(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】光硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 220/26 20060101AFI20250311BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20250311BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20250311BHJP
【FI】
C08F220/26
C08F290/06
C09D11/30
(21)【出願番号】P 2022507215
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009263
(87)【国際公開番号】W WO2021182464
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2020041106
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】菊地 彩子
(72)【発明者】
【氏名】小島 峻吾
(72)【発明者】
【氏名】吉富 康亮
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 夕佳
(72)【発明者】
【氏名】杉原 克幸
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-019989(JP,A)
【文献】特開2017-122199(JP,A)
【文献】国際公開第2015/080155(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/26
C08F 290/06
C09D 11/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物100重量%に対して40~80重量%の単官能アクリルモノマー(A)と、
組成物100重量%に対して10~50重量%の多官能アクリルモノマー(B)と、
組成物100重量%に対して0.1~30重量%の水酸基価調整剤(C)と、を含有する光硬化性組成物であって、
前記単官能アクリルモノマー(A)および前記多官能アクリルモノマー(B)の水酸基価が0mgKOH/gであり、
前記水酸基価調整剤(C)の水酸基価が150~250mgKOH/gであり、
組成物の水酸基価が1~100mgKOH/gである、光硬化性組成物。
【請求項2】
前記水酸基価調整剤(C)
は、
重量平均分子量が100~5000である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
前記多官能アクリルモノマー(B)が前記多官能アクリルモノマー(B)(アクリルオリゴマー、ジシクロペンタニルジグリシジルエーテルアクリル酸付加物およびビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物を除く)であり、
前記水酸基価調整剤(C)が前記アクリルオリゴマー、前記ジシクロペンタニルジグリシジルエーテルアクリル酸付加物および前記ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物からなる群より選ばれる一または複数である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記水酸基価調整剤(C)がアクリルオリゴマーまたは、水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーを含む、
請求項1または2に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
前記単官能アクリルモノマー(A)が、縮合環式炭化水素基、多環式炭化水素基および単環式炭化水素基からなる群のうち一または複数を有する(メタ)アクリレートを含有している、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
前記単官能アクリルモノマー(A)が、下記式(1)で表される単官能アクリルモノマーである、請求項5に記載の光硬化性組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は水素またはメチルであり、R
2は縮合環式炭化水素基、多環式炭化水素基または単環式炭化水素基を有する炭素数4~30の1価の有機基であり、n
Aは0~10の整数である。)
【請求項7】
前記式(1)中のR
2が下記式(2)~(5)のいずれか1つで表される基である、請求項6に記載の光硬化性組成物。
【化2】
(式(2)~(5)中、R
3は、それぞれ独立に水素または炭素数1~6のアルキルであり、*は結合手である。)
【請求項8】
前記多官能アクリルモノマー(B)が、下記式(6)で表される二官能アクリルモノマーである、請求項7に記載の光硬化性組成物。
【化3】
(式(6)中、R
4はそれぞれ独立に水素またはメチルであり、R
5は縮合環式炭化水素基、多環式炭化水素基または単環式炭化水素基を有する炭素数4~30の2価の有機基であり、n
Bはそれぞれ独立に0~10の整数である。)
【請求項9】
前記式(6)中のR
5が下記式(7)~(10)のいずれか1つで表される基である、請求項8に記載の光硬化性組成物。
【化4】
(式(7)~(10)中、*は結合手である。)
【請求項10】
さらに、光重合開始剤(D)を組成物100重量%に対し5~15重量%含有する請求項1~9のいずれか一項に記載の光硬化性組成物。
【請求項11】
25℃における粘度が1~100mPa・sである請求項1~10のいずれか一項に記載の光硬化性組成物。
【請求項12】
組成物の水酸基価が5~40mgKOH/gである請求項1~11のいずれか一項に記載の光硬化性組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の光硬化性組成物を含有する、インクジェット用インク組成物。
【請求項14】
請求項13に記載のインクジェット用インク組成物を含有する、活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の光硬化性組成物を光硬化することで得られる硬化物。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載の光硬化性組成物を光硬化した後、さらに熱硬化することで得られる硬化物。
【請求項17】
請求項15または16に記載の硬化物を含む電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、表示素子や、プリント配線板、フレキシブル配線板、半導体パッケージ基板および太陽電池基板などの電子回路基板の製造に好適に用いられる光硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築資材や電気・電子分野などで用いられる各種樹脂板、ガラス板、金属板などの基材表面に皮膜を形成し、基材を傷付きや汚染などから守ることを目的としたコーティング剤の研究が種々行われている。コーティング剤としては熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂が用いられるが、光硬化性樹脂を用いた場合には、表面硬度の高い硬化物が得られることが多く、また光照射により瞬時に硬化し生産性が高いことから、有機基材の表面保護用として光硬化性樹脂がしばしば使用されている。しかし、光硬化性樹脂を用いた硬化物は、一般に無機基材に対する密着性が十分ではないことが多い。そこで、無機基材に対する密着性を向上させることが種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定の単官能重合性モノマー成分(A)と、多官能重合性モノマー(B)と、重合開始剤(C)とが、それぞれ所定の量で含まれる光硬化性インクジェットインクが記載されている。当該光硬化性インクジェットインクを用いることにより、無機基材に対する密着性が良好な硬化物を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電子部品の薄型化、小型化に伴い、特許文献1に記載の光硬化性インクジェットインクを用いた硬化膜によっては、十分ではない場合が生じてきた。例えば、EMIシールドと金属配線とを絶縁する、膜厚10μm程度の硬化膜を特許文献1の光硬化性インクジェットインクを用いて形成した場合、信頼性試験時にイオンマイグレーションが発生することが分かった。ここで、イオンマイグレーションとは、配線や電極として使用された金属がイオン化して、移動し成長する現象であり、電子部品の短絡の原因となる。このため、イオンマイグレーションを防ぐことは、電子部品の信頼性の観点から重要である。
本発明の課題は、無機基材に対する密着性が良く、イオンマイグレーション耐性の良好な硬化物を形成可能な光硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記問題点を解決すべく検討した結果、特定の成分の組み合わせにより無機基材に対する密着性が良く、イオンマイグレーション耐性の良好な硬化物を形成可能な組成物となることを見出した。本発明は、当該知見に基づいたものであり、以下の構成を備えている。
【0007】
[1]組成物100重量%に対して40~80重量%の単官能アクリルモノマー(A)と、組成物100重量%に対して10~50重量%の多官能アクリルモノマー(B)と、組成物100重量%に対して0.1~30重量%の水酸基価調整剤(C)と、を含有する光硬化性組成物であって、組成物の水酸基価が1~100mgKOH/gである、光硬化性組成物。
【0008】
[2]前記水酸基価調整剤(C)は、水酸基価が100~300mgKOH/gであり、重量平均分子量が100~5000である、[1]に記載の光硬化性組成物。
[3]前記水酸基価調整剤(C)は、水酸基価が150~250mgKOH/gであり、重量平均分子量が100~5000である、[1]に記載の光硬化性組成物。
[4]前記水酸基価調整剤(C)がアクリルオリゴマーまたは、水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーを含む、[2]または[3]に記載の光硬化性組成物。
【0009】
[5]前記単官能アクリルモノマー(A)が、縮合環式炭化水素基、多環式炭化水素基および単環式炭化水素基からなる群のうち一または複数を有する(メタ)アクリレートを含有している、[1]に記載の光硬化性組成物。
[6]前記単官能アクリルモノマー(A)が、下記式(1)で表される単官能アクリルモノマーである、[5]に記載の光硬化性組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は水素またはメチルであり、R
2は縮合環式炭化水素基、多環式炭化水素基または単環式炭化水素基を有する炭素数4~30の1価の有機基であり、n
Aは0~10の整数である。)
【0010】
[7]前記式(1)中のR
2が下記式(2)~(5)のいずれか1つで表される基である、[6]に記載の光硬化性組成物。
【化2】
(式(2)~(5)中、R
3は、それぞれ独立に水素または炭素数1~6のアルキルであり、*は結合手である。)
【0011】
[8]前記多官能アクリルモノマー(B)が、下記式(6)で表される二官能アクリルモノマーである、[7]に記載の光硬化性組成物。
【化3】
(式(6)中、R
4はそれぞれ独立に水素またはメチルであり、R
5は縮合環式炭化水素基、多環式炭化水素基または単環式炭化水素基を有する炭素数4~30の2価の有機基であり、n
Bはそれぞれ独立に0~10の整数である。)
[9]前記式(6)中のR
5が下記式(7)~(10)のいずれか1つで表される基である、[8]に記載の光硬化性組成物。
【化4】
(式(7)~(10)中、*は結合手である。)
【0012】
[10]さらに、光重合開始剤(D)を組成物100重量%に対し5~15重量%含有する[1]~[9]のいずれか一項に記載の光硬化性組成物。
[11]25℃における粘度が1~100mPa・sである[1]~[10]のいずれか一項に記載の光硬化性組成物。
[12]組成物の水酸基価が5~40mgKOH/gである[1]~[11]のいずれか一項に記載の光硬化性組成物。
【0013】
[13][1]~[12]のいずれか一項に記載の光硬化性組成物を含有する、インクジェット用インク組成物。
[14][13]に記載のインクジェット用インク組成物を含有する、活性エネルギー線硬化型インク組成物。
[15][1]~[12]のいずれか一項に記載の光硬化性組成物を光硬化することで得られる硬化物。
[16][1]~[12]のいずれか一項に記載の光硬化性組成物を光硬化した後、さらに熱硬化することで得られる硬化物。
[17][15]または[16]に記載の硬化物を含む電子部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光硬化性組成物は、単官能アクリルモノマー(A)と、多官能アクリルモノマー(B)とを含有する組成物の水酸基価を、水酸基価調整剤(C)を用いて1~100mgKOH/gとしている。このため、光硬化性組成物により形成された硬化物は、イオンマイグレーション耐性が良好なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光硬化性組成物(以下「組成物」ともいう。)は、単官能アクリルモノマー(A)、多官能アクリルモノマー(B)および水酸基価調整剤(C)を含有している。以下では、適宜、これらを成分(A)、成分(B)および成分(C)ともいう。
【0016】
本発明は、水酸基価調整剤(C)を用いて、前記成分(A)および成分(B)を含有する組成物の水酸基価を1~100mgKOH/gとしているから、インクジェット用インクとして用いる場合の吐出性、光硬化性に優れ、かつ、耐熱性および基板、特にシリコン基板やガラス基板やこれらの基板上に金属配線、電極などの導体が形成された基板との密着性およびイオンマイグレーション耐性に優れる硬化物を形成することができる。イオンマイグレーション耐性に優れる硬化物とする観点から、組成物の水酸基価は、2~40mgKOH/gであることがより好ましく、5~40mgKOH/gであることがさらに好ましい。なお、本明細書において、数値範囲「A~B」は「A以上B以下」である。
【0017】
水酸基価調整剤(C)により組成物の水酸基価を調整して、イオンマイグレーション耐性に優れる硬化物を形成する観点から、前記成分(A)および成分(B)はいずれも、水酸基価が100mgKOH/g以下であることが好ましく、10mgKOH/g以下であることがより好ましく、0mgKOH/gであることがさらに好ましい。
【0018】
[単官能アクリルモノマー(A)]
本発明の組成物は、組成物の成分の重量の和100重量%に対して40~80重量%の単官能アクリルモノマー(A)を含有している。
【0019】
インクとして用いた場合の吐出性を良好にし、耐熱性および基板に対する密着性、およびイオンマイグレーション耐性等にバランス良く優れる硬化物を形成する観点から、成分(A)の含有量は、組成物100重量%に対し、40~80重量%であることが好ましく、50~75重量%であることがより好ましい。
【0020】
耐熱性および基板、特にガラス基板やシリコン基板やこれらの基板上に金属配線、電極などの導体が形成された基板との密着性およびイオンマイグレーション耐性を良好にする観点から、単官能アクリルモノマー(A)は、縮合環式炭化水素基、多環式炭化水素基および単環式炭化水素基からなる群のうち一または複数を有する(メタ)アクリレートを含有していることが好ましい。
【0021】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの両者または一方を示すために、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルとメタクリロイルの両者または一方を示すために用いられる。
【0022】
[縮合環式炭化水素基または多環式炭化水素基を有する単官能アクリルモノマー(a-1)]
縮合環式炭化水素基または多環式炭化水素基を有する単官能アクリルモノマー(a-1)としては、特に制限されないが、縮合環式炭化水素基または多環式炭化水素基を有する炭素数7~50の有機基を含む単官能アクリルモノマーであることが好ましく、縮合環式炭化水素基または多環式炭化水素基を有する炭素数7~30の有機基を含む単官能アクリルモノマーであることがさらに好ましい。
なお、「単官能アクリルモノマー」とは、1分子中に1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーのことをいう。
【0023】
また、「縮合環式炭化水素基」とは、環を2つ以上有する炭化水素(炭素原子と水素原子とからなる)基であり、ある環を構成し、同時に他の環をも構成する炭素原子を少なくとも1つ有する炭化水素基のことをいい、「多環式炭化水素基」とは、環を2つ以上有する炭化水素基であり、ある環と他の環とが単結合または炭素数1~10のアルキレンで結合した炭化水素基のことをいう。
【0024】
さらに、「前記縮合環式炭化水素基または多環式炭化水素基を有する炭素数7~50の有機基」とは、例えば、前記式(1)で表される化合物における、(メタ)アクリロイル基以外のnA個の繰り返し単位およびR2を含む基のことをいう。
【0025】
前記モノマー(a-1)としては、前記式(1)で表される化合物を用いることが、耐熱性および基板との密着性およびイオンマイグレーション耐性に優れる硬化物が得られる等の点から好ましい。
【0026】
前記式(1)中、R2は、縮合環式炭化水素基または多環式炭化水素基を有する炭素数4~30の1価の有機基であり、好ましくは、非極性であり、縮合環式炭化水素基または多環式炭化水素基を有する炭素数4~30の1価の有機基であり、より好ましくは、前記式(2)~(5)のいずれか1つで表される基である。また、nAとしては0または1が好ましい。
【0027】
前記式(2)~(5)中、R3としては水素が好ましい。なお、*は結合手であり、前記式(1)の右末端のO-と結合する。
【0028】
前記モノマー(a-1)としては、下記化合物群(I)から選ばれる少なくとも一種の化合物等が好ましい。
【化5】
【0029】
これらの中でも、得られる硬化物の基板との密着性、耐熱性およびイオンマイグレーション耐性を考慮すると以下の化合物(11)~(20)がより好ましく、化合物(11)および(17)がさらに好ましい。
【化6】
【0030】
前記モノマー(a-1)は上述した化合物等から選ばれる一種の化合物であってもよく、またこれらの二種以上の混合物であってもよい。化合物(11)と(17)の混合物が好ましく、両者を併用する場合、化合物(11):化合物(17)の重量比は、5:10~10:5が好ましく、7:10~10:7がより好ましく、9:10~10:9がさらに好ましい。
【0031】
前記モノマー(a-1)としては、公知の方法で製造した化合物を用いてもよいし、また、ジシクロペンタニルアクリレート(商品名;ファンクリルFA-513AS:日立化成工業(株))、ジシクロペンタニルメタクリレート(商品名;ファンクリルFA-513M:日立化成工業(株))、ジシクロペンテニルアクリレート(商品名;ファンクリルFA-511AS:日立化成工業(株))、ジシクロペンテニルメタクリレート(商品名;ファンクリルFA-511M:日立化成工業(株))、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(商品名;ファンクリルFA-512AS:日立化成工業(株))、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(商品名;ファンクリルFA-512M:日立化成工業(株))、イソボルニルアクリレート(商品名;IB-XA:共栄社化学(株))、イソボルニルメタクリレート(商品名;IBXMA:共栄社化学(株))、および1-アダマンチルメタクリレート(商品名;アダマンテートM-104:出光興産(株))等の市販品を用いてもよい。
【0032】
[単環式炭化水素基を有する単官能重合性モノマー(a-2)]
「単環式炭化水素基」とは、環(芳香環を含む)を1つ有する炭化水素基のことをいう。
前記モノマー(a-2)としては、公知の方法で製造した化合物を用いてもよいし、また、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート(商品名;V#155:大阪有機化学工業(株))、シクロヘキシルメタクリレート(商品名;ライトエステルCH:共栄社化学(株))等の市販品を用いてもよい。
【0033】
[多官能アクリルモノマー(B)]
本発明の組成物は、組成物100重量%に対し10~30重量%の多官能アクリルモノマー(B)を含有している。「多官能アクリルモノマー」とは、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーのことをいう。
【0034】
前記モノマー(B)の具体例としては、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性グリセリントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性グリセリントリ(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸トリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、ならびに前記式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0035】
組成物により形成される硬化物のイオンマイグレーション耐性を良好にする観点から、前記式(6)中のR5が前記式(7)~(10)のいずれか1つで表される基である化合物が好ましく、前記式(7)で表される基であることがより好ましい。また、nBとしては0または1が好ましい。
前記モノマー(B)は上述した化合物等から選ばれる一種の化合物であってもよく、またこれらの二種以上の混合物であってもよい。
【0036】
光硬化性に優れる組成物が得られ、また、耐熱性および基板に対する密着性およびイオンマイグレーション耐性にバランス良く優れる硬化物が得られるため、本発明の組成物において、前記モノマー(B)の含有量は、組成物100重量%に対し、10~50重量%が好ましく、13~30重量%がより好ましく、15~25重量%がさらに好ましい。
【0037】
[水酸基価調整剤(C)]
本発明の組成物は、水酸基価調整剤(C)を含有している。ここで、水酸基価調整剤(C)は、前記成分(A)、(B)と、水酸基価が異なる化合物であり、前記成分(A)、(B)よりも水酸基価が高い化合物が好ましい。成分(C)の水酸基価と、成分(A)の水酸基価との差は、100~300mgKOH/g以下が好ましく、150~250mgKOH/g以下がより好ましく、160~200mgKOH/g以下がさらに好ましい。成分(C)の水酸基価と、成分(B)の水酸基価との差は、100~300mgKOH/g以下が好ましく、150~250mgKOH/g以下がより好ましく、160~200mgKOH/g以下がさらに好ましい。水酸基価調整剤(C)は、一種または二種以上の混合物として用いてもよい。
【0038】
本発明の組成物は、例えば、水酸基を有さない単官能アクリルモノマー(A)および水酸基を有さない多官能アクリルモノマー(B)に、水酸基を有する水酸基価調整剤(C)を配合して、組成物全体の水酸基価を調整する。この場合、イオンマイグレーション耐性が良好な硬化物を形成する観点から、水酸基価調整剤(C)の含有量は、組成物100重量%に対して0.1~30重量%が好ましく、0.3~25重量%がより好ましく、0.5~20重量%がさらに好ましい。
【0039】
上述した好ましい配合量で組成物の水酸基価を所定の範囲に調整することが容易であることから、水酸基価調整剤(C)の水酸基価は、100~300mgKOH/gが好ましく、150~250mgKOH/gがより好ましく、160~200mgKOH/gがさらに好ましい。
【0040】
イオンマイグレーション耐性が良好な硬化物を形成する観点から、水酸基価調整剤(C)がアクリルオリゴマーまたは、水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーを含有することが好ましい。水酸基価調整剤(C)は、これらの一種のみを含有しても、二種以上を含有してもよい。水酸基価調整剤(C)の重量平均分子量は、100~5000が好ましく、450~3000がより好ましく、700~1500がさらに好ましい。同様の観点から、水酸基価調整剤(C)のガラス転移点(Tg)は、85℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。
【0041】
水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物、(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物のε-カプロラクトン変性体、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート(CHDMMA)、水酸基を複数持つポリオールの、一部の水酸基を(メタ)アクリル酸と反応、エステル化した化合物などがあげられる。
【0042】
また、オキシラン環またはオキセタン環を有するエポキシ化合物のオキシラン環またはオキセタン環に(メタ)アクリル酸を付加しエステル化した化合物も、水酸基を有するアクリルモノマーとして用いてもよい。これらの例としては、エポキシエステルM-600A、エポキシエステル40EM、エポキシエステル70PA、エポキシエステル200PA、エポキシエステル80MFA、エポキシエステル3002M(N)、エポキシエステル3002A(N)、エポキシエステル3000MK、エポキシエステル3000A(共栄社化学(株)製)や、以下のエポキシ化合物の(メタ)アクリル酸付加物等が挙げられる。
エポキシ化合物「jER807」(エポキシ当量160~175g/eq)、「jER815」、「jER825」(エポキシ当量170~180g/eq)、「jER827」(エポキシ当量180~190g/eq)、「jER828」(エポキシ当量184~194g/eq)、「jER190P」、「jER191P」、「jER1001」(エポキシ当量450~500g/eq)、「jER1002」(エポキシ当量600~700g/eq)、「jER1004」(エポキシ当量875~975g/eq)、「jER1004AF」(エポキシ当量875~975g/eq)、「jER1007」(エポキシ当量1750~2200g/eq)、「jER1010」(エポキシ当量3000~5000g/eq)、「jER157S70」(エポキシ当量200~220g/eq)、「jER1032H60」(エポキシ当量163~175g/eq)、「jER1256」(エポキシ当量7500~8500g/eq)(以上、三菱化学(株)製)、「セロキサイド2021P」(エポキシ当量128~145g/eq)、「セロキサイド3000」、「EHPE-3150」(エポキシ当量170~190g/eq)、「EHPE-3150CE」(エポキシ当量147~157g/eq)(以上商品名、(株)ダイセル製)、「TECHMORE VG3101L」(商品名、(株)プリンテック製、エポキシ当量210g/eq)、「HP7200」(エポキシ当量254~264g/eq)、「HP7200H」(エポキシ当量272~284g/eq)、「HP7200HH」(エポキシ当量274~286g/eq)(以上商品名、DIC(株)製)、「NC―3000」(エポキシ当量265~285g/eq)、「NC―3000H」(エポキシ当量280~300g/eq)、「EOCN―102S」(エポキシ当量205~217g/eq)、「EOCN―103S」(エポキシ当量209~219g/eq)、「EOCN-104S」(エポキシ当量213~223g/eq)、「EPPN-501H」(エポキシ当量162~172g/eq)、「EPPN-501HY」(エポキシ当量163~175g/eq)、「EPPN-502H」(エポキシ当量158~178g/eq)、「EPPN-201」(エポキシ当量180~200g/eq)(以上商品名、日本化薬(株)製)、「TEP-G」(エポキシ当量160~180g/eq)(以上商品名、旭有機材(株)製)、「MA-DGIC(エポキシ当量140g/eq)」、「DA-MGIC」(エポキシ当量265g/eq)、「TG-G」(エポキシ当量92g/eq)(以上商品名、四国化成工業(株)製)、「TEPIC-VL」(エポキシ当量125~145g/eq)(商品名、日産化学工業(株)製)、「NANOPOX C620」(商品名、EVONIK製、エポキシ当量約220g/eq)、「アデカレジン EP-4088S」(商品名、(株)ADEKA製、エポキシ当量170g/eq)、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(エポキシ当量194g/eq)、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン。
下記式(21)で表されるエポキシ化合物の(メタ)アクリル酸付加物。式(21)中のR
6は前記式(7)~(10)のいずれか1つで表される基であり、n
Cはそれぞれ独立に0~10の整数である。
【化7】
【0043】
[光重合開始剤(D)]
本発明の組成物は、さらに、光重合開始剤(D)を含有していてもよい。
光重合開始剤は、本発明の組成物が含有するモノマー成分の重合を開始し得る、紫外線、可視光線、電磁波等の照射によってラジカルを発生する化合物であればよく、一般に用いられるものを使用できる。光重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4,4′-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、イソプロピルキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-エチルアントラキノン、アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-4′-イソプロピルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1′-(メチレン-ジ-4,1-フェニレン)ビス(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパノン)、カンファーキノン、ベンズアントロン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-(4-メチルベンジル)-2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1,4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4′-ジ(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4,4′-トリ(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2-(4′-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(3′,4′-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2′,4′-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2′-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4′-ペンチルオキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、4-[p-N,N-ジ(エトキシカルボニルメチル)]-2,6-ジ(トリクロロメチル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(2′-クロロフェニル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(4′-メトキシフェニル)-s-トリアジン、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズオキサゾール、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、3,3′-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、2-(o-クロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2-クロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラキス(4-エトキシカルボニルフェニル)-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4-ジブロモフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、3-(2-メチル-2-ジメチルアミノプロピオニル)カルバゾール、3,6-ビス(2-メチル-2-モルホリノプロピオニル)-9-n-ドデシルカルバゾール、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、3,3′,4,4′-テトラ(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′-テトラ(tert-ヘキシルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′-ジ(メトキシカルボニル)-4,4′-ジ(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4′-ジ(メトキシカルボニル)-4,3′-ジ(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4′-ジ(メトキシカルボニル)-3,3′-ジ(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどである。市販品として、例えば、BASF製、製品名:Irgacure379EG、Irgacure127、Irgacure184、IGMResinsB.V.製、製品名:Omnirad379EG、Omnirad127、Omnirad184などが挙げられる。これらの中でも、2-(4-メチルベンジル)-2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オンが好ましい。
【0044】
光重合開始剤(D)は、イオンマイグレーション耐性の良好な硬化物を形成する観点から、組成物100重量%に対し5~15重量%が好ましく、7~12重量%がより好ましい。光重合開始剤(D)は、一種の化合物であっても、二種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0045】
[インクジェット用組成物、活性エネルギー線硬化型インク組成物]
本発明の組成物をインクジェット用組成物として用いる場合、吐出性を良好にする観点から、25℃における粘度が1~100mPa・sであることが好ましく、3~70mPa・sであることがより好ましい。
【0046】
本発明は、本発明の組成物を含有するインクジェット用インク組成物、インクジェット用インク組成物を含有する活性エネルギー線硬化型インク組成物として、実施することもできる。ここで活性エネルギー線とは、活性種を発生する化合物を分解して活性種を発生させることのできるエネルギー線をいう。このような活性エネルギー線としては、可視光、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線、電子線などの光エネルギー線が挙げられる。
【0047】
本発明の組成物は、各種特性を向上させるために、難燃剤、フェノール性水酸基を含有する樹脂、メラミン樹脂、エポキシ化合物、オキセタン化合物、硬化剤、界面活性剤、着色剤、重合禁止剤および溶媒などのその他の成分を本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。
【0048】
[硬化物]
本発明の硬化物は、本発明の組成物を光硬化させることで得られる。
本発明の組成物をインクジェット用インクとして用いる場合、以下の工程1および2を含む方法により硬化物を製造することができる。
(工程1)インクジェット法により本発明の組成物を基板上に塗布して塗膜を形成する工程
(工程2)工程1で得られた塗膜に光を照射して塗膜を硬化し、基板上に硬化物を形成する工程
【0049】
前記インクジェット法としては、特に制限されず、公知のインクジェット法を用いることができる。前記基板は、本発明のインクが塗布される対象となり得るものであれば特に限定されず、その形状は平板状に限られず、曲面状等であってもよい。
【0050】
また、前記基板としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)などからなるポリエステル系樹脂基板;ポリエチレンおよびポリプロピレンなどからなるポリオレフィン樹脂基板;ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド、ポリカーボネートおよびポリイミドなどからなる有機高分子フィルム;セロハン;金属箔;ポリイミドと金属箔との積層フィルム;目止め効果があるグラシン紙、パーチメント紙、ポリエチレン、クレーバインダー、ポリビニルアルコール、でんぷんまたはカルボキシメチルセルロース(CMC)などで目止め処理した紙;シリコン基板;およびガラス基板を挙げることができる。
【0051】
インクジェット法を用いることにより、本発明のインクを予め定められたパターン状に容易に塗布することができ、均一なパターンを大きな基板上に形成することができる。
【0052】
インクジェット塗布装置で吐出する際の温度は、好ましくは10~120℃である。該温度における本発明のインクの粘度は1~30mPa・sであることが好ましく、2~25mPa・sであることがより好ましく、3~20mPa・sであることがさらに好ましい。
【0053】
25℃における粘度が30mPa・sを超えるインクを使用する場合は、インクジェットヘッドを加熱して吐出時のインクの粘度を下げることで、より安定した吐出が可能になる。インクジェットヘッドを加熱してジェッティングを行う場合は、加熱温度は40~120℃が好ましい。インクジェットヘッドを加熱する場合は、溶媒を含まないインクを用いることが好ましい。
【0054】
得られる塗膜の厚みは所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは1~20μmであり、より好ましくは5~15μmである。
【0055】
紫外線や可視光線等を照射する場合、照射する露光量は、本発明の組成物の組成に応じて適宜調節すればよいが、Opsytec社製UVモニター(「UV-Pad」、波長:UV-A(315-400nm))を用いて測定した場合、100~10,000mJ/cm2程度が好ましく、150~5000mJ/cm2程度がより好ましく、180~3000mJ/cm2程度がさらに好ましく、200~2000mJ/cm2程度が特に好ましい。また、照射する紫外線や可視光線等の波長は、200~500nmが好ましく、300~450nmがより好ましい。
【0056】
なお、光を照射する際には露光機を用いればよく、露光機としては、UV-LEDランプ、高圧水銀灯ランプ、超高圧水銀灯ランプ、メタルハライドランプ、ハロゲンランプ、またはブラックライトランプ等を搭載し、200~500nmの範囲で、紫外線や可視光線等を照射する装置であることが好ましい。
【0057】
また、必要に応じて、光の照射により硬化した硬化物をさらに加熱・焼成してもよい。通常80~250℃で10~60分間加熱・焼成することによって、より強固な硬化物を得ることができる。
【0058】
本発明の硬化物の厚みは所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは1~20μmであり、より好ましくは5~15μmである。
【0059】
本発明の硬化物は、信頼性の高い電子回路基板などを製造する等の観点から、DMS6000((株)日立ハイテクノロジーズ)を用いて測定したガラス転移温度が、好ましくは85℃以上であり、より好ましくは90~150℃である。電子回路基板の信頼性試験として、恒温恒湿一定環境下における電圧印加絶縁抵抗試験(以後、イオンマイグレーション耐性試験とする)が実施されることがある。イオンマイグレーション耐性試験では、特定の恒温恒湿一定環境下において、特定の時間だけ特定の電圧を印加し、その際の抵抗値の異常の有無を確認する。特に、85~130℃の高温での評価が行われることが多く、このため、信頼性の高い電子回路基板などを得るためには、硬化物のガラス転移温度が前記範囲にあることが望まれる。
【0060】
本発明の硬化物は、耐熱性、基板との密着性およびイオンマイグレーション耐性に優れる硬化物であるため、液晶表示素子またはEL表示素子などの表示素子や、プリント配線板、フレキシブル配線板、半導体パッケージ基板および太陽電池基板などの電子回路基板における保護膜、絶縁膜として好適に用いられる。さらに、本発明の硬化物は所定の回路パターンをなす金属配線、電極等の導体を保護するカバーレイフィルムやソルダーレジストなどに好適に用いられる。
【0061】
[電子部品]
本発明の電子部品は、前記本発明の硬化物を含み、前記工程1および工程2を含む方法で製造されることが好ましい。本発明の硬化物は耐熱性および基板との密着性、イオンマイグレーション耐性等に優れるため、本発明の電子部品は、電気特性および長期信頼性等に優れる電子部品となる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
実施例および比較例において、以下の成分を用いた。適宜、以下に示す略号を用いて、各成分を示す。
[単官能アクリルモノマー(A)]
FA-513AS;ジシクロペンタニルアクリレート、(商品名;ファンクリルFA-513AS、日立化成工業(株)、水酸基価0mgKOH/g、ホモポリマーのガラス転移点(Tg)120℃)
IB-XA;イソボルニルアクリレート(商品名;IB-XA;共栄社化学(株)、水酸基価0mgKOH/g、Tg97℃)
THFA;テトラヒドロフルフリルアクリレート(水酸基価0mgKOH/g、Tg-10℃)
FX-AO-MA;メチル2-アリロキシメチルアクリレート(商品名;FX-AO-MA、(株)日本触媒、水酸基価0mgKOH/g、Tg84℃)
FA-BZA;ベンジルアクリレート(水酸基価0mgKOH/g、Tg6℃)
【0064】
[多官能アクリルモノマー(B)]
IRR214-K;トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(水酸基価0mgKOH/g、Tg190℃)
M208;ビスフェノールF エチレンオキサイド変性(n≒2)ジアクリレート(水酸基価0mgKOH/g、Tg75℃)
【0065】
[水酸基価調整剤(C)]
OT-2503;アクリルオリゴマー(アロニックスOT-2503;商品名、東亜合成(株)、重量平均分子量1000、水酸基価172mgKOH/g、Tg94℃)
2官能モノマーA;ジシクロペンタニルジグリシジルエーテルアクリル酸付加物(重量平均分子量452.54、水酸基価247.98mgKOH/g)
3000A;ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物(エポキシエステル3000A、共栄社化学(株)、重量平均分子量484.55、水酸基価231.60mgKOH/g)
4HBA;4-ヒドロキシブチルアクリレート(水酸基価389mgKOH/g、Tg-32℃)
M305;ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレート(アロニックスM305;商品名、東亜合成(株)、重量平均分子量323、水酸基価116mgKOH/g、Tg107℃)
【0066】
[光重合開始剤(D)]
Irg379;2-(4-メチルベンジル)-2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン(IRGACURE379;商品名、BASFジャパン(株))
【0067】
[実施例1]
<光硬化性組成物の調製>
単官能アクリルモノマー(A)として、FA-513ASを35gおよびIB-XAを35gと、多官能(二官能)アクリルモノマー(B)として、IRR214-Kを20gと、水酸基価調整剤(C)として、OT-2503を10gと、光重合開始剤(D)として、Irg379を10gとを混合し、溶液を得た後、孔径0.2μmの超高分子量ポリエチレン(疎水性)製のメンブレンフィルター(日本インテグリス(株))でろ過し、ろ液(光硬化性組成物、「インクジェットインク1」として使用する)を得た。E型粘度計(東機産業(株)TV-22、以下同じ)を用い、25℃における光硬化性組成物の粘度を測定した結果、36.2mPa・sであった。
【0068】
<硬化物の形成>
インクジェットインク1をインクジェットカートリッジDMC-11610(FUJIFILM社製)に注入し、これをインクジェット装置(FUJIFILM社のDMP-2831)に装着し、吐出電圧(ピエゾ電圧)17~25V、ヘッド温度32~70℃、駆動周波数5kHz、塗布回数1回の吐出条件で、フレキシブル銅張積層板(コネクテックジャパン(株)製、以後Cu基板と呼ぶ)上に一辺が3cmの正方形のパターン、対向くし型電極パターン付基板(コネクテックジャパン(株)製)にくし型電極の重ね代を覆うパターンを描画した。
【0069】
パターンが形成されたCu基板、対向くし型電極パターン付基板に、UV-LEDランプ「ASM1503NM-UV-LED」(あすみ技研社製、ランプ波長:365nm)を用いて、波長365nmの紫外線を5000mJ/cm2のUV露光量(Opsytec社製UVモニター(「UV-Pad」)で測定、波長:UV-A(315-400nm))で照射することでパターンを光硬化し、クリーンオーブンDT-610(ヤマト科学(株)製)175℃で60分間加熱焼成することで、厚さ10μmの硬化物が形成されたCu基板(Cu基板1)、対向くし形電極パターン付き基板1を得た。
【0070】
硬化物の膜厚は、硬化物が形成されたCu基板1においてはCu上の硬化物の膜厚を、また、硬化物が形成された対向くし型電極パターン付基板1においては対向くし型電極上の硬化物の膜厚を、レーザー顕微鏡VK-X100((株)キーエンス製)で測定して求めた。
【0071】
<イオンマイグレーション耐性評価用試料(IMG試料)の作製>
硬化物を乗せた対向くし型電極パターン付基板1の所定の位置に、電磁波シールドフィルムSF-PC5900-C(タツタ電線(株)製)をホットプレス(3MPa×175℃×3分)して貼り合わせ、IMG試料1を作製した。
【0072】
<実施例2~14、比較例1~5>
実施例1の各成分を表1~表3に示す成分に変更し、実施例1と同様の方法により、インクジェットインク2~19を作製した。インク19を除くインク2~18について、IMG試料2~18およびCu基板2~18を作製した。
【0073】
<評価方法>
<インクジェットインクおよびパターン状硬化物の評価>
上記で得られたインクジェットインク1~19の吐出性および光硬化性、イオンマイグレーション耐性、ならびに硬化物の基板に対する密着性および耐熱性(ガラス転移温度)を評価した。
各試験方法および評価基準は以下のとおりであり、評価結果を表1~表3に示す。なお、表中の(A)、(B)、(C)および(D)成分の含有量を表す数値は、すべて重量%である。
【0074】
(イオンマイグレーション耐性試験)
上記で得られたIMG試料(1~18)について、イオンマイグレーション耐性を以下の方法により評価した。
得られたIMG試料とイオンマイグレーションテスターMIG-87(IMV(株)製)を配線にて接続し、小型環境試験機SH-641(エスペック(株)製)内に設置した後、85℃×85%の環境下、100Vの直流電圧を100時間印加した。
【0075】
(評価基準)
IMG試料4個または2個について上記試験を行い、100時間の印加終了時、抵抗値が1×106以上を示した試料をパスした試料とした。試験をパスした試料の個数によりイオンマイグレーション耐性を評価した。
X/4:IMG試料4個のうち、試験をパスしたものがX個
X/2:IMG試料2個のうち、試験をパスしたものがX個
【0076】
(インクの吐出性試験)
各実施例および比較例で得られたインク(1~19)の吐出性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
〇:連続した12以上のノズルの吐出が良好
△:連続した4~11のノズルの吐出が良好
×:連続した4以下のノズルの吐出が良好
【0077】
(濡れ性試験)
各実施例および比較例で得られたCu基板に形成されたパターンの乱れ、印刷のカスレを目視で観察して、インクの濡れ性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
〇:所定のパターンに印刷できており、印刷の筋が見えない
△:所定のパターンに印刷できているが、印刷の筋が見える
×:所定のパターンに印刷できていない部分がある
【0078】
(密着性:碁盤目剥離試験)
Cu基板(1~18)上に得られた硬化物を1mm×1mmの正方形(碁盤目)状にクロスカットして、切り目に囲まれた100個の領域を作製した。その領域の上から粘着性のある剥離用のテープを貼り付けて、剥がした時の剥がれた領域の数により評価を行った。その結果を下記評価基準にのっとり評価した。剥離用のテープは、Scotch#610(製品名、スリーエム社製)、402N/100mm(縦方向)を使用した。
(評価基準)
◎:100個の領域のうち1個も剥がれない
〇:欠損エリア(剥がれた領域)が5%以下
△:欠損エリアが5%を超えて50%以下
×:欠損エリアが51%を超える
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
表1~3に示すように、水酸基価調整剤(C)としてOT-2503、2官能モノマーAまたは3000Aを含有する組成物とすることにより、硬化物のイオンマイグレーション耐性(以下、適宜「IMG耐性」という)、濡れ性および密着性が向上した。この結果から、密着性およびIMG耐性に優れる硬化物の形成には、組成物の水酸基価を1~100mgKOH/gとすることが有効といえる。IMG耐性に組成物の水酸基価が影響することは、水酸基価調整剤(C)が多少界面活性作用を発現し、組成物の濡れ性を上げるため親水性と疎水性とのバランスを調整している可能性がある。
また、組成物の水酸基価が100mgKOH/gよりも高い比較例1は、IMG耐性が低かった。このことは、組成物の水酸基価が高すぎると、硬化物が取り込む水の量が多くなりすぎることが一因であること示すといえる。
【0083】
水酸基価調整剤(C)として、アクリルオリゴマーを用いることにより、IMG耐性の高い硬化物を安定的に形成することができた。アクリルオリゴマーを用いた場合、組成物中の含有量を1重量%以上とすることで、IMG耐性の高い硬化物が得られた。ただし、アクリルオリゴマーの含有量が大きくなると組成物の粘度が高くなることから、インクジェット用のインクとして用いる場合、水酸基価調整剤(C)を25重量%以下とすることが好ましいといえる。また、水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーを用いた場合も、アクリルオリゴマー同様、IMG耐性の高い硬化物を形成することができた。
【0084】
濡れ性、密着性が同等の硬化物でも、IMG耐性には違いが生じることが分かった。IMG耐性の良好な硬化物を得る観点から、縮合環式炭化水素基または多環式炭化水素基を有する単官能アクリルモノマー(A)および多官能アクリルモノマー(B)が好ましかった。この結果は、Cu等の無機物に対する硬化物の密着性が、シクロ環骨格によって向上したことによると考えられる。
【0085】
IMG耐性の良好な硬化物を得る観点から、単官能アクリルモノマー(A)は、ホモポリマーのガラス転移点(Tg)が90℃以上のものが好ましかった。また、同様の観点から、多官能アクリルモノマー(B)として二官能アクリルモノマーを用いる場合、組成物の8重量%以上配合することが好ましかった。この結果は、二官能アクリルモノマーの含有量を増やすことにより、硬化物の架橋密度が高くなったことによると考えられる。ただし、架橋密度が高くなりすぎると逆に硬化収縮も大きくなり、硬化物の密着性が低下する可能性があることから、二官能アクリルモノマーは組成物の50重量%以下とすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の光硬化性組成物は、シリコン基板、ガラス基板、ポリイミド基板やこれらの基板上に金属配線、電極などの導体が形成された基板との密着性およびイオンマイグレーション耐性に優れる硬化物の形成に利用することができる。