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特許7653277優れた結晶粒度特性を有する機械構造用鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-19
(45)【発行日】2025-03-28
(54)【発明の名称】優れた結晶粒度特性を有する機械構造用鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250321BHJP
   C22C 38/22 20060101ALI20250321BHJP
   C22C 38/32 20060101ALI20250321BHJP
   C21D 9/28 20060101ALN20250321BHJP
   C21D 9/32 20060101ALN20250321BHJP
【FI】
C22C38/00 301N
C22C38/22
C22C38/32
C21D9/28 A
C21D9/32 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021049761
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148179
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】井手口 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和弥
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-183399(JP,A)
【文献】特開2020-100862(JP,A)
【文献】特開2016-050350(JP,A)
【文献】特開2006-249570(JP,A)
【文献】特開2012-224928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/22
C22C 38/32
C21D 9/28
C21D 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.27~0.45%、Si:0.1~0.9%、Mn:0.1~0.6%、P(不可避不純物として):0.030%以下、S(不可避不純物として):0.030%以下、Cr:1.50~2.50%、Mo:0.1~0.3%、Al:0.005~0.050%、N:0.004~0.030%を有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼であり、該鋼は焼なましされた状態であって、ラメラーパーライトの面積率が3%以下である、優れた結晶粒度特性を有する機械構造用鋼。
【請求項2】
請求項1の化学成分に加えて、質量%で、Nb:0.10%以下、Ti:0.020~
0.200%、B:0.0030%以下を有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる
鋼であり、該鋼は焼なましされた状態であって、ラメラーパーライトの面積率が3%以下である、優れた結晶粒度特性を有する機械構造用鋼。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の化学成分と残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼が浸炭された状態であって、浸炭後の芯部硬さが550Hv以上である、優れた結晶粒度特性を有する機械構造用鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造後に浸炭や浸炭窒化、浸窒などの表面硬化処理を施して使用される部品、例えば自動車、建設機械、工作機械などのギアやCVJやシャフトなどの素材として好適である機械構造用鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでにも、上記の用途に好適な機械構造用鋼が提案されている。
出願人は、鋼成分の適正化と、浸炭前のフェライト、パーライト、ベイナイト組織の粒径サイズを規定することで、熱間加工や冷間加工であれ、浸炭前の焼きならしの有無を問わず、従来の浸炭用鋼に比べて優れた耐結晶粒度特性を有する機械構造用鋼の発明を提案している(特許文献1参照。)
この鋼は、浸炭前組織がベイナイトを含むフェライトもしくはフェライト・パーライト組織が前提となっている。
【0003】
また、粗大粒防止のために、Ti系の炭硫化物の活用により、あるいはTiおよびS含有量の適正化により、MnSの生成量等を制御することで、疲労特性に優れる肌焼鋼の発明が提案されている(特許文献2参照。)
【0004】
さらに、粗大粒防止のために、TiやNbの炭窒化物の活用により、あるいはTiおよびNb含有量の適正化により、ならびにそれらの炭窒化物のサイズや数密度等の規定により、浸炭処理時の異常粒の発生が抑制可能な肌焼鋼の発明が提案されている(特許文献3、特許文献4参照。)。
【0005】
これらの機械構造用鋼の提案は、浸炭前組織がベイナイトを含むフェライト・パーライト組織が前提となっていたり、析出物によるピンニング効果を利用した結晶粒の粗大化防止に関する提案である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-106079号公報
【文献】特開2017-133052号公報
【文献】特開2015-160979号公報
【文献】特開2014-101566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
もっとも、近年の浸炭条件が高温化している状況下においては、従来提案の鋼では不十分であって、部分的に結晶粒が粗大化する場合がある。
【0008】
また、浸炭部品において、大型品における芯部硬さの確保、部品の高強度化、浸炭時間の短縮化を狙いとして、SCM435等のMoを含有する中炭素鋼が使用される場合があるが、その場合にも、浸炭前組織がベイナイトを含むフェライト・パーライト組織になりやすく、浸炭時に結晶粒粗大化を引き起こしやすい。
【0009】
さらに冷却速度を制御することでベイナイトを制御しても、結晶粒粗大化してしまう場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、機械構造用鋼を浸炭する際の背景を踏まえ、浸炭時の結晶粒粗大化を抑制することが可能な機械構造用鋼を提供することを目的としている。
【0011】
ところで、一般的に、浸炭時の結晶粒粗大化を抑制するために、熱間鍛造後に焼ならしを適用し、浸炭前の組織をフェライト+オーステナイトの2相組織とするケースが多い。もっとも、この焼ならし組織は、フェライト+オーステナイトの2相域で保持する工程に起因して、徐冷後の球状炭化物分布が不均一となりやすい。このような炭化物分布の不均一は、その後の浸炭工程における結晶粒粗大化の一因となることから、炭化物分布を均一とすることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、発明者らは鋭意検討の結果、本発明では、鋼の成分を調整することにより、熱間鍛造後のフェライト中にナノオーダーの微細析出物(Al窒化物、Nb炭窒化物、Fe炭化物、Cr炭化物など)を分散させることとした。熱間鍛造後はフェライト、パーライトまたはベイナイトの混相組織となるが、熱間鍛造後の冷却過程(A1点温度以下の時期)において、前述の微細析出物を核として、フェライト粒内に球状炭化物が析出する。そのような球状炭化物の分散状態で、焼なましを適用することにより、パーライトやベイナイトを構成する炭化物の球状化が促進される。
【0013】
その結果、Moを含有する中炭素鋼において、フェライト粒内に球状炭化物が均一分散した組織となり、大型品における芯部硬さの確保、部品の高強度化、浸炭時間の短縮化、浸炭時の耐結晶粒粗大化特性を同時に達成できる優れた鋼が得られることを見出した。
【0014】
そこで、本願発明の課題を解決するための第1の手段は、質量%で、C:0.27~0.45%、Si:0.1~0.9%、Mn:0.1~0.6%、P(不可避不純物として):0.030%以下、S(不可避不純物として):0.030%以下、Cr:1.50~2.50%、Mo:0.1~0.3%、Al:0.005~0.050%、N:0.004~0.030%を有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼であり、該鋼は焼なましされた状態であって、ラメラーパーライトの面積率が3%以下である、優れた結晶粒度特性を有する機械構造用鋼である。
【0015】
その第2の手段は、第1の手段に記載の化学成分に加えて、質量%で、Nb:0.10%以下、Ti:0.020~0.200%、B:0.0030%以下を有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼であり、該鋼は焼なましされた状態であって、ラメラーパーライトの面積率が3%以下である、優れた結晶粒度特性を有する機械構造用鋼である。
【0016】
その第3の手段は、第1または第2の手段に記載の化学成分と残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼が浸炭された状態であって、浸炭後の芯部硬さが550Hv以上である、優れた結晶粒度特性を有する機械構造用鋼である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の手段によると、フェライト粒内に球状炭化物が分散した状態で焼なましを適用しているので、球状炭化物が均一に分散した組織となり、ラメラーパーライトの面積率が3%以下というラメラーパーライトの少ない組織を得ることができる。本発明に規定する化学成分であって、焼なましされた状態でラメラーパーライトの面積率が3%以下である鋼に選別すると、焼なまし後のロックウエル硬さが90HRB以下でかつ結晶粒度番号が8以上である耐結晶粒粗大化特性に優れた機械構造用鋼となる。また、本発明の手段によると、疑似浸炭後の芯部硬さも550Hv以上の鋼となる。
そこで、本願の発明にかかる鋼を浸炭した際には結晶粒粗大化特性が抑制された機械構造用鋼が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態の説明に先立って、本願の手段における鋼の化学成分を規定する理由、および該鋼の焼なまし後のラメラーパーライトの面積率の限定理由について説明する。なお、以下の化学成分における%は質量%である。
【0019】
C:0.27~0.45%
Cは、浸炭後の鋼部品の芯部硬さを維持して強度を付与するために必要な元素である。しかし、Cが0.27%より少ないと、浸炭後の鋼部品の芯部硬さが低下するので、強度不足を招く。一方、Cが0.45%より多いと、素材硬さが上昇して、被削性や冷間加工性が低下する。そこで、Cは0.27~0.45%とする。好ましくは、Cは0.27~0.43%である。
【0020】
Si:0.1~0.9%
Siは、鋼の製鋼時の脱酸に有効な元素である。しかし、Siが0.1%より少ないと、製鋼時の脱酸不足を招き易く、介在物品位が低下する。一方、Siが0.9%より多いと、素材硬さが上昇して加工性が低下し、さらに浸炭阻害を発生する。そこで、Siは0.1~0.9%とする。
【0021】
Mn:0.1~0.6%
Mnは、鋼の焼入れ性を向上させる元素であるが、0.1%より少ないと焼入れ性が不足する。一方、0.6%より多いと、加工性が低下する。そこで、Mn0.1~0.6%とする。
【0022】
P(不可避不純物として):0.030%以下
Pは、不可避不純物として含有される。しかし、Pが0.030%より多く含有されると、粒界偏析を助長して靭性を低下させる。そこで、Pは不可避不純物として0.030%以下とする。
【0023】
S(不可避不純物として):0.030%以下
Sは、不可避不純物として含有される。しかし、Sが0.030%より多く含有されると、粗大なMnSを多量に形成するので、靭性が低下し、疲労強度も低下する。そこで不可避不純物としてのSは0.030%以下とする。
【0024】
Cr:1.50~2.50%
Crは、鋼の焼入れ性や靭性および焼戻し軟化抵抗特性の向上に有効な元素である。しかし、Crが1.50%より少ないとA1点の上昇不足によって、ラメラーパーライト率が大となり、結晶粒が粗大化する。また焼入れ性が不足する。一方、Crが2.50%より多いと素材硬さが上昇し、加工性が低下する。また、浸炭阻害の発生リスクが高くなる。そこで、Crラメラーパーライトの面積率が3%以下は1.50~2.50%とする。好ましくは、Crは1.60~2.50%である。
【0025】
Mo:0.1~0.3%
Moは、素材硬さの上昇に有効な元素である。しかし、Moが0.1%未満であると、浸炭後の芯部硬さが低下するので、強度不足を招く。他方、Moが0.3%以上であると、素材硬さが上昇しすぎて、加工性が低下するので、被削性や冷間加工性が悪くなる。そこで、Moは0.1~0.3%とする。
【0026】
Al:0.005~0.050%
Alは、鋼の脱酸に有効な元素であり、鋼中のNと反応してAlNを形成する作用がある。しかし、Alが0.005%より少ないと、製造時の脱酸不足を招き易く、その結果、介在物品位が低下する。また、微細な窒化物が不足し、結晶粒が粗大化しやすいものとなるので、靭性および疲労特性が低下する。一方、Alが0.050%より多いと、粗大な窒化物(AlN)の形成により疲労特性および加工性が低下する。そこで、Alは0.005~0.050%とする。
【0027】
N:0.004~0.030%
Nは、鋼中のAlと反応してAlNを形成する元素である。しかし、Nが0.004%より少ないと、微細な炭窒化物が不足する結果、結晶粒が粗大化し、また靭性および疲労特性が低下する。一方、Nが0.030%より多いと、粗大な炭窒化物の形成により、疲労特性および加工性が低下する。そこで、Nは0.004~0.030%とする。
【0028】
以上が本願の鋼のFeに添加される必須成分を規定する理由である。次に、任意的成分について説明する。
【0029】
Nb:0.10%以下
Nbは、微細な炭窒化物を形成する元素であることから、耐結晶粒度粗大化特性の向上に有効な成分である。もっとも、Nbが0.10%より多く含有されると、粗大な炭窒化物が増加し、ピン止め効果のある炭窒化物の減少により結晶粒が粗大化する。そこで、Nbを添加する場合には0.10%以下とする。
【0030】
Ti:0.020~0.200%
Tiは、微細な窒化物を形成する元素であることから、任意に添加しうる成分である。もっとも、Tiが0.020%より少ないと、微細な窒化物量の形成は不足するので、結晶粒が粗大化し易くなる。また、Nが固定されないので、BNを形成し、焼入れ性が低下する。一方、Tiが0.200%より多いと、粗大な炭窒化物が増加する結果、ピン止め効果のある炭窒化物の減少により、結晶粒が粗大化する。そこラメラーパーライトの面積率が3%以下で、Tiを添加する場合には0.020~0.200%とする。
【0031】
B:0.0030%以下
Bは、焼入れ性に寄与する元素であることから、任意に添加しうる成分である。しかし、0.0030%より多く含有されると、素材硬さの上昇によって加工性の低下をもたらす。そこで、Bは0.0030%以下とする。
【0032】
ラメラーパーライトの面積率:3%以下
本発明の成分の鋼について焼なましを実施した後の、ラメラーパーライトの面積率は、3%以下であれば、部分的な結晶粒粗大化が発生することなく整粒を得ることができる。そこで、ラメラーパーライトの面積率は3%以下とする。
【0033】
次いで、本発明を実施するための形態について記載する。
まず、表1に示す各化学成分と残部Feおよび不可避的不純物からなる、発明鋼の鋼種A~Pの16種および比較鋼の鋼種Q~Z、AA~AGの17種の全33種について、100kgを真空溶解炉で溶製した。
【0034】
【表1】
【0035】
次いで、これらの各鋼の供試材を熱間鍛造により径40mmの棒鋼に作製し、その後焼なましとして700~850℃の温度で1~3時間保持後、空冷を実施した。なお、焼なましはカンタル炉を用い、以下の手順で実施した。
【0036】
カンタル炉での焼きなまし手順は、まず球状化焼なましの保持温度に設定した炉内に、上記供試材を投入し、供試材の昇温時間を30分確保し、その後、任意の時間保持してから、空冷もしくは水冷をする。本実施例ではいずれも空冷した。
なお、オーステナイト化温度での保持時間の選定については炉に装入する鋼材の量や寸法を考慮するものとする。
【0037】
焼なましされた状態の鋼の特性については、ラメラーパーライト面積率、焼きなまし後の硬さについて以下の確認をした。また焼なまし後に、疑似浸炭試験行い、結晶粒度、芯部硬さの確認を行った。それらの結果を表2に示した。
【0038】
(ラメラーパーライト面積率について)
まず、鋼材鍛伸方向から10mm角程度の断面を切り出し、鏡面研磨した後、5%ナイタールで腐食を行った。ラメラーパーライト面積率は、光学顕微鏡によって800μm四方の組織写真を撮影し、画像解析により800μm四方の全面積からベイナイト部の面積を除外し、残りのラメラーパーライト部の面積をもとに算出した。
ラメラーパーライト面積率が3%以下であれば、部分的な結晶粒粗大化が発生することなく整粒を得ることができる。そこで、ラメラーパーライト面積率が3%以下であれば、表2のラメラーパーライト面積率の欄に良好として○と表示し、ラメラーパーライト面積率が3%を超える場合は表2のラメラーパーライト面積率の欄に劣るものとして×と表示した。
【0039】
(焼なまし後の硬さについて)
上記の焼なまし後の供試材を、圧延方向に対して垂直に切断し、切断面を平面研削した後、中周部の位置でロックウエル硬さ試験を実施した。ロックウエル硬さが90HRB以下であれば、表2の焼なまし後の硬さの欄に良好として○と表示し、ロックウエル硬さが90HRBを超える場合は不良として、表2の焼なまし後の硬さの欄に×と表示した。
【0040】
次に、焼なましをした後に、これに疑似浸炭を行って、これらの鋼が浸炭された場合に結晶粒粗大化特性が抑制されているか否かを、疑似浸炭後の結晶粒度を用いて確認した。
【0041】
なお、疑似浸炭とは、実際の浸炭は行わずに浸炭の熱履歴のみを与える方法である。通例、浸炭が直接的に結晶粒粗大化挙動に影響を及ぼすことは無いため、この方法にて結晶粒粗大化温度を適切に評価することが可能である。疑似浸炭においては、一般的な浸炭過程の昇温速度を想定した300℃/hで昇温して850℃~970℃で5時間保持した後、水冷した。
【0042】
(結晶粒度の測定について)
鋼の結晶粒度番号をJIS G0551の切断法に則って測定して評価した。結晶粒度番号が8以上であれば、表2の結晶粒度番号の欄に良好として○と表示し、結晶粒度番号が8未満であれば、表2の結晶粒度番号の欄に劣るものとして×と表示した。
【0043】
(疑似浸炭後の芯部硬さについて)
疑似浸炭された供試材の圧延方向と垂直に切断し、切断面を平面研削した後、中心部の位置でビッカース硬さ試験を実施した。
ビッカース硬さが550Hv以上の場合は良好として〇とした。550Hv未満であれば不良として×と評価した。
【0044】
【表2】
【0045】
発明鋼成分である鋼種A~Pの発明鋼は、いずれも発明の規定する成分を満たし、焼なまし後のラメラーパーライト率も1.3~2.7%と、3%以下の鋼であることから、部分的な結晶粒粗大化が発生することのない鋼が得られている。そして、発明鋼A~Pの焼なまし後の硬さは、81~88HRBであり、90HRB以下の鋼となっている。また、発明鋼A~Pの疑似浸炭後の結晶粒度番号は8.2~9.2であり、8以上となったことから、浸炭により結晶粒が粗大化しにくいことも確認された。また、発明鋼A~Pは、疑似浸炭後の芯部硬さも566~603HVであり、浸炭後も550HV以上の芯部硬さになることが確認された。以上のような特性を備えていることから、本発明の機械構造用鋼は、熱間鍛造後に、浸炭や浸炭窒化、浸窒などの表面硬化処理を施すことで使用される部品に好適である。
【0046】
他方、比較鋼成分の鋼種Q~AGについてみると、本発明の規定範囲を外れると、以下のとおり、結晶粒の粗大化や、加工性の低下、芯部硬さの不足などが認められた。
鋼種Qは、Cが過多であり、また、ラメラーパーライト率が3%を上回っており、部分的に結晶粒が粗大化しやすいものとなっている。また、焼なまし後の硬さが高すぎて、被削性や冷間加工性が低下しており、疑似浸炭後の結晶粒も粗大化している。
鋼種RはCが過少で、ラメラーパーライト率が3%を上回っており、部分的に結晶粒が粗大化しやすいものとなっており、疑似浸炭後の結晶粒も粗大化している。
鋼種SはSiが過多であるため、焼なまし後の硬さが高すぎて加工性が低下している。
鋼種TはMnが過多であるため、焼なまし後の硬さが高すぎて加工性が低下している。
鋼種UはCrが過少でラメラーパーライト率が高く結晶粒が粗大化している。
鋼種VはCrが過多であるため、焼なまし後の硬さが高すぎて加工性が低下している。
鋼種WはMoが過少であるため、浸炭後の芯部硬さが低く強度不足となっている。
鋼種XはMoが過多であるため、焼なまし後の硬さが高すぎて加工性が低下している。
鋼種YはAlが過少であるため、微細な窒化物が不足し、結晶粒が粗大化している。
鋼種ZはAlが過多であるため、焼なまし後の硬さが高すぎて加工性が低下している。
鋼種AA及びABはNが規定範囲から外れており、疑似浸炭後の結晶粒の粗大化が認められた。
鋼種ACはNbが過多であり、結晶粒が粗大化している。
鋼種AD、AEはTiが規定範囲から外れており、結晶粒が粗大化している。
鋼種AFはBが過多であるため、焼なまし後の硬さが高すぎて加工性が低下している。
鋼種AGはラメラーパーライト率が3%を下回っており、結晶粒が粗大化しやすくなっている。また、焼なまし後の硬さが高すぎて、被削性や冷間加工性も低下している。