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特許7647578含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体
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  • 特許-含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   C07C 255/13 20060101AFI20250311BHJP
   C07C 255/19 20060101ALI20250311BHJP
   C07D 333/10 20060101ALI20250311BHJP
   C10M 147/04 20060101ALI20250311BHJP
   G11B 5/725 20060101ALI20250311BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20250311BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20250311BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20250311BHJP
【FI】
C07C255/13 CSP
C07C255/19
C07D333/10
C10M147/04
G11B5/725
G11B5/84 Z
C10N40:18
C10N30:00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021567337
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2020046949
(87)【国際公開番号】W WO2021131961
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019232037
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】福本 直也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】室伏 克己
(72)【発明者】
【氏名】柳生 大輔
(72)【発明者】
【氏名】南口 晋毅
(72)【発明者】
【氏名】芝田 夏実
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/087548(WO,A1)
【文献】特開2011-093981(JP,A)
【文献】特開2018-24614(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049585(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/035075(WO,A1)
【文献】特開平8-134036(JP,A)
【文献】特開昭47-6168(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102320992(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 43/13
C07C255/13
C07C255/19-255/22
C07D333/10
C10M147/04
C10N 30/00-30/20
C10N 40/18
G11B 5/72- 5/725
G11B 5/84- 5/858
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
-R-CH-R-CH-OCHCH(OH)CHO-CH-R-CH-R-R (1)
(式(1)中、Rは、下記式(3)~(5)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖から選ばれるいずれか1種である;RおよびRは、下記式(2-1)で表される2価の連結基であり、同じであっても異なっていても良い;RおよびRは、RまたはRの有する酸素原子に結合された末端基であり、同じであっても異なっていても良い;RおよびR が、少なくとも1つのシアノ基で置換された、フェニル基または炭素原子数1~5の有機基である。)
-O-X-(Y X) -Y - (2-1)
(式(2-1)中のaは0~2の整数を表す;Xは下記式(2)である;Y は-O-、-CH -、-CH O-、-OCH -から選ばれるいずれかを表す;Y は-O-または-CH O-を表す。)
-CH CH(OH)CH - (2)
-CF -(OCF CF b -(OCF c -OCF - (3)
(式(3)中、bおよびcは平均重合度を示し、bは1~20を表し、cは0~20を表す。)
-CF CF -(OCF CF CF d -OCF CF - (4)
(式(4)中、dは平均重合度を示し、1~20を表す。)
-CF CF CF -(OCF CF CF CF e -OCF CF CF - (5)
(式(5)中、eは平均重合度を示し、1~10を表す。)
【請求項2】
下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
-R-CH-R-CH-OCHCH(OH)CHO-CH-R-CH-R-R (1)
(式(1)中、Rは、下記式(3)~(5)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖から選ばれるいずれか1種である;RおよびRは、下記式(2-1)で表される2価の連結基であり、同じであっても異なっていても良い;RおよびRは、RまたはRの有する酸素原子に結合された末端基であり、同じであっても異なっていても良い; とR のどちらか一方が、少なくとも1つのシアノ基で置換された、フェニル基または炭素原子数1~5のアルキル基であり、他方が、芳香族炭化水素を含む基、芳香族複素環を含む基、アルケニル基またはアルキニル基を少なくとも一つ有する有機基である。)
-O-X-(Y X) -Y - (2-1)
(式(2-1)中のaは0~2の整数を表す;Xは下記式(2)である;Y は-O-、-CH -、-CH O-、-OCH -から選ばれるいずれかを表す;Y は-O-または-CH O-を表す。)
-CH CH(OH)CH - (2)
-CF -(OCF CF b -(OCF c -OCF - (3)
(式(3)中、bおよびcは平均重合度を示し、bは1~20を表し、cは0~20を表す。)
-CF CF -(OCF CF CF d -OCF CF - (4)
(式(4)中、dは平均重合度を示し、1~20を表す。)
-CF CF CF -(OCF CF CF CF e -OCF CF CF - (5)
(式(5)中、eは平均重合度を示し、1~10を表す。)
CF CF - (5)
(式(5)中、eは平均重合度を示し、1~10を表す。)
【請求項3】
前記式(1)におけるRに含まれる水酸基と、Rに含まれる水酸基との合計数が2~5である請求項1または請求項2に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項4】
前記式(2-1)におけるYおよびYが-O-である請求項1または請求項2に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項5】
前記式(1)において、Rで示される2つのパーフルオロポリエーテル鎖が同じであり、RとRが同じであり、RとRが同じである請求項1または請求項2に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項6】
下記式(A)~(P)で表されるいずれかの化合物である含フッ素エーテル化合物。
【化1】
(式(A)中、ma1、ma2、na1、na2は平均重合度を示し、ma1、ma2は1~20を表し、na1、na2は0~20を表す。)
(式(B)中、mb1、mb2、nb1、nb2は平均重合度を示し、mb1、mb2は1~20を表し、nb1、nb2は0~20を表す。)
(式(C)中、mc1、mc2、nc1、nc2は平均重合度を示し、mc1、mc2は1~20を表し、nc1、nc2は0~20を表す。)
(式(D)中、md1、md2、nd1、nd2は平均重合度を示し、md1、md2は1~20を表し、nd1、nd2は0~20を表す。)
【化2】
(式(E)中、me1、me2、ne1、ne2は平均重合度を示し、me1、me2は1~20を表し、ne1、ne2は0~20を表す。)
(式(F)中、mf1、mf2、nf1、nf2は平均重合度を示し、mf1、mf2は1~20を表し、nf1、nf2は0~20を表す。)
(式(G)中、mg1、mg2、ng1、ng2は平均重合度を示し、mg1、mg2は1~20を表し、ng1、ng2は0~20を表す。)
(式(H)中、mh1、mh2、nh1、nh2は平均重合度を示し、mh1、mh2は1~20を表し、nh1、nh2は0~20を表す。)
【化3】
(式(I)中、mi1、mi2、ni1、ni2は平均重合度を示し、mi1、mi2は1~20を表し、ni1、ni2は0~20を表す。)
(式(J)中、mj1、mj2、nj1、nj2は平均重合度を示し、mj1、mj2は1~20を表し、nj1、nj2は0~20を表す。)
(式(K)中、mk1、mk2、nk1、nk2は平均重合度を示し、mk1、mk2は1~20を表し、nk1、nk2は0~20を表す。)
(式(L)中、ml1、ml2、nl1、nl2は平均重合度を示し、ml1、ml2は1~20を表し、nl1、nl2は0~20を表す。)
【化4】
(式(M)中、mm1、mm2、nm1、nm2は平均重合度を示し、mm1、mm2は1~20を表し、nm1、nm2は0~20を表す。)
(式(N)中、mn1、mn2、nn1、nn2は平均重合度を示し、mn1、mn2は1~20を表し、nn1、nn2は0~20を表す。)
(式(O)中、po1、po2は、平均重合度を示し、それぞれ1~20を表す。)
(式(P)中、qp1、qp2は、平均重合度を示し、それぞれ1~10を表す。)
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
【請求項8】
基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層とが順次設けられた磁気記録媒体であって、
前記潤滑層が、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項9】
前記潤滑層の平均膜厚が、0.5nm~2.0nmである請求項8に記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体に関する。
本願は、2019年12月23日に、日本に出願された特願2019-232037号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置の記録密度を向上させるために、高記録密度に適した磁気記録媒体の開発が進められている。
従来、磁気記録媒体として、基板上に記録層を形成し、記録層上にカーボン等の保護層を形成したものがある。保護層は、記録層に記録された情報を保護するとともに、磁気ヘッドの摺動性を高める。しかし、記録層上に保護層を設けただけでは、磁気記録媒体の耐久性は十分に得られない。このため、一般に、保護層の表面に潤滑剤を塗布して潤滑層を形成している。
【0003】
磁気記録媒体の潤滑層を形成する際に用いられる潤滑剤としては、例えば、CFを含む繰り返し構造を有するフッ素系のポリマーの末端に、水酸基、アミノ基などの極性基を有する化合物を含有するものが提案されている。
例えば、特許文献1および特許文献2には、分子の中央部に存在する水酸基を有する脂肪族炭化水素鎖の両側に、パーフルオロポリエーテルがそれぞれ結合している化合物が開示されている。
また、特許文献3には、パーフルオロポリエーテル鎖の両末端に、極性基を有する2価の連結基を連結し、その少なくとも一方に、炭素原子数1~8の有機基であり、前記有機基の水素の少なくとも1つがシアノ基で置換された末端基が結合している含フッ素エーテル化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第9805755号明細書
【文献】国際公開第2016/084781号
【文献】国際公開第2019/039200号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気記録再生装置においては、より一層、磁気ヘッドの浮上量を小さくすることが要求されている。このため、磁気記録媒体における潤滑層の厚みを、より薄くすることが求められている。
しかし、一般的に潤滑層の厚みを薄くすると、潤滑層の密着性が低下して、磁気記録媒体の化学物質耐性および耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、厚みが薄くても優れた密着性を有し、かつ化学物質耐性および耐摩耗性の良好な潤滑層を形成でき、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適に用いることができる含フッ素エーテル化合物を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含み、優れた密着性を有し、かつ化学物質耐性および耐摩耗性の良好な潤滑層を形成できる磁気記録媒体用潤滑剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層が設けられ、優れた信頼性および耐久性を有する磁気記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の第一の態様を含む。
[1] 下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
-R-CH-R-CH-OCHCH(OH)CHO-CH-R-CH-R-R (1)
(式(1)中、Rは、パーフルオロポリエーテル鎖である;RおよびRは、極性基を有する2価の連結基であり、同じであっても異なっていても良い;RおよびRは、RまたはRの有する酸素原子に結合された末端基であり、同じであっても異なっていても良い;RおよびRのうち少なくとも一方は、炭素原子数1~8の有機基であり、前記有機基の水素の少なくとも1つがシアノ基で置換された基である。)
【0008】
本発明の第一の態様の化合物は、以下の[2]~[13]に述べる特徴を好ましく含む。これらの特徴は2つ以上を組み合わせることも好ましい。
[2]前記有機基が、フェニル基または炭素原子数1~5のアルキル基である[1]に記載の含フッ素エーテル化合物。
[3]前記極性基が水酸基である[1]または[2]に記載の含フッ素エーテル化合物。
[4]前記式(1)におけるRに含まれる水酸基と、Rに含まれる水酸基との合計数が2~5である[3]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0009】
[5]前記式(1)におけるRおよびRが、下記式(2)で表される連結基を1~3個含む[1]~[4]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
-CHCH(OH)CH- (2)
[6]前記式(1)におけるRおよびRが、下記式(2-1)で表される連結基である[5]に記載の含フッ素エーテル化合物。
-O-X-(YX)-Y- (2-1)
(式(2-1)中のaは0~2の整数を表す;Xは式(2)である;Yは-O-、-CH-、-CHO-、-OCH-から選ばれるいずれかを表す;Yは-O-または-CHO-を表す。)
[7]前記式(2-1)におけるYおよびYが-O-である[6]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0010】
[8]前記式(1)におけるRが、下記式(3)~(5)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖から選ばれるいずれか1種である[1]~[7]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
-CF-(OCFCFb-(OCFc-OCF- (3)
(式(3)中、bおよびcは平均重合度を示し、bは1~20を表し、cは0~20を表す。)
-CFCF-(OCFCFCFd-OCFCF- (4)
(式(4)中、dは平均重合度を示し、1~20を表す。)
-CFCFCF-(OCFCFCFCFe-OCFCFCF- (5)
(式(5)中、eは平均重合度を示し、1~10を表す。)
【0011】
[9] 前記式(1)におけるRおよびRが、少なくとも1つのシアノ基で置換された、フェニル基または炭素原子数1~5のアルキル基である[1]~[8]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
[10] 前記式(1)において、Rで示される2つのパーフルオロポリエーテル鎖が同じであり、RとRが同じであり、RとRが同じである[1]~[9]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
[11] 前記式(1)におけるRとRのどちらか一方が、少なくとも1つのシアノ基で置換された、フェニル基または炭素原子数1~5のアルキル基であり、他方が、芳香族炭化水素を含む基、芳香族複素環を含む基、アルケニル基またはアルキニル基を少なくとも一つ有する有機基である[1]~[8]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0012】
[12] 下記式(A)~(P)で表されるいずれかの化合物である[1]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0013】
【化1】

(式(A)中、ma1、ma2、na1、na2は平均重合度を示し、ma1、ma2は1~20を表し、na1、na2は0~20を表す。)
(式(B)中、mb1、mb2、nb1、nb2は平均重合度を示し、mb1、mb2は1~20を表し、nb1、nb2は0~20を表す。)
(式(C)中、mc1、mc2、nc1、nc2は平均重合度を示し、mc1、mc2は1~20を表し、nc1、nc2は0~20を表す。)
(式(D)中、md1、md2、nd1、nd2は平均重合度を示し、md1、md2は1~20を表し、nd1、nd2は0~20を表す。)
【0014】
【化2】

(式(E)中、me1、me2、ne1、ne2は平均重合度を示し、me1、me2は1~20を表し、ne1、ne2は0~20を表す。)
(式(F)中、mf1、mf2、nf1、nf2は平均重合度を示し、mf1、mf2は1~20を表し、nf1、nf2は0~20を表す。)
(式(G)中、mg1、mg2、ng1、ng2は平均重合度を示し、mg1、mg2は1~20を表し、ng1、ng2は0~20を表す。)
(式(H)中、mh1、mh2、nh1、nh2は平均重合度を示し、mh1、mh2は1~20を表し、nh1、nh2は0~20を表す。)
【0015】
【化3】

(式(I)中、mi1、mi2、ni1、ni2は平均重合度を示し、mi1、mi2は1~20を表し、ni1、ni2は0~20を表す。)
(式(J)中、mj1、mj2、nj1、nj2は平均重合度を示し、mj1、mj2は1~20を表し、nj1、nj2は0~20を表す。)
(式(K)中、mk1、mk2、nk1、nk2は平均重合度を示し、mk1、mk2は1~20を表し、nk1、nk2は0~20を表す。)
(式(L)中、ml1、ml2、nl1、nl2は平均重合度を示し、ml1、ml2は1~20を表し、nl1、nl2は0~20を表す。)
【0016】
【化4】

(式(M)中、mm1、mm2、nm1、nm2は平均重合度を示し、mm1、mm2は1~20を表し、nm1、nm2は0~20を表す。)
(式(N)中、mn1、mn2、nn1、nn2は平均重合度を示し、mn1、mn2は1~20を表し、nn1、nn2は0~20を表す。)
(式(O)中、po1、po2は、平均重合度を示し、それぞれ1~20を表す。)
(式(P)中、qp1、qp2は、平均重合度を示し、それぞれ1~10を表す。)
【0017】
[13] 数平均分子量が500~10000の範囲内である[1]~[12]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0018】
本発明の第二の態様は、以下の潤滑剤である。
[14] [1]~[13]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
本発明の第三の態様は、以下の磁気記録媒体である。
[15] 基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層とが順次設けられた磁気記録媒体であって、
前記潤滑層が、[1]~[13]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
上記磁気記録媒体は、以下に述べる特徴を好ましく含む。
[16] 前記潤滑層の平均膜厚が、0.5nm~2.0nmである[15]に記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0019】
本発明の含フッ素エーテル化合物は、上記式(1)で表される化合物であり、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適である。
本発明の磁気記録媒体用潤滑剤は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含むため、厚みが薄くても優れた密着性を有し、かつ化学物質耐性および耐摩耗性の良好な潤滑層を形成できる。
本発明の磁気記録媒体は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含むことにより、優れた密着性を有し、かつ化学物質耐性および耐摩耗性の良好な潤滑層が設けられているため、優れた信頼性および耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の磁気記録媒体の好ましい一実施形態を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の含フッ素エーテル化合物、潤滑剤および磁気記録媒体の好ましい例について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。本発明は、例えば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数、種類、組成、位置、量、比率、材料、構成などについて、付加、省略、置換、変更などが可能である。
従来、保護層の表面に塗布される磁気記録媒体用潤滑剤(以下、「潤滑剤」と略記する場合がある。)の材料として、鎖状構造の末端に水酸基などの極性基を有する含フッ素エーテル化合物が、好ましく用いられている。含フッ素エーテル化合物中の極性基は、保護層上の活性点と結合して、潤滑層の保護層に対する付着性(密着性)を向上させる。このことから、潤滑剤の材料として、鎖状構造の末端だけでなく、鎖状構造中にも極性基を有する含フッ素エーテル化合物が、特に好ましく用いられている。
【0022】
しかしながら、従来の潤滑剤を用いて保護層上に厚みの薄い潤滑層を形成した場合、以下に示すように、優れた密着性を有し、かつ化学物質耐性および耐摩耗性の良好な潤滑層を実現することは困難であった。
すなわち、潤滑剤の保護層に対する付着性(潤滑層の密着性)が不足していると、保護層上に塗布された潤滑剤の状態が嵩高いものとなる。このため、保護層に対する潤滑層の被覆状態が不均一になりやすい。潤滑層の被覆状態が不均一であると、潤滑層の化学物質耐性および耐摩耗性が不十分となる。したがって、潤滑層の密着性が不十分である場合、膜厚を厚くして、保護層に対する潤滑層の被覆状態を均一にしないと、十分な化学物質耐性および耐摩耗性が得られない。
【0023】
保護層に対する潤滑剤の付着性(潤滑層の密着性)を向上させる方法としては、潤滑剤の材料として、鎖状構造の最末端の炭素原子と、最末端の炭素原子に結合した炭素原子と、それ以外の鎖状構造中の炭素原子とに、それぞれ極性基が結合している含フッ素エーテル化合物を用いることが考えられる。
しかし、このような含フッ素エーテル化合物を用いて形成した潤滑層では、保護層との密着性が強すぎることにより潤滑性が損なわれ、耐摩耗性が不足する場合があった。
【0024】
潤滑剤の保護層に対する密着性は、例えば、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を保護層上に塗布した後に必要に応じて行われる熱処理において、熱処理温度を変化させることによって調整できる。具体的には、潤滑剤の保護層に対する密着性は、上記熱処理温度を高くすると強くなり、上記熱処理温度を低くすると弱くなる。
したがって、潤滑剤の保護層に対する密着性が強すぎる場合には、上記熱処理温度を低くする方法などを用いて潤滑層と保護層との密着性を弱め、潤滑層と保護層との密着性を適正な強さにすることで、潤滑層の耐摩耗性を改善できる。
【0025】
しかしながら、鎖状構造の最末端の炭素原子と、最末端の炭素原子に結合した炭素原子と、それ以外の鎖状構造中の炭素原子とに、それぞれ極性基が結合している含フッ素エーテル化合物を用いて形成した潤滑層において、上記の方法などを用いて保護層との密着性を弱くすると、潤滑層の化学物質耐性が悪化する。これは、含フッ素エーテル化合物中の極性基のうち、保護層上の活性点との結合に関与しない極性基の割合が多くなるためであると推定される。すなわち、保護層上の活性点との結合に関与していない含フッ素エーテル化合物中の極性基が、汚染物質を生成させる環境物質を潤滑層に誘引し、潤滑層の化学物質耐性を悪化させるものと推定される。
【0026】
そこで、本発明者は、含フッ素エーテル化合物に含まれる極性基と、保護層上の活性点との結合に着目し、保護層上の活性点との結合に関与しない極性基が生じにくく、保護層に対する被覆状態が均一で良好な密着性を有し、化学物質耐性および耐摩耗性の良好な潤滑層を形成できる含フッ素エーテル化合物を実現すべく、鋭意検討を重ねた。
その結果、鎖状構造の中央にグリセリン構造を配置し、その両側に、メチレン基(-CH-)を介してパーフルオロポリエーテル鎖と、メチレン基と、極性基を有する2価の連結基と、末端基とがこの順にそれぞれ結合され、少なくとも一方の末端基が、炭素原子数1~8の有機基であり、前記有機基の水素の少なくとも1つがシアノ基で置換された基である含フッ素エーテル化合物とすればよいことを見出した。
【0027】
このような含フッ素エーテル化合物において、少なくとも一方の末端基に含まれるシアノ基(-CN)の有する炭素は、SP混成軌道であるため自由回転が難しい。したがって、少なくとも一方の末端基に含まれるシアノ基の保護層との相互作用(親和性)は、グリセリン構造の有する水酸基、および2価の連結基の有する極性基と比較して弱い。
このため、上記の含フッ素エーテル化合物では、少なくとも一方の末端基に含まれるシアノ基と、グリセリン構造の有する水酸基と、2価の連結基の有する極性基とは、それぞれ独立して保護層との良好な相互作用を示し、それぞれ独立して保護層上に多数存在する官能基(活性点)と結合できる。これらのことから、上記含フッ素エーテル化合物では、保護層に対して良好な密着性を有する潤滑層を形成できるものと推定される。
【0028】
また、上記の含フッ素エーテル化合物では、鎖状構造の中央に配置されたグリセリン構造と、2つの2価の連結基との間に、それぞれパーフルオロポリエーテル鎖が配置されている。このため、グリセリン構造の有する水酸基(-OH)と、2価の連結基の有する極性基との距離が適正である。しかも、少なくとも一方の末端基が、自由回転の難しいシアノ基を1以上有する有機基である。これらのことから、グリセリン構造の有する水酸基、および2価の連結基の有する極性基は、保護層上の活性点との結合を、隣接する極性基によって阻害されにくい。したがって、グリセリン構造の有する水酸基、および2価の連結基の有する極性基は、いずれも保護層上の活性点との結合に関与しやすく、保護層上の活性点との結合に関与しない極性基となりにくい。よって、上記含フッ素エーテル化合物では、保護層上の活性点との結合に関与しない極性基の数を抑制でき、化学物質耐性の悪化およびピックアップの発生を抑制できる。
【0029】
また、上記の含フッ素エーテル化合物では、グリセリン構造の有する水酸基と、2価の連結基の有する極性基との距離が適正であるため、グリセリン構造の有する水酸基が、2価の連結基の有する極性基と凝集しにくい。しかも、各パーフルオロポリエーテル鎖の両端部がそれぞれ、グリセリン構造の有する水酸基と、2価の連結基の有する極性基とによって保護層に密着される。このため、保護層上に塗布された含フッ素エーテル化合物の状態が嵩高いものとなりにくく、含フッ素エーテル化合物が保護層上に濡れ広がりやすく、均一な被覆状態を有する潤滑層が得られやすい。よって、上記の含フッ素エーテル化合物は、化学物質耐性および耐摩耗性の良好な潤滑層を形成できる。
【0030】
さらに、本発明者は、上記の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いることにより、厚みが薄くても優れた密着性を有し、かつ化学物質耐性および耐摩耗性の良好な潤滑層を形成できることを確認し、本発明を想到した。
【0031】
以下、本発明の含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体の好ましい例について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0032】
[含フッ素エーテル化合物]
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、下記式(1)で表される。
-R-CH-R-CH-OCHCH(OH)CHO-CH-R-CH-R-R (1)
(式(1)中、Rは、パーフルオロポリエーテル鎖である;RおよびRは、極性基を有する2価の連結基であり、同じであっても異なっていても良い;RおよびRは、RまたはRの有する酸素原子に結合された末端基であり、同じであっても異なっていても良い;RおよびRのうち少なくとも一方は、炭素原子数1~8の有機基であり、前記有機基の水素の少なくとも1つがシアノ基で置換された基である。)
【0033】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、式(1)で示されるように、鎖状構造の中央にグリセリン構造が配置され、その両側に、メチレン基(-CH-)を介してRで示されるパーフルオロポリエーテル鎖(以下「PFPE鎖」と略記する場合がある。)と、メチレン基と、RおよびRで示される極性基を有する2価の連結基と、RおよびRで示される末端基とがこの順にそれぞれ結合された構造を有する。式(1)において、RおよびRのうち少なくとも一方の末端基は、炭素原子数1~8の有機基であり、前記有機基の水素の少なくとも1つがシアノ基で置換された基(以下、「シアノ基で置換された有機基」という場合がある。)である。
【0034】
(グリセリン構造)
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、鎖状構造の中央に配置されたグリセリン構造(-OCHCH(OH)CHO-)の水酸基(-OH)は、含フッ素エーテル化合物と保護層とを密着させ、厚みの薄い潤滑層を十分な被覆率で形成する。
また、グリセリン構造の両端部に配置された酸素原子は、その両側に配置されるメチレン基(-CH-)とエーテル結合(-O-)を形成する。この2つのエーテル結合は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物に適度な柔軟性を付与し、グリセリン構造の有する水酸基と保護層との親和性を増大させる。
【0035】
(Rで示されるPFPE鎖)
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、Rで示されるPFPE鎖は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を保護層上に塗布して潤滑層を形成した場合に、保護層の表面を被覆するとともに、潤滑層に潤滑性を付与して磁気ヘッドと保護層との摩擦力を低減させる。PFPE鎖は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能等に応じて適宜選択される。
PFPE鎖としては、パーフルオロアルキレンオキシドの重合体または共重合体からなるものなどが挙げられる。パーフルオロアルキレンオキシドとしては、例えば、パーフルオロメチレンオキシド、パーフルオロエチレンオキシド、パーフルオロ-n-プロピレンオキシド、パーフルオロブチレンオキシドなどが挙げられる。
【0036】
具体的には、式(1)におけるRは、下記式(3)~(5)で表されるPFPE鎖から選ばれるいずれか1種であることが好ましい。Rが式(3)~(5)で表されるPFPE鎖から選ばれるいずれか1種である場合、良好な潤滑性を有する潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となる。Rが式(3)~(5)で表されるPFPE鎖から選ばれるいずれか1種である場合、PFPE鎖中の炭素原子数に対する酸素原子数(エーテル結合(-O-)数)の割合が適正である。このため、適度な硬さを有する含フッ素エーテル化合物となる。よって、保護層上に塗布された含フッ素エーテル化合物が、保護層上で凝集しにくく、より一層厚みの薄い潤滑層を十分な被覆率で形成できる。式(1)におけるRは、適度な柔軟性を有することにより、化学物質耐性および耐摩耗性のより良好な潤滑層を形成できる含フッ素エーテル化合物となるため、特に式(3)で表されるPFPE鎖であることが好ましい。
【0037】
-CF-(OCFCFb-(OCFc-OCF- (3)
(式(3)中、bおよびcは平均重合度を示し、bは1~20を表し、cは0~20を表す。)
-CFCF-(OCFCFCFd-OCFCF- (4)
(式(4)中、dは平均重合度を示し、1~20を表す。)
-CFCFCF-(OCFCFCFCFe-OCFCFCF- (5)
(式(5)中、eは平均重合度を示し、1~10を表す。)
【0038】
式(3)において、繰り返し単位である(OCFCF)と(OCF)との配列順序に、特に制限はない。式(3)において、(OCFCF)の数bと(OCF)の数cは同じであってもよいし、異なっていてもよい。式(3)で表されるPFPE鎖は、(OCFCF)の重合体であってもよい。また、式(3)で表されるPFPE鎖は、(OCFCF)と(OCF)とからなるランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれかであってもよい。
【0039】
式(4)~(5)においては、平均重合度を示すdが1~20であり、eが1~10である(または式(3)においては、bが1~20であって、cが0~20である)ので、良好な潤滑性を有する潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となる。また、式(3)~(5)においては、平均重合度を示すb、c、dが20以下であり、eが10以下であるので、含フッ素エーテル化合物の粘度が高くなりすぎず、これを含む潤滑剤が塗布しやすいものとなり、好ましい。平均重合度を示すb、c、d、eは、保護層上に濡れ広がりやすく、均一な膜厚を有する潤滑層が得られやすい含フッ素エーテル化合物となるため、2~10であることが好ましく、3~7であることがより好ましい。
【0040】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、Rで示される2つのPFPE鎖は、同じであってもよいし、異なっていても良い。
【0041】
(RおよびRで示される極性基を有する2価の連結基)
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、RおよびRは、極性基を有する2価の連結基である。式(1)で表される含フッ素エーテル化合物では、RおよびRが極性基を有するため、これを含む潤滑剤を用いて保護層上に潤滑層を形成した場合に、潤滑層と保護層との間に好適な相互作用が発生する。RおよびRを構成する極性基を有する2価の連結基は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能などに応じて適宜選択できる。
【0042】
およびRで示される極性基を有する2価の連結基の有する極性基としては、例えば、水酸基(-OH)、アミノ基(-NH)、カルボキシル基(-COOH)、アルデヒド基(-COH)、カルボニル基(-CO-)、スルフォン酸基(-SOH)などが挙げられる。これらの中でも特に、極性基が水酸基であることが好ましい。水酸基は、保護層、とりわけ炭素系の材料で形成された保護層との相互作用が大きい。したがって、Rおよび/またはRの有する極性基が水酸基であると、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層が、保護層との付着性(密着性)が高いものとなる。
【0043】
および/またはRの有する極性基が水酸基を含む場合、式(1)におけるRに含まれる水酸基とRに含まれる水酸基との合計数は、2~6であることが好ましく、2~5であることがより好ましく、3~4であることがさらに好ましい。上記の水酸基の合計数が2以上であると、RおよびRの有する水酸基と保護層との相互作用が、より効果的に得られる。その結果、より一層、保護層との付着性(密着性)が高い潤滑層を形成できる含フッ素エーテル化合物となる。また、上記の水酸基の合計数が6以下であると、潤滑層と保護層上の活性点との結合に関与していない極性基が、汚染物質を生成させる環境物質を潤滑層に誘引することを防止できるため、ピックアップが抑制される。
【0044】
および/またはRは、下記式(2)で表される連結基を1~3個含むことが好ましく、RおよびRが下記式(2)で表される連結基を1~3個含むことがより好ましい。
-CHCH(OH)CH- (2)
【0045】
式(2)で表される連結基は、極性基の中でも特に保護層との相互作用が大きい基である、水酸基を有する連結基である。また、式(2)で表される連結基では、水酸基の結合している炭素原子の両側にメチレン基(-CH-)が配置されている。このため、Rおよび/またはRが式(2)で表される連結基を1~3個含む場合、以下に示す理由により、保護層との付着性(密着性)がより一層高い潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となる。
【0046】
すなわち、式(2)で表される連結基の水酸基の結合している炭素原子と、RまたはRとの間には、メチレン基とRまたはRの有する酸素原子(-O-)とが少なくとも配置される。このため、式(2)で表される連結基に含まれる水酸基と、Rおよび/またはRの有するシアノ基との距離が適正となる。よって、式(2)で表される連結基の有する水酸基と、Rおよび/またはRで示される末端基とが、それぞれ独立して保護層との良好な相互作用を示し、それぞれ独立して保護層上に多数存在する官能基(活性点)と結合されやすいものとなる。
【0047】
また、式(2)で表される連結基では、水酸基の結合している炭素原子の両側にメチレン基が配置されているため、Rおよび/またはRが式(2)で表される連結基を2~3個含む場合に、式(2)で表される連結基に含まれる水酸基同士の距離が適正となる。その結果、式(2)で表される連結基に含まれる水酸基の数が複数であっても、式(2)で表される連結基に含まれる水酸基が、それぞれ保護層上の活性点との結合に関与しやすいものとなる。
【0048】
また、Rおよび/またはRが式(2)で表される連結基を1~3個含む場合、Rおよび/またはRが水酸基を1~3個含むものとなる。このため、Rおよび/またはRに含まれる水酸基の数が適正となりやすく、含フッ素エーテル化合物の極性が高くなりすぎて、ピックアップが発生することを防止できる。
【0049】
式(2)で表される連結基の数は、より一層保護層との密着性が良好な潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となるため、式(1)におけるRに含まれる水酸基とRに含まれる水酸基との合計数が、2~5となるように調節されることが好ましく、3~4となるように調節されることがより好ましい。
【0050】
および/またはRは、下記式(2-1)で表される連結基であることが好ましく、RおよびRが下記式(2-1)で表される連結基であることがより好ましい。式(2-1)中、左側の酸素原子が、RまたはRに結合される酸素原子である。
-O-X-(YX)-Y- (2-1)
(式(2-1)中のaは0~2の整数を表す;Xは式(2)である;Yは-O-、-CH-、-CHO-、-OCH-から選ばれるいずれかを表す;Yは-O-または-CHO-を表す。)
【0051】
および/またはRが、式(2-1)で表される連結基である場合、合成が容易な含フッ素エーテル化合物となるため、好ましい。
【0052】
式(2-1)で表される連結基において、式(2-1)中のaは0~2の整数である。式(2-1)で示される連結基におけるaが0以上であるので、Rおよび/またはRが式(2-1)で示される連結基である場合、極性基として特に保護層との相互作用が大きい水酸基を1以上含むものとなる。その結果、より一層保護層との密着性が良好な潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となる。また、式(2-1)で示される連結基は、式(2-1)中におけるaが2以下であるので、式(2-1)で示される連結基中の水酸基が多いことにより含フッ素エーテル化合物の極性が高くなりすぎて、これを含む潤滑剤が異物(スメア)として付着するピックアップが発生することを防止できる。
【0053】
また、式(2-1)で表される連結基では、式(2-1)中のaが1または2である場合、式(2-1)で表される連結基に含まれる水酸基同士の距離が適正となる。その結果、Rおよび/またはRに含まれる水酸基の数が複数であっても、Rおよび/またはRに含まれる水酸基が、それぞれ保護層上の活性点との結合に関与しやすいものとなる。
【0054】
式(2-1)で表される連結基において、式(2-1)中のXは式(2)であり、Yは-O-、-CH-、-CHO-、-OCH-から選ばれるいずれかを表し、Yは-O-または-CHO-を表す。YとYは同じであってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。
および/またはRが式(2-1)で表される連結基である場合、RとR、および/またはRとRとがエーテル結合しているとともに、RとRとの間、および/またはRとRとの間にエーテル結合が配置されたものとなる。その結果、適度な柔軟性を有する含フッ素エーテル化合物となり、化学物質耐性および耐摩耗性のより良好な潤滑層を形成できるものとなる。
【0055】
式(2-1)で表される連結基において、Yはエーテル結合(-O-)、またはエーテル結合を含む基であることが好ましく、YおよびYが-O-であることがより好ましい。この場合、YがCHである場合と比較して、適度な柔軟性を有する含フッ素エーテル化合物となる。このため、式(2-1)で表される連結基に含まれる水酸基と保護層との相互作用が強くなる。
【0056】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、RとRとは、同じであってもよいし、異なっていても良い。
【0057】
(RおよびRで示される末端基)
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、RおよびRで示される末端基のうち、少なくとも一方は、炭素原子数1~8の有機基であり、前記有機基の水素の少なくとも1つがシアノ基(-CN)で置換された基(シアノ基で置換された有機基)である。
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、シアノ基で置換された有機基に含まれるシアノ基は、保護層と適度な相互作用を示す。このため、シアノ基で置換された有機基は、潤滑層と保護層との密着性を向上させて、化学物質耐性および耐摩耗性の良好な潤滑層を形成する機能を有する。
【0058】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、シアノ基で置換された有機基の種類は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能等に応じて適宜選択できる。
シアノ基で置換された有機基の有するシアノ基の数は、特に限定されるものではなく、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。シアノ基で置換された有機基の有するシアノ基の数は、製造が比較的容易な含フッ素エーテル化合物となるため、好ましくは1つである。
【0059】
シアノ基で置換された有機基における有機基は、炭素原子数が1~8のものである。式(1)で表される含フッ素エーテル化合物においては、上記炭素原子数が1~8であるので、シアノ基で置換された有機基が立体障害となることがなく、シアノ基と保護層との親和性の良好な含フッ素エーテル化合物となる。
シアノ基で置換された有機基における有機基は、フェニル基または炭素原子数が1~8のアルキル基であることが好ましく、フェニル基または炭素原子数1~5のアルキル基であることがより好ましい。シアノ基で置換された有機基における有機基が、フェニル基または炭素原子数が1~5のアルキル基であると、シアノ基で置換された有機基における有機基の立体障害がより効果的に抑えられ、シアノ基と保護層との親和性が大きい含フッ素エーテル化合物となる。
【0060】
具体的には、シアノ基で置換された有機基として、例えば、下記式(6-1)~(6-4)、式(7)~(11)で示されるいずれかの有機基が挙げられる。
式(6-1)~(6-4)、式(7)~(11)中の点線は、式(1)中において、RまたはRに結合される結合手である。
【0061】
【化5】
【0062】
式(6-1)~(6-4)、式(7)~(11)で示されるシアノ基で置換された有機基の中でも、磁気記録媒体の保護層と良好な親和性を示す含フッ素エーテル化合物となるため、式(6-1)で示される有機基、式(7)~(10)で示される有機基から選ばれるいずれかの有機基を用いることが好ましく、製造が比較的容易な含フッ素エーテル化合物となるため、式(6-1)で示される有機基または式(10)で示される有機基を用いることがより好ましく、式(6-1)で示される有機基が最も好ましい。
【0063】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、RおよびRで示される末端基の両方が、シアノ基で置換された有機基である場合、RとRとは、同じであってもよいし、異なっていても良い。
【0064】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、RおよびRで示される末端基のうち一方(例えば、R)のみが、シアノ基で置換された有機基である場合、シアノ基で置換された有機基でない他方の末端基(例えば、R)は、如何なる基であってもよく、特に限定されない。RおよびRで示される末端基のうち一方のみが、シアノ基で置換された有機基である場合、他方の末端基は、二重結合または三重結合を少なくとも一つ有する有機基であることが好ましく、例えば、芳香族炭化水素を含む基、芳香族複素環を含む基、アルケニル基を含む基、アルキニル基を含む基などが挙げられる。他方の末端基は、水酸基を含むものであってもよいが、水酸基の数が多すぎることによって潤滑層の耐摩耗性が損なわれることを防止するため、水酸基を含まないことが好ましい。
【0065】
具体的には、上記他方の末端基は、フェニル基、メトキシフェニル基、フッ化フェニル基、ナフチル基、フェネチル基、メトキシフェネチル基、フッ化フェネチル基、ベンジル基、メトキシベンジル基、ナフチルメチル基、メトキシナフチル基、ピロリル基、ピラゾリル基、メチルピラゾリルメチル基、イミダゾリル基、フリル基、フルフリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チエニル基、チエニルエチル基、チアゾリル基、メチルチアゾリルエチル基、イソチアゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、インドリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾピラゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、フタラジニル基、シンノリニル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、プロピニル基、プロパルギル基、ブチニル基、メチルブチニル基、ペンチニル基、メチルペンチニル基、及び、ヘキシニル基から選択される基とすることができる。
【0066】
上記他方の末端基は、上記の中でも特に、フェニル基、メトキシフェニル基、チエニルエチル基、ブテニル基、アリル基、プロパルギル基、フェネチル基、メトキシフェネチル基、フッ化フェネチル基のいずれかであることが好ましい。この場合、より優れた化学物質耐性および耐摩耗性を有する潤滑層を形成できる含フッ素エーテル化合物となる。
上記の他方の末端基は、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基などの置換基を有していても良い。
【0067】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物においてRおよびRで示される末端基のうち一方のみが、シアノ基で置換された有機基である場合、RとRのどちらか一方が、少なくとも1つのシアノ基で置換された、フェニル基または炭素原子数1~5のアルキル基であり、他方が、芳香族炭化水素を含む基、芳香族複素環を含む基、アルケニル基またはアルキニル基を少なくとも一つ有する有機基であることが好ましい。このような含フッ素エーテル化合物は、化学物質耐性および耐摩耗性の良好な潤滑層を形成できる。
【0068】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物においては、Rで示される2つのPFPE鎖が同じであって、RとRも同じで、RとRも同じである場合、容易に効率よく製造できるため、好ましい。また、このような含フッ素エーテル化合物は、グリセリン構造を中心とした対称構造であるため、保護層上で均一に濡れ広がりやすく、均一な膜厚を有する潤滑層が得られやすく、好ましい。
【0069】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、具体的には下記式(A)~(P)で表されるいずれかの化合物であることが好ましい。なお、式(A)~(P)中のma1~mn1、ma2~mn2、na1~nn1、na2~nn2、po1、po2、qp1、qp2は、平均重合度を示す値であるため、必ずしも整数とはならない。
式(1)で表わされる化合物が上記式(A)~(P)で表されるいずれかの化合物である場合、原料が入手しやすく、しかも、厚みが薄くても優れた密着性を有し、より一層優れた化学物質耐性および耐摩耗性が得られる潤滑層を形成できるため好ましい。
【0070】
下記式(A)~(P)で表される化合物は、いずれも式(1)においてRで示される2つのPFPE鎖が同じである。下記式(A)~(P)で表される化合物は、いずれもRおよびRが上記式(2-1)で表される連結基であり、上記式(2-1)におけるYが-O-である。
下記式(A)~(E)で表される化合物は、いずれもRおよびRが上記式(6-1)で表される有機基であり、RおよびRが上記式(2-1)で表される連結基であり、Rが式(3)で表される。
【0071】
式(A)~(C)で表される化合物は、いずれもRの上記式(2-1)におけるaが0である。式(A)で表される化合物は、Rの上記式(2-1)におけるaが0であり、式(B)で表される化合物は、Rの上記式(2-1)におけるaが1、Yが-O-であり、式(C)で表される化合物は、Rの上記式(2-1)におけるaが2、Yが-O-である。
式(D)、(E)で表される化合物は、いずれもRの上記式(2-1)におけるaが1、Yが-O-である。式(D)で表される化合物は、Rの上記式(2-1)におけるaが1、Yが-O-であり、式(E)で表される化合物は、Rの上記式(2-1)におけるaが2、Yが-O-である。
【0072】
下記式(F)、(G)、(I)で表される化合物は、RおよびRが上記式(2-1)で表される連結基であって式(2-1)におけるaが1、Yが-O-であり、Rが式(3)で表される。
式(F)で表される化合物は、RおよびRが上記式(8)であり、式(G)で表される化合物は、RおよびRが上記式(9)であり、式(I)で表される化合物は、RおよびRが上記式(10)である。
【0073】
下記式(H)で表される化合物は、RおよびRが上記式(7)であり、RおよびRが上記式(2-1)で表される連結基であって、式(2-1)におけるaが0であり、Rが式(3)で表される。
【0074】
下記式(J)~(N)で表される化合物は、いずれもRが上記式(6-1)で表される有機基であり、RおよびRが上記式(2-1)で表される連結基であり、Rが式(3)で表される。
式(J)、(L)~(N)で表される化合物は、いずれもRおよびRの上記式(2-1)におけるaが1、Yが-O-である。式(K)で表される化合物は、Rの上記式(2-1)におけるaが1、Yが-O-であり、Rの上記式(2-1)におけるaが0である。
式(J)で表される化合物は、Rが上記式(9)であり、式(K)で表される化合物は、Rが上記式(10)であり、式(L)で表される化合物は、Rがアリル基であり、式(M)で表される化合物は、Rがフェニル基であり、式(N)で表される化合物は、Rがチエニルエチル基である。
【0075】
下記式(O)、(P)で表される化合物は、いずれもRおよびRが上記式(6-1)で表される有機基であり、RおよびRが上記式(2-1)で表される連結基であって(2-1)におけるaが1、Yが-O-である。式(O)で表される化合物は、Rが式(4)で表される。式(P)で表される化合物は、Rが式(5)で表される。
【0076】
【化6】

(式(A)中、ma1、ma2、na1、na2は平均重合度を示し、ma1、ma2は1~20を表し、na1、na2は0~20を表す。)
(式(B)中、mb1、mb2、nb1、nb2は平均重合度を示し、mb1、mb2は1~20を表し、nb1、nb2は0~20を表す。)
(式(C)中、mc1、mc2、nc1、nc2は平均重合度を示し、mc1、mc2は1~20を表し、nc1、nc2は0~20を表す。)
(式(D)中、md1、md2、nd1、nd2は平均重合度を示し、md1、md2は1~20を表し、nd1、nd2は0~20を表す。)
【0077】
【化7】

(式(E)中、me1、me2、ne1、ne2は平均重合度を示し、me1、me2は1~20を表し、ne1、ne2は0~20を表す。)
(式(F)中、mf1、mf2、nf1、nf2は平均重合度を示し、mf1、mf2は1~20を表し、nf1、nf2は0~20を表す。)
(式(G)中、mg1、mg2、ng1、ng2は平均重合度を示し、mg1、mg2は1~20を表し、ng1、ng2は0~20を表す。)
(式(H)中、mh1、mh2、nh1、nh2は平均重合度を示し、mh1、mh2は1~20を表し、nh1、nh2は0~20を表す。)
【0078】
【化8】

(式(I)中、mi1、mi2、ni1、ni2は平均重合度を示し、mi1、mi2は1~20を表し、ni1、ni2は0~20を表す。)
(式(J)中、mj1、mj2、nj1、nj2は平均重合度を示し、mj1、mj2は1~20を表し、nj1、nj2は0~20を表す。)
(式(K)中、mk1、mk2、nk1、nk2は平均重合度を示し、mk1、mk2は1~20を表し、nk1、nk2は0~20を表す。)
(式(L)中、ml1、ml2、nl1、nl2は平均重合度を示し、ml1、ml2は1~20を表し、nl1、nl2は0~20を表す。)
【0079】
【化9】

(式(M)中、mm1、mm2、nm1、nm2は平均重合度を示し、mm1、mm2は1~20を表し、nm1、nm2は0~20を表す。)
(式(N)中、mn1、mn2、nn1、nn2は平均重合度を示し、mn1、mn2は1~20を表し、nn1、nn2は0~20を表す。)
(式(O)中、po1、po2は、平均重合度を示し、それぞれ1~20を表す。)
(式(P)中、qp1、qp2は、平均重合度を示し、それぞれ1~10を表す。)
式(A)~(P)において、ma1~mn1、ma2~mn2、na1~nn1、na2~nn2、po1、po2、qp1、qp2は、それぞれ上述された上記各範囲内の中から、任意に選択される範囲を有してよい。例えば、ma1~mn1、ma2~mn2、po1、po2は、1~15や、1~10や、1~8や、1~5や、2~3などであってもよい。na1~nn1、na2~nn2は、0~15や、0~10や、0~8や、0~5や、1~6や、2~3などであってもよい。qp1、qp2は、1~8や、1~5や、2~3などであってもよい。
【0080】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、数平均分子量(Mn)が500~10000の範囲内であることが好ましく、1000~5000の範囲内であることが特に好ましい。数平均分子量が500以上であると、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤からなる潤滑層が優れた耐熱性を有するものとなる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、1000以上であることがより好ましい。また、数平均分子量が10000以下であると、含フッ素エーテル化合物の粘度が適正なものとなり、これを含む潤滑剤を塗布することによって、容易に膜厚の薄い潤滑層を形成できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、潤滑剤に適用した場合に扱いやすい粘度となるため、5000以下であることが好ましい。
【0081】
含フッ素エーテル化合物の数平均分子量(Mn)は、H-NMRおよび19F-NMRによって、具体的にはブルカー・バイオスピン社製AVANCEIII400によるH-NMRおよび19F-NMRによって、測定された値である。より具体的には、19F-NMRによって測定された積分値よりPFPE鎖の繰り返し単位数を算出し、数平均分子量を求める。NMR(核磁気共鳴)の測定においては、試料をヘキサフルオロベンゼン/d-アセトン(4/1v/v)溶媒へ希釈して測定する。19F-NMRケミカルシフトの基準は、ヘキサフルオロベンゼンのピークを-164.7ppmとし、H-NMRケミカルシフトの基準は、アセトンのピークを2.2ppmとする。
【0082】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、適当な方法で分子量分画することにより、分子量分散度(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比)を1.3以下とすることが好ましい。
本実施形態において、分子量分画する方法としては、特に制限されないが、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法などによる分子量分画、超臨界抽出法による分子量分画等を用いることができる。
【0083】
「製造方法」
本実施形態の含フッ素エーテル化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を用いて製造できる。本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、例えば、以下に示す製造方法を用いて製造できる。
【0084】
(Rで示される2つのPFPE鎖が同じであって、R-R-とR-R-とが同じである場合)
式(1)においてRで示される2つのPFPE鎖が同じであって、R-R-とR-R-とが同じ(すなわち、RとRとが同じでRとRとが同じ)である化合物を製造するには、まず、式(1)におけるRに対応するパーフルオロポリエーテル鎖の両末端に、それぞれヒドロキシメチル基(-CHOH)が配置されたフッ素系化合物を用意する。
【0085】
次いで、フッ素系化合物の一方の末端に配置されたヒドロキシメチル基の水酸基と、式(1)におけるR-R-となる基(=R-R-となる基)を有するエポキシ化合物のエポキシ基とを反応させる。このことにより、Rに対応するパーフルオロポリエーテル鎖の一方の末端にR-R-に対応する基を有する中間体化合物が得られる。
【0086】
式(1)におけるR-R-となる基(=R-R-となる基)を有するエポキシ化合物としては、例えば、下記式(6a)~(11a)、(6b)~(11b)、(6c)で表される化合物などを用いることができる。
上記フッ素系化合物と上記エポキシ化合物とを反応させて、上記中間体化合物を合成する場合、上記エポキシ化合物の有する水酸基を適切な保護基を用いて保護してから、上記フッ素系化合物と反応させても良い。
【0087】
【化10】
【0088】
式(1)におけるR-R-となる基(=R-R-となる基)を有するエポキシ化合物は、例えば、下記式(12)に示すように、式(1)におけるRまたはRで表される末端基に対応する構造を有するアルコールと、エピブロモヒドリンとを反応させる方法を用いて製造できる。
【0089】
また、上記エポキシ化合物は、例えば、下記式(13)に示すように、式(1)におけるRまたはRで表される末端基に対応する構造を有するアルコールと、アリルグリシジルエーテルとを付加反応した後、付加反応により得られた化合物を酸化する方法を用いて製造してもよい。
また、上記エポキシ化合物は、例えば、下記式(14)に示すように、式(1)におけるRまたはRで表される末端基に対応する構造を有するアルコールと、グリセリンジグリシジルエーテルとを反応させる方法を用いて製造してもよい。
上記エポキシ化合物は、市販品を購入して使用してもよい。
【0090】
【化11】
【0091】
その後、Rに対応するパーフルオロポリエーテル鎖の一方の末端にR-R-に対応する基を有する中間体化合物と、エピブロモヒドリンとを反応させる。
以上の工程を行うことにより、鎖状構造の中央にグリセリン構造を有し、式(1)においてRで示される2つのPFPE鎖が同じであって、R-R-とR-R-とが同じである化合物が得られる。
【0092】
(RとR、RとR、Rで示される2つのPFPE鎖のうちいずれか1つ以上が異なる場合)
この場合にも、上述した式(1)においてRで示される2つのPFPE鎖が同じであって、R-R-とR-R-とが同じである化合物を製造する場合と同様にして、Rに対応するパーフルオロポリエーテル鎖の一方の末端にR-R-に対応する基を有する中間体化合物を製造する。
【0093】
次に、一方の末端にR-R-に対応する基を有する中間体化合物と、エピブロモヒドリンとを反応させて、Rに対応するパーフルオロポリエーテル鎖の一方の末端にR-R-に対応する基を有し、他方の末端にエポキシ基を有する第1中間体化合物を製造する。
【0094】
次に、一方の末端にR-R-に対応する基を有する中間体化合物と同様にして、Rに対応するパーフルオロポリエーテル鎖の一方の末端にR-R-に対応する基を有する第2中間体化合物を製造する。
その後、第1中間体化合物と第2中間体化合物とを反応させる。
以上の工程を行うことにより、鎖状構造の中央にグリセリン構造を有し、式(1)においてRとR、RとR、Rで示される2つのPFPE鎖のうちいずれか1つ以上が異なる化合物を製造できる。
【0095】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、式(1)で表される化合物であり、鎖状構造の中央にグリセリン構造が配置され、その両側に、メチレン基(-CH-)を介してRで示されるPFPE鎖と、メチレン基と、RおよびRで示される極性基を有する2価の連結基と、RおよびRで示される末端基とがこの順にそれぞれ結合され、RおよびRのうち少なくとも一方の末端基は、シアノ基で置換された有機基である。このため、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて保護層上に形成した潤滑層は、厚みが薄くても保護層に対して優れた密着性を有し、かつ化学物質耐性および耐摩耗性の良好なものとなる。
【0096】
[磁気記録媒体用潤滑剤]
本実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤は、上記式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含む。
本実施形態の潤滑剤は、上記式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むことによる特性を損なわない範囲内であれば、潤滑剤の材料として使用されている公知の材料を、必要に応じて混合して用いることができる。
【0097】
公知の材料の具体例としては、例えば、FOMBLIN(登録商標) ZDIAC、FOMBLIN ZDEAL、FOMBLIN AM-2001(以上Solvay Solexis社製)、Moresco A20H(Moresco社製)等が挙げられる。本実施形態の潤滑剤と混合して用いる公知の材料は、数平均分子量が1000~10000であることが好ましい。
【0098】
本実施形態の潤滑剤が、上記式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の他の材料を含む場合、本実施形態の潤滑剤中の上記式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の含有量が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。上限は任意に選択でき、例えば、99質量%以下や、95質量%以下や、90質量%以下や、80質量%以下であってもよい。
【0099】
本実施形態の潤滑剤は、上記式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むため、膜厚を薄くしても、高い被覆率で保護層の表面を被覆でき、優れた化学物質耐性および耐摩耗性を有する潤滑層を形成できる。
【0100】
[磁気記録媒体]
本実施形態の磁気記録媒体は、基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層とが順次設けられたものである。
本実施形態の磁気記録媒体では、基板と磁性層との間に、必要に応じて1層または2層以上の下地層を設けることができる。また、下地層と基板との間に、付着層および軟磁性層の少なくとも一方を設けることもできる。
【0101】
図1は、本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示す概略断面図である。
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、付着層12と、軟磁性層13と、第1下地層14と、第2下地層15と、磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられた構造をなしている。
【0102】
「基板」
基板11としては、例えば、AlもしくはAl合金等の金属または合金材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金からなる膜が形成された非磁性基板等を用いることができる。
また、基板11としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂等の非金属材料からなる非磁性基板を用いてもよいし、これらの非金属材料からなる基体上にNiPまたはNiP合金の膜を形成した非磁性基板を用いてもよい。
【0103】
ガラス基板は剛性があり、平滑性に優れるため、高記録密度化に好適である。ガラス基板としては、例えば、アルミノシリケートガラス基板が挙げられ、特に化学強化されたアルミノシリケートガラス基板が好適である。
基板11の主表面の粗さは、Rmaxが6nm以下、Raが0.6nm以下の超平滑であることが好ましい。なお、ここでいう表面粗さRmax、Raは、JIS B0601の規定に基づくものである。
【0104】
「付着層」
付着層12は、基板11と、付着層12上に設けられる軟磁性層13とを接して配置した場合に生じる、基板11の腐食の進行を防止する。
付着層12の材料は、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金、CrTi、NiAl、AlRu合金等から適宜選択できる。付着層12は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0105】
「軟磁性層」
軟磁性層13は、第1軟磁性膜と、Ru膜からなる中間層と、第2軟磁性膜とが順に積層された構造を有していることが好ましい。すなわち、軟磁性層13は、2層の軟磁性膜の間にRu膜からなる中間層を挟み込むことによって、中間層の上下の軟磁性膜がアンチ・フェロ・カップリング(AFC)結合した構造を有していることが好ましい。
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の材料としては、CoZrTa合金、CoFe合金等が挙げられる。
【0106】
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜に使用されるCoFe合金には、Zr、Ta、Nbのいずれかを添加することが好ましい。これにより、第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の非晶質化が促進され、第1下地層(シード層)の配向性を向上させることが可能になるとともに、磁気ヘッドの浮上量を低減することが可能となる。
軟磁性層13は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0107】
「第1下地層」
第1下地層14は、その上に設けられる第2下地層15および磁性層16の配向や結晶サイズを制御するための層である。
第1下地層14としては、例えば、Cr層、Ta層、Ru層、あるいはCrMo合金層、CoW合金層、CrW合金層、CrV合金層、CrTi合金層等が挙げられる。
第1下地層14は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0108】
「第2下地層」
第2下地層15は、磁性層16の配向が良好になるように制御する層である。第2下地層15は、RuまたはRu合金からなる層であることが好ましい。
第2下地層15は、1層からなる層であってもよいし、複数層から構成されていてもよい。第2下地層15が複数層からなる場合、全ての層が同じ材料から構成されていてもよいし、少なくとも1層が異なる材料から構成されていてもよい。
第2下地層15は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0109】
「磁性層」
磁性層16は、磁化容易軸が基板面に対して垂直または水平方向を向いた磁性膜からなる。磁性層16は、CoとPtを含む層であり、さらにSNR特性を改善するために、酸化物や、Cr、B、Cu、Ta、Zr等を含む層であってもよい。
磁性層16に含有される酸化物としては、SiO、SiO、Cr、CoO、Ta、TiO等が挙げられる。
【0110】
磁性層16は、1層から構成されていてもよいし、組成の異なる材料からなる複数の磁性層から構成されていてもよい。
例えば、磁性層16が、下から順に積層された第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、さらに酸化物を含んだ材料からなるグラニュラー構造であることが好ましい。第1磁性層に含有される酸化物としては、例えば、Cr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Co等の酸化物を用いることが好ましい。これらの中でも、特に、TiO、Cr、SiO等を好適に用いることができる。また、第1磁性層は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。これらの中でも、特に、Cr-SiO、Cr-TiO、SiO-TiO等を好適に用いることができる。
【0111】
第1磁性層は、Co、Cr、Pt、酸化物の他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、RuおよびReからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むことができる。
第2磁性層には、第1磁性層と同様の材料を用いることができる。第2磁性層は、グラニュラー構造であることが好ましい。
第3磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、酸化物を含まない材料からなる非グラニュラー構造であることが好ましい。第3磁性層は、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、ReおよびMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むことができる。
【0112】
磁性層16が複数の磁性層で形成されている場合、隣接する磁性層の間には、非磁性層を設けることが好ましい。磁性層16が、第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層と第2磁性層との間と、第2磁性層と第3磁性層との間に、非磁性層を設けることが好ましい。
【0113】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層は、例えば、Ru、Ru合金、CoCr合金、CoCrX1合金(X1は、Pt、Ta、Zr、Re、Ru、Cu、Nb、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、W、Mo、Ti、V、ZrおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。)等を好適に用いることができる。
【0114】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層には、酸化物、金属窒化物、または金属炭化物を含んだ合金材料を使用することが好ましい。具体的には、酸化物として、例えば、SiO、Al、Ta、Cr、MgO、Y、TiO等を用いることができる。金属窒化物として、例えば、AlN、Si、TaN、CrN等を用いることができる。金属炭化物として、例えば、TaC、BC、SiC等を用いることができる。
非磁性層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0115】
磁性層16は、より高い記録密度を実現するために、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた垂直磁気記録の磁性層であることが好ましい。磁性層16は、面内磁気記録の磁性層であってもよい。
磁性層16は、蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法等、従来の公知のいかなる方法によって形成してもよい。磁性層16は、通常、スパッタリング法により形成される。
【0116】
「保護層」
保護層17は、磁性層16を保護する。保護層17は、1層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。保護層17としては、炭素系保護層を好ましく用いることができ、特にアモルファス炭素保護層が好ましい。保護層17が炭素系保護層であると、潤滑層18中の含フッ素エーテル化合物に含まれる極性基(特に水酸基)との相互作用が一層高まるため、好ましい。
【0117】
炭素系保護層と潤滑層18との付着力は、炭素系保護層を水素化炭素および/または窒素化炭素とし、炭素系保護層中の水素含有量および/または窒素含有量を調節することにより制御可能である。炭素系保護層中の水素含有量は、水素前方散乱法(HFS)で測定したときに3原子%~20原子%であることが好ましい。また、炭素系保護層中の窒素含有量はX線光電子分光分析法(XPS)で測定したときに、4原子%~15原子%であることが好ましい。
【0118】
炭素系保護層に含まれる水素および/または窒素は、炭素系保護層全体に均一に含有される必要はない。炭素系保護層は、例えば、保護層17の潤滑層18側に窒素を含有させ、保護層17の磁性層16側に水素を含有させた組成傾斜層とすることが好適である。この場合、磁性層16および潤滑層18と、炭素系保護層との付着力が、より一層向上する。
【0119】
保護層17の膜厚は、1nm~7nmであることが好ましい。保護層17の膜厚が1nm以上であると、保護層17としての性能が充分に得られる。保護層17の膜厚が7nm以下であると、保護層17の薄膜化の観点から好ましい。
【0120】
保護層17の成膜方法としては、炭素を含むターゲット材を用いるスパッタ法や、エチレンやトルエン等の炭化水素原料を用いるCVD(化学蒸着法)法、IBD(イオンビーム蒸着)法等を用いることができる。
保護層17として炭素系保護層を形成する場合、例えば、DCマグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。特に、保護層17として炭素系保護層を形成する場合、プラズマCVD法により、アモルファス炭素保護層を成膜することが好ましい。プラズマCVD法により成膜したアモルファス炭素保護層は、表面が均一で、粗さが小さいものとなる。
【0121】
「潤滑層」
潤滑層18は、磁気記録媒体10の汚染を防止する。また、潤滑層18は、磁気記録媒体10上を摺動する磁気記録再生装置の磁気ヘッドの摩擦力を低減させて、磁気記録媒体10の耐久性を向上させる。
潤滑層18は、図1に示すように、保護層17上に接して形成されている。潤滑層18は、保護層17上に上述した実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤を塗布することにより形成されたものである。したがって、潤滑層18は、上述の含フッ素エーテル化合物を含む。
【0122】
潤滑層18は、潤滑層18の下に配置されている保護層17が、炭素系保護層である場合、特に、保護層17と高い結合力で結合される。その結果、潤滑層18の厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面が被覆された磁気記録媒体10が得られやすくなり、磁気記録媒体10の表面の汚染を効果的に防止できる。
【0123】
潤滑層18の平均膜厚は、0.5nm(5Å)~2.0nm(20Å)であることが好ましく、0.5nm(5Å)~1.2nm(12Å)であることがより好ましい。潤滑層18の平均膜厚が0.5nm以上であると、潤滑層18がアイランド状または網目状とならずに均一の膜厚で形成される。そのため、潤滑層18によって、保護層17の表面を高い被覆率で被覆できる。また、潤滑層18の平均膜厚を2.0nm以下にすることで、潤滑層18を充分に薄膜化でき、磁気ヘッドの浮上量を充分小さくできる。
【0124】
「潤滑層の形成方法」
潤滑層18を形成するには、例えば、基板11上に保護層17までの各層が形成された製造途中の磁気記録媒体を用意し、保護層17上に潤滑層形成用溶液を塗布する方法が挙げられる。
【0125】
潤滑層形成用溶液は、上述の実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤を必要に応じて、溶媒に分散溶解させ、塗布方法に適した粘度および濃度とすることにより得られる。
潤滑層形成用溶液に用いられる溶媒としては、例えば、バートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)等のフッ素系溶媒等が挙げられる。
【0126】
潤滑層形成用溶液の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、スプレイ法、ペーパーコート法、ディップ法等が挙げられる。
ディップ法を用いる場合、例えば、以下に示す方法を用いることができる。まず、ディップコート装置の浸漬槽に入れられた潤滑層形成用溶液中に、保護層17までの各層が形成された基板11を浸漬する。次いで、浸漬槽から基板11を所定の速度で引き上げる。このことにより、潤滑層形成用溶液を基板11の保護層17上の表面に塗布する。
ディップ法を用いることで、潤滑層形成用溶液を保護層17の表面に均一に塗布することができ、保護層17上に均一な膜厚で潤滑層18を形成できる。
【0127】
本実施形態においては、潤滑層18を形成した基板11に熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことにより、潤滑層18と保護層17との密着性が向上し、潤滑層18と保護層17との付着力が向上する。
熱処理温度は100℃~180℃とすることが好ましく、100℃~160℃とすることがより好ましい。熱処理温度が100℃以上であると、潤滑層18と保護層17との密着性を向上させる効果が充分に得られる。また、熱処理温度を180℃以下にすることで、潤滑層18の熱分解を防止できる。熱処理時間は、熱処理温度に応じて適宜調整でき、10分~120分とすることが好ましい。
【0128】
本実施形態においては、潤滑層18の保護層17に対する付着力をより一層向上させるために、熱処理前もしくは熱処理後の潤滑層18に、紫外線(UV)を照射する処理を行ってもよい。
【0129】
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、少なくとも磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられたものである。本実施形態の磁気記録媒体10では、保護層17上に接して上述の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層18が形成されている。この潤滑層18は、膜厚が薄くても、優れた密着性を有し、かつ良好な化学物質耐性および耐摩耗性を有する。よって、本実施形態の磁気記録媒体10は、信頼性、特にシリコンコンタミネーションの抑制、耐久性に優れる。したがって、本実施形態の磁気記録媒体10は、磁気ヘッド浮上量が低く(例えば、10nm以下)、用途の多様化に伴う厳しい環境下であっても、長期に亘って安定して動作する。このため、本実施形態の磁気記録媒体10は、特にLUL(Load Unload)方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクとして好適である。
【実施例
【0130】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0131】
[実施例1]
以下に示す方法により、上記式(A)で表される化合物を得た。
窒素ガス雰囲気下で100mLナスフラスコにHOCHCFO(CFCFO)(CFO)CFCHOH(式中の平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)で表される化合物(数平均分子量1000、分子量分布1.1)20gと、上記式(6a)で表される化合物2.55gと、t-ブタノール20mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌し、混合物とした。この混合物にカリウムtert-ブトキシド0.90g加え、70℃で16時間撹拌して反応させた。
【0132】
なお、式(6a)で表される化合物は、2-シアノエタノールとエピブロモヒドリンとを反応させることにより合成した。
【0133】
反応後に得られた反応生成物を25℃に冷却し、水100mLを入れた分液漏斗に移し、酢酸エチル100mLで3回抽出した。有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別した後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、中間体として下記式(15)で示される化合物8.73gを得た。
【0134】
【化12】

(式(15)中、平均重合度を示すmは4.5を表し、平均重合度を示すnは4.5を表す。)
【0135】
次に、窒素ガス雰囲気下で100mLナスフラスコに、上記で得られた中間体である式(15)で示される化合物5.00gと、エピブロモヒドリン0.30gと、t-ブタノール10mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にカリウムtert-ブトキシドを0.60g加え、70℃で23時間撹拌して反応させた。
【0136】
反応後に得られた反応液を室温に戻し、10%塩化水素・メタノール溶液(塩化水素-メタノール試薬(5-10%)東京化成工業株式会社製)5gを加え、室温で4時間撹拌した。その後、反応液を食塩水100mLが入った分液漏斗に少しずつ移し、酢酸エチル200mLで2回抽出した。有機層を食塩水100mL、飽和重曹水100mL、食塩水100mLの順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムによる脱水を行った。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、化合物(A)(式(A)中、平均重合度を示すma1、ma2、na1、na2は4.5である。)を4.20g得た。
【0137】
得られた化合物(A)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(4H)、3.65-3.85(8H)、3.85-4.10(19H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0138】
[実施例2]
以下に示す方法により、上記式(B)で表される化合物を得た。
上記式(15)で示される化合物と、エピブロモヒドリンとを反応させることにより、中間体として下記式(16)で示される化合物を得た。
【0139】
【化13】

(式(16)中、平均重合度を示すmは4.5を表し、平均重合度を示すnは4.5を表す。)
【0140】
窒素ガス雰囲気下で100mLナスフラスコにHOCHCFO(CFCFO)(CFO)CFCHOH(式中の平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)で表される化合物(数平均分子量1000、分子量分布1.1)20gと、下記式(6ba)で表される化合物5.70gと、t-ブタノール20mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌し、混合物とした。この混合物にカリウムtert-ブトキシド0.90g加え、70℃で16時間撹拌して反応させた。
【0141】
【化14】

(式(6ba)中、THPはテトラヒドロピラニル基を示す。)
【0142】
なお、式(6ba)で表される化合物は、以下に示す方法を用いて合成した。まず、2-シアノエタノールとアリルグリシジルエーテルとを付加反応させることにより、シアノ基と水酸基とを有する化合物を合成した。そして、合成したシアノ基と水酸基とを有する化合物の2級水酸基を、ジヒドロピランを用いて保護し、二重結合を酸化することにより、式(6ba)で表されるシアノ基を有するエポキシ化合物を得た。
【0143】
反応後に得られた反応生成物を25℃に冷却し、水100mLが入った分液漏斗へ移し、酢酸エチル100mLで3回抽出した。有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別した後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、中間体として下記式(17)で示される化合物17.5gを得た。
【0144】
【化15】

(式(17)中、平均重合度を示すmは4.5を表し、平均重合度を示すnは4.5を表す。THPはテトラヒドロピラニル基を示す。)
【0145】
次に、窒素ガス雰囲気下で100mLナスフラスコに上記式(16)で表される化合物10.0gと、上記式(17)で表される化合物10.2gと、t-ブタノール20mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にカリウムtert-ブトキシドを0.3g加え、70℃で22時間撹拌して反応させた。
【0146】
反応後に得られた反応液を室温に戻し、10%塩化水素・メタノール溶液(塩化水素-メタノール試薬(5-10%)東京化成工業株式会社製)20gを加え、室温で4時間撹拌した。反応液を食塩水100mLが入った分液漏斗に少しずつ移し、酢酸エチル200mLで2回抽出した。有機層を食塩水100mL、飽和重曹水100mL、食塩水100mLの順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムによる脱水を行った。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、化合物(B)(式(B)中、平均重合度を示すmb1、mb2、nb1、nb2は4.5である。)を13.5g得た。
【0147】
得られた化合物(B)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(4H)、3.65-3.85(8H)、3.85-4.10(24H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0148】
[実施例3]
以下に示す方法により、上記式(C)で表される化合物を得た。
実施例2の式(6ba)で示される化合物の代わりに式(6ca)で示される化合物を用いたこと以外は実施例2と同様な操作を行い、化合物(C)(式(C)中、平均重合度を示すmc1、mc2、nc1、nc2は4.5である。)を8.5g得た。
【0149】
【化16】

(式(6ca)中、THPはテトラヒドロピラニル基を示す。)
【0150】
なお、式(6ca)で示される化合物は、グリセリンジグリシジルエーテルの2級水酸基を、ジヒドロピランを用いて保護した後、2-シアノエタノールのモノ付加反応を行うことにより合成した。
【0151】
得られた化合物(C)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(4H)、3.65-3.85(8H)、3.85-4.10(29H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0152】
[実施例4]
以下に示す方法により、上記式(D)で表される化合物を得た。
実施例2の式(16)で示される化合物の代わりにエピブロモヒドリンを用いたこと以外は実施例2と同様な操作を行い、化合物(D)(式(D)中、平均重合度を示すmd1、md2、nd1、nd2は4.5である。)を5.6g得た。
【0153】
得られた化合物(D)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(4H)、3.65-3.85(8H)、3.85-4.10(29H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0154】
[実施例5]
以下に示す方法により、上記式(E)で表される化合物を得た。
上記式(17)で示される化合物と、エピブロモヒドリンとを反応させることにより、中間体として下記式(18)で示される化合物を得た。
【0155】
【化17】

(式(18)中、平均重合度を示すmは4.5を表し、平均重合度を示すnは4.5を表す。THPはテトラヒドロピラニル基を示す。)
【0156】
実施例2の式(16)で示される化合物の代わりに式(18)で示される化合物を用いたことと、式(6ba)で示される化合物の代わりに式(6ca)で示される化合物を用いたこと以外は実施例2と同様な操作を行い、化合物(E)(式(E)中、平均重合度を示すme1、me2、ne1、ne2は4.5である。)を6.2g得た。
【0157】
得られた化合物(E)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(4H)、3.65-3.85(8H)、3.85-4.10(34H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0158】
[実施例6]
以下に示す方法により、上記式(F)で表される化合物を得た。
実施例1の式(6a)で示される化合物の代わりに式(8ba)で示される化合物を用いたこと以外は実施例1と同様な操作を行い、化合物(F)(式(F)中、平均重合度を示すmf1、mf2、nf1、nf2は4.5である。)を5.1g得た。
【0159】
【化18】

(式(8ba)中、THPはテトラヒドロピラニル基を示す。)
【0160】
なお、式(8ba)で表される化合物は、以下に示す方法を用いて合成した。まず、3-ヒドロキシブチロニトリルとアリルグリシジルエーテルとを付加反応させることにより、シアノ基と水酸基とを有する化合物を合成した。そして、合成したシアノ基と水酸基とを有する化合物の2級水酸基を、ジヒドロピランを用いて保護し、二重結合を酸化することにより、式(8ba)で表されるシアノ基を有するエポキシ化合物を得た。
【0161】
得られた化合物(F)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=1.50(6H)、3.40-3.60(4H)、3.65-3.85(6H)、3.85-4.10(29H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0162】
[実施例7]
以下に示す方法により、上記式(G)で表される化合物を得た。
実施例1の式(6a)で示される化合物の代わりに式(9ba)で示される化合物を用いたこと以外は実施例1と同様な操作を行い、化合物(G)(式(G)中、平均重合度を示すmg1、mg2、ng1、ng2は4.5である。)を4.9g得た。
【0163】
【化19】

(式(9ba)中、THPはテトラヒドロピラニル基を示す。)
【0164】
なお、式(9ba)で表される化合物は、以下に示す方法を用いて合成した。まず、3-ヒドロキシグルタロニトリルとアリルグリシジルエーテルとを付加反応させることにより、シアノ基と水酸基とを有する化合物を合成した。そして、合成したシアノ基と水酸基とを有する化合物の2級水酸基を、ジヒドロピランを用いて保護し、二重結合を酸化することにより、式(9ba)で表されるシアノ基を有するエポキシ化合物を得た。
【0165】
得られた化合物(G)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(8H)、3.65-3.85(6H)、3.85-4.10(29H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0166】
[実施例8]
以下に示す方法により、上記式(H)で表される化合物を得た。
実施例1の式(6a)で示される化合物の代わりに上記式(7a)で示される化合物を用いたこと以外は実施例1と同様な操作を行い、化合物(H)(式(H)中、平均重合度を示すmh1、mh2、nh1、nh2は4.5である。)を5.3g得た。
【0167】
なお、反応に使用した式(7a)で表される化合物は、メタクロロ過安息香酸を用いてアリルシアノアセテートを酸化することにより合成した。
【0168】
得られた化合物(H)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(4H)、3.75-4.10(23H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0169】
[実施例9]
以下に示す方法により、上記式(I)で表される化合物を得た。
実施例1の式(6a)で示される化合物の代わりに式(10ba)で示される化合物を用いたこと以外は実施例1と同様な操作を行い、化合物(I)(式(I)中、平均重合度を示すmi1、mi2、ni1、ni2は4.5である。)を5.2g得た。
【0170】
【化20】

(式(10ba)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0171】
なお、式(10ba)で表される化合物は、以下に示す方法を用いて合成した。まず、2-シアノフェノールとアリルグリシジルエーテルとを付加反応させることにより、シアノ基と水酸基とを有する化合物を合成した。そして、合成したシアノ基と水酸基とを有する化合物の2級水酸基を、クロロメチルメチルエーテルを用いて保護し、二重結合を酸化することにより、式(10ba)で表されるシアノ基を有するエポキシ化合物を得た。
【0172】
得られた化合物(I)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.60-3.90(25H)、4.00-4.10(8H)、7.00-7.50(8H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0173】
[実施例10]
以下に示す方法により、上記式(J)で表される化合物を得た。
実施例5の式(6ca)で示される化合物の代わりに上記式(9ba)で示される化合物を用いたこと以外は実施例5と同様な操作を行い、化合物(J)(式(J)中、平均重合度を示すmj1、mj2、nj1、nj2は4.5である。)を5.0g得た。
【0174】
得られた化合物(J)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(6H)、3.65-3.85(7H)、3.85-4.10(29H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0175】
[実施例11]
以下に示す方法により、上記式(K)で表される化合物を得た。
実施例5の式(6ca)で示される化合物の代わり上記式(10a)で示される化合物を用いたこと以外は実施例5と同様な操作を行い、化合物(K)(式(K)中、平均重合度を示すmk1、mk2、nk1、nk2は4.5である。)を6.5g得た。
【0176】
得られた化合物(K)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(2H)、3.60-3.90(22H)、4.00-4.10(8H)、7.00-7.50(4H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0177】
[実施例12]
以下に示す方法により、上記式(L)で表される化合物を得た。
実施例5の式(6ca)で示される化合物の代わりに式(19)で示される化合物を用いたこと以外は実施例5と同様な操作を行い、化合物(L)(式(L)中、平均重合度を示すml1、ml2、nl1、nl2は4.5である。)を5.5g得た。
【0178】
【化21】

(式(19)中、THPはテトラヒドロピラニル基を示す。)
【0179】
なお、式(19)で表される化合物は、以下に示す方法を用いて合成した。グリセリンジアリルエーテルの2級水酸基を、ジヒドロピランを用いて保護し、一方の二重結合を酸化することにより、式(19)で表されるアリル基を有するエポキシ化合物を得た。
【0180】
得られた化合物(L)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.10(2H)、3.40-3.60(4H)、3.65-3.85(25H)、3.85-4.10(8H)、6.90(2H)、7.25(1H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0181】
[実施例13]
以下に示す方法により、上記式(M)で表される化合物を得た。
実施例5の式(6ca)で示される化合物の代わりに式(20)で示される化合物を用いたこと以外は実施例5と同様な操作を行い、化合物(M)(式(M)中、平均重合度を示すmm1、mm2、nm1、nm2は4.5である。)を4.5g得た。
【0182】
【化22】
【0183】
なお、式(20)で表される化合物は、以下に示す方法を用いて合成した。フェノールとアリルグリシジルエーテルとを付加反応させることにより、フェニル基を有する化合物を合成し、その二重結合を酸化することにより、式(20)で表されるフェニル基を有するエポキシ化合物を得た。
【0184】
得られた化合物(M)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(2H)、3.60-3.90(27H)、4.00-4.10(8H)、6.90(5H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0185】
[実施例14]
以下に示す方法により、上記式(N)で表される化合物を得た。
実施例5の式(6ca)で示される化合物の代わりに式(21)で示される化合物を用いたこと以外は実施例5と同様な操作を行い、化合物(N)(式(N)中、平均重合度を示すmn1、mn2、nn1、nn2は4.5である。)を4.2g得た。
【0186】
【化23】

(式(21)中、MOMはメトキシメチル基を示す。)
【0187】
なお、式(21)で表される化合物は、以下に示す方法を用いて合成した。2-チオフェンエタノールとエピブロモヒドリンとを反応させて化合物を合成し、得られた化合物を加水分解した。得られた加水分解物の1級水酸基をt-ブチルジメチルシリル基で保護し、2級水酸基をメトキシメチル基で保護した。得られた化合物からt-ブチルジメチルシリル基を脱保護し、生成した1級水酸基とエピブロモヒドリンとを反応させて式(21)で表されるチエニルエチル基を有するエポキシ化合物を得た。
【0188】
得られた化合物(N)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.10(2H)、3.40-3.60(4H)、3.65-3.85(28H)、3.85-4.10(7H)、6.90(2H)、7.25(1H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-55.5~-51.5(18F)、-78.5(4F)、-80.5(4F)、-91.0~-88.5(36F)
【0189】
[実施例15]
以下に示す方法により、上記式(D)で表される化合物を得た。
実施例1のHOCHCFO(CFCFO)(CFO)CFCHOH(式中の平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)で表される化合物(数平均分子量1000、分子量分布1.1)の代わりに、HOCHCFO(CFCFO)md(CFO)ndCFCHOH(式中の平均重合度を示すmdは7.0であり、平均重合度を示すndは0である。)で表される化合物(数平均分子量1000、分子量分布1.1)を用いたことと、上記式(6a)で表される化合物の代わりに上記式(6ba)で示される化合物を用いたこと以外は実施例1と同様な操作を行い、化合物(D)(式(D)中、平均重合度を示すmd1、md2は7.0である。平均重合度を示すnd1、nd2は0である。)を8.5g得た。
【0190】
得られた化合物(D)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(4H)、3.65-3.85(8H)、3.85-4.10(29H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-78.5(4F)、-81.3(4F)、-90.0~-88.5(56F)
【0191】
[実施例16]
以下に示す方法により、上記式(O)で表される化合物を得た。
実施例1のHOCHCFO(CFCFO)(CFO)CFCHOHで表される化合物の代わりに、HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH(式中の平均重合度を示すpは4.5である。)で表される化合物(数平均分子量1000、分子量分布1.1)を用いたことと、上記式(6a)で表される化合物の代わりに上記式(6ba)で示される化合物を用いたこと以外は実施例1と同様な操作を行い、化合物(O)(式(O)中、po1、po2は平均重合度を示し、それぞれ4.5である。)を3.4g得た。
【0192】
得られた化合物(O)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(4H)、3.65-3.85(8H)、3.85-4.10(29H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-84.0~-83.0(36F)、-86.4(8F)、-124.3(8F)、-130.0~-129.0(18F)
【0193】
[実施例17]
以下に示す方法により、上記式(P)で表される化合物を得た。
実施例1のHOCHCFO(CFCFO)(CFO)CFCHOHで表される化合物の代わりに、HOCHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCHOH(式中の平均重合度を示すqは3.0である。)で表される化合物(数平均分子量1000、分子量分布1.1)を用いたことと、上記式(6a)で表される化合物の代わりに上記式(6ba)で示される化合物を用いたこと以外は実施例1と同様な操作を行い、化合物(P)(式(P)中、qp1、qp2は平均重合度を示し、それぞれ3.0である。)を3.3g得た。
【0194】
得られた化合物(P)のH-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
H-NMR(acetone-D):δ[ppm]=3.40-3.60(4H)、3.65-3.85(8H)、3.85-4.10(29H)
19F-NMR(acetone-D):δ[ppm]=-84.0~-83.0(32F)、-122.5(8F)、-126.0(24F)、-129.0~-128.0(8F)
【0195】
このようにして得られた実施例1~17の化合物を、式(1)に当てはめたときのRの構造、Rの構造(式(2-1)中のa)、Rの構造(式(3)中のb、c、式(4)中のd、式(5)中のe)、Rの構造(式(2-1)中のa)、Rの構造を表1に示す。いずれの化合物も、RおよびRを表す上記式(2-1)におけるYは-O-である。また、RおよびRを表す式(2-1)におけるaが1または2のいずれの化合物も、Yは-O-である。
【0196】
【表1】
【0197】
[比較例1][比較例2]
下記式(V)で表される化合物を、特許文献1に記載の方法で合成した。
【0198】
【化24】

(式(V)中、平均重合度を示すmv1、mv2は7.0である。)
【0199】
[比較例3][比較例4]
下記式(W)で表される化合物を、特許文献2に記載の方法で合成した。
【0200】
【化25】

(式(W)中、平均重合度を示すmw1、mw2、nw1、nw2は4.5である。)
【0201】
[比較例5][比較例6]
下記式(X)で表される化合物を、特許文献3に記載の方法で合成した。
【0202】
【化26】

(式(X)中、平均重合度を示すmx、nxは10.0である。)
【0203】
[比較例7][比較例8]
下記式(Y)で表される化合物を、特許文献3に記載の方法で合成した。
【0204】
【化27】

(式(Y)中、平均重合度を示すmy、nyは10.0である。)
【0205】
[比較例9]
下記式(Z)で表される化合物を、特許文献2に記載の方法で合成した。
【0206】
【化28】

(式(Z)中、平均重合度を示すmz、nzは10.0である。)
【0207】
次に、以下に示す方法により、実施例1~17および比較例1~9で得られた化合物を用いて潤滑層形成用溶液を調製した。そして、得られた潤滑層形成用溶液を用いて、以下に示す方法により、磁気記録媒体の潤滑層を形成し、実施例1~17および比較例1~9の磁気記録媒体を得た。
【0208】
「潤滑層形成用溶液」
実施例1~17および比較例1~9で得られた化合物を、それぞれフッ素系溶媒であるバートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)に溶解し、保護層上に塗布した時の膜厚が9.0Å~9.5ÅになるようにバートレルXFで希釈し、潤滑層形成用溶液とした。
【0209】
「磁気記録媒体」
直径65mmの基板上に、付着層と軟磁性層と第1下地層と第2下地層と磁性層と保護層とを順次設けた磁気記録媒体を用意した。保護層は、炭素からなるものとした。
保護層までの各層の形成された磁気記録媒体の保護層上に、実施例1~17および比較例1~9の潤滑層形成用溶液を、ディップ法により塗布した。なお、ディップ法は、浸漬速度10mm/sec、浸漬時間30sec、引き上げ速度1.2mm/secの条件で行った。
その後、潤滑層形成用溶液を塗布した磁気記録媒体を恒温槽に入れ、潤滑層形成用溶液中の溶媒を除去して保護層と潤滑層との密着性を向上させる熱処理を、表2に示す恒温槽温度(熱処理温度)で10分間行うことにより、保護層上に潤滑層を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0210】
このようにして得られた実施例1~17および比較例1~9の磁気記録媒体の有する潤滑層の膜厚を、FT-IR(商品名:Nicolet iS50、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。その結果を表2に示す。
【0211】
【表2】
【0212】
また、実施例1~17および比較例1~9の化合物の数平均分子量(Mn)を表2に示す。
【0213】
(潤滑層と保護層との密着性(ボンド率)測定)
潤滑層の形成された磁気記録媒体を、溶媒であるバートレルXF中に10分間浸漬して、引き上げる方法により洗浄した。磁気記録媒体を溶媒中に浸漬する速度は10mm/secとし、引き上げる速度は1.2mm/secとした。
その後、洗浄前に行った潤滑層の膜厚の測定と同じ方法で、潤滑層の膜厚を測定した。
【0214】
そして、洗浄前の潤滑層の膜厚をA、洗浄後(溶媒浸漬後)の潤滑層の膜厚をBとし、AとBとの比((B/A)×100(%))から潤滑剤の結合率(ボンド率)を算出した。その結果を表2に示す。
【0215】
また、実施例1~17および比較例1~9の磁気記録媒体に対して、以下に示す耐摩耗性試験および化学物質耐性試験を行なった。
(耐摩耗性試験)
ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用い、接触子としての直径2mmのアルミナの球を、荷重40gf、摺動速度0.25m/secで、磁気記録媒体の潤滑層上で摺動させ、潤滑層の表面の摩擦係数を測定した。そして、潤滑層の表面の摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間を測定した。摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間は、各磁気記録媒体の潤滑層について4回ずつ測定し、その平均値(時間)を潤滑剤塗膜の耐摩耗性の指標とした。
【0216】
実施例1~17の化合物および比較例1~9の化合物を用いた磁気記録媒体の結果を、それぞれ表2に示す。摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間による耐摩耗性の評価は、以下のとおりとした。
◎(優):650sec以上
○(良):550sec以上、650sec未満
△(可):450sec以上、550sec未満
×(不可):450sec未満
【0217】
なお、摩擦係数が急激に増大するまでの時間は、以下に示す理由により、潤滑層の耐摩耗性の指標として用いることができる。磁気記録媒体の潤滑層は、磁気記録媒体を使用することにより摩耗が進行し、摩耗により潤滑層が無くなると、接触子と保護層とが直接接触して、摩擦係数が急激に増大するためである。本摩擦係数が急激に増大するまでの時間は、フリクション試験とも相関があると考えられる。
【0218】
(化学物質耐性試験)
以下に示す方法により、高温環境下で汚染物質を生成させる環境物質による磁気記録媒体の汚染を調べた。環境物質としてSiイオンを用い、環境物質によって生成された磁気記録媒体を汚染する汚染物質の量としてSi吸着量を測定した。
【0219】
具体的には、評価対象である磁気記録媒体を、温度85℃、湿度0%の高温環境下で、シロキサン系Siゴムの存在下に240時間保持した。次に、磁気記録媒体の表面に存在するSi吸着量を、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて分析測定し、Siイオンによる汚染の程度をSi吸着量として評価した。Si吸着量の評価は、比較例1の結果を1.00としたときの数値を用いて評価した。その結果を表2に示す。
【0220】
そして、実施例1~17および比較例1~9の磁気記録媒体について、以下に示す基準に基づいて総合評価を行った。その結果を表2に示す。
◎(優):摩擦係数が急激に増大するまでの時間が650sec以上、かつSi吸着量が0.90未満
〇(良):摩擦係数が急激に増大するまでの時間が550sec以上650sec未満、かつSi吸着量が0.90以上1.00未満
△(可):摩擦係数が急激に増大するまでの時間が450sec以上650sec未満、かつSi吸着量が1.00以上1.40未満
×(不可):摩擦係数が急激に増大するまでの時間が450sec未満、かつSi吸着量が1.40以上
【0221】
表2に示すように、実施例1~17の磁気記録媒体は、いずれもボンド率が60%以上であり、総合評価が「◎(優)」であった。このことから、実施例1~17の磁気記録媒体の潤滑層は、厚みが薄くても優れた密着性を有し、かつ化学物質耐性および耐摩耗性が良好であることが確認できた。
【0222】
特に、式(1)におけるRとRの構造に含まれる水酸基の合計数が4であり、RおよびRが式(6-1)、式(8)、式(9)のいずれかである化合物を用いた実施例3、4、6、7、式(1)におけるRとRの構造に含まれる水酸基の合計数が4であり、Rが式(6-1)であり、Rが式(9)またはチエニルエチル基である化合物を用いた実施例10、14では、ボンド率が70%であり、Si吸着量が0.64以下であり、密着性および化学物質耐性が良好であった。
【0223】
とRの構造に含まれる水酸基の合計数が4であり、RとRの構造に含まれる水酸基の数が同じである化合物(D)を用いた実施例4は、グリセリン構造を中心に配置した対称構造を有している。このため、実施例4は、保護層上で均一に濡れ広がりやすく、RとRの構造に含まれる水酸基の数が異なる化合物(C)を用いた実施例3と比較して、被覆性が良好となり、優れた化学物質耐性が得られたものと推定される。しかも、実施例4は、RとRの構造に含まれる水酸基の合計数が5である化合物(E)を用いた実施例5と比較して、化学物質耐性が良好であった。これは、実施例4では、潤滑層と保護層上の活性点との結合に関与していない極性基の数が実施例5と比較して少なくなり、潤滑層と保護層上の活性点との結合に関与していない極性基が、汚染物質を生成させる環境物質を誘引することが抑制されたためであると推定される。
【0224】
また、実施例1~3の結果から、式(1)におけるRおよびRの構造に含まれる水酸基の合計数が多い化合物を用いるほど、ボンド率が高く密着性が良好になるとともに、Si吸着量が少なく化学物質耐性が良好になることが確認できた。しかし、式(1)におけるRおよびRの構造に含まれる水酸基の合計数が5である化合物を用いた実施例5では、合計数が4である化合物を用いた実施例4よりもボンド率は高いが、Si吸着量は多くなった。これは、保護層上の活性点との結合に関与していない化合物中の水酸基が、汚染物質を生成させる環境物質を潤滑層に誘引したためであると推定される。
【0225】
これに対し、鎖状構造の中央にグリセリン構造を配置し、その両側に、パーフルオロポリエーテル鎖と、2つの水酸基を有する末端基とがこの順に結合され、鎖状構造の両最末端にそれぞれ水酸基が配置された化合物を用いた比較例1、3では、ボンド率が80%であり、実施例1~17よりも密着性が高かった。しかし、比較例1、3では、密着性が強すぎるため潤滑層の潤滑性が損なわれ、耐摩耗性試験の結果が「△(可)」となった。
【0226】
また、比較例1、3と同じ化合物をそれぞれ用い、熱処理温度(恒温槽温度)を低くすることにより密着性を弱くした比較例2、4では、耐摩耗性試験の結果が「○(良)」であったが、Si吸着量が多かった。これは、保護層上の活性点との結合に関与していない化合物中の水酸基が、汚染物質を生成させる環境物質を潤滑層に誘引したためであると推定される。
【0227】
また、鎖状構造の中央にパーフルオロポリエーテル鎖を配置し、両端部に水酸基とシアノ基とを1つずつ有する末端基を配置し、鎖状構造の両方の最末端にシアノ基が配置された化合物を用いた比較例5では、ボンド率が50%であり、実施例1~17よりも密着性が低く、Si吸着量が多かった。
【0228】
また、鎖状構造の中央にパーフルオロポリエーテル鎖を配置し、一方の端部に2つの水酸基を有する末端基を配置し、他方の端部に水酸基とシアノ基とを1つずつ有する末端基を配置し、鎖状構造の一方の最末端に水酸基が配置され、他方の最末端にシアノ基が配置された化合物を用いた比較例7では、ボンド率が55%であり、実施例1~17よりも密着性が低く、Si吸着量が多かった。
【0229】
これは、比較例5、7で使用した化合物が、鎖状構造の中央にグリセリン構造を有していないため、鎖状構造の中央に配置された水酸基と保護層との結合による密着性向上効果が得られなかったことによるものであると推定される。
また、比較例5、7と同じ化合物をそれぞれ用い、熱処理温度(恒温槽温度)を高くすることにより密着性を強くした比較例6、8では、ボンド率が60%以上であったが、耐摩耗性試験の結果が「△(可)」となった。
【0230】
また、鎖状構造の中央にパーフルオロポリエーテル鎖を配置し、その両側に、2つの水酸基を有する末端基が結合され、鎖状構造の両最末端にそれぞれ水酸基が配置された化合物を用いた比較例9では、耐摩耗性試験の結果が「×(不可)」であり、実施例1~17よりも、Si吸着量が多かった。
【産業上の利用可能性】
【0231】
本発明の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を用いることにより、厚みが薄くても優れた密着性を有し、かつ化学物質耐性および耐摩耗性の良好な潤滑層を形成できる。
【符号の説明】
【0232】
10・・・磁気記録媒体
11・・・基板
12・・・付着層
13・・・軟磁性層
14・・・第1下地層
15・・・第2下地層
16・・・磁性層
17・・・保護層
18・・・潤滑層
図1