(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム照射方法および荷電粒子ビーム照射装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20250310BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20250310BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
H01L21/30 541D
H01J37/305 B
G03F7/20 504
(21)【出願番号】P 2022003788
(22)【出願日】2022-01-13
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 涼太
(72)【発明者】
【氏名】松井 秀樹
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-326170(JP,A)
【文献】特開2016-166924(JP,A)
【文献】特開2019-079858(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0122858(US,A1)
【文献】特開2010-177579(JP,A)
【文献】実開平04-127641(JP,U)
【文献】特開2003-022957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム照射装置に設けられ、XY方向に移動可能なステージに描画対象を載置し、前記描画対象への荷電粒子ビームの照射位置
のドリフト補正
を行うために、
所定のタイミングで前記ステージに設けられたマークの位置変動量を測定
するとともに、前記ステージの回転変動量を測定し
、
前記回転変動量
、および前記荷電粒子ビーム照射装置毎に予め求められた前記回転変動量と前記位置変動量との相関関係に基づき
位置補正値を求め、
測定された前記マークの位置変動量と、前記
位置補正値に
基づき前記荷電粒子ビームの照射位置を補正して描画する、ことを備える荷電粒子ビーム照射方法。
【請求項2】
前記回転変動量が閾値以上である場合に
、前記位置補正値を求める、請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射方法。
【請求項3】
前記回転変動量は、前記ステージのヨーイング量の変動量、ピッチング量の変動量およびローリング量の変動量の少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の荷電粒子ビーム照射方法。
【請求項4】
照射対象を載置し、XY方向に移動可能なステージと、
前記ステージに設けられたマークと、
前記照射対象への荷電粒子ビームの照射位置のドリフト補正を行うために、所定のタイミングで、前記マークの位置変動量を測定する第1測定部と、
前記所定のタイミングで、前記ステージの回転変動量を測定する第2測定部と
、
前記回転変動量
、および前記荷電粒子ビーム照射装置毎に予め求められた前記回転変動量と前記位置変動量との相関係数に基づ
き位置補正値を求め、
測定された前記マークの位置変動量と、前記位置補正値に基づき前記荷電粒子ビームの照射位置を補正する補正部と、
を備える荷電粒子ビーム照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム照射方法および荷電粒子ビーム照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ステージ上の試料に電子ビームを照射して試料にパターンを描画する電子ビーム描画装置では、描画中に電子ビームの照射位置が所望の位置からずれるドリフトが生じることがあった。例えば、試料に電子ビームが照射されると反射電子が発生する。発生した反射電子は、電子ビーム描画装置内の光学系や検出器などに衝突してチャージアップを生じさせる。チャージアップによって新たな電界が発生し、発生した電界は、試料に向けて照射されている電子ビームの軌道を変化させる。このように、チャージアップによるビーム軌道の変化が電子ビームのドリフトの一因となる。ドリフトを補正するため、電子ビーム描画装置においては、ステージ上に設けられたマークに電子ビームを照射し、マークで反射された電子ビームの検出結果に基づいてドリフト量を算出し、算出されたドリフト量に基づいて電子ビームの照射位置を補正していた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の電子ビーム描画装置においては、マークの位置に外的要因で誤差が発生した場合に、電子ビームの照射位置を高精度で補正することが困難であった。外的要因としては、各装置における組み方、測定マークの接着、板バネの固定状態等に起因する歪・熱によるステージ姿勢の変動(回転変動)が考えられる。
【0005】
本発明の目的は、荷電粒子ビームの照射位置を適切に補正することができる荷電粒子ビーム照射方法および荷電粒子ビーム照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様である荷電粒子ビーム照射方法は、
荷電粒子ビーム照射装置に設けられ、XY方向に移動可能なステージに描画対象を載置し、前記描画対象への荷電粒子ビームの照射位置を補正するために、前記ステージに設けられたマークの位置変動量を測定し、
前記ステージの回転変動量を測定し、
前記マークの位置変動量および前記回転変動量に基づき補正値を求め、
前記補正値によって前記荷電粒子ビームの照射位置を補正して描画する、ことを備える。
【0007】
上述の荷電粒子ビーム照射方法において、
前記回転変動量が閾値以上である場合に、前記マークの位置変動量および前記回転変動量に基づき補正値を求めてもよい。
【0008】
上述の荷電粒子ビーム照射方法において、前記回転変動量は、前記ステージのヨーイング量の変動量、ピッチング量の変動量およびローリング量の変動量の少なくとも1つを含んでもよい。
【0009】
上述の荷電粒子ビーム照射方法において、予め前記荷電粒子ビーム照射装置における前記位置変動量に対する前記回転変動量の感度を求め、前記感度に基づき前記補正値が求められてもよい。
【0010】
本発明の一態様である荷電粒子ビーム照射装置は、
照射対象を載置し、XY方向に移動可能なステージと、
前記ステージに設けられたマークと、
前記マークの位置変動量を測定する第1測定部と、
前記ステージの回転変動量を測定する第2測定部と、
前記位置変動量および前記回転変動量に基づく補正値を求め、前記荷電粒子ビームの照射位置を補正する補正部と、
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、荷電粒子ビームの照射位置を適切に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態による電子ビーム描画方法に適用可能な電子ビーム描画装置を示す図である。
【
図2】電子ビーム描画装置に設けられたドリフト補正用のマークを示す斜視図である。
【
図3】本実施形態による電子ビーム描画方法を示すフローチャートである。
【
図4】本実施形態による電子ビーム描画方法において、事前作業工程におけるマークの測定位置およびXYステージの姿勢のトレンドデータの取得作業を説明するための説明図である。
【
図5】本実施形態による電子ビーム描画方法において、事前作業工程における電子ビーム描画装置の選択作業を説明するための説明図である。
【
図6】本実施形態による電子ビーム描画方法において、事前作業工程における感度の算出作業を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。実施形態は、本発明を限定するものではない。例えば、以下の実施形態では、荷電粒子ビームの一例として電子ビームを用いた構成について説明するが、荷電粒子ビームは電子ビームに限られるものではなく、イオンビーム等の電子ビーム以外の荷電粒子を用いたビームであっても良い。
【0014】
図1は、本実施形態による電子ビーム描画方法に適用可能な電子ビーム描画装置1を示すブロック図である。電子ビーム描画方法は、荷電粒子ビーム照射方法の一例である。電子ビーム描画装置1は、荷電粒子ビーム照射装置の一例である。
【0015】
図1に示すように、電子ビーム描画装置1は、大別して、描画部2と制御部3とを備える。
【0016】
描画部2は、電子鏡筒4と描画室6を備える。電子鏡筒4内には、電子ビーム200の進行方向に向かって順に、電子ビームの照射源である電子銃41と、照明レンズ42と、ブランキング偏向器43と、ブランキングアパーチャ44と、第1のアパーチャ45と、第1の偏向器46と、投影レンズ47と、第2のアパーチャ48と、第2の偏向器49と、対物レンズ410とが配置されている。電子鏡筒4および描画室6の内部は、図示しない真空ポンプにより排気され、大気圧よりも低い圧力の真空雰囲気となる。
【0017】
描画室6の中には、XYステージ61および検出器62が配置されている。XYステージ61上には、描画対象となる試料63が配置される。試料63には、半導体装置を製造する際の露光用レチクルや、半導体装置が製造される例えばシリコンウェハ等の半導体基板が含まれてもよい。また、試料63には、レジストが塗布されたまだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれてもよい。
【0018】
XYステージ61上には、ドリフト補正用のマーク64が設けられている。検出器62は、マーク64に照射されて反射された電子ビーム200を検出する。検出された電子ビーム200は、後述するドリフト補正に用いられる。マーク64は、例えば、板バネを介してXYステージ61の上面に固定されている。マーク64は、例えば、重金属の膜で構成されている。マーク64は、電子ビーム200の入射に応じて反射電子を放出できるのであれば、重金属以外の材質であってもよい。
図2には、一例として1つのマーク64が例示されているが、マーク64は複数設けられていてもよい。その場合、複数のマーク64は、X方向またはY方向もしくはこれらの双方に間隔を空けて設けられていてもよい。
【0019】
また、XYステージ61上には、XYステージ61の位置測定用のミラー65が配置されている。
図2に概念図を示すように、ミラー65は、X方向に向いた反射面を有するXミラー651と、Y方向に向いた反射面を有するYミラー652とを有する。これらXミラー651、Yミラー652に対して、それぞれX方向のレーザL1X,L2X,L3X、Y方向のレーザL1Y,L2Y,L3Yを照射し、XYステージ61の位置、姿勢の測定が行われる。
【0020】
制御部3は、制御計算機31と、偏向制御回路32と、デジタルアナログ変換機(以下、DACと称する)33,34,35と、検出アンプ36と、ステージ位置検出器37と、記憶装置38と、駆動回路39とを有する。偏向制御回路32、検出アンプ36、ステージ位置検出器37、記憶装置38、および駆動回路39は、バスを介して制御計算機31に接続されている。検出アンプ36は、検出器62にも接続されている。記憶装置38には、パターンの描画に用いられる描画データが外部から入力されて格納されている。DAC33は、ブランキング偏向器43と偏向制御回路32との間に接続されている。DAC34は、第1の偏向器46と偏向制御回路32との間に接続されている。DAC35は、第2の偏向器49と偏向制御回路32との間に接続されている。
【0021】
制御計算機31は、マーク64からの反射電子ビームを用いたドリフト補正を実施するための構成部として、第1測定部311と、第2測定部312と、判定部314と、補正部315とを有する。制御計算機31の構成部311~315は、例えば、コンピュータなどのハードウェアで構成される。制御計算機31の構成部311~315の少なくとも一部をソフトウェアで構成してもよい。
【0022】
以上の構成を有する電子ビーム描画装置1は、電子銃41から電子ビーム200を放出する。放出された電子ビーム200は、照明レンズ42によって矩形の穴を持つ第1のアパーチャ45全体を照明する。第1のアパーチャ45は、一部の電子ビーム200を通過させることで電子ビーム200を矩形に成形する。ここで、試料63上に必要以上に電子ビーム200が照射されないようにするため、ブランキング偏向器43は、電子ビーム200に偏向電圧を印加することで電子ビーム200を偏向する。偏向された電子ビーム200は、ブランキングアパーチャ44でカットされて試料63に到達しない。ブランキング偏向器43の偏向電圧は、偏向制御回路32およびDAC33によって制御される。ビームON(ブランキングOFF)の場合、電子銃41から放出された電子ビーム200は、
図1における実線で示す軌道を進むことになる。一方、ビームOFF(ブランキングON)の場合、電子銃41から出た電子ビーム200は、
図1における点線で示す軌道を進むことになる。
【0023】
第1のアパーチャ45を通過した電子ビーム200は、投影レンズ47によって第2のアパーチャ48上に投影される。このとき、第1の偏向器46は、電子ビーム200に偏向電圧を印加することで、電子ビーム200を偏向する。第1の偏向器46による電子ビーム200の偏向によって、第2のアパーチャ48上への電子ビーム200の投影位置が制御される。第1の偏向器46の偏向電圧は、偏向制御回路32およびDAC34によって制御される。第2のアパーチャ48上への投影位置に応じた一部の電子ビーム200が第2のアパーチャ48を通過することで、電子ビーム200の形状および寸法が変化する。この結果、電子ビーム200が成形される。
【0024】
第2のアパーチャ48を通過した電子ビーム200は、対物レンズ410によって試料63に合焦され、第2の偏向器49によって偏向される。この結果、連続移動するXYステージ61上の試料63の所望する位置に電子ビーム200が照射されてパターンが描画される。XYステージ61は、駆動回路39によって駆動される。
【0025】
次に、電子ビーム描画装置1を適用した電子ビーム描画方法について説明する。
図3は、本実施形態による電子ビーム描画方法を示すフローチャートである。先ず、
図3に示すように、ドリフト補正の事前作業工程を実施する(ステップS1)。
【0026】
事前作業工程においては、先ず、
図4に示すように、描画中に、マーク64の測定位置と、マーク64の位置精度に影響する各電子ビーム描画装置1固有のXYステージ61の姿勢(回転量)とのトレンドデータを取得しておく。トレンドデータは、電子ビーム描画装置1のそれぞれについて取得する。
図4に示される例において、トレンドデータは、X方向側のトレンドデータと、Y方向側のトレンドデータとを有する。X方向側のトレンドデータは、測定時刻(すなわち、時間)を横軸とし、マーク64の測定位置のX座標MkX[nm]と、XYステージ61の姿勢の一例であるX方向側のヨーイング量YawX[μrad]およびピッチング量PitchX[μrad]とを縦軸としている。Y方向側のトレンドデータは、測定時刻を横軸とし、マーク64の測定位置のY座標MkY[nm]と、XYステージ61のY方向側のヨーイング量YawY[μrad]およびピッチング量PitchY[μrad]とを縦軸としている。X方向側のヨーイング量YawXは、Z軸回りのXYステージ61の回転量である。Y方向側のヨーイング量YawYは、Z軸回りのXYステージ61の回転量である。X方向側のピッチング量PitchXは、Y軸回りのXYステージ61の回転量である。Y方向側のピッチング量PitchYは、X軸回りのXYステージ61の回転量である。なお、XYステージの姿勢としては、これらヨーイング量、ピッチング量の他、ローリング量を含んでもよく、これらのうち少なくともいずれかを含んでいればよい。
【0027】
トレンドデータの取得作業において、マーク64の位置は、マーク64に電子ビーム200が照射される位置までXYステージ61を駆動したうえで、マーク64に照射されて反射された電子ビーム200を検出器62で検出することで測定される。より具体的には、制御計算機31は、ステージ位置検出器37に、ミラー65に照射して反射されたレーザの検出結果に基づいてXYステージ61の位置(X座標、Y座標)、姿勢(Yaw、Pitch)を測定させながら、検出器62で検出された後に検出アンプ36で増幅されてデジタルデータに変換された電子ビーム200の検出結果を取得する。
制御計算機31は、電子ビーム200の検出結果から、マーク64の測定位置(MkX、MkY)、XYステージのヨーイング量(YawX、YawY)、ピッチング量(PitchX、PitchY)を算出する。制御計算機31は、同じ電子ビーム描画装置1において、1回の(1枚のマスクに対する)描画動作について1データとして、マーク64の位置測定を繰り返すことで、電子ビーム描画装置1のトレンドデータを取得する。なお、ステージ位置検出器37は、例えば、
図2に示すように、Xミラー651に照射して反射された3本のレーザL1X,L2X,L3Xの検出所要時間の平均値に基づいてXYステージ61のX座標を算出することができる。レーザL1XとレーザL2XとはY方向に間隔を有している。レーザL1XとレーザL3XとはZ方向に間隔を有している。また、ステージ位置検出器37は、Yミラー652に照射して反射された3本のレーザL1Y,L2Y,L3Yの検出所要時間の平均値に基づいてXYステージ61のY座標を算出することができる。レーザL1YとレーザL2YとはX方向に間隔を有している。レーザL1YとレーザL3YとはZ方向に間隔を有している。
【0028】
トレンドデータの取得作業において、YawXは、例えば、ステージ位置検出器37が、Xミラー651に照射して反射された2本のレーザL1X,L2Xの検出所要時間の差分に基づいて算出することができる。YawYは、例えば、ステージ位置検出器37が、Yミラー652に照射して反射された2本のレーザL1Y,L2Yの検出所要時間の差分に基づいて算出することができる。PitchXは、例えば、ステージ位置検出器37が、Xミラー651に照射して反射された2本のレーザL1X,L3Xの検出所要時間の差分に基づいて算出することができる。PitchYは、例えば、ステージ位置検出器37が、Yミラー652に照射して反射された2本のレーザL1Y,L3Yの検出所要時間の差分に基づいて算出することができる。
【0029】
このようにして得られたトレンドデータに基づき、電子ビーム描画装置1毎に、マーク64の位置変動量と電子ビーム描画装置1に依存するXYステージ61の回転変動量との相関係数(以下、単に相関係数ともいう)を求める。相関係数とは、マーク64の位置変動量とXYステージ61の回転変動量との間の線形な関係の強弱を測る指標となる数である。具体的には、相関係数は、マーク64の位置変動量とXYステージ61の回転変動量との共分散を、マーク64の位置変動量の標準偏差とXYステージ61の回転変動量の標準偏差との積で割った値である。
【0030】
マーク64の位置変動量は、ある測定時刻とその直前の測定時刻に測定されたマーク64のX座標の変動量ΔMkXと、Y座標の変動量ΔMkYとを含む。
【0031】
XYステージ61の回転変動量は、ある測定時刻とその直前の測定時刻に測定されたYawXの変動量ΔYawXと、YawYの変動量ΔYawYと、PitchXの変動量ΔPitchXと、PitchYの変動量ΔPitchYとを含む。
【0032】
相関係数は、ΔMkXとYawXの変動量ΔYawXとの間の相関係数と、ΔMkYとYawYの変動量ΔYawYとの間の相関係数と、ΔMkXとPitchXの変動量ΔPitchXとの相関係数と、ΔMkYとPitchYの変動量ΔPitchYとの相関係数とを含む。
【0033】
相関係数は、電子ビーム描画装置1毎に算出される。算出された各電子ビーム描画装置1の相関係数は、比較可能な状態で表示装置に表示されてもよい。
図5は、本実施形態による電子ビーム描画方法を適用する電子ビーム描画装置1を説明するための図である。なお、
図5に示される相関関数は、ΔMkXとYawの変動量ΔYawとの間の相関係数である。他の相関関数についても、
図5と同様のグラフを定義することができる。相関係数の絶対値が閾値以上場合、すなわち、
図5において、相関係数の絶対値が閾値TH以上となる装置Aと、装置装置Bに対して本実施形態のドリフト補正を適用することができる。
【0034】
次いで、事前作業工程では、電子ビームの照射を行う電子ビーム描画装置1について、マーク64の位置変動量に対するXYステージ61の回転変動量の一次関数の傾きである感度を算出する工程を実施する。感度は、ΔMkXに対するΔYawXの感度と、ΔMkYに対するΔYawYの感度と、ΔMkXとΔPitchXの感度と、ΔMkYに対するΔPitchの感度とを含む。
【0035】
感度の算出は、例えば制御計算機31に設けられた算出部313或いは装置外部に設けられた計算機で実施する。
図6は、本実施形態による電子ビーム描画方法において、事前作業工程における感度の算出作業を説明するための説明図である。
図6は、ΔMkXを縦軸yとし、YawXの変動量ΔYawXを横軸xとしたグラフを示す。
図6では、横軸xと縦軸yとの間にy=ax+bの一次関数が成立する。この場合、算出される感度は一次関数の傾きであるa[nm/μrad]である。なお、
図6に示される感度は、ΔMkXに対するΔYawXの感度であるが、他の感度も同様に定義することができる。
【0036】
事前作業工程の後、
図3に示すように描画を開始する。描画を開始した後、ドリフト補正を実施すべき所定のタイミングで描画を一時停止する(ステップS2)。
【0037】
次いで、制御計算機31の第1測定部311は、マーク64の位置の測定を開始する(ステップS3)。具体的には、第1測定部311は、マーク64に電子ビームが照射されるように駆動回路39によってXYステージ61を駆動し、マーク64に照射されて反射された電子ビーム200を検出器62で検出させる。そして、第1測定部311は、検出アンプ36を経由して検出器62から電子ビーム200の検出結果を取得する。また、第1測定部311は、ステージ位置検出器37から継続的にXYステージ61の位置を取得する。そして、第1測定部311は、電子ビーム200の検出結果が取得されたときに検出されたXYステージ61の位置から、マーク64の位置(すなわち、X座標およびY座標)を算出する。
【0038】
マーク64の位置の測定が開始されたとき、制御計算機31の第2測定部312は、XYステージ61の回転量の測定を開始する。
図3に示される例において、第2測定部312は、Yaw(YawXおよびYawY)とPitch(PitchXおよびPitchY)の測定を開始する(ステップS4)。
【0039】
次いで、第2測定部312は、測定されたXYステージ61の回転変動量を算出する。
図3に示される例において、第2測定部312は、Yawの変動量(ΔYawXおよびΔYawY)と、Pitchの変動量(ΔPitchXおよびΔPitchY)とを算出する(ステップS5)。また、第1測定部311は、算出されたマーク64の位置に基づいて、マーク64の位置変動量(ΔMkXおよびΔMkY)を算出する。
【0040】
次いで、制御計算機31の判定部314は、算出されたXYステージ61の回転変動量が閾値以上であるか否かを判定する。
図3に示される例において、判定部314は、Yawの変動量(ΔYawX、ΔYawY)およびPitchの変動量(ΔPitchX、ΔPitchY)が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS6)。
【0041】
算出されたXYステージ61の回転変動量が閾値以上である場合(ステップS6:Yes)、制御計算機31の補正部315は、マーク64の位置変動量および算出されたXYステージ61の回転変動量に基づく補正値によって、電子ビームの照射位置を補正してドリフト補正を行う(ステップS7)。
図3に示される例において、補正部315は、以下の数式(1)および(2)にしたがってドリフト補正を行う。
補正値X’=ΔMkX-(YawX感度×ΔYawX+PitchX感度×ΔPitchX) (1)
補正値Y’=ΔMkY-(YawY感度×ΔYawY+PitchY感度×ΔPitchY) (2)
【0042】
補正値X’は、電子ビームのX方向の照射位置の補正値である。補正値Y’は、電子ビームのY方向の照射位置の補正値である。なお、各感度は上述したように予め位置変動量と回転変動量との相関から求められる。
【0043】
なお、4つの変動量ΔYawX,ΔYawY,ΔPitchX,ΔPitchYのうちの一部の変動量が閾値未満となる場合、数式(1)および(2)において、閾値未満となる変動量をゼロとしてもよい。
【0044】
一方、算出されたXYステージ61の回転変動量が全て閾値変動量未満である場合(ステップS6:Yes)、補正部315は、従来のドリフト補正にしたがって電子ビーム200の照射位置を補正する(ステップS8)。この場合、補正部315は、補正値X’としてΔMkXを使用し、補正値Y’としてΔMkYを使用することができる。
【0045】
電子ビーム200の照射位置を補正した後、描画を再開する(ステップS9)。
【0046】
本実施形態によれば、マーク64の位置を測定し、マーク64の位置精度に影響する電子ビーム描画装置1に固有のXYステージ61の回転変動量を測定し、回転変動量が閾値変動量以上であるか否かを判定する。そして、閾値変動量以上である場合に、マーク64の位置変動量および算出された回転変動量に基づく補正値によって電子ビームの照射位置を補正する。
【0047】
これにより、各装置における組み方、測定マークの接着、板バネの固定状態等に起因する歪・熱などによるステージ姿勢の変動(回転変動)といった装置固有の外的要因でマーク64の位置に誤差が発生した場合においても、電子ビームの照射位置を適切に補正することができる。
【0048】
上述の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0049】
1 電子ビーム描画装置、64 マーク、200 電子ビーム、311 第1測定部、312 第2測定部、313 算出部、314 判定部、315 補正部