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7647879室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物及び物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物及び物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/06 20060101AFI20250311BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250311BHJP
【FI】
C09D183/06
C09D7/63
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023515430
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2022017673
(87)【国際公開番号】W WO2022224885
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2021072231
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆文
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204612(JP,A)
【文献】特開2008-144042(JP,A)
【文献】特開2001-348528(JP,A)
【文献】特開2020-007505(JP,A)
【文献】特開昭58-052350(JP,A)
【文献】特開2019-073670(JP,A)
【文献】特開2012-046694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00、101/00-201/14
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(D)成分
(A)R3SiO1/2単位(式中、Rは独立に非置換又は置換の炭素原子数1~6の1価炭化水素基又はヒドロキシ基を表す)及びSiO4/2単位を含み、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位のモル比が0.5~1.5であり、更にR2SiO2/2単位及びRSiO3/2単位(前記各式中、Rは前記のとおり)を、SiO4/2単位に対し、それぞれ0~1のモル比で含有していてもよく、かつケイ素原子に結合したヒドロキシ基(シラノール基)を0.005~0.15モル/100g有する、分子量が2,000~10,000である三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂:100質量部、
(B)1分子中に3個以上の加水分解性基を有する加水分解性(オルガノ)シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:(A)成分中のシラノール基に対する(B)成分のモル比が0.2~2となる量、
(C)分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサン:10~100質量部、
(D)有機チタン化合物のオリゴマーからなる水分硬化開始剤:0.1~5質量部
の混合物であって、JIS K 6249で規定されたタイプAデュロメータで測定された硬さが50以上である硬化物を与えるものである室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
【請求項2】
(A)成分のケイ素原子に結合したヒドロキシ基(シラノール基)含有量が0.11~0.15モル/100gである請求項1に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
【請求項3】
(D)成分がチタン酸エステル化合物のオリゴマー及び/又はチタンキレート化合物のオリゴマーである請求項1又は2に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
【請求項4】
(D)成分が、テトラ-n-プロポキシチタンのオリゴマー、テトライソプロポキシチタンのオリゴマー、テトラ-n-ブトキシチタンのオリゴマー、テトライソブトキシチタンのオリゴマー、テトラ-sec-ブトキシチタンのオリゴマー、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタンのオリゴマー、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコールのオリゴマー、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタンのオリゴマー又はジイソプロポキシビス(エチルアセトアセトナート)チタンのオリゴマーである請求項1又は2に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
【請求項5】
250℃環境下に5分間放置して気泡が発生しない硬化物を与えるものである請求項1又は2に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
【請求項6】
厚さ1mmの硬化物の光透過率が450~800nmの波長領域において70%以上である硬化物を与えるものである請求項1又は2に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
【請求項7】
電気・電子部品及び/又はその基板のコーティング用である請求項1又は2に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物の硬化物でコーティングされた物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、JIS K 6249で規定されたタイプAデュロメータで測定された硬さ(デュロA硬度)が50以上である高硬度の硬化物・コーティング膜を与える室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物に関するものであり、特に電気・電子部品及びその基板のコーティング剤(コンフォーマルコーティング剤)、液晶表示素子用シール剤等に好適な三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂を含有する室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物に関するものである。
特に、製造が簡便でかつコストが安く、高硬度のコーティング被膜を形成でき、かつ硬化したコーティング被膜が高透明で耐熱性に優れることを特徴とする脱アルコール型の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気中の湿気により室温(23℃±15℃)で架橋・硬化してシリコーンエラストマー(シリコーンゴム硬化物)を与えることができる室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物は、その取り扱いが容易な上、耐候性や電気特性に優れているため、建材用のシーリング材、電気・電子分野での接着剤など様々な分野で使用されている。特に電気・電子分野では、使用される被着体(樹脂系)に対する接着・コーティングの適正から、脱アルコールタイプのRTVシリコーンゴム組成物が使用される傾向にある。また、近年急速に需要が伸びてきている液晶周辺や電源回路基板のコーティング剤としても同様であり、脱アルコールタイプのRTVシリコーンゴム組成物が使用されている。しかし、このコーティング剤はその主目的である、電気・電子回路の絶縁、防湿といった性能を満足するが、回路パターンの細密化に伴う配線等の保護を目的としたコンフォーマルコーティング剤としての硬さ改善が不十分であった。これまで、回路パターンなどの保護や防湿を目的としたシリコーンゴムについては以下のような技術が開示されている。
【0003】
特開2004-143331号公報(特許文献1)には、透明性が高く、かつ高強度の硬化物・被膜を与える室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が開示されている。ただし、(CH33SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなり、(CH33SiO1/2単位/SiO4/2単位(モル比)=0.74、ケイ素原子に結合したヒドロキシ基含有量が1.62質量%であるオルガノポリシロキサンと両末端シラノール基封鎖ジメチルポリシロキサンを、アンモニア水により20℃で12時間縮合反応を行っているため、反応時間が長いことが問題である。また、加熱によるアンモニア除去工程を加えても、アンモニアの臭気が組成物中に残るため、実使用上問題となる場合がある。
【0004】
特開2002-327115号公報(特許文献2)には、防湿性に優れる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が開示されている。(CH33SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなり、(CH33SiO1/2単位/SiO4/2単位(モル比)=0.74と、分子鎖両末端がシラノール基であるオルガノポリシロキサンをトルエンに溶解させ樹脂状のコポリマーとし、加熱条件により室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を調製している。加熱工程のため、製造が簡便ではないことが問題である。
【0005】
特開2007-99955号公報(特許文献3)においても、高強度な硬化物、コーティング膜を与える室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法が開示されている。(CH33SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなり、(CH33SiO1/2単位/SiO4/2単位(モル比)=0.75、ケイ素原子に結合したヒドロキシ基含有量が1.1質量%であるオルガノポリシロキサンと両末端がシラノール基で封鎖されたジメチルポリシロキサンをテトラメチルグアニジンにより、室温で1時間縮合反応を行っている。上記特開2002-327115号公報(特許文献2)より製造時間が短縮されているが、極性の高いアミン化合物を使用しているため、オルガノシロキサン組成物に対する相溶性が悪く、またオルガノポリシロキサンと直接架橋しないため、組成物からアミン化合物が滲み出す問題がある。
【0006】
特許第6319168号公報(特許文献4)には、製造が簡便で、タクトタイムが短いことを特徴とする室温硬化性オルガノシロキサン組成物の製造方法が開示されており、R3SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなる三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂とケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上有するオルガノシラン化合物とをアミノ基含有オルガノシランを触媒として縮合反応させて予め三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂に加水分解性基を導入した後、該オルガノポリシロキサン樹脂を分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサンと触媒の存在下に縮合反応させて縮合反応生成物(シリコーンゴム硬化物)を製造する方法が開示されているが、この組成物は、脱アルコールタイプの場合、空気中の湿気により容易に加水分解するアルコキシチタン(単体)を縮合触媒として含有するため組成物自体が白化する可能性がある。また一般的なアルコキシチタン(単体)等の縮合触媒が配合された組成物では、長期保存中に黄変が生じる等の不具合がある。また、特許第6319168号公報(特許文献4)には、架橋剤としてビニルトリイソプロペノキシシラン及び縮合触媒としてテトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランを配合した脱アセトンタイプの室温硬化性組成物を製造する方法の開示もあるが、該シランは高価なことに加えて、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン等の縮合触媒が強塩基性を示すことから電気・電子部品及びその基板に使用されるフラックス成分と反応し、導電性の塩が生成されることで、電気的な性能の低下を招くおそれがある。更に、これらの組成物については、得られた硬化物の透明性が低く、また耐熱性が低い等の問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-143331号公報
【文献】特開2002-327115号公報
【文献】特開2007-99955号公報
【文献】特許第6319168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、電気・電子分野(特に液晶周辺や電源回路基板)のコーティング剤として、製造が簡便でかつコストが安く、三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂を含有する長期保存安定性に優れ、透明性及び耐熱性を兼ね備え、かつ高硬度の硬化物(コーティング被膜)を与える脱アルコール型の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物及び該組成物の硬化物でコーティングされた物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、主剤として(A)シラノール基を特定量有する特定分子量及び特定分子構造の三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂、架橋剤として(B)1分子中に3個以上の加水分解性基を有する加水分解性(オルガノ)シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、可撓性付与剤として(C)分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサン、及び硬化触媒として(D)有機チタン化合物のオリゴマーからなる水分硬化開始剤を特定量含有する室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物が、製造が簡便でかつコストが安く、更に、JIS K 6249で規定されたタイプAデュロメータで測定された硬さが50以上である高硬度の硬化物(コーティング被膜)を与え、かつ硬化したコーティング被膜が透明性及び耐熱性を兼ね備え、なおかつ長期に亘り保存しても変色がない(長期保存安定性に優れた)コンフォーマルコーティング材料として好適に適用できる室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物となることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は下記の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物及び該組成物の硬化物でコーティングされた物品を提供するものである。
[1]
下記(A)~(D)成分
(A)R3SiO1/2単位(式中、Rは独立に非置換又は置換の炭素原子数1~6の1価炭化水素基又はヒドロキシ基を表す)及びSiO4/2単位を含み、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位のモル比が0.5~1.5であり、更にR2SiO2/2単位及びRSiO3/2単位(前記各式中、Rは前記のとおり)を、SiO4/2単位に対し、それぞれ0~1のモル比で含有していてもよく、かつケイ素原子に結合したヒドロキシ基(シラノール基)を0.005~0.15モル/100g有する、分子量が2,000~10,000である三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂:100質量部、
(B)1分子中に3個以上の加水分解性基を有する加水分解性(オルガノ)シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:(A)成分中のシラノール基に対する(B)成分のモル比が0.2~2となる量、
(C)分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサン:10~100質量部、
(D)有機チタン化合物のオリゴマーからなる水分硬化開始剤:0.1~5質量部
の混合物であって、JIS K 6249で規定されたタイプAデュロメータで測定された硬さが50以上である硬化物を与えるものである室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
[2]
(A)成分のケイ素原子に結合したヒドロキシ基(シラノール基)含有量が0.11~0.15モル/100gである[1]に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
[3]
(D)成分がチタン酸エステル化合物のオリゴマー及び/又はチタンキレート化合物のオリゴマーである[1]又は[2]に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
[4]
(D)成分が、テトラ-n-プロポキシチタンのオリゴマー、テトライソプロポキシチタンのオリゴマー、テトラ-n-ブトキシチタンのオリゴマー、テトライソブトキシチタンのオリゴマー、テトラ-sec-ブトキシチタンのオリゴマー、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタンのオリゴマー、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコールのオリゴマー、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタンのオリゴマー又はジイソプロポキシビス(エチルアセトアセトナート)チタンのオリゴマーである[1]又は2]に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
[5]
250℃環境下に5分間放置して気泡が発生しない硬化物を与えるものである[1]又は2]に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
[6]
厚さ1mmの硬化物の光透過率が450~800nmの波長領域において70%以上である硬化物を与えるものである[1]又は2]に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
[7]
電気・電子部品及び/又はその基板のコーティング用である[1]又は2]に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物。
[8]
[1]又は2]に記載の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物の硬化物でコーティングされた物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製造が簡便でコストが安く、長期保存安定性に優れ、更に、JIS K 6249で規定されたタイプAデュロメータで測定された硬さが50以上である高硬度の硬化物(コーティング被膜)を与え、かつ透明性及び耐熱性を兼ね備えた硬化被膜を与える室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0013】
本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物は、下記(A)成分(主剤)、(B)成分(架橋剤)、(C)成分(可撓性付与剤)及び(D)成分(硬化触媒)を含有し、JIS K 6249で規定されたタイプAデュロメータで測定された硬さ(以下、デュロA硬度ということもある)が50以上である硬化物を与えるものである。
【0014】
[(A)成分]
まず、本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物において、主剤(ベースポリマー)として用いられる(A)成分は、R3SiO1/2単位(式中、Rは独立に非置換又は置換の炭素原子数1~6の1価炭化水素基又はヒドロキシ基を表す)及びSiO4/2単位を含み、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位のモル比が0.5~1.5であり、更にR2SiO2/2単位及びRSiO3/2単位(前記各式中、Rは前記のとおり)を、SiO4/2単位に対し、それぞれ0~1のモル比で含有していてもよく、かつケイ素原子に結合したヒドロキシ基(シラノール基)を0.005~0.15モル/100g有する、分子量が2,000~10,000である三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂である。
【0015】
前記Rは、非置換又は置換の炭素原子数1~6の1価炭化水素基又はヒドロキシ基を示し、Rの1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基が挙げられ、またこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子等で置換したクロロメチル基等が挙げられる。これらRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基が好ましく、メチル基、フェニル基が特に好ましい。
【0016】
(A)成分において、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位のモル比は0.5~1.5の範囲であり、好ましくは0.6~1.3、特に好ましくは0.65~1.2である。このモル比が0.5より小さいと硬化物の補強性が不十分となり、1.5を超えると硬化物の硬度が不十分となる。
【0017】
(A)成分の三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂としては、R3SiO1/2単位とSiO4/2単位のみからなることが好ましいが、SiO4/2単位に対するR2SiO2/2単位のモル比、SiO4/2単位に対するRSiO3/2単位のモル比がいずれも0~1の範囲で含有してもよく、より望ましくは該モル比がそれぞれ0.8以下(0~0.8)である。
【0018】
また、該(A)成分の三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂に含まれるシラノール基が0.005~0.15モル/100g(即ち、ケイ素原子に結合したヒドロキシ基のOH量換算で0.085~2.5質量%)であることが必要で、好ましくは0.01~0.13モル/100g(0.17~2.2質量%)であり、より好ましくは0.02~0.12モル/100g(0.3~2.0質量%)である。シラノール基が0.15モル/100gより多く存在すると、ゴム物性(特に硬度)が高値となり組成物のクラック発生が起こり得る。また、シラノール基が0.005モル/100gより少ないと(A)成分と(C)成分との縮合反応が十分進行しない場合があり、目的とする特性が得られない可能性がある。
【0019】
(A)成分の三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂としては、分子量が2,000~10,000、好ましくは2,500~8,000程度のものであり、分子量が小さすぎるとオルガノポリシロキサン組成物を硬化させて得られる硬化物(シリコーンゴム硬化物)がゴム弾性に乏しく割れやすくなり、分子量が大きすぎると均一なオルガノポリシロキサン組成物を調製することが困難となる。この分子量(又は重合度)は、通常、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)等を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均分子量(又は数平均重合度)等として求めることができる。
【0020】
(A)成分の三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂は、1個の加水分解性基を有する1官能性トリオルガノシランを、4個の加水分解性基を有する4官能性シランと共に、あるいは更に3個の加水分解性基を有する3官能性シラン及び/又は2個の加水分解性基を有する2官能性シランと共に、有機溶媒中で共加水分解して縮合させることによって得られ、実質的に揮発成分を含まないもの(共重合体)であり、公知の材料である。
【0021】
ここで、共加水分解反応に用いられる有機溶媒としては、(A)成分であるオルガノポリシロキサン樹脂を溶解させることが必要であり、典型的な有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、シクロヘキサンやエチルシクロヘキサン、イソパラフィン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0022】
[(B)成分]
(B)成分は、上記(A)成分と後述する(C)成分を架橋させる架橋剤(硬化剤)として機能する、1分子中に3個以上の加水分解性基を有する加水分解性(オルガノ)シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物(該シラン化合物を部分的に加水分解・縮合して生成する分子中に残存加水分解性基を3個以上有するシロキサンオリゴマー)であり、該(オルガノ)シラン化合物として、好ましくは下記一般式(1)~(6)で示される、モノシラン型化合物及びモノシラン同士がアルキレン基又はアルケニレン基で連結したジシラン型化合物、トリシラン型化合物が挙げられる。
【0023】
1Si(OR23 (1)
Si(OR24 (2)
1(OR22Si-X-Si(OR221 (3)
(OR23Si-X-Si(OR23 (4)
1(OR22Si-X-SiR1 2-X-Si(OR221 (5)
(OR23Si-X-SiR1 2-X-Si(OR23 (6)
【0024】
上記式中、R1はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、デシル基等のアルキル基;ビニル基(エテニル)、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基等の炭素原子数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基を示し、これらの中でも、アルケニル基等の脂肪族不飽和炭化水素基を除くものであることが好ましく、メチル基、エチル基等のアルキル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0025】
加水分解性基(OR2)としては例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基等の炭素原子数1~4、特に炭素原子数1又は2のアルコキシ基;メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基等の炭素原子数2~4のアルコキシアルコキシ基;ジメチルケトオキシム基、エチルメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基等の炭素原子数3~7のケトオキシム基;ビニロキシ基、プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、1-エチル-2-メチルビニルオキシ基等の炭素原子数2~6のアルケニルオキシ基;アセトキシ基、オクタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素原子数2~8のアシロキシ基;ジメチルアミノキシ基、ジエチルアミノキシ基等の炭素原子数2~6のジアルキルアミノキシ基等が挙げられ、アルコキシ基、イソプロペノキシ基が好ましく、アルコキシ基が特に好ましい。
【0026】
Xはエチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基等の炭素原子数2~6のアルキレン基;ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基等の炭素原子数2~4のアルケニレン基である。
【0027】
(B)成分の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ビス[2-(ジメトキシ(メチル)シリル)エテニル]ジメチルシラン、ビス[2-(ジエトキシ(メチル)シリル)エテニル]ジメチルシラン等のテトラアルコキシシラン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、ビス[2-(トリメトキシシリル)エテニル]ジメチルシラン、ビス[2-(トリエトキシシリル)エテニル]ジメチルシラン等のヘキサアルコキシシラン;メチルトリイソプロペノキシシラン、エチルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシラン等のイソプロペノキシ基含有シラン;メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のアセトキシシランなど、及びそれらの部分加水分解縮合物が挙げられる。
【0028】
また、(B)成分の加水分解性(オルガノ)シラン化合物として、下記一般式(7)で示される、ケイ素原子に結合する置換基として、α位にR4O-で示されるオルガノオキシ基(例えば、アルコキシ基等)を有するメチレン基(例えば、アルコキシメチル基等のオルガノオキシメチル基)を有する加水分解性オルガノシラン化合物も挙げることができる。
【0029】
【化1】
(式中、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~8、より好ましくは炭素原子数1~4の1価炭化水素基であり、R4は非置換又は置換の炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~8、より好ましくは炭素原子数1~4の1価炭化水素基であり、Yは加水分解性基であり、mは0又は1である。)
【0030】
ここで、上記式(7)において、R3で表される非置換又は置換の炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~8、より好ましくは炭素原子数1~4の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基等を例示することができる。これらの中でも、アルケニル基等の脂肪族不飽和炭化水素基を除くものであることが好ましく、メチル基、エチル基等のアルキル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0031】
次に、上記式(7)において、R4で表される非置換又は置換の炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~8、より好ましくは炭素原子数1~4の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基などや、これらの基の水素原子の一部が、メトキシ基、エトキシ基等の低級アルコキシ基で置換されたアルキル基、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等を例示することができる。これらの中でも、メチル基、エチル基等の炭素原子数1~4の低級アルキル基が好ましい。
【0032】
また、上記式(7)において、Yは加水分解性基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基等の炭素原子数1~4のアルコキシ基;メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基等の炭素原子数2~4のアルコキシアルコキシ基;アセトキシ基、オクタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素原子数2~8のアシロキシ基;ビニロキシ基、プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、1-エチル-2-メチルビニルオキシ基等の炭素原子数2~6のアルケニルオキシ基;ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基等の炭素原子数3~7のケトオキシム基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基等の炭素原子数2~6のアミノ基;ジメチルアミノキシ基、ジエチルアミノキシ基等の炭素原子数2~6のアミノキシ基;N-メチルアセトアミド基、N-エチルアセトアミド基、N-メチルベンズアミド基等の炭素原子数3~8のアミド基等が挙げられる。これらの中でも、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。
mは0又は1であり、好ましくは0である。
【0033】
上記式(7)で表される、分子中にケイ素原子に結合したアルコキシメチル基等のオルガノオキシメチル基を含有する加水分解性オルガノシラン化合物、及びその部分加水分解縮合物の具体例としては、メトキシメチルトリメトキシシラン、エトキシメチルトリエトキシシラン、メトキシメチル(メチル)ジメトキシシラン、エトキシメチル(メチル)ジエトキシシラン、メトキシメチル(エチル)ジメトキシシラン、エトキシメチル(エチル)ジエトキシシラン、メトキシメチル(ヘキシル)ジメトキシシラン、エトキシメチル(ヘキシル)ジエトキシシラン、メトキシメチル(オクチル)ジメトキシシラン、エトキシメチル(オクチル)ジエトキシシラン、メトキシメチル(フェニル)ジメトキシシラン、エトキシメチル(フェニル)ジエトキシシラン、及びそれらの部分加水分解縮合物などが挙げられる。
【0034】
なお、例えば、上記具体例のメトキシメチルトリメトキシシラン、エトキシメチルトリエトキシシランの構造式を示せば、以下のとおりである。これらの中では、エトキシメチルトリエトキシシランが特に好ましい。
【化2】
【0035】
本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物において、(B)成分の1分子中に3個以上の加水分解性基を有する加水分解性(オルガノ)シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物は、(A)成分と後述する(C)成分を結合せしめる架橋剤(硬化剤)として作用するものであって、(B)成分の配合量は(A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.2~2となる量であり、0.4~2となる量が特に好ましい。(B)成分が少なすぎると該組成物を硬化しても十分なゴム物性が得られない、あるいは保存安定性が悪くなる場合があり、多すぎると速硬化性を損なう、又は経済的に不利である。
【0036】
また、(B)成分の配合量は(A)成分と(C)成分中のシラノール基量の和に対して(B)成分のモル比が0.3~1となる量であることが好ましく、0.4~1.0となる量がより好ましい。(A)成分と(C)成分中のシラノール基量の和に対する(B)成分のモル比が0.3未満の場合には良好な保存安定性が得られず、1を超えると硬化時間が長くなることに加えてコスト的にも不利となる。
【0037】
なお、(B)成分の加水分解性(オルガノ)シラン化合物は、分子中に窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を有する官能性基(但し、オルガノオキシ基を除く)で置換された1価炭化水素基を有さないものである点において、後述する任意成分としてのシランカップリング剤とは明確に区別されるものである。
【0038】
[(C)成分]
(C)成分は、前記(A)成分、(B)成分と混合しこれらの成分と縮合反応することにより、三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂同士を連結させるための必要な成分である。(C)成分の添加により、本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物の硬化物(硬化被膜)に可撓性を付与することが可能となる。具体的には、(C)成分は分子鎖両末端がシラノール基(又はヒドロキシジオルガノシロキシ基)で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサンであり、下記一般式(8)で示されるものが好ましい。
【化3】
(式中、R5は独立に炭素原子数1~10の非置換又はアルコキシ置換1価炭化水素基であり、nは10以上の整数である。)
【0039】
上記式(8)において、R5の炭素原子数1~10の非置換又はアルコキシ置換1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基、あるいはこれらの水素原子の一部又は全部をアルコキシ基で置換した、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等のアルコキシ置換アルキル基などのアルコキシ置換1価炭化水素基を挙げることができる。これらの中でもメチル基が好ましい。
【0040】
(C)成分の粘度は、23℃で10,000mPa・s以下(通常、30~10,000mPa・s)、好ましくは50~8,000mPa・s、特に好ましくは100~6,000mPa・s程度の粘度を示す流体(液状物)であることが好ましく、通常、上記式(8)における繰り返し単位数n(重合度)の値が約10~1,000、好ましくは30~500、より好ましくは50~400程度に相当するものである。なお、粘度は、通常、回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等)により測定することができる(以下、同じ)。
【0041】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して10~100質量部であり、10~80質量部が好ましい。(C)成分が少なすぎると該組成物は硬化するものの高硬度になりすぎてしまい良好なゴム特性が得られない。多すぎると(A)成分と均一に混ざり合わない可能性がある。
【0042】
[(D)成分]
(D)成分は、有機チタン化合物のオリゴマー(有機チタン化合物の低重合度の重(縮)合物)からなる水分硬化開始剤であり、本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物を室温(23℃±15℃)において、大気中の湿気(水分)によって湿気硬化を促進させる触媒として機能する成分であり、有機チタン化合物のオリゴマーとして1種を単独で使用しても2種以上の混合物として使用してもよい。
【0043】
ここで、(D)成分は、チタン酸エステル化合物のオリゴマー及び/又はチタンキレート化合物のオリゴマーであることが好ましい。
(D)成分の具体例としては、テトラ-n-プロポキシチタンのオリゴマー、テトライソプロポキシチタンのオリゴマー、テトラ-n-ブトキシチタン(別名:テトラ-n-ブチルチタネート)のオリゴマー、テトライソブトキシチタンのオリゴマー、テトラ-sec-ブトキシチタンのオリゴマー、テトラ-tert-ブトキシチタンのオリゴマー、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタンのオリゴマー、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコールのオリゴマー等のチタン酸エステル化合物のオリゴマー、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタンのオリゴマー、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセトナート)チタンのオリゴマー等のチタンキレート化合物のオリゴマーなどの、有機チタン化合物のオリゴマーが挙げられる。これらの中では、環境及び人体毒性の観点及び本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物の長期間に亘る耐着色性の観点から、テトラ-n-ブトキシチタンのオリゴマー、テトラ-tert-ブトキシチタンのオリゴマー等のチタン酸ブチルエステル化合物のオリゴマーが特に好ましい。チタン酸ブチルエステル化合物のオリゴマーとしては、例えばTyzor BTP(Dorf Ketal社製)などが適用できる。
【0044】
有機チタン化合物のオリゴマーは、上記チタン酸エステルやチタンキレート化合物が縮合した構造を有するものであり、これらの有機チタン化合物の2~50量体であることが好ましく、2~20量体であることがより好ましい。
なお、このような有機チタン化合物のオリゴマーは、該有機チタン化合物をアルコール溶液中で水を反応させて縮合させることにより得られるものである。
【0045】
(D)成分は、(A)成分100質量部に対して0.1~5質量部、好ましくは0.1~4質量部、特に好ましくは0.5~3質量部である。0.1質量部未満では、十分な架橋性が得られず、目的とする硬化物とならない。5質量部を超えると、価格的に不利になる場合や硬化速度が低下するなどの欠点がある。
【0046】
[その他の成分]
また、本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物には、上記成分以外に、必要に応じて充填剤や各種の添加剤などを本発明の目的を損なわない範囲で配合しても差し支えない。充填剤としては、粉砕シリカ、煙霧状シリカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、アルミナ、酸化マグネシウム、湿式シリカなどが挙げられる。添加剤としては、公知の添加剤、例えば、ウェッターやチキソトロピー向上剤としてのポリエーテル、可塑剤、非反応性ジメチルシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0047】
更に、必要に応じて、顔料、染料等の着色剤、蛍光増白剤、防かび剤、抗菌剤、ブリードオイルとしての非反応性フェニルシリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、シリコーンと非相溶の有機液体等の表面改質剤も添加してよい。
【0048】
また接着性を付与するためのシランカップリング剤((B)成分以外の、分子中に窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を有する官能性基で置換された1価炭化水素基を有する官能性基含有加水分解性オルガノシラン化合物、いわゆるカーボンファンクショナルシラン化合物)を配合してもよい。その成分としては、加水分解性基としてアルコキシシリル基又はアルケノキシシリル基を有するシラン化合物が挙げられ、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(N-アミノメチルベンジルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N,N’-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリイソプロペノキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン、(メタ)アクリルシランとアミノシランの反応物、エポキシシランとアミノシランの反応物等、アミノシランとハロゲン化アルキル基含有シランとの反応物などが例示される。特にはアミノ基を分子内に少なくとも1つ含むシランカップリング剤の使用が好ましい。
【0049】
シランカップリング剤を配合する場合、その配合量は、(A)成分100質量部当たり0.1~20質量部、好ましくは0.1~10質量部、特に好ましくは0.1~5質量部である。0.1質量部未満では十分な接着性が得られず、20質量部を超えると価格的に不利となるばかりか良好な硬化性が発現しない可能性がある。
【0050】
本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物は、常法に従い上記各成分を混合することによって製造し、湿分を避けた雰囲気で保存することができ、これを室温(23℃±15℃)に放置することにより、空気中の水分存在下で通常5分~1週間で硬化する。
なお、(A)成分としては、上記三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂を所定の有機溶剤(例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、シクロヘキサンやエチルシクロヘキサン、イソパラフィン等の炭化水素系溶媒)を用いて、固形分が40~70質量%の溶液として配合することが好ましい。
【0051】
なお、本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物の粘度は、23℃で10~5,000mPa・s、特に20~3,000mPa・sであることが好ましい。
【0052】
本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物は、特に、製造が簡便でかつコストが安く、高硬度のコーティング被膜を形成でき、かつ硬化したコーティング被膜が高透明で耐熱性に優れると共に長期に亘り変色性がないことを特徴とするものである。
【0053】
本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物は、上記のように規定された(A)~(D)成分を含有し、JIS K 6249で規定されたタイプAデュロメータで測定された硬さが50以上、好ましくは50~90である硬化物を与えることを特徴とするものである。得られる硬化物のデュロA硬度が50未満では、回路パターンの細密化に伴う配線等の保護を目的としたコンフォーマルコーティング剤として不適である。また、本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物においてデュロA硬度が50以上である硬化物とするためには、上述した(A)~(D)成分を上述した特定の配合比率で配合した組成物を、常法に従って、室温下大気中の湿気等により縮合硬化させることによって(例えば、23℃/50%RHの環境下にて厚さが3mmになるように7日放置する等の操作によって)達成することができる。
【0054】
また、本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物の硬化物は、250℃環境下に5分間放置して気泡が発生しないものであることが好ましく、厚さ1mmの硬化物の光透過率が450~800nmの波長領域において70%以上であるものであることが好ましい。これらの硬化物とするためには、いずれも、上述した(A)~(D)成分を上述した特定の配合比率で配合した組成物を、常法に従って、室温下大気中の湿気等により縮合硬化させることによって(例えば、23℃/50%RHの環境下にて厚さが3mmになるように7日放置する等の操作によって)達成することができる。
なお、上記特定の波長領域における光透過率は、通常、分光光度計により測定することができる。
【0055】
更に、本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物は、湿気を遮断した密閉状態のまま室温(23℃±15℃)で長期(例えば、4ヶ月程度)保管しても該組成物が色変化することのない長期保存安定性に優れていることが好ましい。
【0056】
このような本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物は、コンフォーマルコーティング材料として好適であり、特に電気・電子部品及び/又はその基板のコーティング剤、液晶表示素子用シール剤等に好適である。
また、本発明によれば、本発明の室温硬化性シリコーンコーティング剤組成物の硬化物でコーティングされた物品を提供することができる。
本発明を適用する物品としては、例えば、液晶周辺や電源回路基板、撥水コートされた車載用基材などが挙げられる。
【実施例
【0057】
以下、本発明を具体的に説明する実施例及び比較例を示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記の例において、Meはメチル基であり、粘度は23℃における回転粘度計による測定値であり、分子量はトルエンを展開溶媒としたGPC分析におけるポリスチレン換算の数平均分子量を示す。
【0058】
[実施例1]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500で、かつシラノール基含有量が0.11モル/100g(1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparE(Exxon Mobil社製、沸点115~140℃、以下同じ)で溶解させた三次元網状メチルポリシロキサン樹脂92質量部、(B)成分としてテトラエトキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.79となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシジメチルシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサン35質量部、(D)成分としてテトラ-n-ブトキシチタンのオリゴマー Tyzor BTP(Dorf Ketal社製)1質量部、及びγ-アミノプロピルトリエトキシシラン1.6質量部を室温(23℃)で30分混合して組成物1を得た。
【0059】
[実施例2]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500で、かつシラノール基含有量が0.11モル/100g(1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた三次元網状メチルポリシロキサン樹脂92質量部、(B)成分としてテトラエトキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.79となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシジメチルシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサン35質量部、(D)成分としてテトラ-n-ブトキシチタンのオリゴマー Tyzor BTP(Dorf Ketal社製)1質量部、及びγ-アミノプロピルトリエトキシシラン0.8質量部を室温(23℃)で30分混合して組成物2を得た。
【0060】
[実施例3]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500で、かつシラノール基含有量が0.11モル/100g(1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた三次元網状メチルポリシロキサン樹脂92質量部、(B)成分としてメチルトリメトキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が1.21となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシジメチルシリル基で封鎖され、23℃における粘度が700mPa・sであり、重合度が約270であるジメチルポリシロキサン40質量部、及び(D)成分としてテトラ-n-ブトキシチタンのオリゴマー Tyzor BTP(Dorf Ketal社製)1質量部を室温(23℃)で30分混合して組成物3を得た。
【0061】
[実施例4]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500で、かつシラノール基含有量が0.11モル/100g(1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた三次元網状メチルポリシロキサン樹脂92質量部、(B)成分として(エトキシメチル)トリエトキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.74となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシジメチルシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサン35質量部、(D)成分としてテトラ-n-ブトキシチタンのオリゴマー Tyzor BTP(Dorf Ketal社製)1質量部、及びγ-アミノプロピルトリエトキシシラン1質量部を室温(23℃)で30分混合して組成物4を得た。
【0062】
[比較例1]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500で、かつシラノール基含有量が0.11モル/100g(1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた三次元網状メチルポリシロキサン樹脂92質量部、(B)成分としてテトラエトキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.79となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシジメチルシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサン35質量部、テトラ-n-ブチルチタネート(単体)1質量部、及びγ-アミノプロピルトリエトキシシラン1.6質量部を室温(23℃)で30分混合して組成物5を得た。
【0063】
[比較例2]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500で、かつシラノール基含有量が0.11モル/100g(1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた三次元網状メチルポリシロキサン樹脂92質量部、(B)成分としてテトラエトキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.79となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシジメチルシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサン35質量部、テトラ-n-オクチルチタネート(単体)1質量部、及びγ-アミノプロピルトリエトキシシラン1.6質量部を室温(23℃)で30分混合して組成物6を得た。
【0064】
[比較例3]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500で、かつシラノール基含有量が0.11モル/100g(1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた三次元網状メチルポリシロキサン樹脂92質量部、(B)成分としてテトラエトキシシラン10質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.79となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシジメチルシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサン35質量部、及びγ-アミノプロピルトリエトキシシラン1.6質量部を室温(23℃)で30分混合して組成物7を得た。
【0065】
[比較例4]
(A)成分としてMe3SiO1/2単位、及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.68であり、分子量が約3,500で、かつシラノール基含有量が0.11モル/100g(1.87質量%)であり、固形分が60質量%になるようにIsoparEで溶解させた三次元網状メチルポリシロキサン樹脂92質量部、(B)成分として(エトキシメチル)トリエトキシシラン8質量部((A)成分中のシラノール基に対して(B)成分のモル比が0.74となる量)、(C)成分として分子鎖両末端がヒドロキシジメチルシリル基で封鎖され、23℃における粘度が5,000mPa・sであり、重合度が約389であるジメチルポリシロキサン30質量部、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン0.8質量部、及びγ-(N,N’-ジメチルグアニジル)プロピルトリメトキシシラン0.1質量部を室温(23℃)で30分混合して組成物8を得た。
【0066】
調製した組成物1~8を用いて、以下の特性を確認した。
【0067】
・外観、粘度及び初期硬化性
調製した組成物1~8について、外観を目視にて確認し、23℃/50%RH環境下での粘度を測定した。また、調製した組成物1~8を、23℃/50%RH環境下にて厚さが3mmになるように7日放置して硬化させ、JIS K 6249で規定されたタイプAデュロメータで硬さ(デュロA硬度)を測定した。
【0068】
・耐熱性
調製した組成物1~8を、50mm×50mm×厚さ5mmのアルミニウム板の上に23℃/50%RH環境下にて厚さが5mmになるように7日放置して硬化させた。次いで、硬化した組成物1~8の試験体を250℃のオーブンに5分間放置し、硬化したゴムの気泡発生有無を確認した。判定は以下のとおりとする。
(判定基準)
○:試験体中に気泡が確認されない(耐熱性良好)
×:試験体中に気泡が発生した(耐熱性不良)
【0069】
・光透過率
調製した組成物1~8を23℃/50%RH環境下にて厚さが1mmになるように7日放置して硬化させた後、日立ハイテクサイエンス製 分光光度計U-3310にて、この硬化物の厚み方向における波長450nm、600nm、800nmでの光透過率(%)を測定した。
【0070】
・長期保存安定性
調製した組成物1~8を密閉可能な透明なビンに入れ、密閉状態で23℃/50%RH環境下で4ヶ月放置し、組成物の色変化を確認した。
以上の結果を下表に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
以上の結果、実施例1~4(組成物1~4)ではデュロA硬度が50以上の良好な硬化物が得られ、耐熱性も良好であり、波長450nm、600nm、800nmにおける光透過率もいずれも70%以上であり、長期保存においても色変化はみられず安定であった。
これに対して、比較例1、2(組成物5、6)では良好な硬化物が得られ、耐熱性も良好であったが、長期保存中に黄変が確認された。また、比較例3(組成物7)では、23℃/50%RH環境下に放置しても硬化物が得られず、硬度、耐熱性、光透過率の測定は不可であった。比較例4(組成物8)では、(B)成分として速硬化性に優れる(エトキシメチル)トリエトキシシランを配合することで、(D)成分を配合しなくても、あるいは(D)成分に代えて塩基性の縮合触媒を配合しても、硬化物は得られるが、耐熱性の評価において硬化物に多数の気泡が発生したため、耐熱性は乏しい結果となった。