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特許7646557芳香族ポリスルホン組成物、成形体、及び芳香族ポリスルホン組成物の製造方法
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  • 特許-芳香族ポリスルホン組成物、成形体、及び芳香族ポリスルホン組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】芳香族ポリスルホン組成物、成形体、及び芳香族ポリスルホン組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/06 20060101AFI20250310BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20250310BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20250310BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
C08L81/06
C08K3/00
C08K3/22
C08K3/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021551225
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2020036542
(87)【国際公開番号】W WO2021065770
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2019182115
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】山西 啓介
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-530914(JP,A)
【文献】特表2018-517045(JP,A)
【文献】特開2003-301107(JP,A)
【文献】特開平11-096817(JP,A)
【文献】国際公開第2013/080566(WO,A1)
【文献】特開2018-070698(JP,A)
【文献】特開2012-211290(JP,A)
【文献】国際公開第2018/113494(WO,A1)
【文献】特表2012-522856(JP,A)
【文献】特開平11-279395(JP,A)
【文献】特開2010-053356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/06
C08K 3/00
C08K 3/22
C08K 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(P)成分:芳香族ポリスルホンと、
(M)成分:酸化マグネシウム、酸化カルシウム、焼成ハイドロタルサイト、ウォラストナイト、及びマイカからなる群より選択される少なくとも1種と、
を含有し、
塩素(Cl)の含有量が、2000質量ppm以下である、芳香族ポリスルホン組成物。
【請求項2】
前記(M)成分の含有量が、前記(P)成分100質量部に対して0.5~15質量部である、請求項1に記載の芳香族ポリスルホン組成物。
【請求項3】
前記(M)成分が、酸化マグネシウムである、請求項1又は2に記載の芳香族ポリスルホン組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の芳香族ポリスルホン組成物より成形された成形体。
【請求項5】
(P)成分:塩素(Cl)の含有量が2000質量ppm以下である芳香族ポリスルホンと、
(M)成分:酸化マグネシウム、酸化カルシウム、焼成ハイドロタルサイト、ウォラストナイト、及びマイカからなる群より選択される少なくとも1種と、
を混合する工程を有する、芳香族ポリスルホン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリスルホン組成物、その成形体、及び芳香族ポリスルホン組成物の製造方法に関する。
本願は、2019年10月2日に、日本に出願された特願2019-182115号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリスルホンは、非晶性の熱可塑性樹脂の一つであり、耐熱性や機械特性、透明性に優れることから、成形体やフィルムの形成材料として、電子機器の部品等の各種用途に用いられている。また、芳香族ポリスルホンは接着剤としても使用されている。芳香族ポリスルホンはエポキシ樹脂の改質剤として適しており、接着剤をシート状又はフィルム状に加工する際に好適に使用される。
芳香族ポリスルホンを含有する樹脂組成物には、熱伝導性を高める目的で金属酸化物が配合される場合がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-301107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、芳香族ポリスルホンに、金属の酸化物等を配合して得られた組成物を、成形体の形成材料として用いようとすると、得られる組成物の溶融粘度が、配合により大きく変わる場合があり、芳香族ポリスルホン組成物の品質を安定化させ難いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、(P)成分:芳香族ポリスルホンと、(M)成分:長周期型周期表における1族又は2族に属する金属の酸化物、過酸化物、複酸化物及び炭酸化物からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有する組成物において、(M)成分の添加による溶融粘度の増加が生じ難い、芳香族ポリスルホン組成物、及びその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、組成物中の塩素(Cl)の含有量を、2000質量ppm以下とすることにより、(M)成分の添加による溶融粘度の増加を低減可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0007】
(1)(P)成分:芳香族ポリスルホンと、
(M)成分:長周期型周期表における1族又は2族に属する金属の酸化物、過酸化物、複酸化物及び炭酸化物からなる群より選択される少なくとも1種と、
を含有し、
塩素(Cl)の含有量が、2000質量ppm以下である、芳香族ポリスルホン組成物。
(2)前記(M)成分の含有量が、前記(P)成分100質量部に対して0.5~15質量部である、前記(1)に記載の芳香族ポリスルホン組成物。
(3)前記(M)成分が、長周期型周期表における1族又は2族に属する金属の酸化物である、前記(1)又は(2)に記載の芳香族ポリスルホン組成物。
(4)前記(M)成分が、酸化マグネシウムである、前記(3)に記載の芳香族ポリスルホン組成物。
(5)前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の芳香族ポリスルホン組成物より成形された成形体。
(6)(P)成分:塩素(Cl)の含有量が、2000質量ppm以下である芳香族ポリスルホンと、
(M)成分:長周期型周期表における1族又は2族に属する金属の酸化物、過酸化物、複酸化物及び炭酸化物からなる群より選択される少なくとも1種と、
を混合する工程を有する、芳香族ポリスルホン組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、(M)成分の添加による溶融粘度の増加が生じ難い、芳香族ポリスルホン組成物、及びその成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態のランプ部材の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の芳香族ポリスルホン組成物、成形体及び芳香族ポリスルホン組成物の製造方法の実施形態を説明する。
【0011】
≪芳香族ポリスルホン組成物≫
実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、(P)成分:芳香族ポリスルホンと、(M)成分:長周期型周期表における1族又は2族に属する金属の酸化物、過酸化物、複酸化物及び炭酸化物からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有し、塩素(Cl)の含有量が、2000質量ppm以下であるものである。
【0012】
塩素(Cl)の含有量が、2000質量ppm以下であることで、(M)成分の添加による、組成物の溶融粘度の増加が生じ難いものとすることができる。実施形態の芳香族ポリスルホン組成物において、塩素(Cl)の含有量は、2000質量ppm以下であり、1700質量ppm以下であることが好ましく、1500質量ppm以下であることがより好ましい。
実施形態の芳香族ポリスルホン組成物において、塩素(Cl)の含有量の下限値は特に制限されるものではないが、芳香族ポリスルホンの耐熱性を向上させる観点から、例えば、100質量ppm以上であってよく、500ppm以上であってもよい。
ここでの、芳香族ポリスルホン組成物に含まれる塩素(Cl)の含有量の好ましい範囲としては、例えば、100質量ppm以上2000質量ppm以下であってよく、100質量ppm以上1700質量ppm以下であってよく、500ppm以上1500質量ppm以下であってよい。
【0013】
芳香族ポリスルホン組成物の上記溶融粘度は、キャピラリーレオメーターを用いて測定された、380℃における溶融粘度を採用でき、以下に記載の測定方法により測定することができる。
【0014】
(ランプ部材用樹脂組成物の見かけ溶融粘度の測定)
芳香族ポリスルホン組成物の380℃における溶融粘度として、キャピラリーレオメーターを用いて測定される、380℃における溶融粘度を測定する。キャピラリーは、直径1.0mm、長さ10mmのものを用い、150℃で4時間乾燥させた芳香族ポリスルホン組成物のペレット20gを380℃に設定したシリンダーに入れ、ISO 11443に準拠し、せん断速度12000s-1における溶融粘度を測定したものとする。
【0015】
上記の芳香族ポリスルホン組成物に含まれる塩素(Cl)は、芳香族ポリスルホンが、その末端に有するCl原子と対応してよい。
【0016】
芳香族ポリスルホンは、通常、塩基及び反応溶媒の共存下で、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物とを重縮合反応させることで製造される(例えば、特表2012-509375号公報参照)。つまり、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物との重縮合反応によって得られる芳香族ポリスルホンは、その末端にハロゲン原子またはフェノール性水酸基を有する。
【0017】
芳香族ポリスルホン組成物に含まれる塩素(Cl)の含有量は、例えば、特開2018-070698号公報に開示される方法を採用することで、調整可能である。
【0018】
より具体的には、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物との重縮合反応により、芳香族ポリスルホンを製造する方法において、前記重縮合反応を、少なくとも一種の芳香族末端キャップ剤の共存下で行うことが挙げられる。
【0019】
芳香族末端キャップ剤としては、特開2018-070698号公報に開示されるものが挙げられ、例えば、ハロゲン原子への反応性やラジカルの発生しやすい構造を含まないことや入手のしやすさの観点から4-フェニルフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、及び4-フェノキシフェノールが好ましい。
【0020】
前記重縮合反応を、少なくとも一種の芳香族末端キャップ剤の共存下で行い、芳香族ポリスルホンを得たのち、その溶媒を除去することや、芳香族ポリスルホンを含む析出物を、貧溶媒で繰返し洗浄すること等により、塩素(Cl)を効率的に除去することができる。
【0021】
発明者らは、後述の実施例に示されるように、上記塩素(Cl)の含有量を2000質量ppm以下とすることにより、上記の溶融粘度の増加が生じ難いことを見出した。
これはおそらく、金属酸化物の添加により、末端にCl原子を有する芳香族ポリスルホンの重合反応が進行する場合があるところ、塩素(Cl)の含有量を2000質量ppm以下とすることにより、このような重合反応の進行が起こり難いものと推察される。
【0022】
<(P)成分>
以下、芳香族ポリスルホン組成物に含有される(P)成分:芳香族ポリスルホンについて説明する。(P)成分:芳香族ポリスルホンとしては、スルホニル基(-SO-)とアリーレン基(-Ar-)とエーテル結合(-O-)とがこの順で結合した構造を少なくとも含む構成単位、を有する樹脂が挙げられる。
【0023】
当該樹脂としては、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物を例示できる。
【0024】
【化1】
【0025】
(式中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子を表し、n1は0~4の整数であり、同一の又は異なるフェニレン基の各Rは互いに同一でも異なっていてもよく、同一の又は異なるフェニレン基の各n1は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0026】
【化2】
【0027】
(式中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子を表し、n2は0~4の整数であり、同一の又は異なるフェニレン基の各Rは互いに同一でも異なっていてもよく、同一の又は異なるフェニレン基の各n2は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0028】
及びRにおける、前記炭素数1~10のアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状であってよく、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基等が挙げられる。
及びRにおけるアルキル基は、炭素数1~6のアルキル基が好ましい、
【0029】
及びRにおける、炭素数2~10のアルケニル基としては、R及びRにおいて例示した前記アルキル基において、いずれか一つの炭素原子間の単結合(C-C)が、二重結合(C=C)に置換されたものが例示でき、二重結合の位置は限定されない。
及びRにおける、前記炭素数6~20のアリール基としては、例えばフェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
及びRにおける、前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
n1及びn2は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、0~2が好ましく、0~1がより好ましい。
【0030】
一般式(I)で表される化合物の市販品の例としては、住友化学株式会社の商品名スミカエクセルPES 3600P、4100Pおよび4800Pが挙げられる。
【0031】
芳香族ポリスルホン組成物の総質量(100質量%)における、前記(P)成分の含有量の割合は、例えば50質量%以上であってよく、50~99.9質量%であってよく、70~99.5質量%であってよく、80~99.0質量%であってよい。
【0032】
前記(P)成分の還元粘度は、0.36(dL/g)超0.50(dL/g)以下であることが好ましく、0.38(dL/g)以上0.48(dL/g)以下であることがより好ましく、0.40(dL/g)以上0.45(dL/g)以下であることがさらに好ましい。
前記(P)成分の還元粘度が上記下限値超又は以上であることにより、揮発性成分の高温環境下での放出が適度に防止されるとともに、芳香族ポリスルホン組成物の耐熱性も向上する。前記(P)成分の還元粘度が上記上限値以下であることにより、芳香族ポリスルホン組成物の取り扱いや成形性を良好とすることができる。
【0033】
(P)成分の還元粘度は以下の方法により測定できる。
(P)成分1gをN,N-ジメチルホルムアミドに溶解した溶液1dLの粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定する。
また、溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドの粘度(η0)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定する。
前記溶液の粘度(η)と前記溶媒の粘度(η0)とから、比粘性率((η-η0)/η0)を求める。この比粘性率を、前記溶液の濃度(約1g/dL)で除することにより、還元粘度(dL/g)を求める。
【0034】
実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、(P)成分を含有することで、優れた耐熱特性を発揮できる。
【0035】
実施形態の芳香族ポリスルホン組成物の耐熱特性を示す指標としては、芳香族ポリスルホン組成物の硬化物の180℃曲げ強度を採用することができる。上記180℃曲げ強度は、35MPa以上が好ましく、40MPa以上がより好ましく、50MPa以上がさらに好ましく、55MPa以上が特に好ましい。
180℃曲げ強度の上限値は特に制限されるものではないが、70MPa以下であってよく、65MPa以下であってよく、60MPa以下であってよい。
上記の数値の数値範囲としては、例えば、35MPa以上70MPa以下であってよく、40MPa以上65MPa以下であってよく、50MPa以上65MPa以下であってよく、55MPa以上60MPa以下であってよい。
180℃曲げ強度の値は、以下の方法及び測定条件により得られた値とする。
【0036】
芳香族ポリスルホン組成物から、射出成形機(PS40E5ASE,日精樹脂工業(株))を用い、シリンダー温度360℃、金型温度150℃にて幅12.7mm、長さ127mm、厚み6.4mmの棒状試験片を成形し、ASTM D790に準拠して、試験速度2mm/分、支点間距離100mm、圧子の先端半径5mmにて、曲げ試験を実施し、少なくとも3本の試験片についての結果の平均値を採用する。
【0037】
実施形態の芳香族ポリスルホンのガラス転移温度(℃)は、200℃以上であることが好ましく、215℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度(℃)は、芳香族ポリスルホンの耐熱性の程度を判断する指標となるものであり、通常は、この温度が高いほど耐熱性に優れているといえる。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置により、JIS-K7121に準じた方法で算出できる。
【0038】
(芳香族ポリスルホンのガラス転移温度の測定)
示差走査熱量測定装置を用い、JIS-K7121に準じた方法でガラス転移温度を算出する。サンプル約10mgを秤量し、昇温速度10℃/minで400℃まで上昇させた後、50℃まで冷却し、再び昇温速度10℃/minで400℃まで上昇させる。2回目の昇温で得られたDSCチャートより、JIS-K7121に準じた方法でガラス転移温度を算出する。
【0039】
<(M)成分>
以下、芳香族ポリスルホン組成物に含有される(M)成分:長周期型周期表における1族又は2族に属する金属の酸化物、過酸化物、複酸化物及び炭酸化物からなる群より選択される少なくとも1種について説明する。
【0040】
長周期型周期表における1族又は2族に属する金属の酸化物としては、一般式M2 O、又はM’O(これらの式中、Mは1族、M’は2族に属する金属元素である。)で表されるものを例示できる。
長周期型周期表における1族又は2族に属する金属の過酸化物としては、一般式M’O2(これらの式中、Mは1族、M’は2族に属する金属元素である。)で表されるものを例示できる。
上記の酸化物及び過酸化物において、Mは、Na及びKからなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい。M’は、Mg、Ca、及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましく、Mg、及びCaからなる群から選ばれる少なくとも一種がより好ましく、Mgがさらに好ましい。
【0041】
長周期型周期表における1族又は2族に属する金属を含む複酸化物とは、一般式MO・mM’’O・xHO、M’O・mM’’O・xHO、MO・pM’’’・mM’’O・xHOまたはMO・pM’OmM’’’・nM’’O・xHO(これらの式中、Mは1族に属する金属元素、M’は2族に属する金属元素、M’’は4価の金属元素、M’’’は3価の金属元素、p,m,nは1以上の正数、xは0以上の正数)で表されるものを例示できる。
上記の複酸化物において、Mは、Kであることが好ましく、M’はMg、Ca、及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。この例としては、ウォラストナイト、アタパルジャイト、セリサイト、マイカ、チタン酸カリウム、チタン酸バリウムなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0042】
長周期型周期表における1族又は2族に属する金属を含む炭酸塩とは、一般式MCO、M’COまたはM’・M’’(CO(式中、Mは1族、M’およびM’’は2族に属する金属元素)で表されるものを例示できる。
上記の炭酸塩において、MはKであることが好ましく、M’およびM’’はMg、Ca、及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。この例としては、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、ドロマイトなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
また、長周期型周期表における1族又は2族に属する金属を含む炭酸塩として、層状複水酸化物を例示できる。層状複水酸化物としては、ハイドロタルサイトが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で、ハイドロタルサイトが好ましい。なお、ハイドロタルサイトは、式:
Mg1-yAl(OH)(COy/2・qH
[式中、0<y≦0.5、0≦qの数値を表す]
で表される。
ハイドロタルサイトは、天然物であっても、合成品であってもよく、またその結晶構造、結晶粒子径などを問わず使用することができる。
【0043】
長周期型周期表における1族又は2族に属する金属の酸化物、過酸化物、複酸化物及び炭酸化物として、それらの混合物または固溶物を使用してもよい。金属酸化物の混合物または固溶物の例としては、焼成ドロマイト(酸化カルシウム及び酸化マグネシウムを含む混合物)、焼成ハイドロタルサイト(酸化カルシウムと酸化アルミニウムの固溶物)等が挙げられる。市販されている例としては、例えば、焼成ドロマイト(吉澤石灰工業社製「KT」等)、酸化カルシウム(三共精粉社製「モイストップ#10」等)、酸化マグネシウム(協和化学工業社製「キョーワマグMF-150」、「キョーワマグMF-30」、タテホ化学工業社製「ピュアマグFNMG」等)、軽焼酸化マグネシウム(タテホ化学工業社製の「#500」、「#1000」、「#5000」等)、焼成ハイドロタルサイト(戸田工業社製「N41S」、協和化学工業社製「KW-2100」、「KW-2200」等)、半焼成ハイドロタルサイト(協和化学工業社製「DHT-4C」、「DHT-4A-2」等)等が挙げられる。
【0044】
(M)成分としては、酸性ガス(亜硫酸ガス)との中和の観点から、アルカリ性を示すものが好ましく、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、過酸化バリウム、ウォラストナイト、アタパルジャイト、セリサイト、マイカ、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、焼成ハイドロタルサイト等が好ましい。
【0045】
(M)成分は、1種が単独で含有されてもよく、2種類以上が組合せて含有されてもよい。
【0046】
上記に例示したもののうち、揮発性成分の高温環境下での放出をより効果的に低減可能であるとの観点から、(M)成分が、長周期型周期表における1族又は2族に属する金属の酸化物であることが好ましく、(M)成分が、酸化マグネシウムであることがより好ましい。
【0047】
前記(M)成分の含有量は、前記(P)成分100質量部に対して、0.5~15質量部であることが好ましく、0.5~10質量部であることが好ましく、0.7~10質量部であることが好ましく、1~10質量部であることが好ましく、1~7質量部であることがより好ましく、1~5質量部であることがさらに好ましく、1.5~4質量部であることが特に好ましい。上記で例示した(M)成分の含有量の数値範囲の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。
(M)成分を上記下限値以上で含む芳香族ポリスルホン組成物は、揮発性成分の高温環境下での放出をより効果的に低減可能である。また、(M)成分を上記上限値以下で含むことにより、芳香族ポリスルホン組成物の耐熱性が良好であり、(M)成分の添加による、芳香族ポリスルホン組成物の溶融粘度の増加が生じ難く、芳香族ポリスルホン組成物の品質を安定化させ易い。
【0048】
実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、前記(P)成分の還元粘度が0.36(dL/g)超0.50(dL/g)以下であり、(M)成分が酸化マグネシウムであるものが、芳香族ポリスルホン組成物の耐熱性と、揮発性成分の高温環境下での放出の低減とが、より一層良好に達成され特に好ましい。
【0049】
(他の成分)
本実施形態において芳香族ポリスルホン組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、(P)成分及び(M)成分のいずれにも該当しない、他の成分を含有してもよい。
【0050】
他の成分の例としては、充填材、添加剤、前記(P)成分以外の樹脂(以下、「その他の樹脂」ということがある。)等が挙げられる。
これら他の成分は、1種が単独で含有されもよいし、2種以上が含有されてもよい。
【0051】
充填材は、繊維状充填材や粒状充填材であってもよい。
また、充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。
【0052】
繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;及びステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
【0053】
ガラス繊維の例としては、チョップドガラス繊維、ミルドガラス繊維等、種々の方法で製造されたものが挙げられる。
【0054】
炭素繊維の例としては、ポリアクリロニトリルを原料とするパン系炭素繊維、石炭タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、ビスコースレーヨンや酢酸セルロース等を原料とするセルロース系炭素繊維、炭化水素等を原料とする気相成長系炭素繊維が挙げられる。炭素繊維は、チョップド炭素繊維であってもよいし、ミルド炭素繊維であってもよい。
【0055】
粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、窒化ホウ素、炭化ケイ素及び炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0056】
添加剤の例としては、計量安定剤、離型剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤及び着色剤が挙げられる。
【0057】
その他の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂等の液晶ポリマー以外の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0058】
≪芳香族ポリスルホン組成物の製造方法≫
本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、(P)成分、(M)成分及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括または適当な順序で混合することにより製造できる。
本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物の製造方法は、(P)成分と(M)成分とを混合する工程を有し、前記(P)成分の塩素(Cl)の含有量が、2000質量ppm以下である。
【0059】
(P)成分及び(M)成分としては、上記の≪芳香族ポリスルホン組成物≫において説明したものが挙げられる。
【0060】
前記(M)成分の使用量は、前記(P)成分100質量部に対して0.5~15質量部の割合で混合することが好ましく、0.5~10質量部の割合で混合することが好ましく、0.7~10質量部であることが好ましく、1~10質量部の割合で混合することが好ましく、1~7質量部の割合で混合することがより好ましく、1~5質量部の割合で混合することがさらに好ましく、1.5~4質量部の割合で混合することが特に好ましい。上記で例示した(M)成分の含有量の数値範囲の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。
(M)成分を上記下限値以上の割合で混合して得られた芳香族ポリスルホン組成物は、揮発性成分の高温環境下での放出をより効果的に低減可能である。また、(M)成分を上記上限値以下の割合で混合して得られた芳香族ポリスルホン組成物では、芳香族ポリスルホン組成物の耐熱性が良好であり、(M)成分の添加による溶融粘度の増加が生じ難く、芳香族ポリスルホン組成物の品質を安定化させ易い。
【0061】
前記混合としては、溶融混練が好ましい。本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、(P)成分、(M)成分および必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練することで、ペレット化したものとして提供可能である。
【0062】
≪成形体≫
実施形態の成形体は、芳香族ポリスルホン組成物より成形されたものである。
実施形態の成形体は、実施形態の芳香族ポリスルホン組成物を成形材料として作製することができる。
【0063】
成形体の製造方法として、実施形態の芳香族ポリスルホン組成物を所望の形状に成形する工程を有する方法が挙げられる。
【0064】
当該成形方法としては、溶融成形が好ましく、押し出し成形、T-ダイ成形、ブロー成形、射出成形等を例示でき、部材の形状等に応じた成形方法を選択して、芳香族ポリスルホン組成物を種々の形状に成形することができる。
【0065】
本実施形態の成形体は、上述の樹脂組成物を形成材料とする射出成形体であることが好ましい。
射出成形品は、上記芳香族ポリスルホン組成物を、例えば、金型温度を120~180℃で、樹脂の溶融温度を330~400℃で、一般的な射出成形機を用いて射出成形して製造することができる。実施形態の成形体は、芳香族ポリスルホン組成物を形成材料として用いているので、優れた耐熱特性を有し、(M)成分の添加による溶融粘度の増加が生じ難いものとすることができる。
【0066】
<ランプ部材>
上記実施形態の成形体は、種々の製品として提供することができ、そのなかでも耐熱性に優れ、曇り発生が低減されるとの観点から、ランプ部材として好適である。実施形態のランプ部材は、上記芳香族ポリスルホン組成物より成形された、上記芳香族ポリスルホン組成物の成形体であってよい。
すなわち、上記実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、ランプ部材の成形材料として好適に用いられるランプ部材用樹脂組成物として、提供可能である。
【0067】
ランプ部材の製造方法として、実施形態のランプ部材用樹脂組成物をランプ部材に対応する形状に成形する工程を有する方法が挙げられる。
なお、ランプ部材に対応する形状とは、ランプ部材の形状のほか、ランプ部材を構成する部分の一部の形状、ランプ部材又はその一部又に任意の構造が付加された形状を指す。
【0068】
実施形態のランプ部材を備えるランプとしては、点灯時に光及び熱を発する光源と、その光源を囲うランプ部材と、を備えたものを例示できる。
【0069】
上記光源の種類としては、例えば、発光ダイオード(LED)、ハロゲンランプ、HIDランプ等が挙げられる。
【0070】
実施形態のランプ部材を備えるランプとしては、例えば、自動車や、バイク、自転車、電車等の車両に搭載されて、使用可能である。ランプの種類としては、例えばヘッドランプが挙げられる。
現行のヘッドランプは、プロジェクタータイプとリフレクタータイプの2種類に大別され、実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、どちらのタイプにも適用可能である。
【0071】
例えば、上記構成を備えるプロジェクタータイプのランプとしては、図1に示すように、光源12と、ランプ部材3と、を備えるランプ1を例示できる。ランプ部材3としては、光源から発せられた光を集光させるレンズ14、光源12から発せられた光を反射するリフレクタ10、及びレンズ14を固定するレンズホルダー20を例示できる。
【0072】
実施形態のランプ部材は、さらに、光源、リフレクタ、レンズ等を収容するハウジングや、レンズ前面を覆い光源から発せられた光を透過させるレンズカバー等を有していてもよい。
【0073】
上記ランプ部材は、実施形態の芳香族ポリスルホン組成物を成形材料として作製することができる。樹脂組成物の成形体をランプ部材として適用したランプは、使用後にランプに曇りが生じる場合があり、これは、高温環境下でランプ部材から放出された揮発性成分に由来するものと考えられ、レンズやレンズカバーに曇りの原因となる物質が付着したものと推定される。レンズやレンズカバーは、光の透過を高めるため、透明樹脂素材やガラスなどの曇りが目立ちやすい材料から構成されることが多く、特にソーダ成分を含むガラス製のレンズは、特に曇りやすい傾向にある。
実施形態の芳香族ポリスルホン組成物から成形されたランプ部材は、優れた耐熱特性を有し、ランプの曇り発生の要因となり難いため、点灯時に光及び熱を発する光源を囲う部材として好適である。
【0074】
実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、(M)成分:長周期型周期表における1族又は2族に属する金属の酸化物、過酸化物、複酸化物及び炭酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含有することで、ランプの曇りの低減効果が発揮される。
【0075】
芳香族ポリスルホン組成物における揮発性成分の高温環境下での放出の低減効果は、例えば、ランプを模した試験装置を用いて確認することができ、光源を収める筐体の空間容積を想定した容器中に、芳香族ポリスルホン組成物の硬化物を収容した後、容器内を加熱して、加熱前後で容器内部に付着した成分量の比較結果や、実際の曇りの程度の比較結果を取得することができる。そして、前記(P)成分を含む樹脂組成物に比べ、該樹脂組成物にさらに(M)成分を添加して得られた実施形態に係る樹脂組成物のほうで、加熱後に容器内部に付着した成分量が低減されていること、曇りの程度が低い場合、又は曇りの発生までの加熱時間が短い場合などで、揮発性成分の高温環境下での放出の低減効果が奏されたと判断できる。
【0076】
(M)成分による、揮発性成分の高温環境下での放出低減効果が発揮されるメカニズムは、以下のように推察される。芳香族ポリスルホン組成物に含まれる(P)成分が加熱されると亜硫酸(SO)ガスが発生すると考えられる。ここに上記(M)成分を添加することで、(M)成分が亜硫酸ガスと反応し、亜硫酸ガスの発生を抑制できると考えられる。
【0077】
以上、説明したとおり、従来の芳香族ポリスルホン組成物では、(M)成分を含むことにより、該組成物から成形された成形体の揮発性成分の高温環境下での放出を低減することができるなどの利点があるが、(M)成分の添加による溶融粘度の増加が生じ、組成物の品質を安定化させ難い場合があった。
一方、実施形態の芳香族ポリスルホン組成物によれば、塩素(Cl)の含有量が2000質量ppm以下とすることで、(M)成分の添加による溶融粘度の増加を生じ難いものとできる。
また、実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、(P)成分を含むことにより、実施形態の芳香族ポリスルホンから成形された成形体は、優れた耐熱特性を発揮する。
さらに、(M)成分が、酸化マグネシウムであることで、揮発性成分の高温環境下での放出の低減効果が、さらに高められるとともに、溶融粘度に係る上記特性が更に安定化される。
このように、実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、樹脂成形体の成形に用いられる組成物として、大変に優れた特性を有するものである。
【実施例
【0078】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
≪評価≫
<芳香族ポリスルホンおよび芳香族ポリスルホン組成物における塩素原子の含有量の測定>
芳香族ポリスルホンの試料(約5~20g)を燃焼装置(株式会社三菱化学アナリテック製の「AQF-100」)で燃焼させ、発生ガスを吸収液で捕集した。この吸収液を供試験液とし、イオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス株式会社製の「ICS-2000」またはサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製の「Integrion」)にて吸収液中の塩素量を定量した。塩素量の測定値から燃焼させた芳香族ポリスルホンの質量に基づいて芳香族ポリスルホンの単位質量(1kg)あたりの塩素原子の含有量(mg)を算出した。
また、上記試料として、芳香族ポリスルホンに代えて芳香族ポリスルホン組成物を用い、同様の方法により芳香族ポリスルホン組成物の単位質量(1kg)あたりの塩素原子の含有量(mg)を算出した。
【0080】
<芳香族ポリスルホン組成物の見かけ溶融粘度の測定>
芳香族ポリスルホン組成物の溶融粘度として、キャピラリーレオメーターを用いて測定された、380℃における溶融粘度を測定した。キャピラリーは1.0mmΦ×10mmを用い、150℃で4時間乾燥させた芳香族ポリスルホン組成物のペレット20gを380℃に設定したシリンダーに入れ、ISO 11443に準拠し、せん断速度12000s-1における溶融粘度を測定した。
【0081】
≪芳香族ポリスルホン組成物の製造≫
[製造例1]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン100.1g、ビス(4-クロロフェニル)スルホン119.0g、4-フェニルフェノール2.1g、ジフェニルスルホン194.3gを入れた。この混合溶液に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温し、さらに炭酸カリウム57.5gを添加した。この溶液を290℃まで徐々に昇温し、290℃で4時間反応させた。次いで、得られた反応混合溶液を、室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水および、アセトンとメタノールとの混合溶媒を用いて、デカンテーションおよびろ過することで数回洗浄した。得られた固体を、150℃で加熱乾燥させることで、製造例1の芳香族ポリスルホン(ポリエーテルスルホン(PES))を得た。得られた芳香族ポリスルホンの還元粘度は0.42dL/g、Cl量は1500ppmであった。
【0082】
[製造例2]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン100.1g、ビス(4-クロロフェニル)スルホン119.0g、ジフェニルスルホン194.3gを入れた。この混合溶液に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温し、さらに炭酸カリウム57.5gを添加した。この溶液を290℃まで徐々に昇温し、290℃で4時間反応させた。次いで、得られた反応混合溶液を、室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水および、アセトンとメタノールとの混合溶媒を用いて、デカンテーションおよびろ過することで数回洗浄した。得られた固体を、150℃で加熱乾燥させることで、製造例2の芳香族ポリスルホン(ポリエーテルスルホン(PES))を得た。得られた芳香族ポリスルホンの還元粘度は0.41dL/g、Cl量は4500ppmであった。
【0083】
(実施例1)
(P)成分として、製造例1の芳香族ポリスルホン100質量部と、(M)成分として酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製 キョーワマグ150,MgOの含有割合が97.9質量%)1質量部とを混合後、二軸押出機(PCM-30、株式会社池貝鉄工製)を用いて溶融混練することにより、芳香族ポリスルホン組成物のペレットを製造した。溶融混練条件としては、二軸押出機のシリンダー設定温度を340℃とし、スクリュー回転速度を150rpmとした。
【0084】
(参考例1、実施例2~9)
実施例1において、金属酸化物の種類及びその配合量を表1に記載のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、芳香族ポリスルホン組成物のペレットを製造した。
酸化カルシウムは、井上石灰工業株式会社製(VESTA-PP)を用いた。
焼成ハイドロタルサイトは、協和化学工業株式会社製(KW-2200)を用いた。
ウォラストナイトは、IMERYS社製(NYGLOS 8)を用いた。
マイカは、ヤマグチマイカ社製(AB-25S)を用いた。
実施例8~9の酸化マグネシウムは、協和化学工業株式会社製(キョーワマグMF-150,MgOの含有割合が99.4質量%)を用いた。
【0085】
(参考例4、比較例3~7)
製造例1の芳香族ポリスルホンに代えて、製造例2の芳香族ポリスルホンを用い、金属酸化物の種類及びその配合量を表1に記載のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、芳香族ポリスルホン組成物のペレットを製造した。
【0086】
(参考例2~3、比較例1~2)
製造例1の及び製造例2の芳香族ポリスルホンを適宜混合して、(P)成分中のCl量を調整し、金属酸化物の種類及びその配合量を表1に記載のとおりとした以外は、実施例1と同様にして、芳香族ポリスルホン組成物のペレットを製造した。
【0087】
製造された各芳香族ポリスルホン組成物と、各芳香族ポリスルホン組成物において(M)成分が添加されていないものとについて、上記のとおり溶融粘度を測定し、下記粘度増加率を求めた。結果を表1に示す。
【0088】
粘度増加率(%)=(A-B)/B×100
A:PES組成物の溶融粘度
B:該PES組成物において(M)成分が未添加のもの(PESのみ)の溶融粘度
【0089】
【表1】
【0090】
表1を参照すると、組成物中の塩素(Cl)の含有量が2000質量ppm以下である、実施例1~9の芳香族ポリスルホン組成物は、組成物中の塩素(Cl)の含有量が2000質量ppmを超える比較例1~7の芳香族ポリスルホン組成物に比べ、(M)成分添加による溶融粘度の増加が生じない又は生じ難い、有用なものであった。
【0091】
また、表1の実施例3と比較例1と比較例2と比較例4とを参照すると、粘度増加率と、組成物中の塩素(Cl)の含有量とに明らかな相関があり、塩素の含有量が少ないほど、粘度増加率の値が小さいことが分かる。
【0092】
なお、比較例3~7の結果から、組成物中の塩素(Cl)の含有量が多い場合に明らかなように、(M)成分としてMgOを用いたほうが、(M)成分添加による溶融粘度の増加が生じ難いことがわかる。
【0093】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0094】
1…ランプ、3…ランプ部材、10…リフレクタ、12…光源、14…レンズ、20…レンズホルダー
図1