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特許7654247扁平金属粒子およびその製造方法、ならびに圧粉鉄心およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】扁平金属粒子およびその製造方法、ならびに圧粉鉄心およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20250325BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20250325BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20250325BHJP
【FI】
B22F1/00 Y
B22F9/04 C
C22C33/02 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021046881
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146086
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2024-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】本塚 智
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 尚
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-010501(JP,A)
【文献】特開2020-070459(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064360(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/068,9/04
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折において(110)面のピーク強度Aと、(001)面のピーク強度Bとのピーク強度比(ピーク強度B/ピーク強度A)が0.5以上8未満であり、Kα1とKα2に由来する同一結晶面からの回折ピークの間に谷を有し、
体積が、1.8×10-123以上4.2×10 -9 3 以下である、扁平金属粒子。
【請求項2】
厚さが、4μm以上250μm以下であり、
厚さ方向に垂直な方向の外形に外接する底面と、前記厚さの円盤として算出される表面積に基づく、比表面積が、400cm2/g以下である、請求項1に記載の扁平金属粒子。
【請求項3】
アスペクト比が、3以上である、請求項1または2に記載の扁平金属粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の扁平金属粒子を結合剤で被覆した構造を含む、圧粉鉄心。
【請求項5】
直径200μm以上の粗粒の金属粒子を出発材料とし、潤滑剤を用いて前記出発材料の金属粒子を粉砕する粉砕工程と、
扁平状に粉砕した前記金属粒子を焼鈍する焼鈍工程とを有する、扁平金属粒子の製造方法。
【請求項6】
前記粉砕工程の前に、金属粒子を、ふるい分けて、前記粉砕工程の前記出発材料とする直径200μm以上の粗粒の金属粒子を得る第一の分級工程を有する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記粉砕工程により扁平状に粉砕した前記金属粒子を、乾燥して、ふるい分けて、直径200μm以上の粗粒を得る第二の分級工程を有する、請求項5または6に記載の扁平金属粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれかに記載の製造方法で製造された扁平金属粒子を、結合剤で被覆し、圧縮する圧粉鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平金属粒子およびその製造方法に関する。また、扁平金属粒子を含む鉄心に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料においては、その機能の向上のため、集合組織(texture又はcrystal textureとも呼称される)の制御が行われる。集合組織を制御することで、磁気特性などを制御して鉄心などに用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属粒子を含む金属粉を粉砕加工等のメカノケミカル処理することにより、結晶面を所定の方向に制御した集合組織を有する扁平金属粒子の製造方法が開示されている。このように金属に集合組織を付与することで、特許文献1に示されているような磁気特性の改善効果や、特許文献2に示されているような曲げ加工に代表される加工性の改善効果を得ることができる。
【0004】
特許文献1や非特許文献1は、結晶面を所定の方向に制御した再結晶集合組織を有する扁平金属粒子およびその製造方法を開示している。特に扁平金属粒子が鉄系金属の場合、この扁平金属粒子をモーターやリアクトルなどの電磁気応用製品のコアに応用することで、コアの透磁率や磁束密度の改善効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-70459号公報
【文献】WO2007/148712
【非特許文献】
【0006】
【文献】Satoshi Motodzuka et al., Formation of (001) Fiber Texture in Iron Powder and its Effect on Magnetic Properties and Crystal Orientation of the Powder Compact, ISIJ International, Vol.59 (2019), No.1, pp.192-200
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術で作製した鉄系金属の扁平金属粒子は、透磁率や磁束密度において改善がみられるが、ヒステリシス損については、いまだ改良が求められる。すなわち、このような扁平化された金属粒子においては、一般に、電磁鋼板により生成される鉄心よりも渦電流損は向上するがヒステリシス損は逆に悪化する可能性があることが知られている。この損失はモーターのエネルギー損失につながる。そこで発明者らは、この鉄系扁平金属粒子のヒステリシス損が増加する理由の解明をすすめ、ヒステリシス損の増加は、鉄系扁平金属粒子の単位質量あたりの表面積、すなわち比表面積に起因することが判明した。
【0008】
本発明は、ヒステリシス損の増加を抑制するなど磁気特性に優れた扁平金属粒子及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0010】
<1> X線回折において(110)面のピーク強度Aと、(001)面のピーク強度Bとのピーク強度比(ピーク強度B/ピーク強度A)が0.5以上であり、Kα1とKα2に由来する同一結晶面からの回折ピークの間に谷を有し、体積が、1.8×10-123以上である、扁平金属粒子。
<2> 厚さが、4μm以上250μm以下であり、厚さ方向に垂直な方向の外形に外接する底面と、前記厚さの円盤として算出される表面積に基づく、比表面積が、400cm2/g以下である、前記<1>に記載の扁平金属粒子。
<3> アスペクト比が、3以上である、前記<1>または<2>に記載の扁平金属粒子。
<4> 前記<1>~<3>のいずれかに記載の扁平金属粒子を結合剤で被覆した構造を含む、圧粉鉄心。
<5> 直径200μm以上の粗粒を出発材料とし、潤滑剤を用いて金属粒子を粉砕する粉砕工程と、扁平状に粉砕した前記金属粒子を焼鈍する焼鈍工程とを有する、扁平金属粒子の製造方法。
<6> 前記粉砕工程の前に、金属粒子を、ふるい分けて、直径200μm以上の粗粒を得る第一の分級工程を有する、前記<5>に記載の製造方法。
<7> 前記粉砕工程により扁平状に粉砕した前記金属粒子を、乾燥して、ふるい分けて、直径200μm以上の粗粒を得る第二の分級工程を有する、前記<5>または<6>に記載の扁平金属粒子の製造方法。
<8> 前記<5>~<7>のいずれかに記載の製造方法で製造された扁平金属粒子を、結合剤で被覆し、圧縮する圧粉鉄心の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヒステリシス損の増加を抑制するなど磁気特性などに優れた扁平金属粒子等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の扁平金属粒子に係る鉄系粒子の像である。
図2】本発明の原理に係る金属粒子における損失等を説明するための概要図である。
図3】本発明の原理に係る金属粒子における損失等を説明するための概要図である。
図4】本発明の扁平金属粒子の比表面積の計算例を説明するための図である。
図5】従来の鉄粒子および本発明の扁平金属粒子の極点図である。
図6】アスペクト比と、ピーク強度比(B/A)に係るグラフである。
図7】実施例1における、粉砕処理前後の鉄粒子の粉末X線回折パターンである。
図8】実施例1における、粉砕処理後及び焼鈍処理後の鉄粒子の粉末X線回折パターンである。
図9】実施例1における、粉砕処理後及び焼鈍処理後の扁平金属粒子を圧縮成形して得られたリングコアの直流BHカーブである。
図10】比較例1における、粉砕処理前後の鉄粒子の電子顕微鏡写真である。
図11】比較例1における、粉砕処理前後の鉄粒子の粉末X線回折パターンである。
図12】比較例1における、粉砕処理後及び焼鈍処理後の鉄粒子の粉末X線回折パターンである。
図13】比較例1における、粉砕処理後及び焼鈍処理後の扁平金属粒子を圧縮成形して得られたリングコアの直流BHカーブである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0014】
[本発明の扁平金属粒子]
本発明の扁平金属粒子は、X線回折において(110)面のピーク強度Aと、(001)面のピーク強度Bとのピーク強度比(ピーク強度B/ピーク強度A)が0.5以上であり、Kα1とKα2に由来する同一結晶面からの回折ピークの間に谷を有し、体積が、1.8×10-123以上である、扁平金属粒子である。
【0015】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、直径200μm以上の粗粒を出発材料とし、潤滑剤を用いて金属粒子(鉄系粒子)を粉砕する粉砕工程と、扁平状に粉砕した前記金属粒子(鉄系粒子)を焼鈍する焼鈍工程とを有する、扁平金属粒子の製造方法である。
【0016】
本発明の扁平金属粒子は、鉄心に用いたとき、渦電流損特性や磁束密度に優れる鉄粉末による鉄心の特性を有し、かつ、ヒステリシス損にも優れた鉄心の製造に適した磁気特性を有する。また、本発明の製造方法は、このような扁平金属粒子を得る製造方法である。なお、本願において本発明の製造方法により、本発明の扁平金属粒子を製造することもでき、本発明の圧粉鉄心は、本発明の扁平金属粒子を用いたものであり、本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0017】
先に示した通り、従来の扁平金属粒子では、透磁率や磁束密度に優れているがヒステリシス損が、電磁鋼板を用いる積層鉄心よりも悪化することが知られている。
【0018】
本発明者により、このような扁平金属粒子を用いることの利点を最大限に生かすべくヒステリシス損低減による更なる性能向上を目指し検討がなされ、扁平金属粒子の比表面積がヒステリシス損の大きさに影響することが分かった。
【0019】
軟磁性粒子に磁場を与えると磁壁が移動するが、その際、磁壁の移動が滑らかになる程、ヒステリシス損を低減させることが可能となる。磁壁移動を滑らかにするには、粒子内の磁壁移動の妨げとなりうる、粒子表面の凹凸が少ない粒子を用いることが肝要である。
【0020】
一方、透磁率や磁束密度を向上させるべく扁平化すると粒子の表面積が増加するが、粒子の表面積が大きくなる程このような凹凸の数も増加し影響を受けやすくなる。これに対して大きな粒子を用いて、必要な表面積を確保しながら比表面積を下げる方法があるが、大きな粒子を用いた場合、複数の当該粒子を圧接して形成した圧粉鉄心の形態にて、交流磁場を作用させた際の渦電流損が大きくなるおそれがある。
【0021】
そこで本発明では比表面積に関し更に検討し、扁平化の際に表面積を小さくし、かつ、厚みを持たせた大きな扁平状粒子を用いることにより、比表面積の小さい扁平金属粒子を見出した。また本発明では、このように比表面積を小さく保ちながらも透磁率や磁束密度を保持する表面積を確保することも考慮し、当該粒子の大きさが必要となることから、粒子の体積が重要であることも判明した。(図2図3
【0022】
[扁平金属粒子]
以下、本発明について、さらに詳しく説明する。まず、扁平金属粒子について説明する。
【0023】
[扁平面]
扁平状鉄粒子扁平金属粒子は、扁平面を有する。扁平面は、扁平化した粒子における厚さ方向に直交する面を示す。扁平面は、平坦であることが好ましい。また、扁平面は、曲面であってもよい。このような扁平面は、例えば、金属粒子を圧縮処理等することによる塑性変形で形成される面である。
【0024】
[体積]
本発明の扁平金属粒子の体積は、1.8×10-123以上である。扁平金属粒子の体積が、これ以上のとき、ヒステリシス損を低減することができる。
【0025】
金属粒子としては、鉄系粒子などが用いられる。圧粉鉄心に用いられる鉄系粒子は、一般的に平均粒径が150μm程度である。この粒径150μmを基準に球であるものとして考えると、この体積は1.8×10-123である。この大きさを一般的な鉄系粒子の平均体積とみなすものとする。
【0026】
本発明では、上記の鉄系粒子を扁平化し、前述のような大きさの体積を有するものとする。これにより、相対的に扁平金属粒子として必要な表面積を確保しながら比表面積を小さくすることが可能となり、ヒステリシス損を低減することができる。体積は、4.2×10-123以上であることがより好ましく、1.0×10-113以上であることがさらに好ましい。また、上限については、圧粉鉄心の大きさなどに基づいて適宜調整でき特に上下を定めなくてもよい。加工条件等の製造条件に伴う制限約や製造時の品質等による歩留り、材料の入手性、粉砕後のアスペクト比などを考慮すると、体積は、4.2×10-93以下であることが好ましい。
【0027】
[厚さ]
本発明の扁平金属粒子は、厚さが、4μm以上250μm以下であることが好ましい。大きさが一定の扁平金属粒子に対して厚さを小さくすると、表面積が大きな粒子となり比表面積が大きくなる。一方、その粒子を圧接して鉄心として形成した時にその厚み方向の断面において、その厚みに比例する渦電流損が低下する。なお、厚さと渦電流損の関係は以下の式が成立することが一般に知られている。
Pe(渦電流損失) ∝ (t(軟磁性体の厚さ)・f(印加する電源周波数)・Bm(最大磁束密度))^2÷ρ(軟磁性体の抵抗率)
【0028】
厚さが大きすぎると、扁平化による透磁率や磁束密度向上による効果が低減する。一方で、厚みの増大により上で示した式が示す通り、渦電流損が増加する。圧粉鉄心と競合する積層鉄心用の電磁鋼板の厚みは250μm程度であり、これよりも鉄粒子の厚みが大きいと、渦電流損が低いという圧粉鉄心及び鉄粒子の優位点が失われてしまう。厚さの下限は、5μm以上としてもよい。厚さの上限は、100μm以下や、80μm以下としてもよい。
【0029】
[比表面積]
本発明の扁平金属粒子は、比表面積が小さいという特徴を持つ。本発明の扁平金属粒子は、厚さ方向に垂直な方向の外形に外接する底面と、前記厚さの円盤として算出される表面積に基づく、比表面積が、400cm2/g以下であることが好ましい。
【0030】
図4は、扁平金属粒子等の表面積の算出を説明するための図である。図4の上段は、扁平化の処理を行う前の鉄系粒子に関する。図4の下段は、扁平化の処理を行った後の扁平金属粒子(鉄系粒子)に関する。
【0031】
図4上段に示すように、扁平化する前の金属粒子は、表面に凹凸を有するが、3次元方向に同程度の大きさであり、角がとれていることから、直径dの球とみなして、その比表面積を算出するものとする。
【0032】
図4下段に示すように、扁平金属粒子は、扁平な粒子である。扁平な粒子については、粒径d、厚さtの円盤として、その比表面積を算出する。粒径は、厚さ方向に垂直な方向の面に基づいて算出する。この面の外形に外接する円とみなして粒径dを算出し、この粒径dの円の面積を底面とし、厚さtの円盤として、その円盤の比表面積を、扁平金属粒子の比表面積とする。
【0033】
[X線回折パターン]
本発明の扁平金属粒子について、磁化容易軸がその粒子の面内方向にランダムに配向した、集合組織を有する。集合組織は粉砕、圧縮を伴い金属粒子が粒状から扁平状に変形する際の結晶回転によって形成されるものであり、次のように特徴づけられる。
【0034】
すなわち、前記扁平金属粒子から得られるX線回折パターンにおいて、(110)面のピーク強度Aと(001)面のピーク強度Bとのピーク強度比B/Aが0.5以上である。このX線回折パターンは、X線源としてCu管球を使った時のものである。ここでKα1およびKα2とは特性X線を指し、その波長はCuを線源とする場合1.541および1.544Åである。波長が異なるために、回折ピークもそれに対応して二つ出てくる。その意味は、扁平金属粒子表面に平行な結晶面である(001)面が、一般的な結晶方位を制御されていないランダム配向の鉄粒子と比較して多いということである。この(001)面は磁化容易軸である<001>を最も多く含むため、このような特徴的なX線回折パターンを示す鉄粒子は、その扁平面と平行な方向に磁場を受けた際に、その内部の磁壁を滑らかに移動させることができる。ピーク強度比B/Aは、1以上がより好ましい。
【0035】
磁化容易軸が面内に存在することは図5でも容易に理解できる。図5の(a)は市販の鉄粒子の、図5の(b)は本扁平鉄粒子の偏平面に平行な方向からX線を照射して取得した001極点図である。(a)に示す市販鉄粒子の極密度の分布がランダムであるのと比較して、(b)に示す本発明にかかる鉄粒子の極密度の分布は、北極と南極の近傍で高く、赤道部分に帯を示している。これは扁平面内に磁化容易軸が分布していることを示している。
【0036】
より多くの磁化容易軸を扁平面と平行にするには、アスペクト比を大きくすることが有効である。一方、アスペクト比を大きくしすぎると比表面積が増加し、磁化容易軸の方向を制御することによるヒステリシス損低減のメリットを、比表面積増大によるヒステリシス損増加のデメリットが上回ってしまう。また、アスペクト比が大きくなると渦電流損が低下する。従って、ピーク強度比B/Aを設定する場合は、当該粒子の比表面積と体積とアスペクト比を考慮する必要がある。
【0037】
基本的な指針としては、渦電流損とヒステリシス損の合計が最小になるようにアスペクト比を制御することで、ピーク強度比B/A比が決定される。また、本発明にかかる鉄粒子で得られる鉄心の用途においては、渦電流損の低減が強く望まれる製品と、ヒステリシス損の低減が強く望まれる製品がある。アスペクト比が小さければ渦電流損は大きくなり、ヒステリシス損は小さくなる。アスペクト比が大きければ渦電流損は小さくなり、ヒステリシス損は大きくなる。従って、本鉄心が応用される製品の用途によっても、適切なアスペクト比およびアスペクト比で決定するピーク強度比B/Aの最適値も変化する。このような観点から、ピーク強度比B/Aは、8未満を好適範囲とする場合もある。
【0038】
また、その粒子を構成する結晶粒の全てもしくは一部は再結晶組織を有する。
【0039】
本発明の扁平金属粒子は、その粒子を構成する結晶粒に再結晶組織を含む。本発明の扁平金属粒子の再結晶組織は、その一部でもよく、すべてでもよい。扁平金属粒子のピーク強度比の変化から、粉砕処理後の扁平金属粒子には集合組織が形成されていることを確認することができる。ピークが鋭くなっていることから、組織中のひずみが減少した再結晶組織を持っていることが分かる。具体的には、回折角60~70°の範囲を拡大したパターンから、X線源に由来するCuのKα1とKα2によるピークが明瞭に分かれており、Kα1とKα2由来のピークの間に谷が認められる。このことは、磁化容易軸が扁平面に平行に配列していることを示すと同時に、鉄粒子内の原子配列の乱れが減少していることを示している。磁化容易軸が扁平面に平行に配列することで、扁平面に平行に磁場が作用した際、磁壁が滑らかに移動し、ヒステリシス損失が低下する。また、鉄粒子内の原子配列の乱れが減少することでも磁壁の移動が滑らかとなり、ヒステリシス損が低下する。
【0040】
更に、Kα1及びKα2によるピークの性状は、先のピーク強度比B/Aを含め、ヒステリシス損を低減するための、扁平状粒子の体積または、比表面積との関係において設定されたものである。すなわち、ボールミル等による粉砕・圧縮に伴う磁化容易軸の配向メカニズムを解析、検討し、体積または比表面積によるヒステリシス損の低減の効果が加味され、先に示した所定の大きさの体積または比表面積等の扁平状粒子に有するものである。
【0041】
[アスペクト比]
本発明の扁平金属粒子のアスペクト比は、3以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。アスペクト比は、扁平金属粒子の厚さをt、扁平金属粒子の粒径をdとして、粒径d/厚さtとして求める。この場合には、成形型内で粒子配向が生じ、粒子形状に関連付けられている磁化容易軸の向きを、粉砕・圧縮成形により圧縮軸やその垂直方向に配向させることを促すことができる。図6に示すように、前述のピーク強度比B/Aはアスペクト比に比例する。なお、研究の結果、この関係は粒子の体積に関係なく成立することが分かっている。また、扁平金属粒子の体積、または比表面積との関係に基づき、扁平金属粒子を用いた成形品のヒステリシス損の増加を抑制しながら、透磁率や磁束密度の向上を図り、より優れた磁気特性を有するものとなる。アスペクト比は、10以上としてもよい。
【0042】
アスペクト比の上限は特に定めなくてもよいが、アスペクト比が高すぎる場合、粒径dが大きすぎるか、厚さtが小さすぎるものとなり、過剰に扁平化したものとなる。このため、アスペクト比の上限は、300以下のような上限を設けてもよい。アスペクト比の上限は、200以下や、100以下としてもよい。
【0043】
[平均値]
本発明の扁平金属粒子は、圧粉鉄心等の原料として用いるものである。扁平金属粒子は、多数の粒子を集合したものである。本発明における、粒子の体積や、厚さ、比表面積、アスペクト比等は、粒子の粉粒体の平均値である。この平均値を求めるにあたっては、粒径dが10μm以下の顕微鏡観察時にも確認しにくいものは対象外として、無作為に抽出した、例えば、30個の粒子の平均値とすることができる。
【0044】
[金属粒子]
本発明の扁平金属粒子に関して、集合組織を有する扁平金属粒子は体心立方格子構造を有する。金属粒子の組成は特に限定されない。金属粒子は、圧粉鉄心や圧粉磁心に用いられる粒子が好ましく用いられる。金属粒子としては、鉄系材料の粒子である鉄系粒子が好ましく用いられる。例えば、鉄系材料の組成としては、純鉄であってもよいし、鉄合金であってもよい。鉄合金としては、例えば、鉄コバルト合金、鉄コバルトバナジウム合金、鉄バナジウム合金、クロム鉄合金、鉄アルミシリコン合金、鉄シリコンクロム合金、ケイ素鋼等が挙げられる。
【0045】
[成形品]
本発明の扁平金属粒子を用いて各種成形品とすることができる。本発明の好適な態様として、本発明の扁平金属粒子を絶縁膜で被覆した構造を含む、圧粉鉄心とすることができる。本発明の扁平金属粒子を用いた成形品は、例えば、鉄系粒子を用いた圧粉鉄心としたとき、ヒステリシス損や渦電流損が小さく、磁束密度が高いため、優れた磁気特性を有する。この圧粉鉄心は、変圧器、電動機、発電機等の鉄心(コア)やリアクトル等の電磁気応用製品への適用が非常に有効であり、これらの電磁気応用製品の機能性を向上させるのに寄与する。
【0046】
[圧粉鉄心]
圧粉鉄心は、上述した扁平金属粒子を含むものから構成され、所定の形状を有するように形成されていれば特に制限されない。例えば、軟磁性合金粉末と結合剤である樹脂とを含み、前記扁平金属粒子を構成する軟磁性合金粒子同士が樹脂を介して結合することにより所定の形状に固定されている。また、前記圧粉鉄心は、上述した扁平金属粒子と他の磁性粉末との混合粉末から構成され、所定の形状に形成されていてもよい。さらに、図1でも示したように、扁平鉄粒子は鉄心内で粒子配向を起こし、その配向に異方性を有している。
【0047】
[磁性部品]
磁性部品は、上記の圧粉鉄心を含むものであれば特に制限されない。たとえば、所定形状の圧粉鉄心内部に、ワイヤが巻回された空芯コイルが埋設された磁性部品であってもよいし、所定形状の圧粉鉄心の表面にワイヤが所定の巻き数だけ巻回されてなる磁性部品であってもよい。
【0048】
本発明の扁平金属粒子によれば、比表面積が小さく、集合組織が強く発達し、かつ再結晶組織を有する。そのため、形成された集合組織に関連する特性に優れるものとなる。特に、扁平金属粒子が鉄系金属のものである場合、本発明の扁平金属粒子および本発明の扁平金属粒子を使って作製したコアや板材は、形成された集合組織に関連する磁気特性に優れるものとなる。本実施形態に係る磁性部品は、耐電圧性が良好であるため、電源回路に用いられるパワーインダクタに好適である。
【0049】
図1は、上段が従来の微粉に関するものであり、下段が本発明に係る粗粒を用いるものである。扁平化前の外観は図1の左側に示す形状のものであり、3次元のいずれの方向にも明確な特徴がない粒状体である。これを、扁平化することで、図1の中央の列に示すように、粒径が小さくなり、扁平化する。図1の右側はこの扁平化した粒子を用いて成形した圧粉鉄心の断面を撮像したものである。上段の従来の微粉による断面では、全体として隣接する粒子表面が相互に接触する箇所(接触界面)が多く、接触界面が細かいのに対し、下段の粗粒では接触界面が少ないことが分かる。この状況から、微粉による断面に比べ、下段の粗粒の断面では、前述した磁壁の移動を妨げる接触界面が少なくなることから、本発明により、粗粒を選択的に用いて圧粉鉄心を成形することで、目視においても明らかに比表面積を小さくした効果を確認することができる。
【0050】
[BHカーブ]
ここで言うBHカーブとは、金属粒子を圧縮成形してリング形状の成形体とし、これに1次導線および2次導線を巻き、1次導線に電流を流して生じる磁界Hに対して、その磁場によって成形体が発生する磁束Bの関係を示すものである。
【0051】
本発明の扁平金属粒子では、後述するBHカーブに見られるように、磁界の強さ(H)の0点近傍における磁束密度(B)の磁界の増加に対する上昇を急峻にしつつ、ループを描くBHカーブの内側の面積が小さくなるように作用する特性を有する。本発明の扁平金属粒子は、集合組織が強く発達しかつ再結晶組織を有していることから、磁化容易軸が扁平面に平行に配列しており、原子の配列のばらつきが小さいことから、扁平面に平行に磁場が作用した際に磁壁がスムーズに移動する。更に、当該粒子の体積が大きく、または比表面積が小さいことにより磁壁が滑らかに移動するため、磁界の変化に対応しながら磁束密度が直ちに変化していくという、良好な軟磁性を与えるように作用する特性を有する。またこのような挙動は、特に、磁壁が滑らかに移動することに起因し、BHカーブで囲まれる内側の面積が小さくなるように作用し、いわゆる、ヒステリシス損の低減に寄与する。また加えて、上記のように、磁化容易軸の配列により印加するHの最大値に対するBの最大値が、さらには飽和磁束密度が大きくなるように作用させることができる。
【0052】
[製造方法]
次に、扁平金属粒子の製造方法について説明する。
【0053】
[本発明の製造方法]
本発明の扁平金属粒子の製造方法は、粗粒を用いる。また、本発明の扁平金属粒子の製造方法は、金属粒子の一般的な原料粉末の中からふるい等で分級して粗粒のみを選別する第一の分級工程と、潤滑剤を用いて鉄粒子を粉砕する粉砕工程と、扁平状に粉砕した鉄粒子を焼鈍する焼鈍工程と、を有するものとすることができる。
【0054】
[第一の分級工程]
第一の分級工程により、体積が大きく、比表面積が小さい扁平状の金属粒子が得ることができる。また、粉砕工程により、発達した集合組織を有する扁平状の金属粒子が得られる。また、粉砕工程において潤滑剤を用いて金属粒子を粉砕しているため、焼鈍工程において金属粒子を焼鈍(熱処理)しても、発達した集合組織は保持され、かつ格子欠陥(粉砕による加工歪み等)を十分に取り除くことができる。これにより、比表面積が低く、集合組織が強く発達し、かつ再結晶組織を有する、扁平金属粒子が得られる。
【0055】
扁平金属粒子の製造方法は、出発原料を粒子径で分級する分級工程と、潤滑剤を用いて鉄粒子を粉砕する粉砕工程と、扁平状に粉砕した鉄粒子を焼鈍する焼鈍工程と、を有する。原料粉を粗粒としておくことで、分級工程を省略することもできる。
【0056】
第一の分級工程では、種々の粒径の金属粒子が混ざったものから、粗粒をふるい等で分級して得る。粗粒は、直径200μm以上の粒子を選択的に得ることが好ましい。このために、目開き200μmのふるいによりふるい分けして、細粒を除去して、粗粒を回収する。
【0057】
[粉砕工程]
粉砕工程では、出発原料である粗粒を、潤滑剤を用いてボールミルなどで粉砕する。これにより、体積が小さく、比表面積が低く、かつ発達した集合組織を有する扁平状の金属粒子が得られる。すなわち、扁平面内において磁化容易軸を含まない(111)面を減少させ、磁化容易軸を含む(001)面を増加させ、結晶方位を所定の方向に制御した集合組織を有する扁平状の金属粒子が得られる。
【0058】
[粉砕装置等]
粉砕工程において、金属粒子の粉砕処理としては、例えば、粒子状の材料に圧縮力や摩擦力等の機械的エネルギーを加えることによって、材料同士の力学的・化学的相互作用を誘起すると共に、粒子形状を変形させるメカノケミカル処理等を用いることができる。メカノケミカル処理としては、特に限定されるものではなく、例えば機械的粉砕装置等を用いることができる。例えば、ビーズミル、遊星式、転動式、振動式等のボールミル、ロッキングミル、タワーミル、メカノフュージョン、ジェットミル、ハイブリダイザー、ヘンシェルミキサー、ホモミキサー等が挙げられる。
【0059】
粉砕処理の際に用いられるミル等の粉砕処理容器については、その材質は限定されるものではないが、例えば金属や金属酸化物製のものであることが好ましい。これは、粉砕処理を行う際に、上記のような材料であると、金属粒子に十分な機械的エネルギーを付与することができるためである。
【0060】
粉砕処理を行う装置として、例えば、メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)等のような球状媒体を使用しない装置を選択した場合には、球状媒体を入れる必要はなく、その球状媒体の導入量を0とすることができる。
【0061】
球状媒体を使用する装置を選択した場合、球状媒体の材質については限定されるものではなく、粉砕処理容器の大きさや材質により選択することができる。なお、球状媒体としては金属や金属酸化物製のものを用いた場合は、粉砕処理を行う際、粉末材料に十分な機械的エネルギーを付与することができる。また、粉砕処理で用いられる球状媒体のサイズについては特に限定されるものではなく、粉砕処理容器のサイズ等に応じて選択することができる。
【0062】
[処理時間]
粉砕工程において、金属粒子の粉砕処理の処理時間は制限されることが好ましい。粉砕処理の処理時間が長すぎると、比表面積が大きくなる。粉砕処理の処理時間は、粉砕処理の装置(例えば、ボールミル装置)及びその条件(ボールの大きさ及び質量、容器の回転数)により適宜設定することができる。
【0063】
[潤滑剤]
粉砕工程において、金属粒子の粉砕処理に潤滑剤を用いる。潤滑剤は、固体状であってもよいし、液体状であってもよい。潤滑剤とは、潤滑機能を発揮する潤滑物質を含むものである。ここで、潤滑物質を含む潤滑剤とは、予め潤滑物質が含まれている潤滑剤だけでなく、例えば粉砕による圧力を受けたときにその受圧面に潤滑物質が形成されるような潤滑剤も含まれる。
【0064】
また、潤滑機能とは、粉砕処理される金属粒子と粉砕処理を行う物体(例えば、ボール等の球状媒体)との間の摩擦係数を低下させることをいう。金属粒子の粉砕処理に潤滑剤を用いることにより、粉砕処理による鉄粒子の集合組織化を促進させることができる。
【0065】
潤滑剤としては、例えば、黒鉛、フッ化黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維、二硫化モリブデン、マイカ、タルク、窒化ホウ素などを用いることができる。また、液状の潤滑剤としては、脂肪酸エステルや、鉱物油を用いることができる。また、適宜、助剤として、イソプロピルアルコールなどのアルコール等を用いてもよい。例えば、防錆潤滑剤KURE5-56(登録商標)や、窒化ホウ素、イソプロピルアルコール(IPA)を、再結晶組織を形成する時の潤滑剤として使用することができる。
【0066】
[第二の分級工程]
本発明の製造方法は第二の分球工程を有するものとしてもよい。第二の分級工程は、粉砕工程により扁平状に粉砕した前記金属粒子を、乾燥して、ふるい分けて、直径200μm以上の粗粒を得る工程であり、適宜、焼鈍工程の前に行われる。すなわち、粉砕工程後の微粉の金属粒子が混ざったものから、粗粒をふるい等で分級して得る。粗粒は、直径200μm以上の粒子を選択的に得ることが好ましい。このために、目開き200μmのふるいによりふるい分けして、微粉や細粒を除去して、粗粒を回収する。また、粉砕工程後は、微粉や細粒が、粗粒と密着していて離れにくい場合があるため、乾燥して、これらが分離しやすい状態として、ふるい分けを行う。
【0067】
[焼鈍工程]
焼鈍工程では、粉砕工程において扁平状に粉砕した金属粒子を焼鈍(熱処理)する。粉砕工程において潤滑剤を用いて金属粒子を粉砕していることにより、金属粒子を高温で焼鈍(熱処理)しても、集合組織は維持され、かつ粉砕による格子欠陥(加工歪み)を十分に取り除き、保磁力を低下させることができる。これにより、発達した集合組織を有し、かつ局所方位差が小さい扁平金属粒子が得られる。特に鉄系の金属粒子の場合は磁気特性に優れたものとなる。
【0068】
[焼鈍温度・時間]
焼鈍工程では、扁平状に粉砕した金属粒子を金属粒子の回復・再結晶温度以上の温度で焼鈍してもよい。この場合には、格子欠陥(粉砕による加工歪み等)を十分に取り除き、保磁力を低下させることができる。これにより、結晶配向性が高く、かつ局所方位差が小さい、非常に安定した集合組織を有する、磁気特性に優れた扁平金属粒子が得られる。なお、金属粒子の回復・再結晶温度は、金属粒子の組成(純鉄、各種鉄合金)、加工履歴等によって異なる。
【0069】
例えば、鉄粒子の場合、焼鈍雰囲気はアルゴンガスを含む水素雰囲気化である、Ar-3%H2とすることができる。また、焼鈍温度は600~800℃程度や、650℃~750℃程度とすることができる。また、焼鈍温度における保持時間は15分~2時間程度や30分~1.5時間程度とすることができる。また、焼鈍の温度保持終了後の冷却は炉冷などでよい。
【0070】
このような製造により、比表面積が小さく、厚み方向に垂直な方向の大きさが大きく、粒子を構成する結晶粒が再結晶で構成されたものを含み、結晶面が粒子の扁平面に対して平行な扁平金属粒子を得ることができる。
【0071】
このような扁平金属粒子を、鉄系粒子で製造し、適宜絶縁材料などの結合剤と混合することで、結合剤で被覆して、圧縮する成形することで、圧粉鉄心を得ることができる。このような圧粉鉄心は、透磁率や磁束密度に優れ、さらに、ヒステリシス損の増加を抑制する、優れた磁気特性を有するものとなる。
【実施例
【0072】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
(分級)
純鉄粒子(株式会社神戸製鋼製、品番:ML35N)をふるい分けし、200μm以上の粗粒を抜き出した。この粗粒の体積は、5.02×10-113(0.0502mm3)であった。
【0074】
(粉砕)
この鉄粒子と、窒化ホウ素(ナカライテスク株式会社製、商品名:窒化ホウ素、商品コード:05224-72)と、アルコール(和光純薬工業株式会社製、商品名:2-プロパノール、商品コード:166-04836)を、ボールミル(日新技研株式会社製、型番:NEV-MA-8)に添加し、粉砕した。
【0075】
圧延処理の条件として、ミルへの純鉄粒子の投入量は5g、潤滑剤としての窒化ホウ素の添加量は0.010g、アルコールの添加量は20mL、球状媒体としては約φ10mmの鋼球(SUJ-2製)を20個、ボールミル運転回転数6.4rps、処理時間0.75hとした。処理時間を2.00hとした試料も準備した。また、圧延処理後に、乾燥して粒子間の接着を抑制し、目開き200μmのメッシュのふるいでふるい分けして圧延された粗粒の鉄粒子を得た。
【0076】
得られた鉄粒子を光学顕微鏡(ニコン社製、LV150N)、電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JCM-6000等)、及び粉末X線回折装置(リガク社製、Smartlab)で分析した。分析結果をそれぞれ図1図7に示す。
【0077】
図1左上に示すようなふるい分け前の原料粒子から、図1左下に示すようなふるい分け後の原料粒子が得られた。
【0078】
・処理時間0.75時間
上記粉砕処理を0.75h実施したことで図1中央に示すように、粒状の鉄粒子から、扁平状の鉄粒子が得られた。
【0079】
本扁平金属粒子の形状を、その厚さ方向に垂直な方向の外形に外接し、厚みがその扁平金属粒子の厚みと同じ円盤として円盤の直径を求めた。測定は、30個の粒子を無作為に抽出し、その平均とした。
・円盤の直径の平均は1322μmであった。
・厚みの平均は26.71μmであった。
・体積は、3.67×10-113(0.0367mm3)であった。
・比表面積は100cm2/gであった。(鉄の密度を7.8g/cm3とし、前記円盤として算出)
・アスペクト比は49.5であった。(粒子の最も幅の広い箇所の長さと厚みの比で定義)
【0080】
・処理時間2.00時間
上記処理時間を2.00hとした場合、扁平状の鉄粒子が得られた。
・円盤の直径は1692μmであった。
・厚みの平均は6.61μmであった。
・体積は、1.49×10-113(0.0149mm3)であった。
・比表面積は391cm2/gであった。(鉄の密度を7.8g/cm3とし、前記円盤として算出)
・アスペクト比は256であった。(粒子の最も幅の広い箇所の長さと厚みの比で定義)
【0081】
図7には、原料鉄粒子と上記粉砕処理を0.75hおよび2.00h行った鉄粒子の粉末X線回折パターンを示す。
これによれば、(110)面のピーク強度Aと(002)面のピーク強度Bとのピーク強度比B/Aは、以下であった。
・粉砕処理前の鉄粒子が0.25であった。
・0.75h粉砕処理後の鉄粒子が2.0であった。
・2.00h粉砕処理後の鉄粒子が18.7であった。
【0082】
ピーク強度比の変化から、粉砕処理を0.75hおよび2.00h実施した鉄粒子には集合組織が形成されていることが確認された。また、回折角60~70°の範囲を拡大したパターンから、結晶面の回折ピークは2つに分離していないことがわかる。
【0083】
(焼鈍)
次に、上記粉砕処理を行った鉄粒子を管状電気炉(アズワン社製、TMF-500N)で焼鈍処理(熱処理)した。焼鈍雰囲気はAr-3%H2、焼鈍温度は700℃、焼鈍温度における保持時間は1h、温度保持終了後の冷却は炉冷とした。
【0084】
得られた鉄粒子を粉末X線回折装置(リガク社製、Smartlab)で分析した。分析結果を図8に示す。
【0085】
図8には、原料鉄粒子と上記粉砕処理を0.75hおよび2.00h行い、上記焼鈍処理を行った鉄粒子の粉末X線回折パターンを示す。
これによれば、(110)面のピーク強度Aと(002)面のピーク強度Bとのピーク強度比B/Aは、以下であった。
・粉砕処理前の鉄粒子が0.25であった。
・0.75h粉砕処理後の鉄粒子が2.4であった。
・2.00h粉砕処理後の鉄粒子が20.6であった。
【0086】
ピーク強度比の変化から、粉砕処理後の鉄粒子には集合組織が形成されていることが確認された。また、ピークが鋭くなっていることから、組織中のひずみが減少した再結晶組織を持っていることが分かる。
【0087】
具体的には、回折角60~70°の範囲を拡大したパターンから、X線源に由来するCuのKα1とKα2によるピークが明瞭に分かれており、Kα1とKα2由来のピークの間に谷が認められる。
【0088】
(リングコアの成形)
原料鉄粒子と、上記粉砕処理を0.75h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子、上記粉砕処理を2.00h行い上記焼鈍処理された扁平鉄粒子を、それぞれ金型内で圧縮して、リングコアに成形した。
【0089】
・原料鉄粒子
それぞれのリングコアの外形は表1に示すようであり、原料鉄粒子から得られたリングコアは外径30.15mm、内径19.8mm、厚み5.57mm、質量は14.62g、密度は6.47g/cm3であった。
【0090】
・0.75時間粉砕した粒子
上記粉砕処理を0.75h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアは外径30.05mm、内径19.8mm、厚み5.36mm、質量は14.20g、密度は6.60g/cm3であった。
【0091】
・2.00時間粉砕した粒子
上記粉砕処理を2.00h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアは外径30.08mm、内径19.8mm、厚み5.45mm、質量は14.23g、密度は6.49g/cm3であった。
【0092】
上記リングコアに一次巻き線としてφ0.4mmの被覆銅線を300ターン巻き、さらに二次巻き線としてφ0.4mmの被覆銅線を25ターン巻いた後、直流磁化特性試験装置(メトロン技研株式会社、SK110)でBHカーブを得た。
【0093】
励磁条件は10000A/mで統一した。その結果、それぞれのリングコアのBHカーブおよび磁気特性は図9および表1に示す様であり、以下であった。
【0094】
・原料鉄粒子
原料鉄粒子から得られたリングコアの初期比透磁率は773、保磁力は274A/m、ヒステリシス損は10.6W/kg、磁束密度は10000A/mにおいて1.11Tであった。
【0095】
・0.75時間粉砕した粒子
上記粉砕処理を0.75h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアの初期比透磁率は1148、保磁力は159A/m、ヒステリシス損は7.6W/kg、磁束密度は10000A/mにおいて1.41Tであった。
【0096】
・2.00時間粉砕した粒子
上記粉砕処理を2.00h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアの初期比透磁率は1698、保磁力は189A/m、ヒステリシス損は10.1W/kg、磁束密度は10000A/mにおいて1.53Tであった。
【0097】
・0.75時間粉砕した粒子
上記のように、原料鉄粒子から得られたリングコアと比較して、上記粉砕処理を0.75h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアは、透磁率が49%増加、ヒステリシス損が29%低減、磁束密度が27%増加した。
【0098】
・2.00時間粉砕した粒子
上記粉砕処理を2.00h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアは、透磁率が120%増加、ヒステリシス損が5%低減、磁束密度が38%増加した。
【0099】
上記のように、本技術を応用することで、鉄心の磁気特性を有意に向上できることが明らかとなった。また、粉砕時間を短くすることで、鉄粉のヒステリシス損が低減される。また、粉砕時間を長くすることで、磁束密度が増加することがわかる。
【0100】
また、粉砕時間を短くして、集合組織の発達をある程度の水準にとどめ、比表面積を小さくすれば、低損失性に優れたコアが得られる。また、粉砕時間を長くして、集合組織の発達を著しくし、比表面積を大きくすれば、透磁率や磁束密度に優れたコアが得られる。すなわち、粉砕の進行度によって扁平鉄粒子の特性を制御できることがわかる。
【0101】
【表1】
【0102】
表1は、実施例1における、粉砕処理後及び焼鈍処理後の扁平金属粒子を圧縮成形して得られたリングコアの寸法、質量、磁気特性である。
【0103】
(比較例1)
(分級)
純鉄粒子(株式会社神戸製鋼製、品番:ML35N)をふるい分けせずに用いた。本鉄粒子の粒度分布は以下のものであった。この粒子の体積は、メジアン径D50相当の粒径である150μmの球として換算する、1.77×10-123(0.00177mm3)とした。
250μm以上が、23.6重量%、180~250μmが、16.9重量%、
106~150μmが、11.0重量%、75~106μmが、15.4重量%、
63~75μmが、5.3重量%、45~63μmが、5.9重量%、
45μm以下が、3.7重量%
【0104】
(粉砕)
この鉄粒子と、窒化ホウ素(ナカライテスク株式会社製、商品名:窒化ホウ素、商品コード:05224-72)と、アルコール(和光純薬工業株式会社製、商品名:2-プロパノール、商品コード:166-04836)を、ボールミル(日新技研株式会社製、型番:NEV-MA-8)に添加し、粉砕した。
【0105】
処理条件として、ミルへの純鉄粒子の投入量は5g、潤滑剤としての窒化ホウ素の添加量は0.010g、アルコールの添加量は20mL、球状媒体としては約φ10mmの鋼球(SUJ-2製)を20個、ボールミル運転回転数6.4rps、処理時間0.75hとした。比較のため処理時間を2.00hとした試料も準備した。
【0106】
得られた鉄粒子を光学顕微鏡(ニコン社製、LV150N)、電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JCM-6000等)、及び粉末X線回折装置(リガク社製、Smartlab)で分析した。分析結果をそれぞれ図10図11に示す。
【0107】
・0.75時間粉砕した粒子
図10(a)に示すように、上記粉砕処理を0.75h実施することで、扁平鉄粒子が得られた。本扁平金属粒子の形状を、その厚さ方向に垂直な方向の外形に外接し、厚みがその扁平金属粒子の厚みと同じ円盤として、円盤の直径(粒径)を算出した。
・円盤の直径の平均は216μmであった。
・厚みの平均は10.20μmであった。
・体積は、3.74×10-133(0.000374mm3)であった。
・比表面積は275cm2/gであった。(鉄の密度を7.8g/cm3とし、前記円盤として算出)
・アスペクト比は27.0であった。(粒子の最も幅の広い箇所の長さと厚みの比で定義)
【0108】
・2.00時間粉砕した粒子
上記処理時間を2.00hとした場合、図10(b)に示す粒子が得られ、以下の大きさであった。
・円盤の直径は498μmであった。
・厚みの平均は3.34μmであった。
・体積は、6.51×10-133(0.000651mm3)であった。
・比表面積は778cm2/gであった。(鉄の密度を7.8g/cm3とし、本円盤のとして算出)
・アスペクト比は149であった。(粒子の最も幅の広い箇所の長さと厚みの比で定義される
【0109】
図11には、原料鉄粒子と上記粉砕処理を0.75hおよび2.00h行った鉄粒子の粉末X線回折パターンを示す。
これによれば、(110)面のピーク強度Aと(002)面のピーク強度Bとのピーク強度比B/Aは、粉砕処理前の鉄粒子が0.25であった。
0.75h粉砕処理後の鉄粒子が4.01であった。
2.00h粉砕処理後の鉄粒子が11.8であった。
ピーク強度比の変化から、粉砕処理後の鉄粒子には集合組織が形成されていることが確認された。また、回折角60~70°の範囲を拡大したパターンから、結晶面の回折ピークは2つに分離していないことがわかる。
【0110】
(焼鈍)
次に、上記粉砕処理を行った鉄粒子を管状電気炉(アズワン社製、TMF-500N)で焼鈍処理(熱処理)した。焼鈍雰囲気はAr-3%H2、焼鈍温度は700℃、焼鈍温度における保持時間は1h、温度保持終了後の冷却は炉冷とした。
【0111】
得られた鉄粒子を粉末X線回折装置(リガク社製、Smartlab)で分析した。分析結果を図12に示す。
【0112】
図12には、原料鉄粒子と上記粉砕処理を0.75hおよび2.00h行った鉄粒子の粉末X線回折パターンを示す。
これによれば、(110)面のピーク強度Aと(002)面のピーク強度Bとのピーク強度比B/Aは、粉砕処理前の鉄粒子が0.25であった。
0.75h粉砕処理後の鉄粒子が2.08であった。
2.00h粉砕処理後の鉄粒子が7.04であった。
ピーク強度比の変化から、粉砕処理後の鉄粒子には集合組織が形成されていることが確認された。また、ピークが鋭くなっていることから、組織中のひずみが減少した再結晶組織を持っていることが分かる。具体的には、回折角60~70°の範囲を拡大したパターンから、X線源に由来するCuのKα1とKα2によるピークが明瞭に分かれており、Kα1とKα2由来のピークの間に谷が認められる。
【0113】
(リングコアの成形)
原料鉄粒子と、上記粉砕処理を0.75h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子、上記粉砕処理を2.00h行い上記焼鈍処理された扁平鉄粒子を金型内で圧縮して、リングコアに成形した。
それぞれのリングコアの外形は表2に示すようであった。
【0114】
・原料鉄粒子
原料鉄粒子から得られたリングコアは外径30.05mm、内径19.92mm、厚み2.57mm、質量は6.14g、密度は6.00g/cm3であった。
【0115】
・0.75時間粉砕した粒子
上記粉砕処理を0.75h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアは外径30.04mm、内径19.93mm、厚み2.36mm、質量は5.93g、密度は6.34g/cm3であった。
【0116】
・2.00時間粉砕した粒子
上記粉砕処理を2.00h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアは外径30.07mm、内径19.93mm、厚み2.39mm、質量は5.97g、密度は6.28g/cm3であった。
【0117】
上記リングコアに一次巻き線としてφ0.4mmの被覆銅線を300ターン巻き、さらに二次巻き線としてφ0.4mmの被覆銅線を25ターン巻いた後、直流磁化特性試験装置(メトロン技研株式会社、SK110)でBHカーブを得た。励磁条件は10000A/mで統一した。
その結果、それぞれのリングコアのBHカーブおよび磁気特性は図13および表2に示す様であり、以下の物性であった。
【0118】
・原料鉄粒子
原料鉄粒子から得られたリングコアの初期比透磁率は726、保磁力は157A/m、ヒステリシス損は5.96W/kg、磁束密度は10000A/mにおいて1.00Tであった。
【0119】
・0.75時間粉砕した粒子
上記粉砕処理を0.75h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアの初期比透磁率は830、保磁力は272A/m、ヒステリシス損は13.5W/kg、磁束密度は10000A/mにおいて1.34Tであった。
【0120】
・2.00時間粉砕した粒子
上記粉砕処理を2.00h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアの初期比透磁率は1023、保磁力は277A/m、ヒステリシス損は13.5W/kg、磁束密度は10000A/mにおいて1.39Tであった。
【0121】
上記のように、原料鉄粒子から得られたリングコアと比較して、上記粉砕処理を0.75h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアは、透磁率が14%増加、ヒステリシス損が108%増加、磁束密度が34%増加した。
上記粉砕処理を2.00h行い上記焼鈍処理された扁平金属粒子から得られたリングコアは、透磁率が41%増加、ヒステリシス損が127%増加、磁束密度が39%増加した
【0122】
上記のように、原料粉をふるい分けせずに、すなわち比表面積を小さくする工夫をせずに粉砕、熱処理をしても、透磁率や磁束密度の改善は認められるものの、ヒステリシス損が悪化することが分かる。従って、比表面積を小さくする工夫を伴う本技術を応用することで、鉄心の磁気特性を有意に向上できることが明らかとなった。
【0123】
【表2】
【0124】
表2は、比較例1における、粉砕処理後及び焼鈍処理後の扁平金属粒子を圧縮成形して得られたリングコアの寸法、質量、磁気特性である。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の扁平金属粒子は、モーター等に用いられる圧粉鉄心に利用することができ、産業上有用である。
図1
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