(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】検査装置、検査方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20250318BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/28 B
(21)【出願番号】P 2023537809
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2021027871
(87)【国際公開番号】W WO2023007607
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広井 高志
(72)【発明者】
【氏名】大谷 祐子
(72)【発明者】
【氏名】磯前 裕也
(72)【発明者】
【氏名】福田 宗行
(72)【発明者】
【氏名】金澤 政和
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-177835(JP,A)
【文献】特開2004-170395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを試料に対して照射することにより得られる画像を用いて前記試料の欠陥を検査する検査装置であって、
前記電子ビームを前記試料に対して照射することにより前記試料から発生する2次粒子を検出した結果を用いて前記画像を生成するコンピュータシステムを備え、
前記コンピュータシステムは、第1ランディングエネルギーを有する第1電子ビームを前記試料上の前記欠陥を含む第1領域に対して照射した後、前記第1ランディングエネルギーよりも高い第2ランディングエネルギーを有する第2電子ビームを前記試料の前記第1領域を含む第2領域に対して照射することにより得られる、第2電子ビーム画像を生成し、
前記コンピュータシステムは、前記第1領域の位置を表す情報を用いることにより、前記第2電子ビーム画像内における前記第1領域の位置を特定し、
前記コンピュータシステムは、前記特定した前記第1領域の位置に基づき、前記第1領域内の前記欠陥に対して元素分析を実施するための第3電子ビームの照射位置を決定する
ことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記コンピュータシステムは、前記第1電子ビームを前記第1領域に対して照射することにより得られる第1電子ビーム画像を生成し、
前記コンピュータシステムは、前記第1電子ビーム画像内の前記欠陥の位置を特定し、
前記コンピュータシステムは、前記第1電子ビーム画像内の前記欠陥の位置と、前記第2電子ビーム画像内における前記第1領域の位置とを用いて、前記第3電子ビームの照射位置を決定する
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項3】
前記コンピュータシステムは、前記第1電子ビーム画像として、前記第1電子ビームを前記第1領域に対して照射することにより前記第1領域において生じるコンタミネーションを含む画像を生成し、
前記コンピュータシステムは、前記第2電子ビーム画像内における前記コンタミネーションの位置を特定することにより、前記第2電子ビーム画像内における前記第1領域の位置を特定する
ことを特徴とする請求項2記載の検査装置。
【請求項4】
前記コンピュータシステムは、前記コンタミネーションの形状を表すテンプレート画像を格納する記憶部を備え、
前記コンピュータシステムは、前記テンプレート画像と合致する箇所を前記第2電子ビーム画像内において探索することにより、前記第1領域の位置を表す情報を取得し、
前記コンピュータシステムは、前記テンプレート画像を用いた探索によって得られた前記情報にしたがって、前記第2電子ビーム画像内における前記第1領域の位置を特定する
ことを特徴とする請求項3記載の検査装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記テンプレート画像として、
第1輝度値を有する矩形領域と、前記矩形領域を囲む第2輝度値を有する周辺領域とを有する第1テンプレート、
前記第1テンプレートの階調を反転した第2テンプレート、
の2種類の画像を格納し、
前記コンピュータシステムは、前記第1テンプレートと前記第2テンプレートのうち少なくともいずれかと合致する箇所を前記第2電子ビーム画像内において探索する
ことを特徴とする請求項4記載の検査装置。
【請求項6】
前記コンピュータシステムは、前記第1電子ビーム画像内において前記第2領域の外周に形成された枠形状を識別することにより、前記第2領域の外周を特定し、
前記コンピュータシステムは、前記特定した前記第2領域の内部のみに対して、前記テンプレート画像を用いた探索を実施する
ことを特徴とする請求項4記載の検査装置。
【請求項7】
前記コンピュータシステムは、前記第2電子ビーム画像として、前記第1電子ビームよりも照射密度が高い第4電子ビームを前記試料に対して照射することにより前記試料上に形成されるマーキングを含む画像を生成し、
前記コンピュータシステムは、前記マーキングを前記第2電子ビーム画像内において探索することにより、前記第1領域の位置を表す情報を取得し、
前記コンピュータシステムは、前記マーキングを用いた探索によって得られた前記情報にしたがって、前記第2電子ビーム画像内における前記第1領域の位置を特定する
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項8】
前記コンピュータシステムは、前記第1電子ビームを前記第1領域に対して照射することにより得られる第1電子ビーム画像として、前記第1電子ビームを前記第1領域に対して照射することにより前記第1領域において生じるコンタミネーションが閾値未満である場合における画像を生成し、
前記コンピュータシステムは、前記マーキングを前記第2電子ビーム画像内において探索することにより、前記コンタミネーションの位置に依拠することなく、前記第2電子ビーム画像内における前記第1領域の位置を特定する
ことを特徴とする請求項7記載の検査装置。
【請求項9】
前記マーキングは、正方形であり、かつ前記第1領域の外に形成されている
ことを特徴とする請求項7記載の検査装置。
【請求項10】
前記コンピュータシステムは、
前記特定した前記第1領域の位置、
前記第2電子ビーム画像内における前記第1領域の位置、
前記第2電子ビーム画像内における前記欠陥の位置、
前記欠陥の位置に対して前記元素分析を実施した結果、
前記第2電子ビーム画像、
のうち少なくともいずれかを提示するユーザインターフェースを備える
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項11】
前記試料は、パターンが形成されていないウエハまたはベアウエハである
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項12】
電子ビームを試料に対して照射することにより得られる画像を用いて前記試料の欠陥を検査する検査方法であって、
前記電子ビームを前記試料に対して照射することにより前記試料から発生する2次粒子を検出した結果を用いて前記画像を生成するステップを有し、
前記画像を生成するステップは、第1ランディングエネルギーを有する第1電子ビームを前記試料上の前記欠陥を含む第1領域に対して照射した後、前記第1ランディングエネルギーよりも高い第2ランディングエネルギーを有する第2電子ビームを前記試料の前記第1領域を含む第2領域に対して照射することにより得られる、第2電子ビーム画像を生成するステップを有し、
前記画像を生成するステップは、前記第1領域の位置を表す情報を用いることにより、前記第2電子ビーム画像内における前記第1領域の位置を特定するステップを有し、
前記画像を生成するステップは、前記特定した前記第1領域の位置に基づき、前記第1領域内の前記欠陥に対して元素分析を実施するための第3電子ビームの照射位置を決定するステップを有する
ことを特徴とする検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子ビームを試料に対して照射することにより得られる画像を用いて試料の欠陥を検査する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ上に形成したパターンを検査する技術として、電子ビームなどの荷電粒子ビームを試料に対して照射する装置が用いられる場合がある。以下では1例として電子ビームを用いる場合について説明する。試料に対して電子ビームを照射すると、試料から2次粒子が発生し、その信号強度を用いて画素値を形成することにより、試料の観察画像を生成することができる。
【0003】
パターンが形成されていない半導体ウエハ(またはベアウエハ)であっても、同様の手法により欠陥の有無を検査する場合がある。欠陥が発見された場合、EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)分析などによってその欠陥の元素を分析することにより、欠陥の由来を明確にすることができる。この欠陥由来についての情報は、製造歩留まり向上のために重要であると考えられる。
【0004】
下記特許文献1は、パターンを有するウエハに対するEDS分析方法について記載している。同文献においては、パターンと欠陥の両方が観察可能な条件によってパターン位置に対する欠陥位置の相対関係を求めておき、パターンのみしか観察できないEDS分析用の光学条件によってパターン位置を特定し、その位置からの相対位置として欠陥位置を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
EDS分析においては、比較的高い加速電圧で電子ビームを照射する。試料の観察画像を取得する際にも同じ光学条件を用いる場合は、その高い加速電圧によって電子ビームを照射して観察画像を取得することになる。このような高い加速電圧を用いる場合、「しみ」のような薄い欠陥は電子ビームを透過させてしまうので、欠陥位置を特定することが難しい。
【0007】
EDSによって欠陥の元素を分析する前段階として、欠陥位置を特定するために、低い加速電圧で電子ビームを照射して試料の観察画像を得る場合がある。このとき照射した電子ビームの影響により、試料表面にカーボンが付着するなどの、いわゆるコンタミネーションが生じる場合がある。EDS分析実施時においてはステージや光学系の光軸の精度の影響で再度欠陥位置を特定する必要があるが、このコンタミネーションが残っていることにより、EDS分析時に、欠陥位置を特定することが困難となる可能性がある。観察画像上でそのコンタミネーションが欠陥と重なり、欠陥位置を明確に識別できないからである。
【0008】
特許文献1のような従来のEDS分析手法においては、薄い欠陥やコンタミネーションの影響について十分考慮されておらず、これらの欠陥位置をEDS分析において特定することができる技術が望まれている。
【0009】
本開示は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、薄い欠陥やコンタミネーションの影響がある場合においても、欠陥の元素を分析する工程においてその欠陥の位置を特定することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る検査装置は、低いエネルギーの第1電子ビームを試料の欠陥を含む第1領域に対して照射した後、前記第1領域を含む第2領域に対して高いエネルギーの第2電子ビームを照射することにより得られる第2電子ビーム画像を生成し、前記第2電子ビーム画像内における前記第1領域の位置を特定することにより、前記欠陥の位置を特定する。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る検査装置によれば、薄い欠陥やコンタミネーションの影響がある場合においても、欠陥の元素を分析する工程においてその欠陥の位置を特定することができる。本開示のその他の課題、構成、利点などは、以下の実施形態の説明により明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】試料に対して電子ビームを照射することにより得られる観察画像を用いて欠陥位置を特定する一般的手順を説明する模式図である。
【
図2A】EDS分析において欠陥位置を特定することが難しい場合における観察画像の例である。
【
図2B】試料に対して電子ビームを照射することにより生じたコンタミネーションの観察画像の例である。
【
図2C】
図2Bのコンタミネーション領域における高倍率の観察画像の例である。
【
図3】実施形態1に係る検査装置1の構成図である。
【
図4】検査装置1が試料113を検査する手順を説明するフローチャートである。
【
図6A】S413において生成するEDS用低倍率観察画像の例である。
【
図6B】S414において演算部133が用いるテンプレートの例である。
【
図7】コンピュータシステム13が提示するユーザインターフェースの例である。
【
図8】実施形態2において検査装置1が試料113を検査する手順を説明するフローチャートである。
【
図10】実施形態2においてコンピュータシステム13が提示するユーザインターフェースの例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施の形態1>
図1は、試料に対して電子ビームを照射することにより得られる観察画像を用いて欠陥位置を特定する一般的手順を説明する模式図である。まず低倍率において欠陥近傍の観察画像(欠陥画像)を取得し、これを欠陥のない参照画像と比較することより、マスク画像を生成する。マスク画像のうち、背景部分とは異なる画素値を有する領域(図面上の白色の領域)の中心を、欠陥位置として特定する。さらに、欠陥位置を中心として高倍率の観察画像を生成してもよい。高倍観察領域のサイズは、例えばマスク画像上で特定した欠陥サイズの2倍程度とすることができる。EDS分析は、特定した欠陥位置に対して実施する。
【0014】
図2Aは、EDS分析において欠陥位置を特定することが難しい場合における観察画像の例である。観察条件は、加速電圧500eV、ビーム電流400pA、FOVサイズ0.5μmである。この観察条件においては、画像中央に「しみ」状の欠陥を視認できる。他方でEDS分析においては、比較的高い加速電圧で電子ビームを照射する場合がある。このような高い加速電圧においては、
図2Aの中央部にある「しみ」状の薄い欠陥を電子ビームが透過してしまうので、欠陥の観察画像を適切に得ることが難しい。したがってEDS分析実施時において、欠陥位置を特定することが困難となる。
【0015】
図2Bは、試料に対して電子ビームを照射することにより生じたコンタミネーションの観察画像の例である。観察条件は、加速電圧3keV、ビーム電流800pA、FOVサイズ6μmである。欠陥観察工程においては、欠陥の観察画像を得るために、観察領域に対して電子ビームを照射する。これによりコンタミネーションが発生する場合がある。図面左側の白い四角領域が、コンタミネーションの発生した領域を表している。
【0016】
図2Cは、
図2Bのコンタミネーション領域における高倍率の観察画像の例である。観察条件は、加速電圧3keV、ビーム電流800pA、FOVサイズ1μmである。コンタミネーションの影響により、本来であれば存在しているはずの欠陥を、観察画像上で視認することができない。すなわち、EDS分析時において欠陥位置を特定するためにあらかじめ電子ビームを照射したことにより、却って欠陥位置を特定することが困難となる場合があることを、この例は示している。
【0017】
図3は、本開示の実施形態1に係る検査装置1の構成図である。検査装置1は、荷電粒子ビーム(本実施形態1においては1例として電子ビーム)を試料113に対して照射することにより、試料113の欠陥を検査する装置である。検査装置1は、荷電粒子ビーム装置11、通信線12、コンピュータシステム13を備える。
【0018】
荷電粒子ビーム装置11は、電子源111、検出器112、ステージ114、EDS検出器115などを備える。ステージ114は、試料113(例えばパターンが形成されていない半導体ウエハまたはベアウエハ)を載置する。電子源111が出射した電子ビームが試料113に当たると2次粒子(2次電子や後方散乱電子)が発生する。検出器112はその2次粒子を検出し、その強度を表す検出信号を出力する。コンピュータシステム13は、通信線12を介してその検出信号を受け取り、これを用いて試料113の観察画像を生成する。EDS検出器115は、試料113に対してEDS分析を実施する際に試料113から生じるEDS信号を検出し、その検出結果を表す検出信号を出力する。コンピュータシステム13は、通信線12を介してその検出信号を受け取り、これを用いてEDS分析を実施する。
【0019】
コンピュータシステム13は、制御部131、記憶部132、演算部133、入出力部134、ユーザインターフェース制御部135、操作端末136を備える。制御部131は、荷電粒子ビーム装置11が備える各部を制御する。記憶部132は、コンピュータシステム13が使用するデータを格納する。演算部133は、検出器112が出力する検出信号を用いて、試料113の観察画像を生成する。演算部133はその他に、後述する検査手順を実施する。入出力部134は、データの入出力を制御する。ユーザインターフェース制御部135は、後述するユーザインターフェースを生成し、操作端末136上で画面表示する。操作端末136は、ユーザがコンピュータシステム13(またはこれを介して荷電粒子ビーム装置11)に対して与える指示を入力するための端末である。
【0020】
図4は、検査装置1が試料113を検査する手順を説明するフローチャートである。以下
図4の各ステップについて説明する。
【0021】
(
図4:ステップS401~S404)
試料113を荷電粒子ビーム装置11へロードする(S401)。制御部131は、記憶部132から撮像条件を読み込む(S402)。制御部131は、電子ビームを低加速電圧で加速するための光学条件を、荷電粒子ビーム装置11の光学系などの各部へセットする(S403)。以下のステップS405~S409を、観察対象(試料113上の欠陥位置)ごとに実施する(S404)。観察対象の位置や形状は例えば前工程における結果から引き継ぐなどによって取得すればよい。
【0022】
(
図4:ステップS405~S409)
制御部131は、ステージ114を検査位置に移動させる(S405)。制御部131は低加速電圧で電子ビームを試料113に対して照射し、演算部133は低倍率の観察画像を生成する(S406)。演算部133は、低倍率観察画像から大まかな欠陥位置(欠陥位置Aと呼ぶ)を特定する(S407)。制御部131は低加速電圧で電子ビームを試料113に対して照射し、演算部133は欠陥位置A周辺の高倍率の観察画像を生成する(S408)。演算部133は、高倍観察画像上で、より精細な欠陥位置(欠陥位置Bと呼ぶ)を特定する(S409)。S407とS409において欠陥位置を特定する手法としては、任意の公知技術を用いることができる(例えば
図1で説明した手法)。S409の具体例については後述する。
【0023】
(
図4:ステップS410~S411)
制御部131は、EDS分析を実施するための光学条件(加速電圧はS403よりも高い)を、荷電粒子ビーム装置11の各部へセットする(S410)。以下のステップS405~S416を、観察対象(試料113上の観察位置)ごとに実施する(S411)。
【0024】
(
図4:ステップS412~S416)
制御部131は、ステージ114を検査位置に移動させる(S412)。制御部131は高加速電圧で電子ビームを試料113に対して照射し、演算部133は低倍率の観察画像を生成する(S413)。演算部133は、後述するテンプレートを用いたパターンマッチングを実施する(S414)。テンプレートと観察画像との間の相関値が閾値以上になるまで、テンプレートを変更しながら同様のテンプレートマッチングを繰り返す。S414の具体例については後述する。演算部133は、S414の結果にしたがって、EDS分析工程における欠陥位置(欠陥位置Cと呼ぶ)を特定する(S415)。制御部131と演算部133は、特定した欠陥位置に対してEDS分析を実施する(S416)。すなわち、特定した欠陥位置に対して、EDS分析のための電子ビーム(第3電子ビーム)を照射する。
【0025】
(
図4:ステップS417)
制御部131は、ウエハを荷電粒子ビーム装置11からアンロードする。演算部133はEDS分析結果などの必要なデータを記憶部132へ格納する。
【0026】
図5は、S409の具体例を示す例である。低加速電圧で取得した高倍率観察画像の中心Aからややずれた位置に、欠陥中心Bが存在する。演算部133は、中心A(Xa,Ya)から欠陥中心B(Xb,Yb)までのオフセット(Xo,Yo)=(Xb-Xa,Yb-Ya)を算出し、その結果を欠陥位置として記憶部132に格納する。これにより、高倍率観察画像の中心Aを基準として、欠陥位置が特定されたことになる。
【0027】
高倍率観察画像を取得する際に、試料上の比較的狭い領域(第1領域)に対して電子ビームを照射することにより、その領域に対して不純物が付着するなどによって、コンタミネーションが発生する場合がある。コンタミネーションが発生するか否かは電子ビームの照射密度に依拠するが、本実施形態1においてはこれが発生する程度の照射密度で電子ビームを照射するものと仮定する。そうすると、高倍率観察画像の中心Aは、コンタミネーション領域の中心でもあるといえる。本実施形態1においてはこのことを利用して、EDS分析における欠陥位置を特定する。
【0028】
図6Aは、S413において生成するEDS用低倍率観察画像の例である。S408において高倍率観察画像を得る際に、電子ビームを照射した領域(第1領域)においてコンタミネーションが発生したと仮定する。
図6Aにおいては、画像右側の黒い正方形領域がこれに相当する。S414において演算部133は、このコンタミネーション領域を特定することを図る。
【0029】
図6Bは、S414において演算部133が用いるテンプレートの例である。コンタミネーション領域は、観察画像において輝度値が周囲とは異なる領域として表れる。そこで演算部133は、輝度値の階調が反転した2種類のテンプレートを用いて、コンタミネーション領域を特定することを図る。周辺領域の輝度値が比較的高く、コンタミネーション領域の輝度値が比較的低い場合は、
図6B左側のテンプレートを用いる。周辺領域の輝度値が比較的低く、コンタミネーション領域の輝度値が比較的高い場合は、
図6B右側のテンプレートを用いる。輝度値が異なる2種類のテンプレートを用いることにより、様々なコンタミネーション原因に起因するコンタミネーション領域を特定することができる。テンプレートは、コンタミネーション領域を正確に特定できるのであれば、
図6Bで説明した2種類以外のものであってもよい。
【0030】
S414において、
図6Bに示すテンプレートを用いてコンタミネーション領域を特定するための詳細手順を、以下説明する。
【0031】
(ステップS414:詳細手順その1)
演算部133は、S408における観察視野(Field Of View:FOV)の実サイズと、S413におけるFOVの実サイズとの間の相関関係にしたがって、コンタミネーション領域のピクセルサイズを特定する。例えばS408とS413との間のFOVサイズの違いにしたがって、そのサイズがS413においてどの程度のピクセルサイズとして表れるのかを特定することができる。
【0032】
(ステップS414:詳細手順その2)
演算部133は、決定したコンタミネーション領域のサイズよりもやや大きい(例えば2倍サイズの)テンプレートを作成する。例えば
図6Bに示す2種類のテンプレートを作成することができる。作成したテンプレートは、記憶部132に格納する。
【0033】
(ステップS414:詳細手順その3)
S406において低倍観察画像を取得する際に、そのFOVの外周部分において、電子ビーム照射にともなって枠状の領域が形成される。原因はコンタミネーションと同様である。この枠は、観察画像上において、低倍FOVの外周を囲む白枠として観察される。特に白枠の端部は、コンタミネーション領域と同様の形状を有するので、テンプレートマッチングにおいてコンタミネーション領域として誤認識される可能性がある。そこで演算部133は、白枠内部の領域のみを、パターンマッチングの探索領域としてセットする。
【0034】
(ステップS414:詳細手順その4)
演算部133は、手順その3において決定した探索範囲内で、各テンプレートと合致する箇所を探索する。例えばテンプレートの画素値と探索位置の画素値との間の相関値が閾値以上であれば、その探索位置はテンプレートと合致していると判定する。これにより、コンタミネーション領域の中心(Xc,Yc)を特定できる。(Xc,Yc)は、高倍率観察画像の中心A(Xa,Ya)と一致していると想定される。
【0035】
(ステップS414:詳細手順その5)
演算部133は、オフセット(Xo,Yo)をコンタミネーション領域の中心(Xc,Yc)に対して加算することにより、EDS工程における欠陥位置(Xe,Ye)を計算することができる:(Xe,Ye)=(Xc+Xo,Yc+Xo)。
【0036】
(ステップS414:詳細手順についての補足)
図示は省略するが、上記テンプレートマッチング以外に、以下のような手法によってコンタミネーション領域の位置を特定してもよい:X/Y投影波形のテンプレートマッチング;図形や波形の一部を用いたテンプレートマッチング;微分波形のピーク位置検出;など。
【0037】
図7は、コンピュータシステム13が提示するユーザインターフェースの例である。ユーザインターフェースは、操作端末136上で画面表示することができる(すなわちGraphical User Interface:GUIとして提示できる)。ユーザインターフェース制御部135は、例えば以下のような情報のうち少なくともいずれかをユーザインターフェース上で提示することができる:(a)S414において低倍FOV領域として特定した領域701、(b)低倍観察画像内において特定した高倍FOV領域(またはコンタミネーション領域)702、(c)低倍観察画像内における欠陥領域703、(d)欠陥に対してEDS分析を実施した結果、(e)低倍観察画像そのもの、(f)高倍観察画像そのもの。
【0038】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る検査装置1は、観察用の低加速電圧で出射した電子ビーム(第1ランディングエネルギーを有する第1電子ビーム)を用いて欠陥位置を高倍FOV内で特定した後、EDS分析用の高加速電圧で出射した電子ビーム(第2ランディングエネルギーを有する第2電子ビーム)を用いて低倍FOV画像(第2電子ビーム画像)を得る。低倍FOV画像内における高倍FOV領域の位置を特定することにより、さらにそのなかの欠陥位置を特定する。これにより、高加速電子ビームが欠陥を透過する場合であっても、低加速電子ビームを用いて特定した欠陥位置を介して、その欠陥位置を高加速条件下で特定することができる。同様に、コンタミネーションによって欠陥が観察画像上で識別できない場合であっても、低加速電子ビームを用いて特定した欠陥位置を介して、その欠陥位置を高加速条件下で特定することができる。
【0039】
<実施の形態2>
実施形態1においては、低加速電圧で観察画像を得る際に、試料113上にコンタミネーションが発生することを説明した。コンタミネーションが発生するか否かは、電子ビームの照射密度に依拠し、照射密度が高いほど発生可能性が高まる。特に高倍率観察時においては照射密度が高まるので、コンタミネーションが発生しやすい。他方で高倍率観察時においても電子ビームの照射密度が低くコンタミネーションが発生しない(またはコンタミネーションの程度が弱い)場合は、S414においてコンタミネーション領域を特定することに代えて、別手段によって、S408における欠陥座標とEDS工程における欠陥座標との間の対応関係を特定する必要がある。本開示の実施形態2においては、その1例を説明する。検査装置1の構成は実施形態1と同様であるので、以下では検査手順の差異点について主に説明する。
【0040】
図8は、本実施形態2において検査装置1が試料113を検査する手順を説明するフローチャートである。
図4と同じステップについては説明を省略する。
図8においてはS409の次にS801を実施し、S414に代えてS802を実施する。その他は
図4と同様である。
【0041】
(
図8:ステップS801)
制御部131は、S408のFOV近傍の適当な箇所に対して、照射密度を高めた電子ビームによってマーキングを実施する。照射密度を上げるためには例えば以下のようにすればよい:(a)照射領域のサイズを小さくする;(b)同じ照射位置に対して複数回電子ビームを照射する;など。
【0042】
(
図8:ステップS802)
演算部133は、S801におけるマーキング位置を特定する。例えばS801において特定の形状をマーキングしたのであれば、その形状をパターンマッチングなどによって探索することにより、マーキング位置を特定できる。その他適当な手法を用いてもよい。S415においては、S408における中心座標とマーキング位置との間の相対関係にしたがって、欠陥位置Cを特定することができる。
【0043】
図9は、マーキングの例を示す。S406における低倍率観察画像は、S408における高倍率観察画像を包含している。高倍率観察画像のFOV近傍において、マーキング901を付与する。高倍率FOVの位置とマーキング901の位置との間の相対関係にしたがって、マーキング901の位置を基準として欠陥位置Cを特定できる。
図9に示すような、低倍FOV/高倍FOV/マーキング901それぞれの位置は、コンピュータシステム13が備えるユーザインターフェース上で提示してもよい。
【0044】
マーキング901の形状は、形成の容易性に鑑みて、正方形であることが好ましい。ただし演算処理によって位置を特定できるのであれば、その他形状でもよい。マーキング901と欠陥が重なると欠陥成分を正確に分析できないので、マーキング901は少なくとも欠陥の外に形成する必要がある。マーキング901を形成する時点において欠陥の正確な位置と形状を特定するのは相応の演算負荷が必要なので、マーキング901を高倍FOV領域の外に形成することがより望ましい。
【0045】
図10は、本実施形態2においてコンピュータシステム13が提示するユーザインターフェースの例である。コンピュータシステム13は、実施形態1で説明したGUIに加えて、検査装置1に対して指示を与えるためのGUIを、
図10のように提供してもよい。例えばEDS分析モードとして、特定のスポットに対して成分分析を実施するスポット分析モードと、ある程度の領域範囲にわたって成分分析を実施するスキャン分析とを切り替えるように指示することができる。その他、実施形態1で説明したコンタミネーション領域を識別する手法を実施するか否か、実施形態2で説明したマーキングを実施するか否か、などを指定してもよい。マーキング901のサイズを指定してもよい。コンピュータシステム13は、指定入力にしたがって荷電粒子ビーム装置11を制御し、検査工程を実施する。実施形態1においても同様のGUIを提示してもよい。
【0046】
<実施の形態2:まとめ>
本実施形態2に係る検査装置1は、低加速電子ビームを照射することによって生じるコンタミネーション量が閾値未満であると想定される場合(例えば欠陥サイズが大きいので電子ビームの照射密度が相対的に低い場合)において、マーキング901を高倍FOV周辺に形成し、マーキング901を基準として、高加速条件下における欠陥位置を特定する。これにより、コンタミネーション位置が特定困難である場合であっても、実施形態1と同様にEDS工程における欠陥位置を特定することができる。
【0047】
<本開示の変形例について>
本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0048】
以上の実施形態において、荷電粒子ビーム装置11は、検査装置1とは別に構成することもできる。すなわち検査装置1は、検査装置1の外部に配置された荷電粒子ビーム装置11から2次粒子の検出信号またはそのデジタル値を受け取り、これを用いて観察画像を生成するように構成してもよい。
【0049】
以上の実施形態において、制御部131と演算部133とユーザインターフェース制御部135は、これらの機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、これらの機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【符号の説明】
【0050】
1:検査装置
11:荷電粒子ビーム装置
12:通信線
13:コンピュータシステム
131:制御部
132:記憶部
133:演算部
134:入出力部
135:ユーザインターフェース制御部
136:操作端末