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<図1>
  • 特許-窒化アルミニウム焼結顆粒 図1
  • 特許-窒化アルミニウム焼結顆粒 図2
  • 特許-窒化アルミニウム焼結顆粒 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-06
(45)【発行日】2025-03-14
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム焼結顆粒
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20250307BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20250307BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20250307BHJP
【FI】
C01B21/072 R
C08K3/28
C08L63/00 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021049076
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147702
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】福永 豊
(72)【発明者】
【氏名】高草木 誠
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037438(JP,A)
【文献】特開2020-147474(JP,A)
【文献】特開2019-108236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/00 - 21/50
C08K 3/28
C08L 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球形度が0.80以上、粒子径が20~150μmの範囲にある窒化アルミニウム焼結顆粒であって、高さが3~10μmの範囲にあり、且つ、理論熱伝導率が40W/m・K以上の無機物よりなる凸部を2.0×10-3 ~1.0×10 -2 個/μm の頻度で表面に有することを特徴とする窒化アルミニウム焼結顆粒。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結顆粒を50容量%以上含む窒化アルミニウム粉末よりなる樹脂用フィラー。
【請求項3】
請求項2記載の樹脂用フィラーを60容量%以上の充填率で充填した樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な窒化アルミニウム焼結顆粒に関する。詳しくは、樹脂やグリース、接着剤、塗料等に充填して放熱性を向上させるための放熱材料用フィラーとして有用な窒化アルミニウム焼結顆粒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の高集積化・高密度化が進み、放熱材料に対する要求性能が高まっている。窒化アルミニウムは電気絶縁性に優れ、かつ高熱伝導性を有することから、その粉末をフィラーとして充填した樹脂シートやグリース、接着剤、塗料等は、高熱伝導性、高電気絶縁性を有する放熱材料として期待される。
【0003】
上記放熱材料の熱伝導率を向上させるためには、高熱伝導率のフィラーを用いることに加え、放熱材料中で熱伝導経路を多く形成させることが重要である。一般にはフィラーを高充填し、フィラー粒子間の接触頻度を高めることにより熱伝導経路を増加させる。そのため、充填性に優れた窒化アルミニウム粉末が強く要望されている。このような粉末として、窒化アルミニウム粉末を顆粒状に成形した後に焼結した、焼結顆粒が知られている(例えば、特許文献1、2、3参照)。焼結顆粒は球形度が高く、平滑な表面を有するため、充填性に優れ、放熱材料に高熱伝導性を付与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-267708
【文献】特開平03-295863
【文献】特開平11-269302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の窒化アルミニウム焼結顆粒は球状であるため、不定形状粒子からなる粉末等と比較した場合、充填性に優れる一方で粒子間の接触面積が小さく、充填率向上による熱伝導経路の形成効率が低いことが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、窒化アルミニウム焼結顆粒の粒子表面に、熱伝導性が高い無機物よりなり、且つ、特定の高さを有する凸部を特定の頻度で形成せしめることにより、焼結顆粒の特長である高充填性を維持したまま、粒子間の接触面積を拡大でき、これを樹脂に充填することで、得られる放熱材料に高い熱伝導性を付与できることを見出し、本発明を提案するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、球形度が0.80以上、粒子径が20~150μmの範囲にある窒化アルミニウム焼結顆粒であって、高さが3~10μmの範囲にあり、且つ、理論熱伝導率が40W/m・K以上の無機物よりなる凸部を2.0×10-3個/μm以上の頻度で表面に有することを特徴とする窒化アルミニウム焼結顆粒(以下、特定窒化アルミニウム焼結顆粒ともいう)が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、特定窒化アルミニウム焼結顆粒を含む窒化アルミニウム粉末よりなる樹脂用フィラーが提供される。
【0009】
更に、本発明によれば、前記樹脂用フィラーを60容量%以上の充填率で充填することにより、極めて高い熱伝導率を実現可能な樹脂組成物をも提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の特定窒化アルミニウム顆粒は、焼結顆粒の球形度は維持したまま、表面に凸部を形成した形状を成しているため、樹脂中に高充填でき、かつ粒子間の接触面積が大きい粒子であり、単独で、或いは、他の窒化アルミニウム粒子と組み合わせて構成される窒化アルミニウム粉末は、樹脂に充填して得られる樹脂組成物に高い熱伝導性を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2で得られた特定窒化アルミニウム焼結顆粒の構造を示す電子顕微鏡写真
図2】比較例2で得られた窒化アルミニウム焼結顆粒の粒子構造を示す電子顕微鏡写真
図3】粒子表面の凸部の高さを計測する方法を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明の特定窒化アルミニウム焼結顆粒は、球形度が0.80以上、粒子径が20~150μmの範囲にある窒化アルミニウム焼結顆粒であって、理論熱伝導率が40W/m・K以上の無機物よりなり、高さが3~10μmの範囲にある凸部を2.0×10-3個/μm以上の頻度で表面に有することを特徴とする。
【0014】
尚、本発明において、原則的には、「顆粒」、「粒子」は、粒子単体を、また、「粉末」は、粒子単体の集合体を言う。
【0015】
〔球形度〕
本発明の特定窒化アルミニウム焼結顆粒の球形度は0.80以上、好ましくは0.85以上、さらに好ましくは0.90以上である。球形度が0.80未満であると、樹脂への高充填化が困難となる。球形度は粒子の短径/粒子の長径により求められ、1に近くなるほど球に近くなり、樹脂やグリースに高充填し易くなる。
【0016】
尚、後述するように、本発明の特定窒化アルミニウム焼結顆粒は、略球状の形状を主とする焼結顆粒に凸部が形成されるため、得られる窒化アルミニウム焼結顆粒は、殆ど前記球形度を有するものとなる。
【0017】
〔粒子径〕
本発明の特定窒化アルミニウム焼結顆粒の粒子径は、20~150μm、好ましくは25~100μmの範囲にある。この範囲にあるものが樹脂に充填した際の凸部による粒子間の接触が効果的に行われ、また、他の粒子との併用による高充填化がし易い。
【0018】
〔表面の凸部〕
本発明の特定窒化アルミニウム焼結顆粒の表面凸部の高さは、3~10μm、好ましくは4~9μmである。凸部の高さがこの範囲より小さいと、樹脂組成物に充填した粒子間の接触面積が小さくなり、高熱伝導率を付与できない。また、10μmを超える凸部は形成が困難であるばかりでなく、かかる凸部が存在する場合、粒子間の立体的な障害が大きくなり充填性が低下することが懸念される。
【0019】
尚、凸部の測定方法は後述するが、かかる測定方法における研磨の位置によっては、凸部の最高部の高さが観察されない場合もある。しかし、測定位置での高さが3μmを超えていれば、凸部の最高部の高さ(凸部の頂部)はそれ以上の高さである。
【0020】
本発明の特定窒化アルミニウム焼結顆粒において、前記凸部の個数は2.0×10-3個/μm以上、好ましくは3.0×10-3~1.0×10-2個、更に好ましくは3.5×10-3~9.5×10-3個である。表面凸部の個数がこの範囲より少ないと、凸部による接触面積の増加効果が十分でなく、樹脂組成物に充填した粒子間の接触面積が小さくなり、高熱伝導率を付与できない。凸部の個数がこの範囲より多いと、粒子の比表面積が高く、樹脂配合時に高粘度化するため、粉末の充填性が低下する傾向がある。
【0021】
本発明の粒子表面凸部を形成する物質としては、理論熱伝導率が40W/m・K以上、好ましくは、100W/m・K以上の無機物が特に限定されることなく使用される。上記無機物としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの熱伝導率が高く、凸部を形成し易い非扁平な形状を有するものが好適である。そのうち、熱伝導率が高い、窒化ケイ素、窒化アルミニウムが、特に窒化アルミニウムが好適である。
【0022】
本発明の特定窒化アルミニウム焼結顆粒は、後述する製造方法によって、特定窒化アルミニウム焼結顆粒を含む窒化アルミニウム粉末として得られる。かかる窒化アルミニウム粉末は、僅かに存在する小粒径の粒子を除く殆どの粒子、具体的には、90容量%以上、特に、95容量%以上が特定窒化アルミニウム焼結顆粒として存在する。
【0023】
本発明の特定窒化アルミニウム焼結顆粒は、製造により得られた窒化アルミニウム粉末の状態で使用することもできるが、これに、粒径の異なる特定窒化アルミニウム焼結顆粒を含む窒化アルミニウム粉末、粒径が同じか異なる、粒子表面凸部を持たない窒化アルミニウム焼結顆粒を含む窒化アルミニウム粉末、粒径が異なり、窒化アルミニウム焼結顆粒を含まない窒化アルミニウム粉末などを適宜組み合わせて混合した窒化アルミニウム粉末として使用することができる。
【0024】
特に、樹脂フィラーとして本発明の窒化アルミニウム焼結顆粒を含む窒化アルミニウム粉末を使用する場合は、樹脂への充填率を上げるため、径の異なるものを混合した窒化アルミニウム粉末として使用することが好ましい。径の異なる窒化アルミニウム粉末として、例えば、サブミクロン~数ミクロンの大きさの窒化アルミニウム粉末は樹脂への充填率を上げるために好適に使用される。
【0025】
上述した組合せにより調製される窒化アルミニウム粉末において、本発明の特定窒化アルミニウム焼結顆粒の割合が50容量%以上、好ましくは、60容量%以上の割合となるように混合比率を調整することが、特定窒化アルミニウム焼結顆粒の機能を十分発揮させるために好ましい。
【0026】
[窒化アルミニウム焼結顆粒の製造方法]
本発明の窒化アルミニウム焼結顆粒を含む窒化アルミニウム粉末の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明の窒化アルミニウム焼結顆粒を高含有率で再現性良く製造するための方法として、窒化アルミニウム粉末を20~200μm程度の顆粒状に成形した顆粒状成形体と、凸部を形成せしめるための、平均粒径が3~10μmであり、理論熱伝導率が40W/m・K以上の無機粉末とよりなる混合粉を、空気雰囲気下で脱脂した後に、窒素雰囲気下で焼結する方法が挙げられる。
【0027】
上記製造方法により、殆どの粒子が窒化アルミニウム焼結顆粒より構成される窒化アルミニウム粉末が得られる。
【0028】
以下に詳細に説明する。
【0029】
・窒化アルミニウム顆粒状成形体
本発明の窒化アルミニウム粉末の原料となる窒化アルミニウム顆粒状成形体は、平均球形度0.8以上を有し、1850℃以下の焼成により焼結し、緻密体が得られるものがすべて使用可能である。製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、窒化アルミニウム粉末、焼結助剤粉末、バインダー、分散剤及び溶媒の混合物を混合してスラリーを調整し、次いで、上記スラリーをスプレードライ乾燥することにより製造することができる。
【0030】
上記製造方法において、原料の窒化アルミニウム粉末は、特に限定されないが、平均一次粒子径が0.4~1.2μmのものを使用することが好ましい。平均一次粒子径がこの範囲より小さいと、スラリー中で窒化アルミニウム粉末が凝集しやすく、顆粒構造の偏りが発生する。平均一次粒子径がこの範囲より大きいと、焼結しにくくなり、焼結後の顆粒に焼結不足による空隙が残存する。空隙が残存すると樹脂充填時に増粘して高充填出来ない。
【0031】
前記製造方法において、焼結助剤は特に限定されないが、希土類金属酸化物を使用することが好ましい。かかる希土類酸化物については特に限定されないが、熱伝導率の観点からイットリウム化合物、特には酸化イットリウムを使用することが好ましい。また、焼結助剤の添加量は熱伝導率、及び焼結促進効果の観点から、窒化アルミニウムに対して2~6重量部であることが好ましい。添加量がこの範囲より少ないと焼結が進みにくく、焼結後の顆粒に焼結不足による空隙が残存する。添加量がこの範囲より多いと焼結時に窒化アルミニウムの純化が起こりにくく、焼結顆粒の熱伝導率が低下する。また、焼結助剤により顆粒間の焼結が起きやすくなり、凝集粉末が増加する。
【0032】
前記製造方法において、溶媒は公知のものを特に制限なく使用できるが、例えば、アセトン、ケトン類、エタノール、プロパノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等が好適に使用される。
【0033】
・凸部形成用粉末
本発明の窒化アルミニウム粒子の表面凸部を形成するための凸部形成用粉末は、理論熱伝導率が40W/m・K以上、好ましくは100W/m・K以上の無機物の粉末であり、前記例示した無機物の粉末が好適に使用される。尚、物質によっては窒化アルミニウムと異物質間で焼結しにくいことがあるが、その場合も窒化アルミニウム顆粒が含有する焼結助剤を介して顆粒表面に結合される。
【0034】
凸部形成用粉末の粒子径は3~10μmのものが利用できる。粒子径がこの範囲より小さいと、焼結時に顆粒と一体化してしまい、十分な高さの凸部を形成し難く、粒子径がこの範囲より大きいと、凸部による粒子間の立体的な障害が大きくなり、粉末の充填性が低下する。また、凸部形成用粉末を構成する粒子は凝集しておらず、一次粒子として3~10μmであることが好ましい。凝集粉であると焼結後に凸部内に空孔が残存し、凸部の強度が低下したり、樹脂充填時に増粘したりする傾向がある。
【0035】
・原料混合
本発明の製造方法において、混合方法は窒化アルミニウム顆粒の形状が崩壊せず、窒化アルミニウム顆粒と凸部形成用粉末が均一に混合できるものがすべて使用できる。混合装置は特に限定されないが、例えばV字混合機、W型混合機、ドラム型混合機等が利用できる。
【0036】
窒化アルミニウム顆粒と凸部形成用粉末の混合比は窒化アルミニウム顆粒100重量部に対して、凸部形成用粉末を5~30重量部添加することが好ましい。添加量がこの範囲より少ないと、焼結後粒子表面に形成される凸部が少なくなり、樹脂組成物に充填した粒子間の接触面積が小さく、高熱伝導率を付与できない。添加量がこの範囲より多いと、添加量がこの範囲より多いと、焼結後粒子表面に形成される凸部が多くなり、樹脂配合時に高粘度化するため、粉末の充填性が低下する。
【0037】
・焼結
上記混合粉末を空気雰囲気下で焼成し、バインダー及び分散剤を除去した後に、窒素雰囲気下、1700℃~1850℃の温度範囲で、1~10時間焼結することで、本発明の窒化アルミニウム粒子を得ることができる。上記焼成温度が範囲より低いと窒化アルミニウム顆粒部分の緻密化及び、顆粒部分への凸部形成用粉末の焼結が不十分になる傾向がある。焼成温度が範囲より高いと窒化アルミニウム顆粒表面に凸部形成用粉末が焼結するだけでなく、窒化アルミニウム顆粒間が焼結した粒子が生成する傾向がある。
上記焼成後、表面に凸部を有する窒化アルミニウム粒子間でわずかに融着が発生する。融着があると樹脂への充填性が低下するため、軽度な解砕処理をして融着を除去する。解砕方法は特に限定されないが、回転ミル、ジェットミル、振動ミル等が利用できる。解砕処理により表面凸部を形成していた粒子が一部脱落する場合は、篩分け、気流分級等により除去できる。
【0038】
〔用途〕
本発明の特定窒化アルミニウム焼結顆粒を含む窒化アルミニウム粉末は、窒化アルミニウムの性質を生かした種々の用途、特に放熱シート、放熱グリース、放熱接着剤、塗料、熱伝導性樹脂などの放熱材料用フィラーとして広く用いることができる。
【0039】
ここで放熱材料のマトリックスとなる樹脂、グリースは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂、またシリコーンゴム、EPR、SBR等のゴム類、シリコーンオイルが挙げられる。
【0040】
これらのうち、放熱材料のマトリックスとしては、例えばエポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂が好適であり、高柔軟性放熱部材とするには付加反応型液状シリコーンゴムが望ましい。
【0041】
放熱材料の熱伝導性を向上させるため、樹脂、ゴム又はオイルに対し60容量%以上、好ましくは70容量%以上、より好ましくは80容量%以上充填するのが良い。このような放熱材料には、本発明の特定窒化アルミニウム焼結顆粒を含む窒化アルミニウム粉末以外に、アルミナ、酸化亜鉛、炭化珪素、グラファイトなどのフィラーを一種、あるいは数種類充填しても良く、放熱材料の特性や用途に応じて、フィラーの形状、粒径を選択すれば良い。それ以外のフィラーを配合する場合は本発明の窒化アルミニウム焼結顆粒の比率を50容量%以上、好ましくは60容量%以上にするのが良い。また、これらのフィラーは、例えばシランカップリング剤やリン酸又はリン酸塩などで表面処理したものを用いても良い。また、放熱材料には、可塑剤、加硫剤、硬化促進剤、離形剤等の添加剤をさらに添加しても良い。
【0042】
上記の樹脂組成物は、ブレンダーやミキサーで混合することによって製造することができ、また放熱材料は、プレス成形法、押出成形法、ドクターブレード法によって樹脂組成物を成形し、それを加熱硬化することによって製造することができる。
【実施例
【0043】
以下、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例における各種物性は、下記の方法により測定した。
【0044】
(1)粒径、真球度、粒子表面凸部の高さ及び個数
試料の窒化アルミニウム粉末をエポキシ樹脂に充填し、該樹脂を金型に注型し、熱プレスにより硬化させ、厚さ500μmのシートを作製した。上記窒化アルミニウム粉末を充填したシートを5μm間隔で削り、それぞれ研削面において電子顕微鏡写真を撮影した。
【0045】
上記研磨面の電子顕微鏡の写真像からの情報に基づき、スケールを用いて粒子像の長径(DL)と短径(DS)を測定し、その比(DS/DL)を真球度とした。また、上記長径の値を粒子の粒子径とした。
【0046】
また、上記研磨面の電子顕微鏡の写真像からの情報に基づき、粒子の表面凸部の個数及び表面からの高さを求めた。また、上記凸部の高さ(h)は図3に示すように、粒子の断面について倍率5000倍の画像より観察される粒子の輪郭線において、凸部の両端に存在する谷部の最低点を結んだ直線から凸部の頂点までの垂直距離を凸部の高さとした。前記研磨面の電子顕微鏡の写真像からの情報に基づき、粒子毎に、凸部の高さが3~10μmの凸部の個数を粒子の表面積で除して表面凸部頻度(個/μm)を算出した。また、凸部の平均高さも併せて算出した。
【0047】
(2)窒化アルミニウム粉末中の特定窒化アルミニウム焼結粒子の割合
前記(1)の研磨面の電子顕微鏡の写真像からの任意の100粒子の計測情報に基づき、球形度が0.80以上、粒子径(DL)が20~150μmの範囲にあり、凸部の高さが3~10μmの範囲にある粒子の体積割合を求め、特定窒化アルミニウム焼結顆粒の割合(容量%)とした。
【0048】
(3)窒化アルミニウム粉末の比表面積
窒化アルミニウム粉末の比表面積は、流動式表面積自動測定装置(島津製作所製 フローソーブ2300形)を用いて窒素吸着によるBET法により求めた。
【0049】
(4)窒化アルミニウム粉末の平均粒子径
窒化アルミニウム粉末の平均粒子径(D50)は、試料をホモジナイザーにてピロリン酸ソーダ中に分散させ、レーザー回折粒度分布装置(日機装株式会社製MICROTRAC MT3300)にて測定した。
【0050】
(5)樹脂成形体の熱伝導率
試料のシート体について熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製 TPS2500)を用いて、ホットディスク法により測定した。
【0051】
実施例1
平均粒子径1.0μmの窒化アルミニウム粉末と酸化イットリウム粉末を100:5の割合で混合し、さらに界面活性剤としてヘキサグリセリンモノオレート1.0重量部、結合剤としてメタクリル酸ブチル2.5重量部、トルエン溶媒100重量部を投入して、十分にボールミル混合し、スラリーを得た。こうして得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥し、平均粒径40.5μmの窒化アルミニウム顆粒状成形体を得た。
【0052】
この窒化アルミニウム顆粒状成形体と凸部形成用粉末として平均粒子径4.6μmの窒化アルミニウム(理論熱伝導率320W/m・K)粉末を100:10の割合で混合した。該混合粉末を空気雰囲気下、600℃の温度で5時間焼成し、顆粒中の有機物を除去した後、窒素雰囲気下、1750℃の温度で5時間焼成した。焼成後塊状になった窒化アルミニウム粒子を回転ボールミルで処理して粒子間の凝集を解き、特定窒化アルミニウム焼結顆粒(表では「特定AlN顆粒」と示す。)を表1に示す割合で有する特定窒化アルミニウム粉末(表では「特定AlN粉末」と示す。)を得た。
【0053】
上記特定窒化アルミニウム粉末の比表面積、平均粒径、上記特定窒化アルミニウム粉末に含まれる特定窒化アルミニウム焼結顆粒のうち、平均粒径近傍の径を有する粒子について、真球度、表面凸部最高高さ、3~10μmの表面凸部頻度等の物性を測定した結果を表1に示す。
【0054】
また、前記特定窒化アルミニウム粉末とD50が0.8μmの市販の窒化アルミニウム粉末を8:2の容量比で混合した窒化アルミニウム混合粉末(特定窒化アルミニウム焼結顆粒の割合:76容量%)を、シリコーン樹脂(ダウ・東レ株式会社製 CY52-276A,B)に充填量が80容量%になるように配合した。シリコーン樹脂への配合は東洋精機製作所製ラボプラストミルを使用して15分間混錬することにより行い、得られた樹脂組成物を金型に充填し、80℃×1時間、1tonの熱ブレスを行って厚み6mmのシート体を得、熱伝導率を測定した。結果を表1に併せて示す。
【0055】
実施例2
原料として101.2μmのAlN顆粒を用いた以外は実施例1と同様にして、特定窒化アルミニウム粉末を得た。図1は得られた特定窒化アルミニウム粉末の電子顕微鏡写真であるが、球形度が高く、表面に4μm程度の凹凸を持つ粒子であることがわかる。
【0056】
得られた特定窒化アルミニウム粉末の比表面積、平均粒径、上記特定窒化アルミニウム粉末に含まれる特定窒化アルミニウム焼結顆粒のうち、平均粒径近傍の径を有する粒子について、真球度、表面凸部最高高さ、3~10μmの表面凸部頻度等の物性を測定した結果を表1に示す。
【0057】
上記特定窒化アルミニウム粉末と、実施例1で得られた特定窒化アルミニウム粉末、D50が0.8μmの市販の窒化アルミニウム粉末を1:1:1の容量比で混合した窒化アルミニウム混合粉末(特定窒化アルミニウム焼結顆粒の割合:64容量%)を用いて、実施例1と同様にしてシート体を得、熱伝導率を測定した。結果を表1に併せて示す。
【0058】
実施例3
凸部形成用粉末として平均粒子径9.8μmの窒化アルミニウム粉末を用いた以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を得た。得られた窒化アルミニウム粉末の比表面積、平均粒径、表面凸部高さ、表面凸部頻度の測定結果を表1に示す。さらに得られた特定窒化アルミニウム粉末を用い、実施例1と同様に窒化アルミニウム混合粉末を調製し、また、これを使用したシート体を得、熱伝導率を測定した。結果を表1に併せて示す。
【0059】
実施例4
窒化アルミニウム顆粒と凸部形成用粉末の混合比を100:20にした以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を得た。得られた窒化アルミニウム粉末の比表面積、平均粒径、表面凸部高さ、表面凸部頻度の測定結果を表1に示す。さらに得られた特定窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に窒化アルミニウム混合粉末を調製し、また、これを使用したシート体を得、熱伝導率を測定した。結果を表1に併せて示す。
【0060】
比較例1
原料に凸部形成用粉末を添加しない以外は実施例1と同様にして、窒化アルミニウム粉末を得た。得られた窒化アルミニウム粉末の比表面積、平均粒径、表面凸部高さ、表面凸部頻度の測定結果を表1に示す。さらに得られた窒化アルミニウム粉末を用いて、実施例1と同様に窒化アルミニウム混合粉末を調製し、また、これを使用したシート体を得、熱伝導率を測定した。結果を表2に併せて示す。
【0061】
比較例2
原料に凸部形成用粉末を添加しない以外は実施例2と同様にして、窒化アルミニウム粉末を得た。図2は得られた窒化アルミニウム粉末の電子顕微鏡写真であるが、表面に3μm以下の微細な凹凸を持つ粒子であることがわかる。得られた窒化アルミニウム粉末の比表面積、平均粒径、表面凸部高さ、表面凸部頻度の測定結果を表2に示す。さらに得られた窒化アルミニウム粉末と比較例1で得られた窒化アルミニウム粉末と、D50が0.8μmの市販の窒化アルミニウム粉末を1:1:1の容量比で混合して窒化アルミニウム混合粉末とし、これを用いて実施例1と同様にしてシート体を得、熱伝導率を測定した。結果を表2に併せて示す。
【0062】
比較例3
窒化アルミニウム顆粒と凸部形成用粉末の混合比を100:3にした以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を得た。得られた窒化アルミニウム粉末の比表面積、平均粒径、表面凸部高さ、表面凸部頻度の測定結果を表2に示す。さらに得られた窒化アルミニウム粉末は、実施例1と同様に窒化アルミニウム混合粉末を調製し、また、これを使用したシートを作製し、熱伝導率を測定した。結果を表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明で得られる特定窒化アルミニウム焼結顆粒を含む窒化アルミニウム粉末は、フィラーに適した形状、粒径を有していることから、単独で、又は他の窒化アルミニウム粉末と混合して使用することで、樹脂やグリースなどのマトリックスに対して高充填することができ、かつ粒子間の接触面積が大きい。そのため熱伝導率の高い放熱シート、放熱グリース、放熱接着剤等を得ることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 粒子の輪郭線
2 凸部の頂点
3 谷部の最低点
4 谷部の最低点
図1
図2
図3