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  • 特許-位相差フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】位相差フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20250311BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20250311BHJP
   C08G 61/08 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/02
C08G61/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021543020
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032474
(87)【国際公開番号】W WO2021039934
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019158709
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 恭輔
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-131538(JP,A)
【文献】国際公開第2009/038142(WO,A1)
【文献】特開2014-91793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/02 - 55/20
C08G 61/08
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された位相差フィルムの製造方法であって、
前記樹脂で形成された延伸フィルムを用意する第一工程と、
前記延伸フィルムを、有機溶媒に接触させる第二工程と、を含み;
前記第二工程において、前記延伸フィルムに張力が与えられており、
前記位相差フィルムの、測定波長590nmでの面内レターデーションの変動係数CV(Re)が、1.0%以下であり、
前記位相差フィルムのNZ係数の平均値が、0.0より大きく1.0未満であり、
前記位相差フィルムが、前記位相差フィルムの重量100%に対し、前記有機溶媒を0.01ppm以上10重量%以下含み、
前記結晶性を有する重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であり、
前記変動係数CV(Re)が、前記位相差フィルムの面内レターデーションReの標準偏差を当該面内レターデーションReの平均値で割り算し、百分率に換算したものである、位相差フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂を用いたフィルムの製造技術が提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-026909号公報
【文献】特許第6406479号公報
【文献】特開平02-064141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂を用いて製造されるフィルムの一つに、位相差フィルムがある。位相差フィルムは、面内方向及び厚み方向のうち少なくとも一方にレターデーションを有するので、一般に、面内方向及び厚み方向のうち少なくとも一方の方向に複屈折を有する。
【0005】
このような位相差フィルムは、例えば、樹脂フィルムに延伸処理を施して製造されうる。樹脂フィルムに延伸処理を施すと、一般に、その樹脂フィルムに含まれる重合体の分子が延伸方向に配向する。よって、延伸処理によってフィルム中の重合体の分子を配向させることにより、そのフィルムに複屈折が発現するので、所望のレターデーションを有する位相差フィルムを得ることができる。
【0006】
近年、位相差フィルムには、その厚みを薄くすることが求められている。薄く且つ所望のレターデーションを有する位相差フィルムを得るための方法としては、フィルムの複屈折を大きくすることが挙げられる。ところが、大きな複屈折を得るために延伸処理において延伸倍率を大きくすると、厚み及び光学特性のバラツキが大きくなったり、延伸による破断が生じ易くなったりして、位相差フィルムの安定した製造が困難になりうる。
【0007】
前記のような事情から、位相差フィルムの製造方法として、新たな技術の開発が求められる。そこで、出願人が検討したところ、結晶性を有する重合体を含む樹脂のフィルムは、延伸処理の後で熱処理を行うと、大きな複屈折を発現するとの知見が得られた。この知見に基づき、出願人は、延伸処理と熱処理とを組み合わせて位相差フィルムを製造することを試みた。
【0008】
具体的には、前記の方法では、延伸処理によって複屈折を発現させた後、熱処理によってその複屈折を更に大きくする。これにより、フィルムに発現させることができる複屈折の範囲を広くできるので、レターデーションの大きさを維持しながら厚みを高い自由度で調整でき、よって薄く且つ所望のレターデーションを有する位相差フィルムを実現することが期待できる。
【0009】
しかしながら、延伸処理と熱処理とを組み合わせた前記の方法では、得られる位相差フィルムの面内レターデーションReのバラツキが大きくなり易かった。
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、面内レターデーションの均一性に優れる位相差フィルム;及び、面内レターデーションの均一性に優れる位相差フィルムを簡単に製造できる製造方法;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された延伸フィルムに、張力を加えながら有機溶媒を接触させると、当該延伸フィルムの光学特性を高い均一性で調整でき、その結果、面内レターデーションの均一性に優れる位相差フィルムが得られることを見い出した。本発明は、この知見に基づき、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0011】
〔1〕 結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成され、
測定波長590nmでの面内レターデーションの変動係数CV(Re)が、1.0%以下である、位相差フィルム。
〔2〕 前記位相差フィルムが、有機溶媒を含む、〔1〕に記載の位相差フィルム。
〔3〕 前記結晶性を有する重合体が、脂環式構造を含有する、〔1〕又は〔2〕に記載の位相差フィルム。
〔4〕 前記結晶性を有する重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
〔5〕 結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成された延伸フィルムを用意する第一工程と、
前記延伸フィルムを、有機溶媒に接触させる第二工程と、を含み、
前記第二工程において、前記延伸フィルムに張力が与えられている、位相差フィルムの製造方法。
〔6〕 前記結晶性を有する重合体が、脂環式構造を含有する、〔5〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔7〕 前記結晶性を有する重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、〔5〕又は〔6〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、面内レターデーションの均一性に優れる位相差フィルム;及び、面内レターデーションの均一性に優れる位相差フィルムを簡単に製造できる製造方法;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1で得られた延伸フィルムを模式的に示す平面図である。
図2図2は、実施例1で用いた治具を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0015】
以下の説明において、フィルムの面内レターデーションReは、別に断らない限り、「Re=(nx-ny)×d」で表される値である。また、フィルムの面内方向の複屈折は、別に断らない限り、「(nx-ny)」で表される値であり、よって「Re/d」で表される。さらに、フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、「Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×d」で表される値である。また、フィルムの厚み方向の複屈折は、別に断らない限り、「[{(nx+ny)/2}-nz]」で表される値であり、よって「Rth/d」で表される。さらに、フィルムのNZ係数は、別に断らない限り、「(nx-nz)/(nx-ny)」で表される値であり、よって「0.5+Rth/Re」で表される。nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、フィルムの前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは、フィルムの厚み方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0016】
以下の説明において、フィルムの縦方向と横方向とは、別に断らない限り、互いに垂直であり、且つ、いずれも当該フィルムの厚み方向に対して垂直である。通常、矩形のフィルムでは、対向する2組の辺のうち、一方の組の辺に平行な方向が縦方向、他方の組の辺に平行な方向が横方向でありうる。また、通常、長尺のフィルムでは、長手方向が縦方向、幅方向が横方向に相当しうる。
【0017】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長さの上限に特段の制限は無いが、通常、幅に対して10万倍以下である。
【0018】
以下の説明において、長尺のフィルムの長手方向は、通常は製造ラインにおけるフィルム搬送方向と平行である。また、MD方向(mashine direction)は、製造ラインにおけるフィルムの搬送方向であり、通常は長尺のフィルムの長手方向と平行である。さらに、TD方向(transverse direction)は、フィルム面に平行な方向であって、前記MD方向に垂直な方向であり、通常は長尺のフィルムの幅方向と平行である。
【0019】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0020】
[1.第一実施形態に係る位相差フィルムの概要]
本発明の第一実施形態に係る位相差フィルムは、結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成され、且つ、測定波長590nmでの面内レターデーションの変動係数CV(Re)が1.0%以下である。
【0021】
このような位相差フィルムは、従来の技術では実現が難しかった。中でも、レターデーション若しくは複屈折で表される光学異方性が大きかったり、又は、結晶化度で表される結晶化の進行の程度が大きかったりする場合には、結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成されたフィルムの面内レターデーションのバラツキが大きくなる傾向があったので、前記の位相差フィルムを従来の技術で実現することは特に困難であった。しかし、本発明により、前記の位相差フィルムを初めて実現することができる。
【0022】
第一実施形態に係る位相差フィルムは、大きな光学異方性を有する場合であっても、その光学異方性の均一性を高めることができる。よって、薄く且つ所望のレターデーションを有する実用的な位相差フィルムの実現が可能になる。従来、所望のレターデーションを維持しながら位相差フィルムを薄くするという課題を解決するための技術手段が求められていたが、その技術的手段を具体化することは困難であった。一局面において、第一実施形態に係る位相差フィルムは、前記の技術的手段の具体化を初めて達成したものと言える。
【0023】
[2.第一実施形態に係る位相差フィルムに含まれる結晶性樹脂]
第一実施形態に係る位相差フィルムは、結晶性を有する重合体を含む樹脂で形成されている。「結晶性を有する重合体」とは、融点Tmを有する重合体を表す。すなわち、「結晶性を有する重合体」とは、示差走査熱量計(DSC)で融点を観測することができる重合体を表す。以下の説明において、結晶性を有する重合体を、「結晶性重合体」ということがある。また、結晶性重合体を含む樹脂を「結晶性樹脂」ということがある。この結晶性樹脂は、好ましくは熱可塑性樹脂である。
【0024】
結晶性重合体は、正の固有複屈折を有することが好ましい。正の固有複屈折を有する重合体とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも大きくなる重合体を意味する。固有複屈折の値は誘電率分布から計算することができる。
【0025】
結晶性重合体は、脂環式構造を含有することが好ましい。脂環式構造を含有する結晶性重合体を用いることにより、位相差フィルムの機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性を良好にできる。脂環式構造を含有する重合体とは、分子内に脂環式構造を含有する重合体を表す。このような脂環式構造を含有する重合体は、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物でありうる。
【0026】
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる位相差フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0027】
脂環式構造を含有する結晶性重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を含有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造を含有する構造単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。全ての構造単位に対する脂環式構造を含有する構造単位の割合は、100重量%以下としうる。また、脂環式構造を含有する結晶性重合体において、脂環式構造を含有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0028】
脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる位相差フィルムが得られ易いことから、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
【0029】
具体的には、脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましい。中でも、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0030】
ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、ラセモ・ダイアッドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物における繰り返し単位のラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは85%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合が高いことは、シンジオタクチック立体規則性が高いことを表す。よって、ラセモ・ダイアッドの割合が高いほど、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の融点が高い傾向がある。
ラセモ・ダイアッドの割合は、後述する実施例に記載の13C-NMRスペクトル分析に基づいて決定できる。
【0031】
上記重合体(α)~重合体(δ)としては、国際公開第2018/062067号に開示されている製造方法により得られる重合体を用いうる。
【0032】
結晶性重合体の融点Tmは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Tmを有する結晶性重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0033】
通常、結晶性重合体は、ガラス転移温度Tgを有する。結晶性重合体の具体的なガラス転移温度Tgは、特に限定されないが、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
【0034】
重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmは、以下の方法によって測定できる。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷する。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定しうる。
【0035】
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する結晶性重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0036】
結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する結晶性重合体は、成形加工性に優れる。
【0037】
重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
【0038】
位相差フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度は、特段の制限はないが、通常は、ある程度以上高い。具体的な結晶化度の範囲は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、特に好ましくは30%以上である。
結晶性重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0039】
結晶性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0040】
結晶性樹脂における結晶性重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。結晶性重合体の割合が前記範囲の下限値以上である場合、位相差フィルムの複屈折の発現性及び耐熱性を高めることができる。結晶性重合体の割合の上限は、100重量%以下でありうる。
【0041】
結晶性樹脂は、結晶性重合体に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;及び、軟質重合体等の、結晶性重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0042】
[3.第一実施形態に係る位相差フィルムの光学特性]
本発明の第一実施形態に係る位相差フィルムは、測定波長590nmでの面内レターデーションReの変動係数CV(Re)が、特定範囲にある。具体的には、前記の面内レターデーションReの変動係数CV(Re)は、通常1.0%以下、好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.5%以下であり、理想的には0.0%である。位相差フィルムの面内レターデーションReの変動係数CV(Re)が前記の特定範囲にあることは、位相差フィルムの面内レターデーションReが均一性に優れることを表す。このような位相差フィルムは、画像表示装置に設けた場合に、当該画像表示装置の画面の表示品質を当該画面内の位置に依らず均一にできる。
【0043】
変動係数とは、平均値を基準として標準偏差を百分率で表した値を表す。よって、位相差フィルムの面内レターデーションReの変動係数CV(Re)は、位相差フィルムの面内レターデーションReの標準偏差を当該面内レターデーションReの平均値で割り算し、それを百分率に換算して求めうる。位相差フィルムの面内レターデーションReの平均値及び標準偏差の測定方法は、後述する。
【0044】
位相差フィルムは、通常、面内方向及び厚み方向のうち少なくとも一方の方向に大きな複屈折を有する。具体的には、位相差フィルムは、通常、1.0×10-3以上の面内方向の複屈折の平均値、及び、1.0×10-3以上の厚み方向の複屈折の平均値の絶対値、の少なくとも一方を有する。
【0045】
詳細には、位相差フィルムの面内方向の複屈折の平均値は、通常1.0×10-3以上、好ましくは5.0×10-3以上、特に好ましくは15.0×10-3以上である。上限に制限はなく、例えば、50.0×10-3以下、30.0×10-3以下、又は25.0×10-3以下でありうる。ただし、位相差フィルムの厚み方向の複屈折の平均値の絶対値が1.0×10-3以上である場合には、位相差フィルムの面内方向の複屈折の平均は前記範囲の外にあってよい。
【0046】
また、位相差フィルムの厚み方向の複屈折の平均値の絶対値は、通常1.0×10-3以上、好ましくは3.0×10-3以上、特に好ましくは5.0×10-3以上である。上限に制限はなく、例えば、20.0×10-3以下、15.0×10-3以下、又は10.0×10-3以下でありうる。ただし、位相差フィルムの面内方向の複屈折の平均値が1.0×10-3以上である場合には、位相差フィルムの厚み方向の複屈折の平均値の絶対値は前記範囲の外にあってよい。
【0047】
結晶性樹脂のフィルムに延伸処理を施し、更に熱処理を行えば、前記のように大きな複屈折を有する位相差フィルムが得られることはありえたが、その複屈折が大きなバラツキを生じる傾向があった。これに対し、第一実施形態に係る位相差フィルムは、通常、前記のように大きな複屈折を有しながら、複屈折のバラツキを小さくして、高い均一性を達成できる。
【0048】
複屈折の均一性の程度は、標準偏差又は変動係数によって表すことができる。
位相差フィルムの面内方向の複屈折の標準偏差は、好ましくは0.10×10-3以下、より好ましくは0.08×10-3以下、特に好ましくは0.06×10-3以下である。また、位相差フィルムの面内方向の複屈折の変動係数は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.6%以下であり、理想的には0%である。
【0049】
位相差フィルムの厚み方向の複屈折の標準偏差は、好ましくは0.10×10-3以下、より好ましくは0.08×10-3以下、特に好ましくは0.04×10-3以下である。また、位相差フィルムの厚み方向の複屈折の変動係数の絶対値は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.9%以下、特に好ましくは0.8%以下であり、理想的には0%である。
【0050】
位相差フィルムの複屈折の平均値、標準偏差及び変動係数は、下記の方法で測定しうる。
位相差フィルムを、縦方向に3つ、横方向に3つに区分し、同じ面積の測定エリア9つを設定する。そして、測定エリアそれぞれの中央部において、複屈折の測定を行う。得られた9つの測定値から、平均値及び標準偏差を計算する。また、標準偏差を平均値で割り算し、それを百分率に換算して、変動係数を求める。
複屈折のうち、面内方向の複屈折は、位相差計(例えば、AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)を用いて面内レターデーションを測定し、その測定値を厚みで割り算して求めうる。また、厚み方向の複屈折は、位相差計(例えば、AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)を用いて厚み方向のレターデーションを測定し、その測定値を厚みで割り算して求めうる。
【0051】
位相差フィルムの面内レターデーションReの値は、位相差フィルムの用途に応じて設定しうる。
位相差フィルムの具体的な面内レターデーションReの平均値は、例えば、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上、特に好ましくは120nm以上でありえ、また、好ましくは180nm以下、より好ましく170nm以下、特に好ましくは160nm以下でありえる。この場合、位相差フィルムは、1/4波長板として機能できる。
【0052】
さらに、位相差フィルムの具体的な面内レターデーションReの平均値は、例えば、好ましくは245nm以上、より好ましくは265nm以上、特に好ましくは270nm以上でありえ、また、好ましくは320nm以下、より好ましくは300nm以下、特に好ましくは295nm以下でありえる。この場合、位相差フィルムは、1/2波長板として機能できる。
【0053】
位相差フィルムは、面内レターデーションReの均一性に優れるので、通常、当該面内レターデーションReの標準偏差を小さくできる。具体的には、位相差フィルムの面内レターデーションReの標準偏差は、好ましくは4.0nm以下、より好ましくは3.0nm以下、特に好ましくは2.0nm以下であり、理想的には0.0nmである。
【0054】
位相差フィルムの面内レターデーションReの平均値及び標準偏差は、下記の方法で測定しうる。
位相差フィルムを、縦方向に3つ、横方向に3つに区分し、同じ面積の測定エリア9つを設定する。そして、測定エリアそれぞれの中央部において、面内レターデーションReの測定を行う。得られた9つの測定値から、平均値及び標準偏差を計算する。面内レターデーションReは、位相差計(例えば、AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)を用いて測定しうる。
【0055】
位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthの値は、位相差フィルムの用途に応じて設定しうる。位相差フィルムの具体的な厚み方向のレターデーションRthの平均値の絶対値は、好ましくは50nm以上、より好ましくは55nm以上、特に好ましくは60nm以上でありうる。また、上限は、10000nm以下でありうる。
【0056】
位相差フィルムは、通常、厚み方向のレターデーションRthの均一性に優れる。よって、位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthの標準偏差及び変動係数CV(Rth)は、好ましくは小さく。具体的には、位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthの標準偏差は、好ましくは2.5nm以下、より好ましくは2.0nm以下、特に好ましくは1.5nm以下であり、理想的には0.0nmである。また、位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthの変動係数CV(Rth)の絶対値は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.9%以下、特に好ましくは0.8%以下であり、理想的には0%である。
【0057】
位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthの平均値、標準偏差及び変動係数は、下記の方法で測定しうる。
位相差フィルムを、縦方向に3つ、横方向に3つに区分し、同じ面積の測定エリア9つを設定する。そして、測定エリアそれぞれの中央部において、厚み方向のレターデーションRthの測定を行う。得られた9つの測定値から、平均値及び標準偏差を計算する。また、標準偏差を平均値で割り算し、それを百分率に換算して、変動係数を求める。厚み方向のレターデーションReは、位相差計(例えば、AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)を用いて測定しうる。
【0058】
位相差フィルムのNZ係数の値は、位相差フィルムの用途に応じて設定しうる。位相差フィルムの具体的なNZ係数の平均値は、好ましくは0.0より大きく、より好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.6以上であり、好ましくは1.0未満である。0.0より大きく1.0未満のNZ係数の平均値を有する位相差フィルムは、従来の技術による製造が困難であったことから、前記の範囲のNZ係数の平均値を有する位相差フィルムは、工業上、有益である。前記の範囲のNZ係数の平均値を有する位相差フィルムは、表示装置に設けた場合に、その表示装置の視野角、コントラスト、画質等の表示品質の改善が可能である。
【0059】
位相差フィルムは、通常、NZ係数の均一性に優れる。よって、位相差フィルムのNZ係数の変動係数は、好ましくは小さい。具体的には、位相差フィルムのNZ係数の変動係数は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.7%以下、特に好ましくは0.5%以下であり、理想的には0.0%である。
【0060】
位相差フィルムのNZ係数の平均値及び変動係数は、下記の方法で測定しうる。
位相差フィルムを、縦方向に3つ、横方向に3つに区分し、同じ面積の測定エリア9つを設定する。そして、測定エリアそれぞれの中央部において、面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthの測定を行い、「NZ係数=0.5+Rth/Re」によりNZ係数を計算する。得られた9つの計算値から、その平均値及び標準偏差を求める。また、標準偏差を平均値で割り算し、それを百分率に換算して、変動係数を求める。面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションReは、上述した方法で測定できる。
【0061】
位相差フィルムは、光学フィルムであるので、高い透明性を有することが好ましい。
位相差フィルムの具体的な全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは88%以上である。位相差フィルムの全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0062】
また、位相差フィルムのヘイズは、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.8%未満、特に好ましくは0.5%未満であり、理想的には0.0%である。位相差フィルムのヘイズは、ヘイズメーター(例えば、日本電色工業社製「NDH5000」)を用いて測定しうる。
【0063】
[4.第一実施形態に係る位相差フィルムに含まれうる有機溶媒]
本発明の第一実施形態に係る位相差フィルムは、有機溶媒を含みうる。この有機溶媒は、通常、第二実施形態で説明する製造方法の第二工程においてフィルム中に取り込まれたものである。
【0064】
第二工程においてフィルム中に取り込まれた有機溶媒の全部または一部は、重合体の内部に入り込みうる。したがって、有機溶媒の沸点以上で乾燥を行ったとしても、容易には溶媒を完全に除去することは難しい。よって、位相差フィルムは、有機溶媒を含みうる。
【0065】
前記の有機溶媒としては、結晶性重合体を溶解しないものを用いうる。好ましい有機溶媒としては、例えば、トルエン、リモネン、デカリン等の炭化水素溶媒;二硫化炭素;が挙げられる。有機溶媒の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0066】
位相差フィルムの重量100%に対する当該位相差フィルムに含まれる有機溶媒の比率(溶媒含有率)は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは4重量%以下、特に好ましくは0.1重量%以下である。下限は、ゼロに近いほど好ましく、通常は検出限界以上である。下限は、具体的に好ましくは0.01ppm以上である。
【0067】
位相差フィルムの溶媒含有率は、実施例において説明する測定方法により測定できる。
【0068】
[5.第一実施形態に係る位相差フィルムの厚み及び形状]
本発明の第一実施形態に係る位相差フィルムの厚みdは、位相差フィルムの用途に応じて適切に設定できる。位相差フィルムの具体的な厚みdは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは20μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下である。位相差フィルムの厚みdが前記範囲の下限値以上である場合、ハンドリング性を良好にしたり、強度を高くしたりできる。また、位相差フィルムの厚みdが上限値以下である場合、長尺の位相差フィルムの巻取りが容易である。
【0069】
位相差フィルムは、枚葉のフィルムであってもよく、長尺のフィルムであってもよい。
【0070】
[6.第一実施形態に係る位相差フィルムの製造方法]
上述した第一実施形態に係る位相差フィルムは、後述する第二実施形態で説明する製造方法によって製造できる。
【0071】
[7.第二実施形態に係る位相差フィルムの製造方法]
本発明の第二実施形態に係る位相差フィルムの製造方法は、結晶性重合体を含む結晶性樹脂で形成された延伸フィルムを用意する第一工程と;この延伸フィルムを、有機溶媒に接触させる第二工程と;を含む。この製造方法では、通常、第二工程で延伸フィルムと有機溶媒とが接触することにより、延伸フィルムの複屈折が変化して、所望の光学特性を有する位相差フィルムが得られる。
【0072】
また、この製造方法においては、第二工程において、延伸フィルムに張力が与えられている。このように張力が与えられた状態で延伸フィルムが有機溶媒と接触する場合、面内レターデーションの変動係数CV(Re)が小さい位相差フィルムを簡単に製造することができる。
【0073】
この製造方法によって、面内レターデーションの変動係数CV(Re)が小さい位相差フィルムが得られる仕組みを、本発明者は下記の通りであると推察する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の仕組みによって制限されるものではない。
【0074】
結晶性樹脂で形成された延伸フィルムに含まれる結晶性重合体の分子は、延伸条件に応じた程度で配向している。通常、延伸は、フィルムの厚み方向に対して垂直な面内方向において行われるので、結晶性重合体の分子の大部分は、延伸フィルムの面内方向に配向しうる。このように配向した結晶性重合体の分子を含む延伸フィルムを、第二工程において有機溶媒と接触させると、その有機溶媒が延伸フィルム中に浸入する。浸入した有機溶媒の作用により、フィルム中の結晶性重合体の分子にミクロブラウン運動が生じ、フィルム中の分子の配向が更に進行して、配向の程度が大きくなる。本発明者の検討によれば、分子の配向が進行する際には、結晶性重合体の溶媒誘起結晶化現象が生じることがありうると考えられる。このように分子の配向の程度が大きくなると、フィルムの複屈折が変化し、ひいてはレターデーションも変化しうる。通常は、レターデーションの変化は、面内レターデーションReが大きくなるように進行する。
【0075】
ただし、分子の配向が進行するときには、結晶性重合体の分子に動きが生じうるので、フィルム中に応力が生じうる。このような応力は、フィルム中で容易に偏りを生じうる。このような応力の偏りがあると、その偏った応力によって結晶性重合体の分子の配向状態が影響を受けるので、配向状態にバラツキが生じうる。これに対し、第二実施形態に係る製造方法の第二工程のように、フィルムに張力を与えた状態では、前記の応力の偏りの影響を小さくできるので、有機溶媒との接触によって生じる配向状態のバラツキを小さくできる。したがって、得られる位相差フィルムの光学特性の均一性を高めることができるので、面内レターデーションの変動係数CV(Re)を小さくできる。
【0076】
ところで、延伸フィルムの表面積は、一般に、主表面であるオモテ面及びウラ面が大きい。よって、有機溶媒の浸入速度は、前記のオモテ面又はウラ面を通った厚み方向への浸入速度が、大きい。そうすると、前記の結晶性重合体の分子の一部は、有機溶媒の進入により、厚み方向に配向しうる。そうすると、フィルムの厚み方向の屈折率nzが大きくなるので、位相差フィルムのNZ係数の平均値が0.0より大きく1.0未満の範囲に収まることがありうる。
【0077】
本発明の第二実施形態に係る製造方法は、複屈折が小さい延伸フィルムを用いる場合に、特に有益でありうる。また、一般に、複屈折が小さい延伸フィルムを用いて製造される位相差フィルムは、レターデーション又は複屈折が小さいので、本発明の第二実施形態に係る製造方法は、レターデーション又は複屈折が小さい位相差フィルムを製造する場合に、特に有益でありうる。本発明者の検討によれば、結晶性樹脂で形成された延伸フィルムの複屈折が小さいほど、有機溶媒との接触によってその延伸フィルムに生じる複屈折のバラツキが大きくなり、よって得られる位相差フィルムの光学特性の均一性が低くなり易いという課題があることが見出された。これに対し、上述した第二実施形態では、複屈折が小さい延伸フィルムを用いた場合でも、得られる位相差フィルムの光学特性の均一性を高めることができる。このように、複屈折が小さい延伸フィルムを用いたり、レターデーション又は複屈折が小さい位相差フィルムを製造したりする場合には、本発明の第二実施形態に係る製造方法は、従来見い出されていなかった新たな課題を解決できる点で、顕著な意義がある。
このような新たな課題を解決できる仕組みを、本発明者は下記の通りであると推察する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の仕組みによって制限されるものではない。
【0078】
一般に、延伸フィルムが大きい複屈折を有する場合、その延伸フィルムに含まれる結晶性重合体の分子の配向の程度は、大きい。このように配向の程度が大きいと、有機溶媒との接触によって分子の配向が進行する場合に、配向の進行のために分子が動ける範囲が制約されるので、配向状態の変化の範囲は狭い。よって、有機溶媒との接触によって分子それぞれに生じる配向状態の変化の自由度は相対的に小さく、その結果、配向状態のバラツキが小さくなって、複屈折のバラツキは相対的に小さくなりうる。
しかし、延伸フィルムが小さい複屈折を有する場合、一般に、その延伸フィルムに含まれる結晶性重合体の分子の配向の程度は、小さい。このように配向の程度が小さいと、有機溶媒との接触によって分子の配向が進行する場合に、配向の進行のために分子が動ける範囲が広いので、配向状態の変化の範囲は広い。よって、有機溶媒との接触によって分子それぞれに生じる配向状態の変化の自由度は相対的に大きく、その結果、配向状態のバラツキが大きくなって、複屈折のバラツキが相対的に大きくなりうる。
そのため、有機溶媒と延伸フィルムとの接触時に張力が与えられていない場合、延伸フィルムの複屈折が小さいほど、得られる位相差フィルムの光学特性の均一性は低い傾向があった。この傾向は、延伸フィルムに対して熱処理を行って大きいレターデーションを有する位相差フィルムを製造する方法でも、同じでありうる。
【0079】
これに対し、第二実施形態に係る製造方法の第二工程のように、フィルムに張力を与えた状態で有機溶媒と接触させると、有機溶媒との接触によって分子それぞれに生じる配向状態の変化の自由度を張力によって効果的に小さくできる。よって、複屈折が小さい延伸フィルムを用いたり、レターデーション又は複屈折が小さい位相差フィルムを製造したりする場合であっても、第二実施形態に係る製造方法によれば、光学特性の均一性の高い位相差フィルムを製造することができる。
【0080】
本発明の第二実施形態に係る位相差フィルムの製造方法は、上述した第一工程及び第二工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。例えば、位相差フィルムの製造方法は、得られた位相差フィルムを乾燥する第三工程を、第二工程の後に含んでいてもよい。
【0081】
[8.第一工程:延伸フィルムの用意]
第一工程では、結晶性重合体を含む結晶性樹脂で形成された延伸フィルムを用意する。延伸フィルムを用意する方法に制限は無い。第一工程は、例えば、結晶性樹脂で形成された樹脂フィルムを用意する工程と、この樹脂フィルムを延伸して延伸フィルムを得る工程と、を含みうる。以下の説明では、延伸前の樹脂フィルムを、適宜「延伸前フィルム」と呼ぶことがある。
【0082】
延伸前フィルム及び延伸フィルムの材料としての結晶性樹脂は、第一実施形態において説明した結晶性樹脂と同じでありうる。ただし、延伸前フィルム及び延伸フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度は、小さいことが好ましい。具体的な結晶化度は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、特に好ましくは3%未満である。有機溶媒と接触する前の延伸前フィルム及び延伸フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度が低いと、有機溶媒との接触によって多くの結晶性重合体の分子の配向を進行させられるので、広い範囲での複屈折及びレターデーションの調整が可能である。
【0083】
結晶性樹脂から延伸前フィルムを製造する方法に制限は無い。有機溶媒を含まない延伸前フィルムが得られることから、延伸前フィルムの製造方法としては、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、注型成形法、圧縮成形法等の樹脂成型法が好ましい。これらの中でも、厚みの制御が容易であることから、押出成形法が好ましい。
【0084】
押出成形法における製造条件は、好ましくは下記の通りである。シリンダー温度(溶融樹脂温度)は、好ましくはTm以上、より好ましくは「Tm+20℃」以上であり、好ましくは「Tm+100℃」以下、より好ましくは「Tm+50℃」以下である。また、フィルム状に押し出された溶融樹脂が最初に接触する冷却体は特に限定されないが、通常はキャストロールを用いる。このキャストロール温度は、好ましくは「Tg-50℃」以上であり、好ましくは「Tg+70℃」以下、より好ましくは「Tg+40℃」以下である。さらに、冷却ロール温度は、好ましくは「Tg-70℃」以上、より好ましくは「Tg-50℃」以上であり、好ましくは「Tg+60℃」以下、より好ましくは「Tg+30℃」以下である。このような条件で延伸前フィルムを製造する場合、厚み1μm~1mmの延伸前フィルムを容易に製造できる。ここで、「Tm」は、結晶性重合体の融点を表し、「Tg」は結晶性重合体のガラス転移温度を表す。
【0085】
第一工程は、延伸前フィルムを用意した後、その延伸前フィルムを延伸する前に、延伸前フィルムを延伸温度に加熱するための予熱処理を行う工程を含んでいてもよい。通常、予熱温度と延伸温度は同じであるが、異なっていてもよい。予熱温度は、延伸温度T1に対し、好ましくはT1-10℃以上、より好ましくはT1-5℃以上であり、また、好ましくはT1+5℃以下、より好ましくはT1+2℃以下である。予熱時間は任意であり、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上であり、また、好ましくは60秒以下、より好ましくは30秒以下である。
【0086】
第一工程は、延伸前フィルムを用意し、必要に応じて予熱処理を行った後で、その延伸前フィルムを延伸することを含みうる。通常、延伸により、延伸前フィルムに含まれる結晶性重合体の分子を延伸方向に応じた方向に配向させて、延伸フィルムを得ることができる。
【0087】
延伸方向に制限はなく、例えば、長手方向、幅方向、斜め方向などが挙げられる。ここで、斜め方向とは、厚み方向に対して垂直な方向であって、幅方向に平行でもなく垂直でもない方向を表す。また、延伸方向は、一方向でもよく、二以上の方向でもよい。よって、延伸方法としては、例えば、延伸前フィルムを長手方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸法)、延伸前フィルムを幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸法)等の、一軸延伸法;延伸前フィルムを長手方向に延伸すると同時に幅方向に延伸する同時二軸延伸法、延伸前フィルムを長手方向及び幅方向の一方に延伸した後で他方に延伸する逐次二軸延伸法等の、二軸延伸法;延伸前フィルムを斜め方向に延伸する方法(斜め延伸法);などが挙げられる。
【0088】
延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは20.0倍以下、より好ましくは10.0倍以下、更に好ましくは5.0倍以下、特に好ましくは2.0倍以下である。具体的な延伸倍率は、製造したい位相差フィルムの光学特性、厚み、強度などの要素に応じて適切に設定することが望ましい。延伸倍率が前記範囲の下限値以上である場合、延伸によって複屈折を大きく変化させることができる。また、延伸倍率が前記範囲の上限値以下である場合、遅相軸の方向を容易に制御したり、フィルムの破断を効果的に抑制したりできる。
【0089】
延伸温度は、好ましくは「Tg+5℃」以上、より好ましくは「Tg+10℃」以上であり、好ましくは「Tg+100℃」以下、より好ましくは「Tg+90℃」以下である。ここで、「Tg」は結晶性重合体のガラス転移温度を表す。延伸温度が前記範囲の下限値以上である場合、結晶性樹脂を十分に軟化させて延伸を均一に行うことができる。また、延伸温度が前記範囲の上限値以下である場合、結晶性重合体の結晶化の進行による結晶性樹脂の硬化を抑制できるので、延伸を円滑に行うことができ、また、延伸によって大きな複屈折を発現させることができる。さらに、通常は、得られる延伸フィルムのヘイズを小さくして透明性を高めることができる。
【0090】
得られる延伸フィルムの光学特性は、所望の光学特性を有する位相差フィルムが得られるように、製造すべき位相差フィルムの光学特性に応じて設定されることが好ましい。
【0091】
例えば、延伸フィルムの面内レターデーションReの平均値は、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、特に好ましくは30nm以上でありえ、また、好ましくは150nm以下、より好ましくは140nm以下、特に好ましくは130nm以下でありえる。
【0092】
例えば、延伸フィルムの厚み方向のレターデーションRthの平均値の絶対値は、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、特に好ましくは30nm以上でありえ、また、好ましくは150nm以下、より好ましくは140nm以下、特に好ましくは130nm以下でありえる。
【0093】
例えば、延伸フィルムの面内方向の複屈折の平均値は、好ましくは1.0×10-3以上、より好ましくは1.3×10-3以上、特に好ましくは1.5×10-3以上でありえ、また、好ましくは10.0×10-3以下、より好ましくは8.0×10-3以下、特に好ましくは5.0×10-3以下でありえる。
【0094】
例えば、延伸フィルムの厚み方向の複屈折の平均値の絶対値は、好ましくは1.0×10-3以上、より好ましくは1.3×10-3以上、特に好ましくは1.5×10-3以上でありえ、また、好ましくは10.0×10-3以下、より好ましくは8.0×10-3以下、特に好ましくは5.0×10-3以下でありえる。
【0095】
延伸フィルムの面内レターデーションReの平均値、厚み方向のレターデーションRthの平均値、面内方向の複屈折の平均値、及び、厚み方向の複屈折の平均値は、下記の方法で測定しうる。
延伸フィルムを、縦方向に3つ、横方向に3つに区分し、同じ面積の測定エリア9つを設定する。そして、測定エリアそれぞれの中央部において、面内レターデーションRe、厚み方向のレターデーションRth、面内方向の複屈折、及び、厚み方向の複屈折の測定を行う。得られた測定値から、平均値を計算する。面内レターデーションRe、厚み方向のレターデーションRe、面内方向の複屈折、及び、厚み方向の複屈折は、上述した方法で測定できる。
【0096】
延伸フィルムは、有機溶媒の含有量が小さいことが好ましく、有機溶媒を含まないことがより好ましい。延伸フィルムの重量100%に対する当該延伸フィルムに含まれる有機溶媒の比率(溶媒含有率)は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下であり、理想的には0.0%である。有機溶媒と接触する前のフィルムとしての延伸フィルムに含まれる有機溶媒の量が少ないことにより、有機溶媒との接触によって多くの結晶性重合体の分子の配向を進行させられるので、広い範囲での複屈折及びレターデーションの調整が可能である。
【0097】
延伸フィルムの溶媒含有率は、密度によって測定しうる。
【0098】
延伸フィルムのヘイズは、好ましくは1.0%未満、好ましくは0.8%未満、より好ましくは0.5%未満であり、理想的には0.0%である。延伸フィルムのヘイズが小さいほど、得られる位相差フィルムのヘイズを小さくし易い。
【0099】
延伸フィルムの厚みは、製造しようとする位相差フィルムの厚みに応じて設定することが好ましい。通常、第二工程で有機溶媒と接触させることにより、厚みは大きくなる。したがって、前記のような第二工程以降の工程における厚みの変化を考慮して、延伸フィルムの厚みを設定してもよい。
【0100】
延伸フィルムは、枚葉のフィルムであってもよいが、長尺のフィルムであることが好ましい。長尺の延伸フィルムを用いることにより、ロール・トゥ・ロール法による位相差フィルムの連続的な製造が可能であるので、位相差フィルムの生産性を効果的に高めることができる。
【0101】
[9.第二工程:延伸フィルムと有機溶媒との接触]
第二工程では、第一工程で用意した延伸フィルムを、有機溶媒に接触させる。これにより、延伸フィルムの光学特性が調整されて、所望の光学特性を有する位相差フィルムが得られる。
【0102】
有機溶媒としては、延伸フィルムに含まれる結晶性重合体を溶解させずに当該延伸フィルム中に浸入できる溶媒を用いることができ、例えば、トルエン、リモネン、デカリン等の炭化水素溶媒;二硫化炭素;が挙げられる。有機溶媒の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0103】
延伸フィルムと有機溶媒との接触方法としては、例えば、延伸フィルムに有機溶媒をスプレーするスプレー法;延伸フィルムに有機溶媒を塗布する塗布法;有機溶媒中に延伸フィルムを浸漬する浸漬法;などが挙げられる。中でも、連続的な接触を容易に行えることから、浸漬法が好ましい。
【0104】
延伸フィルムに接触させる有機溶媒の温度は、有機溶媒が液体状態を維持できる範囲で任意であり、よって、有機溶媒の融点以上沸点以下の範囲に設定しうる。
【0105】
延伸フィルムと有機溶媒とを接触させる時間は、特に指定はないが、好ましくは0.5秒以上、より好ましくは1.0秒以上、特に好ましくは5.0秒以上であり、好ましくは120秒以下、より好ましくは80秒以下、特に好ましくは60秒以下である。接触時間が前記範囲の下限値以上である場合、有機溶媒との接触による複屈折及びレターデーションの調整を効果的に行うことができる。他方、浸漬時間を長くしても複屈折及びレターデーションの調整量は大きく変わらない傾向がある。よって、接触時間が前記範囲の上限値以下である場合、位相差フィルムの品質を損なわずに生産性を高めることができる。
【0106】
第二工程は、延伸フィルムに張力が与えた状態で行う。有機溶媒と延伸フィルムとの接触を、延伸フィルムに張力が与えられた状態で行うことで、得られる位相差フィルムの光学特性の均一性を高めることができ、よって面内レターデーションReの変動係数CV(Re)を小さくできる。
【0107】
第二工程において延伸フィルムに与えられる張力の大きさは、当該張力によって延伸フィルムが実質的に延伸されない範囲に設定することが好ましい。実質的に延伸されるとは、フィルムのいずれかの方向への延伸倍率が通常1.1倍以上になることをいう。具体的な張力の範囲は、好ましくは5N/m以上、より好ましくは10N/m以上、特に好ましくは15N/m以上であり、また、好ましくは200N/m以下、より好ましくは150N/m以下、特に好ましくは100N/m以下である。前記の張力の単位「N/m」は、張力方向に対して垂直な方向でのフィルム寸法1m当たりの張力の大きさを表す。
【0108】
延伸フィルムに与えられる張力の方向としての張力方向の数は、1でもよく、複数でもよい。通常、張力は、延伸フィルムの厚み方向に対して垂直な面内方向に与えられる。よって、張力方向は、1又は2以上の面内方向でありうる。例えば、延伸フィルムが枚葉のフィルムである場合、張力方向は、フィルムの縦方向及び横方向の一方又は両方でありうる。また、例えば、延伸フィルムが長尺のフィルムである場合、張力方向は、フィルムの長手方向及び幅方向の一方又は両方でありうる。中でも、位相差フィルムの光学特性の均一性を効果的に高めて面内レターデーションReの変動係数CV(Re)を小さくする観点では、張力方向の数は1が好ましい。
【0109】
前記のように延伸フィルムに張力を与える場合、例えば、適切な保持具によって延伸フィルムを保持し、この保持具によって延伸フィルムを引っ張って張力を与えてもよい。保持具は、延伸フィルムの辺の全長を連続的に保持しうるものでもよく、間隔を空けて間欠的に保持しうるものでもよい。例えば、所定の間隔で配列された保持具によって延伸フィルムの辺を間欠的に保持してもよい。
【0110】
延伸フィルムは、当該延伸フィルムの少なくとも二辺を保持されて張力を与えられることが好ましい。この場合、保持された辺の間のエリアにおいて延伸フィルムに張力を与えて、位相差フィルムの光学特性の均一性を高めることができる。広い面積において光学特性の均一性を高めるために、延伸フィルムの対向する二辺を含む辺を保持して、その保持された辺の間のエリアに張力を与えることが好ましい。例えば、矩形の枚葉の延伸フィルムでは、対向する二辺(例えば、長辺同士、又は、短辺同士)を保持して前記二辺の間のエリアに張力を与えることで、その延伸フィルムから得られる位相差フィルムの全面において光学特性の均一性を高めることができる。また、長尺の延伸フィルムでは、幅方向の端部にある二辺(即ち、長辺)を保持して前記二辺の間のエリアに張力を与えることで、その延伸フィルムから得られる位相差フィルムの全面において光学特性の均一性を高めることができる。
【0111】
保持具としては、延伸フィルムの辺以外の部分では延伸フィルムと接触しないものが好ましい。このような保持具を用いることにより、より平滑性に優れる位相差フィルムを得ることができる。
【0112】
また、保持具としては、当該保持具が延伸フィルムを保持している期間において、保持具同士の相対的な位置を固定しうるものが好ましい。このような保持具は、保持具同士の位置が相対的に移動しないので、延伸フィルムの実質的な延伸を抑制しやすい。
【0113】
好適な保持具としては、例えば、矩形の延伸フィルム用の保持具として、枠材に所定間隔で設けられ延伸フィルムを把持しうるクリップ等の把持子が挙げられる。また、例えば、長尺の延伸フィルムの幅方向の端部にある二辺を保持するための保持具としては、テンター延伸機に設けられ延伸フィルムを把持しうる把持子が挙げられる。
【0114】
長尺の延伸フィルムを用いる場合、その延伸フィルムの長手方向の端部にある辺(即ち、短辺)を保持してもよいが、前記の辺を保持する代わりに延伸フィルムの第二工程を施されるエリアの長手方向の両側を保持してもよい。例えば、延伸フィルムの第二工程を施されるエリアの長手方向の両側に、延伸フィルムを保持して張力を与えられた状態にしうる保持装置を設けてもよい。このような保持装置としては、例えば、2つのロールの組み合わせ、などが挙げられる。前記の組み合わせによって延伸フィルムに搬送張力等の張力を加えることで、第二工程を施されるエリアにおいて光学特性の均一性を高めることができる。そのため、前記の組み合わせを保持装置として用いれば、延伸フィルムを長手方向に搬送しながら当該延伸フィルムを保持できるので、位相差フィルムの効率的な製造ができる。
【0115】
第二工程で有機溶媒と接触させられることにより、延伸フィルムの面内レターデーションRe、厚み方向のレターデーションRth、面内方向の複屈折、及び、厚み方向の複屈折等の光学特性は、変化しうる。よって、有機溶媒と接触する前のフィルムとしての延伸フィルムの光学特性と、有機溶媒と接触した後のフィルムとしての位相差フィルムの光学特性との間には、前記の変化量に応じた差がありうる。
【0116】
例えば、有機溶媒との接触による面内レターデーションReの変化量は、延伸フィルムの面内レターデーションReの平均値と、位相差フィルムの面内レターデーションReの平均値との差で表しうる。この差の具体的な範囲は、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、特に好ましくは150nm以上でありえ、また、好ましくは1000nm以下、より好ましくは800nm以下、特に好ましくは500nm以下でありえる。
【0117】
例えば、有機溶媒との接触による厚み方向のレターデーションRthの変化量は、延伸フィルムの厚み方向のレターデーションRthの平均値と、位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthの平均値との差で表しうる。この差の具体的な範囲は、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、特に好ましくは50nm以上でありえ、また、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、特に好ましくは300nm以下でありえる。
【0118】
例えば、有機溶媒との接触による面内方向の複屈折の変化量は、延伸フィルムの面内方向の複屈折の平均値と、位相差フィルムの面内方向の複屈折の平均値との差で表しうる。この差の具体的な範囲は、好ましくは1×10-3以上、より好ましくは3×10-3以上、特に好ましくは5×10-3以上でありえ、また、好ましくは50×10-3以下、より好ましくは40×10-3以下、特に好ましくは30×10-3以下でありえる。
【0119】
例えば、有機溶媒との接触による厚み方向の複屈折の変化量は、延伸フィルムの厚み方向の複屈折の平均値と、位相差フィルムの厚み方向の複屈折の平均値との差で表しうる。この差の具体的な範囲は、好ましくは0.2×10-3以上、より好ましくは0.6×10-3以上、特に好ましくは1.0×10-3以上でありえ、また、好ましくは50×10-3以下、より好ましくは40×10-3以下、特に好ましくは30×10-3以下でありえる。
【0120】
延伸フィルムに接触した有機溶媒が延伸フィルム中に浸入することにより、第二工程において、フィルム厚みの増加が生じてもよい。この際、厚みの変化率の下限は、例えば、10%以上、20%以上、又は30%以上でありうる。また、厚みの変化率の上限は、例えば、80%以下、50%以下、又は40%以下でありうる。前記の厚みの変化率とは、位相差フィルムの厚みと延伸フィルムの厚みとの差を、延伸フィルムの厚みで割り算して得られる比率である。
【0121】
上述したように、第二工程において、延伸フィルムの光学特性が高い均一性で調整されることにより、所望の光学特性を有する位相差フィルムが得られる。こうして得られた位相差フィルムは、そのまま用いてもよく、また、更に任意の工程を施してもよい。
【0122】
[10.任意の工程]
第二実施形態に係る位相差フィルムの製造方法は、上述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。
例えば、位相差フィルムの製造方法は、第二工程の後で、位相差フィルムに付着した有機溶媒を除去する工程を含んでいてもよい。有機溶媒の除去方法としては、例えば、乾燥、ふき取り等が挙げられる。中でも、有機溶媒を速やかに除去して安定した特性を有する位相差フィルムを得る観点から、乾燥を行うことが好ましい。
【0123】
乾燥を速やかに行う観点では、乾燥温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、特に好ましくは80℃以上である。また、熱による配向緩和を抑制して光学特性の均一性を維持する観点では、乾燥温度は、好ましくはTg+100℃以下、より好ましくはTg+80℃以下、特に好ましくはTg+50℃以下である。ここで、「Tg」は結晶性重合体のガラス転移温度を表す。
【0124】
位相差フィルムから有機溶媒を十分に除去する観点では、乾燥時間は、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、特に好ましくは30分以上である。また、位相差フィルムの製造に要する時間を短縮して製造効率を向上させる観点では、乾燥時間は、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、特に好ましくは2時間以下である。
【0125】
前記の乾燥を行う際、位相差フィルムには、張力を与えることが好ましい。張力を与えた状態で乾燥を行うことにより、位相差フィルムの光学特性の均一性を効果的に高くできる。乾燥時に位相差フィルムに与えられる張力の大きさの範囲は、第二工程において延伸フィルムに与えられる張力の大きさの範囲と同じでありうる。また、位相差フィルムに与えられる張力の方向の数は、第二工程において延伸フィルムに与えられる張力の方向と同じく、1でもよく、複数でもよい。
【0126】
乾燥時に位相差フィルムに張力を与える場合、例えば、適切な保持具によって位相差フィルムを保持し、この保持具によって位相差フィルムを引っ張って張力を与えてもよい。この保持具としては、例えば、第二工程において延伸フィルムに張力を与えるために用いうる保持具として説明したものと同じものを用いうる。保持具の着脱回数を少なくして効率的な位相差フィルムの製造を達成する観点では、第二工程の後に保持具を取り外さず、その保持具によって張力を与えられた状態を維持したままの位相差フィルムを乾燥し、その後、位相差フィルムから保持具を取り外すことが好ましい。
【0127】
上述した製造方法によれば、長尺の延伸フィルムを用いて、長尺の位相差フィルムを製造することができる。位相差フィルムの製造方法は、このように製造された長尺の位相差フィルムをロール状に巻き取る工程を含んでいてもよい。さらに、位相差フィルムの製造方法は、長尺の位相差フィルムを所望の形状に切り出す工程を含んでいてもよい。
【0128】
[11.第二実施形態に係る製造方法で製造される位相差フィルム]
第二実施形態に係る製造方法によれば、延伸フィルムに張力を与えた状態で当該延伸フィルムを有機溶媒に接触させるという簡単な工程によって、その延伸フィルムの光学特性を高い均一性で調製することが可能である。よって、光学特性の均一性に優れる位相差フィルムを簡単に製造でき、例えば、面内レターデーションReの変動係数CV(Re)が1.0%以下の位相差フィルムを容易に得ることができる。
【0129】
また、延伸フィルムと有機溶媒との接触によれば、延伸フィルムの光学特性を広範な範囲で調整可能であるので、従来実現が困難であった大きな光学異方性を有する位相差フィルムを製造できる。例えば、面内レターデーションの平均値、厚み方向のレターデーションの平均値、面内方向の複屈折の平均値、又は、厚み方向の複屈折の平均値などの、光学異方性を表すパラメータが大きい位相差フィルムを、製造することが可能である。
【0130】
第二実施形態に係る製造方法で製造される位相差フィルムの面内レターデーションReの変動係数CV(Re)は、詳細には、第一実施形態に係る位相差フィルムの面内レターデーションReの変動係数CV(Re)と同じでありうる。さらに、第二実施形態に係る製造方法で製造される位相差フィルムは、面内レターデーションReの変動係数CV(Re)以外の特性についても、第一実施形態に係る位相差フィルムと同じでありうる。よって、第二実施形態に係る製造方法で製造される位相差フィルムは、当該位相差フィルムが含む結晶性樹脂;当該位相差フィルムの面内方向の複屈折の平均値、標準偏差、及び変動係数;当該位相差フィルムの厚み方向の複屈折の平均値の絶対値、標準偏差、及び変動係数の絶対値;当該位相差フィルムの面内レターデーションReの平均値、及び標準偏差;当該位相差フィルムの厚み方向のレターデーションRthの平均値の絶対値、標準偏差、及び変動係数CV(Rth)の絶対値;当該位相差フィルムのNZ係数の平均値、及び変動係数;当該位相差フィルムの全光線透過率及びヘイズ;当該位相差フィルムが含む有機溶媒の量;当該位相差フィルムの厚み;などの特性が、第一実施形態に係る位相差フィルムと同じでありうる。
【0131】
[12.用途]
上述した第一実施形態に係る位相差フィルム、及び、第二実施形態に係る製造方法で製造された位相差フィルムは、例えば、表示装置に設けうる。この場合、位相差フィルムは、表示装置に表示される画像の視野角、コントラスト、画質等の表示品質の均一性を高めることができる。
【実施例
【0132】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0133】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。さらに、以下の説明において、レターデーション及び複屈折の測定波長は、別に断らない限り、590nmであった。
【0134】
[評価方法]
(重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法)
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC-8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
【0135】
(重合体の水素化率の測定方法)
重合体の水素化率は、オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、145℃で、H-NMR測定により測定した。
【0136】
(ガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定方法)
重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定は、以下のようにして行った。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷した。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定した。
【0137】
(重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法)
重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定は以下のようにして行った。オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果において、オルトジクロロベンゼン-dの127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0138】
(フィルムの厚みの測定方法)
フィルムの厚みは、接触式厚さ計(MITUTOYO社製 Code No. 543-390)を用いて測定した。
【0139】
(位相差フィルムの溶媒含有率の測定方法)
各実施例及び比較例と同じ方法により、矩形の延伸フィルム(溶媒接触前のフィルム)を製造した。この延伸フィルムを、位相差フィルムと同じ寸法の矩形にカットして、リファレンス用フィルムを得た。このリファレンス用フィルムについて、熱重量分析(TGA:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、30℃~300℃)によって、その重量を測定した。30℃におけるリファレンス用フィルムの重量W(30℃)から300℃におけるリファレンス用フィルムの重量W(300℃)を引き算して、300℃におけるリファレンス用フィルムの重量減少量ΔWを求めた。このリファレンス用フィルムは、溶融押出法によって製造された後に延伸されたものであるので、溶媒を含まない。よって、このリファレンス用フィルムの重量減少量ΔWを、後述する式(X)ではリファレンスとして採用した。
【0140】
また、サンプルとしての位相差フィルムについて、前記と同じく熱重量分析(TGA:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、30℃~300℃)によって、その重量を測定した。30℃における位相差フィルムの重量W(30℃)から300℃における位相差フィルムの重量W(300℃)を引き算して、300℃における位相差フィルムの重量減少量ΔWを求めた。
【0141】
前記の300℃におけるリファレンス用フィルムの重量減少量ΔW、及び、300℃における位相差フィルムの重量減少量ΔWから、以下の式(X)により、位相差フィルムの溶媒含有率を算出した。
溶媒含有率(%)={(ΔW-ΔW)/W(30℃)}×100 (X)
【0142】
[製造例1.ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む結晶性樹脂の製造]
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0143】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解し、溶液を調製した。この溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750および28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0144】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0145】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0146】
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化率は99%以上、ガラス転移温度Tgは93℃、融点(Tm)は262℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0147】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合後、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出し機(製品名「TEM-37B」、東芝機械社製)に投入した。ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物及び酸化防止剤の混合物を、熱溶融押出し成形によりストランド状の成形した後、ストランドカッターにて細断して、ペレット形状の結晶性樹脂を得た。前記の二軸押出し機の運転条件は、以下の通りであった。
・バレル設定温度=270~280℃
・ダイ設定温度=250℃
・スクリュー回転数=145rpm
【0148】
[実施例1]
(1-1.延伸前フィルムの製造)
製造例1で製造したペレット形状の結晶性樹脂を、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機(Optical Control Systems社製「Measuring Extruder Type Me-20/2800V3」)を用いて成形し、1.5m/分の速度でロールに巻き取って、およそ幅150mmの長尺の延伸前フィルム(厚み50μm)を得た。前記のフィルム成形機の運転条件は、以下の通りであった。
・バレル温度設定=280℃~300℃
・ダイ温度=270℃
・スクリュー回転数=30rpm
・キャストロール温度=80℃
【0149】
(1-2.延伸フィルムの製造)
延伸装置(エトー株式会社製「SDR-562Z」)を用意した。この延伸装置は、矩形のフィルムの端部を把持可能なクリップと、オーブンと、を備え、二軸延伸可能な装置であった。クリップは、延伸前フィルムの1辺当たり5個、及び、延伸前フィルムの各頂点に1個の合計24個設けられていて、これらのクリップを移動させることで延伸前フィルムの延伸が可能であった。また、オーブンは2つ設けられており、延伸温度及び熱処理温度にそれぞれ設定することが可能であった。さらに、前記の延伸装置では、一方のオーブンから他方のオーブンへのフィルムの移行は、クリップで把持したまま行うことができた。
【0150】
延伸前フィルムを、縦130mm×横130mmの矩形にカットした。カットして得た延伸前フィルムのレターデーションを位相差計(AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)を用いて測定したところ、面内レターデーションRe=5nm、厚み方向のレターデーションRth=6nmであった。この延伸前フィルムを前記の延伸装置に取り付け、予熱温度110℃で10秒間処理した。その後、延伸前フィルムを、延伸温度110℃で、縦延伸倍率1倍、横延伸倍率1.5倍、延伸速度1.5/10秒で延伸した。これにより、延伸処理を施されたフィルムとしての延伸フィルムを得た。
【0151】
延伸フィルムを延伸装置から取り外し、常温まで冷却した。図1は、実施例1で得られた延伸フィルム10を模式的に示す平面図である。図1に示すように、延伸フィルム10を、縦方向に3等分、横方向に3等分に区分して、同じのサイズ及び面積の9つの測定エリア11~19を設定した。そして、測定エリア11~19それぞれの中央部において、位相差計(AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)を用いてレターデーション及び複屈折の測定を行った。得られた測定値から、延伸フィルム10の面内レターデーションの平均値、厚み方向のレターデーションの平均値、面内方向の複屈折の平均値、及び、厚み方向の複屈折の平均値を算出した。
【0152】
(1-3.延伸フィルムと有機溶媒との接触)
図2は、実施例1で用いた治具200を模式的に示す平面図である。図2に示すように、延伸フィルム10の固定用の治具200を用意した。この治具200は、延伸フィルム10を取り付けるための空間210を囲むように四角形状に設けられた枠材220と、この枠材220に取り付けられた複数のバネ230と、各バネ230の先端に設けられたクリップ240とを備えていた。各バネ230は、その一端が枠材220に固定され、その他端にクリップ240が設けられていた。バネ230及びクリップ240は、それぞれ、矩形の延伸フィルム10の1辺当たり5か所、及び、延伸フィルム10の各頂点をクリップ240で把持できるように、合計24個設けられていた。また、各バネ230は、そのバネ230の先端のクリップ240が延伸フィルム10を把持した場合に、その延伸フィルム10を引っ張って張力を付加できるように設けられていた。このような治具200によれば、バネ230の伸びを調整することによって、枠材220に囲まれた空間210に取り付けられる延伸フィルム10に、所望の張力を付加できた。
【0153】
延伸フィルムを、縦120mm×横120mmの矩形にカットした。カットして得た延伸フィルム10を、図2に示すように、治具200に取り付けた。具体的には、延伸フィルム10の端部(1辺当たり5か所、及び、各頂点の合計24か所)をクリップ240で把持した。そして、延伸フィルム10の縦方向及び横方向のいずれにも40N/mの張力を付加できるように、バネ230の伸びを調整した。このように治具200に固定されて張力を付加される状態を維持したまま、延伸フィルム10を、有機溶媒としてのトルエンで満たされたバット中に、60秒浸漬して、位相差フィルムを得た。
【0154】
(1-4.乾燥)
その後、位相差フィルムを治具で固定した状態のまま、トルエンから取り出し、110℃のオーブンに入れて、60分、乾燥処理を行った。
【0155】
その後、オーブンから位相差フィルムを取り出して常温まで冷却し、更に治具から取り外した。こうして得た位相差フィルムを、延伸フィルムと同じく、縦方向に3等分、横方向に3等分に区分して、同じサイズ及び面積の9つの測定エリアを設定した。そして、測定エリアそれぞれの中央部において、(AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)を用いてレターデーション及び複屈折の測定を行った。得られた測定値から、位相差フィルムの面内レターデーションの平均値及び変動係数;厚み方向のレターデーションの平均値及び変動係数;面内方向の複屈折の平均値及び変動係数;厚み方向の複屈折の平均値及び変動係数;並びに、NZ係数の平均値及び変動係数;を算出した。
さらに、位相差フィルムについて、上述した方法で厚み及び溶媒含有率を測定した。
【0156】
[実施例2]
工程(1-3)において、矩形の延伸フィルムを治具に取り付ける際、一部のクリップを用いなかった。具体的には、延伸フィルムの対向する一対の辺(図2における右辺及び左辺)及び各頂点をクリップで把持し、また、延伸フィルムの対向する別の一対の辺(図2における下底辺及び上底辺)は把持しなかった。よって、実施例2においては、延伸フィルムと有機溶媒との接触、並びに、得られる位相差フィルムの乾燥は、フィルムの横方向に40N/mの張力が付加された状態で実施した。以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0157】
[実施例3]
工程(1-2)において、横延伸倍率を2.5倍に変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0158】
[実施例4]
工程(1-2)において、横延伸倍率を2.5倍に変更した。
また、工程(1-3)において、矩形の延伸フィルムを治具に取り付ける際、一部のクリップを用いなかった。具体的には、延伸フィルムの対向する一対の辺(図2における右辺及び左辺)及び各頂点をクリップで把持し、また、延伸フィルムの対向する別の一対の辺(図2における下底辺及び上底辺)は把持しなかった。よって、実施例4においては、延伸フィルムと有機溶媒との接触、並びに、得られる位相差フィルムの乾燥は、フィルムの横方向に40N/mの張力が付加された状態で実施した。
以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0159】
[比較例1]
工程(1-3)及び工程(1-4)において、延伸フィルム及び位相差フィルムを治具に取り付けなかった。具体的には、工程(1-3)においては、延伸フィルムに何もとりつけず有機溶媒との接触を行い、また、工程(1-4)では、得られた位相差フィルムを平板上に粘着テープで貼り付けた状態で乾燥を行った。
以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0160】
[比較例2]
工程(1-2)において、横延伸倍率を2.5倍に変更した。
また、工程(1-3)及び工程(1-4)において、延伸フィルム及び位相差フィルムを治具に取り付けなかった。具体的には、工程(1-3)においては、延伸フィルムに何も取り付けず有機溶媒との接触を行い、また、工程(1-4)では、得られた位相差フィルムを平板上に貼り付けた状態で乾燥を行った。
以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0161】
[比較例3]
実施例1の工程(1-1)及び(1-2)と同じ方法によって延伸フィルムを製造した。この延伸フィルムを、延伸装置(エトー株式会社製「SDR-562Z」)から取り外すこと無く、フィルムの各辺及び各頂点をクリップで把持した状態を保ったままで、熱処理温度170℃に設定された熱処理用のオーブンに移した。そして、このオーブンで20秒熱処理を行って、位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを冷却して、実施例1と同じ方法で、面内レターデーションの平均及び変動係数;厚み方向のレターデーションの平均及び変動係数;面内方向の複屈折の平均及び変動係数;厚み方向の複屈折の平均及び変動係数;NZ係数の平均及び変動係数;厚み;並びに溶媒含有率の測定を行った。
【0162】
[比較例4]
延伸フィルムを製造する際の延伸倍率を2.5倍に変更した。以上の事項以外は、比較例3と同じ方法により、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
【0163】
[結果]
実施例及び比較例の結果を、下記の表に示す。比較例3及び4では、延伸処理によって得られた延伸フィルムを、延伸装置から取り外すこと無く、熱処理に供した。よって、比較例3及び4では、延伸フィルムの光学特性の測定を行えなかった。そこで、下記の表の比較例3及び4の延伸フィルムの欄には、当該比較例3及び4と同じ方法で別に製造された延伸フィルムの特性を記載した。
【0164】
また、下記の表において、略称の意味は、以下の通りである。
Re:面内レターデーション。
Rth:厚み方向のレターデーション
CV(Re):面内レターデーションの変動係数。
CV(Rth):厚み方向のレターデーションの変動係数。
Δn(面内方向):面内方向の複屈折。
Δn(厚み方向):厚み方向の複屈折。
【0165】
【表1】
【符号の説明】
【0166】
10 延伸フィルム
11~19 測定エリア
200 治具
210 延伸フィルムを取り付けるための空間
220 枠材
230 バネ
240 クリップ
図1
図2