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特許7647566含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体
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  • 特許-含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   C07C 43/13 20060101AFI20250311BHJP
   C10M 105/54 20060101ALI20250311BHJP
   C08G 65/331 20060101ALI20250311BHJP
   G11B 5/725 20060101ALI20250311BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20250311BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20250311BHJP
【FI】
C07C43/13 D CSP
C10M105/54
C08G65/331
G11B5/725
G11B5/84 Z
C10N40:18
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021555139
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041613
(87)【国際公開番号】W WO2021090940
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019202285
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】浅野 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】芝田 夏実
(72)【発明者】
【氏名】柳生 大輔
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/054148(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/049585(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/039200(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/035656(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084781(WO,A1)
【文献】特開2018-024614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C10M
C08G
G11B
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)~(V)で表される何れかの化合物であることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
【化1】
(式(A)中、xaは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(B)中、xbは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(C)中、xcは平均重合度であり1~14を表す。)
【化2】
(式(D)中、xdは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(E)中、xeは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(F)中、xfは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(G)中、xgは平均重合度であり1~14を表す。)
【化3】
(式(H)中、xhは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(I)中、xiは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(J)中、xjは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(U)中、xuは平均重合度であり1~14を表す。)
【化4】
(式(K)中、ykは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(L)中、ylは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(M)中、ymは平均重合度であり1~20を表す。)
【化5】
(式(N)中、ynは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(O)中、yoは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(P)中、ypは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(Q)中、yqは平均重合度であり1~20を表す。)
【化6】
(式(R)中、yrは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(S)中、ysは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(T)中、ytは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(V)中、yvは平均重合度であり1~20を表す。)
【請求項2】
前記含フッ素エーテル化合物が、前記式(D)~(G)で表される化合物のいずれかである、請求項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項3】
前記含フッ素エーテル化合物が、前記式(N)~(Q)で表される化合物のいずれかである、請求項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項4】
前記含フッ素エーテル化合物が、前記式(C)及び(H)で表される化合物のいずれかである、請求項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項5】
前記含フッ素エーテル化合物が、前記式(M)及び(R)で表される化合物のいずれかである、請求項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項6】
数平均分子量が400~3000の範囲内である請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
【請求項8】
基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層が順次設けられた磁気記録媒体であって、前記潤滑層が、請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項9】
前記潤滑層の平均膜厚が0.5nm~1.5nmである、請求項に記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の潤滑剤用途に好適な含フッ素エーテル化合物、それを含む磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体に関する。
本願は、2019年11月7日に、日本に出願された特願2019-202285号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置の記録密度を向上させるために、高記録密度に適した磁気記録媒体の開発が進められている。
従来、磁気記録媒体として、基板上に記録層を形成し、記録層上にカーボン等の保護層を形成したものがある。保護層は、記録層に記録された情報を保護するとともに、磁気ヘッドの摺動性を高める。しかし、記録層上に保護層を設けただけでは、磁気記録媒体の耐久性は十分に得られない。このため、一般に、保護層の表面に潤滑剤を塗布して潤滑層を形成している。
【0003】
磁気記録媒体の潤滑層を形成する際に用いられる潤滑剤としては、例えば、CFを含む繰り返し構造を有するフッ素系のポリマーの末端に、水酸基等の極性基を有する化合物を含有するものが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
具体的には、特許文献1には、両方の末端部分に複数のヒドロキシル基を有した化合物が開示されている。
また、特許文献2には、パーフルオロポリエーテル主鎖を有し、分子の末端基が、2つ以上の極性基を含み、各極性基がそれぞれ異なる炭素原子と結合し、前記極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している末端基である化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4632144号公報
【文献】特開2018-24614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気記録再生装置においては、記録密度の向上とともに、より一層高い信頼性が要求されている。例えば、化学物質耐性の向上や、ピックアップ抑制である。化学物質耐性とは、環境物質による磁気記録媒体の汚染に対する耐性であり、ピックアップ抑制とは、潤滑層中の含フッ素エーテル化合物が異物(スメア)として磁気ヘッドに付着することに対する抑制力である。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、保護層との密着性が良好でピックアップを抑制でき、かつ化学物質耐性に優れた潤滑層を形成できる磁気記録媒体用潤滑剤の材料として、好適に用いることができる含フッ素エーテル化合物を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層を有する優れた信頼性および耐久性を有する磁気記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。
その結果、剛直性を有するパーフルオロポリエーテル(以下「PFPE」と記載する場合がある。)鎖の少なくとも一方の末端に、特定構造の複数のヒドロキシル基を配置した含フッ素エーテル化合物とすればよいことを見出し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0008】
[1] 下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
-CH-R-CH-R (1)
(式(1)中、Rは下記式(2)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖である。RはCHを介してRに結合された末端基であり、下記式(3)で表される。RはCHを介してRに結合され、1以上の水酸基を有する末端基であり、Rと同じであっても異なっていてもよい。)
-(CFp-1-O-((CFO)-(CFp-1- (2)
(式(2)中、pは2~3の整数を表し、qは平均重合度であり1~20を表す。)
【0009】
【化1】
(式(3)中、nは1~8の整数である。)
【0010】
[2]前記式(1)中のRが前記式(3)で表される末端基である、[1]に記載の含フッ素エーテル化合物。
[3] 前記式(1)で表される化合物が、下記式(D)~(G)で表される化合物のいずれかである、[2]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0011】
【化2】
(式(D)中、xdは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(E)中、xeは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(F)中、xfは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(G)中、xgは平均重合度であり1~14を表す。)
【0012】
[4] 前記式(1)で表されるエーテル化合物が、下記式(N)~(Q)で表される化合物のいずれかである、[2]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0013】
【化3】
(式(N)中、ynは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(O)中、yoは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(P)中、ypは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(Q)中、yqは平均重合度であり1~20を表す。)
【0014】
[5] 前記式(1)中のRが、水酸基、下記式(4-1)、下記式(4-2)のいずれかで表される末端基である、[1]に記載の含フッ素エーテル化合物。
-O-CH-CH(OH)-CH-OH (4-1)
-O-CH-CH(OH)-CH-O-(CH-OH (4-2)
(式(4-2)中、kは1~5の整数を表す。)
【0015】
[6] 前記式(1)中のRが、前記式(4-2)で表される末端基である、[5]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0016】
[7] 前記式(1)で表されるエーテル化合物が、下記式(C)及び(H)で表される化合物のいずれかである、[5]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0017】
【化4】
(式(C)中、xcは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(H)中、xhは平均重合度であり1~14を表す。)
【0018】
[8] 前記式(1)で表されるエーテル化合物が、下記式(M)及び(R)で表される化合物のいずれかである、[5]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0019】
【化5】
(式(M)中、ymは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(R)中、yrは平均重合度であり1~20を表す。)
【0020】
[9] 数平均分子量が400~3000の範囲内である[1]~[8]のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0021】
[10] [1]~[8]のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
[11] 基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層が順次設けられた磁気記録媒体であって、前記潤滑層が、[1]~[8]のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
[12] 前記潤滑層の平均膜厚が0.5nm~1.5nmである、[11]に記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0022】
本発明の含フッ素エーテル化合物は、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適である。
本発明の磁気記録媒体用潤滑剤は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含むため、保護層との密着性が良好でピックアップを抑制でき、かつ化学物質耐性に優れた潤滑層を形成できる。
本発明の磁気記録媒体は、保護層との密着性が良好でピックアップを抑制でき、かつ化学物質耐性に優れた潤滑層が設けられているため、優れた信頼性および耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤(以下、「潤滑剤」と略記する場合がある。)および磁気記録媒体について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0025】
[含フッ素エーテル化合物]
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、下記式(1)で表される。
-CH-R-CH-R (1)
(式(1)中、Rは下記式(2)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖である。RはCHを介してRに結合された末端基であり、下記式(3)で表される。RはCHを介してRに結合され、1以上の水酸基を有する末端基であり、Rと同じであっても異なっていてもよい。)
-(CFp-1-O-((CFO)-(CFp-1- (2)
(式(2)中、pは2~3の整数を表し、qは平均重合度であり1~20を表す。)
【0026】
【化6】
(式(3)中、nは1~8の整数である。)
【0027】
式(2)中、pは2~3の整数であり、qは平均重合度であり1~20を表す。
pが上記値の範囲内であると厚みが10Å以下の薄膜を形成するのに適している。pが2未満であると、パーフルオロポリエーテル鎖の剛直性が不足して含フッ素エーテル化合物が保護層上で凝集しやすくなる。また、pが3を超えると、パーフルオロポリエーテル鎖が剛直になりすぎて、保護層との密着性が得られにくくなる。
【0028】
本実施形態では、式(2)のpが2~3の整数であって、qが平均重合度であり1~20を表すので、含フッ素エーテル化合物の数平均分子量が、好ましい範囲になる。また、式(2)のpが2~3の整数であり、平均重合度であるqが1~20であるため、PFPE鎖中の炭素原子数に対する酸素原子数(エーテル結合(-O-)数)の割合が適正となり、適度な剛直性を有する含フッ素エーテル化合物となる。
また、式(2)のpが2~3の整数であり、平均重合度であるqが1~20であるため、保護層上に塗布された含フッ素エーテル化合物中の極性基の向きが、PFPE鎖の剛直性によって保持されやすくなり、含フッ素エーテル化合物が保護層上で凝集しにくくなる。その結果、本実施形態の含フッ素エーテル化合物では、厚みの薄い潤滑層を十分な被覆率で保護層上に形成できるとともに、PFPE鎖が保護層上にループ構造を形成できる。 式(2)においてpが3である時、平均重合度qは1~14であることが好ましく、4~10であることがより好ましい。式(2)においてpが2である時、平均重合度qは5~16であることが好ましく、6~12であることがより好ましい。
【0029】
式(1)における式(3)で表される末端基Rは、3つの水酸基を含み、各水酸基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、前記水酸基の結合している炭素原子同士が、水酸基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している炭素数8~15の有機末端基である。
式(3)におけるnの値は1~8の整数である。nの値は1~4であることが好ましく、2~4であることがより好ましく、2又は3であることがさらに好ましい。nの値がこの範囲内であると、保護層との密着性が良好であり、含フッ素エーテル化合物が異物(スメア)として磁気ヘッドに付着することを防止できる。
【0030】
式(1)中のRが前記式(3)で表される末端基である場合、RとRとにおけるnの値は同じであってもよいし、異なっていてもよい。保護層上にPFPE鎖によるループ構造が形成されやすい式(1)で示される含フッ素エーテル化合物となるとともに、少ない製造工程で製造できるものとなるため、Rが前記式(3)で表される末端基である場合、RとRとにおけるnの値は同じであることがより好ましい。
【0031】
式(1)中の末端基RがRと異なる末端基である場合、Rで表される末端基に含まれる水酸基の数は、1~2であることが好ましく、2であることがより好ましい。
で表される末端基に含まれる炭素数は、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。Rで表される末端基は、フッ素原子を含まないものとすることができる。
特に、Rで表される末端基が、炭素数10以下であって水酸基の数が1~2である場合、炭素数が8~15であって水酸基の数が3であるRで表される末端基とのバランスが良好となり、保護層上にPFPE鎖によるループ構造が形成されやすく、保護層との密着性がより一層良好となる。
で表される末端基は、二重結合および三重結合を有していないことが好ましい。また、Rで表される末端基の鎖状構造において、Rと反対側の端部には水酸基が配置されていることが好ましい。この場合、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の両方の最末端に水酸基が配置されたものとなり、保護層とより強固に密着できる。
で表される末端基に含まれる極性基は、水酸基のみであることが好ましい。Rで表される末端基に含まれる極性基がすべて水酸基であると、Rで表される末端基とのバランスが良好となる。
【0032】
は、水酸基、下記式(4-1)、下記式(4-2)のいずれかで表される末端基であることが好ましい。
-O-CH-CH(OH)-CH-OH (4-1)
-O-CH-CH(OH)-CH-O-(CH-OH (4-2)
(式(4-2)中、kは1~5の整数を表す。)
【0033】
これらの中でも、Rは、式(4-1)または式(4-2)であることがより好ましく、式(4-2)であることが最も好ましい。
式(4-1)と式(4-2)で表される末端基は、それぞれ2つの水酸基を含んでいる。Rが式(4-1)または式(4-2)で表される末端基であると、Rに含まれる2つの水酸基と、Rに含まれる水酸基とにより、PFPE鎖の両末端で保護層と密着できる。さらに、Rが式(4-2)であると、2つの水酸基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、水酸基の結合している炭素原子同士が、水酸基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合しているものとなる。しかも、水酸基の結合している炭素原子同士間にエーテル結合が含まれる。このため、Rが式(4-2)であると、保護層への密着性および被覆性がより一層良好なものとなる。
式(4-2)におけるkの値は1~5の整数である。kの値がこの範囲内であると保護層との密着性が良好となる。kの値は2~4の整数であることが好ましく、2又は3であることがより好ましい。kの値が2又は3であると、水酸基の結合している炭素原子同士の距離が適正となり、保護層への密着性および被覆性がより一層良好となる。
【0034】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物におけるRの有する水酸基は3つである。式(1)で表される含フッ素エーテル化合物におけるRの有する水酸基は1以上であり、1または2であることが好ましい。
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、RがRと同じ式(3)で表される末端基である場合、式(1)中の水酸基の総数は6である。また、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、RがRと異なる末端基である場合、式(1)中の水酸基の総数は、4以上であり、4~5であることが好ましく、5であることがより好ましい。
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、水酸基の総数が上記範囲内であると、密着性が良好であり、異物(スメア)として磁気ヘッドに付着することを防止できる。特に、水酸基の総数が5または6であると、良好な密着性が得られ、ピックアップ抑制効果が向上する。
式(1)におけるRおよびRは、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能などに応じて適宜選択できる。
【0035】
ここで、本実施形態の含フッ素エーテル化合物が、Rで表されるPFPE鎖と、Rに連結された末端基Rとを有することにより、これを含む潤滑剤を用いて、磁気記録媒体の保護層上に潤滑層を形成した場合に、保護層との密着性が良好でピックアップを抑制でき、かつ化学物質耐性に優れた潤滑層が得られる理由について説明する。
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、式(1)に示すように、Rで表されるPFPE鎖を有する。Rで表されるPFPE鎖は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層において、保護層の表面を被覆するとともに、潤滑層に潤滑性を付与して磁気ヘッドと保護層との摩擦力を低減させる。更に、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層では、直鎖状フッ素化アルキルエーテル基からなる剛直性を有する繰り返しユニットを有する式(2)で表されるPFPE鎖が、その両端にそれぞれ配置された末端基の有する水酸基によって、保護層に密着(吸着)されている。このため、PFPE鎖は、保護層上にループ構造を形成できる。その結果、保護層との密着性が良好な潤滑層となる。
【0036】
また、式(1)におけるRは、CHを介してRに結合された末端基であり、式(3)で表される。式(3)で表されるRは、水酸基の結合している炭素原子同士が、水酸基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している。このため、潤滑剤の塗布される保護層が炭素または窒素を含む炭素で形成されている場合に、以下の2つの作用を奏する。第1に、Rの水酸基が凝集することなく、保護層上で濡れ広がりやすく、被覆性が向上しやすい配置となる。第2に、Rの有する3つの水酸基が保護層の表面に対して同一方向を向きやすく、水酸基が保護層面に対して密着しやすい立体的な配置となる。
したがって、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層は、特に、保護層が炭素または窒素を含む炭素で形成されている場合に、より一層保護層との密着性が良好となり、ピックアップを抑制でき、かつ化学物質耐性に優れた潤滑層が得られると推定される。
【0037】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、具体的には、下記式(A)~(V)で表されるいずれかの化合物であることが好ましい。
下記式(A)~(J)、(U)におけるxa~xj、xuは式(2)のqに相当する。また、下記式(K)~(T)、(V)におけるyk~yt、yvは式(2)のqに相当する。式(A)~(V)におけるxa~xj、xu、yk~yt、yvで示される繰り返し数は、平均重合度を示す値であるため、必ずしも整数とはならない。
【0038】
下記式(A)~(C)、(H)~(M)、(R)~(T)、(U)、(V)で表される化合物は、いずれも式(1)において、RがRと異なる末端基である化合物である。また、下記式(D)~(G)、(N)~(Q)で表される化合物は、いずれも式(1)において、RがRと同じ末端基である化合物である。
下記式(A)~(C)、(H)~(M)、(R)~(T)で表される化合物は、いずれもRが式(3)で表され、式(3)におけるnが1である。下記式(U)、(V)で表される化合物は、いずれもRが式(3)で表され、式(3)におけるnが2である。また、式(A)、(K)で表される化合物は、いずれもRが水酸基である。式(B)、(L)で表される化合物は、いずれもRが式(4-1)である。式(C)、(H)~(J)、(M)、(R)~(T)、(U)、(V)で表される化合物は、いずれもRが式(4-2)である。
下記式(A)~(C)、(H)~(J)、(U)で表される化合物は、いずれもRにおけるpが3である。下記式(K)~(M)、(R)~(T)、(V)で表される化合物は、いずれもRにおけるpが2である。
下記式(D)、(N)で表される化合物は、いずれもRとRとが共に式(3)で表され、式(3)におけるnが1である。下記式(E)、(O)で表される化合物は、いずれもRとRとが共に式(3)で表され、式(3)におけるnが2である。下記式(F)、(P)で表される化合物は、いずれもRとRとが共に式(3)で表され、式(3)におけるnが3である。下記式(G)、(Q)で表される化合物は、いずれもRとRとが共に式(3)で表され、式(3)におけるnが4である。
下記式(D)~(G)で表される化合物は、いずれもRにおけるpが3である。下記式(N)~(Q)で表される化合物は、いずれもRにおけるpが2である。
【0039】
【化7】
(式(A)中、xaは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(B)中、xbは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(C)中、xcは平均重合度であり1~14を表す。)
【0040】
【化8】
(式(D)中、xdは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(E)中、xeは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(F)中、xfは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(G)中、xgは平均重合度であり1~14を表す。)
【0041】
【化9】
(式(H)中、xhは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(I)中、xiは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(J)中、xjは平均重合度であり1~14を表す。)
(式(U)中、xuは平均重合度であり1~14を表す。)
【0042】
【化10】
(式(K)中、ykは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(L)中、ylは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(M)中、ymは平均重合度であり1~20を表す。)
【0043】
【化11】
(式(N)中、ynは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(O)中、yoは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(P)中、ypは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(Q)中、yqは平均重合度であり1~20を表す。)
【0044】
【化12】
(式(R)中、yrは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(S)中、ysは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(T)中、ytは平均重合度であり1~20を表す。)
(式(V)中、yvは平均重合度であり1~20を表す。)
【0045】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物が、式(A)~(V)で表されるいずれかの化合物である場合、より一層、保護層との密着性が良好でピックアップを抑制でき、かつ化学物質耐性に優れた潤滑層が得られるため、好ましい。
式(A)~(V)で表される含フッ素エーテル化合物の中でも特に、式(C)、(D)、(E)、(M)、(N)、(O)で表される含フッ素エーテル化合物は、保護層との密着性が良好な潤滑層を形成できるため、好ましい。
【0046】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、数平均分子量が400~3000の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が400以上であると、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤が蒸散しにくいものとなり、潤滑剤が蒸散して磁気ヘッドに移着することを防止できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、800以上であることがより好ましい。また、数平均分子量が3000以下であると、含フッ素エーテル化合物の粘度が適正なものとなり、これを含む潤滑剤を塗布することによって、容易に厚みの薄い潤滑層を形成できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、2500以下であることがより好ましい。
【0047】
含フッ素エーテル化合物の数平均分子量(Mn)は、ブルカー・バイオスピン社製AVANCEIII400によるH-NMRおよび19F-NMRによって測定された値である。具体的には、19F-NMRによって測定された積分値よりPFPE鎖の繰り返し単位数を算出し、数平均分子量を求めた。なお、繰り返し単位数は、平均値を示すため、小数点以下の数字で表される場合もある。NMR(核磁気共鳴)の測定において、試料をヘキサフルオロベンゼン/d-アセトン(4/1v/v)溶媒へ希釈し、測定に使用した。19F-NMRケミカルシフトの基準は、ヘキサフルオロベンゼンのピークを-164.7ppmとし、1H-NMRケミカルシフトの基準は、アセトンのピークを2.2ppmとした。
【0048】
「製造方法」
本実施形態の含フッ素エーテル化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を用いて製造できる。本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、例えば、以下に示す製造方法を用いて製造できる。
まず、式(1)におけるRに対応するパーフルオロポリエーテル鎖の両末端に、それぞれヒドロキシメチル基(-CHOH)が配置されたフッ素系化合物を用意する。次いで、フッ素系化合物の両末端(または一方の末端)に配置されたヒドロキシメチル基の水酸基を、式(1)におけるRからなる有機末端基を有する化合物で置換する。
【0049】
含フッ素エーテル化合物として、Rが水酸基である式(1)で示される含フッ素エーテル化合物を製造する場合、上記の置換反応の際に、Rからなる有機末端基を有する化合物を、パーフルオロポリエーテル鎖に対して約0.5~1当量分用いる。また、含フッ素エーテル化合物として、RがRと同じ末端基である式(1)で示される含フッ素エーテル化合物を製造する場合、上記の置換反応の際に、Rからなる有機末端基を有する化合物を、パーフルオロポリエーテル鎖に対して約2当量分用いる。
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、RがRと同じ末端基である場合、容易に製造でき好ましい。
【0050】
含フッ素エーテル化合物として、RがRと異なる末端基である式(1)で示される含フッ素エーテル化合物を製造する場合、Rからなる有機末端基を有する化合物を、パーフルオロポリエーテル鎖に対して約0.5~1当量分用いて上記の置換反応を行った後、フッ素系化合物のRからなる有機末端基で置換されていない方の末端に配置されたヒドロキシメチル基の水酸基を、式(1)におけるRからなる末端基を有する化合物で置換する。RがRと異なる末端基である式(1)で示される含フッ素エーテル化合物とは、RおよびRが式(3)で表される末端基であって、RとRとにおけるnの数が異なる場合も含む。
式(1)においてRがRと異なる末端基である含フッ素エーテル化合物を製造する場合、パーフルオロポリエーテル鎖のヒドロキシメチル基と、Rからなる有機末端基との置換反応と、Rからなる末端基との置換反応は、どちらを先に行ってもよい。
これらの置換反応は、従来公知の方法を用いて行うことができ、式(1)におけるRおよびRの種類などに応じて適宜決定できる。
【0051】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、上記式(1)で表される化合物である。したがって、これを含む潤滑剤を用いて保護層上に潤滑層を形成すると、式(1)においてRで表されるPFPE鎖によって、保護層の表面が被覆されるとともに、磁気ヘッドと保護層との摩擦力が低減される。また、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて形成した潤滑層では、Rの一端に配置されたRと他端に配置されたRで表される末端基の有する4つ以上の水酸基により、含フッ素エーテル化合物が保護層上に強く密着され、優れたピックアップ抑制が得られ、かつ化学物質耐性に優れる。
【0052】
[磁気記録媒体用潤滑剤]
本実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含む。
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むことによる特性を損なわない範囲内であれば、潤滑剤の材料として使用されている公知の材料を、必要に応じて混合して用いることができる。
【0053】
公知の材料の具体例としては、例えば、FOMBLIN(登録商標) ZDIAC、FOMBLIN ZDEAL、FOMBLIN AM-2001(以上Solvay Solexis社製)、Moresco A20H(Moresco社製)などが挙げられる。本実施形態の潤滑剤と混合して用いる公知の材料は、数平均分子量が400~3000程度であることが好ましい。
【0054】
本実施形態の潤滑剤が、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の他の材料を含む場合、本実施形態の潤滑剤中の式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の含有量が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0055】
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むため、厚みを薄くしても、高い被覆率で保護層の表面を被覆でき、保護層との密着性に優れる潤滑層を形成できる。また、本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むため、保護層に密着(吸着)せずに存在している潤滑剤層中の含フッ素エーテル化合物が、凝集しにくい。よって、含フッ素エーテル化合物が凝集して、異物(スメア)として磁気ヘッドに付着することを防止できる。
【0056】
[磁気記録媒体]
図1は、本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示した概略断面図である。
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、付着層12と、軟磁性層13と、第1下地層14と、第2下地層15と、磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられた構造をなしている。
【0057】
「基板」
基板11としては、例えば、AlもしくはAl合金などの金属または合金材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金からなる膜が形成された非磁性基板等を用いることができる。また、基板11としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂などの非金属材料からなる非磁性基板を用いてもよいし、これらの非金属材料からなる基体上にNiPまたはNiP合金の膜を形成した非磁性基板を用いてもよい。
【0058】
「付着層」
付着層12は、基板11と、付着層12上に設けられる軟磁性層13とを接して配置した場合に、基板11の腐食の進行を防止する。付着層12の材料は、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金等から適宜選択できる。付着層12は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0059】
「軟磁性層」
軟磁性層13は、第1軟磁性膜と、Ru膜からなる中間層と、第2軟磁性膜とが順に積層された構造を有していることが好ましい。すなわち、軟磁性層13は、2層の軟磁性膜の間にRu膜からなる中間層を挟み込むことによって、中間層の上下の軟磁性膜がアンチ・フェロ・カップリング(AFC)結合した構造を有していることが好ましい。軟磁性層13がAFC結合した構造を有していると、外部からの磁界に対しての耐性、並びに、垂直磁気記録特有の問題であるWATER(Wide Area Track Erasure)現象に対しての耐性を高めることができる。
【0060】
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜は、CoFe合金からなる膜であることが好ましい。第1軟磁性膜および第2軟磁性膜がCoFe合金からなる膜である場合、高い飽和磁束密度Bs(1.4(T)以上)を実現できる。
また、第1軟磁性膜および第2軟磁性膜に使用されるCoFe合金には、Zr、Ta、Nbの何れかを添加することが好ましい。これにより、第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の非晶質化が促進され、第1下地層(シード層)の配向性を向上させることが可能になるとともに、磁気ヘッドの浮上量を低減することが可能となる。
軟磁性層13は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0061】
「第1下地層」
第1下地層14は、その上に設けられる第2下地層15および磁性層16の配向や結晶サイズを制御するための層である。
第1下地層14としては、例えば、Cr層、Ta層、Ru層、あるいはCrMo、CoW、CrW、CrV、CrTi合金層などが挙げられる。
第1下地層14は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0062】
「第2下地層」
第2下地層15は、磁性層16の配向が良好になるように制御する層である。第2下地層15は、RuまたはRu合金からなる層であることが好ましい。
第2下地層15は、1層からなる層であってもよいし、複数層から構成されていてもよい。第2下地層15が複数層からなる場合、全ての層が同じ材料から構成されていてもよいし、少なくとも一層が異なる材料から構成されていてもよい。
第2下地層15は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0063】
「磁性層」
磁性層16は、磁化容易軸が基板面に対して垂直または水平方向を向いた磁性膜からなる。磁性層16は、CoとPtを含む層であり、さらにSNR特性を改善するために、酸化物や、Cr、B、Cu、Ta、Zr等を含む層であってもよい。
磁性層16に含有される酸化物としては、SiO、SiO、Cr、CoO、Ta、TiO等が挙げられる。
【0064】
磁性層16は、1層から構成されていてもよいし、組成の異なる材料からなる複数の磁性層から構成されていてもよい。
例えば、磁性層16が、下から順に積層された第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、さらに酸化物を含んだ材料からなるグラニュラー構造であることが好ましい。第1磁性層に含有される酸化物としては、例えば、Cr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Co等の酸化物を用いることが好ましい。その中でも、特に、TiO、Cr、SiO等を好適に用いることができる。また、第1磁性層は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも、特に、Cr-SiO、Cr-TiO、SiO-TiO等を好適に用いることができる。
【0065】
第1磁性層は、Co、Cr、Pt、酸化物の他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。 第2磁性層には、第1磁性層と同様の材料を用いることができる。第2磁性層は、グラニュラー構造であることが好ましい。
第3磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、酸化物を含まない材料からなる非グラニュラー構造であることが好ましい。第3磁性層は、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Re、Mnの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
【0066】
磁性層16が複数の磁性層で形成されている場合、隣接する磁性層の間には、非磁性層を設けることが好ましい。磁性層16が、第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層と第2磁性層との間と、第2磁性層と第3磁性層との間に、非磁性層を設けることが好ましい。
【0067】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層は、例えば、Ru、Ru合金、CoCr合金、CoCrX1合金(X1は、Pt、Ta、Zr、Re、Ru、Cu、Nb、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、W、Mo、Ti、V、Bの中から選ばれる1種または2種以上の元素を表す。)等を好適に用いることができる。
【0068】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層には、酸化物、金属窒化物、または金属炭化物を含んだ合金材料を使用することが好ましい。具体的には、酸化物として、例えば、SiO、Al、Ta、Cr、MgO、Y、TiO等を用いることができる。金属窒化物として、例えば、AlN、Si、TaN、CrN等を用いることができる。金属炭化物として、例えば、TaC、BC、SiC等を用いることができる。
非磁性層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0069】
磁性層16は、より高い記録密度を実現するために、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた垂直磁気記録の磁性層であることが好ましい。磁性層16は、面内磁気記録の磁性層であってもよい。
磁性層16は、蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法等、従来の公知のいかなる方法によって形成してもよい。磁性層16は、通常、スパッタリング法により形成される。
【0070】
「保護層」
保護層17は、磁性層16を保護する。保護層17は、一層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。保護層17の材料としては、炭素、窒素を含む炭素、炭化ケイ素などが挙げられる。
保護層17としては、炭素系保護層を好ましく用いることができ、特にアモルファス炭素保護層が好ましい。保護層17が炭素系保護層であると、潤滑層18中の含フッ素エーテル化合物に含まれる極性基(特に水酸基)との相互作用が一層高まるため、好ましい。
【0071】
炭素系保護層と潤滑層18との付着力は、炭素系保護層を水素化炭素および/または窒素化炭素とし、炭素系保護層中の水素含有量および/または窒素含有量を調節することにより制御可能である。炭素系保護層中の水素含有量は、水素前方散乱法(HFS)で測定したときに3~20原子%であることが好ましい。また、炭素系保護層中の窒素含有量はX線光電子分光分析法(XPS)で測定したときに、4~15原子%であることが好ましい。
炭素系保護層に含まれる水素および/または窒素は、炭素系保護層全体に均一に含有される必要はない。炭素系保護層は、例えば、保護層17の潤滑層18側に窒素を含有させ、保護層17の磁性層16側に水素を含有させた組成傾斜層とすることが好適である。この場合、磁性層16および潤滑層18と、炭素系保護層との付着力が、より一層向上する。
【0072】
保護層17の膜厚は、1nm~7nmとするのがよい。保護層17の膜厚が1nm以上であると、保護層17としての性能が充分に得られる。保護層17の膜厚が7nm以下であると、保護層17の薄膜化の観点から好ましい。
【0073】
保護層17の成膜方法としては、炭素を含むターゲット材を用いるスパッタ法や、エチレンやトルエン等の炭化水素原料を用いるCVD(化学蒸着法)法、IBD(イオンビーム蒸着)法等を用いることができる。
保護層17として炭素系保護層を形成する場合、例えばDCマグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。特に、保護層17として炭素系保護層を形成する場合、プラズマCVD法により、アモルファス炭素保護層を成膜することが好ましい。プラズマCVD法により成膜したアモルファス炭素保護層は、表面が均一で、粗さが小さいものとなる。
【0074】
「潤滑層」
潤滑層18は、磁気記録媒体10の汚染を防止する。また、潤滑層18は、磁気記録媒体10上を摺動する磁気記録再生装置の磁気ヘッドの摩擦力を低減させて、磁気記録媒体10の耐久性を向上させる。
潤滑層18は、図1に示すように、保護層17上に接して形成されている。潤滑層18は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む。
【0075】
潤滑層18は、潤滑層18の下に配置されている保護層17が、炭素系保護層である場合、特に、保護層17と高い結合力で結合される。その結果、潤滑層18の厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面が被覆された磁気記録媒体10が得られやすくなり、磁気記録媒体10の表面の汚染を効果的に防止できる。
【0076】
潤滑層18の平均膜厚は、0.5nm(5Å)~1.5nm(15Å)であることが好ましく、0.6nm(6Å)~1.1nm(11Å)であることがより好ましい。潤滑層18の平均膜厚が0.5nm以上であると、潤滑層18がアイランド状または網目状とならずに均一の膜厚で形成される。このため、潤滑層18によって、保護層17の表面を高い被覆率で被覆できる。また、潤滑層18の平均膜厚を1.5nm以下にすることで、潤滑層18を充分に薄膜化でき、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくできる。
【0077】
保護層17の表面が潤滑層18によって十分に高い被覆率で被覆されていない場合、磁気記録媒体10の表面に吸着した環境物質が、潤滑層18の隙間を通り抜けて、潤滑層18の下に侵入する。潤滑層18の下層に侵入した環境物質は、保護層17と吸着、結合し汚染物質を生成する。そして、磁気記録再生の際に、この汚染物質(凝集成分)がスメアとして磁気ヘッドに付着(転写)して、磁気ヘッドを破損したり、磁気記録再生装置の磁気記録再生特性を低下させたりする。
汚染物質を生成させる環境物質としては、例えば、シロキサン化合物(環状シロキサン、直鎖シロキサン)、イオン性不純物、オクタコサン等の比較的分子量の高い炭化水素、フタル酸ジオクチル等の可塑剤等が挙げられる。イオン性不純物に含まれる金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等を挙げることができる。イオン性不純物に含まれる無機イオンとしては、例えば、塩素イオン、臭素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、アンモニウムイオン等を挙げることができる。イオン性不純物に含まれる有機物イオンとしては、例えば、シュウ酸イオン、蟻酸イオン等を挙げることができる。
【0078】
「潤滑層の形成方法」
潤滑層18を形成する方法としては、例えば、基板11上に保護層17までの各層が形成された製造途中の磁気記録媒体を用意し、保護層17上に潤滑層形成用溶液を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0079】
潤滑層形成用溶液は、上述の実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤を必要に応じて、溶媒に分散溶解させ、塗布方法に適した粘度および濃度とすることにより得られる。
潤滑層形成用溶液に用いられる溶媒としては、例えば、バートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)等のフッ素系溶媒等が挙げられる。
【0080】
潤滑層形成用溶液の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、スプレイ法、ペーパーコート法、ディップ法等が挙げられる。
ディップ法を用いる場合、例えば、以下に示す方法を用いることができる。まず、ディップコート装置の浸漬槽に入れられた潤滑層形成用溶液中に、保護層17までの各層が形成された基板11を浸漬する。次いで、浸漬槽から基板11を所定の速度で引き上げる。このことにより、潤滑層形成用溶液を基板11の保護層17上の表面に塗布する。
ディップ法を用いることで、潤滑層形成用溶液を保護層17の表面に均一に塗布することができ、保護層17上に均一な膜厚で潤滑層18を形成できる。
【0081】
本実施形態においては、潤滑層18を形成した基板11に熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことにより、潤滑層18と保護層17との密着性が向上し、潤滑層18と保護層17との付着力が向上する。
熱処理温度は90~180℃とすることが好ましい。熱処理温度が90℃以上であると、潤滑層18と保護層17との密着性を向上させる効果が十分に得られる。また、熱処理温度を180℃以下にすることで、潤滑層18の熱分解を防止できる。熱処理時間は10~120分とすることが好ましい。
【0082】
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、少なくとも磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられたものである。本実施形態の磁気記録媒体10では、保護層17上に接して本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層18が形成されている。この潤滑層18は、厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面を被覆している。よって、本実施形態の磁気記録媒体10では、イオン性不純物などの汚染物質を生成させる環境物質が、潤滑層18の隙間から侵入することが防止されている。したがって、本実施形態の磁気記録媒体10は、表面上に存在する汚染物質が少ないものである。また、本実施形態の磁気記録媒体10における潤滑層18は、異物(スメア)を生じさせにくく、ピックアップを抑制できる。このため、本実施形態の磁気記録媒体10は、優れた信頼性および耐久性を有する。
【実施例
【0083】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0084】
(実施例1)
以下に示す方法により、下記式(A)で表される化合物を製造した。
窒素ガス雰囲気下、100mLナスフラスコにHOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)で表される化合物(数平均分子量1108、分子量分布1.1)22.2g(20mmol)と、下記式(7)で示される化合物3.84g(12mmol)と、t-ブタノール18mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にさらにカリウムtert-ブトキシドを0.674g(6.0mmol)加え、70℃で10時間撹拌して反応させたのち、室温まで放冷させた。反応液に10%塩化水素・メタノール溶液(商品名:X0041、塩化水素-メタノール試薬(5-10%)東京化成工業株式会社製)を40mL加え、室温で2時間撹拌し、式(7)で示される化合物に由来する保護基であるメトキシメチル(MOM)基とテトラヒドロピラニル(THP)基を脱保護した。得られた反応液に5%重曹水を反応液のpHがアルカリ性になるまで加え、さらに水20mLを加えた。この反応液を酢酸エチル100mLで2回抽出した。抽出により得られた有機相を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、下記式(A)で表される化合物(A)を10.42g得た。
【0085】
式(7)で表される化合物は、以下に示す方法を用いて合成した。市販されている3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオールの1級水酸基をtert-ブチルジメチルシリル(TBS)基で保護した後、2級水酸基をメトキシメチル基で保護した。その後、化合物からTBS基を脱保護し、生じた1級水酸基を2-(2-ブロモエトキシ)テトラヒドロ-2H-ピランと反応させた後、酸化した。以上の工程により、式(7)で示される化合物を得た。
【0086】
【化13】
(式(A)中、xaは5.0である。)
【0087】
得られた化合物(A)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(A);H-NMR(CDCOCD);
δ[ppm]3.4~4.2(22H)
【0088】
(実施例2)
実施例1と同様な反応を行った後、得られた反応液に、10%塩化水素・メタノール溶液(商品名:X0041、塩化水素-メタノール試薬(5-10%)東京化成工業株式会社製)を加えずに、水を50mL加え、酢酸エチル100mLで2回抽出した。抽出で得た有機相を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、下記式(21)で示される化合物11.45gを得た。
【0089】
【化14】
(式(21)中、xは5.0である。)
【0090】
式(21)で示される化合物11.43g(8.0mmol)と、下記式(8)で示される化合物1.27g(8.0mmol)と、t-ブタノール22mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にさらにカリウムtert-ブトキシドを0.135g(1.2mmol)加え、70℃で120時間撹拌して反応させたのち、室温まで放冷させた。反応液に10%塩化水素・メタノール溶液(商品名:X0041、塩化水素-メタノール試薬(5-10%)東京化成工業株式会社製)を20mL加え、室温で2時間撹拌し、式(7)で示される化合物に由来する保護基であるメトキシメチル(MOM)基とテトラヒドロピラニル(THP)基を脱保護した。得られた反応液に5%重曹水を反応液のpHがアルカリ性になるまで加え、さらに水を16mL加えた。この反応液を酢酸エチル100mLで2回抽出した。抽出で得た有機相を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、下記式(B)で表される化合物(B)を10.42g得た。
式(8)で表される化合物は、市販されている2-アリルオキシテトラヒドロピランを酸化して得た。
【0091】
【化15】
(式(B)中、xbは5.0である。)
【0092】
得られた化合物(B)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(B);H-NMR(CDCOCD);
δ[ppm]3.4~4.2(28H)
【0093】
(実施例3)
式(8)で示される化合物の代わりに、下記式(9)で示される化合物を1.62g用いたこと以外は、実施例2と同様な操作を行い、下記式(C)で表される化合物(C)を7.94g得た。
式(9)で表される化合物は、市販されているエチレングリコールモノアリルエーテルのヒドロキシ基を、ジヒドロピランを用いて保護し、その後、二重結合を酸化して合成した。
【0094】
【化16】
(式(C)中、xcは5.0である。)
【0095】
得られた化合物(C)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(C);H-NMR(CDCOCD);
δ[ppm]3.4~4.2(32H)
【0096】
(実施例4)
窒素ガス雰囲気下、100mLナスフラスコにHOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)で表される化合物(数平均分子量1108、分子量分布1.1)11.1g(10mmol)と、式(7)で示される化合物6.41g(20mmol)と、t-ブタノール30mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にさらにカリウムtert-ブトキシドを0.168g(1.5mmol)加え、70℃で20時間撹拌して反応させたのち、室温まで放冷させた。反応液に10%塩化水素・メタノール溶液(商品名:X0041、塩化水素-メタノール試薬(5-10%)東京化成工業株式会社製)を40mL加え、室温で2時間撹拌し、式(7)で示される化合物に由来する保護基であるメトキシメチル(MOM)基とテトラヒドロピラニル(THP)基を脱保護した。得られた反応液に5%重曹水を反応液のpHがアルカリ性になるまで加え、さらに水を20mL加えた。これを酢酸エチル100mLで2回抽出した。抽出で得た有機相を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、下記式(D)で表される化合物(D)を10.45g得た。
【0097】
【化17】
(式(D)中、xdは5.0である。)
【0098】
得られた化合物(D)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(D);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]3.4~4.2(38H)
【0099】
(実施例5)
式(7)で表される化合物の代わりに、下記式(10)で表される化合物を6.69g用いたこと以外は、実施例4と同様な操作を行い、下記式(E)で表される化合物(E)を10.64g得た。
下記式(10)で表される化合物は、式(7)で表される化合物と同様に、2-(3-ブロモプロポキシ)テトラヒドロ-2H-ピランを用いて合成した。
【0100】
【化18】
(式(E)中、xeは5.0である。)
【0101】
得られた化合物(E)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(E);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.6~1.8(4H)、3.4~4.2(38H)
【0102】
(実施例6)
式(7)で表される化合物の代わりに、下記式(11)で表される化合物を6.97g用いたこと以外は、実施例4と同様な操作を行い、下記式(F)で表される化合物(F)を10.07g得た。
下記式(11)で表される化合物は、式(7)で表される化合物と同様に、2-(4-クロロブトキシ)テトラヒドロピランを用いて合成した。
【0103】
【化19】
(式(F)中、xfは5.0である。)
【0104】
得られた化合物(F)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(F);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.6~1.8(8H)、3.4~4.2(38H)
【0105】
(実施例7)
式(7)で表される化合物の代わりに、下記式(12)で表される化合物を7.20g用いたこと以外は、実施例4と同様な操作を行い、下記式(G)で表される化合物(G)を9.46g得た。
下記式(12)で表される化合物は、式(7)で表される化合物と同様に、5-ブロモ-1-ペンタノールから誘導される、2-(5-ブロモペンチルオキシ)テトラヒドロ-2H-ピランを用いて合成した。
【0106】
【化20】
(式(G)中、xgは5.0である。)
【0107】
得られた化合物(G)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(G);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.4~1.8(12H)、3.4~4.2(38H)
【0108】
(実施例8)
式(9)で表される化合物の代わりに、下記式(13)で表される化合物を1.73g用いたこと以外は、実施例3と同様な操作を行い、下記式(H)で表される化合物(H)を7.68g得た。
式(13)で表される化合物は、1,3-プロパンジオールの片方の水酸基をTHPで保護した化合物とエピクロロヒドリンから合成した。
【0109】
【化21】
(式(H)中、xhは5.0である。)
【0110】
得られた化合物(H)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(H);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.6~1.8(2H)、3.4~4.2(32H)
【0111】
(実施例9)
式(9)で表される化合物の代わりに、下記式(14)で表される化合物を1.84g用いたこと以外は、実施例3と同様な操作を行い、下記式(I)で表される化合物(I)を8.58g得た。
下記式(14)で表される化合物は、1,4-ブタンジオールの片方の水酸基をTHPで保護した化合物とエピクロロヒドリンから合成した。
【0112】
【化22】
(式(I)中、xiは5.0である。)
【0113】
得られた化合物(I)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(I);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.6~1.8(4H)、3.4~4.2(32H)
【0114】
(実施例10)
式(9)で表される化合物の代わりに、下記式(15)で表される化合物を1.96g用いたこと以外は、実施例3と同様な操作を行い、下記式(J)で表される化合物(J)を8.88g得た。
下記式(15)で表される化合物は、1,5-ペンタンジオールの片方の水酸基をテトラヒドロピラニル(THP)基で保護した化合物とエピクロロヒドリンから合成した。
【0115】
【化23】
(式(J)中、xjは5.0である。)
【0116】
得られた化合物(J)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(J);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.4~1.8(6H)、3.4~4.2(32H)
【0117】
(実施例11)
HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(式中のyは8.0である。)を22.12g用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、式(K)で表される化合物(K)を9.92g得た。
【0118】
【化24】
(式(K)中、ykは8.0である。)
【0119】
得られた化合物(K)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(K);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]3.4~4.2(22H)
【0120】
(実施例12)
HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(式中のyは8.0である。)を22.12g用いたこと以外は、実施例2と同様な操作を行い、下記式(L)で表される化合物(L)を7.94g得た。
【0121】
【化25】
(式(L)中、ylは8.0である。)
【0122】
得られた化合物(L)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(L);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]3.4~4.2(28H)
【0123】
(実施例13)
HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(式中のyは8.0である。)を22.12g用いたこと以外は、実施例3と同様な操作を行い、下記式(M)で表される化合物(M)を8.17g得た。
【0124】
【化26】
(式(M)中、ymは8.0である。)
【0125】
得られた化合物(M)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(M);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]3.4~4.2(32H)
【0126】
(実施例14)
HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(式中のyは8.0である。)を11.06g用いたこと以外は、実施例4と同様な操作を行い、下記式(N)で表される化合物(N)を8.89g得た。
【0127】
【化27】
(式(N)中、ynは8.0である。)
【0128】
得られた化合物(N)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(N);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]3.4~4.2(38H)
【0129】
(実施例15)
HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(式中のyは8.0である。)を11.06g用いたこと以外は、実施例5と同様な操作を行い、下記式(O)で表される化合物(O)を8.99g得た。
【0130】
【化28】
(式(O)中、yoは8.0である。)
【0131】
得られた化合物(O)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(O);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.6~1.8(4H)、3.4~4.2(38H)
【0132】
(実施例16)
HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(式中のyは8.0である。)を11.06g用いたこと以外は、実施例6と同様な操作を行い、下記式(P)で表される化合物(P)を9.78g得た。
【0133】
【化29】
(式(P)中、ypは8.0である。)
【0134】
得られた化合物(P)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(P);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.6~1.8(8H)、3.4~4.2(38H)
【0135】
(実施例17)
HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(式中のyは8.0である。)を11.06g用いたこと以外は、実施例7と同様な操作を行い、下記式(Q)で表される化合物(Q)を9.87g得た。
【0136】
【化30】
(式(Q)中、yqは8.0である。)
【0137】
得られた化合物(Q)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(Q);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.4~1.8(12H)、3.4~4.2(38H)
【0138】
(実施例18)
HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(式中のyは8.0である。)を22.12g用いたこと以外は、実施例8と同様な操作を行い、下記式(R)で表される化合物(R)を8.24g得た。
【0139】
【化31】
(式(R)中、yrは8.0である。)
【0140】
得られた化合物(R)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(R);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.6~1.8(2H)、3.4~4.2(32H)
【0141】
(実施例19)
HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(式中のyは8.0である。)を22.12g用いたこと以外は、実施例9と同様な操作を行い、下記式(S)で表される化合物(S)を8.24g得た。
【0142】
【化32】
(式(S)中、ysは8.0である。)
【0143】
得られた化合物(S)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(S);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.6~1.8(4H)、3.4~4.2(32H)
【0144】
(実施例20)
HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(式中のyは8.0である。)を22.12g用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、下記式(T)で表される化合物(T)を8.24g得た。
【0145】
【化33】
(式(T)中、ytは8.0である。)
【0146】
得られた化合物(T)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(T);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.4~1.8(6H)、3.4~4.2(32H)
【0147】
(実施例21)
実施例2で示す実施例1と同様の反応において、式(7)で表される化合物の代わりに、式(10)で表される化合物を4.18g用い、実施例2で示す方法で、中間体として、式(21)で示される化合物の代わりに、下記式(16)で表される化合物を11.40g得た。続いて、式(8)で表される化合物の代わりに、式(13)で表される化合物を用いたこと以外は、実施例2と同様な操作を行い、下記式(U)で表される化合物(U)を7.59g得た。
【0148】
【化34】
(式(16)中、xは5.0である。)
(式(U)中、xuは5.0である。)
【0149】
得られた化合物(U)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(U);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.6~1.8(4H)、3.4~4.2(32H)
【0150】
(実施例22)
実施例21で示す実施例1と同様の反応において、HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中のxは5.0である。)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(式中のyは8.0である。)を22.12g用いたこと以外は、実施例21と同様な操作を行い、式(V)で表される化合物(V)を10.02g得た。
【0151】
【化35】
(式(V)中、yvは8.0である。)
【0152】
得られた化合物(V)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(V);H-NMR(CDCOCD):
δ[ppm]1.6~1.8(4H)、3.4~4.2(32H)
【0153】
(比較例1)
下記式(X)で表される化合物(X)を特許文献1に記載の方法で合成した。
【0154】
【化36】
(式(X)中、aは5.0であり、bは5.0である。)
【0155】
得られた化合物(X)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(X);H-NMR(CDCOCD);
δ[ppm]3.4~4.2(26H)
【0156】
(比較例2)
式(7)で示される化合物に代えて、式(8)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例4と同様にして下記式(Y)で表される化合物(Y)を合成した。
【0157】
【化37】
(式(Y)中、cは5.0である。)
【0158】
得られた化合物(Y)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(Y);H-NMR(CDCOCD);
δ[ppm]3.4~4.2(18H)
【0159】
(比較例3)
下記式(Z)で表される化合物(Z)を特許文献2に記載の方法で合成した。
【0160】
【化38】
(式(Z)中、dは5.0である。)
【0161】
得られた化合物(Z)のH-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(Z);H-NMR(CDCOCD);
δ[ppm]3.4~4.2(26H)
【0162】
このようにして得られた実施例1~22および比較例1~3の化合物を、式(1)に当てはめたときのR~Rの構造を表1~表2に示す。また、実施例1~22および比較例1~3の化合物の数平均分子量(Mn)を、上述したH-NMRおよび19F-NMRの測定により求めた。その結果を表1~表2に示す。
【0163】
【表1】
【0164】
【表2】
【0165】
次に、以下に示す方法により、実施例1~22および比較例1~3で得られた化合物を用いて潤滑層形成用溶液を調製した。そして、得られた潤滑層形成用溶液を用いて、以下に示す方法により、磁気記録媒体の潤滑層を形成し、実施例1~22および比較例1~3の磁気記録媒体を得た。
【0166】
「潤滑層形成用溶液」
実施例1~22および比較例1~3で得られた化合物を、それぞれフッ素系溶媒であるバートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)に溶解し、保護層上に塗布した時の膜厚が9Å~10ÅになるようにバートレルXFで希釈し、実施例1~22および比較例1~3の潤滑層形成用溶液とした。
【0167】
「磁気記録媒体」
直径65mmの基板上に、付着層と軟磁性層と第1下地層と第2下地層と磁性層と保護層とを順次設けた磁気記録媒体を用意した。保護層は、炭素からなるものとした。
保護層までの各層の形成された磁気記録媒体の保護層上に、実施例1~22および比較例1~3の潤滑層形成用溶液を、それぞれディップ法により塗布した。なお、ディップ法は、浸漬速度10mm/sec、浸漬時間30sec、引き上げ速度1.2mm/secの条件で行った。
その後、潤滑層形成用溶液を塗布した磁気記録媒体を、120℃の恒温槽に入れ、10分間加熱して潤滑層形成用溶液中の溶媒を除去することにより、保護層上に潤滑層を形成し、実施例1~22および比較例1~3の磁気記録媒体を得た。
【0168】
このようにして得られた実施例1~22および比較例1~3の磁気記録媒体の有する潤滑層の膜厚を、FT-IR(商品名:Nicolet iS50、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。その結果を表4に示す。
【0169】
次に、実施例1~22および比較例1~3の磁気記録媒体に対して、以下に示す密着性(ボンド率)測定、ピックアップ抑制試験、および化学物質耐性試験を行なった。
【0170】
(潤滑層と保護層との密着性(ボンド率)測定)
潤滑層の形成された磁気記録媒体を、溶媒であるバートレルXF中に10分間浸漬して、引き上げる方法により洗浄した。磁気記録媒体を溶媒中に浸漬する速度は10mm/secとし、引き上げる速度は1.2mm/secとした。その後、洗浄前に行った潤滑層の膜厚の測定と同じ方法で、潤滑層の膜厚を測定した。
そして、洗浄前の潤滑層の膜厚をA、洗浄後(溶媒浸漬後)の潤滑層の膜厚をBとし、AとBとの比((B/A)×100(%))から潤滑剤の結合率(ボンド率)を算出した。算出したボンド率を用いて、以下に示す基準により、潤滑層と保護層との密着性を評価した。その結果を表4に示す。
【0171】
「密着性(ボンド率)評価」
a:ボンド率が80%以上
b:ボンド率が70%以上80%未満
c:ボンド率が50%以上70%未満
d:ボンド率が50%未満
【0172】
(ピックアップ抑制試験)
スピンスタンドに磁気記録媒体および磁気ヘッドを装着し、常温減圧下(約250torr)で10分間磁気ヘッドを定点浮上させた。その後、磁気ヘッドの磁気記録媒体と相対する面(潤滑層の表面)を、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)分析装置を用いて分析した。そして、ESCAで測定したフッ素由来のピークの強度(信号強度(a.u.))から、磁気ヘッドへの潤滑剤の付着量を下記表3に示す基準により評価した。その結果を表4に示す。
【0173】
【表3】
【0174】
(化学物質耐性試験)
この評価手法は、高温環境下において汚染物質を生成させる環境物質による磁気記録媒体の汚染を調べる評価手法である。以下に示す評価手法では、環境物質としてSiイオンを用い、環境物質によって生成された磁気記録媒体を汚染する汚染物質の量としてSi吸着量を測定した。
具体的には、評価対象である磁気記録媒体を、温度85℃、湿度0%の高温環境下で、シロキサン系Siゴムの存在下に240時間保持した。次に、磁気記録媒体の表面に存在するSi吸着量を、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて分析測定し、Siイオンによる汚染の程度をSi吸着量として評価した。
Si吸着量の評価は、比較例3の化合物Zを用いて得た磁気記録媒体のSi吸着量の結果を1.00としたときの、比較例3を基準に各実施例、比較例のSi吸着量を相対的に求めた数値を用いて下記の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0175】
「化学物質耐性評価」
a:0.85未満
b:0.85以上、1.0未満
c:1.0以上、1.2未満
d:1.2以上
【0176】
【表4】
【0177】
表4に示すように、実施例1~22の磁気記録媒体は、密着性(ボンド率)、ピックアップ抑制、化学物質耐性の全ての評価がbまたはaであった。
これは、実施例1~22の磁気記録媒体では、潤滑層を形成している式(1)で表される化合物中のRの一端に配置されたRと他端に配置されたRの水酸基が、保護層と強く吸着されていることにより達成できたものと推定される。
【0178】
一方、比較例1および比較例2の含フッ素エーテル化合物は、ピックアップ抑制の評価がdであり、密着性(ボンド率)および化学物質耐性の評価がcであった。
これは、比較例1では、パーフルオロポリエーテル鎖の両端に結合している水酸基の数が少ないため、保護層への密着性が不足し、しかもパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位に(-CF-O-)が含まれているため、パーフルオロポリエーテル鎖の剛直性が不足して保護層上で凝集しやすいことによるものであると推定される。また、比較例2では、パーフルオロポリエーテル鎖の両端に結合している水酸基の数が少ないため、保護層への密着性が不足し、しかも水酸基の結合している炭素原子同士が結合しているため、被覆性が不足したことによるものと推定される。
【0179】
また、比較例3の含フッ素エーテル化合物は、ピックアップ抑制の評価がaであり、密着性(ボンド率)の評価がbであったが、化学物質耐性の評価がcであった。
これは、比較例3では、パーフルオロポリエーテル鎖の両端に結合している水酸基の数が少ないため、保護層上で濡れ広がりが不足したことによるものであると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を用いることにより、保護層との密着性が良好でピックアップを抑制でき、かつ化学物質耐性に優れた潤滑層を形成できる。
【符号の説明】
【0181】
10・・・磁気記録媒体、11・・・基板、12・・・付着層、13・・・軟磁性層、14・・・第1下地層、15・・・第2下地層、16・・・磁性層、17・・・保護層、18・・・潤滑層。
図1