(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】容器詰め食品の状態を評価する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
(21)【出願番号】P 2021099204
(22)【出願日】2021-06-15
【審査請求日】2024-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】厚木 将志
(72)【発明者】
【氏名】田邉 利裕
(72)【発明者】
【氏名】羽倉 義雄
(72)【発明者】
【氏名】奥 歩実
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-045356(JP,A)
【文献】特開平10-082754(JP,A)
【文献】特開平02-225988(JP,A)
【文献】特開平03-223672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0237644(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112198200(CN,A)
【文献】桑原悠史他,インピーダンス計測によるレトルト殺菌工程中の米飯の硬さの推定,日本食品科学工学会誌,2019年,66巻,12号,469-476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24、33/02-33/14
A23L 2/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物である容器詰め食品が間に配置されるように構成された互いに対向する一組の電極板と、
8300 Hz以上1.2 MHz以下の所定の測定周波数で前記電極板の間のインピーダンスを測定するように構成されたLCRメーターと、
前記測定周波数で測定されるインピーダンスの実数成分と食品の状態との関係の情報を取得し、前記LCRメーターの出力に基づいて得られたインピーダンスの実数成分と前記関係とに基づいて測定対象物である前記食品の状態を評価する解析装置と
を備え
、
前記食品は、米飯であり、
前記関係は、加熱吸水倍率が1.5倍以上3.6倍以下である米飯におけるインピーダンスの実数成分と米飯の硬さに関する状態との関係である、
容器詰め食品の状態の評価装置。
【請求項2】
前記測定周波数は、単一の周波数である、請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記米飯の硬さに関する状態は、圧縮試験により求めた米飯の硬
さである、
請求項
1に記載の評価装置。
【請求項4】
前記米飯の硬さに関する状態は、米飯の加熱吸水倍
率である、
請求項1又は2に記載の評価装置。
【請求項5】
容器詰め食品の生産ラインの一部であり、前記電極板の間に生産された容器詰め食品を搬入する搬入装置と、
容器詰め食品の生産ラインの一部であり、前記インピーダンスを測定した容器詰め食品を前記電極板の間から搬出する搬出装置と
をさらに備える請求項1乃至
4の何れかに記載の評価装置。
【請求項6】
互いに対向する一組の電極板の間に測定対象物である容器詰め食品を配置して、LCRメーターを用いて8300 Hz以上1.2 MHz以下の所定の測定周波数で前記電極板の間のインピーダンスを測定することと、
解析装置によって、前記LCRメーターの出力に基づいて得られたインピーダンスの実数成分と、予め用意された前記測定周波数で測定されるインピーダンスの実数成分と食品の状態との関係とに基づいて、インピーダンスを測定した前記食品の状態を評価することと
を含
み、
前記食品は、米飯であり、
前記関係は、加熱吸水倍率が1.5倍以上3.6倍以下である米飯におけるインピーダンスの実数成分と米飯の硬さに関する状態との関係である、
容器詰め食品の状態の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰め食品の状態を評価する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、容器詰めされた食品が知られている。このような容器詰め食品は、例えば、調理されてから密封されるまで、人が介入できない一貫した製造設備で生産されている。そのため、食品の硬さ、軟らかさなど、食品の状態については、生産途中で確認できない。そこで、例えば、製品完成後に抜き取り検査が行われている。
【0003】
食品のうち例えば米飯では、炊き加減の差異など、硬さ又は軟らかさなどの差異が食味に与える影響は比較的大きい。例えば、特許文献1には、米飯に光を照射し、反射光及び透過光の特定波長における光量を測定することで、当該米飯の状態を評価することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献1に記載の技術を容器詰め食品の評価に適用しようとすると、開封して測定を行う必要がある。これに対して、容器詰めの状態で食品の状態を評価できると便利である。
【0006】
本発明は、容器詰めの状態で食品の状態を評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、容器詰め食品の状態の評価装置は、測定対象物である容器詰め食品が間に配置されるように構成された互いに対向する一組の電極板と、8300 Hz以上1.2 MHz以下の所定の測定周波数で前記電極板の間のインピーダンスを測定するように構成されたLCRメーターと、前記測定周波数で測定されるインピーダンスの実数成分と食品の状態との関係の情報を取得し、前記LCRメーターの出力に基づいて得られたインピーダンスの実数成分と前記関係とに基づいて測定対象物である前記食品の状態を評価する解析装置とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、容器詰めの状態で食品の状態を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る評価装置の構成例の概略を示す図である。
【
図2】
図2は、容器詰め食品の測定及び評価の方法の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図3は、トレー状レトルト用容器の構成例の概略を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、米飯試料の硬さ測定に用いる器具の概略を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、目標加熱吸水倍率が各々異なる米飯試料に関するインピーダンス測定により得られた、実数成分Rs値と測定周波数との関係を示す。
【
図6】
図6は、測定周波数が1,023 Hz(低周波数領域)である場合の、インピーダンスの実数成分Rsと実際の加熱吸水倍率との関係を示す。
【
図7】
図7は、測定周波数が10,120 Hz(中周波数領域)である場合の、インピーダンスの実数成分Rsと実際の加熱吸水倍率との関係を示す。
【
図8】
図8は、測定周波数が29,670 Hz(高周波数領域)である場合の、インピーダンスの実数成分Rsと実際の加熱吸水倍率との関係を示す。
【
図9】
図9は、圧縮試験により測定された米飯の硬さと実際の加熱吸水倍率との関係を示す。
【
図10】
図10は、米飯の硬さと測定周波数を29,670 Hzとしたときのインピーダンスの実数成分Rsとの関係を示す。
【
図11】
図11は、米飯の硬さと計測されたインピーダンスの実数成分Rsとの関係の決定係数(R
2)と測定周波数との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、容器詰め食品を測定対象物として、食品の硬さといった食品の状態を評価する評価装置及び評価方法に関する。特に、本実施形態は、電気インピーダンス法を用いて非破壊的に食品の硬さなどを評価する装置及び方法に関する。
【0011】
[評価装置の構成]
図1は、一実施形態に係る評価装置1の構成例の概略を示す図である。
図1に示すように、評価装置1は、計測部10と、LCRメーター30と、解析装置40とを備える。
【0012】
計測部10は、互いに対向する第1電極板11及び第2電極板12を含む一組の電極板13と、一組の電極板13を囲む電磁波シールド箱18とを備える。評価装置1において、測定対象物90は、電磁波シールド箱18内の互いに対向する一組の電極板13の間に配置され、そのインピーダンスが測定される。第1電極板11及び第2電極板12は、それぞれ、例えば同軸ケーブルといったケーブル21を介して、LCRメーター30に接続されている。また、電磁波シールド箱18とLCRメーター30とは、図中のケーブル23で模式的に示されるように接地されている。
【0013】
LCRメーター30は、一組の電極板13に所定の周波数の交流信号を印加し、その際の交流応答を一組の電極板13から取得する。LCRメーター30は取得した応答信号に基づいて、一組の電極板13の間のインピーダンスを決定する。本実施形態では、LCRメーター30は、8,300 Hz以上1.2 MHz以下の所定の測定周波数を用いて、インピーダンス測定を行う。本実施形態では、複数の測定周波数でインピーダンス測定が行われてもよいし、単一の測定周波数でインピーダンス測定が行われてもよい。なお、測定周波数は、9,300 Hz以上1,040 kHz以下であることがさらに好ましく、10,400 Hz以上860 kHz以下であることがさらに好ましく、14 kHz以上680 kHz以下であることがさらに好ましく、20 kHz以上460 kHz以下であることがさらに好ましく、30 kHz以上320 kHz以下であることがさらに好ましい。LCRメーター30は、測定結果を解析装置40へと出力する。
【0014】
解析装置40は、例えば、一般的なコンピューターである。すなわち、解析装置40は、Central Processing Unit(CPU)41、メモリ42、ストレージ43などを備える。ストレージ43には、予め取得された、前記測定周波数を用いてLCRメーター30で測定されるインピーダンスの実数成分Rsと食品の硬さなど食品の状態を示す値との関係の情報が記録されている。この関係は、例えば、関数として記録されていてもよいし、ルックアップテーブルとして記録されていてもよい。また、この関係は、ストレージ43に記録されていなくてもよく、例えば、解析装置40は、ネットワークを介して解析装置40の外部に記録された関係を参照してもよい。
【0015】
解析装置40は、LCRメーター30から取得した測定結果に基づいて、得られたインピーダンスの実数成分Rsを決定する。解析装置40は、決定したインピーダンスの実数成分Rsとストレージ43に記録された前記関係とに基づいて、測定対象物90である食品の硬さなどの状態を決定し評価する。
【0016】
以上のような評価装置1の測定対象物90は、例えば以下のようなものである。食品には、例えば米飯が含まれ得る。すなわち、容器詰め食品には、容器詰め米飯が含まれ得る。米飯には、白米のみならず、赤飯、おこわ等、米を材料として調理されたもの全般が含まれ得る。容器には、合成樹脂を主たる材料としたものが用いられ得る。容器は、複層構成を有していてもよい。容器には、例えば、酸素を遮断するための酸素バリア層や、酸素を吸収するための酸素吸収層などが含まれていてもよい。酸素吸収層には、合成樹脂を用いたもののほか、鉄粉の酸化反応を利用したものも含まれる。
【0017】
[評価方法]
評価装置1を用いた本実施形態の容器詰め食品の硬さの評価方法について説明する。
図2は、容器詰め食品の測定及び評価の一例について説明するためのフローチャートである。
【0018】
ステップS1において、測定対象物90が、計測部10に搬入され、一組の電極板13の第1電極板11と第2電極板12との間に挿入されて配置される。
【0019】
ステップS2において、評価装置1は、測定対象物90について所定の測定周波数でのインピーダンス測定を行う。すなわち、一組の電極板13間に測定対象物90が配置された状態で、LCRメーター30は、一組の電極板13間に所定の測定周波数の交流信号を印加し、一組の電極板13間の応答信号を取得する。LCRメーター30は、取得した応答信号に基づいて、インピーダンスを決定する。
【0020】
ステップS3において、評価装置1は、インピーダンスの実数成分Rsの値を決定する。すなわち、解析装置40は、ステップS2で得られたインピーダンスに基づいて、その実数成分Rsの値を決定する。
【0021】
ステップS4において、評価装置1は、測定対象物90の硬さについて評価する。すなわち、解析装置40は、ステップS3で得られたインピーダンスの実数成分Rsと、ストレージ43に記録された上述の実数成分Rsと食品の硬さ等との関係とを対比し、測定対象物90の食品の硬さ等を特定し、所定の評価を行う。
【0022】
ステップS5において、測定対象物90が、計測部10から搬出される。
【0023】
ステップS4における評価についてさらに説明する。上述のインピーダンスの実数成分Rsと関係づけられた食品の硬さ等に関する情報は、種々あり得る。例えば、食品が米飯である場合、この情報は、圧縮試験により測定された米飯の硬さの情報であってもよい。この場合、この情報を準備するために、例えば、異なる条件で炊飯された複数種類の米飯が試料として用意される。炊飯の条件には、例えば、生米の吸水量、生米と水との量比、炊飯時間などの種々の条件が含まれ得る。これら試料のそれぞれについて、評価装置1と同様の計測部10及びLCRメーター30などを含む装置を用いて容器詰めの状態でインピーダンス測定が行われた後に、それぞれの容器から取り出された米飯の硬さが圧縮試験機を用いて測定される。
【0024】
また、上述の情報は、硬さを直接的に示す値ではなく、例えば、炊飯後総重量に対する生米重量であらわされるような吸水倍率などで表される値であってもよい。また、上述の情報は、その他の米飯の状態を表す値であってもよい。
【0025】
このような硬さ等を表す情報に基づいて、測定対象物90の食品の硬さ等が決定され、例えば、それが所定の範囲内に入っているか否かで、食品の硬さなどの状態が評価され、容器詰め食品の良品又は不良品の判断が行われてもよい。
【0026】
あるいは、インピーダンスの実数成分Rsと容器詰め食品の良品又は不良品とが直接関連付けられており、この関係に基づいて、インピーダンスの実数成分Rsに基づいて、直接的に容器詰め食品の硬さと関係がある良品又は不良品の判断が行われてもよい。
【0027】
以上のような、本実施形態の評価装置1及びそれを用いた評価方法によれば、容器詰め食品の硬さ等について、非破壊的に評価することができる。一般に、容器詰め食品は、容器の密封後に滅菌されたり、無菌状態で容器に密封されたりするため、調理後の食品の状態を確認することが困難である。抜き取りによる破壊検査によって品質管理は行われ得る。本実施形態の評価装置1及びそれを用いた評価方法によれば、抜き取り検査のみによらず、非破壊での検査が可能である。したがって、例えば食品が米飯である場合、一般に行われている個食炊きで特に生じ得る突発的な米飯の硬さ・品質の不良をも、検査・排斥することが可能になる。
【0028】
本実施形態では、所定周波数によるインピーダンス測定により、食品の硬さ等の評価が可能であるので、周波数を変化させながらのインピーダンス測定などと比較して、インピーダンス測定が短時間で行われ得る。したがって、本実施形態によれば、容器詰め食品の生産工程において、全数検査を行うことも可能である。
【0029】
例えば、生産ラインに評価装置1が組み込まれ、搬入装置によって一組の電極板13の間に生産された容器詰め食品が搬入され、搬出装置によってインピーダンスを測定した容器詰め食品が一組の電極板13の間から搬出される。ここで搬入装置及び搬出装置は、例えば、容器詰め食品を搬送するコンベヤであり、このコンベヤによって上述のステップS1の計測部10への搬入及びステップS5の計測部10からの搬出が行われてもよい。このようにして、連続的又は間欠的に、一組の電極板13の間に挿入された容器詰め食品に係るインピーダンスが測定され、容器詰め食品の硬さ等が判定され得る。
【実施例】
【0030】
測定対象物の食品として、米飯を用いた。炊飯条件が異なる容器詰め米飯について、インピーダンス測定を行い、測定されたインピーダンスの実数成分Rsと、炊飯条件又は米飯の硬さとに所定の関係があることを明らかにした。
【0031】
[方法]
1.試料
試料としての疑似的包装米飯を次のように準備した。うるち米(令和元年産複数原料米、無洗米、食協、広島市)を用いた。室温で生米を水道水に3時間浸漬し、これを吸水米とした。得られた吸水米の重量は、生米の重量の約1.3倍であった。
【0032】
電気炊飯器(象印製、NP-RM05、大阪市)の内釜に吸水米とともに水道水を入れ、取扱説明書に従い、炊飯操作を行った。ここで、生米の重量が炊飯後に何倍になっているかを示す値である目標加熱吸水倍率を、(目標加熱吸水倍率)=(炊飯前総重量)/(生米重量)の式で定義した。炊飯操作において、目標加熱吸水倍率を、1.6倍、1.9倍、2.1倍、2.6倍、3.1倍及び3.6倍のそれぞれとして、水道水を加えて炊飯操作を行った。炊飯操作終了後の米飯を十分にほぐしてから、米飯の重量を計測した。ここで計測された重量を「炊飯後総重量」とした。
【0033】
容器として、
図3に示すような、封入部111の寸法が110 mm×73 mm×深さ33 mm、シール部112の寸法が127 mm×90 mmであるトレー状レトルト用容器110を用いた。蓋材には透明蓋材を用いた。
【0034】
炊飯後の米飯120 gを容器に充填した。専用のシーラーを用いて容器に蓋材を熱圧着し、試料を密封した。各吸水倍率の試料を、それぞれ5個調製した。
【0035】
調製した試料を正立状態(蓋材側を上にした状態)で、20℃の恒温槽内で1時間以上保温した。温度が一定になった試料を電気物性の測定に用いた。
【0036】
2.電気物性測定
容器入り米飯のインピーダンスの測定には、
図1に示した評価装置1と同様の構成を有する測定装置を用いた。LCRメーターには、HIOKI(上田市)製の3522-50、又は、HIOKI製のIM3536を用いた。電磁波シールド箱として、寸法が320 mm×390 mm×170 mmである発泡スチロール製の箱の外側にアルミニウム箔を貼り付けた箱を用いた。この電磁波シールド箱の中に、寸法が縦120 mm×横160 mm×厚さ2 mmである2枚の電極板を対向するように設置した。電極板間にはフッ素樹脂製のスペーサーを挿入し、電極板間の距離を36 mmとして、電極板を固定した。これら電極板は、シリコーンゴム製の脚部の上にそれぞれの電極板が水平になるように配置した。各々の電極板とLCRメーターとは、同軸ケーブルを介して接続した。電磁波シールド箱のアルミ箔とLCRメーターのアース端子とを接続することにより、ノイズを遮断した。
【0037】
上述の試料を、正立状態(蓋材側を上にした状態)で下側の電極板の上に載置することで、2枚の電極板の間に配置した。LCRメーター(3522-50)によって、対数間隔で100 Hz-100 kHz間の200点の周波数でインピーダンス測定を行った。また、LCRメーター(IM3536)によって、対数間隔で100 Hz-8 MHz間の300点の周波数でインピーダンス測定を行った。測定温度は20℃とした。
【0038】
得られた測定値を、コンピューターを用いて記録し、解析した。インピーダンス測定により、複素インピーダンスZ、インピーダンスの実数成分Rs、虚数成分X、位相角θが得られた。
【0039】
3.硬さ測定
米飯試料の硬さ測定には小型卓上圧縮試験機(島津製作所製、EZ-SX、京都市)を使用した。小型卓上圧縮試験機の下部ステージに、
図4に模式的に示すような測定用容器固定用の治具121を取り付けた。上部の可動部には、ロードセルを介して圧縮部分の直径が20 mmのPTFE製プランジャー122を取り付けた。
【0040】
インピーダンス測定後の容器詰め米飯試料を開封し、米飯を内径40 mm、高さ15 mmのアルミニウム製のカップ型の測定用容器123に充填した。このとき米飯の高さを15 mmにした。測定用容器固定用治具を用いて小型卓上圧縮試験機に米飯を充填した測定用容器を固定し、プランジャーを用いて、圧縮速度を1 mm/secとして、歪み67%まで圧縮試験を行った。一つの米飯試料につき、3回又は4回の測定を行った。
【0041】
測定したデータ(米飯試料の荷重-変位曲線)をソフトウェア(TRAPEZIUMX、島津製作所製)を用いて解析した。解析では最大荷重に基づいて硬さを決定した。
【0042】
[結果及び考察]
1.米飯試料の実際の加熱吸水倍率
目標加熱吸水倍率が異なる各々の米飯試料の(炊飯後総重量)/(生米重量)を「実際の加熱吸水倍率」と定義した。目標加熱吸水倍率が1.6倍、1.9倍、2.1倍、2.6倍、3.1倍及び3.6倍である米飯の実際の加熱吸水倍率は、それぞれ、1.55倍、1.82倍、1.97倍、2.40倍、2.66倍及び3.17倍であった。
【0043】
2.インピーダンスの実数成分Rsと測定周波数との関係
図5は、目標加熱吸水倍率が各々異なる米飯試料に関して、測定周波数を100 Hz-100 kHzとしたインピーダンス測定により得られた、実数成分Rs値と測定周波数との関係を示す。約10,000 Hz以下では、すべての試料で絶対値は異なるもののほぼ同じ傾きを有する直線的な関係が得られた。10,000 Hz付近を境に傾きは変化し、10,000 Hz以上では、試料の吸水倍率ごとに傾きが異なる直線的な関係が得られた。
【0044】
図5に示す結果から、10,000 Hz以下の低周波数領域、10,000 Hz付近の中周波数領域、10,000 Hz以上の高周波数領域の3つの領域に分けて検討する必要があると考えられた。
【0045】
3.インピーダンスの実数成分Rsと実際の加熱吸水倍率との関係
図6は、測定周波数が1,023 Hz(低周波数領域)である場合の、インピーダンスの実数成分Rsと実際の加熱吸水倍率との関係を示す。
図7は、測定周波数が10,120 Hz(中周波数領域)である場合の、インピーダンスの実数成分Rsと実際の加熱吸水倍率との関係を示す。
図8は、測定周波数が29,670 Hz(高周波数領域)である場合の、インピーダンスの実数成分Rsと実際の加熱吸水倍率との関係を示す。各図のエラーバーは、各試料の測定結果の最大値と最小値とを示す。
【0046】
測定周波数が1,023 Hzであるとき、吸水倍率の増加に伴ってRs値が増加した。しかしながら、吸水倍率が低い試料間ではRs値に差がみられなかった。測定周波数が10,120 Hzであるとき、吸水倍率1.6 倍のときを除き、Rs値は吸水倍率の増加に伴って徐々に増加した。測定周波数が29,670 Hzであるとき、吸水倍率の増加に伴ってRs値が減少した。しかしながら、吸水倍率が高い試料間ではRs値に差がみられなかった。
【0047】
以上の結果から、米飯の吸水倍率の違いを非破壊的に測定したインピーダンスの実数成分Rsに基づいて評価できることが明らかになった。さらに、吸水倍率が高い試料の評価には、低周波数領域での測定が有効であり、吸水倍率が低い試料の評価には、高周波数領域での測定が有効であることが明らかになった。
【0048】
4.硬さと実際の加熱吸水倍率との関係
図9は、圧縮試験により測定された米飯の硬さと実際の加熱吸水倍率との関係を示す。米飯の硬さは吸水倍率の増加に伴って減少し、米飯の硬さと実際の加熱吸水倍率とは高い相関関係を示した(R
2 = 0.945)。米飯試料の硬さは吸水倍率が低いほど大きく変化している。上述のとおり、吸水倍率が低い試料の評価には、高周波数領域での測定が有効である。
【0049】
図10は、米飯の硬さと測定周波数を29,670 Hzとしたときのインピーダンスの実数成分Rsとの関係を示す。米飯の硬さと測定周波数を29,670 Hzとしたときのインピーダンスの実数成分Rsとの間には、高い正の相関関係が認められ、決定係数(R
2)は0.878であった。
【0050】
以上のとおり、容器詰め米飯の硬さを、高周波数領域でのインピーダンス測定により非破壊的に測定できることが示された。
【0051】
容器詰め米飯の硬さをインピーダンス測定により非破壊的に評価できる測定周波数についての検討を行った。目標加熱吸水倍率が1.5倍以上3.6倍以下の各々の試料について、100 Hz-8 MHzの各測定周波数において測定を行い、それぞれ、
図10に示すような米飯の硬さと計測されたインピーダンスの実数成分Rsとの関係をプロットした。その結果に基づいて、各々の場合の決定係数(R
2)を特定した。
図11は、決定係数(R
2)と測定周波数との関係を示す。
【0052】
測定周波数が8,300 Hz以上1.2 MHz以下の場合において、決定係数(R2)が0.5以上になった。したがって、目標加熱吸水倍率が1.5倍以上3.6倍以下の容器詰め米飯試料に対して、測定周波数は8,300 Hz以上1.2 MHz以下であることが好ましいことが明らかになった。さらに、測定周波数が9,300 Hz以上1,040 kHz以下の場合において、決定係数(R2)が0.6以上になり、測定周波数が10,400 Hz以上860 kHz以下の場合において、決定係数(R2)が0.7以上になり、測定周波数が14 kHz以上680 kHz以下の場合において、決定係数(R2)が0.8以上になり、測定周波数が20 kHz以上460 kHz以下の場合において、決定係数(R2)が0.9以上になり、測定周波数が30 kHz以上320 kHz以下の場合において、決定係数(R2)が0.95以上になった。したがって、目標加熱吸水倍率が1.5倍以上3.6倍以下の容器詰め米飯試料に対して、測定周波数が9,300 Hz以上1,040 kHz以下であることがさらに好ましく、測定周波数が10,400 Hz以上860 kHz以下であることがさらに好ましく、測定周波数が14 kHz以上680 kHz以下であることがさらに好ましく、測定周波数が20 kHz以上460 kHz以下であることがさらに好ましく、測定周波数が30 kHz以上320 kHz以下であることがさらに好ましいことが明らかになった。
【0053】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0054】
1 評価装置
10 計測部
11 第1電極板
12 第2電極板
13 一組の電極板
18 電磁波シールド箱
21 ケーブル
30 LCRメーター
40 解析装置
41 CPU
42 メモリ
43 ストレージ
90 測定対象物