(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】ゲノムを編集する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20250312BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20250312BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250312BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250312BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250312BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250312BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20250312BHJP
A01K 67/0275 20240101ALI20250312BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20250312BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N15/11 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A01H1/00 A
A01K67/0275
C12N15/63 Z
(21)【出願番号】P 2023523344
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2022017353
(87)【国際公開番号】W WO2022249775
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021089110
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的がん医療実用化研究事業「アンメットメディカルニーズへの迅速対応を可能にする遺伝子治療法に関する研究」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】間世田 英明
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-509282(JP,A)
【文献】国際公開第2020/047344(WO,A1)
【文献】特表2016-512695(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030536(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/015117(WO,A2)
【文献】特表2018-506297(JP,A)
【文献】MCLACHLAN, J. et al.,Specific targeted gene repair using single-stranded DNA oligonucleotides at an endogenous locus in mammalian cells uses homologous recombination,DNA Repair,2009年,Vol. 8,pp. 1424-1433
【文献】MOERSCHELL, R. P. et al.,Transformation of yeast with synthetic oligonucleotides,Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.,1988年,Vol. 85,pp. 524-528
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00ー15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二本鎖ゲノムDNAの標的部位を改変することができる一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドと組み合わせて用いるための、一本鎖形態の編集促進用ポリヌクレオチド
を含むゲノム編集促進剤であって、
標的部位は、一方のゲノムDNA鎖上に設定される一次編集部位と、他方のゲノムDNA鎖上の、一次編集部位と対応する位置にある二次編集部位とからなり、
編集用ポリヌクレオチドは、5'末端側から順に、
a)一次編集部位の3’末端側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な部分
x)二次編集部位の塩基配列と同一でない塩基配列からなる任意の部分、及び
b)一次編集部位の5’末端側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な部分
からなるか、又は
部分a)及び部分b)
からなり、
部分a)及び部分b)の長さは、それぞれ独立して10~100ヌクレオチドであり、
編集促進用ポリヌクレオチドは、前記一方のゲノムDNA鎖上の所定領域に対して相補的である核酸配列とハイブリダイズ可能であって、ここで前記所定領域は、前記一方のゲノムDNA鎖上の、編集用ポリヌクレオチドの部分a)と対応する位置にある領域を領域Aとし、編集用ポリヌクレオチドの部分b)と対応する位置にある領域を領域Bとしたときに、その5'末端部において領域Aとオーバーラップするか、又はその3'末端部において領域Bとオーバーラップし、
前記所定領域の5'末端部における領域Aとのオーバーラップの長さは、領域Aと同一又はそれより短く、前記所定領域の3'末端部における領域Bとのオーバーラップの長さは、領域Bと同一又はそれより短く、
編集促進用ポリヌクレオチドの長さは、50ヌクレオチド以上であり、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)、部分x)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の2つの連続するヌクレオチドの間に設定された場合に、一次編集部位に部分x)と相補的な塩基配列からなる部分を、二次編集部位に部分x)を挿入することができ、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)、部分x)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定された場合に、一次編集部位を部分x)と相補的な塩基配列からなる部分に、二次編集部位を部分x)に置換することができ、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定された場合に、標的部位を欠失させることができる、前記
ゲノム編集促進剤。
【請求項2】
前記オーバーラップの長さが、5ヌクレオチド以上である、請求項1に記載の
ゲノム編集促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の編集促進用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集促進用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート、及び
編集用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート
を含む、ゲノム編集用キットであって、
編集用ポリヌクレオチドが、5'末端側から順に、
a)一次編集部位の3’末端側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な部分
x)二次編集部位の塩基配列と同一でない塩基配列からなる任意の部分、及び
b)一次編集部位の5’末端側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な部分
からなるか、又は
部分a)及び部分b)
からなる、前記ゲノム編集用キット。
【請求項4】
前記所定領域がその5'末端部において領域Aとオーバーラップするように設定された編集促進用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集促進用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート、及び
前記所定領域がその3'末端部において領域Bとオーバーラップするように設定された編集促進用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集促進用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート
を含む、請求項3に記載のゲノム編集用キット。
【請求項5】
編集促進用ポリヌクレオチドに関する前記オーバーラップの長さが、5ヌクレオチド以上である、請求項3又は4に記載のゲノム編集用キット。
【請求項6】
細胞(ただし、ヒトの配偶子及び受精卵を除く)又は非ヒト生物を、請求項3~5のいずれか一項に記載のゲノム編集用キットを用いて処理する工程を含み、ただし細胞がヒトの配偶子及び受精卵を除くヒト細胞の場合には前記工程がインビトロで行われる、細胞(ただし、ヒトの配偶子及び受精卵を除く)又は非ヒト生物の二本鎖ゲノムDNAの標的部位を改変する方法。
【請求項7】
細胞(ただし、ヒトの配偶子及び受精卵を除く)又は非ヒト生物を、請求項3~5のいずれか一項に記載のゲノム編集用キットを用いて処理する工程を含み、ただし細胞がヒトの配偶子及び受精卵を除くヒト細胞の場合には前記工程がインビトロで行われる、二本鎖ゲノムDNAの標的部位が改変された細胞(ただし、ヒトの配偶子及び受精卵を除く)又は非ヒト生物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲノムを編集する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEN、およびCRISPR/Casシステムなどのゲノム編集ツールが開発され、世界中でこれらを用いたゲノム編集が盛んに行われている。ZFNやTALENは、配列特異的なヌクレアーゼの設計に手間がかかることが欠点である一方で、CRISPR/Casシステムでは、標的化が極めて容易であることから特に世界中でゲノム編集ツールとして採用されている。しかしながら、CRISPR/Casシステムの難点として、オフターゲットの問題や巨大なヌクレアーゼを細胞にデリバリーすることが容易ではないことが挙げられる。これらのゲノム編集技術では、DNAを切断する酵素であるエンドヌクレアーゼを用いてゲノムを編集するため、ヌクレアーゼのサイズや設計が必要である。
【0003】
これに対して、一本鎖形態のポリヌクレオチドのみでゲノム編集を行う手法が開発されている(特許文献1および2)。特許文献1および2の手法では、一本鎖形態のポリヌクレオチド以外のコンポーネントを細胞に導入することなく、一本鎖形態のポリヌクレオチドのみでゲノム編集を行うことができる。特許文献1および2の方法では、ゲノム編集は、原核細胞のみならず、真核細胞内でも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6899564号公報
【文献】特開2016-220639号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、ゲノムを編集する方法を提供する。本発明は、細胞、特に真核細胞においてゲノムを編集する方法を提供する。
【0006】
本発明者は、一本鎖ポリヌクレオチドの編集効率を高めるための処方を種々研究する中で、驚くべきことに特定の一本鎖アンチセンスポリヌクレオチドの存在下で編集効率が向上することを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明者は、一本鎖アンチセンスポリヌクレオチド(「編集促進用アンチセンスポリヌクレオチド」ともいう)を合成し、編集促進用アンチセンスポリヌクレオチド存在下で、編集のための一本鎖形態のポリヌクレオチド(「編集用センスポリヌクレオチド」ともいう)によるゲノム編集効率を試験したところ、編集促進用アンチセンスポリヌクレオチドを、編集用センスポリヌクレオチドの末端部分と相補する配列を有するようにもしくは相補性を有する配列を有するように設計した場合(すなわち、編集用センスポリヌクレオチドの末端と結合するように設計した場合)に、ゲノム編集の効率が高まることを見出した。理論に拘束されるものではないが、RNAに転写されるゲノム領域が編集対象である場合、ゲノムDNAの周辺に存在する転写されたRNAと編集用センスポリヌクレオチドとの間でゲノムDNAへの結合に関して競合が生じ得ることから、上記のゲノム編集効率の向上は、編集促進用アンチセンスポリヌクレオチドがRNAと結合した結果として前記競合が抑制されるためと考えられる。ゲノム編集技術において、このようなゲノムDNAへの結合に関する競合を抑制することで編集効率を高めるという技術思想はこれまで全くなかったものであり、本発明はこの技術思想に立脚して行われたものである。
【0007】
本開示は、以下を提供する。
[項1A]
二本鎖ゲノムDNAの標的部位を改変することができる一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドと組み合わせて用いるための、一本鎖形態の編集促進用ポリヌクレオチドであって、
標的部位は、一方のゲノムDNA鎖上に設定される一次編集部位と、他方のゲノムDNA鎖上の、一次編集部位と対応する位置にある二次編集部位とからなり、
編集用ポリヌクレオチドは、5'末端側から順に、
a)一次編集部位の3’末端側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な部分
x)二次編集部位の塩基配列と同一でない塩基配列からなる任意の部分、及び
b)一次編集部位の5’末端側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な部分
からなるか、又は
部分a)及び部分b)
からなり、
編集促進用ポリヌクレオチドは、前記一方のゲノムDNA鎖上の所定領域に対して相補的である核酸配列とハイブリダイズ可能であって、ここで前記所定領域は、前記一方のゲノムDNA鎖上の、編集用ポリヌクレオチドの部分a)と対応する位置にある領域を領域Aとし、編集用ポリヌクレオチドの部分b)と対応する位置にある領域を領域Bとしたときに、その5'末端部において領域Aとオーバーラップするか、又はその3'末端部において領域Bとオーバーラップし、
前記所定領域の5'末端部における領域Aとのオーバーラップの長さは、領域Aと同一又はそれより短く、前記所定領域の3'末端部における領域Bとのオーバーラップの長さは、領域Bと同一又はそれより短く、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)、部分x)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の2つの連続するヌクレオチドの間に設定された場合に、一次編集部位に部分x)と相補的な塩基配列からなる部分を、二次編集部位に部分x)を挿入することができ、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)、部分x)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定された場合に、一次編集部位を部分x)と相補的な塩基配列からなる部分に、二次編集部位を部分x)に置換することができ、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定された場合に、標的部位を欠失させることができる、前記編集促進用ポリヌクレオチド。
[項1B]
二本鎖ゲノムDNAの標的部位を改変することができる一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドと組み合わせて用いるための、一本鎖形態の編集促進用ポリヌクレオチドであって、
標的部位は、一方のゲノムDNA鎖上に設定される一次編集部位と、他方のゲノムDNA鎖上の、一次編集部位と対応する位置にある二次編集部位とからなり、
編集用ポリヌクレオチドは、5'末端側から順に、
a)二次編集部位の5’末端側に隣接する領域の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなる部分
x)二次編集部位の塩基配列と同一でない塩基配列からなる任意の部分、及び
b)二次編集部位の3’末端側に隣接する領域の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなる部分
からなるか、又は
部分a)及び部分b)
からなり、
編集促進用ポリヌクレオチドは、前記一方のゲノムDNA鎖上の所定領域の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、ここで前記所定領域は、前記一方のゲノムDNA鎖上の、編集用ポリヌクレオチドの部分a)と対応する位置にある領域を領域Aとし、編集用ポリヌクレオチドの部分b)と対応する位置にある領域を領域Bとしたときに、その5'末端部において領域Aとオーバーラップするか、又はその3'末端部において領域Bとオーバーラップし、
前記所定領域の5'末端部における領域Aとのオーバーラップの長さは、領域Aと同一又はそれより短く、前記所定領域の3'末端部における領域Bとのオーバーラップの長さは、領域Bと同一又はそれより短く、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)、部分x)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の2つの連続するヌクレオチドの間に設定された場合に、一次編集部位に部分x)と相補的な塩基配列からなる部分を、二次編集部位に部分x)を挿入することができ、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)、部分x)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定された場合に、一次編集部位を部分x)と相補的な塩基配列からなる部分に、二次編集部位を部分x)に置換することができ、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定された場合に、標的部位を欠失させることができる、前記編集促進用ポリヌクレオチド。
[項1C]
二本鎖ゲノムDNAの標的部位を改変することができる一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドと組み合わせて用いるための、一本鎖形態の編集促進用ポリヌクレオチドであって、
標的部位は、一方のゲノムDNA鎖上に設定される一次編集部位と、他方のゲノムDNA鎖上の、一次編集部位と対応する位置にある二次編集部位とからなり、
編集用ポリヌクレオチドは、5'末端側から順に、
a)二次編集部位の5’末端側に隣接する領域の塩基配列と同一の塩基配列からなる部分
x)二次編集部位の塩基配列と同一でない塩基配列からなる任意の部分、及び
b)二次編集部位の3’末端側に隣接する領域の塩基配列と同一の塩基配列からなる部分
からなるか、又は
部分a)及び部分b)
からなり、
編集促進用ポリヌクレオチドは、前記一方のゲノムDNA鎖上の所定領域の塩基配列と同一の塩基配列からなり、ここで前記所定領域は、前記一方のゲノムDNA鎖上の、編集用ポリヌクレオチドの部分a)と対応する位置にある領域を領域Aとし、編集用ポリヌクレオチドの部分b)と対応する位置にある領域を領域Bとしたときに、その5'末端部において領域Aとオーバーラップするか、又はその3'末端部において領域Bとオーバーラップし、
前記所定領域の5'末端部における領域Aとのオーバーラップの長さは、領域Aと同一又はそれより短く、前記所定領域の3'末端部における領域Bとのオーバーラップの長さは、領域Bと同一又はそれより短く、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)、部分x)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の2つの連続するヌクレオチドの間に設定された場合に、一次編集部位に部分x)と相補的な塩基配列からなる部分を、二次編集部位に部分x)を挿入することができ、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)、部分x)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定された場合に、一次編集部位を部分x)と相補的な塩基配列からなる部分に、二次編集部位を部分x)に置換することができ、
編集用ポリヌクレオチドが部分a)及び部分b)からなり、かつ一次編集部位が一方のゲノムDNA鎖上の1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定された場合に、標的部位を欠失させることができる、前記編集促進用ポリヌクレオチド。
[項2A]
編集促進用ポリヌクレオチドの長さが、50ヌクレオチド以上である、項1A、項1B又は項1Cに記載の編集促進用ポリヌクレオチド。
[項2B]
前記オーバーラップの長さが、5ヌクレオチド以上である、項1A、項1B、項1C又は項2Aに記載の編集促進用ポリヌクレオチド。
[項3A]
項1A、項2A又は項2Bに記載の編集促進用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集促進用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート、及び
編集用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート
を含む、ゲノム編集用キットであって、
編集用ポリヌクレオチドが、5'末端側から順に、
a)一次編集部位の3’末端側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な部分
x)二次編集部位の塩基配列と同一でない塩基配列からなる任意の部分、及び
b)一次編集部位の5’末端側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な部分
からなるか、又は
部分a)及び部分b)
からなる、前記ゲノム編集用キット。
[項3B]
項1B、項2A又は項2Bに記載の編集促進用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集促進用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート、及び
編集用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート
を含む、ゲノム編集用キットであって、
編集用ポリヌクレオチドが、5'末端側から順に、
a)二次編集部位の5’末端側に隣接する領域の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなる部分
x)二次編集部位の塩基配列と同一でない塩基配列からなる任意の部分、及び
b)二次編集部位の3’末端側に隣接する領域の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなる部分
からなるか、又は
部分a)及び部分b)
からなる、前記ゲノム編集用キット。
[項3C]
項1C、項2A又は項2Bに記載の編集促進用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集促進用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート、及び
編集用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート
を含む、ゲノム編集用キットであって、
編集用ポリヌクレオチドが、5'末端側から順に、
a)二次編集部位の5’末端側に隣接する領域の塩基配列と同一の塩基配列からなる部分
x)二次編集部位の塩基配列と同一でない塩基配列からなる任意の部分、及び
b)二次編集部位の3’末端側に隣接する領域の塩基配列と同一の塩基配列からなる部分
からなるか、又は
部分a)及び部分b)
からなる、前記ゲノム編集用キット。
[項4]
前記所定領域がその5'末端部において領域Aとオーバーラップするように設定された編集促進用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集促進用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート、及び
前記所定領域がその3'末端部において領域Bとオーバーラップするように設定された編集促進用ポリヌクレオチド、その発現ベクター、又は前記編集促進用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート
を含む、項3A、項3B又は項3Cに記載のゲノム編集用キット。
[項5]
編集促進用ポリヌクレオチドに関する前記オーバーラップの長さが、5ヌクレオチド以上である、項3A、項3B、項3C又は項4に記載のゲノム編集用キット。
[項6]
細胞又は生物を、項3A、項3B、項3C、項4又は項5に記載のゲノム編集用キットを用いて処理する工程を含む、細胞又は生物の二本鎖ゲノムDNAの標的部位を改変する方法。
[項7]
細胞又は生物を、項3A、項3B、項3C、項4又は項5に記載のゲノム編集用キットを用いて処理する工程を含む、二本鎖ゲノムDNAの標的部位が改変された細胞又は生物を製造する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、効率的にゲノム編集を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施例の実験で用いた編集用ポリヌクレオチド(センスポリヌクレオチド)であるポリヌクレオチド(1)および(2)と、編集促進用ポリヌクレオチド(アンチセンスポリヌクレオチド)であるポリヌクレオチド(3)~(16)および(22)~(27)の設計を示す。
【
図2】
図2は、編集促進用ポリヌクレオチド(アンチセンスポリヌクレオチド)であるポリヌクレオチド(3)~(16)のいくつかの存在下における編集用ポリヌクレオチド(センスポリヌクレオチド)によるイントロンを標的としたゲノム編集効率の変化を示す。
【
図3】
図3は、編集促進用ポリヌクレオチド(アンチセンスポリヌクレオチド)であるポリヌクレオチド(11)~(16)および(22)~(27)のいくつかの存在下における編集用ポリヌクレオチド(センスポリヌクレオチド)によるイントロンを標的としたゲノム編集効率の変化を示す。
【
図4】
図4は、本実施例の実験で用いた編集用ポリヌクレオチド(センスポリヌクレオチド)であるポリヌクレオチド(18)、(17)および(1)と、編集促進用ポリヌクレオチド(アンチセンスポリヌクレオチド)であるポリヌクレオチド(3)および(4)の設計を示す。
【
図5】
図5は、配列中に塩基の欠失を有する編集用ポリヌクレオチド(センスポリヌクレオチド)であるポリヌクレオチド(18)を用いた場合、および配列中に塩基の挿入を有する編集用ポリヌクレオチド(センスポリヌクレオチド)であるポリヌクレオチド(17)を用いた場合のいずれにおいても、編集促進用ポリヌクレオチド(アンチセンスポリヌクレオチド)存在下ではそのゲノム編集効率が改善することを示す。
【
図6】
図6は、本実施例の実験で用いたエクソンを標的とした編集用ポリヌクレオチド(センスポリヌクレオチド)であるポリヌクレオチド(19)と、編集促進用ポリヌクレオチド(アンチセンスポリヌクレオチド)であるポリヌクレオチド(20)および(21)の設計を示す。
【
図7】
図7は、一種類の編集促進用ポリヌクレオチド(アンチセンスポリヌクレオチド)の存在下であっても、編集用センスポリヌクレオチドを用いたゲノム編集の効率が大幅に向上することを示す。
【
図8A】
図8Aは、編集用ポリヌクレオチドによる従来のゲノム編集(置換)のメカニズムを示す。
【
図8B】
図8Bは、編集用ポリヌクレオチド及び2種類の編集促進用ポリヌクレオチドによるゲノム編集(置換)のメカニズムを示す。
【
図9A】
図9Aは、編集用センスポリヌクレオチドによる従来のゲノム編集のメカニズムを示す。
【
図9B】
図9Bは、編集促進用アンチセンスポリヌクレオチド存在下における編集用センスポリヌクレオチドによるゲノム編集のメカニズムを示す。
【発明の詳細な説明】
【0010】
以下に示す説明は、代表的な実施形態又は具体例に基づくことがあるが、本発明はそのような実施形態又は具体例に限定されるものではない。また、本明細書において例示される各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。また、本明細書において「~」又は「-」を用いて表される数値範囲は、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値及び下限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本開示において、「ゲノム編集」または類似する用語は、ゲノムを改変する手法の一種である。ゲノム編集では、ゲノム上の特定領域を標的化し、当該領域を選択的に改変することを必要とする。近年、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEN、およびCRISPR/Casシステムなどのゲノム編集ツールが開発され、世界中でこれらを用いたゲノム編集が盛んに行われている。ZFNやTALENは、配列特異的なヌクレアーゼの設計に手間がかかることが欠点である一方で、CRISPR/Casシステムでは、標的化が極めて容易であることから特に世界中でゲノム編集ツールとして採用されている。しかしながら、CRISPR/Casシステムの難点として、オフターゲットの問題や巨大なヌクレアーゼを細胞にデリバリーすることが容易ではないことが挙げられる。
【0012】
本開示において、「細胞」は、生物体の構造上および機能上の基本単位である。細胞は、少なくともゲノムDNAと細胞質と、これらを包む膜構造を有する生命の基本単位をいう。細胞は、真核細胞および原核細胞であり得る。真核細胞は、核膜に囲われた核と、細胞質とを有する。原核細胞は、核を有しない。ゲノムDNAは、その細胞の内因性のDNAを含むが、必ずしもその細胞の内因性の因子のみから構成されるものではない。真核細胞は、ヒト細胞であってもよい。細胞は、精製された細胞または単離された細胞であり得る。細胞は、培養された細胞であってもよい。細胞は、株化された細胞であってもよい。細胞は、例えば、体細胞であり得る。細胞は、例えば、多能性細胞または多能性幹細胞であり得る。細胞は、例えば、組織幹細胞であり得る。細胞は、例えば、組織前駆細胞であり得る。細胞は、例えば、生殖細胞であり得る。
【0013】
真核細胞から構成される生物は、真核生物と呼ばれ、原核細胞から構成される生物は、原核生物と呼ばれる。真核生物には、動物、植物、および真菌類が含まれる。動物としては、哺乳動物(ヒト、非ヒト哺乳動物)、特に、家畜、例えば、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ラマ、およびラクダ、ニワトリなどの鳥類、および魚類などの魚介類などの農用動物、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、およびマウスなどの愛玩動物、鳥類、魚類、両生類、およびは虫類などの脊椎動物、昆虫、カニ、およびエビなどの甲殻類、貝類、タコ、およびイカなどの軟体類が挙げられる。植物としては、農作物、例えば、食用作物、例えば、イネ、トウモロコシ、イモ類、豆類、オオムギおよびコムギなどの麦類、園芸作物(野菜、果樹、および花卉)、例えば、葉菜類(キャベツ、アスパラガス等)、果菜類(ナス、トマト、キュウリ等)、根菜類(大根、人参等)、その他の野菜、果物(例えば、リンゴおよびナシなどの仁果類、ウメ、アンズ、スモモ、モモ、サクランボなどの核果類、アーモンド、クルミ、およびクリなどの殻果類、ミカン、およびレモンなどの柑橘類、トロピカルフルーツなどの熱帯果樹)、および、観葉植物、並びにこれらのいずれかの種子、苗、または球根が挙げられる。真核生物のまた別の例は、酵母、カビおよび担子菌といった真菌類であり、その例としては、酵母、アカパンカビ、マツタケ、シイタケ、エノキタケ、シメジ、ナメコ、エリンギ等を挙げることができる。真核生物はまた、微細藻類であり得る。真核生物は、ヒトまたは非ヒトであり得る。
【0014】
原核生物としては、例えばグラム陰性菌(緑膿菌、大腸菌、セラチア菌、スフィンゴモナス菌、ブルセラ菌、淋菌、バークホルデリア、赤痢菌、サルモネラ菌、アシネトバクター、コレラ菌、肺炎桿菌、レジオネラ菌、ピロリ菌、カンピロバクター等)、グラム陽性菌(結核菌、マイコプラズマ菌、黄色ブドウ球菌、放線菌、枯草菌、炭疽菌等)等を挙げることができる。原核生物は、好ましくはグラム陰性菌、より好ましくは緑膿菌、大腸菌、セラチア菌、スフィンゴモナス菌、さらに好ましくは緑膿菌、大腸菌であり得る。
【0015】
細胞は、細胞のゲノムDNAを含むが、外来の侵入者(例えば、病原体)のゲノムDNAをさらに含む場合がある。本開示において、ゲノムDNAは、断りのない限り、細胞自体のゲノムDNA(すなわち、宿主ゲノムDNA)という。侵入者のゲノムDNAは、宿主のゲノムDNAとは別体として細胞内で存在し得るが、宿主のゲノムDNAに組込まれていることもある。宿主ゲノムDNAは、外来性の因子(例えば、ウイルス等のゲノムDNAの全部または一部の挿入)を含んでいることがある。侵入者のゲノムDNAが組み込まれた宿主ゲノムDNA、及び外来性の因子を含んだ宿主ゲノムDNAもまた、本明細書でいうゲノムDNAに包含される。
【0016】
本開示において、「単離」とは、目的の細胞を少なくとも1つの他の構成要素から分離することを意味する。単離は、例えば、自然な存在状態の細胞を自然な存在状態において一緒に存在する他の構成要素から分離して取り出すことにより実施され得る。単離は、例えば、多細胞生物から一部の細胞を分離して取り出すことにより実施され得る。単離された細胞を扱う技術を本開示において、インビトロの技術という。
【0017】
本開示において、「精製」とは、単離された目的の細胞を、一緒に存在する他の構成要素からさらに分離することを意味する。精製は、例えば、目的の細胞を、形態や表面マーカーに基づいて他の構成要素から分離することにより実施され得る。精製は、細胞の限外希釈および/またはクローニングにより実施され得る。精製は、目的の細胞の株化により実施され得る。精製は、目的の細胞が薬剤耐性遺伝子や蛍光タンパク質をコードする遺伝子などのマーカー遺伝子を有する場合には、当該マーカー遺伝子の発現に基づいて実施することができる。
【0018】
本開示において、「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、相互に互換的に使用され、ヌクレオチドがホスホジエステル結合によって結合したヌクレオチドポリマーを指す。「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、DNAであってもよく、RNAであってもよく、DNAとRNAとの組合せ(例えば、ギャップマー)から構成されてもよい。また、「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、天然ヌクレオチドのポリマーであってもよく、天然ヌクレオチドと非天然ヌクレオチド(天然ヌクレオチドの類似体、塩基部分、糖部分及びリン酸部分のうち少なくとも一つの部分が修飾されているヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート骨格)等)とのポリマーであってもよく、非天然ヌクレオチドのポリマーであってもよい。ポリヌクレオチドは、ペプチド核酸であってもよい。ポリヌクレオチドは、モルホリノオリゴであってもよい。
【0019】
本開示において、「ポリヌクレオチド」又は「核酸」の塩基配列は、特に明示しない限り、一般的に認められている1文字コードで記載される。特に明示しない限り、塩基配列は、5’側から3’側に向かって記載する。「ポリヌクレオチド」又は「核酸」を構成するヌクレオチド残基は、単に、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、又はウラシル等、あるいはそれらの1文字コードで記載される場合がある。
【0020】
本開示において、「遺伝子」という用語は、特定のタンパク質をコードする少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを指す。遺伝子は、エクソン及びイントロンの両方を含み得る。「RNAが転写される領域」は、遺伝子が存在する領域およびノンコーディングRNAが転写される領域などのRNAが転写される領域を含む。RNAが転写される領域は、RNAの転写活性を示す領域であり得る。RNAが転写される領域からは、マイナス鎖を鋳型としてRNAが転写される。マイナス鎖をアンチセンス鎖とよび、マイナス鎖の相補鎖をセンス鎖とよぶ。
【0021】
ポリヌクレオチドに関して用いる「作動可能に連結」という用語は、プロモーターなどの制御配列が遺伝子配列に十分に近くに配置され、遺伝子配列の発現に影響を及ぼしうることを意味する。例えば、ポリヌクレオチドがプロモーターに作動可能に連結するとは、当該ポリヌクレオチドが、当該プロモーターの制御下で発現するように連結されていることを意味する。
【0022】
「発現可能な状態」という用語は、ポリヌクレオチドが導入された細胞内で、該ポリヌクレオチドが転写され得る状態にあることを指す。
【0023】
「発現ベクター」という用語は、対象ポリヌクレオチドを含むベクターであって、該ベクターを導入した細胞内で、対象ポリヌクレオチドを発現させる機構を備えたベクターを指す。例えば、「ポリヌクレオチドの発現ベクター」とは、該ベクターを導入した細胞内で、ポリヌクレオチドを発現可能なベクターを意味する。ポリヌクレオチドの発現ベクターにおいては、ポリヌクレオチドは、例えば、制御配列に作動可能に連結している。
【0024】
本開示において、塩基配列どうしの配列同一性(又は相同性)は、2つの塩基配列を、対応する塩基が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除く、塩基配列全体に対する一致した塩基の割合として求められる。塩基配列どうしの配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。例えば、塩基配列の配列同一性の値は、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTNにより得られたアライメントを元にした計算によって得ることができる。ここで、アラインされる塩基配列がウラシルを含む場合、同一性の計算は、ウラシルをチミンに置き換えた後の塩基配列を用いて行われる。また、アラインされる塩基配列が修飾ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログを含む場合、同一性の計算は、当該修飾ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログを元の天然デオキシリボヌクレオチド、すなわちアデニン、チミン、グアニン、シトシンのいずれかに置き換えた後の塩基配列を用いて行われる。
【0025】
ポリヌクレオチドに関する用語「部分」及び「領域」は、交換可能に用いられ、いずれも、ポリヌクレオチドに含まれる1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドを意味する。二本鎖ゲノムDNAに関する用語「部分」及び「領域」は、交換可能に用いられ、いずれも、二本鎖ゲノムDNAに含まれる1つのヌクレオチド対又は複数の連続するヌクレオチド対を意味する。
【0026】
本開示において、ポリヌクレオチドのある部分又は領域と「対応する位置にある」部分又は領域とは、当該ポリヌクレオチドとは別のポリヌクレオチド上の、当該ポリヌクレオチドの部分又は領域と相補的な部分又は領域を指す。
【0027】
本開示において、あるポリヌクレオチド又はその部分若しくは領域が別のポリヌクレオチド又はその部分若しくは領域と「ハイブリダイズ可能」であるとは、あるポリヌクレオチド又はその部分若しくは領域が、別のポリヌクレオチド又はその部分若しくは領域と、相補的な塩基間の水素結合を介して結合する能力を有することを意味する。ハイブリダイズ可能であることは、ストリンジェントな条件でのハイブリダイズ状態の維持によって確認することができる。ストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、プローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。ストリンジェントな条件、例えば1×SSC、0.1%SDS、37℃での洗浄によっても2つのポリヌクレオチド又はその部分若しくは領域の間のハイブリダイズ状態が維持される場合、これらは互いにハイブリダイズ可能である。ストリンジェントな条件は、0.5×SSC、0.1%SDS、42℃での洗浄であってもよく、0.1×SSC、0.1%SDS、65℃での洗浄であってもよい。
【0028】
編集用ポリヌクレオチド
本開示において、編集用ポリヌクレオチドは、二本鎖ゲノムDNAの標的部位を改変することができる、一本鎖形態のポリヌクレオチドである。編集用ポリヌクレオチドは、5'末端側から順に、
a)一次編集部位の3’末端側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な部分
x)二次編集部位の塩基配列と同一でない塩基配列からなる任意の部分、及び
b)一次編集部位の5’末端側に隣接する領域とハイブリダイズ可能な部分
からなるか、又は
部分a)及び部分b)
からなる。以下、編集用ポリヌクレオチドの詳細を説明する(
図8Aも参照されたい)。
【0029】
本開示において、標的部位とは、二本鎖ゲノムDNAに存在する、改変が望まれる1つのヌクレオチド対若しくは複数の連続するヌクレオチド対、又は2つの連続するヌクレオチド対の間の位置をいう。標的部位は、一方のゲノムDNA鎖上に設定される一次編集部位と、他方のゲノムDNA鎖上の、一次編集部位と対応する位置にある二次編集部位とからなる。例えば、望まれる改変が二本鎖ゲノムDNA内の1つのヌクレオチド対又は複数の連続するヌクレオチド対を置換又は欠失させることである場合、一次編集部位は、一方のゲノムDNA鎖上の、置換又は欠失させることが望まれる1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定される。また、望まれる改変が二本鎖ゲノムDNAに1つのヌクレオチド対又は複数の連続するヌクレオチド対を挿入することである場合、一次編集部位は、一方のゲノムDNA鎖上の、1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドを挿入することが望まれる2つの連続するヌクレオチドの間に設定される。
【0030】
一次編集部位は、一方のゲノムDNA鎖に存在する任意の1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチド、あるいは任意の2つの連続するヌクレオチドの間に設定することができ、特定の1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチド、あるいは特定の2つの連続するヌクレオチドの間に限定されるものではない。
【0031】
なお、一次編集部位が1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定される場合、一次編集部位の5'末端側に隣接する領域と一次編集部位の3'末端側に隣接する領域とは、ゲノムDNA上で一次編集部位の長さ分、離れることになる。また、一次編集部位が2つの連続するヌクレオチドの間の位置に設定される場合、一次編集部位の5'末端側に隣接する領域と一次編集部位の3'末端側に隣接する領域とは、ゲノムDNA上で互いに隣接する領域となる。
【0032】
一次編集部位が、一方のゲノムDNA鎖上の複数の連続するヌクレオチドに設定される場合、その連続するヌクレオチドの数に特に制限はないが、例えば2ヌクレオチド以上、3ヌクレオチド以上、4ヌクレオチド以上、5ヌクレオチド以上、6ヌクレオチド以上、7ヌクレオチド以上、又は8ヌクレオチド以上であり得て、また例えば2000ヌクレオチド以下、1000ヌクレオチド以下、900ヌクレオチド以下、800ヌクレオチド以下、700ヌクレオチド以下、600ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、450ヌクレオチド以下、400ヌクレオチド以下、350ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド以下、250ヌクレオチド以下、200ヌクレオチド以下、150ヌクレオチド以下、100ヌクレオチド以下、90ヌクレオチド以下、80ヌクレオチド以下、70ヌクレオチド以下、60ヌクレオチド以下、50ヌクレオチド以下、40ヌクレオチド以下、30ヌクレオチド以下、20ヌクレオチド以下、15ヌクレオチド以下、12ヌクレオチド以下、10ヌクレオチド以下、又は9ヌクレオチド以下であり得る。
【0033】
一次編集部位は、ゲノムDNAを構成する二本鎖のいずれの鎖上に設定してもよい。二次編集部位は、一次編集部位が設定されないほうのゲノムDNA鎖上に設定されることになる。例えば、二本鎖ゲノムDNAのRNAに転写される領域の改変が望まれるとき、一次編集部位は、センス鎖上に設定してもよく、アンチセンス鎖上に設定してもよい。
【0034】
編集用ポリヌクレオチドの部分a)は、一次編集部位の3’末端側に隣接する領域とハイブリダイズすることができる。
【0035】
また部分a)は、二次編集部位の5’末端側に隣接する領域の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなる部分であってもよい。ここで同一性は好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは99%以上、よりさらに好ましくは99.5%以上、特に好ましくは99.9%以上である。
【0036】
好ましい実施形態において、部分a)は、一次編集部位の3’末端側に隣接する領域の塩基配列と相補的な塩基配列、すなわち二次編集部位の5’末端側に隣接する領域の塩基配列と同一の塩基配列からなる。
【0037】
編集用ポリヌクレオチドの部分b)は、一次編集部位の5’末端側に隣接する領域とハイブリダイズすることができる。
【0038】
また部分b)は、二次編集部位の3’末端側に隣接する領域の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなる部分であってもよい。ここで同一性は好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは99%以上、よりさらに好ましくは99.5%以上、特に好ましくは99.9%以上である。
【0039】
好ましい実施形態において、部分b)は、一次編集部位の5’末端側に隣接する領域の塩基配列と相補的な塩基配列、すなわち二次編集部位の3’末端側に隣接する領域の塩基配列と同一の塩基配列からなる。
【0040】
部分a)及び部分b)の長さは、特に制限されず、それぞれ独立して設定することができる。部分a)及び部分b)の長さは、それぞれ、例えば10ヌクレオチド以上、20ヌクレオチド以上、30ヌクレオチド以上、35ヌクレオチド以上、40ヌクレオチド以上、45ヌクレオチド以上、50ヌクレオチド以上、60ヌクレオチド以上、70ヌクレオチド以上、80ヌクレオチド以上、90ヌクレオチド以上、又は100ヌクレオチド以上であり得て、また1000ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド以下、200ヌクレオチド以下、190ヌクレオチド以下、180ヌクレオチド以下、170ヌクレオチド以下、160ヌクレオチド以下、150ヌクレオチド以下、140ヌクレオチド以下、130ヌクレオチド以下、120ヌクレオチド以下、110ヌクレオチド以下、100ヌクレオチド以下、90ヌクレオチド以下、80ヌクレオチド以下、70ヌクレオチド以下、60ヌクレオチド以下、又は50ヌクレオチド以下であり得る。
【0041】
また、部分a)及び部分b)の長さは、それぞれ、例えば、10~1000ヌクレオチド、10~500ヌクレオチド、10~300ヌクレオチド、10~200ヌクレオチド、10~100ヌクレオチド、32~100ヌクレオチド、35~70ヌクレオチド、又は35~50ヌクレオチドであり得る。
【0042】
部分x)は、二次編集部位の塩基配列と同一でない塩基配列からなる任意の部分であって、標的部位をどのように改変したいかによって決定される。例えば、望まれる改変が二本鎖ゲノムDNA内の1つのヌクレオチド対又は複数の連続するヌクレオチド対を置き換えることである場合、部分x)は、二次編集部位と置き換えることが望まれる1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドである。また、望まれる改変が二本鎖ゲノムDNA内の1つのヌクレオチド対又は複数の連続するヌクレオチド対を欠失させることである場合、部分x)は、編集用ポリヌクレオチドに含まれない。さらに、望まれる改変が二本鎖ゲノムDNAに1つのヌクレオチド対又は複数の連続するヌクレオチド対を挿入することである場合、部分x)は、二次編集部位に挿入することが望まれる1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドである。
【0043】
部分x)は、二次編集部位の塩基配列と同一でない塩基配列からなる。部分x)は、二次編集部位の塩基配列と完全一致でないかぎり、任意の塩基配列からなるものであり得て、一例として、二次編集部位の塩基配列と90%未満の同一性を有する塩基配列であってもよい。同一性は、例えば50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、よりさらに好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下である。
【0044】
部分x)の長さは、特に制限されないが、例えば、2000ヌクレオチド以下、1000ヌクレオチド以下、900ヌクレオチド以下、800ヌクレオチド以下、700ヌクレオチド以下、600ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、400ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド以下、200ヌクレオチド以下、100ヌクレオチド以下、90ヌクレオチド以下、80ヌクレオチド以下、70ヌクレオチド以下、60ヌクレオチド以下、50ヌクレオチド以下、40ヌクレオチド以下、30ヌクレオチド以下、20ヌクレオチド以下、10ヌクレオチド以下、9ヌクレオチド以下、8ヌクレオチド以下、7ヌクレオチド以下、6ヌクレオチド以下、5ヌクレオチド以下、4ヌクレオチド以下、3ヌクレオチド以下、2ヌクレオチド以下、又は1ヌクレオチドであり得る。
【0045】
編集用ポリヌクレオチドは、5'末端側から順に、部分a)、部分x)及び部分b)からなるか、又は部分a)及び部分b)からなる。したがって、編集用ポリヌクレオチドの長さは、編集用ポリヌクレオチドを構成する各部分の長さ、すなわち部分a)、部分x)及び部分b)の長さを合計することで、あるいは部分a)及び部分b)の長さを合計することで決定することができる。
【0046】
編集用ポリヌクレオチドは、部分a)及び部分b)の一方又は両方において、1又は複数個のDNA高親和性ヌクレオチドアナログを含んでもよい。DNA高親和性ヌクレオチドアナログは、元の塩基と同一の塩基となるように、例えば元の塩基がアデニンであるときはアデニン又はアデニンアナログを含むDNA高親和性ヌクレオチドアナログに置き換えられる。DNA高親和性ヌクレオチドアナログは、複数が隣接して含まれてもよく、あるいは互いに隣接しないように断続的に含まれてもよい。また、部分a)及び部分b)の両方に含まれる場合、DNA高親和性ヌクレオチドアナログは、互いに独立して選択される位置に含まれ得て、含まれる個数も同一である必要はない。
【0047】
DNA高親和性ヌクレオチドアナログは、天然の核酸と同様のポリマー構造を形成することができる、DNAに対する高い結合親和性を有する人工的な核酸構成単位であり、例として、リボース環の2'位の酸素原子と4'位の炭素原子との間が架橋されたヌクレオチド、デオキシリボース又はリボースの代わりにN-(2-アミノエチル)グリシンを有するペプチド核酸(PNA)、及びデオキシリボース又はリボースの代わりにモルフォリン環を有するモルフォリノ核酸等を挙げることができる。
【0048】
ある実施形態において、DNA高親和性ヌクレオチドアナログは、リボース環の2'位の酸素原子と4'位の炭素原子との間が架橋されたヌクレオチドであり、その例としては、2’位の酸素原子と4'位の炭素原子がメチレンを介して架橋されたLNA(Locked Nucleic Acid)、エチレンを介して架橋されたENA、-CH2OCH2-を介して架橋されたBNA(Bridged Nucleic Acid)COC、-NR-CH2-(Rはメチル又は水素原子である)を介して架橋されたBNANC、-CH2(OCH3)-を介して架橋されたcMOE、-CH2(CH3)-を介して架橋されたcEt、アミドを介して架橋されたAmNA、及びメチレンを介して架橋され、6'位にシクロプロパンが形成されたscpBNA等を挙げることができる。
【0049】
編集用ポリヌクレオチドは、その構成単位として、DNA高親和性ヌクレオチドアナログに加えて、化学修飾されたヌクレオチドをさらに含んでいてもよい。化学修飾ヌクレオチドの例としては、リン酸基(ホスフェート)がホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸基に置き換えられたヌクレオチド、糖(リボース)部分の2’位の水酸基が-OR(Rは、例えばCH3(2'-O-Me)、CH2CH2OCH3(2'-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置き換えられたヌクレオチド、ピリミジン塩基の5位にメチル基やカチオン性官能基が導入されたヌクレオチド、ピリミジン塩基の2位のカルボニル基がチオカルボニル基に置換されたヌクレオチド等を挙げることができる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えばビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたヌクレオチドを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0050】
DNA高親和性ヌクレオチドアナログ及び任意選択でさらなる化学修飾ヌクレオチドを含む編集用ポリヌクレオチドは、公知の合成方法によって製造することができる。
【0051】
本開示における編集用ポリヌクレオチドは、特許文献1(特許第6899564号)に開示された1本鎖形態のポリヌクレオチドと同様に、細胞内でゲノムDNAを所望のとおりに改変することができ、改変にあたって従来のゲノム編集技術のような部位特異的ヌクレアーゼ(ZFNタンパク質、TALENタンパク質、Casタンパク質等)、ガイドRNA又はそれらの発現ベクターのいずれの細胞内導入も必要としない。
【0052】
理論に拘束されるものではないが、編集用ポリヌクレオチドは、その部分a)が一方のゲノムDNA鎖上に設定された一次編集部位の3'末端側に隣接する領域と、その部分b)が一次編集部位の5'末端側に隣接する領域とハイブリダイズする。その結果、編集用ポリヌクレオチドが部分a)、部分x)及び部分b)からなる場合には部分x)が、編集用ポリヌクレオチドが部分a)及び部分b)からなる場合にはゲノムDNA上の一次編集部位が、他の配列とハイブリダイズせずにおできのようにはみ出した状態となる。そして、このはみ出した部分が修復系によって認識され、二本鎖ゲノムDNAの標的部位を改変することができる。
【0053】
具体的には、二本鎖ゲノムDNA内に1つのヌクレオチド対又は複数の連続するヌクレオチド対を挿入することが望まれる場合、一次編集部位を、一方のゲノムDNA鎖上の、挿入されることが望まれる2つの連続するヌクレオチドの間に設定し;部分a)及び部分b)を上述のように設定し;部分x)を二次編集部位に挿入することが望まれる1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定する。このように設計された部分a)、部分x)及び部分b)からなる編集用ポリヌクレオチドを用いてゲノム編集を行うことで、一次編集部位に部分x)と相補的な塩基配列からなる部分を、二次編集部位に部分x)を挿入することができる。
【0054】
また、二本鎖ゲノムDNA内の1つのヌクレオチド対又は複数の連続するヌクレオチド対を置換することが望まれる場合、一次編集部位を、一方のゲノムDNA鎖上の、置き換えられることが望まれる1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定し;部分a)及び部分b)を上述のように設定し;部分x)を二次編集部位と置き換えることが望まれる1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定する。このように設計された部分a)、部分x)及び部分b)からなる編集用ポリヌクレオチドを用いてゲノム編集を行うことで、一次編集部位に部分x)と相補的な塩基配列からなる部分を、二次編集部位に部分x)を挿入することができる(
図8Aに示す)。
【0055】
加えて、二本鎖ゲノムDNA内の1つのヌクレオチド対又は複数の連続するヌクレオチド対を欠失させることが望まれる場合、一次編集部位を、一方のゲノムDNA鎖上の、欠失させることが望まれる1つのヌクレオチド又は複数の連続するヌクレオチドに設定し;部分a)及び部分b)を上述のように設定する。このように設計された部分a)及び部分b)からなる編集用ポリヌクレオチドを用いてゲノム編集を行うことで、一方のゲノムDNA鎖から一次編集部位を欠失させ、他方のゲノムDNA鎖から二次編集部位を欠失させること、すなわち二本鎖ゲノムDNAから標的部位を欠失させることができる。
【0056】
理論に拘束されるものではないが、ゲノムDNAの周辺には転写されたRNAが多く存在することを考慮すると、例えば、標的部位がRNAに転写されるゲノムDNA領域内にあり、一次編集部位がゲノムDNAセンス鎖上に設定される場合、編集用ポリヌクレオチドは、ゲノムDNAセンス鎖の一次編集部位の3'末端側に隣接する領域及び一次編集部位の5'末端側に隣接する領域よりも、周辺に存在するRNAに含まれる前記2つの領域と同一の塩基配列を有する領域に優先的に結合してしまうため、ゲノム編集効率は良好ではないと考えられる。ゲノム編集効率を重視するならば、一次編集部位は、ゲノムDNAセンス鎖上よりもアンチセンス鎖上に設定することが好ましい。
【0057】
また、上述のように、編集用ポリヌクレオチドは、その部分a)が一方のゲノムDNA鎖上に設定された一次編集部位の3'末端側に隣接する領域とハイブリダイズし、その部分b)が一次編集部位の5'末端側に隣接する領域とハイブリダイズすることで、二本鎖ゲノムDNAの標的部位を改変することができる。したがって、編集用ポリヌクレオチドの部分a)が一次編集部位の3'末端側に隣接する領域とハイブリダイズすること、及び編集用ポリヌクレオチドの部分b)が一次編集部位の5'末端側に隣接する領域にハイブリダイズすることに影響を与えない限り、編集用ポリヌクレオチドは、その一方又は両方の末端に、すなわち部分a)の5'末端及び/又は部分b)の3'末端に任意の塩基配列が付加されてもよい。本開示における編集用ポリヌクレオチドは、このような任意の塩基配列が付加されたものを包含する。
【0058】
末端に任意の塩基配列が付加されたこのような編集用ポリヌクレオチドについて、二次編集部位の5’末端側に隣接する領域及び3’末端側に隣接する領域との同一性の計算は、部分a)の塩基配列と二次編集部位の5’末端側に隣接する領域の塩基配列との間で、あるいは部分b)の塩基配列と二次編集部位の3’末端側に隣接する領域の塩基配列との間で行うものとし、付加された任意の塩基配列は同一性の計算において存在しないものとみなされる。
【0059】
編集促進用ポリヌクレオチド
編集用ポリヌクレオチドは、ゲノム編集効率を向上させるため、編集促進用ポリヌクレオチドと組み合わせて用いることができる。編集促進用ポリヌクレオチドは、一次編集部位が設定されたゲノムDNA鎖上の所定領域に対して相補的である核酸配列(所定領域の相補配列とも呼ぶ)とハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドである。以下、編集促進用ポリヌクレオチドの詳細を説明する(
図8Bも参照されたい)。
【0060】
所定領域は、一次編集部位が設定されたゲノムDNA鎖上の、編集用ポリヌクレオチドの部分a)と対応する位置にある領域を領域Aとし、編集用ポリヌクレオチドの部分b)と対応する位置にある領域を領域Bとしたときに、その5'末端部において領域Aとオーバーラップするように、又はその3'末端部において領域Bとオーバーラップするように設定される。
【0061】
前記所定領域の5'末端部における領域Aとのオーバーラップの長さは、領域Aと同一又はそれより短いものであるかぎり、制限はない。また、前記所定領域の3'末端部における領域Bとのオーバーラップの長さは、領域Bと同一又はそれより短いものであるかぎり、制限はない。これらのオーバーラップの長さは、それぞれ独立して設定することができ、例えば、1ヌクレオチド以上、2ヌクレオチド以上、3ヌクレオチド以上、4ヌクレオチド以上、5ヌクレオチド以上、6ヌクレオチド以上、7ヌクレオチド以上、8ヌクレオチド以上、9ヌクレオチド以上、又は10ヌクレオチド以上であり得て、また20ヌクレオチド以下、19ヌクレオチド以下、18ヌクレオチド以下、17ヌクレオチド以下、16ヌクレオチド以下、15ヌクレオチド以下、14ヌクレオチド以下、13ヌクレオチド以下、12ヌクレオチド以下、又は11ヌクレオチドであり得る。また、これらのオーバーラップの長さは、それぞれ独立して、例えば、1~20ヌクレオチド、5~20ヌクレオチド、5~15ヌクレオチド、8~12ヌクレオチド、又は9~11ヌクレオチドであり得る。
【0062】
所定領域の相補配列は、ゲノムDNA鎖上の所定領域に対して相補的である、別のポリヌクレオチド上の領域である。所定領域の相補配列は、天然において、典型的には、所定領域が設定されたゲノムDNA鎖から転写されるRNAに含まれる。
【0063】
編集促進用ポリヌクレオチドは、一次編集部位が設定されたゲノムDNA鎖上の所定領域の相補配列とハイブリダイズすることができる。
【0064】
また、編集促進用ポリヌクレオチドは、前記所定領域の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。ここで同一性は、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは99%以上、よりさらに好ましくは99.5%以上、特に好ましくは99.9%以上である。
【0065】
好ましい実施形態において、編集促進用ポリヌクレオチドは、前記所定領域の塩基配列と同一の塩基配列からなる。
【0066】
編集促進用ポリヌクレオチドには、所定領域がその5'末端部において領域Aとオーバーラップするように設定される編集促進用ポリヌクレオチドと、所定領域がその3'末端部において領域Bとオーバーラップするように設定される編集促進用ポリヌクレオチドの2種類がある。これら2種類の編集促進用ポリヌクレオチドのいずれか1種類を編集用ポリヌクレオチドと併用することで、ゲノム編集効率を向上させることができる。これら2種類の編集促進用ポリヌクレオチドの両方を編集用ポリヌクレオチドと併用することで、ゲノム編集効率をさらに向上させることができる。
【0067】
上記2種類の編集促進用ポリヌクレオチドを用いる実施形態において、使用される2種類の編集促進用ポリヌクレオチドの比に制限はなく、両者のモル濃度が同等程度であっても、いずれか一方のモル濃度が他方を大きく上回るモル濃度であってもよい。
【0068】
編集促進用ポリヌクレオチドの長さは、前記所定領域がその5'末端部において領域Aとオーバーラップするように設定されたとき、前記領域Aとのオーバーラップの長さと同一又はそれより長く、前記所定領域がその3'末端部において領域Bとオーバーラップするように設定されたとき、前記領域Bとのオーバーラップの長さと同一又はそれより長い。2種類の編集促進用ポリヌクレオチドを用いる場合、各々の編集促進用ポリヌクレオチドの長さは同一である必要はなく、それぞれ独立して設定することができる。
【0069】
編集促進用ポリヌクレオチドの長さは、それぞれ、例えば、20ヌクレオチド以上、30ヌクレオチド以上、40ヌクレオチド以上、50ヌクレオチド以上、60ヌクレオチド以上、70ヌクレオチド以上、80ヌクレオチド以上、90ヌクレオチド以上、100ヌクレオチド以上、110ヌクレオチド以上、120ヌクレオチド以上、又は130ヌクレオチド以上であり得て、また1000ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド以下、250ヌクレオチド以下、200ヌクレオチド以下、190ヌクレオチド以下、180ヌクレオチド以下、170ヌクレオチド以下、160ヌクレオチド以下、150ヌクレオチド以下、140ヌクレオチド以下又は130ヌクレオチド以下であり得る。
【0070】
また、編集促進用ポリヌクレオチドの長さは、それぞれ、例えば、10~1000ヌクレオチド、20~500ヌクレオチド、30~300ヌクレオチド、40~200ヌクレオチド、50~200ヌクレオチド、60~200ヌクレオチド、70~150ヌクレオチド、又は70~130ヌクレオチドであり得る。
【0071】
理論に拘束されるものではないが、一次編集部位又はその近傍の領域(前記領域A及び前記領域B)と相補的な領域を有する他のポリヌクレオチドが多く存在する環境においては、編集用ポリヌクレオチドと一次編集部位が設定されたゲノムDNA鎖との結合は、当該他のポリヌクレオチドによって競合的に阻害され、その結果、編集用ポリヌクレオチドによるゲノム編集効率は低下すると考えられる。
【0072】
例えば、標的部位がRNAに転写されるゲノムDNA領域内にあり、一次編集部位がゲノムDNAアンチセンス鎖上に設定される場合、編集用ポリヌクレオチドは、ゲノムDNAアンチセンス鎖との結合に関して、周辺に存在するRNAと競合してしまい、編集用ポリヌクレオチドとゲノムDNAアンチセンス鎖との結合が抑制されることから、ゲノム編集効率は、周辺にRNAが存在しない場合よりも低下すると考えられる。
【0073】
このような環境下で、編集用ポリヌクレオチドに編集促進用ポリヌクレオチドを共存させると、前記他のポリヌクレオチド(例としてRNA)は編集促進用ポリヌクレオチドと結合し、その結果、編集用ポリヌクレオチドと一次編集部位が設定されたゲノムDNA鎖(例としてアンチセンス鎖)との結合抑制は解消され、ゲノム編集効率は向上するものと考えられる(
図8B)。
【0074】
標的部位がRNAに転写されるゲノムDNA領域内にあり、一次編集部位がゲノムDNAアンチセンス鎖上に設定される実施形態においては、編集促進用ポリヌクレオチドはRNAに対する高い結合親和性を有することが好ましい。編集促進用ポリヌクレオチドは、1又は複数個のRNA高親和性ヌクレオチドアナログを含んでもよい。RNA高親和性ヌクレオチドアナログは、元の塩基と同一の塩基となるように、例えば元の塩基がアデニンであるときはアデニン又はアデニンアナログを含むRNA高親和性ヌクレオチドアナログに置き換えられる。RNA高親和性ヌクレオチドアナログは、複数が隣接して含まれてもよく、あるいは互いに隣接しないように断続的に含まれてもよい。また、2種類の編集促進用ポリヌクレオチドを用いる場合、各々の編集促進用ポリヌクレオチドは、互いに独立して選択される位置にRNA高親和性ヌクレオチドアナログを含み得て、その個数も同一である必要はない。
【0075】
理論に拘束されるものではないが、標的部位がRNAに転写されるゲノムDNA領域内にあり、一次編集部位がゲノムDNAアンチセンス鎖上に設定される実施形態において、標的部位がmRNA前駆体のイントロン部分に転写される領域内に設定される場合には、標的部位がmRNA前駆体のエクソン部分に転写される領域内に設定される場合と比較して、編集用ポリヌクレオチドとRNAとの間のゲノムDNAアンチセンス鎖との結合に関する競合がより激しくなり、ゲノム編集効率はより低下するものと考えられる。mRNA前駆体からスプライシングによって切り出されたイントロン部分が、ゲノムDNAの周辺に多量に存在するためである。
【0076】
したがって、編集促進用ポリヌクレオチドは、標的部位がmRNA前駆体のイントロン部分に転写されるゲノムDNA領域内にあり、一次編集部位がゲノムDNAアンチセンス鎖上に設定される場合、及び標的部位がmRNA前駆体のエクソン部分に転写されるゲノムDNA領域内にあり、一次編集部位がゲノムDNAアンチセンス鎖上に設定される場合のいずれにおいてもゲノム編集効率を向上させることができるが、特に標的部位がmRNA前駆体のイントロン部分に転写されるゲノムDNA領域内にあり、一次編集部位がゲノムDNAアンチセンス鎖上に設定される場合に、そのゲノム編集効率向上効果を強く発揮することができると考えられる。
【0077】
標的部位がRNAに転写される二本鎖ゲノムDNA領域に設定され、一次編集部位がゲノムDNAアンチセンス鎖上に設定される実施形態において、編集用ポリヌクレオチドを編集用センスポリヌクレオチドと、編集促進用ポリヌクレオチドを編集促進用アンチセンスポリヌクレオチドとも呼ぶ。
【0078】
ゲノム編集用キット
本開示は、一態様として、上述の編集用ポリヌクレオチドと、上述の編集促進用ポリヌクレオチドとを含むゲノム編集用キットを提供する。ゲノム編集用キットは、前記所定領域がその5'末端部において領域Aとオーバーラップするように設定された編集促進用ポリヌクレオチド、及び前記所定領域がその3'末端部において領域Bとオーバーラップするように設定された編集促進用ポリヌクレオチドの2種類を含むことが好ましい。
【0079】
ゲノム編集用キットは、編集用ポリヌクレオチドに代えて、編集用ポリヌクレオチドの発現ベクター、又は編集用ポリヌクレオチド若しくは編集用ポリヌクレオチドの発現ベクターと他の物質とのコンジュゲートを含むことができる。また、ゲノム編集用キットは、編集促進用ポリヌクレオチドに代えて、編集促進用ポリヌクレオチドの発現ベクター、又は編集促進用ポリヌクレオチド若しくは編集促進用ポリヌクレオチドの発現ベクターと他の物質とのコンジュゲートを含むことができる。
【0080】
編集用ポリヌクレオチドにコンジュゲートされる他の物質は、編集用ポリヌクレオチドとコンジュゲートを形成することができ、編集用ポリヌクレオチドの機能、すなわちゲノムDNAの標的部位を改変する機能を妨げないかぎり、制限はない。また、編集促進用ポリヌクレオチドにコンジュゲートされる他の物質は、編集促進用ポリヌクレオチドとコンジュゲートを形成することができ、編集促進用ポリヌクレオチドの機能、すなわち編集用ポリヌクレオチドによるゲノム編集効率を向上させる機能を妨げないかぎり、制限はない。
【0081】
編集用ポリヌクレオチド及び編集促進用ポリヌクレオチドにコンジュゲートされる他の物質の例としては、核移行シグナル、膜透過性ペプチド等の機能性ペプチド;ポリエチレングリコール、デキストラン等の親水性ポリマー;放射性同位体、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、蛍光タンパク質、フィコビリタンパク質、ビオチン、アビジン等の標識物質を挙げることができる。
【0082】
ゲノム編集用キットは、例えばトランスフェクション試薬等の核酸導入試薬又は緩衝液といった試薬類をさらに含むことができる。
【0083】
ゲノム編集用キットに含まれる構成要素、例えば上述の編集用ポリヌクレオチド、その発現ベクター又はそのコンジュゲート、上述の編集促進用ポリヌクレオチド、その発現ベクター又はそのコンジュゲート、各々の試薬類等は、それぞれが別々の形態でキットに包含されてもよく、複数の構成要素が組み合わされた組成物の形態でキットに包含されてもよい。
【0084】
ゲノム編集用キットは、例えばゲノム編集の際に用いられる器具、使用方法に関する説明書等をさらに含んでもよい。
【0085】
ある実施形態において、ゲノム編集用キットは、疾患の治療又は予防用キットであり、治療的又は予防的有効量の上述の編集用ポリヌクレオチド、その発現ベクター又は編集用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲートに加えて、薬学的に許容される他の成分、例えば薬学的に許容される添加剤(緩衝剤、安定剤、保存剤、賦形剤等)、薬学的に許容される媒体(水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等)を含むことができる。疾患の治療又は予防用キットは、ゲノムDNAの何らかの異常に起因する疾患を治療又は予防するために用いることができる。
【0086】
ゲノム編集方法、及びゲノム編集された細胞又は生物の製造方法
本開示は、一態様において、細胞又は生物を、上述のゲノム編集用キットを用いて処理する工程を含む、細胞又は生物の二本鎖ゲノムDNAの標的部位を改変する方法(本開示において「ゲノム編集方法」とも呼ぶ)を提供する。また本開示は、一態様において、細胞又は生物を、上述のゲノム編集用キットを用いて処理する工程を含む、二本鎖ゲノムDNAの標的部位が改変された細胞又は生物を製造する方法(本開示において「ゲノム編集された細胞又は生物の製造方法」とも呼ぶ)を提供する。
【0087】
ゲノム編集用キットを用いて処理される細胞は、ゲノムDNAの改変が望まれる細胞であり、先に述べた原核生物及び真核生物を包含する様々な生物を起源とし得る。細胞が多細胞生物の細胞である場合、細胞は、当該生物の各種組織に由来し得る。細胞は、体細胞であっても生殖細胞であってもよい。また細胞は、分化した細胞であっても未分化の細胞であってもよく、組織幹細胞、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞(iPS細胞)であってもよい。
【0088】
ゲノム編集用キットを用いて処理される細胞は、単一細胞であっても、1種類又は複数種類の細胞を含有する細胞集団の形態であってもよい。
【0089】
ゲノム編集用キットを用いて処理される生物は、ゲノムDNAの改変が望まれる生物であり、先に述べた原核生物及び真核生物を包含する様々な生物であり得る。生物は、成熟した個体であっても発生段階にある胚又は胎仔であってもよく、植物の場合は種子、苗又は球根であってもよい。
【0090】
ある実施形態において、細胞は、ヒトの配偶子及び受精卵を含まず、細胞(ただし、ヒトの配偶子及び受精卵を除く)と表すことができる。
【0091】
ある実施形態において、生物はヒトを含まず、非ヒト生物と表すことができる。別の実施形態において、生物はヒト及び動物を含まず、非ヒト非動物の生物と表すことができる。
【0092】
さらに、ある実施形態において、細胞はヒトの配偶子及び受精卵を含まず、生物はヒトを含まない。また別の好ましい実施形態において、細胞はヒトの配偶子及び受精卵を含まず、生物はヒト及び動物を含まない。
【0093】
ゲノム編集用キットを用いた細胞又は生物の処理とは、ゲノム編集用キットに含まれる編集用ポリヌクレオチド、その発現ベクター又は編集用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート及び編集促進用ポリヌクレオチド、その発現ベクター又は編集促進用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲートを細胞と共存させること、あるいはこれらを生物に投与することを意味する。細胞との共存又は生物への投与によって、当該細胞又は生物内に編集用ポリヌクレオチド、その発現ベクター又は編集用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲート及び編集促進用ポリヌクレオチド、その発現ベクター又は編集促進用ポリヌクレオチド若しくはその発現ベクターと他の物質とのコンジュゲートが導入され、当該細胞又は生物のゲノムDNAを編集することができる。
【0094】
ゲノム編集用キットを用いた細胞又は生物の処理は、細胞又は生物の種類又は性質等の要因を考慮して当業者により適宜選択される種々の公知の方法によって行うことができる。細胞又は生物の処理としては、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、DEAE-デキストラン処理、トランスフェクション試薬(jetPEI(PolyPlus-transfection)、リポフェクトアミン等)を用いたトランスフェクション、脂質ナノ粒子を用いたトランスフェクション、ハイドロダイナミクス法を挙げることができる。
【0095】
ある実施形態において、ヒト細胞の処理は、インビトロ又はエクスビボで行われる。
【0096】
一般に、ゲノム編集がなされることによって、細胞又は生物の特性、例えば栄養要求性、化学物質に対する感受性又は耐性等が上昇又は低下したり、編集前の細胞又は生物にはない特性が付与されたり、あるいは編集前の細胞又は生物が有する特性を失ったりする。このような特性の変化を指標として、所望のゲノム編集がなされた細胞又は生物を選択することができる。例えば、ゲノム編集によって薬剤耐性が上昇する又は付与されることが期待されるときは、ゲノム編集用キットで処理した細胞を、当該薬剤を含む適当な培地を用いて培養することで、あるいはゲノム編集用キットで処理した生物を、当該薬剤を含む適当な飼料を用いて飼育することで、ゲノム編集された細胞又は生物を選択することができる。細胞又は生物の特性の選択と評価方法、細胞又は生物の選択を可能にする培養条件又は飼育条件は、当業者の通常の実施能力の範囲で適宜定めることができる。
【0097】
上述のゲノム編集方法、及びゲノム編集された細胞又は生物の製造方法は、ゲノム編集用キットを用いて細胞又は生物を処理する工程に加えて、編集用ポリヌクレオチドによって変化する細胞又は生物の特性を指標として、ゲノムDNAが編集された細胞又は生物を選択する工程を含むことができる。
【0098】
本開示により提供されるさらなる発明
本開示によれば、以下の発明も提供される。以下の発明において用いられる用語と、上述の発明において用いられる用語との対応関係の例を、表1に示す。
【表1】
【0099】
[1]真核細胞においてゲノムを編集する方法であって、
(A)当該細胞内において、ゲノムの標的領域(例えば、RNAが転写されるゲノム領域のアンチセンス鎖に対応する標的領域)の上流に隣接する配列と下流に隣接する配列に対してハイブリダイズ可能な一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドをゲノムに配列特異的に相互作用させる工程を含み;
前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチド(例えば、編集用センスポリヌクレオチド)は、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームを有し、
前記上流ホモロジーアームは前記標的領域の上流に隣接する配列とハイブリダイズ可能な配列を有し、前記下流ホモロジーアームは前記標的領域の下流に隣接する配列とハイブリダイズ可能な配列を有し、前記上流ホモロジーアームと前記下流のホモロジーアームにより標的領域の少なくとも上流および下流にハイブリダイズすることができ、前記上流ホモロジーアームと前記下流のホモロジーアームの間に任意の配列を有するか、または配列を有しなくてもよく、
前記工程(A)が、他の一本鎖形態のポリヌクレオチド(例えば、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド)の存在下で行われ、前記他のポリヌクレオチド(例えば、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド)は、当該編集用ポリヌクレオチドの末端部分と対応する配列を有する領域(例えば、ゲノム領域から転写されるRNAの部分領域であって、当該編集用センスポリヌクレオチドの末端部分に対応するヌクレオチド配列を有する領域)にハイブリダイズすることができる配列(例えば、当該部分領域と相補性を有する配列)を有し、
前記他のポリヌクレオチド(例えば、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド)は、40塩基以上の長さを有し、
前記工程により、前記標的領域が、前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチド(例えば、一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド)の前記上流ホモロジーアームと前記下流のホモロジーアームの間の塩基配列に置き換わる、但し、前記上流ホモロジーアームと前記下流のホモロジーアームの間に塩基配列が存在しない場合には前記標的領域が欠失する、
方法。
[2]前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドが、DNAおよびRNA並びにその組合せからなる群から選択されるポリヌクレオチドである、上記[1]に記載の方法。
[3]前記他の一本鎖形態のポリヌクレオチドが、DNAである、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記末端部分と対応する配列を有する領域が、5塩基以上の長さを有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記末端部分と対応する配列を有する領域が、20塩基以下の長さを有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドが、60~200塩基の長さを有する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記他の一本鎖形態のポリヌクレオチドが、50~200塩基の長さを有する、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]標的領域が、イントロンに存在する、上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記工程(A)が、少なくとも2種類のハイブリダイズ可能な前記他の一本鎖形態のポリヌクレオチドの存在下で行われ、少なくとも1種類の他の一本鎖形態のポリヌクレオチド(第1の他のポリヌクレオチド)は、当該編集用ポリヌクレオチドの5’末端部分と対応する配列を有する領域にハイブリダイズすることができる配列(例えば、相補性を有する配列)を有し、少なくとも1種類の他の一本鎖形態のポリヌクレオチド(第2の他のポリヌクレオチド)は、当該編集用ポリヌクレオチドの3’末端部分と対応する配列を有する領域にハイブリダイズすることができる配列(例えば、相補性を有する配列)を有する、上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドと前記他の一本鎖形態のポリヌクレオチドとの組合せを含む、ゲノム編集用キット。
[11]上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドをコードするDNAと、前記他の一本鎖形態のポリヌクレオチドをコードするDNAとを含み、これらのDNAは、1以上の発現ベクター中に発現可能に含まれる、ゲノム編集用キット。
[12]上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドをコードするDNAと、前記他の一本鎖形態のポリヌクレオチドを含み、前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドをコードするDNAは、発現ベクター中に発現可能に含まれ、前記他の一本鎖形態のポリヌクレオチドはDNAである、ゲノム編集用キット。
[13]上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドと、前記他の一本鎖形態のポリヌクレオチドをコードするDNAとを含み、これらのDNAは、1以上の発現ベクター中に発現可能に含まれる、ゲノム編集用キット。
[14]上記[9]に記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドと前記少なくとも2種類の他の一本鎖形態のポリヌクレオチドとの組合せを含む、ゲノム編集用キット。
[15]上記[9]に記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドをコードするDNAと、前記少なくとも2種類の他の一本鎖形態のポリヌクレオチドをコードするDNAとを含み、これらのDNAは、1以上の発現ベクター中に発現可能に含まれる、ゲノム編集用キット。
[16]上記[9]に記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドをコードするDNAと、前記少なくとも2種類の他の一本鎖形態のポリヌクレオチドを含み、前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドをコードするDNAは、発現ベクター中に発現可能に含まれ、前記他の一本鎖形態のポリヌクレオチドはDNAである、ゲノム編集用キット。
[17]上記[9]に記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用ポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドと、前記少なくとも2種類の他の一本鎖形態のポリヌクレオチドをコードするDNAとを含み、これらのDNAは、1以上の発現ベクター中に発現可能に含まれる、ゲノム編集用キット。
【0100】
[1A]真核細胞においてゲノムを編集する方法であって、
(A)当該細胞内において、RNAが転写されるゲノム領域のアンチセンス鎖に対応する標的領域の上流に隣接する配列と下流に隣接する配列に対してハイブリダイズ可能な一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドをゲノムに配列特異的に相互作用させる工程を含み;
前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドは、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームを有し、
前記上流ホモロジーアームは前記標的領域の上流に隣接する配列とハイブリダイズ可能な配列を有し、前記下流ホモロジーアームは前記標的領域の下流に隣接する配列とハイブリダイズ可能な配列を有し、前記上流ホモロジーアームと前記下流のホモロジーアームにより標的領域の少なくとも上流および下流にハイブリダイズすることができ、前記上流ホモロジーアームと前記下流のホモロジーアームの間に任意の配列を有するか、または配列を有しなくてもよく、
前記工程(A)が、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドの存在下で行われ、前記アンチセンスポリヌクレオチドは、ゲノム領域から転写されるRNAの部分領域であって、当該編集用センス鎖ポリヌクレオチドの末端部分と対応する配列を有する領域にハイブリダイズすることができる配列(例えば、当該部分領域と相補性を有する配列)を有し、
前記アンチセンスポリヌクレオチドは、40塩基以上の長さを有し、
前記工程により、前記標的領域が、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドの前記上流ホモロジーアームと前記下流のホモロジーアームの間の塩基配列に置き換わる、但し、前記上流ホモロジーアームと前記下流のホモロジーアームの間に塩基配列が存在しない場合には前記標的領域が欠失する、
方法。
[2A]前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドが、DNAおよびRNA並びにその組合せからなる群から選択されるポリヌクレオチドである、上記[1A]に記載の方法。
[3A]前記一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドが、DNAである、上記[1A]または[2A]に記載の方法。
[4A]前記末端部分が、5塩基以上の長さを有する、上記[1A]~[3A]のいずれかに記載の方法。
[5A]前記末端部分が、20塩基以下の長さを有する、上記[1A]~[4A]のいずれかに記載の方法。
[6A]前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドが、60~200塩基の長さを有する、上記[1A]~[5A]のいずれかに記載の方法。
[7A]前記一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドが、50~200塩基の長さを有する、上記[1A]~[6A]のいずれかに記載の方法。
[8A]標的領域が、イントロンに存在する、上記[1A]~[7A]のいずれかに記載の方法。
[9A]前記工程(A)が、少なくとも2種類のハイブリダイズ可能な一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドの存在下で行われ、少なくとも1種類のアンチセンスポリヌクレオチドは、ゲノム領域から転写されるRNAの部分領域であって、当該編集用センス鎖ポリヌクレオチドの5’末端部分と対応する配列を有する領域にハイブリダイズすることができる配列(例えば、相補性を有する配列)を有し、少なくとも1種類のアンチセンスポリヌクレオチドは、ゲノム領域から転写されるRNAの部分領域であって、当該編集用センス鎖ポリヌクレオチドの3’末端部分と対応する配列を有する領域にハイブリダイズすることができる配列(例えば、相補性を有する配列)を有する、上記[1A]~[8A]のいずれかに記載の方法。
[10A]上記[1A]~[8A]のいずれかに記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドと前記一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドとの組合せを含む、ゲノム編集用キット。
[11A]上記[1A]~[8A]のいずれかに記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドをコードするDNAと、前記一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドをコードするDNAとを含み、これらのDNAは、1以上の発現ベクター中に発現可能に含まれる、ゲノム編集用キット。
[12A]上記[1A]~[8A]のいずれかに記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドをコードするDNAと、前記一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドを含み、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドをコードするDNAは、発現ベクター中に発現可能に含まれ、前記一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドはDNAである、ゲノム編集用キット。
[13A]上記[1A]~[8A]のいずれかに記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドと、前記一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドをコードするDNAとを含み、これらのDNAは、1以上の発現ベクター中に発現可能に含まれる、ゲノム編集用キット。
[14A]上記[9A]に記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドと前記少なくとも2種類の一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドとの組合せを含む、ゲノム編集用キット。
[15A]上記[9A]に記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドをコードするDNAと、前記少なくとも2種類の一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドをコードするDNAとを含み、これらのDNAは、1以上の発現ベクター中に発現可能に含まれる、ゲノム編集用キット。
[16A]上記[9A]に記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドをコードするDNAと、前記少なくとも2種類の一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドを含み、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドをコードするDNAは、発現ベクター中に発現可能に含まれ、前記一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドはDNAである、ゲノム編集用キット。
[17A]上記[9A]に記載の方法において用いるためのゲノム編集用キットであって、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドと、前記少なくとも2種類の一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドをコードするDNAとを含み、これらのDNAは、1以上の発現ベクター中に発現可能に含まれる、ゲノム編集用キット。
【0101】
項目「本開示により提供されるさらなる発明」における用語「対応する配列」とは、当該配列と対応する箇所の配列(特に塩基配列)を意味する。例えば、DNAと当該DNAから転写されるRNAは対応する配列を有する。DNAとRNAの配列の対応関係は、DNAにおけるA、T、G、およびCはそれぞれ、A、U、G、およびCであることが知られている。また、用語「相補性を有する」とは細胞内環境または同等の試験管内環境において2本のポリヌクレオチドがワトソン-クリック型の結合によりハイブリダイズ可能であることを意味する。一般的に、AとT(またはU)は相補性を有し、GとCは相補性を有する。用語「相補性を有する」における「相補性」は、90%以上、95%以上、または完全な相補性(すなわち、100%の相補性)であり得る。
【0102】
「標的領域」という用語は、ゲノム改変システムによりターゲティングされる領域をいう。
【0103】
<ゲノムの編集方法、および編集されたゲノムを有する細胞の製造方法>
本発明によれば、ゲノムを編集する方法が提供される。本発明によれば、ゲノムの標的領域を標的化する方法が提供される。本発明によれば、編集されたゲノムを有する細胞を得る方法が提供される。
【0104】
すべての実施形態において、細胞は、真核細胞であり得る。すべての実施態様において、細胞は、好ましくは、クローン化した細胞であり得る。本発明の方法はまた、すべての実施態様において好ましくはインビトロの方法であり得る。したがって、本発明の方法では、単離された細胞が得られ得る。本発明で得られた単離された細胞は、標的配列中に挿入すべき塩基配列が挿入されている細胞であり得る。
【0105】
本発明で得られた細胞は、その後、クローン化されても、クローン化されなくてもよい。ある好ましい態様では、本発明で得られた細胞は、クローン化され、クローン化された細胞として得られ得る。ゲノムを均一にすることによって、その後の産業応用または遺伝子操作等が容易になるメリットがある。
【0106】
以下においては、本発明により提供されるゲノムを編集する方法(または編集されたゲノムを有する細胞を製造する方法)を
図9Aおよび
図9Bを用いて説明する。
図9Aに記載の方法は、WO2018/030536およびJP2016-220639Aにその詳細が開示されている。ゲノムのRNAを転写する領域(100)は、センス鎖(110)とアンチセンス鎖(120)とで構成される。
【0107】
本発明によれば、ゲノムを編集する方法(または編集されたゲノムを有する細胞を製造する方法)であって、
(A)当該細胞内において、RNAが転写されるゲノム領域のアンチセンス鎖に対応する標的領域(121)の上流に隣接する配列(122)と下流に隣接する配列(123)に対してハイブリダイズ可能な一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)をゲノム(100)に配列特異的に相互作用させる工程を含む、方法が提供される。ここで、「隣接する」とは、隣りに存在する(つまり、配列上では連続して存在する)ことを意味する。
【0108】
本発明によれば、細胞においてゲノムを編集する方法であって、
(A)当該細胞内において、RNAが転写されるゲノム領域のアンチセンス鎖に対応する標的領域(121)の上流に隣接する配列(122)と下流に隣接する配列(123)に対してハイブリダイズ可能な一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)をゲノムに配列特異的に相互作用させる工程を含む、方法が提供される。
【0109】
本発明によれば、細胞においてゲノムを標的化する方法であって、
(A)当該細胞内において、RNAが転写されるゲノム領域のアンチセンス鎖に対応する標的領域(121)の上流に隣接する配列(122)と下流に隣接する配列(123)に対してハイブリダイズ可能な一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)をゲノム(100)に配列特異的に相互作用させる工程を含む、方法が提供される。
【0110】
本発明のある態様では、前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)は、上流ホモロジーアーム(11)と下流ホモロジーアーム(12)を有する。前記上流ホモロジーアーム(11)は前記標的領域の上流に隣接する配列(122)とハイブリダイズ可能な配列を有し、前記下流ホモロジーアーム(12)は前記標的領域(121)の下流に隣接する配列(123)とハイブリダイズ可能な配列を有し、前記上流ホモロジーアーム(11)と前記下流のホモロジーアーム(12)により標的領域の少なくとも上流に隣接する配列(122)および下流に隣接する配列(123)にそれぞれハイブリダイズすることができる。
【0111】
一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)は、前記上流ホモロジーアーム(11)と前記下流のホモロジーアーム(12)の間に任意の配列(13)を有することができる。任意の配列(13)は、例えば、標的領域(121)の相補鎖の対応する領域の配列(111)と置き換わる。具体的には、標的領域(121)は、任意の配列(13)と相補的な配列(23)に置き換わり、相補鎖上の標的配列に対応する領域(111)は、任意の配列(13)の配列に置き換わる。したがって、任意の配列(13)は、相補鎖上の標的配列に対応する領域(111)をどのように改変したいかによって決定される。すなわち、領域(111)は、任意の配列(13)に置換され得る。例えば、相補鎖上の標的配列に対応する領域(111)の一部または全部を新しい配列(すなわち、任意の配列(13)の配列)に置換することができるのである。任意の配列(13)の配列が、相補鎖上の標的配列に対応する領域(111)に対して配列の挿入を有する場合には、領域(111)に当該新しい配列を挿入することができる。また、任意の配列(13)の配列が、相補鎖上の標的配列に対応する領域(111)に対して配列の一部または全部の欠失を有する場合には、領域(111)から当該配列を欠失させることができる。一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)は、任意の配列(13)に塩基を有しなくてもよい{すなわち、上流ホモロジーアーム(11)と下流ホモロジーアーム(12)とがシームレスに連結していてもよい}。任意の配列(13)が塩基を有しない場合には、標的領域(121)および相補鎖上の標的配列に対応する領域(111)は、その全体が欠失することとなる。これが、PODiRの機構を応用した一本鎖形態のポリヌクレオチドを用いたゲノムの編集方法である。ゲノムが編集された細胞は、例えば、クローニングされて、ゲノムの標的領域を含む領域の配列を解析することによって取得することができる。
【0112】
ある好ましい態様では、
図9Bに示されるように、前記工程(A)は、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)および一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)のいずれかまたは両方の存在下で行われ得る。前記アンチセンスポリヌクレオチド(20)は、ゲノム領域(120)から転写されるRNA(50)の部分領域であって、当該編集用センス鎖ポリヌクレオチドの5’側の末端部分と対応する配列を有する領域(51)とその上流の配列(53)にハイブリダイズすることができる配列を有する。前記アンチセンスポリヌクレオチド(30)は、ゲノム領域(120)から転写されるRNA(50)の部分領域であって、当該編集用センス鎖ポリヌクレオチドの3’側の末端部分と対応する配列を有する領域(52)とその下流の配列(54)にハイブリダイズすることができる配列を有する。
【0113】
ある好ましい態様では、領域(51)および領域(52)の長さは、それぞれ、1~20塩基であり得、例えば、2~19塩基であり得、3~18塩基であり得、4~17塩基であり得、5~16塩基であり得、6~15塩基であり得、7~14塩基であり得、8~13塩基であり得、9~12塩基であり得、10塩基、または11塩基であり得る。したがって、この領域に結合する一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)の領域(21)および一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)の領域(31)の長さも、それぞれ、1~20塩基であり得、例えば、2~19塩基であり得、3~18塩基であり得、4~17塩基であり得、5~16塩基であり得、6~15塩基であり得、7~14塩基であり得、8~13塩基であり得、9~12塩基であり得、10塩基、または11塩基であり得る。
【0114】
ある好ましい態様では、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームはそれぞれ、10ヌクレオチド長以上、20ヌクレオチド長以上、30ヌクレオチド長以上、40ヌクレオチド長以上、50ヌクレオチド長以上、60ヌクレオチド長以上、70ヌクレオチド長以上、80ヌクレオチド長以上、90ヌクレオチド長以上、または100ヌクレオチド長以上であり得る。ある態様では、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームはそれぞれ、200ヌクレオチド長以下、190ヌクレオチド長以下、180ヌクレオチド長以下、170ヌクレオチド長以下、160ヌクレオチド長以下、150ヌクレオチド長以下、140ヌクレオチド長以下、130ヌクレオチド長以下、120ヌクレオチド長以下、110ヌクレオチド長以下、100ヌクレオチド長以下、90ヌクレオチド長以下、80ヌクレオチド長以下、70ヌクレオチド長以下、60ヌクレオチド長以下、50ヌクレオチド長以下、または40ヌクレオチド長以下であり得る。ある態様では、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームはそれぞれ、10~200ヌクレオチド長、20~150ヌクレオチド長、30~100ヌクレオチド長、35~70ヌクレオチド長、または40~50ヌクレオチド長であり得る。上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームは、異なる長さであってもよいし、同一の長さであってもよい。上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームに関して、短い方のアームは長いアームの長さの50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上の長さであり得る。
【0115】
ある好ましい態様では、前記アンチセンスポリヌクレオチド(20)およびアンチセンスポリヌクレオチド(30)は、独立して、10塩基を超える長さ、15塩基を超える長さ、20塩基を超える長さ、25塩基を超える長さ、30塩基を超える長さ、35塩基を超える長さ、または40塩基以上の長さを有し得る。より好ましい態様では、前記アンチセンスポリヌクレオチド(20)およびアンチセンスポリヌクレオチド(30)は、独立して、50塩基以上の長さ、60塩基以上の長さ、70塩基以上の長さ、80塩基以上の長さ、90塩基以上の長さ、100塩基以上の長さ、110塩基以上の長さ、120塩基以上の長さ、または130塩基以上の長さを有し得る。前記アンチセンスポリヌクレオチド(20)およびアンチセンスポリヌクレオチド(30)は、独立して、例えば、200塩基以下の長さ、190塩基以下の長さ、180塩基以下の長さ、170塩基以下の長さ、160塩基以下の長さ、150塩基以下の長さ、140塩基以下の長さ、または130塩基以下の長さを有し得る。前記アンチセンスポリヌクレオチド(20)およびアンチセンスポリヌクレオチド(30)は、同一の長さを有していてもよい。前記アンチセンスポリヌクレオチド(20)は、前記アンチセンスポリヌクレオチド(30)の±50%以内、±40%以内、±30%以内、±25%以内、±20%以内、±15%以内、±10%以内、または±5%以内の長さであり得る。また、前記アンチセンスポリヌクレオチド(30)は、前記アンチセンスポリヌクレオチド(20)の±50%以内、±40%以内、±30%以内、±25%以内、±20%以内、±15%以内、±10%以内、または±5%以内の長さであり得る。
【0116】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、このようにすることで、RNA(50)が存在しているときに、RNA(50)がゲノムのアンチセンス鎖(120)にハイブリダイズして、編集用センスポリヌクレオチド(10)がアンチセンス鎖(120)に結合できなくなる作用を低減できる。これにより、編集用センスポリヌクレオチド(10)がアンチセンス鎖(120)に結合し易くなる。
【0117】
本発明のある態様では、前記工程(A)は、少なくとも2種類のハイブリダイズ可能な一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドの存在下で行われ、少なくとも1種類のアンチセンスポリヌクレオチドは、ゲノム領域から転写されるRNAの部分領域であって、当該編集用センス鎖ポリヌクレオチドの5’末端部分と対応する配列を有する領域ハイブリダイズすることができる配列を有し、少なくとも1種類のアンチセンスポリヌクレオチドは、ゲノム領域から転写されるRNAの部分領域であって、当該編集用センス鎖ポリヌクレオチドの3’末端部分と対応する配列を有する領域にハイブリダイズすることができる配列を有する。これにより、1種類の一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドを用いる場合と比較して、編集用センスポリヌクレオチド(10)がアンチセンス鎖(120)に結合し易くなる。
【0118】
編集用センスポリヌクレオチドは、構成単位として、例えば、DNA、およびRNA並びにこれらの誘導体からなる群から選択されるヌクレオチドを含む。誘導体は、修飾ヌクレオチドまたは修飾核酸であり得る。修飾核酸としては、例えば、蛍光色素修飾された核酸、ビオチン化された核酸、コレステリル基を導入した核酸が挙げられる。RNAは安定性を高めるために、塩基に対して2’-O-メチル修飾または、2’-フルオロ修飾若しくは2’-メトキシエチル(MOE)修飾をすることがあり、核酸バックボーンのホスホジエステル結合をホスホロチオエート結合に置き換えることもある。人工核酸としては、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が架橋された核酸が挙げられる。このような人工核酸としては、例えば、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して架橋された架橋型DNAであるlocked nucleic acid(LNA)、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がエチレンを介して架橋されたENA、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-CH2OCH2-を介して架橋されたBNACOC、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-NR-CH2-{ここで、Rは、メチルまたは水素原子である}を介して架橋されたBNANCなどの架橋型核酸(BNA)、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-CH2(OCH3)-を介して架橋されたcMOE、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-CH2(CH3)-を介して架橋されたcEt、2’位と4’位の炭素原子がアミドを介して架橋されたAmNA、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して架橋され、6’位にシクロプロパンが形成されたscpBNA、およびデオキシリボースまたはリボースの代わりにN-(2-アミノエチル)グリシンがアミド結合したポリマーが主鎖となったペプチド核酸(PNA)などが挙げられる。また、編集用センスポリヌクレオチドは、DNAとRNAのハイブリッド分子であってもよいであろう。
【0119】
DNAとDNAの結合よりも、DNAとRNAの結合が強い。このことを考慮して、前記アンチセンスポリヌクレオチド(20)およびアンチセンスポリヌクレオチド(30)は、RNAに対して親和性を向上させる観点で、RNAに対する結合親和性の強いポリヌクレオチドを用いることができ、例えば、ポリヌクレオチドは、DNA、LNA、BNA、およびモルホリノオリゴ等またはこれらの組合せであることができる。また、編集用センスポリヌクレオチドは、DNAへの結合を向上させる観点で、DNAに対する結合親和性の強いポリヌクレオチドを用いることができ、例えば、RNA、LNA、BNA、および修飾RNAからなる群から選択される構成単位またはこれらの組合せを含むものであり得る。
【0120】
結果として本発明の方法では、真核細胞においてゲノムを編集することができ、具体的には、ゲノムの標的領域(121)を、それぞれ、前記上流ホモロジーアーム(11)と前記下流のホモロジーアーム(12)の間の任意の配列(13)の相補鎖の配列に置き換えることができ、標的領域(121)の相補鎖の当該領域に対応する領域(111)の配列を任意の配列(13)に置き換えることができる。任意の配列(13)が存在しない場合には、ゲノムの標的領域(121)および相補鎖の当該領域に対応する領域(111)は欠失することとなる。
【0121】
ある態様では、標的領域は、RNAが転写される領域に存在する。RNAが転写される領域は、転写活性が活性化した領域であり得る。ある態様では、標的領域は、エクソン部分であり得る。ある態様では、標的領域は、イントロン部分である。標的領域の大きさは、特に限定されないが、例えば、10kbp以下、9kbp以下、8kbp以下、7kbp以下、6kbp以下、5kbp以下、4kbp以下、3kbp以下、2kbp以下、1kbp以下、900bp以下、800bp以下、700bp以下、600bp以下、500bp以下、400bp以下、300bp以下、200bp以下、100bp以下、90bp以下、80bp以下、70bp以下、60bp以下、50bp以下、40bp以下、30bp以下、20bp以下、10bp以下、9bp以下、8bp以下、7bp以下、6bp以下、5bp以下、4bp以下、3bp以下、2bp以下、1bp以下、または0bpであり得る{0bpは、標的領域に配列の挿入をする場合などに設定され得る}。
【0122】
ある態様では、本発明の方法は、外来性のDNAのエンドヌクレアーゼによる標的領域の切断を含まない。ある態様では、本発明の方法は、標的領域の編集および標的化において外来性のDNAのエンドヌクレアーゼを用いない。ある態様では、本発明の方法は、標的領域の編集および標的化においてZFN、TALENおよびCRISPR/Casシステムを用いない。ある態様では、本発明の方法の標的領域以外の領域を編集するために、他のゲノム編集ツールを併用してもよい。
【0123】
本発明によれば、ゲノムの標的領域を標的化する方法であって、(A)当該細胞内において、RNAが転写されるゲノム領域のアンチセンス鎖に対応する標的領域の上流に隣接する配列と下流に隣接する配列に対してハイブリダイズ可能な一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドをゲノムに配列特異的に相互作用させる工程を含み;
前記一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドは、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームを有し、
前記上流ホモロジーアームは前記標的領域の上流に隣接する配列とハイブリダイズ可能な配列を有し、前記下流ホモロジーアームは前記標的領域の下流に隣接する配列とハイブリダイズ可能な配列を有し、前記上流ホモロジーアームと前記下流のホモロジーアームにより標的領域の少なくとも上流および下流にハイブリダイズすることができ、前記上流ホモロジーアームと前記下流のホモロジーアームの間に任意の配列を有するか、または配列を有しなくてもよく、
前記工程(A)が、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチドの存在下で行われ、前記アンチセンスポリヌクレオチドは、ゲノム領域から転写されるRNAの部分領域であって、当該編集用センス鎖ポリヌクレオチドの末端部分と対応する配列を有する領域にハイブリダイズすることができる配列を有し、
前記アンチセンスポリヌクレオチドは、40塩基以上の長さを有する、
方法が提供される。
【0124】
一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチドに対して物質(例えば、標識またはタンパク質)をコンジュゲートすることができ、これにより、物質(例えば、標識またはタンパク質)をゲノムの標的領域にリクルート(または標的化)することができる。標識は、蛍光標識、色素、RI標識、およびタグ等の標識であり得る。この態様では、一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)は、前記上流ホモロジーアーム(11)と前記下流のホモロジーアーム(12)の間の任意の配列(13)として、標的領域の相補鎖における標的領域に対応する領域の配列(111)と同一の配列を有していてもよい。
【0125】
本発明によれば、ゲノム標的化キットまたはゲノム編集キットであって、一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)と、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)および一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)の少なくとも1種、好ましくは両方とを含む、キットが提供される。一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)および一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)については、それぞれ上述した通りである。
【0126】
本発明によれば、ゲノム標的化キットまたはゲノム編集キットであって、一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)をコードするポリヌクレオチドと、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)および一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)の少なくとも1種、好ましくは両方とを含む、キットが提供される。一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)をコードするポリヌクレオチドは、制御配列に作動可能に連結されている。これにより、これらのポリヌクレオチドは発現可能である。
【0127】
本発明によれば、ゲノム標的化キットまたはゲノム編集キットであって、一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)と、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)をコードするポリヌクレオチドおよび一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)をコードするポリヌクレオチドの少なくとも1種、好ましくは両方を含む、キットが提供される。一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)をコードするポリヌクレオチドおよび一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)をコードするポリヌクレオチドは、それぞれ制御配列に作動可能に連結されている。これにより、これらのポリヌクレオチドは発現可能である。
【0128】
本発明によれば、ゲノム標的化キットまたはゲノム編集キットであって、一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)をコードするポリヌクレオチドと、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)および一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)をコードするポリヌクレオチドの少なくとも1種、好ましくは両方を含む、キットが提供される。一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)をコードするポリヌクレオチド、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)をコードするポリヌクレオチドおよび一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)をコードするポリヌクレオチドは、それぞれ制御配列に作動可能に連結されている。これにより、これらのポリヌクレオチドは発現可能である。
【0129】
上記態様においては、一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)をコードするポリヌクレオチド、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)をコードするポリヌクレオチドおよび一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)をコードするポリヌクレオチドは、それぞれ制御配列に作動可能に連結され、1以上の発現ベクターに含まれていることができる。
【0130】
上記態様においては、ゲノム標的化キットは、本発明のゲノムの標的化方法に好ましく用いられる。ゲノム標的化キットでは、一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)はRNAであり、RNAの形態でゲノムの標的領域を標的化できる。
【0131】
上記態様においては、ゲノム編集用キットは、本発明のゲノムの編集方法に好ましく用いられる。ゲノム編集キットは、細胞にポリヌクレオチドを導入するための導入試薬をさらに含んでいてもよい。
【0132】
上記のすべての態様において、一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)および一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)は、単一鎖に組込まれた状態で提供されてもよい。したがって、本発明によれば、一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(20)、一本鎖形態の編集用センスポリヌクレオチド(10)、および一本鎖形態のアンチセンスポリヌクレオチド(30)をこの順番で含む一本鎖形態のキメラポリヌクレオチドが提供される。本発明によればまた、前記一本鎖形態のキメラポリヌクレオチドをコードするDNAを発現可能に含む発現ベクターが提供される。
【0133】
本発明によれば、本発明のゲノムの編集方法により改変されたゲノムを有する細胞、および当該細胞を含む生物が提供される。
【実施例】
【0134】
実施例1:編集用センスポリヌクレオチドと編集促進用アンチセンスポリヌクレオチドによるゲノム編集
【0135】
ゲノム編集に直接的に寄与する一本鎖のセンス鎖ポリヌクレオチド(編集用センスポリヌクレオチド)は、ゲノムDNAに結合してゲノムDNAを編集用センスポリヌクレオチドの配列に改変する。編集用センスポリヌクレオチドは、ゲノムDNAのアンチセンス側のDNAとハイブリダイズすることがゲノム編集の最初のステップである。しかしながら、ゲノムDNAの転写領域を標的とした場合には、DNA上には新規合成されたmRNAなどのRNAまたはその断片(例えばスプライシングで除去される断片)がハイブリダイズしており、これが故に編集用センスポリヌクレオチドがDNAのアンチセンス側にハイブリダイズすることを阻害する可能性がある。特に、イントロンを標的としたゲノム編集は、エクソンを標的としたゲノム編集よりも効率が悪いことが発明者らの実験により明らかになっている。イントロンにおいては、プロセッシングを受けて切除されたmRNAからのRNA断片がゲノムDNAの当該イントロン部分に結合してゲノム編集を阻害している可能性がある。
【0136】
この新規合成され、ゲノムDNAのアンチセンス鎖にハイブリダイズしたRNAをゲノムDNAから乖離させることを目的として、剥離用アンチセンスポリヌクレオチドを設計した。剥離用アンチセンスポリヌクレオチドは、編集用センスポリヌクレオチドがハイブリダイズするDNA領域と部分的にオーバーラップするDNA領域に結合するように設計された。合成された剥離用アンチセンスポリヌクレオチドを系に導入し、剥離用アンチセンスポリヌクレオチド存在下で、編集用センスポリヌクレオチドによるゲノム編集を試験した。
【0137】
具体的には、
図1に示されるように、(1)で表される編集用センスポリヌクレオチド(101塩基長)を用意した。また、
図1に示されるように、(3)、(4)、(7)、(8)、(11)~(16)、および(22)~(27)で表される剥離用アンチセンスポリヌクレオチドを用意した。(3)、(4)、(7)、(8)、(11)~(16)、および(22)~(27)で表される剥離用アンチセンスポリヌクレオチドは、(1)で表される編集用センスポリヌクレオチドの末端の10塩基(「のり代」ということがある)にハイブリダイズすることができる配列を有するように設計されている。(3)および(4)は、130塩基長であり、(7)および(8)は、10塩基長であり、(11)および(12)は、100塩基長であり、(13)および(14)は、70塩基長であり、(15)および(16)は、40塩基長であり、(22)および(23)は、80塩基長であり、(24)および(25)は、60塩基長であり、(26)および(27)は、50塩基長である。
【0138】
また、
図1に示されるように(2)で表される編集用センスポリヌクレオチド(81塩基長)を用意した。次に、(1)と重ならない位置にハイブリダイズするように設計された120塩基長の(5)および(6)で表される剥離用アンチセンスポリヌクレオチド、並びに、(2)の末端の10塩基にハイブリダイズすることができる配列を有することができる配列を有するように設計された130塩基長の(9)および(10)で表される剥離用アンチセンスポリヌクレオチドを用意した。
【0139】
さらに、
図4に示されるように、(17)および(18)で表される編集用センスポリヌクレオチドを用意した。加えて、
図6に示されるように(19)で表される編集用センスポリヌクレオチドを、および(20)および(21)で表される剥離用アンチセンスポリヌクレオチドを用意した。
【0140】
上記ポリヌクレオチド(1)~(18)および(22)~(27)は、ヒトゲノムDNAのARFGEF3(BIG3)をコードする領域の1番目のイントロン内に設定されている。編集用センスポリヌクレオチド(1)および(2)は上記イントロンのセンス鎖側の部分配列において1ヌクレオチドが置換された塩基配列を有し、編集用センスポリヌクレオチド(17)は上記イントロンのセンス鎖側の部分配列において3ヌクレオチドが挿入された塩基配列を有し、編集用センスポリヌクレオチド(18)は上記イントロンのセンス鎖側の部分配列において2ヌクレオチドが欠失した塩基配列を有する。また、剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(3)~(18)は上記イントロンのアンチセンス鎖側の部分配列においてアンチセンス鎖側の部分配列を有する。
【0141】
編集用センスポリヌクレオチド(1)、(17)および(18)の5’末端側の10ヌクレオチドは、剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(3)、(11)、(13)、(15)、(22)、(24)および(26)の5’末端側の10ヌクレオチドと、また剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(7)と、相補的である。編集用センスポリヌクレオチド(1)、(17)および(18)の3’末端側の10ヌクレオチドは、剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(4)、(12)、(14)、(16)、(23)、(25)および(27)の3’末端側の10ヌクレオチドと、また剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(8)と、相補的である。
【0142】
編集用センスポリヌクレオチド(2)の5’末端側の10ヌクレオチドは、剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(9)の5’末端側の10ヌクレオチドと相補的であり、3’末端側の10ヌクレオチドは、剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(10)の3’末端側の10ヌクレオチドと相補的である。
【0143】
編集用センスポリヌクレオチド(1)と剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(5)および(6)は相補的な配列を有さず、編集用センスポリヌクレオチド(2)と剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(3)および(4)は相補的な配列を有さない。
【0144】
編集用センスポリヌクレオチド(19)は、ヒトゲノムDNAのARFGEF3(BIG3)をコードする領域の1番目のエクソン全体を含む位置に設定されており、当該位置のセンス鎖側の配列において1ヌクレオチドが置換された塩基配列を有する。剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(20)はARFGEF3をコードする領域の5'末端側非翻訳領域の一部と1番目のエクソンの一部を含む位置に、剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(21)はARFGEF3をコードする領域の1番目のイントロン内に設定されており、いずれもアンチセンス鎖側の部分配列を有する。
【0145】
編集用センスポリヌクレオチド(19)の5’末端側の10ヌクレオチドは、剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(20)の5’末端側の10ヌクレオチドと相補的であり、3’末端側の10ヌクレオチドは、剥離用アンチセンスポリヌクレオチド(21)の3’末端側の10ヌクレオチドと相補的である。
【0146】
上記ポリヌクレオチドの具体的な配列と配列番号を下表に示す。
【表2】
【0147】
上記表中、大文字は編集されるゲノムの配列と異なる部分である。
【0148】
このようにして、剥離用アンチセンスポリヌクレオチドの存在下で、編集用センスポリヌクレオチドを用いて細胞内でゲノム編集を誘導した。
【0149】
具体的には試験は以下の通り実施した。
[1]まず、10% (v/v)Fetal Bovine Serum (Sigma, F7524)、1% (v/v)Antibiotic-Antimycotic (Gibco、15240-062)を含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium-high glucose; DMEM (Sigma、D5796)培地で、10cm dishでconfluent cellsまでHEK293T細胞を培養した。
[2]次に、上清をアスピレーターで除き、そこに1mLのPBS(-) (富士フイルム和光純薬、166-23555)および1mL 0.05% Trypsin-EDTA (Gibco、25300-062)を加え、37℃、3min処理した。
[3]次に、3.6mLのDMEM(Sigma、D5796)と0.36mLのFetal Bovine Serum (Biowest、S1760)及び0.04mLのAntibiotic-Antimycotic (Gibco、15240-062)を加え、ピペットバックにより細胞をプレートから剥がし、15mLの遠沈管に回収後、1000rpm 5min遠心し、細胞を遠沈管の底に集め、上清をアスピレーターで除いた。
[4]そこへ、4.5mLのDMEM(Sigma、D5796)と0.45mLのFetal Bovine Serum (Sigma, F7524)及び0.05mLのAntibiotic-Antimycotic (Gibco、15240-062)を加え、再懸濁した。
[5]懸濁液中の細胞数を測定し、2.5×105 cells/wellになるように、6wellのマルチウェルプレート(Corning、3516)に分注した。
[6]CO2インキュベータで37℃、2days培養し、60-80% confluent cellsまで培養した。
[7]そこへ、各ポリヌクレオチドを5μgずつ含むDNA mixture 液150 μl(Opti-MEM (Gibco、11058-021)+ Fugene HD液)を添加し、CO2 インキュベータで37℃、一日培養した。
[8]HEK293T細胞の上清をアスピレーターで除き、そこに0.3mLのPBS(-) (富士フイルム和光純薬、166-23555)および0.3mL 0.05% Trypsin-EDTA (Gibco、25300-062)を加え、37℃、3minで処理した。
[9]次に、2.7mLのDMEM(Sigma、D5796)と0.27mLのFetal Bovine Serum (Biowest、S1760)及び0.03mLのAntibiotic-Antimycotic (Gibco、15240-062)を加え、ピペットバックにより細胞をプレートから剥がし、15mLの遠沈管に回収し、1000 rpm, 5minで細胞を遠沈管の底に集め、上清をアスピレーターで除いた。
[10]そこへ、9mLのDMEM(Sigma、D5796)と0.9mLのFetal Bovine Serum (Sigma, F7524)及び0.1mLのAntibiotic-Antimycotic (Gibco、15240-062)を加え、再懸濁し、10cm dishに播種した。
[11]CO2 インキュベータで37℃, 4days培養し、細胞を十分に増殖させた。
[12]HEK293T細胞の上清をアスピレーターで除き、そこに1mLのPBS(-)(富士フイルム和光純薬、166-23555)および1mL 0.05% Trypsin-EDTA(Gibco、25300-062)を加え、37℃、3min処理した。
[13]次に、3.6mLのDMEM(Sigma、D5796)と0.36mLのFetal Bovine Serum (Biowest、S1760)及び0.04mLのAntibiotic-Antimycotic (Gibco、15240-062)を加え、ピペットバックにより細胞をプレートから剥がし、15mLの遠沈管に回収し、1000 rpm, 5minで細胞を遠沈管底に集め、上清をアスピレーターで除いた。
[14]そこへ、4.5mLのDMEM(Sigma、D5796)と0.45mLのFetal Bovine Serum (Sigma, F7524)及び0.05mLのAntibiotic-Antimycotic (Gibco、15240-062)を加え、再懸濁した。
[15]懸濁液中の細胞数を測定し、2.0×106 cells分の細胞懸濁液を1.5mLのtubeに移し、1000 rpm、 5minで細胞をtube底に集め、上清をアスピレーターで除いた。
[16]1.5mL tubeに残っている細胞ペレット(2.0×106 cells分)からMacherey-Nagel社製genome抽出キット(NucleoSpin Tissue Kit)を用いてgenome DNAを抽出し、次世代sequencerを用いてデザイン通りに編集されているゲノムの割合を求め、全リード数に対する編集リード数としてゲノム編集効率を算出した。
【0150】
結果は、
図2に示される通りであった。
図2に示されるように、剥離用アンチセンスポリヌクレオチド非存在下での(1)で表される編集用センスポリヌクレオチドを用いたゲノム編集効率は、0.0026%であったが、これに対して、(3)および(4)の組合せ、(11)および(12)の組合せ、ならびに(13)および(14)の組合せの剥離用アンチセンスポリヌクレオチドの存在下では、ゲノム編集効率は顕著に向上した。
【0151】
また、
図2にさらに示されるように、(2)で表される編集用センスポリヌクレオチドでのゲノム編集効率は、0.0056%であったが、(9)および(10)の剥離用アンチセンスポリヌクレオチド存在下では、ゲノム編集効率は12.1425%となった。
【0152】
また、上記試験手法の[7]において使用するDNA mixture液に含まれる各ポリヌクレオチドの量を5μgから50pmolに変更した点以外は同様の手法を用いて、(11)~(16)および(22)~(27)の剥離用アンチセンスポリヌクレオチドの存在下で(1)の編集用センスポリヌクレオチドを用いたゲノム編集を行った。
図3に示されるように、(1)の編集用センスポリヌクレオチドでのゲノム編集効率は、いずれの剥離用アンチセンスポリヌクレオチドの組合せの存在下でも向上した。特に、(11)および(12)の組合せ、(13)および(14)の組合せ、ならびに(22)および(23)の組合せの存在下で、ゲノム編集効率の向上が顕著であった。
【0153】
上記の実験では、真核細胞を用いてゲノム編集効率を確認した。その結果、剥離用アンチセンスポリヌクレオチド存在下において、編集用センスポリヌクレオチドによるゲノム編集の効率は改善した。このことは、編集用センスポリヌクレオチドによるゲノム編集を妨げる要因を剥離用アンチセンスポリヌクレオチドが除去したことを示唆する。剥離用アンチセンスポリヌクレオチドは、元々は、ゲノムDNAから転写されたRNAがDNAと結合するのを阻害することを意図して設計された。おそらく、ゲノムDNA上には、転写されたRNAが、DNA-RNA相互作用により連結しており、これが編集用センスポリヌクレオチドが当該領域にハイブリダイズすることを阻害した可能性が示唆された。DNA-RNA相互作用は、DNA-DNA相互作用よりも強固であるため、編集用センスポリヌクレオチドとしてDNAを用いた場合には、特に阻害効果が大きいと考えられる。
【0154】
さらに
図4に示されるように、点変異を有する編集用センスポリヌクレオチド(1)に代えて、塩基の欠失を有する編集用センスポリヌクレオチド(18)と塩基の挿入を有する編集用センスポリヌクレオチド(17)を用いて上記と同じ実験を行った。結果は、
図5に示される通りであった。
図5に示されるように、塩基の欠失を有する編集用センスポリヌクレオチド(18)を用いた場合も、塩基の挿入を有する編集用センスポリヌクレオチド(17)を用いた場合も、アンチセンスポリヌクレオチド存在下ではその編集効率は大きく改善した。
【0155】
図6に示されるように、エクソンを標的としてアンチセンスポリヌクレオチド(20)および(21)の存在下で編集用センスポリヌクレオチド(19)を用いて上記と同じ実験を行った。結果は、
図7に示される通りであった。
図7に示されるように、エクソンを標的とした場合においても、両側のアンチセンスポリヌクレオチド(アンチセンスポリヌクレオチド(20)および(21))存在下で編集用センスポリヌクレオチドによる編集効率が非存在下と比較して大きく改善した。また、
図7に示されるように、片側のアンチセンスポリヌクレオチド(21)のみの存在下においても、編集効率は、アンチセンスポリヌクレオチド非存在下と比較して約7~8倍の改善を示した。このことから、センス鎖と部分的に重複する位置に設計したアンチセンスポリヌクレオチドは、片側のみであっても編集効率を大幅に改善することが明らかになった。
【0156】
以上から、編集用センスポリヌクレオチドがハイブリダイズするDNA領域と部分的にオーバーラップするDNA領域に結合するように設計したアンチセンスポリヌクレオチドは、編集促進用アンチセンスポリヌクレオチドとして利用可能であることが示された。
【配列表】