(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】質量分析支援方法、質量分析支援装置、及び、質量分析システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20250313BHJP
【FI】
G01N27/62 B
(21)【出願番号】P 2023541146
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 JP2021029492
(87)【国際公開番号】W WO2023017558
(87)【国際公開日】2023-02-16
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】師子鹿 司
(72)【発明者】
【氏名】檜山 俊幸
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-195104(JP,A)
【文献】特表2021-515242(JP,A)
【文献】特表2011-523172(JP,A)
【文献】米国特許第8384022(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0098241(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/00 - H01J 49/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスキャン速度がスキャン速度パターンとして予め記憶部に格納されている演算装置が、
質量分析装置によって測定された結果である第1のマススペクトルを取得するマススペクトル取得ステップと、
ユーザによって表示部に表示された前記第1のマススペクトルの拡大範囲もしくは縮小範囲が指定されると、前記拡大範囲もしくは縮小範囲のm/z範囲を取得するm/z範囲取得ステップと、
前記スキャン速度パターンに格納されている前記スキャン速度を順に選択し、選択した前記スキャン速度で、前記質量分析装置による前記拡大範囲もしくは縮小範囲の前記m/z範囲に対する仮測定を実行させ、前記仮測定の結果得られる第2のマススペクトルを基に、前記拡大範囲もしくは縮小範囲の前記m/z範囲において前記スキャン速度を決定するスキャン速度変更処理ステップと、
を実行することを特徴とする質量分析支援方法。
【請求項2】
前記スキャン速度変更処理ステップでは、
前記スキャン速度パターンから選択された前記スキャン速度のそれぞれによる前記仮測定で得られる前記第2のマススペクトルのそれぞれについて、もっとも高い信号強度を有する点に対するピーク間の谷部の最も深い点の信号強度の比が最も小さい前記第2のマススペクトルに対する前記スキャン速度が前記スキャン速度として決定される
ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析支援方法。
【請求項3】
前記スキャン速度変更処理ステップは、前記第1のマススペクトルの拡大範囲もしくは縮小範囲の指定に基づいて行われる
ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析支援方法。
【請求項4】
前記拡大範囲もしくは縮小範囲の指定は、ユーザによるマウスの操作によって行われる
ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析支援方法。
【請求項5】
前記第1のマススペクトルがタッチパネル画面に表示され、
前記拡大範囲もしくは縮小範囲の指定は、ユーザによるタッチパネルの操作によって行われる
ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析支援方法。
【請求項6】
複数のスキャン速度がスキャン速度パターンとして予め記憶している記憶部と、
質量分析装置によって測定された結果である第1のマススペクトルを取得するマススペクトル取得部と、
ユーザによって表示部に表示された前記第1のマススペクトルの拡大範囲もしくは縮小範囲が指定されると、前記拡大範囲もしくは縮小範囲のm/z範囲を取得するm/z範囲取得部と、
前記スキャン速度パターンに格納されている前記スキャン速度を順に選択し、選択した前記スキャン速度で、前記質量分析装置による前記拡大範囲もしくは縮小範囲の前記m/z範囲に対する仮測定を実行させ、前記仮測定の結果得られる第2のマススペクトルを基に、前記拡大範囲もしくは縮小範囲の前記m/z範囲において前記スキャン速度を決定するスキャン速度変更処理部と、
を有することを特徴とする質量分析支援装置。
【請求項7】
質量分析装置と、
前記質量分析装置の制御を行う制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
複数のスキャン速度がスキャン速度パターンとして予め記憶している記憶部と、
質量分析装置によって測定された結果である第1のマススペクトルを取得するマススペクトル取得部と、
ユーザによって表示部に表示された前記第1のマススペクトルの拡大範囲もしくは縮小範囲が指定されると、前記拡大範囲もしくは縮小範囲のm/z範囲を取得するm/z範囲取得部と、
前記スキャン速度パターンに格納されている前記スキャン速度を順に選択し、選択した前記スキャン速度で、前記質量分析装置による前記拡大範囲もしくは縮小範囲の前記m/z範囲に対する仮測定を実行させ、前記仮測定の結果得られる第2のマススペクトルを基に、前記拡大範囲もしくは縮小範囲の前記m/z範囲において前記スキャン速度を決定するスキャン速度変更処理部と、
決定した前記スキャン速度を前記質量分析装置に設定する設定部と、
を有することを特徴とする質量分析支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析支援方法、質量分析支援装置、及び、質量分析システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析の知識が乏しいユーザが質量分析装置を使用することは非常に難しい。また、ユーザが質量分析装置に関し十分な知識を保有していたとしても、質量分析装置のソフトウェアの全ての機能を網羅的に覚え、使いこなすことは非常に難しい。
【0003】
また、ユーザビリティの観点からも、質量分析の知識の有無にかかわらず、どんなユーザでも呈示されたグラフィカルユーザインタフェース(Graphical User Interface:GUI)によって一定の操作を行えることが望ましい。
【0004】
例えば、質量分析装置のGUIには、m/z値と検出したイオン強度との関係であるマススペクトルが表示される。マススペクトルは、質量分析装置が測定対象となるm/z範囲を決められたスキャン速度で走査し、縦軸に検出されたイオン量に応じたイオン強度、横軸にイオンに対応したm/z値を表示したグラフである。
【0005】
このような質量分析装置の操作に関する発明として、特許文献1には「大気圧イオン化法を用いるLC/MSのようなMS1分析のマススペクトルから得られる情報が少ない装置においても、正確且つ迅速に、成分の特定を行うことが可能となる」質量分析方法および装置が開示されている(要約参照)。
【0006】
また、特許文献2には「試料上の指定された質量分析範囲内の各微小領域のMS分析が実行され、それにより得られたデータに基づいて、指定されたm/z又はm/z範囲の分布画像が作成されて表示画面上に描出される(S10~S14)。オペレータがこれを見て関心物質を特定しそのm/zを指示すると(S15)、MSスペクトル上でそのm/zの強度が閾値以上である微小領域が抽出され、その微小領域に対して関心物質のm/zをプリカーサとしてMS/MS分析が実行される(S26、S27)。得られた各微小領域のMS/MSスペクトルデータから平均MS/MSスペクトルが算出され(S28)、平均MS/MSスペクトルに出現するピーク情報を利用して関心物質の同定が実行される(S19)」質量分析装置が開示されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001―249114号公報
【文献】国際公開第2010/001439号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
m/z範囲やスキャン速度の指定は、予め固定されている場合が一般的であり、特許文献1に記載の技術のようにテキストボックスなどをユーザが編集し指定するものもある。
しかし、これらの手法では質量分析の知識を持たないユーザが操作を行う場合や、ユーザがGUI画面上のテキストボックスの位置を把握していない場合、m/z範囲やスキャン速度の変更が困難になる。
【0009】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、容易な操作で質量分析を行うことができることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するため、本発明は、演算装置が、質量分析装置によって測定された結果である第1のマススペクトルを取得するマススペクトル取得ステップと、ユーザによって表示部に表示された前記第1のマススペクトルの拡大範囲もしくは縮小範囲が指定されると、前記拡大範囲もしくは縮小範囲のm/z範囲を取得するm/z範囲取得ステップと、前記スキャン速度パターンに格納されている前記スキャン速度を順に選択し、選択した前記スキャン速度で、前記m/z範囲に対する仮測定を実行させ、前記仮測定の結果得られる第2のマススペクトルを基に、前記スキャン速度を決定するスキャン速度変更処理ステップと、が実行されることを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中において適宜記載する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、容易な操作で質量分析を行うことができる
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る質量分析システムの構成例を示す図である。
【
図2】演算装置における処理部の構成例を示す図である。
【
図4】演算装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図5】第1実施形態に係る全体処理の手順を示すフローチャートである。
【
図6】第1実施形態におけるスキャン速度設定画面の例を示す図である。
【
図7A】拡大処理前のマススペクトルを示す図である。
【
図7B】拡大処理後のマススペクトルの一例を示す図である。
【
図8】スキャン速度変更処理の詳細な処理手順を示す図である。
【
図9A】仮測定によるマススペクトルの一例を示す図(その1)である。
【
図9B】仮測定によるマススペクトルの一例を示す図(その2)である。
【
図9C】仮測定によるマススペクトルの一例を示す図(その3)である。
【
図10A】拡大処理前のマススペクトルの一例を示す図である。
【
図10B】拡大処理御のマススペクトルの一例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。なお、本発明の実施の形態は、ここに示す実施例に限定されるものではない。
【0014】
<第1実施形態>
第1実施形態では、ユーザがマススペクトルM1(
図7A参照)を拡大し、測定するm/z範囲を記憶する。その後、m/z範囲に応じて、演算装置100がスキャン速度を変更する処理を行う。
【0015】
[質量分析システムZの構成]
図1は、第1実施形態に係る質量分析システムZの構成例を示す図である。
質量分析システムZは、演算装置100、質量分析装置200及び試料供給装置300を備える。
演算装置100は、表示部101、入力部102、処理部110、及び、記憶部120を有する。
処理部110及び記憶部120については後記する。
表示部101には、質量分析装置200で測定された結果であるマススペクトルM(
図7A、
図7B参照)等が表示される。
入力部102は、キーボードや、マウス等であり、ユーザによる情報の入力が行われる。
【0016】
試料供給装置300は、質量分析装置200に試料成分を供給する。例えば、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフ、試料を加熱し成分を気化させる装置などが試料供給装置300である。
【0017】
質量分析装置200は、イオン化部201と、質量分離部202と、イオン検出部203と、制御部210とを備える。
イオン化部201は、試料供給装置300から供給される試料成分をイオン化する。
質量分離部202は、イオン化部201から供給されたイオンのフラグメンテーション、イオントラップ、イオン検出部203へ排出する特定のm/z値を選別し、イオンをイオン検出部203へ送る。質量分離部202はシングルマスや、MS/MS、3段以上のMSが連結されたMSn等で構成することが可能である。
イオン検出部203は、質量分離部202から送られたイオンのイオン強度を測定する。
【0018】
制御部210は、演算装置100による指示に従い、測定するm/z範囲を更新し、スキャン速度の変更を行う制御を行う。そして、m/z値に対応するイオン強度のデータを演算装置100に返す。
【0019】
なお、質量分離部202で選別するm/z値を固定し、イオン強度の経時変化、すなわちクロマトグラムを得るのが選択イオンモニタリング(Selected Ion Monitoring:SIM)や選択反応モニタリング(Selected Reaction Monitoring:SRM)と呼ばれる定量測定である。
【0020】
(処理部110)
図2は、演算装置100(
図1参照)における処理部110の構成例を示す図である。
処理部110は、取得部111、スキャン速度変更処理部112、表示処理部113を有する。
取得部111は、質量分析装置200から測定結果(マススペクトル情報)等を取得する。
スキャン速度変更処理部112は、ユーザによるマススペクトルM1(
図7A参照)の拡大又は縮小処理に基づいて、質量分析装置200の適切なスキャン速度を決定する(測定に用いるスキャン速度を決定する)。そして、スキャン速度変更処理部112は決定したスキャン速度を質量分析装置200に設定する。なお、本実施形態では拡大縮小されるマススペクトルをマススペクトルM1、マススペクトルを一般的に示す際にはマススペクトルMとして区別している。ここで、適切なスキャン速度とは、分解能に優れたマススペクトルMを取得することができるスキャン速度という意味である。なお、スキャン速度が速すぎても遅すぎても分解能が低下してしまう。
表示処理部113は、表示部101にマススペクトルM(
図7A、
図7B参照)や、スキャン速度設定画面400(
図6参照)等を表示する。
【0021】
なお、本実施形態では処理部110の機能が質量分析装置200とは別の装置である演算装置100に備えられているものとしているが、質量分析装置200の制御部210に処理部110の機能が備えられていてもよい。
【0022】
(記憶部120)
図3は、記憶部120の構成例を示す図である。
記憶部120にはスキャン速度パターン121及び変更m/z範囲122が格納されている。
スキャン速度パターン121には、後記する仮測定で使用される複数のスキャン速度がm/z範囲毎に格納されている。
変更m/z範囲122は、後記するマススペクトルM1(
図7A参照)の拡大又は縮小処理によって変更されたm/z範囲である。後記するように、マススペクトルM1の拡大又は縮小処理は入力部102によって行われるため、変更m/z範囲122は入力部102から記憶部120に格納される。
【0023】
また、スキャン速度変更処理部112は、変更m/z範囲122と、スキャン速度パターン121とを参照することで、後記する仮測定でのスキャン速度を選択する。
【0024】
[演算装置100のハードウェア構成]
図4は、演算装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。
演算装置100は、メモリ131、CPU(Central Processing Unit)132、HD(Hard Disk)や、SSD(Solid State Disk)等の記憶装置133を有する。また、演算装置100はキーボードや、マウス等の入力装置134、ディスプレイ等の表示装置135、通信装置136を有する。
記憶装置133にはプログラムが格納されており、このプログラムがメモリ131にロードされる。そして、ロードされたプログラムがCPU132によって実行される。これにより、
図2の処理部110、処理部110を構成する取得部111、スキャン速度変更処理部112及び表示処理部113が具現化する。
ちなみに、入力装置134は
図1の入力部102、表示装置135は
図1の表示部101、記憶装置133は
図1の記憶部120に相当する。
【0025】
[全体処理]
図5は、第1実施形態に係る全体処理の手順を示すフローチャートである。適宜、
図1~
図3を参照する。
まず、ユーザはスキャン速度設定画面400(
図6参照)でスキャン速度の設定を行う(S1)。ここでは、Auto402(
図6参照)が設定されたものとする。なお、スキャン速度設定画面400については後記する。
【0026】
続いて、質量分析装置200による測定が行われ(S2)、演算装置100の取得部111は測定の結果であるマススペクトル情報を取得する(S3)。なお、ステップS2で行われる測定で使用されるスキャン速度や、m/z範囲は制御部210によって自動で設定される。
そして、表示処理部113は取得したマススペクトル情報を基にマススペクトルM1(
図7A参照)を表示部101に表示する。
【0027】
次に、スキャン速度変更処理部112は、入力部102を介して表示部101に表示されているマススペクトルM1の拡大縮小処理が実行されたか否かを判定する(S4)。拡大縮小処理については後記する。
拡大縮小処理が実行されていない場合(S4→No)、スキャン速度変更処理部112はステップS4へ処理を戻す。
【0028】
拡大縮小処理が実行されると(S4→Yes)、スキャン速度変更処理部112は拡大または縮小されたマススペクトルM(
図7A、
図7B参照)におけるm/z範囲(変更m/z範囲122)を取得し、記憶部120に記憶する(S5)。ステップS5の処理については後記する。つまり、ステップS5以下の処理はステップS4の拡大実行処理が行われたことを契機として実行される。
【0029】
そして、スキャン速度変更処理部112は記憶部120に記憶した変更m/z範囲122を基に、適切なスキャン速度を算出し、算出したスキャン速度を質量分析装置200の制御部210に設定するスキャン速度変更処理を行う(S6)。ステップS6の処理については後記する。なお、ステップS6においてスキャン速度変更処理部112は変更m/z範囲122に対して適切なスキャン速度を決定し、決定したスキャン速度を制御部210に設定する。
次に、制御部210はステップS6で設定されたスキャン速度で測定対象物の測定を開始する(S7)。
【0030】
[スキャン速度設定画面400]
図6は、第1実施形態におけるスキャン速度設定画面400の例を示す図である。
図6に示すスキャン速度設定画面400は、
図5のステップS1の段階で表示部101に表示されているものである。
スキャン速度設定画面400では、ユーザがスキャン速度の設定を行うことができる。そして、スキャン速度設定画面400ではNarrow Range401、Auto510、Full Range403をユーザが設定することができる。
Narrow Range401が選択されると、質量分析において低速でスキャンが行われる。Auto402が選択されると、ユーザによる拡大縮小処理により定められた変更m/z範囲122(
図3参照)に応じたスキャン速度が自動で変更される。Full Range403が選択されると、質量分析において高速でスキャンが行われる。本実施形態(スキャン速度を決定するスキャン速度変更処理ステップ)は、Auto402が選択された場合に行われる処理である。なお、Narrow Range401は、使用不可となる場合があるが、この場合、Narrow Range401がグレーアウトし、選択不可となる。
【0031】
Narrow Range401、Auto403、Full Range403のいずれかをユーザが選択した後、OKボタン411が選択入力されることで選択が確定される。また、キャンセルボタン412が選択入力されることで、選択が解除される。
【0032】
[拡大縮小処理]
次に
図7A及び
図7Bを参照して
図5のステップS4における拡大縮小処理について説明する。なお、
図7A及び
図7Bでは拡大処理について説明しているが、縮小処理についても同様の手順で可能である。
【0033】
図7Aは、拡大処理前のマススペクトルM1を示す図である。
なお、
図7A及び
図7Bにおいて横軸はm/z値であり、横軸はイオン強度(Intensity)である。
ユーザが、始点501から終点502までドラッグすることで拡大範囲500が選択される。
例えば、ユーザは、表示装置135に呈示されているマススペクトルM1における任意の位置で左クリックを押下し、そこを始点501とする。その後、マススペクトルM1において、ユーザは測定したい任意の位置までクリックを押下した状態でマウスを移動させクリックボタンを離し、そこを終点502とする。
【0034】
拡大範囲500の底辺に相当する符号Rで示されるm/z範囲が拡大m/z範囲(変更m/z範囲122)である。
【0035】
このような動作により、マススペクトルM1における始点501と終点502の座標を基に、新たなm/z範囲(変更m/z範囲122)が記憶部120に記憶される。そして、スキャン速度変更処理部112は記憶部120に記憶された変更m/z範囲122を読み込む。
スキャン速度変更処理部112は、読み込んだ変更m/z範囲122に基づいて、スキャン速度パターン121に保存されているスキャン速度を選択する。そして、スキャン速度変更処理部112は、選択したスキャン速度で仮測定を繰り返し、適切なスキャン速度を決定する。適切なスキャン速度の決定方法は後記する。更に、スキャン速度変更処理部112は、決定したスキャン速度に対応した高周波電圧を決定する。スキャン速度変更処理部112は、決定した高周波電圧と、変更m/z範囲122を制御部210に設定する。ちなみに、スキャン速度の制御は質量分離部202に印加される高周波電圧の制御によって行われる。
【0036】
図7Bは、拡大処理後のマススペクトルM2の一例を示す図である。
図7Bでは、スキャン速度変更処理部112が
図7Aで選択された拡大範囲500に基づいてm/z範囲を更新し、更新されたm/z範囲で測定が行われた結果であるマススペクトルM2が示されている。つまり、
図7Bに示すマススペクトルM2は、スキャン速度変更処理部112が拡大範囲500(
図7A参照)に基づいて決定したスキャン速度で測定された結果である。そのため、マススペクトルM2が、
図7Aに示すマススペクトルM1と形状が異なっている。マススペクトルM2は、
図7Aに示すマススペクトルM1と形状が異なっている理由はスキャン速度の違いによる。
【0037】
ちなみに、
図7Bで示されているマススペクトルM2のm/z範囲は、
図7Aの符号Rで示されるm/z範囲である。
【0038】
図7Bに示すマススペクトルM2は、スキャン速度変更処理の各工程を経て、適切なスキャン速度で測定が行われているため、
図7Aに示すマススペクトルM1よりピーク間の谷が深くなっている。つまり、マススペクトルM2は、マススペクトルM1において、質量分解能の問題で確認できなかった同位体成分が分離された状態となっており、ユーザによる同位体成分の確認が行いやすくなっている。
【0039】
[スキャン速度変更処理]
次に、
図8、
図9A~
図9Cを参照して
図5のステップS6におけるスキャン速度変更処理を説明する。
【0040】
(フローチャート)
図8は、
図5のステップS6におけるスキャン速度変更処理の詳細な処理手順を示す図である。
まず、スキャン速度変更処理部112は
図5のステップS4(拡大縮小処理)に基づいて拡大マススペクトル情報もしくは縮小マススペクトル情報(変更マススペクトル情報と称する)を取得する(S601)。
そして、スキャン速度変更処理部112は、取得した変更マススペクトル情報に基づくマススペクトルM(
図7A、
図B参照:以下、変更マススペクトルと称する)が以下の条件を満たしているか否かを判定する(S602)。
(条件#1)変更マススペクトルに少なくとも2つのピークが存在する。
(条件#2)変更マススペクトルにおいて、最大イオン強度を100%とした場合、2番目に大きいピークにおける最大イオン強度が50%より大きい。
なお、条件#1及び条件#2の双方が満たされる場合、スキャン速度変更処理部112は、ステップS602で「Yes」を判定する。
【0041】
条件#1または条件#2を満たしていない場合(S602→No)、スキャン速度変更処理部112は処理を終了する。
条件#1及び条件#2を満たしている場合(S602→Yes)、スキャン速度変更処理部112は記憶部120からスキャン速度パターン121を読み込む(S611)。前記したように、スキャン速度パターン121は、後記する仮測定を行うためのスキャン速度が予め複数設定されているものである。
次に、スキャン速度変更処理部112はスキャン速度パターン121からスキャン速度を1つ選択する(S612)。この際、スキャン速度変更処理部112は後記する仮測定で使用されていないスキャン速度を選択する。また、前記したように、スキャン速度パターン121には、変更m/z範囲122毎に複数のスキャン速度が格納されている。従って、スキャン速度変更処理部112は、ステップS601で取得した変更マススペクトルにおけるm/z範囲(変更m/z範囲122)に割り当てられているスキャン速度からスキャン速度を1つ選択する。
【0042】
そして、スキャン速度変更処理部112はステップS612で選択したスキャン速度を質量分析装置200の制御部210に設定する(S613)。
その後、制御部210は設定されたスキャン速度で、変更m/z範囲122における測定対象物の測定を行う。これを仮測定と称する。つまり、制御部210は設定されたスキャン速度で、変更m/z範囲122における仮測定を行う(S614)。仮測定の結果(具体的にはマススペクトルM(
図7A、
図7B))は、演算装置100へ送られ、記憶部120に格納される。
続いて、スキャン速度変更処理部112は、スキャン速度パターン121において変更m/z範囲122に割り当てられているすべてのスキャン速度で仮測定済みであるか否かを判定する(S621)。
すべてのスキャン速度で仮測定済みではない場合(S621→No)、スキャン速度はステップS612へ処理を戻す。
【0043】
すべてのスキャン速度で仮測定済みである場合(S621→Yes)、スキャン速度変更処理部112はスキャン速度毎の仮測定の結果を比較する(S631)。この際、スキャン速度変更処理部112は、仮測定の結果(マススペクトルM)において最も深い点のイオン強度を比較する。なお、仮測定の結果の比較については後記する。
【0044】
続いて、スキャン速度変更処理部112はステップS631の結果を基に(測定に用いる)スキャン速度を決定する(S632)。スキャン速度の決定方法については後記する。
そして、スキャン速度変更処理部112はステップS632で決定したスキャン速度を変更m/z範囲122に対して適切なスキャン速度として制御部210に設定する(S633)。
【0045】
(スキャン速度変更処理の具体例)
次に、
図9A~
図9Cを参照して、
図8に示すスキャン速度変更処理の具体的な処理について説明する。なお、
図9A~
図9Cでは、マススペクトルM(
図7A、
図7B参照)の拡大処理に伴うスキャン速度変更について記載しているが、縮小処理に伴うスキャン速度変更についても同様の処理が適用可能である。
まず、
図7Aに示すように、マススペクトルM1の全域が表示された状態から、ユーザが拡大処理(あるいは縮小処理)を行うことをスキャン速度変更のトリガとする。すなわち、
図7Aに示す拡大範囲500が指定されると、
図8のスキャン速度変更処理が実行開始される。この処理は、
図5のステップS4で「Yes」が判定されたものに相当する。このように、ユーザが拡大処理(あるいは縮小処理)を行うことをスキャン速度変更のトリガとすることで、ユーザの操作を容易にすることができる。
【0046】
そして、スキャン速度変更処理部112は、
図9A~
図9Cに示すように、マススペクトルMの全域中の最も高いピークをイオン強度比(Intensity Ratiо)100%とする。
【0047】
また、前記したように、次に示す場合にはスキャン速度の変更が行われない。
(A1)拡大範囲500の内部に単一のピークしか存在しない場合、スキャン速度変更処理部112はスキャン速度の変更を行わない。
(A2)拡大後において、最大ピーク以外のピークの高さが最大ピークの50%以下であれば、半値幅を取得できないため、スキャン速度変更処理部112はスキャン速度の変更を行わない。
上記(A1)、(A2)は、
図8のステップS602において条件#1及び条件#2が満たされていない場合に相当する。
【0048】
また、前記したように予め登録されている複数のスキャン速度が変更m/z範囲122毎にスキャン速度パターン121に保持されている。
本実施形態では、例として、100Da/s、500Da/s、1000Da/sのスキャン速度がスキャン速度パターン121に保持されているものとする。
次に、スキャン速度変更処理部112は、スキャン速度パターン121に保持されているスキャン速度を1つずつ選択し、選択したスキャン速度で一回ずつ測定対象の測定(仮測定)を行う。この処理は
図8のステップS611~S621に相当する。
【0049】
その後、スキャン速度変更処理部112はそれぞれのスキャン速度による測定結果において、ピーク間の谷が最も深い点のイオン強度比を取得する。この処理は
図8のステップS631の処理である。
ピーク間の谷が最も深い点のイオン強度比とは、最も高いピーク点を100%とした場合におけるイオン強度比である。
【0050】
図9Aはスキャン速度が100Da/sの場合における仮測定結果を示す図である。
図9Bはスキャン速度が500Da/sの場合における仮測定結果を示す図である。そして、
図9Cはスキャン速度が1000Da/sの場合における仮測定結果を示す図である。
図9Aに示すように、100Da/sではマススペクトルM11におけるピーク間の谷が一番深い点のイオン強度比が42%となったものとする。また、
図9Bに示すように、500Da/sではマススペクトルM12におけるピーク間の谷が一番深い点のイオン強度比は25%となったものとする。さらに
図9Cに示すように、1000Da/sではマススペクトルM13におけるピーク間の谷が一番深い点のイオン強度比が27%となったものとする。
【0051】
そして、スキャン速度変更処理部112は、各スキャン速度とそれに対応したイオン強度比をデータとして記憶部120に保存する。
図9A~
図9Cに示す例では、「100Da/s:42%」、「500Da/s:25%」、「1000Da/s:27%」が記憶部120に保存される。
【0052】
その後、スキャン速度変更処理部112は、各イオン強度比を比較し(
図5のS631)、イオン強度比が最も小さいスキャン速度を選択する。これによって、適切なスキャン速度が決定される(
図5のS632)。
そして、スキャン速度変更処理部112は、読み出したスキャン速度を変更m/z範囲122に対して適切なスキャン速度として質量分析装置200の制御部210に設定する(
図5のS633)。具体的には、スキャン速度変更処理部112は決定したスキャン速度に対応する高周波電圧の値を制御部210に設定する。
質量分析装置200の制御部210は、以後、設定されたスキャン速度で測定を行う。この測定の結果結果、
図7Bに示すマススペクトルM2が得られる。
【0053】
図9A~
図9Cに示す例では、500Da/sにおいて谷が最も深くなっている。そのため、
図9A~
図9Cに示す例では、ピーク間の谷が最も深いスキャン速度である500Da/s(
図9)が適切なスキャン速度として決定される。
【0054】
このように、第1実施形態ではマススペクトルMにおいて谷が最も深くなるスキャン速度が適切なスキャン速度として決定される。谷が最も深くなるということは、マススペクトルMにおけるそれぞれのピークが明確になるということであり、良好な質量分解能が得られるということである。
【0055】
第1実施形態によれば、マウス等のポインティングデバイスを利用し、GUIを用いてm/z範囲や、適切なスキャン速度を容易に設定することができる。これにより、ソフトウェアの説明や質量分析の知識を有していなくても、測定するm/z範囲を変更し、m/z範囲に応じたスキャン速度で測定を行うことができ。この結果、質量分析の知識を持たないユーザや、GUI画面上のテキストボックスの位置を把握していないユーザでも常に質量分解能を適切な状態に保つことができる。
【0056】
つまり、第1実施形態によれば、質量分析の知識を持たないユーザが、m/z値などの専門用語の知識を必要とせず直感的な動作で、マススペクトルMの質量分解能が適切な状態による測定を行うことができる。また、ユーザが意識することなく質量分解能を適切な状態に保つことができる。
【0057】
また、第1実施形態によれば、マススペクトルMに表示された同位体成分に関して、質量分解能の向上により成分(特に同位体)の同定精度の向上が期待できる。
【0058】
また、質量分析装置200では、予めm/z値が既知の試料を測定し、質量分析装置200の質量校正を行う必要がある。質量校正とは、検出されたイオン強度を基にm/z値のずれを校正することである。一般的に、質量分析装置200においてm/z値とm/z値に対応する高周波電圧の関係が予め設定されることで校正が行われる。これにより、検出したい成分のイオンを質量分析装置200の内部に留めるイオントラップや特定成分のイオンを排出する制御の精度を保つことが可能になる。
【0059】
だが、m/z値とm/z値に対応する高周波電圧の関係は、温度や湿度などの変化を受けやすい。更に、温度や湿度は時間と共に変化するため、m/z値とm/z値に対応する高周波電圧の関係が時間経過に伴い変化してしまう。このような関係の変化をm/z値のずれと称する。
【0060】
m/z値のずれが生じると、検出されたイオンが真値から外れたm/z値で観測されてしまい、測定対象である成分のm/z値とは異なるm/z値として判断されてしまう。この場合、一般的にユーザがm/z値のずれを目視による判断や、自動検知による質量校正が行われる。
【0061】
第1実施形態によれば、前記したようにマススペクトルMの拡大縮小が行われても、良好な質量分解能を得ることができる。このため、質量校正に用いられる成分の同定精度が向上され、ユーザは質量校正の必要性を容易に判断することができる。
また、本実施形態によれば、質量分析装置200で質量校正に使用する試薬を、マススペクトルMをモニタリングしながら、個々の質量分析装置200の特性を考慮した成分を選定することができる。
【0062】
また、m/z値のずれが生じる要因としては、温度や湿度だけでなく、質量分析装置200自体の問題も存在する。例えば、スキャン速度の変更に伴うものがある。
スキャン速度は、高速であるほど測定時に含まれている成分を定性的に見ることができる。また、スキャン速度が低速であるほど測定したい成分を定量的に測定することができる。しかし、質量分析においては、スキャン速度を低速から高速、高速から低速に変化させるとm/z値のずれが生じるため、そのたびにm/z値と高周波電圧の関係を修正する必要がある。
【0063】
第1実施形態では、前記した手法によりマススペクトルMの拡大縮小に対して適切なスキャン速度が設定される。このため、スキャン速度の変更に伴う質量校正を行わなくてもよい。
【0064】
また、一般的にMS/MSにおけるMS1分析において測定するm/z範囲を更新することや、スキャン速度の変更は行われない。ちなみに、特許文献1や特許文献2では、m/z範囲の変更はMS2分析に限定されている。
【0065】
これに対し、MS1分析時の測定結果に第1実施形態に示す手法を適用することで、スキャン速度変更処理部112がMS1分析時のマススペクトルMを拡大縮小した際のm/z範囲(変更m/z範囲122)に対応したスキャン速度に変更することができる。これにより、MS1分析において適切なスキャン速度による測定が行われ、良好な質量分解能を得ることができる。その結果、MS1の段階で良好な質量分解能を有するマススペクトルMを取得することができるため、MS1における測定成分の取りこぼし等を防止することができる。従って、MS/MS全体の精度を向上させることができる。
【0066】
また、良好な質量分解能により、SIMや、SRMにおけるm/z値のずれをユーザがマススペクトルMで確認する際に、SIM、SRMの対象成分だけではなく、SIM、SRMの対象成分以外のm/z値の同位体をユーザが確認することができる。そして、これにより、ユーザは、SIM、SRMの対象成分以外の成分(同位体)についてm/z値のずれも確認することができる。つまり、第1実施形態によれば、前記したように、マススペクトルMの拡大縮小に対して適切なスキャン速度が制御部219に設定されることで、良好な質量分解能を得ることができる。これにより、ユーザは表示部102に表示されるマススペクトルM2で複数質量のイオン強度を確認することができる。従って、SIMやSRMにおいて、SIMやSRMに使用する成分のm/z値のずれだけでなく、測定対象成分以外の成分や、同位体を含む成分のm/z値のずれをユーザが評価し、ユーザによる質量校正の是非判断の補助を行うことができる。
【0067】
質量分解能を向上させる方法として、高周波電圧(即ちスキャン速度)を手動で調整し、ピーク幅を調整する方法が一般的にある。しかし、ピーク幅を削りすぎることにより感度が低下する恐れがある。
これに対し、本実施形態では、スキャン速度変更処理部112が拡大縮小したマススペクトルMを基に適切なスキャン速度を決定する。この際、マススペクトルMにおける谷の深さを基にスキャン速度が決定される。このため、ピーク幅を削りすぎることによる感度低下を防ぐことができる。
【0068】
また、第1実施形態では
図7Aに示すように、マススペクトルM1の拡大範囲500(もしくは縮小範囲)がマウスによるドラッグで指定される。このようにすることで、質量分析に関する操作について知識を持たないユーザでも容易にマススペクトルM1の拡大又は縮小と、スキャン速度の変更を行うことができる。
【0069】
<第2実施形態>
次に、
図10A及び
図10Bを参照して、本発明の第2実施形態を説明する。適宜、
図1~
図3を参照する。
第1実施形態では、演算装置100としてPC(Personal Computer)が想定されているが、PCの操作は手軽さにかけるという課題がある。第2実施形態では、第1実施形態よりも手軽さを向上させることを目的とする。
【0070】
第2実施形態では、
図1に示す演算装置100としてタブレット端末や、スマートフォン等といった携帯端末が使用され、表示部101及び入力部102がタッチパネルに置き換えられる例を示す。そして、第2実施形態ではタッチパネル上のピンチアウト動作でマススペクトルM(
図7A、
図7B参照)を拡大する処理について記述する。
【0071】
図10A及び
図10Bは、第2実施形態における拡大縮小処理(
図5のステップS4)の具体的な処理を示す図である。
図10Aは拡大処理前のマススペクトルM21の一例を示し、
図10Bは拡大処理御のマススペクトルM21の一例を示している。
まず、ユーザは、
図10Aに示すマススペクトルM21において、符号601と符号602とで示されるタッチパネル画面の上の任意の2点を押下する。演算装置100(携帯端末)は、押下されたユーザの指の位置情報を始点とする。次に、ユーザは、表示部101の画面上で押下された状態の指を符号611と符号612の位置までスライドさせ、指を離す。演算装置100(携帯端末)は、これを終点とする。これによって、拡大範囲600が設定される。
【0072】
この際、演算装置100(携帯端末)は、符号602と符号602それぞれのm/z値の情報を記憶部120に記憶する。更に、演算装置100(携帯端末)は、符号601と符号601、符号602と符号612のm/z軸に対する変化量を記憶する。そして、演算装置100(携帯端末)は、符号601,602の位置情報に対し、変化量を足し合わせる。演算装置100(携帯端末)は、これを新たなm/z範囲(変更m/z範囲122(
図3参照))とする。
【0073】
この結果、
図10Bに示される、
図10Aに示されるマススペクトルM21の一部を拡大したマススペクトルM22が表示部101に表示される。なお、
図10Bに示されるマススペクトルM22は決定された適切なスキャン速度による測定が行われた結果を示しているため、マススペクトルM21とは形状が異なっている。
【0074】
スキャン速度変更処理部112は、このような動作により得られたm/z範囲を新たなマススペクトルMの測定範囲(変更m/z範囲122)として、記憶部120に記憶させる。そして、スキャン速度変更処理部112は、記憶部120に記憶された変更m/z範囲122を取得する。
【0075】
そして、スキャン速度変更処理部112は、取得した変更m/z範囲122の情報に基づき、スキャン速度パターン121に保存されているスキャン速度から適切なスキャン速度を決定する。適切なスキャン速度の決定処理は第1実施形態と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0076】
更に、スキャン速度変更処理部112は、決定したスキャン速度に対応した高周波電圧を決定する。スキャン速度変更処理部112は、決定した高周波電圧を制御部210に設定する。質量分析装置200は変更m/z範囲122と、決定したスキャン速度で測定を開始する。
【0077】
第2実施形態では、演算装置100としてタブレット端末や、スマートフォン等が使用され、指動作によって拡大又は縮小処理が行われる。これにより、第2実施形態は第1実施形態よりも手軽さを向上させることができる。
【0078】
本実施形態は、三連四重極やイオントラップを用いるタンデム質量分析において、プリカーサイオンの選択を行い、イオンを衝突誘起解離させた後に二段階目の質量分析でプロダクトイオンを検出するMS/MSで使用が可能である。また、質量分析処理を複数回(3回以上)繰り返すMSn分析でも同様に使用が可能である。
【0079】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0080】
また、前記した各構成、機能、各部110,111~113、記憶部120等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、
図4に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU132等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HDに格納すること以外に、メモリ131や、SSD等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0081】
100 演算装置(制御装置)
101 表示部
110 処理部
111 取得部(マススペクトル取得部)
112 スキャン速度変更処理部(m/z範囲取得部、設定部)
113 表示処理部
120 記憶部
121 スキャン速度パターン
122 変更m/z範囲
200 質量分析装置
210 制御部
300 試料供給装置
400 スキャン速度設定画面
500,600 拡大範囲
M,M1,M2,M11~M13,M21,M22 マススペクトル
Z 質量分析システム
S3 マススペクトルの取得(マススペクトル取得ステップ)
S5 変更m/z範囲の記憶(m/z範囲取得ステップ)
S6 スキャン速度変更処理部(スキャン速度変更処理ステップ)