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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】遮音構造体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/168 20060101AFI20250311BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20250311BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
G10K11/168
G10K11/16 110
G10K11/172
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021567762
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2020049129
(87)【国際公開番号】W WO2021132715
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2019239424
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 直幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 一真
(72)【発明者】
【氏名】中山 真成
【審査官】齊田 寛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-31899(JP,A)
【文献】特開2000-265593(JP,A)
【文献】特表平6-508938(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208727(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16 - 11/172
C09J 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のシート部と該シート部の一方の面に設けられた複数の凸部とを有する遮音部材、前記凸部が設けられた側とは反対側の前記シート部の面に設けられる接着剤層を少なくとも有する遮音構造体であって、下記式(1)を満たす、遮音構造体。
E_glue/I_glue>0.5×(E_membrane/H) (1)
E_glue(MPa):接着剤層の貯蔵弾性率
I_glue(mm):接着剤層の平均膜厚
E_membrane(MPa):シート部及び凸部の貯蔵弾性率
H(mm):シート部及び凸部の平均高さ
【請求項2】
前記接着剤層を介して前記遮音部材が接着される被着体を有する、請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項3】
下記式(2)及び(3)を満たす、請求項2に記載の遮音構造体。
7000≧E_glue/E_membrane≧0.5 (2)
50.0≧E_glue/E_adh≧0.00002 (3)
E_glue(MPa):接着剤層の貯蔵弾性率
E_membrane(MPa):シート部及び凸部の貯蔵弾性率
E_adh(MPa):被着体の貯蔵弾性率
【請求項4】
下記式(4)を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
1.0≧I_glue≧0.005 (4)
I_glue(mm):接着剤層の平均膜厚
【請求項5】
前記式(1)は、下記式(1)’を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載の遮音構造体。
E_glue/I_glue>β×(E_membrane/H) (1)’
上記の式(1)’におけるE_glue、I_glue、E_membrane、及びH
は、前記式(1)におけるE_glue、I_glue、E_membrane、及びHと同様であり、β=5である。
【請求項6】
前記E_glueが10MPaより大きい、請求項1~5のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項7】
前記接着剤層が、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、及びシアノアクリレート系樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂を含み、かつ、該接着剤層中のこれらの樹脂の合計の含有割合が10重量%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項8】
前記接着剤層が、無機フィラーを含み、該接着剤層中の該無機フィラーの含有割合が1重量%以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項9】
シート状のシート部と該シート部に設けられた複数の凸部とを有する遮音部材、及び前記凸部が設けられた側とは反対側の前記シート部の面に設けられる接着剤層を有する遮音構造体の製造方法であって、
シート部の一方の面に複数の凸部を有する遮音部材を形成する工程、及び
前記遮音部材に接着剤層を設ける工程、を有し、かつ、
下記式(1)を満たす、遮音構造体の製造方法。
E_glue/I_glue>0.5×(E_membrane/H) 式(1)
E_glue(MPa):接着剤層の貯蔵弾性率
I_glue(mm):接着剤層の平均膜厚
E_membrane(MPa):シート部及び凸部の貯蔵弾性率
H(mm):シート部及び凸部の平均高さ
【請求項10】
前記接着剤層を介して前記遮音部材が接着される被着体を設ける工程をさらに有する、請求項9に記載の遮音構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅、オフィスビルやホテル等の建物においては、自動車、鉄道、航空機、船舶等からの屋外騒音や建物内部で発生する設備騒音や人声を遮断して、室用途に適した静謐性が要求される。また、自動車、鉄道、航空機、船舶等の乗り物においては、風切り音やエンジン音を遮断して、乗員に静粛で快適な空間を提供するために室内騒音を低減する必要がある。そのため、屋外から屋内、または、乗り物の室外から室内への騒音や振動の伝搬を遮断する手段、すなわち、制振遮音手段の研究開発が進められてきている。近年では、建物においては高層化等に伴い軽量の制振遮音部材が求められており、また、乗り物においてもエネルギー効率向上のため軽量の制振遮音部材が求められている。さらに、建物、乗り物やそれらの設備の設計自由度向上のために、複雑な形状にも対応可能な制振遮音部材が求められている。
【0003】
一般的に、制振遮音部材の特性は、いわゆる質量則に従う。すなわち、騒音の低減量の指標である透過損失は、制振遮音部材の質量と弾性波や音波の周波数との積の対数により決定される。そのため、ある一定周波数の騒音の低減量をより大きくするためには、制振遮音部材の質量を増やさなければならない。しかしながら、制振遮音部材の質量を増やす方法では、建物や乗り物等の質量の制約から騒音低減量に限界が生じてしまう。
【0004】
制振遮音部材の質量増加の問題を解決するために、従来から、部材構造の改良がなされている。例えば、石膏ボード、コンクリート、鋼板、ガラス板、樹脂板等の剛性のある平板材を複数枚組み合わせて用いる方法や、石膏ボード等を用いて中空二重壁構造や中空三重壁構造とする方法等が知られている。
【0005】
そして近年では、質量則を凌駕する遮音性能を実現するために、高剛性の平板材と共振器とを組み合わせて用いた、プレート型音響メタマテリルによる遮音板が提案されている。具体的には、シリコーンゴムとタングステンからなる複数個の独立した切り株状の突起(共振器)又はゴムからなる複数個の独立した切り株状の突起(共振器)を、アルミニウム基板上に設けた遮音板(非特許文献1及び2参照)、シリコーンゴム又はシリコーンゴムと鉛キャップとからなる複数個の独立した切り株状の突起(共振器)をエポキシ基板上に設けた遮音板(非特許文献3参照)が提案されている。
また、粘弾性を有するシート及び基部と錘部を備えた共振部を備えた遮音シート部材が提案されている(特許文献1)。
また、制振遮音材が弾性接着剤を介して接着され積層されてなる構造体の開示がある(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/135409号
【文献】特開2001-303691
【非特許文献】
【0007】
【文献】M. B. Assouar, M. Senesi, M. Oudich, M. Ruzzee and Z. Hou, Broadband plate-type acoustic metamaterial for low-frequency sound attenuation, Applied Physics Letters, 2012, volume 101, pp 173505.
【文献】M. Oudich, B. Djafari-Rouhani, Y. Pennec, M. B. Assouar, andB. Bonello, Negative effective mass density of acoustic metamaterial plate decorated with low frequency resonant pillars, Journal of Applied Physics, 2014, volume 116, pp 184504.
【文献】M. Oudich, Y. Li, M. B. Assouar, and Z. Hou, A sonic band gap based on the locally resonant phononic plates with stubs, New Journal of Physics, 2010, volume 12, pp 083049.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の遮音シートは、比較的に軽量でありながらも質量則を凌駕する高い遮音性能を有し製造性及び耐久性に優れるが、その接着方法、材料、条件については、種々の方法が可能という記載のみで詳細には十分に検討されていない。
すなわち、設置方法は特に限定されず、例えば、別個成形した各部品を、加熱加圧又は加圧して圧着する方法、各種公知の接着剤を用いて接着する方法、熱溶着、超音波溶着、レーザー溶着等で接合する方法等が例示されている。接着剤としては、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、ポリウレタン樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、ポリオレフィン樹脂系接着剤、ポリビニルブチラール樹脂系接着剤、及び、これらの混合物等が挙げられているが、これらは特に詳細に検討されていなかった。
しかし、本出願人の検討により、接着剤により形成される接着剤層の態様(膜厚、性状)によっては遮音効果が十分でない場合や、遮音効果が発生する周波数帯にずれが生じることがわかった。
【0009】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものである。その目的(課題)は、接着剤層を設けた場合であっても、十分な遮音効果が得られ、かつ、遮音効果が発生する周波数帯にずれが生じにくい遮音構造体を提供することである。
【0010】
なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、シート状のシートと前記シート部に設けられた複数の凸部を有する遮音構造体において、該シートが特定の力学的物性値、及び形状を有する接着剤層により設置される遮音構造体を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
[1] シート状のシート部と該シート部に設けられた複数の凸部とを有する遮音部材、及び前記凸部が設けられた側とは反対側の前記シート部の面に設けられる接着剤層を少なくとも有する遮音構造体であって、下記式(1)を満たす、遮音構造体。
E_glue/I_glue>0.5×(E_membrane/H) (1)
E_glue(MPa):接着剤層の貯蔵弾性率
I_glue(mm):接着剤層の平均膜厚
E_membrane(MPa):シート部及び凸部の貯蔵弾性率
H(mm):シート部及び凸部の平均高さ
[2] シート状のシート部と該シート部に設けられた複数の凸部とを有する遮音部材、及び前記凸部が設けられた側とは反対側の前記シート部の面に設けられる接着剤層を有し、かつ、
下記式を満たす規格化固有周波数シフト量が、0~30%である、遮音構造体。
規格化固有周波数シフト量(%)=((設計固有周波数)-(固有周波数))÷(設計固有周波数)
設計固有周波数(Hz):接着剤層を有さない条件で算出される固有周波数
固有周波数(Hz):接着剤層を有する条件で算出される固有周波数
[3] シート状のシート部と該シート部に設けられた複数の凸部とを有する遮音部材、及び前記凸部が設けられた側とは反対側の前記シート部の面に設けられる接着剤層を有し、前記接着剤層の弾性率が10MPaより大きい、遮音構造体。
[4] 前記接着剤層を介して遮音部材が接着される被着体を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の遮音構造体。
[5] 下記式(2)及び(3)を満たす、[4]に記載の遮音構造体。
7000≧E_glue/E_membrane≧0.5 (2)
50.0≧E_glue/E_adh≧0.00002 (3)
E_glue(MPa):接着剤層の貯蔵弾性率
E_membrane(MPa):シート部及び凸部の貯蔵弾性率
E_adh(MPa):被着体の貯蔵弾性率
[6] 下記式(4)を満たす、[1]~[5]のいずれかに記載の遮音構造体。
1.0≧I_glue≧0.005 (4)
I_glue(mm):接着剤層の平均膜厚
[7] 前記式(1)は、下記式(1)’を満たす、[1]~[6]のいずれかに記載の遮音構造体。
E_glue/I_glue>β×(E_membrane/H) (1)’
上記の式(1)’におけるE_glue、I_glue、E_membrane、及びH
は、前記式(1)におけるE_glue、I_glue、E_membrane、及びHと
同様であり、β=5である
[8] 前記E_glueが10MPaより大きい、[1]~[7]のいずれかに記載の
遮音構造体。
[9] 前記接着剤層が、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、及びシアノアクリレート系樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂を含み、かつ、該接着剤層中のこれらの樹脂の合計の含有割合が10重量%以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の遮音構造体。
[10] 前記接着剤層が、無機フィラーを含み、該接着剤層中の該無機フィラーの含有
割合が1重量%以上である、[1]~[9]のいずれかに記載の遮音構造体。
[11] シート状のシート部と該シート部に設けられた複数の凸部とを有する遮音部材、及び前記凸部が設けられた側とは反対側の前記シート部の面に設けられる接着剤層を有する遮音構造体の製造方法であって、
シート部の一方の面に複数の凸部を有する遮音部材を形成する工程、及び
前記遮音部材に接着剤層を設ける工程、を有し、かつ、
下記式(1)を満たす、遮音構造体の製造方法。
E_glue/I_glue>0.5×(E_membrane/H) 式(1)
E_glue(MPa):接着剤層の貯蔵弾性率
I_glue(mm):接着剤層の平均膜厚
E_membrane(MPa):シート部及び凸部の貯蔵弾性率
H(mm):シート部及び凸部の平均高さ
[12] 前記接着剤層を介して前記遮音部材が接着される被着体を設ける工程をさらに有する、[11]に記載の遮音構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、接着剤層を設けた場合であっても、十分な遮音効果が得られ、かつ、遮音効果が発生する周波数帯にずれが生じにくい遮音構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る遮音構造体を示す概略斜視図である。
図2図1のII-II矢視断面図である。
図3】本実施形態に係る遮音構造体を示す概略斜視図である。
図4図3のIII-III矢視断面図である。
図5】本実施形態に係る遮音構造体の動作原理を表す簡易モデルを示す図である。
図6】本実施形態に係る遮音構造体の動作原理を表す簡易モデルを示す図である。
図7】押込型硬度計の測定により得られる荷重変位量曲線を示すグラフである。
図8】本実施形態に係る遮音構造体の断面図である。
図9】本実施形態に係る遮音構造体を示す概略斜視図である。
図10図9のIV-IV矢視断面図である。
図11】(a)は基部及び貫通孔を有する錘部を含む共振部、(b)は貫通孔を有す錘部を示す概略斜視図である。
図12】本実施形態に係る遮音構造体を示す概略斜視図である。
図13】本実施形態に係る遮音構造体を示す概略斜視図である。
図14】遮音部材の製造工程の一例を示す図である。
図15】遮音部材の製造工程の一例を示す図である。
図16】遮音部材の製造工程の一例を示す図である。
図17】遮音部材の製造工程の一例を示す図である。
図18】固有周波数の推算に用いたユニットセルの概略構成図である。
図19】固有周波数の推算に用いたユニットセルの概略構成図である。
図20】固有周波数の推算に用いたユニットセルの概略構成図である。
図21】固有周波数の推算に用いたユニットセルの概略構成図である。
図22】実施例における規格化固有周波数シフト量とβとの関係を表すグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これら説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
また、本明細書において、上下左右等の位置関係は、特段の断りがない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。なお、本明細書において、例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
また、本明細書において、「複数」とは、2以上であることを示す。
【0016】
<遮音構造体>
本発明の一実施形態である遮音構造体(以下、単に「遮音構造体」とも称する)は、シート状のシート部と該シート部に設けられた複数の凸部を有する遮音部材、及び前記凸部が設けられた側とは反対側の前記シート部の面に設けられる接着剤層を少なくとも有する遮音構造体であって、下記式(1)を満たす、遮音構造体である。
E_glue/I_glue>0.5×(E_membrane/H) (1)
E_glue(MPa):接着剤層の貯蔵弾性率
I_glue(mm):接着剤層の平均膜厚
E_membrane(MPa):シート部及び凸部の貯蔵弾性率
H(mm):シート部及び凸部の平均高さ
以下、本発明の各実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。
また、本明細書において、「凸部」または「共振部」は、それぞれ、特段の断りがない限り、複数の凸部または共振部の全てを対象とする。
【0017】
遮音構造体は、上記の構成に加え、さらに接着剤層を介して遮音部材が接着される被着体を有することが好ましい。図1及び2は、それぞれ、本発明の第1の実施形態である遮音構造体に前記被着体が設けられた態様(以下、「遮音構造体1」とも称する)を示す概略斜視図、及びそのII-II矢視断面図である。遮音構造体1は、シート状のシート部10と該シート部に設けられた複数の凸部11を有する遮音部材12、被着体13、及び該被着体13に該遮音部材を接着する接着剤層14を有する。なお、凸部は、原則として共振部から構成されるが、後述する図12及び13に示す突起部も構成要素に含まれる。以下の記載では、突起部に関する説明以外では、凸部を共振部とも称する。なお、図12及び13では、共振部としての凸部11と突起部31とを分けて記載しているが、突起部は凸部に含まれる概念である。
この遮音構造体1においては、例えば被着体13側にある騒音源から音波が入射された際、シート部10及び/又は共振部11の共振が生じる。このとき、被着体13に作用する力の方向とシート部10及び/又は共振部11に発生する加速度の方向とが逆となる周波数領域が存在可能となり、特定周波数の振動の一部乃至全部が打ち消されることで、特定周波数の振動がほぼ完全に存在しなくなる完全音響バンドギャップが生じる。そのため、シート部10及び/又は共振部11の共振周波数付近において、振動の一部乃至全部が静止し、その結果、比較的に軽量でありながらも質量則を凌駕する高い遮音性能が得られる。このような原理を利用した遮音部材は、音響メタマテリアルと呼ばれる。
【0018】
また、共振部11の形状、密度分布或いは素材(貯蔵弾性率、質量)の変更によるバネ定数の調整や、後述する図3に示す錘部22の質量の変更等によって、共振部11の共振周波数の制御を容易に行うことができる。その上さらに、シート部10の素材や厚み等によっても周波数帯域(音響バンドギャップ幅や周波数位置)を制御可能である。したがって、上記の遮音構造体1は、従来のものに比して、遮音周波数選択の自由度や設計自由度に優れる。
また、遮音部材12が粘弾性を有するため、被着体13が、例えば曲面等を有する非平坦面であっても、伸縮可能なフレキシブルなシート部10がその表面形状に追随することができ、その結果、シート部10を被着体13上に安定して取付け可能である。したがって、本実施形態に係る遮音構造体1は、従来のものに比して、取扱性及び汎用性に優れる。
【0019】
また、シート部10及び共振部11を一体成形した場合には、複数の共振部11(共振器)を一括して設置可能となるため、製造性及び取扱性が格別に向上する。
また、後述する図12及び13に示すリブ状突起部31や円柱状突起部32を有する場合、共振部11の最大高さよりも最大高さが高い突起部が配設されているため、遮音部材12の製造段階において、遮音部材12をシート状に巻き取ったり又は複数枚重ね合わせたりしても、突起部がスペーサとして機能し、シート部10の裏面に対する共振部11の接触が抑制される。したがって、共振部11の変形、変異、割れ、脱落、破損等の製造トラブルを生じさせることなく、所謂ロール・トゥ・ロールで遮音部材12を連続生産し及び保管することが容易となり、枚葉ごとのバッチ生産に比べて生産速度が向上し、生産性及び経済性が高められる。
さらに、シート部と共振部を一体成型することが可能であり、その場合には接合面が存在しないことから、振動等の外力や温湿度等の外部環境の変化に対して脆弱部となり得る境界面を減らすことができるため耐久性に優れる。
【0020】
さらに、遮音構造体は、下記の式(1)を満たすことにより、より高い遮音性能、具体的には、遮音効果が発生する周波数帯にずれが生じにくいという効果を得ることができる。
E_glue/I_glue>0.5×(E_membrane/H) (1)
E_glue(MPa):接着剤層の貯蔵弾性率
I_glue(mm):接着剤層の平均膜厚
E_membrane(MPa):シート部及び凸部の貯蔵弾性率
H(mm):シート部及び凸部の平均高さ
【0021】
本発明における遮音性能は、図5に示すような動作原理としてバネ部をユニットとする共振器からなる簡易モデルを用いて記述することができる。図5の矢印は、共振方向を示す。また、図5において、丸の表記が凸部の重量を有する重り、四角の表記が被着体、丸の表記側のバネがシート部及び凸部に対応するバネ、並びに四角の表記側のバネが接着剤
層に対応するバネを示す。すなわち、シート部及び凸部のバネ定数をK、及び接着剤部のバネ定数をKとする直列バネとして共振現象を近似できる。共振部となる樹脂部のバネ定数K 接着剤の持つバネ定数K からなる直列バネの合成バネ定数KALLは、下記の式(S1)のように記述できる。ただし、下記の式は、接着剤層が十分薄く、その質量が無視できるとした場合の式である。
ALL=1/(1/K+1/K) (S1)
【0022】
シート部材設計上の樹脂部のバネ定数はK、接着された構造体全体のバネ定数はKALLであることから、|K-KALL|が小さいことは、設計からのバネ定数のずれが小さいことを意味する。さらに、この値を本来のバネ定数であるKで割った値(規格化バネ定数)を△K=|K-KALL|/Kとすると、△K=1/(1+(K/K))となり、△Kを小さくするためにはK/Kが一定値より大きいことが好ましい条件であることが推定できる。
また、△Kが小さくなれば、遮音帯域と直接対応する突起の共振周波数はf=(K/m)1/2(mは凸部の重量)と記述されることから、△f=(△K/m)1/2となり、設計周波数からのずれも小さくなることがわかる。
【0023】
上記の簡易モデルと凸部形状、及び材料物性との対応関係を明らかにするため、図6に示すモデルに従い、突起部が円柱、角柱などの突起部断面積が一定の形状である棒状バネである仮定する。この場合、棒状バネにおける加重Fと伸びLとの関係は、下記の式(S2)で表される。図6の矢印は、共振方向を示す。
△F=(EA△L/L) (S2)
E(MPa):貯蔵弾性率
A(mm):突起の断面積
L(mm):樹脂バネ部の高さ
△L(mm):加重Fが加わったときの伸び
上記の式において、棒状バネ定数Kは、△F/△L=Kの関係から、K=EA/Lと表される。したがって、K/K>β(βは定数)を満たすならば、E/L>βE/Lと記述できる。
【0024】
ここで、バネ部の突起は断面積一定であれば、A=Aとなるため、最終的に樹脂部、及び接着剤部の貯蔵弾性率と高さ、あるいは厚さとの関係が、下記の式(S3)で表される関係を満たすことが好ましいことが推測可能である。
/L>βE/L (S3)
【0025】
上記の式(S3)の関係は、有限要素法を用いた計算によってさらに精密に計算、検証することが可能であるため、本発明における実施例では有限要素法による計算を用いた。
本発明者らは、有限要素法によるシミュレーションの結果から周波数ずれを20%以下に抑制するためにはβ≧0.5が重要な条件であることを見出した。この関係を満たす材料、及び形状を持つ接着剤、及び構造体を適用することにより、シート部の遮音設計周波数ずれが小さい高品質の製品を提供することが可能となる。
【0026】
上述の式(1)を下記の式(1)’と表した場合、上述の式(1)は該式(1)’を満たすことが好ましく、該式(1)’におけるβは、0.5以上であれば特段制限されないが、遮音効果が発生する周波数帯のずれを抑制する観点から、5であることが好ましく、50であることがより好ましく、100であることがさらに好ましく、また、上限は特段要しないが、通常50000以下である。
E_glue/I_glue>β×(E_membrane/H) (1)’
上記の式(1)’におけるE_glue、I_glue、E_membrane、及びHは、前記式(1)におけるE_glue、I_glue、E_membrane、及びHと同様である。
【0027】
このように、接着剤層の平均膜厚に対する接着剤層の貯蔵弾性率を、シート部及び凸部の平均高さに対するシート部及び凸部の貯蔵弾性率よりも一定以上大きくすることで、被着体の振動が遮音部材に十分伝わるため、狙った周波数にて遮音効果を出すことができる。接着剤層の貯蔵弾性率が小さい場合や、接着剤層の平均膜厚が大きい場合、すなわち式(1)の左辺が小さい場合、接着剤層の被着体の振動による接着剤層の運動が無視できなくなり、結果、狙った周波数にて遮音効果を得ることが難しくなる。
なお、特許文献2等、従来から遮音材等を設置する際に接着剤を用いる技術はあるが、衝撃を緩衝することを目的として接着剤層の貯蔵弾性率は小さくすることが一般的である。接着剤層の貯蔵弾性率が小さいと、左辺が小さくなるため、一般的に、狙った周波数にて遮音効果を得ることが難しくなる。したがって、他の値との関係にもよるが接着剤層の貯蔵弾性率は、10MPaより大きい場合、式(1)を満たしやすくすることができる。
【0028】
以下、遮音部材、被着体、及び接着剤層等の各構成要素について、詳述する。
[遮音部材]
遮音部材12は、シート状のシート部10と該シート部の一方の面に設けられた複数の共振部11を有する。
シート部10と共振部11とは、同一材料からなっていてもよく、また、異なる材料からなっていてもよい。また、これらは、一体的に形成されていてもよく、また、別々に形成したものを組み合わせていてもよい。
【0029】
(貯蔵弾性率E_membrane)
シート部10及び共振部11の貯蔵弾性率(E_membrane)は、上述の式(1)を満たせば特段制限されないが、高い遮音性能を得ることができる観点から、通常0.5MPa以上であり、1.0MPa以上であることが好ましく、2.0MPa以上であることがより好ましく、3.0MPa以上であることがさらに好ましく、また、通常500MPa以下であり、300MPa以下であることが好ましく、200MPa以下であることがより好ましく、100MPa以下であることがさらに好ましい。
【0030】
シート部10及び共振部11の貯蔵弾性率(E_membrane)とは、シート部1
0及び共振部11のそれぞれのバネ定数から算出される合成貯蔵弾性率である。以下、合成貯蔵弾性率の算出方法を説明する。
シート部10及び共振部11のバネ定数(K_membrane)は、シート部10及
び共振部11を併せたバネ定数である。共振部のバネ定数をK_res、及びシート部の
バネ定数をK_sheetとすると、以下の式(S4)から、各々の共振部に対する合成
バネ定数(K_membrane)を求めることができる。
K_membrane=1/(1/K_res+1/K_sheet) (S4)
この場合、シート部と共振部とからなる各々の合成貯蔵弾性率(E’_membran
e)は、下記の式(S5)で表される関係から求めることができる。なお、各パラメータを各々で測定し、最終的にそれらを合成して下記の式(S5)から算出してもよい。K_
res及びK_sheetの算出方法は後述する。
K_membrane=E’_membrane×(A/H_membrane)
(S5)
E’_membrane:各々のシート部及び凸部の貯蔵弾性率(各々のシート部と共
振部とからなる部材の合成貯蔵弾性率)
A:突起(共振部)の断面積
H_membrane:シート部と共振部を合わせた高さ(H_res+H_sheet

最終的な合成貯蔵弾性率(E_membrane)は、複数の凸部に対して上記の各々
の合成貯蔵弾性率(E’_membrane)を求め、それらの平均値として算出した値
である。
【0031】
遮音部材におけるシート部10の全体が均質な単一の材料からなり、厚さも均一であり、かつ、全ての共振部11が同一の材料からなり、厚さも同一である場合には、上記のように各々の共振部に対する合成バネ定数を求める必要はなく、任意に選んだ1つの共振部に対する合成バネ定数から算出されたE’_membraneを、E_membraneとすることができる。
また、シート部10及び共振部11が同一材料からなる場合には、シート部10又は共振部11のいずれかのうちの任意の部分における合成バネ定数をK_membraneとすることができる。
なお、上記の様々な貯蔵弾性率は、後述の方法で測定することができるが、遮音部材から採取した材料を用いて直接的に評価してもよく、また、同一の製造条件で製造した試験片を用意して間接的に評価してもよい。
【0032】
遮音部材12が、後述する錘部22を有する場合、K_membraneの算出において錘部22の貯蔵弾性率は考慮しない。これは、錘部は基本的に剛体であることから、本発明における共振に影響を及ぼすのは、柔軟性を付与する部分のみである、つまり、シート部10と後述する基部21であるためである。
【0033】
貯蔵弾性率は、樹脂等の分子量や結合の種類を変える、又はフィラーを添加することにより制御でき、一般的に、分子量の増加、結合力の増加、又はフィラーの添加に伴い増加する。さらに、例えば、貯蔵弾性率の低い樹脂と貯蔵弾性率の高い樹脂をブレンドさせて成形体を製造した場合、これらの樹脂のブレンド比率を調整することにより成形体の貯蔵弾性率を制御することができる。
【0034】
上述の共振部のバネ定数をK_res、及びシート部のバネ定数をK_sheetは、下記の式(S6)及び(S7)に基づき、それぞれ、共振部及びシート部の貯蔵弾性率から求めることができる。
K_res=E_res×A_res/L_res (S6)
K_sheet=E_sheet×A_sheet/L_sheet (S7)
上記式において、K_res(K_sheet):共振部(シート部)のバネ定数(-)、E_res(E_sheet):共振部(シート部)の貯蔵弾性率(MPa)、A_res(A_sheet):共振部(シート部)の断面積(mm)、L_res(L_sheet):共振部(シート部)の高さ(mm)である。
【0035】
上記の式(S6)及び(S7)におけるシート部及び共振部のそれぞれの貯蔵弾性率E_res及びE_sheetは、以下の方法に従い、押込型硬度計を用いて測定することができる。本願明細書における貯蔵弾性率の測定は、測定雰囲気の温度23℃、湿度50%RHの条件で行う。
なお、接着剤層の貯蔵弾性率は、以下の押込型硬度計を用いた方法で測定することができるが、遮音構造体から採取した材料を用いて直接的に評価してもよく、また、同一の製造条件で製造した試験片を用意して間接的に評価してもよい。
押込型硬度計による測定は、国際標準規格ISO14577-1に従って試験する。使用圧子はビッカース圧子を用いて評価実施可能である。
【0036】
該押込型硬度計の測定により、図7に示すような荷重変位量曲線が得られる。図中の記号は、以下の通りである。
max:最大試験力
:除荷曲線の接線と押込み深さの交点
:試験力除荷後の永久くぼみ深さ
max:Fmaxにおける最大押込み深さ
ここで、Fmaxにおける最大押し込み深さhmaxと試験力除荷後の永久くぼみ深さの比hhmaxを残留ひずみエネルギーの指標の一つとして用いることができる。
ITの解析には、除荷曲線に引いた接線の傾きSを用いる。
圧子と試料の複合弾性率Erは、以下の式(L)で表される。
【0037】
【数1】
:Fmaxにおける圧子の試料に対する接触押込み深さ
(h):深さhにおける圧子の接触投影断面積(ISO14577-2に準拠)
【0038】
また、測定対象物の押し込み弾性率(E_res、またはE_sheet)をEITとすると、以下の式(M)で表される。
【0039】
【数2】
:圧子(Indenter)の弾性率(通常圧子はダイヤモンド製で既知の値を使用)
:圧子と試料の複合弾性率(実験で測定された弾性率)
:圧子(Indenter)のポアソン比(通常圧子はダイヤモンド製で既知の値を使用)
s:サンプルのポアソン比(既知の値を使用。一般的な樹脂の場合0.3~0.5)
なお、上記の方法による貯蔵弾性率の測定は、後述の基部や錘部、突起部、接着剤、被着体の貯蔵弾性率の測定にも適用できる。本方法で上記材料の貯蔵弾性率を測定する場合、押し込みにより変形しない平坦な測定基板上(石英ガラス、スライドガラス等)に市販の瞬間接着剤等で測定面を水平に貼付、固定して測定することが好ましく、測定時の押込量は被測定物の厚さの約1/10以下であることが好ましい。押込量が被測定物厚さの1/10以上である場合、上記測定値が固定した基板硬度の影響を受けるため測定条件として不適切となる。
【0040】
(高さH)
シート部10及び共振部11の高さHは、上述の式(1)を満たせば特段制限されないが、可聴域で高い遮音性能を得ることができる観点から、通常0.5mm以上であり、1.0mm以上であることが好ましく、2.0mm以上であることがより好ましく、3.0mm以上であることがさらに好ましく、また、通常50.0mm以下であり、30.0mm以下であることが好ましく、25.0mm以下であることがより好ましく、20.0mm以下であることがさらに好ましい。
シート部及び共振部の高さHとは、シート部10の高さ及び共振部11を併せた高さである。具体的には、各々の共振部の高さをH_res、及びその直下にあるシート部の厚みをH_sheetとした場合、以下の式(B)から各々の共振部に対する合算高さH’を求め、それらの合算高さの平均値として算出した値である。
H’=H_res+H_sheet (B)
なお、1つの共振部において、高さにばらつきがある場合には、その平均値を用いる。
【0041】
遮音部材12におけるシート部全体の厚みが均一であり、かつ、全ての共振部の高さが同一である場合には、上記のように各々の共振部に対する合算高さを求める必要はなく、任意に選んだ1つの共振部に対する合算高さをHとすることができる。
【0042】
遮音部材12が、後述する錘部22を有する場合、Hの算出において、錘部22よりも先端側の高さは考慮しない。つまり、錘部22を有しない場合、Hはシート部10の下部から共振部11の上部までの高さであり、錘部22を有する場合、Hはシート部の下部から錘部22の下部までの高さである。これは、錘部22を有する場合、錘部分は金属、セラミックス等の非常に硬い材料から成るため、遮音周波数近傍において、ほとんど伸びが無い剛体である。したがって、共振に影響を及ぼすのは、設計周波数近傍で適度な伸びや歪が生じる部分である。つまり、シート部10と後述する基部21のみであるためである。
【0043】
[シート部]
シート部10は、シート状であり、かつ、設計する遮音周波数近傍で適切な伸びや歪みを有するものであれば特段制限されず、また、平面であっても曲面であってもよく、被着体に設ける場合には、被着体の形状に合わせて適宜選択することができる。
本明細書における「シート部」とは、一方の面に凸部を保持するシート状の部材であり、後述するように、1つの層から構成されていても、2つ以上の層から構成されていてもよい。また、シート部とは、シートの形状を有する部分全体を示し、例えば、図8に示すように、シート部が複数の層から構成され、かつ、それらの層の中に2つの層(図8における10(a)及び10(c))を接着するための接着剤で構成される層10(b)が存在する構成とした場合、層10(a)と層10(b)と層10(c)とから構成されるシート形状部分がシート部となり、凸部とは反対側の面である層10(c)の2つの面のうち凸部とは反対側の面に隣接する接着剤で構成される層である層14が、式(1)における接着剤層となる。つまり、図8の場合、層10(a)がシート部全体、層10(b)が式(1)における接着剤層とはならない。
通常、遮音設計周波数は可聴域周波数領域であるため、20~20000Hzである。この周波数領域で適度な伸びや歪みを有するシート材料としては樹脂、ゴム等の高分子材料が好ましい。
該シート部は、騒音源から音波が入射された際に、ある周波数で振動する振動子(共振器)としても機能し得るものである。
シート部10を構成する材料としては、熱又は光硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーよりなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
金属型等を用いて注型する場合には、金型表面のキャビティ内をエラストマーで充填する必要があるが、光硬化性エラストマーの方が、硬化前の比較的低粘度の液体の状態でキャビティ内を充填でき、充填率を高められるため好ましい。
【0044】
シート部10を構成する材料として、具体的には、化学架橋された天然ゴム或いは合成ゴム等の加硫系熱硬化性樹脂系エラストマー、ウレタン系熱硬化性樹脂系エラストマー、シリコーン系熱硬化性樹脂系エラストマー、フッ素系熱硬化性樹脂系エラストマー、アクリル系熱硬化性樹脂系エラストマー等の熱硬化性樹脂系エラストマー;
アクリル系光硬化性エラストマー、シリコーン系光硬化性エラストマー、エポキシ系光硬化性エラストマー等の光硬化性エラストマー;
オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
熱又は光硬化性エラストマー、及び熱可塑性エラストマーのさらなる具体例としては、ゴムが挙げられる。具体的には、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリエステルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、及びこれらの変性体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
さらにこれらの中でも、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリエステルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム及びこれらの変性体が好ましく、シリコーンゴム、アクリルゴム及びこれらの変性体がより好ましい。これらの材料を用いることで、耐熱性や耐寒性に優れる傾向にある。
【0045】
シート部10は、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤等の各種添加剤を含有していてもよい。
難燃剤は、可燃性の素材を燃え難くする又は発火しないようにするために配合される添加剤である。その具体例としては、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモベンゼン等の臭素化合物、トリフェニルホスフェート等のリン化合物、塩素化パラフィン等の塩素化合物、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、メラミンシアヌレート等の窒素化合物、ホウ酸ナトリウム等のホウ素化合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
また、酸化防止剤は、酸化劣化防止のために配合される添加剤である。その具体例としては、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
さらに、可塑剤は、柔軟性や耐候性を改良するために配合される添加剤である。その具体例としては、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、ポリエステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル、シリコーン油、鉱物油、植物油及びこれらの変性体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
さらに、着色剤として、色素や顔料等が挙げられる。
これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
図1において、シート部10は平面視で正方形状に形成されているが、その形状はこれに特に限定されない。三角形状、長方形状、矩形状、台形状、ひし形状、5角形状や6角形状等の多角形状、円状、楕円状、これらに分類されない不定形状等、任意の平面視形状を採用することができる。なお、シート部10は、音響メタマテリアルとしての特性を失わない限り、伸縮性能の向上や軽量化等の観点から、任意の場所に切り込み部や打ち抜き孔等を有していてもよい。
【0047】
シート部10の厚み(H_sheet)は、シート部及び凸部の高さHが上述の式(1)を満たす範囲内であれば、特段制限されない。シート部10の厚みによっても高い遮音性能を発現する周波数帯域(音響バンドギャップ幅や周波数位置)を制御可能であるため、音響バンドギャップが所望の遮音周波数領域に一致するように、シート部10の厚みを適宜設定することができる。シート部10の厚みが厚いと、音響バンドギャップ幅が狭くなり、且つ、低周波数側にシフトする傾向にある。また、シート部10の厚みが薄いと、音響バンドギャップ幅が広くなり、且つ、高周波側にシフトする傾向にある。
遮音性能、機械的強度、柔軟性、ハンドリング性等の観点から、シート部10の厚みH_sheetは、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上である。また、シート部10の厚みは、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下、さらに好ましくは500μm以下である。
【0048】
また、シート部10は、低温における遮音性の温度依存性を低減させる観点から、0℃以下のガラス転移温度を有することが好ましい。シート部10のガラス転移温度が低いほど、耐寒性が高められ、貯蔵弾性率の0℃付近での温度依存性が小さくなり遮音性能が環境温度に依存し難くなる傾向にある。より好ましくは-10℃以下、さらに好ましくは-20℃以下、特に好ましくは-30℃以下である。なお、本明細書において、シート部10のガラス転移温度は、上述した周波数10Hzにおける動的粘弾性測定、特に温度依存性測定において、損失正接のピーク温度を意味する。
【0049】
シート部は2層以上で構成されていてもよく、さらにはシート同士が接着剤層により接着されていてもよい。この場合にシート間に形成される接着剤層は、シート部の中の一層と考えることができる。たとえば、シート部X,シート部Yが接着剤層Zを挟んで形成されている場合は、合計3層からなるシート部全体の合成バネ定数を考えることができ、以下の式であらわされる。ただし、以下の式は、各層が突起部に対して十分薄く、その質量が無視できるとした場合の式である。
Sheet=1/(1/K+1/(1/K+1/K))
Sheet=L+L+L
上記の式において、KSheet(-):シート部全体の合成バネ定数、K、K(-):シート部X、Yのバネ定数、K(-):接着剤層Zのバネ定数、Lsheet(mm):シート部全体の高さ、L、L(mm):シート部X、シート部Yの高さ、L(mm):接着剤層Zの高さを示す。
3層それぞれの貯蔵弾性率、及び層厚から、突起部とシート部における合成バネ定数の議論と同様に、各パラメータの関係を求めることができる。すなわち、下記の式に基づきシート部全体の貯蔵弾性率を算出することができる。
Sheet=ESheetx A/LSheet
上記の式において、Aはシート部全体の断面積を示す。さらに、このKSheetを用いて、シート部と共振部からなる部材のK_membrane、E_membraneを計算することができる。一般に、4層以上の場合も同様である。また、2層以上である場合、接着剤を用いずに、熱硬化性エラストマー、光硬化性エラストマー等を別に準備したシート部上で硬化させることにより組み合わせてもよい。
【0050】
本明細書において、シートが2層以上ある場合に、シートを構成する各層のうち、凸部から最も離れている層、つまり、凸部を備える層とは反対側の層を「支持体」と称することもある。
凸部や他のシート部分を支持する上記の支持体は、特段制限されないが、その材料としては、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリノルボルネン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロース、ポリスチレン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキサジン樹脂等の有機材料、これらの有機材料中にアルミニウム、ステンレス、鉄、銅、亜鉛、真鍮等の金属、無機ガラス、無機粒子や繊維を含む複合材料等とすることが好ましい。これらの中でも、遮音性、剛性、成形性、コスト等の観点から、支持体は、光硬化性樹脂シート、熱硬化性樹脂シート、熱可塑性樹脂シート、金属板及び合金板からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。ここで、支持体の厚みは、特に限定されないが、遮音性能、剛性、成形性、軽量化、コスト等の観点から、通常0.1mm以上、50mm以下であることが好ましい。
【0051】
[凸部(共振部)]
凸部(共振部)11は、シート部10の一方の面に複数設けられ、かつ、設計する遮音周波数近傍で適切な伸びや歪みを有するものであれば特段制限されない。共振部11は、騒音源から音波が入射された際に、ある周波数で振動する振動子(共振器)として機能するものである。
共振部11の配列、設置数、大きさ等は、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。共振部11は、シート部10の一方のシート面に接して設けられる。例えば、図1では、複数の共振部11を格子状に等間隔に配置しているが、共振部11の配列は、これに特に限定されない。例えば、複数の共振部11が、例えば千鳥状に配置されていても、ランダムに配置されていてもよい。本実施形態に係る遮音部材による遮音機構は所謂フォノニック結晶のようにブラッグ散乱を利用していないため、必ずしも共振部11の間隔が規則正しく周期的に配置されていなくてもよい。
【0052】
共振部11を構成する材料は、特段制限されず、その条件は、上述したシート部10における材料の条件と同様である。製品コストや製造の容易性の観点から、共振部11の材料とシート部10の材料とは、同一であることが好ましい。
【0053】
単位面積当たりの共振部11の設置数は、共振部11同士が接触する等により干渉しないように配置可能であれば、特に限定されない。
単位面積当たりの共振部11の最大数は、共振部11の形状等によっても異なるが、例えば、共振部11が円柱状で、円柱の高さ方向がシート法線方向と平行に設置され、且つ、円柱断面直径が1cmの場合には、10cm当たり100個以下が好ましい。
単位面積当たりの共振部11の最小数は、例えば、共振部11が円柱状で、円柱の高さ方向がシート法線方向と平行に設置され、且つ、断面直径が1cmの場合には、10cm当たり2個以上が好ましく、より好ましくは10個以上、さらに好ましくは50個以上である。共振部11の設置数が、上記の好ましい下限以上であることで、より高い遮音性能が得られる傾向にある。また、上記の好ましい上限以下であることで、シート全体の軽量化を図ることが容易となる。
【0054】
共振部11のシート部10の法線方向への高さH_resは、シート部及び凸部の高さHが上述の式(1)を満たす範囲内であれば、特段制限されない。成形容易性及び生産性の向上等の観点から、高さH_resは、10μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは1mm以上である。また、20mm以下が好ましく、より好ましくは15mm以下、さらに好ましくは10mm以下であり、さらに好ましくは8mm以下であり、よりさらに好ましくは5mm以下であり、特に好ましくは3mm以下である。上記の好ましい数値範囲内とすることで、共振部11を設けたシート部10(すなわち、遮音部材12)の巻き取りや重ね合わせが容易となり、所謂ロール・トゥ・ロールでの遮音部材の製造や、ロール状での保管ができ、生産性及び経済性が高められる傾向にある。
また、共振部11のシート部10の法線方向への高さは共振部すべてが同じでなくてもよく、異なっていてもよい。共振部の高さが異なることで、遮音性能が現れる周波数領域を拡大する等の効果が得られる場合がある。この場合の高さHは、上述したように、複数の共振部の高さの平均値とする。
【0055】
共振部11は、図3に示すように、基部21と、この基部21に支持され、且つこの基部21より大きな質量を有する錘部22とを備える複合構造体から構成されていてもよい。共振部11は、錘として働く錘部22の質量と、バネとして働く基部21のバネ定数により決定される共振周波数を持つ共振器として有効に機能する。以下、基部及び錘部について詳述する。
【0056】
(基部)
基部21は、シート部10のシート面上に複数接して設けられている。基部21の外形形状は、特に限定されず、三角柱状、矩形柱状、台形柱状、5角柱や6角柱等の多角柱状、円柱状、楕円柱状、角錐台状、円錐台状、角錐状、円錐状、中空筒状、分岐形状、これらに分類されない不定形状等、任意の形状を採用することができる。また、基部21の高さ位置によって異なる断面積及び/又は断面形状を有する柱状に形成することもできる。
また、シート面上に複数接して設けられた基部21の形状や高さは同一でも異なっていてもよい。
【0057】
基部21の材料は、上記要求特性を満足する限り、特に制限されない。例えば、樹脂材料が挙げられ、熱又は光硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマー、熱又は光硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
熱又は光硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーの条件としては、シート部10の説明で例示した条件を適用することができる。
なお、製品コストや製造の容易性の観点から、基部21の材料とシート部10の材料とは、同一であることが好ましい。
熱又は光硬化性樹脂としては、アクリル系熱硬化性樹脂、ウレタン系熱硬化性樹脂、シリコーン系熱硬化性樹脂、エポキシ系熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂、ポリエステル系熱可塑性樹脂、アクリル系熱可塑性樹脂、ウレタン系熱可塑性樹脂、ポリカーボネート系熱可塑性樹脂等が挙げられる。
具体例としては、化学架橋された天然ゴム或いは合成ゴム等の加硫ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリエステルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム及びこれらの変性体等のゴム類;ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリクロロトリフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリノルボルネン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、エポキシ樹脂、オキサジン樹脂等のポリマー類等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、基部21は、これらの樹脂材料中に空孔(空気等の気体)を含む多孔質体であってもよい。さらに、基部21は、鉱物油、植物油、シリコーン油等の液体材料を含んでいてもよい。なお、基部21が液体材料を含む場合には、液体材料の外部への流出を抑制する観点から、樹脂材料中に封じ込めておくことが望ましい。
【0058】
これらのなかでも、基部21の材料は、上述したシート部10と同じ材料であることが好ましく、特にエラストマー類が好ましい。シート部10及び基部21が同じエラストマー類を含有するものであれば、シート部10と基部21との一体成形が容易となり、生産性が飛躍的に高められる。すなわち、シート部10及び共振部11(基部21)が、熱又は光硬化性エラストマー、及び熱可塑性エラストマーよりなる群から選択される少なくとも1種を共に含有する一体成形物であることが、特に好ましい態様の1つである。
エラストマー類の具体例としては、化学架橋された天然ゴム或いは合成ゴム等の加硫ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリエステルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム及びこれらの変性体、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリクロロトリフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリノルボルネン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、エポキシ樹脂、オキサジン樹脂等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
これらのなかでも、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリエステルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム及びこれらの変性体が好ましく、耐熱性や耐寒性に優れる等の観点から、シリコーンゴム、アクリルゴム及びこれらの変性体がより好ましい。
【0059】
なお、基部21は、2種又はそれ以上の樹脂材料からなる2色成形体又は多色成形体とすることもできる。この場合、シート部10と接する側の基部21に上述したシート部10と同じ材料を採用することで、シート部10と基部21との一体成形が容易となる。
【0060】
断面円形状の共振部11(基部21)を設ける場合、複数の共振部11(基部21)の断面積の総和が最大となる共振部11(基部21)高さ位置におけるシート部10のシート面に平行な断面において、当該断面に含まれる円(円断面)のうち、直径が最大である円の直径は100mm以下が好ましく、より好ましくは50mm以下、さらに好ましくは20mm以下である。また、直径が最小である円形の直径は10μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは1mm以上である。上記の好ましい数値範囲内とすることで、シート部10のシート面へ設置する共振部11(基部21)を所定数以上確保することができ、さらに良好な遮音性能を得ることができ、また、成形容易性及び生産性もさらに高められる傾向にある。
【0061】
(錘部)
錘部22(単に「錘」とも称する)は、基部21のそれぞれに設けられ、かつ、基部21より大きな質量を有していれば特段制限されない。錘部22は、図3に示すように、基部21の上に設けられていてもよいが、その一部が基部21に埋設されるように設けられていてもよく、製造中の錘部22の落下を防止できる観点から、錘部22の少なくとも一部が基部21に埋設されるように設けられることが好ましく、特に、図9に示すように、錘部22全体が基部21に埋設されるように設けられることが好ましい。図4及び図10は、それぞれ、図3のIII-III矢視断面図及び図9のIV-IV矢視断面図である。さらに、遮音部材12の高さ低減、重量低減、または遮音性能向上の観点から、共振部11の重心(質量中心)が、少なくとも共振部11の高さ方向の中央よりも先端側に位置するように、基部21及び錘部22を配置することが好ましい。
また、遮音部材の製造中の錘部22の落下の抑制を図る観点から、各々の基部に対して、単一の錘部22(単一の部材からなる錘部22)が設けられていることが好ましい。
【0062】
錘部22を構成する材料は、質量やコスト等を考慮して適宜選択すればよく、その種類は特に限定されない。遮音部材12の小型化及び遮音性能の向上等の観点から、錘部22を構成する素材は、比重の高い材料が好ましい。
具体的には、アルミニウム、ステンレス、鉄、タングステン、金、銀、銅、鉛、亜鉛、真鍮等の金属又は合金;ソーダガラス、石英ガラス、鉛ガラス等の無機ガラス;これらの金属或いは合金の粉体又はこれらの無機ガラス等を上述した基部21の樹脂材料中に含むコンポジット;等が挙げられるが、これらに特に限定されない。錘部22の材質、質量、比重は、遮音部材12の音響バンドギャップが所望する遮音周波数領域に一致するように決定すればよい。
これらの中でも、低コスト及び高比重である等の観点から、金属、合金、及び無機ガラスよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。なお、比重は、材料の質量と、それと同体積の圧力1013.25hPaのもとにおける4℃の純水の質量との比を意味し、本明細書においては、JIS K 0061「化学製品の密度及び比重測定方法」により測定される値を用いている。
【0063】
錘部の貯蔵弾性率は、遮音性能の向上の観点から、通常1000MPa以上であり、2000MPa以上であることが好ましく、5000MPa以上であることがより好ましく、10000MPa以上であることがさらに好ましく、また、通常1000000MPa以下であり、800000MPa以下であることが好ましく、600000MPa以下であることがより好ましく、500000MPa以下であることがさらに好ましい。錘部の貯蔵弾性率の測定は、上述のシート部や凸部の貯蔵弾性率の測定方法と同様の方法で測定可能である。
【0064】
共振部11における錘部の体積比率は、特段制限されないが、遮音性能を向上させる観点から、共振部100体積%に対して、通常1体積%以上であり、5体積%以上であることが好ましく、10体積%以上であることがより好ましく、20体積%以上であることがさらに好ましく、また、通常90体積%以下であり、80体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましく、50体積%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
錘部22は、貫通孔を有していてもよい。貫通孔を有する錘部22を図面にて説明する。図11(a)は基部21及び錘部22を含む共振部を表し、図11(b)は錘部22を表す。本発明において貫通孔を有する錘は、例えば、図11(b)に示すように貫通孔を有するものを指し、その形状としては、ドーナツ形状、ワッシャ形状、ナット形状等が挙げられる。
錘部22の形状は特に限定されないが、板状であることが遮音性能の調整及び薄型化の点から好ましい。錘部22が板状であることで、錘部22が球体等の場合と比較して錘部22の重心をシート部10から離れた位置とすることが可能となり、共振部11の振動モーメントを大きくすることができる傾向にある。例えば、音響バンドギャップ幅を一定とする場合、錘部22が球体等の場合と比較して、板状の錘部22の方が薄くすることが可能となる。一方、錘部22の高さを一定とする場合、錘部22が球体等の場合と比較して、板状の錘の方が広いバンドギャップ幅を得ることが可能となる。
【0066】
図11(a)では、錘部22の外径が基部21よりも小さな略円状に形成されており、共振部11の先端側において基部21内に埋設されている。このように共振器の錘として働く錘部22がバネ定数を決定する基部21に支持された構成を採用しているため、例えば、基部21の形状或いは素材(貯蔵弾性率、質量)の変更によるバネ定数の調整や、錘部22の質量の変更によって、共振部11の共振周波数の制御を容易に行うことができる。一般的には、基部21の貯蔵弾性率が小さくなると音響バンドギャップは低周波数側にシフトする傾向にある。また、錘部22の質量が大きくなると、音響バンドギャップは低周波数側にシフトする傾向にある。
【0067】
図11(b)において、hxは錘の高さを表し、rは錘の外径、rは貫通孔の径(内径)を表す。
錘部22の高さ(hx)は特に限定されないが、共振部11の高さを1とした場合、0.95以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましい。また、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。これらの範囲であることで、遮音シート部材の高さを抑制しながらも、広い遮音帯域幅を得ることができる傾向にある。
錘部22の外径(r)は特に限定されない。基部21が断面円形状の場合、該断面円形状の直径程度であることが遮音性能に優れる傾向にある。特に限定されないが、rの最大値は100mm以下が好ましく、より好ましくは50mm以下、さらに好ましくは20mm以下である。また、rの最小値は10μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは1mm以上である。上記の好ましい数値範囲内とすることで、良好な遮音性能を得ることができ、また、成形容易性及び生産性もさらに高められる傾向にある。
錘部22は、基部21内に埋設していてもよく、露出していてもよい。貫通孔を有する錘部22は、錘部22の貫通孔分にも樹脂材料等が充填されており、この部分も基部21への固定端として働くことから、露出していても、錘部22の脱落又は破断を抑制することができる。
【0068】
錘部22の内径(r)は特に限定されない。外径(r)より小さければ特に限定されないが、rの最大値は90mm以下が好ましく、より好ましくは40mm以下、さらに好ましくは20mm以下、特に好ましくは10mm以下である。また、rの最小値は2μm以上が好ましく、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは80μm以上である。上記の好ましい数値範囲内とすることで、貫通孔への樹脂材料等の充填が容易となる傾向にある。
また、錘部22の外径及び内径の比は特に限定されない。
【0069】
錘部22の表面(貫通孔も含む)には、プロセス適や部材強度を高めるために、表面処理を施してもよい。
例えば、基部21との密着性を高めるための溶剤等での化学的な処理を施すことや、表面に凹凸を設けることで部材強度を高める物理的な処理を施すことが考えられるが、表面
処理の方法は特に限定されない。
【0070】
[突起部]
遮音部材12は、上記共振部11以外にも他の突起部をシート部の一方の面(凸部が設けられる側の面)に有していてもよい。例えば、図12に示すリブ状突起部31、また、図13に示す円柱状突起部32のような柱状突起部等を有していてもよい。なお、上述したように、突起部は凸部に含まれる概念であるため、これを明確に示すため、図12及び図13では、突起部を「31(11)」及び「32(11)」で表した。
突起部の形状及び設置位置は、共振器として働く共振部11と干渉しないように設置されていればよく、特に制限されない。例えば、突起部の外形形状は、特に限定されず、三角柱状、矩形柱状、台形柱状、5角柱や6角柱等の多角柱状、円柱状、楕円柱状、角錐台状、円錐台状、角錐状、円錐状、中空筒状、これらに分類されない不定形状等、任意の形状を採用することができる。また、突起部の高さ位置によって異なる断面積及び/又は断面形状を有する柱状に形成することもできる。また、シート部10の長さ方向における、突起部の最大長さは、シートのMD方向の最大長さ以下であればよく、特に限定されない。
【0071】
突起部の形状も特に限定されず、スペーサとして機能させる場合は、共振部11の最大高さH_resよりも高ければよい。また、振動子として機能させる場合は、調整する周波数領域に合わせて、突起部を設ける位置、個数及び高さを調整することができる。
なお、突起部の最大高さH_ribは、共振部11の最大高さH_resよりも高ければよく、特に限定されない。成形容易性及び生産性の向上等の観点から、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、1mm以上がさらに好ましい。また、20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましく、5mm以下がよりさらに好ましく、3mm以下が特に好ましい。
【0072】
以下、リブ状突起部31について説明するが、適用可能な範囲内で、円柱状突起部32等の他の形状の突起部も同様に設計することができる。
リブ状突起部31は、シート部10の長さ方向(シート流れ方向、MD方向)に延在するようにそれぞれ外形略板状に成形されている。このリブ状突起部31は、シート部10のシート面上、より具体的にはシート部10の幅方向(シート流れ方向に垂直方向、TD方向)の縁部の2箇所に、それぞれ設けられている。
【0073】
リブ状突起部31は、シート部10の法線方向に対して、上述した共振部11の最大高さH_resよりも高い最大高さH_ribを有する。これにより、遮音部材12の製造時において、これをシート状に巻き取ったり又は複数枚重ね合わせたりしても、リブ状突起部31がスペーサとして機能するため、シート部10の裏面に対する共振部11の接触が抑制される。したがって、リブ状突起部31が設けられていることにより、共振部11の変形、変異、割れ、脱落、破損等の製造トラブルを生じさせることなく、所謂ロール・トゥ・ロールで遮音部材12を製造及び保管することが容易となる。また、リブ状突起部31は、騒音源から音波が入射された際に、ある周波数で振動する振動子(共振器)として機能することもできる。
【0074】
なお、図12では、シート部10の長さ方向に延在する一対のリブ状突起部31を採用しているが、これよりも最大長さが短い複数のリブ状突起部31を、シート部10の長さ方向に沿って離間配置してもよい。このとき、各々のリブ状突起部31の配置間隔は、周期的であっても、ランダムであってもよい。このように複数のリブ状突起部31を離間配置する場合、各々のリブ状突起部31の距離は、特に制限されないが、100mm以下が好ましく、より好ましくは50mm以下、さらに好ましくは20mm以下である。
【0075】
このリブ状突起部31を構成する素材は、特に限定されないが、シート部10及び/又は共振部11(基部21)と同じ樹脂材料が好ましく、シート部10及び共振部11(基部21)と同じエラストマー類がより好ましい。シート部10及び/又は基部21と同じ樹脂材料を採用すれば、シート部10及び/又は共振部11(基部21)との一体成形が容易となり、生産性が飛躍的に高められる。
【0076】
突起部31は、共振部と同様に突起であるため、共振部と同様に作用する。この場合、上述の式(1)におけるE_membraneを算出する場合には、E_resを突起部31の貯蔵弾性率E_ribに、H_resをH_ribに置き換える等の変換を行い、上述
の式(S4)~式(S6)等を用いて各々の突起部31に対する合算貯蔵弾性率(E’_
membrane)を求め、複数の共振部11と併せて、シート面内の全ての突起に対して突起個数を重みとする貯蔵弾性率の加重平均値を計算し、この平均値をE_membr
aneとする。
また、シート部及び凸部の高さHを算出する際、突起部を複数の凸部の集合体とみなしてH_membraneを算出するが、図12のようなリブ状突起部を用いた場合、共振
部及びリブ状突起部の底面(凸部がシート部と接する面)の面積が異なることとなるため、まずH_resをH_ribに置き換えて、上述の式(B)を用いて各々の突起部31に対する合算高さ(H’)を求め、次に前述の複数の共振部11と併せて、シート面に存在するすべての突起について合算高さの突起底面の面積を重みとする加重平均値を算出し、この加重平均値をH_membraneとする。このような底面の面積が異なる2つの部
分が存在する場合の高さの算出方法は、共振部が複数種類ある場合にも同様に適用される。
また、図13のような、共振部と底面の面積が同じ円柱状突起部を用いた場合も同様に、H_resをH_ribに置き換えて、上述の式(B)を用いて各々の突起部31に対する合算高さ(H’)を求め、次に複数の共振部11と併せて合算高さの各突起底面の面積を重みとする加重平均を計算し、この加重平均値をH_membraneとする。
【0077】
[接着剤層]
接着剤層は、凸部が設けられた側とは反対側のシート部の面に設けられていれば特段制限されない。特に、上述の遮音部材を後述の被着体(遮音される対象である製品や部品等)に接着するものであることが好ましい。接着剤を介して遮音部材を被着体に接着する方法は特に限定されず、例えば、別個成形した各部品を、加熱加圧又は加圧して圧着する方法、各種公知の接着剤を用いて接着する方法、熱溶着、超音波溶着、レーザー溶着等で接合する方法等が挙げられる。しかしながら、接着時にシートを加熱加圧、又は加圧して圧着する方法では、遮音部材が表面に凹凸を保有することから、接着面において均一、かつ十分な接着力を得ることが難しい。また、熱溶着、超音波融着する方法では、シートが溶融変形し、この接着時変形により、本来設計された遮音/制振周波数からずれてしまう可能性が高い。よって接着剤を用いて遮音部材を接着、設置することが特に有効である。
なお、本実施形態に係る遮音構造体は、被着体とシート部との間すべてに接着剤層が設けられた構成以外に、被着体とシート部との間の一部に接着剤層が設けられていない部分を含む構成も含む。
【0078】
十分な遮音性能を発揮させるためには、接着剤の膜厚を薄くする、また、接着剤の貯蔵弾性率をシート部及び凸部の貯蔵弾性率に対して下記の式(2)及び(3)に示す一定範囲の比率になるよう制御することが好ましい。
7000≧E_glue/E_membrane≧0.5 (2)
50.0≧E_glue/E_adh≧0.00002 (3)
E_glue(MPa):接着剤層の貯蔵弾性率
E_membrane(MPa):シート部及び凸部の貯蔵弾性率
E_adh(MPa):被着体の貯蔵弾性率
【0079】
上記式(2)は、接着剤層の隣接層であるシート部の貯蔵弾性率が接着剤層の貯蔵弾性率と一定の比率内にあることを表し、この数値が範囲内にある場合は境界面での弾性波の反射が起き難く、共振部に振動エネルギーが伝わりやすくなるため遮音性能が向上する傾向にある。特にE_glue/E_membrane=1である場合は界面において弾性波の反射が全く起きないためエネルギー損失が無い。また、隣接層の貯蔵弾性率差による振動時の伸び量、歪み量が異なることによる境界面での剥離が起きる可能性が低くなるため製品の耐久性上も好ましい。
また、同様に上記式(3)は、接着剤層の隣接層である被着体の貯蔵弾性率が接着剤層の貯蔵弾性率と一定の比率内にあることを表し、この数値が範囲内にある場合は境界面での弾性波の反射が起き難く、共振部に振動エネルギーが伝わりやすくなるため遮音性能が向上する傾向にある。特にE_glue/E_adh=1である場合は界面において弾性波の反射が全く起きないためエネルギーロスが無い。また、隣接層の貯蔵弾性率差による振動時の伸び量、歪量が異なることによって境界面での剥離が起きる可能性が低くなるため製品の耐久性上も好ましい。
【0080】
接着剤層の平均膜厚I_glueは、特段制限されないが、振動エネルギー伝達、及び材料コストの観点から薄い方が好ましく、以下の式(4)を満たすことが好ましい。
1.0≧I_glue≧0.005 (4)
さらに、I_glueは、0.01mm以上であることがより好ましく、0.02mm以上であることがさらに好ましく、0.05mm以上であることが特に好ましく、また、0.8mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.3mm以下であることがさらに好ましく、0.25mm以下であることが特に好ましい。
【0081】
接着剤層の貯蔵弾性率は特段制限されないが、通常0.1MPa以上であり、1MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、50MPa以上であることがさらに好ましく、また、通常10000MPa以下であり、5000MPa以下であることが好ましく、3000MPa以下であることがより好ましく、1000MPa以下であることがさらに好ましい。上記範囲を上回ると、脆性が高くなり、接着剤層に割れや剥離が発生し易くなり、また、上記範囲を下回ると、接着強度や剥離強度自体が低くなる。したがって、10MPaより大きく、10000MPa以下の範囲とすることが好ましい。接着剤層の貯蔵弾性率の測定は、上述のシート部や凸部の貯蔵弾性率の測定方法と同様の方法で測定可能である。
【0082】
本発明の別の実施形態である遮音構造体は、上述の遮音構造体における式(1)の要件を上記の接着剤の貯蔵弾性率の要件、特に10MPaより大きいという要件に変更した態様であり、具体的には、シート状のシート部と該シート部に設けられた複数の凸部を有する遮音部材、及び接着剤層を有し、前記接着剤層の弾性率が10MPaより大きい、遮音構造体である。
ただし、この遮音構造体は、上記の式(1)の要件を満たすことが好ましく、また、上記の式(1)以外の条件は、上述の遮音構造体と同様の条件を適用することができる。
【0083】
接着剤における貯蔵弾性率を含む力学特性の制御は、接着剤も高分子の1種であることから、高分子材料の力学特性の制御する方法と同様と考えることができる。すなわち接着剤を含む高分子材料の力学特性は、高分子鎖の化学構造、高分子鎖の分子量と分子量分布、高分子鎖間の架橋構造と架橋密度、添加フィラーに依存する。特に樹脂の貯蔵弾性率は高分子の結晶性を調節することで調節可能である。結晶化度を高める一般的な手法としては、主鎖構造に共役構造を導入して分子の剛直性を高める、反応条件や触媒等により重合反応を制御して高分子鎖の分岐を減らす、高分子鎖にヘテロ原子や水素結合部位を導入して分子間相互作用を強める、高分子溶液からの析出速度を遅くする等の手法が挙げられる。結晶化度の調整以外に、添加剤の導入も樹脂の貯蔵弾性率の調節に有効である。例えば、可塑剤を導入して分子間相互作用を弱めることで貯蔵弾性率を下げることが可能であり、高い貯蔵弾性率を有するガラス繊維や炭素繊維、層状粘土鉱物、金属酸化物、金属等を複合化させることで、貯蔵弾性率を上げることが可能である。また、エラストマーなどの架橋高分子の貯蔵弾性率に関しては、架橋密度を架橋剤量や反応率を調整することによって調節することが可能である。一般に架橋密度を下げると架橋点間の分子鎖が長くなって伸びやすくなることで貯蔵弾性率は下げることができ、架橋密度を上げることで架橋点間の分子鎖が短くなって伸びにくくなり貯蔵弾性率を上げることができる。また、カーボンブラック、シリカ、カーボンナノチューブ等の高い貯蔵弾性率を有する材料からなる微粒子をフィラーとして複合化し、フィラーのサイズや配合量、分散性等を調節することで、貯蔵弾性率を調節することも可能である。
【0084】
樹脂部の損失弾性率や負荷時の残留歪みについては、特段制限されていないが、共振部の共振を利用するため、損失弾性率や残留歪みが小さいことが好ましい。すなわち、本測定方法においては、シート部、及び共振部を形成する遮音部材の押込型微小硬度計による押し込み深さ最大値hmax、及び除荷時変位量hに対して、0.5≧h/hmax≧0.0であることが好ましい。
【0085】
接着剤層の材料は、上記の式(1)を満たす範囲で選定すれば特段制限されないが、上記の式(2)及び(3)を満たす範囲で選定することが好ましい。例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、レゾルシノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアロマティック系樹脂、クロロプレン系ゴム、ニトリル系ゴム、スチレンブタジエン系ゴム、ポリサルファイド系ゴム、ブチル系ゴム、シリコーン系ゴム、アクリル系ゴム、変成シリコーン系ゴム、ウレタン系ゴム、シリル化ウレタン系樹脂、テレケリックポリアクリレート系接着剤、及び、これらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、接着性、剥離耐久性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性両立の観点から、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、及びシアノアクリレート系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂であることが好ましく、特に、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、及びシアノアクリレート系樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂であることが好ましい。
接着剤層中の上記の材料の合計の含有割合は特段制限されないが、塗布適正粘度、適正硬化速度の観点から、通常10重量%以上であり、20重量%以上であることが好ましく、25重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることがさらに好ましく、また、特に好ましい上限はないが、通常90重量%以下である。
【0086】
接着剤層に用い得る接着剤の具体例としては、アクリル樹脂系接着剤では、デンカ株式会社製 OP-1030M、デンカ株式会社製 OP-1505、デンカ株式会社製 OP-3010P、公知の組成物であるWO2011/046120に記載の組成物、公知の組成物である特開2013-112766に記載の組成物等が挙げられ、エポキシ樹脂系接着剤では、株式会社アルテコ製 AY-5302、株式会社アルテコ製 AY-5231、株式会社アルテコ製 AY-5274、株式会社アルテコ製 AY-5011、株式会社アルテコ製 AY-5012、株式会社アルテコ製 AY-5158、株式会社アルテコ製 AY-5158、株式会社アルテコ製 AY-5218C、株式会社アルテコ製 AY-5218D、株式会社アルテコ製 AY-5259、株式会社アルテコ製 AY-5321、公知の組成物である特開2006-169446に記載の組成物等が挙げられ、シリコーン樹脂系接着剤では、信越化学工業株式会社製 KER-6020-F、信越化学工業株式会社製 KER-6020-F1、信越化学工業株式会社製 KER-6020-F2等が挙げられ、ポリオレフィン樹脂系接着剤では、東ソー株式会社製 MX02D、東ソー株式会社製 MX06、東ソー株式会社製 MX07、東ソー株式会社製 MX11、東ソー株式会社製 MX15、東ソー株式会社製 MX23、東ソー株式会社製 MX28、東ソー株式会社製 MX37、東ソー株式会社製 MX53C、東ソー株式会社製 MZ14A、東ソー株式会社製 JS01等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、配合によって硬化阻害等の不利益が起こらない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
接着剤層は、無機フィラーや繊維を含んでいてもよく、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン等の金属酸化物、カーボン粒子、カーボンブラック、黒鉛、及びこれらの繊維化物等が挙げられる。
接着剤層中の上記無機材(特に、無機フィラー)の含有量は、特段制限されないが、硬度調整、及び塗布溶液粘度の観点から、通常1重量%以上であり、10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましく、25重量%以上であることがさらに好ましく、また、通常80重量%以下であり、70重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましく、40重量%以下であることがさらに好ましい。
【0088】
[被着体]
被着体13は、前述の接着剤層14を介して上述の遮音部材を接着できるものであれば、その形状や材料等は特段制限されない。
本明細書において、被着体とは、接着剤層を挟んでシート部(遮音部材)を保持するものであり、より具体的には、遮音される対象である製品や部品等である。
【0089】
被着体の貯蔵弾性率E_adhは、特段制限されないが、振動による音を発生しやすい
ことから貯蔵弾性率が高い場合が多いが、通常500MPa以上であり、1000MPa以上であることが好ましく、2000MPa以上であることがより好ましく、また、上限に好ましい範囲はないが、通常300000MPa以下である。
被着体の貯蔵弾性率E_adhは、上述した接着剤の貯蔵弾性率の測定方法と同様の
方法で測定することができる。
本明細書において、被着体の貯蔵弾性率E_adhとは、接着剤層と接触する部分の部
材の貯蔵弾性率を意味し、接着剤層と接触する被着体の部分が2以上の部材から構成されている場合、それらの複数の部材は個別に扱い、それぞれについて本実施形態の要件を満たすか否かを評価する。つまり、複数の部材のうちの一の部材に対して、その部材の直上に存在する遮音部材及び接着剤層との関係で上述した式(1)等の条件を適用する。
なお、被着体の貯蔵弾性率E_adhについて、被着体が接着剤層と接触しない部分で
2以上の部材に分かれている場合、接触していない部分の部材の貯蔵弾性率を考慮する必要はない。
【0090】
被着体の厚さは特段制限されないが、遮音性能をより効果的に発揮することができる観点から、通常0.5mm以上であり、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましく、また、上限に好ましい範囲はないが、通常300mm以下である。この場合、被着体の厚さとは、例えば、被着体が板状である場合、板の厚さを意味し、被着体が密な立方体状であり、上述の遮音部材が接着剤層を介して該立方体の上面に積層された場合、立方体の高さを意味し、被着体が6面の板で構成される中が空洞の立方体状であり、上述の遮音部材が接着剤層を介して該立方体の上面に積層された場合、立方体の上面を構成する板の厚さを意味する。
【0091】
被着体の材料は、特に制限されないが、例えば、エンジニアリングプラスティック、金属板、合金板等が挙げられる。例えば、エンジニアリングプラスティックの例としては、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、非晶ポリアリレート(PAR、Polyarylate)、ポリサルフォン(PSF、Polysulfone)、ポリエーテルサルフォン(PES、Polyethersulfone)、ポリフェニレンサルファイド(PPS、Polyphenylene sulfide)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、Polyether ketone)、ポリイミド(PI、Polyimide)、ポリエーテルイミド(PEI)(Polyetherimide)、フッ素樹脂(fuorocarbon polymers)、液晶ポリマー(LCP、Liquid crystal polymer)等が挙げられる。また、これらはグラスファイバー(GF)強化ポリエチレンテレフタレート(GF-PET)、GF強化ポリアミド(GF-PA)等のように硬度を増強する樹脂強化材を含んでいてもよい。被着体金属の例としては、アルミ、鉄、ステンレス等の汎用金属、合金などが挙げられる。また、上述の樹脂、金属が積層されている被着体でもよい。
【0092】
[遮音構造体の固有周波数]
遮音構造体において、下記の式で表される規格化固有周波数シフト量は、特段制限されないが、遮音効果が発生する周波数帯のずれは小さい方が好ましいため、30%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、15%以下であることが特に好ましく、10%以下であることが殊更特に好ましく、5%以下であることが最も好ましく、また、好適な下限は特にないが、通常0%以上であり、0.05%以上であってもよく、0.1%以上であってもよい。
規格化固有周波数シフト量(%)=((設計固有周波数)-(固有周波数))÷(設計固有周波数)
設計固有周波数(Hz):接着剤層を有さない条件で算出される固有周波数
固有周波数(Hz):接着剤層を有する条件で算出される固有周波数
【0093】
本発明の別の実施形態である遮音構造体は、上述の遮音構造体における式(1)の要件を上記の固有周波数の要件に変更した態様であり、具体的には、シート状のシート部と該シート部に設けられた複数の凸部を有する遮音部材、及び前記凸部が設けられた側とは反対側の前記シート部の面に設けられる接着剤層を有し、かつ、
下記式を満たす規格化固有周波数シフト量が、0~30%である、遮音構造体である。
規格化固有周波数シフト量(%)=((設計固有周波数)-(固有周波数))÷(設計固有周波数)
設計固有周波数(Hz):接着剤層を有さない条件で算出される固有周波数
固有周波数(Hz):接着剤層を有する条件で算出される固有周波数
ただし、この遮音構造体は、上記の式(1)の要件を満たすことが好ましく、また、上記の式(1)以外の条件は、上述の遮音構造体と同様の条件を適用することができる。
【0094】
[遮音構造体の製造方法]
遮音構造体の製造方法は特に限定されず、例えば、シート部の一方の面に複数の凸部を有する遮音部材を形成する工程、及び前記遮音部材(において凸部が設けられた側とは反対側のシート部の面)に接着剤層を設ける工程を有する方法であってよく、さらに、接着剤層を介して遮音部材が接着される被着体を有する場合には、接着剤層を介して遮音部材が接着される被着体を設ける工程を有していてよい。
【0095】
複数の凸部を有する遮音部材を形成する工程において、複数の凸部を形成させる方法は、特段制限されず、例えば、複数のキャビティを有する金型を準備し、さらに、キャビティ内に樹脂やゴム、又はこれらの前駆体を流し込み、硬化させる方法が挙げられる。硬化させる方法としては、熱可塑性の原料を用いる場合には、加熱して溶融させた原料をキャビティに流し込んだ後に冷却して硬化させる方法が挙げられ、熱硬化性又は光硬化性の原料を用いる場合には、原料をキャビティに流し込んだ後に加熱や光によって硬化させる方法が挙げられる。これらの場合、加熱や光の条件等は、原料に合わせて適宜設計させることができる。
【0096】
遮音部材に接着剤層を設ける工程において、接着剤層を設ける方法は、特段制限されず、例えば、上記の複数の凸部を有する遮音部材を形成する工程で製造された遮音部材に接着剤層の材料を塗布する方法が挙げられる。塗布の場合、その条件等は、公知の方法を適用することができる。
【0097】
接着剤層を介して遮音部材が接着される被着体を設ける工程において、被着体を接着させる方法は、特段制限されず、例えば、加熱等により接着剤を溶融させ、溶融した該接着剤に被着体を接触させた後に冷却させて接着剤を硬化させる方法が挙げられる。
【0098】
被着体を有する場合の具体的な製造方法としては、例えば、以下に示す製造方法1~4が挙げられる。なお、各製造方法で用いられるキャビティの形状は特に限定されないが、例えば、底の形状は半球状、平面状、凸状、凹状等適宜選択することができる。なお、製造方法3、4等は、国際公開2010/3080794号等の記載の製造方法を参考にすることができる。
【0099】
(製造方法1)
製造方法1は、以下(1)~(3)工程を含んでいてもよい。
(1)複数のキャビティを有する金型を準備し、キャビティ内に樹脂材料を流し込む工程。
(2)流し込まれた樹脂材料を硬化する工程。
(3)得られた硬化物を金型より剥離する工程。
製造方法1において、(2)又は(3)工程の後で、得られた硬化物(又は被着体)に接着剤を塗布し、該硬化物を被着体に接着する工程を設ける。
【0100】
(製造方法2)
製造方法2は、以下(4)~(7)工程を含んでいてもよい。
(4)複数のキャビティを有する金型を準備し、金型に設けられた複数のキャビティに錘を配置する工程。
(5)キャビティ内に樹脂材料を流し込む工程。
(6)流し込まれた樹脂材料を硬化する工程。
(7)得られた硬化物を金型より剥離する工程。
製造方法2において、(6)又は(7)工程の後で、得られた硬化物(又は被着体)に接着剤を塗布し、該硬化物に被着体を設ける工程を設ける。
【0101】
(製造方法3)
製造方法3は、以下(8)~(13)工程を含んでいてもよい。
(8)複数のキャビティを有する金型に光硬化性エラストマー前駆体又は光硬化性樹脂前駆体を塗布する工程。
(9)金型上で平面化した前記エラストマー前駆体又は樹脂前駆体上に、支持体を積層する工程。
(10)支持体と金型の積層体を、支持体側から加圧ロールにより前記エラストマー前駆体又は樹脂前駆体で前記キャビティを充填する工程。
(11)支持体側より光を照射することにより、金型のキャビティ形状が転写形成された前記エラストマー前駆体又は樹脂前駆体を硬化させると共に、前記エラストマー前駆体又は樹脂前駆体の硬化物と前記支持体とを重合接着させる工程。
(12)前記エラストマー前駆体又は樹脂前駆体の硬化物と支持体を接着させたものを金型より剥離する工程。
(13)被着体に支持体を接着剤で接着する工程。
【0102】
(製造方法4)
製造方法4は、以下(14)~(17)工程を含んでいてもよい。
(14)キャビティが複数配列された外周面を有するロール型を回転させ、前記ロール型の外周面に沿って前記ロール型の回転方向に、接着剤を塗布した支持体を走行させながら、前記ロール型の外周面に光硬化性エラストマー前駆体又は光硬化性樹脂前駆体を塗布し、前記キャビティに前記エラストマー前駆体又は樹脂前駆体を充填する工程。なお、本工程において、光硬化性樹脂の硬化により該樹脂と支持体とが接着するため、接着剤を用いなくともよく、生産性向上の観点から、接着剤を用いない態様が好ましい。
(15)前記ロール型の外周面と前記支持体との間に前記エラストマー前駆体又は樹脂前駆体を挟持した状態で、前記ロール型の外周面と前記支持体との間の領域に光照射する工程。
(16)前記工程(15)で得られた前記エラストマー前駆体又は樹脂前駆体の硬化物と前記支持体とが接着したものを前記ロール型から剥離する工程。
(17)被着体に支持体を接着剤で接着する工程。
【0103】
シート部10に共振部11や突起部31を設ける方法は、上述のように、金型を用いて一体成型する方法だけでなく、別個成形した各部品を、加熱加圧又は加圧して圧着する方法、各種公知の接着剤を用いて接着してもよく、例えば、熱溶着、超音波溶着、レーザー溶着等で接合する方法等が例示される。接着剤としては、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、ポリウレタン樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、ポリオレフィン樹脂系接着剤、ポリビニルブチラール樹脂系接着剤、及び、これらの混合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、共振部11の一部若しくは全体、及び突起部31は、上記成形方法によって得られたゴム板を打ち抜くことによっても形成可能である。また、共振部11の一部が金属や合金である場合には、金属や合金を切削加工等することで形成可能である。
また、3Dプリンタ等を用いて製造する方法も挙げられる。
【0104】
生産性及び経済性を高める等の観点からは、金型成形や注型成形等により、遮音部材12を一体成形する方法が好ましい。その一例としては、シート部10、共振部11の一体成形物に対応する形状のキャビティを有する金型又は注型を用いて、シート部10、共振部11の一体成形物を成形する方法が挙げられる。このような一体成形方法としては、プレス成形法、圧縮成形法、注型成形法、押出成形法、射出成形法等の各種公知の方法が知られており、その種類は特に限定されない。なお、各部品の原料は、例えば粘弾性を有する樹脂材料であれば、液状前駆体若しくは加熱溶融体の形態でキャビティ内に流し込むことができる。また、金属や合金や無機ガラスであれば、キャビティ内の所定位置に予め配置(インサート)することができる。
樹脂材料としては、特に限定されない。例えば、上述した遮音部材等で例示した材料及びそれらの原料・中間体等が挙げられる。
【0105】
図14~17は、遮音部材12の製造工程の一例を示す図である。ここでは、上述した共振部11に対応する形状のキャビティ61aを有する金型61を用い(図14参照)、この金型61のキャビティ61a内に錘部22を配置し(図15参照)、その後、粘弾性を有する樹脂材料をキャビティ61a内に流し込み、必要に応じて加熱或いは加圧した後(図16参照)、シート部10、共振部11の一体成形物を離型し、遮音部材12を得る。このような一体成形法によれば、生産性及び経済性が高められるのみならず、複雑形状であっても容易に成形でき、また、各部品の密着力が高められ機械的強度に優れる遮音部材12が得られ易い傾向にある。これらの観点からも、シート部10、共振部11は、熱硬化性エラストマーや熱可塑性エラストマーを含有する一体成形物であることが好ましい。
【0106】
上述の遮音構造体は、シート部10のシート面上に接して複数の共振部11が設けられた構成となっている。そのため、騒音源から音波が入射された際に、質量則を凌駕する高い遮音性能を得ることができる。また、共振部11、基部21の形状、密度分布或いは素材(貯蔵弾性率、質量)の変更によるバネ定数の調整や、錘部22の質量の変更等によって、共振部11の共振周波数の制御を容易に行うことができる。その上さらに、シート部10の素材や厚み等によっても周波数帯域(音響バンドギャップ幅や周波数位置)を制御可能である。したがって、本実施形態に係る遮音構造体1は、従来のものに比して、遮音周波数選択の自由度や設計自由度に優れる。
なお、上述の遮音構造体は、遮音を目的とした構造体だけでなく、制振を目的とした構造体として用いることもできる。
【0107】
[共振周波数のシミュレーション]
後述の実施例では、有限要素法を用いた物理シミュレーションソフトであるCOMSOL Multiphysics(COMSOL社)を用いて構造の共振周波数を計算した。該物理シミュレーションの条件について詳述する。
上記の方法は、有限要素法は解析的の解くことができない微分方程式を高い精度で近似的に解くための数値解析の手法であり、解析したい複雑な対象を単純な小部分(要素)に分割して全体の挙動を近似的に計算する方法である。後述の実施例における突起共振周波数は、下記手順により計算した。
図18~21における遮音構造体の各部位i~vのそれぞれに対して、表1~7に記載の物性(比重、貯蔵弾性率(ヤング率)、ポアソン比)、及び表1~7、図18~21に記載の材料寸法(r、r、h~h、a、bをCOMSOL Multiphysics(COMSOL社)の固体力学モジュールの方程式に代入し、シート部vの底面を完全固定した条件にて固有振動モードを計算し、各種条件での共振周波数を計算した。
なお、図18は、穴あき円板を用いた態様であり、図19は、錘部として穴あきナット(六角板)を用いた態様であり、図20は、錘部なしの態様であり、図21は、錘部なしでシート部としてゴム層及びPET層の積層構造を採用した態様を示す。
次に、理想的な状態として接着剤が無い状態で、被着体に完全固定した場合の共振周波数をf0とし、各種物性の接着剤を用いた場合の共振周波数fを比較した。
後述の実施例では、dF=(f-f0)/f0×100[%]が小さいことを良好な設置、接着条件として採用した。すなわち、シートの設計周波数からの乖離量であるdFが、小さいことが良好な接着条件となる。dFは可能な限り小さいことが好ましく、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【実施例
【0108】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0109】
[固有周波数の計算]
遮音部材の各部位i~vのそれぞれに対して、表1~7、図18~21に記載の物性(比重、ヤング率、ポアソン比)、及び材料寸法r、r、h~h、a、bをマルチフィジックス解析ソフトウェアCOMSOL Multiphysics(COMSOL社)の固体力学モジュールの方程式に代入し有限要素法を用いて突起が伸縮振動する際の固有周波数を計算した。なお、以下の表におけるHは、H=hii+hiii-hで算出される値である。
また、固有周波数のシフト量の大きさを比較するために、規格化した固有周波数のシフト量を下記のように定める。下記の設計固有周波数は同じシート・突起形状で接着剤層を含まない場合の固有周波数である。
規格化固有周波数シフト量(%)=((設計固有周波数)-(固有周波数))÷(設計固有周波数)
また、上述の計算によって得られた規格化固有周波数シフト量とβとの関係を表すグラフを図22に示した。βは、(E_glue/I_glue)/(E_membrane/H)の比である。
【0110】
<錘部として穴あき円板を用いた態様>
[実施例1]
実施例1は、図18に示す遮音シート部材を含むユニットセルである。該ユニットセルの構成部材のサイズ、材料、物性を表1に示す。該ユニットセルにおける突起の伸縮振動の固有周波数を上記計算方法に基づいて算出した。
計算の結果、実施例1において、固有周波数は、4353Hz及び規格化固有周波数シフト量は13.4となり、周波数ずれが十分に小さく、設計どおりの周波数となっていることが確認された。
【0111】
[比較例1]
比較例1も、図18に示す遮音シート部材を含むユニットセルである。該ユニットセルの構成部材のサイズ、材料、物性を表1に示す。該ユニットセルにおける突起の伸縮振動の固有周波数を上記計算方法に基づいて算出した。
計算の結果、比較例1において、固有周波数は、3626Hz及び規格化固有周波数シフト量は27.8となり、周波数ずれが大きく、接着剤層の影響により、設計周波数と大きく異なることが確認された。
【0112】
[参考例1]
参考例1も、図18に示す遮音シート部材を含むユニットセルである。該ユニットセルの構成部材のサイズ、材料、物性を表1に示す。該ユニットセルにおける突起の伸縮振動の固有周波数を上記計算方法に基づいて算出した。本参考例は、接着剤を用いない態様である。
計算の結果、参考例1において、固有周波数は、5025Hz及び規格化固有周波数シフト量は0%となった。
【0113】
【表1】
【0114】
<錘部として穴あきナット(六角柱)を用いた態様>
[実施例2~7]
実施例2~7は、図19に示す遮音シート部材を含むユニットセルである。該ユニットセルの構成部材のサイズ、材料、物性を表2に示す。該ユニットセルにおける突起の伸縮振動の固有周波数を上記計算方法に基づいて算出した。
計算の結果、実施例2~7において、固有周波数は、3545~5024Hz及び規格化固有周波数シフト量は0.0~13.4%となり、周波数ずれが十分に小さく、設計どおりの周波数となっていることが確認された。
【0115】
[比較例2~5]
比較例2~5も、図19に示す遮音シート部材を含むユニットセルである。該ユニットセルの構成部材のサイズ、材料、物性を表3に示す。該ユニットセルにおける突起の伸縮振動の固有周波数を上記計算方法に基づいて算出した。
計算の結果、比較例2~5において、固有周波数は、1962~3626Hz及び規格化固有周波数シフト量は27.8~61.0%となり、周波数ずれが大きく、接着剤層の影響により、設計周波数と大きく異なることが確認された。
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
<錘部なしの態様>
[実施例8~14]
実施例8~14は、図20に示す遮音シート部材を含むユニットセルである。該ユニットセルの構成部材のサイズ、材料、物性を表4に示す。該ユニットセルにおける突起の伸縮振動の固有周波数を上記計算方法に基づいて算出した。
計算の結果、実施例8~14において、固有周波数は、3759~5319Hz及び規格化固有周波数シフト量は0.0~11.4%となり、周波数ずれが十分に小さく、設計どおりの周波数となっていることが確認された。
【0119】
[比較例6~8]
比較例6~8も、図20に示す遮音シート部材を含むユニットセルである。該ユニットセルの構成部材のサイズ、材料、物性を表5に示す。該ユニットセルにおける突起の伸縮振動の固有周波数を上記計算方法に基づいて算出した。
計算の結果、比較例6~8において、固有周波数は、3155~3156Hz及び規格化固有周波数シフト量は40.7%となり、周波数ずれが大きく、接着剤層の影響により、設計周波数と大きく異なることが確認された。
【0120】
【表4】
【0121】
【表5】
【0122】
<錘部なし、かつ、シート部としてゴム層及びPET層の積層構造を採用した態様>
[実施例15~21]
実施例15~21は、図21に示す遮音シート部材を含むユニットセルである。該ユニットセルの構成部材のサイズ、材料、物性を表6に示す。該ユニットセルにおける突起の伸縮振動の固有周波数を上記計算方法に基づいて算出した。
計算の結果、実施例15~21において、固有周波数は、3942~5577Hz及び規格化固有周波数シフト量は0.0~3.4%となり、周波数ずれが十分に小さく、設計どおりの周波数となっていることが確認された。
【0123】
[比較例9~11]
比較例9~11も、図21に示す遮音シート部材を含むユニットセルである。該ユニットセルの構成部材のサイズ、材料、物性を表7に示す。該ユニットセルにおける突起の伸縮振動の固有周波数を上記計算方法に基づいて算出した。
計算の結果、比較例9~11において、固有周波数は、3822~3824Hz及び規格化固有周波数シフト量は31.4~31.5%となり、周波数ずれが大きく、接着剤層の影響により、設計周波数と大きく異なることが確認された。
【0124】
【表6】
【0125】
【表7】
【0126】
上記の表1~7及び図22から、βが0.5以上の場合に、遮音効果が発生する周波数帯のずれが生じにくくなる、具体的には、規格化固有周波数シフト量が20%以下となることが分かった。さらに、βが100以上の場合、周波数シフトは無くなることが分かった。
【符号の説明】
【0127】
1 遮音構造体
10 シート部
10(a) (シート部を構成する)層
10(b) (シート部を構成する)層
10(c) (シート部を構成する)層
11 共振部
12 遮音部材
13 被着体
14 接着剤層
21 基部
22 錘部
31 リブ状突起部
32 円柱状突起部
61 金型
61a キャビティ
H シート部及び共振部(凸部)の高さ
H_sheet シート部の高さ
H_res 共振部の高さ
I_glue 接着剤層の平均膜厚
r1 錘部の半径
r2 錘部の穴の半径
h 高さ
h_sheet 高さ
h_res 高さ
h_glue 膜厚
a シート長さ
i 錘部
ii 基部
iii シート部
iii-1 シート部1
iii-2 シート部2
iv 接着剤層
v 被着体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22