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特許7651471モノビニルチオエーテルを製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】モノビニルチオエーテルを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 319/18 20060101AFI20250318BHJP
   C07C 321/14 20060101ALI20250318BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250318BHJP
【FI】
C07C319/18
C07C321/14
C07B61/00 300
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021559404
(86)(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-01
(86)【国際出願番号】 EP2020060947
(87)【国際公開番号】W WO2020221607
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】19171622.4
(32)【優先日】2019-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローヴァッサー,ルート
(72)【発明者】
【氏名】ツージーナ,パヴェル
(72)【発明者】
【氏名】ビーネヴァルト,フランク
(72)【発明者】
【氏名】クンスマン-カイテル,ダグマル パスカル
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-068096(JP,A)
【文献】特開2006-008519(JP,A)
【文献】米国特許第02930815(US,A)
【文献】特公昭35-014129(JP,B1)
【文献】英国特許出願公告第00895993(GB,A)
【文献】特開2003-183206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 319/00
C07C 321/00
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチレンを、式Iの化合物
HS-R-OH
[式中、Rは、エーテル基の形態の酸素を含み得る直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である]
であって、以下チオール-ヒドロキシ化合物と称される化合物、と反応させることによってモノビニルチオエーテルを製造するための方法であって、
反応が2バール未満の圧力で前記チオール-ヒドロキシ化合物のアルカリ塩である触媒の存在下実施される、方法。
【請求項2】
前記直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基が、1~10個の炭素原子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基が、2~6個の炭素原子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記チオール-ヒドロキシ化合物が、2-ヒドロキシ-エタン-1-チオールである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】

H2C=CH-S-CH2-CH2-OH
のビニルチオエタノールを製造するための方法である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒が、前記チオール-ヒドロキシ化合物100重量部当たり0.1~10重量部の量で使用される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ルカリ金属水酸化物を、前記チオール-ヒドロキシ化合物に添加し、前記アルカリ金属水酸化物を、50~150℃で前記チオール-ヒドロキシ化合物と反応させることによって前記チオール-ヒドロキシ化合物の前記アルカリ塩を調製する工程をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ルカリ金属水酸化物を、前記チオール-ヒドロキシ化合物に添加し、前記アルカリ金属水酸化物を、50~150℃で前記チオール-ヒドロキシ化合物と反応させることによって前記チオール-ヒドロキシ化合物の前記アルカリ塩を調製する工程をさらに含み、ここで前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
反応が、1.5バール未満の圧力で実施される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
アセチレンが、前記チオール-ヒドロキシ化合物及び既に形成された任意の生成物を含む液相に直接供給される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
アセチレンが反応器に継続的に供給され、未反応アセチレン及び任意の他の気体化合物が反応器から回収される間、圧力が、2バール未満、又は請求項9に従って1.5バール未満に維持される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチレンを、1個のチオール基及び1個のヒドロキシ基を含む化合物であって、以下チオール-ヒドロキシ化合物と称される化合物、と反応させることによってモノビニルチオエーテルを製造するための方法であって、反応が2バール未満の圧力で実施される、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルエーテルの合成のための周知の方法は、Reppe方法である。Reppe方法に従って、ビニルエーテル又はビニルチオエーテルは、少なくとも1個のヒドロキシ基又は少なくとも1個のチオール基を含む化合物を、塩基性触媒の存在下でアセチレンと反応させることによって得られる。このような方法は、例えば、US2003/0105354に記載されている。US2003/0105354によれば、反応は、2~20バールに相当する0.2MPa~2MPaの好ましい圧力範囲で実施される。例では、圧力は20バールに維持される。
【0003】
A. S. Atvinら、Journal of Organic Chemistry of the USSR、volume 4、number 5 (1968年5月)、765~768ページは、2-(ビニルチオ)エタノールの調製のための方法を開示しており、その方法は、12atmの絶対圧であり、約12バールに相当する11ゲージatmで実施される。
【0004】
ヒドロキシ基及びチオール基の両方を含む化合物の場合、チオールビニルエーテル、ヒドロキシビニルチオエーテル及びジビニル化合物を含む、様々なビニル化合物の混合物が、通常得られる。
【0005】
このような混合物は、ビニル化合物の技術的適用に対して適合性が低い。特定の技術的適用、例えば重合プロセスには、純粋な化合物が必要とされる。
【0006】
様々な技術的適用のために、チオエーテル基及び遊離ヒドロキシ基を有するビニル化合物が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、チオエーテル基及び遊離ヒドロキシ基を有するビニル化合物の製造のための、簡単で経済的な方法を提供することであった。チオエーテル基及びヒドロキシ基を有するビニル化合物は、このような方法によって、高収率且つ高選択性で得られる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、先に定義される方法が見出された。
【発明を実施するための形態】
【0009】
チオール-ヒドロキシ化合物は、好ましくは1000g/mol未満、より好ましくは500g/mol未満、最も好ましくは200g/mol未満の分子量を有する化合物である。
【0010】
特に好ましい実施形態では、チオール-ヒドロキシ化合物は、20℃及び1バールで液体である。
【0011】
好ましいチオール-ヒドロキシ化合物は、式Iの化合物
HS-R-OH
[式中、Rは、エーテル基の形態の酸素を含み得る直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である]
である。好ましくは、直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基は、1~10個、より好ましくは2~6個、特には2~4個の炭素原子を含む。
【0012】
特に好ましい実施形態では、Rは、エチレン、n-プロピレン又はn-ブチレンである。
【0013】
最も好ましい実施形態では、式Iの化合物は、式
HS-CH2-CH2-OH
の2-ヒドロキシ-エタン-1-チオールであり、方法は、式
H2C=CH-S-CH2-CH2-OH
のビニルチオエタノールを製造するための方法である。
【0014】
反応は、好ましくは触媒の存在下で実施される。触媒は、好ましくはチオール-ヒドロキシ化合物のアルカリ塩である。
【0015】
好ましくは、アルカリ塩は、金属水酸化物、好ましくはアルカリ金属水酸化物、最も好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを、チオール-ヒドロキシ化合物に添加し、金属水酸化物を、高温で、例えば50~150℃でチオール-ヒドロキシ化合物と反応させることによって調製される。
【0016】
好ましくは、触媒、又はアルカリ塩は、チオール-ヒドロキシ化合物100重量部当たり0.1~10重量部、より好ましくは0.5~7重量部、最も好ましくは1~5重量部の量で使用される。
【0017】
アルカリ塩は、別個に又はその場で調製することができる。別個の調製の場合、所望の量のアルカリ塩が別個に調製され、次に反応混合物に添加される。その場での調製の場合、アルカリ金属水酸化物が、反応条件下で所望の量のアルカリ塩をその場で得るための量で、反応混合物に添加される。
【0018】
反応は、溶媒の存在下で実施することができる。使用されるチオール-ヒドロキシ化合物及び得られたモノビニルチオエーテルは、好ましくは反応条件下でそれら自体が液体なので、通常、溶媒は必要とされない。より好ましくは、使用されるチオール-ヒドロキシ化合物及び得られたモノビニルチオエーテルは、20℃及び1バールで液体である。
【0019】
アセチレンを用いるチオール-ヒドロキシ化合物のビニル化は、好ましくは50~200℃、特に80~150℃、より好ましくは90~120℃で実施される。
【0020】
反応は、2バール未満の圧力で、好ましくは1.5バール未満の圧力で、より好ましくは1.3バール未満の圧力で実施される。好ましい実施形態では、圧力は、少なくとも0.5バール、より好ましくは少なくとも0.8バールである。
【0021】
最も好ましい実施形態では、反応は、0.8~1.3バールの圧力、特に0.9~1.1バールの圧力、最も好ましくは1バールで実施される。圧力は、アセチレン自体、又はアセチレンと不活性ガス、例えば窒素との混合物の圧力であり得る。好ましくは、アセチレンは、不活性ガスとの組合せでは使用されず、前述の圧力はアセチレン圧力である。
【0022】
好ましくは、アセチレンは、チオール-ヒドロキシ化合物及び既に形成された任意の生成物を含む液相に直接供給される。特に、アセチレンは、撹拌器を介して(撹拌槽反応器の場合)又はノズルを介して直接的に、液相に導入することができる。
【0023】
方法は、バッチ方法、半継続的方法又は継続的方法として実施することができる。バッチ方法では、反応が開始される前にすべての出発材料が反応器に添加され、半継続的方法では、出発材料の少なくとも1つが反応中に継続的に供給され、継続的方法では、すべての出発材料が反応器に継続的に供給され、すべての生成物は、反応器から継続的に回収される。
【0024】
好ましい実施形態では、方法は、半継続的又は継続的に実施される。
【0025】
好ましい半継続的方法では、全量のチオール-ヒドロキシ化合物が反応器に添加され、一方アセチレンは、反応中に反応器に継続的に供給され、未反応アセチレン及び任意の他の気体化合物が、反応器から継続的に回収される間、圧力は、2バール未満、又は好ましい値未満、又は先に列挙される好ましい範囲に維持される。
【0026】
方法は、単一反応器内で、又は幾つかの連続反応器、例えば一連の反応器(reactor battery)内で実施することができる。適切な反応器は、撹拌槽反応器、一連の撹拌槽反応器、流管、気泡塔及びループ反応器を含む。
【0027】
反応は、例えば温度を低下させる、及び/又はアセチレンの供給を停止することによって終了させることができる。
【0028】
得られた生成物混合物は、モノビニルチオエーテルを含む。
【0029】
生成物混合物は、副生成物として、チオール-ヒドロキシ化合物のチオール基及びヒドロキシ基のビニル化から生じるジビニル化合物を含み得る。チオール-ヒドロキシ化合物が2-ヒドロキシ-エタン-1-チオールの場合、式
H2C=CH-S-CH2-CH2-O-CH=CH2
のジビニル化合物を、副生成物として得ることができる。
【0030】
得られた生成物混合物は、未反応チオール-ヒドロキシ化合物をさらに含み得る。
【0031】
好ましくは、90重量%超、特に95重量%超、より好ましくは98重量%超のチオール-ヒドロキシ化合物が、バッチ又は半継続的方法の場合に消費される。継続的方法は、好ましくは、反応混合物中定常状態の濃度の10~80重量%のチオール-ヒドロキシ化合物を用いて操作され得る。
【0032】
本発明の利点は、ジビニル化合物の形成が少ないことである。好ましくは、ジビニル化合物の含量は、100重量%のモノビニルチオエーテル及びジビニル化合物に基づいて、5重量%未満、特に2重量%未満、より好ましくは1重量%未満である。
【0033】
好ましくはアルカリ塩である触媒は、通常の方法によって得られた生成物混合物から分離することができる。チオール-ヒドロキシ化合物への高い変換率及び高い選択性に起因して、バッチ又は半継続的方法及び未消費のチオール-ヒドロキシ化合物の除去で得られた生成物混合物のさらなる後処理は、通常、必要とされない。継続的方法では、未消費のチオール-ヒドロキシ化合物は、生成物混合物から分離することができ、反応に再循環させることができる。
【0034】
得られたモノビニルチオエーテルは、例えば蒸留によって精製することができる。
【0035】
本発明の方法は、モノビニルチオエーテルを製造するための、簡単で経済的な方法である。モノビニルチオエーテルは高収率で得られる。選択性は非常に高い。ごくわずかな量の副生成物、例えばジビニル化合物が形成される。得られた生成物混合物からの少量のジビニル化合物の分離は、通常、必要がない。
いくつかの実施形態を以下に示す。
項1
アセチレンを、1個のチオール基及び1個のヒドロキシ基を含む化合物であって、以下チオール-ヒドロキシ化合物と称される化合物、と反応させることによってモノビニルチオエーテルを製造するための方法であって、反応が2バール未満の圧力で実施される、方法。
項2
チオール-ヒドロキシ化合物が、式Iの化合物
HS-R-OH
[式中、Rは、エーテル基の形態の酸素を含み得る直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基である]
である、項1に記載の方法。
項3
チオール-ヒドロキシ化合物が、2-ヒドロキシ-エタン-1-チオールである、項1又は2に記載の方法。
項4

H 2 C=CH-S-CH 2 -CH 2 -OH
のビニルチオエタノールを製造するための方法である、項1から3のいずれか一項に記載の方法。
項5
反応が、触媒の存在下で実施される、項1から4のいずれか一項に記載の方法。
項6
触媒が、チオール-ヒドロキシ化合物のアルカリ塩である、項5に記載の方法。
項7
触媒が、チオール-ヒドロキシ化合物100重量部当たり0.1~10重量部の量で使用される、項5又は6に記載の方法。
項8
反応が、1.5バール未満の圧力で実施される、項1から7のいずれか一項に記載の方法。
項9
アセチレンが、チオール-ヒドロキシ化合物及び既に形成された任意の生成物を含む液相に直接供給される、項1から8のいずれか一項に記載の方法。
項10
アセチレンが反応器に継続的に供給され、未反応アセチレン及び任意の他の気体化合物が反応器から回収される間、圧力が、2バール未満、又は項8に従って1.5バール未満に維持される、項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【実施例
【0036】
[実施例1~4]様々なアセチレン圧力におけるビニル化
0.3リットルのオートクレーブに、2-メルカプトエタノール(分子量:78.13g/mol)100g及びKOHペレット5gを充填した。反応器を閉鎖し、100℃に加熱し、アセチレンを、表1に列挙される圧力下で、10時間の反応時間にわたって6ノルマル-リットル/時間で通過させた。1ノルマル-リットルは、0℃及び1013ミリバールにおける気体1リットルである。10時間の反応後に反応器内に得られた混合物の組成を、ガスクロマトグラフィーにより分析した。表1に列挙される百分率は、対応するピークの面積百分率である。面積百分率は、実質的にそれぞれの重量百分率に相当する。100%までの残留百分率は、未反応の出発材料に相当する。
【0037】
【表1】