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特許7653115オレフィン製造装置及びオレフィン製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-19
(45)【発行日】2025-03-28
(54)【発明の名称】オレフィン製造装置及びオレフィン製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 2/82 20060101AFI20250321BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20250321BHJP
   B01J 27/232 20060101ALI20250321BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20250321BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250321BHJP
【FI】
C07C2/82
C07C11/04
B01J27/232 Z
B01J23/30 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023505347
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2022008917
(87)【国際公開番号】W WO2022191000
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2021036462
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉徳 光一朗
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸男
(72)【発明者】
【氏名】行本 敦弘
(72)【発明者】
【氏名】仙波 範明
(72)【発明者】
【氏名】高鍋 和広
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1356173(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1356172(CN,A)
【文献】特開2020-028821(JP,A)
【文献】特開2019-202945(JP,A)
【文献】特開2011-032257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 2/
C07C 11/
B01J 27/
B01J 23/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン及び酸素を含む原料ガスからオレフィンを製造するオレフィン製造装置であって、
前記オレフィン製造装置は、
第1触媒と、
前記原料ガスの流通方向において前記第1触媒よりも下流に位置する第2触媒と
を収容する反応器を備え、
前記第1触媒はLa -CeO 複合触媒であり、
前記第2触媒はSiO の担体にNa WO を担持した触媒である、オレフィン製造装置。
【請求項2】
前記反応器は、
前記第1触媒を収容する第1反応器と、
前記第2触媒を収容する第2反応器と
を含み、
前記オレフィン製造装置は、前記第1反応器と前記第2反応器との間に設けられた冷却器を備える、請求項1に記載のオレフィン製造装置。
【請求項3】
前記第2反応器には、前記原料ガスの流通方向において前記第2触媒よりも上流側に前記第1触媒がさらに収容され、
前記第2反応器には、
前記第2反応器内に収容された前記第1触媒よりも前記原料ガスの流通方向において上流側で前記第2反応器内に酸素を供給するための酸素供給ライン、又は、
前記第2反応器内に収容された前記第1触媒と前記第2触媒との間で前記第2反応器内に酸素を供給するための酸素供給ライン
の少なくとも一方が接続されている、請求項2に記載のオレフィン製造装置。
【請求項4】
前記第1反応器内の温度は700℃以下であり、前記第2反応器内の温度は700~900℃である、請求項2または3に記載のオレフィン製造装置。
【請求項5】
1つの前記反応器内に前記第1触媒及び前記第2触媒が収容され、
前記反応器には、前記第1触媒と前記第2触媒との間で前記反応器内に酸素を供給するための酸素供給ラインが接続されている、請求項1に記載のオレフィン製造装置。
【請求項6】
前記第2触媒は、Mn又はSnの少なくとも一方がドープされている、請求項1~のいずれか一項に記載のオレフィン製造装置。
【請求項7】
メタン及び酸素を含む原料ガスからオレフィンを製造するオレフィン製造方法であって、
第1触媒を用いた酸化カップリング反応によって前記原料ガス中のメタンからオレフィンを製造する第1反応ステップと、
第2触媒を用いた酸化カップリング反応によって、前記第1反応ステップを経た原料ガス中のメタンからオレフィンを製造する第2反応ステップと
を含み、
前記第1触媒はLa -CeO 複合触媒であり、
前記第2触媒はSiO の担体にNa WO を担持した触媒である、オレフィン製造方法。
【請求項8】
前記第2触媒は、Mn又はSnの少なくとも一方がドープされている、請求項に記載のオレフィン製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オレフィン製造装置及びオレフィン製造方法に関する。
本願は、2021年3月8日に日本国特許庁に出願された特願2021-036462号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されるように、メタンの酸化カップリング(OCM)反応によって、エチレン等のオレフィンを製造することが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6308998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
OCM反応の触媒には、700℃以下の低温で活性を示す低温用触媒と、高いカップリング選択率が得られる高カップリング選択率触媒とがあり、これらは反応機構が異なっている。前者の触媒を用いた場合には、低温での反応が可能であるが、高温下においてカップリング選択率が低下するおそれがあり、後者の触媒を用いた場合には、高いカップリング選択率が得られるものの、高温での反応が必要になるというおそれがある。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、高いメタン転化率及び高いカップリング選択率が得られるオレフィンの製造装置及びオレフィン製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係るオレフィンの製造装置は、メタン及び酸素を含む原料ガスからオレフィンを製造するオレフィン製造装置であって、前記オレフィン製造装置は、第1触媒と、前記原料ガスの流通方向において前記第1触媒よりも下流に位置する第2触媒とを収容する反応器を備え、前記第1触媒はLa -CeO 複合触媒であり、前記第2触媒はSiO の担体にNa WO を担持した触媒である。
【0007】
また、本開示に係るオレフィン製造方法は、メタン及び酸素を含む原料ガスからオレフィンを製造するオレフィン製造方法であって、第1触媒を用いた酸化カップリング反応によって前記原料ガス中のメタンからオレフィンを製造する第1反応ステップと、第2触媒を用いた酸化カップリング反応によって、前記第1反応ステップを経た原料ガス中のメタンからオレフィンを製造する第2反応ステップとを含み、前記第1触媒はLa -CeO 複合触媒であり、前記第2触媒はSiO の担体にNa WO を担持した触媒である。
【発明の効果】
【0008】
本開示のオレフィン製造装置及びオレフィン製造方法によれば、第1触媒を用いたメタンの酸化カップリング反応の反応熱を利用して、第2触媒を用いたメタンの酸化カップリング反応に必要な温度を得られるので、第1触媒の出口の温度を制御し、第1触媒を通過したガスを第2触媒に供給することにより、高いメタン転化率及び高いカップリング選択率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置の構成模式図である。
図2】本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置の変形例の構成模式図である。
図3】本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置の別の変形例の構成模式図である。
図4】実験1及び2を行うための実験装置の構成模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態によるオレフィン製造装置及びオレフィン製造方法について、図面に基づいて説明する。係る実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0011】
<本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置の構成>
図1に示されるように、本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置1は反応器2を備えている。反応器2には、メタン及び酸素を含む原料ガスを反応器2内に供給するための原料ガス供給ライン3と、反応器2内のガスが反応器2から流出するための流出ライン4とがそれぞれ接続されている。反応器2内には、第1触媒5と、原料ガスの流通方向において第1触媒5よりも下流に位置する第2触媒6とが収容されている。オレフィン製造装置1には、必須の構成ではないが、第1触媒5と第2触媒6との間の位置で反応器2内に酸素を供給するための酸素供給ライン7を反応器2に接続させるように設けることもできる。
【0012】
<本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置の変形例の構成>
図2に示されるように、本開示の一実施形態に係る別のオレフィン製造装置10の反応器2は、原料ガス供給ライン3が接続された第1反応器2aと、流出ライン4が接続された第2反応器2bとを含んでいる。第1反応器2aと第2反応器2bとは、接続ライン11を介して連通している。第1反応器2a内には第1触媒5が収容され、第2反応器2b内には第2触媒6が収容されている。オレフィン製造装置10には、必須の構成ではないが、第1反応器2aから流出するガスを冷却するための冷却器12を接続ライン11に設けることもでき、第2触媒6よりも上流側の位置で第2反応器2b内に酸素を供給するための酸素供給ライン13を第2反応器2bに接続させるように設けることもできる。さらに、図3に示されるオレフィン製造装置10aのように、図2に示されるオレフィン製造装置10に対して、第2反応器2b内に、第1触媒5と、第1触媒5よりも下流に位置する第2触媒6とを収容し、酸素供給ライン13と、第1触媒5と第2触媒6との間の位置で第2反応器2b内に酸素を供給するための酸素供給ライン14との少なくとも一方を第2反応器2bに接続させるように設けることもできる。
【0013】
<本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置で使用する触媒>
第1触媒5は、Li、Na、K等のアルカリ金属のジルコニウム塩又は炭酸塩、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属の酸化物、La、Ce、Pr、Tb等の1種類のランタノイド元素の酸化物、La-Ce等のランタノイド元素を含む複合酸化物、若しくはこれらの組み合わせを担体に担持した触媒である。担体に担持される触媒成分として、La、CeO、CaO、SrO、BaO、Pr、Tb、NaZrO、LiZrO、KZrO等を例示することができるが、これらに限定するものではない。また、担体として、ZnO、CeO、Cr、MnO、Fe、Fe、TiO、ZrO、Al、La、CaO、SrO、MgO、又はSiO等のうちの少なくとも1つを含む酸化物を例示することができるが、これらに限定するものではない。
【0014】
第2触媒6は、Li、Na、K等のアルカリ金属のタングステン酸化物、リン酸塩、又は炭酸塩を含む触媒である。このような触媒成分として、NaWO、KWO、LiWO、NaPO、LiPO、KPO、又は、これらにMn又はSn等の金属種の少なくとも1つをドープしたもの等を例示することができるが、これらに限定するものではない。第2触媒6は、これらの触媒成分のうち、固体で存在できるものは担体に担持しない構成としてもよい。尚、担体に触媒成分を担持する場合には、担体の表面全体を触媒成分で塗布し、担体の表面が露出しない構成とすることが好ましい。第2触媒6についても、第1触媒5と同様に任意の担体を使用することができる。
【0015】
<本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置の動作(オレフィン製造方法)>
次に、本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置の動作について説明する。図1に示されるように、原料ガス供給ライン3を流通する原料ガスが反応器2に供給される。反応器2では、まず第1触媒5の触媒作用の下で、下記反応式(1)で表される反応によってエチレンが生じる。
2CH+O→C+2HO ・・・(1)
【0016】
第1触媒5の触媒作用による反応メカニズムは次の通りである。まず、酸素が第1触媒5の活性成分に吸着して、活性酸素種(O)となる。メタンがこの活性酸素種Oと反応してその水素原子が引き抜かれ、中間体であるメチルラジカルが生成する。メチルラジカル同士が反応することによってエタンが生成し、それが脱水素反応を受けることによってエチレンが生成される。第1触媒5のこのような触媒作用は、700℃以下の低温でも十分な活性で機能する。
【0017】
反応器2内では、第1触媒5を通過した原料ガスは第2触媒6に流入する。反応式(1)は発熱反応であるため、その反応熱によって700℃以上の温度の原料ガスが第2触媒6に流入する。700℃以上であれば、第2触媒6は十分な活性を示すことができる。
【0018】
第2触媒6の触媒作用による反応メカニズムは次の通りである。第2触媒6によって、水と酸素とからヒドロキシラジカルが生成する。生成したヒドロキシラジカルは、メタンをメチルラジカルとして活性化させ、メチルラジカルがカップリングすることでエタンが生成され、脱水素反応によってエタンからエチレンが生成される。この反応メカニズムは、第1触媒5の触媒作用による反応メカニズムに比べてカップリング選択率が高くなる。
【0019】
このように、第1触媒5を用いたメタンの酸化カップリング反応の反応熱を利用して、第2触媒6を用いたメタンの酸化カップリング反応に必要な温度を得られるので、第1触媒5の出口の温度を制御し、第1触媒5を通過したガスを第2触媒6に供給することにより、高いメタン転化率及び高いカップリング選択率を得ることができる。尚、メタン転化率及びカップリング選択率の定義については後述する。
【0020】
尚、上述したように、メチルラジカル同士の反応によってエタンのみが生じるのではなく、プロパンやブタン等のC3以上のアルカンも生成し得る。これにより、エチレンの他に、プロピレンやブテン等のオレフィンも生成し得る。このため、実際は、反応式(1)のようにエチレンが生成する反応だけではなく、エチレン以外のオレフィンが生成する反応も生じていると理解できる。
【0021】
<本開示の一実施形態に係るオレフィン製造装置の変形例の動作>
図2に示されるオレフィン製造装置10及び図3に示されるオレフィン製造装置10aそれぞれの動作は、オレフィン製造装置1の動作に対して、第1触媒5の触媒作用による反応式(1)が生じた後、第1反応器2aから反応ガスが流出し、接続ライン11を介して第2反応器2bに流入し、第2触媒6の触媒作用による反応が生じる点で異なるが、その他の構成、特に第1触媒5及び第2触媒6のそれぞれの触媒作用による反応メカニズムは同じである。
【0022】
接続ライン11に冷却器12が設けられている場合には、第1反応器2aから流出したガスは冷却器12で冷却されて第2反応器2bに流入する。第1反応器2aから流出したガスの温度は、ガス量と反応熱量とのバランスで決まるが、温度が高すぎると、反応器の材質が高価になるとともに構造が複雑化するため、第2反応器2b内の温度は700℃から900℃の範囲であることが好ましい。
【0023】
冷却器12が設けられていれば、第1反応器2aでの反応熱によって第2反応器2b内の温度が高すぎるようになる場合に、第1反応器2aから流出するガスを冷却器12で冷却できるので、第2反応器2b内の温度を、第2触媒6を用いたメタンの酸化カップリング反応に適切な温度に調節することができる。この温度調節を行うために、第1反応器2a内の温度及び第2反応器2b内の温度の少なくとも一方を測定するセンサを設け、センサの測定値に基づいて冷却器12の冷却能力を制御するようにしてもよい。また、酸素供給ライン13,14を介して第2反応器2b内に酸素を追加供給することにより、メタン転化率の向上も可能になる。
【0024】
(本開示のオレフィン製造装置及びオレフィン製造方法の作用効果の検討)
<実験1及び2の説明>
図4に、実験1及び2を行うための実験装置20の模式的な構成を示す。実験装置20は、筒状の反応器21を備えている。反応器21として、内径4.5mm及び長さ200mmの石英管を使用した。反応器21の軸方向の一端側には、メタンガスを貯留するタンク27に一端が接続された供給ライン22の他端が接続されている。反応器21の軸方向の他端側には、ガスクロマトグラフィー28に一端が接続された流出ライン23の他端が接続されている。供給ライン22には、一端が酸素ボンベ29に接続された酸素供給ライン24が接続されている。酸素供給ライン24には、酸素供給ライン24を流通する酸素の流量を測定するための流量計33が設けられている。供給ライン22において酸素供給ライン24との接続位置よりも上流側には、供給ライン22を流通するメタンガスの流量を測定するための流量計31が設けられている。反応器21は電気炉34によって加熱されるようになっており、電気炉34は、温度調節計35に基づいて加熱温度を制御可能になっている。
【0025】
実験1として、反応器21内に、第1触媒5(図1及び2参照)に相当するLaCO/CeO(触媒成分/担体)を収容し、実験2として、反応器21内に、第2触媒6(図1及び2参照)に相当するNaWO/SiO(触媒成分/担体)を収容した。下記表1に、実験1及び2の実験条件(温度・流量設定)を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
実験1及び2において得られたメタン転化率及びカップリング選択率を下記表2に示す。
【表2】
【0028】
ここで、メタン転化率及びカップリング選択率は以下のように定義される。
【数1】
【数2】
【0029】
尚、上記式における各流量の単位は体積基準の流量(例えばNcc/min)であり、カップリング選択率の定義における「メタン換算C2+化合物流量」は、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン等の炭素数2以上の炭化水素のそれぞれの化合物の流量をそれぞれの炭素数で割ることによってメタン換算した流量を意味する。
【0030】
<実験1及び2の結果からのシミュレーション>
反応器21内の上流側にLa/CeO触媒を0.01g配置し、その下流側にNaWO/SiO触媒を0.97g配置し、上流側の触媒層の温度を650℃に制御し、下流側の触媒層の温度を800℃に制御し、さらに上流側の触媒層と下流側の触媒層との間に酸素を供給することにより期待されるメタン転化率及びカップリング選択率を、実験1及び2の実験結果を用いて算出した。このシミュレーション結果を下表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
表2の実験1においてLa/CeO触媒層出口のメタン転化率が19.5%であったことを考慮すると、上流側のLa/CeO触媒層を通過した後に下流側のNaWO/SiO触媒層には未反応メタンが96.6Ncc/minの流量で供給されることになる。実験2におけるメタン/酸素比とするために、下流側のNaWO/SiO触媒層の入口に16.1Ncc/minの流量の酸素を追加すると、表2により2.8%のメタン転化率が期待できるため、下流側のNaWO/SiO触媒層出口では、93.9Ncc/minの流量のメタンとなる。全体では、反応器21の入口において120Ncc/minの流量のメタンであったものが、反応器21の出口で93.9Ncc/minのメタンとなるため、メタン転化率は21.8%となる。
【0033】
次に、カップリング選択率の算出を行う。実験1によればLa/CeO触媒層出口で71.0%となるため、La/CeO触媒によるカップリンング生成物流量は、反応器21の入口におけるメタンの流量120Ncc/minとメタン転化率の19.5%とカップリング選択率の71.0%との積であることから、メタン換算で16.6Ncc/minとなる。同様に、実験2によれば、NaWO/SiO触媒層出口で76.5%のカップリング選択率となるため、NaWO/SiO触媒によるカップリンング生成物流量は、NaWO/SiO触媒層入口におけるメタンの流量96.6Ncc/minとメタン転化率の2.8%とカップリング選択率の76.5%との積であることから、メタン換算で2.1Ncc/minとなる。全体のメタン転化率が21.8%であるため、転化したメタン流量は、反応器21の入口におけるメタンの流量120Ncc/minにメタン転化率21.8%を乗じた26.2Ncc/minとなる。従って、反応器21の全体でのカップリング選択率は、カップリング生成物流量18.7Ncc/minを、転化したメタンの流量26.2Ncc/minで割った71.4%となる。
【0034】
表2及び3に示される結果によれば、第1触媒5のみを用いた実験1に比べて、第1触媒5及び第2触媒6を用いたシミュレーション結果のほうが、メタン転化率及びカップリング選択率の両方が高くなっている。第2触媒6のみを用いた実験2に比べて、シミュレーション結果は、カップリング選択率はやや低めとなっているものの、メタン転化率が大幅に大きくなっている。この結果から、第1触媒5又は第2触媒6のいずれか一方を用いたOCM反応に比べて、第1触媒5及び第2触媒6の両方を用いたOCM反応のほうが、メタン転化率及びカップリング選択率のバランスが優れていると言える。また、第2触媒6として、Mn又はSn等の金属種の少なくとも1つがドープされたアルカリ金属のタングステン酸化物、リン酸塩、又は炭酸塩を含む触媒を使用することにより、カップリング選択率を向上させることができる。
【0035】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0036】
[1]一の態様に係るオレフィン製造装置は、
メタン及び酸素を含む原料ガスからオレフィンを製造するオレフィン製造装置であって、
前記オレフィン製造装置(1/10)は、
第1触媒(5)と、
前記原料ガスの流通方向において前記第1触媒(5)よりも下流に位置する第2触媒(6)と
を収容する反応器(2)を備え、
前記第1触媒(5)は、アルカリ金属のジルコニウム塩又は炭酸塩、アルカリ土類金属の酸化物、1種類のランタノイド元素の酸化物、ランタノイド元素を含む複合酸化物、若しくはこれらの組み合わせを担体に担持した触媒であり、
前記第2触媒(6)は、アルカリ金属のタングステン酸化物、リン酸塩、又は炭酸塩を含む触媒である。
【0037】
本開示のオレフィン製造装置によれば、第1触媒を用いたメタンの酸化カップリング反応の反応熱を利用して、第2触媒を用いたメタンの酸化カップリング反応に必要な温度を得られるので、第1触媒の出口の温度を制御し、第1触媒を通過したガスを第2触媒に供給することにより、高いメタン転化率及び高いカップリング選択率を得ることができる。
【0038】
[2]別の態様に係るオレフィン製造装置は、[1]のオレフィン製造装置であって、
前記反応器(2)は、
前記第1触媒(5)を収容する第1反応器(2a)と、
前記第2触媒(6)を収容する第2反応器(2b)と
を含み、
前記オレフィン製造装置(10)は、前記第1反応器(2a)と前記第2反応器(2b)との間に設けられた冷却器(12)を備える。
【0039】
このような構成によれば、第1反応器での反応熱によって第2反応器内の温度が高すぎるようになる場合に、第1反応器から流出するガスを冷却器で冷却できるので、第2反応器内の温度を、第2触媒を用いたメタンの酸化カップリング反応に適切な温度に調節することができる。
【0040】
[3]別の態様に係るオレフィン製造装置は、[2]のオレフィン製造装置であって、
前記第2反応器(2b)には、前記原料ガスの流通方向において前記第2触媒(6)よりも上流側に前記第1触媒(5)がさらに収容され、
前記第2反応器(2b)には、
前記第2反応器(2b)内に収容された前記第1触媒(5)よりも前記原料ガスの流通方向において上流側で前記第2反応器(2b)内に酸素を供給するための酸素供給ライン(13)、又は、
前記第2反応器(2b)内に収容された前記第1触媒(5)と前記第2触媒(6)との間で前記第2反応器(2b)内に酸素を供給するための酸素供給ライン(14)
の少なくとも一方が接続されている。
【0041】
このような構成によれば、第2反応器内に酸素が追加供給されるので、メタン転化率をさらに向上することができる。
【0042】
[4]さらに別の態様に係るオレフィン製造装置は、[2]または[3]のオレフィン製造装置であって、
前記第1反応器(2a)内の温度は700℃以下であり、第2反応器(2b)内の温度は700~900℃である。
【0043】
このような構成によれば、第1反応器での反応熱によって第2反応器内の温度が高すぎるようになる場合に、第2触媒を用いたメタンの酸化カップリング反応に適切な温度に調節することができる。
【0044】
[5]別の態様に係るオレフィン製造装置は、[1]のオレフィン製造装置であって、
1つの前記反応器(2)内に前記第1触媒(5)及び前記第2触媒(6)が収容され、
前記反応器(2)には、前記第1触媒(5)と前記第2触媒(6)との間で前記反応器(2)内に酸素を供給するための酸素供給ライン(7)が接続されている。
【0045】
このような構成によれば、反応器内に酸素が追加供給されるので、メタン転化率をさらに向上することができる。
【0046】
[6]さらに別の態様に係るオレフィン製造装置は、[1]~[5]のいずれかのオレフィン製造装置であって、
前記第1触媒(5)はLa-CeO複合触媒であり、前記第2触媒(6)はSiOの担体にNaWOを担持した触媒である。
【0047】
このような構成によれば、第1触媒の出口の温度を制御し、第1触媒を通過したガスを第2触媒に供給することにより、高いメタン転化率及び高いカップリング選択率を得ることができる。
【0048】
[7]さらに別の態様に係るオレフィン製造装置は、[1]~[6]のいずれかのオレフィン製造装置であって、
前記第2触媒(6)は、Mn又はSnの少なくとも一方がドープされたアルカリ金属のタングステン酸化物、リン酸塩、又は炭酸塩を含む触媒である。
【0049】
このような構成によれば、カップリング選択率を向上させることができる。
【0050】
[8]一の態様に係るオレフィン製造方法は、
メタン及び酸素を含む原料ガスからオレフィンを製造するオレフィン製造方法であって、
第1触媒を用いた酸化カップリング反応によって前記原料ガス中のメタンからオレフィンを製造する第1反応ステップと、
第2触媒を用いた酸化カップリング反応によって、前記第1反応ステップを経た原料ガス中のメタンからオレフィンを製造する第2反応ステップと
を含み、
前記第1触媒は、アルカリ金属のジルコニウム塩又は炭酸塩、アルカリ土類金属の酸化物、1種類のランタノイド元素の酸化物、ランタノイド元素を含む複合酸化物、若しくはこれらの組み合わせを担体に担持した触媒であり、
前記第2触媒は、アルカリ金属のタングステン酸化物、リン酸塩、又は炭酸塩を含む触媒である。
【0051】
本開示のオレフィン製造方法によれば、第1触媒を用いたメタンの酸化カップリング反応の反応熱を利用して、第2触媒を用いたメタンの酸化カップリング反応に必要な温度を得られるので、第1触媒の出口の温度を制御し、第1触媒を通過したガスを第2触媒に供給することにより、高いメタン転化率及び高いカップリング選択率を得ることができる。
【0052】
[9]別の態様に係るオレフィン製造方法は、[8]のオレフィン製造方法であって、
前記第2触媒は、Mn又はSnの少なくとも一方がドープされたアルカリ金属のタングステン酸化物、リン酸塩、又は炭酸塩を含む触媒である。
【0053】
このような構成によれば、カップリング選択率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 オレフィン製造装置
2 反応器
2a 第1反応器
2b 第2反応器
5 第1触媒
6 第2触媒
7 酸素供給ライン
10 オレフィン製造装置
12 冷却器
13 酸素供給ライン
14 酸素供給ライン
図1
図2
図3
図4