(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】検体搬送システム、および検体の搬送方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/02 20060101AFI20250313BHJP
G01N 35/04 20060101ALI20250313BHJP
【FI】
G01N35/02 C
G01N35/04 G
(21)【出願番号】P 2023505108
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2021044363
(87)【国際公開番号】W WO2022190485
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2021039059
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】原田 雅隆
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0108522(US,A1)
【文献】特開2011-241004(JP,A)
【文献】特開2018-096981(JP,A)
【文献】特表2018-535405(JP,A)
【文献】特開2020-112459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/02
G01N 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を備え、検体を収容する検体容器を搬送する検体ホルダと、
前記検体ホルダが摺動する搬送面と、
前記搬送面の下面側に配置されており、前記検体ホルダを電磁力により搬送する複数の磁極と、
前記検体容器、または前記検体ホルダの少なくともいずれか一方に設けられた識別部と、
前記識別部を読み取る読取部と、
前記搬送面の上面側に固定して設けられ、前記検体ホルダと接触する回転力発生用板部材と、
前記磁極の励磁状態を制御する制御部と、を備え、
前記回転力発生用板部材は、直線部及び傾斜部と、少なくとも第1回転力発生用板部材と、前記第1回転力発生用板部材と平行に配置された第2回転力発生用板部材と、を有しており、
前記読取部は、前記検体ホルダの進行方向に1つ以上設置されており、
前記検体ホルダを前記回転力発生用板部材に接触させながら搬送することで前記検体ホルダを搬送と同時に回転させ、前記回転の際に前記読取部により前記識別部を読み取り、
前記制御部は、前記識別部の読み取りに失敗した場合は、前記検体ホルダを異なる前記回転力発生用板部材に搬送し、異なる前記回転力発生用板部材と接触させながら搬送する
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項2】
磁性体を備え、検体を収容する検体容器を搬送する検体ホルダと、
前記検体ホルダが摺動する搬送面と、
前記搬送面の下面側に配置されており、前記検体ホルダを電磁力により搬送する複数の磁極と、
前記検体容器、または前記検体ホルダの少なくともいずれか一方に設けられた識別部と、
前記識別部を読み取る読取部と、
前記搬送面の上面側に固定して設けられ、前記検体ホルダと接触する回転力発生用板部材と、を備え、
前記回転力発生用板部材は、直線部及び傾斜部を有しており、かつ前記搬送面を鉛直方向上方側から見たときに、前記磁極と隣接する前記磁極との間に配置されており、
前記検体ホルダを前記回転力発生用板部材に接触させながら搬送することで前記検体ホルダを搬送と同時に回転させ、前記回転の際に前記読取部により前記識別部を読み取る
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の検体搬送システムにおいて、
前記回転力発生用板部材は、配列された複数の前記磁極に沿うように設置されている
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の検体搬送システムにおいて、
前記回転力発生用板部材は、前記検体ホルダの側面下部と接触するように設置されている
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項5】
請求項1または2に記載の検体搬送システムにおいて、
前記回転力発生用板部材は、前記磁極の中心から搬送する前記検体ホルダとの接触部分の半径未満の距離に設置されている
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項6】
請求項1または2に記載の検体搬送システムにおいて、
前記回転力発生用板部材は、弾性部材により構成されている
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項7】
請求項1または2に記載の検体搬送システムにおいて、
前記回転力発生用板部材および前記検体ホルダのうち少なくともいずれか一方は、相手への接触部分に歯切りされている
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項8】
請求項2に記載の検体搬送システムにおいて、
前記磁極の励磁状態を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記識別部の読み取りに失敗した場合は、前記検体ホルダの進行方向を変えて再度前記回転力発生用板部材と接触させながら搬送する
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項9】
請求項2に記載の検体搬送システムにおいて、
前記回転力発生用板部材は、少なくとも第1回転力発生用板部材と、前記第1回転力発生用板部材と平行に配置された第2回転力発生用板部材とを有する
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項10】
請求項
9に記載の検体搬送システムにおいて、
前記読取部は、前記検体ホルダの進行方向に1つ以上設置されている
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項11】
請求項
10に記載の検体搬送システムにおいて、
前記磁極の励磁状態を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記識別部の読み取りに失敗した場合は、前記検体ホルダを異なる前記回転力発生用板部材に搬送し、異なる前記回転力発生用板部材と接触させながら搬送する
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項12】
磁性体を備える検体ホルダに保持された検体容器に収容された検体の搬送方法であって、
前記検体ホルダを、その上方で搬送する搬送面の下方に複数配置された磁極に電圧を印加することで搬送する際に、
前記搬送面の上面側に固定して設けられ、直線部及び傾斜部と、少なくとも第1回転力発生用板部材と、前記第1回転力発生用板部材と平行に配置された第2回転力発生用板部材と、を有しており、前記検体ホルダと接触する回転力発生用板部材に前記検体ホルダを接触させながら搬送することで前記検体ホルダを搬送と同時に回転させ、前記回転の際に前記検体容器、または前記検体ホルダの少なくともいずれか一方に設けられた識別部を読み取るように前記検体ホルダの進行方向に1つ以上設置されている読取部により前記識別部を読み取り、
前記識別部の読み取りに失敗した場合は、前記検体ホルダを異なる前記回転力発生用板部材に搬送し、異なる前記回転力発生用板部材と接触させながら搬送する
ことを特徴とする検体の搬送方法。
【請求項13】
請求項1に記載の検体搬送システムにおいて、
前記回転力発生用板部材は、前記搬送面を鉛直方向上方側から見たときに、前記磁極と隣接する前記磁極との間に配置されている
ことを特徴とする検体搬送システム。
【請求項14】
磁性体を備える検体ホルダに保持された検体容器に収容された検体の搬送方法であって、
前記検体ホルダを、その上方で搬送する搬送面の下方に複数配置された磁極に電圧を印加することで搬送する際に、
前記搬送面の上面側に固定して設けられ、直線部及び傾斜部を有しており、かつ前記搬送面を鉛直方向上方側から見たときに、前記磁極と隣接する前記磁極との間に配置されており、前記検体ホルダと接触する回転力発生用板部材に前記検体ホルダを接触させながら搬送することで前記検体ホルダを搬送と同時に回転させ、前記回転の際に前記検体容器、または前記検体ホルダの少なくともいずれか一方に設けられた識別部を読み取る読取部により前記識別部を読み取る
ことを特徴とする検体の搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液、血漿、血清、尿、その他の体液等の生体試料(以下検体と記載)の分析を行う検体分析装置やその分析に必要な前処理を行う前処理装置における検体搬送システム、および検体の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料容器の識別タグの十分な部分を識別するためのラボラトリ試料分配システムおよびラボラトリオートメーションシステムの一例として、特許文献1には、1つまたは複数の試料容器を搬送するいくつかの試料容器キャリアのそれぞれが少なくとも1つの磁気的に活性な装置を備え、試料容器キャリアを支持する移送面と、移送面の下に静置された電磁作動装置が試料容器キャリアに磁力を加えることにより、移送面の上部上の試料容器キャリアを動かすよう回転面の回転運動を引き起こす回転駆動装置と、を備える回転装置と、試料容器キャリアが回転面上に動くように電磁作動装置と回転駆動装置を制御するラボラトリ試料分配システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、医療分野での診断を目的とした検体検査において、その自動化が進められている。検体検査自動化システムでは、前処理装置や後処理装置と自動分析装置とを検体搬送装置で接続し、検体の分析処理の全自動化が進められている。
【0005】
このような自動化システムにおける検体の搬送には、検体の入った1本の検体容器を搭載可能な検体ホルダが用いられている。検体搬送装置ではこの検体ホルダの搬送方法として、搬送面の下方に固定されて配列された複数の電磁石により磁場を発生させることで、検体ホルダ内の磁石を吸引、反発させ、搬送面上を滑走させる手法がある。
【0006】
自動化システムにおいて、このような検体搬送装置と自動分析装置を接続する際、搬送される検体を識別する必要がある。特許文献1には、「試料容器は、その試料容器に収容された試料を識別するために、バーコードまたは他の識別タグを含んでもよい。このような識別タグは、光学的認識装置、たとえばバーコードリーダまたはカメラによって読み出されてもよい。」とあり、検体識別の方法として、検体容器に貼付されたバーコードを読み取ることが記載されている。
【0007】
ここで、検体容器を検体ホルダに搭載する際に識別タグを読み取るために挿入方向を厳密に要求することは行われていない。加えて、識別タグは検体容器全周に渡って貼付されているわけではない。
【0008】
従って、識別タグを認識する光学装置、たとえばバーコードリーダの前に搬送される際に、あらゆる方向の識別タグを確実に読み取るためにその視野内で検体ホルダを回転させることが求められることになる。
【0009】
ここで、特許文献1には、電磁作動装置によって、試料容器キャリアを回転式プレート上へ搬送し、電磁作動もしくはモータによって回転駆動装置を制御し、試料容器キャリアを回転させている。しかしこの手法では、検体ホルダを停止させて回転させることになるため、検体搬送のスループットの低下が懸念されることから、改善の余地がある。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、搬送のスループットを向上させつつ、検体の識別タグの読み取りをスムーズに行うことが可能な検体搬送システム、および検体の搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、磁性体を備え、検体を収容する検体容器を搬送する検体ホルダと、前記検体ホルダが摺動する搬送面と、前記搬送面の下面側に配置されており、前記検体ホルダを電磁力により搬送する複数の磁極と、前記検体容器、または前記検体ホルダの少なくともいずれか一方に設けられた識別部と、前記識別部を読み取る読取部と、前記搬送面の上面側に固定して設けられ、前記検体ホルダと接触する回転力発生用板部材と、前記磁極の励磁状態を制御する制御部と、を備え、前記回転力発生用板部材は、直線部及び傾斜部と、少なくとも第1回転力発生用板部材と、前記第1回転力発生用板部材と平行に配置された第2回転力発生用板部材と、を有しており、前記読取部は、前記検体ホルダの進行方向に1つ以上設置されており、前記検体ホルダを前記回転力発生用板部材に接触させながら搬送することで前記検体ホルダを搬送と同時に回転させ、前記回転の際に前記読取部により前記識別部を読み取り、前記制御部は、前記識別部の読み取りに失敗した場合は、前記検体ホルダを異なる前記回転力発生用板部材に搬送し、異なる前記回転力発生用板部材と接触させながら搬送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、搬送のスループットを向上させつつ、検体の識別タグの読み取りをスムーズに行うことができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1の検体搬送システムを備えた検体検査自動化システムの模式図。
【
図2】実施例1の検体搬送システムを構成する搬送装置の概略図。
【
図3】実施例1の検体搬送システムにおける回転機構の平面図。
【
図4】実施例1の検体搬送システムにおける回転機構の側面図。
【
図5】実施例1の検体搬送システムにおける検体ホルダの中心軸と電磁石の中心とのずれと回転角度/回転機構長との関係を示すグラフ。
【
図6】実施例1の歯を有する回転機構と検体ホルダの模式図。
【
図7】実施例1の検体搬送システムにおける回転機構の材質と回転角度/回転機構長との関係を示すグラフ。
【
図8】実施例1の検体搬送システムにおけるバーコード読み取りのフローチャート。
【
図9】本発明の実施例2の検体搬送システムにおける回転機構の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の検体搬送システム、および検体の搬送方法の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0015】
<実施例1>
本発明の検体搬送システム、および検体の搬送方法の実施例1について
図1乃至
図8を用いて説明する。
図1は検体検査自動化システムの構成例、
図2は検体搬送システムを構成する搬送装置の概略図、
図3は回転機構の平面図、
図4は回転機構の側面図、
図5は検体ホルダの中心軸と電磁石の中心とのずれと回転角度/回転機構長との関係を示すグラフ、
図6は歯を有する回転機構と検体ホルダの模式図、
図7は回転機構の材質と回転角度/回転機構長との関係を示すグラフ、
図8はバーコード読み取りのフローチャートである。
【0016】
最初に、検体搬送システムの全体構成について
図1を用いて説明する。
【0017】
図1に示す本実施例に係る検体検査自動化システム1は、前処理装置100、検体搬送システム150、自動分析装置200、システム制御装置111から構成される。
【0018】
検体検査自動化システム1における検査対象の検体は、
図2に示すような検体容器10に収容されて搬送される。検体容器10は
図2に示すように検体ホルダ11に挿入された状態で検体検査自動化システム1内を搬送され、前処理装置100や自動分析装置200において各種の処理を実施される。
【0019】
前処理装置100は分析処理の前に検体の前処理を行う装置である。前処理装置100では、検体の受付処理、遠心分離処理、検体の液量などの情報の取得、検体容器の開栓処理、複数の容器に検体を小分けする分注処理などの、検体の前処理工程が実施される。なお、前処理装置に換わり、あるいは加えて、後処理を実施する後処理機構を適宜追加することができる。
【0020】
自動分析装置200は、検体搬送システム150により搬送された検体の成分の定性・定量分析を行うユニットである。このユニットにおける分析項目は特に限定されず、生化学項目や免疫項目を分析する公知の自動分析装置の構成を採用することができる。更に、複数設けることができる。この場合の仕様は同一でも異なっていてもよく、特に限定されない。
【0021】
検体搬送システム150は、各々の検体搬送モジュール20を複数並べて構成することで搬送経路を形成しており、電磁石21(
図2参照)と検体ホルダ11に設けられた磁性体12(
図2参照)との相互作用によって搬送路上を滑走させることで検体ホルダ11に搭載された検体が収容された検体容器10を目的地(前処理装置100や自動分析装置200、取り出し口など)まで搬送する装置である。その詳細は
図2以降を用いて詳細に説明する。
【0022】
システム制御装置111は、前処理装置100や自動分析装置200、検体搬送システム150を含めた検体検査自動化システム1全体の動作を制御するものであり、液晶ディスプレイ等の表示機器や入力機器、記憶装置、CPU、メモリなどを有するコンピュータで構成される。システム制御装置111による各機器の動作の制御は、記憶装置に記録された各種プログラムに基づき実行される。
【0023】
本実施例のシステム制御装置111は、検体搬送システム150内の検体搬送モジュール20内の各々の電磁石21の励磁状態を制御する。また、後述するバーコード30の読み取りに失敗した場合は、検体ホルダ11の進行方向を変えて回転機構40と再度接触させながら搬送する。その詳細は後述する。
【0024】
なお、システム制御装置111で実行される動作の制御処理は、1つのプログラムにまとめられていても、それぞれが複数のプログラムに別れていてもよく、それらの組み合わせでもよい。また、プログラムの一部または全ては専用ハードウェアで実現してもよく、モジュール化されていても良い。
【0025】
検体搬送システム150を構成する検体搬送モジュール20は、
図2に示すように、搬送面22、複数の電磁石21を備えている。
【0026】
搬送面22は、検体ホルダ11が摺動する面であることから摩擦力の小さい平らな面で構成されており、その裏側(下方)には、電磁石21が等間隔に配列されている。
【0027】
電磁石21は、検体ホルダ11を電磁力により搬送するために設けられており、磁性体からなるコア21aと、このコア21aの外周に巻かれた巻線21bにより構成される。
【0028】
検体ホルダ11は検体を収容する検体容器10を1本搭載可能に構成されており、下方内部に磁性体12が組み込まれている。
【0029】
以上が、検体検査自動化システム1の全体構成を含めた構成である。
【0030】
検体検査自動化システム1では、検体検査自動化システム1内に投入された検体ホルダ11は、検体搬送システム150によって前処理装置100に搬送され、検体ホルダ11に保持された検体容器10中の検体に対して分析に必要な前処理が適宜実行される。その後、検体搬送システム150によって自動分析装置200に搬送され、分析が実行される。自動分析装置200で分析処理が完了した検体は、検体搬送システム150によって前処理装置100に備えられた検体収納部に搬送され保管されるなど、検体に応じて必要な箇所へ搬送される。
【0031】
搬送の際は、電磁石21に電流を供給して搬送面22上に磁場を発生させることで、検体ホルダ11内の磁性体12を吸引、反発させる。その結果、搬送面22上において、電磁石21の配列に沿って、2次元に検体ホルダ11を滑走させ搬送させることが可能となる。
【0032】
この搬送の際に、任意の検体搬送モジュール20の搬送面22上で、検体容器10に貼付されたバーコード30などの検体識別タグがバーコードリーダ31により読み取られる。
【0033】
ここで、バーコードリーダ31前に搬送されるタイミングにおける検体ホルダ11の向きは一定とは限らず、バーコード30の向きも一意ではない。従って、バーコード30をバーコードリーダ31の視野内に入れるためには、搬送面22上で検体ホルダ11を回転させる必要がある。
【0034】
次に、本実施例の検体搬送モジュール20における回転機構40と関係する構成の詳細について
図3以降を用いて説明する。
【0035】
図1に示す検体搬送モジュール20のうち、一部の検体搬送モジュール20には、
図3に示すような回転機構40が設けられている。回転機構40は、搬送面22の上面側に設けられており、検体ホルダ11と接触する位置に任意の長さで設けられている。この回転機構40は、好適には、検体ホルダ11の側面下部13と接触する高さに設置される。
【0036】
回転機構40が設けられる検体搬送モジュール20は、
図1中、円Aに示す部分とするが、その他の個所のモジュールに設けることができる。
【0037】
更に、回転機構40が設けられている検体搬送モジュール20については、
図3に示すように、検体容器10に設けられた、検体容器10内の検体を特定するための情報が記録されたバーコード30を読み取るバーコードリーダ31が更に設けられている。
【0038】
なお、バーコード30は、検体容器10のみに設けられる場合に限らず、検体ホルダ11のみ、あるいは検体容器10および検体ホルダ11のいずれにも設けられたものとすることができる。
【0039】
回転機構40は、配列された複数の電磁石21に沿うように搬送面22上に設置される。この回転機構40は、搬送経路となる電磁石21の中心から、回転機構40と接触する検体ホルダ11側面の断面の半径未満の範囲に設置される。
【0040】
回転機構40に入った検体ホルダ11を進行先の電磁石21を励磁し搬送する際、検体ホルダ11は電磁力により
図3に示す実線の矢印のように吸引される。通常、検体ホルダ11の搬送経路は電磁石21の中心(
図3および
図4の一点鎖線)を通過する。
【0041】
しかし本実施例では、回転機構40が電磁石21の中心から搬送する検体ホルダ11との接触部分の半径未満の距離に設置されていることで、検体ホルダ11は電磁石21の中心を通る搬送経路には戻れず、
図3の破線の矢印のように、通常の搬送経路と平行な進行方向の力と、回転機構40に押し当てられる方向に力が発生する。
【0042】
その結果、検体ホルダ11は、電磁石21の中心から任意の距離をずれた搬送経路(
図3の一点鎖線に平行な破線矢印および
図4の二点鎖線)を進行する。その間、検体ホルダ11の側面は回転機構40と接触しながら進行し、進行中の検体ホルダ11側面と回転機構40との間に摩擦力が発生する。この摩擦力により、検体ホルダ11は搬送されながら回転し、その間にバーコード30が読み取られる。
【0043】
そのために、バーコードリーダ31は、検体ホルダ11の進行方向に1つ以上設置されるが、検体ホルダ11の進行方向、かつ、検体容器10と接触しない高さに設置される。なお、使用環境によっては2つ目以降を配置することができる。また、配置位置はこれに限らない。例えば、進行方向の横側に配置しても構わない。
【0044】
検体ホルダ11の回転角度は、搬送経路を電磁石21の中心からずらす距離と関係する。回転機構40により、検体ホルダ11の搬送経路を電磁石の中心からずらす距離を大きくすると、電磁力による検体ホルダ11を回転機構40側に押し付ける方向の力も増加する。それに伴い、双方の間に発生する摩擦力も増加するため、回転角度は増加する。
【0045】
一例として、回転機構40にベークライトを使用し、電磁石21の中心から搬送経路をずらす距離を大きくした際の、検体ホルダ11の回転角度を測定した実験結果を
図5に示す。
【0046】
図5に示す通り、回転機構40で搬送経路をずらす距離を変更することによって、回転角度を調整することが可能である。搬送経路をずらすことのできる範囲は、電磁石21と同じ位置にある搬送面22下のセンサで検体ホルダ11の位置を検知可能な範囲、もしくは、電磁石21による進行方向の力が、搬送面22と検体ホルダ11の底との間、および回転機構40と検体ホルダ11の側面との間に生じる摩擦力を上回る範囲とすることができる。
【0047】
加えて、回転機構40の材質によっても、その摩擦係数や検体ホルダ11の側面との接触状態が変化し、検体ホルダ11の回転角度の大小は変化する。回転機構40の材質は、硬質な材質に限らない。例えばゴムのような、弾性を持つ材質を回転機構として採用することも可能である。この場合、摩擦係数の変化だけでなく、検体ホルダ11に生じる回転機構40方向の力により回転機構40にたわみが発生する。このたわみにより、検体ホルダ11側面と回転機構40とが面で接触し、回転のための摩擦力が増加する。その結果、回転角度を増加させることができる。弾性素材を回転機構40に使用する場合、たわみに係る硬さや厚みによって、回転角度の調整が可能となる。
【0048】
なお、本実施例では
図3および
図4において、回転機構40の検体ホルダ11との接触面を平坦なものとして図示しているが、回転機構40の表面や検体ホルダ11の側面は平坦なものに限らない。
【0049】
他の例として、
図6に示すような、歯41aを有した回転機構41、および回転機構41と接触する側面下部13に歯11A1を有した検体ホルダ11Aを採用することができる。この場合、回転機構41および検体ホルダ11のうち少なくともいずれか一方に、相手への接触部分に歯切りされていればよく、例えば歯41aと歯11A1とのいずれか一方のみとすることができる。
【0050】
歯41aを有した回転機構41を前述の回転機構40と同様の位置に設置することで、搬送時に検体ホルダ11Aの側面の歯11A1と係合し、回転角度を増加させることが可能である。この場合、回転機構41による搬送経路をずらす距離に加え、搭載した歯41aあるいは歯11A1の数によっても、回転角度の調整が可能である。
【0051】
このように、回転機構40,41の設置位置や材質、形状の変更により、検体ホルダ11,11Aの側面との摩擦力や接触状態を変更することで、検体容器10のバーコード30の読み取りに適切な回転角度の調整が可能である。
【0052】
図7は、回転機構による検体ホルダ11の搬送経路をずらす距離を統一し、回転機構40,41の種類を変更した際の、回転機構40,41の長さ当たりの回転角度の実験結果である。
【0053】
図7に示すように、回転機構40,41の種類によって、回転角度に差異があることがわかる。例えば、硬質な材料であるベークライトやポリアセタールと比較し、弾性を有するニトリルゴムの回転角度が大きくできることが分かった。また、歯41aを設けると、更に大きな回転角度を得られることを確認した。
【0054】
回転機構40,41の各材料により、以下のようなメリットが挙げられる。硬質な材料を使用する場合、その長さや摩擦係数を変更することで回転機構40,41の単位距離当たりの回転角度の調整が可能であり、ホルダ側面との接触面積が小さく双方の摩耗を少なくできる。これに対し、弾性を有する材料を使用する場合、材料の厚さや硬さにより検体ホルダ搬送時のたわみの大きさを変更することで、回転機構40,41の長さを変更することなく回転角度を調整することができる。回転機構41と検体ホルダ11Aとの係合を利用する場合、短い回転機構41で大きな回転角度を得られる。
【0055】
また、検体ホルダ11の底と搬送面22の材質を変更すると、搬送時の検体ホルダ11と搬送面22間に生じる摩擦力が変化する。これにより、搬送経路をずらす距離と検体ホルダ11の回転角度の大小関係も変化し得る。
【0056】
ここで、読み取る対象は検体容器10に貼付されたバーコードに限らない。他の識別タグとして、例えばRFIDタグのような、読取可能な向きが限定される識別タグと、そのタグを読み取る光学装置を備えた機構であれば、この回転方式によって読取が可能となる。また、検体ホルダ11,11Aの、回転機構40,41との接触箇所以外に貼付された識別タグの読み取りも可能である。
【0057】
次いで、好適には上述の検体搬送システム150により実行される実施例1における検体の搬送方法、すなわちバーコード30の読み取りの流れについて
図8を用いて説明する。
【0058】
最初に、
図8に示すように、検体ホルダ11,11Aと回転機構40,41の接触前に、搬送面22下の位置検出センサにより検体ホルダ11,11Aの接近を検知する(ステップS601)と、システム制御装置111は、バーコードリーダ31を作動させる(ステップS602)。この位置検出は、電磁石21がその役割を担う場合もあれば、ホールセンサなどの他の種類のセンサを用いる場合もある。
【0059】
続いて、システム制御装置111は、回転機構40,41内の進行先の電磁石21を励磁し、検体ホルダ11,11Aはその電磁力に吸引されて回転機構40,41との接触を開始し(ステップS603)、回転しながら搬送される(ステップS604)。
【0060】
その搬送中に、検体ホルダ11,11Aを停止させることなくバーコード30の読み取りを試み、システム制御装置111は、読み取りに成功したか否かを判定する(ステップS605)。読取に成功したと判定されたときは、システム制御装置111は、回転機構40,41の外に搬出し(ステップS606)、前処理装置100や自動分析装置200へ該当する検体ホルダ11,11Aを搬送する。
【0061】
これに対し、ステップS605において読み取りに失敗した場合、システム制御装置111は、検体ホルダ11,11Aを、先の接触させた回転機構40,41を逆走させ(ステップS607)、再度、バーコード30の読み取りを試みる(ステップS604)。
【0062】
なお、ステップS607では逆走とする場合に限られず、後述する実施例2のように回転機構40,41が2つ以上設けられている場合は別の回転機構40,41の前まで搬送して再度回転および搬送を行うステップ、あるいは逆走と異なる回転機構40,41への搬送とのいずれかを選択するステップとすることができる。
【0063】
逆走する場合と、別の回転機構40,41へ搬送する場合とのいずれを選択するかは装置構成や搬送状況によって変わり、後ろに別の検体ホルダ11,11Aが控えていれば別の回転機構40,41に搬送することが望ましいし、余裕があれば逆走することが望ましい。
【0064】
また、ステップS604→ステップS605のNo→ステップS607のループの回数に上限を設けて、所定回数ループするときはエラー検体としてエラー出力することが望ましい。
【0065】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0066】
上述した本発明の実施例1の検体搬送システム150は、磁性体12を備え、検体を収容する検体容器10を搬送する検体ホルダ11,11Aと、検体ホルダ11,11Aが摺動する搬送面22と、搬送面22の下面側に配置されており、検体ホルダ11,11Aを電磁力により搬送する複数の電磁石21と、検体容器10、または検体ホルダ11,11Aの少なくともいずれか一方に設けられたバーコード30と、バーコード30を読み取るバーコードリーダ31と、搬送面22の上面側に設けられ、検体ホルダ11,11Aと接触する回転機構40,41と、を備え、検体ホルダ11,11Aを回転機構40,41に接触させながら搬送することで検体ホルダ11,11Aを搬送と同時に回転させ、回転の際にバーコードリーダ31によりバーコード30を読み取る。
【0067】
従来の回転方式では、検体ホルダを停止させた状態で、電磁力やモータにより駆動する能動的な回転機構を検体ホルダや検体容器の側面または底面に接触させることを要する。この方式の課題は、前述のように、検体ホルダの搬送を停止させることによる搬送のスループットの低下である。加えて、搬送に使用する多数の電磁石の他に、回転機構や、場合によっては検体ホルダを任意の位置に固定するための機構の制御を要することも課題である。更に、検体ホルダの質量増加に伴う搬送面との摩擦力の増加や、各検体ホルダに対して能動的な回転機構とその制御を要するといった課題がある。
【0068】
これに対し、上述のような構成によって、検体ホルダ11,11Aを搬送に必要な搬送力により回転させることができ、バーコード30の読み取り時に検体ホルダ11,11Aを停止させる必要がなくなることから、スループットを向上させることが可能となる。また、検体ホルダ11,11Aの搬送中に生じる電磁力を回転のために必要なアクチュエータとして使用しているため、搬送以外の回転機構の駆動の制御は不要となる。加えて、制御が不要であることと回転に必要な構成要素が削減されたことで、原価の低減も達成することができる。
【0069】
また、回転機構40,41は、配列された複数の電磁石21に沿うように設置されているため、励磁する電磁石21は搬送経路を構成するものとすることができ、励磁制御が容易であるとともに、搬送を安定させることができる。
【0070】
更に、回転機構40,41は、検体ホルダ11,11Aの側面下部13と接触するように設置されていることで、検体ホルダ11,11Aが回転機構40,41に接触、回転して進行する際に検体容器10が転倒するリスクを小さくすることができる。
【0071】
また、回転機構40,41は、電磁石21の中心から搬送する検体ホルダ11,11Aとの接触部分の半径未満の距離に設置されていることにより、電磁石21から必要以上に遠ざかり、搬送用の電磁力が弱まることを抑制して搬送方向の速度の低下を抑制し、搬送効率の低下を最低限に抑えることができる。
【0072】
更に、回転機構40,41は、弾性部材により構成されていることで、回転機構40,41の長さを変更することなく回転角度を調整することができる。
【0073】
また、回転機構41および検体ホルダ11,11Aのうち少なくともいずれか一方は、相手への接触部分に歯切りされていることにより、単位距離当たりの回転量を大きくすることができ、回転機構40,41の長さを短くすることができる。
【0074】
更に、電磁石21の励磁状態を制御するシステム制御装置111を更に備え、システム制御装置111は、バーコード30の読み取りに失敗した場合は、検体ホルダ11,11Aの進行方向を変えて回転機構40,41と再度接触させながら搬送することで、確実にバーコード30の読み取りを図ることができる。
【0075】
また、バーコードリーダ31は、検体ホルダ11,11Aの進行方向に1つ以上設置されていることにより、効率的にバーコード30を読み取ることができる。
【0076】
<実施例2>
本発明の実施例2の検体搬送システム、および検体の搬送方法について
図9を用いて説明する。
図9は本実施例2の検体搬送システムにおける回転機構の平面図である。
【0077】
図9に示すように、本実施例では、2つの回転機構40を設けているのに対し、バーコードリーダ31Aは、回転を伴い搬送されている検体ホルダ11,11Aを、終始捉えることを可能とする視野の大きさを有している。
【0078】
図9に示すように、検体ホルダ11,11Aの進行方向に設置することで、複数の回転機構40を設置した場合においても、1つのバーコードリーダ31Aによって複数経路のバーコードを読み取ることを可能とする。
【0079】
その他の構成・動作は前述した実施例1の検体搬送システム、および検体の搬送方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0080】
本発明の実施例2の検体搬送システム、および検体の搬送方法においても、前述した実施例1の検体搬送システム、および検体の搬送方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0081】
また、平行に配置された2つの回転機構40を有することにより、バーコード30の読み取りの向上を図り、搬送効率の更なる向上を図ることができる。
【0082】
なお、本実施例において設ける回転機構40の数は2つに限定されず、3つ以上とすることができる。また、設ける回転機構も回転機構40の替わりにあるいは加えて
図6に示すような回転機構41を1つ以上設けることができ、すべてが回転機構41とすることができる。
【0083】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0084】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0085】
1…検体検査自動化システム
10…検体容器
11,11A…検体ホルダ
11A1…歯
12…磁性体
13…側面下部
20…検体搬送モジュール
21…電磁石(磁極)
21a…コア
21b…巻線
22…搬送面
30…バーコード(識別部)
31,31A…バーコードリーダ(読取部)
40…回転機構(回転部、第1回転部、第2回転部)
41…回転機構(回転部、第1回転部、第2回転部)
41a…歯
100…前処理装置
111…システム制御装置(制御部)
150…検体搬送システム
200…自動分析装置