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7646887次亜塩素酸イオン、及びpH緩衝剤を含む半導体ウェハの処理液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-07
(45)【発行日】2025-03-17
(54)【発明の名称】次亜塩素酸イオン、及びpH緩衝剤を含む半導体ウェハの処理液
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20250310BHJP
【FI】
H01L21/308 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024000687
(22)【出願日】2024-01-05
(62)【分割の表示】P 2020572318の分割
【原出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2024024074
(43)【公開日】2024-02-21
【審査請求日】2024-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2019024016
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 享史
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由樹
(72)【発明者】
【氏名】根岸 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】東野 誠司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伴光
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0124082(US,A1)
【文献】特表2009-514219(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140246(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/074601(WO,A1)
【文献】特表2009-530853(JP,A)
【文献】特表2008-547202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(B)及び(C)を含む、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤であって、
(B)pH緩衝剤
(C)下記式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオン
【化1】

(式中、R、R、R及びRは独立して、炭素数1~20のアルキル基である。)
前記ルテニウム含有ガスの発生抑制剤が、ルテニウム含有ガスの発生を抑制する対象となる液に添加された際の混合液において、前記(B)pH緩衝剤の濃度が、前記混合液の全質量の0.0001~10%であり、
前記混合液のpHが10を超え13未満である、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
【請求項2】
さらに、(A)次亜塩素酸イオンを含む、請求項1に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
【請求項3】
前記(C)テトラアルキルアンモニウムイオンの濃度が、0.0001~50質量%である請求項1又は2に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
【請求項4】
前記式(1)におけるR、R、R及びRは同一の炭素数1~3のアルキル基である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤を用いる、ルテニウム含有ガスの発生を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造工程において使用される、半導体ウェハ上に存在するルテニウムをエッチングするための新規な処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子のデザインルールの微細化が進んでおり、配線抵抗が増大する傾向にある。配線抵抗が増大した結果、半導体素子の高速動作が阻害されることが顕著になっており、対策が必要となっている。そこで、配線材料としては、従来の配線材料よりも、エレクトロマイグレーション耐性や抵抗値の低減された配線材料が所望されている。
【0003】
従来の配線材料であるアルミニウム、銅と比較して、ルテニウムは、エレクトロマイグレーション耐性が高く、配線の抵抗値を低減可能という理由で、特に、半導体素子のデザインルールが10nm以下の配線材料として、注目されている。その他、配線材料だけでなく、ルテニウムは、配線材料に銅を使用した場合でも、エレクトロマイグレーションを防止することが可能なため、銅配線用のバリアメタルとして、ルテニウムを使用することも検討されている。
【0004】
ところで、半導体素子の配線形成工程において、ルテニウムを配線材料として選択した場合でも、従来の配線材材料と同様に、ドライ又はウェットのエッチングによって配線が形成される。しかしながら、ルテニウムはエッチングガスによるドライでのエッチングやCMP研磨によるエッチング、除去が難しいため、より精密なエッチングが所望されており、具体的には、ウェットエッチングが注目されている。
【0005】
ここで、配線材料やバリアメタルとしてルテニウムを使用する場合は、ウェットエッチングによる精密なルテニウムの微細加工が必要となる。ところが、ルテニウムのエッチング量が制御できていない場合は、他の配線材料がウェットエッチングによって露出する場合がある。ルテニウム以外の配線材料が露出したまま、多層配線を形成すれば、露出した配線材料を起点として、電流がリークし、半導体素子として正確に動作しないことが分かっている。従って、精密なルテニウムの微細加工を実現するため、ルテニウムの正確なエッチング速度の制御が所望されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、ルテニウムをウェットエッチングするエッチング液として、pH7を越える、酸化剤を含有するエッチング液、具体的には、酸化剤として過ヨウ素酸、緩衝剤としてホウ酸、pH調整剤として水酸化カリウムを含むエッチング液が記載されており、該エッチング液により、選択的にルテニウムをエッチング可能なことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2017/15585704号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1に記載された従来のエッチング液では、以下の点で改善の余地があることが分かった。
【0009】
例えば、特許文献1記載のエッチング液には、pH調整剤として水酸化カリウムを含む
ことが記載されているが、ルテニウムをエッチング後、半導体ウェハ表面にカリウムが残存する場合がある。すなわち、エッチング液に含まれている水酸化カリウムが、カリウムとしてエッチング後のウェハ表面に残存し、半導体素子の歩留まりが低下することが本発明者らの検討によって明らかとなった。
【0010】
さらに、半導体素子形成工程において、ルテニウムのエッチング速度は、エッチング液のpHと相関することが明らかとなった。特に、エッチング液のpHは、エッチング処理中にも変動し、エッチング速度に影響を与えるため、pH調整剤の添加量を精密に制御することが必要となることが明らかとなった。
【0011】
また、エッチング液のpH調整時やリユース時、薬液保管・循環中の二酸化炭素ガス吸収や化学反応によって容易にpHが変動し得ることが分かった。特許文献1記載のエッチング液では、pH変動を抑制するため、10mMのホウ酸が添加されているが、その濃度
では十分な緩衝能が得られず、pH変動によってエッチング速度が変動することが明らかとなった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、半導体ウェハ上に存在するルテニウムを変動が少ないエッチング速度でエッチングする処理液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。そして、次亜塩素イオン、テトラアルキルアンモニウムイオンを含む処理液に、pH緩衝剤を添加することを検討した。その結果、処理液に添加したpH緩衝剤によって、処理液のpHの変動を抑制し、ルテニウムのエッチング速度の変動を抑制出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)半導体形成工程において半導体ウェハを処理する処理液であって、
(A)次亜塩素酸イオン、
(B)pH緩衝剤
(C)下記式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオンを含む処理液である。
【化1】

(式中、R1、R2、R3及びR4は独立して、炭素数1~20のアルキル基である。)
【0015】
また、本発明は、以下の態様をとることもできる。
【0016】
(2)前記式(1)におけるR1、R2、R3及びR4は同一の炭素数1~3のアルキル基である(1)に記載の処理液。
【0017】
(3)前記式(1)におけるR1、R2、R3及びR4がメチル基である(1)又は(2)に記載の処理液。
【0018】
(4)前記(B)pH緩衝剤が、炭酸、ホウ酸、リン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(tris)、アンモニア、ピロリン酸、p-フェノールスルホン酸、ジエタノールアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、5,5-ジエチルバルビツール酸、グリシン、グリシルグリシン、イミダゾール、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸、3-モルホリノプロパンスルホン酸、N-トリス(ヒド
ロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸、2-[4-(2-ヒドロキシエチ
ル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸、トリシン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン、2-シクロヘキシルアミノエタンスルホン酸、ヒドロキシプロリン、フェノール及びエチレンジアミン四酢酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)乃至(3)のいずれかに記載の処理液。
【0019】
(5)前記(A)次亜塩素酸イオンの濃度が、0.05~20.0質量%である(1)乃至(4)のいずれかに記載の処理液。
【0020】
(6)前記(B)pH緩衝剤の濃度が、0.0001~10質量%である(1)乃至(5)のいずれかに記載の処理液。
【0021】
(7)25℃でのpHが7以上14未満である(1)乃至(6)のいずれかに記載の処理液。
【0022】
(8)前記(B)pH緩衝剤が、炭酸、ホウ酸及びリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)乃至(7)のいずれかに記載の処理液。
【0023】
(9)(1)~(8)のいずれかに記載の処理液と半導体ウェハとを接触させることを特徴とするエッチング方法。
【0024】
(10)前記半導体ウェハが含む金属がルテニウムであり、該ルテニウムをエッチングする(9)に記載のエッチング方法。
である。
【0025】
(11) 下記(B)及び(C)を含む、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
(B)pH緩衝剤
(C)下記式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオン
【化2】

(式中、R1、R2、R3及びR4は独立して、炭素数1~20のアルキル基である。)
【0026】
(12)さらに、(A)次亜塩素酸イオンを含む、(11)に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
【0027】
(13) 前記(C)テトラアルキルアンモニウムイオンの濃度が、0.0001~50質量%である(11)又は(12)に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
【0028】
(14)前記式(1)におけるR1、R2、R3及びR4は同一の炭素数1~3のアルキル基である、(11)乃至(13)のいずれかに記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
【0029】
(15)(11)乃至(14)のいずれかに記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤を用いる、ルテニウム含有ガスの発生を抑制する方法。
【0030】
(16)下記(B)及び(C)を含む、ルテニウム含有廃液の処理剤。
(B)pH緩衝剤
(C)下記式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオン
【化3】

(式中、R1、R2、R3及びR4は独立して、炭素数1~20のアルキル基である。)
【0031】
(17)さらに、(A)次亜塩素酸イオンを含む、(16)に記載のルテニウム含有廃液の処理剤。
【0032】
(18)前記(C)テトラアルキルアンモニウムイオンの濃度が、0.0001~50質量%である(16)又は(17)に記載のルテニウム含有廃液の処理剤。
【0033】
(19)前記式(1)におけるR1、R2、R3及びR4は同一の炭素数1~3のアルキル基である、(16)乃至(18)のいずれかに記載のルテニウム含有廃液の処理剤。
【0034】
(20)(16)乃至(19)のいずれかに記載のルテニウム含有廃液の処理剤を用いる、ルテニウム含有廃液の処理方法。
【0035】
本発明の処理液が、ルテニウムのエッチング速度を正確に制御可能となるメカニズムとしては、以下のことが考えられる。つまり、処理液のpHが変動したとしても、処理液中に存在するpH緩衝剤の共役塩基が水素イオンと中和反応し、処理液のpHの変動を抑制することができ、ルテニウムのエッチング速度を一定に制御できるようになる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の処理液によれば、ルテニウムのエッチング速度が速く、且つルテニウムのエッチング反応や二酸化炭素ガス吸収に伴うpH変化によるエッチング速度の変化を抑制でき
、使用時のエッチング速度を一定に保つことが可能となり、数nmレベルの精密加工が安定して可能な処理液を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の処理液が好適に採用できる配線形成工程の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の処理液で処理した後の配線形成工程の一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の処理液の製造方法の一形態を表わす概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(処理液)
本発明の処理液は、半導体ウェハにダメージを与えることなく、半導体ウェハ上に存在するルテニウムをエッチングできる処理液であり、変動が少ないエッチング速度でルテニウムをエッチングすることが可能な処理液である。そのため、本発明の処理液は、半導体製造工程における配線形成工程で好適に用いることができる処理液である。
【0039】
本発明の処理液が適用されるルテニウムは、主に、半導体素子工程で使用されるCVD、スパッタ法によって形成される。配線材料として形成されたルテニウムをエッチングすることにより、半導体における配線が形成される。図1および図2に配線形成工程の一例を示す。下部基体1の上に酸化シリコン膜、低誘電率膜等からなる層間絶縁膜2があり、その上に、ルテニウム膜3が成膜される。これを図2のようにルテニウムをエッチングすることによってルテニウムを配線材料とした配線が形成される。
【0040】
本発明の処理液は、前述したように、ルテニウムのエッチングに好適に使用することができる。そして、該処理液は、(A)次亜塩素酸イオン、(B)pH緩衝剤、(C)テトラアルキルアンモニウムイオンを含む処理液である。以下、順を追って説明する。
【0041】
(A)次亜塩素酸イオン
本発明で使用される次亜塩素酸イオンは、アルカリ性溶液に塩素ガスを溶解させ、中和反応させることにより得られる。また、次亜塩素酸塩を水に溶解させることにより、次亜塩素酸及び次亜塩素酸イオンを発生させることも可能である。
【0042】
本発明の処理液において、次亜塩素酸イオンの濃度範囲は、好ましくは0.05~20質量%である。上記の範囲内であれば、ルテニウムをエッチングすることが可能である。次亜塩素酸イオンの濃度が20質量%を超えると、次亜塩素酸イオンの分解反応が生じ易くなり、エッチング速度の正確な制御ができなくなる。一方、0.05質量%未満の場合には、エッチング速度が著しく遅くなる。そのため、次亜塩素酸イオンの濃度範囲は、好ましくは0.1~15質量%であり、より好ましくは0.3~10質量%であり、さらに好ましくは0.5~7質量%であり、特に好ましくは0.5~4質量%である。
【0043】
さらに、処理液のエッチング速度の変動をより抑制するためには、次亜塩素酸イオンの濃度範囲は0.05~6質量%であることが好ましい。この範囲であれば、(B)pH緩衝剤を加えた後でも、エッチング速度の変動を抑制することが可能となる。そのため、ルテニウムのエッチング速度、および次亜塩素酸イオンの安定性を考慮すると、次亜塩素酸イオンの範囲は0.1~6質量%がより好ましく、0.3~6質量%がさらに好ましく、0.5~4質量%が特に好ましい。
【0044】
また、本発明の次亜塩素酸イオンの濃度は、処理液の製造時に計算で求めることもできるし、処理液を直接分析することにより確認することもできる。下記の実施例で記載した
次亜塩素酸イオンの濃度は、処理液の有効塩素濃度を測定することにより求めた。具体的には、厚生労働省告示第三百十八号(最終改正平成17年3月11日)を参考に、次亜塩素酸イオンを含む溶液にヨウ化カリウムと酢酸を加え、遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム水溶液で酸化還元滴定して有効塩素濃度を算出し、該有効塩素濃度から次亜塩素酸イオン濃度を算出した。
【0045】
(B)pH緩衝剤
本発明で使用されるpH緩衝剤は、弱酸と共役塩基の組合せであり、処理液内の水素イオンの変動を抑制する目的で、処理液に添加される。
【0046】
pH緩衝剤としては、pH緩衝能がある物質であり、弱酸と共役塩基の組合せであれば、特に、制限なく使用することができる。本発明において、好適に使用できるカチオン系pH緩衝剤を具体的に挙げると、炭酸、ホウ酸、リン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(tris)、アンモニア、ピロリン酸、p-フェノールスルホン酸、ジエタノールアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、5,5-ジエチルバルビツール酸、グリシン、グリシルグリシン、イミダゾール、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸、3-モルホリノプロパンスルホン酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸、トリシン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン、2-シクロヘキシルアミノエタンスルホン酸、ヒドロキシプロリン、フェノール、エチレンジアミン四酢酸等を挙げることができる。
【0047】
本発明において、pH緩衝剤は、1種類のみを添加してもよいし、2種類以上のpH緩衝剤を組み合せて添加してもよい。2種類以上のpH緩衝剤を組み合せることにより、処理液のpHが高アルカリ性になったとしても、pHの変動を抑制することができる。なお、本明細書において、pHは25℃のときの値として表記する。
【0048】
なお、本発明において、ホウ酸、炭酸又はリン酸を少なくとも含むpH緩衝剤を用いることが好ましい。特に、ホウ酸を用いる場合は処理液のpHが8.2~10.2であるとき、炭酸を用いる場合は処理液のpHが9.3~11.3であるとき、リン酸を用いる場合は処理液のpHが11.4~13.4であるときに、望ましいpH緩衝能が期待される。また、これらのpH緩衝剤は1種単独で用いてもよいし、これらを混合して用いてもよい。また、ルテニウムをエッチングする場合は、ルテニウムの表面に吸着しないpH緩衝剤を用いることが好ましい。
【0049】
本発明において、処理液のpH緩衝剤の濃度は、処理液の全質量の0.0001~10%が好ましく、さらに、好ましくは、0.001~8%であり、さらに好ましくは、0.01~6%である。0.1~6%の範囲であれば、エッチング速度に影響を与えない範囲で、処理液のpHの変動を抑制することが可能である。
【0050】
本発明の処理液におけるpH緩衝剤の含有量が全質量の0.0001~10%の範囲であれば、処理液のpHを安定させることが可能となり、さらに、処理液の粘度の増加を抑制することが出来るため、好ましい。処理液の粘度が高い場合、特に、微細化された配線工程への適用が困難になる傾向があるため、前記範囲のpH緩衝剤の含有量が好ましい。また、前記範囲内であれば、処理液にpH緩衝剤が十分に溶解するため、pH緩衝剤の再析出等で、エッチング対象物を汚染しないため好ましい。
【0051】
本発明の処理液が、pH緩衝剤を添加することにより、ルテニウムのエッチング速度の変動を抑制できるメカニズムとしては、以下のことが考えられる。つまり、処理液のpH
が変動したとしても、処理液中に存在するpH緩衝剤の共役塩基が水素イオンと中和反応し、外気との接触やエッチング反応などの外乱による処理液のpHの変動を抑制することが出来る。その結果、ルテニウムのエッチング速度の変動を抑制可能になったと考えられる。
【0052】
(pH調整剤)
本発明のpH調整剤は、上記のpH緩衝剤とは異なる、酸、又はアルカリであり、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などの酸であり、また、水酸化アルキルアンモニウム、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、又はコリンなどのアルカリである。
なお、本発明において、処理液にpH緩衝剤が含まれる場合、処理液中のpH調整剤とpH緩衝剤の組み合わせにより、安定的にpHが存在する範囲が決定される。例えば、pH調整剤として水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を、pH緩衝剤としてホウ酸を用いた場合では、処理液のpHは8.2~10.2で安定させることが可能となり、ルテニウムのエッチング速度の変動を抑制することが出来る。さらに、pH調整剤として、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属を含む化合物を使用していないため、エッチング後の半導体基板表面にカリウム、ナトリウム等のアルカリ金属汚染がみられず、好適に使用することが出来る。
【0053】
(C)テトラアルキルアンモニウムイオン
本発明において、以下の式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオンが、処理液のpHを調整するために処理液に含まれる。
【化4】

(式中、R1、R2、R3及びR4は独立して、炭素数1~20のアルキル基である。)
【0054】
前記式(1)におけるR1、R2、R3及びR4は同一の炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。また、前記式(1)におけるR1、R2、R3及びR4はいずれもメチル又はエチルであることが好ましく、メチルであることが特に好ましい。
【0055】
本発明の実施形態にかかる処理液において、テトラアルキルアンモニウムイオンの濃度範囲は、好ましくは0.1~30質量%である。テトラアルキルアンモニウムイオンの濃度がこの範囲を満足することにより、ルテニウムをエッチングすることができる。その結果、安定してエッチングを行うことができ、長期保存安定に優れた処理液とすることが出来る。よりこの効果を発揮するためには、テトラアルキルアンモニウムイオンの濃度は、より好ましくは0.15~25質量%であり、さらに好ましくは0.3~21質量%であり、特に好ましくは0.5~15質量%である。なお、上記で挙げた濃度範囲、好ましい濃度範囲、さらに好ましい濃度範囲は、テトラメチルアンモニウムイオンに例示されるような式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオンのどの具体例に対しても適用可能である。
【0056】
(溶媒)
本発明の処理液において、(A)、(B)、(C)の成分に加え、任意成分である、pH調整剤、さらに後述するその他の添加剤以外の残分は、溶媒であり、(A)、(B)、(C)、pH調整剤、およびその他の添加剤を調整後、合計100質量%となるように、残分を溶媒で調整する。ここで、溶媒はアニオンを含んでいてもよい。該アニオンとしては塩化物イオン、水酸化物イオンなどが考えられる。
【0057】
本発明において、溶媒は特に制限されず、有機溶媒、水等を使用することが出来る。有機溶媒を使用する場合は、処理液に存在する次亜塩素酸イオン存在下でも安定に存在する有機溶媒が好ましく、例えば、アセトニトリル、スルホラン等が挙げられる。また、水を使用する場合は、蒸留、イオン交換処理、フィルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、パーティクル粒子などが除去された水が好ましく、特に純水、超純水が好ましい。
【0058】
(処理液のpH)
本発明の処理液は、前記(A)次亜塩素酸イオン、前記(B)pH緩衝剤、前記(C)
テトラアルキルアンモニウムイオン、下記に詳述する必要に応じて配合されるその他の添加物、残分の前記溶媒を含む。また、必要に応じて、pH調整剤を含む。好適な(A)次亜塩素酸イオン濃度(0.05~20質量%)、(B)pH緩衝剤濃度(0.0001~10質量%)、(C)テトラアルキルアンモニウムイオン濃度(0.1~30質量%)、
また、必要に応じてpH調整剤を使用すれば、容易に処理液のpHを14未満とすることができる。本発明の処理液のpHが各成分量により14未満となることにより、ルテニウムを酸化、溶解、除去しても、処理液のpHが変動せず、安定して除去することができる。処理液のpHが14以上の場合は、著しくルテニウムのエッチング速度が低下する。pHが7未満となる場合は、処理液に含まれている次亜塩素酸イオンの分解反応が生じ易くなる傾向にある。そのため、高エッチング速度と高精度なエッチング速度制御を考慮すると、処理液のpHは、7以上14未満が好ましく、7.5以上13.5未満がより好ましく、9以上13未満がさらに好ましい。処理液のpHの好ましい上限として、例えばpH緩衝剤としてホウ酸を用いる場合、10未満も例示できる。
【0059】
(その他の添加剤)
その他、本発明の処理液には、所望により本発明の目的を損なわない範囲で従来から半導体用処理液に使用されている添加剤を配合してもよい。例えば、添加剤として、酸、アルカリ、金属防食剤、水溶性有機溶剤、フッ素化合物、酸化剤、還元剤、キレート剤、界面活性剤、消泡剤などを加えることができる。
【0060】
(ルテニウムのエッチング方法)
なお、本発明の処理液を使用するエッチング条件は、温度は10~80℃、好ましくは20~70℃の範囲であり、使用するエッチング装置のエッチング条件にあわせて適宜選択すればよい。
【0061】
本発明の処理液を使用する時間は0.1~120分、好ましくは0.5~60分の範囲であり、エッチングの条件や使用される半導体素子により適宜選択すればよい。本発明の処理液を使用した後のリンス液としては、アルコールのような有機溶剤を使用することもできるが、脱イオン水でリンスするだけでも十分である。
【0062】
以上のように、本発明の処理液は、貴金属類、特に、ルテニウムのエッチング速度が20Å以上/分以上、好ましくは50Å/分以上とすることができ、pH変動を抑制することによって、例えば、外乱によって、処理液のpHの変動がしたとしても、ルテニウムのエッチング速度の変動率を30%以下に抑制することができる。このことから明らかな通
り、本発明の処理液は、半導体素子形成工程においてルテニウムを使用する場合に、ルテニウムをエッチングする処理液として、好適に使用することが出来る。
【0063】
本発明の処理液は、RuO4ガス発生を抑制する機能も有する。そのメカニズムは、次
のように推測される。すなわち、アルカリ性の処理液中では、ルテニウムの溶解により発生したRuO4 -やRuO4 2-のようなアニオン(以下、RuO4 -等と記すこともある)は
、処理液に含まれるオニウムイオンと静電的に相互作用し、その一部がイオン対として安定に存在するようになる。これにより、RuO4 -等からRuO4への変化が妨げられ、結
果としてRuO4ガスの発生が抑制される。さらに、RuO4の生成が妨げられるため、RuO4が還元することで生じるRuO2パーティクルの発生も抑制される、と推測される。
したがって、本発明の処理液において、式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオンの添加によるRuO4ガス抑制効果は、処理液に含まれる酸化剤やその他の添加
剤の種類や量、処理方法、処理条件等に限定されるものではない。例えば、本発明の処理液中に含まれる酸化剤は、次亜塩素酸イオンであるが、この酸化剤の量に関わりなく、処理液に含まれる式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオンによりRuO4
ス抑制効果が得られる。また、本発明の処理液による半導体ウェハの処理方式は、ウェットエッチングに限定されるものではなく、洗浄用途や残渣除去用途の処理液としても好適に利用できる。さらに、本発明の処理液をCMP研磨に用いれば、CMP研磨工程においてもRuO4ガスの発生を抑制することが可能である。本発明の処理液によるルテニウム
を含むウェハの処理は、枚葉処理でもよく、浸漬処理でもよい。また、処理液の温度は特に制限されることはなく、いずれの処理温度においても、処理液に含まれる式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオンによりRuO4ガス抑制効果が発揮される。
【0064】
(ルテニウム含有ガスの発生抑制剤)
ルテニウム含有ガスの発生抑制剤とは、ルテニウムを処理するための液に添加する事で、ルテニウム含有ガスの発生を抑制するものであり、上記pH緩衝剤と式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオンを含む液を指す。
ルテニウムを処理するための液は、ルテニウムと接触し、該ルテニウムに物理的、化学的変化を与える成分を含む液であればどのような液でもよく、例えば、酸化剤を含む溶液が例示される。該酸化剤としては、上述の説明で例示したような次亜塩素酸イオンを挙げることができる。ルテニウムを処理するための液で処理されたルテニウムは、その全部又は一部が該処理液中に溶解、分散、又は沈殿し、RuO4(ガス)及び/又はRuO2(粒子)を生じる原因となる。
RuO4(溶液)及びRuO2(粒子)の生成はpHに依存するため、ルテニウムを含む処理液のpHは変動しないことが好ましい。ルテニウム含有ガスの発生抑制剤にpH緩衝剤が含まれることで、ガス発生抑制剤を含有する処理液のpH変動を抑えることができる。該pH緩衝剤としては、上記の説明で例示したようなpH緩衝剤を何ら制限なく用いることができる。
ルテニウムを処理するための液と本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤とを含む液(ガス発生抑制剤を含有する処理液とも表記する)では、該処理液中に存在するRuO4 -等と、テトラアルキルアンモニウムイオンとが、該処理液に溶解するイオン対を形成することで、RuO4 -等からRuO4(溶液)及びRuO2(粒子)の生成を抑制する。これは、RuO4(溶液)から生じるRuO4(ガス)を大幅に低減するとともに、RuO4(ガ
ス)により生じるRuO2(粒子)の生成を抑えるためである。
【0065】
上記で説明したとおり、本発明の処理液は、上記式(1)で示されるテトラアルキルアンモニウムイオンとpH緩衝剤とを含むため、RuO4ガスを発生させることなく、ルテ
ニウムを含む半導体ウェハを処理できる処理液である。すなわち、本発明の処理液は、ルテニウムを処理するための液であると同時にルテニウム含有ガスの発生抑制剤でもある。そのため、本発明の処理液は、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤としても使用できる。
ルテニウム含有ガスの発生抑制剤における、上記式(1)で示されるテトラアルキルアンモニウムイオンの含有量や、その他の成分及びその含有量、pH等の条件については、半導体ウェハ用処理液の説明で記載されている条件と同じ条件を適用できる。
一方で、本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤では、上記の本発明の処理液に含まれる(A)次亜塩素酸イオンを含まなくてもよい。
また、上記の条件以外にも、例えば、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤に含まれる上記(1)式で示されるテトラアルキルアンモニウムの含有量としては、0.0001~50質量%を挙げることができ、0.01~35質量%であることがより好ましく、0.1~20質量%である事がさらに好ましい。この濃度は、後述するように、ルテニウム含有ガスの発生を抑制する対象となる液、すなわち、ルテニウムを処理するための液と混合した際の混合液における上記のpH緩衝剤と式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオンを含む液の濃度が所定量になるように、調整することができる。また、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤には、上記のpH調整剤と同じものを適宜添加してもよい。pH調整剤の含有量については、後述するように、ルテニウムを処理するための液と混合した際の混合液のpHが所定範囲になるように、調整することができる。例えば、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤における、pH調整剤の含有量として、有効量であればよく、具体的には0.000001~10質量%を例示できる。またpH緩衝剤としてホウ酸、炭酸又はリン酸を含むことが好ましい。特に、ホウ酸を用いる場合はガス発生抑制剤を含有する処理液のpHが8.2~10.2であるとき、炭酸を用いる場合はガス発生抑制剤を含有する処理液のpHが9.3~11.3であるとき、リン酸を用いる場合はガス発生抑制剤を含有する処理液のpHが11.4~13.4であるときに、望ましいpH緩衝能が期待される。これらのpH緩衝剤は1種単独で用いてもよいし、これらを混合して用いてもよい。また、ガス発生抑制剤を含有する処理液中の各pH緩衝剤の濃度は、ガス発生抑制剤を含有する処理液の全質量の0.0001~10%が好ましく、さらに、好ましくは、0.001~8%であり、さらに好ましくは、0.01~6%である。0.1~6%の範囲であれば、エッチング速度に影響を与えない範囲で、処理液のpHの変動を抑制し、十分なルテニウム含有ガスの発生抑制効果が得られる。
【0066】
(ルテニウム含有ガスの発生抑制方法)
本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制方法は、上記のルテニウム含有ガスの発生抑制剤を、ルテニウムを処理するための液に添加する工程を含む、ルテニウム含有ガスの発生抑制方法である。具体的には、たとえば、半導体製造工程におけるエッチング工程、残渣除去工程、洗浄工程、CMP工程等のルテニウムを処理する工程において使用する液(ルテニウムを処理するための液)に対して、本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤を添加する事で、ルテニウム含有ガスの発生を抑制する事ができる。また、これら半導体製造工程に使用した各装置において、チャンバー内壁や配管等に付着したルテニウムを洗浄する際にも、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤を含む液を用いる事でルテニウム含有ガスの発生を抑制できる。例えば、物理蒸着(PVD)や化学蒸着(CVD)を用いてルテニウムを形成する装置のメンテナンスにおいて、チャンバーや配管等に付着したルテニウムを除去する際に使用する洗浄液へ、本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤を添加する事により、洗浄中に発生するルテニウム含有ガスの抑制が可能となる。当該方法によれば、上記のルテニウム含有ガスの発生抑制剤の説明で示したメカニズムにより、ルテニウム含有ガスの発生を抑制できる。
【0067】
なお、ルテニウム発生抑制方法においては、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤と、ルテニウムを処理するための液との混合液における、pH緩衝剤と式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオンの濃度が、それぞれ0.0001~50質量%となるように、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤における上記オニウム塩の濃度と、その添加量を調整することが好ましい。また、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤にpH調整剤を添加する場合、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤におけるpH調整剤の含有量と、ルテニウム含有ガ
スの発生抑制剤の添加量については、ルテニウムを処理するための液と混合した際の混合液のpHが、例えば7~14になるように、適宜調整することができる。
ルテニウムを処理するための液に対する、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤の添加量は、ガス発生抑制剤を含有する処理液に溶解されるルテニウム量による。ルテニウム含有ガスの発生抑制剤の添加量は特に制限されないが、例えば、ルテニウムを処理するための液に溶解されるルテニウム量を1としたときに、重量比で10~500000が好ましく、より好ましくは100~100000であり、さらに好ましくは1000~50000である。
【0068】
(ルテニウム含有廃液の処理剤)
本発明のルテニウム含有廃液の処理剤とは、ルテニウム含有廃液に添加する事で、ルテニウム含有ガスの発生を抑制するものであり、上記式(1)で表されるテトラアルキルアンモニウムイオンとpH緩衝剤とを含む液を指す。よって、上記の式(1)で示されるテトラアルキルアンモニウムイオンを含有する処理液は、そのルテニウム含有ガスの発生抑制効果を利用して、ルテニウム含有廃液の処理剤としても用いることができる。
ここで、ルテニウム含有廃液とは、少量でもルテニウムを含む溶液を意味する。ここで、ルテニウムとは、ルテニウム金属に限定されず、ルテニウム元素を含んでいればよく、例えば、Ru、RuO4 -、RuO4 2-、RuO4、RuO2などが挙げられる。例えば、ル
テニウムを含有する半導体ウェハのエッチング処理を、本発明の処理液とは別のエッチング液を用いて行った後の液や、本発明の半導体ウェハ用の処理液を用いて処理を行った後の液などを挙げることができる。また、半導体ウェハのエッチングに限らず、上記のルテニウム含有ガスの発生抑制方法にて述べたような、半導体製造工程やチャンバー洗浄などにより発生したルテニウム含有液もその一例である。
廃液に微量でもルテニウムが含まれると、RuO4ガスを経由してRuO2パーティクルが発生するため、タンクや配管を汚染するし、パーティクルの酸化作用によって装置類の劣化を促進する。また、廃液中から発生するRuO4ガスは低濃度でも人体に強い毒性を
示す。このように、ルテニウム含有廃液は、装置類あるいは人体に対して様々な悪影響を及ぼすため、早急に処理してRuO4ガスの発生を抑制する必要がある。
本発明のルテニウム含有廃液の処理剤をルテニウム含有廃液に添加する事で、該ルテニウム含有廃液のpHが変動してRuO4ガスやRuO2パーティクルが増大することを抑制できる。例えば、ルテニウム含有廃液がアルカリ性である場合、二酸化炭素の混入により該ルテニウム含有廃液のpHは低下し、RuO4ガスやRuO2パーティクルが増大するが、ルテニウム含有廃液に本発明のルテニウム含有廃液の処理剤を加えることでpH変動が抑制されるため、RuO4ガスやRuO2パーティクル発生量を低く抑えることができる。
【0069】
本発明のルテニウム含有廃液の処理剤においては、上記式(1)で示されるテトラアルキルアンモニウムイオンの含有量や、その他の成分及びその含有量、pH等の条件については、上記の半導体ウェハ用処理液の説明で記載されている条件と同じ条件を適用できる。
一方で、本発明のルテニウム含有廃液の処理剤では、上記の本発明の処理液に含まれる(A)次亜塩素酸イオンを含まなくてもよい。
また、これらの条件以外にも、例えば、ルテニウム含有廃液の処理剤における、上記式(1)で示されるテトラアルキルアンモニウムの含有量としては、0.0001~50質量%を挙げることができ、0.001~35質量%であることがより好ましい。この濃度は、後述するように、ルテニウム含有廃液と混合した際の混合液における上記式(1)のテトラアルキルアンモニウムの濃度が所定量になるように、調整することができる。また、ルテニウム含有廃液の処理剤には、上記で示したpH調整剤と同じものを適宜添加してもよい。pH調整剤の含有量については、後述するように、ルテニウム含有廃液と混合した際の混合液のpHが所定範囲になるように、調整することができる。例えば、ルテニウム含有廃液の処理剤における、pH調整剤の含有量として、有効量であればよく、具体的
には0.000001~10質量%を例示できる。
また、pH緩衝剤としてホウ酸、炭酸又はリン酸を含むことが好ましい。特に、ホウ酸を用いる場合はルテニウム含有廃液の処理剤のpHが8.2~10.2であるとき、炭酸を用いる場合はルテニウム含有廃液の処理剤のpHが9.3~11.3であるとき、リン酸を用いる場合はルテニウム含有廃液の処理剤のpHが11.4~13.4であるときに、望ましいpH緩衝能が期待される。これらのpH緩衝剤は1種単独で用いてもよいし、これらを混合して用いてもよい。また、ルテニウム含有廃液の処理剤中の各pH緩衝剤の濃度は、ルテニウム含有廃液の処理剤の全質量の0.0001~10%が好ましく、さらに、好ましくは、0.001~8%であり、さらに好ましくは、0.01~6%である。0.1~6%の範囲であれば、エッチング速度に影響を与えない範囲で、ルテニウム含有廃液の処理剤のpHの変動を抑制し、十分なルテニウム含有ガスの発生抑制効果が得られる。
【0070】
(ルテニウム含有廃液の処理方法)
本発明のルテニウム含有廃液の処理方法は、上記のルテニウム含有廃液の処理剤を、後述するルテニウム含有廃液に添加する工程を含む、ルテニウム含有廃液の処理方法である。当該方法によれば、上記のルテニウム含有ガスの発生抑制剤の説明で示したメカニズムにより、ルテニウム含有廃液から発生するルテニウム含有ガスを抑制できる。そのため、ルテニウム含有廃液の取り扱いが容易になるだけでなく、排気設備や除外設備を簡素化できルテニウム含有ガスの処理にかかる費用を削減できる。さらに、毒性の高いルテニウム含有ガスに作業者が晒される危険性が減り、安全性が大幅に向上する。
なお、ルテニウム含有廃液の処理方法においては、ルテニウム含有廃液の処理剤と、ルテニウム含有廃液との混合液における、上記の式(1)で示されるテトラアルキルアンモニウムイオンとpH緩衝剤の濃度が、例えば、それぞれ0.0001~50質量%となるように、ルテニウム含有廃液の処理剤における上記pH緩衝剤と式(1)で示されるテトラアルキルアンモニウムイオンの濃度と、その添加量を調整することが好ましい。また、ルテニウム含有廃液の処理方法においては、ルテニウム含有廃液の処理剤に、上記のpH
調整剤と同じものを適宜添加してもよい。ルテニウム含有廃液の処理剤におけるpH調整
剤の含有量と、ルテニウム含有廃液の処理剤の添加量については、ルテニウム含有廃液と混合した際の混合液のpHが、例えば7~14になるように、適宜調整することができる。
ルテニウム含有廃液に対する、ルテニウム含有廃液の処理剤の添加量は、ルテニウム含有廃液中のルテニウム量による。ルテニウム含有廃液の処理剤の添加量は特に制限されないが、例えば、ルテニウム含有廃液中のルテニウム量を1としたときに、重量比で10~500000が好ましく、より好ましくは100~100000であり、さらに好ましくは1000~50000である。
【実施例
【0071】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0072】
(pH測定方法)
実施例1~12、比較例1~6の処理液30mLを調製した後、卓上型pHメーター(
LAQUA F―73、堀場製作所社製)を用いてpH測定した。pH測定は、処理液の温度が、25℃で安定した後に、実施した。
【0073】
(有効塩素濃度および次亜塩素酸イオン濃度の算出方法)
実施例1~15、比較例1~6の処理液を調製した後、100mL三角フラスコに処理液0.5mLとヨウ化カリウム(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)2g、10%酢酸8mL、超純水10mLを加え、固形物が溶解するまで撹拌し、褐色溶液を得る。調製
した褐色溶液は0.02Mチオ硫酸ナトリウム溶液(富士フイルム和光純薬社製、容量分析用)を用いて溶液の色が褐色から極薄い黄色になるまで酸化還元滴定し、次いで、でんぷん溶液を加え薄紫色の溶液を得る。この溶液に更に0.02Mチオ硫酸ナトリウム溶液を続けて加え、無色透明になった点を終点として有効塩素濃度を算出した。また得られた有効塩素濃度から次亜塩素酸イオン濃度を算出した。例えば有効塩素濃度1%であれば次亜塩素酸イオン濃度は0.73%となる。
【0074】
(アルキルアンモニウムイオン濃度の算出方法)
実施例1~15、比較例1~6の処理液中のアルキルアンモニウムイオン濃度はpH、次亜塩素酸イオン濃度から計算によって求めた。
【0075】
(緩衝剤濃度の算出方法)
緩衝剤濃度はイオンクロマトグラフィー分析装置(DIONEX INTEGRION
HPLC、Thermo SCIENTIFIC社製)を用いて分析した。溶離液としてKOHを用い、1.2mL/min.の流量で通液した。カラムとして水酸化物系溶離液用陰イオン分析カラム(AS15、Thermo SCIENTIFIC社製)を用い、カラム温度は30℃とした。サプレッサーによりバックグラウンドノイズを取り除いたのち、電気伝導度検出器により炭酸濃度、リン酸濃度を定量した。
【0076】
(pH安定性)
実施例1~15、比較例1~6の処理液49.5mLを用意した後、実施例1~6、実
施例9、11~14、比較例1~5は1質量%の塩酸を0.5mL添加し、5分間撹拌し
た後、卓上型pHメーターを用いてpH測定した。実施例7、8、10、15、比較例6は5質量%の塩酸を0.5mL添加し、5分間撹拌した後、卓上型pHメーターを用いてpH測定した。
【0077】
(ルテニウムのエッチング速度の算出方法)
シリコンウェハ上にバッチ式熱酸化炉を用いて酸化膜を形成し、その上にスパッタ法を用いてルテニウムを200Å(±10%)成膜した。四探針抵抗測定器(ロレスタ‐GP、三菱ケミカルアナリテック社製)によりシート抵抗を測定して膜厚に換算した。
【0078】
実施例1~15、比較例1~9の処理液40mlを蓋付きフッ素樹脂製容器(AsOne製、PFA容器94.0mL)に準備し、スターラー(AsOne製CHPS-170DF)を用いて800rpmで撹拌しながらウォーターバスに浸漬して、表1、表2、表4の温度まで加温した。これら処理液中に10×20mmとした各サンプル片を、1分間浸漬し、処理前後の膜厚変化量を浸漬した時間で除した値をエッチング速度として算出した。
【0079】
(RuO4ガスの定量分析)
RuO4ガスの発生量は、ICP-OESを用いて測定した。密閉容器に処理液を5m
Lとり、膜厚1200Åのルテニウムを成膜した10×20mmのSiウェハ1枚を、表4に示す温度で60分間浸漬させた。ルテニウムをすべて溶解させたときの重量は0.000298gとした。その後、密閉容器にAirをフローし、密閉容器内の気相を吸収液(1mol/L NaOH)の入った容器にバブリングして、浸漬中に発生したRuO4
ガスを吸収液にトラップした。この吸収液中のルテニウム量をICP-OESにより測定し、発生したRuO4ガス中のルテニウム量を求めた。処理液に浸漬したSiウェハ上の
ルテニウムが全て溶解したことは、四探針抵抗測定器(ロレスタ‐GP、三菱ケミカルアナリテック社製)により浸漬前および浸漬後のシート抵抗をそれぞれ測定し、膜厚に換算する事で確認した。
【0080】
<実施例1>
(エッチング対象のサンプルの準備)
表面を清浄にしたシリコンウェハを用意し、所定膜厚の熱酸化膜を形成した。そうして得られたシリコンウェハ上にルテニウムをスパッタリング法で成膜することによって、200Åの膜厚のシリコンウェハ上にルテニウムが積層されたサンプルを準備した。
【0081】
<次亜塩素酸第4級アルキルアンモニウム溶液調製>
2Lのガラス製三ツ口フラスコ(コスモスビード社製)にCO2含有量が2ppmである25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液253g、イオン交換水747gを混合して、CO2含有量が0.5ppmであり、6.3質量%の水酸化テトラメチルアン
モニウム水溶液を得た。このときのpHは13.8であった。
【0082】
次いで、図3に示すように、三ツ口フラスコの内に回転子(AsOne社製、全長30mm×径8mm)を入れ、一つの開口部に温度計保護管(コスモスビード社製、底封じ型)と温度計を投入し、もう一つの開口部に塩素ガスボンベ、および窒素ガスボンベに接続され、任意で塩素ガス/窒素ガスの切換えが可能な状態にしたPFA製チューブ(フロン工業株式会社製、F-8011-02)の先端を該溶液底部に浸漬させ、残りの一つの開口部は5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で満たしたガス洗浄瓶(AsOne社製、ガス洗浄瓶、型番2450/500)に接続した。次に、二酸化炭素濃度が1ppm未満の窒素ガスをPFA製チューブから、0.289Pa・m3/秒(0℃換算時)で20分間流す
ことで気相部の二酸化炭素を追いだした。この時、気相部の二酸化炭素濃度は、1ppm以下であった。
【0083】
その後、マグネットスターラー(AsOne社製、C-MAG HS10)を三ツ口フラ
スコ下部に設置して300rpmで回転、撹拌し、三ツ口フラスコ外周部を氷水で冷却しながら、塩素ガス(フジオックス社製、仕様純度99.4%)を0.064Pa・m3
秒(0℃換算時)で180分間、供給し、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液を得た。この時、反応中の液温は11℃であった。
【0084】
得られた溶液はガラス製三ツ口フラスコに入った状態で大気と接触しないようにグローブバッグ内に移し、グローブバッグ内の二酸化炭素濃度が1ppm以下になって後、1LのPFA製容器に移し替えた。得られた溶液1Lにホウ酸(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)22.3gを溶解させ、表1に示す組成の処理液を得た。
【0085】
<評価>
得られた処理液のpH、有効塩素濃度、次亜塩素酸イオン濃度を評価し、アルキルアンモニウムイオン濃度、ルテニウムエッチング速度、塩酸添加後のpH、および酸添加後のルテニウムエッチング速度、塩酸添加前後のエッチング変動率を評価した。結果を表2に示す。なお、処理液に塩酸を添加することで処理液のpHを強制的に酸性側に変動させ、エッチング速度の変動幅を評価することとした。
【0086】
<実施例2~4、実施例9、実施例11~12、比較例1~2、比較例5~6>
実施例2~4、実施例9、実施例11~12、比較例1~2、比較例5~6は、(A)次亜塩素酸イオン、(B)pH緩衝剤、(C)テトラメチルアンモニウムイオン、pHが、表1に示した組成となるように実施例1と同様の方法で調整し、評価を行った。
【0087】
<実施例5>
<炭酸緩衝剤の調整>
グローブバッグ内に25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液500gが入ったPFAビーカーを入れ、グローブバッグ内の二酸化炭素濃度を1ppmとした後、高
純度炭酸ガス(昭和電工ガスプロダクツ製、仕様純度99.99%以上)を30.7L(0℃換算時)供給し、一昼夜密閉することで炭酸緩衝剤を得た。緩衝剤濃度はイオンクロマトグラフィー分析装置を用い、前記方法にて算出した。
【0088】
<次亜塩素酸第4級アルキルアンモニウム溶液調製>
2Lのガラス製三ツ口フラスコ(コスモスビード社製)にCO2含有量が2ppmである25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液185g、イオン交換水415gを混合して、CO2含有量が0.5ppmであり、7.7質量%の水酸化テトラメチルアン
モニウム水溶液を得た。このときのpHは13.9であった。
【0089】
次いで、図3に示すように、三ツ口フラスコの内に回転子(AsOne社製、全長30mm×径8mm)を入れ、一つの開口部に温度計保護管(コスモスビード社製、底封じ型)と温度計を投入し、もう一つの開口部に塩素ガスボンベ、および窒素ガスボンベに接続され、任意で塩素ガス/窒素ガスの切換えが可能な状態にしたPFA製チューブ(フロン工業株式会社製、F-8011-02)の先端を該溶液底部に浸漬させ、残りの一つの開口部は5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で満たしたガス洗浄瓶(AsOne社製、ガス洗浄瓶、型番2450/500)に接続した。次に、二酸化炭素濃度が1ppm未満の窒素ガスをPFA製チューブから、0.289Pa・m3/秒(0℃換算時)で20分間流す
ことで気相部の二酸化炭素を追いだした。この時、気相部の二酸化炭素濃度は、1ppm以下であった。
【0090】
その後、マグネットスターラー(AsOne社製、C-MAG HS10)を三ツ口フラ
スコ下部に設置して300rpmで回転、撹拌し、三ツ口フラスコ外周部を氷水で冷却しながら、塩素ガス(フジオックス社製、仕様純度99.4%)を0.053Pa・m3
秒(0℃換算時)で180分間、供給し、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液を得た。この時、反応中の液温は11℃であった。
【0091】
得られた溶液はガラス製三ツ口フラスコに入った状態で大気と接触しないようにグローブバッグ内に移し、グローブバッグ内の二酸化炭素濃度が1ppm以下になって後、1LのPFA製容器に移し替えた。得られた溶液600gに緩衝剤300gを溶解させ、表1に示す組成の処理液を得、評価を行った。
【0092】
<実施例6>
実施例6は、(A)次亜塩素酸イオン、(B)pH緩衝剤、(C)テトラメチルアンモニウムイオン、pHが、表1に示した組成となるように実施例5と同様の方法で調整し、評価を行った。
【0093】
<実施例7>
<リン酸緩衝剤の調整>
25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液500gをPFA容器に入れ、そこにリン酸(富士フイルム和光純薬社製、仕様純度85%)60.3gを氷水で冷却しながら加え、リン酸緩衝剤を得た。緩衝剤濃度はイオンクロマトグラフィー分析装置を用い、前記方法にて算出した。
【0094】
<次亜塩素酸第4級アルキルアンモニウム溶液調製>
2Lのガラス製三ツ口フラスコ(コスモスビード社製)にCO2含有量が2ppmである25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液379g、イオン交換水221gを混合して、CO2含有量が0.5ppmであり、15.8質量%の水酸化テトラメチルア
ンモニウム水溶液を得た。このときのpHは14.2であった。
【0095】
次いで、図3に示すように、三ツ口フラスコの内に回転子(AsOne社製、全長30mm×径8mm)を入れ、一つの開口部に温度計保護管(コスモスビード社製、底封じ型)と温度計を投入し、もう一つの開口部に塩素ガスボンベ、および窒素ガスボンベに接続され、任意で塩素ガス/窒素ガスの切換えが可能な状態にしたPFA製チューブ(フロン工業株式会社製、F-8011-02)の先端を該溶液底部に浸漬させ、残りの一つの開口部は5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で満たしたガス洗浄瓶(AsOne社製、ガス洗浄瓶、型番2450/500)に接続した。次に、二酸化炭素濃度が1ppm未満の窒素ガスをPFA製チューブから、0.289Pa・m3/秒(0℃換算時)で20分間流す
ことで気相部の二酸化炭素を追いだした。この時、気相部の二酸化炭素濃度は、1ppm以下であった。
【0096】
その後、マグネットスターラー(AsOne社製、C-MAG HS10)を三ツ口フラ
スコ下部に設置して300rpmで回転、撹拌し、三ツ口フラスコ外周部を氷水で冷却しながら、塩素ガス(フジオックス社製、仕様純度99.4%)を0.107Pa・m3
秒(0℃換算時)で180分間、供給し、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液を得た。この時、反応中の液温は11℃であった。
【0097】
得られた溶液はガラス製三ツ口フラスコに入った状態で大気と接触しないようにグローブバッグ内に移し、グローブバッグ内の二酸化炭素濃度が1ppm以下になって後、1LのPFA製容器に移し替えた。得られた溶液600gに緩衝剤300gを溶解させ、表1に示す組成の処理液を得た。
【0098】
<実施例8、実施例10>
実施例8、実施例10は、(A)次亜塩素酸イオン、(B)pH緩衝剤、(C)テトラメチルアンモニウムイオン、pHが、表1に示した組成となるように実施例7と同様の方法で調整し、評価を行った。
【0099】
<評価>
得られた処理液のpH、有効塩素濃度、次亜塩素酸イオン濃度を評価し、テトラアルキルアンモニウムイオン濃度、ルテニウムエッチング速度、塩酸添加後のpH、および酸添加後のルテニウムエッチング速度、塩酸添加前後のエッチング変動率を評価した。結果を表2に示す。なお、処理液に塩酸を添加することで処理液のpHを強制的に酸性側に変動させ、エッチング速度の変動幅を評価することとした。
【0100】
<比較例3>
オルト過ヨウ素酸(富士フィルム和光純薬製、和光特級)2.5g、イオン交換水967.5gを混合して0.25質量%のオルト過ヨウ素酸水溶液を得た。この溶液に25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液30gを混合し、表2に示す組成の処理液を得た。その後、実施例1と同様の方法で、評価を行った。
【0101】
<比較例4>
前記比較例3で得た溶液に、ホウ酸(富士フィルム和光純薬製、試薬特級)0.6gを溶解して、pHが9.23になるよう水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を混合し、表2に示す組成の処理液を得た。その後、実施例1と同様の方法で、評価を行った。
【0102】
以上、実施例、比較例で調整した処理液の組成を表1、表2に、得られた結果を表3に示した。
【0103】
【表1】

*表1中、水は塩化物イオンを含む。
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
<実施例13>
実施例13として、(A)次亜塩素酸イオン、(B)pH緩衝剤、(C)テトラアルキ
ルアンモニウムイオンが、表4に示した組成となるよう実施例1と同様の方法で処理液を調製し、評価した。
【0107】
<実施例14>
実施例14は(A)次亜塩素酸イオン、(B)pH緩衝剤、(C)テトラアルキルアン
モニウムイオンが、表4に示した組成となるよう実施例5と同様の方法で処理液を調製し、評価を行った。
【0108】
<実施例15>
実施例15は(A)次亜塩素酸イオン、(B)pH緩衝剤、(C)テトラアルキルアン
モニウムイオンが、表4に示した組成となるよう実施例7と同様の方法で処理液を調製し、評価を行った。
【0109】
<評価>
得られた処理液のpH、有効塩素濃度、次亜塩素酸イオン濃度を評価し、テトラアルキルアンモニウムイオン濃度、ルテニウムエッチング速度、塩酸添加後のpH、および酸添加後のルテニウムエッチング速度、塩酸添加前後のエッチング変動率、RuO4ガスの定
量分析を評価した。結果を表5に示す。なお、処理液に塩酸を添加することで処理液のpHを強制的に酸性側に変動させ、エッチング速度の変動幅を評価することとした。表5の結果から、式(1)で示されるテトラアルキルアンモニウムイオンを2種類含んでいる場合でも、エッチング速度の変動率を低く抑えることができた。
【0110】
【表4】

*表4中、水は塩化物イオンを含む。
【0111】
【表5】
【符号の説明】
【0112】
1 基体
2 層間絶縁膜
3 ルテニウム
11 三ツ口フラスコ
12 温度計保護管
13 熱電対
14 回転子
15 PFA製チューブ
16 ガス洗浄瓶
17 5質量%水酸化ナトリウム水溶液
18 流量計
19 ウォーターバス
10 氷水
図1
図2
図3