IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-銅合金及び電子部品 図1
  • 特許-銅合金及び電子部品 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】銅合金及び電子部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20250311BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20250311BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20250311BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20250311BHJP
【FI】
C22C9/06
H01B1/02 A
C22F1/08 B
C22F1/00 602
C22F1/00 623
C22F1/00 622
C22F1/00 630A
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 686A
C22F1/00 685Z
C22F1/08 P
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023207165
(22)【出願日】2023-12-07
【審査請求日】2024-04-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辻江 健太
(72)【発明者】
【氏名】北川 寛之
(72)【発明者】
【氏名】松本 創央志
(72)【発明者】
【氏名】塚瀬 大規
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176105(JP,A)
【文献】特開2018-145495(JP,A)
【文献】特開2009-242921(JP,A)
【文献】特開2007-107062(JP,A)
【文献】特開2015-183263(JP,A)
【文献】特開2023-100244(JP,A)
【文献】特開2016-050326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/06
H01B 1/02
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2.3~4.6質量%のNi、0.20~0.50質量%のCo、0.60~1.3質量%のSi、0.010~0.10質量%のCrを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、圧延方向と平行な方向における引張強さが870MPa以上である銅合金。
【請求項2】
0.50質量%未満のCoを含有する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
0.20~0.40質量%のCoを含有する、請求項2に記載の銅合金。
【請求項4】
0.20~0.30質量%のCoを含有する、請求項3に記載の銅合金。
【請求項5】
0.020~0.070質量%のCrを含有する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項6】
3.0~4.0質量%のNiを含有する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項7】
Siに対するNi及びCoの合計の質量の比RAは、3.5~5.0である、請求項1に記載の銅合金。
【請求項8】
前記比RAは、3.5~4.5である、請求項7に記載の銅合金。
【請求項9】
Niに対するCoの質量の比RBは、0.010~0.155である、請求項1に記載の銅合金。
【請求項10】
前記比RBは、0.025~0.155である、請求項9に記載の銅合金。
【請求項11】
前記比RBは、0.056~0.086である、請求項9に記載の銅合金。
【請求項12】
Mg、Fe、P、A、Sn、Pb、Zr、As、Se、Te、Sb、Bi、Au、Ti、Nb、V、Ta、W、Mo及びMnからなる群より選ばれる一種以上の元素を合計で0.010~1.0質量%さらに含有する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項13】
導電率が30%IACS以上である、請求項1に記載の銅合金。
【請求項14】
圧延方向と平行な方向における引張強さが930MPa以上である、請求項1に記載の銅合金。
【請求項15】
2.3~4.6質量%のNi、0.10~0.50質量%のCo、0.60~1.3質量%のSi、0.010~0.10質量%のCrを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、Niに対するCoの質量の比RBは、0.056~0.086である銅合金。
【請求項16】
Mg、Fe、P、Ag、Zn、Sn、Pb、Zr、As、Se、Te、Sb、Bi、Au、Ti、Nb、V、Ta、W、Mo及びMnからなる群より選ばれる一種以上の元素を合計で0.010~1.0質量%さらに含有する、請求項15に記載の銅合金。
【請求項17】
請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の銅合金を含む、電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金及び電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コルソン合金は、Cuマトリックス中にNi-Si、Co-Si、Ni-Co-Si等の金属間化合物を析出させた合金であり、高い強度、高い導電率を兼ね備えている。コルソン合金は、そのような特性を有するため電子部品中の銅合金部品として、例えば、半導体パッケージ中で半導体素子を支持固定し内部配線を形成するリードフレームとして使用され得る(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-035437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電子部品の高機能化に伴い、電子部品中に含まれることとなるコルソン合金の銅合金から製造される銅合金部品(又は銅合金部品中の特定の部分)は高度に微細化しており、銅合金に対しても、高い導電率を備えつつさらにその微細化に対応する特性の向上が求められている。
例えば電子部品としての半導体パッケージにおいては、近年の益々の高機能化により半導体パッケージの構造が細密化し、さらにはパッケージ自体が大型化することがある。そのため、半導体パッケージの構築用の銅合金から製造されるリードフレーム、特にリードフレーム内のリードについても微細化がすすめられている。リードは、半導体パッケージ内において外部配線と接続するための内部配線(ピン)になる部分であり、リードの微細化により、リード長が増加したり各リード間が狭ピッチ化したりしている。しかし、このような微細化により、リードが十分な強度を有しにくいことがあり、リードフレームや半導体パッケージの製造工程(例えば、銅合金板をハーフエッチングにより所望のリードフレームを製造する工程や、リードフレームに半導体素子を配置した後、リードと半導体素子とを接続するためワイヤボンディングする工程など)において、リードが変形しその形状を高い精度で維持しにくいことがあった。その結果として、半導体パッケージを十分に効率よく製造できないことがあり、銅合金においてはさらなる強度の向上が求められている。
【0005】
本開示は、高い導電率及び高い強度を有する銅合金及びそれを含む電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の銅合金は一実施形態において、2.3~4.6質量%のNi、0.10~0.50質量%のCo、0.60~1.3質量%のSi、0.010~0.10質量%のCrを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる、銅合金である。
【0007】
本開示の電子部品は一実施形態において、上記の本開示の銅合金を含む、電子部品である。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、高い導電率及び高い強度を有する銅合金及びそれを含む電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1及び比較例1、2の銅合金について、それらの特性をCo量(質量%)に対してプロットし、線形近似曲線を描いたグラフである。第1軸は引張強さを、第2軸は導電率を示している。また、四角のプロットは引張強さ、丸のプロットは導電率を示している。
図2図2は、実施例1及び比較例1、2の銅合金について、それらの特性を、Niに対するCoの質量の比RBに対してプロットし、線形近似曲線を描いたグラフである。第1軸は引張強さを、第2軸は導電率を示している。また、四角のプロットは引張強さ、丸のプロットは導電率を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態(以下、「本実施形態」とも称す)を詳細に説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
本開示において「A~B」とは、「A以上かつB以下」を意味する。ここで、A及びBは、数値を表す。
【0011】
[銅合金]
本実施形態の銅合金は、2.3~4.6質量%のNi、0.10~0.50質量%のCo、0.60~1.3質量%のSi、0.010~0.10質量%のCrを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅合金である。すなわち、本実施形態の銅合金は、Cu-Ni-Co-Si系合金である。Ni、Co及びSiは、適当な熱処理を行うことによりNi-Co-Si系の金属間化合物の析出粒子を形成し、高導電率及び高強度化を図ることができる。
【0012】
本実施形態の銅合金の組成において、Niの濃度は2.3~4.6質量%であり、Coの濃度は0.10~0.50質量%であり、Crの濃度は0.010~0.10質量%である。これにより、銅合金の高い導電率を維持しつつ銅合金の強度をより向上させることができる。
Niの濃度が2.3質量%未満である場合は、所望とする強度が得られない。Coの濃度が0.10質量%未満の場合は、所望とする強度や導電性が得られない。Crの濃度が0.010質量%未満の場合は、所望とする強度が得られない。
Niの濃度が4.6質量%を超える場合は、十分な強度が得られるものの導電性の低下を招く。また、Coの濃度が0.50質量%を超える場合は、十分な導電性が得られるものの高強度が得られにくい。Crの濃度が0.10質量%を超える場合は、Crが他の含有成分と化合物を形成し、目的のNi-Co-Si系析出物が形成されにくくなる。その結果、所望とする強度が得られない。
Niの濃度は、好ましくは2.8~4.4質量%であり、より好ましくは3.0~4.0質量%であり、さらに好ましくは3.3~3.7質量%である。また、Coの濃度は、好ましくは0.50質量%未満であり、より好ましくは0.10~0.40質量%であり、さらに好ましくは0.20~0.30質量%である。Crの濃度は、好ましくは0.020~0.070質量%であり、より好ましくは0.040~0.060質量%である。
【0013】
本実施形態の銅合金の組成において、Siの濃度は0.6~1.3質量%である。これにより、銅合金の高い導電率を維持しつつ銅合金の強度をより向上させることができる。Siの濃度が0.60質量%未満であると、所望の強度を得られない。また、Siの濃度が1.3質量%超であると、十分な強度が得られるものの導電性の低下を招く。
Siの濃度は、好ましくは0.7~1.2質量%であり、より好ましくは0.8~1.0質量%である。
【0014】
Ni、Co及びSiによって形成されるNi-Co-Si系析出物は、上述のように、(Ni+Co)Siを主とする金属間化合物であると考えられる。しかし、銅合金中のNi、Co及びSiは、銅合金板の製造工程中の時効処理によって全てが析出物になるとは限らず、ある程度はCuマトリックス中に固溶した状態で存在し得る。固溶状態のNi、Co及びSiは、銅合金板の強度を若干向上させ得るが、析出状態と比べてその効果は小さく、また、導電率を低下させる要因になり得る。そのため、Ni、Co及びSiの含有量の比は、(Ni+Co)Siの組成比に近づけるのが好ましい。したがって、Siに対するNi及びCoの合計の質量の比RAは、好ましくは3.5~5.0であり、より好ましくは3.5~4.5である。
【0015】
Ni-Co-Si系析出物は、上述のように銅合金の強度及び導電率の向上に寄与するところ、Niは銅合金の強度の向上に主に寄与する傾向があり、他方、Coは銅合金の導電率の向上に主に寄与する傾向がある。したがって、銅合金の高い導電率を維持しつつ強度を高く向上させる観点から、Niに対するCoの質量の比RBは、0.010~0.155とすることができる。Niに対するCoの質量の比RBが0.010以上であることにより、銅合金の高い導電率を維持することができる。Niに対するCoの質量の比RBが0.155以下であることにより、銅合金の強度を効果的に向上させることができる。
比RBは、好ましくは0.025~0.155であり、より好ましくは0.056~0.086である。
【0016】
本実施形態の銅合金の組成において、上記の元素以外の元素として、Mg、Fe、P、Cr、Ag、Zn、Sn、Pb、Zr、Al、As、Se、Te、Sb、Bi、Au、Ti、Nb、V、Ta、W、Mo及びMnからなる群より選ばれる一種以上の元素(以下、「添加元素」ともいう)を合計で0.010~1.0質量%さらに含有することができる。これにより、銅合金の強度、耐熱性、耐応力緩和性等を改善することができる。
添加元素の合計量が0.010質量%以上であることにより、上記の所望の効果が得られやすい傾向がある。また1.0質量%以下であることにより、所望の特性を得つつ、導電性が低下することを防止できる。
添加元素の合計量は、好ましくは0.020~0.080質量%であり、より好ましくは0.050~0.080質量%である。
【0017】
本実施形態において、上記以外の成分である残部は、Cu及び不可避不純物からなる。ここで、不可避不純物とは、製造工程中に、材料中への混入が避けられない不純物元素のことを意味する。当該不可避不純物の各元素の濃度としては、例えば0.015質量%以下とすることができ、好ましくは0%(検出不可)である。
銅合金の組成は、湿式分析によって測定することもできる。Niは銅分離ジメチルグリオキシム重量法(JIS-H1056(2003))を用いてよく、Siは二酸化けい素重量法(JIS-H1061(2006))を用いてよい。その他添加元素及び不純物元素はICP発光分光分析法を用いてもよく、その他添加元素の分析は内標準法を用いて行い、内標準物質としてはY(イットリウム)を用いて分析する。内標準物質はY以外の元素を選択してもよい。ICP発光分光分析は、日立ハイテクサイエンス社製ICP発光分光分析装置(ICP-OES)SPS3100又はこれと同等な装置を用いて測定を行う。ICP発光分光分析法の場合は、銅合金のサンプルを塩酸及び硝酸を含む混酸(塩酸、硝酸、及び水を体積比2:1:2で含む)に溶解させたものを希釈して用いる。
また、銅合金の組成は、蛍光X線分析を用いて測定してもよい。蛍光X線分析装置として、リガク社製Simultix14又はこれと同等な装置が使用できる。分析面は表面最大粗さRz(JIS-B0601(2013))が6.3μm以下となるように切削もしくは機械研磨したものを用いればよい。溶解鋳造中の溶湯から蛍光X線分析用のサンプルを採取する場合は30~40mmΦ、厚み50~80mm程度の形状に鋳込んだ後、厚み10~20mm程度に切断したのち切断面を分析面とする。蛍光X線分析はJIS K 0119:2008に基づいて行い、波長分散方式にて測定する。
【0018】
本実施形態の銅合金は、特に限定されないが例えば後述のように圧延工程を含む製造方法により、銅合金板とすることができる。銅合金板としては、上記の組成からなり、所定の厚さの立体的形状を有する物体であれば特に限定されない。この銅合金板の「板」には、シート、条、箔も含まれる。また、この銅合金板には、例えば電子部品に用いるために加工する前の銅合金板だけでなく、加工中又は加工した後の状態の銅合金板も含まれる。銅合金板の厚さは、例えば0.030~1.2mmである。当該厚さは、好ましくは0.050~0.60mmであり、より好ましくは0.080~0.30mmである。
【0019】
本実施形態の銅合金は、上記のような組成を有することから高い導電率及び強度を有する。具体的には、本実施形態の銅合金は、圧延工程を経て製造した銅合金板において、圧延方向と平行な方向における引張強さが870MPa以上であり得る。このように高い引張強度を有するので、銅合金から製造される電子部品用の微細化された銅合金部品又は銅合金部品中の部分について、電子部品の製造工程中、具体的には銅合金板を加工して銅合金部品(例えばリードフレーム)を製造する工程も含む、電子部品を製造するまでの一連の工程中で生じ得る変形を抑制することができる。
圧延方向と平行な方向における引張強さは930MPa以上であることが好ましく、より好ましくは940MPa以上であり、さらに好ましくは950MPa以上である。
い。
圧延方向と平行な方向における引張強さの上限は特に限定されないが、当該引張強さは、例えば、1200MPa以下であってもよく、1100MPa以下であってもよく、1000MPa以下であってもよい。
【0020】
圧延方向と平行な方向における引張強さは、JIS-Z2241(2011)に準拠して、引張試験機を用いて測定することができる。具体的には、各試料から、引張方向が圧延方向と平行な方向になるようにプレス機を用いてJIS13B号試験片を作製する。引張試験の条件は、試験片幅を12.5mm、測定温度を室温(15~35℃)、引張速度を5mm/min、標点距離(ゲージ長さ)を50mmとする。2個の試験片で試験を行い、2つのデータの平均値を、本開示におけるに圧延方向と平行な方向における引張強さとすることができる。上記の引張速度は、JIS規格に記載のクロスヘッド変位速度に相当する。
また圧延方向と平行な方向における引張強さは、銅合金の組成を上述の本実施形態の銅合金の組成とすることにより、所望の範囲にすることができる。
【0021】
本実施形態の銅合金は、導電率が30%IACS以上であってもよい。導電率が30%IACS以上であることにより、電子部品の銅合金部品として有効に用いることができる。
導電率は、圧延方向と平行な方向における導電率を意味するものとする。
また、導電率は、銅合金の組成を上述の本実施形態の銅合金の組成とすることにより、所望の範囲にすることができる。
導電率(EC:%IACS)は、JIS-H0505(1975)に準拠して、4端子法で測定することができる。測定にはダブルブリッジを用い、抵抗の測定は平均断面積法に基づいて行うことができる。導電率は、圧延方向と平行な方向における導電率を室温(25℃)で測定することができる。なお、試験サンプルの都合から、標点距離(電気抵抗測定間距離)は50mmで測定することができる。
【0022】
以下、銅合金板の製造方法について説明する。
本実施形態において、銅合金板は、特に限定されることはないが圧延工程を含む方法により製造することができる。具体的には銅合金板は、例えばインゴットを均質化、熱間圧延、中間冷間圧延、溶体化処理、時効処理、仕上冷間圧延、歪取焼鈍の順で行って製造することができる。溶体化処理前の冷間圧延は必須ではなく、必要に応じて実施してもよい。また、溶体化処理後で時効処理前に冷間圧延を必要に応じて実施してもよいし、溶体化処理と時効処理をそれぞれ2回以上行ってもよい。上記各工程を行った後に、表面の酸化スケール除去のための研削、研磨、ショットブラスト、酸洗等を適宜行うことができる。
【0023】
本実施形態の銅合金を用いて圧延工程を含む方法により製造され得る銅合金板の製造方法の例をより詳細に説明する。
銅合金板の製造方法は、まず、上述した所望の組成を有する銅合金の原料を溶解して鋳造する工程を含むことができる。当該工程では、一般的な銅合金の溶製方法と同様の方法により、銅合金の原料を溶解した後、連続鋳造や半連続鋳造などによりインゴットを製造する。例えば、まず大気溶解炉を用い、電気銅、Ni、Co、Si、Cr等の原料を溶解し、目的の組成の溶湯を得る。そしてこの溶湯を任意の寸法の鋳型に流し込みインゴットに鋳造する。
【0024】
本実施形態において、銅合金板の製造方法は、任意に均質化焼鈍を行ったインゴットの熱間圧延を行う工程を含むことができる。インゴットの熱間圧延は、特に限定されないが例えば、500~950℃において数パスに分けて行うことができる。なお、熱間圧延のトータルの加工度は、90%以上にすることが好ましい。
【0025】
溶体化処理はNi-Si系化合物、Co―Si系化合物、Ni-Co-Si系化合物などのシリサイドをCu母地中に固溶させ、同時にCu母地を再結晶させる熱処理である。溶体化の加熱処理温度は、特に限定されないが、例えば650~1000℃とすることができる。また加熱処理時間は、1秒~10分間とすることができる。具体的には、溶体化処理温度や時間が上記範囲の下限値以上であることにより、Ni-Co-Si系化合物等のシリサイドが銅合金中に多く含有されていても、Cu母地中に十分に固溶させやすくすることができ、また再結晶させることができる。溶体化処理温度や時間が上記範囲の上限値以下であることにより、再結晶粒の粗大化を抑制しやすくすることができる。
当該加熱処理温度は好ましくは700~950℃であり、また、時間は好ましくは5秒~5分間である。
【0026】
本実施形態において、銅合金板の製造方法は、上記の溶体化処理後の中間体の時効処理を行う工程を含むことができる。時効処理の加熱処理温度は、特に限定されないが、例えば、375~625℃とすることができる。また加熱処理時間は、0.5~50時間とすることができる。
時効処理温度や時間が上記範囲下限値以上であることにより、Ni-Si系化合物、Co―Si系化合物、Ni-Co-Si系化合物の析出量が十分な量となり十分な強度が得られやすい傾向がある。時効処理温度や時間が上記範囲上限値以下であることにより、析出物の粗大化や再固溶が起こることを防止でき、強度や導電率を十分に向上させやすくすることができる。
銅合金の強度及び導電率を十分に高くするために、時効処理後の中間体の圧延方向と平行な方向における引張強さと導電率とを高めることが重要である。例えば、銅合金の引張強さを870MPa以上とするためには時効処理後の中間体の引張強さを750MPa以上としてもよい。銅合金の引張強さを930MPa以上とするためには時効処理後の中間体の引張強さを830MPa以上としてもよい。銅合金の引張強さを950MPa以上とするためには時効処理後の中間体の引張強さを850MPa以上としてもよい。例えば、時効処理後の中間体の圧延方向と平行な方向における導電率は40%IACS以上としてもよい。
時効処理は、酸化被膜の発生を抑制するためにAr、N2、H2等の不活性雰囲気で行うことが好ましい。
【0027】
本実施形態において、銅合金板の製造方法は、上記の中間体の仕上冷間圧延を行う工程を含むことができる。仕上冷間圧延は、特に限定されないが、例えば数パスに分けて行う。1パス以上の圧延を行うのが好ましい。仕上冷間圧延のトータルの加工度は、40%以上であることが好ましい。仕上冷間圧延によって材料に加工歪を与え、強度を向上させることができる。
仕上冷間圧延の加工度の上限値は90%以下であることが好ましい。加工度が90%以下であることにより、強加工の加工歪により導電率が低下することを防止することができる。
加工度(%)は、圧延に付すための加工対象の厚さをTBとし、圧延後の加工対象の厚さをTAとすると、加工度(%)=[(TB-TA)/TB]×100で表される。
【0028】
本実施形態において、銅合金板の製造方法は、上記の仕上冷間圧延後の中間体の歪取焼鈍を行う工程を含むことができる。歪取焼鈍は一般的な条件で行えばよく、例えば250℃~550℃、保持時間を5秒~5時間で行うことができる。歪取焼鈍は、大気中又は窒素やアルゴンガス等の不活性雰囲気中で行ってもよい。また、歪取焼鈍後の銅合金板は、空冷によって冷却されてもよい。
【0029】
本実施形態において、銅合金板は上記の工程を含む製造方法で製造することができる。なお、この製造方法においては、各圧延工程や各熱処理工程後には、必要に応じて酸洗、研磨、脱脂、面削、トリミングを行ってもよい。またこの製造方法においては、上記以外の圧延工程や熱処理工程を含むことができる。
【0030】
[電子部品]
本実施形態の電子部品は、先述の本実施形態の銅合金を含む電子部品である。より詳細には、本実施形態の電子部品は、本実施形態の銅合金から銅合金板を経て製造される銅合金部品をその内部に有する。電子部品としては、例えば半導体パッケージが挙げられる。本実施形態の銅合金から製造され得る微細化した銅合金部品は、電子部品の製造工程での変形が抑制された特性を有することから、微細化された構造を多く有する半導体パッケージの製造のために本実施形態の銅合金を使用することが好適である。
なお、電子部品が半導体パッケージである場合には、当該半導体パッケージは、特に限定されないが例えば、本実施形態の銅合金から製造された銅合金板を用いてリードフレームを製造し、次いで、当該リードフレーム上に半導体素子を支持固定し、半導体素子とリードとをワイヤボンディングして内部配線を形成し、そして、半導体素子を所定の樹脂部材により封止することにより、製造することができる。以上のように、本実施形態の電子部品は、本実施形態の銅合金を含んでいてもよい。
【0031】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示の銅合金及び電子部品は、上記例に限定されることは無く、適宜変更を加えることができる。
【0032】
(本開示の態様)
本開示の第1態様は、2.3~4.6質量%のNi、0.10~0.50質量%のCo、0.60~1.3質量%のSi、0.010~0.10質量%のCrを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる、銅合金である。
【0033】
本開示の第2態様は、0.50質量%未満のCoを含有する、第1態様に記載の銅合金である。
【0034】
本開示の第3態様は、0.10~0.40質量%のCoを含有する、第1態様又は第2態様に記載の銅合金である。
【0035】
本開示の第4態様は、0.20~0.30質量%のCoを含有する、第1態様~第3態様のいずれかに記載の銅合金である。
【0036】
本開示の第5態様は、0.020~0.070質量%のCrを含有する、第1態様~第4態様のいずれかに記載の銅合金である。
【0037】
本開示の第6態様は、3.0~4.0質量%のNiを含有する、第1態様~第5態様のいずれかに記載の銅合金である。
【0038】
本開示の第7態様は、Siに対するNi及びCoの合計の質量の比RAは、3.5~5.0である、第1態様~第6態様のいずれかに記載の銅合金である。
【0039】
本開示の第8態様は、前記比RAは、3.5~4.5である、第7態様に記載の銅合金である。
【0040】
本開示の第9態様は、Niに対するCoの質量の比RBは、0.010~0.155である、第1態様~第8態様のいずれかに記載の銅合金である。
【0041】
本開示の第10態様は、前記比RBは、0.025~0.155である、第9態様に記載の銅合金である。
【0042】
本開示の第11態様は、前記比RBは、0.056~0.086である、第9態様に記載の銅合金である。
【0043】
本開示の第12態様は、Mg、Fe、P、Cr、Ag、Zn、Sn、Pb、Zr、Al、As、Se、Te、Sb、Bi、Au、Ti、Nb、V、Ta、W、Mo及びMnからなる群より選ばれる一種以上の元素を合計で0.010~1.0質量%さらに含有する、第1態様~第11態様のいずれかに記載の銅合金である。
【0044】
本開示の第13態様は、導電率が30%IACS以上である、第1態様~第12態様のいずれかに記載の銅合金である。
【0045】
本開示の第14態様は、圧延方向と平行な方向における引張強さが870MPa以上である、第1態様~第13態様のいずれかに記載の銅合金である。
【0046】
本開示の第15態様は、圧延方向と平行な方向における引張強さが930MPa以上である、第1態様~第14態様のいずれかに記載の銅合金である。
【0047】
本開示の第16態様は、第1態様~第15態様のいずれかに記載の銅合金を含む、電子部品である。
【実施例
【0048】
以下、実施例により本開示を更に詳細に説明するが、本開示は下記の実施例になんら限定されるものではない。
実施例1において、所望の銅合金より以下のように銅合金板を作製した。
電気銅を原料とし、大気溶解炉を用いて表1に示す組成の銅合金を溶製、鋳造した。このインゴットを950℃で板厚10.0mmまで熱間圧延を行った。熱間圧延後、面削を行い、次いで板厚0.167mmまで中間冷間圧延を行った。その後、溶体化処理、時効処理をそれぞれ表1に示す条件で行った。
次に、表1に示す加工度で、板厚0.1mmになるまで仕上冷間圧延を行い、銅合金板を得た。
また、実施例2では、実施例1の仕上冷間圧延を行った銅合金板をさらに表2に示す条件で大気中で歪取焼鈍を行った。歪取焼鈍後の銅合金板を空冷によって冷却することにより、実施例2の銅合金板を得た。
【0049】
比較例1、2では、表1に示す銅合金の組成や溶体化処理条件に変更した以外、実施例1と同様にして銅合金板を製造した。具体的には比較例1では、表1に示す銅合金の組成に変更し、溶体化処理温度として表1に示す900℃又は925℃の温度条件に変更した以外、実施例1と同様の製造方法で銅合金板として2つのサンプルを製造した。そして、比較例1の銅合金の各評価は、2つのサンプルの評価結果の数値(表1に示すように時効処理後の中間体や仕上冷間圧延後の銅合金板についての引張強さや導電率)を縦軸に、また溶体化処理温度を横軸にプロットをし、当該プロットを結ぶ直線を算定し、次いで、当該直線を表す数式に溶体化処理温度915℃の値を代入することで、溶体化処理を915℃で行い製造した場合の銅合金及びその中間体の推算される各評価結果を得た。
また、比較例2では、比較例1と同様に、表1に示す銅合金の組成に変更し、溶体化処理温度として表1に示す910℃、935℃、950℃の温度条件に変更した以外、実施例1と同様の製造方法で銅合金板として3つのサンプルを製造した。そして、比較例2の銅合金の各評価は、3つのサンプルの評価結果の数値を縦軸に、また溶体化処理温度を横軸にプロットをし、当該プロットを結ぶ近似直線を算定し(マイクロソフトエクセル(登録商標)の近似直線機能を利用)、次いで、当該近似直線を表す数式に溶体化処理温度915℃の値を代入することで、溶体化処理を915℃で行い製造した場合の銅合金及びその中間体の推算される各評価結果を得た。
【0050】
得られた実施例1、2の銅合金板及び比較例1、2の銅合金板は次の測定を行った。その結果を表1、2に示す。
〔組成〕
得られた銅合金の組成は、蛍光X線分析により確認した。蛍光X線分析装置として、リガク社製Simultix14を使用した。分析面は表面最大粗さRz(JIS-B0601(2013))が6.3μm以下となるように切削もしくは機械研磨したものを用いた。蛍光X線分析はJIS K 0119:2008に基づいて行い、波長分散方式にて測定した。
【0051】
〔引張強さ(TS)〕
得られた銅合金板につき、引張強さ(TS)をJIS-Z2241(2011)に準拠して、引張試験機により圧延方向と平行な方向に測定した。
具体的には、各試料から、引張方向が圧延方向と平行な方向になるようにプレス機を用いてJIS13B号試験片を作製した。引張試験の条件は、試験片幅を12.5mm、測定温度を室温(15~35℃)、引張速度(クロスヘッド変位速度)を5mm/min、標点距離(ゲージ長さ)を50mmとした。2個の試験片で試験を行い、2つのデータの平均値を表1、2に示した。
【0052】
〔導電率〕
導電率(EC:%IACS)は、JIS-H0505(1975)に準拠して、4端子法で測定した。測定にはダブルブリッジを用い、抵抗の測定は平均断面積法に基づいて行った。導電率は、圧延方向と平行な方向における導電率を室温(25℃)で測定した。なお、標点距離(電気抵抗測定間距離)は50mmで測定した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1、2に示されるように、所望の組成で製造することにより、高い導電率を備えつつ、引張強さが向上することが分かった。したがって、実施例1、2の銅合金から製造される電子部品用の微細化した銅合金部品は、電子部品の製造工程での変形を抑制することができる。
実施例1及び比較例1、比較例2の銅合金の特性(引張強さ及び導電率)をCo量(質量%)に対してプロットし、線形近似曲線を描いた結果を図1に示す。Co量が増えるにつれて、Co-Si系析出物もしくはNi-Co-Si系析出物が生じるため、導電率は向上すると考えられる。そこで、実施例で得られた実験値より線形近似曲線を作成し、各Co量での導電率を予想した。この結果から、Co量が0.10質量%以上であれば、39.7%IACS以上の導電率を実現できることが分かる。Co量が0.20質量%以上であれば、39.8%IACS以上の導電率を実現できることが分かる。Co量が0.25質量%以上であれば、39.7%IACS以上の導電率を実現できることが分かる。Co量が0.25質量%以上であれば、40.1%IACS以上の導電率を実現できることが分かる。
実施例1及び比較例1、比較例2の銅合金の特性(引張強さ及び導電率)をNiに対するCoの質量の比RBに対してプロットし、線形近似曲線を描いた結果を図3に示す。RBの増加に伴い、Co-Si系析出物もしくはNi-Co-Si系析出物が生じるため、導電率が得られやすく、強度は得られにくくなると考えられる。そこで、実施例で得られた実験値より線形近似曲線を作成し、各RBでの強度及び導電率を予想した。この結果から、比RBが0.010以上であれば、39.7%IACS以上の導電率を実現できることが分かる。比RBが0.025以上であれば、39.7%IACS以上の導電率を実現できることが分かる。比RBが0.056以上であれば、39.8%IACS以上の導電率を実現できることが分かる。また、比RBが0.155以下であれば、938MPa以上の引張強さを実現できることが分かる。比RBが0.086以下であれば、949MPa以上の引張強さを実現できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本開示によれば、高い導電率及び高い強度を有する銅合金及びそれを含む電子部品を提供することができる。
【要約】
【課題】本開示は、高い導電率及び高い強度を有する銅合金及びそれを含む電子部品を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示の銅合金は、2.3~4.6質量%のNi、0.10~0.50質量%のCo、0.60~1.3質量%のSi、0.010~0.10質量%のCrを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる。
【選択図】図1
図1
図2