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特許7648958利得調整方法、光受信装置及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】利得調整方法、光受信装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/61 20130101AFI20250312BHJP
   H04B 10/077 20130101ALI20250312BHJP
【FI】
H04B10/61
H04B10/077 190
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023568993
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2021048206
(87)【国際公開番号】W WO2023119627
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-06-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省、「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発(課題I)」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓑口 恭
(72)【発明者】
【氏名】山崎 悦史
(72)【発明者】
【氏名】木坂 由明
(72)【発明者】
【氏名】堀越 建吾
(72)【発明者】
【氏名】岡本 聖司
(72)【発明者】
【氏名】中村 政則
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-114599(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171587(WO,A1)
【文献】特開2017-225075(JP,A)
【文献】特開2012-175581(JP,A)
【文献】特開昭54-156407(JP,A)
【文献】特開2003-283385(JP,A)
【文献】国際公開第2015/072515(WO,A1)
【文献】Ryosuke Matsumoto et al.,Burst-Mode Coherent Detection Using Fast-Fitting Pilot Sequence for 100-Gb/s/λ Coherent TDM-PON System,2017 European Conference on Optical Communication (ECOC),2017年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/61
H04B 10/077
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光送信装置と、光受信装置とを備えるデジタルコヒーレント方式による通信を行う光伝送システムにおける利得調整方法であって、
前記光送信装置から送信された光信号を電気信号に変換し、
前記電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、
前記デジタル信号に第1の信号処理を行い、
前記第1の信号処理が行われた前記デジタル信号に対してディジタルフィルタを用いて適応等化処理を行い、
前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅及び位相の情報と、既知の送信信号を振幅とに基づいて、前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅を補正し、
振幅が補正された前記ディジタルフィルタの出力信号に対して第2の信号処理を行い、
所定期間分の前記ディジタルフィルタの出力信号の出力と、既知の送信信号との振幅の誤差、又は、所定期間分の前記ディジタルフィルタの出力信号の出力と、既知の送信信号との振幅の誤差の絶対値を平均した結果に基づいて、前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅を補正するための振幅補正量を推定する、
利得調整方法。
【請求項2】
所定期間分の前記ディジタルフィルタの出力信号の出力と、既知の送信信号との振幅の誤差を複素数平面における第一象限から第四象限のいずれか1つの象限に回転させた後に平均した結果に基づいて、前記振幅補正量を推定する、
請求項に記載の利得調整方法。
【請求項3】
光送信装置と、光受信装置とを備えるデジタルコヒーレント方式による通信を行う光伝送システムにおける前記光受信装置であって、
前記光送信装置から送信された光信号を電気信号に変換するコヒーレント光受信部と、
前記電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換するアナログデジタル変換部と、
前記デジタル信号に第1の信号処理を行う第1信号処理部と、
前記第1の信号処理が行われた前記デジタル信号に対してディジタルフィルタを用いて適応等化処理を行う適応等化部と、
前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅及び位相の情報と、既知の送信信号を振幅とに基づいて、前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅を補正する振幅補正部と、
振幅が補正された前記ディジタルフィルタの出力信号に対して第2の信号処理を行う第2信号処理部と、
を備え
前記振幅補正部は、所定期間分の前記ディジタルフィルタの出力信号の出力と、既知の送信信号との振幅の誤差、又は、所定期間分の前記ディジタルフィルタの出力信号の出力と、既知の送信信号との振幅の誤差の絶対値を平均した結果に基づいて、前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅を補正するための振幅補正量を推定する、光受信装置。
【請求項4】
光送信装置と、光受信装置とを備えるデジタルコヒーレント方式による通信を行う光伝送システムにおける前記光受信装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、
前記光送信装置から送信された光信号を電気信号に変換され、前記電気信号のアナログ信号からデジタル信号に変換され、前記デジタル信号に第1の信号処理が行われ、前記第1の信号処理が行われた前記デジタル信号に対してディジタルフィルタを用いて適応等化処理が行われた前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅及び位相の情報と、既知の送信信号を振幅とに基づいて、前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅を補正させ
所定期間分の前記ディジタルフィルタの出力信号の出力と、既知の送信信号との振幅の誤差、又は、所定期間分の前記ディジタルフィルタの出力信号の出力と、既知の送信信号との振幅の誤差の絶対値を平均した結果に基づいて、前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅を補正するための振幅補正量を推定させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利得調整方法、光受信装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレント光通信においては、偏波/位相ダイバーシティ送受信が実現されており、受信側で得られる位相情報を活用したディジタル信号処理が実現されている(例えば、非特許文献1参照)。偏波多重信号間のクロストークや線形歪みは、FIRフィルタ(Finite Impulse Response Filter:有限インパルス応答フィルタ)に代表されるディジタルフィルタの適応的な係数制御により等化され、直交位相振幅変調(QAM:Quadrature amplitude modulation)信号のIn-Phase/Quadrature間のクロストークや遅延差などについても同様にFIRフィルタの適応的な係数制御により等化可能である。この際、参照信号との平均二乗誤差を最小化する係数制御を用いることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Seb J. Savory, “Digital filters for coherent optical receivers”, Vol. 16, Issue 2, pp. 804-817 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、雑音が存在する環境下でディジタルフィルタにおいて平均二乗誤差を最小化する係数制御を行う場合、ディジタルフィルタ出力のうち送信信号成分の振幅が期待値からずれるようにフィルタ係数が収束する。そのため、ディジタルフィルタ出力の送信信号成分の振幅が期待値からずれることにより、ディジタルフィルタより後段の信号処理部の処理に影響を与えてしまい、場合には信号処理の精度が劣化してしまうという問題があった。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、ディジタルフィルタより後段の信号処理部による信号処理の精度を向上させることができる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、光送信装置と、光受信装置とを備えるデジタルコヒーレント方式による通信を行う光伝送システムにおける利得調整方法であって、前記光送信装置から送信された光信号を電気信号に変換し、前記電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、前記デジタル信号に第1の信号処理を行い、前記第1の信号処理が行われた前記デジタル信号に対してディジタルフィルタを用いて適応等化処理を行い、前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅及び位相の情報と、既知の送信信号を振幅とに基づいて、前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅を補正し、振幅が補正された前記ディジタルフィルタの出力信号に対して第2の信号処理を行う、利得調整方法である。
【0007】
本発明の一態様は、光送信装置と、光受信装置とを備えるデジタルコヒーレント方式による通信を行う光伝送システムにおける前記光受信装置であって、前記光送信装置から送信された光信号を電気信号に変換するコヒーレント光受信部と、前記電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換するアナログデジタル変換部と、前記デジタル信号に第1の信号処理を行う第1信号処理部と、前記第1の信号処理が行われた前記デジタル信号に対してディジタルフィルタを用いて適応等化処理を行う適応等化部と、前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅及び位相の情報と、既知の送信信号を振幅とに基づいて、前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅を補正する振幅補正部と、振幅が補正された前記ディジタルフィルタの出力信号に対して第2の信号処理を行う第2信号処理部と、を備える光受信装置である。
【0008】
本発明の一態様は、光送信装置と、光受信装置とを備えるデジタルコヒーレント方式による通信を行う光伝送システムにおける前記光受信装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記光送信装置から送信された光信号を電気信号に変換され、前記電気信号のアナログ信号からデジタル信号に変換され、前記デジタル信号に第1の信号処理が行われ、前記第1の信号処理が行われた前記デジタル信号に対してディジタルフィルタを用いて適応等化処理が行われた前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅及び位相の情報と、既知の送信信号を振幅とに基づいて、前記ディジタルフィルタの出力信号の振幅を補正させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ディジタルフィルタより後段の信号処理部による信号処理の精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態における光伝送システムのシステム構成を示す図である。
図2】第1の実施形態におけるデジタル信号処理部の構成例を示す図である。
図3】第1の実施形態における振幅補正部が行う処理を説明するための図である。
図4】第1の実施形態における振幅補正部が行う処理を説明するための図である。
図5】第1の実施形態における光受信装置の処理の流れを示すフローチャートである。
図6】第2の実施形態における振幅補正部が行う処理を説明するための図である。
図7】第2の実施形態における振幅補正部が行う処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における光伝送システム100のシステム構成を示す図である。光伝送システム100は、光送信装置10と、光受信装置20とを備える。光送信装置10と、光受信装置20とは、光伝送路30を介して接続される。光伝送路30は、光送信装置10が送信する光信号を光受信装置20に伝送する。光伝送路30は、光送信装置10と光受信装置20とを接続する光ファイバ31及び光信号の増幅を行う光増幅器32で構成される。なお、光伝送路30は、経路の途中に光スイッチや再生中継器などのデバイスが挿入されていてもよい。
【0012】
光送信装置10は、光信号を送信する光送信部11を備える。光送信部11は、電気信号生成部12と、光信号生成部13とを備える。電気信号生成部12は、情報源である送信データを符号化し、符号化した送信データを電気信号の波形に変換することにより送信データの電気信号を生成して出力する。
【0013】
光信号生成部13は、電気信号生成部12によって生成された電気信号を光信号に変換して、光伝送路30を介して光信号を光受信装置20に送信する。光信号生成部13の内部には、デジタルアナログ変換器、ドライバアンプ、変調器及びレーザ等が含まれる。光信号生成部13は、例えばQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)の変調方式を用いて光信号を生成する。
【0014】
光受信装置20は、光信号を受信する光受信部21を備える。光受信部21は、コヒーレント光受信部22と、デジタル信号処理部23とを備える。コヒーレント光受信部22の内部には、90度光ハイブリッド回路、局部発振光源、光検出器及びそれら結合する光ファイバが備えられる。なお、コヒーレント光受信部22にアナログデジタル変換器が備えられてもよいし、コヒーレント光受信部22と、デジタル信号処理部23との間にアナログデジタル変換器が備えられてもよい。
【0015】
コヒーレント光受信部22は、ベースバンド光信号を偏波面が直交する2つの光信号に分離する。これらの光信号と局部発振光源の局発光が90度光ハイブリッド回路に入力され、両光を互いに同相及び逆相で干渉させた1組の出力光、直交(90°)及び逆直交(-90°)で干渉させた1組の出力光の計4つの出力光が得られる。これらの出力光はフォトダイオードによりそれぞれ光信号からアナログの電気信号に変換される。アナログデジタル変換器は、アナログ信号をデジタル信号に変換して、デジタル信号処理部23に出力する。
【0016】
光伝送路30中を光信号が伝搬する際に、信号の光パワーに比例して信号の位相が回転する非線形光学効果によって信号波形が歪む。デジタル信号処理部23は、アナログデジタル変換器が出力するデジタル信号を受信信号として取り込み、取り込んだ受信信号に対して各種補償を行う。
【0017】
図2は、第1の実施形態におけるデジタル信号処理部23の構成例を示す図である。デジタル信号処理部23は、第1信号処理部231と、適応等化部232と、振幅補正部233と、第2信号処理部234とを備える。
【0018】
第1信号処理部231は、入力したデジタル信号に信号処理を行う。第1信号処理部231は、例えば入力したデジタル信号において、光伝送路30で生じた波長分散を補償する。なお、第1信号処理部231が行う信号処理は、これに限らず、他の信号処理が行われてもよい。例えば、第1信号処理部231は、適応等化部24により適応等化処理の前に、従来から行われている信号処理であればどのような信号処理を行ってもよい。
【0019】
適応等化部232は、光伝送路30において光信号の波形に生じた歪みを補償する。すなわち、適応等化部232は、光伝送路30において符号間干渉(シンボル間干渉)によって光信号に生じた符号誤りを訂正する。適応等化部232は、設定されたタップ係数に応じて、FIRフィルタ(有限インパルス応答フィルタ)等のディジタルフィルタによって適応等化処理を実行する。
【0020】
振幅補正部233は、適応等化処理が実行された4つのデジタル信号(ディジタルフィルタ出力)と、既知の送信信号とに基づいて、受信信号の振幅を補正する。このように、振幅補正部233は、既知の送信信号を受信信号の振幅補正の処理の一部として用いる。
【0021】
第2信号処理部234は、適応等化処理が実行され、振幅補正部233により補正がなされた4つのデジタル信号に信号処理を行う。第2信号処理部234は、例えば入力したデジタル信号において、周波数オフセットを補償する処理や、位相オフセットを補償する処理や、デジタル信号に対する復調及び復号を行う。なお、第2信号処理部234が行う信号処理は、これに限らず、他の信号処理が行われてもよい。例えば、第2信号処理部234は、適応等化部24により適応等化処理の後に、従来から行われている信号処理であればどのような信号処理を行ってもよい。
【0022】
図3及び図4は、第1の実施形態における振幅補正部233が行う処理を説明するための図である。図3には、適応等化部232からの出力の時系列データが示されている。例えば、図3には、時刻k~時刻k+N-1それぞれで得られた適応等化部232からの出力の時系列データが示されている。図3の上段の時系列データには、既知の送信信号のシンボルKSと、フィルタ出力のシンボルとが示されている。振幅補正部233は、各時刻におけるフィルタ出力のシンボルを、現在の位置から第一象限に回転する。
【0023】
これにより、図3の上段の時系列データは、図3の下段に示す時系列データに変換される。図3の下段に示す時系列データにおける黒丸(S,Sk+1,…,Sk+N-1)は、フィルタ出力のシンボルを第一象限に回転させた後の振幅を表す。なお、S,Sk+1,…,Sk+N-1は、複素数に属する。ここで、フィルタ出力のシンボルの時系列を複素平面上で回転させて1つの象限(例えば、第一象限)に集める理由としては、ディジタルフィルタ出力は第一~第四の象限にランダムに配置されているため、回転させずにフィルタ出力のシンボルの加算平均をとると統計的に0に収束してしまい、信号成分(xi+j・x)を算出することができないためである。
【0024】
さらに、象限毎に加算平均をとることでも、第1の実施形態と等価な方式実現可能である。しかしながら、この場合には、4象限分の加算平均結果を保持するメモリーがそれぞれ個別に必要である。そのため、1つの象限に集める方式のほうがメモリーを削減することができる。
【0025】
振幅補正部233は、フィルタ出力のシンボルを第一象限に回転させた後の各時刻における振幅の値を用いて、以下の式(1)に基づいて既知の送信信号成分の振幅x,xを算出する。
【0026】
【数1】
【0027】
なお、式(1)におけるNは利得推定に用いるシンボル数を表す。式(1)に基づいて得られた既知の送信信号成分の振幅x,x図4に示す。さらに、振幅補正部233は、式(1)に基づいて得られた既知の送信信号成分の振幅x,xを用いて、以下の式(2)に基づいて同相成分の受信信号及び直交位相成分における利得g,gを算出する。利得g,gが、同相成分の受信信号の振幅補正量及び直交位相成分の受信信号の振幅補正量に該当する。
【0028】
【数2】
【0029】
なお、式(2)におけるh,hは利得推定結果補正係数(In-Phase/Quadrature)を表し、t,tは適応等化部232の係数制御に用いる既知の送信信号QPSK振幅(In-Phase/Quadrature)を表す。
【0030】
図5は、第1の実施形態における光受信装置20の処理の流れを示すフローチャートである。
コヒーレント光受信部22は、光送信装置10から送信された光信号を受信する(ステップS101)。コヒーレント光受信部22により受信された光信号は、電気信号に変換されたのち、アナログデジタル変換器によりアナログ信号からデジタル信号に変換されてデジタル信号処理部23に入力される。
【0031】
第1信号処理部231は、入力されたデジタル信号に対して第1の信号処理を行う(ステップS102)。第1信号処理部231は、第1の信号処理が行われたデジタル信号を適応等化部232に出力する。適応等化部232は、第1信号処理部231から出力された第1の信号処理が行われたデジタル信号に対して適応等化処理を行う(ステップS103)。
【0032】
適応等化部232により適応等化処理が行われたデジタル信号は、振幅補正部233に入力される。振幅補正部233は、適応等化処理が行われたデジタル信号を用いて、受信信号の振幅補正量を推定する(ステップS104)。具体的には、まず振幅補正部233は、適応等化処理が行われたデジタル信号(フィルタ出力)の時系列データにおいて、各時刻におけるフィルタ出力のシンボルを第一象限に回転する。次に、振幅補正部233は、フィルタ出力のシンボルを第一象限に回転させた後の各時刻における振幅の値を用いて、上記式(1)により既知の送信信号成分の振幅x,xを算出する。そして、振幅補正部233は、既知の送信信号成分の振幅x,xの値を用いて、上記式(2)に基づいて同相成分の受信信号及び直交位相成分における利得g,gを、振幅補正量の同相成分(利得g)及び振幅補正量の直交位相成分(g)として算出する。
【0033】
振幅補正部233は、算出した振幅補正量を用いて、適応等化処理が行われた同相成分のデジタル信号の振幅及び直交位相成分のデジタル信号の振幅を補正する(ステップS105)。具体的には、振幅補正部233は、振幅補正量の同相成分を同相成分のデジタル信号に乗算し、振幅補正量の直交位相成分を直交位相成分のデジタル信号に乗算することによって、同相成分のデジタル信号の振幅及び直交位相成分のデジタル信号の振幅を補正する。振幅補正部233は、補正後の同相成分のデジタル信号及び補正後の直交位相成分のデジタル信号を第2信号処理部234に出力する。第2信号処理部234は、振幅補正部233から出力された補正後の同相成分のデジタル信号及び補正後の直交位相成分のデジタル信号に対して第2の信号処理を行う(ステップS106)。これにより、第2信号処理部234は、光送信装置10から送信されたデータを復元する。
【0034】
以上のように構成された光伝送システム100によれば、ディジタルフィルタより後段の信号処理部による信号処理の精度を向上させることが可能になる。具体的には、光伝送システム100では、ディジタルフィルタからの出力信号と既知の送信信号とに基づいて受信信号の振幅を補正し、後段の信号処理部(第2信号処理部234)へ信号を出力する。これにより、ディジタルフィルタからの出力をそのまま後段の信号処理部に渡す従来の信号処理に比べて、受信信号の振れ幅が補正されたうえで後段の信号処理が行われるため、復号の処理においてシンボル位置がより正確に判定される。そのため、高精度な信号処理ができる。その結果、ディジタルフィルタより後段の信号処理部による信号処理の精度を向上させることが可能になる。
【0035】
第1の実施形態の変形例について説明する。
上述した実施形態では、振幅補正部233が、所定期間分のディジタルフィルタ出力を平均した結果に基づいて、同相成分の受信信号の振幅補正量及び直交位相成分の受信信号の振幅補正量を算出する構成を示した。振幅補正部233は、所定期間分のディジタルフィルタ出力の絶対値を平均した結果に基づいて、同相成分の受信信号の振幅補正量及び直交位相成分の受信信号の振幅補正量を算出してもよい。
【0036】
上述した実施形態では、振幅補正部233が、各時刻におけるフィルタ出力のシンボルを第一象限に回転させる構成を示した。振幅補正部233は、各時刻におけるフィルタ出力のシンボルを第一象限以外の象限に回転させてもよい。例えば、振幅補正部233は、各時刻におけるフィルタ出力のシンボルを第二象限から第四象限のいずれか象限に回転させてもよい。このように、振幅補正部233は、各時刻におけるフィルタ出力のシンボルを第一象限から第四象限のいずれか任意の象限に回転させることで上記の効果を奏することができる。
【0037】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、ディジタルフィルタの出力と既知の送信信号のシンボルとの誤差の時系列に基づいて振幅補正量を推定し、受信信号の振幅を補正する構成について説明する。第2の実施形態における構成は、第1の実施形態と同様である。振幅補正部233における処理が、第1の実施形態と異なる。以下、第1の実施形態との相違点について説明する。
【0038】
図6及び図7は、第2の実施形態における振幅補正部233が行う処理を説明するための図である。図6には、適応等化部232からの出力の時系列データが示されている。例えば、図6には、時刻k~時刻k+N-1それぞれで得られた適応等化部232からの出力の時系列データが示されている。図6の上段の時系列データには、既知の送信信号のシンボルKSと、フィルタ出力のシンボルとが示されている。さらに、図6の上段の時系列データに示す矢印51は、既知の送信信号のシンボルKSと、フィルタ出力のシンボルとの誤差を表す。振幅補正部233は、各時刻における誤差を示す矢印51を、現在の位置から第一象限に回転する。
【0039】
これにより、図6の上段の時系列データは、図6の下段に示す時系列データに変換される。図6の下段に示す時系列データにおける矢印(e,ek+1,…,ek+N-1)は、ディジタルフィルタ出力と既知の送信信号の誤差を第一象限に回転させた量を表す。なお、e,ek+1,…,ek+N-1は、複素数に属する。ここで、誤差の時系列を複素平面上で回転させて1つの象限(例えば、第一象限)に集める理由としては、第1の実施形態と同様の理由である。さらに、象限毎に加算平均をとることにおける優位性も第1の実施形態と同様の理由である。
【0040】
振幅補正部233は、ディジタルフィルタ出力と既知の送信信号の誤差を第一象限に回転させた後の各時刻における誤差の値を用いて、以下の式(3)に基づいてディジタルフィルタ出力を第一象限に回転させた後の既知の送信信号成分と既知の送信信号の差を表す量(In-Phase/Quadrature)a,aを算出する。
【0041】
【数3】
【0042】
式(3)に基づいて得られた差を表す量a,a図7に示す。
【0043】
さらに、振幅補正部233は、式(3)に基づいて得られた差を表す量a,aを用いて、以下の式(4)に基づいて同相成分の受信信号及び直交位相成分における利得g,gを、振幅補正量の同相成分(利得g)及び振幅補正量の直交位相成分(g)として算出する。利得g,gが、同相成分の受信信号の振幅補正量及び直交位相成分の受信信号の振幅補正量に該当する。
【0044】
【数4】
【0045】
振幅補正部233は、算出した振幅補正量の同相成分を同相成分のデジタル信号に乗算し、振幅補正量の直交位相成分を直交位相成分のデジタル信号に乗算することによって、同相成分のデジタル信号の振幅及び直交位相成分のデジタル信号の振幅を補正する。
【0046】
以上のように構成された第2の実施形態における光伝送システム100によれば、第1の実施形態と同様に、ディジタルフィルタより後段の信号処理部による信号処理の精度を向上させることが可能になる。さらに、第1の実施形態と比較して、ディジタルフィルタ出力と既知の送信信号の誤差に変換することで値域を狭く抑えることができる。そのため、第1の実施形態に比べて演算回路のビット幅を有効活用することが可能になる。
【0047】
第2の実施形態の変形例について説明する。
上述した実施形態では、振幅補正部233が、所定期間分のディジタルフィルタ出力と既知の送信信号の誤差を平均した結果に基づいて、同相成分の受信信号の振幅補正量及び直交位相成分の受信信号の振幅補正量を算出する構成を示した。振幅補正部233は、所定期間分のディジタルフィルタ出力と既知の送信信号の誤差の絶対値を平均した結果に基づいて、同相成分の受信信号の振幅補正量及び直交位相成分の受信信号の振幅補正量を算出してもよい。
【0048】
上述した実施形態では、振幅補正部233が、各時刻におけるディジタルフィルタ出力と既知の送信信号との誤差の値を第一象限に回転させる構成を示した。振幅補正部233は、各時刻におけるディジタルフィルタ出力と既知の送信信号との誤差の位置を第一象限以外の象限に回転させてもよい。例えば、振幅補正部233は、各時刻における誤差を第二象限から第四象限のいずれか象限に回転させてもよい。このように、振幅補正部233は、各時刻における誤差を第一象限から第四象限のいずれか任意の象限に回転させることで上記の効果を奏することができる。
【0049】
上述した実施形態における光受信装置20の一部の機能をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリーのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0050】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ディジタルフィルタを用いて等化処理を行う光伝送システム技術に適用できる。
【符号の説明】
【0052】
10…光送信装置, 11…光送信部, 12…電気信号生成部, 13…光信号生成部, 20…光受信装置, 21…光受信部, 22…コヒーレント光受信部, 23…デジタル信号処理部, 30…光伝送路, 31…光ファイバ, 32…光増幅器, 231…第1信号処理部, 232…適応等化部, 233…振幅補正部, 234…第2信号処理部
図1
図2
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図7