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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】新規βアミラーゼ及びその利用・製造法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/56 20060101AFI20250313BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250313BHJP
   C12N 9/26 20060101ALI20250313BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250313BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250313BHJP
   C12P 19/12 20060101ALI20250313BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250313BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250313BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20250313BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20250313BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20250313BHJP
【FI】
C12N15/56 ZNA
C12N15/63 Z
C12N9/26 A
C12N1/15
C12N1/21
C12P19/12
C12N5/10
C12N1/19
A23L33/135
A23L29/00
A23L5/00 J
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021514172
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2020016434
(87)【国際公開番号】W WO2020213604
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2019077041
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019145697
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02937
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】炭谷 順一
(72)【発明者】
【氏名】谷 修治
(72)【発明者】
【氏名】川口 剛司
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-282073(JP,A)
【文献】特開昭62-201577(JP,A)
【文献】特開昭48-067487(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101153276(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12P
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 配列番号2に記載のアミノ酸配列又は
(ii) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列又は
(iii) 配列番号2に記載のアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
からなり、60℃、80分間の熱処理後の可溶性デンプンに対するβアミラーゼ活性が、熱処理していない同一アミノ酸配列を有するβアミラーゼと比較して最低80%であるβアミラーゼ。
【請求項2】
配列番号2に記載のアミノ酸配列を参照してアミノ酸番号4位に対応する位置にあるトレオニンがプロリンへの置換、又はアミノ酸番号15位に対応する位置にあるトレオニンがリシン若しくはアルギニンへの置換、又はアミノ酸番号306位に対応する位置にあるグルタミンがアスパラギン酸への置換から選ばれる1つ以上の置換を含む、請求項1に記載のβアミラーゼ。
【請求項3】
(i) 配列番号18~配列番号21のいずれか1つに記載のアミノ酸配列又は
(ii) 配列番号18~配列番号21のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列又は
(iii) 配列番号18~配列番号21のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
からなる請求項2に記載のβアミラーゼ。
【請求項4】
生デンプン分解活性を有する、請求項1~3のいずれか1つに記載のβアミラーゼ。
【請求項5】
60℃で生デンプン分解活性を有する、請求項1~4のいずれか1つに記載のβアミラーゼ。
【請求項6】
受託番号NITE BP-02937で特定される細菌により産生されるβアミラーゼ。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1つに記載のβアミラーゼをコードするDNA。
【請求項8】
60℃、80分間の熱処理後の可溶性デンプンに対するβアミラーゼ活性が、熱処理していない同一アミノ酸配列を有するβアミラーゼと比較して最低80%であるβアミラーゼ活性を有するタンパク質又は該タンパク質及びシグナル配列をコードするDNAであって、前記DNAが、
(i)配列番号1又は配列番号13で表される塩基配列、又は
(ii)配列番号1又は配列番号13で表される塩基配列と95%以上同一の塩基配列のいずれかを有するDNA。
【請求項9】
60℃、80分間の熱処理後の可溶性デンプンに対するβアミラーゼ活性が、熱処理していない同一アミノ酸配列を有するβアミラーゼと比較して最低80%であるβアミラーゼ活性を有するタンパク質又は該タンパク質及びシグナル配列をコードするDNAであって、前記DNAが、
(i)配列番号1又は配列番号13で表される塩基配列、又は
(ii)配列番号1で表される塩基配列と95%以上同一の塩基配列
のいずれかを有するDNA。
【請求項10】
60℃、80分間の熱処理後の可溶性デンプンに対するβアミラーゼ活性が、熱処理していない同一アミノ酸配列を有するβアミラーゼと比較して最低80%であるβアミラーゼ活性を有するタンパク質又は該タンパク質及びシグナル配列をコードするDNAであって、前記DNAが、
(i)配列番号26~配列番号33のいずれか1つに記載の塩基配列又は
(ii) 配列番号26~配列番号33のいずれか1つに記載の塩基配列と95%以上の配列同一性を有する塩基配列
のいずれかを有するDNA。
【請求項11】
配列番号1又は配列番号13で表される塩基配列と99%以上同一の塩基配列を有する、請求項8又は10に記載のDNA。
【請求項12】
配列番号1、配列番号13及び配列番号26~33のいずれか1つで表される塩基配列の縮重配列からなるDNA。
【請求項13】
請求項7~12のいずれか1つに記載のDNAを有するベクター。
【請求項14】
請求項13に記載のベクターを有する微生物。
【請求項15】
受託番号NITE BP-02937で特定される細菌。
【請求項16】
請求項14に記載の微生物または請求項15に記載の細菌を培養して、培養物からβアミラーゼを抽出する工程を含む、βアミラーゼの製造方法。
【請求項17】
請求項1~6のいずれか1つに記載のβアミラーゼでデンプンを処理することを特徴とする、マルトースの製造方法。
【請求項18】
デンプンの温度が60℃以上70℃以下で請求項1~6のいずれか1つに記載のβアミラーゼを添加することを特徴とする、請求項17に記載のマルトースの製造方法。
【請求項19】
請求項14に記載の微生物または請求項15に記載の細菌でデンプンを処理することを特徴とする、マルトースの製造方法。
【請求項20】
請求項4~6のいずれか1つに記載のβアミラーゼで生デンプンを処理することを特徴とする、マルトースの製造方法。
【請求項21】
請求項1~6のいずれか1つに記載のβアミラーゼ、請求項14に記載の微生物または請求項15に記載の細菌を用いる、α-1,4グルコシド結合を有する多糖類を含む食品の改質方法。
【請求項22】
請求項1~6のいずれか1つに記載のβアミラーゼ、請求項14に記載の微生物または請求項15に記載の細菌を含む酵素剤。
【請求項23】
配列番号2に記載のアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のβアミラーゼ。
【請求項24】
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなり、60℃、80分間の熱処理後の可溶性デンプンに対するβアミラーゼ活性が、熱処理していない同一アミノ酸配列を有するβアミラーゼと比較して最低80%であるβアミラーゼ。
【請求項25】
配列番号18~配列番号21のいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなり、60℃、80分間の熱処理後の可溶性デンプンに対するβアミラーゼ活性が、熱処理していない同一アミノ酸配列を有するβアミラーゼと比較して最低80%であるβアミラーゼ。
【請求項26】
(i) 配列番号2に記載のアミノ酸配列又は
(ii) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列又は
(iii) 配列番号2に記載のアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
からなり、60℃、75分間の熱処理後の可溶性デンプンに対するβアミラーゼ活性が、熱処理していない同一アミノ酸配列を有するβアミラーゼと比較して減少しないβアミラーゼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規βアミラーゼ及びその利用・製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
デンプンは生物にとっての重要な栄養源であり、セルロース同様、地球上に多く存在する多糖類の1つである。デンプンの構造は、グルコースがα-1,4結合で直鎖状に重合したアミロースとアミロースがα-1,6結合によって分岐したアミロペクチンで構成されている。
天然のデンプンを水に懸濁して加熱すると、アミロースやアミロペクチンの各分子が分散してデンプン溶液、あるいはデンプン糊となる。このような加熱糊化したデンプンと区別して、天然の結晶・粒構造を持つデンプンを生デンプンと呼称する。生デンプンの結晶構造は加熱し、水和させることで破壊される。
アミラーゼは、このデンプン中のアミロースやアミロペクチンのα-1,4およびα-1,6結合を加水分解する酵素の総称である。
【0003】
アミラーゼは、作用様式によって、大きく分けてエンド型アミラーゼとエキソ型アミラーゼの2つのタイプに分類することができる。α-アミラーゼはエンド型アミラーゼとして知られており、デンプンのグルコース鎖をランダムに加水分解する酵素である。βアミラーゼはエキソ型アミラーゼとして知られ、デンプンやグリコーゲンなどのグルコースがα-1,4結合で重合した多糖類に作用して、非還元末端からマルトース(麦芽糖)単位で分解する酵素である。
【0004】
βアミラーゼは、デンプンからマルトースを生成できる特性からマルトース製造や食品加工に利用されている。βアミラーゼはサツマイモ、小麦、大麦、大豆等から見いだされ、高等植物に広く分布する酵素として知られるようになった。一方、微生物由来のβアミラーゼは長く存在しないと考えられてきたが、1970年代より微生物が持つβアミラーゼが次々に発見されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-036237号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】澱粉・関連糖質実験法(1989)
【文献】応用糖質科学 第1巻 第2号 194-200(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
植物由来のβアミラーゼに関しては、比較的安価に製造することが可能であるため、これまでのβアミラーゼの工業生産では主に植物原料が利用されている。しかし、近年の世界的な人口増加、バイオエタノールなど再生可能資源としてのバイオ燃料の需要拡大に伴い、穀物需要、穀物価格は世界的に上昇傾向を示している。これを踏まえると、今後植物由来のβアミラーゼの原料となる穀物を安価でかつ安定的に供給できるかどうかは不透明な状態となっている。
【0008】
微生物由来のβアミラーゼは次々と発見されているが、実用化されているものは少ない。これは、これまでに報告された微生物由来のβアミラーゼが、耐熱性や生産量が低いこと、また生産菌の多くが病原菌として分類され食品利用としては適さないことによる。かろうじて天野エンザイム社が産業用酵素としてBacillus flexus由来のβアミラーゼの販売を行っている程度である(特許文献1、非特許文献2)。
このBacillus flexus由来のβアミラーゼは、耐熱性は他の微生物由来βアミラーゼなどに比べて比較的高いものの、植物由来で最も耐熱性に優れる大豆由来酵素よりも耐熱性は低く、十分な耐熱性があるとは言えない。また、耐熱性に優れた大豆由来酵素も、生デンプンに対する分解活性が低いことが知られている。
一般的に、デンプンを工業的にアミラーゼで酵素分解する際は、デンプンを一度加熱して行うが、昨今の省エネルギー化の観点からも、加熱糊化せずに生デンプンを直接高効率で酵素反応できることが望まれている。
【0009】
これらのことから、病原性を持たない微生物由来のβアミラーゼの開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、驚くべきことに、発明者が新たに単離した非病原性株Bacillus halosaccharovorans No. 58株が、従来の穀物由来、及び微生物由来のものより耐熱性の高いβアミラーゼを産生することを見いだした。
【0011】
かくして本発明は、受託番号NITE BP-02937で特定される細菌を提供する。
また、本発明は、受託番号NITE BP-02937で特定される細菌により産生されるβアミラーゼを提供する。
【0012】
また、本発明は、
(i) 配列番号2又は配列番号12に記載のアミノ酸配列又は
(ii) 配列番号2又は配列番号12に記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列又は
(iii) 配列番号2又は配列番号12に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるβアミラーゼを提供する。
更に、本発明は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を参照してアミノ酸番号4位に対応する位置にあるトレオニンがプロリンへ変わる置換、又はアミノ酸番号15位に対応する位置にあるトレオニンがリシン若しくはアルギニンへ変わる置換、又はアミノ酸番号306位に対応する位置にあるグルタミンがアスパラギン酸へ変わる置換から選ばれる1つ以上の置換を含むβアミラーゼを提供する。
更に、本発明は、
(i) 配列番号18~配列番号25のいずれか1つに記載のアミノ酸配列又は
(ii) 配列番号18~配列番号25のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列又は
(iii) 配列番号18~配列番号25のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるβアミラーゼを提供する。
【0013】
更に、本発明は、上記のβアミラーゼをコードするDNAを提供する。
更に、本発明は、βアミラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであって、前記DNAが、
(i) 配列番号1又は配列番号13で表される塩基配列
(ii) 配列番号1又は配列番号13で表される塩基配列と90%以上同一の塩基配列
(iii) (i)又は(ii)で表される塩基配列で表されるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを提供する。
更に、本発明は、βアミラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであって、前記DNAが、
(i)配列番号26~配列番号33のいずれか1つに記載の塩基配列又は
(ii) 配列番号26~配列番号33のいずれか1つに記載の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列のいずれかを有するDNA、又は
(iii) (i)又は(ii)で表される塩基配列で表されるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを提供する。
更に、本発明は、配列番号1、配列番号13及び配列番号26~33で表される塩基配列の縮重配列からなるDNAを提供する。
【0014】
更に、本発明は、上記のDNAを有するベクターを提供する。
更に、本発明は、上記のDNAを有するベクターを有する微生物を提供する。
更に、本発明は、上記細菌、又は上記の微生物の培養物からβアミラーゼを抽出する工程を含む、βアミラーゼの製造方法を提供する。
更に、本発明は、上記のβアミラーゼでデンプンを処理することを特徴とする、マルトースの製造方法を提供する。
更に、本発明は、上記細菌、又は上記の微生物でデンプンを処理することを特徴とする、マルトースの製造方法を提供する。
更に、本発明は、上記のβアミラーゼで生デンプンを処理することを特徴とする、マルトースの製造方法を提供する。
更に、本発明は、上記細菌、又は上記βアミラーゼ、又は上記の微生物を用いる、食品の改質方法を提供する。
更に、本発明は、上記細菌、又は上記βアミラーゼ、又は上記の微生物を用いる、酵素剤を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、病原性を持たない新規βアミラーゼが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】候補株培養上清によるデンプン分解産物のTLC解析の結果である。
図2】No. 58株の培養上清における、60℃でのアミラーゼの温度安定性を表した図である。
図3】各種アミラーゼにおける、還元糖生成量と相対KI/I2値の関係を示した図である。
図4】精製したβアミラーゼをSDS-PAGEに供した結果である。
図5】本発明のβアミラーゼ遺伝子の塩基配列及び推定されるアミノ酸配列である。
図6】No. 58株由来のβアミラーゼの最適pHを示したグラフである。
図7】No. 58株由来のβアミラーゼのpH安定性を示したグラフである。
図8】No. 58株由来のβアミラーゼの最適温度を示したグラフである。
図9】No. 58株由来のβアミラーゼを含む5種のβアミラーゼを60℃で熱処理した際の酵素の残存活性を比較した結果である。
図10】No. 58株由来のβアミラーゼを含む5種のβアミラーゼを65℃で熱処理した際の酵素の残存活性を比較した結果である。
図11】小麦由来の生デンプンを、No. 58株由来のβアミラーゼを含む3種のβアミラーゼでそれぞれ酵素処理した際の生デンプンの分解率を表したグラフである。
図12】トウモロコシ由来の生デンプンを、No. 58株由来のβアミラーゼを含む3種のβアミラーゼでそれぞれ酵素処理した際の生デンプンの分解率を表したグラフである。
図13】精製したβアミラーゼ変異酵素をSDS-PAGEに供した結果である。
図14】βアミラーゼ変異酵素における、65℃でのアミラーゼの温度安定性を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
βアミラーゼの性質
本発明による酵素はβアミラーゼであり、デンプン中のグルコース多糖におけるα-1,4グルコシド結合を非還元末端からマルトース単位で分解する酵素である。
No. 58株が産生するβアミラーゼは次の性質を有する。
(1)本発明のβアミラーゼの基質はデンプンに限定されない。本発明のβアミラーゼは、例えば、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリンに対して反応することができる。
(2)本酵素の分子量は約60,000Daである。
(3)本酵素の至適温度は約50℃である。本酵素は約37℃~60℃及びpH7.0の条件において、10分間基質と反応させる条件で50℃での活性の70%以上の活性を示す。また、本酵素を60℃で75分処理しても活性は失われない。65℃で30分処理しても50℃での活性の40%の活性を有する。
(4)本酵素の至適pHは約7.0である。本酵素はpH6.0~9.0及び37℃で、10分間基質と反応させる条件で、pH7.0の活性と比較して80%以上の残存活性を示す。また、本酵素をpH5.0~9.0、4℃で16時間置いた後、pHを7.0に戻して37℃で、10分間基質と反応させても、pH7.0、4℃で16時間置いたサンプルの活性と比較して、80%以上の残存活性を示す。
(5)生デンプンに対する活性を有し、小麦由来の生デンプンを、60℃、pH7.0の条件で24時間の反応で65%分解できる。また、トウモロコシ由来の生デンプンに対しても70℃、pH7.0での反応により8時間で27%分解できる。
(6)デンプンを分解してマルトースのみを生じる。
【0018】
本発明のβアミラーゼは、配列番号2又は配列番号12で表されるアミノ酸配列又は、配列番号2又は配列番号12で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列、又は配列番号2又は配列番号12に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるβアミラーゼであってもよい。アミノ酸配列の同一性は好ましくは95%、より好ましくは99%以上の同一性を有する。また、本発明のβアミラーゼは、βアミラーゼ活性を有しているものであれば、他のタンパク質に付加した融合タンパク質のような形であっても構わないし、ビーズのような樹脂に固定された形であっても構わない。融合タンパク質としては、例えば、枝切り酵素、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、グルコシダーゼ、グルコアミラーゼ、αアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスファターゼ、キシラナーゼ等と結合したタンパク質や、精製用のヒスチジン(His)タグ、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ、グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)が融合したタンパク質の形態が考えられる。置換は保存的置換が好ましい。保存的置換とは、置き換わるアミノ酸が有する酸性、塩基性などの性質が変化しない置換のことを指す。具体的には、Phe, Trp, Tyr間での置換、Leu, Ile, Val間での置換、Lys, Arg, His間での置換、Asp, Glu間での置換、Ser, Thr間での置換を指す。特に、アミノ酸配列のN末端及び/又はC末端における欠失に関しては、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するβアミラーゼと同等の酵素活性を有すれば、アミノ酸配列のN末端及び/又はC末端において欠失されるアミノ酸の数に制限されず、そのような欠失体は試行錯誤を要することなく容易に取得可能である。ここでいう「1~数個」とは、例えば1~9個、好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、より好ましくは1~5個、より好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、又はより好ましくは1~2個の間の数を取り得る。
また、置換部位は、配列番号2に記載のアミノ酸配列のアミノ酸番号4位のトレオニンがプロリンへ変わる置換(配列番号18)、又はアミノ酸番号15位のトレオニンがリシンへ変わる置換(配列番号19)、又はアミノ酸番号15位のトレオニンがアルギニンへ変わる置換(配列番号20)、又はアミノ酸番号306位のグルタミンがアスパラギン酸へ変わる置換(配列番号21)から1つ以上、あるいは配列番号12に記載のアミノ酸配列のアミノ酸番号33位のトレオニンがプロリンへ変わる置換(配列番号22)、又はアミノ酸番号44位のトレオニンがリシンへ変わる置換(配列番号23)、又はアミノ酸番号44位のトレオニンがアルギニンへ変わる置換(配列番号24)、又はアミノ酸番号335位のグルタミンがアスパラギン酸へ変わる置換(配列番号25)から1つ以上選ばれれば、更に耐熱性に優れたβアミラーゼを得ることができる。
また、本発明のβアミラーゼは、配列番号18~配列番号25のいずれか1つに記載のアミノ酸配列又は配列番号18~配列番号25のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列又は配列番号18~配列番号25のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるβアミラーゼであってもよい。これら配列は、上記置換を有することが好ましい。アミノ酸配列の同一性は好ましくは95%、より好ましくは99%以上の同一性を有する。
【0019】
本発明における同一とは、比較対象である2つの配列を最大一致となるように整列したときに2つの配列間で対応する位置において、一致する塩基又はアミノ酸の割合(百分率)として算出される。同一性とは、ある2つの配列において以下の関数
同一性(%)=(2つの配列間で対応する位置において一致する塩基又はアミノ酸数)/(基準とする配列中の塩基又はアミノ酸の総数×100)
で表すことができる。
アミノ酸配列の解析、又は2つ、あるいはそれ以上のアミノ酸配列の同一性の比較は、当業者が一般的に用いる解析プログラムを用いて行うことができる。例えば、アミノ酸配列の解析はGENETYX-WIN Ver. 7を用い、アミノ酸配列の同一性の検索にはNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)のBLAST検索を用いることができる。塩基配列に関しても、アミノ酸配列と同様に、当業者が一般的に用いる解析プログラムで解析、検索を行うことができる。
【0020】
本発明のアミラーゼに係る酵素活性測定は、酵素が基質を分解し、分解されて出てきた糖類を定量的に測定できる方法であれば特に限定されない。例えば、ソモギー・ネルソン法のような還元糖定量法を用いて測定できる。
本発明のアミラーゼの酵素反応産物は、上記のような定量的な検出法とは別に、含有される糖の検出のみを目的とした場合、定性的な検出法を用いて検出してもよい。これは、分析対象物に含有されている糖類などが特定できれば特に限定されないが、例えば薄層クロマトグラフィー(TLC)を利用した検出法が考えられる。
【0021】
本発明のβアミラーゼは、βアミラーゼを60℃、10分間の熱処理をしても、加熱処理していないβアミラーゼと比較して最低80%の活性を有していてもよい。更に、本酵素は、60℃で20, 40, 80分間熱処理をしても、加熱処理していないβアミラーゼと比較して最低80%の活性を有していてもよい。
【0022】
本発明のβアミラーゼは、生デンプン分解活性を有していてもよい。本発明における生デンプンとは、加熱処理していない状態のデンプンである。加熱糊化したデンプンとは異なり、生デンプンは結晶・粒構造を有する。生デンプンの結晶構造は、加熱し、水和させることで破壊される。加熱温度は、生デンプンの種類によって異なるが、例えば、小麦やトウモロコシ由来のデンプンは糊化温度が高く、糊化温度は、80℃以上での加熱が必要である。
酵素の基質であるデンプンは、特定の生物によらず、例えば、大豆、小豆、大麦、小麦、トウモロコシ、イネ、ジャガイモ、サツマイモ、葛、ワラビ、緑豆、ソラマメ、蓮根、キャッサバ、サゴヤシ、カタクリ等を用いることができる。
【0023】
本発明で得られた細菌の1つの具体例は、2019年4月12日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に受託番号NITE BP-02937で受託された細菌、Bacillus halosacchalovorans No.58(本明細書において、単に「No.58株」と表すこともある)である。No.58株は、好気性の細菌で、桿状の細胞形態であり、クリーム色のコロニーを形成し、芽胞を形成するという特徴を有する。
本株は病原性を持たない菌株であるため、食品などに好適に使用できる。
本発明に係る配列番号2に記載のアミノ酸を有するβアミラーゼはNo.58株から得られた酵素である。No. 58株は配列番号1で表されるDNA配列を有し、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質であるβアミラーゼを有する。
【0024】
本発明のβアミラーゼは、例えばNo. 58株のように、配列番号1で表されるDNAを有する細菌、又は当該配列を含むベクターを有する、若しくは当該配列が組み込まれた組換え体を培養することにより得ることができる。No.58株や組換え体の培養は当業者が一般的にアミラーゼ生産で行う方法で行われ得る。また、宿主となる微生物も当業者が一般的に用いるもので行われ得る。宿主となる微生物は特に限定されないが、例えば非病原性の大腸菌、酵母、放線菌、藻類、乳酸菌、枯草菌等を用いることができる。
培養条件は宿主、発現系に合わせて適宜最適になるように調製できる。培地としては、培養対象が増殖可能なものであれば特に限定されない。培地は固体でも液体でもよいが、好ましくは液体である。
より具体的な例としては、βアミラーゼ遺伝子を、大腸菌発現用のベクターに挿入し、大腸菌を形質転換する。得られた形質転換体を、必要に応じて抗生物質を含む2mlの2×TY培地に植菌し、30℃で24時間振とう培養することにより菌体を得、これらを集菌後、超音波破砕することで破砕液中にβアミラーゼを得ることができる。
固体培地としては、例えばバナナやリンゴ、オレンジなどの果実残渣や、大豆等の豆類、または植物油の絞りかすなどの植物資源由来のバイオマス等が考えられる。
【0025】
本発明において、培養物とは、微生物を培養基質に加えて培養した、基質やその反応物、培養された菌体を含む混合物である。培養物には、培養微生物(植菌した微生物及び該微生物から増殖した微生物)、培地、培地補充/添加物、培養微生物から分泌された物質が含まれるがこれらに限定されない。培養物は、その全体又は一部が液状であっても固体であってもよい。培養物が液状のものは培養液とも呼称する。培養物は、好ましくは、培養微生物及び培養微生物からの分泌物の少なくとも1つを含んでなる。培養物は、好ましくは培養液である。
【0026】
本発明のDNAは、上記βアミラーゼをコードするDNAである。
また、本発明のDNAは、βアミラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであって、前記DNAが、
(i)配列番号1又は配列番号13で表される塩基配列
(ii)配列番号1又は配列番号13で表される塩基配列と90%以上同一の塩基配列
のいずれかを有するDNA、又は
(i)又は(ii)で表される塩基配列で表されるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであってもよい。
塩基配列について「同一」とは、上記で説明したとおりである。ストリンジェントな条件は当業者によって一般的に知られており、例えば、市販のハイブリダイゼーション溶液ExpressHyb Hybridization Solution(タカラバイオ)中、68℃でハイブリダイズする条件、又は、DNAを固定したフィルターを用いて、0.7M~1.0MのNaCl存在下で約65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍濃度のSSC溶液(1×SSC溶液:150 mM NaCl、15 mM クエン酸ナトリウム、pH7.0)を用いて約65℃で洗浄するような条件が挙げられる。塩基配列は、配列番号1又は配列番号13で表される塩基配列に対して好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上同一の塩基配列を有する。
DNA配列の置換部位は、例えば配列番号1の97番目のアデニン塩基がシトシンに変わる置換(配列番号26)、配列番号1の131番目のシトシン塩基がアデニン塩基に変わる置換(配列番号27)、配列番号1の130番目のアデニン塩基がシトシン塩基に、131番目のシトシン塩基がグアニン塩基に、132番目のアデニン塩基がシトシン塩基に変わる置換(配列番号28)、配列番号1の1003番目のシトシン塩基がグアニン塩基に、1005番目のアデニン塩基がシトシン塩基に変わる置換(配列番号29)、あるいは配列番号13の10番目のアデニン塩基がシトシンに変わる置換(配列番号30)、配列番号13の44番目のシトシン塩基がアデニン塩基に変わる置換(配列番号31)、配列番号13の43番目のアデニン塩基がシトシン塩基に、44番目のシトシン塩基がグアニン塩基に、45番目のアデニン塩基がシトシン塩基に変わる置換(配列番号32)、配列番号13の916番目のシトシン塩基がグアニン塩基に、918番目のアデニン塩基がシトシン塩基に変わる置換(配列番号33)から1つ以上選ばれれば、より耐熱性に優れたβアミラーゼを得ることができる。
また、本発明のDNAは、βアミラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであって、前記DNAが、
(i)配列番号26~配列番号33のいずれか1つに記載の塩基配列、
(ii) 配列番号26~配列番号33のいずれか1つに記載の塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列のいずれかを有するDNA、又は
(iii)(i)又は(ii)で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであってもよい。
【0027】
また、本発明のDNAは、配列番号1、配列番号13及び配列番号26~33に記載の塩基配列の縮重配列からなるDNAであってもよい。ここで、縮重とは、1つのアミノ酸をコードしているコドンが複数種類あることを指す。よって、縮重配列は、例えば、縮重配列中の1つのアミノ酸が例えばアルギニンであった場合、その塩基配列はアルギニンをコードする6種のコドン(CGU、CGC、CGA、CGG、AGA、AGG)のうちのいずれに対応する配列であってもよい。
【0028】
本発明のDNAは、当業者が一般的に行う遺伝子工学の手法を用いることで扱うことができる。配列番号1で示されるDNA配列は、対応したプライマーを用いたPCR処理により得てもいいし、配列情報を元に全合成して得てもよい。
【0029】
本発明のDNAは、本発明のDNAを有するベクターの形でも提供される。ベクターは当業者が一般的に用い、本遺伝子を組み込む用途を満たせる物であれば限定されないが、例えばpBluescript II SK (+)ベクター、pBluescript II SK(-)ベクターを用いることができる。
【0030】
本発明は、本発明のDNAを有するベクターを有する微生物を提供する。宿主となる微生物は、当業者が一般的にベクターのキャリアーとして用いるものであれば特に限定されないが、例えば非病原性の大腸菌、酵母、放線菌、藻類、乳酸菌、枯草菌等を用いることができる。
【0031】
本発明は、βアミラーゼの製造方法もまた提供する。
本発明のβアミラーゼは、βアミラーゼを含む微生物の培養液より単離することにより得てもよい。単離方法は当業者が一般的に用いる方法で行うことができる。製造方法には菌体を培養するステップと、培養物または培養菌体からβアミラーゼを抽出するステップが含まれる。
菌体を培養するステップは、No. 58株、または本発明のDNAを含む組換え微生物を培養する。組換え体となる宿主は培養ができ、タンパク質を発現させることができれば特に限定されないが、例えば非病原性の大腸菌、酵母、放線菌、藻類、乳酸菌、枯草菌等を用いることができる。
培養条件は宿主、発現系に合わせて適宜最適になるように調製できる。培地としては、培養対象が増殖可能なものであれば特に限定されない。培地は固体でも液体でもよいが、好ましくは液体である。
培養法は、培養対象が増殖可能なものであれば特に限定されない。例えば静置培養、震盪培養、嫌気培養等が利用できる。
例えばNo. 58株を用いる場合次の条件を挙げることができる。用いる培地はアミラーゼ生産菌用液体培地、2×TY 培地(実施例の表1、表2に記載)、LB培地、Nutrient Agar培地(Difco)などが挙げられる。
培地のpHは、好ましくは6.0~9.0、より好ましくはpH7.0である。
培養温度は、好ましくは20~50℃、より好ましくは45℃である。
好気的条件下で、静置培養、振とう培養又は回転培養で培養することができる。
【0032】
培養物または培養菌体からβアミラーゼを回収するステップでは、精製ステップでβアミラーゼを含む培養物または培養菌体から精製してβアミラーゼを得ることができる。酵素の精製方法は、培養物又は培養菌体からβアミラーゼを得ることができれば特には限定されないが、例えば、培養上清を遠心分離又はフィルター濾過に供して菌体や固形物などを取り除いた後、限外濾過フィルターによる濾取又は濃縮、塩析やカラムを用いたクロマトグラフィー、活性炭による吸着などを組み合わせることによって本酵素を精製できる。用いるカラムとしては、酵素を失活させずに他のタンパク質や夾雑物と分離できるものであれば特に限定されないが、陰イオン交換クロマトグラフィー用カラム、陽イオン交換クロマトグラフィー用カラム、疎水性相互作用クロマトグラフィー用カラム、ゲル濾過クロマトグラフィー用カラム、アフィニティークロマトグラフィーカラムなどを挙げることができる。例えば、疎水性相互作用クロマトグラフィー用カラムであるTOYOPEARL Butyl-650Mカラム、陰イオン交換クロマトグラフィー用であるTOYOPEARL DEAE-650Mカラムが用いられる。
粗精製、又は精製したタンパク質の検出は、試料中に含まれるタンパク質が分離、検出できれば特に限定されない方法により行うことができる。例えば、SDS-PAGEの様な電気泳動を用いた方法が用いられる。
後述の酵素活性測定、又は酵素精製などに用いる緩衝液は、実験の用途に応じて適宜変更して利用できる。緩衝液の性質は、酵素の活性や安定性に影響を及ぼさない物が好ましい。緩衝液としては、例えばTris-HClが用いられ得る。
【0033】
本発明のβアミラーゼの製造方法は、培養菌体を用いる場合、培養菌体からβアミラーゼを抽出する工程を更に含む。
培養菌体からβアミラーゼを抽出する方法は特に限定されず、当業者に公知の任意の方法であり得る。βアミラーゼは、例えば、菌体の可溶化(超音波破砕)により細胞表面の構造(例えば細胞膜)の一部又は全体を破壊して得ることができる。抽出に用いる菌体は生菌であっても死菌であってもよい。
本発明のβアミラーゼはデンプンからマルトースのみを生じさせるので、本発明のβアミラーゼの製造方法によれば、マルトースの製造が容易となる。
【0034】
本発明は、本発明のβアミラーゼでデンプンを処理することを特徴とする、マルトースの製造方法も提供する。
デンプンの酵素処理は、一般に、生デンプンを加熱して糊化したデンプンに対して行われるため、糖化する工程が酵素処理前に行われる。加熱温度は、生デンプンの種類によって異なるが、小麦やトウモロコシ由来のデンプンは糊化温度が高い。この際に、耐熱性の低いβアミラーゼを用いると、加熱したデンプンの熱により酵素が失活してしまうため、加熱糊化したデンプンを、酵素反応に適切な温度まで冷却する必要が生じる。これにより、デンプンの糖化処理に際して加熱デンプンの冷却コストが生じ、冷却時間も生じることになる。また、基質を冷却して反応させると、雑菌の繁殖リスクも増大する。
本発明のβアミラーゼは高い熱耐性を有することから、デンプンの冷却コストを低減し、及び/又は冷却時間を短縮することができるため、デンプンの糖化処理に好適に使用できる。このβアミラーゼの高い耐熱性により、加熱処理後のデンプンに加えることも、さらには、加熱処理中のデンプンに加えることも可能である。βアミラーゼ添加後の温度やpHは、上記酵素性質に記載のように、酵素がデンプンを分解できる条件であれば特に限定されないが、本発明のβアミラーゼは基質であるデンプンの温度が70℃以下の温度で添加することができ、60℃以上70℃以下で添加することができる。酵素の基質であるデンプンは、特定の生物によらず、例えば、大豆、小豆、大麦、小麦、トウモロコシ、イネ、ジャガイモ、サツマイモ、葛、ワラビ、緑豆、ソラマメ、蓮根、キャッサバ、サゴヤシ、カタクリ等を用いることができる。酵素反応は再加熱やpH調整などの薬剤処理で酵素を失活させて反応を止めることができる。
本発明のβアミラーゼにより、デンプンからマルトースを製造することができる。本発明のβアミラーゼはデンプンからマルトースのみを生じさせるので、本発明によれば、マルトースの製造が容易となる。
【0035】
本発明は、本発明の微生物でデンプンを処理することを特徴とする、マルトースの製造方法も提供する。
No. 58株は培養すると、βアミラーゼを菌体外酵素として菌体から培養液中に放出する。そのため、No. 58株をデンプンと共に培養すると、菌体外へとβアミラーゼが放出され、放出されたβアミラーゼがデンプンと反応し、マルトースができる。このように、本発明のβアミラーゼを菌体外酵素として放出できるのであれば、培養する菌体はNo. 58株に限らず、No.58株のβアミラーゼを有する組換え微生物でも構わない。この際の培養条件は培養する微生物が培養できる条件であれば特に制限されず、生育に必要なデンプン以外の物質が含まれていても構わない。
菌体外へとβアミラーゼが放出されない微生物であっても、デンプンを菌体内へ取り込み、菌体内のβアミラーゼによってデンプンをマルトースに変換し、マルトースが菌体外へと放出されるのであれば、用いる組換え微生物はβアミラーゼを菌体外酵素として放出できる微生物に限らないが、βアミラーゼが菌体外へと放出される微生物が好ましい。
本発明のβアミラーゼを有する微生物により、デンプンからマルトースを製造することができる。本発明のβアミラーゼを有する微生物は、デンプンからマルトースのみを生じさせるため、マルトースの製造が容易となる。
【0036】
本発明は、本発明のβアミラーゼで生デンプンを処理することを特徴とする、マルトースの製造方法も提供する。
従来のβアミラーゼは、生デンプンに対する活性が低く、生デンプンをそのまま基質として利用することには不向きである。本発明のβアミラーゼは、生デンプンに対する高い酵素活性を保有するので、生デンプンの酵素処理に好適に使用できる。生デンプンの状態は酵素が反応できる状態であれば特に限定されないが、水溶液中に懸濁された状態であることが好ましい。βアミラーゼ添加後の温度やpHは、上記酵素性質に記載のように、酵素がデンプンを分解できる条件であれば特に限定されない。酵素の基質であるデンプンは、特定の生物によらず、例えば、大豆、小豆、大麦、小麦、トウモロコシ、イネ、ジャガイモ、サツマイモ、葛、ワラビ、緑豆、ソラマメ、蓮根、キャッサバ、サゴヤシ、カタクリ等を用いることができる。酵素反応は加熱やpH調整などの薬剤処理で酵素を失活させて反応を止めることができる。
本発明のβアミラーゼにより、生デンプンからマルトースを製造することができる。
【0037】
本発明は、本発明のβアミラーゼ、又は本発明の微生物を用いる食品の改質方法も提供する。
食品の改質とは、食品の特性を変化させることを指す。本発明においては、デンプンなどα-1,4グルコシド結合を有する多糖類を含む食品の性質を好ましい形態にすることを指す。例えば、焼成前のパン生地などに本発明の酵素を配合することによる、パン生地の触感の改善、パン容積の増大、パン製品の老化防止(柔らかさの維持)、冷凍または冷蔵保管したパン生地の焼き色の赤色化の防止、モチの柔らかさの維持などがある。使用できる食品は特に限定されないが、好ましくは、デンプンなど上記α-1,4グルコシド結合を有する多糖類を含む食品である。例えばパン、モチ、ドーナッツ、パイ、ピザ、饅頭等の生地が挙げられる。原料としても、小麦由来の原料に限らず、大豆、小豆、大麦、トウモロコシ、イネ(コメ)、ジャガイモ、サツマイモ、葛、ワラビ、緑豆、ソラマメ、蓮根、キャッサバ、サゴヤシ、カタクリ等を用いることができる。
【0038】
本発明によるβアミラーゼは、熱耐性及び生デンプンへの活性があるため、食品の改質操作へと好ましく使用することができる。また、No. 58株は、菌体外酵素としてβアミラーゼのみを有するため、パン生地にαアミラーゼやグルコアミラーゼを用いた際に起こる過剰なデンプンの分解やメイラード反応を起こさない。そのため、No. 58株はこれらに用いる精製βアミラーゼの供給源としてきわめて有用である。また、生成物がマルトースのみである場合、食品のできあがりをまろやかな味にできるという利点を有する。本酵素が有する耐熱性により、基質の反応の制御が行いやすい利点も有する。植物由来のβアミラーゼの多くが、至適pHが酸性側にあるため、酵素処理のためにpH調整剤が必要となることが多いのとは異なり、本酵素の至適pHは中性の7付近にあるため、pH調整剤が不要であることもあり得る。本酵素の生デンプンへの活性は糊化していないデンプン質へと作用させることができるため、幅広い範囲のデンプン製品やデンプンを含む基質に用いることもあり得る。
【0039】
また、本酵素は優れた熱耐性を有するが、80℃以上の高温でも酵素活性を有するわけではなく、80℃以上の高温では酵素活性が失われる。この性質により、本酵素はパン生地などに本酵素を練り込み焼成させた際は、焼成の過程で酵素活性を失わせることができる。これは焼成の始まりから途中などの、酵素を反応させたい時間だけは基質に対して酵素を反応させつつ、最終的には酵素活性を失わせるような調製を容易に行うことができる。
【0040】
本発明は、本発明のβアミラーゼ、又は本発明の微生物を含む酵素剤の形態でも提供される。酵素剤中の本酵素は精製酵素であっても、培養上清のような粗酵素の段階でも構わない。酵素剤はβアミラーゼ単体のみで構成されていても、その酵素性質を大きく損なわない範囲で添加物を適宜配合してもよい。酵素剤の形態としては、例えば、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤などが挙げられる。酵素剤は、スプレーのような噴霧器内に封入されていてもよく、アミラーゼの他にも酵素を含んでいてもよい。
本酵素と共に含む酵素としては、例えば枝切り酵素、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、グルコシダーゼ、グルコアミラーゼ、αアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスファターゼ、キシラナーゼ等が挙げられ、これらの酵素を1つ以上組み合わせて用いてもよい。
【0041】
添加物としては、例えば、結合剤(アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガント、ポリビニルピロリドンなど)、充填剤(乳糖、砂糖、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシンなど)、崩壊剤(結晶セルロースなど)、非水性賦形剤(アーモンド油、分画ココヤシ油又はグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エチルアルコールのような油性エステルなど)、保存剤(p-ヒドロキシ安息香酸メチル若しくはプロピル、ソルビン酸、トコフェロールなど)、pH調整剤(炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、クエン酸塩、酢酸塩など)、増粘剤(メチルセルロースなど)、酸化防止剤(ビタミンC、ビタミンEなど)、香料(合成香料、天然香料、エステル類など)、乳化剤(レシチン、ソルビタンモノオレエート、ショ糖脂肪酸エステルなど)、膨張剤(炭酸アンモニウムなど)、懸濁化剤(シロップ、ゼラチン、水添加食用脂など)等が挙げられる。
本酵素剤は、デンプンなどα-1,4グルコシド結合を有する多糖類を、マルトース単位で分解しマルトースを生産する用途や、食品の改質の用途等で広く使用され得る。例えばパン、モチ、ドーナッツ、パイ、ピザ、饅頭等の生地に酵素剤を添加することが挙げられる。また、デンプンを有する小麦、大豆、小豆、大麦、トウモロコシ、イネ(コメ)、ジャガイモ、サツマイモ、葛、ワラビ、緑豆、ソラマメ、蓮根、キャッサバ、サゴヤシ、カタクリ等の穀物そのものや、その破砕物へ添加することができる。酵素剤の添加前に破砕や加熱、薬剤処理などの前処理を行ってもよい。酵素剤を添加後の処理条件は、適宜当業者によって定められ得る。
【0042】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
実験1:耐熱性βアミラーゼを有する細菌のスクリーニングと同定
土壌試料からβアミラーゼ生産耐熱性菌の単離・分離を行った。スクリーニング元の土壌は、大阪府内の土壌から得られた。この土壌からデンプン資化性菌株を単離した。単離した株はアミラーゼ生産菌用培地(表1)で培養した。
【0044】
【表1】
基本的なpHは7.0にし、実験に応じて培地組成とpHを変更した。スクリーニングに用いる際は、pH7.0に調整後、上記組成に加えて1.0%ゲランガムが加えられ、プレート上で固化して使用した。
【0045】
単離したデンプン資化性菌株を1白金耳取り、6mlのアミラーゼ生産菌用液体培地が入った試験管に植菌し、60℃で3日間振盪培養を行った。培養終了後、培養液を遠心分離(3200rpm, 10分, 4℃)することで培養上清を回収し、これを粗酵素サンプルとした。この粗酵素サンプル100μlに、100μlの基質溶液(1.5%可溶性デンプン(メルク社製), 100mM pH7.0Tris-HCl, 5mM CaCl2)を加え、37℃で一晩反応させた。反応後の反応溶液5μlを薄層クロマトグラフィーに供した。
【0046】
薄層クロマトグラフィー(TLC)
薄層クロマトグラフィーに用いるシリカゲルプレートはシリカゲル60 F254(メルク社製)を用いた。
展開溶媒は1-ブタノール/エタノール/クロロホルム/25%(w/w)アンモニア溶液:(4/5/2/8, v/v/v/v)のものを用いた。
マルトースの検出には展開後のシリカゲルプレートに対して検出液(1%バニリン含有濃硫酸)を3度吹きつけ、120℃で数分間加熱することで発色させることによって検出させた。
【0047】
TLCの結果を図1に示す。スクリーニングの結果、いくつかのマルトース生産株を獲得した。これらの株を精査したところ、1株が可溶性デンプンからマルトースのみを生産することを確認した(図1:枠内のNo.58。cはコントロール)。これによりマルトース生成能が高いNo. 58株を獲得した。
【0048】
アミラーゼ活性測定(還元糖定量法)
酵素サンプル(培養上清や後述の粗精製又は精製酵素)100μlを試験管に取り、37℃で10分間プレインキュベートした。基質溶液(1.5% 可溶性デンプン, 100mM Tris-HCl, 5mM CaCl2, pH 7.0, 37℃)100μlを加え、37℃で10分間反応させた。酵素反応の停止はDNS溶液(0.5% ジニトロサリチル酸, 0.4N NaOH, 30% 酒石酸カリウムナトリウム4水和物)を400μl添加することで行った。次いで、混合溶液を100℃にて5分間煮沸後、冷水にて5分間冷却し、蒸留水を1.8ml添加して攪拌した。攪拌溶液について、分光光度計にて480nmの吸収を測定した。酵素サンプルの代わりに蒸留水を用いて反応させたものをブランクとし、酵素サンプルについての測定値からブランクについての測定値を減じた。酵素活性の1ユニット(U)は1分間に1μmolのマルトースを生成する酵素量と定義した。以下の実験における酵素反応も特に言及が無ければこの方法で行った。
タンパク質の濃度は分光光度計にて280nmの吸収を測定することで行った。
【0049】
βアミラーゼの確認
獲得したNo. 58株が有するアミラーゼの、温度安定性の評価を行った。獲得したNo. 58株を培養し、培養上清を回収して培養上清サンプルとした。適度に希釈した培養上清サンプルをマイクロチューブに入れ、60℃で保温後、10、20、40、80分後にサンプリングし、氷上で冷却した。冷却後のサンプルの残存酵素活性を、還元糖生成量を定量することで測定し、獲得したアミラーゼの60℃での温度安定性を評価した。なお、コントロールとして、Brevibacillus sp. TMK-672株(TBA株)由来βアミラーゼを同様に処理し、得られたサンプルを用いた。この結果を図2に示す。データは処理時間0分の値を100%として相対値で示した。図2のNo. 58は本発明の株、TBAは比較対象を表す。さらに、得られたアミラーゼがβアミラーゼかどうかの確認は、還元糖生成量と相対KI/I2値の関係を求めることで行った。
【0050】
相対KI/I2値は次のように求めた。
酵素溶液200μlを試験管に取り、37℃で10分プレインキュベートし、同じくプレインキュベートした基質溶液を400μl添加後、37℃で10分反応させ、1 mlの反応停止液(0.5N酢酸と0.5N HClを5:1に混合したもの)を添加することで反応を停止した。反応停止後の反応液200μlを別の試験管に取り、5mlのヨウ素溶液(0.005% I2, 0.05% KI)を添加し、20分後に分光光度計で660 nmの吸収を測定した。還元糖量が0の際の相対KI/I2値を100%とした。測定するサンプルの濃度を適宜変え、この値を前述した還元糖定量法によって得られた値に対してプロットした。αアミラーゼのポジティブコントロールとして、ヒト唾液由来αアミラーゼ、βアミラーゼのポジティブコントロールとしてTMK-672株由来βアミラーゼを用い比較することで得られた株由来のアミラーゼがβアミラーゼかを判定した。この結果を図3に示す。図3のHSAはヒト唾液由来αアミラーゼを示す。
【0051】
図2の結果より、No. 58株由来の酵素は調べた時間内において活性の低下が全く起こらず、温度安定性が非常に高い酵素であることが明らかとなった。図3の結果、No. 58株由来の酵素はTMK-672株由来βアミラーゼとプロットが一致したことから、本酵素がデンプン鎖を、デンプン鎖の非還元末端側からマルトース単位で切断するβアミラーゼであることが明らかとなった。
【0052】
染色体DNAの調製
No. 58株を2 ×TY 液体培地(表2)100mlに植菌し、37℃で2日間培養し、菌体を遠心分離(6,000rpm, 10分, 4℃)にて回収した。次に、Solution I(50mM グルコース, 25mM Tris-HCl, EDTA, pH8.0)9mlで懸濁後、数mgのリゾチームを加え、37℃で2時間以上インキュベートした。
【0053】
【表2】
pHは7.0に調製した。
実験によっては、培地に100μg/mlの組成のアンピシリンを加えた。
【0054】
その後、培養菌体を含むSolution I溶液に、10% SDS溶液を終濃度が0.5%になるように加え、10分間振盪した。さらに、この混合溶液に、5M NaCl溶液をNaClの終濃度が0.7M以上になるように加え、10分間振盪した。その後、フェノール/クロロホルム抽出を行い、得られたフェノール/クロロホルム添加溶液を遠心分離(13,500rpm, 10分, 4℃)して水層と油層に分離し、水層を回収した。この得られた回収物に氷冷した2-プロパノール12mlを加え、転倒混和後、DNAの沈殿をパスツールピペットで吸い上げて回収した。このDNAを70%エタノール30mlで2回リンスした後、新しいチューブに移し、減圧下で乾燥した後、TEバッファー(10mM Tris-HCl, 1mM EDTA, ph8.0)500μlに懸濁した。懸濁液に、RNase A溶液(10mg/ml)を5μl加え、37℃で30分インキュベートした後、再度フェノール/クロロホルム抽出を行った。ここに3M酢酸ナトリウム50μlと氷冷した2-プロパノール500μlを加え、氷上で10分放置した。DNA沈殿をパスツールピペットで吸い上げて回収し、70%エタノール1mlで2回リンスした後、空のチューブに移し、減圧下で乾燥し、TEバッファー300μlに溶解した。
【0055】
16S rRNAの取得及び解析
16S rRNA遺伝子を、PCRにより増幅した。鋳型には、抽出した染色体DNAを、プライマーには、細菌16S rRNA 遺伝子の中で高度に保存されている領域をもとに設計されたフォワードプライマー (5´- AGRRTTTGATYHTGGYTCAG 3´:配列番号3) とリバースプライマー (5´- TGACGGGCGGTGTGTACAAG -3´:配列番号4)を用いた。16S rRNA領域のPCRによる増幅は、PrimeSTAR HS DNA polymerase (タカラバイオ社製)を用いて行い、温度サイクルは、98℃ 10秒、55℃ 5秒, 72℃ 90秒のサイクルを30サイクル行った。得られたPCR産物を、EcoR Vで消化したpBluescript II SK (+) (Stratagene社製)に挿入し、大腸菌に形質転換後、プラスミドを抽出した。シークエンス解析はEurofins Genomics社に委託した。塩基配列の解析はGENETYX-WIN Ver. 7 (ゼネティックス)を用い、塩基配列の同一性の検索にはNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)のBLAST検索を用いた。
【0056】
これらの解析により、本発明のNo. 58株をBacillus halosaccharovorans No. 58株(No.58株)と同定した。この株を2019年4月12日に独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託した。受託番号はNITE BP-02937である。
【0057】
実験2 βアミラーゼの精製
No. 58株の大量培養と粗酵素液の取得
アミラーゼ生産菌用培地の組成を、1.5%デキストリン, 0.3%ペプトン,0.3%酵母エキス,0.3%CaCl2に変更した培地650mlが入った2.0 L三角フラスコ8本に、45℃で48時間震盪培養したNo. 58株溶液6.5mlをそれぞれ植菌し、45℃で48時間震盪培養した。No. 58株の培養液を遠心分離(9,000rpm, 60分, 4℃)することで培養上清を回収し、粗酵素液とした。
タンパク質の濃度は分光光度計にて280nmの吸収を測定することで行った。
【0058】
TOYOPEARL Butyl-650Mカラムによる精製
得られた培養上清5.0 Lに対して、20%飽和となるように硫酸アンモニウム570gを攪拌しながら少しずつ添加し溶解した。溶解後、遠心分離(10,800rpm, 60分, 4℃)することで上清を回収した。20%飽和硫酸アンモニウムを含む20mM Tris-HClバッファー(pH7.0)で平衡化したTOYOPEARL Butyl-650M 100mlに、回収した上清を流し、同バッファー2.0 Lにて洗浄した。20-0%飽和硫酸アンモニウムを含む20mM Tris-HClバッファー(pH7.0)のリバースリニアグラジエント(1.0 L)にて吸着物質の溶出を行い、10mlずつ分画した。各画分の活性を測定し、βアミラーゼ活性を示す画分を回収し、80%飽和濃度となるように硫酸アンモニウムを添加・溶解し、一晩4℃で沈殿を形成させた。これを遠心分離(10,800rpm, 30分, 4℃)することで沈殿物を回収した。回収した沈殿物を、少量の20mM Tris HClバッファー(pH7.0)で溶解し、透析膜を用いて大過剰量の20mM Tris-HCl バッファー(pH7.0)に対して透析した。
【0059】
TOYOPEARL DEAE-650Mカラムによる精製
得られた透析サンプルを、20mM Tris-HClバッファー(pH7.0)で平衡化したTOYOPEARL DEAE-650M(100ml)に流し、同バッファー500mlにて洗浄した後、0-300mM NaClを含む20mM Tris-HCl バッファー(pH7.0)のリニアグラジエント(1.0 L)で吸着物質の溶出を行い、10mlずつ分画した。各画分の活性を測定し、βアミラーゼ活性を示す画分を回収し、硫安沈殿後、大過剰の20mM Tris-HCl バッファー(pH7.0)に対して透析した。
【0060】
SDS-PAGE
SDS-PAGEはLaemmliの方法に従った(Laemmli U.K., Nature, 227, 680-685, 1970)。
分離ゲル12.5%、濃縮ゲル5.0%からなるポリアクリルアミドゲル(アクリルアミド:N , N’-メチレンビスアクリルアミド=29.2:0.8)を作製した。試料サンプルに6 ×サンプルバッファー(0.375M Tris-HCl,60%グリセロール,6%2-メルカプトエタノール,0.003%ブロモフェノールブルー, pH6.8)を添加し、100℃で10分処理した。縦型スラブ電気泳動装置(ATTO社製)を用い、ポリアクリルアミドゲルに6×サンプルバッファーを添加して加熱した試料サンプルを加え、泳動用バッファー(0.1% SDS,25mM Tris,192mMグリシン)中で、20mAの定電流下により電気泳動を行った。電気泳動後、CBB溶液(0.2%クマシーブリリアントブルーR-250,50%エタノール,10%酢酸)中で染色を行い、脱色液(10%メタノール,7.5%酢酸)で脱色した。タンパク質の分子量マーカーにはProtein Molecular Weight Marker(Broad)(タカラバイオ社製)を用いた。
【0061】
これら一連の精製実験の結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
一連の精製実験により得られた精製酵素を、SDS-PAGEに供した結果を図4に示す。図4より、精製により分子量59.4kDaを示すシングルバンドが得られ、本酵素が単一酵素として精製できたことが示された。以後、得られた精製酵素を用いた。
【0064】
実験3:βアミラーゼ配列解析
N末端アミノ酸配列解析
精製標品を用いてSDS-PAGEを行った後、ゲルをブロッティング液C(0.02% SDS, 25mM Tris, 20%メタノール, 25mMホウ酸)中で5分間軽く振盪した。ゲルサイズに切った濾紙を6枚用意し、ブロッティング液A(0.02% SDS, 300mM Tris, 20%メタノール)、ブロッティング液B(0.02% SDS, 25mM Tris, 20%メタノール)、ブロッティング液Cにそれぞれ2枚ずつ浸し、15分間振盪した。また、PVDF膜(MILLIPORE社製)をゲルサイズに切り、メタノール中で10分間振盪後、ブロッティング液Cに15分間浸した。次に、セミドライ式ブロッティング装置(Bio-Rad社製)のマイナス極側から濾紙2枚(ブロッティング液C)、ゲル、PVDF膜、濾紙2枚(ブロッティング液 B)、濾紙2枚(ブロッティング液 A)の順に重ね、ゲル1cm2あたり2mAの定電流で50分間泳動し、タンパク質のPVDF膜への転写を行った。転写後のPVDF膜を超純水で軽く洗った後、ポンソーS染色液(0.1% Ponceau S, 5%酢酸)で5分間染色後、超純水で脱色した。目的のバンドの部分を切り取り、チューブ内に回収し乾燥させた。シーケンス解析は北海道大学グローバルファシリティセンター機器分析受託サービスに委託した。
N末端アミノ酸配列を解析した結果,H2N-Glu-Ile-Lys-Thr-Asp-Tyr-Lys-Ala-Ser-Val-であることがわかった。
【0065】
βアミラーゼ遺伝子のクローニング
βアミラーゼ遺伝子をPCRにより増幅した。鋳型には実験1に記載の方法で調製したNo.58株染色体DNA、プライマーには細菌βアミラーゼの中で高度に保存されている領域をもとに設計したフォワードプライマー(5’-GTNTGGTGGGGNTAYGTNGA-3’:配列番号5)とリバースプライマー(5’-GGRTTRTTCATYTGCCARTG-3’:配列番号6)を用いた。PCR 増幅はPrimeSTAR HS DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用いて行い、温度サイクルは98℃ 10秒,55℃ 5秒,72℃ 50秒のサイクルを30サイクル行った。得られたPCR産物を、制限酵素であるEcoR Vで消化したpBluescript II SK(-)にライゲーションし、大腸菌に形質転換後した。2mlの2×TY培地(100μg/ml アンピシリンを添加)に植菌し、30℃で24 時間震盪培養した。形質転換後の大腸菌から、プラスミドを抽出し、シークエンス解析を行うことでプラスミド中にβアミラーゼ配列が含まれていることを確認した。この取得した遺伝子を含むプラスミドを鋳型として、決定したβアミラーゼ遺伝子配列から設計したプライマーPS-F(5’-GGCAGCCCAGGTAATTTCTAC-3’:配列番号7)と、PS-R(5’-GGAGGGTTGACTTCACTCCA-3’:配列番号8)を用い、DIG(ジゴキシゲニン)標識プローブを合成した。No. 58株ゲノムDNAを、10種の制限酵素(Sac I, BamH I, Xba I, Sal I, Sph I, Hind III, Bgl II, Spe I, Nhe I, Xho I)と、取得した遺伝子中に切断サイトが存在するEcoR I,Kpn Iを、それぞれ組み合わせもので一晩消化させ、合成したプローブを用いたサザンブロット解析を行った。これより、約6.3kbのBgl II消化遺伝子断片に目的遺伝子全長が含まれていることが予想されたため、約 6.3kbの大きさに相当するBgl II消化遺伝子断片を回収し、BamH I制限酵素で消化したpBluescript II SK(-)にライゲーション後、大腸菌に形質転換した。目的遺伝子を含むプラスミドはプローブの作製時に使用したプライマーを用いたPCR法によるスクリーニングを行うことで取得した。取得したプラスミドは様々な制限酵素で消化し、pBluescript II SK(-)にサブクローニングした後、シークエンス解析を行った。
【0066】
シークエンス解析の結果を図5に示す。得られた配列は2536bpからなり(配列番号11)、そのうち本遺伝子は、1,659bpからなるオープンリーディングフレーム(ORF)(配列番号1)から構成され、開始コドンの上流6bpにリボソーム結合部位(RBS)、上流56bp付近に-10領域、上流82bp付近に-35領域から構成されるプロモーター領域が存在することがわかった。
【0067】
推定されるアミノ酸配列を解析した結果、本遺伝子は552アミノ酸からなる前駆体タンパクとして合成されることがわかった(配列番号12、対応する塩基配列は配列番号1)。決定したN末端領域のアミノ酸配列と完全に一致する配列が存在し、この配列から29アミノ酸からなるシグナル配列(図中下線で示す)が存在し、成熟型タンパクは523アミノ酸から構成され、アミノ酸配列から計算される分子量は59,403であることがわかった(配列番号2、対応する塩基配列は配列番号13)。成熟型タンパクは、N末端領域にGlycoside hydrolase family 14(GH14)に分類される触媒ドメインと、C末端側にCarbohydrate-binding module 20(CBM20)に分類される基質結合ドメインから構成されることがわかった。
【0068】
実験4:βアミラーゼの諸性質の検討
最適pHおよびpH安定性
βアミラーゼの最適pHを決定するために、pH4.0, 4.5, 5.0, 5.5, 6.0, 6.5, 7.0, 7.5, 8.2, 8.5, 9.0, 9.5, 10.0, 10.75の50mMユニバーサルバッファー(マッケルベイン緩衝液)中で、pH以外は上記アミラーゼ活性測定と同様の方法で、精製酵素と基質とを反応させ酵素活性を測定した。また、pH安定性を確認するため、酵素溶液をpH3.0, 3.5, 4.0, 4.5, 5.0, 5.5, 6.0, 6.5, 7.0, 7.5, 8.2, 8.5, 9.0, 9.5, 10.0, 10.75の50mMユニバーサルバッファー中に加え、それぞれの混合溶液を、4℃で16時間静置した。この混合溶液を、100 mM Tris-HClバッファー(pH7.0)にて10倍希釈することでpHを7.0に戻した。これらの希釈混合溶液を、上記アミラーゼ活性測定と同様の方法で37℃にて10分間反応させることでその残存活性を測定した。pH最適性の測定結果を図6に、pH安定性に関する測定結果を図7に示す。図6図7において、縦軸は測定された最大活性値を100%とした相対活性値である。図6より、pH7.0付近で本酵素は最大の活性を示した。図7より、本酵素はpH5.0~9.0の範囲で80%以上の残存活性を示すことが明らかとなった。
【0069】
最適温度および温度安定性
βアミラーゼの最適温度を決定するため、酵素溶液を37~70℃の各温度で、温度以外は上記アミラーゼ活性測定と同様の方法で、10分間酵素溶液と基質とを反応させ酵素活性を測定した。また、温度安定性は、酵素溶液(20 mM Tris-HCl バッファー, pH 7.0)を37, 45, 50, 55, 60, 65, 70℃で30分処理後、冷却し、上記アミラーゼ活性測定と同様の方法で37℃にて10分反応させることでその残存活性を測定した。また、60℃および65℃については、処理時間のタイムコース(15,30,45,60,75分)を取り、その残存活性についてダイズβアミラーゼ、Brevibacillus sp. TMK-672株由来βアミラーゼ、Bacillus cereus由来βアミラーゼ、オオムギ由来βアミラーゼについても同様に測定し、結果を比較した。図8に最適温度の測定結果を、図9に60℃での各βアミラーゼの残存活性を、図10に65℃での各βアミラーゼの残存活性を示した。図8は、測定された最大活性値を100%とした相対活性値を各温度に対して示した。図9、10の処理時間のグラフでは、処理時間0分の値を100%としてそれぞれ相対値として示した。図8より、本酵素の最適温度が50℃付近であることが分かった。図9からは、大麦由来βアミラーゼ、Bacillus cereus由来βアミラーゼ、Brevibacillus sp. TMK-672株由来βアミラーゼの順に活性が低下し、耐熱性を有することで知られているダイズ由来βアミラーゼで60~80分の処理後に80%程度の残存活性を示した。一方、No. 58株由来βアミラーゼは、大豆由来βアミラーゼよりも優れた耐熱性を示し、本実験の熱処理後でも100%の残存活性を維持した。図10より、65℃における熱処理は、30分の処理後の残存活性はダイズ由来酵素で25%程度、No. 58株由来酵素で40%程度となった。この数値から本発明のβアミラーゼは65℃でも大豆由来βアミラーゼ等に比べて優れた熱耐性を示すことが示された。
【0070】
生デンプン分解活性
βアミラーゼの生デンプンに対する分解活性を比較するための実験を行った。生デンプンとしては、トウモロコシ由来の物及び小麦由来の物を用いた。各生デンプン1.0mg/mlを、20mM Tris-HClバッファー(pH 7.0)、5 mM CaCl2、酵素0.1μg/mlの存在下で反応させ、適量の反応液を0.4ml DNS溶液が入った試験管に添加することで反応を停止させ、実験1に記載の還元糖定量方法によって生デンプン分解活性を評価した。βアミラーゼとしては、本発明のβアミラーゼ、オオムギ由来のβアミラーゼ、大豆由来のβアミラーゼを各々用いた。オオムギ由来のβアミラーゼは、生デンプンの分解活性があることで知られ、大豆由来のβアミラーゼは生デンプンの活性は弱いが耐熱性が高いことで知られている。小麦由来デンプンは60℃、トウモロコシ由来のデンプンは70℃で反応させた。小麦由来デンプンに対する反応結果を図11に、トウモロコシ由来デンプンに対する反応結果を図12に示した。図11より、小麦由来の生デンプンに対して、オオムギ由来のβアミラーゼ及び大豆由来のβアミラーゼも分解活性はほぼ見られなかったが、本発明のβアミラーゼは、生デンプンを24時間で65%分解した。図12の結果も同様に、トウモロコシ由来生デンプンに対して、オオムギ由来のβアミラーゼ及び大豆由来のβアミラーゼは分解活性がほぼ見られなかったが、本発明のβアミラーゼは、生デンプンを8時間で27%分解した。これらの結果より、本酵素が、生デンプン分解活性が比較的高いオオムギ由来酵素が反応できないような高温条件で生デンプンを良好に分解した。また、温度安定性は高いが生デンプン分解活性が弱い大豆由来酵素は、生デンプンの分解は見られない。これらの結果より、No. 58株のβアミラーゼは、生デンプンを分解する能力が高く、その活性についても耐熱性が高いことが明らかとなった。
【0071】
実験5
βアミラーゼ遺伝子の大腸菌における発現
No. 58株由来のβアミラーゼ遺伝子を大腸菌内で異種発現させた。βアミラーゼ遺伝子を大腸菌において発現させるために、まずβアミラーゼ遺伝子のコード領域とリボソーム結合部位を含むDNA断片を、βアミラーゼ遺伝子を含むプラスミドを鋳型に、プライマーRBS-F(5’-CCGAGCTCCTCGAGGCGTTTGCTTAGGTTTACGTA-3’:配列番号9)およびexp-R(5’-CCCTGCAGGATCCTACCACTGTATTGTATAACTTG-3’:配列番号10)を用いたPCRにて増幅した。増幅されたDNA断片をXho IとPst Iで切断し、同制限酵素で切断したpBluescript SK (-) に挿入してE. coli BL21 (DE3)を形質転換した。PCRの条件は実験3の方法と同様である。得られた形質転換体を、2mlの2×TY培地(100μg/ml アンピシリンを添加)に植菌し、30℃で24 時間振とう培養した。遠心分離(10,000rpm,2分,4℃)で菌体を回収し、1mlの20mM Tris-HClバッファー pH7.0,5mM CaCl2に懸濁後、Handy sonic disruptor UD1(トミー精工社製)を用い、30秒×4回のサイクルで超音波破砕した。破砕液を遠心分離(15,000rpm,10分,4℃)した上清を粗酵素として、アミラーゼ活性を測定したところ、可溶性デンプンを基質として還元糖の生成を確認した。TLCを用いて反応産物を検出したところ、マルトースのみであった。酵素活性は培養液1ml当たり55.1U/mlであった。
【0072】
実験6 βアミラーゼ遺伝子への部位特異的変異導入
No. 58株由来のβアミラーゼ遺伝子に対して部位特異的変異導入を行い、変異酵素を作製、その酵素活性を測定した。
βアミラーゼ遺伝子への部位特異的変異導入は、PCR-mega primer法にて行った。まず、βアミラーゼ遺伝子のコード領域とリボソーム結合部位を含むプラスミドを鋳型に、下記表4に示した4種の変異導入プライマー(配列番号14~17)とexp-Rプライマー(配列番号10)を用い、「βアミラーゼ遺伝子のクローニング」と同様の方法でPCRを行いmega primerを得た。
次に、得られたmega primerとRBS-Fプライマー(配列番号9)、上記βアミラーゼ遺伝子のコード領域とリボソーム結合部位を含むプラスミドを鋳型に、同様の方法にてPCRを行うことで、変異が導入されたβアミラーゼ遺伝子全長を取得した。この遺伝子断片を実験5と同様の方法を用いることで発現プラスミドを構築し、それらをE. coli BL21 (DE3) 株に形質転換することで、βアミラーゼ変異酵素を生産する形質転換体を得た。
【0073】
【表4】
【0074】
得られた各形質転換体を実験5と同様の方法を用いて培養、菌体を破砕することで粗酵素を得た。この粗酵素に対して、実験2と同様の方法を用いて粗酵素を精製した。各変異酵素の精製結果を図13に示す。
これらの精製酵素に対して、「βアミラーゼの確認」と同様に温度安定性の評価を行った。各酵素試料をマイクロチューブに入れ、65℃で保温後、15、30、60分後にサンプリングし、氷上で冷却した。冷却後のサンプルの残存酵素活性を、還元糖生成量を定量することで測定し、獲得したアミラーゼの65℃での温度安定性を評価した。なお、コントロールとして未変異の精製酵素も同様に処理し温度安定性を評価した。この結果を図14に示す。データは処理時間0分の値を100%として相対値で示した。図14のwtは本発明のNo. 58株のβアミラーゼ、T4P,T15K,T15R,Q306Dはそれぞれ変異酵素を表す(例えば、T4Pの場合、配列番号2の4番目のアミノ酸残基TがPに変異していることを示す)。
60分後の残存活性は,変異前のβアミラーゼが37.7%であるのに対して、T4Pは80.9%,Q306DEは50.1%,T15Kは44.4%,T15Rは44.2%となり、得られた変異酵素は変異前のβアミラーゼと比較して熱安定性が向上していることが明らかとなった。
なお、得られた4種の形質転換体が有するβアミラーゼ変異酵素は、それぞれ配列番号2に記載のアミノ酸配列のアミノ酸番号4位のトレオニンがプロリンへ変わる変異(配列番号18:図14のT4P)、又はアミノ酸番号15位のトレオニンがリシンへ変わる変異(配列番号19:図14のT15K)、又はアミノ酸番号15位のトレオニンがアルギニンへ変わる変異(配列番号20:図14のT15R)、又はアミノ酸番号306位のグルタミンがアスパラギン酸へ変わる変異(配列番号21:図14のQ306D)を有している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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