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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】モノアシル型MELの製造
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/02 20060101AFI20250318BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20250318BHJP
【FI】
C12P19/02 ZNA
C12N15/54
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021542869
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2020031766
(87)【国際公開番号】W WO2021039686
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019153509
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 友岳
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】福岡 徳馬
(72)【発明者】
【氏名】北本 大
(72)【発明者】
【氏名】菅原 知宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 周平
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敦
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-113946(JP,A)
【文献】特開2018-052874(JP,A)
【文献】AMB Express,2019年07月06日,Vol.9, No.100,p.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノアシル型MEL生産能を有する微生物を、ポリオキシエチレン系界面活性剤及びカルボン酸型界面活性剤からなる群より選択される一種以上の界面活性剤の存在下で培養することを含む、モノアシル型MELを製造する方法。
【請求項2】
微生物がシュードザイマ属に属する微生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
微生物がマンノースアシル転移酵素をコードする遺伝子が欠損している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
メタノール、エタノール及びアセトン及びこれらの混合物からなる群より選択される一種以上を用いてモノアシル型MELを抽出する工程を更に含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ポリオキシエチレン系界面活性剤及びカルボン酸型界面活性剤からなる群より選択される一種以上の界面活性剤を含む、モノアシル型MEL生産能を有する微生物のモノアシル型MEL生産能向上剤。
【請求項6】
モノアシル型MEL生産能を有する微生物のモノアシル型MEL生産能を向上させるためのポリオキシエチレン系界面活性剤及びカルボン酸型界面活性剤からなる群より選択される一種以上の界面活性剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
微生物を用いたモノアシル型MELの製造に関する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
バイオサーファクタントは微生物が生産する天然の界面活性剤であり、生分解性が高く、環境低負荷であり、種々の有益な生理機能を有する。よって、食品工業、化粧品工業、医薬品工業、化学工業、環境工業分野等で使用すれば、環境調和型の社会を実現する上で有意義である。
【0003】
バイオサーファクタントは、糖脂質系、アシルペプタイド系、リン脂質系、脂肪酸系及び高分子系の5つに分類される。これらの中でも、糖脂質系の界面活性剤が最もよく研究されている。このような糖脂質系のバイオサーファクタントとしては、マンノースにエリスリトールがグリコシド結合したマンノシルエリスリトール(以下、MEとも称す。)に、更に脂肪酸がエステル結合したマンノシルエリスリトールリピッド(以下、MELとも称す。)、並びに、ラムノリピッド、ユスチラジン酸、トレハロースリピッド、及びソホロースリピッド等が知られている。
【0004】
MELには結合する脂肪酸残基並びにアセチル基の位置及び数等が相違する種々の構造が存在する。図1に、水素原子、アセチル基、及び炭素数3~18の脂肪酸残基をR1~R5で示したMELの構造式を示す。R1及びR2が脂肪酸残基であり、かつR3及びR4がアセチル基である構造物はMEL-A、R3が水素原子でありR4がアセチル基である構造物はMEL-B、R3がアセチル基でR4が水素原子である構造物はMEL-C、R3及びR4が水素原子である構造物はMEL-Dと定義される。マンノースと結合するエリスリトールのヒドロキシメチル基が1位の炭素に由来するか、4位の炭素に由来するかによって、得られるMEの構造は図2(a)、(b)に示すように相違する。図2(a)に示される4-O-β-D-mannopyranosyl-erythritolを糖骨格とするMELを4-O-β-D-MELと称する。シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)は、図2(b)に示される1-O-β-D-mannopyranosyl-erythritolを糖骨格とする1-O-β-D-MEL-Bを生産することが知られている。1-O-β-MEL-Bは、4-O-β-MEL-Bと比べて水和性が向上し、ベシクル形成能も高いという特徴を持ち、スキンケア剤などとして有望なバイオ素材である。
【0005】
炭素源をグルコースのみとして、MEL生産菌を培養することで、図1のMELにおいてR2のみに脂肪酸が結合し、R1、R3及びR4は水素原子であるモノアシル型MEL(1本鎖型MEL)が生産されることが報告されている(非特許文献1)。このモノアシル型MELは、従来のジアシル型MELと比較して、親水性が向上している(非特許文献1)。
【0006】
MEL生合成経路は既に報告されており、マンノースとエリスリトールを結合する糖転移酵素、脂肪酸を結合するアシル基転移酵素、アセチル基を結合するアセチル基転移酵素の反応によって、MELが細胞内で合成される(非特許文献2)。
【0007】
本発明者らは、バイオサーファクタントを生産する能力を有する微生物のアシル基転移酵素の遺伝子を欠失させることにより、図1の構造式においてR1だけに脂肪族アシル基が結合したモノアシル型MELが得られることを見出した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特願2016-191438
【非特許文献】
【0009】
【文献】Fukuoka et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. (2007) 76: 801-810.
【文献】Hewald et al., Appl. Environ. Microbiol. (2006) 72: 5469-5477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
モノアシル型MELの効率的な生産が1つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
斯かる課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、モノアシル型MEL生産菌の培養時に、培地に界面活性剤を添加することで、モノアシル型MELの生産効率が向上することが見出された。これらの知見に基づき、更なる研究と検討を重ねた結果、下記に代表される発明が提供される。
【0012】
項1
モノアシル型MEL生産能を有する微生物を界面活性剤の存在下で培養することを含む、モノアシル型MELを製造する方法。
項2
界面活性剤がノニオン系界面活性剤である、項1に記載の方法。
項3
微生物がシュードザイマ属に属する微生物である、項1又は2に記載の方法。
項4
微生物がマンノースアシル基転移酵素をコードする遺伝子が欠損している、項1~3のいずれかに記載の方法。
項5
メタノール、エタノール及びアセトン及びこれらの混合物からなる群より選択される一種以上を用いてモノアシル型MELを抽出する工程を更に含む、項1~4のいずれかに記載の方法。
項6
界面活性剤を含む、モノアシル型MEL生産能を有する微生物のモノアシル型MEL生産能向上剤。
項7
モノアシル型MEL生産能を有する微生物のモノアシル型MEL生産能を向上させるための界面活性剤の使用。
【発明の効果】
【0013】
モノアシル型MELの製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】MELの構造を示す。
図2】4-O-β-D-mannopyranosyl-erythritol(a)及び1-O-β-D-mannopyranosyl-erythritol(b)の構造を示す。
図3】酢酸エチル及びメタノール抽出したモノアシル型MELを薄層クロマトグラフィで評価した結果を示す。
図4】メタノール、エタノール及びアセトン抽出したモノアシル型MELを薄層クロマトグラフィで評価した結果を示す。
図5】界面活性剤非添加培地でモノアシル型MEL生産菌を培養した際のモノアシル型MEL生産量を薄層クロマトグラフィで評価した結果を示す。
図6】MEL-B添加培地でモノアシル型MEL生産菌を培養した際の菌体増殖量(a)及びモノアシル型MEL生産量(b)を薄層クロマトグラフィで評価した結果を示す。
図7】Tween20添加培地でモノアシル型MEL生産菌を培養した際の菌体増殖量(a)及びモノアシル型MEL生産量(b)を薄層クロマトグラフィで評価した結果を示す。
図8】TritonX-100添加培地でモノアシル型MEL生産菌を培養した際のモノアシル型MEL生産量を薄層クロマトグラフィで評価した結果を示す。
図9】BRIJ35添加培地でモノアシル型MEL生産菌を培養した際のモノアシル型MEL生産量を薄層クロマトグラフィで評価した結果を示す
【発明を実施するための形態】
【0015】
モノアシル型MELを生産する微生物を培養する際には、界面活性剤の存在下で培養することが好ましい。界面活性剤の種類は特に制限されず任意である。例えば、界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、又は両性界面活性剤であり得る。一実施形態において、界面活性剤はノニオン系であることが好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、エーテル型、エステル型、エステル・エーテル型等を挙げることができる。一実施形態において、ノニオン系界面活性剤はエーテル型であることが好ましい。エーテル型のノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(TritonX-100)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(Tween20)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(BRIJ35))、ブロックポリマー系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル)、MEL、ソホロリピッド、ラムノリピッド、トレハロースリピッドを挙げることができる。これらの界面活性剤の1種または2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。一実施形態において、界面活性剤はアニオン系界面活性剤であることが好ましい。アニオン系界面活性剤としては、例えば、カルボン酸型界面活性剤(例えば、オクタン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等)、スルホン酸型界面活性剤(例えば、1-ヘキサンスルホン酸ナトリウム、1-オクタンスルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸ナトリウム、1-ドデカンスルホン酸ナトリウム、ペルフルオロブタンスルホン酸、トルエンスルホン酸ナトリウム等)、並びにリン酸エステル型界面活性剤(例えば、ラウリルリン酸、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等)等を挙げることができる。これらの界面活性剤の1種または2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。
【0016】
界面活性剤の存在下でモノアシル型MEL生産微生物を培養する様式は特に制限されない。例えば、界面活性剤を液体培地に添加し、その培地中でモノアシル型MEL生産微生物を培養することができる。培地に添加する界面活性量は特に制限されず、界面活性剤の種類、微生物の種類、培地の種類などを考慮して適宜設定することができる。例えば、界面活性剤は、培地中の濃度が0.0001質量%以上1質量%以下、0.001質量%以上1質量%以下、0.0001質量%以上0.1質量%以下、0.001質量%以上0.1質量%以下、0.01質量%以上0.1質量%以下、0.0001質量%以上0.05質量%以下、0.001質量%以上0.05質量%以下、0.0001質量%以上0.01質量%以下、又は0.001質量%以上0.01質量%以下となるように設定することができる。
【0017】
培養液からモノアシル型MELを抽出する溶媒として、従来の酢酸エチルは適していない。一実施形態において、モノアシル型MELは、培養液を凍結乾燥後にメタノール、エタノール、アセトンのいずれかを用いて抽出することが出来る。
【0018】
モノアシル型MELを生産する微生物の種類は特に制限されない。例えば、特許文献1に記載されるモノアシル型MELを生産する微生物を使用することができる。特許文献は、参照によってその全体が本書に取り込まれる。一実施形態においてモノアシル型MEL生産微生物は、シュードザイマ属、モイジオマイセス属、ウスチラゴ属、スポリソリウムに属、Melanopsichium属、又はクルツマノマイセス属に属することが好ましい。好ましいシュードザイマ属微生物は、Pseudozyma antarctica(Moesziomyces antarcticus)、Pseudozyma parantarctica、Pseudozyma rugulosa、 Pseudozyma siamensis、Pseudozyma shanxiensis、Pseudozyma crassa、 Pseudozyma churashimaensis、Pseudozyma aphidis(Moesziomyces aphidis)、Pseudozyma hubeiensis、及びPseudozyma tsukubaensisである。好ましいモイジオマイセス属微生物はMoesziomyces antarcticus、 Moesziomyces aphidisである。好ましいウスチラゴ属微生物は、Ustilago hordei及びUstilago maydisである。好ましいSporisorium属微生物は、Sporisorium reilianum及びSporisorium scitamineumである。好ましいMelanopsichium属微生物は、Melanopsichium pennsylvanicumである。好ましいクルツマノマイセス属微生物は、Kurtzmanomyces sp. I-11である。好適な一実施形態において、MEL産生微生物は、シュードザイマ属微生物であり、より好ましくはPseudozyma tsukubaensisに属する微生物であり、更に具体的には、Pseudozyma tsukubaensis 1E5(JCM16987株)、NBRC1940(ATCC24555、CBS422.96、CBS6389、DBVPG6988、PYCC4855、JCM10324、MUCL29894、NCYC1510、NRRLY-7792)である。Pseudozyma tsukubaensisに属する微生物は、1-O-β-MEL-Bを選択的に生産することが知られている。
【0019】
一実施形態において、モノアシル型MEL生産微生物は、従来型のMELを生産する微生物に変異を加えることによって得ることができる。ここで従来型のMELとはジアシル型MELである。変異の種類は特に制限されないが、好ましくはMEL生産微生物が有するアシル基転移酵素をコードする遺伝子を破壊する変異であることが好ましい。遺伝子の破壊とは、遺伝子がコードするタンパク質(例えば、アシル基転移酵素)が機能しなくなることを意味し、その態様は特に制限されない。一実施形態において、MEL産生微生物が有するアシル基転移酵素をコードする遺伝子を破壊することによって、モノアシル型MELを生産する微生物を得ることができる。MEL生産微生物は、一般的に、2種類のマンノースアシル転移酵素(MAC1及びMAC2)を有する。MAC1及びMAC2は、マンノースの2位と3位の水酸基に脂肪酸を結合する反応を触媒するアシル基転移酵素である。モノアシル型MEL産生微生物を製造するためには、MAC1及びMAC2のいずれをコードする遺伝子を破壊してもよく、両方を破壊してもよい。好適な一実施形態において、MAC2をコードする遺伝子を破壊することが好ましい。
【0020】
遺伝子の破壊は任意の手法で行うことができる。例えば、遺伝子の破壊は、当該遺伝子の塩基配列に変異を導入する方法、当該遺伝子の発現制御領域(プロモーター等)を破壊又は欠失させる方法、又は当該遺伝子の転写産物の翻訳を阻害する方法によって実施することができる。これらは、例えば、相同組換え法、トランスポゾン法、トランスジーン法、転写後遺伝子サイレンシング法、RNAi法、ナンセンス仲介減衰(Nonsense mediated decay, NMD)法、リボザイム法、アンチセンス法、miRNA(micro-RNA)法、siRNA(small interfering RNA)法等を用いて行うことができる。
【0021】
一実施形態において、遺伝子の破壊は、相同組換え法を用いて行うことが好ましい。相同組換え法による遺伝子を破壊する手法は公知である。例えば、相同組換え法による標的遺伝子の破壊は、標的遺伝子のORF中に、薬剤耐性又は栄養要求性を相補する遺伝子等の選択マーカー遺伝子を挿入した遺伝子カセットを作成し、それを適当なベクター(例えば、プラスミド)に組み込んで、宿主微生物(例えば、従来型MEL生産微生物)に導入し、相同組換えによって標的遺伝子中にマーカー遺伝子を挿入する方法である。標的遺伝子が破壊された微生物は、上記マーカー遺伝子の発現により選択することができる。
【0022】
相同組換え法で使用するマーカー遺伝子は、遺伝子工学において、通常使用される形質転換体の選択マーカー遺伝子を用いることができる。例えば、ハイグロマイシン、ゼオシン、カナマイシン、クロラムフェニコール、及びG418等の薬剤に耐性を付与する遺伝子、ウラシル合成酵素、ロイシン合成酵素、アデニン合成酵素、及びリシン合成酵素等の栄養要求性を相補する遺伝子が挙げられる。
【0023】
一実施形態において、標的遺伝子は、MAC2遺伝子であることが好ましい。代表的なMAC2遺伝子の例は次のとおりである。配列番号1は、Pseudozyma antaractica T34株由来のアシル転移酵素(PaMAC2)をコードする塩基配列である。配列番号2は、Pseudozyma antaractica JCM10317株由来のアシル転移酵素(PaMAC2)をコードする塩基配列である。配列番号3は、Pseudozyma hubeiensis SY62株由来のアシル転移酵素(PhMAC2)をコードする塩基配列である。配列番号4は、Pseudozyma tsukubaensis NBRC1940株由来のアシル転移酵素(PtMAC2)をコードする塩基配列である。配列番号5は、Pseudozyma tsukubaensis1E5株由来のアシル基転移酵素(PtMAC2)をコードする塩基配列である。配列番号6は、Pseudozyma aphidis DSM70725株由来のアシル基転移酵素(MAC2)をコードする塩基配列である。これらの配列情報に基づいてアシル転移酵素の遺伝子を破壊するためのベクターを構築することができる。尚、P.antarctica T-34は、「Moesziomyces antarcticus T-34」とも称される。P. aphidisは、「Moesziomyces aphidis」とも称される。
【0024】
シュードザイマ属を宿主とする場合のベクターとしては、例えば、pUXV1 ATCC 77463、pUXV2 ATCC 77464、pUXV5 ATCC 77468、pUXV6 ATCC 77469、pUXV7 ATCC 77470、pUXV8 ATCC 77471、pUXV3 ATCC 77465、pU2X1 ATCC 77466、pU2X2 ATCC 77467、pTA2、pUXV1-neo、pPAX1-neo、pPAA1-neo(Appl Microbiol Biotechnol (2016) 100:3207-3217、pUC_neo及び pUCT_neo等を例示することができる。
【0025】
宿主細胞へのベクターの導入は任意の手法で行うことができ、宿主細胞及びベクターの種類等に応じて適宜選択できる。ベクターの導入は、例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈降法、リポフェクション、マイクロインジェクション、及び酢酸リチウム法等によって実施することができる。
【0026】
モノアシル型MELを産生する微生物を用いたモノアシル型MELの生産は任意の方法で行うことができる。例えば、MEL生産微生物の培養に適した培地で培養することによってモノアシル型MELを生産することができる。そのような培地としては、特に制限されないが、例えば、炭素原料にグルコース、ショ糖、廃糖蜜などの糖質を用いることが望ましい。糖質に加えて、もしくは置き換えて、油脂類などを炭素源として用いることもできる。油脂類の種類は特に制限されず、例えば、植物油脂、或いは、脂肪酸又はそのエステル類を添加することが好ましい。
【0027】
一実施形態において、培地に植物油脂を添加することが好ましい。植物油脂の種類は特に制限されず、目的とするMELの種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、大豆油、オリーブ油、ナタネ油、紅花油、ゴマ油、パームオイル、ひまわり油、ココナッツ油、カカオバター、及びひまし油等を挙げることができる。脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、及びネルボン酸等を挙げることができる。一実施形態において、好ましい脂肪酸は、オレイン酸である。
【0028】
一実施形態において、炭素源としてグルコースのみを含む培地でモノアシル型MELを生産する微生物を培養することができる。窒素源としては、有機窒素源と無機窒素源を組み合わせて用いることができる。例えば、有機窒素源として、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、ポリペプトン、コーンスティープリカー、カザミノ酸、及び尿素から成る群より選択される一種類もしくは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
無機窒素源としては、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、及びアンモニアから成る群より選択される一種類もしくは二種類以上を組み合わせて用いることができる。別の実施形態において、脂肪酸及びグリセリンを添加した培地でモノアシル型MEL産生能を有する微生物を培養することを含む、モノアシル型MELを製造する方法が提供される。
【0030】
脂肪酸及び油脂類の量は、特に制限されないが、例えば、各々培地中の濃度が0.1~40容量%となるように添加することができる。
【0031】
微生物の培養条件は特に制限されない。例えば、pH5~8、好ましくはpH6、温度20~35℃、好ましくは22~28℃の条件で3~7日間培養することができる。
【0032】
モノアシル型MEL産生能を有する微生物が産生したモノアシル型MELの抽出は、任意の手法で行うことができる。例えば、培養液又は菌体破砕液を遠心分離し、上清を回収し、上清に適当な抽出溶媒を添加し、抽出溶媒層を回収し、必要に応じて更なる精製を行って、モノアシル型MELを得ることができる。一実施形態において、モノアシル型MELの抽出に用いる抽出溶媒は、メタノール、エタノール及び、アセトン及びこれらの混合物からなる群より選択される一種以上であることが抽出効率の観点で好ましい。アセトンは、親水性の不純物とモノアシル型MELを効率的に分離してモノアシル型MELを得ることができるという観点で好ましい。
【0033】
上述のように、界面活性剤を用いることにより、微生物によるモノアシル型MELの産生効率(能力)を向上させることができ、またより安定的にモノアシル型MELを得ることができる。よって、一実施形態において、界面活性剤をモノアシル型MEL産生微生物によるモノアシル型MEL産生促進剤として利用することができる。他の実施形態において、モノアシル型MEL産生微生物によるモノアシル型MELの産生を促進させるため、モノアシル型MEL産生を安定化させるために、界面活性剤を使用することができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0035】
1.材料
・使用菌体
モノアシル型MEL生産株:シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)1E5株(JCM16987)アシル基転移酵素(PtMAC2)破壊株
・界面活性剤
MEL-B(シュードザイマ・ツクバエンシス培養物の精製品)
Tween20(SIGMA社製)
TritonX-100(MP Biomedicals社製)
BRIJ35(MP Biomedicals社製)
ラウリン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)
・培地
グリセロール添加YM培地:脱イオン水1Lに、酵母エキス3g、麦芽エキス3g、ペプトン5g、グルコース10g、グリセロール50gを溶かして調製した。
MEL生産培地:脱イオン水1Lに、酵母エキス5g、硝酸ナトリウム3g、リン酸二水素カリウム0.3g、硫酸マグネシウム・七水和物0.3g、グリセロール20g、後述の界面活性剤を溶かして調製した。
【0036】
2.モノアシル型MELの抽出溶媒の検討
2-1.モノアシル型MEL生産株の培養
モノアシル型MEL生産株をグリセロール添加YM培地2mLで25℃、2日間振とう培養し、前培養液を得た。次いで、前培養液1mLをMEL生産培地(0.005% TritonX-100を含む)に3%オリーブ油を添加した培地20mLに接種し、25℃で7日間振とう培養した。培養3日目に2%オリーブ油を追加した(添加油脂量合計5%)。
【0037】
2-2.モノアシル型MELの抽出
培養液からのモノアシル型MELの抽出を種々の溶媒(酢酸エチル、メタノール、エタノール、アセトン)を用いて試験した。上記2-1で得た培養液を3,000rpmで遠心し、培養上清を回収した。回収した上清に直接酢酸エチルを添加し、モノアシル型MELを含む酢酸エチル層を回収したものを酢酸エチル抽出物とした。メタノールによる抽出では、初めに回収した上清は-20℃で凍結した後、凍結乾燥を行った。乾燥後の上清にメタノールを添加し、ボルテックスで攪拌した後一晩室温で静置した。静置後、メタノール層を回収し、0.45μmのフィルターでろ過したものをメタノール抽出物とした。エタノール、又はアセトンを用いた抽出もメタノールの場合と同様に行った。
【0038】
2-3.抽出物中のモノアシル型MEL量の評価
各溶媒抽出物に含まれるモノアシル型MELの量は、薄層クロマトグラフィ(TLC)で分析した。展開相の組成は、クロロホルム:メタノール:12%アンモニア水=55:25:2で行った。展開後のTLCプレートに2%アンスロン硫酸試薬を噴霧し、95℃、5分間加熱してモノアシル型MELのスポットを検出した。
【0039】
図3に示される通り、メタノール抽出と比較して、酢酸エチル抽出のモノアシル型MEL抽出量は少ないことが確認された。メタノール抽出物中のモノアシル型MELのスポットが2つに分かれているのは、溶媒中の水分の影響であると考えられる。
【0040】
同様に、エタノールとアセトンで抽出を行った結果を図4に示す。メタノールと同様に、エタノール及びアセトンでも酢酸エチルよりも効率的にモノアシル型MELを抽出できることが確認された。特にアセトン抽出では、メタノールやエタノール抽出では原点に検出される高親水性の不純物がほとんど検出されず、より高純度にモノアシル型MELのみを抽出可能なことが確認された。また、メタノール、エタノールとは異なり、モノアシル型MELのスポットが単一に検出されることも確認された。
【0041】
3.モノアシル型MEL生産量の評価
3-1.モノアシル型MEL生産株の培養
モノアシル型MEL生産株をグリセロール添加YM培地2mLで25℃、2日間振とう培養し、前培養液を得た。次いで、前培養液1mLをMEL生産培地に3%オリーブ油を添加した培地20mLに接種し、25℃で7日間振とう培養した。培養3日目に2%オリーブ油を追加した(添加油脂量合計5%)。MEL生産培地は、界面活性剤を含まないもの、及び界面活性剤(MEL-B、Tween20、TritonX-100又はBRIJ35)を0.01%又は0.1%の濃度で含むものを用いた。
【0042】
3-2.モノアシル型MELの抽出
上記3-1で得た培養液を3,000rpmで遠心し、培養上清を回収した。回収した上清は-20℃で凍結した後、凍結乾燥を行った。乾燥後の上清にアセトンを添加し、ボルテックスで攪拌した後一晩室温で静置した。静置後、アセトン層を回収し、0.45μmのフィルターでろ過したものをアセトン抽出物とした。
【0043】
3-3.抽出物中のモノアシル型MEL量の評価
各アセトン抽出物に含まれるモノアシル型MELの量は、薄層クロマトグラフィ(TLC)で分析した。展開相の組成は、クロロホルム:メタノール:12%アンモニア水=55:25:2で行った。展開後のTLCプレートに2%アンスロン硫酸試薬を噴霧し、95℃、5分間加熱してモノアシル型MELのスポットを検出した。
【0044】
3-4.界面活性剤非添加条件でのモノアシル型MEL生産
界面活性剤非添加のMEL生産培地でモノアシル型MEL生産株を計3回培養した結果を図5に示す(1回に付きn=3で実施)。図5中、左、中、右のTLCプレートはそれぞれ1回目、2回目、3回目の培養結果を表す。図5に示される通り、界面活性剤非添加条件下では、モノアシル型MELは生産されないか(3回目)、生産されてもごく少量である(1回目)ことが確認された。また、n=3で培養を実施しても、1検体からのみしかモノアシル型MELが検出されない(2回目)場合もあり、生産が不安定であることも確認された。菌体増殖量は、計3回の平均で21.9±2.8g/Lであった。
【0045】
3-5.MEL-B添加条件でのモノアシル型MEL生産
MEL-Bを添加したMEL生産培地でモノアシル型MEL生産株を培養した結果を図6に示す。図6中(a)は菌体増殖量、(b)はTLC分析の結果を表す。図6に示される通り、0.01%及び0.1%MEL-Bの添加により、モノアシル型MELの生産量が非添加条件と比較して大幅に向上し、全ての培養で安定してモノアシル型MELが生産されることが確認された。また、菌体増殖量も非添加条件の場合を上回っていた。
【0046】
3-6.Tween20添加条件でのモノアシル型MEL生産
Tween20を添加したMEL生産培地でモノアシル型MEL生産株を培養した結果を図7に示す。図7中(a)は菌体増殖量、(b)はTLC分析の結果を表す。図7に示される通り、Tween20の添加により、モノアシル型MELの生産量が非添加条件と比較して向上し、全ての培養で安定してモノアシル型MELが生産されることが確認された。また、菌体増殖量も非添加条件の場合を上回っていた。
【0047】
3-7.TritonX-100添加条件でのモノアシル型MEL生産
TritonX-100を添加したMEL生産培地でモノアシル型MEL生産株を培養した結果を図8に示す。図8に示される通り、0.01%TritonX-100の添加により、モノアシル型MELの生産量が非添加条件と比較して大幅に向上し、全ての培養で安定してモノアシル型MELが生産されることが確認された。また、菌体増殖量も25.0±0.4g/Lと非添加条件の場合を上回っていた。
【0048】
3-8.BRIJ35添加条件でのモノアシル型MEL生産
BRIJ35を添加したMEL生産培地でモノアシル型MEL生産株を培養した結果を図9に示す。図9に示される通り、0.01%BRIJ35の添加により、モノアシル型MELの生産量が非添加条件と比較して向上し、全ての培養で安定してモノアシル型MELが生産されることが確認された。菌体増殖量は20.6±0.4g/Lであった。
【0049】
3-9.ラウリン酸ナトリウム添加条件でのモノアシル型MEL生産
アニオン系界面活性剤であるラウリン酸ナトリウムを0.01%添加したMEL生産培地で上記試験と同様にモノアシル型MEL生産株を培養したところ、界面活性剤非添加の場合と比較して、モノアシル型MELの生産量は上昇し、またモノアシル型MELの生産が安定化することが確認された。
【0050】
MEL-Bの培地への添加により、原料油脂の乳化、分散が促進された結果、モノアシル型MELの生産が促進されたと推測される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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