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特許7648843エピタキシャル成長用基板、光半導体素子の製造方法、及び光半導体素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-10
(45)【発行日】2025-03-18
(54)【発明の名称】エピタキシャル成長用基板、光半導体素子の製造方法、及び光半導体素子
(51)【国際特許分類】
   H10H 20/815 20250101AFI20250311BHJP
   H10H 20/824 20250101ALI20250311BHJP
   H10H 20/841 20250101ALI20250311BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20250311BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20250311BHJP
   C30B 29/40 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
H10H20/815
H10H20/824
H10H20/841
H01L21/205
H01L21/20
C30B29/40 D
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2024186230
(22)【出願日】2024-10-22
【審査請求日】2024-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2023187231
(32)【優先日】2023-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024023237
(32)【優先日】2024-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】小鹿 優太
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-102620(JP,A)
【文献】特表2014-517541(JP,A)
【文献】特開2020-150243(JP,A)
【文献】特開2004-040122(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054284(WO,A1)
【文献】特表2020-536033(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0168864(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0005872(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0131730(US,A1)
【文献】特開平06-188447(JP,A)
【文献】特開2004-128185(JP,A)
【文献】特開2018-026570(JP,A)
【文献】国際公開第2011/090040(WO,A1)
【文献】米国特許第05225368(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0178685(US,A1)
【文献】米国特許第07135699(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10H 20/00 - 20/858
H01S 5/00 - 5/50
H01L 21/18 - 21/205
C30B 29/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期成長用基板と、
前記初期成長用基板上のエッチングストップ層と、
前記エッチングストップ層上のバッファ積層体を有する、
エピタキシャル成長用基板であって、
前記バッファ積層体は、それぞれ異なる格子定数をもつN個のバッファ層と、N個のバッファ層上の厚さが300nm以上の疑似基板層を有し、
前記初期成長用基板の格子定数をa、前記疑似基板層の格子定数をaとした場合に、前記初期成長用基板に対する前記疑似基板層の不整合度Xp・gが0.7%以上であり、
前記Nは3以上9以下の自然数であり、
前記バッファ層の初期成長用基板側にミスフィット転位を有するバッファ層を3個以上有する
エピタキシャル成長用基板。
【請求項2】
前記疑似基板層の、逆格子空間マップから算出される垂直方向の格子定数をq、水平方向の格子定数をqとした場合に、下記式(2):
-0.0002≦q-q≦0.0011 (2)
を満たす、請求項1記載のエピタキシャル成長用基板。
【請求項3】
前記疑似基板層の表面を金属顕微鏡により撮影した上面視において、格子状の模様が観察される、請求項1記載のエピタキシャル成長用基板。
【請求項4】
最も前記初期成長用基板側に位置するバッファ層から数えてn番目のバッファ層の格子定数をaとし、n+1番目のバッファ層の格子定数をan+1とした場合に、下記式(1):
<an+1 (1)
を満たし、
上記式において、nは1~N-1であり、
nが1のときの格子定数aは前記aより大きく、
n+1がNのときの格子定数aは前記aより小さく、
N個の各バッファ層における、初期成長用基板側に隣接する層に対する不整合度を、前記不整合度Xp・gをNで割った値以下とする、請求項1記載のエピタキシャル成長用基板。
【請求項5】
前記バッファ層のそれぞれは、単層又は複数のバッファ構成層により構成され、前記バッファ層の厚さがそれぞれ150nm以上である、請求項1記載のエピタキシャル成長用基板。
【請求項6】
少なくとも一つのバッファ層が複数のバッファ構成層により構成され、
当該バッファ層内で最も初期成長用基板側に位置するバッファ構成層Bよりも当該バッファ層内で最も疑似基板層側に位置するバッファ構成層Aの方が厚く、
ここで、式(1)におけるバッファ層の格子定数にはバッファ構成層Aの格子定数を用いるものとする、請求項4記載のエピタキシャル成長用基板。
【請求項7】
前記バッファ構成層Aの厚さが100nm以上であり、前記バッファ構成層Bの厚さが前記バッファ構成層Aの厚さの半分以下である、請求項6記載のエピタキシャル成長用基板。
【請求項8】
前記初期成長用基板がInP基板であり、前記エッチングストップ層がInGaAs層である、請求項1記載のエピタキシャル成長用基板。
【請求項9】
前記初期成長用基板がInP基板であり、前記バッファ積層体が複数のInAsP層の積層体であり、前記バッファ積層体は前記エッチングストップ層に接するInP窓層をさらに有する、請求項1記載のエピタキシャル成長用基板。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項記載のエピタキシャル成長用基板の疑似基板層上に、
活性層を含む半導体積層体を形成する工程;
前記半導体積層体上に反射層を介して支持基板を接合する工程;及び
前記エピタキシャル成長用基板の初期成長用基板を除去する工程を含む、光半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記半導体積層体を形成する工程によって得られた、前記疑似基板層上の前記半導体積層体の表面側のSORI値が30μm未満である、請求項10記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項12】
支持基板、反射層、活性層を含む半導体積層体、及びバッファ積層体をこの順に備える光半導体素子であって、
前記バッファ積層体は厚さが300nm以上である疑似基板層とN個のバッファ層と窓層をこの順に有し、前記窓層が光取り出し側にあり、
前記疑似基板層及び前記窓層の格子定数をそれぞれa及びaとした場合に、前記窓層に対する前記疑似基板層の不整合度Xp・tが、0.7%以上であり、
前記Nは3以上9以下の自然数であり、
前記バッファ層の窓層側にミスフィット転位を有するバッファ層を3個以上有する
光半導体素子。
【請求項13】
最も前記窓層側に位置するバッファ層から数えてn番目のバッファ層の格子定数をaとし、n+1番目のバッファ層の格子定数をan+1とした場合に、下記式(1):
<an+1 (1)
を満たし、
上記式において、nは1~N-1であり、
nが1のときの格子定数aは前記aより大きく、
n+1がNのときの格子定数aは前記aより小さく、
N個の各バッファ層における、窓層側に隣接する層に対する不整合度を、前記不整合度Xp・tをNで割った値以下とする、請求項12記載の光半導体素子。
【請求項14】
前記疑似基板層から窓層に向けて屈折率が漸減する、請求項12記載の光半導体素子。
【請求項15】
前記窓層がInPであり、前記バッファ積層体が複数のInAsP層の積層体であり、前記疑似基板層がInAsP層である、請求項12記載の光半導体素子。
【請求項16】
前記半導体積層体における活性層の発光中心波長が2000~3000nmである、請求項12記載の光半導体素子。
【請求項17】
前記活性層が量子井戸構造を有し、井戸層の格子定数をaとしたときに、
疑似基板層に対する前記井戸層の不整合度Xw・pが、0.1%以上1.2%未満である、請求項12記載の光半導体素子。
【請求項18】
前記半導体積層体及びバッファ積層体の格子定数において、前記活性層の井戸層の格子定数aが最も大きい、請求項17記載の光半導体素子。
【請求項19】
前記バッファ層のそれぞれは、単層又は複数のバッファ構成層により構成され、前記バッファ層の厚さがそれぞれ150nm以上である、請求項12記載の光半導体素子。
【請求項20】
少なくとも一つのバッファ層が複数のバッファ構成層により構成され、
当該バッファ層内で最も初期成長用基板側に位置するバッファ構成層Bよりも当該バッファ層内で最も疑似基板層側に位置するバッファ構成層Aの方が厚く、
ここで、式(1)におけるバッファ層の格子定数にはバッファ構成層Aの格子定数を用いるものとする、請求項13記載の光半導体素子。
【請求項21】
前記活性層の障壁層の格子定数をaとし前記疑似基板層に対する前記障壁層の不整合度をXb・pとした場合に、前記疑似基板層に対する前記井戸層の不整合度Xw・p及び前記疑似基板層に対する前記障壁層の不整合度Xb・pから計算される、井戸層と障壁層との厚さ平均の不整合度が、-0.09%以上0.46%以下の範囲内である、請求項17記載の光半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル成長用基板、光半導体素子の製造方法、及び光半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体素子は、初期成長用基板上に、活性層を含む半導体積層体をエピタキシャル成長させる工程を経て製造されることが多い。ここで、初期成長用基板の格子定数aに対する、初期成長用基板とエピタキシャル成長により形成されるエピタキシャル層との格子定数の差(Δa)の比の値Δa/aは格子不整合度とよばれる。格子不整合度が小さければ欠陥を生じずにエピタキシャル成長させることができ、格子不整合度が大きくてもエピタキシャル層の膜厚が十分薄ければ、エピタキシャル層の格子が歪むことによって界面での格子の連続性を保って成長(コヒーレント成長)することができる。格子不整合度が大きくてもコヒーレント成長可能な膜厚の上限は臨界膜厚と呼ばれている。
【0003】
格子整合する層を成長させるとは、一般に、格子不整合度が±0.1%以内であってゼロに近い層をエピタキシャル成長させることを指す。格子整合しない層を成長させる場合も、例えば格子不整合度が±0.3%以内となる層をコヒーレント成長する範囲内でエピタキシャル成長することが通常である。一方、初期成長用基板上に、初期成長用基板の格子定数に対する格子不整合度が0.3%よりも大きい層をエピタキシャル成長させる場合については、初期成長用基板上にバッファ層を介して成長する手法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、基板と光吸収層との間に形成されその格子定数が基板の格子定数から吸収層の格子定数まで徐々に変化するバッファ層を設けることが提案されている。具体的には、バッファ層の各層は結晶欠陥の発生を抑制するよう臨界膜厚以下になるように形成されている。
【0005】
また、特許文献2には、InPとGaInAs吸収層の格子不整合を緩和するため、格子不整合率が0.5%以上のGaInAs吸収層を、InAs1-X/InAs1-Yの組み合わせの歪超格子層を多段階に挿入したバッファ上に形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-102620号公報
【文献】特開平6-188447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、従来はInP基板を初期成長用基板に用いた場合には透明である初期成長用基板を除去する必要が無く、厚いInP初期成長用基板をそのまま利用することが光取り出しの向上によいとされていた1000nm~1700nmの波長帯(例えば1300nm)において、あえてInP初期成長用基板を除去して支持基板を接合することによって発光効率を向上させる技術を先駆けて開発した。そして、このような技術を、波長域が1700nmを超える光半導体素子や、その他の波長域の光半導体素子にも適用できないか、との検討を行った。波長域が1700nmを超える光半導体素子、例えば、波長域が2000~3000nmの光半導体素子の場合、当該波長に必要な活性層を含む半導体積層体と格子定数が近い初期成長用基板を選択することができないことから、初期成長用基板に対する格子不整合度が大きい層をエピタキシャル成長することになる。
【0008】
初期成長用基板上にバッファ層を介して格子不整合度が大きい層を成長する手法において、特許文献1及び2に記載の歪超格子型のバッファ積層体や組成傾斜バッファでは結晶欠陥(転位)の発生を抑制しながら形成するため、初期成長用基板との格子不整合によって基板に反りが発生していたり、薄くして反りを発生させない場合でも内部に大きな応力を蓄積させる。そのような内部応力が溜まっている場合は、上記技術を用いて支持基板の貼り合わせを行う時や初期成長用基板の除去時において、内部応力の釣合いが急変するためにクラックが生じる恐れがあった。
【0009】
本発明は、支持基板の貼り合わせや初期成長用基板の除去を行ったとしてもクラックを生じさせないようなバッファ積層体を有するエピタキシャル成長用基板を提供し、そのようなエピタキシャル成長用基板上に活性層を含む半導体積層体を形成して支持基板の貼り合わせや初期成長用基板の除去を行った光半導体素子の製造方法及び光半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、初期成長用基板上に複数のバッファ層を介して、初期成長用基板に対する不整合度が0.7%以上である疑似基板層を設ける場合において、疑似基板層がリラックス状態となるように、コヒーレント成長させずに特定の転位を発生させながらバッファ層を形成したエピタキシャル成長用基板とすることによって、当該エピタキシャル成長用基板における疑似基板層上に半導体積層体を形成したときの反り量を低減させ、半導体積層体上への支持基板の貼り合わせ時や初期成長用基板の除去時などにおいて、疑似基板層上に形成した半導体積層体にクラックが生じることを抑制できることを見出し、本発明を完成させた。ここで、リラックス状態とは、内部応力による結晶格子の水平方向と垂直方向の格子歪が小さくその差が特定の範囲内にある状態ということができ、その判断方法については後述する。
【0011】
具体的には、本発明におけるバッファ積層体は、3個以上であるN個のバッファ層を持ち、N個のバッファ層は、最も初期成長用基板に近いバッファ層から、最も疑似基板層に近いバッファ層に向けて、全体としては格子定数が漸増していき、かつN個あるバッファ層のうちN個もしくはN個より少ない数であって3個以上のバッファ層において、格子定数の異なる他層と接する部分がミスフィット転位を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]初期成長用基板と、
前記初期成長用基板上のエッチングストップ層と、
前記エッチングストップ層上のバッファ積層体を有する、
エピタキシャル成長用基板であって、
前記バッファ積層体は、それぞれ異なる格子定数をもつN個のバッファ層と、N個のバッファ層上の厚さが300nm以上の疑似基板層を有し、
前記初期成長用基板の格子定数をa、前記疑似基板層の格子定数をaとした場合に、前記初期成長用基板に対する前記疑似基板層の不整合度Xp・gが0.7%以上であり、
前記Nは3以上の自然数であり、
前記バッファ層の初期成長用基板側にミスフィット転位を有するバッファ層を3個以上有する
エピタキシャル成長用基板。
[2]前記疑似基板層の、逆格子空間マップから算出される垂直方向の格子定数をq、水平方向の格子定数をqとした場合に、下記式(2):
-0.0002≦q-q≦0.0011 (2)
を満たす、[1]のエピタキシャル成長用基板。
[3]前記疑似基板層の表面を金属顕微鏡により撮影した上面視において、格子状の模様が観察される、[1]又は[2]のエピタキシャル成長用基板。
[4]最も前記初期成長用基板側に位置するバッファ層から数えてn番目のバッファ層の格子定数をaとし、n+1番目のバッファ層の格子定数をan+1とした場合に、下記式(1):
<an+1 (1)
を満たし、
上記式において、nは1~N-1であり、
nが1のときの格子定数aは前記aより大きく、
n+1がNのときの格子定数aは前記aより小さく、
N個の各バッファ層における、初期成長用基板側に隣接する層に対する不整合度を、前記不整合度Xp・gをNで割った値以下とする、[1]~[3]のいずれかのエピタキシャル成長用基板。
[5]前記バッファ層のそれぞれは、単層又は複数のバッファ構成層により構成され、前記バッファ層の厚さがそれぞれ150nm以上である、[1]~[4]のいずれかのエピタキシャル成長用基板。
[6]少なくとも一つのバッファ層が複数のバッファ構成層により構成され、
当該バッファ層内で最も初期成長用基板側に位置するバッファ構成層Bよりも当該バッファ層内で最も疑似基板層側に位置するバッファ構成層Aの方が厚く、
ここで、式(1)におけるバッファ層の格子定数にはバッファ構成層Aの格子定数を用いるものとする、[4]又は[5]のエピタキシャル成長用基板。
[7]前記バッファ構成層Aの厚さが100nm以上であり、前記バッファ構成層Bの厚さが前記バッファ構成層Aの厚さの半分以下である、[6]のエピタキシャル成長用基板。
[8]前記初期成長用基板がInP基板であり、前記エッチングストップ層がInGaAs層である、[1]~[7]のいずれかのエピタキシャル成長用基板。
[9]前記初期成長用基板がInP基板であり、前記バッファ積層体が複数のInAsP層の積層体であり、前記バッファ積層体は前記エッチングストップ層に接するInP窓層をさらに有する、[1]~[8]のいずれかのエピタキシャル成長用基板。
[10][1]~[9]のいずれかのエピタキシャル成長用基板の疑似基板層上に、
活性層を含む半導体積層体を形成する工程;
前記半導体積層体上に反射層を介して支持基板を接合する工程;及び
前記エピタキシャル成長用基板の初期成長用基板を除去する工程を含む、光半導体素子の製造方法。
[11]前記半導体積層体を形成する工程によって得られた、前記疑似基板層上の前記半導体積層体の表面側のSORI値が30μm未満である、[10]の光半導体素子の製造方法。
[12]支持基板、反射層、活性層を含む半導体積層体、及びバッファ積層体をこの順に備える光半導体素子であって、
前記バッファ積層体は厚さが300nm以上である疑似基板層とN個のバッファ層と窓層をこの順に有し、前記窓層が光取り出し側にあり、
前記疑似基板層及び前記窓層の格子定数をそれぞれa及びaとした場合に、前記窓層に対する前記疑似基板層の不整合度Xp・tが、0.7%以上であり、
前記Nは3以上の自然数であり、
前記バッファ層の窓層側にミスフィット転位を有するバッファ層を3個以上有する
光半導体素子。
[13]最も前記窓層側に位置するバッファ層から数えてn番目のバッファ層の格子定数をaとし、n+1番目のバッファ層の格子定数をan+1とした場合に、下記式(1):
<an+1 (1)
を満たし、
上記式において、nは1~N-1であり、
nが1のときの格子定数aは前記aより大きく、
n+1がNのときの格子定数aは前記aより小さく、
N個の各バッファ層における、窓層側に隣接する層に対する不整合度を、前記不整合度Xp・tをNで割った値以下とする、[12]の光半導体素子。
[14]前記疑似基板層から窓層に向けて屈折率が漸減する、[12]又は[13]の光半導体素子。
[15]前記窓層がInPであり、前記バッファ積層体が複数のInAsP層の積層体であり、前記疑似基板層がInAsP層である、[12]~[14]のいずれかの光半導体素子。
[16]前記半導体積層体における活性層の発光中心波長が2000~3000nmである、[12]~[15]のいずれかの光半導体素子。
[17]前記活性層が量子井戸構造を有し、井戸層の格子定数をaとしたときに、
前記疑似基板層に対する前記井戸層の不整合度Xw・pが、0.1%以上1.2%未満である、[12]~[16]のいずれかの光半導体素子。
[18]前記半導体積層体及びバッファ積層体の格子定数において、前記活性層の井戸層の格子定数aが最も大きい、[17]の光半導体素子。
[19]前記バッファ層のそれぞれは、単層又は複数のバッファ構成層により構成され、前記バッファ層の厚さがそれぞれ150nm以上である、[12]~[18]のいずれか
の光半導体素子。
[20]少なくとも一つのバッファ層が複数のバッファ構成層により構成され、
当該バッファ層内で最も初期成長用基板側に位置するバッファ構成層Bよりも当該バッファ層内で最も疑似基板層側に位置するバッファ構成層Aの方が厚く、
ここで、式(1)におけるバッファ層の格子定数にはバッファ構成層Aの格子定数を用いるものとする、[13]~[19]のいずれかの光半導体素子。
[21]前記活性層の障壁層の格子定数をaとし前記疑似基板層に対する前記障壁層の不整合度をXb・pとした場合に、前記疑似基板層に対する前記井戸層の不整合度Xw・p及び前記疑似基板層に対する前記障壁層の不整合度Xb・pから計算される、井戸層と障壁層との厚さ平均の不整合度が、-0.09%以上0.46%以下の範囲内である、[17]~[20]のいずれかの光半導体素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、支持基板の貼り合わせや初期成長用基板の除去を行ったとしてもクラックを生じさせないようなバッファ積層体を有するエピタキシャル成長用基板を提供することができる。そして、そのようなエピタキシャル成長用基板上に活性層を含む半導体積層体を形成して支持基板の貼り合わせや初期成長用基板の除去を行った光半導体素子の製造方法と、PL強度が大きく光の取り出しに有利な光半導体素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のエピタキシャル成長用基板の一例の断面模式図である。この模式図は、格子定数の変化を図案化したものであり、各層の水平方向の幅の大きさは、格子定数の大きさを相対的に表す。
図2】バッファにおける全てのバッファ層が、2つのバッファ構成層からなるバッファ層であるエピタキシャル成長用基板の一例の断面模式図である。この模式図は、図1と同様に、格子定数の変化を図案化したものである。
図3】本発明の光半導体素子の製造方法の一例の断面模式図である。
図4】本発明の光半導体素子の一例の断面模式図である。
図5】反り量(SORI)の定義を説明する基板の模式断面図である。
図6】(BOW)の定義を説明する基板の模式断面図である。
図7】本発明の光半導体素子におけるバッファ積層体と半導体積層体に関する一例の断面模式図である。この模式図は、格子定数の変化を図案化したものであり、各半導体層の水平方向の幅の大きさは、格子定数の大きさを相対的に表す。
図8】実施例1のエピタキシャル成長用基板の断面のTEM像である。
図9】実施例1のエピタキシャル成長用基板の疑似基板層の上面視(3mm角)の金属顕微鏡による撮影像である。
図10】実施例1のエピタキシャル成長用基板を用いた光半導体素子の井戸層と障壁層を合わせた厚さ平均の不整合度に対するPL強度(相対強度)の変化を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態の説明に先立ち、以下の点について予め説明する。
本明細書において、組成比(固相比)に基づきベガート則によって計算した場合の格子定数の記号をaとし、どの層の格子定数であるかをaに付随した下付きで表記する。例えば、初期成長用基板(initial growth substrate)の格子定数をa、疑似基板層(pseudo substrate layer)の格子定数をaと記載する。そして、格子不整合度Δa/aは記号をXとし、どの層に対するどの層の不整合度であるかをXに付随した下付きで表記する。例えば、初期成長用基板に対する疑似基板層の不整合度をXp・gのように表記し、その計算式<1>は
(a-a)/a×100 ・・・<1>
とする。なお、後述するX線による逆格子空間測定で求める場合の格子定数の記号はqとして区別する。
【0016】
本明細書における各層の組成比(固相比)については、SIMS分析することにより得られた値を用いることとする。本明細書におけるバッファ積層体の各層の組成比(固相比)については、エピタキシャル成長用基板では疑似基板層から厚さ方向にSIMS分析(四重極型)を実施することにより得られた値を用いることとする。光半導体素子では窓層から厚さ方向にSIMS分析(四重極型)を実施することにより得られた値を用いることとする。なお、SIMS分析結果に対して、各層の厚さ方向の中央部における各層の半分の厚さ範囲の平均元素濃度の値を使用するものとする。
製造時においては、単膜で成長したものについてXRD測定による格子定数とフォトルミネッセンス(PL)測定による発光中心波長をEg(すなわちバンドギャップ)に換算した値を用いて固相比を算出することで目的の組成比となる成長条件を決め、当該成長条件を用いて目的の組成比を持つ層を積層すればよい。
【0017】
本明細書において、特段の記載がない限り、格子定数は、組成比に基づきベガート則によって計算した値とする。
まずベガート則に従い混晶の単純な格子定数を計算する。
InGaAsP系(すなわち一般式:(InGa)(PAs))を例に説明すると、物性定数Aabxy(ベガート則による格子定数)は、各組成比(固相比)が既知である場合、擬4元混晶の基になる4つの2元混晶の物性定数Bax,Bbx,Bay,Bby(下記表1の文献値の格子定数)をもとに下記式<2>により計算される。
Aabxy=a×x×Bax+b×x×Bbx+a×y×Bay+b×y×Bby ・・・<2>
【0018】
【表1】
【0019】
擬3元混晶の場合は、一般式:(InGaAl)(As))を例とすると下記式<3>、<4>からバンドギャップEg及びベガート則による格子定数aを計算することができる。
【数1】
Aabcy=a×Bay+b×Bby+c×Bcy ・・・<4>
【0020】
なお、III-V族化合物半導体が3元系、5元系又は6元系の場合でも、前述と同様の考えに従って式を変形し、組成波長及び格子定数を求めることができる。また、2元系については上記文献に記載の値を用いることができる。
【0021】
本明細書において、組成比を明示せずに単に「InGaAsP」と表記する場合は、III族元素(In,Gaの合計)と、V族元素(As,P)との化学組成比が1:1であり、かつ、III族元素であるIn及びGaの比率と、V族元素であるAs及びPの比率とがそれぞれ不定の、任意の化合物を意味するものとする。この場合、III族元素にIn及びGaのいずれか一方が含まれない場合を含み、また、V族元素にAs及びPのいずれか一方が含まれない場合を含むものとする。また、「InGaP」と表記する場合は、上記「InGaAsP」にAsが製造上不可避な混入を除いては含まれないことを意味し、「InGaAs」と表記する場合には、上記「InGaAsP」にPが製造上不可避な混入を除いては含まれないことを意味する。同様に、「InAsP」と表記する場合は、上記「InGaAsP」にGaが製造上不可避な混入を除いては含まれないことを意味し、「GaAsP」と表記する場合には、上記「InGaAsP」にInが製造上不可避な混入を除いては含まれないことを意味する。そして、「InP」と表記する場合は、上記「InGaAsP」にGa及びAsが製造上不可避な混入を除いては含まれないことを意味する。なお、InGaAsPやInGaAsなどの各成分組成比は、フォトルミネッセンス測定及びX線回折測定などによって測定することができる。また、ここでいう「製造上不可避な混入」とは、原料ガスを用いる製造装置上の不可避な混入のほか、結晶成長時や、その後の熱処理に伴う各層界面での原子の拡散現象などを意味する。
【0022】
本明細書において、電気的にp型として機能する層をp型層と称し、電気的にn型として機能する層をn型層と称する。一方、ZnやS、Sn等の特定の不純物を意図的には添加していないことを「アンドープ」という。アンドープのInGaAsP層には、製造過程における不可避的な不純物の混入はあってよく、具体的には、キャリア密度が小さい(例えば4×1016/cm3未満)場合、「アンドープ」であるとして、本明細書では取り扱うものとする。また、ZnやSn等の不純物濃度の値は、SIMS分析によるものとする。
【0023】
本明細書において、形成される各層の厚さ全体は、光干渉式膜厚測定器を用いて測定することができる。さらに、各層の厚さのそれぞれは、光干渉式膜厚測定器及び透過型電子顕微鏡による成長層の断面観察から算出できる。また、超格子構造のように各層の厚さが小さい場合にはTEM-EDSを用いて厚さを測定することができる。なお、断面図において、所定の層が傾斜面を有する場合、その層の厚さは、当該層の直下層の平坦面からの最大高さを用いるものとする。
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に例示説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、重複する説明を省略する。各図において、説明の便宜上、基板及び各層の縦横の比率は実際の厚さによらず誇張して示しているし、電極や中間電極部やメサ形状も簡略化している。ただし、図1、2及び7において、各層の水平方向の幅の大きさは、格子定数の大きさを相対的に表している。
【0025】
<エピタキシャル成長用基板>
以下、図1を参照して、本発明のエピタキシャル成長用基板を説明するが、本発明のエピタキシャル成長用基板はそれに限定されない。
ここで、図1は、本発明のエピタキシャル成長用基板の一例の模式図である。この例では、N個のバッファ層がそれぞれ単層である。この模式図は、格子定数の変化を図案化したものであり、各層の水平方向の幅の大きさは、格子定数の大きさを相対的に表す。
本発明のエピタキシャル成長用基板1は、初期成長用基板11、エッチングストップ層12、バッファ層13及び厚さが300nm以上である疑似基板層14を、この順で有する。
【0026】
(初期成長用基板)
初期成長用基板11は、特に限定されず、エピタキシャル成長用基板を用いて製造する光半導体素子の活性層の組成に応じて、InP基板、GaAs基板、GaSb基板、InAs基板、InSb基板などの化合物半導体基板を適宜選択することができ、好ましくはInP基板である。これらの基板は、アンドープであっても、n型及びp型のいずれであってもよい。
【0027】
基板直径は2インチ~6インチの間で選択可能である。初期成長用基板の厚さは、基板直径にもよるが100μm以上とすることができ、300μm以上とすることも好ましい。SEMI規格に基づく初期成長用基板を用いることが好ましい。
【0028】
(エッチングストップ層)
本発明のエピタキシャル成長用基板は、初期成長用基板11上にエッチングストップ層12を有する。初期成長用基板11上に格子整合する初期層を形成してからエッチングストップ層を形成してもよい。
【0029】
本発明のエピタキシャル成長用基板は、上述の初期成長用基板11を、後に除去することを想定している基板である。エッチングストップ層12は、本発明のエピタキシャル成長用基板を用いた光半導体素子の製造において、初期成長用基板11をエッチングにより除去する際に、初期成長用基板11のみを除去したところでエッチングを止め、その先のバッファ積層体や活性層を含む半導体積層体までもがエッチング除去されてしまうのを防止する層である。エッチングストップ層12は、初期成長用基板11の除去に使用するエッチング液ではエッチングされ難いというエッチング選択性を有するように、初期成長用基板11とは主なV族元素が異なる層とすることが好ましく、例えば初期成長用基板11がInP基板のときは、InGaAs層とすることが好ましい。エッチングストップ層12は、初期成長用基板11との間で格子整合する層であることが好ましく、例えばInP基板上にInGaAs層を形成する場合は、InP基板と格子定数が一致するIn組成(0.532)とすることが好ましく、後述する厚さ範囲ではIn組成を0.47~0.60としても欠陥なく成長することもできる。エッチングストップ層12の材料は、使用する初期成長用基板11の材料に応じて、上記の条件を満たすように、適宜選択することができる。
【0030】
エッチングストップ層12の厚さは、初期成長用基板11を除去したところでエッチングを止めることができる厚さであれば薄くてよく、100nm以下とすることができ、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは30nm以下である。また、エッチングストップ層12の厚さは、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは5nm以上である。エッチングストップ層12は、単層でも複合層(例えばSLS層)でもよい。
【0031】
エッチングストップ層12の一部は、初期成長用基板11を除去した後において、初期成長用基板11のエッチング液とは異なるエッチング液を用いてすべて除去してもよいし、一部を残して光半導体素子のコンタクト層として利用してもよい。
【0032】
(バッファ積層体)
本発明のエピタキシャル成長用基板は、エッチングストップ層12上に、バッファ積層体を有する。バッファ積層体は、少なくともN個のバッファ層13と疑似基板層14を有する。さらに、バッファ積層体は、エッチングストップ層12とN個のバッファ層13の間に、初期成長用基板11と格子整合する窓層15を有していてもよい。
【0033】
ここで窓層15は、初期成長用基板11及びエッチングストップ層12を除去した後の光半導体素子の光の取り出し側の最上層となる層であり、粗面化を施す層とすることができる。そのため、粗面化するのに十分に厚い層とすることが好ましく、100nm以上800nm以下とすることができる。
【0034】
バッファ積層体は、InP基板を使用するときはInP基板との格子定数差を増やしながら成長できるように複数のInAsP層の積層体であることが好ましい。このとき、InP基板と格子整合する窓層は例えばInP層である。
また、GaSb基板を使用するときはGaSb基板との格子定数差を増やしながら成長できるように複数のInGaSb層の積層体とすることも好ましい。このとき、GaSb基板と格子整合する窓層は例えばGaSb層である。
【0035】
N個のバッファ層13におけるNは3以上の自然数である。2以下では内部応力の解消効果が得られにくく、その上に形成する半導体積層体のPL強度が得られにくくなるためである。Nの上限については、初期成長用基板11と疑似基板層14との格子不整合度の大きさにも拠るが、後述するミスフィット転位を発生させることができる格子不整合度とするのに適した層数とすることが好ましく、例えば9以下である。
【0036】
N個のバッファ層13は、バッファ層の初期成長用基板側にミスフィット転位を有するバッファ層を3個以上有することを特徴としている。N個のバッファ層13の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したときに、初期成長用基板側の界面にミスフィット転位が観察されるバッファ層の数が3個以上であれば、N個全てのバッファ層にてミスフィット転位が観察されて良いし、N個のバッファ層13の中にミスフィット転位が観察されないバッファ層が含まれていてもよい。ここで、バッファ層の初期成長用基板側は、初期成長用基板側に隣接する層(下層ともいう)との界面であることが好ましい。
【0037】
ミスフィット転位は、基板の面内方向の格子定数差により生じる転位であり、隣接するバッファ層間の界面から発生する場合のほか、バッファ層と前記窓層との界面において発生してもよい。転位は、バッファ層を貫通して伝播することはなく、バッファ層内に留まることが好ましいものとする。
【0038】
ミスフィット転位は、本発明のエピタキシャル成長用基板について、厚さ方向の断面を露出させ、断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより、確認することができる。図8に示すように、透過型電子顕微鏡(TEM)での観察において、転位は黒色部分として観察される。隣接するバッファ層間の界面はコントラストにより把握でき、当該界面と平行して観察される黒色部分はミスフィット転位であると判断することができ、本発明ではこのような界面と平行して観察されるミスフィット転位があることを特徴とする。当該界面に対し傾いて観察される黒色部分は、界面に発生したミスフィット転位を起点とした応力緩和成長時にみられる成長方向へ伝搬する転位であり、上述のミスフィット転位とは区別する。
【0039】
N個のバッファ層13は、最も初期成長用基板側に位置するバッファ層を1番目のバッファ層として、最も初期成長用基板側に位置するバッファ層から数えてn番目のバッファ層の格子定数をa、n+1番目のバッファ層の格子定数をan+1とした場合に、下記式(1)を満たす。
<an+1 (1)
【0040】
上記式において、nは1~N―1の自然数である。n+1は2~Nの自然数である。
nが1のとき、格子定数aは最も初期成長用基板側に位置するバッファ層の格子定数であり、初期成長用基板の格子定数であるaより大きい。窓層を有する場合、格子定数aは窓層の格子定数であるaより大きい。
そして、n+1がNのとき、格子定数aは疑似基板層の格子定数aより小さい。
【0041】
各々のバッファ層の厚さは、初期成長用基板側に隣接する層(以下、「下層」ともいう。)との間の格子定数差に対して臨界膜厚を超えてミスフィット転位を生じさせながら内部応力を緩和できる厚さとすることが好ましく、例えば150nm以上とすることができ、200nm以上が好ましい。また、1000nm以下とすることができ、800nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。
【0042】
ここで、各バッファ層は、単層であっても複数のバッファ構成層からなっていてもよい。基板の反り量の低減の点からは、各バッファ層がバッファ構成層を含むバッファ層であることが好ましい。単層のバッファ層とバッファ構成層からなるバッファ層との両方を含むようであってもよい。
バッファ積層体中のバッファ層は、単層のバッファ層と、複数のバッファ構成層からなるバッファ層とに分けられる。バッファ積層体を構成する各層について、一つの層と、それと接する初期成長用基板側の層との格子定数とを比較したときに、上記式(1)の関係にある場合は、それらは単層のバッファ層であるとする。一つの層と、それと接する初期成長用基板側の層との格子定数とを比較したときに、上記式(1)に反して、初期成長用基板側の層の方が格子定数が大きい関係にある場合には、前記一つの層とそれに接する初期成長用基板側の層を、それぞれバッファ構成層とする。そして、初期成長用基板側の層の方が格子定数が大きい関係にある複数のバッファ構成層をまとめて一つのバッファ層とする。そして、最も疑似基板側にある層をバッファ構成層Aと呼称し、最も初期成長基板側にある層をバッファ構成層Bと呼称するものとする。
【0043】
-バッファ層が単層の場合-
バッファ層が単層の場合、上述のn番目のバッファ層の格子定数aは、当然ながら当該単層の格子定数である。
【0044】
N個のバッファ層13における複数のバッファ層は、最も初期成長用基板に近いバッファ層から、最も疑似基板層に近いバッファ層に向けて、全体として格子定数が漸増する。
バッファが単層のバッファ層からなる場合について、図1に模式図を示す。模式図は、格子定数の変化を図案化したものであり、各層の水平方向の幅の大きさは、格子定数の大きさを相対的に表す。
【0045】
単層であるバッファ層の厚さは、上述するように例えば150nm以上とすることができる。
【0046】
また、ミスフィット転位を形成しつつ貫通転位を生じさせないようにするために、N個の各バッファ層における各層の格子定数の、初期成長用基板側に隣接する層(下層)に対する不整合度が、不整合度Xp・gをNで割った値以下とするように設定することも好ましく、不整合度Xp・gを4Nで割った値以上にできるように設定することも好ましい。例えば、各バッファ層の、下層に対する不整合度が、0.15%~0.35%の範囲内であることが好ましい。
【0047】
-バッファ層が複数のバッファ構成層からなる場合-
バッファ層が、複数のバッファ構成層からなる場合、互いに隣接するバッファ構成層の格子定数は異なる層であり、上述のn番目のバッファ層の格子定数aは、当該バッファ層内で最も疑似基板層側に位置するバッファ構成層(バッファ構成層A)の格子定数であることとし、その格子定数が、n+1番目のバッファ層との間で上述する式(1)や、他の格子定数との関係を満たすものとする。
【0048】
バッファ構成層を含むバッファ層は、格子定数の異なる2つのバッファ構成層からなることが好ましい。バッファ層が、疑似基板層側に位置するバッファ構成層(バッファ構成層A)と成長基板側に位置するバッファ構成層(バッファ構成層B)の2層からなる場合について、図2に模式図を示す。模式図は、格子定数の変化を図案化したものであり、各層の水平方向の幅の大きさは、格子定数の大きさを相対的に表す。
【0049】
図2に示すように、バッファ構成層Aの格子定数をaとしバッファ構成層Bの格子定数をbとした場合、n番目のバッファ層における格子定数bは、バッファ構成層Aの格子定数aよりも大きい。そして、n+1番目のバッファ層も2つのバッファ構成層からなる場合、n+1番目のバッファ層における格子定数bn+1は格子定数an+1より大きく、さらに式(1)に基づき、an+1はaより大きく、bn+1はbより大きい。
【0050】
そして、前記バッファ構成層Bよりも、前記バッファ構成層Aの方が厚い。
【0051】
N個のバッファ層13における全てのバッファ層が、2つのバッファ構成層からなるバッファ層であり、各バッファ層が上記関係を満たす場合、図2に示すように、バッファ構成層の格子定数aとbは、増減を繰り返しながら、全体としては、nが1からN-1(及びn+1番目のバッファ層におけるN)に向けて増えると共に、漸増していることになる。これにより、図1の場合よりも、バッファ構成層Bでミスフィット転位を生じさせ易くなり、また、全体的に圧縮応力が係る中でバッファ構成層Bからバッファ構成層Aが引張応力を受けるようになるためにバッファ構成層Aの厚さによる内部応力の緩和効果を増すことができる。
【0052】
バッファ構成層を含むバッファ層において、最も疑似基板層側に位置するバッファ構成層Aの厚さは、内部応力を緩和できる厚さとすることが好ましく、100nm以上とすることができ、200nm以上が好ましい。また、1000nm以下とすることができ、800nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。
【0053】
バッファ構成層を含むバッファ層において、最も初期成長用基板側に位置するバッファ構成層Bの厚さは、前記バッファ構成層Aの厚さの半分以下であることが好ましく、初期成長用基板側に隣接する層(下層)に対してミスフィット転位を生じさせる厚さとすることが好ましい。例えば10nm以上とすることができ、30nm以上が好ましい。また、200nm以下とすることができ、100nm以下が好ましい。
【0054】
上記バッファ構成層Aの厚さは、上記バッファ構成層Bの厚さの2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。
【0055】
ミスフィット転位を形成しつつ貫通転位を生じさせないようにするために、N個の各バッファ層における各層の格子定数(バッファ構成層を含むバッファ層の場合は最も初期成長用基板側のバッファ構成層Bの格子定数b)の、初期成長用基板側に隣接する層(下層)に対する不整合度が、不整合度Xp・gをNで割った値以下とするように設定することも好ましく、不整合度Xp・gを4Nで割った値以上にできるように設定することがより好ましい。例えば、バッファ構成層Bの下層に対する不整合度が、0.15%~0.35%の範囲内であることが好ましい。
【0056】
また、バッファ構成層Bの格子定数bは、バッファ構成層Aの格子定数aよりも大きいので、バッファ構成層Aの、下層(バッファ構成層B)に対する不整合度はマイナスである。その絶対値は、上述するバッファ構成層Bの下層に対する不整合度の絶対値よりも小さいことが好ましい。
【0057】
(疑似基板層)
本発明のエピタキシャル成長用基板におけるバッファ積層体は、N個のバッファ層13の最も前記初期成長用基板側に位置するバッファ層から数えてN番目のバッファ層上に、厚さが300nm以上である疑似基板層14を有する。
【0058】
ここで、疑似基板層14は、光半導体素子の製造において、活性層30を含む半導体積層体などの層をエピタキシャル成長するための基板となる層である。半導体積層体は、当該疑似基板層と格子整合するように成長することができる。
支持基板の接合時や初期成長用基板の除去時における内部応力の釣合いが急変するときの反りを抑制する点から、疑似基板層14の厚さは300nm以上であり、500nm以上が好ましい。また、成長時間が長くなりすぎることを回避する点から、10μm以下が好ましい。
【0059】
疑似基板層14の材料は、疑似基板層14と初期成長用基板11との不整合度Xp・gが、0.7%以上となるように、適宜選択することができる。
ここで、不整合度Xp・gは、疑似基板層及び初期成長用基板の格子定数をそれぞれa及びaとした場合に、(a-a)/a×100で表される。不整合度Xp・gは、0.7%以上であり、形成する半導体積層体にて設計可能な波長域を増やす点から、1.0%以上が好ましい。
【0060】
疑似基板層14の材料は、上記の条件を満たすように、適宜選択することができる。
【0061】
疑似基板層14は、上述するN個のバッファ層13上に設けられているため、疑似基板層14はリラックス状態であることができる。ここで、リラックス状態とは、疑似基板層14に対して、X線回折(XRD:X-ray Diffaction)を行い、逆格子マッピング測定(RSM)によって算出される垂直方向の格子定数q(nm)と水平方向の格子定数q(nm)の差(nm)が、下記式(2)を満たすことをいう。
-0.0002≦q-q≦0.0011 (2)
垂直方向の格子定数qと水平方向の格子定数qの差がゼロであるときが、理論的に格子が全く歪んでいない状態である。式(2)の値がゼロに近いほど反りの低減効果が大きく、差は0.0005nm以下とすることがより好ましい。
【0062】
本発明のエピタキシャル成長用基板は、N個のバッファ層13のうち3個以上N個以下のバッファ層13の格子定数の異なる他層と接する部分にミスフィット転位を有する。あえてバッファ内にミスフィット転位を発生させて、疑似基板層14をリラックス状態にして、基板の反り量を低減させることができる。そして、疑似基板層の表面を金属顕微鏡により撮影した上面視において、上述のN個のバッファ層13のミスフィット転位に起因する格子状の模様が観察される場合がある。
【0063】
ここで、疑似基板層14は、単層であっても複数の疑似基板構成層からなっていてもよい。複数の疑似基板構成層からなる場合については、上述したバッファ構成層と同様に、疑似基板構成層を含む疑似基板層は、格子定数の異なる2つの疑似基板構成層からなることが好ましく、成長基板側に位置する疑似基板構成層Bの格子定数bは、疑似基板構成層B上に位置する疑似基板構成層Aの格子定数aよりも大きい。
【0064】
そして、疑似基板構成層Bよりも、疑似基板構成層Aの方が厚い。全体的に圧縮応力がかかる中で疑似基板構成層Bから疑似基板構成層Aが引張応力を受けるようになるために疑似基板構成層Aの厚さによる内部応力の緩和効果を増すことができる。
【0065】
疑似基板構成層を含む疑似基板層において、疑似基板構成層Aの厚さは300nm以上とすることが好ましく、400nm以上がより好ましい。
【0066】
疑似基板構成層を含む疑似基板層において、最も初期成長用基板側に位置する疑似基板構成層Bの厚さは、前記疑似基板構成層Aの厚さの半分以下であることが好ましい。例えば50nm以上とすることが好ましく、100nm以上がより好ましい。
【0067】
<エピタキシャル成長用基板の製造方法>
本発明のエピタキシャル成長用基板の製造方法は、以下の工程を含む。
初期成長用基板上に、エッチングストップ層を形成する工程
エッチングストップ層上に、バッファ積層体を形成する工程
初期成長用基板、エッチングストップ層及びバッファ積層体の好ましい形態については上記のとおりである。以下はそれらの形成方法について説明する。
【0068】
(エッチングストップ層形成工程)
エッチングストップ層12の形成方法は、初期成長用基板上にエピタキシャル成長できれば特に限定されない。例えば、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、スパッタ法等が挙げられる。
【0069】
例えば、初期成長用基板がInP基板であってエッチングストップ層12がInGaAs層の場合、In源としてトリメチルインジウム(TMIn)、Ga源としてトリメチルガリウム(TMGa)、As源としてアルシン(AsH3)を、キャリアガスを用いつつ所定の混合比となるように成長炉内に供給し、基板上に気相成長させることにより形成することができる。n型又はp型とする場合は、適宜、ドーパント源のガスをさらに用いればよい。
【0070】
エッチングストップ層12の組成比から計算される格子定数aは、原料ガスに含まれるIn源、Ga源及びAs源の混合比を変更して、エッチングストップ層12の組成比を制御することによって調整することができる。また、エッチングストップ層12の厚さは、III族原料ガス量とV族原料ガス量との比、成長温度、及び成長時間によって調整することができる。
【0071】
(バッファ積層体形成工程)
バッファ積層体の形成方法では、エッチングストップ層12上に、少なくとも上述するN個のバッファ層13と疑似基板層14を形成する。N個のバッファ層13の前にエッチングストップ層12上に窓層15を形成してよい。
【0072】
これらの形成方法は、エッチングストップ層12上にエピタキシャル成長できれば特に限定されず、上述する形成方法を使用することができる。
【0073】
例えば、各バッファ層及び疑似基板層がInAsP層である場合、In源としてトリメチルインジウム(TMIn)、As源としてアルシン(AsH3)、P源としてフォスフィン(PH)を、キャリアガスを用いつつ所定の混合比となるように成長炉内に供給し、エッチングストップ層12上に気相成長させることにより形成することができる。n型又はp型とする場合は、適宜、ドーパント源のガスをさらに用いればよい。
【0074】
各層の組成比から計算される格子定数aは、原料ガスの混合比を変更して、組成比を制御することによって調整することができる。また、各層の厚さは、III族原料ガス量とV族原料ガス量との比、成長温度、及び成長時間によって調整することができる。
【0075】
そして、上述のとおり、製造時においては、単膜で成長したものについてXRD測定による格子定数とフォトルミネッセンス(PL)測定による発光中心波長をEgに換算した値を用いて固相比を算出することで目的の組成比となる成長条件を決め、当該成長条件を用いて目的の組成比を持つ層を積層すればよい。得られた各層の組成比はSIMS分析により計測されることでも求めることができ、各層の格子定数aは組成比(InAs1-y層の場合はAsの固相比y)を用いてべガード則により算出される。
【0076】
<光半導体素子の製造方法>
本発明のエピタキシャル成長用基板は、光半導体素子の製造に使用することができる。以下、本発明のエピタキシャル成長用基板を用いて光半導体素子を製造する方法を説明し、これを通して、本発明の光半導体素子の各構成の詳細を説明する。ただし、本発明の光半導体素子の製造方法及び光半導体素子は、それらに限定されない。
【0077】
図3は、本発明のエピタキシャル成長用基板を使用した光半導体素子の製造方法の一例の模式図であり、図4図3の製造方法を経て得られる光半導体素子の一例である。この例では、N個のバッファ層13の各層が単層であるバッファ層からなる例である。また、活性層30は多重量子井戸(MQW)構造を構成している。光半導体素子は、発光素子でも受光素子でもよいが、以下では主に発光素子である場合を例として記載する。
なお、図3及び図4では、基板及び各層の縦横の比率を実際の比率から誇張して示しているが、図1及び2のように、格子定数の変化を図案化したものではない。
【0078】
本発明の光半導体素子の製造方法は、以下の工程を含む。
本発明のエピタキシャル成長用基板の疑似基板層上に、活性層を含む半導体積層体を形成する工程(半導体積層体形成工程);
半導体積層体上に反射層を介して支持基板を接合する工程(支持基板接合工程);及び
エピタキシャル成長用基板の初期成長用基板を除去する工程(初期成長用基板除去工程)。
【0079】
(半導体積層体形成工程)
この工程では、まず、図3Aに示すように、上述したN個のバッファ層13と疑似基板層14を有するエピタキシャル成長用基板1を用意する。次いで、エピタキシャル成長用基板1の疑似基板層14上に活性層30を含む半導体積層体を形成する。図3Bは半導体積層体形成後の図である。
【0080】
半導体積層体は、n型層とp型層37で活性層30が挟持されるように形成することが好ましく、活性層30は多重量子井戸(MQW)構造で構成することが好ましい。MQW構造は結晶欠陥抑制による光出力向上の点から有利である。図3Bでは、活性層30は、井戸層35W及び障壁層35Bを交互に繰り返した構造を有するMQW構造を構成している。また、この図では、疑似基板層14がn型(例えば、Siドープ)でn型層を兼ねており、p型層37とで活性層30を含む半導体積層体構造を形成している。ただし、本発明の光半導体素子の製造方法は、このような実施態様に限定されず、疑似基板層14上に他のn型層を形成してよく、光半導体素子に適用される公知の半導体層を追加することができる。例えば、不純物拡散抑制のためにn型層と活性層30の間やp型層37と活性層30の間にアンドープのスペーサ層を設けてもよいし、コドープした層を設けてもよい。n型層とp型層37は、ブロック層やクラッド層やコンタクト層として機能する層を有してもよい。
【0081】
活性層30は、発光中心波長に応じて成分組成を選択することができる。例えば、発光中心波長は2000~3000nmとすることができる。この場合、多重量子井戸(MQW)構造の井戸層35Wの成分組成は、III族元素(Al、Ga、In)とV族元素(P、As、Sb)より選択される合計2~6元素の組み合わせのIII-V族化合物半導体により形成されることができ、例えばInGaAsとすることができる。InAsやInGaAlAs、InGaAsPとしてもよい。
本発明によれば、GaAs格子整合系で可能な波長範囲よりも長波長な範囲を、成長用基板をGaAsとしてもバッファ積層体13と疑似基板層14を介すことで発光中心波長として選択することができ、InP格子整合系で可能な波長範囲よりも長波長な範囲を、成長用基板をInPとしてもバッファ積層体13と疑似基板層14を介すことで発光中心波長として選択することができる。InAsとGaSbの格子整合系で可能な波長範囲よりも長波長な範囲を、成長用基板をInAs又はGaSbとしてもバッファ積層体13と疑似基板層14を介すことで発光中心波長として選択することもできる。
【0082】
障壁層35Bのバンドギャップは、井戸層35Wのバンドギャップよりも大きなものとする。障壁層35Bの成分組成は、III族元素(Al、Ga、In)とV族元素(P、As、Sb)より選択される合計2~6元素の組み合わせのIII-V族化合物半導体により形成されることができ、例えば、井戸層35WがInGaAsの場合、障壁層35BはInAsPとすることができる。InGaAlAsやInGaAsPとしてもよい。
【0083】
井戸層35Wと障壁層35Bとの組成差を調整して井戸層35Wに歪を加えることにより発光中心波長を調整することもできる。
【0084】
障壁層35Bは、疑似基板層14と格子整合する層であることが好ましい。例えば、疑似基板層14がn型InAsP層の場合、障壁層35BをInAsP層とすることが好ましい。この場合、p型層37は、p型InAsP層とすることがより好ましい。また、障壁層35Bの格子定数(a)は、疑似基板層14の格子定数(a)よりも小さくして、疑似基板層14を基準に引張応力を受けるようにしてもよい。
【0085】
井戸層35Wの格子定数(a)は、疑似基板層14の格子定数(a)よりも大きいことが好ましい。これによって、井戸層35Wに圧縮歪を加えることになる。井戸層35Wに圧縮歪を加える方が、引張歪を加えるよりも発光効率が向上するため好ましい。
【0086】
活性層30を含む半導体積層体の全体の厚さは、特に限定されず、例えば2~15μmとすることができる。活性層30の厚さも、特に限定されず、例えば100~1000nmとすることができる。
【0087】
活性層30はMQW構造を有し、井戸層35Wの厚さを3~15nmとすることができ、障壁層35Bの厚さを5~15nmとすることができ、両者の組数を3~50とすることができる。
【0088】
疑似基板層14上に活性層30を含む半導体積層体を設けた後、積層体の表面はSORI値が30μm未満であることが好ましく、より好ましくは24μm未満である。これにより、支持基板への接合が可能となり、接合不良やクラックの発生などの不具合を低減できる。SORI値は、初期成長用基板が直径3インチであるときの値とする。
ここで、SORI値は、SEMI M1-0302に規定されるSORI(μm)であり、SORIは、非強制状態で測定を行ったときの、非吸着での全測定点データの最大値と最小値との差の値である。図5に示すように、基準面を最小二乗法により求められた仮想平面とすると、SORI値は最大値Aと最小値Bの絶対値の和で示される。
【0089】
疑似基板層14上に活性層30を含む半導体積層体を設けた後、積層体の表面はBOW値が40μm未満であることが好ましく、より好ましくは30μm未満である。これにより、支持基板への接合が可能となり、接合不良やクラックの発生などの不具合を低減できる。BOW値は、初期成長用基板が直径3インチであるときの値とする。
ここで、BOW値は、図6に示すように、非吸着でのワーク中心測定値(測定表面)に対し、中心以外の測定値と異符号で絶対値の最大のものを絶対値同士で和をとり中心測定値の符号を付した値である。
【0090】
p型層37の厚さは、特に限定されず、100~9000nmとすることが好ましく、400~4000nmとすることがより好ましい。
【0091】
活性層30と疑似基板層14との間又は活性層30とp型層37との間に、スペーサ層を設けてもよい。スペーサ層を設けることにより、ドーパントの拡散を防止することができる。スペーサ層の厚さ、特に限定されず、例えば50~400nmとすることができる。
疑似基板層14がn型InAsP層、p型層がp型InAsP層の場合、スペーサ層は、例えばi型InAsP層とすることができる。それらは、疑似基板層と格子整合することが好ましい。
【0092】
p型層37は、p型コンタクト層を有していてもよい。p型コンタクト層の厚さは、特に限定されず、例えば50~400nmとすることができる。
【0093】
活性層30を含む半導体積層体の各層は、エピタキシャル成長により形成することができる。エピタキシャル成長に関しては、上述の記載を適用することができる。これらの積層体形成工程は、本実施形態における一例であり、本発明の光半導体素子の製造方法は、このような実施態様に限定されない。
【0094】
(支持基板接合工程)
次いで、エピタキシャル成長用基板1の活性層30を含む半導体積層体上に反射層を介して支持基板16を接合する。活性層30を含む半導体積層体上に、島状のコンタクト層としてエッチングストップ層の一部を残すようにしている場合は、それらの上に、反射層17を介して支持基板16を接合する。
【0095】
反射層17がITOなどの透明電極を備えて中間電極としての機能を兼ねる場合を除き、活性層30を含む半導体積層体と反射層17との間には、島状の中間電極部38と、水平方向において中間電極部38を包囲する誘電体層39を備えることができる。
図3Cでは、エピタキシャル成長用基板1が活性層30を含む半導体積層体上にp型層37を備え、p型層37上に島状の中間電極部38と水平方向において中間電極部38を包囲する誘電体層39を備え、その上に反射層17が形成されている。
【0096】
反射層17は、活性層30を含む半導体積層体から放射される光を反射する層である。反射層17は、特に限定されないが、金属反射層を用いることが好ましい。金属反射層に用いられる金属としては、Au、Pt、Ti、Agなどが挙げられ、特にAuが好ましい。反射層17の厚さは、特に限定されず、例えば400~2000nmとすることができる。反射層17の形成方法は特に限定されず、例えば蒸着法、スパッタ法などが挙げられる。
【0097】
支持基板16としては、エピタキシャル成長用基板1における初期成長用基板11とは異種の基板であれば特に限定されず、Si、Geなどの半導体基板、Mo、Cu-Wなどの金属基板、AlNなどのセラミック基板を用いたサブマウント基板が挙げられる。支持基板16の厚さは、100μm以上とすることができ、また、500μm以下とすることができる。
【0098】
支持基板16の片面に金属接合層18を設けてもよい。金属接合層18を備えた支持基板16を、エピタキシャル成長用基板1の活性層30を含む半導体積層体上に反射層17を介して整合することで、確実な接合を行うことができる。この場合、金属反射層と金属接合層を対向配置して張り合わせ、加熱圧縮接合を行うことができる。以上の支持基板接合工程は、本実施形態における一例であり、本発明の光半導体素子の製造方法は、このような実施態様に限定されない。
【0099】
(初期成長用基板の除去工程)
次いで、図3Dで示すように、初期成長用基板11を除去する。例えば、初期成長用基板11がInP成長基板の場合、塩酸を用いたウェットエッチングにより除去することができる。エピタキシャル成長用基板1はエッチングストップ層12を有するため、エッチングストップ層12でエッチングを終了させることができる。塩酸は、濃度0.1~36%の塩酸が好ましく、エッチング選択性に影響がない範囲で他の薬品を混合してもよい。
【0100】
エッチングストップ層12は、エッチングストップ層12の成分組成に応じたエッチング液によるウェットエッチングにより除去することができる。例えば、エッチングストップ層12がn型InGaAs層である場合、例えば硫酸-過酸化水素系のエッチング液を用いて除去することができる。
【0101】
図4は、エピタキシャル成長用基板1のエッチングストップ層12の一部を残し、光半導体素子の上面電極40に対するコンタクト層12として利用した光半導体素子の例である。エッチングストップ層12は残さずに除去してもよい。
【0102】
また、図4のように、光半導体素子の窓層15の光取り出し面に対して凹凸を設ける粗面化処理を行ってもよい。
【0103】
このようにして、光半導体素子を得ることができる。図4に示すように、光半導体素子のコンタクト層12上に上面電極40を形成し、支持基板16上の裏面に裏面電極50を形成することができる。上面電極40、裏面電極50の形成方法は、特に限定されず、例えば、スパッタ法、蒸着用又は抵抗加熱法などを用いることができる。
【0104】
本発明の光半導体素子の製造方法では、製造に用いるエピタキシャル成長用基板において、疑似基板層がリラックス状態となるようにバッファが形成されているため、初期成長用基板の反り量が低減している。そのため、エピタキシャル成長用基板への支持基板の貼り合わせ時や、貼り合わせ後の初期成長用基板の除去時などにおいて、積層体にクラックが生じることが抑制されている。以上の初期成長用基板の除去工程は、本実施形態における一例であり、本発明の光半導体素子の製造方法は、このような実施態様に限定されない。
【0105】
<光半導体素子>
以下、図4及び図7を参照して、本発明の光半導体素子を説明するが、本発明の光半導体素子はそれに限定されない。
ここで、図7は、図4に示す本発明の半導体発光素子の一例において、半導体積層体とバッファ積層体の部分を抜き出した模式図である。この模式図は、半導体層に関して格子定数の変化を図案化したものであり、各半導体層の水平方向の幅の大きさは、格子定数の大きさを相対的に表す。
【0106】
図4に示される光半導体素子2は、支持基板16、金属接合層18、反射層17、中間電極部38、誘電体層39、p型層37、活性層30、疑似基板層14、N個のバッファ層13、窓層15及びコンタクト層12をこの順に備える。各構成要素については、エピタキシャル成長用基板及びその製造方法の説明において同一の参照番号が付された構成要素に関する記載が適用される。また、図示されていない構成要素に関しても、エピタキシャル成長用基板及びその製造方法の説明における記載が適用される。
【0107】
光半導体素子2の窓層15と、エピタキシャル成長用基板1の初期成長用基板11とは、格子整合しており、格子定数が一致するため、光半導体素子と他の構成要素との関係は、エピタキシャル成長用基板1における初期成長用基板11と他の構成要素との関係と同様である。
【0108】
疑似基板層14及び窓層15の格子定数をそれぞれa及びaとした場合に、(a-a)/a×100で表される、疑似基板層14と窓層15との不整合度Xp・tが、0.7%以上である。形成する半導体積層体にて設計可能な波長域を増やす点からは、1.0%以上が好ましい。
そして、N個のバッファ層13は、バッファ層の窓層15側にミスフィット転位を有するバッファ層を3個以上有することを特徴とする。
【0109】
また、最も前記窓層15側に位置するバッファ層から数えてn番目のバッファ層の格子定数をa、n+1番目のバッファ層の格子定数をan+1とした場合に、下記式(1)を満たす。
<an+1 (1)
を満たし、
上記式において、nは1~N-1であり、n+1は2~Nの自然数である。nが1のときの格子定数aはaより大きい。n+1がNのとき、an+1に対応する格子定数aは疑似基板層の格子定数aより小さい。
【0110】
また、ミスフィット転位を形成しつつ貫通転位を生じさせないようにするために、N個の各バッファ層における各層の格子定数の、窓層15側に隣接する層(下層)に対する不整合度が、不整合度Xp・tをNで割った値以下とするように設定することも好ましく、不整合度Xp・tを4Nで割った値以上にできるように設定することがより好ましい。例えば、各バッファ層の、下層に対する不整合度が、0.15%~0.35%の範囲内であることが好ましい。
【0111】
本発明の光半導体素子では、上記のようなバッファ積層体を有することによって、前記疑似基板層から窓層に向けて屈折率が漸減するようにすることもできる。N個のバッファ層13において各層の組成比によって屈折率は変化する。そこで、疑似基板層側の屈折率が大きく、光取り出し側である窓層において屈折率が最も小さくなるような半導体(例えばInAsP)をN個のバッファ層13に使用することで、光取り出し側に向けて屈折率を低減させて光取り出し効率を向上させることができる。
【0112】
光半導体素子における構成材料としては、前述する条件を満たす化合物半導体を選択すればよく、そのような構成の一例として、例えば、窓層がInP、バッファ積層体がInAsP層の積層体であり、疑似基板層がInAsP層である構成とすることができる。
【0113】
本発明の光半導体素子において、活性層30は井戸層35W及び障壁層35Bを交互に繰り返して積層した多重量子井戸(MQW)構造であり、井戸層35Wの格子定数をaとした場合、aは窓層15の格子定数aより大きいことが好ましく、半導体積層体及びバッファ積層体の全ての格子定数の中で、井戸層35Wの格子定数aが最も大きいことが好ましい。これにより、フォトルミネッセンス(出力)の向上を図ることができる。
【0114】
さらに、疑似基板層に対する井戸層の不整合度Xw・pが、0.1%以上1.2%未満であることが好ましく、1.1%以下であることがより好ましい。この範囲内とすることで、フォトルミネッセンス(出力)の向上効果を大きくすることができる。
【0115】
また、上記のようにすることで井戸層35Wには圧縮歪が加わることになる。井戸層35Wに圧縮歪を加える方が、引張歪を加えるよりもフォトルミネッセンス(出力)が向上し、発光効率が向上する。
【0116】
さらに、疑似基板層に対する井戸層の不整合度Xw・p及び井戸層厚の各値と、疑似基板層に対する障壁層の不整合度Xb・p及び障壁層厚の各値とを使用して、下記式(3):
(Xw・p ×井戸層厚 +Xb・p×障壁層厚)/(井戸層厚+障壁層厚)
より計算される、疑似基板層に対する井戸層と障壁層を合わせた厚さ平均の不整合度の値が、-0.09%以上0.46%以下の範囲内であることが好ましく、-0.02%以上0.36%以下の範囲内であることがより好ましい。井戸層が疑似基板層から圧縮応力を受けるようにすると共に障壁層が疑似基板層から引張応力を受けるようにして、応力を一部相殺させることで上記の厚さ平均の不整合度を当該範囲内となるように調整することで、フォトルミネッセンス(出力)の向上効果を大きくすることができる。
【実施例
【0117】
以下実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0118】
[第一の試験]
<実施例1>
(エピタキシャル成長用基板1の製造)
Siドープのn型InP基板(3インチ、基板厚:625μm。格子定数:0.5869nm)の(100)面上に、Si-InP層(初期成長層)、Si-In0.532Ga0.468As層(エッチングストップ層)、Si-InP層(粗化用n型窓層)を、MOCVD法により、表2に示す膜厚で、順次形成した。エッチングストップ層の組成はInPと格子整合する。
【0119】
次いで、Si-InAsP層を、In源としてトリメチルインジウム(TMIn)、As源としてアルシン(AsH3)、P源としてフォスフィン(PH)を原料ガスとして、原料ガスに含まれるAs及びPの合計に対するPの量(P気相比)を変化させながら、表2に示す膜厚になるまで、MOCVD法で気相成長させ、バッファ層1-1~1-7及び疑似基板層を形成した。バッファ層は、それぞれ、2つのバッファ構成層(バッファ構成層A1~A7及びバッファ構成層B1~B7)からなる。
【0120】
各バッファ構成層及び疑似基板層のInAs1-yのAs固相比yは、バッファ積層体を形成した後、SIMS分析を行い求めた値であり、格子定数aはAs固相比から算出した値である。膜厚は、TEMにより確認を行った。
【0121】
得られたエピタキシャル成長用基板1について、バッファ層1-1~1-7の屈折率をコロナ社“III-V族半導体混晶”P88 (2.108)式に基づいて算出した。また、初期成長用基板に対する不整合度Xn・g及び初期成長用基板側下層に対する不整合度を計算した。それらを表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
得られたエピタキシャル成長用基板1についてXRD測定を行い、逆格子マッピング測定(RSM)によって算出される垂直方向の格子定数q、水平方向の格子定数qを求め、疑似基板層がリラックス状態にあることを確認した。Bruker社X線回折装置D8にて(206)方向を測定することでq、qを求めた。表6に結果を示す。
【0124】
また、得られたエピタキシャル成長用基板1について、厚さ方向の断面を露出させ、断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した(倍率60k倍。視野4.5μm× 4.5μm)。図8に、断面の撮影像を示す。この図では、粗化用n型窓層とバッファ層1-1の界面であるバッファ層1-1の初期成長用基板側、バッファ層1-2の初期成長用基板側、バッファ層1-4の初期成長用基板側、バッファ層1-5の初期成長用基板側、バッファ層1-6の初期成長用基板側、及びバッファ層1-7の初期成長用基板側のそれぞれにおいて、格子定数の異なる他層と接する部分にミスフィット転位を示す黒い線が確認された。一方、バッファ層を貫通する転位は確認されなかった。なお、図8の視野内ではバッファ層1-3の初期成長用基板側にはミスフィット転位を示す黒い線は確認されなかった。
【0125】
さらに、エピタキシャル成長用基板1について、疑似基板層の表面を金属顕微鏡により撮影した(倍率5倍。視野3mm×3mm)。図9に、上面視にあたる撮影像を示す。この図では、ミスフィット転位による格子状の模様が確認された。
【0126】
(半導体積層体1の製造によるフォトルミネッセンス(PL)測定及び支持基板接合試験、及び光半導体素子の製造)
まず、どのようなエピタキシャル成長用基板が好ましいかを調査するために、半導体積層体1をエピタキシャル成長用基板1上に形成して、PL測定及びSORIと支持基板接合試験の評価を行った。表2に示すエピタキシャル成長用基板1上に、そのような半導体積層体1を形成した例を、表3に示す。
【0127】
【表3】
【0128】
そして、フォトルミネッセンス測定装置(Onto Innovation社製RPMBlue)を用いて波長980nm、出力100mWのレーザー光を照射して励起した光の強度と波長を測定した。また、SEMI M1-0302に規定されるSORI(μm)を求めた。その後、全面にAu反射層をスパッタにて形成し、支持基板の上面に予めスパッタにて金属接合層としてAu層を形成しておき、315℃加熱と共に圧力をかけてAu-Au接合により支持基板を接合できるかの試験も行った。表6に結果を示す。
表6における支持基板接合加工の評価は、以下のとおりである。
A ・・・クラックの発生なく接合できる割合90%以上(ほぼ100%)
B ・・・クラックの発生なく接合できる場合もあるが、その割合90%未満
C ・・・クラックの発生なく接合することができない
【0129】
(光半導体素子1の製造)
次いで、光半導体素子の製造方法を経て光半導体素子1を得る試験を行った。表2に示すエピタキシャル成長用基板上に、光半導体素子1形成のための半導体積層体1を形成した例も表3に示す。表3には、初期成長用基板の除去工程後の状態も示しており、表の下方が光取り出し方向となる。
【0130】
具体的には、表3に記載の半導体積層体を形成後、表3に記載のp型第二コンタクト層上に中間電極層(AuZn)をスパッタ法により形成し、フォトリソによるパターン形成を行い、島状のp型第二コンタクト層と中間電極層からなる中間電極部とした。さらに、フォトリソによるパターン形成後にプラズマCVD法によってSiOからなる誘電体層を形成し、中間電極部を覆う位置の誘電体層のみを除去し、その上の全面にスパッタによりAu反射層を形成した。支持基板の上面に予めスパッタにより金属接合層としてAu層を形成しておき、315℃加熱と共に圧力をかけてAu-Au接合によって支持基板を接合した。その後、塩酸系のエッチング液を使用して初期成長用基板をエッチング除去した後、フォトリソによるパターン形成とリン酸-過酸化水素水系のエッチング液を用いて、上面電極を形成する領域以外のエッチングストップ層を除去し、残存した島状のエッチングストップ層をコンタクト層として利用して当該コンタクト層上に上面電極(AuGe)を形成した。切断予定線に沿ってバッファ積層体及び半導体積層体をエッチングすることでメサ形状を形成後、支持基板を切断することにより、実施例1の光半導体素子1を得た。
【0131】
実施例1におけるエピタキシャル成長用基板1を使用した場合、支持基板接合工程での接合不良やクラックの発生は無く、その後の初期成長用基板の除去工程でのクラックの発生も無かった。
【0132】
得られた光半導体素子1の窓層の格子定数aは0.5869nmであり、井戸層の格子定数aは0.5977nmであった。
【0133】
<実施例2>
実施例1において、バッファ層1-1~バッファ層1-7からなるN=7個のバッファ層に代えて、単層であるバッファ層2-1~2-7からなるN=7個のバッファ層とし、疑似基板層を表4に示す条件で形成したこと以外は、実施例1と同様にして、エピタキシャル成長用基板2を作成すると共に、半導体積層体1を、エピタキシャル成長用基板上に形成してPL測定及びSORIと支持基板接合試験の評価を行った。結果を表6に示す。
【0134】
なお、表6では実施例1におけるPLの励起光強度を1.00とし、他の実施例と比較例の励起光強度を実施例1に対する相対値で記載している。
【0135】
バッファ層2-1~2-7は、実施例1で記載したIn源、P源及びAs源を用いて、P気相比を表4に示す値として、表4に示す膜厚になるまで、MOCVD法で気相成長させたものである。
【0136】
逆格子マッピング測定(RSM)によって算出される垂直方向の格子定数q、水平方向の格子定数qを求め、疑似基板層がリラックス状態にあることを確認した。断面TEM観察において、粗化用n型窓層とバッファ層2-1、各バッファ層間で、ミスフィット転位を示す黒い線が確認された。すなわち、N=7個のバッファ層の初期成長用基板側の格子定数の異なる他層と接する部分に、それぞれミスフィット転位を示す黒い線が確認された。一方、バッファ層を貫通する転位は確認されなかった。
この例では実施例1に比べるとSORIは大きいものの、支持基板は良好に接合しており、積層体のクラック発生も抑制されていた。そのため、その後の光半導体素子の製造も行うことができた。
【0137】
【表4】
【0138】
<実施例3>
実施例1において、バッファ層1-1~バッファ層1-7からなるバッファに代えて、単層であるバッファ層3-1~3-4からなるバッファとし、疑似基板層を表5に示す条件で形成したこと以外は、実施例1と同様にしてエピタキシャル成長用基板3を作成すると共に、半導体積層体1を、エピタキシャル成長用基板上に形成してPL測定及びSORIと支持基板接合試験の評価を行った。結果を表6に示す。
【0139】
バッファ層3-1~3-4は、実施例1で記載したIn源、P源及びAs源を用いて、P気相比を表5に示す値として、表5に示す膜厚になるまで、MOCVD法で気相成長させたものである。
【0140】
逆格子マッピング測定(RSM)によって算出される垂直方向の格子定数q、水平方向の格子定数qを求め、疑似基板層がリラックス状態にあることを確認した。断面TEM観察において、粗化用n型窓層とバッファ層3-1、各バッファ層間で、ミスフィット転位を示す黒い線が確認された。すなわち、N=4個のバッファ層の初期成長用基板側の格子定数の異なる他層と接する部分に、それぞれミスフィット転位を示す黒い線が確認された。
この例では実施例1に比べるとSORIは大きいものの、支持基板は良好に接合しており、積層体のクラック発生も抑制されていた。そのため、その後の光半導体素子の製造も
行うことができた。
【0141】
【表5】
【0142】
<比較例1>
N個のバッファ層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、エピタキシャル成長用基板1’を得た。疑似基板層に目視でクラックが観察されたため、逆格子マッピング測定とTEMでの断面観察は行わなかった。半導体積層体1をエピタキシャル成長用基板上に形成して評価を行った。この例では、SORIが大きすぎて測定できず、支持基板の接合不可能であった。また、半導体積層体1にもクラックが観察されており、PLは非発光であり、光半導体素子の製造は実施しなかった。結果を表6に示す。
【0143】
<比較例2>
実施例2において、バッファ層2-1~バッファ層2-7からなるバッファに代えて、P気相比が、初期成長用基板側から疑似基板層側に向けて連続的に変化するように原料ガスを供給して、膜厚1645nmのバッファを形成し、表4と同様の条件で疑似基板層を形成したこと以外は、実施例2と同様にして、エピタキシャル成長用基板2’を得た。半導体積層体1をエピタキシャル成長用基板上に形成して実施例2と同様にしてPL測定及びSORIと支持基板接合試験の評価を行った。結果を表6に示す。
【0144】
逆格子マッピング測定(RSM)によって算出される垂直方向の格子定数q、水平方向の格子定数qを求め、実施例1~3よりも格子定数差は大きかった。断面TEM観察において、層の境界が無くミスフィット転位を示す黒い線は確認されなかった。一方、バッファ全体を貫通する転位は確認された。この例では、実施例1に比べるとSORIが大きく増加しており、支持基板の接合時の約半分において接合不良がみられた。そのため、光半導体素子の製造は実施しなかった。
【0145】
【表6】
【0146】
[第二の試験]
以上の第一の試験では、支持基板の接合や基板除去が可能なエピタキシャル成長用基板を探るために、疑似基板の組成比を固定して、N個のバッファ層について変更を行った。
以下の第二の試験では、実施例1のエピタキシャル成長用基板を基準とし、表7に示す半導体積層体2をエピタキシャル成長用基板上に成長させてPL強度の測定を行い、Nの数と疑似基板の組成比を変化させて、疑似基板と半導体積層体における井戸層との関係について調査した。Nの数と疑似基板の組成比の変化のさせ方を表8に例示すると共に、疑似基板と井戸層の格子定数の違いによる不整合度や井戸層が受ける応力の種類の変化が、SORIとBOWとPL強度に与える影響についての調査結果を表9に示す。表8に記載していないN=3やN=9のときも、表8に示すNの数と疑似基板の組成比の変化のさせ方に合わせて変更させた。
【0147】
【表7】
【0148】
【表8】
【0149】
【表9】
【0150】
表9では、井戸層の設計波長を2100nmとした場合と、2300nmとした場合の2種類の試験結果を記載している。2種類の試験において、それぞれN=7のときのPLの励起光強度を1.00とし、他のNの数のときの励起光強度を相対値で記載している。表9より、いずれも半導体積層体2を形成後のエピタキシャル成長用基板のSORIは小さく、支持基板接合加工の評価はA評価(クラックの発生なく接合できる割合90%以上(ほぼ100%))であったが、井戸層が引張応力を受けるような状態ではPL強度が小さくなることが分かった。また、PL強度の大きさから、井戸層が圧縮応力を受けることが好ましく、さらに、疑似基板層に対する井戸層の不整合度Xw・pが、0.1%以上1.2%未満であることが好ましく、1.1%以下がより好ましいことがわかった。
【0151】
[第三の試験]
次に、実施例1のエピタキシャル成長用基板を使用し、表7に示す半導体積層体2において井戸層の組成を変えて設計波長を変えると共に、障壁層のAs固相比及び格子定数を変えて井戸層と障壁層との間の応力を変化させた以外は、第二の試験と同様にして調査した。表7の半導体積層体2では、障壁層には疑似基板層と同じ組成を使用していた。第三の試験では、N=7である表7に記載の疑似基板層上において、井戸層の組成を波長に合わせて変えて、表10に示すように障壁層のAs固相比yを変化させながら10.5ペアの量子井戸構造を形成し、そのうえに表7と同様のp型層を形成して、波長が2450nm、2600nm、2700nmとなる半導体積層体を形成した。波長が2450nmでは井戸層の組成はIn0.90Ga0.10As、2600nmでは井戸層組成はIn0.92Ga0.08As、2700nmでは井戸層の組成はIn0.94Ga0.06Asを使用した。表10に、PL強度及びSORIとBOWを測定して、支持基板との接合性を確認した結果を、形成した井戸層及び障壁層の格子定数と、それら層の疑似基板層に対する不整合度と共に示す。なお、井戸層厚は10nm、障壁層厚は10nmである。
【0152】
【表10】
【0153】
表10に示すように、障壁層と疑似基板層との格子定数差が無い(同じ組成とした)場合のPL強度の大きさを1とした場合のPL強度の相対強度に関して、疑似基板層に対する井戸層の不整合度Xw・p及び井戸層厚の各値と、疑似基板層に対する障壁層の不整合度Xb・p及び障壁層厚の各値を使用して、下記式(3):
(Xw・p ×井戸層厚 +Xb・p×障壁層厚)/(井戸層厚+障壁層厚)
により計算される、疑似基板層に対する井戸層と障壁層を合わせた厚さ平均の不整合度の値が、-0.09%以上0.46%以下の範囲内であることが好ましく、-0.02%以上0.36%以下の範囲内であることがより好ましいことが分かった。これは、表9の結果のように疑似基板層に対する井戸層の不整合度Xw・pを0.1%以上1.2%未満(圧縮応力)とするとともに、障壁層の格子定数を引張応力を受けるようにして井戸層が受ける圧縮応力と相殺させることで、量子井戸構造内の結晶性が向上し、大きなPL強度を得ることができたものと考えられる。
図10に、井戸層と障壁層を合わせた厚さ平均の不整合度に対するPL強度(相対強度)の変化を示す。
【符号の説明】
【0154】
1 エピタキシャル成長用基板
2 光半導体素子
11 初期成長用基板
12 エッチングストップ層(コンタクト層)
13 N個のバッファ層
14 疑似基板層
15 別の層(窓層)
16 支持基板
17 反射層
18 金属接合層
30 活性層
35B 障壁層
35W 井戸層
37 p型層
38 中間電極部
39 誘電体層
40 上部電極
50 裏面電極
【要約】
【課題】支持基板の貼り合わせや初期成長用基板の除去を行ったとしてもクラックを生じさせないようなバッファ積層体を有するエピタキシャル成長用基板を提供する。
【解決手段】初期成長用基板と、前記初期成長用基板上のエッチングストップ層と、前記エッチングストップ層上のバッファ積層体を有する、エピタキシャル成長用基板であって、前記バッファ積層体は、それぞれ異なる格子定数をもつN個のバッファ層と、N個のバッファ層上の厚さが300nm以上の疑似基板層を有し、前記初期成長用基板の格子定数をa、前記疑似基板層の格子定数をaとした場合に、前記初期成長用基板に対する前記疑似基板層の不整合度Xp・gが0.7%以上であり、前記Nは3以上の自然数であり、前記バッファ層の初期成長用基板側にミスフィット転位を有するバッファ層を3個以上有するエピタキシャル成長用基板である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10