(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】導電性ペースト、電子部品、及び積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20250311BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20250311BHJP
H05K 1/16 20060101ALI20250311BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20250311BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20250311BHJP
C09D 129/14 20060101ALI20250311BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20250311BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01G4/30 516
H05K1/09 A
H05K1/16 D
C09D7/61
C09D7/63
C09D129/14
C09D5/24
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2024512630
(86)(22)【出願日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2023012693
(87)【国際公開番号】W WO2023190614
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2022052666
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022052668
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚史
(72)【発明者】
【氏名】相川 達男
(72)【発明者】
【氏名】高野 清
(72)【発明者】
【氏名】河村 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】成田 周星
(72)【発明者】
【氏名】福田 健二
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/106470(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137290(WO,A1)
【文献】特開2017-183247(JP,A)
【文献】特開2018-037630(JP,A)
【文献】特開2017-135058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H05K 1/09
H05K 1/16
C09D 7/61
C09D 7/63
C09D 129/14
C09D 5/24
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末、添加剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、
前記添加剤として、下記の式(1)に示される構造部分を有する化合物を含む、
導電性ペースト。
【化1】
(ただし、R
1は、飽和又は不飽和の炭素数8~25の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH
2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、R
2は、水素、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH
2-)が酸素(-O-)で置換されてもよい。)
【請求項2】
前記化合物が下記式(2)、又は、下記式(3)で示される構造を有する、請求項1に記載の導電性ペースト。
【化2】
【化3】
(ただし、R
1、R
5は、それぞれ独立に、飽和又は不飽和の炭素数8~25の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH
2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、
R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立に、水素、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH
2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、
R
6は、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH
2-)が酸素(-O-)で置換されてもよい。)
【請求項3】
前記化合物が、導電性ペースト全体に対して0.01質量%以上2.0質量%以下含まれる、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記化合物は、熱重量分析における重量減少速度が最大となる温度が200℃以上である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記化合物の分子量が250以上3000以下である請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
さらに、酸系分散剤及び/又は塩基系分散剤を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記導電性粉末は、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu及びこれらの合金から選ばれる少なくとも1種の金属粉末を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
前記導電性粉末は、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項9】
前記バインダー樹脂が、ブチラール系樹脂を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項10】
さらに、セラミック粉末を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項11】
前記セラミック粉末が、チタン酸バリウムを含む、請求項10に記載の導電性ペースト。
【請求項12】
前記セラミック粉末は、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下である、請求項10に記載の導電性ペースト。
【請求項13】
前記セラミック粉末は、導電性ペースト全体に対して1質量%以上20質量%以下含まれる、請求項10に記載の導電性ペースト。
【請求項14】
積層セラミック部品の内部電極用である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の導電性ペーストを用いて形成された電子部品。
【請求項16】
誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、
前記内部電極層は、請求項14に記載の導電性ペーストを用いて形成された積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト、電子部品、及び積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器などの電子機器の小型化及び高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサなどを含む電子部品についても小型化及び高容量化が望まれている。積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の内部電極層とが交互に積層した構造を有し、これらの誘電体層及び内部電極層を薄膜化することにより、小型化及び高容量化を図ることができる。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、例えば、次のように製造される。まず、チタン酸バリウム(BaTiO3)などの誘電体粉末及びバインダー樹脂を含有するグリーンシートの表面上に、内部電極用の導電性ペーストを、所定の電極パターンで印刷し、乾燥して、乾燥膜(導電膜)を形成する。次いで、乾燥膜とグリーンシートとを、交互に重なるように積層して、積層体を得る。次に、この積層体を、加熱圧着して一体化し、圧着体を形成する。この圧着体を切断し、酸化性雰囲気又は不活性雰囲気中にて脱有機バインダー処理を行った後、焼成を行い、焼成チップを得る。次いで、焼成チップの両端部に外部電極用ペーストを塗布し、焼成後、外部電極表面にニッケルメッキなどを施して、積層セラミックコンデンサが得られる。
【0004】
乾燥膜とグリーンシートとを積み重ねて形成された積層体を、加熱圧着、及び切断する工程において、乾燥膜とグリーンシート(基材)との密着性が不十分である場合、乾燥膜(導電膜)がグリーンシート(基材)から剥離したり、層構造がずれたりして、得られる積層セラミックコンデンサが所望の電気的特性を有しないことがある。
【0005】
例えば、特許文献1では、バインダ樹脂として(メタ)アクリル樹脂を含む導電性ペーストの、セラミックグリーンシートに対する密着性を向上させることを目的として、バインダ樹脂としての(メタ)アクリル樹脂、有機溶剤、及び金属粉末を含む、導電性ペーストであって、(メタ)アクリル樹脂は、ガラス転移点Tgが-60℃~120℃の範囲にあり、分子中のヒドロキシ基が0.01質量%~5質量%の範囲にあり、酸価が1mgKOH/g~50mgKOH/gの範囲にあり、重量平均分子量が10000Mv~350000Mvの範囲にある、導電性ペーストが開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、基材との密着性に優れた導電膜を形成することができる導電性ペーストを提供することを目的として、基材上に電極層を形成するための導電性ペーストであって、導電性粉末と、樹脂バインダーと、有機添加剤と、有機溶剤とを含み、前記有機添加剤は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、数平均分子量が1000以下である(メタ)アクリレート化合物を含む、導電性ペーストが開示されている。
【0007】
また、特許文献3では、誘電体層との密着性に優れ且つ熱処理の前後で形状が大きく変化しない内部電極を形成することが可能な内部電極用乾燥膜を提供することを目的として、導電性粉末と有機バインダ樹脂とを含有する組成物で形成された、積層セラミックコンデンサの内部電極用乾燥膜であって、ビッカース硬度が47Hv以上51Hv以下であることを特徴とする積層セラミックコンデンサの内部電極用乾燥膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2013/187183号
【文献】特開2018-055933号公報
【文献】特開2019-121744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、生産性の向上やコスト削減の観点から、積層セラミックコンデンサの製造工程において、乾燥膜とセラミックグリーンシートとを交互に積層して得られた積層体を加熱圧着する際に圧着時のプレス時間の短縮や圧力を低くすることがある。
【0010】
しかしながら、圧着時のプレス時間の短縮や圧力を低くした場合、従来の導電性ペーストでは乾燥膜と基材との間で十分な密着性が得られずに、乾燥膜の位置ずれが生じ、収率の低下を招くことがある。そのため、乾燥膜を形成した際に基材との密着性をより向上させることができる導電性ペーストが求められている。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑み、基材との密着性をより向上させることができる導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様では、導電性粉末、添加剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、添加剤として、下記の式(1)に示される構造部分を有する化合物を含む、導電性ペーストが提供される。
【0013】
【0014】
ただし、上記式(1)において、R1は、飽和又は不飽和の炭素数8~25の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、R2は、水素、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)で置換されてもよい。
【0015】
また、上記化合物が下記式(2)、又は、下記式(3)で示される構造を有することが好ましい。
【0016】
【0017】
【0018】
ただし、上記式(2)、(3)において、R1、R5は、それぞれ独立に、飽和又は不飽和の炭素数8~25の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、R2、R3、R4は、それぞれ独立に、水素、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、R6は、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)で置換されてもよい。)
【0019】
また、上記化合物が、導電性ペースト全体に対して0.01質量%以上2.0質量%以下含まれることが好ましい。また、上記化合物は、熱重量分析における重量減少速度が最大となる温度が200℃以上であることが好ましい。また、上記化合物の分子量が250以上3000以下であることが好ましい。導電性ペーストは、さらに、酸系分散剤及び/又は塩基系分散剤を含むことが好ましい。また、導電性粉末は、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu及びこれらの合金から選ばれる少なくとも1種の金属粉末を含むことが好ましい。また、導電性粉末は、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下であることが好ましい。また、バインダー樹脂が、ブチラール系樹脂を含むことが好ましい。また、導電性ペーストは、さらに、セラミック粉末を含むことが好ましい。また、セラミック粉末が、チタン酸バリウムを含むことが好ましい。また、セラミック粉末は、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましい。また、セラミック粉末は、導電性ペースト全体に対して1質量%以上20質量%以下含まれることが好ましい。また、導電性ペーストは、積層セラミック部品の内部電極用であることが好ましい。
【0020】
本発明の第2の態様では、上記導電性ペーストを用いて形成された電子部品が提供される。
【0021】
本発明の第3の態様では、誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、内部電極層は、上記導電性ペーストを用いて形成された積層セラミックコンデンサが提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の導電性ペーストは、基材との密着性をより向上させることができる。また、積層セラミックコンデンサの製造工程において、本発明の導電性ペーストを用いて形成される乾燥膜(内部電極層)は、グリーンシート(誘電体層)との高い密着性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを示す斜視図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[導電性ペースト]
本実施形態の導電性ペーストは、導電性粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む。以下、各成分について詳細に説明する。
【0025】
(導電性粉末)
導電性粉末としては、特に限定されず、金属粉末を用いることができ、例えば、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、及びこれらの合金から選ばれる1種以上の粉末を用いることができる。これらの中でも、導電性、耐食性及びコストの観点から、Ni、又はその合金の粉末(以下、「Ni粉末」と称する場合がある)が好ましい。Ni合金としては、例えば、Mn、Cr、Co、Al、Fe、Cu、Zn、Ag、Au、Pt及びPdからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素とNiとの合金が用いることができる。Ni合金におけるNiの含有量は、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上である。また、Ni粉末は、脱バインダー処理の際、バインダー樹脂の部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するために、数百ppm程度の元素Sを含んでもよい。
【0026】
導電性粉末の平均粒径は、好ましくは0.05μm以上1.0μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。導電性粉末の平均粒径が上記範囲である場合、薄膜化した積層セラミックコンデンサ(積層セラミック部品)の内部電極用ペーストとして好適に用いることができる。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率10,000倍にて観察した画像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値(SEM平均粒径)である。
【0027】
導電性粉末の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは30質量%以上70質量%未満であり、より好ましくは40質量%以上60質量%以下である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0028】
(セラミック粉末)
セラミック粉末としては、特に限定されず、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極用ペーストである場合、適用する積層セラミックコンデンサの種類により適宜、公知のセラミック粉末が選択される。セラミック粉末としては、例えば、Ba及びTiを含むペロブスカイト型酸化物を用いることができ、好ましくはチタン酸バリウム(BaTiO3)を含む。
【0029】
セラミック粉末としては、チタン酸バリウムを主成分とし、酸化物を副成分として含むセラミック粉末を用いてもよい。酸化物としては、Mn、Cr、Si、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、Nb及び1種類以上の希土類元素の酸化物が挙げられる。また、セラミック粉末としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のBa原子やTi原子を他の原子、例えば、Sn、Pb、Zrなどで置換したペロブスカイト型酸化物強誘電体のセラミック粉末を用いてもよい。
【0030】
内部電極用の導電性ペーストとして用いる場合、セラミック粉末は、積層セラミックコンデンサ(電子部品)のグリーンシートを構成する誘電体セラミック粉末と同一組成の粉末を用いてもよい。これにより、焼結工程における誘電体層と内部電極層との界面での収縮のミスマッチによるクラック発生が抑制される。このようなセラミック粉末としては、上記以外に、例えば、ZnO、フェライト、PZT、BaO、Al2O3、Bi2O3、R(希土類元素)2O3、TiO2、Nd2O3などの酸化物が挙げられる。なお、セラミック粉末は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0031】
セラミック粉末の平均粒径は、例えば、0.01μm以上0.5μm以下であり、好ましくは0.01μm以上0.3μm以下の範囲である。セラミック粉末の平均粒径が上記範囲であることにより、内部電極用ペーストとして用いた場合、十分に細く薄い均一な内部電極を形成することができる。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率50,000倍にて観察した映像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値(SEM平均粒径)である。
【0032】
セラミック粉末の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上15質量%以下である。セラミック粉末の含有量が上記範囲である場合、分散性及び焼結性に優れる。
【0033】
また、セラミック粉末の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上30質量部以下である。
【0034】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、ブチラール系樹脂を含むことが好ましい。また、内部電極用ペーストとして用いる場合、グリーンシートとの接着強度を向上させる観点から、ブチラール系樹脂を含んでもよく、又は、ブチラール系樹脂を単独で使用してもよい。ブチラール系樹脂としては、ポリビニルブチラール(PVB)が挙げられる。導電性ペーストがブチラール系樹脂を含む場合、グリーンシートとの接着強度をより向上させることができる。
【0035】
ブチラール系樹脂の含有量は、例えば、バインダー樹脂全体に対して、20質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよい。ブチラール系樹脂の含有量が上記範囲である場合、接着性がより向上し、乾燥膜とグリーンシート(基材)との接着強度が向上する。
【0036】
また、ブチラール系樹脂の含有量の上限は、特に限定されないが、例えば、バインダー樹脂全体に対して、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。ブチラール系樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性ペーストが適度な硬度を有するため、印刷膜が支持フィルムから剥がれなくなる、熱圧着時に電極がつぶれる等の不具合の発生が起こりにくくなる。
【0037】
また、ブチラール系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、3万以上30万以下であってもよく、5万以上20万以下であってもよく、10万以上15万以下であってもよい。また、ブチラール樹脂のガラス転移点Tgは、50℃以上90℃以下であってもよく、60℃以上80℃以下であってもよい。上記特性を有するブチラール系樹脂とあわせて、後述する添加剤を含むことにより、密着性がより向上した導電性ペーストを得ることができる。なお、ブチラール系樹脂は、1種を単独で用いてもいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
また、ブチラール系樹脂以外の樹脂をバインダー樹脂として含んでもよい。上記以外のバインダー樹脂としては、特に限定されず、公知の樹脂を用いることができ、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。中でも、溶剤への溶解性、燃焼分解性の観点などから、セルロース系樹脂を含むことが好ましく、エチルセルロースを含むことがより好ましい。
【0039】
例えば、バインダー樹脂としてセルロース系樹脂を含む場合、重量平均分子量(Mw)は、1万以上30万以下であってもよく、3万以上25万以下であってもよく、5万以上20万以下であってもよい。また、セルロース系樹脂の水酸基価は、特に限定されないが、好ましくは0.1mgKOH/g以上15mgKOH/g以下であり、より好ましくは0.5mgKOH/g以上7mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは1.5mgKOH/g以上3mgKOH/g以下である。なお、セルロース系樹脂は、1種単独で含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0040】
また、バインダー樹脂が、セルロース系樹脂及びブチラール系樹脂を含む場合、密着性を向上させるという観点から、セルロース系樹脂及びブチラール系樹脂の合計含有量(100質量%)に対して、ブチラール系樹脂を20質量%以上含んでもよく、40質量%以上含んでもよく、50質量%超含んでもよく、60質量%以上含んでもよい。両樹脂の含有量が上記範囲である場合、接着性がより向上し、乾燥膜とグリーンシート(基材)との接着強度が向上することがある。また、ブチラール系樹脂の含有量の上限は特に限定されず、100質量%未満であってもよく、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。両樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性ペーストが適度な硬度を有することができ、印刷膜が支持フィルムから剥がれなくなる、熱圧着時に電極がつぶれる等の不具合の発生が起こりにくくなる。
【0041】
バインダー樹脂の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上7質量%以下である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0042】
バインダー樹脂の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上14質量部以下である。
【0043】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、特に限定されず、バインダー樹脂を溶解することができる公知の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えば、テルペン系溶剤、アセテート系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤などが挙げられる。
【0044】
テルペン系溶剤としては、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテートなどが挙げられる。
【0045】
アセテート系溶剤としては、イソボルニルアセテート、イソボルニルプロピネート、イソボルニルブチレート及びイソボルニルイソブチレートなど、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3-メトキシー3-メチルブチルアセテート、1-メトキシプロピル-2-アセテートなどのグリコールエーテルアセテート類、プロピレングリコールジアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテートなどのグリコールジアセテート類、シクロヘキサノールアセテートなどが挙げられる。
【0046】
エーテル系溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテルなどのエチレングリコールエーテル類、ジプロピレングリコールメチルーn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルーn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。
【0047】
ケトン系溶剤としては、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどが挙げられる。ケトン系溶剤を含む場合、分散性を損なうことなく、粘度の調整が可能であり、かつ乾燥性を向上することができる。
【0048】
有機溶剤としては、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの有機溶剤を含むことにより、バインダー樹脂との相溶性に優れ、かつ、フィラーの分散性に優れる。
【0049】
有機溶剤(全体)の含有量は、導電性ペースト全量に対して、20質量%以上60質量%以下が好ましく、25質量%以上45質量%以下がより好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0050】
有機溶剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは50質量部以上130質量部以下であり、より好ましくは60質量部以上90質量部以下である。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0051】
また、有機溶剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。例えば、有機溶剤として、2種類以上を含む場合、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも1種と、炭化水素系溶剤とを含んでもよい。また、これらの有機溶剤とあわせて、メチルイソブチルケトン、及びジイソブチルケトンから選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0052】
炭化水素系溶剤としては、例えば、トリデカン、ノナン、シクロヘキサンなどを含む溶剤、ミネラルスピリット、ナフテン系溶剤などが挙げられる。中でも、ミネラルスピリットを含むことが好ましい。炭化水素系溶剤の含有量は、有機溶剤全体に対して、10質量%以上50質量%以下であってもよく、20質量%以上40質量%以下であってもよい。
【0053】
(添加剤)
(a)アミド化合物
本実施形態に係る導電性ペーストは、添加剤として、下記の式(1)に示される構造部分を有する化合物(以下、「アミド化合物」ともいう)を含む。
【0054】
【0055】
上記式(1)において、R1は、飽和又は不飽和の炭素数8~25の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、R2は、水素、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)で置換されてもよい。なお、アミド化合物は、酸性基(例、カルボキシル基)を含まないものであってもよい。酸性基を含む場合、乾燥膜の軟化効果が低下することがある。
【0056】
また、アミド化合物は、下記構造式(2)又は下記構造式(3)で示される構造を有することが好ましい。
【0057】
【0058】
【0059】
上記式(2)、(3)において、R1、R5は、それぞれ独立に、飽和又は不飽和の炭素数8~25の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、R2、R3、R4は、それぞれ独立に、水素、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、R6は、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)で置換されてもよい。なお、R1~R6の炭素数は、酸素(-O-)に置換されたメチレン(-CH2-)の炭素の数を含む。
【0060】
導電性ペーストが上記アミド化合物を含む場合、乾燥膜の密着性を向上させることができる。この理由の詳細は不明であるが、例えば、上記アミド化合物が樹脂同士の相互作用を阻害することで乾燥膜が適度に軟化し、軟化により変形しやすくなった乾燥膜や、相互作用を生じなかった樹脂等により、接着界面での絡み合いが生じやすくなるため、乾燥膜とセラミックグリーンシート(誘電体層)との密着性が向上する、と考えられる。
【0061】
上記式(1)~(3)において、R1及びR5の炭素数の下限は、それぞれ独立に、8以上であってもよく、12以上であってもよく、15以上であってもよい。また、R1とR5の炭素数は同じであってもよい。
【0062】
また、R1及びR5は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)に置換されてもよく、無置換の脂肪族炭化水素基であってもよい。また、R1とR5は、同様の構造を有してもよい。
【0063】
上記式(1)~(3)において、R2、R3、R4は炭素数の上限は、5以下であってもよく、3以下であってもよい。また、R2、R3、R4は、無置換の脂肪族炭化水素基であってもよく、例えば、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)に置換されてもよく、水素であってもよい。
【0064】
上記式(3)において、R6の炭素数の上限は、5以下であってもよく、3以下であってもよく、2以下であってもよい。また、R6は、1以上のメチレン(-CH2-)が酸素(-O-)に置換されてもよく、無置換の飽和炭化水素基であってもよい。
【0065】
上記アミド化合物の熱重量分析における重量減少速度が最大となる温度(最大熱分解温度)が、例えば、200℃以上であってもよく、220℃以上であってもよく、250℃以上であることが好ましい。沸点又は熱分解温度が上記範囲である場合、積層体のデラミネーションやクラックを抑えられる。また、沸点又は熱分解温度の上限は特に限定されないが、例えば、450℃以下であってもよく、400℃以下であってもよく、350℃以下であってもよい。
【0066】
なお、最大熱分解温度とは、以下の方法で熱重量測定(TG)法により求めた値である。すなわち、熱分解重量測定装置(ネッチ製、STA25000REGULUS)を用い、窒素雰囲気下、20℃から550℃まで昇温速度5℃/分で昇温し、その際の重量減量を測定した際、微分加熱減量が最も大きくなる温度を最大熱分解温度とした。
【0067】
上記アミド化合物の分子量は、250以上3000以下であることが好ましく、250以上1000以下であることがより好ましく、250以上500以下であることがさらに好ましい。上記アミド化合物の分子量が上記範囲である場合、セラミックグリーンシート(誘電体層)との密着性がより向上する。
【0068】
また、上記アミド化合物の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは0.01質量%以上1.0質量%以下である。上記アミド化合物の含有量が上記範囲である場合、乾燥膜とセラミックグリーンシート(誘電体層)との密着性が向上する。また、アミド化合物の含有量の下限は、より密着性を向上させるという観点から、導電性ペースト全体に対して、0.05質量%以上であってもよく、0.1質量%以上であってもよい。また、アミド化合物の含有量の上限は、0.7質量%以下であってもよく、0.4質量%以下であってもよい。
【0069】
アミド化合物の含有量の上限は2質量%以下であってっもよく、1.8質量%以下であってもよく、1.5質量%以下であってもよく、1.0質量%以下であってもよく、1.0質量%未満であってもよい。アミド化合物の含有量が1.0質量%を超えた場合、密着性は向上するものの、乾燥膜とセラミックグリーンシートとの積層体の圧着体を脱バインダー処理する際に、熱分解してガスが発生することがある。アミド化合物の含有量は、上記の範囲内で、使用環境などに応じて適宜調整することができる。
【0070】
また、アミド化合物の含有量は、上記バインダー樹脂の種類及び含有量に応じて、適宜設定することができる。例えば、アミド化合物の含有量は、ブチラール系樹脂の含有量に応じて設定してもよい。例えば、ブチラール系樹脂100質量部に対して、アミド化合物を10質量部以上90質量部以下含有してもよく、10質量部以上60質量部以下であってもよく、10質量部以上50質量部以下であってもよい。
【0071】
(b)分散剤
導電性ペーストが分散剤を含む場合、導電性粉末及びセラミック粉末の分散性を向上することができる。分散剤としては、例えば、酸系分散剤、塩基系分散剤、非イオン系分散剤、両性分散剤などを含んでもよく、酸系分散剤及び塩基系分散剤の少なくとも一方を含むことが好ましく、酸系分散剤を含むことがより好ましい。なお、これらの分散剤は、1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0072】
酸系分散剤としては、高級脂肪酸などのカルボン酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、高分子界面活性剤等の酸性基を有する酸系分散剤などを含んでもよく、ポリカルボン酸系分散剤及びリン酸系分散剤の少なくとも一方を含むことが好ましい。また、ポリカルボン酸系分散剤は、くし形構造を有するくし形カルボン酸であってもよい。
【0073】
高級脂肪酸としては、不飽和カルボン酸でも飽和カルボン酸でもよく、特に限定されるものではないが、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸など炭素数11以上のものが挙げられる。中でもオレイン酸、又はステアリン酸が好ましい。
【0074】
また、酸系分散剤としては、例えば、グリシンとオレイン酸の化合物であるオレオイルザルコシンや、オレイン酸の代わりにステアリン酸あるいはラウリン酸などの高級脂肪酸を用いたアミド化合物であるアルキルモノアミン塩型であってもよい。
【0075】
また、導電性粉末とセラミック粉末との分離抑制効果をより向上させるという観点から、ジカルボン酸を含んでもよい。ジカルボン酸は、2つのカルボキシル基(COO-基)を有するカルボン酸である。また、ジカルボン酸の平均分子量は、特に限定されないが、例えば、200以上1000以下であってもよい。
【0076】
塩基系分散剤としては、例えば、ラウリルアミン、ロジンアミン、セチルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミンなどの脂肪族アミンなどが挙げられる。導電性ペーストは、上記の酸系分散剤と塩基系分散剤とを含有する場合、より分散性に優れ、経時的な粘度安定性にも優れることがある。
【0077】
分散剤は、導電性ペースト全体に対して、例えば、0.01質量%以上3質量%以下含有される。分散剤の含有量の上限を含む範囲は、2質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく、0.5質量%以下であってもよい。分散剤の含有量が上記範囲である場合、導電性ペーストの分散性を向上させたり、にシートアタックやグリーンシートの剥離不良を抑制したりすることができる。
【0078】
(c)その他の添加剤
本実施形態の導電性ペーストは、必要に応じて、上記の成分以外のその他の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤としては、例えば、消泡剤、可塑剤、界面活性剤、増粘剤などの従来公知の添加物を用いることができる。
【0079】
(導電性ペースト)
本実施形態に係る導電性ペーストの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。導電性ペーストは、例えば、上記の各成分を、3本ロールミル、ボールミル、ミキサーなどで攪拌・混練することにより製造することができる。
【0080】
本実施形態に係る導電性ペーストは、上記アミド化合物を含むことにより、乾燥膜とグリーンシートとの密着性を向上させることができ、この密着性向上の一因として、上述したように、アミド化合物が樹脂同士の相互作用を阻害することで乾燥膜を適度に軟化(ガラス転移点Tgを低下)させて、変形しやすくなることが考えられる。
【0081】
例えば、導電性ペースト中の導電性粉末及びセラミック粉末を除いた成分を120℃、40分乾燥して、有機溶剤を除去した乾燥体(評価用サンプル)を用意した場合、この乾燥体のガラス転移点Tgは、上記アミド化合物を含まないこと以外は、同様の条件で形成された乾燥体のガラス転移点Tg’よりも低下することが好ましい。上記アミド化合物は、TgがTg’と比較して、10℃以上、14℃以上、20℃以上、25℃以上、又は30℃以上、低下させるものであってもよい。例えば、乾燥体のガラス転移点Tgは、60℃以下であってもよく、55℃以下であってもよく、50℃以下であってもよい。なお、ガラス転移点Tgの下限は、例えば、30℃以上である。
【0082】
なお、導電性ペーストがバインダー樹脂として、2種類以上の樹脂を含有する場合、含まれる樹脂に応じて、複数のガラス転移点Tgが測定されることがあるが、本明細書における評価用サンプルのガラス転移点Tgは、最も低温領域におけるガラス転移点Tgを示す。また、上記乾燥体(評価用サンプル)のガラス転移点Tgは、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0083】
また、導電性ペーストを基材の表面に塗布し、75℃、20分で乾燥して、乾燥膜を形成した場合、室温における乾燥膜表面のビッカース硬度が10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。なお、ビッカース硬度(室温)の下限は、例えば、3.5以上である。
【0084】
また、60℃における乾燥膜表面のビッカース硬度が8以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。なお、ビッカース硬度(60℃)の下限は、例えば、3以上である。なお、乾燥膜はビッカース硬度(60℃)の測定の際、予め測定する乾燥膜を60℃、3分放置して状態調節することが望ましい。
【0085】
導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサなどの電子部品に好適に用いることができ、特に、積層セラミックコンデンサの内部電極用のペーストとして好適に用いることができる。導電性ペーストを内部電極用のペーストとして用いる場合、導電性ペーストの粘度は、せん断速度100(s-1)において、例えば、0.2Pa・S以上30Pa・S以下程度の粘度とすることができる。
【0086】
[積層セラミックコンデンサ]
以下、本発明の積層セラミックコンデンサの実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面においては、適宜、模式的に表現することや、縮尺を変更して表現することがある。また、部材の位置や方向などを、適宜、
図1などに示すXYZ直交座標系を参照して説明する。このXYZ直交座標系において、X方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向(上下方向)である。
【0087】
図1A及びBは、積層セラミックコンデンサ1を示す図である。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層12及び内部電極層11を交互に積層したセラミック積層体10と外部電極20とを備える。
【0088】
以下、上記導電性ペーストを内部電極用のペーストとして使用した積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。まず、セラミックグリーンシート上に、導電性ペーストを印刷し、乾燥して、乾燥膜を形成する。この乾燥膜を上面に有する複数のセラミックグリーンシートを、圧着により積層させて積層体を得た後、積層体を焼成して一体化することにより、内部電極層11と誘電体層12とが交互に積層したセラミック積層体10を作製する。その後、セラミック積層体10の両端部に一対の外部電極20を形成することにより積層セラミックコンデンサ1が製造される。以下に、より詳細に説明する。
【0089】
まず、未焼成のセラミックシートであるグリーンシートを用意する。このグリーンシートとしては、例えば、チタン酸バリウム等の所定のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等のバインダー樹脂とターピネオール等の溶剤とを加えて得た誘電体層用ペーストを、PETフィルム等の支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したものが挙げられる。なお、グリーンシートからなる誘電体層の厚みは、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサの小型化の要請の観点から、0.05μm以上3μm以下が好ましい。
【0090】
次いで、グリーンシートの片面に、上述の導電性ペーストを印刷して塗布し、乾燥して、グリーンシートの片面に乾燥膜を形成したものを複数枚、用意する。なお、導電性ペーストから形成される乾燥膜の厚みは、内部電極層11の薄層化の要請の観点から、乾燥後1μm以下とすることが好ましい。
【0091】
次いで、支持フィルムから、グリーンシートを剥離するとともに、グリーンシートとその片面に形成された乾燥膜とが交互に配置されるように積層した後、加熱・加圧処理により積層体を得る。なお、積層体の両面に、導電性ペーストを塗布していない保護用のセラミックグリーンシートを更に配置する構成としても良い。
【0092】
次いで、積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを形成した後、グリーンチップに対して脱バインダー処理を施し、還元雰囲気下において焼成することにより、積層セラミック焼成体(セラミック積層体10)を製造する。なお、脱バインダー処理における雰囲気は、大気又はN2ガス雰囲気にすることが好ましい。脱バインダー処理を行う際の温度は、例えば200℃以上400℃以下である。また、脱バインダー処理を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、焼成は、内部電極層に用いる金属の酸化を抑制するために還元雰囲気で行われ、また、積層体の焼成を行う際の温度は、例えば、1000℃以上1350℃以下であり、焼成を行う際の、温度の保持時間は、例えば、0.5時間以上8時間以下である。
【0093】
グリーンチップの焼成を行うことにより、セラミックグリーンシート中の有機バインダーが完全に除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、セラミック製の誘電体層12が形成される。また乾燥膜中の有機ビヒクルが除去されるとともに、ニッケル粉末又はニッケルを主成分とする合金粉末が焼結もしくは溶融、一体化されて、内部電極層11が形成され、誘電体層12と内部電極層11とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体が形成される。なお、酸素を誘電体層の内部に取り込んで信頼性を高めるとともに、内部電極の再酸化を抑制するとの観点から、焼成後の積層セラミック焼成体に対して、アニール処理を施してもよい。
【0094】
そして、作製した積層セラミック焼成体に対して、一対の外部電極20を設けることにより、積層セラミックコンデンサ1が製造される。例えば、外部電極20は、外部電極層21及びメッキ層22を備える。外部電極層21は、内部電極層11と電気的に接続する。なお、外部電極20の材料としては、例えば、銅やニッケル、又はこれらの合金が好適に使用できる。なお、電子部品として、積層セラミックコンデンサ以外の電子部品を用いることもできる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例と比較例に基づき詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0096】
[評価方法]
(密着性評価)
予め作製しておいたチタン酸バリウム及びポリビニルブチラールを含有するグリーンシートの表面に、導電性ペースト(試料)を塗布し、WET膜厚35μmの導電性ペースト膜を形成した。得られたグリーンシート及びその表面に形成した内部電極用の導電性ペースト膜からなるシートを75℃で20分間、乾燥処理し、グリーンシート上に乾燥膜を形成した。乾燥させたシート(乾燥膜-グリーンシート)と、別のグリーンシートとを、導電性ペーストを塗布した面をグリーンシートで挟み込む形で、重ねた後、温度40℃、圧力20MPaで20秒間プレスを行う事で積層体(評価用)を作成した。
【0097】
得られた積層体を1cm角で切断後、テープを用いて積層体の両面をそれぞれ引張試験機(株式会社島津製作所製、AGS-50NX)の治具にセットした後、引張試験を行った。試験速度20mm/minで、破断する力(グリーンシートから乾燥膜を剥離する力)を記録した。比較例1の破断する力を100%として、それぞれの破断する力を%で評価した。
【0098】
(硬度測定)
密着性評価と同様の条件で作製した導電性ペースト膜(乾燥膜)を形成したグリーンシートの表面(乾燥膜側)を、マイクロビッカース硬度計(株式会社島津製作所製、HMV-G21DT)を用いて、試験力98mNの条件で表面のビッカース硬度をn=5点で計測し、それらの平均値を求めた。硬度測定は、サンプルをガラス基板に貼り付け、硬度計の試料台である加熱ステージ上に置き、加熱なしの室温(25℃)及び、60℃に加熱した状態でそれぞれ行った。なお、ビッカース硬度(60℃)の測定の際は、予め測定する乾燥膜を60℃、3分間放置して状態調節した後、60℃で加熱した状態のまま測定した。
【0099】
(ガラス転移点Tgの測定)
導電性ペーストに含まれる成分のうち、導電性粉末及びセラミック粉末を除いた成分、すなわち、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、添加剤、及び、有機溶剤を、導電性ペーストに含まれる量と同様となるように秤量し、自公転ミキサー(シンキー製、ARE-310)を用いて、2000rpm、4分間混合した後、得られた液体(混合物)をPETフィルム上にアプリケータを用いてwet膜厚254μmで塗布し、120℃、40分乾燥して、評価用のサンプルを得た。なお、混合物中の有機溶剤は、乾燥の際に除去される。
【0100】
示差走査熱量計(ネッチ・ジャパン株式会社、DSC3100)を用い、乾燥させた評価用のサンプル10mgをアルミ製のパンに入れ、100mL/分の窒素気流下において、0℃から140℃まで昇温速度10℃/分で昇温させて得られる吸熱カーブのピークから、低温領域側のガラス転移点Tgを求めた。
【0101】
(熱分解温度測定)
導電性ペーストに用いた添加剤の熱分解温度は、熱分解重量測定装置(ネッチ製、STA25000REGULUS)を用いて、測定した。測定温度雰囲気は窒素下で、測定温度範囲として20℃から550℃まで昇温速度5℃/分で昇温した。微分加熱減量が最も大きくなる温度、すなわち熱重量分析における重量減少速度が最大となる温度を熱分解温度(最大熱分解温度)とした。
【0102】
[使用材料]
(導電性粉末)
導電性粉末としては、Ni粉末(SEM平均粒径0.2μm)を使用した。
【0103】
(セラミック粉末)
セラミック粉末としては、チタン酸バリウム(BaTiO3;SEM平均粒径0.10μm)を使用した。
【0104】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、エチルセルロース樹脂(EC)を使用した。
【0105】
(分散剤)
実施例及び比較例において、共通に含有する分散剤(添加剤)として、酸系分散剤であるポリカルボン酸系分散剤を用いた。
【0106】
(添加剤)
アミド化合物として、以下の化合物(4)(上記構造式(2)の化合物)、(5)(上記構造式(3)の化合物)を用いた。
【0107】
【0108】
【0109】
比較例として、以下の添加剤を用いた。
・添加剤a:グラフト鎖としてポリオキシアルキレンを有するポリカルボン酸
・添加剤b:オキシエチレンラウリルアミン(ポリエーテルアミン)
・添加剤c:ジカルボン酸
【0110】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、ジヒドロターピネオール(DHT)及びミネラルスピリット(MSA)を用いた。
【0111】
[実施例1]
導電性粉末49質量%、セラミック粉末12質量%、酸系分散剤0.15質量%、式(4)の添加剤0.3質量%、バインダー樹脂2.5質量%(PVB:EC=7:3(質量比))、及び、残部として有機溶剤(DHT:MSA=60:40(質量比))を添加して、全体として100質量%となるよう配合し、これらの材料を混合して導電性ペーストを作製した。導電性ペーストの各材料の含有量、及び、評価結果を表1に示す。
【0112】
[実施例2~5、比較例1~4]
添加剤の種類及び含有量を表1に示されるように変更した以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを作製して、評価した。導電性ペーストの各材料の含有量、及び、評価結果を表1に示す。
【0113】
【0114】
(評価結果)
実施例1~5の導電性ペーストは、式(1)又は(2)で示されるアミド化合物を含まない、比較例1~4の導電性ペーストと比較して、低温領域のガラス転移点(Tg)が低下し、ビッカース硬度が低下し、密着性が向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の導電性ペーストを積層セラミックコンデンサの内部電極の形成に用いた場合、信頼性の高い積層セラミックコンデンサを生産性高く得ることができる。よって、本発明の導電性ペーストは、特に携帯電話やデジタル機器などの小型化が進む電子機器のチップ部品である積層セラミックコンデンサの内部電極用として好適に用いることができる。
【0116】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。また、法令で許容される限りにおいて、日本特許出願である特願2022-052666の内容を援用して本文の記載の一部とする。
【0117】
本発明の実施形態は、以下の構成を含むことができる。
【0118】
〔1〕導電性粉末、添加剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、
前記添加剤として、下記の式(1)に示される構造部分を有する化合物を含む、
導電性ペースト。
【化9】
(ただし、R
1は、飽和又は不飽和の炭素数8~25の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH
2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、R
2は、水素、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH
2-)が酸素(-O-)で置換されてもよい。)
【0119】
〔2〕前記化合物が下記式(2)、又は、下記式(3)で示される構造を有する、〔1〕に記載の導電性ペースト。
【化10】
【化11】
(ただし、R
1、R
5は、それぞれ独立に、飽和又は不飽和の炭素数8~25の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH
2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、
R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立に、水素、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH
2-)が酸素(-O-)で置換されてもよく、
R
6は、飽和又は不飽和の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基を表し、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、又は分岐鎖状であってもよく、前記脂肪族炭化水素基は、1以上のメチレン(-CH
2-)が酸素(-O-)で置換されてもよい。)
【0120】
〔3〕前記化合物が、導電性ペースト全体に対して0.01質量%以上2.0質量%以下含まれる、〔1〕又は〔2〕に記載の導電性ペースト。
【0121】
〔4〕前記化合物は、熱重量分析における重量減少速度が最大となる温度が200℃以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の導電性ペースト。
【0122】
〔5〕前記化合物の分子量が250以上3000以下である〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の導電性ペースト。
【0123】
〔6〕さらに、酸系分散剤及び/又は塩基系分散剤を含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の導電性ペースト。
【0124】
〔7〕前記導電性粉末は、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu及びこれらの合金から選ばれる少なくとも1種の金属粉末を含む、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の導電性ペースト。
【0125】
〔8〕前記導電性粉末は、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下である、〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の導電性ペースト。
【0126】
〔9〕前記バインダー樹脂が、ブチラール系樹脂を含む、〔1〕~〔8〕のいずれか1つに記載の導電性ペースト。
【0127】
〔10〕さらに、セラミック粉末を含む、〔1〕~〔9〕のいずれか1つに記載の導電性ペースト。
【0128】
〔11〕前記セラミック粉末が、チタン酸バリウムを含む、〔10〕に記載の導電性ペースト。
【0129】
〔12〕前記セラミック粉末は、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下である、〔10〕又は〔11〕に記載の導電性ペースト。
【0130】
〔13〕前記セラミック粉末は、導電性ペースト全体に対して1質量%以上20質量%以下含まれる、〔10〕~〔12〕のいずれか1つに記載の導電性ペースト。
【0131】
〔14〕積層セラミック部品の内部電極用である、〔1〕~〔13〕のいずれか1つに記載の導電性ペースト。
【0132】
〔15〕〔1〕~〔14〕のいずれか1つに記載の導電性ペーストを用いて形成された電子部品。
【0133】
〔16〕誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、
前記内部電極層は、〔14〕に記載の導電性ペーストを用いて形成された積層セラミックコンデンサ。
【符号の説明】
【0134】
1 積層セラミックコンデンサ
10 セラミック積層体
11 内部電極層
12 誘電体層
20 外部電極
21 外部電極層
22 メッキ層