(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】強誘電体を含むポリビニルアルコール繊維および強誘電体からなる繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/50 20060101AFI20250318BHJP
D01F 1/10 20060101ALI20250318BHJP
D01F 9/08 20060101ALI20250318BHJP
D01F 9/10 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
D01F6/50 Z
D01F1/10
D01F9/08 Z
D01F9/10 Z
(21)【出願番号】P 2020210509
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】野中 寿
(72)【発明者】
【氏名】関谷 真司
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 了慶
(72)【発明者】
【氏名】横山 公輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 洪
(72)【発明者】
【氏名】立石 貴志
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/013217(WO,A1)
【文献】特開平09-041216(JP,A)
【文献】特開昭62-289615(JP,A)
【文献】特開平09-241918(JP,A)
【文献】特開平09-013231(JP,A)
【文献】特開平01-124624(JP,A)
【文献】特開昭48-039724(JP,A)
【文献】特開平04-192226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96;9/00-9/04
D01F9/08-9/32
C04B35/46-35/478
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体と平均重合度が2000以上のポリビニルアルコールとを含むポリビニルアルコール繊維。
【請求項2】
繊維径が100μm以下である請求項1に記載のポリビニルアルコール繊維。
【請求項3】
前記強誘電体が前記ポリビニルアルコール100質量部に対して、20から1900質量部である請求項1または2に記載のポリビニルアルコール繊維。
【請求項4】
前記強誘電体の比誘電率が300以上である請求項1から3のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール繊維。
【請求項5】
前記強誘電体が少なくともチタン酸金属塩を含む請求項1から4のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール繊維。
【請求項6】
前記チタン酸金属塩の金属がアルカリ金属またはアルカリ土類金属である請求項5に記載のポリビニルアルコール繊維。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール繊維を少なくとも一部に含む繊維構造体。
【請求項8】
強誘電体と重合度2000以上のポリビニルアルコールとを有機溶剤に添加して紡糸原液とし、該紡糸原液を前記ポリビニルアルコールポリマーに対する固化能を有する固化液に吐出する請求項1から6のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール繊維を1200から1400℃で焼成する、強誘電体からなる繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体からなる繊維の製造に好適に使用されるポリビニルアルコール繊維、該繊維を含有する繊維構造体、該繊維の製造方法、および該繊維を用いた強誘電体からなる繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、複雑化、薄膜化および高性能化が求められており、誘電率に優れかつ様々な形態への加工が容易である誘電材料が求められている。誘電材料の中でも、チタン酸金属塩は高い誘電率をもつ材料であり、その優れた誘電特性から、セラミック積層コンデンサなどの誘電材料として広く使用されている。またチタン酸金属塩はポリマーやゴムなどの改質材としても使用され、高分子材料に添加することで、高誘電率化された複合材を得ることができる。
【0003】
しかし、このような複合材において、誘電性能を発現させるためには強誘電体を高充填させる必要があるが、強誘電体を高充填させることによって成形性や柔軟性が失われる場合がある。もしも成形性や柔軟性が失われた場合、成型の過程でボイドを完全に除去することや、目的とする成型体の形態を得ることが困難な場合がある。
【0004】
また製造工程中に一定の張力がかかる繊維形状、特に細い連続した繊維形状への加工は困難であり、十分な性能と取扱性を両備した強誘電体を含有する繊維形状の材料が望まれている。このような性能と取扱性を両備した繊維状の材料を提供することができれば、複雑な形状の誘電体材料等、用途に応じて様々な形態に加工することが可能となり、新しい電子材料としての応用が考えられる。
【0005】
繊維状の材料として、例えば特許文献1には、複合チタン酸金属塩繊維が繊維軸方向に配向し有機ポリマー中に分散されている有機繊維状組成物が開示されている。
強誘電体を繊維状とすることについては、例えば特許文献2および特許文献3に開示がある。
【0006】
特許文献2には、連続的な繊維状に形成されたアルギン酸ゲルにチタンイオンおよびバリウムイオンを吸着させた後、繊維の長さ方向に延伸しながら乾燥し、このアルギン酸ゲルを大気中で焼成してなることを特徴とする繊維状チタン酸バリウムの製造方法が開示されている。
また特許文献3には、連続的に一方向に配列した多結晶組織からなる柔軟性に富む長繊維状チタン酸アルカリが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平09-241918号公報
【文献】特開平4-272228号公報
【文献】特開平4-202015号公報
【0008】
しかしながら特許文献1および2に記載されている有機繊維状組成物は、いずれも繊維径が太く、得られた繊維を巻き取ったり加工したりすることは難しく、取扱性に劣ると考えられる。特許文献3には繊維径の小さい繊維が開示されているものの、その形状は繊維状ではなくウィスカー状のものであると考えられる。
【0009】
したがって、これまで知られている強誘電体を含有する繊維、または強誘電体からなる繊維は繊維径や柔軟性が十分とはいえず、さらなる改良が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、靭性が高く、柔軟性と取扱性に優れる、強誘電体を含有するポリビニルアルコール繊維の提供を目的とする。また本発明は靭性が高く、柔軟性と取扱性に優れる強誘電体を含有するポリビニルアルコール繊維の製造方法、該繊維を有する繊維構造体の提供を目的とする。さらに本発明は強誘電体を含有するポリビニルアルコール繊維を用いた強誘電体からなる繊維の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは強誘電体とポリビニルアルコールとを含有する繊維を焼成すると、繊維状の誘電材料が得られることに着目し、強誘電体を含むポリビニルアルコール繊維が、強誘電体からなる繊維の前駆体となることから本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1]
強誘電体と平均重合度が2000以上のポリビニルアルコールとを含むポリビニルアルコール繊維、
[2]
繊維径が100μm以下である前記[1]に記載のポリビニルアルコール繊維、
[3]
前記強誘電体が前記ポリビニルアルコール100質量部に対して、20から1900質量部である前記[1]または[2]に記載のポリビニルアルコール繊維、
[4]
前記強誘電体の比誘電率が300以上である前記[1]から[3]のいずれかに記載のポリビニルアルコール繊維、
[5]
前記強誘電体が少なくともチタン酸金属塩を含む、前記[1]から[4]のいずれかに記載のポリビニルアルコール繊維、
[6]
前記チタン酸金属塩の金属がアルカリ金属またはアルカリ土類金属である前記[5]に記載のポリビニルアルコール繊維、
に関する。
さらに本発明は
[7]
前記[1]から[6]のいずれかに記載のポリビニルアルコール繊維を少なくとも一部に含む繊維構造体、
[8]
強誘電体と重合度2000以上のポリビニルアルコールとを有機溶剤に添加して紡糸原液とし、該紡糸原液を前記ポリビニルアルコールポリマーに対する固化能を有する固化液に吐出する前記[1]から[6]のいずれかに記載のポリビニルアルコール繊維の製造方法、
[9]
前記[1]から[6]のいずれかに記載のポリビニルアルコール繊維を1200から1400℃で焼成する、強誘電体からなる繊維の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、靭性が高く、柔軟性と取扱性に優れる、強誘電体を含有するポリビニルアルコール繊維が提供される。また本発明によれば、靭性が高く、柔軟性と取扱性に優れる、強誘電体を含有するポリビニルアルコール繊維の製造方法、該繊維を有する繊維構造体が提供される。さらに本発明は強誘電体を含有するポリビニルアルコール繊維を用いた強誘電体からなる繊維の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0015】
本発明のポリビニルアルコール繊維は、強誘電体と平均重合度が2000以上のポリビニルアルコールを含み、後述するように焼成することで、強誘電体からなる繊維とすることができる。
【0016】
強誘電体とは、印加した電圧を取り除いても自発分極が残る材料である。これは外部電界の印加方向を変えることによって、材料内部の自発分極の方向も任意に変えることができる性質を有する。強誘電体の比誘電率は通常50以上であり、強誘電性を用いる観点から100以上が好ましく、300以上がより好ましく、1000以上が特に好ましい。
【0017】
強誘電体としては、チタン酸金属塩、チタン酸ジルコン酸鉛、リン酸二水素カリウム、ヒ酸カリウム、硫酸グアニジンアルミニウム、ロッショエル塩、亜硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸アンモニウムカドミウム、硫酸グリシン、ホウ酸カルシウム水和物などが挙げられる。これらの中でもチタン酸金属塩、ロッショエル塩が好ましい。また、チタン酸金属塩の金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であることがより好ましく、具体的にはチタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられる。
上記強誘電体は1種でも2種以上を使用してもよい。
【0018】
本発明のポリビニルアルコール繊維は上記強誘電体と平均重合度が2000以上のポリビニルアルコールを含む。本発明で用いられるポリビニルアルコールはビニルエステルモノマーを重合して得られるビニルエステル重合体をけん化したものである。ビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0019】
上記のビニルエステル重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステルモノマーを用いたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルモノマーを用いて得られたものがより好ましい。ビニルエステル重合体は1種または2種以上のビニルエステルモノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0020】
ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。上記のビニルエステル重合体は、これらの他のモノマーのうちの1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0021】
上記のビニルエステル重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合は、得られる繊維の強度の観点から、ビニルエステル重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。上記他のモノマーの含有量は0でもよいが、ビニルエステル重合体が上記他のモノマーを含む場合、他のモノマーに由来する構造単位の割合は、ビニルエステル重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、0.02モル%以上が好ましく、0.1モル%以上がより好ましい。
【0022】
本発明のポリビニルアルコール繊維に用いられるポリビニルアルコールは上述したビニルエステル重合体をけん化することで得られる。また本発明のポリビニルアルコール繊維に用いられるポリビニルアルコールは、スルホン酸基、スルホネート基、マレイン酸基、イタコン酸基、アクリル酸基およびメタクリル酸基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有するポリビニルアルコールであってもよい。
【0023】
上記ポリビニルアルコールの平均重合度(粘度平均重合度)は2000以上である。強誘電体を含む繊維とした時の取扱性の観点から、2200以上が好ましく、2400以上がより好ましい。強誘電体を含む繊維の紡糸性の観点から、重合度は20000以下が好ましく、10000以下がより好ましい。
【0024】
上記平均重合度(Pо)は、JIS K 6726-1994の記載に準じて測定され、ポリビニルアルコールを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。
Po = ([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0025】
得られるポリビニルアルコール繊維の強度の観点から、上記ポリビニルアルコールのけん化度は98モル%以上好ましく、99モル%以上がより好ましい。けん化度はJIS K 6726に準じて測定される。
【0026】
本発明のポリビニルアルコール繊維は、得られる強誘電体からなる繊維の電気特性と取扱性の観点から、上記強誘電体を上記ポリビニルアルコール100質量部に対して、20質量部から1900質量部含むのが好ましい。強誘電体からなる繊維の電気特性の観点から、100質量部以上がより好ましく、400質量部以上がさらに好ましい。
強誘電体を含有する繊維の取扱性の観点から、1600質量部以下がより好ましく、1200質量部以下がさらに好ましい。
【0027】
なお、本発明のポリビニルアルコール繊維は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、ポリビニルアルコール以外の樹脂または強誘電体以外の無機物を含んでいてもよい。また、必要に応じて、例えば、可塑剤、架橋剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、耐衝撃助剤、発泡剤などの各種添加剤が配合されていてもよい。
【0028】
本発明のポリビニルアルコール繊維がポリビニルアルコール以外の樹脂または強誘電体以外の無機物を含む場合、その含有量は上記ポリビニルアルコール100質量部に対して、20質量部以下が好ましい。
【0029】
本発明のポリビニルアルコール繊維の繊維径は、取扱性の観点から、100μm以下が好ましい。取扱性の観点から、90μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0030】
本発明のポリビニルアルコール繊維の単繊維の繊度は特に限定されないが、通常、1から1000dtexであり、2から1000dtex、さらに30から600dtex程度の繊度が広く使用できる。繊維の繊維長は後述する繊維構造体や強誘電体を含有する繊維の用途に応じて適宜設定すればよい。また、本発明のポリビニルアルコール繊維の引張強度は0.1cN/dtex以上が好ましく、0.5cN/dtex以上がより好ましい。
【0031】
本発明のポリビニルアルコール繊維の製造は、上記ポリビニルアルコールと、上記強誘電体とを所定量含む紡糸原液を調製し、紡糸することで行われる。紡糸原液の溶媒は水また有機溶媒が用いられる。機械的性能および寸法安定性が高く断面が略円形で均質な繊維が得られる観点から、紡糸原液の溶媒は有機溶媒が好ましい。
【0032】
有機溶媒は、例えばジメチルスルホキシド(以下、DMSOと称する場合がある)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどの極性溶媒やグリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類、およびこれらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物、さらにはこれら溶媒同士、あるいはこれら溶媒と水との混合物などが例示される。なかでもDMSOが低温溶解性、低毒性、低腐食性などの点で最も好ましい。
【0033】
紡糸原液中のポリビニルアルコールの濃度は、組成、重合度、溶媒によって適宜選定されるが、一般的には4から40質量%の範囲である。紡糸原液の溶媒が有機溶媒の場合、溶解は窒素置換後減圧下で撹拌しながら行うのが、酸化、分解、架橋反応等の防止および発泡抑制の点で好ましい。紡糸原液の吐出時の液温としては50から150℃の範囲で、原液がゲル化したり分解・着色しない範囲とすることが好ましい。
【0034】
紡糸原液中の強誘電体の濃度は、得られるポリビニルアルコール繊維中の強誘電体の量が、上記範囲となるように適宜設定される。
【0035】
上記のように調整した紡糸原液を紡糸することで、本発明のポリビニルアルコール繊維を製造することができる。紡糸方法は特に限定されず、例えば乾式紡糸法、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法が例示される。なかでも生産性が高いことなどから湿式紡糸法により紡糸するのが好ましく、ポリビニルアルコールに対して固化能を有する固化液に吐出すればよい。特に多ホールから紡糸原液を吐出する場合には、吐出時の繊維同士の膠着を防ぐ点から乾湿式紡糸法よりも湿式紡糸法の方が好ましい。
【0036】
湿式紡糸法とは、紡糸口金から直接に固化浴に紡糸原液を吐出する方法であり、一方、乾湿式紡糸法とは、紡糸口金から一旦、空気や不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、それから固化浴に導入する方法である。なお、本発明でいう固化とは、流動性のある紡糸原液が流動性のない固体に変化することをいい、原液組成が変化せずに固化するゲル化と原液組成が変化して固化する凝固の両方を包含する。
【0037】
紡糸原液の溶媒が水である場合には、例えば飽和芒硝水溶液を固化液とすればよく、紡糸原液の溶媒が有機溶媒である場合には、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルなどの脂肪酸エステル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族類やこれらの2種以上の混合物を固化液とすればよい。
【0038】
繊維内部まで十分に固化させるために、固化溶媒に紡糸原液の溶媒を混合したものを用いるのが好ましく、固化溶媒/原液溶媒の混合質量比は95/5から40/60が好ましく、90/10から50/50がさらに好ましく、85/15から55/45が最も好ましい。また固化浴に原液溶媒を混合することにより、固化能を調整すると共に原液溶媒と固化溶媒の分離回収コストの低下をはかることができる。
【0039】
固化浴の温度に限定はないが、紡糸原液の溶媒が有機溶媒の場合、固化は通常固化浴温度が-15から30℃の間で行う。均一固化および省エネルギーの観点からは、固化浴温度が-10から20℃が好ましく、-5から15℃がさらに好ましく、0から10℃が特に好ましい。固化浴の温度がこの温度範囲外の場合、得られる繊維の引張り強度が低下する場合がある。紡糸原液が高温に加熱されている場合には、固化浴温度を低く保つためには、固化浴を冷却するのが好ましい。
【0040】
次いで固化浴から離浴後の繊維を例えば湿延伸する。湿延伸の場合、得られるポリビニルアルコール繊維の結晶化度の観点から、5倍以下が好ましく、機械的性能、膠着防止の点からは1から5倍が好ましく、1.2から3倍の湿延伸を施すのがより好ましい。糸篠の膠着抑制のため、毛羽の出ない範囲で湿延伸倍率を大きくすることが好ましい。湿延伸倍率を大きくするためには、抽出工程中において2段以上の多段に分けて湿延伸を行うことが好ましい。
【0041】
なお紡糸原液の溶媒が有機溶媒の場合、固化溶媒を主体とする抽出浴に接触させて糸篠から原液溶媒を抽出除去するのが好ましい。また湿延伸と抽出を同工程で行ってもかまわない。この抽出処理は、純粋な固化溶媒を糸篠の走行方向に対して向流方向で連続的に流すことにより抽出浴での滞留時間を短縮できる。この抽出処理により、糸篠中に含まれている紡糸原液溶媒の量を糸篠質量の1%以下、特に0.1%以下にすることができることから、このような方法が好ましい。接触させる時間としては5秒以上、特に15秒以上が好ましい。
【0042】
抽出速度を高め、抽出を向上させるためには、抽出浴中で糸篠をばらけさせることが好ましい。また乾燥に先立って、ポリビニルアルコールに対して固化能の大きい溶剤、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類に糸篠中の紡糸原液の溶媒を置換したり、鉱物油系、酸化ポリエチレン系、シリコン系、フッ素系などの疎水性油剤を溶液状またはエマルジョン状で糸篠に付着させたり、乾燥時の収縮応力を緩和させるために乾燥前に収縮させることも膠着防止に有効である。
【0043】
次いで、繊維を乾燥する。得られるポリビニルアルコール繊維の強度の観点から、乾燥温度は100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。さらに繊維の機械的特性を高めるため乾熱延伸をしてもよい。
【0044】
上記により得られた本発明のポリビニルアルコール繊維を繊維構造体とする場合、他の繊維と併用してもよい。併用する場合、自然環境での分解されやすさの観点から、繊維構造体中、本発明のポリビニルアルコール繊維の含有量は40質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80から100質量%が特に好ましい。また金属、他の樹脂からなるフィルム等、他の材料と併用してもよい。繊維構造体としては、織物、編み物、布帛、不織布、紙等が挙げられる。
【0045】
上記得られたポリビニルアルコール繊維を脱脂および焼成することで、上記強誘電体が焼結し結合した強誘電体からなる繊維が得られる。脱脂では、例えば最高温度約280℃で2時間保持することによって、有機成分が除去される。さらに焼成では、例えば最高温度約1300℃で2時間保持することによって、強誘電体が焼結され結合した連続的な繊維とすることができる。
【0046】
上記プロセスに倣い脱脂焼成することで、ポリビニルアルコールが熱分解しポリビニルアルコール繊維に含まれていた強誘電体を結合させ連続的な強誘電体からなる繊維を得る。そのための焼成温度は、1200℃以上であることが好ましい。また得られる強誘電体からなる繊維の電気特性の観点から、1200℃以上1400℃以下であることがより好ましい。
【0047】
脱脂焼成には電気式および燃焼式の炉が用いられ、より具体的には連続式のメッシュベルト炉、管状炉等が挙げられる。
【0048】
本強誘電体からなる繊維の取扱性の観点から、本強誘電体からなる繊維の繊維径は100μm以下が好ましく、90μm以下がより好ましい。本強誘電体からなる繊維の繊維径は10μm以上が好ましい。
本強誘電体からなる繊維の繊維径は、上記ポリビニルアルコール繊維の繊維径を制御することで、所定の繊維径とすることができる。
【0049】
本強誘電体からなる繊維は、セラミック積層コンデンサなどの誘電材料として広く使用することができる。また本強誘電体からなる繊維は、ポリマーやゴムなどの改質材としても使用され、高分子材料に添加することで、高誘電率化された複合材を得ることができる。
【0050】
本強誘電体からなる繊維は、例えば、指紋認証センサー用樹脂、電力向け絶縁材料用樹脂、アンテナ材料用樹脂、各種コンデンサ材料、受動素子内蔵基板用コンデンサ材、誘電体フィルタ、振動発生機、変換センサー、着火装置、メモリーなど、多種多様な電子材に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において採用された評価項目とその方法は、下記の通りである。
【0052】
(1)繊維の作製
以下に記載の条件により、各実施例、比較例のポリビニルアルコール繊維を製造した。
【0053】
(2)取扱性試験
上記ポリビニルアルコール繊維の製造において、以下の評価基準に基づき、取扱性を評価した。
1時間以上無断糸でボビンに巻き取れたもの;優
30分以上無断糸でボビンに巻き取れたもの;良
30分以内で断糸が確認されたもの;不可
【0054】
(3)比誘電率の測定
繊維の長さ方向表面部の対になる2点に繊維径の1/5相当の直径の円の大きさにスパッタを行い、電極を形成した。両電極と測定プローブを接続させ、インピーダンスアナライザにて容量およびIRを測定した。得られた測定値から、比誘電率を算出した。
【0055】
<実施例1>
重合度4000、けん化度99.8モル%のポリビニルアルコール100質量部とチタン酸バリウム900質量部をDMSOに90℃で5時間、撹拌溶解し、ポリビニルアルコール濃度5質量%の紡糸原液を得た。この紡糸原液を孔数80、孔径0.17mmφのノズルを通して5℃のメタノール/DMSO=80/20の固化浴中に乾湿式紡糸し、20℃のメタノール浴で1.2倍の湿熱延伸を施した。次いで、メタノールで糸篠中のDMSOを抽出した後に紡糸油剤を付与し120℃で乾燥し、得られた乾燥原糸を160℃で乾熱延伸倍率1.1倍(総延伸倍率TD=1.3倍)の条件で乾熱延伸して繊維径30μmのチタン酸バリウム含有ポリビニルアルコール繊維を製造した。紡糸性は良好であり、取扱性は優であった。
得られたポリビニルアルコール繊維を管状炉にて、280℃で2時間保持し、さらに1300℃で2時間保持した結果、繊維形状を維持した強誘電体からなる繊維を得ることができた。この繊維の比誘電率を測定した結果、2027であり、電気特性に優れたものであった。
【0056】
<実施例2から実施例5>
実施例1において、使用したポリビニルアルコールの重合度および強誘電体の量を表1に記載のとおりに変更して、実施例1と同様にしてチタン酸バリウム含有ポリビニルアルコール繊維を製造した。結果を表1に記載した。また、得られたポリビニルアルコール繊維を実施例1と同様に焼成した結果、いずれも繊維形状を維持した強誘電体からなる繊維を得ることができた。
【0057】
<比較例1>
実施例1において、使用したポリビニルアルコールの重合度を1700とし、強誘電体の量を表1に記載のとおりに変更して、実施例1と同様にしてチタン酸バリウム含有ポリビニルアルコール繊維を製造した。結果を表1に記載した。また、得られたポリビニルアルコール繊維を実施例1と同様に焼成した結果、繊維形状を維持することができず、強誘電体からなる繊維を得ることができなかった。
【0058】
【0059】
上記の結果から、本発明のポリビニルアルコール繊維は紡糸過程において、繊維径が100μm以下という細い繊維であっても切断することがなく、取扱性に優れることが分かる。さらに、本発明のポリビニルアルコール繊維は、焼成後でも繊維形状が維持される。これによって得られる本強誘電体からなる繊維は、取扱性に優れ、種々の電子材料に用いることができる。