製造]
パーム核油及びパームステアリンを45:55の質量比率で混合した油脂配合物を、化学触媒を用いてランダムエステル交換し、融点37℃のエステル交換油脂Bを得た。
上記エステル交換油脂Bの構成する脂肪酸組成において、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量は32質量%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量は42質量%、不飽和脂肪酸含量は26質量%であった。また、エステル交換油脂Bの構成する脂肪酸組成において、炭素数4以下の飽和脂肪酸は1質量%以下であった。
【0087】
[エステル交換油脂Cの製造]
ヨウ素価55のパーム分別軟部油60質量部、ハイエルシン菜種極度硬化油20質量部及びパーム核油20質量部を溶解、混合した油脂配合物を、化学触媒を用いてランダムエステル交換し、融点39℃のエステル交換油脂Cを得た。
上記エステル交換油脂Cの構成する脂肪酸組成において、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量は12質量%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量は48質量%、不飽和脂肪酸含量は40質量%であった。また、エステル交換油脂Cの構成する脂肪酸組成において、炭素数4以下の飽和脂肪酸は1質量%以下であった。
【0088】
[エステル交換油脂Dの製造]
パーム核油及びパーム極度硬化油を75:25の質量比率で混合した油脂配合物を、化学触媒を用いてランダムエステル交換し、融点32℃のエステル交換油脂Dを得た。
上記エステル交換油脂Dの構成する脂肪酸組成において、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量は51質量%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量は33質量%、不飽和脂肪酸含量は16質量%であった。また、エステル交換油脂Dの構成する脂肪酸組成において、炭素数4以下の飽和脂肪酸は1質量%以下であった。
【0089】
[エステル交換油脂Eの製造]
ヨウ素価55のパーム分別軟部油を、化学触媒を用いてランダムエステル交換し、融点40℃のエステル交換油脂Eを得た。
【0090】
<製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の製造>
〔実施例1〕
60℃に加温したエステル交換油脂A45質量部からなる油相を用意した。一方、60℃に加温した水49質量部にクリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分29質量%、乳固形分中のリン脂質含量9.8質量%、水分71質量%)をホモゲナイザーにて均質化圧力3MPaにて均質化後、UHT加熱処理(142℃、4秒)を行ったもの4質量部、トータルミルクプロテイン2質量部を添加・分散した水相を用意した。該油相と水相を65℃で混合し、攪拌して水中油型の予備乳化物を調製した。該予備乳化物をVTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機ステリラボ)で143℃にて5秒間殺菌し、10MPaの圧力で均質化後、5℃まで冷却し、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で87、20℃で77、40℃で13であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が36質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Aを得た。
【0091】
〔実施例2〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aに代えて、エステル交換油脂Bを使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で61、20℃で41、40℃で0であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が32質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Bを得た。
【0092】
〔実施例3〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aに代えて、エステル交換油脂Cを使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で55、20℃で36、40℃で3であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が12質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Cを得た。
【0093】
〔実施例4〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aに代えて、エステル交換油脂Dを使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で72、20℃で51、40℃で1であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が51質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Dを得た。
【0094】
〔実施例5〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aに代えて、パーム核油(融点27℃)を使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で59、20℃で38、40℃で0であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が72質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Eを得た。
【0095】
〔実施例6〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aに代えて、パーム核分別高融点部(融点32℃)を使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で85、20℃で74、40℃で0であり、油脂中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が82質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Fを得た。
【0096】
〔実施例7〕
実施例1で使用したエステル交換油脂A45質量部を、エステル交換油脂A9質量部及びパーム核油36質量部からなる混合油脂を使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で65、20℃で45、40℃で3であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が65質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Gを得た。
【0097】
〔実施例8〕
実施例1で使用したエステル交換油脂A45質量部を、乳脂9質量部及びパーム核油36質量部からなる混合油脂を使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で55、20℃で33、40℃で0であり、油脂中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が63質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Hを得た。
【0098】
〔実施例9〕
実施例1で使用したエステル交換油脂A45質量部を、エステル交換油脂A18質量部及び乳脂27質量部からなる混合油脂を使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で58、20℃で40、40℃で5であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が28質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Iを得た。
【0099】
〔実施例10〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aに代えて、ヨウ素価(IV)が35であるパーム分別中融点部(融点34℃)を使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で91、20℃で80、40℃で0であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が1質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Jを得た。
【0100】
〔実施例11〕
実施例1で使用したエステル交換油脂A45質量部をパーム核油32質量部に変更し、水の配合量を62質量部に変更した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が32質量%、水分含量が64.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で59、20℃で38、40℃で0であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が72質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Kを得た。
【0101】
〔実施例12〕
実施例1で使用したエステル交換油脂A45質量部をパーム核油58質量部に変更し、水の配合量を36質量部に変更した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が58質量%、水分含量が38.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で59、20℃で38、40℃で0であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が72質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Lを得た。
【0102】
〔実施例13〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aをパーム核油に変更し、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分29質量%、乳固形分中のリン脂質含量9.8質量%、水分71質量%)をホモゲナイザーにて均質化圧力3MPaにて均質化後、UHT加熱処理(142℃、4秒)を行ったものを無添加に変更し、レシチン0.15質量部及びソルビタン脂肪酸エステル0.15質量部を油相に添加し、水の配合量を49質量部から52.7質量部に変更した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、糖類含量が0.1質量%、油相のSFCが10℃で59、20℃で38、40℃で0であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が72質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Mを得た。
【0103】
〔実施例14〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aをパーム核油に変更し、トータルミルクプロテインに代えてミルクプロテインコンセントレートを使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で59、20℃で38、40℃で0であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が72質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Nを得た。
【0104】
〔実施例15〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aをパーム核油に変更し、トータルミルクプロテイン2質量部に代えてトータルミルクプロテイン1質量部と脱脂粉乳1質量部の混合粉末を使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が1.2質量%、油相のSFCが10℃で59、20℃で38、40℃で0であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が72質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Oを得た。
【0105】
〔実施例16〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aをパーム核油に変更し、トータルミルクプロテインに代えてホエーたんぱく質濃縮物を使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.8質量%、油相のSFCが10℃で59、20℃で38、40℃で0であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が72質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Pを得た。
【0106】
〔実施例17〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aをパーム核油に変更し、トータルミルクプロテインに代えてカゼインナトリウムを使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.6質量%、油相のSFCが10℃で59、20℃で38、40℃で0であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が72質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Qを得た。
【0107】
〔比較例1〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aに代えて、パーム油を使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で50、20℃で20、40℃で3であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が1質量%である比較例の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Rを得た。
【0108】
〔比較例2〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aに代えて、ヨウ素価(IV)が57であるパームオレインを使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で35、20℃で5、40℃で0であり油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が1質量%である比較例の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Sを得た。
【0109】
〔比較例3〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aに代えて、エステル交換油脂Eを使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が51.8質量%であり、糖類含量が0.7質量%、油相のSFCが10℃で43、20℃で23、40℃で5であり、油脂の脂肪酸組成中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が2質量%である比較例の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Tを得た。
【0110】
〔比較例4〕
実施例1で使用したエステル交換油脂Aをパーム核油に変更し、トータルミルクプロテイン2質量部に代えて脱脂粉乳6質量部を使用し、水の配合量を49質量部から45質量部に変更した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、油分含量が45質量%、水分含量が47.8質量%であり、糖類含量が3.7質量%、油相のSFCが10℃で59、20℃で38、40℃で0であり、油脂中の炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が72質量%である本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Uを得た。
【0111】
<ベーカリー試験1>
実施例1~17、比較例1~4で得られた製パン練り込み用油脂組成物A~Uを使用し、下記の配合と製法により食パンA~Uを製造した(実施例18~34、比較例5~8)。
(配合)
中種配合
強力粉70質量部、イースト2質量部、イーストフード0.1質量部、水40質量部
本捏配合
強力粉 30質量部、上白糖8質量部、脱脂粉乳2質量部、食塩1.7質量部、水12質量部、製パン練込用水中油型乳化油脂組成物20質量部、製パン練込用マーガリン(油中水型乳化物)4質量部
【0112】
(製法)
上記の中種配合の全原料をミキサーボウルに投入し、たて型ミキサーにセットしフックを使用して、低速3分、中速1分ミキシングし、中種生地(捏ね上げ温度=24℃)を得た。この中種生地を28℃、相対湿度80%にて4時間の発酵を行った。
上記の発酵を行った中種生地に、製パン練込用マーガリン以外の本捏配合の全原料を添加し、たて型ミキサーでフックを使用して、低速3分、中速2分、高速1分ミキシングした後、本捏配合の製パン練り込み用マーガリン(15℃に調温)を添加して、低速3分、中速2分、高速1分ミキシングし、パン生地(捏ね上げ温度=27℃)を得た。得られたパン生地は、20分フロアタイムをとり、分割(390g)、丸め、20分ベンチタイムを取った後、モルダーを使用してワンローフ成形し、ワンローフ型にいれ、38℃、相対湿度80%、45分のホイロを取った後、190℃のオーブンで25分焼成してワンローフ食パンを得た。
【0113】
<評価方法及び評価基準>
得られたワンローフ食パンA~Uの体積、食感(歯切れ感、ソフト性及び口溶け)及び風味について以下の基準に従って評価し、結果を表1に記載した。
また、生地物性(べたつき)については分割後の本捏生地のべとつき具合について以下の基準に従って評価を行い、結果を同じく表1に記載した。
【0114】
(体積)
焼成1日後のワンローフ食パンについて、3Dレーザースキャナー(アステックス社製)により比容積を測定し、下記の基準にて評価した。
◎:容積1800ml以上
〇:容積1750以上1800ml未満
×:容積1750ml未満
【0115】
(食感)
焼成1日後のワンローフ食パンについて、歯切れ感、ソフト性及び口溶けを、パネラー21名にて下記の基準にて評価し、その一番多かった評価を表1に記載した。なお同数の場合は一段上の評価とした。
【0116】
(歯切れ)
◎:歯切れがよい
○+:やや歯切れがよい
○:やや歯切れが悪い
△:歯切れが悪く、ねちゃつく
×:非常に歯切れが悪く、非常にねちゃつく
【0117】
(ソフト性)
◎:非常にソフト
○+:ソフト
○:ややソフト
△:やや硬い
×:硬い
【0118】
(口溶け)
◎:非常に良好
○+:良好
○:やや良好
△:ややパサつき感がある
×:ぱさついている
【0119】
(風味)
焼成3日後のワンローフ食パンの風味を、パネラー21名にて下記の基準にて評価し、その一番多かった評価を表1に記載した。なお同数の場合は一段上の評価とした。
◎:非常に良好
○+:良好
○:やや良好
△:やや風味が弱い
×:風味が弱い、又は違和感のある風味がする
【0120】
(生地べたつき評価基準)
◎:べとつきなし
○:ややべとつきあり
△:べとつきあり
×:非常にべとつく
【0121】
【表1】
【0122】
表1の評価結果から判る通り、糖類含量が2.0質量%以下であって油相のSFCが特定値である水中油型乳化油脂組成物を用いた実施例18~34の食パンは、体積が大きく、歯切れ感、ソフト性及び口溶けが良好で、生地物性も優れる。一方、特定のSFCを満たさない比較例5~7の食パンは歯切れに劣り、比較例6では体積やソフト性も十分でない。また糖類含量が2.0質量%超の比較例8ではソフト性が十分ではなく、生地物性も劣る。
【0123】
<ベーカリー試験2>
実施例2で得られた製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Bのみを用いて、上記ベーカリー試験1における製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の添加量を10質量部、15質量部、20質量部、25質量部、30質量部、35質量部と可変させ、それに合わせて吸水量を調整した以外はベーカリー試験1同様の配合及び製法により、ワンローフ食パンB-1(10質量部)、B-2(15質量部)、B-3(20質量部)、B-4(25質量部)、B-5(30質量部)、B-6(35質量部)をそれぞれ製造し(実施例35~40)、上記ベーカリー試験1同様の評価を行い、結果を表2に記載した。
【0124】
【表2】
【0125】
表2の結果から判る通り、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物は幅広い使用量範囲において、体積が大きく、歯切れ感、ソフト性及び口溶けが良好であるという効果を奏することができる。
【0126】
<ベーカリー試験3>
実施例11で得られた製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Kを用いて、上記ベーカリー試験1における製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の添加量を20質量部から30質量部に変更し、それに合わせて吸水量を調整した以外はベーカリー試験1同様の配合及び製法により、ワンローフ食パンK-1を製造し(実施例41)、上記ベーカリー試験1同様の評価を行い、結果を表3に記載した。
【0127】
また、実施例12で得られた製パン練込用水中油型乳化油脂組成物Lを用いて、上記ベーカリー試験1における製パン練込用水中油型乳化油脂組成物の添加量を20質量部から15質量部に変更し、それに合わせて吸水量を調整した以外はベーカリー試験1同様の配合及び製法により、ワンローフ食パンL-1を製造し(実施例42)、上記ベーカリー試験1同様の評価を行い、結果を表3に記載した。
【0128】
【表3】
【0129】
表1及び表3の実施例11及び12並びに実施例41及び42の結果から判る通り、本発明の製パン練込用水中油型乳化油脂組成物は、幅広い油分含量において、体積が大きく、歯切れ感、ソフト性及び口溶けが良好であるという効果を顕著なものとすることができる。