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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20250311BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20250311BHJP
   H01J 37/21 20060101ALI20250311BHJP
   H01J 37/12 20060101ALI20250311BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20250311BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
H01L21/30 541F
H01L21/30 541D
H01L21/30 541E
H01L21/30 541Q
G03F7/20 504
H01J37/21 Z
H01J37/12
H01J37/147 C
H01J37/28 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021067803
(22)【出願日】2021-04-13
(65)【公開番号】P2022162802
(43)【公開日】2022-10-25
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森田 博文
(72)【発明者】
【氏名】東矢 高尚
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-144404(JP,A)
【文献】特開2007-294850(JP,A)
【文献】特開2013-168589(JP,A)
【文献】特開2013-191841(JP,A)
【文献】特開2017-112263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H01J 37/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
描画対象の基板に照射される荷電粒子ビームの照射位置を調整する位置決め偏向器と、
前記位置決め偏向器よりも前記荷電粒子ビームの進行方向の下流側に配置され、偏向量が固定された固定偏向器と、
前記基板の表面高さに合わせて前記荷電粒子ビームの焦点補正を行う焦点補正レンズと、
前記荷電粒子ビームの焦点を合わせる対物レンズと、
を備え
前記固定偏向器は静電型偏向器を有し、前記静電型偏向器を構成する複数の電極のうち少なくとも一対の対向する電極のそれぞれに、前記基板に荷電粒子ビームが照射されることにより放出される二次電子を前記固定偏向器側に偏向する固定の偏向電圧V 、-V が印加される、荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記焦点補正レンズは、静電レンズであり、前記基板の表面に対して正の電圧範囲で動作する、請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
描画対象の基板に照射される荷電粒子ビームの照射位置を調整する位置決め偏向器と、
前記位置決め偏向器よりも前記荷電粒子ビームの進行方向の下流側に配置され、偏向量が固定された固定偏向器と、
前記基板の表面高さに合わせて前記荷電粒子ビームの焦点補正を行う焦点補正レンズと、
前記荷電粒子ビームの焦点を合わせる対物レンズと、
を備え、
前記固定偏向器は静電型偏向器を有し、前記静電型偏向器を構成する複数の電極のうち少なくとも一対の対向する電極のそれぞれに、前記基板に荷電粒子ビームが照射されることにより放出される二次電子を前記固定偏向器側に偏向する固定の偏向電圧V 、-V に、前記基板の表面に対して正の共通電圧が加算された電圧が印加される、荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記焦点補正レンズは静電レンズであり、前記正の共通電圧は、前記焦点補正レンズに印加される電圧以上である、請求項3に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
前記一対の対向する電極の一方には前記共通電圧の2倍の電圧が印加され、他方の電極への印加電圧をゼロとする、請求項4に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項6】
前記焦点補正レンズは、前記位置決め偏向器よりも前記荷電粒子ビームの前記進行方向の下流側に配置される、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項7】
前記固定偏向器は、前記焦点補正レンズよりも前記荷電粒子ビームの前記進行方向の下流側に配置される、請求項6に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項8】
前記固定偏向器は、前記焦点補正レンズよりも前記荷電粒子ビームの前記進行方向の上流側に配置される、請求項6に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項9】
前記固定偏向器は、複数段の偏向器で構成される、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項10】
前記固定偏向器は、静電型偏向器及び磁界型偏向器を含む、請求項9に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項11】
記静電型偏向器を構成する複数の電極の少なくとも1つのビーム通過領域側の表面に凹部が設けられている、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項12】
前記位置決め偏向器と前記固定偏向器との間に設けられたアパーチャ板をさらに備える、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項13】
前記アパーチャ板の前記荷電粒子ビームの進行方向下流側の面に凹部が設けられている、請求項12に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターン(マスク、或いは特にステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)をウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンは、電子ビーム描画装置によって描画され、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置では、各ショットのビームを対物レンズで基板の表面である試料面上に焦点を合わせると共に、静電レンズを使って、試料面の凹凸に対応するように描画中にダイナミックに焦点補正(ダイナミックフォーカス)を行っている。この静電レンズをマイナスの電圧範囲で運用した場合、電子ビーム描画により発生した二次電子が試料面に戻ることでレジストの帯電が生じ、描画パターンの位置精度向上の妨げとなる。
【0004】
二次電子等の戻りによる影響を抑えるためには、試料面に対して静電レンズをプラス(正)の電圧範囲で運用し、二次電子を試料から上方に誘導することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第99/46798号
【文献】特開2001-357808号公報
【文献】特開2007-141488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、静電レンズをプラスの電圧範囲で運用した場合、試料面からの二次電子が静電レンズを通過した後に急激に減速してビーム軌道上に高密度に滞留したり、また偏向器の電極内面の非導電性の汚れ(コンタミネーション)に帯電したりすることで、電子ビーム近傍の電界が変化し、電子ビームの軌道を変化させ、ビーム位置精度を劣化させるという問題が発生する。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、二次電子の空間滞留と偏向器電極帯電によるビーム位置の変動を同時に解決することが可能な荷電粒子ビーム描画装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画装置は、描画対象の基板に照射される荷電粒子ビームの照射位置を調整する位置決め偏向器と、前記位置決め偏向器よりも前記荷電粒子ビームの進行方向の下流側に配置され、偏向量が固定された固定偏向器と、前記基板の表面高さに合わせて前記荷電粒子ビームの焦点補正を行う焦点補正レンズと、前記荷電粒子ビームの焦点を合わせる対物レンズと、を備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、二次電子の空間滞留と偏向器電極帯電によるビーム位置の変動を同時に解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る電子ビーム描画装置の概略図である。
図2】第1成形アパーチャ及び第2成形アパーチャの斜視図である。
図3】対物レンズの断面図である。
図4】(a)(b)は比較例による二次電子の軌道を説明する図である。
図5】(a)(b)は同実施形態による二次電子の軌道を説明する図である。
図6】固定偏向器の印加電圧の例を示す図である。
図7】固定偏向器の印加電圧の例を示す図である。
図8】(a)(b)は固定偏向器の構成例を示す図である。
図9】複数の固定偏向器を配置する例を示す図である。
図10】変形例による固定偏向器の概略構成図である。
図11】アパーチャ板を配置する例を示す図である。
図12】(a)(b)は二次電子の軌道を説明する図である。
図13】焦点補正レンズの下方に固定偏向器を配置した構成を示す図である。
図14】固定偏向器の構成例を示す図である。
図15図14のXV-XV線断面図である。
図16】固定偏向器の上方に電子検出器を配置した構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る電子ビーム描画装置の概略図である。図1に示す電子ビーム描画装置は、制御部100と描画部200とを備えた可変成形型の描画装置である。
【0013】
描画部200は、電子光学鏡筒220と描画室230を備えている。電子光学鏡筒220内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランカ203、第1成形アパーチャ部材204、投影レンズ205、成形偏向器206、第2成形アパーチャ部材207、対物レンズ208、位置決め偏向器209、焦点補正レンズ210及び固定偏向器212が配置されている。
【0014】
描画室230内には、XYステージ232が配置されている。XYステージ232上には、描画対象の基板240が載置される。描画室230の上部には、基板240の高さ方向(Z方向)の位置を検出するZセンサ250が配置されている。Zセンサ250は、投光器と受光器の組み合わせから構成され、投光器から照射された光を基板240の表面で反射させ、この反射光を受光器が受光することで、基板240の表面高さを測定することができる。基板240はアース電位に固定されている。
【0015】
Zセンサ250によって検出された高さデータは、検出回路150によってデジタルデータに変換された後、制御計算機110へ転送される。
【0016】
電子光学鏡筒220内に設けられた電子銃201(放出部)から放出された電子ビームBは、ブランカ(ブランキング偏向器)203内を通過する際にブランカ203によって、電子ビームを基板に照射するか否か切り替えられる。
【0017】
電子ビームBは、照明レンズ202により、矩形の開口32(図2参照)を有する第1成形アパーチャ部材204全体に照射される。第1成形アパーチャ部材204の開口32を通過することで、電子ビームBは矩形に成形される。
【0018】
第1成形アパーチャ部材204を通過した第1アパーチャ像の電子ビームBは、投影レンズ205により、可変成形開口34(図2参照)を有した第2成形アパーチャ部材207上に投影される。その際、成形偏向器206によって、第2成形アパーチャ部材207上に投影される第1アパーチャ像が偏向制御され、可変成形開口34を通過する電子ビームの形状と寸法を変化させる(可変成形を行う)ことができる。
【0019】
第2成形アパーチャ部材207の可変成形開口34を通過した第2アパーチャ像の電子ビームBは、位置決め偏向器209によって偏向され、対物レンズ208及び焦点補正レンズ210により焦点を合わせ、連続的に移動するXYステージ232上に載置された基板240に照射される。
【0020】
位置決め偏向器209は、電子ビームを所望の位置に偏向照射するものであり、一段の偏向器であってもよく、偏向領域の大きさの異なる複数段の偏向器で構成されていてもよい。例えば、主偏向器及び副偏向器の2段構成でもよいし、主偏向器、副偏向器及び副副偏向器の3段構成でもよい。
【0021】
照明レンズ202、投影レンズ205及び対物レンズ208には、電磁レンズ(磁界型レンズ)が用いられるが、一部または全部を静電レンズとしてもかまわない。焦点補正レンズ210は基板240の表面の高さ変動に対するダイナミックフォーカス調整を行うものであり、静電レンズが用いられるが、電磁レンズ(軸対称磁界を発生させるコイルを含む)を用いてもよい。また、各印加電圧や励磁電流が一定の関係で連動して変化する多段のレンズ系で構成してもよい。あるいは、対物レンズ208が焦点補正レンズ210の機能を合わせて備えてもよいし、対物レンズ208と焦点補正レンズ210とが一定の関係で連動する事でフォーカス調整を行う構成としてもよい。
【0022】
固定偏向器212は、位置決め偏向器209よりも、電子ビームBの進行方向の下流側に配置される。固定偏向器212は、静電型偏向器である。焦点補正レンズ210は、固定偏向器212よりも、電子ビームBの進行方向の下流側に配置される。
【0023】
図2は、第1成形アパーチャ部材204及び第2成形アパーチャ部材207によるビーム成形を説明するための概略図である。第1成形アパーチャ部材204には、電子ビームBを成形するための矩形の開口32が形成されている。
【0024】
また、第2成形アパーチャ部材207には、第1成形アパーチャ部材204の開口32を通過した電子ビームBを所望の形状に成形するための可変成形開口34が形成されている。第1成形アパーチャ部材204の開口32と第2成形アパーチャ部材207の可変成形開口34との両方を通過したビーム形状が、連続的に移動するXYステージ232上に搭載された基板240の描画領域に描画される。
【0025】
図1に示すように、制御部100は、制御計算機110、偏向制御回路120、記憶部130、レンズ制御回路140、及び検出回路150を有する。記憶部130には、レイアウトデータとなる描画データが外部から入力され、格納されている。
【0026】
制御計算機110は、ショットデータ生成部111及び描画制御部112を有する。制御計算機110の各部は、電気回路等のハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、制御計算機110の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを記録媒体に収納し、CPUを含むコンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0027】
ショットデータ生成部111は、記憶部130から描画データを読み出し、複数段のデータ変換処理を行ってショットデータを生成する。ショットデータには、ショット形状、ショットサイズ、ショット位置、ショット時間等の情報が含まれている。
【0028】
描画制御部112は、ショットデータをショット順に偏向制御回路120へ転送する。偏向制御回路120は、ショットデータを用いて、ブランカ203、成形偏向器206及び位置決め偏向器209の偏向量を制御し、描画処理を行う。
【0029】
また、偏向制御回路120は、描画処理中、固定偏向器212に一定(固定)の電圧を印加する。
【0030】
レンズ制御回路140は、描画部200に設けられた各レンズの制御を行う。例えば、レンズ制御回路140は、対物レンズ208のコイルに印加する電流量を制御する。また、レンズ制御回路140は、Zセンサ250で検出された基板240の表面高さに基づいて、焦点補正レンズ210に印加する電圧を制御する。
【0031】
対物レンズ208は電磁レンズであり、図3に示すように、コイル208aと、コイル208aを収容するヨーク208bとを有する。ヨーク208bは鉄などの透磁率の高い材料で構成され、一部に切り欠き(ポールピース208c)が設けられている。
【0032】
コイル208aに電流を流して作られた磁力線が、ポールピース208cを介して空間に漏洩し、磁界が作られる。
【0033】
焦点補正レンズ210は、例えば、対物レンズ208の内部、例えばポールピース208cの高さに合わせて配置される。焦点補正レンズ210は静電レンズであり、リング状の電極を有する。この電極には正の電圧が印加され、焦点補正レンズ210はプラスの電圧範囲で運用される。これにより、二次電子は、電極側に引き寄せられ、レジストの帯電による位置変動を抑えることができる。
【0034】
電子ビームB(一次ビーム)が基板240に照射されると、基板面から二次電子が放出される。二次電子は、電子光学鏡筒220内を上方へ進む。
【0035】
描画処理では、基板240表面のレジストがビーム照射により蒸発し、位置決め偏向器209の電極表面にコンタミネーション(汚れ)が付着する。固定偏向器212が設けられていない場合、図4(a)に示すように、二次電子は位置決め偏向器209の電極表面のコンタミネーションに到達して帯電し、電子ビームBの軌道を変化させる。
【0036】
図4(b)に示すように、位置決め偏向器209の電極への印加電圧を変えてビーム偏向位置(基板240におけるビーム照射位置)を変化させると、位置決め偏向器209内の電界の強度と方向が変わり、二次電子の到達位置、すなわち帯電位置が電極を跨いで大きく変わる。帯電位置が大きく変わることで、ビーム近傍の電界の大きな変化が生じ、その結果、ビーム照射位置の大きな変動(ドリフト)が生じる。
【0037】
そこで、本実施形態では、焦点補正レンズ210と位置決め偏向器209との間に、固定偏向器212を設置し、固定偏向器212に固定電圧を印加する。描画処理中、固定偏向器212への印加電圧を変化させないため、固定偏向器212による偏向量は固定される。図5(a)に示すように、二次電子は、固定偏向器212側へ横方向に偏向され、電子ビームBの軌道近傍から除去され、位置決め偏向器209へはほとんど到達しなくなる。
【0038】
固定偏向器212により偏向された二次電子は、固定偏向器212の電極に到達し、電極に帯電が生じる。図5(b)に示すように、位置決め偏向器209への印加電圧を変えてビーム照射位置を変えた場合でも、固定偏向器212の偏向電圧(偏向励磁)は一定であるため、二次電子の到達位置(帯電位置)の変化は無く、電子ビーム近傍の電界の変化(方向を含めた電界変化)は小さくなるので、ビーム照射位置変動も小さくなる。そのため、ビーム位置精度を向上できる。
【0039】
一般に、二次電子のエネルギー(数十eV以下)は、描画用の電子ビームBのエネルギー(50kV程度)と比較して極めて低いため、二次電子を偏向しても、電子ビームBはほとんど偏向されず、光学特性への影響はほとんど無い。
【0040】
図6は、固定偏向器212への印加電圧の一例を示す。図6に示すように、固定偏向器212が、4個の電極212a~212dを有する静電型の四極偏向器である場合、対向する一対の電極212a、212cにそれぞれ固定の偏向電圧V、-Vを印加し、残りの電極212b、212dはアース電位に固定する。偏向電圧V、-Vは、固定偏向器212の諸元を考慮して数値シミュレーションにより決定される。例えば、偏向電圧Vは20V以上である。4個の電極212a~212dで囲まれた空間が、電子ビームBの通過領域となる。
【0041】
図7に示すように、電極212a~212dへの印加電圧に、プラスの共通電圧Vcをさらに加算してもよい。共通電圧Vcは、焦点補正レンズ210への印加電圧の上限値以上の値とする。共通電圧Vcは、描画処理中、一定(固定)の値が偏向制御回路120から印加される。これにより、焦点補正レンズ210を通過した二次電子が減速せずに固定偏向器212へ移動するため、焦点補正レンズ210と固定偏向器212との間での二次電子の滞留を防止し、ビーム照射位置精度を向上できる。
【0042】
固定偏向器212は、四極偏向器に限定されず、八極偏向器でもよい。また、図8(a)に示すように、電極212b、212dを省略した二極偏向器であってもよい。対向する一対の電極212a、212cは、図8(a)に示すような平板構造でもよいし、図8(b)に示すように、ビーム通過領域側の表面が外側に凸となるように湾曲した構造となっていてもよい。
【0043】
電極212aへの印加電圧をV、電極212cへの印加電圧を-Vとする。印加電圧にプラスの共通電圧Vcを加算する場合は、電極212aへの印加電圧がVc+V、電極212cへの印加電圧がVc-Vとなる。ここで、Vc=Vとすると、電極212aへの印加電圧が2V、電極212cへの印加電圧が0となり、電極212cへの電圧印加用の電源が省略可能となり、コストを抑えることができる。
【0044】
上記実施形態では、固定偏向器212を1つ設置する例について説明したが、複数の固定偏向器を設置してもよい。複数の固定偏向器を組み合わせることで、電子ビームB(描画用の一次ビーム)の歪みや収差を低減できる。
【0045】
複数の固定偏向器は、静電型偏向器と磁界型偏向器の両方を含んでもよい。図9は、静電型の固定偏向器212と、磁界型の固定偏向器213、214を配置した構成の例を示している。
【0046】
図10に示すように、固定偏向器212の電極のビーム通過領域側の表面に凹部R1を形成してもよい。二次電子の軌道シミュレーション等により、二次電子が当たる領域を計算し、算出した領域に凹部R1を形成する。二次電子が当たらない電極にも凹部R1を形成してもよい。
【0047】
凹部R1を形成することで、凹部R1の底面が二次電子による帯電位置となり、凹部R1が無い場合と比較して、帯電位置が電子ビームBの軌道から遠くなり、帯電が生じてもビームへの偏向感度が下がるため、ビームをより安定化させることができる。よって、ビーム照射位置精度を向上できる。
【0048】
図11に示すように、位置決め偏向器209と固定偏向器212との間に、ビーム通過孔262を有するアパーチャ板260を設け、固定偏向器212の印加電圧を調整し、二次電子が固定偏向器212でなく、アパーチャ板260に当たるようにしてもよい。
【0049】
アパーチャ板260の下面(電子ビームBの進行方向下流側の面)に凹部R2を形成してもよい。二次電子の軌道シミュレーション等により、二次電子が当たる領域を計算し、算出した領域に凹部R2を形成する。凹部R2の上面が二次電子による帯電位置となり、凹部R2が無い場合と比較して、帯電位置が電子ビームBの軌道から遠くなり、帯電が生じてもビームへの偏向感度が下がるため、ビームをより安定化させることができる。よって、ビーム照射位置精度を向上できる。
【0050】
凹部R2は、ビーム通過孔262を囲むように円周状に形成されていてもよいし、一部にのみ形成されていてもよい。
【0051】
対物レンズ208のビーム進行方向上流側の磁極内径を大きくして、上流方向のレンズ集束磁界分布を広くすることで、収差や歪みの低減を図ることがある。この場合、前記レンズ集束磁界が固定偏向器に到達するので、二次電子は、図12(a)、(b)に示すように、偏向電界に垂直な方向に移動する。言い換えれば、偏向電圧V、-Vを印加している電極212a、212cの表面に対し略平行に移動する。
【0052】
電極212a、212cの長さL1を電極212b、212dの長さL2よりも長くすることで、二次電子による帯電位置が電子ビームBの軌道から遠くなり、ビームへの偏向感度が下がるため、ビームをより安定化させることができる。よって、ビーム照射位置精度を向上できる。
【0053】
上記実施形態では、固定偏向器212を焦点補正レンズ210と位置決め偏向器209との間に配置する構成について説明したが、図13に示すように、焦点補正レンズ210と基板240との間(焦点補正レンズ210よりもビーム進行方向の下流側)に固定偏向器212を配置してもよい。
【0054】
基板240と焦点補正レンズ210との間の距離が短い場合、固定偏向器212の電極を、図14図15に示すように、薄板状の円環を分割した分割円環状としてもよい。
【0055】
図16に示すように、分割円環状の電極に、基板240で反射した電子が通過する開口hを形成し、開口hの上方に、マーク位置を検出するための電子検出器270を配置してもよい。
【0056】
上記実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明したが、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0057】
上記実施形態では、シングルビームを用いた構成について説明したが、マルチビームを用いたものであってもよい。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0059】
100 制御部
110 制御計算機
208 対物レンズ
209 位置決め偏向器
210 焦点補正レンズ
212 固定偏向器
図1
図2
図3
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図5
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図16