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特許7653727電子部品の実装方法及び電子部品実装用部分シールド基板
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  • 特許-電子部品の実装方法及び電子部品実装用部分シールド基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】電子部品の実装方法及び電子部品実装用部分シールド基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/34 20060101AFI20250324BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20250324BHJP
   H05B 6/74 20060101ALI20250324BHJP
   H05B 6/80 20060101ALI20250324BHJP
【FI】
H05K3/34 507Z
H05K3/34 508A
H05K9/00 C
H05B6/74 A
H05B6/80 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023535150
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2022019387
(87)【国際公開番号】W WO2023286426
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2024-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2021116207
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】植村 聖
(72)【発明者】
【氏名】中村 考志
(72)【発明者】
【氏名】西岡 将輝
(72)【発明者】
【氏名】上野 尚子
【審査官】沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-061412(JP,A)
【文献】特開2019-136771(JP,A)
【文献】特開2013-171863(JP,A)
【文献】特開2002-158436(JP,A)
【文献】実開平05-038992(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/34
H05K 9/00
H05B 6/74
H05B 6/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材上の複数のはんだ部と、
該複数のはんだ部に対応させて該複数のはんだ部に接して配された複数の電子部品と
を有する電子部品実装用基板を、該複数のはんだ部のうち一部のはんだ部に電磁波シールドを施した状態でマイクロ波を照射し、該マイクロ波照射により形成された定在波の磁界の作用により、少なくとも電磁波シールドが施されていないはんだ部を加熱溶融することを含む、電子部品の実装方法。
【請求項2】
前記複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されていないはんだ部を、前記定在波の磁界の作用により加熱溶融し、次いで、前記複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されたはんだ部を、前記の電磁波シールドが施されていないはんだ部の加熱条件よりも穏やかな加熱条件で加熱溶融する、請求項1に記載の電子部品の実装方法。
【請求項3】
前記複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されていないはんだ部を、前記定在波の磁界の作用により加熱溶融するとともに、前記複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されたはんだ部も、前記定在波の磁界の作用により前記の電磁波シールドが施されていないはんだ部の加熱条件よりも穏やかな加熱条件で加熱溶融する、請求項1に記載の電子部品の実装方法。
【請求項4】
前記複数のはんだ部のうち、前記の電磁波シールドが施されたはんだ部には低温はんだを用いる、請求項2又は3に記載の電子部品の実装方法。
【請求項5】
前記基材が電極部を有し、前記電子部品も電極部を有し、前記の加熱溶融したはんだ部を固化し、固化したはんだ部を介して前記基材の電極部と前記電子部品の電極部とを電気的に接続する、請求項1~3のいずれか1項に記載の電子部品の実装方法。
【請求項6】
前記電磁波シールドが金属材料を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の電子部品の実装方法。
【請求項7】
前記定在波は、TMn10(nは1以上の整数)モード又はTE10n(nは1以上の整数)モードである、請求項1~3のいずれか1項に記載の電子部品の実装方法。
【請求項8】
基材と、
該基材上の複数のはんだ部と、
該複数のはんだ部に対応させて該複数のはんだ部に接して配された複数の電子部品と
を有し、該複数のはんだ部のうち一部のはんだ部に電磁波シールドが施されてなる、電子部品実装用部分シールド基板。
【請求項9】
マイクロ波の定在波の磁界の作用により、少なくとも電磁波シールドが施されていないはんだ部が加熱溶融される、請求項8に記載の電子部品実装用部分シールド基板。
【請求項10】
前記電磁波シールドが施されたはんだ部が低温はんだを含む、請求項8又は9に記載の電子部品実装用部分シールド基板。
【請求項11】
前記電磁波シールドが施されていないはんだ部が低温はんだを含まない、請求項10に記載の電子部品実装用部分シールド基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の実装方法及び電子部品実装用部分シールド基板に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波を用いることで、内部加熱方式で被加熱対象物を直に、短時間に加熱することができる。例えば、はんだを用いて電子部品などを実装する際の加熱方法として、マイクロ波を利用することが知られている。しかし、導電性材料にマイクロ波を照射するとスパークを発生することがある。本発明者らは、マイクロ波照射により電磁界強度が一様かつ極大となる定在波を形成し、この定在波の電界ではなく磁界の作用による磁気損失ないしは誘導電流を利用することによって、スパークを生じずに高効率に被加熱対象物を加熱できるマイクロ波装置を開発してきた(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2021/095723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
はんだを用いた電子部品の実装では、実装する電子部品の耐熱性に応じて加熱温度や加熱時間を制御することが必要になる。また、同一基材上に、耐熱性の異なる電子部品をはんだ実装することがある。この場合には、例えば、加熱温度を耐熱性の低い電子部品に合わせて低温側にしてはんだ実装することが考えられる。しかし、加熱温度を低温側にすれば、電子部品と基材とを十分に接着できない部分が生じて歩留まりが低下したり、十分に強固な接着のために時間を要したりする問題がある。
また、同一基材上に実装する電子部品ごとに、はんだの加熱温度ないし加熱時間を制御することも考えられるが、生産効率の向上には制約が生じる。さらに、マイクロ波加熱を適用する場合、マイクロ波を一律照射することになるため、同一基材上の電子部品ごとに、はんだの加熱温度ないし加熱時間を制御することは想定されていない。
【0005】
本発明は、マイクロ波の定在波による磁界加熱を利用して、同一基材上に配された耐熱性の異なる電子部品のはんだ実装を高効率かつ低ダメージで行うことを可能とする電子部品の実装方法及び電子部品実装用部分シールド基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は下記の手段により解決される。
〔1〕
基材と、
該基材上の複数のはんだ部と、
該複数のはんだ部に対応させて該複数のはんだ部に接して配された複数の電子部品と
を有する電子部品実装用基板を、該複数のはんだ部のうち一部のはんだ部に電磁波シールドを施した状態でマイクロ波を照射し、該マイクロ波照射により形成された定在波の磁界の作用により、少なくとも電磁波シールドが施されていないはんだ部を加熱溶融することを含む、電子部品の実装方法。
〔2〕
前記複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されていないはんだ部を、前記定在波の磁界の作用により加熱溶融し、次いで、前記複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されたはんだ部を、前記の電磁波シールドが施されていないはんだ部の加熱条件よりも穏やかな加熱条件で加熱溶融する、〔1〕に記載の電子部品の実装方法。
〔3〕
前記複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されていないはんだ部を、前記定在波の磁界の作用により加熱溶融するとともに、前記複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されたはんだ部も、前記定在波の磁界の作用により前記の電磁波シールドが施されていないはんだ部の加熱条件よりも穏やかな加熱条件で加熱溶融する、〔1〕に記載の電子部品の実装方法。
〔4〕
前記複数のはんだ部のうち、前記の電磁波シールドが施されたはんだ部には低温はんだを用いる、〔2〕又は〔3〕に記載の電子部品の実装方法。
〔5〕
前記基材が電極部を有し、前記電子部品も電極部を有し、前記の加熱溶融したはんだ部を固化し、固化したはんだ部を介して前記基材の電極部と前記電子部品の電極部とを電気的に接続する、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の電子部品の実装方法。
〔6〕
前記電磁波シールドが金属材料を含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の電子部品の実装方法。
〔7〕
前記定在波は、TMn10(nは1以上の整数)モード又はTE10n(nは1以上の整数)モードである、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の電子部品の実装方法。
〔8〕
基材と、
該基材上の複数のはんだ部と、
該複数のはんだ部に対応させて該複数のはんだ部に接して配された複数の電子部品と
を有し、該複数のはんだ部のうち一部のはんだ部に電磁波シールドが施されてなる、電子部品実装用部分シールド基板。
〔9〕
マイクロ波の定在波の磁界の作用により、少なくとも電磁波シールドが施されていないはんだ部が加熱溶融される、[8]に記載の電子部品実装用部分シールド基板。
〔10〕
前記電磁波シールドが施されたはんだ部が低温はんだを含む、〔8〕又は〔9〕に記載の電子部品実装用部分シールド基板。
【0007】
本発明において「電子部品の実装」とは、機器や装置の中に電子部品を組み込む(例えば、基材に電子部品を取り付ける)ことをいう。
本発明において「電子部品」との用語は、半導体素子、及び集積回路(IC)等の電子部品に限られず、抵抗、コンデンサ及びインダクタ等の受動素子、各種測定素子及び撮像素子等のセンサ、受光素子及び発光素子等の光素子、並びに音響素子等を含む広義の意味で用いる。
本発明において「はんだ」との用語は通常よりも広義の意味に用いている。すなわち、本発明において「はんだ」は、必ずしも導電性を有している必要はなく、一定温度以上の加熱により溶融することができ、その後、固化して基材と電子部品とを直接的に又は間接的に接続することができる特性を有していれば、その組成によらず、本発明における「はんだ」に含まれる。また、加熱溶融により導電性が低下したり導電性が失われたりするものも、本発明の「はんだ」に包含される。
本発明において「電磁波シールド」とは、電磁波を所望のレベルに弱める機能を有していればよい。つまり、本発明において「電磁波シールド」とは、電磁波を完全に遮断する形態と、電磁波を部分的に遮断する形態の両方を包含する意味である。
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。例えば、「A~B」と記載されている場合、その数値範囲は、「A以上B以下」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電子部品の実装方法及び電子部品実装用部分シールド基板によれば、マイクロ波の定在波による磁界加熱を利用して、同一基材上に配された耐熱性の異なる電子部品のはんだ実装を高効率かつ低ダメージで行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、複数のはんだ部のうち一部に電磁波シールドを施した実装用基板をマイクロ波照射し、電磁波シールドを施していないはんだ部を磁界加熱により溶融・固化し、次いで電磁波シールドを外して、より穏やかな条件でマイクロ波照射し、電磁波シールドを施したはんだ部も磁界加熱により溶融させた状態を模式的に示す説明図(側面図)である。
図2図2は、図1の状態を実装用基板の上側からみた図である。電磁波シールドの下側にある電子部品とはんだ部の状態も破線で示している。
図3図3は、マイクロ波加熱装置の好ましい全体構成の一例を模式的に示したブロック図であり、空胴共振器を概略断面図で示した図である。
図4図4は、実験例1-1において、ソルダーペーストが置かれたシリコンウェハー(図4の上側)と、ソルダーペーストが置かれたシリコンウェハーを内部に配したアルミホイルボックス(図4の下側)の両方を、ガラスエポキシ樹脂基板上に置いた状態を示す図面代用写真である。
図5図5は、図4の写真に示された状態を、アルミホイルボックス内部の状態も透かして模式的に示す説明図である。
図6図6は、図4の写真に示された状態でマイクロ波を照射して磁界加熱に付したときの温度分布を、サーモカメラを用いて計測した結果を示すものである。
図7図7は、実施例1-2において、ソルダーペーストが置かれたシリコンウェハーを内部に配したアルミホイルボックスのみを、ガラスエポキシ樹脂基板上に置いて、マイクロ波を照射により磁界加熱に付したときの温度分布を、サーモカメラを用いて計測した結果を示すものである。
図8図8は、実験例2-1において、ソルダーペーストが置かれたシリコンウェハー(図8の下側)と、ソルダーペーストが置かれたシリコンウェハーを内部に配した銅板ボックス(図8の上側)の両方を、ガラスエポキシ樹脂基板上に置いた状態でマイクロ波を照射して磁界加熱に付したときの温度分布を、サーモカメラを用いて計測した結果を示すものである。
図9図9は、実施例2-2において、ソルダーペーストが置かれたシリコンウェハーを内部に配した銅板ボックスのみを、ガラスエポキシ樹脂基板上に置いて、マイクロ波照射により磁界加熱に付したときの温度分布を、サーモカメラを用いて計測した結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[電子部品の実装方法]
本発明の電子部品の実装方法(以下、単に「本発明の実装方法」とも称す。)の好ましい実施形態について、適宜に図面を参照して説明する。なお、図面において各部の寸法および縮尺は、説明の便宜上、実際と相違する場合がある。また、図面は、理解を容易にするために模式的に示すことがある。さらに、本発明は、本発明で規定すること以外は、以下に例示する形態に限られない。
【0011】
本発明の実装方法は、電子部品実装用基板(以下、単に「実装用基板」とも称す。)のはんだ部を加熱し、当該はんだ部を溶融することにより、電子部品を基材上にはんだ実装する方法である。この実装により、基材上に電子部品が固定化された電子部品実装基板(電子部品が実装された基板。以下、単に「実装基板」とも称す。)が得られる。
本発明の実装方法において、上記の実装用基板は、基材と、この基材上の複数のはんだ部と、これら複数のはんだ部に対応させて、当該複数のはんだ部に接して配された複数の電子部品とを有している。また、この実装用基板の複数のはんだ部のうち、一部のはんだ部には、少なくともはんだ部とそれに接する電子部品を覆うように電磁波シールドが施されている。つまり、本発明に用いる実装用基板は電子部品実装用部分シールド基板である。この電子部品実装用部分シールド基板に、定在波を形成するようにマイクロ波を照射することにより、定在波の磁界の作用により、少なくとも電磁波シールドが施されていないはんだ部が加熱溶融される(以降、定在波の磁界の作用による加熱を「磁界加熱」とも称す。)
【0012】
上記定在波のモードとしては、例えば、TMn10(nは1以上の整数)モード(例えばTM210、TM310のモード)、及びTE10n(nは1以上の整数)モードが挙げられる。後述するように、空胴共振器の中心軸に沿って磁界強度の極大部を効率的に形成できる点で、上記定在波はTM110モードが好ましい。
TE10n(nは1以上の整数)モードの場合もn=1のTE101モードが好ましく、TE102、又はTE103モードであってもよい。
磁界強度の極大部ないしその周辺部(はんだ部が溶融するのに十分な磁界強度部分)に実装用基板を配することにより、少なくとも電磁波シールドが施されていないはんだ部を高効率に加熱溶融することができる。
【0013】
マイクロ波照射による磁界加熱として、例えば、磁界により発生した渦電流損(誘導電流による抵抗)による発熱、及び磁界により生じる磁性損失による発熱が挙げられる。前者は非磁性体の金属の発熱を利用することができ、後者は磁性体の発熱を利用することができる。磁界加熱について、例えば、国際公開第2021/095723号公報、及び国際公開第2019/156142号公報等に詳しく記載されており、これらは本発明の実施において適宜に参照することができる。
本発明の実装方法において、はんだ部は、磁界がはんだ部に直接作用して加熱される形態でもよく、磁界の作用により直接的に加熱された発熱部を介して間接的にはんだ部が加熱される形態とすることもできる。発熱部は、各はんだ部に対応させて、各はんだ部に接する形態とすることができる。このような発熱部を有する実装方法それ自体は公知であり、例えば、国際公開第2021/095723号公報、及び国際公開第2019/156142号公報等を参照することができる。
【0014】
本発明に用いる実装用基板を構成する基材は、マイクロ波を透過し易い樹脂、酸化物、及びセラミックス等の誘電体で形成されることが好ましい。例えば、フィルムや紙のような薄いもの(例えば、シートやテープ)でもよく、ある程度の厚みを有する樹脂基板、セラミックス基板、ガラス基板、又は酸化物基板のような板状体でもよい。また、基材として金属板を用いることもできる。さらに、金属板の表面に上記の誘電体の被膜が形成されたものであってもよい。
基材を構成し得る樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びエポキシ樹脂等が挙げられる。また、基材を構成し得る酸化物ないしセラミックスとしては、例えば、酸化ケイ素(SiO)、酸化鉄(Fe)、酸化スズ(SnO)、酸化チタン(TiO)、窒化ケイ素(SiN)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、酸化鉄(Fe)、酸化スズ(SnO)、酸化チタン(TiO)、及び塩化マンガン(MnCl)等が挙げられる。また金属板としては、例えば、アルミニウム板、及び銅板等が挙げられる。
基材は、はんだの融点以上の耐熱性を有することが好ましい。
基材は、単層構成でも複層構成でもよい。複層構成の場合には、例えば、金属張り積層板(例えば銅張り積層板)を基材として用いることも好ましい。
【0015】
実装用基板のはんだ部は、はんだにより構成される。はんだの種類に特に制限はなく、はんだ実装に用いられるはんだを目的に応じて適宜に用いることができる。また、上述のように、本発明において「はんだ」は必ずしも導電性を有している必要はなく、一定温度以上の加熱により溶融することができ、その後、固化して基材と電子部品とを直接的に又は間接的に接続することができる特性を有していれば、その組成によらず、本発明におけるはんだとして用いることができる。すなわち、加熱溶融し、次いで固化することにより接着機能を果たすものは、本発明の「はんだ」に包含される。
【0016】
本発明の実装方法の好ましい一実施形態(以下、実施形態1と称す。)では、上記の磁界加熱により、電磁波シールドが施されていないはんだ部のみを加熱溶融する。例えば、マイクロ波を実質的に遮断する電磁波シールドを、熱に弱い電子部品が配されたはんだ部に施すことにより、当該電子部品の熱ダメージを回避することができる。熱に弱い電子部品が配されたはんだ部は、電磁波シールドを取り除いた後、より穏やかな加熱条件に晒すことで、電子部品の熱ダメージを抑えながらはんだ実装を行うことができる。つまり、電磁波シールドを施していないはんだ部についてはマイクロ波照射によって一度に瞬時に加熱溶融して電子部品を高効率に実装し、その後、電磁波シールドを施したはんだ部の当該電磁波シールドを取り除いて、電磁波シールドを取り除いたはんだ部を、より穏やかな加熱条件ではんだ実装を行うことができる。この穏やかな加熱条件を作り出す手段は特に制限されず、例えば、マイクロ波の照射エネルギーを抑えて照射する方法が挙げられる。また、マイクロ波照射以外の加熱方法(例えば、電気炉加熱、温風加熱、赤外線加熱、温風・赤外線併用加熱、レーザー加熱、高周波加熱、ベーパーフェイズソルダリング加熱、フロー加熱、リフロー加熱、はんだごて加熱、及びホットエアー加熱等)を採用することもできる。
【0017】
上記の実施形態1において、実装用基板にマイクロ波を照射して磁界加熱によりはんだ部を溶融する形態を、図1に模式的に示す。
図1は、基材1として銅張り積層板を用いて、その上にはんだ部2を配し、はんだ部2に接して電子部品3を配した実装用基板にマイクロ波5を照射し、電磁波シールドを施していないはんだ部2を磁界加熱により溶融(2B)して固化(2C)させる形態を、実装用基板を側面から見た状態として模式的に示す説明図である。この実装用基板は、はんだ部2の一部2Aを覆うように電磁波シールド4が設けられている。この電磁波シールド4は、その一部に銅張り積層板の銅部分(基材1の中間層部分)を利用している。基材1として用いる銅張り積層板の銅部分以外のシールド材料として、例えば、金属(銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、亜鉛、真鍮、ステンレス、リン青銅、及び鉛等)、黒鉛、グラフェン、導電性ガラス、導電性高分子、導電性ガラス、及び導電性セラミックス(アンチモンドープ酸化スズ等)等を含む材料を挙げることができ、金属材料を含むことがより好ましい。
このように、本発明の実装方法では、基材として、銅のような導電性の金属箔が組み込まれた金属張り積層板(好ましくは銅張り積層板)を適用し、この金属箔を電磁シールドの一部として利用する形態とすることができる。
なお、電磁波シールドは、基材、はんだ部、及び電子部品の全体を覆うように配してもよい。すなわち、はんだ部に直接的に又は間接的に届く磁界エネルギーの量を低減するように、電磁波シールドを適宜に配することができる。
【0018】
図1に示すように、はんだ部2の一部2Aに電磁波シールド4を施した実装用基板に、マイクロ波5を照射して定在波を形成させ、この定在波において磁界エネルギーが十分に高い部分にはんだ部を配することにより、電磁波シールド4が施されていない部分のはんだ部2Bを瞬時に、高効率に加熱溶融し、このはんだ部2Bにより電子部品をはんだ実装することができる。
図1の形態では、電磁波シールド4を施したはんだ部2Aは、電磁波シールド内部に磁界エネルギーが到達せず、あるいは十分に到達しないため、当該はんだ部2Aは溶融せず、当該はんだ部2Aに接する電子部品3も熱から守ることができる。また、電磁波シールドにより電子部品内の回路を電磁波エネルギーによる損傷から守ることができる。そして、電磁波シールド4を施したはんだ部の当該電磁波シールド4を取り除いて、電磁波シールド4を取り除いたはんだ部2Aについて、より穏やかな加熱条件ではんだ実装を行うことができる。電磁波シールド4が施されたはんだ部2Aには、例えば、低温はんだ(本発明において「低温はんだ」は融点が190℃以下、好ましくは180℃以下のはんだであり、当該融点は170℃以下でもよく、160℃以下でもよい。低温はんだの融点は通常は120℃以上であり、130℃以上であることも好ましく、140℃以上であってもよい。)を用いることもできる。
【0019】
このように、本発明の実装方法によれば、比較的熱に強い電子部品を配したはんだ部については、マイクロ波の磁界加熱により瞬時に、高効率にはんだ部を加熱溶融しながら、熱に弱い電子部品を配したはんだ部については、この磁界加熱から守ることができる。そして、電磁波シールドを取り除いて、電磁波シールドを取り除いたはんだ部について、より穏やかな加熱条件(例えば、より穏やかなマイクロ波の磁界加熱)ではんだ実装を行うことができる。図2図1の形態を、実装用基板を上側から、シールド内部及び電子部品の下のはんだ部の状態を含めて模式的に示す説明図である。
【0020】
実装用基板を、マイクロ波定在波を用いた磁界加熱に付すための手段(マイクロ波加熱装置)は特に限定されず、通常の方法を広く適用することができる。本発明の実装方法に好適なマイクロ波加熱装置の形態については後述する。
【0021】
本発明の実装方法の別の好ましい実施形態(以下、実施形態2と称す。)では、上記の磁界加熱により、電磁波シールドが施されていないはんだ部に加えて、電磁波シールドが施されたはんだ部も、より低温域で加熱溶融する。電磁波シールドが施された部分のシールド内部に届く磁界エネルギーは、後述する実施例で示すように、電磁波シールドの状態により制御できることがわかってきた。したがって、電磁波シールドが施された部分のシールド内部に届く磁界エネルギーを、電磁波シールドが施されていないはんだ部に届く磁界エネルギーよりも相対的に小さくしながらも、はんだが熱溶融する温度まで加熱することも可能である。これにより、電磁波シールドが施されたはんだ部に接する電子部品に対する熱ダメージを抑えながら、当該電子部品を、より穏やかな条件ではんだ実装することが可能になる。
電磁波シールドの状態により、当該電磁波シールドが施された部分のシールド内部に届く磁界エネルギーを制御する方法としては、例えば、電磁波シールドの一部に隙間及び/又は穴を空ける方法、電磁波シールドとしてシールド能が比較的低い材料(例えば、亜鉛、真鍮、ステンレス、リン青銅、及び鉛等)、黒鉛、グラフェン、導電性ガラス、導電性高分子、導電性ガラス、及び導電性セラミックス(アンチモンドープ酸化スズ等)等)を適宜に用いる方法、シールドに利用するシートまたは薄膜の厚さを操作する方法、及び誘電体または磁性体またはその両方を添加または塗工または積層する方法が挙げられる。また、照射するマイクロ波のエネルギー及び加熱時間の制御、パルス波形のマイクロ波照射、及び実装基板の搬送速度の制御を組合せることにより、電磁波シールド内への磁界エネルギーの到達量を、より柔軟に調整することが可能になる。
上記の実施形態2では、電磁波シールドが施されたはんだ部には、熱によりダメージを受けやすい電子部品Aを配し、電磁波シールドが施されていない部分には、熱に比較的強い(電子部品Aよりも耐熱性が高い)電子部品Bを配することができる。これにより、電子部品の種類に応じて電子部品の熱によるダメージを抑えながら、効率的にはんだ実装を行うことができる。また、電磁波シールドが施されたはんだ部には、上述の低温はんだを用いることができる。このように、電磁波シールドが施されたはんだ部に、より低温域で溶融しやすいはんだを用いることにより、電磁波シールドが施されたはんだ部に接する電子部品に対する熱ダメージを抑えながら、はんだによる接合強度も十分に高めることが可能になる。
【0022】
本発明の実装方法のさらに別の実施形態(以下、実施形態3と称す。)では、上記の磁界加熱により、電磁波シールドが施されていない導電性のはんだ部を加熱溶融した場合に、この加熱溶融により当該はんだ部の導電性が一定程度弱まるように設計する。これにより、電磁波シールドが施されていない導電性のはんだ部の加熱溶融に伴い、電磁波シールドが施されたはんだ部の磁界加熱の効率を経時的に高めることができる。結果、電磁波シールドが施されたはんだ部を、より低温の加熱、あるいはより短時間の熱処理条件で、加熱溶融することが可能となる。この形態についてより詳細に説明する。
【0023】
実装用基板において、電磁波シールドを施したはんだ部は、照射されたマイクロ波が遮断され、あるいは弱められた状態となる。しかし、本発明者らが検討を進めたところ、次の事実がわかってきた。
まず、電磁波シールドを施したはんだ部と、電磁波シールドを施していないはんだ部とを基材上に形成した実装用基板を、マイクロ波の定在波の磁界加熱に付すると、電磁波シールドを施していないはんだ部を瞬時に高効率に加熱溶融させながら、電磁波シールドを施したはんだ部は加熱させずに、あるいは加熱を抑えた状態にできる。このことは上述した通りである。
他方、電磁波シールドを施したはんだ部のみが配された実装用基板をマイクロ波の定在波の磁界加熱に付した場合には、電磁波シールドを施しているにもかかわらず、その内部のはんだ部を高効率に加熱できることがわかってきた。このことは、後述する[実施例]の項に実験例として示している。つまり、電磁波シールドが施されていない部分に存在する磁界加熱対象物が少なくなるにつれて、磁界エネルギーが、磁界加熱対象物(はんだ)が存在する電磁波シールド内部に入り込んでいくのである。
このような現象を応用すると、次のことが可能になる。すなわち、上記の磁界加熱により、電磁波シールドが施されていない導電性のはんだ部を加熱溶融した場合に、この加熱溶融により当該はんだ部の導電性が弱まるように設計することによって、経時的に、電磁波シールドが施されたはんだ部に到達する磁界エネルギーを高めることが可能となる。したがって、電磁波シールドが施されたはんだ部を、より穏やかな条件で加熱溶融することが可能となるのである。
【0024】
加熱溶融により、はんだ部の導電性が弱まるはんだ設計としては、はんだに対して化学反応する元素を加熱前に積層または混合する処理をしておき、加熱溶融時にはんだと当該元素とを化学反応させ、はんだを別の化合物にする方法がある。化学反応させる元素として、例えば、酸素、窒素、硫黄、リン、ケイ素、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、銀、鉛、ビスマス、及びアンチモン等が挙げられる。このような元素を含む有機化合物または無機化合物を、例えば、薄膜としてはんだと積層する処理、粉体としてはんだと混合する処理、及び液体としてはんだと混合する処理等を行い、はんだ部を磁界加熱により熱溶融することにより、はんだ部の少なくとも一部を導電性が弱まる設計とすることができる。
なお、導電性をどの程度まで弱めるのかについては、目的に応じて適宜に設定することができる。電気的な接続を維持できるように、ある程度、導電性を保った状態としてもよいし、電子部品の固定化のみを目的とする場合には、導電性を実質的に示さなくなる程度にまで弱めてもよい。また、照射するマイクロ波のエネルギー及び加熱時間の制御を組合せることにより、電磁波シールド内への磁界エネルギーの到達量を、より柔軟に調整することが可能になる。
【0025】
このように、本発明の実装方法によれば、マイクロ波照射による磁界加熱を利用して、電子部品の種類(耐熱性)に応じて、個々の電子部品にかかる熱履歴を適切に制御しながら、はんだ実装をすることが可能になる。すなわち、本発明の実装方法には次の形態が包含される。
【0026】
複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されていないはんだ部を、マイクロ波照射により形成した定在波の磁界の作用により加熱溶融し、次いで、前記複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されたはんだ部を、より穏やかな条件(より低温の加熱及び/又はより短時間の加熱)で加熱溶融する形態(実施形態1~3)。
複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されていないはんだ部を、マイクロ波照射により形成した定在波の磁界の作用により加熱溶融するとともに、前記複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されたはんだ部も、前記定在波の磁界の作用によって、より穏やかな条件で加熱溶融する(実施形態2及び3)。
本発明の実装方法は上述した実施形態1と実施形態2とを組合せた形態とすることもできる。例えば、複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されていないはんだ部を、マイクロ波照射により形成した定在波の磁界の作用により加熱溶融し、前記複数のはんだ部のうち、電磁波シールドが施されたはんだ部の一部についてははんだ部を加熱溶融しないように電磁波シールドを調整し、電磁波シールドが施されたはんだ部の残りの部分については磁界エネルギーが弱められながらも一定程度到達するように電磁波シールドを調整し、電子部品に対する熱ダメージを抑えながら当該電子部品をより穏やかな条件ではんだ実装する形態とすることができる。
【0027】
本発明の実装方法の好ましい一実施形態は、基材が電極部を有し、前記電子部品も電極部を有し、前記の加熱溶融したはんだ部を固化し、固化したはんだ部を介して前記基材の電極部と前記電子部品の電極部とを電気的に接続する形態とするものである。
【0028】
また、上述した実装方法に関し、本発明は、基材と、該基材上の複数のはんだ部と、該複数のはんだ部に対応させて該複数のはんだ部に接して配された複数の電子部品とを有し、該複数のはんだ部のうち一部のはんだ部に電磁波シールドが施されてなる、電子部品実装用部分シールド基板を提供するものである。
【0029】
続いて、本発明の実装方法に用いるマイクロ波加熱装置の好ましい形態を説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外は、下記で説明するマイクロ波加熱装置を使用する形態に限定されるものではない。また、下記のマイクロ波加熱装置それ自体はすでに公知であり、下記で説明すること以外は、例えば、国際公開第2021/095723号公報を参照することができる。
【0030】
[マイクロ波加熱装置]
図3は、マイクロ波加熱装置の概要を模式的に示す説明図である。したがって、図3は説明の便宜上、一部の構成は省略している場合がある。
図3に示すように、マイクロ波加熱装置10は、マイクロ波照射空間51を有する空胴共振器(以下、(円筒型の)空胴共振器ともいう)11を有する。空胴共振器11は、円筒型であっても、筒中心軸を中心として対向する2面が平行な多角筒型であってもよい。すなわち、空胴共振器11の中心軸Cにおいて磁界強度が極大かつ一様な定在波を形成できればよい。以下、円筒型の空胴共振器について説明する。
【0031】
図3に示す円筒型の空胴共振器11は、円筒中心軸(以下、中心軸ともいう)Cに沿って磁界の強度が極大かつ一様となる、例えばTM110モードの定在波が形成される。以下、空胴共振器11の中心軸とマイクロ波照射空間51の中心軸とは同じ意味で用いる。
【0032】
空胴共振器11には、該空胴共振器の円筒中心軸Cを挟んで対向する、空胴共振器11の胴部壁11SAに設けられた入口12と、胴部壁11SAに対向する胴部壁11SBに設けられた出口13とを有する。上記入口12及び出口13は、はんだ部8を介して電子部品9を載せた状態の実装用基板(実装用基板の一部のはんだ部には図示していない電磁波シールドが施されている)が通ることが可能な幅のスリット状に形成されることが好ましい。また、空胴共振器11内において、電界が極小となり、磁界強度が極大かつ均一になる磁界領域52に、はんだ部8を介して電子部品9を載置した実装用基板を搬送する搬送機構31を備える。磁界領域52は、円筒中心軸Cから外側に向かって磁界強度が弱まる。図面では、一例として磁界強度が極大値の3/4以上の領域を2点鎖線にて模式的に示した。
上記の搬送機構31によって、入口12から支持体50上の実装用基板がマイクロ波照射空間51内に入り、はんだ部の少なくとも一部が加熱溶融され、出口13から処理された実装基板が搬出される。
例えば、TM110モードの定在波が発生する円筒型の空胴共振器11の場合、磁界領域52は、中心軸Cにおける電界強度が極小となり、磁界強度が極大となり、中心軸Cに沿っては磁界強度が均一となる空間である。
【0033】
空胴共振器11には、マイクロ波発生器21が配され、空胴共振器11に対してマイクロ波が供給される。一般にマイクロ波の周波数は0.3~300GHzであり、特に2~4GHzのSバンドが多く用いられる。又は900~930MHz、5.725~5.875GHz、等を用いることもできる。ただし、これ以外の周波数についても用いることができる。
【0034】
上記のマイクロ波加熱装置10では、空胴共振器11に対して、マイクロ波発生器21で発生させたマイクロ波をマイクロ波供給口14から空胴共振器11内のマイクロ波照射空間51に供給し、マイクロ波照射空間内に定在波を形成する。
マイクロ波発生器21から供給されるマイクロ波は、周波数を調節して供給されることが好ましい。周波数の調節により、空胴共振器11内に形成される定在波の磁界強度分布を所望の分布状態へと安定的に制御することができる。またマイクロ波の出力によって定在波の強度を調整することができる。
なお、マイクロ波供給口14から供給されるマイクロ波の周波数は、マイクロ波照射空間51内に特定のシングルモード定在波を形成することができるものである。
本発明のマイクロ波加熱装置10の構成について、順に説明する。
【0035】
<空胴共振器>
マイクロ波加熱装置10に用いる円筒型の空胴共振器(キャビティー)11は、一つのマイクロ波供給口14を有し、マイクロ波を供給した際にシングルモードの定在波が形成されるものであれば特に制限はない。本発明に用いる空胴共振器のマイクロ波照射空間51は、図面に示されるような円筒型に限られない。すなわち、円筒型でなくても、中心軸を中心として対向する2面が平行な多角筒型の空胴共振器であってもよい。例えば、中心軸に垂直方向の断面が、正方形、正6角形、正8角形、正12角形、及び正16角形等の正偶数角形の筒型であってもよい。又は正偶数角形の中心軸に対して対向する2面間で潰した形状の多角形の筒型であってもよい。上記の多角筒型の空胴共振器の場合、空胴共振器内部の角は丸みを有してもよい。また、マイクロ波照射空間としては、上記の筒型の他に、上記の丸みを大きくした柱状態、及び楕円体等の空間を有する空胴共振器であってもよい。
このような多角形であっても、円筒型と同様の作用(すなわち、中心軸において磁界強度が極大かつ一様な定在波を形成できる)を実現することができる。
空胴共振器11の大きさも目的に応じて適宜に設計することができる。空胴共振器11は電気抵抗率の小さいものが望ましい。通常は金属製であり、一例として、アルミニウム、銅、鉄、マグネシウム、若しくはそれらの合金、又は、黄銅及びステンレス等の合金を用いることができる。また、樹脂、セラミック、又は金属の表面に、電気抵抗率の小さい物質をめっき又は蒸着などによりコーティングしてもよい。コーティングには、例えば、銀、銅、金、スズ、又はロジウムを含む材を用いることができる。
【0036】
<搬送機構>
搬送機構31は、供給側搬送部31A、若しくは送り出し側搬送部31B、又は両者を有することが好ましい。
または、搬送機構31には、供給部31、供給口12、及び排出口13を設置しなくてもよい。この場合、基材6はあらかじめ空胴共振器内の磁界が極大となる位置に配置する。そして、しかるべき時間、処理した後にマイクロ波を停止する。その後、空胴共振器の一部を開放して、基材6を、必要により取り出すことができる。
または、供給部31として特段の搬送機構を用いず、空胴共振器自体を移動することもできる。
【0037】
<マイクロ波の供給>
マイクロ波の供給には、マイクロ波発生器21、マイクロ波増幅器22、アイソレータ23、インピーダンス整合器24、及びアンテナ25を用いることが好ましい。
【0038】
空胴共振器11の中心軸Cに平行な壁面(円筒の内面)又はその近傍には、マイクロ波供給口14が設けられる。一実施形態において、マイクロ波供給口14は、マイクロ波を印加することができるアンテナ25を有する。図3では、同軸導波管変換器を用いたマイクロ波供給口14を示している。この場合アンテナ25は電界励振型のモノポールアンテナとなる。このとき定在波を効果的に形成するためには、マイクロ波供給口14と空胴共振器11の間に適切な開口部としてアイリス(図示せず)を用いてもよい。また、導波管14を用いずに、直接、空胴共振器11にアンテナを設置してもよい。この場合は空胴共振器側壁面及びその近傍に磁界励振アンテナとなるループアンテナ(図示せず)を設置してもよい。又は、空胴共振器上面又は下面に電界励振となるモノポールアンテナを設置することも可能である。
アンテナ25は、マイクロ波発生器21からマイクロ波の供給を受ける。具体的には、マイクロ波発生器21に、上記のマイクロ波増幅器22、アイソレータ23、整合器24、アンテナ25の順に接続されることが好ましい。各接続には、ケーブル26(26A、26B、26C、26D)が用いられる。
各ケーブル26には、例えば同軸ケーブルが用いられる。この構成では、マイクロ波発生器21から発せられたマイクロ波を、各ケーブル26を介してアンテナ25によってマイクロ波供給口14から空胴共振器11内のマイクロ波照射空間51に供給する。
【0039】
[マイクロ波発生器]
本発明のマイクロ波加熱装置10に用いるマイクロ波発生器21は、例えば、マグネトロン等のマイクロ波発生器、又は半導体固体素子を用いたマイクロ波発生器を用いることができる。マイクロ波の周波数を微調整できるという観点から、VCO(Voltage Controlled oscillator:電圧制御発振器)、VCXO(Voltage controlled Crystal oscillator)、又はPLL(Phase locked loop)発振器を用いることが好ましい。
【0040】
[マイクロ波増幅器]
マイクロ波加熱装置10はマイクロ波増幅器22を備える。マイクロ波増幅器22は、マイクロ波発生器21によって発生されたマイクロ波の出力を増幅する機能を有する。その構成に特に制限はない。例えば、高周波トランジスタ回路で構成される半導体固体素子を用いることが好ましい。
【0041】
[アイソレータ]
マイクロ波加熱装置10はアイソレータ23を備える。アイソレータ23は、空胴共振器11内で発生する反射波の影響を抑制してマイクロ波発生器21を保護するためのものである。すなわち、一方向(アンテナ25方向)にマイクロ波が供給されるようにするものである。マイクロ波増幅器22及びマイクロ波発生器21が反射波により破損する恐れがない場合は、アイソレータを設置しなくてもよい。
【0042】
[整合器]
マイクロ波加熱装置10は整合器24を備える。整合器24は、マイクロ波発生器21、マイクロ波増幅器22、及びアイソレータ23のインピーダンスと、アンテナ25のインピーダンスとを整合させる(合わせる)ためのものである。不整合による反射波が生じてもマイクロ波増幅器22及びマイクロ波発生器21が損傷を受ける恐れがない場合、並びに、不整合が発生しないように調整できる場合には、整合器を設置しなくてもよい。
【0043】
<制御系統>
上記マイクロ波加熱装置10には、温度を測定する熱画像計測装置(サーモビュアー)41、又は放射温度計(図示せず)が配されることが好ましい。空胴共振器11には、熱画像計測装置41又は放射温度計(図示せず)によって空胴共振器11内の温度分布を測定するための窓15が配されることが好ましい。熱画像計測装置41によって測定された温度分布の測定画像又は放射温度計によって計測された温度情報は、ケーブル42を介して制御部43に送信される。
更に、空胴共振器11の胴壁11Sには電磁波センサ44が配されることが好ましい。電磁波センサ44によって検出した共振器11内の電磁界エネルギーに応じた信号は、ケーブル45を介して制御部43に送信される。制御部43は電磁波センサ44の信号をもとに、空胴共振器11のマイクロ波照射空間51内に発生させた定在波の形成状況(共振状況)を検知することができる。定在波が形成される、つまり共振するときは、電磁波センサ44の出力が大きくなる。電磁波センサ44の出力が極大となるよう、マイクロ波発生器21の発振周波数を調整することで、空胴共振器11の持つ共振周波数と一致するようマイクロ波周波数を制御することができる。
【0044】
制御部43では、検出された周波数に基づいて、空胴共振器11内に一定の周波数の定在波が立つマイクロ波の周波数を、ケーブル46を介してマイクロ波発生器21にフィードバックすることができる。このフィードバックに基づいて、制御部43では、マイクロ波発生器21から供給されるマイクロ波の周波数を精密に制御することができる。このようにして、空胴共振器11内に定在波を安定して発生させることができる。また、制御部43では、マイクロ波増幅器22にマイクロ波の出力を指示することによって、一定の出力のマイクロ波をアンテナ25に供給できるように調整することができる。又は、マイクロ波増幅器22の増幅率は変化させず、マイクロ波発生器21とマイクロ波増幅器22の間に設置した減衰器(図示せず)の減衰率を制御部43の指示により調整することもできる。マイクロ波出力は、熱画像計測装置41又は放射温度計の指示値をもとに、被加熱対象物を目的温度となるようフィードバック制御してもよい。マイクロ波発振器21としてマグネトロンのような大出力を出せる装置を用いた場合は、マイクロ波発生器21に対し、マイクロ波出力を調整するよう、制御部43の指示を与えてもよい。
【0045】
電磁波センサ44を用いない制御方法として、空胴共振器11の反射波の大きさを測定しその値を利用してもよい。反射波の測定はアイソレータ23から得られるアイソレーション量を用いることができる。反射波信号が極小となるように、マイクロ波発生器の周波数を調整することで、空胴共振器11へのマイクロ波のエネルギーを効率的に供給することができる。
【0046】
マイクロ波加熱装置10では、定在波の周波数は、空胴共振器11内に定在波を形成できれば特に制限はない。中心軸Cに磁界強度の極大領域を形成するモードとしては、例えば、TMn10(nは1以上の整数)モード(例えばTM210、TM310のモード)、及びTE10n(nは1以上の整数)モードが挙げられる。空胴共振器11の中心軸Cに沿って磁界強度の極大部を効率的に形成できる点で、TM110の定在波であることが好ましい。
TE10n(nは1以上の整数)モードの場合もn=1のTE101モードが最も好ましく、TE102、又はTE103モードであってもよい。
【0047】
上記空胴共振器11は、通常、共振周波数がISM(Industry Science Medical)バンド内に収まるよう設計される。ただし、空胴共振器11や装置全体から空間に放射される電磁波のレベルを、周囲への安全及び通信等に影響を及ぼさないよう抑制できる機構を有していれば、ISMバンド以外の周波数で設計することもできる。
【0048】
本発明の実装方法は、マイクロ波加熱装置10を含むはんだ実装装置を適用して実施することもできる。はんだ実装装置の具体的な装置構成例については、例えば、国際公開第2021/095723号公報の図4の形態を参照することができる。
【実施例
【0049】
以下に、本発明を、実験例を示してさらに詳細に説明する。これらの実験例は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの形態に何ら限定されるものではない。
【0050】
[実験例1-1]
ソルダーペースト102(千住金属社:M705)0.2gを設置した2枚の5mm角のn型シリコンウェハー103を用意した。その1枚を厚さ160μm、縦30mm、横20mm、上部中央に直径1mmの穴を開けたアルミホイルのボックス104内に設置した。そのアルミホイルボックス104内に設置した、ソルダーペースト102が置かれたシリコンウェハー103と、もう一枚の、ソルダーペースト102が置かれたシリコンウェハー103(アルミホイルボックスなし)の両方を、ガラスエポキシ樹脂基板101(FR-4)上に置いた。この状態を示す写真を図4に示す。また、図4の写真を、アルミホイルのボックス内部の状態も透かして模式的に示した説明図が図5である。
【0051】
上記のガラスエポキシ樹脂基板101を円筒型空胴共振器の中心に配置した。空胴共振器内に30W出力のマイクロ波を導入し、TM110モードの定在波を形成させたときの温度分布を、基板の上面からサーモカメラを用いて、ガラスエポキシ樹脂基板101上の、シリコンウェハー103(アルミホイルボックスなし)とアルミホイルボックス内に設置されたシリコンウェハー103の両方について計測した。その結果を図6に示す。
図6から、アルミホイルボックス内に配していない部分のソルダーペーストは221.4℃という高温に到達していることがわかる。これに対し、アルミホイルボックス内(電磁波シールド内)のソルダーペーストは133℃と比較的低温に保たれていた。つまり、アルミホイルボックスが電磁波シールドとして機能していることがわかる。ここで、このアルミホイルボックスには上記の通り直径1mmの穴が開いている。1mmの微小な穴ではマイクロ波は通過しないと考えられているが、実際には、穏やかなマイクロ波加熱が生じていた。つまり、電磁波シールドの状態を制御することにより、より穏やかな条件で磁界加熱できることもわかる。
【0052】
[実験例1-2]
ソルダーペースト102(千住金属社:M705)0.2gを設置した5mm角のn型シリコンウェハーを、厚さ160μm、縦30mm、横20mm、上部中央に直径1mmの穴を開けたアルミホイルのボックス104内に設置した。このアルミホイルボックス104内に設置した、ソルダーペースト102が置かれたシリコンウェハー103のみを、ガラスエポキシ樹脂基板101(FR-4)上に置いた。この状態でガラスエポキシ樹脂基板101を円筒型空胴共振器の中心に配置した。空胴共振器内に30W出力のマイクロ波を導入し、TM110モードの定在波を形成させたときの温度分布を上記と同様にして計測した。結果を示す写真を図7に示す。
図7から、アルミホイルボックスが設けられていないソルダーペースト部分が存在しない状態では、アルミホイルボックス内に配したソルダーペーストが210.7℃という高温に到達していることがわかる。つまり、磁界エネルギーが、アルミホイルボックス内のソルダーレジスト102に対して集中的に作用していることがわかる。
【0053】
[実験例2-1]
ソルダーペースト102(千住金属社:M705)0.2gを設置した2枚の5mm角のn型シリコンウェハー103を用意した。その1枚を厚さ100μm、縦30mm、横20mm、上部中央に直径1mmの穴を開けた銅板のボックス105内に設置した。その銅板ボックス105内に設置した、ソルダーペースト102が置かれたシリコンウェハーと、もう一枚の、ソルダーペースト102が置かれたシリコンウェハー103(銅板ボックスなし)の両方を、ガラスエポキシ樹脂基板101(FR-4)上に置いた。この状態でガラスエポキシ樹脂基板101を円筒型空胴共振器の中心に配置した。空胴共振器内に30W出力のマイクロ波を導入し、TM110モードの定在波を形成させたときの温度分布を上記と同様にして計測した。結果を図8に示す。
図8から、銅板ボックス105内に配していない部分のソルダーペーストは169.6℃という高温に到達していることがわかる。これに対し、銅板ボックス105内(電磁波シールド内)のソルダーペーストは71.2℃と穏やかに加熱されていた。つまり、銅板ボックス105が電磁波シールドとして機能していることがわかる。ここで、この銅板ボックスには上記の通り直径1mmの穴が開いている。1mmの微小な穴ではマイクロ波は通過しないと考えられているが、実際には、穏やかなマイクロ波加熱が生じていた。つまり、電磁波シールドの状態を制御することにより、より穏やかな条件で磁界加熱できることもわかる。
【0054】
[実験例2-2]
ソルダーペースト102(千住金属社:M705)0.2gを設置した5mm角のn型シリコンウェハーを、厚さ100μm、縦30mm、横20mm、上部中央に直径1mmの穴を開けた銅板ボックス105内に設置した。この銅板ボックス105内に設置した、ソルダーペースト102が置かれたシリコンウェハーのみを、ガラスエポキシ樹脂基板101(FR-4)上に置いた。この状態でガラスエポキシ樹脂基板101を円筒型空胴共振器の中心に配置した。空胴共振器内に30W出力のマイクロ波を導入し、TM110モードの定在波を形成させたときの温度分布を上記と同様にして計測した。結果を図9に示す。
図9から、銅板ボックスが設けられていないソルダーペースト部分が存在しない状態では、銅板ボックス内に配したソルダーペーストが187.8℃にまで加熱されていることがわかる。つまり、磁界エネルギーが、銅板ボックス内のソルダーレジストに対して集中的に作用していることがわかる。
【0055】
上記の実験例の結果から、マイクロ波の定在波による磁界加熱と、部分的な電磁波シールドとを組合せることにより、マイクロ波の照射エネルギーを適宜に調整することによって、はんだ実装における複数のはんだ部の加熱の状態を、個々のはんだ部ごとに自在に制御することが可能になることがわかる。
【0056】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は、特に指定しない限り、我々の発明を、説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0057】
本願は、2021年7月14に日本国で特許出願された特願2021-116207に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0058】
1 基材
2 はんだ
3 電子部品
4 電磁波シールド
5 マイクロ波
10 マイクロ波加熱装置
11 空胴共振器
12 入口
13 出口
14 マイクロ波供給口
15 窓
21 マイクロ波発生器
22 マイクロ波増幅器
23 アイソレータ
24 整合器
25 アンテナ
26、42、45、46 ケーブル
31 搬送機構
31A 供給側搬送部
31B 送り出し側搬送部
41 熱画像計測装置
43 制御部
44 電磁波センサ
50 支持体
52 磁界領域
A 搬送方向
C 空胴中心軸(中心軸)
101 ガラスエポキシ樹脂基板
102 ソルダーペースト
103 シリコンウェハー
104 アルミホイルボックス
105 銅板ボックス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9