(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】歯科ブランク
(51)【国際特許分類】
A61C 13/083 20060101AFI20250311BHJP
A61C 5/77 20170101ALI20250311BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
A61C13/083
A61C5/77
A61C13/00 Z
(21)【出願番号】P 2025003189
(22)【出願日】2025-01-09
(62)【分割の表示】P 2024206903の分割
【原出願日】2024-11-28
【審査請求日】2025-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2023201448
(32)【優先日】2023-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸床 茂久
(72)【発明者】
【氏名】町田 海里
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-4537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0285429(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0076530(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0050072(US,A1)
【文献】特開2006-142029(JP,A)
【文献】特開2023-9005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 1/00-19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料情報に紐づく特定情報を少なくとも含む情報タグが付された歯科ブランクであり、前記特定情報は、歯科ブランク原料の製造者と歯科ブランクの製造者の間で取り決められた情報であり、なおかつ、前記情報タグは、前記歯科ブランクの端材を回収したときに前記特定情報を読み取られる情報媒体である歯科ブランクの切削加工により生じた端材を加工事業者から回収する回収工程、及び、前記端材に付されている前記情報タグから、前記歯科ブランクの原料製造者と歯科ブランクの製造者の間で取り決められた前記歯科ブランクの材料情報に紐づく特定情報が読みとれる特定端材を選定する選定工程、を含む、歯科ブランクの端材回収方法。
【請求項2】
前記回収工程に先立ち、前記ブランク製造者に歯科ブランクの原料を供給する供給工程を含む、請求項1に記載の歯科ブランクの端材回収方法。
【請求項3】
前記供給工程に先立ち、前記特定情報を取り決める特定情報取決工程を含む、請求項2に記載の歯科ブランクの端材回収方法。
【請求項4】
前記選定工程の後に、前記特定端材を前記特定情報に基づいて再生処理する再生工程を含む、請求項1又は2に記載の歯科ブランクの端材回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯科ブランクに係り、更にはセラミックスの仮焼体からなる歯科ブランク、また更には切削加工後に生じる端材の回収や再生処理が円滑に行えるセラミックスの仮焼体からなる歯科ブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
生体親和性に優れたアルミナやジルコニアなどの焼結体(セラミックス材料)は歯科材料として広く使用されている。セラミックスの中でも、ジルコニアの焼結体は、天然歯に近い審美性と高い機械的強度を兼備するため、クラウン、ブリッジ、インレー、オンレー、アバットメントなどの歯科補綴物として多用されている。
【0003】
焼結体からなる歯科補綴物の作製方法においては、まず、原料粉末を成形して成形体(圧粉体)とし、これを仮焼することで仮焼体(歯科ブランク)が作製される。次いで、仮焼体は、歯科技工所等において切削加工が施され、焼結による熱収縮が考慮された歯科補綴物の形状が付与される。その後、仮焼体を焼結して焼結体(歯科補綴物)とし、微調整が施されて、最終的に患者に装着される。
【0004】
ところで、産業廃棄物削減や環境負荷低減等の観点から、セラミックス材料のリサイクル需要が高まっている。セラミックス材料のリサイクル方法として、例えば、ジルコニアの焼結体からなる燃料電池用電解質シートをリサイクルする技術(特許文献1)や、ジルコニアの焼結体からなる粉砕ボールをリサイクルする技術(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-027358号公報
【文献】特開平10-218662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歯科ブランクをはじめとする仮焼体は、焼結処理が施されていないため、リサイクル(特に、水平リサイクルや閉ループリサイクル)に適していると考えられる。しかしながら、特許文献1および2は、いずれも焼結体のリサイクル技術に係り、歯科ブランク、特に切削加工後に発生する歯科ブランクの端材のリサイクル技術ではない。
【0007】
これに加え、歯科ブランクは目的とする歯科補綴物の特性に応じた複数種類が使用される。切削加工後に発生する歯科ブランクの端材は、異なる組成及び種類が混合物であるためリサイクルを前提とする回収自体が困難である。そのため、現状では歯科技工所等の加工事業者において廃棄処分するか、セメント原料に転用する等のカスケードリサイクルの可能性があるに留まっていた。仮に、歯科ブランクの端材が回収できたとしても、水平リサイクルにおいては、回収された個々の端材を組成分析した上で分別することが必須となる。このため、現実的に歯科ブランクの端材は水平リサイクルが不可能であった。
【0008】
本開示は、切削加工により発生する歯科ブランクの端材の回収、及び、水平リサイクルによる再生処理を効率的に円滑に行える歯科ブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は特許請求の範囲の記載のとおりであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] 材料情報に紐づく特定情報を少なくとも含む情報タグが付された歯科ブランクの切削加工により生じた端材を加工事業者から回収する回収工程、及び、前記端材に付されている前記情報タグから、前記歯科ブランクの原料製造者と歯科ブランクの製造者の間で取り決められた前記歯科ブランクの材料情報に紐づく特定情報が読みとれる特定端材を選定する選定工程、を含む、歯科ブランクの端材回収方法。
[2] 前記回収工程に先立ち、前記ブランク製造者に歯科ブランクの原料を供給する供給工程を含む、上記[1]に記載の歯科ブランクの端材回収方法。
[3] 前記供給工程に先立ち、前記特定情報を取り決める特定情報取決工程を含む、上記[2]に記載の歯科ブランクの端材回収方法。
[4] 前記選定工程の後に、前記特定端材を前記特定情報に基づいて再生処理する再生工程を含む、上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の歯科ブランクの端材回収方法。
[5] 前記特定情報が、前記歯科ブランクの原料比率、組成、平均組成、含有元素、色調、色調コード、平均色調及び平均色調コードの群から選ばれる1以上を含む、上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載の歯科ブランクの端材回収方法。
[6] 前記特定情報が、前記歯科ブランクの製造ロット、製造場所、製造年及び回収期限の群から選ばれる1つ以上を含む、上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の歯科ブランクの端材回収方法。
[7] 前記特定情報が、前記歯科ブランクの型番及び製造者の名称の少なくともいずれかを含む、上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の歯科ブランクの端材回収方法。
[8] 前記情報タグが、前記歯科ブランクに2以上付される、上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載の歯科ブランクの端材回収方法。
[9] 前記情報タグが、前記歯科ブランクの非切削部位に付される、上記[1]乃至[8]のいずれかひとつに記載の歯科ブランクの端材回収方法。
[10] 前記歯科ブランクが、セラミックスの仮焼体である、上記[1]乃至[9]のいずれかひとつに記載の歯科ブランクの端材回収方法。
[11] 前記歯科ブランクが、ジルコニアの仮焼体である、上記[1]乃至[10]のいずれかひとつに記載の歯科ブランクの端材回収方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、切削加工により発生する歯科ブランクの端材の回収、及び、水平リサイクルによる再生処理を効率的に円滑に行える歯科ブランクが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施形態に係る歯科ブランク10を示す図である。
【
図2】歯科ブランク10の層(色調)を示す断面図である。
【
図5】歯科ブランク10の端材15を示す図である。
【
図6】本開示の実施形態に係る端材回収方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の歯科ブランクについて、その実施形態の一例を示して説明する。なお、以下の説明において開示した各種の構成は、それぞれ、任意に組合せることができ、また、本明細書で開示した数値の上限、下限及び範囲も任意の組合せとすることができる。
[歯科ブランク]
以下、歯科ブランクが、セラミックスの仮焼体からなる歯科ブランク(セラミックスブランク)、更にはジルコニアの仮焼体からなる歯科ブランク(ジルコニアブランク)である例を挙げ、本実施形態の歯科ブランクについて説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る歯科ブランクであり、特に円板形状を有する歯科ブランク(以下、「歯科ディスク」ともいう。)を示す図である。また、
図2は、複数の層からなる歯科ブランク10の断面図を示す図である。
図2において、歯科ブランクは組成の異なる2以上の層(例えば、2以上15以下の層、更には2以上10以下の層、また更には3以上8以下の層)が積層した構造を有する歯科ディスクを示す図であり、当該歯科ブランク10は厚み方向に沿って色調及び透光性の少なくともいずれかが傾斜する層構造を有する歯科ディスクである。
【0014】
図3は、柱状の歯科ブランク(歯科ブロック)20を示す図である。このように、歯科ブランク10は、CAD/CAMによる切削加工が可能な形状を有していればよく、例えば、円板状、円柱状、平板状又は柱状であることが挙げられる。
【0015】
歯科ブランク10は、一対の周縁溝11を備えるものに限らない。情報タグ12は、側周面10sに付される場合に限らない。情報タグ12は、他の非切削部位(端材15として残る部位)に付されていればよい。
【0016】
歯科ブランク10が歯科ディスクである場合のサイズは任意であるが、直径10mm以上100mm以下であり、なおかつ、厚みが3mm以上30mm以下であることが例示でき、直径80mm以上110mm以下、なおかつ、厚み12mm以上20mm以下であることが好ましく直径98mm、厚み16mmであることがより好ましい。
【0017】
CAD/CAM装置への固定を容易にするため、歯科ブランク10は、側周面10sに切削加工時にCAD/CAM装置に把持される把持部(クランプ部)を有することが好ましい。この場合、歯科ブランク10は周縁10eに、一対の周縁溝11を有することが好ましい。この一対の周縁溝11を利用して、歯科ブランク10がCAD/CAM装置に把持することができる。側周面10sは、一対の周縁溝11に挟まれているため、非切削部位となる。但し、切削加工時のCAD/CAM装置への固定ができる構造を有していれば、歯科ブランクは周縁溝11を有さなくてもよい。
【0018】
歯科ブランク10は、ジルコニアブランクであり、これは、主成分がジルコニアであり、なおかつ、副成分として安定化元素及びおよび着色元素を含む歯科ブランクである。
【0019】
歯科ブランク10は、1つの層からなる構造、すなわち歯科ブランク全体で均一な組成を有していてもよい。一方、歯科補綴物は、周辺歯質(患者の天然歯)との審美性の調和が要求される。そのため、歯科ブランク10は、厚み方向に沿って2以上の層13を有していてもよい。この場合において、各層13は、明確に区分けされるものに限らず、2以上の領域(例えば、2以上15以下の領域、更には2以上10以下の領域、また更には3以上8以下の領域)が形成されているものも含み、グラデーションが形成されるように2以上の層13が積層した構造であってもよい。なお、グラデーションは色調及び透光性の少なくともいずれかにより形成されるグラデーションであればよい。領域間においては、明確な界面を有していてもよいが、これを有さなくてもよい。歯科ブランクが2以上の層が積層した構造を有する場合、着色元素は少なくとも1層に含まれていればよい。
【0020】
歯科ブランク10は、歯科ブランクの原料を成形し得られる成形体を、仮焼することで得られる仮焼体である。歯科ブランク10は、歯科ブランクの製造者(ディスクメーカー;以下、「ブランク製造者」ともいう。)により製造される。歯科ブランクの原料は、ジルコニア(ZrO2、二酸化ジルコニウム)の粉末であり、安定化元素及び着色元素などの金属元素を含むジルコニアの粉末である。安定化元素としてはイットリウム(Y)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の群から選ばれる1以上が、更にはイットリウムが挙げられる。着色元素としてはチタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1以上が、それぞれ、挙げられる。また、その他の金属元素としてアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)の群から選ばれる1以上が挙げられる。ここでジルコニアの粉末とは、主成分としてジルコニアを含む粉末(いわゆるジルコニア粉末)であり、ジルコニアのみからなる粉末に限定されるものではない。歯科ブランクの原料は、歯科ブランクの原料製造者(以下、単に「原料製造者」ともいう。)が製造し、ブランク製造者に提供される。ブランク製造者は、目的とする歯科補綴物の審美性に合わせ、原料製造者から供給された原料(粉末)を成形及び仮焼することで、所定の組成(原料比率)を有する歯科ブランク10を製造する。必要に応じ、複数の原料を混合して混合粉末としたものを成形及び仮焼してもよい。また、仮焼に先立ち、着色元素を含む溶液と成形体とを混合してもよい。
【0021】
歯科ブランク10は、歯科補綴物の前駆体であり、歯科技工所(歯科技工士)等の加工事業者において、CAD/CAM装置(不図示)を用いた切削加工に供される。切削加工により、歯科ブランク10は、クラウン等の歯科補綴物の形状に切削される。切削後の形状は、焼結時の熱収縮を考慮した形状であるため、患者に装填される歯科補綴物の形状よりも大きくなる。
【0022】
歯科ブランク10は、材料情報に紐づく特定情報を少なくとも含む情報タグ(後述)が付される。「特定情報」は材料情報に紐づけが可能な情報であり、「材料情報」は歯科ブランク10の特定を可能とする情報であり、少なくとも組成情報を含むことが好ましく、組成情報、製品情報及び製造情報(いずれも後述)の群から選ばれる1以上を含むことがより好ましい。歯科ブランク10に特定情報が付されることにより、選定及び回収が効率的に実施できる。
【0023】
特定情報は、原料比率、組成(化学組成)、平均組成、含有元素、色調、色調コード、平均色調及び平均色調コードの群から選ばれる1以上(以下、「組成情報」ともいう。)を含むことが好ましい。組成情報により直接的に歯科ブランク10の素性を確認することができる。特定情報は、原料比率、組成、含有元素、色調及び色調コードの群から選ばれる1以上を含むことが好ましく、組成及び色調コードの少なくともいずれかを含むことが好ましい。また、歯科ブランク10が、2以上の層からなる構造を有する場合、組成情報は、組成、色調及び色調コードに加え、又は、組成、色調及び色調コードに変えて、平均組成、平均色調及び平均色調コードの群から選ばれる1以上や、最も多く含まれる成分等に紐づけを可能とする、代表組成、代表色調及び代表色調コードの群から選ばれる1以上を含むことが好ましい。「原料比率」は、歯科ブランク10の製造の際に使用した各原料の種類(例えば、粉末の製品名)及び使用量に関する情報であり、また、「色調」は歯科ブランク10を焼結して得られる歯科補綴物の目的色調であり、例えば、L*a*b*表色系で示される明度L*、色相a*及びb*の値である。また、「色調コード」は、歯科色調見本における各色調を表すコードであり、例えば、ビタ・クラシカルシェードにおけるA1乃至D4のいずれかのアルファベットと数字で示されるコードである。
【0024】
組成情報が把握できない場合、原料製造者が端材15ごとに成分分析を行う必要が生じる。成分分析は、端材15につき、それぞれその一部を採取し、これを溶解して得られる試料溶液の機器分析による成分分析や、電子線やX線を用いた機器分析による成分分析をする必要が生じる。この場合、全ての端材について成分分析を行うことは膨大な手間を要するのみならず、想定外の元素が含まれている場合は、成分の特定に更なる時間・手間を要する。そのため、このような端材は、仮に回収できたとしても、水平リサイクルによる再生処理が実質的に不可能である。
【0025】
特定情報は、歯科ブランクの型番及び製造者の名称の少なくともいずれか(以下、「製品情報」ともいう。)を含むことが好ましく、少なくとも製造者の名称を含むことが好ましい。「型番」とは、ブランク製造者における歯科ブランクの製品名である。特定情報が製品情報を含むことにより、回収後に粗分別が可能となる。すなわち、歯科技工所等から回収される端材は、異なるブロック製造者の製品が混在している場合がある。この場合において、まず、製造者毎、又は、製造者かつ製品毎の選別が可能となり、水平リサイクルのための選別が効率的に行いやすくなる。
【0026】
特定情報は、歯科ブランクの製造ロット、製造場所、製造年及び回収期限の群から選ばれる1以上(以下、「製造情報」ともいう。)を含むことが好ましく、製造年及び回収期限の少なくともいずれかを含むことがより好ましく、回収期限を含むことが更に好ましい。製造情報を含むことにより、リサイクルのみならず、トレーサビリティーも可能となる。後述の通り、特定情報は予め原料製造者とブランク製造者の間で取り決められる。そのため、両者で取り決められた回収期限が付されることで、歯科ブランクのみならず、使用された原料に至るまでの追跡も可能となる。なお、「製造年」は製造された時期を特定しうる情報であり、製造年に代わり、製造年月又は製造年月日であってもよい。
【0027】
材料情報に紐づく特定情報は、歯科ブランク10の端材15を回収し、これを再生(リサイクル)するときに、利用される情報である。つまり、材料情報に紐づく特定情報は、端材15のリサイクルに必要かつ重要な情報を含む。
【0028】
歯科技工所等の加工事業者では種類の異なる複数種の歯科ブランクが切削加工される。そのため、発生する端材15の製造者、組成、含有元素、色調などは多岐にわたる。端材15(及び歯科ブランク10)の材料情報に紐づく特定情報が把握できない場合、原料製造者又はブランク製造者と、主体を異にする者による端材15(歯科ブランク)のリサイクル処理が非常に煩雑となり、水平リサイクルが非常に困難となる。
【0029】
〔情報タグ〕
図4は、情報タグ12を示す図である。情報タグ12は、歯科ブランク10の端材15を回収したときに特定情報を読み取られる情報媒体である。
歯科ブランク10の側周面10sには、情報タグ12が付される。情報タグ12は、材料情報に紐づく特定情報が把握できる情報媒体であればよく、機械的な読み取りが可能な情報媒体、例えばコードシンボル、であることが好ましい。また、情報タグ12は、文字、数字及び記号の群から選ばれる1以上を含んでいてもよい。コードシンボルの種類、大きさ、表示形式などは、情報タグ12に付す情報量、歯科ブランク10の形状などに応じて適宜選択すればよく、例えば、一次元及び二次元の少なくともいずれかのコードシンボル、具体的にはバーコード及びQRコード(登録商標)の少なくともいずれかであればよい。情報タグ12は、独自のコード等を含んでもよい。また、コードシンボルはその一部が欠損した場合であっても情報を読み取れるものであることが好ましい。
【0030】
情報タグ12は、印字及び刻印の少なくともいずれかで構成されていることが好ましく、印字及び凹凸加工の少なくともいずれかにより付されていることが挙げられ、インクの印字等、再生処理により除去され得る素材、例えば有機成分、又は、再生処理により除去され得る手段により構成されるものであることが好ましい。
【0031】
情報タグ12は歯科ブランク10に1以上付されていればよいが、2以上付されることが好ましい。これにより一部のタグが欠損した場合や、端材15が破損し複数個に分離(分割)した場合であっても、残された情報タグ12により、各分割物の特定情報が把握しやすくなる。歯科ブランク10に振らされる情報タグ12の数としては2以上50以下、2以上10以下が挙げられる。複数の情報タグ12は、全て同一のコードシンボルであってもよく、また、バーコード及びQRコードの併用その他種類、異なる2以上のコードシンボルを併用してもよい。
【0032】
情報タグ12は、歯科ブランクの非切削部位に付されることが好ましい。これにより、切削加工による情報タグ12の欠損が生じにくくなる。非切削部位は切削加工後に残される歯科ブランク10の部位であり、例えば、歯科ディスクにおいては側周面10sであり、また、歯科ブロック20においてはブロック体の底側であることが挙げられる。従って、歯科ディスクにおいて情報タグ12は、少なくとも側周面10sに配されていることが好ましく、側周面10sに配されていることがより好ましく、側周面10sに等間隔に配されていることが更に好ましい。例えば、側周面10sに付された情報タグ12が2つの場合は180°間隔、3つの場合は120°間隔、4つの場合は90°間隔で配置されること、が挙げられる。
情報タグ12は、少なくとも非切削部に付されていればよく、歯科ブランク10の主面10aに付されていてもよく、また、側周面10s及び主面10a少なくともいずれかに付されていてもよい。
情報タグ12が主面10aに付される場合、情報タグ12は、主面10aの外周縁及び中央の少なくともいずれか等、複数回の切削加工後に残る部位に配置されていることが好ましい。
【0033】
〔端材15〕
図5は、歯科ブランク10の端材15を示す図である。CAD/CAM装置を用いた切削加工により、熱収縮が考慮された歯科補綴物の形状(不図示)が歯科ブランク10から切削される。従って、切削後、CAD/CAM装置に残された歯科ブランクの部位が端材15に相当する。すなわち、端材15は、歯科補綴物の形状の孔(穿孔)を1つ以上有する歯科ブランク、及び、その分割物の少なくともいずか、である。
【0034】
〔端材回収方法〕
図6は、端材回収方法を示すフローチャートである。
本実施形態における歯科ブランクの端材回収方法は、材料情報に紐づく特定情報を少なくとも含む情報タグ12が付された歯科ブランク10の切削加工により生じた端材15を加工事業者から回収する回収工程S30、及び、端材15に付されている情報タグ12から、歯科ブランクの原料製造者と歯科ブランクの製造者の間で取り決められた歯科ブランク10の材料情報に紐づく特定情報が読みとれる特定端材15Kを選定する選定工程S40、を含む、歯科ブランクの端材回収方法である。さらに、回収工程S30に先立ち、ブランク製造者に歯科ブランクの原料を供給する供給工程S20を含んでいてもよく、また、供給工程S20に先立ち、原料製造者とブランク製造者の間で歯科ブランクの組成情報に紐づく特定情報を取り決める特定情報取決工程S10を含んでいてもよい。さらに、選定工程S40の後に、特定端材15Kを特定情報に基づいて再生処理する再生工程S50を含んでいてもよい。
【0035】
特定情報取決工程S10は、原料製造者とブランク製造者の間で歯科ブランクの組成情報に紐づく特定情報を取り決める工程であり、当該工程において、歯科ブランク10の材料情報に紐づく特定情報の内容及びその付与ルール、情報タグ12の形式等、端材15の選定及び回収に際して必要となる特定情報の付与についての取り決めを行う。ブランク製造者の製品ラインナップその他ブランク製造者の製造に関する秘密情報を含む場合があるため、特定情報は、原料製造者とブランク製造者の間で、互いの営業上の秘密情報として管理されることが好ましく、非公開情報として管理及び保護することが好ましい。
【0036】
供給工程S20は、ブランク製造者に歯科ブランクの原料を供給する工程であり、原料供給工程S21、歯科ブランク製造工程S22、タグ付け工程S23及び提供工程S24を有する。
【0037】
原料供給工程S21は、原料製造者が歯科ブランクの原料をブランク製造者に供給する工程である。原料製造者は、ブランク製造者に対して、1つ以上の原料、好ましくはジルコニアの粉末を供給する。粉末は、主成分としてジルコニアを含み、副成分として安定化元素及び着色元素を含んでいることが好ましい。
【0038】
歯科ブランク製造工程S22では、ブランク製造者が原料製造者から供給された原料(ジルコニアの粉末)を使用して、目的とする歯科ブランクを製造する。歯科ブランクの製造にあたり、必要に応じ、ブランク製造者は2種以上の原料を混合してもよく、また、粉末以外の着色溶液等の着色成分を使用してもよい。
【0039】
タグ付け工程S23では、ブランク製造者が歯科ブランク10等に、特定情報を含む情報タグ12を付す。歯科ブランク10等に情報タグ12を印刷及び刻印の少なくともいずれか等の手段により付する。情報タグ12の形式、数、付与する場所等、上述の特定情報取決工程S10により特定した内容に従って情報タグ12を歯科ブランク10に付与すればよい。
【0040】
提供工程S24は、ブランク製造者が情報タグ12を有する歯科ブランク10等を歯科技工所その他切削加工を行う加工事業者に歯科ブランクを提供する工程である。
【0041】
回収工程S30は、材料情報に紐づく特定情報を少なくとも含む情報タグ12が付された歯科ブランク10の切削加工により生じた端材15を加工事業者から回収する工程であり、切削加工S31及び端材回収工程S32を有する。
【0042】
切削加工S31は、歯科ブランク10を切削加工する工程である。歯科技工所等の加工事業者は、歯科医から提供される情報に基づき、CAD/CAM装置などの加工装置を用いて、歯科ブランク10を歯科補綴物の形状に削り出す。これにより、歯科補綴物の前駆体と、端材15が発生する。
【0043】
端材回収工程S32では、端材15を歯科技工所等の加工事業者から回収する。端材15の回収は、最終的に端材15の再生処理(リサイクル)を行う事業者に端材15が渡るように行えばよく、ブランク製造者及び原料製造者の少なくともいずれかが回収してもよく、ブランク製造者が回収した端材15を更に原料製造者が回収してもよい。また、加工事業者から一次回収を行う回収事業者、例えばブランク製造者及び原料製造者の少なくともいずれかが指定する回収事業者が回収してもよい。したがって、回収工程S30における回収は、加工事業者から直接行ってもよいが、加工事業者に代わり又は加工事業者に加え、加工事業者から一次回収を行う回収事業者を介して行ってもよい。
【0044】
一方、加工事業者がブランク製造者及び原料製造者の少なくともいずれかに端材15を送付することでこれを回収してもよい。
【0045】
端材15は、穿孔を有する仮焼体であるため、非常に脆く、破損しやすい。このため、端材回収工程S32における輸送等において、端材15が破損(破壊)され、2以上の分割物(端材片、破片)に分割される場合もあり得る。
【0046】
選定工程S40は、端材15に付されている情報タグ12から、歯科ブランクの原料製造者と歯科ブランクの製造者の間で取り決められた歯科ブランク10の材料情報に紐づく特定情報が読みとれる特定端材15Kを選定する工程であり、タグ読み工程S41と端材選定工程S42を有する。
【0047】
タグ読み工程S41では、回収した全ての端材15の情報タグ12を読み取る。端材15が分割物である場合、情報タグ12が付されている分割物について情報タグ12の読み取りを行えばよい。
【0048】
情報タグ12の読み取りは、特定情報が把握できるいかなる手段であってもよく、例えば、コードシンボルの読み取り手段、具体的には、バーコードリーダー及び画像解析の少なくともいずれか、により行えばよい。
【0049】
端材選定工程S42では、情報タグ12から特定情報を読み取れる端材(以下、「特定端材」ともいう。)15Kを選定し、これを分別する。特定端材15Kは、材料組成等その属性が明らかであるため、回収し、水平リサイクルに好適に用いることができる。
【0050】
特定端材15Kはその属性に基づき選定及び分別すればよく、特に含有元素及び組成の少なくともいずれかに基づき選定及び分別することが好ましい。これにより、より簡便に再生処理(リサイクル)への適用が可能となる。
【0051】
一方、情報タグ12の欠損や、情報タグ12の喪失などにより、特定情報が読み取れない端材15及びその分割物は、その材料情報が把握できない。このような端材は、機器分析等により、別途、組成情報を得た上で選定及び分別することも可能だが、処分効率の観点から、カスケードリサイクルや廃棄処分の対象として取り扱ってもよい。
【0052】
再生工程S50は、特定端材15Kを特定情報に基づいて再生処理(リサイクル)する工程であり、特定端材15Kを特定情報に基づいて再生処理すればよい。特定端材15Kは、材料組成等その属性が明らかであるため、特定情報に基づき、選定された特定端材15Kの群ごとに適した再生条件の設定が可能となる。
【0053】
再生工程S50における再生方法として、特定端材15Kの粉砕により、これを粉末化して粉末(リサイクル粉末)を得る、再生方法(以下、「粉砕再生法」ともいう。)が挙げられる。必要に応じ、再生工程S50は、粉砕に先立ち、特定端材15K及びその粉砕物の少なくともいずれかを洗浄し、不純物の除去を行う工程、粉砕後の特定端材15Kの粉砕物の粒子径を調整するための粒度調整工程、特定端材15K及びその粉砕物の少なくともいずれかを乾燥する工程、の少なくともしいずれか(いずれも不図示)を有していてもよい。
【0054】
粉砕再生法により得られる粉末(リサイクル粉末)は、これをそのまま仮焼体及び焼結体の原料として供することができる。リサイクル粉末は、歯科ブランク10に由来する組成を有する。そのため、リサイクル粉末は、歯科ブランク(リサイクル歯科ブランク)の原料として特に適している。
【0055】
また、再生工程S50における再生方法は、特定端材15Kを溶解することにより、これを溶液化して溶液(リサイクル溶液)を得る、再生方法(以下、「溶解再生法」ともいう。)であってもよい。溶解は、特定端材15Kと、酸などのこれを溶解しる溶液とを接触することで行えばよい。溶解に先立ち、特定端材15Kは粉砕、洗浄及び乾燥してもよい。
また、溶解再生法により得られる溶液(リサイクル溶液)は、粉末合成用の原料溶液、好ましくはジルコニアの粉末合成用の原料溶液として供することができ、また、中和共沈、加水分解及び水熱処理の群から選ばれる1以上の粉末の製造方法の原料として供することができる。これにより得られる原料は、更に歯科ブランクの原料として適している。
【0056】
更に、リサイクル溶液は、イオン交換等により、これに含まれている元素を精製してもよく、ジルコニウムをはじめとする各種金属イオン溶液として、所望の用途に使用することもできる。
【0057】
この様に、本実施形態の歯科ブランクによれば、歯科ブランク10の端材15を、歯科ブランクの材料として水平リサイクルできるよう、効率的に回収することができる。
【0058】
以上、本開示の好ましい実施形態としてジルコニアブロックを例にとして説明したが、本開示における歯科ブランクは、セラミックスの仮焼体であればよく、アルミナをはじめとする、金属酸化物の仮焼体からなる歯科ブランクについても適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 歯科ディスク(歯科ブランク)
10e 周縁
10s 側周面(非切削部位)
11 周縁溝
12 タグ(コードシンボル)
15 端材
15K 特定端材
20 歯科ブロック(歯科ブランク)
【要約】
【課題】
切削加工により発生する歯科ブランクの端材の回収、及び、水平リサイクルによる再生
処理を効率的に円滑に行える歯科ブランクを提供する。
【解決手段】
材料情報に紐づく特定情報を少なくとも含む情報タグが付された歯科ブランクであり、
前記特定情報は、歯科ブランク原料の製造者と歯科ブランクの製造者の間で取り決められ
た情報であり、なおかつ、前記情報タグは、前記歯科ブランクの端材を回収したときに前
記特定情報を読み取られる情報媒体である、歯科ブランク。
【選択図】
図1