(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】アンジオテンシン変換酵素阻害剤、血圧降下剤及び飲食品
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20250310BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20250310BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20250310BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20250310BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/52
A61K31/192
A61P9/12
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021550470
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2020033216
(87)【国際公開番号】W WO2021065307
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2019180155
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】西谷 洋輔
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-016618(JP,A)
【文献】特開2008-239521(JP,A)
【文献】特開2006-342134(JP,A)
【文献】特開2012-144532(JP,A)
【文献】特開2002-053464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物を有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【化1】
【請求項2】
下記式(I)で表される化合物を有効成分とする血圧降下剤。
【化2】
【請求項3】
下記式(I)で表される化合物を
有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品。
【化3】
【請求項4】
下記式(I)で表される化合物を
有効成分とする血圧降下用飲食品。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、血圧降下剤及び飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高血圧は、肥満や喫煙と並んで生活習慣病のリスク要因となっている。高血圧状態の持続は心臓での心不全、心筋梗塞、腎臓での腎障害、腎不全及び血管での閉塞性、解離性動脈疾患等の臓器障害を引き起こす怖れがある。そのため、高血圧の改善は社会的に強く求められている。
【0003】
血圧上昇に関わる因子として、アンジオテンシン変換酵素(Angiotensin I-Converting Enzyme;本明細書において「ACE」と記載する場合がある。)が知られている。アンジオテンシン変換酵素は、亜鉛を活性中心にもつジカルボキシペプチターゼ(分子量147kDa)であり、2つの触媒活性ドメイン(C及びNドメイン)をもつ。
【0004】
アンジオテンシン変換酵素のCドメインは、アンジオテンシンIのC末端ジペプチドを遊離させてアンジオテンシンIIを生成する反応を触媒する。アンジオテンシンIIは、血管壁に存在するレセプター(AT1R)を介して血管平滑筋を収縮させることで血圧上昇を引き起こしている。さらに、アンジオテンシンIIは、副腎皮質からのアルドステロン分泌を促し、腎臓におけるナトリウムの再吸収を促進することで血圧上昇を引き起こしている(非特許文献1)。
【0005】
したがって、アンジオテンシン変換酵素を阻害することで、血圧を降下させることができると考えられる。アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有するものとして、魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物(特許文献1)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】化学と生物 Vol.53. No.4. 2015年 p.228-235
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤並びに当該化合物を配合した飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤は、下記式(I)で表される化合物を有効成分とすることを特徴とする。また、本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品及び血圧降下用飲食品は、下記式(I)で表される化合物を配合することを特徴とする。
【0010】
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記式(I)で表される化合物を有効成分とすることにより、優れたアンジオテンシン変換酵素阻害作用及び血圧降下作用を有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤を提供することができる。さらに、上記式(I)で表される化合物を配合することにより、上記用途に好適な飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態に係るアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤は、下記式(I)で表される化合物を有効成分するものである。また、本実施形態に係るアンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品及び血圧降下用飲食品は、下記式(I)で表される化合物が配合されるものである。
【0013】
【0014】
上記式(I)で表される化合物は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸(3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic Acid)とも呼ばれるケイ皮酸誘導体である。以下、本明細書において、上記式(I)で表される化合物を化合物(I)ということがある。
【0015】
化合物(I)は、例えば、化合物(I)を含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することができる。この場合、このような化合物(I)を含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。化合物(I)を含有する植物としては、例えば、米、大麦、小麦、大豆、小豆、とうもろこし等が挙げられる。
【0016】
化合物(I)は、例えば、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸(3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propenoic Acid)もしくはその誘導体、又はこれらを含有する組成物(例えば、植物の破砕物または抽出物等)を、フェノール酸還元酵素を有する微生物により醗酵させ、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸を化合物(I)に変換した後、得られた醗酵物を抽出・単離・精製することにより製造することもできる。3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸を含有する組成物としては、例えば、コーヒー、コムギ、トウモロコシ、トマト、マテ、ヨモギ、ゴボウ等の植物の破砕物及び抽出物などが挙げられる。また、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸は木本植物及び草本植物におけるリグニンの構成成分であるため、リグニン又はこれを含有する組成物を醗酵原料として利用してもよい。一方、フェノール酸還元酵素を有する微生物としては、例えば、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus amylovorus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus buchneri、Lactobacillus kefiranofaciens、Lactobacillus gallinarum、Enterococus faecalis等の乳酸菌などが挙げられる。
【0017】
上記植物又は醗酵物などから化合物(I)を抽出・単離・精製する方法は特に限定されず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出処理は、抽出原料としての上記植物又は醗酵物を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供すればよい。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0018】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0019】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0020】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。
【0021】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比が9:1~1:9(容量比)であることが好ましく、7:3~2:8(容量比)であることがさらに好ましい。また、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族ケトンとの混合比が9:1~2:8(容量比)であることが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水と多価アルコールとの混合比が8:2~1:9(容量比)であることが好ましい。
【0022】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5~15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0023】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物から化合物(I)を単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、抽出物を展開溶媒に溶解し、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、化合物(I)を含む画分を回収する方法等が挙げられる。この場合、展開溶媒は使用する固定相に応じて適宜選択すればよいが、例えば固定相としてシリカゲルを用いた順相クロマトグラフィーにより抽出物を分離する場合、展開溶媒としてはクロロホルム:メタノール=95:5等が挙げられる。さらに、カラムクロマトグラフィーにより得られた化合物(I)を含む画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液-液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0024】
[アンジオテンシン変換酵素阻害剤,血圧降下剤]
以上のようにして得られる化合物(I)は、優れたアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有しているため、アンジオテンシン変換酵素阻害剤の有効成分として用いることができる。また、化合物(I)は、優れた血圧降下作用を有しているため、血圧降下剤の有効成分としても使用することができる。
すなわち、アンジオテンシン変換酵素阻害剤又は血圧降下剤を製造するために、化合物(I)を使用することができる。
本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等の幅広い用途に使用することができる。
【0025】
ここで、化合物(I)が有する血圧降下作用は、例えばアンジオテンシン変換酵素阻害作用に基づいて発揮される。ただし、化合物(I)が有する血圧降下作用は、アンジオテンシン変換酵素阻害作用に基づいて発揮される血圧降下作用に限定されるものではない。
【0026】
なお、本実施形態に係るアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤の有効成分として、単離した化合物(I)に替えて、化合物(I)を含有する組成物を用いてもよい。ここで、本実施形態における「化合物(I)を含有する組成物」には、化合物(I)を含有する植物を抽出原料として得られる抽出物、化合物(I)を含有する醗酵物、及び当該醗酵物を抽出原料として得られる抽出物が含まれる。また、「抽出物」には、抽出処理により得られる抽出液、当該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、又は当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物が含まれる。
【0027】
本実施形態に係るアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤の有効成分として、化合物(I)を含有する組成物を用いる場合は、組成物中に化合物(I)が0.1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。化合物(I)の純度を高めたものを有効成分として使用することによって、より一層作用効果に優れたアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤を得ることができる。
【0028】
本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤は、化合物(I)又は化合物(I)を含有する組成物のみからなるものでもよいし、化合物(I)又は化合物(I)を含有する組成物を製剤化したものでもよい。
【0029】
本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤は、他の組成物(例えば、皮膚化粧料、頭髪化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0030】
本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤を製剤化した場合、化合物(I)又は化合物(I)を含有する組成物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0031】
なお、本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤は、必要に応じて、アンジオテンシン変換酵素阻害作用又は血圧降下作用を有する他の天然抽出物等を、化合物(I)又は化合物(I)を含有する組成物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0032】
本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防又は治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0033】
本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤は、有効成分である化合物(I)が有するアンジオテンシン変換酵素阻害作用により、アンジオテンシンIのC末端ジペプチドを遊離させてアンジオテンシンIIを生成する反応を抑制する。アンジオテンシンIIの生成が抑制されることで、血管平滑筋の収縮が抑制されるため、血圧を降下させることができる。ただし、本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤は、これらの用途以外にも、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0034】
本実施形態の血圧降下剤は、有効成分である化合物(I)が有する血圧降下作用により、アンジオテンシンIのC末端ジペプチドを遊離させてアンジオテンシンIIを生成する反応を抑制することができる。この結果、本実施形態の血圧降下剤は、高血圧症、それに伴う心臓での心不全、心筋梗塞、腎臓での腎障害、腎不全及び血管での閉塞性、解離性動脈疾患等の臓器障害等、様々な疾患を予防又は改善することができる。ただし、本実施形態の血圧降下剤は、これらの用途以外にも、血圧降下作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0035】
また、本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤は、優れたアンジオテンシン変換酵素阻害作用又は血圧降下作用を有するので、これらの作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0036】
[アンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品,血圧降下用飲食品]
化合物(I)は、優れたアンジオテンシン変換酵素阻害作用及び血圧降下作用を有しているため、飲食品に配合するのに好適である。この場合、化合物(I)をそのまま配合してもよいし、化合物(I)から製剤化したアンジオテンシン変換酵素阻害剤又は血圧降下剤を配合してもよい。
【0037】
化合物(I)、又は化合物(I)から製剤化したアンジオテンシン変換酵素阻害剤若しくは血圧降下剤を飲食品に配合することにより、アンジオテンシン変換酵素阻害用途又は血圧降下用途に好適な飲食品とすることができる。上記作用は、飲食品に付与されることで作用効果が発揮されやすいため、好適である。
【0038】
ここで、飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「飲食品」は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。本実施形態に係る飲食品は、当該飲食品またはその包装に、化合物(I)が有する好ましい作用を表示することのできる飲食品であることが好ましく、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品,栄養機能食品)、医薬部外品および医薬品であることが特に好ましい。
【0039】
化合物(I)、又は化合物(I)から製剤化したアンジオテンシン変換酵素阻害剤若しくは血圧降下剤を飲食品に配合する場合、それらにおける有効成分の配合量は、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜変更することができるが、添加対象となる飲食品の一般的な摂取量を考慮して、成人1日あたりの抽出物摂取量が約1~1000mgになるようにするのが好ましい。なお、添加対象飲食品が顆粒状、錠剤状又はカプセル状の飲食品の場合、化合物(I)、又は化合物(I)から製剤化したアンジオテンシン変換酵素阻害剤若しくは血圧降下剤の添加量は、添加対象飲食品に対して通常0.1~100質量%であり、好ましくは5~100質量%である。
【0040】
本実施形態の飲食品は、化合物(I)をその活性を妨げないような任意の飲食品に配合したものであってもよいし、化合物(I)を主成分とする栄養補助食品であってもよい。
【0041】
本実施形態の飲食品を製造する際には、例えば、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類などの任意の助剤を添加して任意の形状の飲食品にすることができる。
【0042】
化合物(I)を配合し得る飲食品は特に限定されないが、その具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物;その他種々の形態の健康・栄養補助食品;錠剤、カプセル剤、ドリンク剤などが挙げられ、これらの飲食品に化合物(I)を配合するときに、通常用いられる補助的な原料や添加物を併用することができる。
【0043】
なお、本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤、血圧降下剤、アンジオテンシン変換酵素阻害用飲食品及び血圧降下用飲食品は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例】
【0044】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。なお、本試験例においては、被験試料として化合物(I)(東京化成工業社製,3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic Acid,試料1)を使用した。
【0045】
[試験例1]化合物(I)のアンジオテンシン変換酵素阻害作用試験
化合物(I)(試料1)について、以下のようにしてアンジオテンシン変換酵素阻害作用を試験した。
【0046】
適宜蒸留水にて溶解、希釈した試料溶液(試料1)、及び蒸留水を各々50μL、試験管(10mL)に分注した。基質溶液を各々250μL分注し混合した。試験管を37℃の恒温水槽中にて、5分間予備加熱した。予備加熱した試験管に、ACE溶液を100μL添加し、ただちに攪拌後、37℃の恒温水槽中で45分間反応させた。反応終了後、3%メタ燐酸溶液3.6mLを添加し、よく攪拌して反応を終了させた。失活させた液についてHPLC分析を行い、遊離した馬尿酸を測定した。HPLCによる馬尿酸ピーク面積、及び固形量(濃度,秤取量)より、ACE阻害率(%)を求めた。ACE阻害率50%を示すときの反応液中の試料濃度(IC50)を求めた。
結果を表1に示す。
【0047】
基質溶液は、ホウ酸緩衝液(pH8.3)に基質(Hippuryl-His-Leu)(ペプチド研究所製)が8mM、及び塩化ナトリウムが640mMとなるよう調製した。ACE溶液は、ホウ酸緩衝液にACE(シグマ社製)が30mU/mLとなるよう調製した。
【0048】
〈液体クロマトグラフィー条件〉
カラム:Wakosil-II 5C18 HG(4.5mm I.D.×150mm,和光純薬社製)
カラム温度:40℃
移動相:20mM KH2PO4・H3PO4(pH 3.0):Methanol (57:43,v/v)
流速:1.0mL/min
検出波長:228nm
注入量:20μL
【0049】
【0050】
表1に示すように、化合物(I)(試料1)は優れたアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有することが確認された。
【0051】
〔配合例1〕
常法により、以下の組成を有する錠剤を製造した。
化合物(I) 5.0mg
ドロマイト(カルシウム20%、マグネシウム10%含有) 83.4mg
カゼインホスホペプチド 16.7mg
ビタミンC 33.4mg
マルチトール 136.8mg
コラーゲン 12.7mg
ショ糖脂肪酸エステル 12.0mg
【0052】
〔配合例2〕
常法により、以下の組成を有する経口液状製剤を製造した。
<1アンプル(1本100mL)中の組成>
化合物(I) 0.3質量%
ソルビット 12.0質量%
安息香酸ナトリウム 0.1質量%
香料 1.0質量%
硫酸カルシウム 0.5質量%
精製水 残部(100質量%)
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤は、例えば高血圧の改善等に大きく貢献することができる。