(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-19
(45)【発行日】2025-03-28
(54)【発明の名称】適応フィルタ装置、適応フィルタ方法、および適応フィルタプログラム
(51)【国際特許分類】
H03H 21/00 20060101AFI20250321BHJP
H03H 17/00 20060101ALI20250321BHJP
H03H 17/06 20060101ALI20250321BHJP
H04B 1/00 20060101ALI20250321BHJP
【FI】
H03H21/00
H03H17/00 601G
H03H17/06 633Z
H04B1/00 146
(21)【出願番号】P 2023545131
(86)(22)【出願日】2022-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2022027330
(87)【国際公開番号】W WO2023032470
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2021145058
(32)【優先日】2021-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市原 栄蔵
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 佑介
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-165203(JP,A)
【文献】特表2008-518542(JP,A)
【文献】特開2010-093821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 21/00
H03H 17/00
H03H 17/06
H04B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号をダウンサンプリングした出力信号を出力するデシメーションフィルタと、
前記入力信号の特性に基づいて、前記デシメーションフィルタの次数を調整するフィルタ制御部と
を備え
、
前記フィルタ制御部は、前記入力信号における、前記出力信号のナイキスト周波数以上の少なくとも一部の周波数を有する検査対象成分の大きさに応じて、前記デシメーションフィルタの次数を調整する
適応フィルタ装置。
【請求項2】
前記フィルタ制御部は、前記検査対象成分の大きさが予め定められた基準より大きい場合に、第1フィルタ特性を前記デシメーションフィルタに設定し、前記検査対象成分の大きさが前記基準以下の場合に、次数が前記第1フィルタ特性よりも小さい第2フィルタ特性を前記デシメーションフィルタに設定する請求項
1に記載の適応フィルタ装置。
【請求項3】
前記フィルタ制御部は、前記検査対象成分の大きさが予め定められた基準より大きい場合に、第1フィルタ特性を前記デシメーションフィルタに設定し、前記検査対象成分の大きさが前記基準以下の場合に、次数が前記第1フィルタ特性よりも大きい第2フィルタ特性を前記デシメーションフィルタに設定する請求項
1に記載の適応フィルタ装置。
【請求項4】
前記フィルタ制御部は、前記フィルタ特性の切り替えにヒステリシスを有する請求項
2に記載の適応フィルタ装置。
【請求項5】
前記デシメーションフィルタは、前記第2フィルタ特性が設定されたことに応じて、前記第1フィルタ特性が設定された場合よりも遅延時間を短くする請求項
2に記載の適応フィルタ装置。
【請求項6】
前記デシメーションフィルタは、前記第2フィルタ特性が設定されたことに応じて、前記第1フィルタ特性が設定された場合よりも遅延時間を長くする請求項
3に記載の適応フィルタ装置。
【請求項7】
前記フィルタ制御部は、
前記入力信号における、前記ナイキスト周波数以上の少なくとも一部の周波数の信号レベルを検出するノイズ検出部と、
前記ノイズ検出部が検出した信号レベルに基づいて、前記デシメーションフィルタに設定するフィルタの次数を決定するフィルタ特性決定部と
を有する請求項
1に記載の適応フィルタ装置。
【請求項8】
前記ノイズ検出部は、
前記入力信号における、前記ナイキスト周波数未満の周波数の信号成分を減衰させるハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタが出力する信号の、ピーク値、絶対値、平均値、ピーク値の平均値、または絶対値の平均値の少なくとも1つに応じた信号レベルを出力するノイズレベル出力部と
を有する請求項
7に記載の適応フィルタ装置。
【請求項9】
前記ノイズ検出部は、
前記入力信号における、前記ナイキスト周波数以上の一部の周波数帯域以外の信号成分を減衰させるバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタが出力する信号の、ピーク値、絶対値、平均値、ピーク値の平均値、または絶対値の平均値の少なくとも1つに応じた信号レベルを出力するノイズレベル出力部と
を有する請求項
7に記載の適応フィルタ装置。
【請求項10】
前記フィルタ制御部は、前記入力信号における、前記ナイキスト周波数未満の少なくとも一部の周波数の信号レベルを検出する信号検出部を有し、
前記フィルタ特性決定部は、前記信号検出部が検出した信号レベルおよび前記ノイズ検出部が検出した信号レベルに基づいて、前記デシメーションフィルタに設定するフィルタの次数を決定する
請求項
7に記載の適応フィルタ装置。
【請求項11】
前記信号検出部は、
前記入力信号における、前記ナイキスト周波数以上の周波数の信号成分を減衰させるローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタが出力する信号の、ピーク値、絶対値、平均値、ピーク値の平均値、または絶対値の平均値の少なくとも1つに応じた信号レベルを出力する信号レベル出力部と
を有する請求項
10に記載の適応フィルタ装置。
【請求項12】
デシメーションフィルタが、入力信号をダウンサンプリングした出力信号を出力することと、
フィルタ制御部が、前記入力信号の特性に基づいて、前記デシメーションフィルタの次数を調整することと
を含
み、
前記フィルタ制御部は、前記入力信号における、前記出力信号のナイキスト周波数以上の少なくとも一部の周波数を有する検査対象成分の大きさに応じて、前記デシメーションフィルタの次数を調整する
適応フィルタ方法。
【請求項13】
コンピュータにより実行され、前記コンピュータを、
入力信号をダウンサンプリングした出力信号を出力するデシメーションフィルタと、
前記入力信号の特性に基づいて、前記デシメーションフィルタの次数を調整するフィルタ制御部と
して機能させ
、
前記フィルタ制御部は、前記入力信号における、前記出力信号のナイキスト周波数以上の少なくとも一部の周波数を有する検査対象成分の大きさに応じて、前記デシメーションフィルタの次数を調整する
適応フィルタプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応フィルタ装置、適応フィルタ方法、および適応フィルタプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、スケーラブルなFIR(Finite Impulse Response)フィルタ・アーキテクチャを開示する。特許文献1には、このフィルタ・アーキテクチャが異なる複雑度に適合するためにスケーラブルであること、および、既存の構成に対してプロセッシングブロックを追加または削減することにより、フィルタがスケールアップ/ダウンすることができることが記載されている(第3欄39~53行目)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 米国特許第6,260,053号明細書
【一般的開示】
【0003】
本発明の第1の態様においては、適応フィルタ装置を提供する。適応フィルタ装置は、入力信号をダウンサンプリングした出力信号を出力するデシメーションフィルタと、入力信号の特性に基づいて、デシメーションフィルタの次数を調整するフィルタ制御部とを備えてよい。
【0004】
上記の適応フィルタ装置において、フィルタ制御部は、入力信号における、ナイキスト周波数以上の少なくとも一部の周波数を有する検査対象成分の大きさに応じて、デシメーションフィルタの次数を調整してよい。
【0005】
上記のいずれかの適応フィルタ装置において、フィルタ制御部は、検査対象成分の大きさが予め定められた基準より大きい場合に、第1フィルタ特性をデシメーションフィルタに設定し、検査対象成分の大きさが基準以下の場合に、次数が第1フィルタ特性よりも小さい第2フィルタ特性をデシメーションフィルタに設定してよい。
【0006】
上記のいずれかの適応フィルタ装置において、フィルタ制御部は、検査対象成分の大きさがあらかじめ定められた基準よりも小さい場合に、第1フィルタ特性をデシメーションフィルタに設定し、検査対象成分の大きさが基準以上の場合に、次数が第1フィルタ特性よりも小さい第2フィルタ特性をデシメーションフィルタに設定してよい。
【0007】
上記のいずれかの適応フィルタ装置において、フィルタ制御部は、フィルタ特性の切り替えにヒステリシスを有してよい。
【0008】
上記のいずれかの適応フィルタ装置において、デシメーションフィルタは、第2フィルタ特性が設定されたことに応じて、第1フィルタ特性が設定された場合よりも遅延時間を短くしてよい。
【0009】
上記のいずれかの適応フィルタ装置において、デシメーションフィルタは、第2フィルタ特性が設定されたことに応じて、第1フィルタ特性が設定された場合よりも遅延時間を長くしてよい。
【0010】
上記のいずれかの適応フィルタ装置において、フィルタ制御部は、入力信号における、ナイキスト周波数以上の少なくとも一部の周波数の信号レベルを検出するノイズ検出部を有してよい。フィルタ制御部は、ノイズ検出部が検出した信号レベルに基づいて、デシメーションフィルタに設定するフィルタ特性を決定するフィルタ特性決定部を有してよい。
【0011】
上記のいずれかの適応フィルタ装置において、ノイズ検出部は、入力信号における、ナイキスト周波数未満の周波数の信号成分を減衰させるハイパスフィルタを有してよい。ノイズ検出部は、ハイパスフィルタが出力する信号の、ピーク値、絶対値、平均値、ピーク値の平均値、または絶対値の平均値の少なくとも1つに応じた信号レベルを出力するノイズレベル出力部を有してよい。
【0012】
上記のいずれかの適応フィルタ装置において、ノイズ検出部は、入力信号における、ナイキスト周波数以上の一部の周波数帯域以外の信号成分を減衰させるバンドパスフィルタを有してよい。ノイズ検出部は、バンドパスフィルタが出力する信号の、ピーク値、絶対値、平均値、ピーク値の平均値、または絶対値の平均値の少なくとも1つに応じた信号レベルを出力するノイズレベル出力部を有してよい。
【0013】
上記のいずれかの適応フィルタ装置において、フィルタ制御部は、入力信号における、ナイキスト周波数未満の少なくとも一部の周波数の信号レベルを検出する信号検出部を有してよい。フィルタ特性決定部は、信号検出部が検出した信号レベルおよびノイズ検出部が検出した信号レベルに基づいて、デシメーションフィルタに設定するフィルタ特性を決定してよい。
【0014】
上記のいずれかの適応フィルタ装置において、信号検出部は、入力信号における、ナイキスト周波数以上の周波数の信号成分を減衰させるローパスフィルタを有してよい。信号検出部は、ローパスフィルタが出力する信号の、ピーク値、絶対値、平均値、ピーク値の平均値、または絶対値の平均値の少なくとも1つに応じた信号レベルを出力する信号レベル出力部を有してよい。
【0015】
本発明の第2の態様においては、適応フィルタ方法を提供する。適応フィルタ方法は、デシメーションフィルタが、入力信号をダウンサンプリングした出力信号を出力することと、フィルタ制御部が、入力信号の特性に基づいて、デシメーションフィルタの次数を調整することとを含んでよい。
【0016】
本発明の第3の態様においては、コンピュータにより実行される適応フィルタプログラムを提供する。適応フィルタプログラムは、コンピュータを、入力信号をダウンサンプリングした出力信号を出力するデシメーションフィルタと、入力信号の特性に基づいて、デシメーションフィルタの次数を調整するフィルタ制御部として機能させてよい。
【0017】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る信号処理システム10の構成を示す。
【
図2】本実施形態に係る適応フィルタ装置30の構成を示す。
【
図3】本実施形態に係るデシメーションフィルタ200の構成を示す。
【
図4】ダウンサンプリングにより生じるエイリアシングの一例を示す。
【
図5】本実施形態に係るデシメーションフィルタ200のフィルタ特性の一例を示す。
【
図6】本実施形態に係るフィルタ制御部210の構成を示す。
【
図7】本実施形態に係るノイズ検出部620の構成を示す。
【
図8】本実施形態に係る適応フィルタ装置30の動作フローを示す。
【
図9】本実施形態に係るフィルタ特性決定部660の動作を示す。
【
図10】本実施形態の第1変形例に係るノイズ検出部1020の構成を示す。
【
図11】本実施形態の第2変形例に係るフィルタ制御部1110の構成を示す。
【
図12】本実施形態の第2変形例に係る信号検出部1140の構成を示す。
【
図13】本実施形態の第2変形例に係る適応フィルタ装置30の動作フローを示す。
【
図14】本実施形態の第3変形例に係るフィルタ特性決定部1460の構成を示す。
【
図15】本実施形態の第4変形例に係るフィルタ特性決定部1560の構成を示す。
【
図16】本実施形態の第4変形例においてフィルタコードに与えるヒステリシスの一例を示す。
【
図17】本実施形態の第5変形例に係る信号処理システム1700の構成を示す。
【
図18】本実施形態の第6変形例に係る適応デシメーションフィルタ1830の構成を示す。
【
図19】本実施形態の第6変形例に係る折り返しノイズ検出部1810の構成を示す。
【
図20】本実施形態の第6変形例に係る折り返しノイズレベル決定部1960の構成を示す。
【
図21】本実施形態の第6変形例に係るフィルタ/ノイズレベル情報の一例を示す。
【
図22】本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
図1は、本実施形態に係る信号処理システム10の構成を示す。信号処理システム10は、アナログ信号を入力し、信号処理を行なって、信号処理の結果を出力する。一例として、信号処理システム10は、オーディオの聴者等に到達するノイズ、またはノイズ発生源の振動等に応じたアナログ信号を入力し、信号処理を行なってノイズを抑制するためのノイズキャンセリング信号を出力するノイズキャンセラである。これに代えて、信号処理システム10は、アナログ信号を入力して任意の信号処理を行なう装置であってもよい。
【0021】
信号処理システム10は、AD(Analog-Digital)変換器20と、適応フィルタ装置30と、信号処理装置40とを備える。AD変換器20は、AD変換周波数に応じたAD変換周期毎に、アナログの入力信号をデジタル信号に変換する。AD変換器20は、デジタルに変換された入力信号を、適応フィルタ装置30へのフィルタ入力信号として出力する。
【0022】
適応フィルタ装置30は、AD変換器20に接続される。適応フィルタ装置30は、フィルタ入力信号を入力してフィルタ処理を行ない、フィルタ出力信号として出力する。ここで、適応フィルタ装置30は、フィルタ入力信号の特性に応じてフィルタ処理の特性を変化させる適応フィルタ処理を行なう。
【0023】
信号処理装置40は、適応フィルタ装置30に接続される。信号処理装置40は、フィルタ出力信号を適応フィルタ装置30から受け取る。信号処理装置40は、フィルタ出力信号に対して信号処理を行なって、信号処理の結果を出力する。信号処理装置40は、DSP(Digital Signal Processor)等の信号処理用のプロセッサ、またはマイクロコントローラを含むコンピュータであってよい。また、信号処理装置40は、PC(パーソナルコンピュータ)、タブレット型コンピュータ、スマートフォン、ワークステーション、サーバコンピュータ、または汎用コンピュータ等のコンピュータであってよく、複数のコンピュータが接続されたコンピュータシステムであってもよい。このようなコンピュータシステムもまた広義のコンピュータである。信号処理装置40は、このようなコンピュータ上で信号処理プログラムを実行することにより、フィルタ出力信号に対する信号処理を行なう。
【0024】
図2は、本実施形態に係る適応フィルタ装置30の構成を示す。適応フィルタ装置30は、フィルタ入力信号をダウンサンプリングしてフィルタ出力信号として出力する。以下、説明の便宜上、フィルタ入力信号を「入力信号」、フィルタ出力信号を「出力信号」と省略する。適応フィルタ装置30は、デシメーションフィルタ200と、フィルタ制御部210とを有する。
【0025】
デシメーションフィルタ200は、入力信号をダウンサンプリングした出力信号を出力する。フィルタ制御部210は、入力信号の特性に基づいて、デシメーションフィルタ200の特性を変化させる。より具体的には、フィルタ制御部210は、入力信号の特性に基づいて、入力信号に対して適用するべきフィルタ処理の特性を決定し、決定したフィルタ処理の特性を識別するフィルタ識別情報をデシメーションフィルタ200へと出力する。本実施形態において、フィルタ制御部210は、フィルタ識別情報の一例として、入力信号に対して適用すべきフィルタ特性をコードで識別するフィルタコードを出力する。
【0026】
本実施形態において、フィルタ制御部210は、入力信号の特性に基づいて、デシメーションフィルタ200の次数を調整する。この結果、フィルタ制御部210は、デシメーションフィルタ200における、入力信号のうち、出力信号のナイキスト周波数以上の少なくとも一部の周波数を有する調整対象成分のフィルタ特性(通過帯域、阻止帯域、通過帯域及び阻止帯域から決まるフィルタの急峻さ、阻止帯域の減衰量等)を調整することになる。ここで、デシメーションフィルタ200は、入力信号における、出力信号のナイキスト周波数以上の全ての周波数を調整対象成分としてよく、一部の周波数のみを調整対象成分としてもよい。
【0027】
図3は、本実施形態に係るデシメーションフィルタ200の構成を示す。デシメーションフィルタ200は、専用回路によって実現された専用ハードウェアであってよく、少なくとも一部がコンピュータ上でフィルタプログラムを実行することにより実現されてもよい。本実施形態において、デシメーションフィルタ200は、一例としてFIR(Finite Impulse Response)フィルタであるが、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタを用いることもできる。複数の遅延要素300-2~N(Nは2以上の整数)と、複数の間引き要素310-1~Nと、複数の乗算器320-1~Nと、複数の加算器330-2~Nと、フィルタ係数記憶部340と、選択器350とを含む。
【0028】
複数の遅延要素300-2~N(遅延要素300とも示す。)は、この順に直列に接続される。先頭の遅延要素300-2は、AD変換周期毎に入力信号を受け取って、1AD変換周期分遅延させて次の遅延要素300-3に出力する。同様に、遅延要素300-3~Nは、受け取った入力信号を1AD変換周期分遅延させて次段の遅延要素300へと出力する。
【0029】
複数の間引き要素310-1~N(間引き要素310とも示す。)は、AD変換器20からの入力信号および各遅延要素300-2~Nが出力する遅延された入力信号を1/mに間引きする。すなわち、間引き要素310-1は、AD変換器20からの入力信号を間引いて出力する。間引き要素310-2~Nのそれぞれは、遅延要素300-2~Nのうち対応する遅延要素300からの遅延された入力信号を間引いて出力する。ここで、各間引き要素310は、受け取った入力信号をAD変換周期のm回おきに出力することにより、入力信号を間引く。
【0030】
複数の乗算器320-1~N(乗算器320とも示す。)は、複数の間引き要素310-1~Nから受け取る複数の信号のそれぞれと、フィルタ係数記憶部340から受け取る複数のフィルタ係数のそれぞれと乗じる。複数の加算器330-2~Nは、複数の乗算器320-1~Nの出力の合計値を選択器350へと供給する。また、複数の加算器330-2~M(MはNより小さい正の整数)は、複数の乗算器320-1~Mの出力の合計値を選択器350へと供給する。
【0031】
フィルタ係数記憶部340は、フィルタ制御部210から受け取るフィルタ識別情報(フィルタコード)に応じたフィルタ係数を複数の乗算器320-1~Nに供給する。本実施形態において、フィルタ係数記憶部340は、フィルタコードが第1フィルタ特性を設定することを指示する場合には、第1フィルタ特性に対応する複数のフィルタ係数を複数の乗算器320-1~Nに供給する。また、フィルタ係数記憶部340は、フィルタコードが、第2フィルタ特性を設定することを指示する場合には、第2フィルタ特性に対応する複数のフィルタ係数を複数の乗算器320-1~Nに供給する。
【0032】
選択器350は、フィルタ制御部210から受け取るフィルタ識別情報(フィルタコード)に応じて、デシメーションフィルタ200の次数を変更する。本実施形態において、選択器350は、第1フィルタ特性を設定することを指示するフィルタコードを受け取ったことに応じて、複数の乗算器320-1~Nの出力の合計値を出力信号として選択する。また、選択器350は、第2フィルタ特性を設定することを指示するフィルタコードを受け取ったことに応じて、複数の乗算器320-1~Mの出力の合計値を出力信号として選択する。このようにして、デシメーションフィルタ200は、第2フィルタ特性が設定されたことに応じて、第1フィルタ特性が設定された場合よりもフィルタの次数を小さくする。これに伴い、デシメーションフィルタ200は、第2フィルタ特性が設定されたことに応じて、第1フィルタ特性が設定された場合よりも遅延時間を短くすることになる。
【0033】
図4は、ダウンサンプリングにより生じるエイリアシングの一例を示す。本図は、横軸に周波数をとり、縦軸に信号強度をとったグラフにより、デシメーションフィルタ200の出力信号に生じるエイリアシングを示す。
【0034】
本図において、「fs」は、デシメーションフィルタ200が出力する出力信号の周波数(サンプリング周波数)を示す。AD変換器20からデシメーションフィルタ200へと供給される入力信号の周波数(AD変換周波数)は、サンプリング周波数よりも高い。デシメーションフィルタ200は、AD変換周波数を有する入力信号をダウンサンプリングして周波数を下げ、サンプリング周波数を有する出力信号として出力する。例えば、ノイズキャンセリングの場合、AD変換周波数は例えば約200KHzであり、サンプリング周波数fsは例えば約2KHzであってよい。
【0035】
デシメーションフィルタ200は、出力信号のサンプリング周波数がfsであることから、サンプリング定理により、入力信号におけるサンプリング周波数fsの1/2であるナイキスト周波数fs/2以下の信号成分を再現可能に出力することができる。しかし、入力信号を単に間引きフィルタによって間引きした場合には、ナイキスト周波数fs/2を超える信号成分(例えば図中信号400)がエイリアシングによりナイキスト周波数fs/2以下の周波数領域に折り返してエイリアシング(例えば図中エイリアシング410)として出力信号に含まれてしまう。
【0036】
そこで、入力信号をダウンサンプリングする場合には、入力信号の間引きに加えて、入力信号におけるカットオフ周波数以上の周波数成分を除去または減衰させ、カットオフ周波数以下の周波数成分を通過させるローパスフィルタリングを行なう。このような入力信号のダウンサンプリングは、「デシメーション」と呼ばれる。ここで、このカットオフ周波数は通常はナイキスト周波数fs/2であるが、ナイキスト周波数fs/2よりも低い周波数としてもよい。
【0037】
なお、理論的には、デシメーションは、入力信号の周波数(すなわちAD変換周波数)で入力信号をローパスフィルタリングした後に、間引きによって出力信号の周波数をサンプリング周波数に低下させる。
図3に例示したデシメーションフィルタ200は、このようなデシメーション処理を、間引きを先に行なうようにノーブル恒等変換によって等価変換した構成をとる。
【0038】
図5は、本実施形態に係るデシメーションフィルタ200のフィルタ特性の一例を示す。本図の横軸は出力信号のサンプリング周波数を1に正規化した周波数を示し、縦軸は信号の増幅率をデシベル(dB)で示す。
【0039】
デシメーションフィルタ200の特性は、デシメーションフィルタ200の次数に応じて異なる。デシメーションフィルタ200は、第1フィルタ特性500が設定されると次数をNとし、第2フィルタ特性510が設定されると次数をNより小さいMとする。第1フィルタ特性500が設定された場合、デシメーションフィルタ200は、次数がより大きくなるので遅延量がより大きくなるが、入力信号のうちナイキスト周波数以上の調整対象成分の減衰量をより大きくとることができる。第2フィルタ特性510が設定された場合、デシメーションフィルタ200は、次数がより小さくなるので遅延量をより小さくすることができるが、入力信号のうちナイキスト周波数以上の調整対象成分の減衰量がより小さくなり、調整対象成分が出力信号内に残留しやすくなる。このように、デシメーションフィルタ200の遅延量と調整対象成分の減衰量とはトレードオフの関係にある。
【0040】
ここで、入力信号における調整対象成分の「減衰量」とは、調整対象成分に対するデシメーションフィルタ200のゲインの逆数を示す。本図の第1フィルタ特性500は、ナイキスト周波数以上の調整対象成分のゲインが約-60dBであるから、約60dB分の減衰量を有する。また、第2フィルタ特性510は、ナイキスト周波数以上の調整対象成分のゲインが約-20dBであるから、約20dB分の減衰量を有する。なお、調整対象成分の減衰量は、調整対象成分が含まれる周波数範囲内における、最大のゲインに対応する減衰量、すなわち最小の減衰量であってよい。
【0041】
図6は、本実施形態に係るフィルタ制御部210の構成を示す。フィルタ制御部210は、ノイズ検出部620と、フィルタ特性決定部660とを含む。
【0042】
ノイズ検出部620は、入力信号における、ナイキスト周波数以上の少なくとも一部の周波数の信号レベルを検出する。ここで、ノイズ検出部620が検出する、入力信号におけるナイキスト周波数以上の少なくとも一部の周波数を有する周波数成分を、「検査対象成分」と示す。
図4に示したように、検査対象成分は、デシメーションフィルタ200によるデシメーション後にエイリアシングにより出力信号に重畳するノイズとなりうる。ノイズ検出部620は、検査対象成分の信号レベル(大きさ)を示すノイズレベル情報を出力する。本実施形態において、ノイズ検出部620は、ノイズレベル情報の一例として、検査対象成分の信号レベルを0から1までの間の値に正規化したレベルコードを出力する。
【0043】
フィルタ特性決定部660は、ノイズ検出部620に接続され、ノイズレベル情報としてレベルコードを受け取る。フィルタ特性決定部660は、ノイズ検出部620が検出した検査対象成分の信号レベルに基づいて、デシメーションフィルタ200に設定するフィルタ特性を決定する。フィルタ特性決定部660は、検査対象成分の信号レベルに応じて、デシメーションフィルタ200の次数を調整してよい。フィルタ特性決定部660は、決定したフィルタ特性に応じたフィルタ識別情報の一例としてフィルタコードを出力する。
【0044】
図7は、本実施形態に係るノイズ検出部620の構成を示す。ノイズ検出部620は、HPF730と、ノイズレベル出力部750とを含む。ハイパスフィルタ(HPF)730は、入力信号における、出力信号のナイキスト周波数未満の周波数帯域の信号成分を減衰させ、出力信号のナイキスト周波数以上の周波数帯域の信号成分を通過させる。すなわち、本実施形態に係るHPF730は、出力信号のナイキスト周波数以上の周波数帯域の信号成分を検査対象成分とし、検査対象成分を通過させる。
【0045】
ノイズレベル出力部750は、HPF730が出力する信号の信号レベルをノイズレベル情報として出力する。例えば、ノイズレベル出力部750は、ピーク値、絶対値、平均値、ピーク値の平均値、または絶対値の平均値の少なくとも1つに応じた信号レベルを出力する。ここで、ノイズレベル出力部750は、ピーク値または平均値として、HPF730が出力する信号の、直近の予め定められた長さの期間におけるピーク値または平均値を算出してよい。
【0046】
なお、検査対象成分および調整対象成分の周波数帯域は、適応フィルタ装置30の用途に応じて適宜決定されてよい。調整対象成分の周波数帯域は、検査対象成分の周波数帯域と同一であってもよく、一部のみが重なっていてもよく、異なっていてもよい。例えば、適応フィルタ装置30は、検査対象成分を出力信号のナイキスト周波数以上の周波数帯域の信号成分とし、同一の周波数帯域の信号成分を調整対象成分としてよい。また、適応フィルタ装置30は、検査対象成分の一部を調整対象成分としてよく、検査対象成分を含むより広い周波数帯域の信号成分を調整対象成分としてもよい。例えば、適応フィルタ装置30は、検査対象成分を出力信号のナイキスト周波数以上の全周波数帯域の信号成分としつつ、出力信号のナイキスト周波数以上の周波数帯域のうち一部のみを調整対象成分としてもよい。
【0047】
図8は、本実施形態に係る適応フィルタ装置30の動作フローを示す。ステップS800において、適応フィルタ装置30は、AD変換器20から入力信号(フィルタ入力信号)を取得する。S810において、フィルタ制御部210内のノイズ検出部620は、入力信号における、ナイキスト周波数以上の少なくとも一部の周波数の信号レベルを検出する。ここで、ノイズ検出部620内のHPF730は、入力信号における、出力信号のナイキスト周波数未満の周波数帯域の信号成分を減衰させ、ノイズ検出部620内のノイズレベル出力部750は、HPF730が出力する信号の信号レベルをノイズレベル情報として出力してよい。これにより、ノイズ検出部620は、出力信号におけるナイキスト周波数未満の周波数領域に折り返す、ナイキスト周波数以上のノイズ成分を抽出して、ノイズレベルとして計測することができる。
【0048】
S820において、フィルタ特性決定部660は、ノイズ検出部620が検出した検査対象成分の信号レベルに基づいて、デシメーションフィルタ200に設定するフィルタ特性を決定する。フィルタ特性決定部660は、検査対象成分の信号レベルがより大きい場合に、デシメーションフィルタ200の次数を大きくするようにフィルタ特性を決定してよい。これにより、フィルタ特性決定部660は、デシメーションフィルタ200による調整対象成分の減衰量をより大きく保つ。また、フィルタ特性決定部660は、検査対象成分の信号レベルがより小さい場合に、デシメーションフィルタ200の次数を小さくするようにフィルタ特性を決定してよい。これにより、フィルタ特性決定部660は、デシメーションフィルタ200による調整対象成分の減衰量を減らす代わりに、デシメーションフィルタ200の遅延時間を短くすることができる。
【0049】
なお、検査対象成分の信号レベルの大きさに対するフィルタ特性決定部660のフィルタ特性決定については、これと逆であっても良い。具体的には、フィルタ特性決定部660は、検査対象成分の信号レベルがより大きい場合にデシメーションフィルタ200の次数を小さくするようにフィルタ特性を決定することでデシメーションフィルタ200の遅延時間を短くし、検査対象成分の信号レベルがより小さい場合にデシメーションフィルタ200の次数を大きくするようにフィルタ特性を決定することでデシメーションフィルタ200の遅延時間を長くしてもよい。
【0050】
ここで、調整対象成分は、ナイキスト周波数以上の全周波数の周波数成分であってよい。これに代えて、調整対象成分は、ナイキスト周波数以上の一部の周波数帯域の信号成分であってもよい。例えば、調整対象成分は、ナイキスト周波数未満にエイリアシングされるとノイズの影響が大きくなる周波数帯域(例えば、人の聴覚における感度のよい2,000Hzから4,000Hz等の周波数帯域)に折り返す周波数帯域の信号成分であってよい。
【0051】
S830において、フィルタ特性決定部660は、決定したフィルタ特性をデシメーションフィルタ200に設定する。これにより、フィルタ特性決定部660は、ノイズ検出部620が検出した検査対象成分の信号レベル(ノイズのレベル)に応じてデシメーションフィルタ200の次数および調整対象成分の減衰量を調整することができる。ナイキスト周波数未満の周波数に折り返すノイズのレベルがより大きい場合には、フィルタ特性決定部660は、入力信号における調整対象成分の減衰量をより大きくしてノイズを低減することができる。ナイキスト周波数未満の周波数に折り返すノイズのレベルがより小さい場合には、フィルタ特性決定部660は、入力信号における調整対象成分の減衰量をより小さくしてノイズの減衰量を小さくし、デシメーションフィルタ200のフィルタ強度を抑える。なお、ナイキスト周波数未満の周波数に折り返すノイズのレベルに対するフィルタ特性決定部660の制御は、ノイズのレベルの大きさに対する減衰量の増減の関係を逆にすることも可能である。
【0052】
ここで、フィルタ特性決定部660は、フィルタ入力信号の正負が切り替わるゼロクロスタイミングを検出し、ゼロクロスタイミングに応じてフィルタ特性を変更してもよい。また、フィルタ特性決定部660は、デシメーションフィルタ200のフィルタ特性を、現在のフィルタ特性から目標とするフィルタ特性になるまで段階的に変化させてもよい。これにより、フィルタ特性決定部660は、出力信号の信号処理結果に応じて発生されるノイズキャンセリング信号等の音声信号に生じる違和感を抑制することができる。
【0053】
S840において、適応フィルタ装置30は、フィルタ特性決定部660によりフィルタ特性が設定されたデシメーションフィルタ200により、入力信号をダウンサンプリングする。デシメーションフィルタ200は、フィルタの次数をより増やすフィルタ特性が設定された場合には、調整対象成分の減衰量をより大きくして目標とする減衰量を実現する。デシメーションフィルタ200は、フィルタの次数を減らすフィルタ特性が設定された場合には、調整対象成分の減衰量を目標とする減衰量の範囲内で小さくすることができる。
【0054】
図9は、本実施形態に係るフィルタ特性決定部660の動作を示す。本実施形態において、フィルタ制御部210内のフィルタ特性決定部660は、ノイズ検出部620が出力するノイズレベル情報を表すレベルコードに応じて、第1フィルタ特性(図中「フィルタ1」)または第2フィルタ特性(図中「フィルタ2」
)を設定するフィルタコードをデシメーションフィルタ200に供給する。
【0055】
フィルタ特性決定部660は、ノイズレベル(ノイズ検出部620が検出する検査対象成分の信号レベル)が予め定められた基準より大きい場合に、第1フィルタ特性をデシメーションフィルタ200に設定する。本図の例においては、フィルタ特性決定部660は、ノイズ検出部620が出力するノイズレベルが0.5より大きい場合に、調整対象成分の減衰量が60dB(1/1000に減衰)である第1フィルタ特性をデシメーションフィルタ200に設定するためのフィルタコードをデシメーションフィルタ200に供給する。これにより、
図3に示したデシメーションフィルタ200は、フィルタ係数記憶部340に記憶されたフィルタ係数により第1フィルタ特性に設定され、次数はNとなる。
【0056】
これに対し、フィルタ特性決定部660は、ノイズレベルがこの基準以下の場合に、調整対象成分の減衰量が第1フィルタ特性よりも小さい第2フィルタ特性をデシメーションフィルタ200に設定する。本図の例においては、フィルタ特性決定部660は、ノイズ検出部620が出力するノイズレベルが0.5より
小さい場合に、調整対象成分の減衰量が20dB(1/10に減衰)である第2フィルタ特性をデシメーションフィルタ200に設定する。これにより、
図3に示したデシメーションフィルタ200は、フィルタ係数記憶部340に記憶されたフィルタ係数により第2フィルタ特性に設定され、次数はM(M<N)となる。なお、フィルタ特性決定部660は、
図9の設定とは反対にノイズレベルが基準値より大きい場合に減衰量が小さく遅延量が小さい第2のフィルタ特性を選択し、ノイズレベルが基準値より小さい場合に減衰量が大きく遅延量が大きい第1のフィルタ特性を選択してもよい。
【0057】
以上に示した適応フィルタ装置30によれば、入力信号における、ノイズレベルを示す検査対象成分の信号レベルに応じてデシメーションフィルタ200のフィルタ特性を変更してデシメーションフィルタ200の次数および調整対象成分の減衰量を調整することができる。これにより、適応フィルタ装置30は、ノイズレベルが低い場合には調整対象成分の減衰量を小さくして、デシメーションフィルタ200の遅延量を減らすことができる。この場合適応フィルタ装置30は、後段の信号処理装置40に対してデシメーションされた入力信号をより早く供給することができ、例えばノイズキャンセリングまたはスピーカーの振動の歪み補正等のリアルタイム性が要求される信号処理において信号処理装置40の処理時間をより長く確保することができる。
【0058】
逆に、適応フィルタ装置30は、ノイズレベルが高い場合に調整対象成分の減衰量を小さくして、デシメーションフィルタ200の遅延量を減らすこともできる。この場合、適応フィルタ装置30は、ノイズレベルが高いと後段の信号処理装置40に対してデシメーションされた入力信号をより早く供給することができ、後段の信号処理装置40が入力に対して位相差180度のノイズキャンセリング信号を生成するのに十分な処理時間を与えることができる。この場合、ノイズレベルが低いと、後段の信号処理装置40に対するデシメーションされた入力信号の供給が遅くなって後段の信号処理装置40によるノイズキャンセリング性能が低下することになる。総合的には、信号処理システム10は、ノイズレベルが高い場合にはノイズキャンセリング性能を向上させ、ノイズレベルが低い場合にはノイズキャンセリング性能を低下させることで環境変化に伴うノイズの増減を軽減することができる。
【0059】
なお、本実施形態に係る適応フィルタ装置30は、ノイズレベルに応じてデシメーションフィルタ200のフィルタ特性を2段階で調整する。これに代えて、ノイズレベルに応じてデシメーションフィルタ200のフィルタ特性を3段階以上で調整してもよい。
【0060】
図10は、本実施形態の第1変形例に係るノイズ検出部1020の構成を示す。本変形例においては、適応フィルタ装置30は、ノイズ検出部620に代えて、ノイズ検出部1020を有する。適応フィルタ装置30におけるその他のブロックの機能および構成は
図1から9に関連して示したものと同一であるから、以下相違点を除き説明を省略する。
【0061】
ノイズ検出部1020は、BPF1030と、ノイズレベル出力部1050とを含む。バンドパスフィルタ(BPF)1030は、入力信号における、ナイキスト周波数以上の一部の周波数帯域以外の信号成分を減衰させ、この一部の周波数帯域の信号成分を通過させる。すなわち、本実施形態に係るBPF1030は、出力信号のナイキスト周波数以上の一部の周波数帯域の信号成分を検査対象成分とし、検査対象成分を通過させる。
【0062】
ノイズレベル出力部1050は、BPF1030が出力する信号の信号レベルをノイズレベル情報として出力する。例えば、ノイズレベル出力部1050は、ピーク値、絶対値、平均値、ピーク値の平均値、または絶対値の平均値の少なくとも1つに応じた信号レベルを出力する。ここで、ノイズレベル出力部1050は、ピーク値または平均値として、BPF1030が出力する信号の、直近の予め定められた長さの期間におけるピーク値または平均値を算出してよい。
【0063】
本変形例においては、ノイズ検出部1020は、入力信号における、ナイキスト周波数以上の信号成分のうち、一部の周波数帯域の信号成分のみでノイズレベルを検出する。これにより、ノイズ検出部1020は、出力信号のナイキスト周波数未満に折り返すとノイズの影響が目立つ周波数帯域(例えば、人の聴覚における感度のよい1KHz近傍の周波数帯域)のノイズレベルに応じてデシメーションフィルタ200のフィルタ特性を調整することができる。
【0064】
なお、検査対象成分および調整対象成分の周波数帯域は、適応フィルタ装置30の用途に応じて適宜決定されてよく、調整対象成分の周波数帯域は、検査対象成分の周波数帯域と同一であってもよく、一部のみが重なっていてもよく、異なっていてもよい。例えば、適応フィルタ装置30は、検査対象成分を出力信号のナイキスト周波数以上の一部の周波数帯域のみの信号成分とし、同一の周波数帯域の信号成分を調整対象成分としてよい。また、適応フィルタ装置30は、検査対象成分の一部を調整対象成分としてよく、検査対象成分を含むより広い周波数帯域の信号成分を調整対象成分としてもよい。例えば、適応フィルタ装置30は、検査対象成分を出力信号のナイキスト周波数以上の一部の周波数帯域のみの信号成分としつつ、出力信号のナイキスト周波数以上の全周波数帯域を調整対象成分としてもよい。
【0065】
図11は、本実施形態の第2変形例に係るフィルタ制御部1110の構成を示す。フィルタ制御部1110は、
図6に関連して示したフィルタ制御部210の変形例である。フィルタ制御部1110における、フィルタ制御部210と同様の機能および構成を有するブロックについては、以下相違点を除き説明を省略する。
【0066】
フィルタ制御部1110は、ノイズ検出部620と、信号検出部1140と、フィルタ特性決定部1160とを有する。ノイズ検出部620は、
図6のノイズ検出部620と同様の機能および構成を有する。
【0067】
信号検出部1140は、入力信号における、信号処理装置40による信号処理の対象となる本来の信号成分を検出する。より具体的には、信号検出部1140は、入力信号における、ナイキスト周波数未満の少なくとも一部の周波数の信号成分(以下、「主信号」とも示す。)の信号レベルを検出する。
【0068】
フィルタ特性決定部1160は、ノイズ検出部620および信号検出部1140に接続される。フィルタ特性決定部1160は、信号検出部1140が検出した信号レベルおよびノイズ検出部620が検出したノイズレベルに基づいて、デシメーションフィルタ200に設定するフィルタ特性を決定する。
【0069】
図12は、本実施形態の第2変形例に係る信号検出部1140の構成を示す。信号検出部1140は、LPF1230と、信号レベル出力部1250とを含む。
【0070】
LPF1230は、入力信号における、ナイキスト周波数以上の周波数の信号成分を減衰させ、出力信号のナイキスト周波数未満の周波数帯域の信号成分を通過させる。すなわち、本実施形態に係るLPF1230は、出力信号のナイキスト周波数未満の周波数帯域の信号成分を信号処理装置40による主信号とみなし、主信号の信号成分を通過させる。
【0071】
信号レベル出力部1250は、LPF1230に接続される。信号レベル出力部1250は、LPF1230を通過した入力信号に応じた信号レベルを出力する。信号レベル出力部1250は、LPF1230が出力する信号の、ピーク値、絶対値、平均値、ピーク値の平均値、または絶対値の平均値の少なくとも1つに応じた信号レベルとしてレベルコード(
図11における信号レベルコード)を出力する。
【0072】
図13は、本実施形態の第2変形例に係る適応フィルタ装置30の動作フローを示す。本図の動作フローは、
図8に示した動作フローの変形例であるから、以下相違点を除き説明を省略する。
【0073】
S1300およびS1310は、
図8のS800およびS810と同様である。S1320において、フィルタ制御部1110内の信号検出部1140は、入力信号における、ナイキスト周波数未満の少なくとも一部の周波数の信号レベルを検出する。
【0074】
S1330において、フィルタ特性決定部1160は、信号検出部1140が検出した信号レベルおよびノイズ検出部620が検出したノイズレベルに基づいて、デシメーションフィルタ200に設定するフィルタ特性を決定する。フィルタ特性決定部1160は、信号検出部1140により検出された信号レベルが、ノイズ検出部620により検出されたノイズレベルと比較してより高い場合に、デシメーションフィルタ200の次数および調整対象成分の減衰量をより小さくするフィルタ特性を決定してよい。例えば、フィルタ特性決定部1160は、信号検出部1140により検出された信号レベルをノイズ検出部620により検出されたノイズレベルで割った比率が予め定められた基準より大きい場合に第2フィルタ特性を選択し、当該比率がこの基準以下の場合に第1フィルタ特性を選択してよい。これに代えて、フィルタ特性決定部1160は、信号検出部1140により検出された信号レベルからノイズ検出部620により検出されたノイズレベルを減じた差が予め定められた基準より大きい場合に第2フィルタ特性を選択し、当該差がこの基準以下の場合に第1フィルタ特性を選択してよい。
【0075】
S1340において、フィルタ特性決定部1160は、
図8のS830と同様に、決定したフィルタ特性をデシメーションフィルタ200に設定する。S1350において、適応フィルタ装置30は、
図8のS840と同様に、フィルタ特性決定部1160によりフィルタ特性が設定されたデシメーションフィルタ200により、入力信号をダウンサンプリングする。
【0076】
第2変形例に係る適応フィルタ装置30によれば、ナイキスト周波数以上の検査対象成分の信号レベル(すなわちノイズの信号レベル)に加えて、信号処理装置40の信号処理対象となる信号成分の信号レベル(すなわち主信号の信号レベル)を用いてデシメーションフィルタ200のフィルタ特性を調整することができる。主信号が十分大きければ、適応フィルタ装置30は、デシメーションフィルタ200の次数を小さくし、これにより調整対象成分の減衰量を小さくしてナイキスト周波数未満に多少の折り返しノイズを発生させたとしても、ナイキスト周波数未満の領域において十分なSN比を確保することができる。したがって、第2変形例に係る適応フィルタ装置30によれば、主信号の信号成分が十分大きい場合には、調整対象成分の減衰量を小さくしてデシメーションフィルタ200の遅延量を小さくすることができる。
【0077】
ここで、別の観点では、適応フィルタ装置30への入力信号には、元々ナイキスト周波数未満のノイズフロアが重畳されている。信号検出部1140内の信号レベル出力部1250がLPF1230を通過した入力信号の平均値または絶対値の平均値等に応じた信号レベルを出力すると、信号検出部1140は、ノイズフロアに応じた信号レベルを出力することになる。したがって、フィルタ特性決定部1160は、フィルタ特性の選択に用いる基準として、ノイズフロアの大きさを基準とした折り返しノイズの許容量の閾値を用いることで、折り返しノイズが主信号に含まれるノイズフロアよりも十分に小さい場合には調整対象成分の減衰量を小さくしてデシメーションフィルタ200の遅延量を小さくすることもできる。
【0078】
図14は、本実施形態の第3変形例に係るフィルタ特性決定部1460の構成を示す。フィルタ特性決定部1460は、
図6および
図9に関連して示したフィルタ特性決定部660の変形例であるから、以下相違点を除き説明を省略する。フィルタ特性決定部1460は、ノイズ検出部620が検出したノイズレベルに基づいて、デシメーションフィルタ200に設定するフィルタ特性を決定する。本変形例に係るフィルタ特性決定部1460は、ノイズ検出部620により検出されたノイズレベルに基づいて、2または3以上のフィルタ特性のうちデシメーションフィルタ200に設定するべきフィルタ特性を指定するフィルタ識別情報としてフィルタコードを出力する。
【0079】
フィルタ特性決定部1460は、閾値記憶部1470と、比較部1480と、デコード部1490とを含む。閾値記憶部1470は、ノイズ検出部620により検出されたノイズレベルを示すレベルコードにおける、フィルタ特性毎の境界値に対応する複数の閾値1~Xを格納する。ここでXは、設定可能なフィルタ特性の数から1を減じた値であってよい。本変形例においては、一例として閾値1<閾値2<・・・<閾値Xである。
【0080】
比較部1480は、閾値記憶部1470に接続される。比較部1480は、複数の閾値1~Xのそれぞれに対応して、X個の比較器のそれぞれを有する。各比較器は、レベルコードと、対応する閾値とを比較する。本変形例において、x番目の比較器は、レベルコードとx番目の閾値xとを比較し、レベルコードが閾値xよりも大きい場合に論理H(ハイ)、レベルコードが閾値x以下の場合に論理L(ロー)を出力する。
【0081】
デコード部1490は、比較部1480に接続される。デコード部1490は、比較部1480内の複数の比較器が出力する比較結果に応じて、デシメーションフィルタ200に設定すべきフィルタ特性を指定するフィルタコードの値を決定する。例えば、比較部1480のx-1番目までの比較器が論理Hを出力し、x番目以上の比較器が論理Lを出力した場合に、デコード部1490は、レベルコードが閾値x-1を超え閾値x以下であることから、x番目のフィルタ特性を指定するフィルタコードを出力する。デコード部1490は、例えばプライオリティエンコーダにより実現されてよい。
【0082】
ここで、デコード部1490は、レベルコードがより大きくなる(すなわち、ノイズレベルがより大きくなる)ほど、デシメーションフィルタ200の次数および調整対象成分の減衰量がより大きいフィルタ特性を指定するフィルタコードを出力する。これにより、デコード部1490は、ノイズレベルがより小さい場合には、調整対象成分の減衰量がより小さいフィルタ特性をデシメーションフィルタ200に設定し、デシメーションフィルタ200の次数を減らすことができる。また、デコード部1490は、ノイズレベルがより大きい場合には、デシメーションフィルタ200の次数および調整対象成分の減衰量がより大きいフィルタ特性をデシメーションフィルタ200に設定することができる。
【0083】
図15は、本実施形態の第4変形例に係るフィルタ特性決定部1560の構成を示す。フィルタ特性決定部1560は、
図14に関連して示したフィルタ特性決定部1460の変形例であるから、以下相違点を除き説明を省略する。フィルタ特性決定部1560は、ノイズ検出部620が検出したノイズレベルに基づいて、デシメーションフィルタ200に設定するフィルタ特性を決定する。本変形例に係るフィルタ特性決定部1560は、ノイズ検出部620により検出されたノイズレベルに基づいて、2または3以上のフィルタ特性のうちデシメーションフィルタ200に設定するべきフィルタ特性を指定するフィルタ識別情報を出力する。
【0084】
本変形例に係るフィルタ特性決定部1560は、フィルタ特性の切り替えにヒステリシスを有する。フィルタ特性決定部1560は、閾値記憶部1470と、比較部1480と、デコード部1590と、遅延要素1595とを含む。閾値記憶部1470および比較部1480は、
図14の閾値記憶部1470および比較部1480と同様の機能および構成を有する。
【0085】
デコード部1590は、比較部1480に接続される。デコード部1590は、比較部1480内の複数の比較器が出力する比較結果に応じて、デシメーションフィルタ200に設定すべきフィルタ特性を指定するフィルタコードの値を決定する。デコード部1590は、比較部1480による比較結果および比較部1480を介して受け取るレベルコード等を含むデコード部1590の内部状態を遅延要素1595に出力する。
【0086】
遅延要素1595は、デコード部1590に接続される。遅延要素1595は、デコード部1590から受け取った内部状態を1サイクル遅延させてデコード部1590に戻す。デコード部1590は、遅延要素1595により遅延された1つ前の状態を用いてフィルタコードの値を決定することにより、フィルタコードの切り替えにヒステリシスを有することができる。例えば、デコード部1590は、ノイズ検出部620からのレベルコードとヒステリシス幅分の差を持たせた2段階の閾値のそれぞれとの比較結果と、比較部1480の比較結果が変化したタイミングで遅延要素1595に保持されている現在のフィルタコードを示す値とに応じてフィルタコードの更新および遅延要素1595の更新を実施してよい。
【0087】
図16は、本実施形態の第4変形例においてフィルタコードに与えるヒステリシスの一例を示す。本図は、横軸にレベルコードをとり、縦軸にフィルタコードをとり、レベルコードに応じてデコード部1590が決定するフィルタコードを示す。
【0088】
本図の例において、閾値記憶部1470は、フィルタコード1および2の境界に関して、閾値0.4及び0.5の0.1のヒステリシス幅(図中「ヒステリシス」)を持たせた2つの値を記憶する。比較部1480は、フィルタコードの境界毎に2つの比較器を含み、レベルコードと2つの閾値のそれぞれとの比較結果である2ビットの信号を出力する。遅延要素1595に保持されている値がフィルタコード1を示す値の場合、デコード部1590は、レベルコードが増加して閾値0.4を超えてもフィルタコードを増加させず、レベルコードがさらに増加して閾値0.5を超えたことに応じてフィルタコードを1から2に変化させる。これに応じて、遅延要素1595は、記憶するフィルタコードを、フィルタコード1を示す値からフィルタコード2を示す値に更新する。
【0089】
遅延要素1595に保持されている値がフィルタコード2を示す値の場合、デコード部1590は、レベルコードが減少して閾値0.5以下になってもフィルタコードを減少させず、レベルコードがさらに減少して閾値0.4以下になったことに応じてフィルタコードを2から1に変化させる。これに応じて、遅延要素1595は、記憶するフィルタコードを、フィルタコード2を示す値からフィルタコード1を示す値に更新する。デコード部1590は、境界毎の上側の閾値とレベルコードとを比較して得られる次のフィルタコードの候補値と、境界毎の下側の閾値とレベルコードとを比較して得られる次のフィルタコードの候補値との両方が、遅延要素1595に保持されているフィルタコードと異なる場合に、フィルタコードの値を候補値に更新してよい。
【0090】
以上に示したフィルタ特性決定部1560によれば、デシメーションフィルタ200に設定するフィルタ特性の切り替えにヒステリシスを保たせることができる。これにより、フィルタ特性決定部1560は、レベルコードがある閾値の境界に近い値で変動している等の場合に、フィルタ特性が頻繁に切り替わるのを防ぐことができ、適応フィルタ装置30の動作を安定化させることができる。
【0091】
図17は、本実施形態の第5変形例に係る信号処理システム1700の構成を示す。信号処理システム1700は、
図1から16に関連して示した信号処理システム10の変形例であるから、以下相違点を除き説明を省略する。信号処理システム1700においては、適応フィルタ装置30内で入力信号に応じたフィルタ特性を決定するのに代えて、信号処理装置1740がフィルタ特性を決定する。
【0092】
信号処理システム1700は、AD変換器20と、適応デシメーションフィルタ装置1730と、信号処理装置1740とを備える。AD変換器20は、
図1のAD変換器20と同様の機能および構成をとる。適応デシメーションフィルタ装置1730は、デシメーションフィルタ200と、フィルタ制御部210におけるノイズ検出部620とを有する。本変形例におけるデシメーションフィルタ200は、選択器350を有さず信号処理装置1740から受け取るフィルタパラメータに含まれるフィルタ係数を各間引き要素310に供給する。本変形例において、適応デシメーションフィルタ装置1730内のノイズ検出部620は、検査対象成分の信号レベルを示すノイズレベル情報の一例として、レベルコードを信号処理装置1740へと出力する。
【0093】
信号処理装置1740は、信号処理装置40の信号処理に加えて、フィルタ制御部210におけるフィルタ特性決定部660およびデシメーションフィルタ200における選択器350の機能を実装する。以上に示した信号処理システム1700によれば、入力信号に応じたフィルタ特性の決定およびフィルタ特性の設定に関する処理を信号処理装置1740側で行なうので、適応デシメーションフィルタ装置1730の構成を簡略化することができる。また信号処理装置1740は、DSP等を用いることにより、例えば適応デシメーションフィルタ装置1730の入力信号または出力信号を離散フーリエ変換(DFT)して解析する等のより高度な解析処理の結果を用いてデシメーションフィルタ200のフィルタ特性を決定することも可能となる。
【0094】
図18は、本実施形態の第6変形例に係る適応デシメーションフィルタ1830の構成を示す。適応デシメーションフィルタ1830は、
図17に示した信号処理システム1700における適応デシメーションフィルタ装置1730の変形例であるから、以下相違点を除き説明を省略する。適応デシメーションフィルタ装置1830は、デシメーションフィルタ200と、折り返しノイズ検出部1810とを有する。
【0095】
デシメーションフィルタ200は、
図3に示したデシメーションフィルタ200と同様の機能および構成をとってよい。本変形例において、デシメーションフィルタ200は、フィルタパラメータの一例としてフィルタコードを受け取って、フィルタコードに応じたフィルタ特性に設定される。
【0096】
折り返しノイズ検出部1810は、入力信号およびフィルタコードを受け取る。折り返しノイズ検出部1810は、入力信号における検査対象成分が、デシメーションフィルタ200によるデシメーション後にナイキスト周波数未満に送り返すことにより発生する折り返しノイズのレベルを算出する。本変形例においては、折り返しノイズ検出部1810は、デシメーションフィルタ200が、信号処理装置1740から受け取ったフィルタコードに応じたフィルタ特性に設定された場合に出力信号に残留する折り返しノイズのレベルを算出する。折り返しノイズ検出部1810は、デシメーションフィルタ200に設定されているフィルタ特性を識別するフィルタコード等のフィルタ識別情報と、折り返しノイズのレベルを示すノイズレベル情報と含む、フィルタ/ノイズレベル情報を信号処理装置1740へと出力する。
【0097】
図19は、本実施形態の第6変形例に係る折り返しノイズ検出部1810の構成を示す。折り返しノイズ検出部1810は、ノイズ検出部620と、折り返しノイズレベル決定部1960とを含む。ノイズ検出部620は、
図7に示したノイズ検出部620と同様の機能および構成をとってよい。
【0098】
折り返しノイズレベル決定部1960は、ノイズ検出部620に接続される。折り返しノイズレベル決定部1960は、ノイズ検出部620が検出したノイズレベルを示すレベルコードと、信号処理装置1740から受け取ったフィルタコードとを受け取る。折り返しノイズレベル決定部1960は、レベルコードによって示された検査対象成分の信号レベルが、フィルタコードに対応するフィルタ特性を有するデシメーションフィルタ200によって減衰された場合に出力信号に残留する折り返しノイズのレベルを算出する。折り返しノイズレベル決定部1960は、算出した折り返しノイズのレベルを示すノイズレベル情報を、フィルタコード等のフィルタ識別情報と共に信号処理装置1740へと出力する。
【0099】
図20は、本実施形態の第6変形例に係る折り返しノイズレベル決定部1960の構成を示す。折り返しノイズレベル決定部1960は、デコード部2070と、算出部2080とを含む。
【0100】
デコード部2070は、フィルタコードをデコードして、フィルタコードに対応するフィルタ特性におけるデシメーションフィルタ200の折り返しノイズ減衰量を出力する。例えば、デコード部2070は、フィルタコードのとりうる各値について、フィルタコードの値に対応するフィルタ特性をデシメーションフィルタ200に設定した場合におけるデシメーションフィルタ200の折り返しノイズ減衰量を格納したテーブルを保持して、入力されるフィルタコードに対応する折り返しノイズ減衰量を出力してよい。これに代えて、デコード部2070は、フィルタ係数を含むフィルタパラメータ等を受け取る場合には、フィルタ係数を用いてデシメーションフィルタ200の折り返しノイズ減衰量を算出してもよい。
【0101】
算出部2080は、デコード部2070に接続される。算出部2080は、レベルコードによって示された大きさの折り返しノイズが、デコード部2070から受け取った折り返しノイズ減衰量により減衰された場合に出力信号に残留する折り返しノイズのレベルを算出する。
【0102】
例えば、算出部2080は、レベルコードが0.5であり、折り返しノイズ減衰量が1/10である場合に、出力信号に残留する折り返しノイズのレベルが0.05(0.5×1/10)であると算出する。このように算出部2080は、レベルコードによって示される検査対象成分の信号レベルに、折り返しノイズ減衰量を乗じることにより、出力信号に残留する折り返しノイズのレベルを算出してよい。また、レベルコードおよび折り返しノイズ減衰量の単位がdBである場合には、算出部2080は、レベルコードのdB値から折り返しノイズ減衰量のdB値を減じることにより、出力信号に残留する折り返しノイズのレベルを算出してよい。
【0103】
算出部2080は、算出した折り返しノイズのレベルを示すノイズレベル情報を、フィルタコード等のフィルタ識別情報と共に信号処理装置1740へと出力する。ここで、算出部2080は、折り返しノイズのレベルを直接ノイズレベル情報として出力する代わりに、折り返しノイズのレベルを閾値と比較した結果(例えば、閾値より大きいかどうか)を示すノイズレベル情報、または折り返しノイズレベルを量子化したノイズレベル情報等を出力してもよい。
【0104】
図21は、本実施形態の第6変形例に係るフィルタ/ノイズレベル情報の一例を示す。本変形例において、フィルタ/ノイズレベル情報は、FN1およびFN0の2ビットで表される。FN1は、ノイズレベル情報を示す。算出部2080は、折り返しノイズのレベルが-100dBFSを超える場合にFN1を0とし、折り返しノイズのレベルが-100dBFS以下の場合にFN1を1とする。
【0105】
FN0は、フィルタ識別情報を示す。算出部2080は、例えばフィルタ1を指定するフィルタモード1においてはFN0を0とし、例えばフィルタ2を指定するフィルタモード2においてはFN0を1とする。デシメーションフィルタ200は、フィルタモードに応じて遅延量(遅延時間)が異なり、フィルタモード1の場合には出力信号のサンプリング周期(1/fs)の4サイクル分、フィルタモード2の場合には出力信号のサンプリング周期の6サイクル分となる。
【0106】
本変形例に係る適応デシメーションフィルタ1830によれば、入力信号に応じたフィルタ特性の決定を信号処理装置1740で行なうことができ、信号処理システム1700の用途に応じて柔軟にデシメーションフィルタ200のフィルタ特性を変更することができる。また、適応デシメーションフィルタ1830は、出力信号に残留する折り返しノイズのレベルを示すノイズレベル情報を含むフィルタ/ノイズレベル情報を信号処理装置1740に提供するので、信号処理装置1740は、デシメーションフィルタ200に設定可能なフィルタ特性毎のノイズ減衰量および遅延量の具体的な値を知らなくても、フィルタ/ノイズレベル情報を用いて適切にデシメーションフィルタ200のフィルタ特性を決定することができる。
【0107】
本発明の様々な実施形態は、フローチャートおよびブロック図を参照して記載されてよく、ここにおいてブロックは、(1)操作が実行されるプロセスの段階または(2)操作を実行する役割を持つ装置のセクションを表わしてよい。特定の段階およびセクションが、専用回路、コンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプログラマブル回路、および/またはコンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプロセッサによって実装されてよい。専用回路は、デジタルおよび/またはアナログハードウェア回路を含んでよく、集積回路(IC)および/またはディスクリート回路を含んでよい。プログラマブル回路は、論理AND、論理OR、論理XOR、論理NAND、論理NOR、および他の論理操作、フリップフロップ、レジスタ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブルロジックアレイ(PLA)等のようなメモリ要素等を含む、再構成可能なハードウェア回路を含んでよい。
【0108】
コンピュータ可読媒体は、適切なデバイスによって実行される命令を格納可能な任意の有形なデバイスを含んでよく、その結果、そこに格納される命令を有するコンピュータ可読媒体は、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく実行され得る命令を含む、製品を備えることになる。コンピュータ可読媒体の例としては、電子記憶媒体、磁気記憶媒体、光記憶媒体、電磁記憶媒体、半導体記憶媒体等が含まれてよい。コンピュータ可読媒体のより具体的な例としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EPROMまたはフラッシュメモリ)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM)、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)、コンパクトディスクリードオンリメモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、ブルーレイ(登録商標)ディスク、メモリスティック、集積回路カード等が含まれてよい。
【0109】
コンピュータ可読命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、マシン命令、マシン依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、またはJAVA(登録商標)、C++、Smalltalk(登録商標)等のようなオブジェクト指向プログラミング言語、および「C」プログラミング言語または同様のプログラミング言語のような従来の手続型プログラミング言語を含む、1または複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコードまたはオブジェクトコードのいずれかを含んでよい。
【0110】
コンピュータ可読命令は、汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ、若しくは他のコンピュータ等のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサまたはプログラマブル回路に対し、ローカルにまたはローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット等のようなワイドエリアネットワーク(WAN)を介して提供され、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく、コンピュータ可読命令を実行してよい。プロセッサの例としては、コンピュータプロセッサ、処理ユニット、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ等を含む。
【0111】
図22は、本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。コンピュータ2200にインストールされたプログラムは、コンピュータ2200に、本発明の実施形態に係る装置に関連付けられる操作または当該装置の1または複数のセクションとして機能させることができ、または当該操作または当該1または複数のセクションを実行させることができ、および/またはコンピュータ2200に、本発明の実施形態に係るプロセスまたは当該プロセスの段階を実行させることができる。そのようなプログラムは、コンピュータ2200に、本明細書に記載のフローチャートおよびブロック図のブロックのうちのいくつかまたはすべてに関連付けられた特定の操作を実行させるべく、CPU2212によって実行されてよい。
【0112】
本実施形態によるコンピュータ2200は、CPU2212、RAM2214、グラフィックコントローラ2216、およびディスプレイデバイス2218を含み、それらはホストコントローラ2210によって相互に接続されている。コンピュータ2200はまた、通信インターフェイス2222、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROMドライブ2226、およびICカードドライブのような入/出力ユニットを含み、それらは入/出力コントローラ2220を介してホストコントローラ2210に接続されている。コンピュータはまた、ROM2230およびキーボード2242のようなレガシの入/出力ユニットを含み、それらは入/出力チップ2240を介して入/出力コントローラ2220に接続されている。
【0113】
CPU2212は、ROM2230およびRAM2214内に格納されたプログラムに従い動作し、それにより各ユニットを制御する。グラフィックコントローラ2216は、RAM2214内に提供されるフレームバッファ等またはそれ自体の中にCPU2212によって生成されたイメージデータを取得し、イメージデータがディスプレイデバイス2218上に表示されるようにする。
【0114】
通信インターフェイス2222は、ネットワークを介して他の電子デバイスと通信する。ハードディスクドライブ2224は、コンピュータ2200内のCPU2212によって使用されるプログラムおよびデータを格納する。DVD-ROMドライブ2226は、プログラムまたはデータをDVD-ROM2201から読み取り、ハードディスクドライブ2224にRAM2214を介してプログラムまたはデータを提供する。ICカードドライブは、プログラムおよびデータをICカードから読み取り、および/またはプログラムおよびデータをICカードに書き込む。
【0115】
ROM2230はその中に、アクティブ化時にコンピュータ2200によって実行されるブートプログラム等、および/またはコンピュータ2200のハードウェアに依存するプログラムを格納する。入/出力チップ2240はまた、様々な入/出力ユニットをパラレルポート、シリアルポート、キーボードポート、マウスポート等を介して、入/出力コントローラ2220に接続してよい。
【0116】
プログラムが、DVD-ROM2201またはICカードのようなコンピュータ可読媒体によって提供される。プログラムは、コンピュータ可読媒体から読み取られ、コンピュータ可読媒体の例でもあるハードディスクドライブ2224、RAM2214、またはROM2230にインストールされ、CPU2212によって実行される。これらのプログラム内に記述される情報処理は、コンピュータ2200に読み取られ、プログラムと、上記様々なタイプのハードウェアリソースとの間の連携をもたらす。装置または方法が、コンピュータ2200の使用に従い情報の操作または処理を実現することによって構成されてよい。
【0117】
例えば、通信がコンピュータ2200および外部デバイス間で実行される場合、CPU2212は、RAM2214にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理に基づいて、通信インターフェイス2222に対し、通信処理を命令してよい。通信インターフェイス2222は、CPU2212の制御下、RAM2214、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROM2201、またはICカードのような記録媒体内に提供される送信バッファ処理領域に格納された送信データを読み取り、読み取られた送信データをネットワークに送信し、またはネットワークから受信された受信データを記録媒体上に提供される受信バッファ処理領域等に書き込む。
【0118】
また、CPU2212は、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROMドライブ2226(DVD-ROM2201)、ICカード等のような外部記録媒体に格納されたファイルまたはデータベースの全部または必要な部分がRAM2214に読み取られるようにし、RAM2214上のデータに対し様々なタイプの処理を実行してよい。CPU2212は次に、処理されたデータを外部記録媒体にライトバックする。
【0119】
様々なタイプのプログラム、データ、テーブル、およびデータベースのような様々なタイプの情報が記録媒体に格納され、情報処理を受けてよい。CPU2212は、RAM2214から読み取られたデータに対し、本開示の随所に記載され、プログラムの命令シーケンスによって指定される様々なタイプの操作、情報処理、条件判断、条件分岐、無条件分岐、情報の検索/置換等を含む、様々なタイプの処理を実行してよく、結果をRAM2214に対しライトバックする。また、CPU2212は、記録媒体内のファイル、データベース等における情報を検索してよい。例えば、各々が第2の属性の属性値に関連付けられた第1の属性の属性値を有する複数のエントリが記録媒体内に格納される場合、CPU2212は、第1の属性の属性値が指定される、条件に一致するエントリを当該複数のエントリの中から検索し、当該エントリ内に格納された第2の属性の属性値を読み取り、それにより予め定められた条件を満たす第1の属性に関連付けられた第2の属性の属性値を取得してよい。
【0120】
上で説明したプログラムまたはソフトウェアモジュールは、コンピュータ2200上またはコンピュータ2200近傍のコンピュータ可読媒体に格納されてよい。また、専用通信ネットワークまたはインターネットに接続されたサーバーシステム内に提供されるハードディスクまたはRAMのような記録媒体が、コンピュータ可読媒体として使用可能であり、それによりプログラムを、ネットワークを介してコンピュータ2200に提供する。
【0121】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0122】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0123】
10 信号処理システム、20 AD変換器、30 適応フィルタ装置、40 信号処理装置、200 デシメーションフィルタ、210 フィルタ制御部、300-2~N 遅延要素、310-1~N 間引き要素、320-1~N 乗算器、330-2~N 加算器、340 フィルタ係数記憶部、350 選択器、400 信号、410 エイリアシング、500 第1フィルタ特性、510 第2フィルタ特性、620 ノイズ検出部、660 フィルタ特性決定部、730 HPF、750 ノイズレベル出力部、1020 ノイズ検出部、1030 BPF、1050 ノイズレベル出力部、1110 フィルタ制御部、1140 信号検出部、1160 フィルタ特性決定部、1230 LPF、1250 信号レベル出力部、1460 フィルタ特性決定部、1470 閾値記憶部、1480 比較部、1490 デコード部、1560 フィルタ特性決定部、1590 デコード部、1595 遅延要素、1700 信号処理システム、1730 適応デシメーションフィルタ装置、1740 信号処理装置、1810 折り返しノイズ検出部、1830 適応デシメーションフィルタ、1960 折り返しノイズレベル決定部、2070 デコード部、2080 算出部、2200 コンピュータ、2201 DVD-ROM、2210 ホストコントローラ、2212 CPU、2214 RAM、2216 グラフィックコントローラ、2218 ディスプレイデバイス、2220 入/出力コントローラ、2222 通信インターフェイス、2224 ハードディスクドライブ、2226 DVD-ROMドライブ、2230 ROM、2240 入/出力チップ、2242 キーボード