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特許7652260ペリクル膜、ペリクル、ペリクル付き露光原版、露光方法、半導体の製造方法及び液晶表示板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】ペリクル膜、ペリクル、ペリクル付き露光原版、露光方法、半導体の製造方法及び液晶表示板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20250319BHJP
【FI】
G03F1/62
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023538624
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2022029162
(87)【国際公開番号】W WO2023008532
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2021124967
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 晃範
(72)【発明者】
【氏名】白崎 享
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/080294(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/172236(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008594(WO,A1)
【文献】特開2017-116697(JP,A)
【文献】特表2020-523622(JP,A)
【文献】特開2020-160345(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0341364(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0284599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクル膜及びペリクルフレームを有するペリクルの製造方法であって、
合成された窒化ホウ素ナノチューブを堆積し、窒化ホウ素ナノチューブを有する膜(BNNT膜)を形成する工程
前記形成されたBNNT膜を枠状の支持体に転写する工程、及び
前記枠状の支持体に張設されたBNNT膜をペリクルフレームに転写する工程
を含み、前記ペリクル膜の厚み全体に占める前記BNNT膜の厚みの割合は90%以上であるペリクルの製造方法
【請求項2】
ペリクル膜及びペリクルフレームを有するペリクルの製造方法であって、
合成された窒化ホウ素ナノチューブをフィルタ上に堆積し、窒化ホウ素ナノチューブを有する膜(BNNT膜)を形成する工程、
前記形成されたBNNT膜に、粘着剤又は接着剤が設けられた枠状の支持体の前記粘着剤又は接着剤を接触させ、前記フィルタからBNNT膜を剥離する工程、及び、
前記枠状の支持体に張設されたBNNT膜に、粘着剤又は接着剤が設けられたペリクルフレームの前記粘着剤又は接着剤を接触させ、前記ペリクルフレームよりも外側のBNNT膜を除去する工程
を含み、前記ペリクル膜の厚み全体に占める前記BNNT膜の厚みの割合は90%以上であるペリクルの製造方法
【請求項3】
前記窒化ホウ素ナノチューブは、浮遊触媒CVD法により合成される請求項1又は2記載のペリクルの製造方法
【請求項4】
前記ペリクル膜は、実質的にBNNT膜のみからなる請求項1又は2記載のペリクルの製造方法
【請求項5】
前記BNNT膜は、前記窒化ホウ素ナノチューブの束を有するメッシュ、ウェブ又はグリッドを含む請求項1又は2記載のペリクルの製造方法
【請求項6】
13.5nmの波長を有する光に対して、前記ペリクル膜の透過率が80%以上である請求項1又は2記載のペリクルの製造方法
【請求項7】
13.5nm波長を主露光波長として使用する極紫外線(EUV)光の露光に用いられる請求項1又は2記載のペリクルの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI,超LSI等の半導体装置や液晶ディスプレイなどを製造する際に用いるリソグラフィ用フォトマスクのゴミ除けとして使用されるペリクル膜及びこれを用いたペリクルに関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィと呼ばれる露光技術の発達は、半導体修正回路の高集積化を可能にした。
【0003】
現在、商用化された露光工程は、193nmのArF波長帯を利用する露光装備で転写工程を進行してウエハ上に微細パターンを形成している。しかし、32nm以下の微細パターンを形成するには限界があるため、液浸露光、二重露光、位相転移、光学位相補正などの種々の方法が開発されている。しかしながら、ArF波長を利用する露光技術では、更に微細化した32nm以下の回路線幅を具現することは困難であった。そこで、193nmの波長に比べて短波長である13.5nm波長を主露光波長として使用する極紫外線(以下、「EUV」という)光を用いるEUVフォトリソグラフィ技術が次世代工程として注目されている。
【0004】
一方、フォトリソグラフィ工程は、パターニングのための原版としてフォトマスクを使用し、フォトマスク上のパターンがウエハに転写される。このとき、フォトマスクにパーティクル、異物などの不純物が付着されていると、不純物によって露光光が吸収されたり反射したりして、転写されたパターンが損傷するため、半導体装置の性能や収率の低下を招く。
【0005】
したがって、フォトマスクの表面に不純物が付着することを防止するために、フォトマスクにペリクルを装着する方法が行われている。ペリクルは、一般に、フォトマスクの表面上部に配置され、ペリクル上に不純物が付着されても、フォトリソグラフィ工程時に、焦点はフォトマスクのパターン上に一致しているので、ペリクル上のホコリまたは異物は焦点が合わず、パターンに転写されなくなる。最近では、回路線幅の微細化に伴いパターンの損傷に影響を及ぼし得る不純物の大きさも減っており、フォトマスクを保護するうえで、ペリクルの役目はより重要視されている。
【0006】
ペリクルを単一膜で構成する場合、13.5nmの極紫外線光に対して低い消光係数を有する物質を適用すると、透過率を容易に確保することができる反面、優れた機械的特性や熱的特性を確保することは極めて困難である。
【0007】
また、ペリクル膜にEUVが照射されると、そのエネルギーの一部がペリクル膜に吸収される。そして、ペリクル膜に吸収されたEUVのエネルギーは、様々な緩和過程を経て熱に変換される。従って、EUV露光時には、ペリクル膜の温度が上昇することになる。そこで、ペリクル膜には高い放熱性や耐熱性も求められる。
【0008】
特許文献1には、単結晶シリコンのペリクル膜が記載されている。しかし、この単結晶シリコン膜は放熱性が低く、さらに融点も低い。このため、EUV照射時にはペリクル膜がダメージを受けやすいという問題があった。
【0009】
また、特許文献2には、グラフェンからなるペリクル膜が記載されている。グラフェンは、サイズの小さい結晶の集合体であり、このためペリクル膜が脆くなり、ペリクル膜の耐久性が不十分であった。また、このようなグラフェンを多数積層しても、ペリクル膜に十分な強度を担保することは難しかった。
【0010】
さらに、特許文献3には、カーボンナノチューブ製のペリクル膜が提案されている。カーボンナノチューブ製のペリクル膜は、EUV露光工程中に発生する水素ラジカルに対して耐性がなく、このため、カーボンナノチューブ製ペリクル膜の表面及び空隙を適当な材料で十分にコーティングする必要があり、製造工程が煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2010-256434号公報
【文献】国際公開第2019/176410号
【文献】特開2018-194838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、EUV露光での透過率が高く、耐熱性及び耐久性に優れ、且つ、水素ラジカル耐性を有するペリクル膜及びこれを備えたペリクルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、EUV露光用のペリクル膜の材質として、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を選定することにより、カーボンナノチューブ(CNT)と同程度の耐熱性及び機械的安定性を有し、更には、ペリクル膜の表面を特別な材料でコーティングしなくても水素ラジカルに対して安定であることを知見し、本発明に至ったものである。
【0014】
従って、本発明は、下記のペリクル膜、ペリクル、ペリクル付き露光原版、露光方法、半導体の製造方法及び液晶表示板の製造方法を提供する。
1.窒化ホウ素ナノチューブを有する膜(BNNT膜)を含むことを特徴とするペリクル膜。
2.BNNT膜は、BNNTの束を有するメッシュ、ウェブ又はグリッドを含む上記1記載のペリクル膜。
3.ペリクル膜の厚み全体に占めるBNNT膜の厚みの割合は90%以上である上記1又は2記載のペリクル膜。
4.13.5nmの波長を有する光に対して、透過率が80%以上である上記1~3のいずれかに記載のペリクル膜。
5.13.5nm波長を主露光波長として使用する極紫外線(EUV)光の露光に用いられる上記1~4のいずれかに記載のペリクル膜。
6.ペリクル膜とペリクルフレームとから構成され、該ペリクル膜が接着剤を介して上記ペリクルフレームの一端面に設けられるフォトリソグラフィ用ペリクルであって、上記ペリクル膜が上記1~5のいずれかに記載のペリクル膜であることを特徴とするペリクル。
7.露光原版に上記6記載のペリクルが装着されていることを特徴とするペリクル付き露光原版。
8.露光原版が、EUV用露光原版である上記7記載のペリクル付き露光原版。
9.上記8記載のペリクル付き露光原版を用いて露光することを特徴とする露光方法。
10.上記7記載のペリクル付き露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする半導体の製造方法。
11.上記7記載のペリクル付き露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。
12.上記7記載のペリクル付き露光原版を用いて、基板をEUV露光する工程を備えることを特徴とする半導体の製造方法。
13.上記7記載のペリクル付き露光原版を用いて、基板をEUV露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、EUV露光での透過率が高く、耐熱性及び耐久性に優れ、且つ、水素ラジカル耐性を有するペリクル膜及びこれを備えたペリクルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のペリクル膜は、窒化ホウ素ナノチューブからなる膜(BNNT膜)である。以下、窒化ホウ素ナノチューブを有する膜を「BNNT膜」と略して記載する。本発明において、BNNT膜は、90質量%以上の窒化ホウ素ナノチューブを有することが好ましく、95質量%以上の窒化ホウ素ナノチューブを有することがより好ましく、98質量%以上の窒化ホウ素ナノチューブを有することが特に好ましく、実質的に窒化ホウ素ナノチューブからなることが本発明の効果を最大限に得ることができるため極めて好ましい。ここで、「実質的に窒化ホウ素ナノチューブからなる」とは、触媒や不純物成分を除いた膜の成分が窒化ホウ素ナノチューブからなることを意味する。また、本発明の効果を利用できる範囲において、カーボンナノチューブなどの各種材料との複合化をしてもよい。
【0017】
本明細書の文脈中では、「BNNT膜」という用語は、個々のBNNTまたはBNNTの束から形成されたメッシュ、ウェブ、グリッドなどのBNNTの接続された配置を指すことができることに留意されたい。BNNT膜の個々のBNNT(単層壁BNNTまたは多層壁BNNT、MWBNNT)は整列されて束を形成することができる。整列したBNNTのこのような束は、BNNT膜の製造中に自発的に形成される傾向がある。
【0018】
BNNT膜におけるBNNT束またはBNNT束は、BNNT膜内にランダムに配置されることができる。しかしながら、BNNT膜のBNNTまたはBNNT束は、重要又は主な方向に沿って、または複数の主方向に沿って配置または整列されてもよい。
【0019】
BNNT膜のBNNTは、単層BNNT(SWBNNT)、または多層BNNT(MWBNNT)であることもできる。したがって、BNNT膜は、SWBNNTまたはSWBNNTの束、さらにはMWBNNTまたはMWBNNTの束によって形成されていてもよい。
【0020】
BNNT膜の製造方法の一例としては、以下のとおりである。
<BNNT膜の製造方法>
BNNTは、浮遊触媒CVD法を利用して合成することができる。アミンボランボラジン(B336)またはデカボランB1014を原料とし、アンモニア中でニッケロセンと1200~1300℃で反応させることで、BNNTを合成することができる。合成されたBNNTは、疎水性フィルタ上に堆積されるが、BNNT同士に作用する分子間力(ファンデルワールス力)により、互いに凝集して膜を形成することができる。ペリクルフレームとは異なる第二の支持体を用い、これによりフィルタ上に堆積されたBNNTを剥離し、該支持体からペリクルフレームへBNNT膜を転写する。ペリクルフレームの上端面に塗工したシリコーン系粘着剤(例えば、信越化学工業(株)製「KE-101A/B」)を加熱硬化後、上記支持体に張設されたBNNT膜(該支持体内部)に接触させる。ペリクルフレームより大きな該支持体に張り付けたBNNT膜にペリクルフレームの上端面側を貼り付け、ペリクルフレームよりも外側の部分を除去しペリクルを完成させることができる。
【0021】
また、ホウ素粉をボールミル粉砕し、その後、Fe23やGa23、MgO、Li2Oなどの金属酸化物触媒の存在下、または、金属鉄とホウ化ニッケルとの存在下において、アンモニアと1100℃で熱CVD反応させることでもBNNTを合成することができる。合成されたBNNTは互いの分子間力によって凝集することでSi基板上に膜を形成する。この製法で成膜されたBNNT膜も、上記浮遊触媒CVD法と同様に、第二の支持体を介して、最終的にペリクルフレームに転写することができる。
【0022】
また、BNNTは、アーク放電、レーザー気化、分散液濾過法などによって調製することができるが、これらに限定されない、当技術分野で公知の種々の方法により調製することができる。例えば、本発明の実施形態で使用するための適切なBNNT膜は、国際公開第2019/006549号の「超疎水性ナノーマクロスケールパターンを有するフィルムを調製するための方法」に記載されるとおりに調製し、その後、転写によって自立膜化することができる。
【0023】
本発明におけるBNNT膜は、水素ラジカル耐性が高いため、通常、カーボンナノチューブ膜(CNT膜)に形成される保護膜やチューブへのコーティングが不要となる。本発明のBNNT膜についても、このような保護膜やコーティングを設けてもよいが、この場合、これらの部材を必要最小限で設けることができる。したがって、ペリクル膜の厚みに占めるBNNT膜の厚みを90%以上に設定することができ、実質的にBNNT膜のみからなるペリクル膜としても、EUV露光用のペリクル膜として機能させることができる。
【0024】
上記保護膜とは、例えば、BNNT膜の片面又は両面に設けられ、具体的には、SiOx(x≦2)、Siab(a/bは0.7~1.5)、SiON、Y23、YN、Mo、Ru、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、B4C、SiC及びRhからなる群から選択される1つ以上を含む保護膜が挙げられる。上記コーティングとしては、例えば、上記保護膜に使用される材料を使用できる。
【0025】
また、BNNT膜の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)-エネルギー分散型X線(EDX)分析装置により観察した場合に、観察される元素中、B元素、N元素及び触媒を構成する元素の占める割合が90モル%以上である領域を有するBNNT膜とすることができる。または、実質的にB元素、N元素及び触媒を構成する元素からなるBNNT膜としても、EUV露光用のペリクル膜として機能させることができる。ここで触媒を構成する元素は加熱処理により除去してもよく、この場合、上記の割合はB元素及びN元素の占める割合となる。
【0026】
ここで、上記のSEM-EDXによる観察は、例えば、観察倍率を1000~4000倍にして測定したBNNT膜表面のSEM-EDX画像によるマッピングにより判別できる。SEM-EDX画像の測定例としては、加速電圧を10kV、エミッション電流を1μA、測定画素数を256×256ピクセル、積算回数を50回として測定することができる。なお、試料の帯電を防止するために、金、白金、オスミウム等を真空蒸着やスパッタリング等の方法により表面処理することができる。SEM-EDX画像の測定方法については、明るさは最大輝度に達する画素がなく、明るさの平均値が輝度40~60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整することが好ましい。
【0027】
本発明のペリクル膜は、EUV(13.5nm波長)光に対して、透過率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。この透過率の測定については、通常の透過率測定機を用いて測定することができる。
【0028】
通常のペリクルは、ペリクルフレーム,ペリクル膜,ペリクル膜接着層,フォトマスク基板または露光原版の粘着層(以下、マスク粘着層という)、通気孔,フィルタ等から構成されている。また、通常、マスク接着層の表面を保護するために、セパレータが取り付けることができる。
【0029】
ペリクル膜の寸法(サイズ)は、用いられるペリクルフレームのサイズに応じて適宜選定される。ペリクル膜の厚さは、通常、10~200nmである。
【0030】
ペリクル膜にペリクルフレームを取り付ける場合は、接着剤を用いることができる。具体的には、例えば、アクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、含フッ素シリコーン接着剤等のフッ素ポリマー等が挙げられる。中でも耐熱性の観点から、シリコーン接着剤が好適である。接着剤は、必要に応じて溶媒で希釈され、ペリクルフレームの上端面に塗布される。この場合の塗布方法としては、刷毛塗り、スプレー、自動ディスペンサー等による方法が採用される。
【0031】
ペリクルをマスク基板に装着するためのマスク粘着層は、両面粘着テープ、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤等の公知の粘着剤で形成することができる。通常、ペリクルフレームの下端面にマスク粘着層が形成され、さらにセパレータが剥離可能に貼り付けられる。
【0032】
ペリクルフレームの材質には、特に制限はなく、公知のものを使用することができる。EUV露光では、Arf露光よりも高い精度が求められるため、フォトマスクに対して平坦性の要求が厳しい。フォトマスクに対する平坦性は、ペリクルの影響を受けることが知られている。ペリクルのフォトマスクへの影響を少しでも抑えるために、軽量なチタン、チタン合金やアルミニウム、アルミニウム合金を用いることが好ましい。
【0033】
ペリクルフレームの寸法は特に限定されないが、EUV用ペリクルの高さが2.5mm以下に制限される場合には、EUV用のペリクルフレームの厚みはそれよりも小さくなり2.5mm以下であることが好ましい。特に、EUV用のペリクルフレームの厚みは、ペリクル膜やフォトマスク用粘着剤等の厚みを勘案すると、1.5mm以下であることが好ましい。また、上記ペリクルフレームの厚みの下限値は1.0mm以上であることが好ましい。
【0034】
ペリクルフレームにはペリクル内外の気圧変化に対応するために、通気口や切り欠き部を設けてもよい。その際は、通気部を通して異物を通過させるのを防ぐために、フィルタを備えてもよい。
【0035】
上記ペリクルフレームのマスク側粘着剤の下端面には、粘着剤を保護するための離型層(セパレータ)が貼り付けられていてもよい。離型層の材質は、特に制限されないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)等を使用することができる。また、必要に応じて、シリコーン系離型剤やフッ素系離型剤等の離型剤を離型層の表面に塗布してもよい。
【0036】
本発明のペリクルフレームは、外側又は内側に向けた突起部を設けてもよい。このような突起部を用いることで、フィルタを形成することもできる。また、外側に向けた突起部に露光原版との接続機構(ネジ、粘着剤等)を設けることで、フォトマスク用粘着剤を省略することもできる。
【0037】
本発明のペリクルは、EUV露光装置内で、露光原版に異物が付着することを抑制するための保護部材としてだけでなく、露光原版の保管時や、露光原版の運搬時に露光原版を保護するための保護部材としてもよい。ペリクルをフォトマスク等の露光原版に装着し、ペリクル付き露光原版を製造する方法には、前述したフォトマスク用粘着剤で貼り付ける方法の他、静電吸着法、機械的に固定する方法等がある。
【0038】
本発明の実施形態に係る半導体又は液晶表示板の製造方法は、上記のペリクル付き露光原版によって基板(半導体ウエハ又は液晶用原板)を露光する工程を備える。例えば、半導体又は液晶表示板の製造工程の一つであるリソグラフィ工程において、集積回路等に対応したフォトレジストパターンを基板上に形成するために、ステッパーに上記のペリクル付き露光原版を設置して露光する。一般に、EUV露光ではEUV光が露光原版で反射して基板へ導かれる投影光学系が使用され、これらは減圧又は真空下で行われる。これにより、仮にリソグラフィ工程において異物がペリクル上に付着したとしても、フォトレジストが塗布されたウエハ上にこれらの異物は結像しないため、異物の像による集積回路等の短絡や断線等を防ぐことができる。よって、ペリクル付き露光原版の使用により、リソグラフィ工程における歩留まりを向上させることができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0040】
〔実施例1〕
アミンボランボラジン(B336)を原料とし、アンモニア中でニッケロセンと1200~1300℃で反応させ、BNNTを合成した。合成したBNNTを疎水性フィルタ(商品名「アドバンテック メンブラン/T020A-293D」(株)三商製)上に堆積し、多層のBNNT膜を形成した。次に、支持体として、Siウエハを加工して得られたSi枠体を用い、フィルタ上に堆積されたBNNTを剥離する。上記支持体の片側端面(BNNTに接触する部分)にアクリル系粘着剤〔綜研化学(株)製「SK-1499M)〕を塗工し、硬化後、BNNT膜に押し当てて剥離速度0.1mm/sで傾斜剥離を行う。その後、該支持体からペリクルフレームへBNNT膜を転写する。ペリクルフレームとしては、外寸:118.3mm×150.8mm×1.5mm、内寸:142.8mm×110.3mm×1.5mmのチタン製ペリクルフレームを用いた。このペリクルフレームの上端面に塗工したシリコーン系粘着剤(信越化学工業(株)製「KE-101A/B」)を加熱硬化後、上記支持体に張設されたBNNT膜(該支持体内部)に接触させる。ペリクルフレームより大きな該支持体に張り付けたBNNT膜にペリクルフレームの上端面側を貼り付け、ペリクルフレームよりも外側の部分を除去しペリクルを完成させた。
【0041】
<EUV透過率測定>
EUV透過率は、以下のように行った。
EUV照射装置(ニュースバル(施設名)BL-10、兵庫県立大学)にて、波長13.5nmの光(EUV)をペリクルに照射した。EUVの照射方向はペリクル膜面に対して垂直方向とし、ペリクル膜上を走査するように照射し、EUV透過率を測定した。その結果、EUV透過率は95%であった。
【0042】
<EUV耐久性>
EUV照射装置(ニュースバル(施設名)BL-9、兵庫県立大学)にて、波長13.5nm、光源強度5W/cm2のEUVを3時間の条件でペリクルに照射した。EUV耐久性については、耐久試験前後の外観観察によって評価した。その結果、耐久試験の前後でペリクルの外観変化は見られなかった。