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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】タービンブレード用素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 1/04 20060101AFI20250326BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20250326BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20250326BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20250326BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20250326BHJP
   C21D 1/70 20060101ALN20250326BHJP
【FI】
B21J1/04
B21J5/00 A
F01D25/00 X
F01D5/28
C21D9/00 N
C21D1/70 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021031679
(22)【出願日】2021-03-01
(65)【公開番号】P2022132929
(43)【公開日】2022-09-13
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】江口 弘孝
(72)【発明者】
【氏名】福井 毅
(72)【発明者】
【氏名】青山 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】金 泰俊
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105506249(CN,A)
【文献】特開2013-087712(JP,A)
【文献】特開2014-141700(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126239(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 1/04
B21J 5/00
F01D 25/00
F01D 5/28
C21D 9/00
C21D 1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
析出硬化型ステンレス鋼またはマルテンサイト系ステンレス鋼の組成を有するFe基合金製の荒地を1ブローの熱間鍛造によりタービンブレード形状に成形して熱間鍛造材とする熱間鍛造工程と、
前記熱間鍛造材に450~900℃の温度範囲で加熱保持後、冷却する第1熱処理工程と、
前記第1熱処理工程後の第1熱処理材に、980~1080℃の温度範囲で加熱保持後、冷却する第2熱処理工程の後、500~600℃の温度範囲で加熱保持後、冷却する第3熱処理工程と、
を含むタービンブレード用素材の製造方法。
【請求項2】
前記第3熱処理工程を2回以上繰返す請求項1に記載のタービンブレード用素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンブレード用素材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温環境下で使用されるタービンブレードは、熱間鍛造により所定の形状に成形され、要求された特性を満足するように種々の熱処理が施される。タービンブレードに用いられる材質としては、Ni基合金、Ti基合金及びFe基合金等があり、それぞれ、適切な熱処理条件は異なるものとなる。このうち、ステンレス鋼等のFe基合金についても、種々の熱処理が必要となり、多くの提案がなされている。例えば、特開2016-166409号公報(特許文献1)には、鍛造プリフォーム(熱間鍛造材)に対して、約2000~2100°F(約1093~1149℃)の溶体化処理と約600°F(約315℃)の焼戻しを行うことが開示されている。また、特開2015-74822号公報(特許文献2)には、熱間鍛造後のステンレス部材(熱間鍛造材)を1000℃以上に加熱して溶体化処理を行い、冷却中のステンレス部材の温度差を小さくする冷却を行う発明がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-166409号公報
【文献】特開2015-74822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱間鍛造で所望の形状に成形したFe基合金製の熱間鍛造材を、溶体化処理(溶体化処理は「焼入れ」と称される場合があり、以後、本発明では「焼入れ」と記す)、焼戻しを行ってタービンブレード用素材とした場合、要求特性は満足しているものの、例えば、結晶粒径がやや大きかったり、強度と靭性のバランスがやや悪くなる傾向にあったりする問題があった。
前述したFe基合金製のタービンブレード用素材の発明は、焼入れや焼入れ以降の熱処理条件を制御して、タービンブレードに要求される特性や形状に調整することを目的とするものであり、従来から行われてきた提案は、その殆どがこの焼入れや焼入れ以降の熱処理に着目するものである。
しかしながら、上記の問題を解決するには、焼入れ以前の製造条件も含めて適正化することが重要であるが、焼入れ以前、すなわち、熱間鍛造以降の製造条件の適正化については、検討が不十分であるのが現状である。
本発明の目的は、Fe基合金製のタービンブレード用素材の製造方法において、熱間鍛造以降の製造条件を適正化することで、タービンブレード用素材の結晶粒をより一層、均一微細化することが可能で、機械的特性を改善可能なタービンブレード用素材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものである。
すなわち本発明は、Fe基合金製の荒地を1ブローの熱間鍛造によりタービンブレード形状に成形して熱間鍛造材とする熱間鍛造工程と、前記熱間鍛造材に450~900℃の温度範囲で加熱保持後、冷却する第1熱処理工程と、前記第1熱処理工程後の第1熱処理材に、980~1080℃の温度範囲で加熱保持後、冷却する第2熱処理工程の後、500~600℃の温度範囲で加熱保持後、冷却する第3熱処理工程とを含むタービンブレード用素材の製造方法である。
本発明においては、第3熱処理工程を2回以上繰返すことが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、熱間鍛造以降の製造条件を適正化することで、タービンブレード用素材の結晶粒をより一層、均一微細化することが可能で、機械的特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明のタービンブレード用素材(No.1)の断面金属組織である。
図2】従来例のタービンブレード用素材(No.11)の断面金属組織である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
先ず、本発明で規定する用語について説明しておく。
本発明が対象とする「Fe基合金」とは、含有する成分のなかで、Feを最も含むものを言い、典型的な材質しては析出硬化型ステンレス鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼の組成を有する合金である。また、本発明で言う「熱間鍛造材」とは、熱間鍛造により所定の形状に成形したものであって、第1熱処理工程に供する素材となるものである。例えば、熱間鍛造後にばり取り等の形状調整を行ったものも熱間鍛造材である。また、「タービンブレード用素材」とは、本発明で規定する第3熱処理工程を終了したものを言う。
以下、本発明について、製造工程の順に説明する。
【0009】
<熱間鍛造工程>
先ず、所定の形状に成形されたFe基合金製の荒地を準備する。準備した荒地表面はガラス潤滑剤で被覆しておくのが好ましい。ガラス潤滑剤で被覆することで熱間鍛造用素材の保温効果や鍛造用素材と金型との摩擦係数を下げることによる潤滑性向上、加熱によるスケール生成の抑制などの利点がある。被覆するガラス潤滑剤の厚さは300~450μm程度でよく、荒地全体に被覆するのが好ましい。そして、所定の温度に加熱する。熱間鍛造温度の範囲は、Fe基合金の組成によって、やや異なる場合があるが、析出硬化型ステンレス鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼の場合であれば、おおよそ950~1100℃の範囲であれば良い。
加熱後の荒地(鍛造用素材)を熱間鍛造装置の下型上に載置して、上型と下型とによってタービンブレード形状に成形して熱間鍛造材とする。用いる熱間鍛造装置は特に限定しないが、全長が40インチ以上のタービンブレード用素材とするには、油圧式熱間鍛造装置であれば良い。油圧式熱間鍛造装置であれば、1ブロー(1回の押圧)でタービンブレード形状に成形を行うことが可能である。1ブローの熱間鍛造で成形すると鍛造条件が安定することで、多ヒート成形品と比較し、より安定した引張強度及び延性が得られる。また、複数回の加熱を行う必要がないため、粗大粒成長を抑えられ、結晶粒がより一層、均一微細なマルテンサイト組織とすることができ、タービンブレードで厳しく要求されている結晶粒度規定や機械的特性の改善に効果がある。また、1ブロー成形は多ヒート成形に比べ、生産性の向上や環境負荷低減の効果が得られるため、1ブローの熱間鍛造を適用する。
【0010】
<第1熱処理工程>
次に、本発明では、前記熱間鍛造材に対して、450~900℃℃の温度範囲で加熱保持後、冷却する第1熱処理工程を行う。タービンブレード形状に成形された熱間鍛造材はマルテンサイト変態が生じ、高強度、低靭性な状態となり、熱間鍛造ままで放置すると焼割れを生じる可能性がある。そのため、熱間鍛造終了後、熱間鍛造材の表面温度が50~150℃となった熱間鍛造材に対して、第1熱処理工程を適用する。この第1熱処理工程の温度が450℃未満であると、焼割れを防止することができない。また、900℃を超える温度域では鍛造割れ防止の効果は飽和する。また、900℃を超える温度域では、第1熱処理工程において粒成長が生じる可能性があり、その粗大粒は第2熱処理以降も残存し、狙いの機械的特性が得られない場合がある。そのため、第1熱処理工程の温度範囲は450~900℃とする。
本発明において、第1熱処理工程の加熱保持時間は特に規定しないが、おおよそ3~6時間であれば良い。また、鍛造後熱処理工程の冷却は、空冷または空冷よりも遅い冷却速度で冷却するのが好ましい。これは空冷より速い速度で冷却すると冷却速度が不均一となり熱間鍛造材に変形が生じる可能性がある。好ましくは、空冷よりも遅い冷却度の炉冷を適用するのが良い。炉冷であれば、熱間鍛造材の割れをより確実に防止しつつ、熱間鍛造材の変形も抑制することができる。なお、この第1熱処理工程後の中間素材を「第1熱処理材」と記す。
【0011】
この第1熱処理工程の温度範囲のうち、700℃を超えて900℃以下の温度範囲を選択すると、前述の熱間鍛造材の割れを防止する効果に加えて、熱間鍛造で生じた不均一な鍛造歪を低減させて、後述の第2熱処理工程以降に得られる結晶粒をより一層、均一微細化させることができ、より均一に機械的特性を改善することが可能となる。この700~900℃の温度範囲で行う第1熱処理工程を「高温側第1熱処理工程」と記す。この高温側第1熱処理工程の好ましい温度の下限は750℃であり、更に好ましくは765℃である。より好ましい温度の上限は810℃であり、更に好ましくは795℃である。この高温側第1熱処理工程を適用する場合の冷却速度は、空冷よりも遅い冷却度の炉冷を適用するのが良い。
なお、第1熱処理工程の温度範囲のうち、450~700℃の範囲で行うものを「低温側第1熱処理工程」と記す。低温側第1熱処理工程は、前述の焼割れを防止することを主たる目的とするものである。焼割れを防止することを主たる目的とする場合、好ましい温度の下限は620℃であり、好ましい温度の上限は680℃である。この低温側第1熱処理工程を適用する場合の冷却速度は空冷または空冷よりも遅い炉冷でも差し支えない。
前述の高温側第1熱処理工程と低温側第1熱処理工程の選択は、目的に応じて適宜選択すれば良いが、例えば、第1熱処理工程の冷却を炉冷とした場合では、加熱炉を長時間占有することになる。特に、高温側第1熱処理工程を選択すると、加熱炉の占有時間が長くなるため、量産工程においては、加熱炉の占有時間も考慮して第1熱処理工程の処理温度を選択することが現実的である。なお、第1熱処理工程においては、例えば、低温側第1熱処理工程後に、高温側第1熱処理工程を組み合わせても差し支えない。
【0012】
<第2熱処理工程(焼入れ)>
本発明では、前記第1熱処理工程後の第1熱処理材に、980~1080℃の温度範囲で加熱保持後、冷却する第2熱処理工程を行う。この工程は前述した「焼入れ」と同じ処理であるため、以後、「焼入れ」と記す。
本発明において、焼入れ温度を980~1080℃としたのは、焼入れ温度が980℃未満になると炭化物が十分固溶しない温度領域であり、1080℃超えると高温保持により結晶粒粗大化や機械的特性の低下が生じるおそれがある。そのため、本発明では、焼入れを980~1080℃の温度範囲で加熱保持を行うものとする。好ましい焼入れ温度の下限は1010℃であり、好ましい焼入れ温度の上限は1050℃である。この焼入れにおいては、昇温時のヒートパターンを2段乃至4段の多段としても差し支えない。第1熱処理材がタービンブレード形状のものであるため、厚さの薄い翼部と厚さが厚い根部とが一体となっている。第1熱処理材を均一に近い状態で昇温させるには、多段で昇温するのが好ましく、例えば、40インチ以上のタービンブレードとするものであれば、3段以上の多段とするのがよく、第1熱処理材の大きさによって、ヒートパターンを適宜変更すると良い。なお、焼入れの保持時間は特に規定しないが、おおよそ0.5~1.5時間であれば良い。なお、ここでいう加熱保持時間は最も高温(焼入れ温度)としたときの時間であり、焼入れ温度までの昇温途中で行う温度保持の時間は含めないこととする。
【0013】
また、この焼入れ工程(第2熱処理工程)の冷却は、第1熱処理材がタービンブレード形状のものであるため、厚さの薄い翼部と厚さが厚い根部とが一体となっている。そのため、この第1熱処理材の焼入れ時の冷却を行う際には、翼部と根部の冷却速度が不均一となることを避け、冷却完了までの冷却速度の均一化をはかるため、厚さの薄い翼部に断熱性を有する断熱材を被覆して、根部の冷却速度に翼部の冷却速度を近づけて、根部と翼部との温度差を小さくする冷却を行うのが良い。ここで用いる断熱材は、柔軟性のある無機繊維であることが好ましい。なお、本発明で言う「無機繊維」とは、ガラス繊維、セラミック繊維などを含み、断熱性に優れるセラミック繊維を選択するのが好ましい。セラミック繊維の中でも、例えば、カオウール(登録商標)などであれば、入手のし易く、また安価であり、冷却する翼部の厚さに応じて被覆する厚さの調整も容易であることから特に好ましい。
また、焼入れ時の冷却については、前述のように、980~1080℃の高温領域から、冷却速度を均一に近づける冷却を行うことから、断熱材で被覆した第1熱処理材の根部を空冷または空冷よりも速い冷却速度で冷却することとし、翼部は前記根部の冷却速度に近づけるように冷却速度を調整するのが好ましい。これは機械的特性のバラつきを抑え、特に強度と延性のバランスを整えるためである。なお、以後、焼入れ工程後(第2熱処理工程後)の中間素材を「焼入れ材」または「第2熱処理材」と記す。
【0014】
<第3熱処理工程(焼戻し)>
本発明では、焼入れした焼入れ材に第3熱処理工程施す。これは「焼戻し」と言わることがあり、以後、「焼戻し」と記す。
本発明で焼戻し温度を500~600℃としたのは、この温度範囲に加熱保持することで、焼入れ後に残存した未変態オーステナイトのマルテンサイト化を促進すること、また、過飽和に固溶した炭素を炭化物として析出させ、強度と延性のバランスのよい鍛造材を得ることが目的である。焼戻し温度が500℃未満であると、未変態オーステナイトのマルテンサイト化が促進されないという問題がある。一方、焼戻し温度が600℃を超えると強度と延性のバランスが崩れるという問題がある。そのため、本発明では、焼戻しを500~600℃の温度範囲で加熱保持を行うものとする。好ましい焼戻し温度の下限は540℃であり、好ましい焼戻し温度の上限は570℃である。この焼戻しの昇温についても、前述した焼入れ同様に多段のヒートパターンとするのが好ましい。なお、焼戻しの保持時間は特に規定しないが、おおよそ2~5時間であれば良い。なお、ここでいう加熱保持時間は最も高温(焼戻し温度)としたときの時間であり、焼戻し温度までの昇温途中で行う温度保持の時間は含めないこととする。
また、この焼戻し工程の冷却は、空冷または空冷よりも遅い冷却速度で冷却するのが好ましい。これは強度と延性のバランスを整えるためである。好ましくは、空冷を行うのが良い。なお、焼戻し温度は、前述する焼入れ温度よりも低いことから、焼戻しの冷却時においては、前述した焼入れ時の冷却のように、厚さの薄い翼部について断熱性を有する断熱材で被覆することは必ずしも必要ではない。
【0015】
また、本発明においては、この焼戻しを2回以上繰返すことができる。2回以上繰り返すことで焼入れ後に残存した未変態オーステナイトのマルテンサイト化を確実に促進させ、未変態オーステナイトを限りなくゼロとするためである。そのため、焼戻しにおいては、2回以上繰り返すことが好ましい。なお、焼戻しを行う回数の上限は最大で3回であれば良い。3回を超えて焼戻しをおこなっても、前記の繰り返し焼戻しの効果がより一層高まることは期待できない。好ましくは2回で良い。
本発明によれば、熱間鍛造以降の製造条件を適正化することで、タービンブレード用素材の結晶粒をより一層、均一微細化し可能で、機械的特性を改善することができる。なお、本発明のタービンブレード用素材の製造方法は、マルテンサイト系ステンレス鋼の組成を有するものに有効である。前述の「マルテンサイト系ステンレス鋼」とは、前述した熱処理によってマルテンサイト組織とすることが可能で、マルテンサイト組織とすることで硬化させることが可能なCrを10.5%以上含む鋼である。
【実施例
【0016】
以下に、本発明を実施例で詳しく説明する。
Fe基合金製の荒地として、マルテンサイト系ステンレス鋼(JIS規格SUS403の改良鋼)のFe基合金製の荒地を準備した。荒地は、熱間鍛造にて所定の形状に成形した。前記の荒地を80~90℃に加熱し、荒地の表面全体にガラス潤滑剤を300~450μm程度の厚さで被覆した。この荒地を950~1100℃に加熱保持して鍛造用素材とした。
前記の鍛造用素材を油圧式熱間鍛造装置の下型上に載置して、上型と下型とによって1ブローの熱間鍛造で40インチのタービンブレード形状に成形して本発明の熱間鍛造材(No.1)とした。
また、従来例として、前記と同じ組成のFe基合金製の荒地を用いて、熱間型打鍛造と再加熱を複数回繰返して40インチのタービンブレード形状に成形して従来例の熱間鍛造材(No.11)とした。
【0017】
前記の熱間鍛造材について、下記の表1に示す条件で熱処理を行いタービンブレード用素材とした。なお、本発明の第1熱処理工程は低温側第1熱処理工程とし、熱間鍛造終了後、熱間鍛造材の表面温度が50~150℃の範囲であることを確認し、第1熱処理工程用の加熱炉に投入した。焼入れの昇温時のヒートパターンは3段の多段処理とし、1段目は700~800℃で0.5~2時間の保持、2段目は1000℃で15~30分の保持後に、3段目(焼入れ温度)の1030℃に昇温した。1段目から3段目までの昇温速度は100~150℃/時間とした。また、焼入れの冷却時は、翼部に断熱性を有する断熱材(カオウール)で被覆しつつ、その厚さを調整し、根部との冷却速度を均一化した。表1に示したのは焼入れ温度である。
また、焼戻しの昇温時のヒートパターンも3段の多段処理とし、1段目は350~450℃で0.5~2時間の保持、2段目は510~540℃で0.5~2時間の保持後に、3段目(焼戻し温度)の545℃(2回目は560℃)に昇温した。1段目から3段目までの昇温速度は50~100℃/時間とした。また、焼入れの冷却時は、そのまま空冷した。表1に示したのは焼戻し温度である。なお、表1中の「AC」は空冷、「FC」は炉冷である。
【0018】
【表1】
【0019】
上述のタービンブレード用素材から引張試験片及びシャルピー衝撃試験片を採取し、ASTM-A370に則って機械試験を行った。試験片の採取位置は、引張試験片は根部及び翼部の製品厚みの中心とし、シャルピー衝撃試験片は根部の製品厚みの中心とし、その位置から試験片を採取した。機械試験結果を表2に示す。
表2に示すように本発明のタービンブレード用素材の0.2%耐力、引張強さ、伸び及び絞りは、従来例とほぼ同じ結果となった。タービンブレード用素材の根部の衝撃値については、40J以上に大幅に改善された。
【0020】
本発明のタービンブレード用素材(No.1)と従来例のタービンブレード用素材(No.11)の断面金属組織を図1図2にそれぞれ示す。本発明及び従来例共に金属組織はマルテンサイト組織を呈しているため、結晶粒度番号は旧オーステナイト粒界で読み取った。結晶粒度番号は、その数値が大きいほど結晶粒が小さく、ASTM-E112の規定にしたがって測定した。図1に示すように、本発明のタービンブレード用素材の平均結晶粒度番号は6.0~7.0であるのに対し、図2で示した従来例のタービンブレード用素材の平均結晶粒度番号は4.5~5.0であった。また、最大結晶粒度番号は、本発明のタービンブレード用素材が4.0~5.0であるのに対して、従来例のタービンブレード用素材は3.0であった。この結果から、本発明のタービンブレード用素材の方が、平均結晶粒度番号及び最大結晶粒度番号ともに、微細となっていることを確認した。なお、金属組織観察用試験片の採取位置はタービンブレード用素材の根部、翼部の製品厚みの中心である。
本発明は1ブローの熱間鍛造によりタービンブレード形状に成形したため、型打鍛造と再加熱を複数回繰返してタービンブレード形状に成形した従来例と比較して熱間鍛造過程における結晶粒成長を抑えることができる。そして、適切な第1熱処理工程、第2熱処理工程および第3熱処理工程を行うことで、タービンブレード用素材の平均結晶粒度番号は5.0より細粒となり、最大結晶粒度においても3.5を下回る範囲まで粗大化することを抑制でき、より微細な結晶粒径とすることができる。これらのことによって、結晶粒が粗大化することなく均一微細であったため、タービンブレード用素材の衝撃値が大幅に改善されたと考えられる。
【0021】
【表2】
【0022】
以上、説明するように、本発明によれば、Fe基合金製のタービンブレード用素材の製造方法において、熱間鍛造以降の製造条件を適正化することで、タービンブレード用素材の結晶粒をより一層、均一微細化し可能で、機械的特性を改善可能であることが分かる。

図1
図2