(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-05
(45)【発行日】2025-03-13
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフの制御方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20250306BHJP
G01N 30/32 20060101ALI20250306BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
G01N30/86 T
G01N30/32 Z
G01N30/26 M
G01N30/86 V
(21)【出願番号】P 2023566181
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2022041993
(87)【国際公開番号】W WO2023106033
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2024-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2021201009
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】野上 真
(72)【発明者】
【氏名】原田 裕至
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/183684(WO,A1)
【文献】特開2015-21931(JP,A)
【文献】特表2004-507639(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0327514(US,A1)
【文献】特開2000-130353(JP,A)
【文献】特開平01-182579(JP,A)
【文献】特開昭63-106382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 - 30/96
G01N 27/60 - 27/92
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送液ポンプと、
前記送液ポンプと接続された流路と、
前記流路に設けられ、少なくとも前記流路内の流路内圧力を検出する圧力センサおよび前記流路内を流れる流体の成分を分離する分離カラムを備えた複数のストリームと、
前記複数のストリームから分析に使用する1つのストリームを選択する流路切替バルブと、
を備えた液体クロマトグラフの制御方法であって、
前記送液ポンプからの送液中に前記流路切替バルブを回転させ、前記流路切替バルブの回転により下降した前記圧力が上昇する際の圧力変動に基づいて、前記流路内に気泡が残存しているストリームを判定する、
液体クロマトグラフの制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体クロマトグラフの制御方法であって、
前記複数のストリームのそれぞれに、流体の流れに対して上流側に位置する第1切替バルブと、当該第1切替バルブの下流に前記流路を介して接続された第2切替バルブとを備え、
前記第1切替バルブを回転させた場合の前記圧力変動と、前記第2切替バルブを回転させた場合の前記圧力変動とに基づいて、
前記送液ポンプから前記第1切替バルブまでの流路に気泡が残存しているか否か、および、前記第1切替バルブから前記第2切替バルブまでの流路に気泡が残存しているか否かを判定する、
液体クロマトグラフの制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の液体クロマトグラフの制御方法であって、
規定圧力に戻る時間変動を判定基準に用いる、
液体クロマトグラフの制御方法。
【請求項4】
請求項2に記載の液体クロマトグラフの制御方法であって、
オペレーション中およびメンテナンス中いずれも実施可能である、
液体クロマトグラフの制御方法。
【請求項5】
請求項2に記載の液体クロマトグラフの制御方法であって、
前記流路内に気泡が残存しているか否かを判定した際の情報をデータベースに保管し、該当する前記情報から気泡発生の可能性有無を診断する、
液体クロマトグラフの制御方法。
【請求項6】
請求項2に記載の液体クロマトグラフの制御方法であって、
前記第1切替バルブがオートパージバルブであり、前記第2切替バルブがインジェクションバルブである、
液体クロマトグラフの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体クロマトグラフの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な液体クロマトグラフ(HPLC)は、液体の移動相を送液する送液ポンプと、試料を導入するインジェクタと、試料を分離する分離カラムと、分離カラムを温調するカラムオーブンと、それらを繋ぐ配管とから構成される。送液ポンプは、複数の移動相を保持し、時間ごとに混合比を変化させながら、分離カラムに送液するグラジエント送液を行う。グラジエント送液では、初めに送液ポンプは試料溶出力の低い組成の移動相を分離カラムへ送液するので、分離カラムに注入された試料中の目的成分は、分離カラムに吸着する(吸着工程)。次に、溶出力の高い組成へと変化させながら送液し、分離カラムへ吸着した試料中の目的成分は、分離カラムから溶出し、検出器へ到達する(分離工程)。目的成分が検出された後、送液ポンプは分離カラムに残存した夾雑物を洗浄するために、溶出力の高い組成へ変化させる。このように、グラジエント溶離では1回の分析で分離カラム内の移動相組成が変わる(洗浄工程)。グラジエント送液で連続測定を行う場合は、1回の分析終了後には次の分析を開始するために、分離カラム内の移動相の組成を初期移動相に変化させる必要がある(平衡化工程)。また、夾雑物のコンタミネーションを避けるために、インジェクタの洗浄や、インジェクタ用切替バルブを初期位置に戻す等の準備動作を実施する必要がある。
【0003】
液体クロマトグラフには、複数の液体クロマトグラフを備えたものがある。各液体クロマトグラフはストリームと呼ばれており、ストリームセレクトバルブを介して、1つの検出器に統合し、相互に分析可能な機能を備える。本液体クロマトグラフは、分離カラムへの平衡化工程、吸着工程、溶出工程、洗浄化工程およびインジェクタの洗浄工程の時間を調整し、各ストリームの溶出工程の時間に検出器に接続するようにストリームセレクトバルブを回転させ、該当のストリームから目的成分が検出器に導入し、検出器の待機時間がないようにする。このようにすることで、本液体クロマトグラフは、高スループット化を実現する。
【0004】
本液体クロマトグラフは、一般的な液体クロマトグラフに比べて複雑であり、装置内で不具合が生じたときに不具合箇所を特定することは困難である。不具合には、流路の詰まり、リークおよび気泡の残存等がある。流路の詰まりのときは、各送液ポンプに備え付けられた圧力センサの圧力値の上昇から、圧力センサの下流に詰まり箇所があることがわかる。リークのときは、各送液ポンプおよび配管流路付近に備え付けられたリークセンサでリークを検知することができる。また、各送液ポンプに備え付けられた圧力センサの圧力値の減少から、圧力センサの下流にリーク箇所があることがわかる。一方、気泡の残存等のときは、気泡の残存量が多いときは、通常送液中において、各送液ポンプに備え付けられた圧力センサ値の脈動が検知されるので、気泡が残存していることがわかる。しかしながら、気泡の残存値が微量のときは、通常送液中において圧力変動は検出されることはなく、気泡の残存に気づくことができない。その場合、測定対象物質の保持時間の変動や、ピーク強度の変動のように、データを取得した後に気づくことができる場合が大半で、試料の無駄や、測定時間の無駄が生じる。
【0005】
このような状況に鑑みて、特許文献1に記載の液体クロマトグラフ用送液システムが提案されている。
この送液システムは、送液機構と圧力センサと送液不良検知部とを備えている。
なお、前記送液機構は、プランジャを往復駆動することにより送液を行う少なくとも1つのプランジャポンプによって液を連続的に送液するように構成されている。前記圧力センサは、前記送液機構による送液圧力を検出する。前記送液不良検知部は、前記圧力センサにより検出される送液圧力を前記送液機構の1駆動周期内の変動が読み取れるような周期で取り込み、取り込んだ送液圧力を用いて前記送液機構の送液不良を検出するように構成されている。
そして、この送液システムにおいて、前記送液不良検知部は、脈動検出ステップと送液不良検知ステップとをその順に実行するように構成されている。
なお、前記脈動検出ステップは、前記送液機構の一定駆動周期内の前記送液圧力の変動幅を求め、前記変動幅が所定の基準値を超えている周期の連続数が所定の基準回数を超えたことを条件として脈動を検出する。前記送液不良検知ステップは、前記脈動検出ステップで前記脈動を検出したときに、前記送液機構の送液不良を検知する。
【0006】
特許文献1に記載の送液システムでは、分析中に正常値範囲を超える圧力変動が検出された場合、プランジャポンプ(送液ポンプ)の吐出口をドレインバルブに切替えてドレインに接続し、プランジャポンプを一定時間だけ高速駆動させてパージ動作を行う。その後、この送液システムは、ドレインバルブを戻してプランジャポンプを分離カラムに接続し、一定時間圧力変動の監視を行っている。また、プランジャポンプ内に気泡が混入した場合、発生した気泡の圧縮により液が正常に吐出されないため送液圧力が急激に降下する。他方のプランジャポンプの吐出動作の際には液の吐出が正常になされるため送液圧力が上昇する。その結果、送液機構の駆動周期と同期するような送液圧力の変動(脈動)が発生する。この送液システムは、そのような脈動を検出して、送液機構の送液不良を検知するものである。なお、この送液システムでは、パージ動作によって排出可能な気泡はプランジャポンプ内のものに限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の送液システムでは、送液ポンプ内部の気泡の残存を検知することができる。しかしながら、この送液システムでは、流路に気泡が残存していることを判定するのは困難であった。
【0009】
本開示の目的は、流路に気泡が残存していることを判定できる液体クロマトグラフの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、送液ポンプと、前記送液ポンプと接続された流路と、前記流路に設けられ、前記流路の接続先を複数切り替える流路切替バルブと、前記送液ポンプの送液圧力、前記流路内の流路内圧力、および前記流路切替バルブに掛かる圧力のうちの少なくとも一つの圧力を検出する圧力センサと、を備えた液体クロマトグラフの制御方法であって、前記送液ポンプからの送液中に前記流路切替バルブを回転させ、前記流路切替バルブの回転により下降した前記圧力が上昇する際の圧力変動に基づいて、前記流路内に気泡が残存しているか否かを判定する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、流路に気泡が残存していることを判定できる液体クロマトグラフの制御方法を提供できる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】3つのストリームを備えた液体クロマトグラフの構成を示した概略図。
【
図3A】正常時の圧力プロファイルの概略図。同図中、横軸は時間(秒)、縦軸は圧力値(MPa)である。
【
図3B】異常時の圧力プロファイルの概略図。同図中、横軸は時間(秒)、縦軸は圧力値(MPa)である。
【
図5】ΔP
1の偏差の経時変化情報を示すグラフ。同図中、横軸は経時変化時間(日)、縦軸はΔP
1の偏差(%)である。
【
図6】ΔP
2の偏差の経時変化情報を示すグラフ。同図中、横軸は経時変化時間(日)、縦軸はΔP
2の偏差(%)である。
【
図7】ΔTの偏差の経時変化情報を示すグラフ。同図中、横軸は経時変化時間(日)、縦軸はΔTの偏差(%)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照して本実施形態に係る液体クロマトグラフの制御方法について詳細に説明する。なお、
図1は、3つのストリームを備えた液体クロマトグラフの構成を示した概略図である。
図2は、1つのストリーム内の構成を示した概略図である。
図3Aは、正常時の圧力プロファイルの概略図である。
図3Bは、異常時の圧力プロファイルの概略図である。
図4は、気泡検知のフローチャートである。
図5は、ΔP
1の偏差の経時変化情報を示すグラフである。
図6は、ΔP
2の偏差の経時変化情報を示すグラフである。
図7は、ΔTの偏差の経時変化情報を示すグラフである。
【0014】
はじめに、
図1を参照して液体クロマトグラフ300の一例について説明する。
図1に示す液体クロマトグラフ300は、第1ストリーム301、第2ストリーム302および第3ストリーム303の3つのストリームを備えている。これらのストリームは、ストリームセレクトバルブ304を介して検出器305に接続されており、相互に分析可能となっている。
【0015】
図2を参照して各ストリームについて説明する。第1ストリーム301~第3ストリーム303はそれぞれ、
図2に示すように、第1送液ポンプ201、第2送液ポンプ202、第1圧力センサ203、第2圧力センサ204、オートパージバルブ205、三方ジョイント206、インジェクションバルブ207、シッパ208、サンプルホルダ209、シリンジ210、廃液流路211、カラム212、第1流路213、第2流路214、第3流路215を主要な要素として含んで構成されている。
【0016】
第1送液ポンプ201は互いに直列に接続された2つの第1のシリンダポンプおよび第2のシリンダポンプから構成され、吸引および吐出を相補的に駆動して安定送液が可能である。第2送液ポンプ202も第1送液ポンプ201と同様に、直列に接続された2つの第1のシリンダポンプおよび第2のシリンダポンプから構成される。送液ポンプ(第1送液ポンプ201および第2送液ポンプ202)は、流路と接続されている。
【0017】
第1送液ポンプ201の下流には、第1圧力センサ203が配置されている。第2送液ポンプ202の下流には、第2圧力センサ204が配置されている。第1送液ポンプ201は第1圧力センサ203および流路を介してオートパージバルブ205に接続されている。同様に、第2送液ポンプ202は第2圧力センサ204および流路を介してオートパージバルブ205に接続されている。第1圧力センサ203および第2圧力センサ204は、流路内の流路内圧力および流路切替バルブ(オートパージバルブ205、インジェクションバルブ207、ストリームセレクトバルブ304)に掛かる圧力のうちの少なくとも一つの圧力を検出する。
【0018】
流路切替バルブ(オートパージバルブ205、インジェクションバルブ207、ストリームセレクトバルブ304)は流路に設けられており、流路の接続先を複数切り替えることができる。
図2に示す例では、オートパージバルブ205の切替ポジションは2つある。第1ポジションでは、第1送液ポンプ201や第2送液ポンプ202から流路を三方ジョイント206に接続することができる。第2ポジションでは、第1送液ポンプ201や第2送液ポンプ202からの流路を廃液流路211に接続することができる。第2ポジションでは、送液ポンプの送液の準備動作のために、廃液流路211に切替えて、送液ポンプを高流量で送液するパージ動作を実施することで、送液ポンプ内の気泡除去、送液ポンプ流路内の液置換を実施する。第1ポジションでは、第1送液ポンプ201および第2送液ポンプ202の流路は三方ジョイント206で混合され、第1流路213を介してインジェクションバルブ207に送液される。
【0019】
インジェクションバルブ207には、シッパ208、シリンジ210およびサンプルループ216が接続されている。
図2に示す例では、インジェクションバルブ207の切替ポジションは2つある。第1ポジションでは、シッパ208とサンプルループ216とシリンジ210とが接続される。第2ポジションでは、送液ポンプからの流路(第1流路213)とサンプルループ216と第2流路214を介してカラム212に接続される。第1ポジションでは、シリンジ210が駆動し、シッパ208からサンプルホルダ209に固定されたサンプル容器内のサンプルが吸引され、サンプルループ216に導入される。第2ポジションでは、送液ポンプからの流路とサンプルループ216が接続されるため、第1ポジションでサンプルループ216に導入されたサンプルがカラム212に導入される。
【0020】
第1ストリーム301、第2ストリーム302および第3ストリーム303は同じ装置構成であり、各ストリームはストリームセレクトバルブ304(
図1)を介して、検出器305に接続されている。各ストリームのインジェクション、ポンプグラジエントのタイミングおよびストリームセレクトバルブ304の切替のタイミングを調整することで、サンプルを無駄にすることなく、高スループットで分析できる。
【0021】
次に、本開示に係る液体クロマトグラフの制御方法について説明する。本実施形態では気泡の残存を検知するために、流路切替バルブを1回転させる。なお、1回転でなくてもよく、例えば、流路切替バルブを規定角度回転させ、反対方向に同角度分戻してもよい。本実施形態では、流路切替バルブの回転により下がった圧力が上昇する際の圧力変動を指標にし、気泡の残存を検知することができる。
【0022】
図3Aの正常時の圧力プロファイルに示すように、正常時ではバルブ切替後、圧力が10MP以下しか変動しない(
図3Aの破線の円参照)。これに対し、
図3Bの異常時の圧力プロファイルに示すように、気泡が残存した場合、バルブ切替後、圧力がほぼゼロまで低下し、その後、気泡が流路内で圧縮および膨張を繰り返し、0~10MPa付近で脈動する(
図3Bの破線の円参照)。このような脈動する圧力プロファイルが得られた場合、流路内に気泡が残存していることがわかる。
【0023】
圧力プロファイルの閾値は[式1]-[式3]を算出し、判定される。[式1]<10MPaかつ[式2]<10MPaかつ[式3]<50sである。
ΔP1=PMax-P1 …[式1]
ΔP2=P1-Pmin …[式2]
ΔT =T2-T1 …[式3]
【0024】
ここで、ΔP1は圧力変化量、ΔP2は圧力変化量、PMaxは最大圧力(最大到達圧力)、Pminは最小圧力(最小到達圧力)、P1はバルブ切替前の圧力値、ΔTは時間変化点、T1はバルブ切替時間、T2は圧力復帰時間(バルブ切替時間、P1×80%に戻る時間)である。つまり、本実施形態では、圧力変動、すなわち[式1]と[式2]とを基に流路内に気泡が残存しているか否かを判定することができる。この圧力変動に加えて、規定圧力(例えば、P1×80%)に戻る時間変動、すなわち[式3]を判定基準に用いることができる。
【0025】
図1および
図2に示すように、液体クロマトグラフ300には合計7個の流路切替バルブが設けられている。具体的には、第1ストリーム301、第2ストリーム302および第3ストリーム303はそれぞれオートパージバルブ205およびインジェクションバルブ207を備えている。そして、各ストリームはストリームセレクトバルブ304で接続されている。本実施形態では、後述するように、オートパージバルブ205、インジェクションバルブ207、ストリームセレクトバルブ304の3種類の流路切替バルブを回転させて、その圧力変動から気泡の有無を判定する。
【0026】
本実施形態においては、流路切替バルブとして、流体の流れに対して上流側に位置する第1切替バルブと、第1切替バルブの下流に流路を介して接続された第2切替バルブとを用いる。
第1切替バルブおよび第2切替バルブの例として、第1切替バルブがオートパージバルブ205である場合は、第2切替バルブがインジェクションバルブ207となる。
また、第1切替バルブおよび第2切替バルブの例として、第1切替バルブがインジェクションバルブ207である場合は、第2切替バルブがストリームセレクトバルブ304となる。
【0027】
このような液体クロマトグラフ300に関し、測定前に液体クロマトグラフ300内の気泡の残存を検知し、装置の健全性を確認する工程について、
図4を参照して説明する。装置内の気泡残存検知はオペレーション中の各バルブ切替時に実施することに加えて、メンテナンスアイテムのひとつとして、装置のGUI(Graphical User Interface)画面上でオペレータが気泡検知メンテナンスを選択し、開始することができる。
【0028】
はじめに、
図4を参照してメンテナンス中の気泡検知について説明する。
まず、全てのバルブをホームポジションへ戻すリセット動作が実施される(ステップS1)。次に、各ストリームの第1送液ポンプ201および第2送液ポンプ202の送液が開始される。また、送液ポンプに備わった圧力センサによる圧力ログ取得が送液と同時に開始される(ステップS2)。この圧力センサは、送液ポンプの送液圧力を検出する。送液条件は超純水が流量0.44mL/minで送液され、圧力が50MPa程度で安定するまで待機する(ステップS3)。圧力安定とは0.1sごとに取得される圧力情報を積算し、30秒間の変動が±1MPaの範囲内におさまることである。圧力安定後、ストリームセレクトバルブ304を回転させる(ステップS4)。各送液ポンプの圧力値を取得し(ステップS5)、その圧力変動値、すなわち圧力の下降量および上昇量から気泡の有無を判定する(ステップS6)。気泡が残存していない各ストリームの第1送液ポンプ201および第2送液ポンプ202の送液を停止する(ステップS7でNo、ステップS8)。
【0029】
一方、気泡の残存が確認されたストリームにおいて、インジェクションバルブ207を回転させる(ステップS7でYes、ステップS9)。各送液ポンプの圧力値を取得し(ステップS10)、その圧力変動値、圧力の下降量および上昇量から気泡の有無を判定する(ステップS11)。
なお、気泡の残存が確認されたストリームにおいてインジェクションバルブ207を回転させる前に(すなわち、ステップS9の前に)、気泡が残存していないストリームの第1送液ポンプ201および第2送液ポンプ202の送液を停止してもよい。
【0030】
インジェクションバルブ207を回転させた際に、気泡が残存していないと判定された場合(ステップS12でNo)、該当ストリームのストリームセレクトバルブ304とインジェクションバルブ207間(すなわち、第2切替バルブから第1切替バルブまでの流路)に気泡が残存していることがわかる(ステップS13、
図1のA部参照)。その後、該当ストリームの第1送液ポンプ201および第2送液ポンプ202の送液を停止する(ステップS20)。
【0031】
気泡が残存していたと判定された場合(ステップS12でYes)、該当ストリームのオートパージバルブ205を回転させる(ステップS14)。各送液ポンプの圧力値を取得し(ステップS15)、その圧力変動値、すなわち圧力の下降量および上昇量から気泡の有無を判定する(ステップS16)。
【0032】
オートパージバルブ205を回転させた際に、気泡が残存していないと判定された場合、該当ストリームのインジェクションバルブ207とオートパージバルブ205間(すなわち、第2切替バルブから第1切替バルブまでの流路)に気泡が残存していることがわかる(ステップS17でNo、ステップS18、
図1のB部参照)。その後、該当ストリームの第1送液ポンプ201および第2送液ポンプ202の送液を停止する(ステップS20)。
【0033】
気泡が残存していたと判定された場合、該当ストリームのオートパージバルブ205と送液ポンプ間(すなわち、第1切替バルブから送液ポンプまでの流路)に気泡が残存していることがわかる(ステップS17でYes、ステップS19、
図1のC部参照)。その後、該当ストリームの第1送液ポンプ201および第2送液ポンプ202の送液を停止する(ステップS20)。
【0034】
このように、本実施形態に係る液体クロマトグラフ300の制御方法は、メンテナンス中の気泡検知において、下流側(検出器305側)の流路切替バルブから順次回転させることで流路に気泡が残存しているか否かを判定できる。また、本制御方法は、気泡が残存している場合は、前記したように流路切替バルブによって区切られているので、その残存箇所がわかる。本制御方法は、メンテナンス中の気泡検知が開始されると、前記した一連の工程は自動で実施される。気泡の残存および残存箇所はGUI上の画面に表示され、オペレータに作業を促すことになる。
【0035】
次に、オペレーション中の気泡検知について説明する。
オペレーション中の気泡検知はメンテナンス中の気泡検知とは異なり、測定順序によってバルブ切替の順番はランダムになる。オートパージバルブ205は測定前のパージ動作の際に切替わる。インジェクションバルブ207は試料のインジェクションの際に切替わる。ストリームセレクトバルブ304は3つのストリームの切替時に切替る。そのため、気泡残存の有無は検出することは可能であるが、気泡残存箇所を判定することはできない。気泡の残存が検出されたときは、該当のストリームに新規測定予約はできなくなる。
【0036】
一方、現在予約されている測定は実施される。予約された測定が終了すると、該当ストリームはストリームマスクとなり、送液ポンプの送液およびカラムオーブンの温調は停止する。オペレーション終了後、スタンバイ状態になったのちに、オペレータは、装置のGUIのメンテナンス画面から気泡検知メンテナンスを選択し、実施する。これにより、液体クロマトグラフ300は、メンテナンスにより前記した一連の工程を自動で実施し、気泡検知箇所を判定して、気泡を除去する作業を実施する。以下に作業内容を説明する。
【0037】
ストリームセレクトバルブ304とインジェクションバルブ207間に気泡が残存している場合、メンテンス画面上に結果および対処方法(Remedy)が表示される。メンテナンス画面には、結果:”ストリーム***のストリームセレクトバルブとインジェクションバルブ間に気泡が残存しています”、対処方法(Remedy):”エアパージのメンテナンスを実施して、再度気泡検出のメンテナンスを実施してください”、”気泡残存しているときはサービスパーソンに連絡してください”と表示される。装置のGUIのメンテナンス画面からエアパージのメンテナンスを選択する。本メンテナンスではストリームを選択し、該当ストリームについてエアパージを実施することができる。エアパージのメンテナンス後、再度気泡検知のメンテナンスを実施し、気泡の有無を確認する。ここまでの作業はオペレータおよびサービスパーソンが実施可能である。エアパージ後も気泡が残存している場合は、サービスパーソンは下記の作業を実施する。
【0038】
・ストリームセレクトバルブ304とインジェクションバルブ207間の配管の接続の緩みを確認する。
・該当配管の接続を外して、再度接続する。
・再度気泡検知のメンテナンスを実施し、気泡の有無を確認する。
・該当配管を交換する。
・ストリームセレクトバルブ304を交換する。
・インジェクションバルブ207を交換する。
・再度気泡検知のメンテナンスを実施し、気泡の有無を確認する。
【0039】
インジェクションバルブ207とオートパージバルブ205間に気泡が残存している場合、メンテンス画面上に結果および対処方法(Remedy)が表示される。メンテナンス画面には、結果:”ストリーム***のインジェクションバルブとオートパージバルブ間に気泡が残存しています”、対処方法(Remedy):”エアパージのメンテナンスを実施して、再度気泡検出のメンテナンスを実施してください”、”気泡残存しているときはサービスパーソンに連絡してください”と表示される。装置のGUIのメンテナンス画面からエアパージのメンテナンスを選択する。本メンテナンスではストリームを選択し、該当ストリームについてエアパージを実施することができる。エアパージのメンテナンス後、再度気泡検知のメンテナンスを実施し、気泡の有無を確認する。ここまでの作業はオペレータおよびサービスパーソンが実施可能である。エアパージ後も気泡が残存している場合は、サービスパーソンは下記の作業を実施する。
【0040】
・インジェクションバルブ207とオートパージバルブ205間の配管の接続の緩みを確認する。
・該当配管の接続を外して、再度接続する。
・再度気泡検知のメンテナンスを実施し、気泡の有無を確認する。
・該当配管を交換する。
・インジェクションバルブ207を交換する。
・オートパージバルブ205を交換する。
・再度気泡検知のメンテナンスを実施し、気泡の有無を確認する。
【0041】
オートパージバルブ205と送液ポンプ間に気泡が残存している場合、メンテンス画面上に結果および対処方法(Remedy)が表示される。メンテナンス画面には、結果:”ストリーム***のオートパージバルブと送液ポンプ間に気泡が残存しています”、対処方法(Remedy):”エアパージのメンテナンスを実施して、再度気泡検出のメンテナンスを実施してください”、”気泡残存しているときはサービスパーソンに連絡してください”と表示される。装置のGUIのメンテナンス画面からエアパージのメンテナンスを選択する。本メンテナンスではストリームを選択し、該当ストリームについてエアパージを実施することができる。エアパージのメンテナンス後、再度気泡検知のメンテナンスを実施し、気泡の有無を確認する。ここまでの作業はオペレータおよびサービスパーソンが実施可能である。エアパージ後も気泡が残存している場合は、サービスパーソンは下記の作業を実施する。
【0042】
・オートパージバルブ205と送液ポンプ間の配管の接続の緩みを確認する。
・該当配管の接続を外して、再度接続する。
・再度気泡検知のメンテナンスを実施し、気泡の有無を確認する。
・該当配管を交換する。
・オートパージバルブ205を交換する。
・送液ポンプの交換部品(ポンプヘッド)の交換を実施する。
・再度気泡検知のメンテナンスを実施し、気泡の有無を確認する。
【0043】
気泡検知のメンテナンス結果、すなわち、流路内に気泡が残存しているか否かを判定した際の情報(ΔP
1、ΔP
2、ΔT)は、CU(Computer Unit)307のデータベースに保管される。
図5~7はそれぞれ、データベースに保管されたメンテンナンス結果の経時変化のグラフ501(601、701)を示している。
図5~7に示すように、グラフ501(601、701)は、経時変化時間(日)502(602、702)およびメンテナンス結果の情報(ΔP
1、ΔP
2、ΔT)の偏差503(603、703)をプロットしたものである。偏差の0%はあらかじめ定められた各値の平均値である。ここでは、例えば、偏差の±7%以内を気泡発生の可能性がない閾値(
図5~7の点線)と設定している。偏差の経時変化情報の推移から、閾値内であっても偏差が閾値に近づいた場合には、気泡発生の可能性があると診断できる。したがって、本実施形態によれば、前記した情報を用いて早期に気泡発生の可能性有無を診断し、または、これらの予測を早期に実施し、液体クロマトグラフ300や部品の調整や交換などの保守作業を行うことができる。
【0044】
上述の各種制御はCU307(
図1)によって行われる。CU307は単一の機器であってもよいし、複数の機器で構成されていてもよい。CU307は液体クロマトグラフ300に組み込まれていてもよいし、液体クロマトグラフ300の外部に設けられていてもよい。
【0045】
以下、従来技術と本開示に係る技術との差異を改めて整理する。
特許文献1は、切替バルブの切替えによって送液システムからの移動相を分離カラムへ導くか、または、ドレインへ排出するかを切り替えることができるように構成されている。さらに、送液不良の検知のためには、必ずしも切替バルブが設けられていなくてもよい、と記載されている。一方、本開示に係る技術では、流路切替バルブの切替えによって、移動相をドレインへ排出する必要はなく、流路切替バルブの回転により下降した前記圧力が上昇する際の圧力変動を指標にする。すなわち、本開示に係る技術と特許文献1の装置構成要素が異なっている。
【0046】
また、本開示に係る技術では、流路切替バルブの回転により下降した前記圧力が上昇する際の圧力変動を指標にし、気泡の残存を検知することができるため、送液ポンプ内部のみならず、送液ポンプから流路切替バルブ間の流路上に残存する気泡も検知することができる。また、複数の流路切替バルブが備わった構成を持つ装置においては、各々の流路切替バルブの回転により下降した前記圧力が上昇する際の圧力変動を指標にすることによって、送液ポンプから下流の流路切替バルブまでの流路、複数の流路切替バルブ間の流路に残存する気泡を検知することができる。このように、本開示に係る技術では、流路上の気泡の残存箇所を判定することができる。
【0047】
また、本開示に係る技術では、複雑な装置構成においても、簡便に気泡が残存する流路を判定することができる。気泡が残存する流路を判定する一連の工程は自動化されており、オペレータまたはサービスパーソンが装置のGUI画面からメンテナンス項目として選択し、実行する。このメンテナンス項目を実行することで得られた圧力データはデータベースに蓄積され、経時的な変化を解析することで、早期に動作異常や故障状態を診断し、または、これらの予測を早期に実施できる。したがって、本開示に係る技術は、液体クロマトグラフ300や部品の調整や交換などの保守作業を早期に行うことができる。
【0048】
なお、本開示に係る技術は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本開示に係る技術を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
201 第1送液ポンプ
202 第2送液ポンプ
203 第1圧力センサ
204 第2圧力センサ
205 オートパージバルブ(流路切替バルブ、第1切替バルブ)
206 三方ジョイント
207 インジェクションバルブ(流路切替バルブ、第1切替バルブ、第2切替バルブ)
208 シッパ
209 サンプルホルダ
210 シリンジ
211 廃液流路
212 カラム
213 第1流路
214 第2流路
215 第3流路
216 サンプルループ
300 液体クロマトグラフ
301 第1ストリーム
302 第2ストリーム
303 第3ストリーム
304 ストリームセレクトバルブ(流路切替バルブ、第2切替バルブ)
305 検出器
501、601、701 グラフ
502、602、702 経時変化時間(日)
503、603、703 偏差