(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】端子付き電線の製造方法、ワイヤハーネスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 43/048 20060101AFI20250307BHJP
H01R 4/18 20060101ALI20250307BHJP
【FI】
H01R43/048 Z
H01R4/18 A
(21)【出願番号】P 2021038131
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】和田 卓十
(72)【発明者】
【氏名】平岩 徹也
(72)【発明者】
【氏名】河中 裕文
(72)【発明者】
【氏名】竹下 隼矢
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏和
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-159014(JP,A)
【文献】国際公開第2010/024032(WO,A1)
【文献】特表2007-503083(JP,A)
【文献】特開2018-186071(JP,A)
【文献】特開2014-056753(JP,A)
【文献】実開昭55-057981(JP,U)
【文献】特開平03-291872(JP,A)
【文献】米国特許第05791923(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 43/048
H01R 4/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆導線と端子とが電気的に接続される端子付き電線を製造する方法であって、
前記被覆導線は、抗張力体と、導線と、前記抗張力体及び前記導線を被覆する被覆部とを有し、
前記端子は、前記被覆導線の先端の前記被覆部から露出する前記導線が圧着される導線圧着部を有し、
前記導線圧着部と前記導線とを圧着する際に、前記被覆導線の長手方向に対して、前記被覆部側の前記導線圧着部の一部の圧着を、前記導線の先端側の前記導線圧着部の一部の圧着よりも先に開始することで、圧着する際の前記被覆部側の前記導線圧着部の一部の圧縮量を、前記導線の先端側の前記導線圧着部の一部の圧縮量よりも大きくして、
前記導線を前記抗張力体よりも変形させて、前記導線を前記導線圧着部の先端側に伸ばし、前記被覆部側の前記導線圧着部の一部である前記導線圧着部の後端側の一部を先に圧着することで、それよりも先端側の前記導線の後端側への伸びを抑制させるようにすることを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【請求項2】
前記導線圧着部を圧着する金型は、前記被覆部側の前記導線圧着部の一部を圧着する部位が、前記導線の先端側の前記導線圧着部の一部を圧着する部位と比較して圧縮方向に突出するように形成されていることを特徴とする請求項1記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項3】
前記導線圧着部を圧着する金型は、前記導線圧着部の長手方向に対して複数の凹凸形状を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項4】
前記導線圧着部を圧着する金型が少なくとも2分割されており、前記被覆部側の前記導線圧着部の一部を圧着する金型を先に動作させて圧着し、前記導線の先端側の前記導線圧着部の一部を圧着する金型を後に動作させて圧着することを特徴とする請求項1記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項5】
圧着前の前記端子の前記導線圧着部において、前記被覆部側の前記導線圧着部の厚みが、前記導線の先端側の前記導線圧着部の厚みよりも厚いことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項6】
前記導線圧着部の後端部の一部の圧縮量が他の部位に対して最も大きく、前記導線圧着部の先端側及び前記導線圧着部の中央部の圧縮量よりも大きいことを特徴とする
請求項1から請求項5のいずれかに記載の端子付き電線
の製造方法。
【請求項7】
前記被覆部側の前記導線圧着部の厚みが、前記導線の先端側の前記導線圧着部の厚みよりも厚いことを特徴とする請求項6記載の端子付き電線
の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7のいずれかに記載の端子付き電線
の製造方法によって製造された複数の端子付き電線
を一体化
することを特徴とするワイヤハーネス
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に用いられる端子付き電線の製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、自動車用ワイヤハーネスは、被覆導線の導体に圧着端子が接続された後に束ねられて、自動車等の信号線などとして配索される。一般的な被覆導線と圧着端子は、被覆導線の先端部の被覆が除去され、露出させた導体と導線圧着部とが圧着されて接続される。
【0003】
ここで、使用される電線が細くなると、電線を構成する導体だけでは強度を保つのが難しいため、抗張力体入りの電線が検討されている。例えば、引張強度が30N程度である導体からなる電線を使用する場合において、自動車用電線で要求される80Nを超える引張強度を確保する為に、抗張力体入りの電線として、金属製や非金属製の抗張力体の外周に導線が螺旋状に巻かれているものが提案されている。
【0004】
このような抗張力体入りの電線としては、例えば、抗張力体としての炭素繊維の周囲に、複数本の軟銅素線が配置された高張力電線が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10は、このような抗張力電線と端子とを圧着する工程を示す図である。被覆導線111は、導線113が被覆部115で覆われた構造である。また、圧着される端子101は、端子本体103と、導線113が圧着される導線圧着部107とを有する。
【0007】
端子101と被覆導線111とを圧着するためには、まず、
図10(a)に示すように、被覆導線111の端部において被覆部115を除去し、内部の導線113を露出させる。
図11(a)は、
図10(a)のA-A線断面図である。導線113は、抗張力体114の外周に、複数の素線113aが撚り合わせられて構成される。
【0008】
次に、
図10(b)に示すように、露出した導線113を導線圧着部107に挿入する。
図11(b)は、
図10(b)のB-B線断面図である。導線圧着部107は、例えば管状であり、導線113の径よりも内径が大きい。
【0009】
次に、
図10(c)に示すように、導線圧着部107をかしめて、導線圧着部107によって導線113を圧着する。
図11(c)は、
図10(c)のC-C線断面図である。導線圧着部107を圧着することで、素線113aがつぶれて導線圧着部107の内面と密着する。このため、素線113aと導線圧着部107とが導通する。
【0010】
ここで、抗張力体114は、素線113aと比較して、圧着時の変形が少ない。すなわち、導線圧着部107を圧縮すると、抗張力体114に対して、素線113aが優先的に潰れて変形する。この際、素線113aは、変形によって断面積が減少するとともに軸方向に伸びる。一方、抗張力体114はほとんど伸びないため、端子101と被覆部115までの距離はほとんど変化せずに、素線113aのみが軸方向に伸びる。この結果、
図10(c)に示すように、端子101の後端部において、素線113aが径方向に広がることとなる。
【0011】
このように、素線113aが径方向に広がると、端子101の端部のエッジや、他の部材との接触等によって断線の恐れがある。一方、抗張力体114を有しない電線であれば、導線113は略一様に長手方向に伸びるため、このような広がりは抑制することができる。しかし、前述したように、特に細径の被覆導線は、引張強度を確保するために、抗張力体をなくすことができない場合がある。このため、抗張力体を用いた被覆導線に対しても、圧着時において、このような素線113aの広がりを抑制する方法が望まれる。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、圧着時の素線の広がりを抑制することが可能な端子付き電線の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達するために第1の発明は、被覆導線と端子とが電気的に接続される端子付き電線を製造する方法であって、前記被覆導線は、抗張力体と、導線と、前記抗張力体及び前記導線を被覆する被覆部とを有し、前記端子は、前記被覆導線の先端の前記被覆部から露出する前記導線が圧着される導線圧着部を有し、前記導線圧着部と前記導線とを圧着する際に、前記被覆導線の長手方向に対して、前記被覆部側の前記導線圧着部の一部の圧着を、前記導線の先端側の前記導線圧着部の一部の圧着よりも先に開始するで、圧着する際の前記被覆部側の前記導線圧着部の一部の圧縮量を、前記導線の先端側の前記導線圧着部の一部の圧縮量よりも大きくして、前記導線を前記抗張力体よりも変形させて、前記導線を前記導線圧着部の先端側に伸ばし、前記被覆部側の前記導線圧着部の一部である前記導線圧着部の後端側の一部を先に圧着することで、それよりも先端側の前記導線の後端側への伸びを抑制させるようにすることを特徴とする端子付き電線の製造方法である。
【0014】
前記導線圧着部を圧着する金型は、前記被覆部側の前記導線圧着部の一部を圧着する部位が、前記導線の先端側の前記導線圧着部の一部を圧着する部位と比較して圧縮方向に突出するように形成されていてもよい。
【0015】
前記導線圧着部を圧着する金型は、前記導線圧着部の長手方向に対して複数の凹凸形状を有してもよい。
【0016】
前記導線圧着部を圧着する金型が少なくとも2分割されており、前記被覆部側の前記導線圧着部の一部を圧着する金型を先に動作させて圧着し、前記導線の先端側の前記導線圧着部の一部を圧着する金型を後に動作させて圧着してもよい。
【0017】
圧着前の前記導線圧着部において、前記被覆部側の前記導線圧着部の厚みが、前記導線の先端側の前記導線圧着部の厚みよりも厚くてもよい。
【0018】
第1の発明によれば、被覆導線が、導線と抗張力体とを有することで、抗張力体によって導線の引張強度を確保することができる。また、導線圧着部を圧着する際に、被覆部側の導線圧着部の一部の圧着を、導線の先端側の導線圧着部の一部の圧着よりも先に開始することで、圧着中における導線の被覆部側への伸びを規制することができる。このため、圧着時において導線が被覆部側へ伸びることにより生じる、導線圧着部と被覆部との間における導線の広がりを抑制することができる。
【0019】
この時、導線圧着部を圧着する金型として、被覆部側の導線圧着部の一部を圧着する部位が、導線の先端側の導線圧着部の一部を圧着する部位と比較して圧縮方向に突出するように形成することで、従来と同様の金型の動作によって、導線圧着部を圧着することができる。
【0020】
また、導線圧着部を圧着する金型として、導線圧着部の長手方向に対して複数の凹凸形状を設けることで、金型の凸形状の部位が先に圧着を開始し、この部位で導線の伸びを規制した状態で、金型の凹部による圧着が開始されるため、圧着時において導線が被覆部側へ伸びることにより生じる、導線圧着部と被覆部との間における導線の広がりを抑制することができる。
【0021】
また、導線圧着部を圧着する金型を少なくとも2分割して、被覆部側の導線圧着部の一部を圧着する金型を先に動作させて圧着し、その後、導線の先端側の導線圧着部の一部を圧着する金型を動作させても、同様の効果を得ることができる。また、この場合には、圧着後の導線圧着部の略全体を、従来と同様に略同一の圧縮率で圧着することができる。
【0022】
また、圧着前の導線圧着部において、被覆部側の導線圧着部の厚みを、導線の先端側の導線圧着部の厚みよりも厚くしておくことで、従来の金型で圧着した際においても、被覆部側の導線圧着部の一部の圧着を先に開始させることができる。このため、圧着時において導線が被覆部側へ伸びることにより生じる、導線圧着部と被覆部との間における導線の広がりを抑制することができる。
【0023】
前記導線圧着部の後端部の一部の圧縮量が他の部位に対して最も大きく、前記導線圧着部の先端側及び前記導線圧着部の中央部の圧縮量よりも大きくてもよい。
【0024】
前記被覆部側の前記導線圧着部の厚みが、前記導線の先端側の前記導線圧着部の厚みよりも厚くてもよい。
【0025】
被覆部側の導線圧着部の一部の圧縮量を、導線の先端側の導線圧着部の一部の圧縮量よりも大きくすることで、導線の先端側の導線圧着部における導線が被覆部側へ伸びることを抑制することができる。
【0026】
また、被覆部側の導線圧着部の厚みを、導線の先端側の導線圧着部の厚みよりも厚くすることで、導線圧着部の外面における高さを略一定にすることができる。
【0027】
第2の発明は、第1の発明にかかる端子付き電線の製造方法によって製造された複数の端子付き電線を一体化することを特徴とするワイヤハーネスの製造方法である。
【0028】
第2の発明によれば、例えば細径の電線が複数束ねられたワイヤハーネスを得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、圧着時の素線の広がりを抑制することが可能な端子付き電線の製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】(a)は、端子付き電線10を示す断面図、(b)は(a)のX-X線断面図。
【
図4】(a)、(b)は、端子付き電線10の導線圧着部7の圧着工程を示す図。
【
図5】(a)~(b)は、金型21bの他の形状を示す図。
【
図6】(a)、(b)は、端子付き電線10の導線圧着部7の他の圧着工程を示す図。
【
図7】(a)、(b)は、端子付き電線10の導線圧着部7の他の圧着工程を示す図、(c)は、(b)のY部拡大図。
【
図8】(a)、(b)は、端子付き電線10の導線圧着部7の他の圧着工程を示す図。
【
図10】(a)~(c)は、従来の導線圧着部107の圧着工程を示す図。
【
図11】(a)は、
図10(a)のA-A線断面図、(b)は、
図10(b)のB-B線断面図、(c)は、図(c)のC-C線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、端子付き電線10を示す斜視図であり、
図2(a)は、端子付き電線10の断面図、
図2(b)は、被覆導線11の断面図であって、
図2(a)のX-X線断面図である。端子付き電線10は、端子1と被覆導線11とが電気的に接続されて構成される。
【0032】
図2(b)に示すように、被覆導線11は、抗張力体14と、導線13と、抗張力体14及び導線13を被覆する被覆部15とを有する。導線13は、複数の素線13aからなる。なお、導線13の素線数は特に限定されない。
【0033】
抗張力体14は、引張加重に対して張力を受ける部材である。図示した例では、例えば、被覆導線11の長手方向に垂直な断面において、少なくとも1本の抗張力体14が被覆導線11の略中心に位置し、複数の素線13aが抗張力体14の外周部に配置される。さらに、抗張力体14の外周部に、素線13aが、被覆導線11の長手方向に螺旋状に撚られていてもよい。
【0034】
なお、抗張力体14の配置は、
図2(b)に示す例には限られない。例えば、導線13(素線13a)と複数の抗張力体14とを撚り合わせるように配置してもよい。また、抗張力体14を導体で被覆した導線13を複数本撚り合わせてもよい。また、中央の抗張力体14の外周に被覆するように導体を配置してもよい。すなわち、抗張力体入りの被覆導線11の場合には、少なくとも1本の導線と少なくとも1本の抗張力体を有すれば、その断面形態は特に限定されない。
【0035】
なお、抗張力体14は、鋼線などの金属線であってもよく、樹脂や繊維強化樹脂であってもよい。また、抗張力体14としては、アラミド繊維などの複数の繊維を束ねたものであってもよい。
【0036】
導線13は、例えば、銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である導線13と、導線13を被覆する被覆部15からなる。なお、導線13は、抗張力体14と比較して、圧着時の変形量が大きい。特に、抗張力体14が非金属製である場合には、導線13と比較して、抗張力体14はほとんど変形しない。すなわち、抗張力体14は、導線13に対して相対的に硬い材料(例えば高ヤング率)で構成される。
【0037】
ここで、本実施形態は、導線13の断面積(素線13aの断面積の総計)は、0.3sq以下である場合に効果的である。また、例えば導線13が抗張力体14とともに用いられるため、導線13の断面積は0.05sq以下であってもよい。抗張力体14を用いることで、例えば、導線13の断面積は0.05sq以下であっても、導線圧着部7における導線の引張強度として、50N以上を確保することができる。
【0038】
端子1は、端子本体3と圧着部5とが連結されて構成される。端子1は、例えば銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である。端子本体3は、丸型端子であってボルト締結部が設けられる。なお、端子本体3は、前端部から雄型端子などが挿入される雌型端子であってもよく、雄型端子の挿入タブであってもよい。
【0039】
圧着部5は、被覆導線11の先端側に被覆部15から露出する導線13を圧着する導線圧着部7と、被覆導線11の被覆部15を圧着する被覆圧着部9とを有する。本実施形態では、導線圧着部7は、周方向に閉じた管状(略円筒状)であり、被覆圧着部9はオープンバレルタイプである。なお、被覆圧着部9は必ずしも必須ではない。
【0040】
また、導線圧着部7の内面の一部には、周方向(長手方向に垂直な方向)に、図示を省略したセレーションが設けられてもよい。このようにセレーションを形成することで、導線13を圧着した際に、導線13の表面の酸化膜を破壊しやすく、また、導線13との接触面積を増加させることができる。
【0041】
本実施形態では、被覆部15側の導線圧着部7の一部の圧縮量が、導線13の先端側の導線圧着部7の一部の圧縮量よりも大きい。すなわち、被覆部15側の導線圧着部7の一部の圧縮率が、導線13の先端側の導線圧着部7の一部の圧縮率よりも小さい。なお、導線圧着部7の圧縮率とは、当該部位における圧縮後の導線13の断面積/圧縮前の導線13の断面積である。このため、導線圧着部7の高さが一定ではなく、被覆圧着部9側から端子本体3側に向かって徐々に高さが高くなる傾斜が形成される。
【0042】
次に、端子付き電線10の製造方法について説明する。
図3は、圧着前の端子1と被覆導線11を示す斜視図である。前述したように、端子1は、端子本体3と管状部7aとを有する。管状部7aは、周方向に閉じた管状である。管状部7aは、例えば、板部材を丸めて端部同士を突き合わせて、長手方向に溶接によって接合してもよく、管状部材を展開して端子1を形成してもよい。なお、管状部7aが、導線圧着部7に対応する。
【0043】
まず、前述したように、被覆導線11の先端部の被覆部15を剥離して、先端部の導線13を露出する。次に、導線13を、管状部7aへ挿入する。この際、導線13の先端が管状部7aの先端からはみ出してもよい。
【0044】
なお、導線13を管状部7aに挿入する前に、導線13の先端部に端末処理部を形成してもよい。端末処理部は、導線13の各素線がばらけないように一体化する処理部である。端末処理部としては、例えば、導線13の少なくとも先端部を、外周側から圧縮することで形成することができる。このように、導線13の先端部が外周側から圧縮されることで、素線13aがばらけることが抑制され、管状部7aへの挿入が容易である。
【0045】
また、端末処理部として、導線13の少なくとも先端部に、素線13aを一括して又は別々にめっき処理を施してもよい。このように、導線13の先端部に外周からめっき処理が施されていることで、素線13aがばらけることが抑制され、管状部7aへの挿入が容易である。なお、端末処理部は、圧縮やめっきによる方法には限られず、例えば、導線13の先端を半田処理や溶接処理によって素線13aのばらけを抑制してもよい。また、外周からの圧縮と一括めっきなどの複数の端末処理を併用してもよい。
【0046】
次に、被覆導線11を圧着部5に配置した端子1を金型にセットする。
図4(a)は、圧着前における端子付き電線10を製造するための金型21a、21bを示す断面図である。金型21a、21bは、例えば、長手方向に延びる略半円柱状の空洞を有し、導線圧着部7に対応する導線圧着刃型23と、被覆圧着部9に対応する被覆圧着刃型25が、それぞれ導線圧着部7の管状部7aの形状と被覆圧着部9のオープンバレル形状に対応した形状を有する。
【0047】
ここで、圧着部5の軸方向に平行な断面において、導線圧着刃型23の圧着面は、圧縮方向に対して垂直ではなく、被覆圧着刃型25側(図中右側であって、以下、単に後端側とする)から被覆圧着刃型25とは逆側(図中左側であって、以下、単に先端側とする)に行くにつれて徐々に内径が小さくなるように形成される。すなわち、導線圧着部7を圧着する金型21b(導線圧着刃型23)は、後端側(被覆部15側)の導線圧着部7の一部を圧着する部位が、先端側(導線13の先端側)の導線圧着部7の一部を圧着する部位と比較して、対向する金型21a側に突出するように形成される。
【0048】
図4(b)は、上型である金型21bを降下させて圧着を開始した直後の状態を示す図である。図示したような金型21bを用いると、導線圧着部7と導線13とを圧着する際に、被覆導線11の長手方向に対して、被覆部15側の導線圧着部7の一部(導線圧着部7の後端側の一部)の圧着を、導線13の先端側の導線圧着部7の一部(導線圧着部7の先端側の一部)の圧着よりも先に開始することができる。すなわち、被覆部15側の導線圧着部7の一部の圧着が開始された段階では、導線13の先端側の導線圧着部7の一部は、まだ圧着が開始されない状態となる。
【0049】
この状態から、さらに金型21bを降下させると、
図4(c)に示すように、金型21a、21bが噛み合い、導線圧着部7と導線13とが完全に圧着される。例えば、管状の導線圧着部7では、略円形に導線13が圧着される。すなわち、端子1は、被覆導線11と電気的に接続される。
【0050】
この際、最初に圧着が開始された部位(導線圧着部7の後端側の一部)は、他の部位(導線圧着部7の先端側の一部)と比較して先に強く押圧されるため、他の部位と比較して導線13の伸び(移動)が規制される。このため、導線13は、先端側に向かって優先的に伸び、後端側への伸びが抑制される。この結果、導線13が導線圧着部7と被覆部15との間に広がることを抑制することができる。
【0051】
なお、金型21a、21bのそれぞれの先後端(導線圧着部7の先後端に対応する部位)は、図示を省略したテーパ形状としてもよい。このようにすることで、圧着後に、導線圧着部7の先後端が徐々に拡径する形状(いわゆるベルマウス形状)とすることができる。この場合、後端側のベルマウス形状の部位については、後端側への導線13の伸びの要因となるが、導線圧着部7の全体からみればごく一部であるため、導線13の被覆部15側への広がりを抑制可能である。
【0052】
なお、前述したように、導線圧着部7は、部位によって導線13の圧縮率が異なる。ここで、導線圧着部7における圧縮率は、例えば、35~70%の範囲であることが望ましい。圧縮率が小さくなりすぎると(すなわち強圧着)、導線13の断線等のおそれがある。一方、圧縮率が大きくなりすぎると(すなわち弱圧着)、導線13の引き抜き力が小さくなり、導線13の抜けのおそれがある。すなわち、導線圧着部7の最も圧縮率の小さな部位でも、圧縮率が35%以上であり、最も圧縮率の大きな部位(ベルマウス部除く)でも、圧縮率が70%以下となるように、導線圧着部7の圧縮形状及び圧縮量を設定することが望ましい。
【0053】
以上により、端子付き電線10を得ることができる。さらに、得られた端子付き電線10を含む、複数の端子付き電線が一体化されたワイヤハーネスを得ることができる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、内部に抗張力体14を有する被覆導線11を用いるため、細径であっても十分な引張強度を確保することができる。また、圧着時に、抗張力体14に対して導線13が優先的に変形するため、導線13が導線圧着部7の先後端側に伸びるが、最初に導線圧着部7の後端側の一部を圧着することで、それよりも先端側の導線13の後端側への伸びを抑制することができる。このため、導線圧着部7の後端側において、導線13が広がることを抑制することができ、導線13が端子1のエッジや、他の部品等と接触することで損傷することを抑制することができる。
【0055】
また、導線圧着部7が管状であるため、導線13の全周360°から確実に圧着することができる。また、前述したように、導線13の先端部に端末処理部を形成することで、細径の導線13であっても容易に導線13を管状部7aへ挿入することができる。なお、導線圧着部7への導線13の挿入性をさらに向上させるため、圧着前の管状部7aの後端部を拡径してもよい。
【0056】
また、金型21b(導線圧着刃型23)の形状を変更するだけで、従来と同様の工程で端子付き電線を製造することができる。なお、導線圧着刃型23の形態としては、
図4に示した例のように、後端側から先端側に向かって全体がテーパ形状である金型形状には限られない。
【0057】
例えば、
図5(a)に示すように、導線圧着刃型23の後端側に直線部を設け、先後端方向の途中から先端側に向けて拡径するようなテーパ形状としてもよい。また、
図5(b)に示すように、テーパを形成するのではなく、導線圧着刃型23の後端側を圧縮方向に対して突形状として、後端側と先端側との間に段差を形成してもよい。また、
図5(c)に示すように、導線圧着刃型23の後端側を突形状として、後端側と先端側との間に段差を形成し、さらに段差よりも先端側に、先端側に行くにつれて拡径するテーパ形状としてもよい。また、図示を省略するが、段差やテーパは複数段に形成してもよい。
【0058】
このように、導線圧着部7と導線13とを圧着する際に、導線圧着部7の後端側の圧着を、導線圧着部7の先端側よりも先に開始するように、導線圧着刃型23の先端側の形状を後端側と比較して圧縮方向側に突出するように形成することができれば、金型形状はいずれの形態であってもよい。なお、いずれの場合でも、前述したように、導線圧着刃型23の先端側と後端側に、圧着後のベルマウス形状に対応させて拡径してもよい。
【0059】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
図6は、第2の実施形態にかかる端子付き電線10の製造工程を示す図である。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同様の機能を奏する構成については、
図1~
図5と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0060】
第2の実施形態では、導線圧着部7を圧着する金型21bが少なくとも2分割される。例えば、
図6(a)に示すように、導線圧着刃型23a、23bが別体で構成される。なお、導線圧着刃型23a、23bは、いずれも、圧着面が圧縮方向に対して垂直である。すなわち、第1の実施形態のように、テーパ形状や段差形状を形成する必要はない。
【0061】
まず、
図6(a)に示すように、被覆導線11を導線圧着部7に配置した端子1を金型にセットする。この際、導線圧着部7の後端側に導線圧着刃型23aが配置され、導線圧着部7の先端側に導線圧着刃型23bが配置される。
【0062】
この状態から、
図6(b)に示すように、導線圧着刃型23aのみを動作させて導線圧着部7の後端側の一部を圧着する。すなわち、被覆部15側の導線圧着部7の一部を圧着する金型を先に動作させて圧着する。
【0063】
次に、
図6(c)に示すように、導線圧着刃型23bを動作させて導線圧着部7の先端側の一部を圧着する。すなわち、導線13の先端側の導線圧着部7の一部を圧着する金型を後に動作させて圧着する。このように、導線圧着部7の全体を同時に一括して圧着するのではなく、導線圧着部7の部位によって圧着するタイミングを変えることで、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
なお、導線圧着刃型23aは、導線圧着部7の後端部近傍の仮圧着となるため、導線圧着刃型23bよりも幅(導線圧着部のじくほうこうながさ)が狭くてもよい。また、図示した例では、被覆圧着刃型25による被覆部15の圧着タイミングは、導線圧着刃型23bと同時としたが、導線圧着刃型23aと同時であってもよい。また、金型21bは、2分割ではなく、3分割以上としてもよい。
【0065】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、複数の金型によって圧着タイミングを変えることで、導線圧着部7の部位による圧縮率を変える必要がなく、導線圧着部7の全体の圧縮率を略一定にすることができる。このため、より適切な圧縮条件を設定することができる。
【0066】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
図7は、第3の実施形態にかかる端子付き電線10の製造工程を示す図である。第3の実施形態では、導線圧着部7を圧着する金型21b(導線圧着刃型23)の圧着面に、導線圧着部7の軸方向に対して複数の凹凸形状を有する。
【0067】
本実施形態でも、まず、
図7(a)に示すように、被覆導線11を導線圧着部7に配置した端子1を金型にセットする。この状態から、
図7(b)に示すように、金型21bを動作させて導線圧着部7を圧着する。
図7(c)は、圧着途中における、
図7(b)のY部拡大図である。
【0068】
前述したように、金型21b(導線圧着刃型23)には、導線圧着部7の軸方向に対して複数の凸部24aと凹部24bとが形成される。この場合、凸部24aの部位は、凹部24bの部位と比較して、先に圧縮が開始される。すなわち、第1の実施形態と同様に、凸部24aに対応する導線圧着部7の一部の圧縮が先に開始され、凹部24bに対応する他の部位の圧縮が遅れて開始される。
【0069】
この場合、例えば、後端側の凸部24aで導線13を圧縮すると(図中R)、導線13はその前後に伸びようとする(図中T、U)。同様に、後端側の凸部24aに隣り合う他の凸部24aで導線13を圧縮すると(図中S)、導線13はその前後に伸びようとする(図中V、W)。
【0070】
この際、先行する圧縮Rに伴う導線13の先端側への伸びUの一部と、圧縮Sに伴う導線13の後端側への伸びVの一部は、遅れて圧縮が開始される凹部24bで吸収することができる。一方、凹部24bにより導線13の圧縮が開始される際には、凸部24aがより強く圧縮されているため、導線13の伸び(移動)が規制される。このため、相対的に後端側の圧縮Rを先に行うことで、それよりも先端側の圧縮Sや凹部24bによる圧縮に伴う導線13の後方への伸び(圧縮Rよりも後方への伸び)を抑制することができる。このため、導線圧着部7の後端側への導線13の伸びが抑制され、被覆部15との間での広がりを抑制することができる。
【0071】
第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、第1の実施形態では、後端側を先行して圧縮し、先端側を遅れて圧縮するようにしたが、本実施形態では、この構成を先後端方向に複数繰り返して形成したものである。このため、部位による圧縮率は一定ではないが、第1の実施形態と比較して、部位による圧縮率の差を小さくすることができる。また、金型21bを複数に分割する必要がなく、構造も簡易である。
【0072】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
図8は、第4の実施形態にかかる端子付き電線10の製造工程を示す図である。第4の実施形態では、端子1の導線圧着部7の板厚が一定ではなく、後端側に厚肉部27が形成される。より詳細には、圧着前の端子1の導線圧着部7において、導線圧着部7の後端側(被覆部15側)の厚みが、導線圧着部7の先端側(導線13の先端側)の厚みよりも厚い。
【0073】
本実施形態でも、まず、
図8(a)に示すように、被覆導線11を導線圧着部7に配置した端子1を金型にセットする。この際、使用される金型21bは、従来の形態と同様のものを用いることができる。この状態から、
図8(b)に示すように、金型21bを動作させて導線圧着部7を圧着する。
【0074】
金型21b(導線圧着刃型23)は、導線圧着部7の全体を同じ圧縮量で圧着するが、前述したように、被覆部15側の導線圧着部7の厚みが、導線13の先端側の導線圧着部7の厚みよりも厚い。このため、厚肉部27に対応する部位では、肉厚の差だけ導線13の圧縮量が大きくなる。
【0075】
言い換えると、厚肉部27に対応する部位では、先に圧縮が開始され、他の部位が遅れて圧縮される。このため、第1の実施形態と同様に、導線圧着部7の厚肉部27以外の部位が圧縮される際には、厚肉部27が形成される導線圧着部7の後端側の一部において、導線13の伸び(移動)が規制される。このため、導線13のそれ以上の伸びを抑制することができる。このため、導線圧着部7の後端側への導線13の伸びが抑制され、被覆部15との間での広がりを抑制することができる。
【0076】
第4の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、金型21bを複数に分割する必要がなく、構造が簡易であるとともに、導線圧着部7の全体を略一定の高さとすることができる。
【0077】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0078】
例えば、導線圧着部7は管状で形成したが、これには限られない。例えば、
図9に示す端子付き電線10aのように、導線圧着部7と被覆圧着部9がいずれもオープンバレル形状である端子1aを用いてもよい。なお、端子付き電線10aは、第1の実施形態に対応する圧着形態としたが、端子付き電線10aに対しても、第2の実施形態から第4の実施形態のいずれかを組み合わせてもよい。このように、導線圧着部7の形態は特に限定されず、例えばオーバーラップ型等の他の形態であってもよい。また、上述した各実施形態は、互いに組み合わせることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0079】
1、1a………端子
3………端子本体
5………圧着部
7………導線圧着部
7a………管状部
9………被覆圧着部
10、10a……端子付き電線
11………被覆導線
13………導線
13a………素線
14………抗張力体
15………被覆部
21a、21b………金型
23、23a、23b………導線圧着刃型
24a………凸部
24b………凹部
25………被覆圧着刃型
27………厚肉部
101………端子
103………端子本体
107………導線圧着部
111………被覆導線
113………導線
113a………素線
114………抗張力体
115………被覆部