(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】真皮の神経線維量の推定方法、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20250314BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
(21)【出願番号】P 2020148087
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2023-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2020003128
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 中山 和紀、佐々 祥子、錦織 秀、黒住 元紀、鈴木 民夫及び池内 与志穂が、2019年第77回米国研究皮膚科学会議の予稿集、JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY, Volume 139, Issue 5, Supplement 1, May 2019 Page S135にて、杉山 茉希、中山 和紀及び池内 与志穂が発明した、真皮の神線維量の推定方法、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定方法について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 中山 和紀、佐々 祥子、錦織 秀、黒住 元紀、鈴木 民夫及び池内 与志穂が、第77回米国研究皮膚科学会議にて、杉山 茉希、中山 和紀及び池内 与志穂が発明した、真皮の神経線維量の推定方法、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定方法について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ポーラ化成工業株式会社が、http://www.pola-rm.co.jp/, http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20191105.pdfのアドレスのウェブサイトで公開されているポーラ化成工業株式会社のウェブサイトにて、杉山 茉希、中山 和紀及び池内 与志穂が発明した真皮の神経線維量の推定方法、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定方法について公開した。
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 茉希
(72)【発明者】
【氏名】中山 和紀
(72)【発明者】
【氏名】池内 与志穂
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-216965(JP,A)
【文献】特開2009-219491(JP,A)
【文献】特開2013-021946(JP,A)
【文献】コトバンク 「神経終末」,https://kotobank.jp/word/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B5%82%E6%9C%AB-81601
【文献】Norihiko Yokoi,Identification of PSD-95 Depalmitoylating Enzymes,Journal of Neuroscience,2016年06月15日,Vol.36 No.24,Page.6431-6444
【文献】シミの部位には神経が集まっていたことを初めて解明,ポーラ化成工業株式会社,2019年11月05日,https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20191105.pdf
【文献】Nakayama, K.,The association between senile lentigo and intracutaneous nerve structure,Journal of Investigative Dermatology,2019年05月,Vol.139 No.5 Suppl.1,Page.S135
【文献】[記者発表]皮膚の奥の神経が肌のシミ形成に影響、重要な働きを担う因子も同定,東京大学 生産技術研究所,2022年09月21日,https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/3977/
【文献】神経の影響によるメラノサイト活性化をヒメフウロエキスが抑制することを発見,ポーラ化成工業株式会社,2021年11月30日,https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20211130_01.pdf
【文献】Masahiro Hara,Innervation of Melanocytes in Human Skin,J. Exp. Med.,1996年10月,Vol.184,Page.1385-1395
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌のシミ濃度が高いほど、
定性的に真皮の神経線維が多いと推定する、及び/又は、対象者の肌全体のうち真皮の神経線維の多い部位であると推定する、真皮の神経線維の推定方法。
【請求項2】
真皮の神経線維の空間密度を推定し、該空間密度が高いほど、
定性的に真皮の神経線維が多いと推定する、及び/又は、対象者の肌全体のうち真皮の神経線維の多い部位であると推定することを含む、請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
真皮の神経線維量と肌のシミ濃度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ濃度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、肌のシミ濃度が高いほど、定性的に真皮の神経線維が多いと推定する、及び/又は、対象者の肌全体のうち真皮の神経線維の多い部位であると推定する推定手段と、を備える、真皮の神経線維推定装置。
【請求項4】
コンピュータを、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ濃度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、肌のシミ濃度が高いほど、定性的に真皮の神経線維が多いと推定する、及び/又は、対象者の肌全体のうち真皮の神経線維の多い部位であると推定する推定手段と、として機能させるための、真皮の神経線維推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の真皮の神経線維量の推定方法、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シミやソバカス等の皮膚の色素沈着症状は、顔の見た目に大きな影響を与えるため、その予防や改善に対する関心は高い。従来、種々の作用機序による美白剤が開発されており、消費者は好みや所望の効果に応じて化粧料を選択することができる。その選択をより各人に適したものとし、適切な肌の手入れをサポートするものとして、シミやソバカス等の発生しやすさを予測することが提案されている。
【0003】
特許文献1には、ヒトメラノサイト刺激ホルモン1受容体に係る特定のアミノ酸配列の変異がシミやソバカスの発生確率と相関していることに基づく、シミ等の発生確率を鑑別する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、特定の遺伝子における1個以上の一塩基多型(SNP)を検出することを特徴とする、皮膚におけるシミ又はソバカスの発生リスクを鑑別する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4817666号
【文献】特開2019-201564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記先行技術のあるところ、本発明者らは、真皮の神経線維量と、肌のシミ濃度との間に相関関係があることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、真皮の神経線維量を推定する新規技術の提供を課題とする。
また、本発明は、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定する新規技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、肌のシミ濃度に基づき、神経線維量を推定することを特徴とする、真皮の神経線維量の推定方法である。
【0008】
このような推定方法を用いることで、肌のシミ濃度という、取得するのが比較的容易なデータを用いて対象者の真皮の神経線維量を推定することができる。
従来の技術では、真皮の神経線維量を測定するにあたり、対象者の肌から皮膚組織を取得し解析する必要があり、少なからず対象者に負担をかけるという問題があった。また、従来の技術では、高価な実験機器や試薬を使用する必要があるため、コスト面での問題もあった。
しかしながら、本発明によれば、対象者の肌のシミ濃度に関する情報を取得するのみで真皮の神経線維量を推定することができる。そのため、真皮の神経線維量を利用した肌診断などの場面における対象者の負担を軽減することにつながる。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態では、真皮の神経線維の空間密度を推定し、該空間密度の推定結果に基づき、神経線維量を推定する。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態では、表皮のPSD95発現量に基づき、神経線維量を推定することを含む。
ここで、本発明の好ましい実施の形態では、表皮のPSD95発現量が少ないほど、神経線維量が少ないと推定する。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態では、
対象者から肌のシミ濃度に関する情報を取得するシミ濃度取得工程と、
前記シミ濃度取得工程で取得した肌のシミ濃度に関する情報を、予め用意した、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度との相関を示す式又はモデルに適用し、対象者の真皮の神経線維量を推定する工程と、
を有する。
【0012】
また、本発明は、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ濃度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の真皮の神経線維量を推定する推定手段と、
を備える、真皮の神経線維量推定装置にも関する。
【0013】
また、本発明は、コンピュータを、
真皮の神経線維量と肌のシミ濃度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ濃度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の真皮の神経線維量を推定する推定手段と、
として機能させるための、真皮の神経線維量推定プログラムにも関する。
【0014】
また、第二の本発明は、真皮の神経線維量に基づき、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定することを特徴とする、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定方法である。
【0015】
このような推定方法を用いることで、真皮の神経線維量という、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクとの相関が知られていなかったデータを用いて肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定することができる。
【0016】
また、本発明によれば、例えば、ヒト以外の動物を用いた試験研究において、真皮の神経線維量という、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクとの相関が知られていなかったデータを用い、薬剤、美容手法を適用した際の効果の推定に応用することができる。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態では、真皮の神経線維の空間密度が高いほど、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクが高いと判定することを含む。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態では、表皮のPSD95発現量に基づき、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定することを含む。
ここで、本発明の好ましい実施の形態では、表皮のPSD95発現量が少ないほど、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクが低いと推定する。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態では、対象者から真皮の神経線維量に関する情報を取得する神経線維量取得工程と、
前記神経線維量取得工程で取得した神経線維量に関する情報を、予め用意した、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクとの相関を示す式又はモデルに適用し、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定する工程と、
を有する。
【0020】
また、本発明は、前述のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定方法による結果に基づいて、美白作用を有する化粧品を選択することを特徴とする、化粧品の選択方法でもある。
【0021】
また、本発明は、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクとの相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した真皮の神経線維量に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定する推定手段と、
を備える、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスク推定装置でもある。
【0022】
また、本発明は、コンピュータを、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクとの相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した真皮の神経線維量に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定する推定手段と、
として機能させるための、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスク推定プログラムでもある。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、簡便に真皮の神経線維量を推定することができる。
また、本発明によれば、簡便に肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1における、透明化処理に供したシミのある表皮を含む立体皮膚組織を示す図である(代表図)。
【
図2】実施例1における、三次元画像を示す図である(代表図)。
【
図3】実施例1における、神経線維の3Dモデルを示す図である(代表図)。
【
図4】実施例1における、神経密度比率の対比を示す図である(代表図)。
【
図5】実施例2における、立体皮膚組織の取得場所を示すイメージ図である。
【
図6】実施例2における、立体皮膚組織の取得場所と神経線維量の相違を示す図である(代表図)。
【
図7】実施例3-1の神経線維との接触によるメラノサイト(Mc)の表現型変化の検証結果を示す図である。
【
図9】実施例4における、シミ部位と非シミ部位における神経とメラノサイトの接触頻度の違いを示す図である。
【
図10】実施例5における、シナプス関連因子の発現確認結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<肌のシミ濃度に基づく、対象者の真皮の神経線維量の推定方法>
本発明は、対象者の肌のシミ濃度に基づき、真皮の神経線維量を推定することを特徴とする、真皮の神経線維量の推定方法である。
【0026】
本発明の好ましい実施の形態では、対象者の肌のシミ濃度に基づき、肌のシミ濃度が高いほど真皮の神経線維量が多いと判定する。
【0027】
このような推定方法を用いることで、肌のシミ濃度という、取得するのが比較的容易なデータを用いて対象者の真皮の神経線維量を推定することができる。
従来の技術では、真皮の神経線維量を測定するにあたり、対象者の肌から皮膚組織を取得し解析する必要があり、少なからず対象者に負担をかけるという問題があった。また、従来の技術では、高価な実験機器や試薬を使用する必要があるため、コスト面での問題もあった。
しかしながら、本発明によれば、対象者の肌のシミ濃度に関する情報を取得するのみで真皮の神経線維量を推定することができる。そのため、真皮の神経線維量を利用した肌診断などの場面における対象者の負担を軽減することにつながる。
【0028】
対象者の肌のシミ濃度に関する情報の取得方法は特に限定されない。ここで、肌のシミ濃度に関する情報の取得方法は、非侵襲的な方法であることが好ましい。
【0029】
シミ濃度に関する情報の非侵襲的な取得方法として、分光光度計を用い、L*値、a*値、b*値を測定することにより、シミの濃度に関する情報を取得する方法を挙げることができる。
また、シミ濃度に関する情報の取得方法としては、皮膚組織を取得し、染色処理に供することにより、シミの濃度に関する情報を取得する方法も挙げることができる。
【0030】
また、後述の実施例に示すように、表皮のPSD95発現量の多い箇所では、神経線維量が多い。
そのため、表皮のPSD95発現量を取得し、表皮のPSD95発現量を基に真皮の神経線維量を推定する形態とすることもできる。
【0031】
ここで、表皮のPSD95発現量が少ないほど、神経線維量が少ないと推定する形態とすることが好ましい。
【0032】
本発明における「真皮の神経線維量の推定」は、定量的な推定値でもよく、正常の肌状態における真皮の神経線維量を指標とした相対的かつ定性的な推定でもよい。
また、本発明における「対象者の真皮の神経線維量の推定」には、特定部位における真皮の神経線維量の推定、対象者の肌全体のうち真皮の神経線維量の多い部位の推定、の何れの概念をも含む。
【0033】
本発明においては、真皮の神経線維の空間密度、真皮の神経線維の分岐数、神経線維の数、神経線維の長さ、から選ばれる1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、特に好ましくは全ての項目を推定することを含む。
【0034】
本発明の特に好ましい実施の形態では、真皮の神経線維の空間密度を推定し、該空間密度の推定結果に基づき、神経線維量を推定することを含む。
【0035】
真皮の神経線維量の推定方法の具体的な態様は特に限定されない。
また、真皮の神経線維量の推定方法として、上記肌のシミ濃度が高いほど、真皮の神経線維量が多いと推定するような定性的な推定手法を採用しても構わない。
この場合には、肌のシミ濃度について基準を設けておき、その基準よりシミ濃度が高い場合に「真皮の神経線維量が多い」と推定するような二元的な推定手法を採用してもよい。
【0036】
また、真皮の神経線維量の推定方法の具体的な態様として、
対象者から肌のシミ濃度に関する情報を取得するシミ濃度取得工程と、
前記シミ濃度取得工程で取得した肌のシミ濃度に関する情報を、予め用意した、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度との相関を示す式又はモデルに適用し、対象者の真皮の神経線維量を推定する工程と、
を有する態様を挙げることができる。
【0037】
また、定量的な推定手法を採用してもよい。具体的には、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度の相関関係に関する式又はモデルを予め作成しておき、対象者より取得した真皮の神経線維量を当該式又はモデルと照合することにより、対象者の肌のシミ濃度を推定する実施の形態を好ましく挙げることができる。このような実施の形態とすることにより推定精度を向上させることができる。
【0038】
ここで、式又はモデルを作成するためには、前述の真皮の神経線維量と、肌のシミ濃度を多変量解析すればよい。該多変量解析としては、目的変数(従属変数)と説明変数(独立変数)との関係を利用できるものが好ましく、判別分析、回帰分析(MLR、PLS、PCR、ロジスティック)を好ましく例示することができる。これらの内、特に好ましいのは重回帰分析(MLR)、非線形回帰分析(PLS:Partial Least Squares)である。
式又はモデルとしては、回帰式又は回帰モデルが好ましく挙げられ、さらに好ましくは重回帰式又は予測式が挙げられる。
【0039】
上記相関関係と肌のシミ濃度との相関を示す式又はモデルを作成するため、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度を関連付けたデータベース(DB)を作成することが好ましい。ここで、DBの人数は、好ましくは50人以上、より好ましくは100人以上、さらに好ましくは200人以上である。
DBの構造としては、例えば行列形式(マトリックス)であれば、行に人物を、列に真皮の神経線維量及び肌のシミ濃度を入力することができる。
【0040】
このDBは、新規に取得した対象者の肌のシミ濃度を推定した後、真皮の神経線維量の推定値を追加することで、更新してもよい。必要に応じて、更新したDBに対し上述した多変量解析を行って、式又はモデルを更新することもできる。該更新によって推定精度が向上する所以による。
【0041】
式又はモデルの作成、又は上記DBの作成にあたって必要となる肌のシミ濃度の測定及び、真皮の神経線維量の測定は、常法により行うことができる。
【0042】
以上で説明した肌のシミ濃度の測定及び、真皮の神経線維量の測定を、統計学的に有意な数の被験者に対して行うことで、上記式又はモデル、並びにDBを作成することができる。
【0043】
また、本発明は、対象者の肌のシミ濃度を推定する推定装置にも関する。
本発明の推定装置は、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ濃度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の真皮の神経線維量を推定する推定手段と、
を備える。
【0044】
記憶手段は、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度との相関データを記憶する。
相関データとしては、上述した式又はモデル、並びにこれらを作成するためのDBが挙げられる。
記憶手段は、例えばROM(Read Only Memory)により実現することができる。
【0045】
真皮の神経線維量の推定手段は、対象者から取得した肌のシミ濃度を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の真皮の神経線維量を推定する。
当該推定手段は、CPU(Central Processing Unit)により実現することができる。
CPUにおける上述した推定処理は、ROMに記憶されているプログラムに従って実行される形態とすることができる。
【0046】
また、記憶手段に、新規に取得した対象者の真皮の神経線維量、及び肌のシミ濃度の推定値が追加的に記憶され、相関データが逐次更新される実施の形態とすることが好ましい。
この場合、記憶手段に記憶された追加データを含むDBに基づき再解析を行い、更新された式又はモデルを算出し、これを記憶手段に上書き記憶する更新手段を設けることが好ましい。
更新手段は、ROMに記憶されたプログラムに従って、CPUにより実現する形態とすることができる。
【0047】
また、本発明の推定装置は、CPUに実行させるOS(Operating System)プログラムや各種アプリケーションプログラムを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)を備えることが好ましい。
【0048】
また、本発明は対象者の真皮の神経線維量推定プログラムにも関する。
本発明の推定プログラムは、コンピュータを、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度との相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した肌のシミ濃度に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の真皮の神経線維量を推定する推定手段と、
として機能させる実施の形態とすることが好ましい。
ここで、本発明はこのようなプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録したものでもよい。
【0049】
<真皮の神経線維量に基づく、対象者の肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定方法>
本発明は、真皮の神経線維量に基づき、対象者の肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定することを特徴とする、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定方法である。
【0050】
このような推定方法を用いることで、真皮の神経線維量という、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクとの相関が知られていなかったデータを用いて肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定することができる。
【0051】
また、本発明によれば、例えば、ヒト以外の動物を用いた試験研究において、真皮の神経線維量という、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクとの相関が知られていなかったデータを用い、薬剤、美容手法を用いた際の効果の推定をすることができる。
【0052】
本発明の好ましい実施の形態では、対象者の真皮の神経線維量に基づき、真皮の神経線維量が多いほど肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクが高いと判定する。
【0053】
対象者の真皮の神経線維量に関する情報の取得方法は特に限定されない。
真皮の神経線維量に関する情報の取得方法としては、皮膚組織を取得し、染色処理に供することにより、真皮の神経線維量に関する情報を取得する形態とすることが好ましい。
【0054】
また、後述の実施例に示すように、表皮のPSD95発現量の多い箇所では、シミ濃度が高い。
そのため、表皮のPSD95発現量を取得し、表皮のPSD95発現量を基に肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定する形態とすることもできる。
【0055】
ここで、表皮のPSD95発現量が少ないほど、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクが低いと推定する形態とすることが好ましい。
【0056】
本発明における「肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定」は、定量的な推定値でもよく、正常の肌状態における肌の色合いを指標とした相対的かつ定性的な推定でもよい。
また、本発明における「肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定」には、特定部位における肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスク、対象者の肌全体のうち肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの高い部位の推定、の何れの概念をも含む。
【0057】
なお、本発明により推定される「シミ発生リスク」は、皮膚の局所的な色素沈着症状の発生しやすさをいう。
【0058】
肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定方法の具体的な態様は特に限定されない。
また、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの推定方法として、上記真皮の神経線維量が多いほど肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクが高いと推定するような定性的な推定手法を採用しても構わない。
この場合には、真皮の神経線維量について基準を設けておき、その基準より真皮の神経線維量が多い場合に「肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクが高い」と推定するような二元的な推定手法を採用してもよい。
【0059】
また、定量的な推定手法を採用してもよい。具体的には、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクの相関関係に関する式又はモデルを予め作成しておき、対象者より取得した真皮の神経線維量を当該式又はモデルと照合することにより対象者の肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定する実施の形態を好ましく挙げることができる。このような実施の形態とすることにより推定精度を向上させることができる。
【0060】
また、本発明においては、真皮の神経線維の空間密度、真皮の神経線維の分岐数、神経線維の数、神経線維の長さ、から選ばれる2以上の項目に基づく神経線維量が多いほど肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクが高いと判定する形態とすることが好ましい。
中でも、真皮の神経線維の空間密度が高いほど、肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクが高いと判定することを含む形態とすることが好ましい。
【0061】
本発明により推定されたシミ発生リスク(発生確率)は、化粧品を選択する際の指標として利用することができる。ここで選択される化粧品は、通常は美白作用を有する化粧品であり、より具体的には、メラニン産生抑制作用、メラニン蓄積抑制作用、メラニン排出促進作用、メラニン分解促進作用、肌代謝促進作用など、種々の美白用化粧品を含む。通常は、推定されたシミ発生リスクが高い場合に、より作用・効果が強い美白用化粧品を選択する。
また、本発明により判定されたシミ発生リスク(発生確率)の結果は、肌の手入れ(スキンケア)や化粧方法に関するカウンセリングにおいても有用な指標となり得る。
【0062】
ここで、式又はモデルを作成する方法は、前述の手法を援用することができる。
【0063】
また、本発明は、対象者の肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定する推定装置にも関する。
本発明の推定装置は、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクとの相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した真皮の神経線維量に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定する推定手段と、
を備える。
【0064】
ここで、本発明の推定装置の好ましい実施の形態は、前述の説明を援用することができる。
【0065】
また、本発明は対象者の肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスク推定プログラムにも関する。
本発明の推定プログラムは、コンピュータを、真皮の神経線維量と肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクとの相関データを記憶する記憶手段と、
対象者から取得した真皮の神経線維量に関する情報を、前記記憶手段に記憶された前記相関データに適用し、前記対象者の肌のシミ濃度及び/又はシミ発生リスクを推定する推定手段と、
として機能させる実施の形態とすることが好ましい。
【0066】
ここで、本発明の推定プログラムの好ましい実施の形態は、前述の説明を援用することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の基礎となる知見を裏付ける各種試験結果を示す。
肌のシミ濃度と真皮の神経線維量の関係性を裏付ける試験結果を示す。
【0068】
<実施例1> 肌のシミ濃度と真皮の神経線維量について
【0069】
(1)試験材料及び測定部位の取得
本実施例では、表1に示すヒト皮膚を試験材料とした。
【0070】
【0071】
そして、本実施例では、試験材料における、シミ部位の立体皮膚組織(シミのある表皮のみを含む立体皮膚組織)と非シミ部位の立体皮膚組織(シミのない表皮のみを含む立体皮膚組織)を測定部位として選定した。そして、選定した部位の立体皮膚組織を、表1に示す大きさに切り出すことにより、取得した(
図1 参照)。
【0072】
(2)透明化処理工程
【0073】
まず、取得した立体皮膚組織を4℃雰囲気下、4%パラホルムアルデヒド溶液に、一晩浸漬させた。
浸漬後、立体皮膚組織をPBS溶液下、1時間×2回、振とう処理をおこなった。
その後、50%メタノールを含むPBS溶液での振とう処理(1時間)、80%メタノールを含むPBS溶液での振とう処理(1時間)、100%メタノール溶液での振とう処理(1時間×2回)をおこなった。
【0074】
振とう処理後、5%過酸化水素溶液(溶媒 DMSO/メタノール)を用い、4℃雰囲気下7日間、立体皮膚組織の脱色処理を行った。
【0075】
脱色処理の後、100%メタノール溶液での振とう処理(1時間×2回)をした。その後、20%DMSOを含むメタノール溶液での振とう処理(1時間×2回)、80%メタノールを含むPBS溶液での振とう処理(1時間)、50%メタノールを含むPBS溶液での振とう処理(1時間)、PBS溶液での振とう処理(1時間×2回)をおこなった。
【0076】
振とう処理後、0.2% Triton X-100(ナカライテスク製)を含むPBS溶液を用い、振とう処理(1時間×2回)をおこなった。振とう処理後、立体皮膚組織を、0.2% Triton X-100(ナカライテスク製)/20% DMSO/0.3 M Glycine を含むPBS溶液に、37℃雰囲気下、一晩浸漬させた。
【0077】
その後、立体皮膚組織を、0.2% Triton X-100(ナカライテスク製)/10% DMSO/6% Donkey Serum(Sigma-Aldrich 社製)を含むPBS溶液に、37℃雰囲気下、二晩浸漬させた。
【0078】
浸漬後、0.2% Tween 20 with 10μg/mL Heparin(Wako社製)を含むPBS溶液(以下、PTwHと略記)を用い、立体皮膚組織の振とう処理(1時間×2回)をおこなった。
【0079】
振とう後、5% DMSO/3% Donkey Serumを含むPTwH溶液を用い、一次抗体を希釈した。該希釈溶液を用い、立体皮膚組織を3晩、37℃雰囲気下で、浸漬させた。
ここで、一次抗体には、PGP9.5(abcam)及びTYRP1(bioLegend)を用いた。
【0080】
その後、PTwHを用い、立体皮膚組織を振とう処理(二晩)した。その後、3% Donkey Serumを含むPTwH溶液を用い、二次抗体を希釈した。該希釈溶液を用い、立体皮膚組織を二晩、37℃雰囲気下で、浸漬させた。
ここで二次抗体には、Donkey anti-rabbit IgG Alexa Flour Plus 647(Invitrogen)及びDonkey anti-mouse IgG Alexa Fluor Plus 555(Invitrogen)を用いた。
【0081】
その後、PTwHを用い、立体皮膚組織を振とう処理(三晩)した。その後、立体皮膚組織を50%(v/v)Tetrahydrofuran/H2O溶液で振とう処理(一晩)した後、80%(v/v)Tetrahydrofuran/H2O溶液(1時間)で振とう処理した。
【0082】
その後、立体皮膚組織を、Tetrahydrofuran溶液で振とう(1時間×2回)することにより、脱水処理した。
【0083】
脱水処理の後、立体皮膚組織がDichloromethane溶液に沈むまで(半日~1日)振とうすることにより、脱脂処理した。
【0084】
脱脂処理後、立体皮膚組織をジベンジルエーテル3mLで透明になるまで一晩振盪させた。
【0085】
(3)可視化工程、対比観察工程
共焦点レーザー顕微鏡(Nikon社製)を用い、透明化工程後の皮膚組織の三次元画像を撮像した(
図2)。
撮像した三次元画像を、画像解析ソフトウェアImaris(BITPLANE社製)に供すことにより、神経線維の3Dモデルを作成した(
図3)。
【0086】
また、画像解析ソフトウェアImaris(BITPLANE社製)に供すことにより、2値化及び細線化処理を行うことで、神経線維の空間密度、神経線維の分岐数、神経線維の数、神経線維の長さの差異を対比観察した。また、神経線維の空間密度の対比観察結果を
図4に示す。
【0087】
(4)考察
図4に示すとおり、シミ部位の立体皮膚組織(シミのある表皮を含む立体皮膚組織)は、非シミ部位の立体皮膚組織(シミのない表皮のみを含む立体皮膚組織)に比して、真皮の神経線維量が多いことがわかった。
【0088】
以上の結果は、シミ濃度が高いほど真皮の神経線維量が多いことを示している。
したがって、真皮の神経線維量に基づき、対象者の肌のシミ濃度を推定できることがわかった。
また、肌のシミ濃度に基づき、真皮の神経線維量を推定できることがわかった。
【0089】
<実施例2> 肌のシミ発生リスクと神経線維量の検証
次に、シミ発生リスクと神経線維量の検証をおこなった。
【0090】
(1)被験者及び測定部位
本実施例では、表1に示すヒト皮膚を試験材料とした。
そして、本実施例では、試験材料における、額領域、頬領域、顎領域を測定部位として、選定した(
図5 参照)。ここで、本実施例では正常状態の部位(シミのない表皮を含む立体皮膚組織)を測定部位とした。
【0091】
(2)試験
実施例1と同様の方法により、立体皮膚組織を取得した。
そして、取得した立体皮膚組織に対し、実施例1と同様の処理を行うことにより、神経線維の3Dモデルを作成した。
【0092】
(3)対比観察工程
可視化した各部位の3Dモデルを並列にし、本分野を専門とする評価者により、各領域の立体皮膚組織における、神経線維量の違いを対比観察した。
結果の代表図を
図6に示す。
【0093】
(4)考察
図6に示すとおり、頬領域の立体皮膚組織では、他の部位(額領域、顎領域)に比して、真皮の神経線維量が多いことがわかった。
ここで、頬領域は、シミのできやすい部位(シミ発生リスクの高い部位)である。
してみると、本実施例の結果、シミのできやすい部位(シミ発生リスクの高い部位)では、神経線維量が多いことがわかった。
【0094】
すなわち、本実施例の結果に依れば、真皮の神経線維量に基づき、対象者のシミ発生リスクを推定できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、対象者の真皮の神経線維量の推定方法に応用することができる。
【0096】
<実施例3-1> 神経線維との接触によるメラノサイト(Mc)の表現型変化の検証
次に、神経線維との接触によるメラノサイト(Mc)の表現型変化の検証をおこなった。
【0097】
(1)試験
iPS細胞より分化誘導した感覚神経細胞を24wellプレートに200,000cells/well播種した。
感覚神経細胞を3日間培養した後、ヒトメラノサイトを10,000cells/well播種し、2日間共培養を実施した。
共培養後、感覚神経細胞を4%PFAを用い固定し、ヒトメラノサイトを免疫染色法(TYRP1)にて染色した。
【0098】
染色後、光学顕微鏡・蛍光顕微鏡にてヒトメラノサイトの明視野画像および蛍光画像を取得した。
取得した明視野画像を二値化し、神経線維との接触(共培養)によるメラノサイト(Mc)の表現型変化を観察した。
結果を、
図7に示す。
【0099】
(2)結果・考察
図7に示すとおり、神経線維とメラノサイト(Mc)の共培養により、メラノサイト(Mc)の黒色化の度合いが高くなることがわかった。
【0100】
以上の結果は、シミ濃度が高いほど真皮の神経線維量が多いことを示している。
したがって、真皮の神経線維量に基づき、対象者の肌のシミ濃度を推定できることがわかった。
また、肌のシミ濃度に基づき、真皮の神経線維量を推定できることがわかった。
【0101】
<実施例3-2> 神経線維との接触によるメラノサイト(Mc)の表現型変化の検証
次に、神経線維との接触によるメラノサイト(Mc)の表現型変化の検証をおこなった。
【0102】
(1)試験
iPS細胞より分化誘導した感覚神経細胞を24wellプレートに200,000cells/well播種した。
感覚神経細胞を3日間培養した後、ヒトメラノサイトを10,000cells/well播種し、2日間共培養を実施した。
【0103】
共培養後、細胞を、4%PFAを用い固定し、神経細胞・メラノサイトを免疫染色法(神経:PGP9.5、Mc:TYRP1)にて染色した。染色後、光学顕微鏡・蛍光顕微鏡にて明視野画像および蛍光画像を取得した。
【0104】
取得した蛍光画像を基に神経とメラノサイトの接触の有無を、専門家による目視評価に供した。
また、神経とメラノサイトの接触画像(明視野)を二値化したものについて、専門家により目視にてメラノサイトの黒色程度を評価した。
結果を以下に示す。
【0105】
【0106】
(2)結果・考察
表2、
図8に示すとおり、神経線維とメラノサイト(Mc)の接触により、メラノサイト(Mc)の黒色化の度合いが高くなることがわかった。
【0107】
<実施例4> シミ部位における、神経とメラノサイトの接触頻度の検証
次に、シミ部位における、神経とメラノサイトの接触頻度の検証をおこなった。
【0108】
(1)試験材料及び測定部位の取得
本実施例では、前掲の表1に示すヒト皮膚を試験材料とした。そして、本実施例では、試験材料における、シミ部位の立体皮膚組織(シミのある表皮・真皮を含む立体皮膚組織)とシミ部位近傍の非シミ部位の立体皮膚組織(シミのない表皮・真皮を含む立体皮膚組織)を測定部位として選定した。そして、選定した部位の立体皮膚組織を、表1に示す大きさに切り出すことにより、取得した(
図1 参照)。
【0109】
(2)染色
実施例1と同様の方法により、シミ部位の立体皮膚組織(シミのある表皮・真皮を含む立体皮膚組織)と非シミ部位の立体皮膚組織(シミのない表皮・真皮を含む立体皮膚組織)を透明化し、染色をした。
【0110】
(3)解析
3D画像解析ソフト(Imaris)にて撮像した3D画像を開き、Coloc機能を用いて3D空間内における神経とMcのシグナルが共局在する部位を検出した。
そして、検出した共局在部位の割合を定量化した。
結果を
図9に示す。
【0111】
(4)結果・考察
図9に示すとおり、シミ部位では神経とメラノサイトの接触頻度が有意に高いことを確認することができた。
【0112】
<実施例5> 皮膚中における神経とメラノサイトの接触様式の同定(シナプス関連因子の発現確認)
次に、皮膚中における神経とメラノサイトの接触様式の同定をおこなった。
【0113】
(1)試験
OCT包埋済み正常皮膚組織から、クライオスタットにて10μm切片を作製した。
作成した正常皮膚組織切片をPBSにて洗浄(10min x 3)した。
【0114】
洗浄後、正常皮膚組織切片を1%Donkey serum/PBS(Blocking solution)にて1hr静置(RT)し、1st Ab(シナプス関連因子:PSD95、メラノサイト:TYRP1)/Blocking solutionにて10/N(4℃)反応を行った。
反応後PBSにて洗浄(10min x 3)し、2nd Ab/Blocking solutionにて1hr静置(RT)した。
静置後PBSにて洗浄(10min x 3)し、DAPI入り封入剤で封入し蛍光顕微鏡にて観察した。
結果を
図10に示す。
【0115】
(2)結果・考察
図10に示すとおり、神経とメラノサイトの接触部位では、PSD95の発現量が有意に高いことを確認することができた。
ここで、PSD95(postsynaptic density protein 95)は、シナプス関連因子であって、シナプスの受け手側(シナプス後膜)に特異的に発現するタンパク質である(M. Hara, M. Toyoda, M. Yaar, J. Bhawan, E. M. Avila, I. R. Penner, B. A. Gilchrest, J Exp Med, Oct 1;184(4):1385-95 (1996))。
すなわち、本試験の結果から、本試験の結果から、神経とメラノサイトの接触部位では、シナプス様接触がなされており、神経からメラノサイトへ神経伝達物質の分泌によるシグナル伝達を行っているといえる。
【0116】
また、本試験の結果から、表皮のPSD95発現量に基づき、神経線維量を推定できることがわかった。