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特許7647992ピンディスプレイ装置、ピンディスプレイシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】ピンディスプレイ装置、ピンディスプレイシステム
(51)【国際特許分類】
   G09F 9/37 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
G09F9/37
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024500898
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2022006910
(87)【国際公開番号】W WO2023157287
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2024-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】安 謙太郎
【審査官】川俣 郁子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-149005(JP,A)
【文献】特開2019-74556(JP,A)
【文献】特開2005-266357(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0161948(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0277292(US,A1)
【文献】米国特許第6109922(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0040625(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0038656(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F9/00-9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と複数個のピンを備えるピンディスプレイ装置であって、
重力が少なくとも働く方向をz方向の負方向として、前記筐体の下面を磁性シートの一方の面である上面に接触または近接させてピンディスプレイシステムとして用いるためのものであって、
前記筐体は、z方向と垂直な平面である前記筐体の前記下面と、前記筐体の前記下面に対してz方向の正方向にある前記筐体の上面と、前記ピンと同数のピン挿入穴を備え、
前記各ピン挿入穴は、前記筐体の前記上面から前記ピンが挿入される穴であり、
前記ピンと同数のピン挿入穴は、z方向と垂直な面における位置が互いに異なり、
前記筐体の素材は、磁力線を遮断も低減もせず、磁力線の経路を制御せず、磁力線を発生しない素材であり、
前記各ピンは、ポット磁石が容器の開口部を外側に向けて一方の端に備えられたものであり、前記ポット磁石が備えられた端がz方向の負方向に向けられて前記ピン挿入穴に挿入されるものであり、
前記各ポット磁石は、当該ポット磁石が備えられた前記ピンが前記ピン挿入穴に挿入されている状態において、当該ポット磁石と前記磁性シートの前記上面との間に発生する磁力による反発力により、当該ポット磁石が備えられた前記ピンをz方向の正方向に移動可能な磁場を放出するものであり、
隣接する前記ピン挿入穴の間隔は、当該隣接する前記ピン挿入穴に挿入される前記ピンの前記ポット磁石の間で発生する磁力が前記ピンの動きに影響しない最短距離以上であり、
前記ピン挿入穴の底と前記筐体の前記下面の間には、z方向の長さが、前記ポット磁石と同じ磁場を放出するポット磁石が放出する磁場によって前記磁性シートと同種の磁性シートの書き換えが生じない最短距離以上である間隙が設けられている
ことを特徴とするピンディスプレイ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のピンディスプレイ装置であって、
前記筐体の前記上面は、前記筐体の前記下面の互いに異なるJ個(Jは2以上の整数)の部分領域をz方向の正方向に互いに異なる距離だけ移動させたものに対応するJ個の平面であり、
前記筐体の前記上面であるJ個の前記平面は、前記筐体の前記下面からの距離が順に大きくなるように配置されており、
複数個の前記ピン挿入穴は、J個の前記平面それぞれから、少なくとも1つの前記ピンが挿入されるように配置されている
ことを特徴とするピンディスプレイ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のピンディスプレイ装置と、一方の面を前記ピンディスプレイ装置の前記筐体の前記下面と接触または近接させて用いる磁性シートと、を含むピンディスプレイシステムであって、
前記磁性シートの前記上面のうちの、z方向の正方向に移動させるピンの前記ポット磁石に対向する部分には、
当該ポット磁石の前記容器の前記開口部から露出している永久磁石の極と同じ極の第1の部分と、
前記第1の部分を囲む部分であり、当該ポット磁石の前記容器の前記開口部から露出している前記永久磁石の極と逆の極の第2の部分と、
による磁気パタンが着磁されており、
前記磁性シートの前記上面のうちの、z方向の正方向に移動させないピンの前記ポット磁石の極に対向する部分には、
当該ポット磁石の前記容器の前記開口部から露出している前記永久磁石の極と同じ極の第3の部分と、
前記第3の部分を囲む部分であり、当該ポット磁石の前記容器の前記開口部から露出している前記永久磁石の極と逆の極の第4の部分と、
による磁気パタンではない磁気パタンが着磁されている
ことを特徴とするピンディスプレイシステム。
【請求項4】
請求項1または2に記載のピンディスプレイ装置と、一方の面が前記ピンディスプレイ装置の前記筐体の前記下面と接触または近接させて用いる磁性シートと、を含むピンディスプレイシステムであって、
前記磁性シートの前記上面のうちの、z方向の正方向に移動させる複数個のピンの前記ポット磁石それぞれに対向する部分には、
当該ポット磁石の前記容器の前記開口部から露出している永久磁石の極と同じ極の第1の部分と、
前記第1の部分を囲み、当該ポット磁石の前記容器の前記開口部から露出している前記永久磁石の極と逆の極の第2の部分と、
による磁気パタンが着磁されており、
z方向の正方向に移動させる複数個の前記ピンのうちのz方向の正方向への移動量を第1の移動量とするピンの前記ポット磁石に対向する部分に着磁されている磁気パタンと、
z方向の正方向に移動させる複数個の前記ピンのうちのz方向の正方向への移動量を第1の移動量とは異なる第2の移動量とする前記ピンの前記ポット磁石に対向する部分に着磁されている磁気パタンと、が異なる
ことを特徴とするピンディスプレイシステム。
【請求項5】
請求項1または2に記載のピンディスプレイ装置と、一方の面が前記ピンディスプレイ装置の前記筐体の前記下面と接触または近接させて配置された磁性シートと、を含むピンディスプレイシステムであって、
前記磁性シートの前記上面は、前記ピンディスプレイ装置の前記筐体の前記下面より面積が大きく、
前記磁性シートの前記上面には、S極とN極によるテクスチャが予め着磁されており、
前記ピンディスプレイ装置の前記筐体の前記下面と前記磁性シートの前記上面とを接触または近接させた状態で、前記ピンディスプレイ装置と前記磁性シートの相対位置を、z方向に垂直な方向に変化可能とされている
ことを特徴とするピンディスプレイシステム。
【請求項6】
請求項1または2に記載のピンディスプレイ装置と、複数枚(K枚、Kは2以上の整数)の磁性シートと、を含むピンディスプレイシステムであって、
K枚の前記磁性シートそれぞれの一方の面には、S極とN極によるテクスチャが着磁されており、
K枚の前記磁性シートの何れか1枚が選択可能とされており、
K枚の前記磁性シートから選択された1枚の磁性シートの前記テクスチャが着磁された面が、前記ピンディスプレイ装置の前記筐体の前記下面と接触または近接させて配置される
ことを特徴とするピンディスプレイシステム。
【請求項7】
請求項3から6の何れかに記載のピンディスプレイシステムであって、
前記磁性シートは、複数枚の磁性シート材が積層されたものであり、
全ての磁性シート材には、S極とN極による同じテクスチャが予め着磁されており、
前記磁性シートは、全ての前記磁性シート材の同じテクスチャが同じ位置で重なるように積層されたものである
ことを特徴とするピンディスプレイシステム。
【請求項8】
請求項3から6の何れかに記載のピンディスプレイシステムであって、
前記磁性シートは、複数枚の磁性シート材が積層されたものであり、
各磁性シート材には、S極とN極による異なるテクスチャが予め着磁されている
ことを特徴とするピンディスプレイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
三次元の各軸をx軸とy軸とz軸とすると、従来から知られているピンディスプレイは、各ピンの軸方向がz方向であり、軸のx座標値とy座標値の組がピンごとに異なるように配列された複数個のピンを備え、無表示の状態では全てのピンの一端(以下、「上端」という)が同じz座標値の平面に位置するようにされており、所望のピンにz方向に働く力を加えることにより、当該所望のピンをz方向に移動させて、複数個のピンの上端が形成する三次元の点群により情報を表示するものある。
【0003】
非特許文献1には、各ピンの下端に磁石を装着しておき、各磁石に近接して配置された電磁石で磁場を発生させることによって、磁石の吸引力や反発力を利用してピンを移動させるピンディスプレイ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J. J. Zarate and H. Shea, "Using Pot-Magnets to Enable Stable and Scalable Electromagnetic Tactile Displays", IEEE Transactions on Haptics VOL.10, NO.1 (2017), pp.106-112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1のピンディスプレイ装置によれば、吸引力や反発力を利用してピンを移動させることで任意の表示をすることは可能である。しかし、非特許文献1のピンディスプレイ装置で表示を行うためには、各ピンに対応する各電磁石を電気的な制御によって駆動する必要がある。非特許文献1以外にも様々なピンディスプレイが知られているが、非特許文献1以外のピンディスプレイでも電気的な制御によりピンを移動している。すなわち、ピンディスプレイの従来技術には、電源や配線を伴う電気的な制御機構を要するという課題がある。
本発明は、電源や配線を伴う電気的な制御機構を必要としないピンディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、筐体と複数個のピンを備えるピンディスプレイ装置であって、重力が少なくとも働く方向をz方向の負方向として、筐体の下面を磁性シートの一方の面である上面に接触または近接させてピンディスプレイシステムとして用いるためのものであって、筐体は、z方向と垂直な平面である筐体の下面と、筐体の下面に対してz方向の正方向にある筐体の上面と、ピンと同数のピン挿入穴を備え、各ピン挿入穴は、筐体の上面からピンが挿入される穴であり、ピンと同数のピン挿入穴は、z方向と垂直な面における位置が互いに異なり、筐体の素材は、磁力線を遮断も低減もせず、磁力線の経路を制御せず、磁力線を発生しない素材であり、各ピンは、ポット磁石が容器の開口部を外側に向けて一方の端に備えられたものであり、ポット磁石が備えられた端がz方向の負方向に向けられてピン挿入穴に挿入されるものであり、各ポット磁石は、当該ポット磁石が備えられたピンがピン挿入穴に挿入されている状態において、当該ポット磁石と磁性シートの上面との間に発生する磁力による反発力により、当該ポット磁石が備えられたピンをz方向の正方向に移動可能な磁場を放出するものであり、隣接するピン挿入穴の間隔は、当該隣接するピン挿入穴に挿入されるピンのポット磁石の間で発生する磁力がピンの動きに影響しない最短距離以上であり、ピン挿入穴の底と筐体の下面の間には、z方向の長さが、ポット磁石と同じ磁場を放出するポット磁石が放出する磁場によって磁性シートと同種の磁性シートの書き換えが生じない最短距離以上である間隙が設けられていることを特徴とするピンディスプレイ装置である。
【0007】
本発明の一態様は、前述したピンディスプレイ装置と、一方の面がピンディスプレイ装置の筐体の下面と接触または近接させて配置された磁性シートと、を含むピンディスプレイシステムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電源や配線を伴う電気的な制御機構を必要としないピンディスプレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ピンディスプレイシステム300を例示した斜視図である。
図2図2は、ピンディスプレイシステム300を例示した斜視図である。
図3図3は、ピンディスプレイシステム300を例示した側面図である。
図4図4は、ピンディスプレイ装置100の筐体110を例示した斜視図である。
図5図5は、ピンディスプレイ装置100の筐体110と、ピンディスプレイ装置100の1つのピン120と、そのピン120が筐体110に挿入される様子を例示した斜視図である。
図6図6Aは、ポット磁石121の下面121aを例示した図である。図6Bは、ポット磁石121を例示した断面図である。図6Cは、ポット磁石121の別の例を例示した断面図である。
図7図7は、ピンディスプレイ装置100の筐体110を例示した断面図である。
図8図8は、磁性シートの上面の着磁と、磁性シートの上面の付近の空間の磁束密度と、の関係を示した図である。
図9図9Aは、磁性シート200の磁気パタンの例を模式的に示した図である。図9Bは、磁性シート200に図9Aに例示した磁気パタンが着磁されている場合のピンディスプレイ装置100の表示状態を例示した斜視図である。
図10図10Aは、磁性シート200の磁気パタンの別の例を模式的に示した図である。図10Bは、磁性シート200に図10Aに例示した磁気パタンが着磁されている場合のピンディスプレイ装置100の表示状態を例示した斜視図である。
図11図11は、ピンディスプレイシステム301を例示した側面図である。
図12図12は、ピンディスプレイシステム600を例示した斜視図である。
図13図13は、ピンディスプレイ装置500の筐体510を例示した上面図である。
図14図14は、ピンディスプレイ装置500の筐体510を例示した断面図である。
図15図15は、ピンディスプレイ装置500のピン520-X1、ピン520-X2、ピン520-X3を例示した斜視図である。
図16図16Aは、磁束密度B(d)を説明するための図である。図16Bは、磁束密度B(d,d')を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
第1実施形態では、本発明のピンディスプレイシステムの一例について説明する。第1実施形態のピンディスプレイシステム300は、図1から図3に例示するように、ピンディスプレイ装置100と磁性シート200を含む。第1実施形態のピンディスプレイ装置100は、筐体110と25個のピン120を含む。以下、三次元空間において直交する各軸を図1図2に例示するx軸とy軸とz軸として説明する。ピンディスプレイ装置100と磁性シート200は、ピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aと、磁性シート200の上面200aと、が接触または近接するように配置される。すなわち、ピンディスプレイ装置100は、筐体110の下面110aを磁性シート200の上面200aに接触または近接させてピンディスプレイシステム300として用いるためのものである。磁性シート200の上面200aは、磁性シート200が備える2つの面のうちの一方の面である。「近接」とは、磁性シート200の上面200aの上に紙や布などの薄膜状の物を置き、その薄膜状の物の上にピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aが薄膜状の物に接するように置く場合などのように、ピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aと磁性シート200の上面200aが接触していないものの、ピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aと磁性シート200の上面200aが接触している場合とほぼ同じように、ピンディスプレイ装置100が磁性シート200の磁場の影響を受ける状況のことである。なお、第1実施形態のピンディスプレイ装置100は25個のピン120を備えるが、各図の見易さを考慮して、ピンディスプレイ装置100が備える1個のピン120のみに参照番号を付してある。後述する各図における複数個のピン、複数個のピン挿入穴、ピンやピン挿入穴の各部などの参照番号についても同様である。ピンディスプレイシステム300は、ピン120のz方向の負方向(すなわち、図1から図3のz方向を示す矢印が指す方向とは逆方向)への移動に重力を利用することから、重力の方向をz方向の負方向として用いられるようにするのがよい。すなわち、ピンディスプレイシステム300は、x軸とy軸が水平面内の直交する2軸になるようにするのがよい。ただし、ピンディスプレイシステム300は、重力が少なくとも働く方向をz方向の負方向として用いられるようにすればよい。すなわち、x軸とy軸が水平面に対して若干傾いた面内の直交する2軸である場合でも、ピンディスプレイシステム300を用いることが可能である。
【0011】
<筐体110>
筐体110は、図4に例示するように、z方向と垂直な平面である下面110aと、下面110aに対してz方向の正方向にあり下面110aと平行な平面である上面110bと、を備える略直方体の外形を有し、25個のピン挿入穴111を備える。各ピン挿入穴111は、図5に例示するように、上面110b側からピン120が挿入される穴であり、略円柱形のピン120をz方向に移動可能とするための穴であり、中心軸がz方向である略円柱形である。略円柱形の各ピン挿入穴111の2つの平行な略円形の底面は、図7に例示するように、筐体110の上面110b内にある上面111bと、円柱形の上面111bに対してz方向の負方向にあるz方向と垂直な平面である下面111aである。25個のピン挿入穴111はz方向と垂直な面における位置が互いに異なり、具体的には、25個のピン挿入穴111は、x方向に等間隔に5個、y方向に等間隔に5個、の5×5の行列状に配置されている。筐体110の素材は、例えばプラスチックや樹脂や紙などのように、磁力線を遮断も低減もせず、磁力線の経路を制御せず、磁力線を発生しない素材である。各ピン挿入穴111の略円柱形の直径は、略円柱形のピン120がz方向には正方向にも負方向にも容易に移動可能であるものの、略円柱形のピン120がx方向やy方向にはほとんど移動しないように、ピン120の略円柱形の直径より僅かに大きな値として予め実験等により設定されたものである。
【0012】
<ピン120>
各ピン120は、図5に例示するように、筐体110の各ピン挿入穴111に挿入されるものであり、一方の端が略円形の下面120aであり、他方の端が下面110aと平行な平面である上面120bである、略円柱形の外形を有する。各ピン120は、一方の端にポット磁石121が容器(ポット)の開口部を外側に向けて備えられており、ポット磁石121が備えられた端がz方向の負方向に向けられて筐体110の各ピン挿入穴111に挿入されるものである。
【0013】
ポット磁石121とは、下面図を図6Aに例示し、図6Aの破線に沿って切断した断面図を図6Bに例示するように、1つの面に開口部1212aがある透磁率が高い素材の容器1212の内部に永久磁石1211が固定されたものであり、永久磁石1211の一方の極1211bが容器1212の内側にある接触面1212bに接しており、ポット磁石121の下面121aにおいては、容器1212の開口部1212aから永久磁石1211の他方の極1211aが露出している。透磁率が高い素材とは、例えば鉄やステンレスなどである。永久磁石1211の極でない部分と容器1212の間には、永久磁石1211の極でない部分が容器1212と接触して磁力線が短絡することを防ぐために、透磁率が低い素材の層である低透磁層1213が設けられている。透磁率が低い素材の例は、樹脂、紙、空気などである。永久磁石1211の容器1212への固定には、永久磁石1211の極1211bと容器1212の接触面1212bの間で発生する吸引力が用いられていることもあり、接着剤が用いられていることもある。一般的には、永久磁石1211と容器1212は、強い接着力を有する接着剤を用いて、容易に剥がせないように接着されていることが多い。
【0014】
ポット磁石121の下面121aは、永久磁石1211の極1211aと、永久磁石1211の極1211aを囲む容器1212の開口部1212aと、永久磁石1211の極1211aと容器1212の開口部1212aとの間にある低透磁層1213の下面1213aと、によって形成されている。ただし、上述したように低透磁層1213は空気の層であってもよいので、低透磁層1213の下面1213aは不可視であることもある。すなわち、ポット磁石121の下面121aは、永久磁石1211の極1211aと、極1211aに接触しないように極1211aを囲む容器1212の開口部1212aと、によって形成されていることもある。ポット磁石121の下面121aにおいては、永久磁石1211の極1211aと容器1212の開口部1212aは、図6Bに例示するように同一平面上にあることもあるが、同一平面上にないこともあり、図6Cに例示するように、永久磁石1211の極1211aが容器1212の開口部1212aよりも僅かに容器1212の内側方向にあることがある。例えば、永久磁石1211の極1211aは、容器1212の開口部1212aよりも0.2mmから0.4mmほど容器1212の内側方向にあることがある。なお、低透磁層1213の下面1213aが明に存在する場合には、低透磁層1213の下面1213aは、容器1212の開口部1212aと同一平面内か、容器1212の開口部1212aよりも容器1212の内側方向にある。
【0015】
以降では、説明を簡単化するために、明示して説明をする場合を除いて、永久磁石1211の極1211aと容器1212の開口部1212aと低透磁層1213の下面1213aが図6Bに例示するように同一平面上にある例、すなわち、ポット磁石121の下面121aが円形の平面である例、すなわち、ピン120の下面120aが平面であり、ピン120が円柱形である例、で説明する。
【0016】
全てのピン120が備えるポット磁石121の容器1212の素材及び形状は同じである。また、全てのピン120が備えるポット磁石121の永久磁石1211の素材及び形状及び強さは同じである。全てのピン120が備えるポット磁石121の永久磁石1211の極1211aは、同じ極(例えばN極)とされている。各ポット磁石121は、各ピン120の下面120aに、ポット磁石121の下面121aが外側に向けて備えられる。すなわち、各ポット磁石121は、各ピン120の下面120aに、ポット磁石121の下面121aがピン120の下面120a側となるように備えられる。例えば、各ピン120は、各ポット磁石121の円形の平面である下面121aがピン120の円形の一方の平面である下面120aとなるように構成すればよい。各ピン120の下面120aは、外部の磁場がその影響を無視できる程度に小さい状態では、重力により筐体110の各ピン挿入穴111の下面111aに接している。そして、筐体110の下面110aと磁性シート200の上面200aが接触または近接したときには、各ピン120は、各ピン120の各ポット磁石121と磁性シート200の上面200aの間に発生する磁力による反発力がある場合には、その反発力によってz方向の正方向(すなわち、重力とは逆の方向を少なくとも含む方向)に移動する。このために、各ピン120が備える各ポット磁石121は、磁性シート200の上面200aとの間に発生する磁力による反発力によって、z方向の正方向に各ピン120を移動可能な磁場を放出するものである必要がある。
【0017】
各ピン120の長さ(すなわち、各ピン120の円柱形の高さ)は、各ピン挿入穴111の深さ(すなわち、各ピン挿入穴111の円柱形の高さ)と同じ、または、各ピン挿入穴111の深さ(長さ)より長い。各ピン120の上面120bは、z方向の逆方向が重力が少なくとも働く方向であり、外部の磁場がその影響を無視できる程度に小さい状態では、ピン挿入穴111の上面111bと同じz座標の位置、または、ピン挿入穴111の上面111bより正方向にある所定のz座標を有する位置、にある。すなわち、z方向の逆方向が重力が少なくとも働く方向であり、外部の磁場がその影響を無視できる程度に小さい状態では、全てのピン120の上面120bが筐体110の上面110bと同じ高さにあるか、全てのピン120の上面120bが筐体110の上面110bより高いある所定の高さにある。この外部の磁場がその影響を無視できる程度に小さい状態における全てのピン120の上面120bが形成する平面が、ピンディスプレイ装置100が何も表示していない状態に対応する。なお、ピンディスプレイ装置100は、全てのピン120の上面120bにより形成される三次元の点群により情報を表示するものであるので、各ピン120の上面120bが平面であることなどは必須ではなく、例えば、各ピン120の上面120bには開口している部分が含まれていてもよい。
【0018】
各ピン120は、各ポット磁石121と磁性シート200の上面200aの間に発生する磁力による反発力によって、z方向の正方向に移動する。ピンディスプレイ装置100による表示により多くのバリエーションを持たせるためには、各ピン120のz方向への移動可能な量の最大値は大きいほうがよい。ただし、各ピン120のz方向への移動可能な量の最大値が各ピン挿入穴111の深さ(すなわち、各ピン挿入穴111の円柱形の高さ)より大きいと、ピン120のz方向への移動量が最大値になったときにピン120がピン挿入穴111から飛び出してしまう。したがって、各ピン挿入穴111の深さは各ピン120のz方向への移動可能な量の最大値より大きな値である必要があり、各ピン120の長さは各ピン120のz方向への移動可能な量の最大値より大きな値である必要がある。
【0019】
しかしながら、各ピン120の各ポット磁石121に市販されている一般的なポット磁石を用いると、各ピン120の長さを各ピン120の移動可能な量の最大値より大きな値にできない場合が多い。このような場合には、各ピン120には、ポット磁石121以外の部分であるスペーサー122を備えるとよい。各スペーサー122は、各ポット磁石121と磁性シート200の間に発生する磁力による反発力による各ピン120のz方向の正方向への移動をなるべく妨げないように、磁力線を遮断も低減もせず、磁力線の経路を制御せず、磁力線を発生せず、なるべく軽量であるのがよく、例えばストローのように中空部分を多く含むプラスチックや紙などで構成するとよい。
【0020】
<ポット磁石121の強さと間隔の関係>
ピンディスプレイ装置100は、ピンディスプレイ装置100が備える全てのピン120のうちの所望のピン120を、当該ピン120が備えるポット磁石121と磁性シート200の間に発生する磁力による反発力によってz方向の正方向に移動させることで、ピンディスプレイ装置100が備える全てのピン120の上面120bにより形成される三次元の点群により情報を表示する。ピンディスプレイ装置100によるz方向の表示可能範囲を大きくするためには、ピンディスプレイ装置100によるz方向の移動可能な範囲を大きくすればよく、ピンディスプレイ装置100が備える各ピン120が備えるポット磁石121が放出する磁場は強いほうがよい。ただし、ポット磁石121が放出する磁場をあまり強くしてしまうと、隣接するピン120に備えられたポット磁石121の間で発生する磁力が隣接するピン120相互の動きに影響してしまう。そこで、ポット磁石121が放出する磁場が別のピン120の動きに影響しないように、隣接するピン120の間隔を拡げる必要が生じる。ただし、隣接するピン120の間隔を拡げてしまうと、ピンディスプレイ装置の表示のx方向とy方向の表示の解像度が低下してしまう。したがって、隣接するピン120の間隔と各ピン120が備えるポット磁石121が放出する磁場の強さは、ピンディスプレイ装置の表示のx方向とy方向の表示の解像度と、ピンディスプレイ装置100によるz方向の表示可能範囲と、を考慮して決定される必要がある。具体的には、各ピン120のポット磁石121が放出する磁場は、隣接するピン120に備えられたポット磁石121の間で発生する磁力がピン120の動きに影響しない必要がある。言い換えると、隣接するピン挿入穴111の間隔は、隣接するピン挿入穴111に挿入されるピン120に備えられたポット磁石121の間で発生する磁力がピン120の動きに影響しない最短距離以上である必要がある。
【0021】
なお、発明者による実験によれば、隣接するピン挿入穴111に挿入されるピン120に備えられたポット磁石121の間で発生する磁力がピン120の動きに影響しない最短距離は、あるピン挿入穴111に挿入された第1のピン120に備えられた第1のポット磁石121と、当該ピン挿入穴111に隣接したピン挿入穴111に挿入された第2のピン120に備えられた第2のポット磁石121と、のそれぞれが独立してz方向に移動した状態における、第1のポット磁石121と第2のポット磁石121の間で発生する吸引力の最大値、に依存することが明らかにされている。この吸引力の最大値は、第1のポット磁石121と第2のポット磁石121に同じ構成及び特性のポット磁石が用いられることからすれば、例えば、第1のポット磁石121の下面121a側において当該ポット磁石121の中心軸から間隔の2分の1の距離にある円筒面における磁束密度の最大値(以下、便宜的に「第1最大値」という)と、第2のポット磁石121の下面121aとは反対側(すなわち、上面側)において当該ポット磁石121の中心軸から間隔の2分の1の距離にある円筒面における磁束密度の最大値(以下、便宜的に「第2最大値」という)と、の合計で計算できる。発明者が実装したピンディスプレイ装置100では、この第1最大値と第2最大値の合計が4mT以下であれば、隣接するピン挿入穴111に挿入されるピン120に備えられたポット磁石121の間で発生する磁力がピン120の動きに影響しないことが分かった。したがって、例えば、ポット磁石121に用いるのと同じポット磁石について、当該ポット磁石の下面側と当該ポット磁石の上側のそれぞれについて当該ポット磁石の中心軸から同一距離にある円筒面における磁束密度の最大値を測定し、下面側の磁束密度の最大値と上側の磁束密度の最大値の合計が4mT以下となる中心軸からの距離を2倍したものを、隣接するピン挿入穴111に挿入されるピン120に備えられたポット磁石121の間で発生する磁力がピン120の動きに影響しない最短距離とすればよい。
【0022】
ただし、隣接するピン挿入穴111に挿入されるピン120に備えられたポット磁石121の間で発生する磁力がピン120の動きに影響しない最短距離には、ポット磁石121が形成する磁束の空間的な広がりだけではなく、ピン120の重さ、ピン120とピン挿入穴111の摩擦、などの様々な要素にも基づくことから、当該最短距離は実験的に定めるとよい。
【0023】
<磁性シート200>
上述したように、筐体110は、下面110aが磁性シート200の上面200aに接触または近接して配置されるものである。磁性シート200には、各ポット磁石121と磁性シート200の上面200aの間に発生する磁力による反発力によって、各ポット磁石121を備えた各ピン120がz方向への移動量が所望の大きさとなるように、上面200aの各ポット磁石121が対向する部分が着磁されている。磁性シート200は、書き換え可能な磁性シート、すなわち、各面の各部位を所定以上の強い磁界に晒すことでS極とするかN極とするかを任意に設定できる磁性シートである。書き換え可能な磁性シートの例は、フェライト磁性ゴムシートのように、粉末状の強磁性体と、磁力線を遮断も低減もせず、磁力線の経路を制御せず、磁力線を発生しない素材と、を混合してシート状に成形されたものである。
【0024】
<間隙112>
磁性シート200は局所的な磁極の向きが書き換え可能であるので、磁性シート200の上面200aとポット磁石121が接触したり、接触しないまでも相当近い距離まで近接したりすると、ポット磁石121が放出した磁場によって磁性シート200の上面200aのポット磁石121が対向する部分の磁極の向きが書き換えられてしまう。そうすると、ポット磁石121と磁性シート200の上面200aのポット磁石121が対向する部分の間に反発力が発生しなくなってしまう。その結果、ピン120が移動しなくなってしまい、ピンディスプレイ装置100が表示をしなくなってしまう。逆に、ポット磁石121と磁性シート200の上面200aが遠過ぎると、磁性シート200の上面200aに所望の着磁がされた状態であっても、各ポット磁石121と磁性シート200の上面200aの間に反発力が発生せずに、ピンディスプレイ装置100が所望の表示しなくなってしまう。これらのことから、図7に示す筐体110の断面図のように、筐体110の下面110aと筐体110の各ピン挿入穴111の下面111a(すなわち、各ピン挿入穴111の底)の間には、z方向の長さが、ポット磁石121に用いるのと同じポット磁石(すなわち、ポット磁石121と同じ磁場を放出するポット磁石)が放出する磁場により磁性シート200に用いるのと同じ磁性シート(すなわち、磁性シート200と同じ基材と同じ強磁性体と同じ混合比の磁性シート、磁性シート200と同種の磁性シート)の極性を書き換えない最短距離(以下、「第1最短距離」という)以上であり、かつ、ポット磁石121に用いるのと同じポット磁石(すなわち、ポット磁石121と同じ磁場を放出するポット磁石)と磁性シート200に用いるのと同じ磁性シート(すなわち、磁性シート200と同じ基材と同じ強磁性体と同じ混合比の磁性シート、磁性シート200と同種の磁性シート)の間で磁力が発生しなくなる最長距離以下である、z方向の長さを有する間隙112が設けられている必要がある。なお、ポット磁石121に用いるのと同じポット磁石と磁性シート200に用いるのと同じ磁性シートの間で磁力が発生しなくなる最長距離に間隙が近いほど、ピン120を大きく移動させることができなくなり、ピンディスプレイ装置100による表示のバリエーションが少なくなってしまう。したがって、この観点も考慮すると、間隙112のz方向の長さは、ポット磁石121に用いるのと同じポット磁石が放出する磁場により磁性シート200に用いるのと同じ磁性シートの書き換えが生じない最短距離またはその最短距離を僅かに超える長さ、すなわち、第1最短距離または第1最短距離を僅かに超える長さ、とするのがよい。
【0025】
ただし、磁性シートは、磁極の向きの書き換えに至るほどの強さではないものの、ある程度の強さの逆向きの磁場に晒されると、発する磁場が弱くなる。したがって、このことも考慮して間隙112のz方向の長さを設定するとよい。間隙112のz方向の長さが、ポット磁石121に用いるのと同じポット磁石が放出する磁場により磁性シート200に用いるのと同じ素材の磁性シートの極性を書き換えない最短距離(すなわち、第1最短距離)に近いと、ポット磁石121が放出した磁場によって磁性シート200の上面200aのポット磁石121が対向する部分の磁極が弱まってしまう。そうすると、ポット磁石121と磁性シート200の上面200aのポット磁石121が対向する部分の間に反発力が弱くなってしまう。その結果、ピン120が移動しなくなってしまい、ピンディスプレイ装置100が表示をしなくなってしまうことがある。したがって、間隙112のz方向の長さは、ポット磁石121に用いるのと同じポット磁石が放出する磁場により磁性シート200に用いるのと同じ磁性シートの磁力を弱めない最短距離(以下、「第2最短距離」という)以上とするとよい。なお、第2最短距離は第1最短距離より長い。以上のことから、間隙112のz方向の長さは、第1最短距離以上である必要があり、第2最短距離以上であることが望ましい、ということになる。間隙112のz方向の長さは、実験的に定めてもよいし、以下の計算に基づいて定めてもよい。
【0026】
まず、図16Aに示す、残留磁束密度Brである半径Rの円形の磁石の片側の磁極面に分布する磁荷による当該磁極面の中心から垂直方向に距離dの点における磁束密度B(d)は、下記の式(1)によって近似的に表される。なお、以下では、長さの単位はmmであるとし、磁束密度の単位はmTであるとする。
【数1】
【0027】
ポット磁石121の下面121aには、永久磁石1211の極1211aによる磁極面と、永久磁石1211の極1211aとは逆の極である容器1212の開口部1212aによる磁極面と、が存在する。永久磁石1211の極1211aとは反対側の極である極1211bは容器1212の内側にある接触面1212bに接していることから、永久磁石1211の極1211bから出た磁束は容器1212の中を通り、容器1212の開口部1212aから分散して発せられるため、開口部1212aは磁極のように振る舞う。ただし、一部の磁束は容器1212の周辺に漏えいする。したがって、永久磁石1211の極1211a、1211bの半径をR1とし、容器1212の開口部1212aの内周の半径をR2とし、容器1212の開口部1212aの外周の半径をR3とし、永久磁石1211の極1211a、1211bの面積をS1とし、容器1212の開口部1212aの面積をS2とし、永久磁石1211の残留磁束密度をBrとし、漏えいに基づく損失係数をcとすると、図16Bに示す、永久磁石1211の極1211aの中心から垂直方向に距離dでありかつ容器1212の開口部1212aの中心から垂直方向に距離d'である点における磁束密度B(d,d')は、下記の式(2)によって計算できる。
【数2】
【0028】
なお、永久磁石1211がネオジウム磁石である場合には、永久磁石1211の残留磁束密度Brは800mTから1200mT程度である。また、損失係数cは、容器1212の透磁率や厚みや形状に依存するが、一般的には0.8程度であり、ほぼ0.5から1.0の範囲にある。また、図6Bに例示したように永久磁石1211の極1211aと容器1212の開口部1212aが同一平面上にある場合にはd'=dであり、図6Cに例示したように永久磁石1211の極1211aと容器1212の開口部1212aが同一平面上にない場合にはδを実測値としてd'=d+δである。なお、δは上述したように0.2mmから0.4mm程度である。
【0029】
したがって、間隙112のz方向の長さは、ポット磁石121の永久磁石1211の極1211aの中心と磁性シート200の上面200aの距離が、上述した各値を用いて式(2)により計算される磁束密度B(d,d')が磁性シート200に用いるのと同じ磁性シートの極性を書き換えない値となる最短の距離d以上、および/または、ポット磁石121の容器1212の開口部1212aの中心と磁性シート200の上面200aの距離が、上述した各値を用いて式(2)により計算される磁束密度B(d,d')が磁性シート200に用いるのと同じ磁性シートの極性を書き換えない値となる最短の距離d'以上となる長さ、とする必要がある。また、間隙112のz方向の長さは、ポット磁石121の永久磁石1211の極1211aの中心と磁性シート200の上面200aの距離が、上述した各値を用いて式(2)により計算される磁束密度B(d,d')が磁性シート200に用いるのと同じ磁性シートの磁力を弱めない値となる最短の距離d以上となる長さ、および/または、ポット磁石121の容器1212の開口部1212aの中心と磁性シート200の上面200aの距離が、上述した各値を用いて式(2)により計算される磁束密度B(d,d')が磁性シート200に用いるのと同じ磁性シートの磁力を弱めない値となる最短の距離d'以上となる長さ、とすることが望ましい。
【0030】
発明者による実験によれば、直径が5mmであり高さが5mmであり永久磁石の直径が3mmであり高さが2mmであるポット磁石においては、ポット磁石の下面中央における表面磁束密度は300mT程度であった。このポット磁石をポット磁石121として備えたピン120を、間隙112のz方向の長さを様々に異ならせた筐体100を用いて磁性シート200で持ち上げる実験を行ったところ、ポット磁石121の容器1212の開口部1212aと磁性シート200の上面200aのz方向の距離が0.5mm以下ではピン120は持ち上がらず、ポット磁石121の容器1212の開口部1212aと磁性シート200の上面200aのz方向の距離が0.5から0.8mmではピン120の挙動は安定せず、ポット磁石121の容器1212の開口部1212aと磁性シート200の上面200aのz方向の距離が0.9mm以上ではピン120は安定して持ち上がった。また、ポット磁石121の容器1212の開口部1212aの中心軸上の、開口部1212aと磁性シート200の上面200aの距離が0.5mm以下の点においては、ポット磁石121による磁束密度が200mT以上あり、ポット磁石121が放出する磁場により磁性シート200を書き換え可能であった。また、ポット磁石121の容器1212の開口部1212aの中心軸上の、開口部1212aと磁性シート200の上面200aの距離が0.5から0.8mmの点においては、ポット磁石121による磁束密度は100~200mTであり、ポット磁石121が放出する磁場は磁性シート200から発せられる磁場を一時的に弱めるに十分であった。そこで、発明者は、第1最短距離が0.5mmであり、第2最短距離が0.8mmであるとして、ピン120の制御をより確実なものとすべく、ピンディスプレイ装置100のポット磁石121の容器1212の開口部1212aと磁性シート200の上面200aのz方向の距離が1.0mmとなるように、ピンディスプレイ装置100の間隙112のz方向の長さを設定した。
【0031】
間隙112のz方向の長さを計算に基づいて定める場合には、磁性シート200に用いるのと同じ磁性シートの磁力を弱めない磁束密度が100mT未満であることからすると、式(2)により計算される磁束密度B(d,d')が100mT未満の値となるように、ポット磁石121の永久磁石1211の極1211aの中心と磁性シート200の上面200aの距離、および/または、ポット磁石121の容器1212の開口部1212aの中心と磁性シート200の上面200aの距離を設定すればよい。
【0032】
なお、以下では、説明を簡単化するために、間隙のz方向の長さがdであるとして説明する。
【0033】
<磁性シート200の上面200aの磁気パタン>
上述したように、磁性シート200には、各ポット磁石121と磁性シート200の上面200aの間に発生する磁力による反発力によって、各ポット磁石121を備えた各ピン120のz方向の正方向への移動量が所望の大きさとなるように、上面200aの各ポット磁石121が対向する部分が着磁されている。もし各ポット磁石121と磁性シート200の上面200aが接触しているのであれば、ピン120を持ち上げるのに最適な上面200aの磁気パタンは、対向するポット磁石121の下面121aと同じ磁気パタンである。しかし、各ピン120がz方向の正方向に全く移動していない状態であっても、各ポット磁石121の下面121aと磁性シート200の上面200aは、間隙112のz方向の長さdだけ離れている。また、各ピン120がz方向の正方向に所望の移動量だけ移動した状態では、各ポット磁石121の下面121aと磁性シート200の上面200aは、間隙112のz方向の長さdに各移動量を加えた長さだけ離れている。したがって、各ピン120の所望の移動量をD(ただし、iは、各ピンを特定する番号であり、1以上25以下の整数)とすると、各ピン120をz方向の正方向に所望の移動量Dだけ移動させるためには、各ポット磁石121の下面121aと磁性シート200の上面200aの距離がdからd+Dまでの範囲内にあるときには、各ポット磁石121と磁性シート200の上面200aの間に発生する磁力が、各ピン120のz方向の負方向に働く重力より大きな反発力を生じさせるものである必要がある。
【0034】
このために発明者が着目したのが、磁性シートの上面に着磁された磁気パタンの空間周波数が異なると、磁性シートの上面側の三次元空間における磁束の空間的な広がりが異なることである。図8は、磁性シートの上面に、幅が2mmから6mmの帯状の、N極と、N極を挟むS極と、によるストライプ状の磁気パタンを着磁して、磁性シートの上面の付近の空間の磁束密度を発明者が測定した結果である。図8の横軸は帯の短手方向であり、縦軸は上面からの距離である。図8に示したように帯状の極の幅が狭い場合(すなわち、帯状の極の短手方向の長さが短い場合)には、磁束の空間的な広がりが狭く、磁力線は帯状の極の近くに集中しており、帯状の極の幅が広い場合(すなわち、帯状の極の短手方向の長さが長い場合)には、磁束の空間的な広がりが広く、磁力線は帯状の極の遠くにある。
【0035】
磁性シートの上面側の三次元空間における磁束の空間的な広がりを考慮すると、ピン120を持ち上げるのに好適な磁性シート200の上面200aの磁気パタンは、対向するポット磁石121の下面121aの磁気パタンと相似であり、対向するポット磁石121の下面121aの磁気パタンより若干大きい磁気パタンである。したがって、図6Aから図6Cに例示したポット磁石121を備えたピン120を用いる場合であれば、磁性シート200の上面200aのうちの、z方向の正方向への移動量を最大にしたいピン120のポット磁石121に対向する部分には、例えば、対向するポット磁石121の下面121aと略同じ大きさの円形の、永久磁石1211の極1211aと同じ極(例えばN極)と、当該円形を囲む輪形の、永久磁石1211の極1211aとは逆の極(例えばS極)と、により構成される磁気パタンを着磁しておけばよい。
【0036】
<ピン120の上端の様々な高さでの表示>
ピンディスプレイ装置100にピン120の上端の様々な高さでの表示をさせるためには、各ピン120のz方向の正方向への移動量を制御する必要がある。ただし、ピンディスプレイ装置100は、複数個のピン120の上端(上面120b)が形成する三次元の点群により情報を表示するものであるので、各ピン120のz方向の正方向への移動量の大きさを厳密に制御する必要はなく、各ピン120のz方向の正方向への移動量の相対的な大小を制御することで、複数個のピン120の上端の様々な高さでの表示を実現できる。各ピン120のz方向の正方向への移動量の相対的な大小は、磁性シートの上面側の三次元空間における磁束の空間的な広がりを考慮すれば、制御することができる。
【0037】
図6Aから図6Cに例示したポット磁石121を備えたピン120を用いる場合であれば、例えば、磁性シート200の上面200aには、大きく移動させるピン120のポット磁石121に対向する部分ほど、対向するポット磁石121の下面121aと略同じ大きさの円形の、永久磁石1211の極1211aと同じ極(例えばN極)と、当該円形を囲む輪形の、永久磁石1211の極1211aとは逆の極(例えばS極)と、により構成される磁気パタン、に近い磁気パタンが着磁されていれば、各ピン120のz方向の正方向への移動量の相対的な大小を制御することができる。また、図6Aから図6Cに例示したポット磁石121を備えたピン120を用いる場合であって、磁性シート200の上面200aの磁気パタンとして帯領域の極と当該帯領域の極を挟む逆の極による磁気パタンを用いる場合であれば、磁性シート200の上面200aには、大きく移動させるピン120のポット磁石121に対向する部分ほど、対向するポット磁石121の下面121aの直径を帯領域の幅とする、永久磁石1211の極1211aと同じ極(例えばN極)の帯領域と、当該帯領域の両側に配置された、永久磁石1211の極1211aとは逆の極(例えばS極)の領域と、により構成される磁気パタン、に近い磁気パタンが着磁されていれば、各ピン120のz方向の正方向への移動量の相対的な大小を制御することができる。なお、磁性シート200の上面200aのうちの何れのピン120のポット磁石121の直下にも周縁にも対向しない部分の着磁は任意である。
【0038】
したがって、ポット磁石121の永久磁石1211の極1211aがN極である場合であって、図9Aに例示する磁気パタンのように、磁性シート200の上面200aのうちの図9Aで濃色に着色されている部分がN極に着磁されていて、磁性シート200の上面200aのうちの図9Aで濃色に着色されていない部分がS極に着磁されている場合には、ピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aと磁性シート200の上面200aとを接触または近接して配置すると、ピンディスプレイ装置100は図9Bに例示するような表示をする。すなわち、図9A図9Bから分かる通り、磁性シート200の上面200aのうちの、z方向の正方向への移動をさせる複数個のピン120のポット磁石121それぞれに対向する部分には、対向するポット磁石121の永久磁石1211の極1211aと同じ極(例えばN極)である第1の部分と、当該第1の部分を囲み、極1211aとは逆の極(例えばS極)である第2の部分と、による磁気パタンが着磁されていて、磁性シート200の上面200aのうちの、z方向の正方向への移動をさせる複数個のピン120のうちのz方向の正方向への移動量を第1の移動量とするピン120のポット磁石121に対向する部分に着磁されている磁気パタンと、z方向の正方向に移動させる複数個のピン120のうちのz方向の正方向への移動量を第1の移動量とは異なる第2の移動量とするピン120のポット磁石121に対向する部分に着磁されている磁気パタンと、は異なるようにされている。
【0039】
<ピン120の上端の高低の二値での表示>
ピンディスプレイ装置100に複数個のピン120の上端の高低の二値での表示をさせるためには、例えば、各ピン120のz方向の正方向への移動の有無を制御すればよい。各ピン120のz方向の正方向への移動の有無を制御するのであれば、磁性シート200の上面200aのうちの、各ピン120のポット磁石121に対向する部分には、各ポット磁石121を備えた各ピン120をz方向の正方向に移動させることが可能な反発力を、ポット磁石121それぞれと磁性シート200の上面200aの間に働かせるか否か、に対応する着磁がされていればよい。例えば、磁性シート200の上面200aのうちの、z方向の正方向への移動をさせるピン120のポット磁石121それぞれに対向する部分には、対向するポット磁石121の永久磁石1211の極1211aと同じ極(例えばN極)である第1の部分と、当該第1の部分を囲む部分であり極1211aとは逆の極(例えばS極)である第2の部分と、による磁気パタンが着磁されていればよい。なお、第2の部分は、第1の部分を完全に囲んでいてもよいし、例えば第1の部分を両側から挟むように、第1の部分を部分的に囲んでいてもよい。すなわち、磁性シート200の上面200aのうちの、z方向の正方向への移動をさせるピン120のポット磁石121それぞれに対向する部分には、対向するポット磁石121の永久磁石1211の極1211aと同じ極(例えばN極)の帯領域である第1の部分と、第1の部分の両側にあり、極1211aとは逆の極(例えばS極)である第2の部分と、によるストライプ状の磁気パタンが着磁されていてもよい。磁性シート200の上面200aのうちの、z方向の正方向への移動をさせないピン120のポット磁石121それぞれに対向する部分には、対向するポット磁石121の永久磁石1211の極1211aと同じ極(例えばN極)である第3の部分と、当該第3の部分を囲む部分であり極1211aとは逆の極(例えばS極)である第4の部分とによる磁気パタン、ではない磁気パタンが着磁されていればよい。例えば、z方向の正方向への移動をさせないピン120のポット磁石121それぞれに対向する部分には、例えば、対向するポット磁石121の永久磁石1211の極1211aとは逆の極(例えばS極)である部分と、当該部分を囲み、極1211aと同じ極(例えばN極)である部分と、による磁気パタンが着磁されていてもよいし、対向するポット磁石121の永久磁石1211の極1211aと逆の極(例えばS極)のみが着磁されていてもよいし、対向するポット磁石121の永久磁石1211の極1211aと同じ極(例えばN極)のみが着磁されていてもよい。なお、磁性シート200の上面200aのうちの何れのピン120のポット磁石121の直下にも周縁にも対向しない部分の着磁は任意である。
【0040】
したがって、ポット磁石121の永久磁石1211の極1211aがN極である場合に、図10Aに例示する磁気パタンのように、磁性シート200の上面200aのうちの図10Aで濃色に着色されている部分がN極に着磁されていて、磁性シート200の上面200aのうちの図10Aで濃色に着色されていない部分がS極に着磁されている場合には、ピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aと磁性シート200の上面200aとを接触または近接して配置すると、ピンディスプレイ装置100は図10Bに例示するような表示をする。
【0041】
なお、図9A図10Aに例示した磁気パタンは、例えば、まず磁性シート200の上面200aの全体をS極に着磁し、次に磁性シート200の上面200aのうちの図9A図10Aで濃色に着色されている部分に強力な磁石であるネオジウム磁石のS極を接触させることで、着磁することができる。磁性シート200の上面200aのうちの図9A図10Aで濃色に着色されている部分を着磁する際には、例えば、先端にネオジウム磁石のS極を備えた着磁器を用いて、着磁器の先端を磁性シート200の上面200aに押し当てて、図9A図10Aで濃色に着色された部分を描くように着磁器の先端を移動させればよい。
【0042】
[第2実施形態]
第1実施形態で説明したピンディスプレイシステム300はあくまでも一例であり、第2実施形態で説明する通りの様々な変形が可能である。
【0043】
<ピンとピン挿入穴の個数、ピン挿入穴の配置>
第1実施形態ではピンディスプレイ装置100が25個のピン120とピン挿入穴111を含む例を説明したが、この個数に限られない。すなわち、ピン挿入穴は、PとQを2以上の整数として、P個のx座標のうちの何れか1つのx座標とQ個のy座標のうちの何れか1つのy座標との組によるP×Q個の各位置に配置されていればよく、ピンはP×Q個あればよい。さらにいえば、ピン挿入穴がアレイ状に整列されている必要はなく、ピン挿入穴は、x座標が異なる複数個を含み、かつ、y座標が異なる複数個を含んでいればよく、ピン挿入穴と同数のピンがあればよい。また、用途次第では、z方向と垂直な1軸上での表示のみを行えばよい場合もあり、この場合には、例えば、複数個のピン挿入穴全てのx座標が同じであってy座標のみが異なっていてもよいし、複数個のピン挿入穴全てのy座標が同じであってx座標のみが異なっていてもよい。すなわち、複数個のピン挿入穴は、z方向と垂直な面における位置が互いに異なればよく、ピン挿入穴と同数のピンがあればよい。
【0044】
<ピンの形状、ピン挿入穴の形状>
第1実施形態ではピン120とピン挿入穴111が円柱形である例を説明したが、ピンとピン挿入穴の形状は、円柱に限られず、角柱などでもよく、ピンが、ピン挿入穴をz方向には正方向にも負方向にも容易に移動可能であるものの、x方向やy方向にはほとんど移動しないという条件を満たす形状であれば、どのような形状であってもよい。
【0045】
<筐体の形状>
第1実施形態ではピンディスプレイ装置100の筐体110が略直方体の外形を有する例を説明したが、筐体の外形は略直方体に限られない。例えば、第1実施形態では筐体110の上面110bが下面110aと平行な平面である例を説明したが、筐体の上面が筐体の下面と平行であることは必須ではなく、筐体の上面が平面であることも必須ではない。また、筐体がx方向の側面やy方向の側面を有することも必須ではない。
【0046】
<ポット磁石の形状、素材、磁石の強さ>
第1実施形態では全てのピン120が備えるポット磁石121の容器1212の素材及び形状が同じであり、全てのピン120が備えるポット磁石121の永久磁石1211の素材及び形状及び強さが同じである例を説明したが、容器1212の素材と形状と永久磁石1211の素材と形状と強さのうちの少なくとも何れかがピンごとに異なっていてもよい。ただし、前述した素材と形状と強さのうちの少なくとも何れかをピンごとに異ならせた場合には、所望の表示をするための磁性シートの着磁をする際に各ピンのポット磁石の容器の素材と形状と永久磁石の素材と形状と強さのうちの少なくとも何れかの異なりを意識する必要が生じてしまい、磁性シートに着磁する磁気パタンの作成の難易度が高くなり、また、第4実施形態で後述するようなピンディスプレイ装置と磁性シートとの相対位置を変化させる使い方ができなくなってしまう。したがって、全てのピンが備えるポット磁石の容器の素材と形状と永久磁石の素材と形状と強さは同じにしておくほうがよい。
【0047】
<ポット磁石の極>
第1実施形態では全てのポット磁石121の永久磁石1211の極1211aが同じ極(例えばN極)である例を説明したが、ポット磁石の容器の開口部から露出した永久磁石の極はピンごとに異なっていてもよい。ただし、ポット磁石の容器の開口部から露出した永久磁石の極をピンごとに異ならせた場合には、所望の表示をするための磁性シートの着磁をする際に各ピンのポット磁石の容器の開口部から露出した永久磁石の極性を意識する必要が生じてしまい、磁性シートに着磁する磁気パタンの作成の難易度が高くなり、また、第4実施形態で後述するようなピンディスプレイ装置と磁性シートとの相対位置を変化させる使い方ができなくなってしまう。したがって、全てのピンが備えるポット磁石の容器の開口部から露出した永久磁石の極は同じにしておくほうがよい。
【0048】
<容器の有無>
第1実施形態ではピン120がポット磁石121を用いる例を説明したが、ピンが備える磁石がポット磁石であることは必須ではなく、容器を備えない磁石であってもよい。ただし、容器を備えない磁石の場合には、磁力線が容器の開口面に集中しないことから、ポット磁石を用いる場合よりもピンの間隔を広くする必要が生じ、ピンディスプレイ装置の表示のx方向とy方向の表示の解像度が低くなってしまう。したがって、ピンが備える磁石はポット磁石としたほうがよい。
【0049】
<磁性シートの積層>
第1実施形態では1枚の磁性シート200を用いる例を説明したが、磁性シートを1枚とするのは必須ではなく、複数枚の磁性シートを重ねて用いてもよい。その際、複数枚の磁性シートを重ねてから磁気パタンを着磁するようにしてもよいし、それぞれに磁性シートに磁気パタンを着磁してから複数枚の磁性シートを重ねて用いるようにしてもよい。すなわち、重ねられる全ての磁性シート(磁性シート材)には、同じ磁気パタン(S極とN極による同じテクスチャ)が予め着磁されており、重ねられる全ての磁性シートの同じテクスチャが同じ位置で重なるように積層したもの(積層磁性シート)を磁性シート200として用いるようにしてもよい。このようにすれば、磁性シートを1枚だけ用いる場合よりも、強い磁力が得られるため、ピンのz方向の正方向への移動量を大きくすることが可能となる。また、重ねられる各磁性シート(磁性シート材)には異なる磁気パタン(S極とN極による異なるテクスチャ)が予め着磁されており、これらの磁性シートを積層したもの(積層磁性シート)を磁性シート200として用いるようにしてもよい。このようにすれば、それぞれの磁気シートによる表示を足し合わせたような表示をすることが可能となる。
【0050】
[第3実施形態]
第3実施形態では、本発明のピンディスプレイシステムの利用形態について説明する。第1実施形態及び第2実施形態のピンディスプレイシステム300は、ピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aと磁性シート200の上面200aが接触または近接して配置されることで表示を行うものである。したがって、ピンディスプレイシステム300に所望の様々な表示をさせるためには、複数枚(K枚、Kは2以上の整数)の磁性シート200-k(kは1以上K以下の各整数)それぞれの一方の面に所望の各表示に対応する磁性パタン(S極とN極によるテクスチャ)を予め着磁しておき、K枚の磁性シート200-1~200-Kのうちから1枚の磁性シート200-k(kは1以上K以下のいずれか1つの整数)を選択可能としておき、選択された磁性シート200-kの磁性パタンが予め着磁された面を上面200a-kとして、磁性シート200-kの上面200a-kがピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aと接触または近接させて配置されるようにすればよい。例えば、K枚の磁性シート200-1~200-Kのうちから利用者が所望の磁性シートkを選択し、選択した磁性シート200-kの上面200a-kにピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aを接触または近接させて配置すればよい。より平易な表現を採用するのであれば、選択した磁性シート200-kを上面200a-kが上側になるよう置き、その上にピンディスプレイ装置100を置けばよい。
【0051】
例えば、上面に図9Aに示す磁気パタンが着磁された磁性シート200-ks1(ks1は1以上K以下のいずれか1つの整数)を選択して、選択した磁性シート200-ks1の上面200a-ks1にピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aを接触または近接させて配置すれば、ピンディスプレイ装置100に図9Bに示す表示をさせることができる。また例えば、上面に図10Aに示す磁気パタンが着磁された磁性シート200-ks2(ks2は、1以上K以下の、ks1とは異なるいずれか1つの整数)を選択して、選択した磁性シート200-ks2の上面200a-ks2にピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aを接触または近接させて配置すれば、ピンディスプレイ装置100に図10Bに示す表示をさせることができる。
【0052】
なお、K枚の磁性シート200-1~200-Kのうちから何れかの磁性シートkを選択することの利用者の選択操作を受け付けることで、K枚の磁性シート200-1~200-Kのうちから入力部が受け付けた選択情報に対応する磁性シートkを選択する機械機構である選択部と、選択部が選択した磁性シート200-kの上面200a-kにピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aを接触または近接させて配置する機械機構である配置部と、をピンディスプレイシステムに備えるようにしてもよい。
【0053】
[第4実施形態]
第4実施形態でも、本発明のピンディスプレイシステムの利用形態について説明する。第3実施形態のように複数枚の磁性シートを用いないでも、ピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aより広い面積の磁性シート200の上面200aの異なる位置それぞれに所望の各表示に対応する磁性パタン(S極とN極によるテクスチャ)を予め着磁しておき、ピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aと磁性シート200の上面200aとを接触または近接させた状態で、ピンディスプレイ装置100と磁性シート200の相対位置をz方向に垂直な方向に変化可能とされていれば、ピンディスプレイシステム300はこの相対位置の変化によって、所望の様々な表示をすることができる。また、第4実施形態のピンディスプレイシステム300によれば、ピンディスプレイ装置100と磁性シート200の相対位置の変化を用いて、波動、模様、形状変化などを表示することもできる。
【0054】
例えば、ピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aより広い面積の磁性シート200の上面の異なる位置それぞれに所望の各表示に対応する磁性パタンを予め着磁しておき、ピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aと磁性シート200の上面200aとを接触または近接させた状態で、ピンディスプレイ装置100と磁性シート200の相対位置を利用者がz方向に垂直な方向に変化させればよい。より平易な表現を採用するのであれば、磁性シート200を上面200aが上側になるよう置き、その上にピンディスプレイ装置100を置き、ピンディスプレイ装置100または/および磁性シート200を利用者が把持または支持してz方向に垂直な方向に移動させればよい。
【0055】
または、磁性シート200の上面200aにピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aを接触または近接させて配置した状態で、ピンディスプレイ装置100と磁性シート200の相対位置をz方向に垂直な方向に変化させる機械機構をピンディスプレイシステムに備えるようにしてもよい。このピンディスプレイシステムの一例を図11に示す。図11のピンディスプレイシステム301は、ピンディスプレイ装置100と磁性シート200と第1ローラー210と第2ローラー220とハンドル230と支持具240を備える。磁性シート200は、無端ベルト状にされている。第1ローラー210と第2ローラー220は、支持具240に支持されており、それぞれの軸心が互いに平行になるように配置されており、無端ベルト状の磁性シート200を下面200b側から支持する。ハンドル230は、第1ローラー210に固定されており、第1ローラー210と同時に回転する。ピンディスプレイ装置100は、磁性シート200の上面200aにピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aを接触または近接させて配置した状態で、支持具240に支持されている。これにより、利用者がハンドル230を時計回りまたは半時計回りに回転させることで、第1ローラー211と第2ローラー212がハンドル230と同じ方向に回転し、磁性シート200の上面200aにピンディスプレイ装置100の筐体110の下面110aを接触または近接させて配置した状態で、ピンディスプレイ装置100と磁性シート200の相対位置をz方向に垂直な方向であるx方向に変化させることができる。
【0056】
なお、ピンディスプレイ装置100と磁性シート200の相対位置をz方向に垂直な方向に変化させて用いる場合には、表示が一瞬で終わってしまうことやピン120のz方向への頻繁な移動(すなわち、ピン120の頻繁な上下動)を抑えるために、磁性シート200の上面200aのポット磁石121の永久磁石1211の極1211aと同じ極の着磁は、極1211aと相似形状の点状ではなく、相対位置を変化させる方向を長さ方向とした帯状にするとよい。
【0057】
[第5実施形態]
外部の磁場がその影響を無視できる程度に小さい状態において、ピンディスプレイ装置の全ピンの上端が形成する平面がz方向に対して傾斜していてもよく、このために筐体の上側が階段状にされていてもよい。この形態を第5実施形態として、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。以下では、Xを1以上4以下の各整数とし、Yを1以上3以下の各整数として、具体例を用いて説明する。第5実施形態のピンディスプレイシステム600は、図12に例示するように、ピンディスプレイ装置500と磁性シート200を含む。第5実施形態のピンディスプレイ装置500は、筐体510と12個のピン520-XYを含む。ピンディスプレイ装置500と磁性シート200は、第1実施形態のピンディスプレイ装置100と磁性シート200と同様に、ピンディスプレイ装置500の筐体510の下面510aと、磁性シート200の上面200aと、が接触または近接するように配置される。第5実施形態のピンディスプレイシステム600は、第1実施形態のピンディスプレイシステム300と同様に、第3実施形態と第4実施形態で説明した利用形態でも利用することができる。
【0058】
<筐体510>
第5実施形態のピンディスプレイ装置500の筐体510は、図13に上面図を例示し、図14図13の破線に沿って切断した断面図を例示するように、1つ平面である下面510aと、下面510aに対してz方向の正方向にあり下面510aと平行な平面であり、下面510aからの距離が互いに異なる3個の上面510b-1、510b-2、510b-3を有する。上面510b-1は、下面510aをy方向に3等分した部分領域のうちのy座標が最も小さい部分領域をz方向に距離zだけ移動したものに相当する面である。上面510b-2は、下面510aをy方向に3等分した部分領域のうちのy座標が2番目に小さい部分領域をz方向に距離zだけ移動したものに相当する面である。上面510b-3は、下面510aをy方向に3等分した部分領域のうちのy座標が3番目に小さい部分領域(すなわち、y座標が最も大きい部分領域)をz方向に距離zだけ移動したものに相当する面である。距離zは距離zより大きく、距離zは距離zより大きい。すなわち、下面510aから上面510b-1、510b-2、510b-3までの距離z、z、zは、y座標が大きいほど大きい。
【0059】
筐体510は、12個のピン挿入穴511-XYを備える。12個のピン挿入穴511-XYは、x方向に等間隔に4個、y方向に等間隔に3個、の4×3の行列状に配置されている。各ピン挿入穴511-XYは、第1実施形態の筐体110のピン挿入穴111と同様に、後述する円柱形のピン520-XYをz方向に移動可能とするための穴であり、中心軸がz方向である円柱形である。x方向に等間隔に配置された4個のピン挿入穴511-X1の上面511b-X1は、筐体510の上面510b-1内にある。x方向に等間隔に配置された4個のピン挿入穴511-X2の上面511b-X2は、筐体510の上面510b-2内にある。x方向に等間隔に配置された4個のピン挿入穴511-X3の上面511b-X3は、筐体510の上面510b-3内にある。
【0060】
各ピン挿入穴511-XYの下面511a-XYは、上面511b-XYに対してz方向の負方向にあるz方向と垂直な平面であり、すなわち、筐体510の下面510-aと平行な平面である。各ピン挿入穴511-XYの下面511a-XYと筐体510の下面510-aの間には、第1実施形態で説明した条件を満たす間隙512-XYが設けられている。すなわち、すべての間隙512-XYのz方向の長さdXYは同じ値dである。言い換えると、すべてのピン挿入穴511-XYの下面511a-XYと筐体510の下面510-aの距離dXYは同じ距離dである。したがって、各ピン挿入穴511-1Yの深さ(すなわち、各ピン挿入穴511-1Yの円柱形の高さ)はz-dであり、各ピン挿入穴511-2Yの深さ(すなわち、各ピン挿入穴511-2Yの円柱形の高さ)はz-dであり、各ピン挿入穴511-3Yの深さ(すなわち、各ピン挿入穴511-3Yの円柱形の高さ)はz-dである。
【0061】
<ピン520-XY>
各ピン520-XYは、当該ピンに対応する筐体510のピン挿入穴511-XY(すなわち、Xの値とYの値がピンと同じであるピン挿入穴)に挿入されるものである。各ピン520-XYは、図15に例示するように、一方の端が円形の平面である下面520a-XYであり、他方の端が下面510a-XYと平行な平面である上面520b-XYである、円柱形の外形を有する。各ピン520-XYは、以下で説明する長さに関すること以外は第1実施形態のピン120と同様である。すなわち、各ピン520-XYのポット磁石521-XYやスペーサー522-XYに関することなどは、第1実施形態のピン120のポット磁石121やスペーサー122に関することと同様である。
【0062】
各ピン520-XYの長さ(すなわち、各ピン520-XYの円柱形の高さ)は、当該ピンが挿入されるピン挿入穴511-XY(すなわち、Xの値とYの値がピンと同じであるピン挿入穴)の深さと同じ、または、当該ピンが挿入されるピン挿入穴511-XYの深さより大きい。したがって、各ピン520-X1の長さLはz-d以上であり、各ピン520-X2の長さLはz-d以上であり、各ピン520-X3の長さLはz-d以上である。
【0063】
ただし、ピンディスプレイ装置500は、外部の磁場がその影響を無視できる程度に小さい状態において、全ピンの上端が形成する平面をz方向に対して傾斜させたものであるので、ピン520-XYの長さは、当該ピンが挿入される511-XYの深さより大きい場合でも、当該ピンが挿入される511-XYの深さよりも僅かに大きい程度とするのがよい。したがって、δ'を十分に小さな値とすると、各ピン520-X1の長さLはz-dまたはz-d+δ'であり、各ピン520-X2の長さLはz-dまたはz-d+δ'であり、各ピン520-X3の長さLはz-dまたはz-d+δ'である。
【0064】
<変形例>
以上で説明したピンディスプレイシステム600はあくまでも一例であり、第5実施形態のピンディスプレイシステム600についても第1実施形態のピンディスプレイシステム300に対して第2実施形態で説明したのと同様の様々な変形が可能である。
【0065】
例えば、ピンディスプレイ装置500の筐体510が下面510aからの距離が互いに異なる3個の上面510b-1、510b-2、510b-3を有する例を上述したが、上面は下面からの距離が互いに異なる複数個であれば何個であってもよい。ただし、複数個の上面は、下面からの距離が順に大きくなるように配置されているのがよい。なお、第5実施形態のピンディスプレイ装置500をこのような形態とする場合には、各ピンディスプレイ装置100が備えるピン挿入穴111とピン120は最低1個でよい。すなわち、第5実施形態のピンディスプレイ装置500は、筐体の上面が、筐体の下面の互いに異なるJ個(Jは2以上の整数)の部分領域をz方向の正方向に互いに異なる距離だけ移動させたものに対応するJ個の平面であり、筐体の上面であるJ個の平面が、筐体の下面からの距離が順に大きくなるように配置されており、複数個のピン挿入穴が、筐体の上面であるJ個の平面それぞれから、少なくとも1つのピンが挿入されるように配置されたものである。
【0066】
言い換えると、第5実施形態のピンディスプレイ装置500は、上面100bの下面110aからの高さが互いに異なる筐体110と当該筐体110に対応するピン120とを備えた複数個のピンディスプレイ装置100が、Z方向に垂直な1つの平面に全てのピンディスプレイ装置100の下面110aがあるように配置された構成であり、かつ、下面110aから上面110bまでの距離が順に大きくなるように配置された構成となるように、複数個のピンディスプレイ装置100の筐体110を連結した形態であるともいえる。
【0067】
[その他の変形例等]
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16